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明細書 :核磁気共鳴装置、及び微結晶構造解析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-034481 (P2020-034481A)
公開日 令和2年3月5日(2020.3.5)
発明の名称または考案の名称 核磁気共鳴装置、及び微結晶構造解析方法
国際特許分類 G01N  24/00        (2006.01)
FI G01N 24/00 510C
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2018-162723 (P2018-162723)
出願日 平成30年8月31日(2018.8.31)
発明者または考案者 【氏名】久住 亮介
【氏名】武田 和行
【氏名】木村 恒久
【氏名】門間 啓
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査請求 未請求
要約 【課題】従来では結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出できない試料であっても、前記有効な核磁気共鳴信号を検出することができる核磁気共鳴装置及び微結晶構造解析方法を提供する。
【解決手段】静磁場内に配置された試料にパルス状の電磁波を照射して核磁気共鳴を励起し、当該核磁気共鳴によって発生する核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴装置1は、静磁場を発生させる静磁場源4と、電磁波を照射させるとともに核磁気共鳴信号を検出するための発信受信部5と、前記静磁場内で微結晶3を懸濁させた試料容器2を変速回転させることで時間的に変動する磁場を印加して微結晶3を三次元配向させるように、試料容器2を変速回転させる回転機構10と、試料容器2の変速回転と同期して電磁波を照射させるように発信受信部5を制御する制御部7とを備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
静磁場内に配置された試料にパルス状の電磁波を照射して核磁気共鳴を励起し、当該核磁気共鳴によって発生する核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴装置であって、
前記静磁場を発生させる静磁場源と、
前記電磁波を照射させるとともに前記核磁気共鳴信号を検出するための発信受信部と、
前記静磁場内で微結晶を懸濁させた前記試料を変速回転させることで、前記試料に時間的に変動する磁場を印加して前記微結晶を三次元配向させる回転機構と、
前記試料の変速回転と同期して前記電磁波を照射させるように前記発信受信部を制御する制御部と、を備える核磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記試料の変速回転と前記電磁波の照射とを同期させるタイミングを調整可能である、請求項1に記載の核磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記回転機構は、前記試料を180×n°(nは任意の自然数)回転させるたびに、その回転を一時的に停止させるものである、請求項1又は2に記載の核磁気共鳴装置。
【請求項4】
前記回転機構は、前記試料を前記静磁場の磁場方向に対して垂直方向に延びる回転軸回りに変速回転させるものであり、
前記回転軸を前記磁場方向に対して垂直以外の任意の角度に傾斜させる傾斜機構をさらに備え、
前記制御部は、前記電磁波を前記試料に照射させる直前に、前記回転軸を前記任意の角度に傾斜させるように前記傾斜機構を制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の核磁気共鳴装置。
【請求項5】
静磁場内で微結晶を懸濁させた試料を変速回転させることで時間的に変動する磁場を印加して前記微結晶を三次元配向させる工程と、
前記試料の変速回転と同期して前記試料にパルス状の電磁波を照射して核磁気共鳴を励起し、当該核磁気共鳴によって発生する核磁気共鳴信号を検出する工程と、を含む微結晶構造解析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴装置、及び微結晶構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の結晶構造を解析するものとして、MAS(Magic Angle Spinning)法を用いた核磁気共鳴装置(NMR装置)が知られている。この核磁気共鳴装置は、試料を静磁場に対してマジック角度に傾けた状態で、例えば5KHz~20KHzで高速回転させ、回転中の試料に電磁波を照射したときに発生する核磁気共鳴(NMR;Nuclear Magnetic Resonance)信号を検出することで、試料の結晶構造を解析するものである(例えば特許文献1参照)。また、物体の結晶構造を解析するものとして、試料中に懸濁した微結晶に時間的に変動する磁場を印加し、三次元配向(擬単結晶化)させた微結晶にX線を照射して解析を行うX線構造解析装置も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開平05-200013号公報
【特許文献2】特開2012-173042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記核磁気共鳴装置では、結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出できる試料は、通常、数mm程度の大きさの単結晶に限られる。このため、前記大きさ未満の単結晶又は微結晶粉末(以下、単に「微結晶」という)や、タンパク質などの壊れやすい微結晶等については、前記有効な核磁気共鳴信号を検出することができず、結晶構造を解析することが困難であった。
【0005】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、従来では結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出できない試料であっても、前記有効な核磁気共鳴信号を検出することができる核磁気共鳴装置及び微結晶構造解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の核磁気共鳴装置は、静磁場内に配置された試料にパルス状の電磁波を照射して核磁気共鳴を励起し、当該核磁気共鳴によって発生する核磁気共鳴信号を検出する核磁気共鳴装置であって、前記静磁場を発生させる静磁場源と、前記電磁波を照射させるとともに前記核磁気共鳴信号を検出するための発信受信部と、前記静磁場内で微結晶を懸濁させた前記試料を変速回転させることで、前記試料に時間的に変動する磁場を印加して前記微結晶を三次元配向させる回転機構と、前記試料の変速回転と同期して前記電磁波を照射させるように前記発信受信部を制御する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の核磁気共鳴装置によれば、静磁場内で微結晶を懸濁させた試料を変速回転させて前記試料に時間的に変動する磁場を印加させることで、試料中の微結晶を三次元配向(擬単結晶化)させることができる。そして、試料の変速回転と同期して当該試料にパルス状の電磁波を照射させることで、試料の回転方向の一部である特定部位が所望の方向を向いたときにのみ試料に対して電磁波が断続的に照射されるので、この特定部位が所望の方向を向いた状態における核磁気共鳴信号を精度良く検出することができる。これにより、例えばタンパク質などの壊れやすい微結晶であっても、その微結晶を懸濁させた試料を用いることで、結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出することができる。従って、本発明の核磁気共鳴装置は、従来では結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出できない試料であっても、有効な核磁気共鳴信号を検出することができる。
【0008】
(2)前記制御部は、前記試料の変速回転と前記電磁波の照射とを同期させるタイミングを調整可能であるのが好ましい。
この場合、制御部により前記タイミングを調整することで、試料における特定部位の所望の方向を変更することができる。これにより、試料の特定部位が任意の方向を向いた状態における核磁気共鳴信号を精度良く検出することができる。
【0009】
(3)前記回転機構は、前記試料を180×n°(nは任意の自然数)回転させるたびに、その回転を一時的に停止させるものであるのが好ましい。
この場合、試料の回転を一時的に停止させることで、安定した静磁場を形成することができるので、微結晶を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。
【0010】
(4)前記回転機構は、前記試料を前記静磁場の磁場方向に対して垂直方向に延びる回転軸回りに変速回転させるものであり、前記核磁気共鳴装置は、前記回転軸を前記磁場方向に対して垂直以外の任意の角度に傾斜させる傾斜機構をさらに備え、前記制御部は、前記電磁波を前記試料に照射させる直前に、前記回転軸を前記任意の角度に傾斜させるように前記傾斜機構を制御するのが好ましい。
【0011】
この場合、回転機構により試料を磁場方向に対して垂直方向に延びる回転軸回りに変速回転させることで、試料中の微結晶を三次元配向させることができる。そして、傾斜機構により回転軸を磁場方向に対して垂直以外の任意の角度に傾斜させた状態で試料に電磁波が照射されるので、回転軸を磁場方向に対して垂直以外の角度に傾斜させずに電磁波を照射する場合に比べて、電磁波を照射したときに発生する核磁気共鳴信号から化学シフトの異方性の情報を詳細に得ることができる。従って、傾斜機構により回転軸を前記任意の角度に傾斜させることで、さらに有効な核磁気共鳴信号を検出することができる。
【0012】
(5)本発明の微結晶構造解析方法は、静磁場内で微結晶を懸濁させた試料を変速回転させることで時間的に変動する磁場を印加して前記微結晶を三次元配向させる工程と、前記試料の変速回転と同期して前記試料にパルス状の電磁波を照射して核磁気共鳴を励起し、当該核磁気共鳴によって発生する核磁気共鳴信号を検出する工程と、を含む。
本発明の微結晶構造解析方法によれば、上記核磁気共鳴装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来では結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出できない試料であっても、前記有効な核磁気共鳴信号を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る核磁気共鳴装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のI-I矢視断面図である。
【図3】微結晶の磁化軸を示す斜視図である。
【図4】図2の回転機構及び傾斜機構を上方から見た斜視図である。
【図5】回転機構により試料容器を回転させている状態を示す斜視図である。
【図6】制御部による駆動部の制御例を示す模式図である。
【図7】微結晶の三次元配向を説明する斜視図である。
【図8】傾斜機構により試料容器を傾斜させている状態を示す斜視図である。
【図9】制御部による発信受信部の制御例を示す説明図である。
【図10】検証実験の結果を示す図である。
【図11】結晶座標系における遮蔽テンソルの理論式の説明図である。
【図12】微結晶の磁化軸を磁場方向に対して垂直方向に向けて回転させる状態を示す説明図である。
【図13】微結晶の磁化軸を磁場方向に対して垂直以外の角度に向けて回転させる状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[核磁気共鳴装置の全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る核磁気共鳴装置の概略構成を示す平面図である。図2は、図1のI-I矢視断面図である。図1及び図2において、核磁気共鳴装置1は、静磁場内に配置された試料容器2にパルス状の電磁波を照射して核磁気共鳴を励起し、当該核磁気共鳴によって発生する核磁気共鳴信号を検出することで、試料容器2内の試料の結晶構造を解析する装置である。試料容器2は、例えば密閉された円筒状の容器であり、医薬分野、バイオテクノロジー分野、高分子材料分野等における有機化合物、無機化合物、生体物質等の微結晶3(図3参照)を懸濁させた試料が収容されたものである。

【0016】
核磁気共鳴装置1は、静磁場を発生させる静磁場源4と、電磁波を照射させるとともに前記核磁気共鳴信号を検出するための発信受信部5と、電磁波を試料容器2に照射するとともに試料容器2からの核磁気共鳴信号が流れるコイル6と、発信受信部5等を制御する制御部7とを備えている。
静磁場源4は、例えば、円筒状のソレノイドコイルを有する超電導磁石からなる。超電導磁石は、静磁場の磁場方向Bが図2の下から上方向となるように配置されている。なお、図1では静磁場源4の図示を省略している。

【0017】
発信受信部5は、例えば、電磁波を照射させるためにパルス状の高周波を発生する高周波発生器を有し、試料容器2の周囲に配置されたコイル6に電気的に接続されている。これにより、発信受信部5から発信したパルス状の高周波がコイル6に通電されることによって、コイル6から静磁場内の試料容器2にパルス状の電磁波(ラジオ波)が照射される。そして、静磁場内の試料容器2に電磁波が照射されると、核磁気共鳴が励起され、この核磁気共鳴により発生する核磁気共鳴信号を示す微小電流がコイル6に流れる。発信受信部5は、前記微小電流を受信することで、試料容器2からの核磁気共鳴信号を検出し、検出した核磁気共鳴信号を制御部7に渡す。制御部7は、発信受信部5を制御するとともに、後述する回転機構10の駆動部16及び傾斜機構20の駆動部26を駆動制御する機能を有している。

【0018】
図3は、微結晶3の磁化軸を示す斜視図である。微結晶3は、互いに直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる二軸結晶からなり、磁気的に二軸異方性を有する。微結晶3は、図3に示すように、三軸方向それぞれに3つの異なる磁化率χ1、χ2及びχ3を有し、χ1>χ2>χ3の大小関係にある。以下、磁化率χ1の軸を磁化容易軸、磁化率χ2の軸を中間軸、磁化率χ3の軸を磁化困難軸という。

【0019】
図1及び図2に戻り、核磁気共鳴装置1は、回転機構10と傾斜機構20とをさらに備えている。回転機構10は、試料容器2を磁場方向Bに対して垂直方向に延びる不傾回転軸P2回りに変速回転させる機構である。傾斜機構20は、不傾回転軸P2と直交して前記垂直方向に延びる不傾回転軸P3回りに試料容器2を回転させる機構である。

【0020】
[回転機構]
図4は、図2の回転機構10及び傾斜機構20を上方から見た斜視図である。図2及び図4において、回転機構10は、回転軸部11、ガイド部12、摺動部13、支持部14、伝達部15、及び駆動部16等を備えている。

【0021】
回転軸部11は、不傾回転軸P2の方向に互いに離反して配置された第1ブラケット17及び第2ブラケット18に対して不傾回転軸P2回りに回転自在に支持されている。本実施形態の回転軸部11は、第1ブラケット17に対して不傾回転軸P2回りに回転自在に支持された駆動軸11aと、第2ブラケット18に対して不傾回転軸P2回りに回転自在に支持された従動軸11bとを有している。

【0022】
駆動軸11aの一端(図2の右端)、及び従動軸11bの一端(図2の左端)には、それぞれガイド部12が固定されている。各ガイド部12は、側面視において、不傾回転軸P2と不傾回転軸P3との交点Cを中心として円弧状に形成されている。そして、各ガイド部12の内周には、周方向全体にわたって凹溝12aが形成されている。

【0023】
各ガイド部12の凹溝12aには、摺動部13が当該ガイド部12の周方向に摺動自在に嵌め込まれている。摺動部13は、交点Cを中心として円弧状に形成されており、かつガイド部12よりも周方向に長く形成されている。これにより、摺動部13は、ガイド部12に対して交点Cを中心として摺動自在とされている(図8参照)。

【0024】
各摺動部13の内周面における周方向の中央部には、交点Cに向かって延びる支持部14が固定されている。これらの支持部14の間には、試料容器2が配置される空間が形成されており、両支持部14により前記空間に配置された試料容器2の軸方向両端部を着脱自在に支持している。

【0025】
両支持部14の長手方向の中心線は、同軸上に配置されており、試料容器2の回転軸となる可傾回転軸P1である。図2及び図4に示す状態では、可傾回転軸P1は、不傾回転軸P2上に配置されており、摺動部13がガイド部12に対して摺動することで不傾回転軸P2に対して磁場方向Bに傾斜するようになっている(図8参照)。なお、ガイド部12及び摺動部13は、傾斜機構20の一部としても機能する。

【0026】
駆動軸11aの他端(図2の左端)には、伝達部15が設けられている。伝達部15は、駆動部16に接続された駆動プーリ15aと、駆動軸11aの他端に接続された従動プーリ15bと、駆動プーリ15aと従動プーリ15bとの間に掛け渡された無端状のベルト15cとによって構成されている。なお、伝達部15は、歯車等の他の回転伝達機構により構成されていてもよい。

【0027】
駆動部16は、例えばステッピングモータからなり、その出力軸16aの先端に伝達部15の駆動プーリ15aが接続されている。これにより、駆動部16の回転駆動力は、伝達部15の駆動プーリ15a、ベルト15c及び従動プーリ15bを介して駆動軸11aに伝達される。なお、駆動部16は、ステッピングモータ以外に、サーボモータ等の他のアクチュエータであってもよい。

【0028】
以上の構成により、図2及び図4に示す状態から駆動部16を駆動させると、伝達部15を介して駆動軸11aが不傾回転軸P2回りに回転する。そして、駆動軸11aの回転により、図5に示すように、第1ブラケット17側に配置されたガイド部12、摺動部13及び支持部14と共に、試料容器2が不傾回転軸P2(可傾回転軸P1)回りに回転する。そして、試料容器2の回転により、第2ブラケット18側に配置された支持部14、摺動部13及びガイド部12と共に、従動軸11bが不傾回転軸P2回りに回転する。

【0029】
駆動部16は、制御部7により駆動制御されている(図1参照)。具体的には、制御部7は、所定時間tをかけて試料容器2を180×n°(nは任意の自然数)回転させるたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間tの間、その回転を一時的に停止させるように、駆動部16を駆動制御する。

【0030】
図6は、制御部7による駆動部16の制御例を示す模式図である。図6に示すように、本実施形態では、制御部7によってxy平面上に時間的に変動する磁場(以下、時間変動磁場という)を印加するようになっている。以下、例えばz軸より見て図6の紙面上側のx軸を基準(0°)として、z軸(不傾回転軸P2)を中心に試料容器2を図6の時計回り方向に180°ずつ回転させる場合について説明する。なお、x軸は、磁場方向Bと平行に配置されている。

【0031】
まず、制御部7は、0°の位置から180°の位置までの180°の範囲(回転角度αq)では、所定の角速度ωq(好ましくは60rpm)により試料容器2を回転させる。そして、制御部7は、x軸上である180°の位置では、試料容器2を所定時間t(好ましくは1秒~10秒、さらに好ましくは1秒)の間、完全に停止させる。

【0032】
その後、制御部7は、180°の位置から0°(360°)の位置までの180°の範囲(回転角度αq)では、前記角速度ωqにより試料容器2を再び回転させる。そして、制御部7は、0°の位置であるx軸上では、試料容器2を所定時間t(好ましくは1秒)の間、完全に停止させる。これにより、試料容器2は、磁場方向Bに対して垂直方向に延びるz軸(不傾回転軸P2)回りに変速回転する。

【0033】
以上のように、試料容器2が180°回転するたびにその回転を一時的に停止させるように、制御部7が駆動部16を駆動制御することにより、時間変動磁場が印加される。そうすると、試料容器2の回転中に回転磁場が形成されることにより、試料容器2内において懸濁された微結晶3の磁化困難軸χ3は、xy平面(回転面)に対して垂直なz軸方向に配向される。

【0034】
そして、試料容器2の停止中に静磁場が形成されることにより、微結晶3の磁化容易軸χ1が、磁場方向Bと平行に配置されたx軸方向に配向されるとともに、残りの中間軸χ2も自動的にy軸方向に配向される。これにより、微結晶3は、図7(a)に示すようにランダムに配置された状態から、図7(b)に示すように三次元配向された状態、すなわち擬単結晶化した状態となる。その際、試料容器2の回転を一時的に停止させることで、安定した静磁場を形成することができるので、微結晶3を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。

【0035】
なお、本実施形態では、試料容器2を180°回転させるたびにその回転を一時的に停止させているが、360°(1回転)毎や540°(1回転半)毎など複数回転毎に試料容器2の回転を停止させてもよいし、毎回異なる回転角度で試料容器2の回転を停止させてもよい。要するに、180°の任意の自然数倍まで相対回転させたときに試料容器2の回転を停止させるようにすればよい。また、本実施形態では、試料容器2を完全に停止させているが、静磁場を形成できる範囲でゆっくりと回転させてもよい。

【0036】
[傾斜機構]
図1及び図4において、傾斜機構20は、不傾回転軸P3回りに試料容器2を回転させることで、試料容器2の回転軸である可傾回転軸P1を不傾回転軸P2に対して磁場方向Bに傾斜させる機構である。換言すれば、傾斜機構20は、可傾回転軸P1を磁場方向Bに対して垂直以外の任意の角度に傾斜させる機構である。傾斜機構20は、回転軸部21、ガイド部22、摺動部23、連結部24、伝達部25、及び駆動部26等を備えている。

【0037】
回転軸部21は、不傾回転軸P3の方向に互いに離反して配置された第3ブラケット27及び第4ブラケット28に対して不傾回転軸P3回りに回転自在に支持されている。本実施形態の回転軸部21は、第3ブラケット27に対して不傾回転軸P3回りに回転自在に支持された駆動軸21aと、第4ブラケット28に対して不傾回転軸P3回りに回転自在に支持された従動軸21bとを有している。

【0038】
駆動軸21aの一端(図1の上端)、及び従動軸11bの一端(図1の下端)には、それぞれガイド部22が固定されている。各ガイド部22は、交点Cを中心として円弧状に形成されている。そして、各ガイド部22の内周には、周方向全体にわたって凹溝22aが形成されている。

【0039】
各ガイド部22の凹溝22aには、摺動部23が当該ガイド部22の周方向に摺動自在に嵌め込まれている。摺動部23は、交点Cを中心として円環状に形成されており、摺動部23の内周側の空間は、試料容器2が配置される空間とされている。摺動部23の第1ブラケット17側には連結部24が固定されている。連結部24は、回転機構10の第1ブラケット17側の支持部14に外嵌して固定された円板24aと、円板24aの外周部と摺動部23とを連結する複数の連結板24bとを有している(図8参照)。

【0040】
これにより、試料容器2が、回転機構10の第1ブラケット17側の支持部14と共に、不傾回転軸P2回りに回転すると、傾斜機構20の連結部24および摺動部23も、ガイド部22に対して不傾回転軸P2回りに回転するようになっている(図5参照)。従って、ガイド部22、摺動部23及び連結部24は、回転機構10の一部としても機能する。なお、本実施形態の連結部24は、第1ブラケット17側の支持部14と摺動部23とを連結しているが、第2ブラケット18側の支持部14と摺動部23とを連結してもよい。

【0041】
図1及び図2において、回転軸部21の駆動軸21aの他端(図1の下端)には、伝達部25が設けられている。伝達部25は、駆動部26に接続された駆動プーリ25aと、駆動軸21aの他端に接続された従動プーリ25bと、駆動プーリ25aと従動プーリ25bとの間に掛け渡された無端状のベルト25cとによって構成されている。なお、伝達部25は、歯車等の他の回転伝達機構により構成されていてもよい。

【0042】
駆動部26は、例えばステッピングモータからなり、その出力軸26aの先端に伝達部25の駆動プーリ25aが接続されている。これにより、駆動部26の回転駆動力は、伝達部25の駆動プーリ25a、ベルト25c及び従動プーリ25bを介して駆動軸21aに伝達される。なお、駆動部26は、ステッピングモータ以外に、サーボモータ等の他のアクチュエータであってもよい。

【0043】
以上の構成により、図2及び図4に示す状態から駆動部26を駆動させると、伝達部25を介して駆動軸21aが不傾回転軸P3回りに回転する。そして、駆動軸21aの回転により、図8に示すように、第3ブラケット27側に配置されたガイド部22と共に、摺動部23及び連結部24と、回転機構10の両支持部14及び両摺動部13とが、不傾回転軸P3回りに回転する。そして、摺動部23及び連結部24の回転により、第4ブラケット28側に配置されたガイド部22と共に、従動軸21bが不傾回転軸P3回りに回転する。これにより、可傾回転軸P1が、試料容器2と共に不傾回転軸P2に対して磁場方向Bに傾斜する。

【0044】
[発信受信部の制御]
図1において、制御部7は、上記のように微結晶3を擬単結晶化した状態で核磁気共鳴信号を精度良く検出するために、試料容器2の変速回転と同期してコイル6から電磁波を照射させるように発信受信部5を制御する。具体的には、制御部7は、試料容器2の回転方向の一部である特定部位が所望の方向を向いているときにのみコイル6から電磁波を照射させるように、発信受信部5で高周波を発生させるタイミングを制御する。

【0045】
試料容器2の特定部位が所望の方向を向いているか否かを判定する手法としては、例えば、試料容器2の回転方向の位置をセンサで直接検出して判定してもよいし、試料容器2の角速度及び回転時間から試料容器2の回転方向の位置を算出して判定してもよい。

【0046】
このように、制御部7により試料容器2の変速回転と同期してコイル6から電磁波を照射させるように発信受信部5を制御することで、試料容器2の回転方向の一部である特定部位が所望の方向を向いたときにのみ試料容器2に対して電磁波が断続的に照射される。これにより、試料容器2の特定部位が所望の方向を向いた状態における核磁気共鳴信号を精度良く検出することができる。従って、本実施形態の核磁気共鳴装置1は、従来では結晶構造の解析に有効な核磁気共鳴信号を検出できない試料であっても、有効な核磁気共鳴信号を検出することができる。

【0047】
制御部7は、前記特定部位の所望の方向を変更できるように、試料容器2の変速回転と電磁波の照射とを同期させるタイミングを調整する制御を行う。具体的には、制御部7は、試料容器2の特定部位が所望の方向を向いている状態が所定回数に達すると、試料容器2の変速回転と電磁波の照射とを同期させるタイミングが所定時間だけずれるように、発信受信部5で高周波を発生させるタイミングをずらす制御を行う。

【0048】
図9は、制御部7による発信受信部5の制御例を示す説明図である。図9(a)では、試料容器2が不傾回転軸P2回りに変速回転しているときに、試料容器2の特定部位が所望の方向を向いている状態を示している。図例では、試料容器2内で擬単結晶化した微結晶3の磁化容易軸χ1が磁場方向Bに対して所定角度α1に傾いた方向を向いている状態を、前記特定部位が所望の方向を向いている状態としている。

【0049】
図9(a)において、制御部7は、試料容器2の変速回転により、磁化容易軸χ1が磁場方向Bに対して所定角度α1に傾いた方向を向いている状態が所定回数(図例ではn回)に達するまで、この状態になったときにのみコイル6から電磁波を照射させるように発信受信部5を制御する。その後、制御部7は、磁化容易軸χ1が磁場方向Bに対して所定角度α1に傾いた方向を向いている状態が所定回数に達すると、図9(b)に示すように、磁化容易軸χ1が磁場方向Bに対して所定角度α2(>α1)に傾いた方向を向いている状態になったときにのみコイル6から電磁波を照射させるように、発信受信部5で高周波を発生させるタイミングをずらす制御を行う。

【0050】
このように、制御部7により試料容器2の変速回転と電磁波の照射とを同期させるタイミングを調整することで、試料容器2における特定部位の所望の方向を変更することができる。これにより、試料容器2の特定部位が任意の方向を向いた状態における核磁気共鳴信号を精度良く検出することができる。

【0051】
本発明者らは、制御部7が上記のように制御することによって得られる効果を検証するために、図9の制御例を実際に行い、電磁波を照射して検出された核磁気共鳴信号からNMRスペクトル(振動スペクトル)を測定する検証実験を行った。この検証実験の測定条件は、以下の通りである。
微結晶:L-アラニン微結晶
測定法:交差分極(CP)
磁場強度:7.05T
試料の変速回転:180°毎に1秒停止

【0052】
図10は、前記検証実験の結果を示す図である。図10では、擬単結晶化した微結晶の磁化容易軸χ1が磁場方向Bに対して、0°、36°、72°、90°、108°、及び144°にそれぞれ傾いた方向を向いている状態で測定(実測)したNMRスペクトルと、単結晶データからシミュレーションしたNMRスペクトルとを示している。

【0053】
図10に示すように、実測された各NMRスペクトルは、対応するシミュレーションのNMRスペクトルと一致しており、共鳴ピークが先鋭化しているのが分かる。また、実測された複数のNMRスペクトルを比較すると、共鳴ピークの位置が、磁化容易軸χ1の磁場方向Bに対する傾斜角度に応じて連続的に変化しており、前記傾斜角度が90°のときを境として対称に変化(36°と144°が一致し、72°と108°が一致)しているのが分かる。以上より、前記検証実験の結果から、制御部7が発信受信部5を制御することによって、核磁気共鳴信号を精度良く検出できるのが分かる。

【0054】
[傾斜機構の制御]
図1において、制御部7は、上記のように発信受信部5を制御しながら、傾斜機構20を制御する。具体的には、制御部7は、試料容器2の特定部位が所望の方向を向いたときに、発信受信部5により電磁波を試料容器2に照射させる直前に、試料容器2と共に可傾回転軸P1を不傾回転軸P2に対して磁場方向Bへ任意の角度に傾斜させるように、傾斜機構20の駆動部26を駆動制御する。そして、制御部7は、発信受信部5により電磁波を試料容器2に照射させた後、試料容器2と共に可傾回転軸P1を元の位置(不傾回転軸P2上の位置)に戻すように、駆動部26を駆動制御する。

【0055】
これにより、可傾回転軸P1を磁場方向Bに対して垂直以外の任意の角度に傾斜させた状態で試料容器2に電磁波が照射されるので、可傾回転軸P1を磁場方向Bに対して垂直以外の角度に傾斜させずに電磁波を照射する場合に比べて、電磁波を照射したときに発生する核磁気共鳴信号から化学シフトの異方性の情報を詳細に得ることができる。

【0056】
化学シフトの異方性の情報を得るためには、下記式(1)に示す遮蔽テンソル(化学シフトテンソル)の理論式が用いられる。遮蔽テンソルは、原子核周りの電子環境を反映しており、局所構造の解析や構造の精密化に極めて有用なものである。
【数1】
JP2020034481A_000003t.gif

【0057】
式(1)は、図11に示す結晶座標系における遮蔽テンソルの理論式を示している。式(1)の左辺における遮蔽テンソルは、2階の対称テンソルであり、σab=σba、σac=σca、σbc=σcbとなるため、当該遮蔽テンソルの9成分のうち6成分を決定することができれば、詳細な異方性の情報である遮蔽の程度(σ11,σ22,σ33)と方向(φ,θ,ψ)が分かる。

【0058】
図12に示すように、擬単結晶化させた微結晶の結晶軸(図例ではb軸)を磁場方向Bに対して垂直方向に向けた状態で、当該結晶軸回りに微結晶を角度θr回転させ、電磁波を照射して核磁気共鳴信号を測定した場合、化学シフトのθr依存性は、上記式(1)から導かれた下記式(2)で与えられる。
【数2】
JP2020034481A_000004t.gif

【0059】
式(2)に示すように、磁場方向Bに対して垂直なb軸回りに微結晶を回転させるだけでは、上記遮蔽テンソルの9成分のうちの3成分であるσaa、σac、σccしか決定することができない。従って、本実施形態において、試料容器2の回転軸である可傾回転軸P1を不傾回転軸P2に対して傾斜させずに試料容器2を回転させた場合、すなわち傾斜機構20により可傾回転軸P1を傾斜させずに、磁場方向Bに対して垂直な可傾回転軸P1回りに試料容器2を回転させるだけでは、異方性の情報を十分に得ることができない。

【0060】
これに対して、図13に示すように、試料中の擬単結晶化させた微結晶の結晶軸(図例ではc軸)を、磁場方向Bに対して垂直以外のθaxisに傾斜させた状態で、当該結晶軸回りに微結晶を角度ψr回転させ、電磁波を照射して核磁気共鳴信号を測定した場合、化学シフトのψr依存性は、上記式(1)から導かれた下記式(3)で与えられる。
【数3】
JP2020034481A_000005t.gif

【0061】
式(3)に示すように、磁場方向Bに対して垂直以外に傾斜したc軸回りに微結晶を回転させた場合、詳細な異方性の情報である遮蔽の程度(σ11,σ22,σ33)と方向(φcr,θcr,ψcr)が一度に分かる。

【0062】
以上より、本実施形態において、傾斜機構20により試料容器2の回転軸である可傾回転軸P1を磁場方向Bに対して垂直以外の任意の角度に傾斜させて試料容器2を回転させることで、磁場方向Bに対して垂直な可傾回転軸P1回りに試料容器2を回転させる場合に比べて、異方性の情報を詳細に得ることができる。従って、傾斜機構20により可傾回転軸P1を前記任意の角度に傾斜させることで、さらに有効な核磁気共鳴信号を検出することができる。

【0063】
[その他]
上記実施形態の核磁気共鳴装置1は、傾斜機構20を備えているが、傾斜機構20を備えていなくてもよい。この場合、回転機構10は、試料容器2を支持する一方の支持部14と駆動軸11aとを直接接続するとともに、試料容器2を支持する他方の支持部14と従動軸11bとを直接接続した構成にすれば、ガイド部12と摺動部13を備える必要はない。

【0064】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 核磁気共鳴装置
2 試料容器
3 微結晶
4 静磁場源
5 発信受信部
7 制御部
10 回転機構
20 傾斜機構
B 磁場方向
P1 可傾回転軸(回転軸)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12