TOP > 国内特許検索 > 光増感剤を担持した遷移金属ジカルコゲニドナノシートの合成及びそのがん光線療法への応用 > 明細書

明細書 :光増感剤を担持した遷移金属ジカルコゲニドナノシートの合成及びそのがん光線療法への応用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-011913 (P2020-011913A)
公開日 令和2年1月23日(2020.1.23)
発明の名称または考案の名称 光増感剤を担持した遷移金属ジカルコゲニドナノシートの合成及びそのがん光線療法への応用
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  41/00        (2020.01)
A61K  31/409       (2006.01)
A61K  31/5415      (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  47/02        (2006.01)
A61K   9/00        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61K 41/00
A61K 31/409
A61K 31/5415
A61P 35/00
A61K 47/02
A61K 9/00
A61K 9/08
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2018-133642 (P2018-133642)
出願日 平成30年7月13日(2018.7.13)
発明者または考案者 【氏名】小松 直樹
【氏名】劉 剛
【氏名】天野 創
【氏名】吉野 芙美
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100138863、【弁理士】、【氏名又は名称】言上 惠一
【識別番号】100138885、【弁理士】、【氏名又は名称】福政 充睦
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C084
4C086
Fターム 4C076AA12
4C076CC27
4C076DD21A
4C084AA11
4C084AA17
4C084MA17
4C084NA03
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC05
4C086BC89
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086NA03
4C086ZB26
要約 【課題】光線治療法の有効性、リン酸緩衝液中での安定性、及び細胞培養培地中での安定性などに優れ、更にそれらの性質のバランスに優れる、新規な光線療法用薬剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光増感剤;及びその光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む、複合材料、並びにその複合材料を含む薬剤である。更に、バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤とを混合して、混合物を得ること;その混合物中の遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させること;及び光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む部分を分離することを含む、製造方法である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
光増感剤;及び
その光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート
を含む、複合材料。
【請求項2】
光増感剤は、クロリン、バクテリオクロリン、ポルフィリン、フタロシアニン、及びフェノチアジニウム塩から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、モリブデン、タングステン、クロム、バナジウム、タリウム、ニオブ、チタン及び鉄から選択される遷移金属(M)と、硫黄、セレン及びテルルから選択される第16族元素(X)との化合物を含む、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの平均の厚さは、0.5~100nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの面の平均最短径/平均厚さは、5~1000である、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
光増感剤と遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの質量比(光増感剤/遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート)は、1/100~100/1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合材料を含む、光線療法用薬剤。
【請求項8】
がん治療用である、請求項7に記載の光線療法用薬剤。
【請求項9】
バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤を混合して、混合物を得ること;
その混合物中の遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させること;及び
光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む部分を分離すること
を含む、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む複合材料の製造方法。
【請求項10】
光増感剤とバルク遷移金属ダイカルコゲナイドの質量比(光増感剤/バルク遷移金属ダイカルコゲナイド)は、1000/1~1/10である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤を、媒体中で混合して、その媒体中の混合物を得ることを含む、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
その混合物に超音波を照射して、遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させることを含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
超音波の照射は、0~80℃で、0.1~100時間行う、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
光増感剤を担持する二硫化モリブデンナノシートを含む部分は、懸濁液を遠心分離して上澄み液を得ることを含む、請求項9~13のいずれか1項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイド及びその光線療法への応用に関する。より具体的には、本開示は、例えば、クロリン、バクテリオクロリン、ポルフィリン、フタロシアニン、フェノチアジニウム塩から選択される少なくとも1種を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む複合材料、複合材料の製造方法、複合材料を含む光線療法用薬剤、及びそれを用いる光線療法などに関する。
【背景技術】
【0002】
がんの光線療法(phototherapy: PT)は、健康な組織への損傷及び副作用の点から、手術、放射線治療法及び化学療法等の常套のがん治療アプローチを超える優位性のために、近年、非常に興味が持たれている(非特許文献1参照)。PTは、光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)及び光線熱療法(photothermal therapy: PTT)を含み、光照射によってのみ活性化される領域特異的かつ非侵襲治療法である。従って、PTは、通常の器官への損傷を最小にしながら目的とするがんの治療を提示する(非特許文献2参照)。
【0003】
治療法の有効性を増すために、可能な限り選択的に光増感剤をがん細胞に届けるべきである。最近、向上された透過性(又は浸透性)及び保持効果(enhanced permeability and retention effect: EPR効果)を利用することによる光増感剤のためのキャリア(carrier)として、種々のナノ材料の使用が試みられ、主に、一次元(1D)ナノロッド(nanorod)、二次元(2D)ナノシート(nanosheet)及び三次元(3D)ナノ粒子(nanoparticle)が報告されている(非特許文献2及び3参照)。
【0004】
最も典型的には、酸化グラフェン(graphene oxide: GO)が光増感剤を運ぶために広範に使用され、光増感剤は、クロリンe6(chlorine e6: Ce6)、ピロフェオホービド-a(pyropheophorbide-a: PPa)、及びハイポクレリンA及びB(hypocrellin A and B: HA及びHB)を含む。GOは、近赤外線(near-infrared light: NIR light)を吸収し、熱を発生するので、PDT及びPTTのバイモーダルな治療法を実現できると考えられる(非特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Z. Baomei, W. Yang, L. Jiyong and Z. Guangxi, Current Medicinal Chemistry, 2017, 24, 268-291.
【非特許文献2】B. Tian, C. Wang, S. Zhang, L. Feng and Z. Liu, ACS Nano, 2011, 5, 7000-7009.
【非特許文献3】P. Huang, C. Xu, J. Lin, C. Wang, X. Wang, C. Zhang, X. Zhou, S. Guo and D. Cui, Theranostics, 2011, 1, 240-250.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、液相剥離による高いクロリンe6担持率(能)を有するグラフェン-クロリンe6(graphene-chlorine e6: G-Ce6)複合材料(又は構造体)の極めて効率的な製造方法を我々は開発した。G-Ce6複合材料は、他のナノ材料-Ce6複合材料より、がん細胞を殺すための極めて高い光線療法有効性(7~75倍高い)を示した。G-Ce6複合材料は、リン酸緩衝液(phosphate-buffered saline: PBS;pH=7.4)中で安定であったが、細胞培養培地中では十分な安定性を有さず、相当速くCe6を放出した。このことが、G-Ce6複合材料の in vivo での応用を妨げた(未発表)。
【0007】
従って、光線治療法の有効性、リン酸緩衝液中での安定性、及び細胞培養培地中での安定性などに優れ、更にそれらの性質のバランスに優れる、新たな複合材料、それを含む新規な光線療法用薬剤及びその製造方法が求められている。
【0008】
本開示は、新規な光増感剤とキャリアとの複合材料(キャリア-光増感剤複合材料)、それを含む光線療法用薬剤及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
我々は、鋭意検討を重ねた結果、例示的な実施形態において、遷移金属ダイカルコゲナイド(例えば、二硫化モリブデン)のナノシートをキャリアとして使用し、それに光増感剤を担持した複合材料が得られることを見出した。更に、一実施形態において、そのような複合材料を含む薬剤は、がんなどに対する光線療法に使用できることを見出した。
【0010】
本開示は、一の態様として、新規な複合材料を提供し、それは、
光増感剤;及び
その光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート
を含む。
その複合材料を含む薬剤は、光線療法に好ましく使用することができ、がん光線療法に更に好ましく使用することができる。
【0011】
本開示は、他の態様において、新規な製造方法を提供し、それは、
バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤を混合して、混合物を得ること;
その混合物中のバルク遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して得られる遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させること;及び
光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む部分を分離すること
を含む、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む複合材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態の複合材料は、光線治療法の有効性に優れ、リン酸緩衝液中での安定性に優れ、細胞培養液中での安定性に優れる。更に、担持された光増感材は、適度な速度で複合体から放出される。また、本開示の実施形態の複合材料の製造方法は、そのような複合材料を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、遊離のクロリンe6(Ce6)の水中でのUV-Vis吸収スペクトルと、実施例1のクロリンe6担持二硫化モリブデンナノシート(MoS-Ce6)の水中でのUV-Vis吸収スペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例1のクロリンe6担持二硫化モリブデンナノシート(MoS-Ce6)の典型的なAFM画像と高さのプロファイルを示す。
【図3a】図3aは、660nmレーザー光を2分間照射することなく種々の濃度の遊離のCe6、MoS-Ce6及びG-Ce6(クロリンe6担持グラフェン複合材料)と共に培養されたHeLa細胞の細胞生存率を示す。
【図3b】図3bは、種々の濃度の遊離のCe6、MoS-Ce6及びG-Ce6と一緒に培養されたHeLa細胞に660nmレーザー光を2分間照射後の細胞生存率を示す。
【図4】図4は、4.0μgmL-1のCe6の濃度で、遊離のCe6又はMoS-Ce6と、4時間培養し、洗浄した後のHeLa細胞の共焦点蛍光画像(confocal fluorescence images)を示す。赤と青の着色は、Ce6の蛍光とDAPIで着色された細胞の核を各々示す。
【図5】図5は、遊離のCe6又はMoS-Ce6と一緒に24時間培養後、洗浄したHeLa細胞のCe6蛍光強度のフローサイトメトリー測定(FACS measurement)を示す。
【図6a】図6aは、時間に対する、細胞培養培地(DMEM+10%FBS)中でのMoS-Ce6の吸収スペクトルを示す。
【図6b】図6bは、細胞培養培地中での、MoS-Ce6からのCe6の放出プロファイルとG-Ce6からのCe6の放出プロファイル示す。
【図6c】図6cは、PBS中での、MoS-Ce6からのCe6の放出プロファイルとG-Ce6からのCe6放出プロファイル示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、一の態様において、新たな複合材料を提供し、それは、
光増感剤;及び
その光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート
を含む、複合材料である。

【0015】
本明細書において、「光増感剤」とは、基質以外の物質で初めに光を吸収して励起され、その励起エネルギーをエネルギー移動や電子移動で基質に渡すことによって基質の反応を起こさせる化合物をいい、本開示が目的とする複合材料を得ることができる限り、特に制限されることはない。光増感剤は、一の実施形態において、光を吸収して、発熱し及び/又は活性酸素(ROS)を発生させることができる。

【0016】
光増感剤として、例えば、クロリン、バクテリオクロリン、ポルフィリン、フタロシアニン、フェノチアジニウム塩等を例示することができる。本開示の光増感剤としては、例えば、H. Abrahamse and M. R. Hamblin, Biochem. J. (2016) 473, 347-364に記載のTable1及びTable2等に例示された化合物から、当該光増感剤として適切なものと本明細書の記載を考慮して選択し、使用することができる。

【0017】
クロリンとして、例えば、フォスカン(m-テトラフドロキシフェニルクロリン:Foscan, m-tetrahydroxyphenylchlorin)、ベルテポルフィン(ベンゾポルフィリン誘導体モノアシッドリングA:Verteporfin, benzoporphyrin derivative mono acid ring A)、クロリンe6(chlorin(e6))、モノアスパルチルクロリンe6(タラポルフィン ナトリウム塩:Monoaspartyl chlorin(e6), talaporfin sodium)、HPPH(HPPH)等を例示できる。

【0018】
バクテリオクロリンとして、例えば、TOOKAD可溶WST-11(TOOKAD Soluble, WST-11)、LUZ11(LUZ11)、BC19(BC19)、BC21(BC21)等を例示することができる。
ポルフィリンとして、例えば、フォトフリン(Photofrin、フォトフリンの実際の構造は、エステル-及びエーテル-結合したダイマー及びオリゴマーの複雑な混合物である)、ALA-誘起プロトポルフィリンIX(ALA-induced protoporphyrin IX)、5,10,15,20-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィリントシレート(5, 10, 15, 20-Tetrakis(1-methylpyridinium-4-yl)porphyrin tosylate)、XF70(XF70)等を例示できる。

【0019】
フタロシアニンとして、例えば、リポソマルZnPC(Liposomal ZnPC)、クロロアルミニウムスルホン化フタロシアニン(Chloroaluminium sulfonated phthalocyanine: CASP)、シリコンフタロシアニン(Silicon phthalocyanine: PC4)、RLP068(RLP068)等を例示できる。
フェノチアジニウム塩として、例えば、メチレンブルー(Methylene Blue)、トルイジンブルー0(Toluidie Blue 0)、PP904(PP904)等を例示できる。

【0020】
本明細書において、「遷移金属ダイカルコゲナイド(transition metal dichalcogenide)」とは、遷移金属(M)と酸素以外の第16族元素(X)(具体的には、硫黄、セレン及びテルル)との化合物をいい、その化学式は代表的にはMXで示される。MXで示される化合物であっても、本開示における遷移金属ダイカルコゲナイドの用途において適切な場合は、当該化合物は、遷移金属ダイカルコゲナイドに含まれるものとして使用してもよい。この化合物は、バルクの結晶を剥離してナノシートを形成可能であり、本開示が目的とする複合材料を得ることができる限り特に制限されることはない。

【0021】
本開示の例示的な実施形態において、遷移金属ダイカルコゲナイドは、モリブデン、タングステン、クロム、バナジウム、タリウム、ニオブ、チタン及び鉄から選択される遷移金属(M)と、硫黄、セレン及びテルルから選択される第16族元素(X)との化合物を含むことができる。

【0022】
ここで、MXで示される化合物に含まれる遷移金属(M)として、例えば、モリブデン、タングステン、クロム、バナジウム、タリウム、ニオブ、チタン等を例示することができ、MXで示される化合物に含まれる遷移金属(M)として、例えば、鉄等を例示することができる。

【0023】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、遷移金属と硫黄、セレン及びテルルから選択される少なくとも1種の化合物を含むことができ、遷移金属と硫黄の化合物を含むことが好ましい。

【0024】
遷移金属と硫黄を含む遷移金属ダイカルコゲナイドとして、例えば、硫化モリブデン(MoS)、硫化タングステン(WS)、硫化バナジウム(VS)、硫化タリウム(TaS)、硫化ニオブ(NbS)、硫化チタン(TiS)、硫化鉄(FeS)等を例示できる。
遷移金属とセレンを含む遷移金属ダイカルコゲナイドとして、例えば、セレン化モリブデン(MoSe)、セレン化タングステン(WSe)、セレン化バナジウム(VSe)、セレン化タリウム(TaSe)、セレン化ニオブ(NbSe)、セレン化チタン(TiSe)、セレン化クロム(CrSe)、セレン化鉄(FeSe)等を例示できる。
遷移金属とテルルを含む遷移金属ダイカルコゲナイドとして、例えば、テルル化モリブデン(MoTe)、テルル化タングステン(WTe)、テルル化バナジウム(VTe)、テルル化タリウム(TaTe)、テルル化ニオブ(NbTe)、テルル化チタン(TiTe)、テルル化クロム(CrTe)等を例示できる。

【0025】
本明細書において「ナノシート」とは、ナノオーダーの厚さを有する二次元構造体として把握される対象物質をいう。すなわち、ナノシートは、異方性を有する構造体であり、二次元方向の広がりとして定義される面と、その面の厚さとして把握される次元を有する構造体のうち、当該厚さがナノオーダーにあるものをいう。ここで、当該厚さは、代表的には、100nm以下であり、一実施形態においては、0.5nmから100nmまでに及ぶ。本開示に係るナノシートは、本開示が目的とする複合材料を得られる限り、特に制限されることはない。

【0026】
上記「二次元方向の広がりとして定義される面」は、正方形、長方形及び菱形等の矩形、円、楕円、及び他の閉じた曲線で表現される形状を有する面であってもよく、本発明が目的とする複合材料を得ることができる限り、面の形状は特に制限されることはない。
その面の中の二点間で、最も長い直線を最長径、短い直線を最短径として定義することができる。本発明が目的とする複合材料を得ることができる限り、最長径及び最短径の長さは、特に制限されることはないが、最短径は、厚さより長いことが好ましい。

【0027】
本明細書において、「遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート」とは、一実施形態において、遷移金属ダイカルコゲナイドを含むナノシートをいい、別の実施形態において、遷移金属ダイカルコゲナイドで実質的に形成されているナノシートをいう。

【0028】
光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの平均の厚さは、一の実施形態について、例えば、0.5~100nmでありえ、1~50nmでありえ、1~20nmでありえ、1~10nmでありえる。光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの平均の厚さは、複合材料の分散性、光増感剤の担持性、光治療法での有効性などを考慮して、適宜選択することができる。

【0029】
光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの面の平均の最長径は、本発明の実施形態において、例えば、0.1~10μmでありえ、0.1~5μmでありえ、0.1~2μmでありえ、0.1~1μmでありえる。光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの面の平均の最長径は、複合材料の分散性、光増感剤の担持性、光線療法での有効性などを考慮して、適宜選択することができる。

【0030】
光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの面の平均の最短長径は、複合材料の分散性、光増感剤の担持性、光線療法での有効性などを考慮して、適宜選択することができる。
光増感剤を担持した遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートの面の平均最短径と平均厚さとの比(平均最短径/平均厚さ)は、一の実施形態において、例えば、5~1000でありえ、10~500でありえ、20~200でありえ、10~100でありえる。

【0031】
遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに担持された光増感剤と、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートとの質量比(光増感剤/遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート)は、複合材料の分散性、光増感剤の担持性、光線療法での有効性などを考慮して、適宜選択することができる。質量比は、例えば、1/100~100/1でありえ、1/10~10/1でありえ、1/5~5/1でありえ、1/4~4/1でありえ、1/3~3/1でありえ、1/2.5~2.5/1でありえ、1/2~2/1でありえる。

【0032】
光増感剤の遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートへの担持は、光増感剤が、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに付着しており、本開示が目的とする複合材料を得られる限り、担持の状態及びその担持方法などについて何ら制限されることはない。担持は、物理的及び/又は化学的方法でおこなうことができる。

【0033】
上述したような複合材料は、その複合材料を製造することができる限り、その製造方法及び製造条件などは、特に制限されることはないが、下記の製造方法で好ましく製造することができる。

【0034】
本開示は、他の態様において、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む複合材料の新たな製造方法を提供し、それは、
バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤を混合して、混合物を得ること;
その混合物中の遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させること;及び
光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む部分を分離すること
を含む、製造方法である。
この製造方法は、上述の複合材料を製造するために、好適に使用することができる。

【0035】
本開示の実施形態の製造方法は、バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤を混合して、混合物を得ることを含む。
混合方法は、本発明が目的とする複合材料を得ることができる限り、特に制限されることはない。例えば、媒体を使用して、攪拌又は振とう等によって混合してもよく、媒体を使用しないで固相同士で混合してもよい。

【0036】
本開示の実施形態の製造方法は、バルク遷移金属ダイカルコゲナイドと光増感剤を、媒体中で混合して、その媒体中の混合物を得ることを含むことができる。
本明細書において、媒体とは、代表的には、水系媒体をいい、いわゆる水、上水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等を意味し、本開示が目的とする複合材料を得ることができる限り、他の媒体、例えば、有機溶媒等の他の溶媒などを適宜含むことができる。
本明細書においてバルク遷移金属ダイカルコゲナイドとは、遷移金属ダイカルコゲナイド結晶の塊、粒子状、粒状、粉末状等のナノシート状以外の形態の遷移金属ダイカルコゲナイド結晶をいい、本開示が目的とする複合材料を得ることができる限り、その形態は特に制限されることはない。

【0037】
光増感剤とバルク遷移金属ダイカルコゲナイドの質量比(光増感剤/バルク遷移金属ダイカルコゲナイド)は、実施形態において、例えば、1000/1~1/10でありえ、100/1~1/2でありえ、10/1~1/1でありえる。光増感剤/バルク遷移金属ダイカルコゲナイドは、複合材料の分散性、光増感剤の担持性、光線療法での有効性などを考慮して、適宜選択することができる。

【0038】
本開示の実施形態の製造方法は、その混合物中の遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させることを含む。本開示の実施形態の製造方法では、遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離させて、そのナノシートへの光増感剤の担持は、ワンポットで、行うことができる。
本開示が目的とする複合材料を得ることができる限り、遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートに、光増感剤を担持させる方法は、特に制限されることはないが、例えば、媒体中の混合物に超音波を照射する方法等を例示することができる。

【0039】
混合物に超音波を照射する場合、超音波の強度、超音波の照射時間及び温度などは、本開示が目的とする複合材料を得ることができるかぎり、より具体的にいえば、バルク遷移金属ダイカルコゲナイドをナノシートにして、それに光増感剤を担持することができる限り、特に制限されることはない。

【0040】
超音波の照射は、本開示の実施形態の製造方法において、例えば、0~80℃で行うことができ、10~50℃で行うことができ、20~40℃で行うことができる。超音波の照射温度は、得られる複合材料の性質と製造の効率性などを考慮して、適宜選択することができる。
超音波の照射は、本発明の実施形態において、例えば、0.1~100時間行うことができ、0.5~30時間行うことができ、1~10時間行うことができる。超音波の照射時間は、得られる複合材料の性質と製造の効率性などを考慮して、適宜選択することができる。

【0041】
本開示の実施形態の製造方法は、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む部分を分離することを含む。この部分は、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含み、例えば、水系媒体等の他の物質を含むことができる。
この部分を分離する方法は、本開示が目的とする複合材料を製造することができる限り、特に制限されることはない。

【0042】
この部分を分離する方法は、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを遠心分離する方法、濾過する方法、デカンテーションする方法を含むことができる。分離する方法は、得られる複合材料の性質と製造の効率性などを考慮して、適宜選択することができる。

【0043】
本開示は、更なる態様において、上述の製造方法で得られる、光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む複合材料を提供する。光増感剤、担持、遷移金属ダイカルコゲナイドナノシート、複合材料などについて、上述の本明細書の記載を参照することができる。

【0044】
本開示は、好ましい態様において、上述の複合材料を含む、光線療法用薬剤(又は治療薬)を提供する。本開示の実施形態の薬剤は、通常薬剤に含まれる他の材料を含むことができる。
本開示の実施形態の光線療法用薬剤は、光線療法を使用できる疾患であれば特に制限されることなく種々の疾患に使用することができる。
更に、本開示は、上述の複合材料の製造方法を含む、光線療法用薬剤の製造方法を提供する。

【0045】
本開示の実施形態の光線療法用薬剤は、がん光線療法用薬剤(又は治療薬)として使用することができる。
本開示の実施形態のがん光線療法用薬剤は、より具体的には、例えば、肺がん、皮膚がん、脳腫瘍、大腸がん、肝がん、子宮がん、咽頭がん、舌がん、白血病などのがんに使用することができる。

【0046】
本開示の実施形態の光線療法用薬剤は、疾患(例えば、がん)の種類、疾患の部位の位置、光線の波長及び強度などによって、その光増感剤の濃度を適宜選択することができる。

【0047】
本開示は、更に好ましい態様において、上述の光線療法用薬剤を用いることを含む、光線療法を提供する。本開示の実施形態の光線療法は、上述の光線療法用薬剤を用いて対象細胞内に光増感剤を送ること、対象細胞に光照射して、対象細胞を殺すことを含む。光照射の条件は、対象細胞が十分に殺すことができる限り特に制限されることはなく、一般的に用いられている光照射条件であってよい。また、対象となる細胞によって、適宜調整することができる。

【0048】
本開示の実施形態の光線療法は、使用できる限り、適用される疾患は特に制限されることはないが、例えば、肺がん、皮膚がん、脳腫瘍、大腸がん、肝がん、子宮がん、咽頭がん、舌がん、白血病などのがん等の疾患を治療するために使用することができる。従って、本開示は、上述の光線療法用薬剤を用いる、がん光線療法を提供する。
【実施例】
【0049】
以下、本開示を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本開示の一態様にすぎず、本開示はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、実施例の記載において、特に記載がない限り、溶媒を考慮しない部分を、質量部及び質量%の基準としている。
【実施例】
【0050】
本実施例で使用した試薬を以下に示す。
バルク二硫化モリブデン(MoS)粉末は、和光純薬工業株式会社製を使用した。
クロリンe6(Ce6)は、米国のフロンティアサイエンティフィック社(Frontier Scientific Inc., USA)から購入し、そのまま使用した。
【実施例】
【0051】
クロリンe6担持二硫化モリブデンナノシート(MoS-Ce6)含有ナノ複合材料の製造
バルクMoS(5.0mg)及びCe6(5.0mg)をミリQ水(20mL)に入れて、15℃で36時間、水浴中で超音波(290W)を照射した。得られた懸濁液を3000rpm(1029g)で1時間遠心分離して、上澄み液としてCe6担持MoSナノシート(MoS-Ce6)を含む水性分散物(実施例1の複合材料)を得た。
【実施例】
【0052】
バルクMoSとCe6の両方共、水への溶解性は低いが、MoS-Ce6は、良好な水分散性を示した。これは、MoS-Ce6中の電子移動によって誘起されるより大きな極性によると考えられる。
遠心分離後の、MoS-Ce6分散物は、緑色を示した。これに対し、Ce6を有さないバルクMoSは、無色の上澄み液を形成する。Ce6は、剥離剤及び分散剤の二つの機能を示すと考えられる。
この複合材料について、下記の評価を行った。
【実施例】
【0053】
<UV-Visスペクトル測定>
上述の上澄み液について、UV-Visスペクトルを測定した。そのUV-Visスペクトルを図1にMoS-Ce6として示す。ミリQ水中の遊離の(又は単独の)Ce6のUV-Visスペクトルも、図1に示す。
MoS-Ce6の緑色分散物のUV-Visスペクトルでは、Ce6のSoret band (403nm)と Q band (655nm)が両方共に極めてブロード化し、Q band が655nmから685nmに著しくレッドシフトした。このことは、Ce6がMoSナノシートに担持されたナノ複合材料の形成を示す。
ベースラインの大きな上方へのシフトは、遠心分離後上澄み液中にMoSが存することを示す。
遊離のCe6の Q band に対応する吸収ピークを約655nmに認めることができなかった。このことは、上澄み液中に遊離のCe6は、ほとんど存在しないことを示す。
上述のMoS-Ce6水性分散物は、1月以上沈殿物を生じず、極めて安定であった。即ち、MoS-Ce6は、水中で極めて安定であった。
【実施例】
【0054】
<複合材料中のクロリンe6担持率の測定>
上述の上澄み液を分離後、残留沈殿物をDMSOで完全に洗浄し、洗浄液を組み合わせて吸収スペクトル測定を行った。沈殿物中のクロリンe6の量(mp-Ce6)は、404nmの吸収ピークによって定めた。上澄み中のCe6の量(ms-Ce6)は、Ce6の最初の量(mi-Ce6)からmp-Ce6を減ずることで、下記のように、計算することができる。
ms-Ce6=mi-Ce6-mp-Ce6
【実施例】
【0055】
上澄み液中のMoSの量(ms-MoS2)を決めるために、5mLの上澄み液を、質量を予め測定したボトルに注いだ。オーブン中で乾燥して、残渣の質量を測った。上澄み液(20mL)中のナノ複合材料の質量(ms-composite)を計算し、次のように、ms-MoS2を計算した。
ms-MoS2=ms-composite-ms-Ce6
【実施例】
【0056】
最後に、MoS-Ce6複合材料のCe6担持率は次式に基づいて定めた。
担持率=ms-Ce6/ms-MoS2
MoSナノシートのクロリンe6担持率(又は担持能)は、121質量%と計算された。
【実施例】
【0057】
<ナノ複合材料の大きさ>
上述の水性分散物中のMoS-Ce6の大きさを、原子間力顕微鏡(atomic force microscopy: AFM)で評価した。水系分散物中のCe6担持MoSナノシートの典型的なAFM画像と高さのプロファイルを図2に示した。大部分のCe6担持MoSナノシートは、2.5~5.0nmの厚さを有し、150~300nmの側方サイズを有した。
単層のMoSナノシートの厚さは、0.8~1.0nmであることが報告されているので、Ce6担持MoSナノシートは、数層のMoSナノシートを有すると考えられる。
【実施例】
【0058】
<インビトロ細胞実験>
インビトロ細胞実験の前に、リン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline: PBS)中でのMoS-Ce6の安定性を確認した。上述の上澄み液の水性媒体(ミリQ水)をPBS(pH=7.4)で置き換えた。PBS分散物のUV-Visスペクトルを測定した。遊離のCe6と対応する吸収ピークが観察されなかったので、MoS-Ce6からのCe6の放出はなく、MoS-Ce6がPBS中で安定であることが確認された。
【実施例】
【0059】
HeLa細胞(HeLa cells)をインビトロ実験のために使用した。細胞を、10%ウシ胎仔血清(fetal bovine serum: FBS)及び100UmL-1ペニシリン及び1%ストレプトマイシン(streptomycin)で補完(強化)されたダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium: DMEM)中で培養した。細胞培養の間、細胞を、5%CO中37℃で培養した。
96のウェル(凹み:well)を有するプレート中で培養したHeLa細胞(1ウェル当たり1×10個の細胞)を、培地(1ウェル当たり100μL)中で、種々のCe6濃度のPBS中のCe6又はMoS/Ce6分散物を用いて処理した。暗条件で24時間培養後、細胞を培地で2回洗浄し、室温(20℃)で2分間0.14Wcm-2の出力強度の660nmの光を照射した。暗条件で更に24時間培養後、細胞毒性を、CCK-8キット(Cell Counting Kit-8)を用いてアッセイ(評価)した。細胞生存率を決定するための細胞毒性評価の参照として、光照射せず、Ce6非存在での対照実験を行った、
【実施例】
【0060】
結果を、図3a及び図3bに示した。
図3aは、2分間の660nmレーザー光の照射をすることなく、種々の濃度のCe6、MoS-Ce6及びG-Ce6(クロリンe6担持グラフェン複合材料)と共に、HeLa細胞を培養した場合、培養されたHeLa細胞の細胞生存率を示す。
図3bは、660nmレーザー光を2分間照射して、種々の濃度のCe6、MoS-Ce6及びG-Ce6と共に、HeLa細胞を培養した場合、培養されたHeLa細胞の細胞生存率を示す。
尚、G-Ce6の結果は、比較にために、Y. Chen, Y. Wu, B. Sun, S. Liu and H. Liu, Small, 2017, 13, 1603446 を参照した。
【実施例】
【0061】
図3aは、2分間の光照射をすることなくHeLa細胞を培養した場合、MoS-Ce6と遊離のCe6の両方共、0.20μgmL-1までのCe6の全ての濃度で、HeLa細胞への検知可能な毒性を全く示さないことを示す。従って、MoS-Ce6は、細胞との良好な親和性(相性)を示した。
【実施例】
【0062】
これに対し、0.14Wcm-2の出力強度の660nmのLED光にHeLa細胞を2分間暴露した場合、MoSナノシートに担持されたCe6と、遊離のCe6では、細胞の細胞生存率に顕著な相違が観察された。
図3bは、遊離のCe6は検討した全ての濃度で(0.20μgmL-1まで)ほとんど細胞毒性を示さなかった(細胞生存率:約100%)が、MoS-Ce6では0.050μgmL-1の低濃度のCe6で、95%以上のHeLa細胞を効果的に殺したこと(細胞生存率:5%以下)を示す。
図3bに示すように、光照射によるMoS-Ce6の有効性は、G-Ce6より高いことが明らかである。
【実施例】
【0063】
<共焦点蛍光顕微鏡検査>
MoS-Ce6を用いる光線療法の有効性は、細胞のCe6吸収性と密接に関係すると考えられるので、遊離のCe6とMoS-Ce6の細胞吸収性を、共焦点レーザー走査顕微鏡法(confocal laser scanning microscopy: CLSM)を用いて評価した。
HeLa細胞(4-ウェルのラブテックチャンバースライド(4-well Lab Tek chamber slides)中、1ウェル当たり1×10個の細胞)を、4μgmL-1の濃度の遊離のCe6又は同濃度のMoS-Ce6で処理した。4時間の培養後、培地を除去し、細胞をPBSで2回洗浄し、その後パラホルムアルデヒドで固定化した。細胞核を、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4',6-diamidino-2-phenylindole: DAPI)を用いて染色後、共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal laser scanning microscope)(日本のオリンパス社製)を用いた。
【実施例】
【0064】
結果を、図4に示した。図4は、4.0μgmL-1の濃度の遊離のCe6又は同濃度のMoS-Ce6と一緒に、4時間培養したHeLa細胞の共焦点蛍光画像(confocal fluorescence images)を示す。図4の上段は、遊離のCe6と培養したHeLa細胞、図4の下段は、MoS-Ce6と培養したHeLa細胞である。左列は、青色の着色が観察され、これはDAPIによって着色された細胞の核を示す。中央列は、上段ではごく弱い赤色が、下段では強い赤色が観察された。これは、Ce6からの蛍光を示す。右列は、左列と中央列の組み合わせを示す。
【実施例】
【0065】
図4上段の遊離のCe6と培養された細胞は、極めて弱い赤色の蛍光を示した(Cy5モード)。これは、極めて少量のCe6しか細胞に吸収されていないことを意味する。これは、Ce6の負電荷と細胞膜の負電荷との間の電気的反発によるかもしれない。
これに対し、図4下段のMoS-Ce6と共に培養された細胞は、細胞質内ではるかに強い蛍光を示す。これは、MoS-Ce6が、細胞内にCe6を運ぶための役割を果たすことを意味する。
【実施例】
【0066】
図4上段右は、実質的に青色のみが観察された。従って、遊離のCe6と培養された細胞では、細胞の存在は確認されても、Ce6は存在しないことがより明確になった。
これに対し、図4下段右は、紫色が観察された。従って、MoS-Ce6と培養された細胞では、細胞の存在と共に、Ce6の存在もより明確になった。
【実施例】
【0067】
<フローサイトメトリー分析(Flow cytometry analysis)>
細胞のCe6の吸収を更にフローサイトメトリー(flow cytometry: FACS)で確認した。
細胞のCe6の吸収をより視覚的に調べるために、その体積(1ウェル当たり2.0mL)が異なることを除いて、インビトロ細胞実験の欄(細胞毒性アッセイ又は評価)で記載した方法と同様の方法で、HeLa細胞を12-ウェルプレート中でCe6又はMoS-Ce6と共に培養した。PBSで2回洗浄後、プレートに接着している細胞をトリプシン(trypsin)で剥離、回収し、フローサイトメトリー分析(flow cytometry analysis)のために、細胞を1mLのPBSに分散した。1ウェル当たり約1万の細胞を測定した。Ce6とMoS-Ce6の細胞内への取り込みを分析するために、蛍光強度に対するその頻度又は数(FL4-Hモデル)を得た。
【実施例】
【0068】
図5は、Ce6又はMoS-Ce6と共に24時間培養後、HeLa細胞内のCe6蛍光強度のフローサイトメトリー測定(FACS measurement)を示す。Ce6で処理された細胞(図5上)と、MoS-Ce6で処理された細胞(図5下)の間で明確な相違が認められた。両方共、濃度の増加に応じて蛍光強度の増加した細胞が増加したことを示したが、MoS-Ce6で処理された細胞について更により蛍光強度が増加した細胞が増えたことが観察された。このことは、より多くのCe6が、MoSと共に細胞に吸収されて、Ce6をより多く吸収した細胞が増えることを示す。このFACSの結果は、上述したCLSMを用いた評価結果と一致する。MoS-Ce6は、細胞内へのCe6の吸収を促進し、それは、MoS-Ce6の光線療法の効果を向上させると考えられる。
【実施例】
【0069】
<光熱効果の評価>
MoSの励起子遷移ピークの一つは、660nm付近に位置するので、細胞実験で660nmの光を照射して、Ce6とMoSの両方を励起して、活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)と熱の両方を発生させることを考えた。発生する熱は、PTTによってがん細胞を殺し、細胞のMoS-Ce6の吸収を促進すると考えられる。
【実施例】
【0070】
MoS-Ce6の光熱効果を室温で660nmのLED光を照射して評価した。MoS-Ce6のPBS溶液(0.20μg/mLのCe6濃度を有する)を660nmの光に2分間暴露した。温度計で実際の温度上昇を測定した。MoS-Ce6を用いない対照実験を、同条件で行った。MoS-Ce6を有するPBS溶液の温度上昇は1.2℃であり、MoS-Ce6を有さないPBS溶液の温度上昇は0.4℃であった。
【実施例】
【0071】
Ce6への660nmの光照射による、一重項酸素の発生を、1,3-ジフェニルイソベンゾフランを用いて確認した。MoS-Ce6による向上したがんPTは、PDTとPTTのシナジー効果によると結論づけられる。
【実施例】
【0072】
<インビトロでの光増感剤(Ce6)の放出>
MoS-Ce6ナノ複合材料からCe6の放出は、PDTに関する重要な工程なので、細胞培養培地(DMEM+10%FBS)中でのCe6放出工程を測定した。
光増感剤放出(薬物放出)をDMEM(10%FBS)中で、分散物の吸収スペクトルを測定した。上述の水性分散物の水性媒体をPBS(pH=7.4)で置き換えた後、0.1mLのMoS/Ce6分散物を、インビトロ細胞実験で記載した3mLの細胞培養培地(DMEM+10%FBS)に加えた。その後、得られた混合物をUV-Vis吸光分光法によってモニターした。放出されたCe6の濃度をQバンドでの吸光度を用いて計算した。
【実施例】
【0073】
図6aは、時間に対する、細胞培養培地(DMEM+10%FBS)中でのMoS-Ce6の吸収スペクトルを示す。
図6bは、細胞培養培地中での、MoS-Ce6からのCe6の放出プロフェールとG-Ce6からのCe6放出プロファイル示す。
図6cは、PBS中での、MoS-Ce6からのCe6の放出プロフェールとG-Ce6からのCe6放出プロファイルを示す。PBS中でのG-Ce6からのCe6放出プロファイルは、G. Liu, H. Qin, T. Amano, T. Murakami and N. Komatsu, ACS Applied Materials & Interfaces, 2015, 7, 23402-23406 を参照した。
【実施例】
【0074】
図6aに示すように、単独のCe6のSoretバンド及びQバンドに対応するピーク(各々、410nm及び667nm)は、時間の経過とともに、上向きの矢印で示すように徐々に強度が増加した。これに対し、担持されたCe6のQバンド(690nm)の強度は、下向きの矢印で示すように徐々に減少した。
放出されたCe6について、Qバンドの吸収強度を用いて定量化して、図6bに示すようなCe8放出プロファイルを得た。MoS-Ce6に担持されたCe6は、4時間で28%、22時間で57%が、MoS-Ce6から、各々放出された。
これに対し、細胞培養培地中で、G-Ce6に担持されたCe6は、その70%以上が、1.5時間以内に、G-Ce6から放出された。
尚、図6cに示すように、PBS中で、MoS-Ce6に担持されたCe6の、MoS-Ce6からの放出は、かなり遅くなることがわかる。
【実施例】
【0075】
図3に示すように、遊離のCe6は、細胞毒性をほとんど示さなかったので、MoS-Ce6に担持されたCe6が、G-Ce6に担持されたCe6より、ゆっくり放出されることは、光線療法のより高い有効性に関する別の他の理由であり得るだろう。尚、G-Ce6から、速くCe6が放出されることはインビボでの応用を制限し得る。
従って、光線療法でのより有効性が高く、より安定性が高いことから、MoS-Ce6は、G-Ce6より優れる。
【実施例】
【0076】
水溶液に分散可能なMoS-Ce6ナノ複合材料を、液相剥離に基づくワンポット方によって直接製造した。MoS-Ce6は、水中で極めて安定であるが、細胞培養培地中ではCe6を徐々に放出した。MoS-Ce6に担持されたCe6が、MoS-Ce6から徐々に放出されることと、660nmの光をCe6とMoSの両方が吸収することは、MoS-Ce6ナノ複合材料が0.050μgmL-1の低濃度で95%を超える癌細胞を殺すことを可能にすると考えられる。但し、MoS-Ce6は、光照射をしない場合、無毒性と考えられる。MoSは、Ce6を細胞に入れる役割を果たすと考えられる。MoS-Ce6は、PDTとPTTによって、ROSと熱を生ずる。MoS-Ce6は、有望なPT剤、特にがん治療に有望なPT剤を提供することが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示は、光増感剤;及びその光増感剤を担持する遷移金属ダイカルコゲナイドナノシートを含む複合材料を提供する。本開示の実施形態の複合材料は、光線治療法の有効性に優れ、リン酸緩衝液中での安定性に優れ、細胞培養液中での安定性に優れる。更に、それらの性質について、バランスよく優れる。また、本開示の実施形態の複合材料の製造方法は、そのような複合材料を効率的に製造することができる。その複合材料を含む薬剤は、光線療法に好ましく使用することができ、がん光線療法に更に好ましく使用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3a】
2
【図3b】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6a】
6
【図6b】
7
【図6c】
8