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明細書 :慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-142795 (P2019-142795A)
公開日 令和元年8月29日(2019.8.29)
発明の名称または考案の名称 慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  31/4523      (2006.01)
A61P  11/00        (2006.01)
A61P  37/06        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/519       (2006.01)
FI A61K 45/00
A61K 31/4523
A61P 11/00
A61P 37/06
A61P 43/00 121
A61K 31/519
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2018-027063 (P2018-027063)
出願日 平成30年2月19日(2018.2.19)
発明者または考案者 【氏名】進藤 岳郎
【氏名】陳 豊史
【氏名】高萩 亮宏
【氏名】伊達 洋至
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
【識別番号】100174160、【弁理士】、【氏名又は名称】水谷 馨也
【識別番号】100175651、【弁理士】、【氏名又は名称】迫田 恭子
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
Fターム 4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086CB09
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB08
要約 【課題】本発明の目的は、肺移植後の拒絶反応抑制を長期化できる免疫抑制剤を提供することにある。
【解決手段】MEK阻害剤を有効成分とする慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、肺移植後の拒絶反応抑制を長期化させることができ、慢性移植肺機能不全(CLAD)を改善または予防することが可能になる。MEK阻害剤を有効成分とする慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、急性免疫拒絶に対する処置を受けた肺移植患者に対して投与される。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
MEK阻害剤を有効成分とする、慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
【請求項2】
前記MEK阻害剤が、トラメチニブ及び/又はコビメチニブである、請求項1に記載の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
【請求項3】
急性免疫拒絶に対する処置を受けた肺移植患者に対して投与される、請求項1又は2に記載の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
【請求項4】
前記急性免疫拒絶に対する処置が、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、副腎皮質ステロイド、及びミコフェノール酸モフェチルからなる群から選択される免疫抑制剤の投与である、請求項3に記載の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、MEK阻害剤を利用することで、肺移植後の慢性期の拒絶反応を抑制し、慢性移植肺機能不全を改善又は予防する薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト肺移植は1983年に成功して以来、その症例数は増加の一途をたどっている。しかし、肺移植の術後5年生存率は54%に留まっており、他の固形臓器移植の成績と比べても満足できる水準にない。術後1年以内の主な死因は感染症であるが、その後の多くの死因は免疫学的な拒絶反応に起因する(非特許文献1~3)。
【0003】
肺移植における拒絶反応は急性拒絶と慢性拒絶に分類される。急性拒絶は手術後早期に生じるもので、免疫抑制剤の増量や追加で軽快することが多いが、慢性拒絶に移行する例もある(非特許文献4~5)。免疫抑制剤としては、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、副腎皮質ステロイド、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などが用いられている。一方慢性拒絶は手術から年余を経てみられる。細気管支の閉塞性変化(bronchiolitis obliterans: BO)を生じることが多いが、拘束性障害(restrictive allograft syndrome: RAS)を呈することもある。緩徐ながらも非可逆的な肺の病理学的変化を来し、慢性移植肺機能不全(Chronic Lung Allograft Dysfunction: CLAD)と呼ばれる病態を招来する。この病態は既存の免疫抑制剤の増量や追加では制御できないことが多く、肺移植の長期予後改善を阻む大きな障壁である(非特許文献6)。
【0004】
慢性移植肺機能不全(CLAD)はそれ自体致死的な細気管支炎を来すが、重篤な日和見感染症のリスクファクターでもある。長期にわたる免疫抑制剤の使用は、抗腫瘍免疫の弱体化を介して新たな悪性腫瘍を発症する危険性を増加させる(非特許文献7)。慢性拒絶反応が起こる仕組みは未だ知られておらず、慢性拒絶反応を抑制できる有効な方法も知られていない。従って、現状においてCLADへの対処法は無い。
【0005】
免疫を司るT細胞の主な活性化経路として、カルシニューリン経路、mTOR経路、MAPK経路の3種類が知られており、これまで、カルシニューリン経路及びmTOR経路を阻害する免疫抑制のアプローチは検討されてきた。MAPK経路は、多くの悪性腫瘍で恒常的に活性化していることから、悪性黒色腫に対して保険収載されているトラメチニブ(非特許文献8)等のMEK阻害剤が抗腫瘍剤として開発されている。しかしながら、MAPK経路自体は細胞にとって極めて重要な経路であるため、免疫抑制の観点からMAPK経路を阻害するアプローチは、有害事象の招来リスクのためほとんど検討されてこなかった。
【0006】
近年になって、MEK阻害剤が、骨髄移植後の移植片対宿主病(GVHD)を抑制する一方で抗ウイルス免疫及び抗腫瘍免疫(GVT)効果を温存することが報告された(非特許文献9及び10)。これらの報告では、MEK阻害剤が、T細胞の機能分化の初期段階にある細胞(naiveT細胞及びcentral memoryT細胞)を選択的に抑制し、T細胞の機能分化の後段階にある細胞(effector memoryT細胞)を温存できることが示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】J Heart Lung Transplant, 2016. 35(10): p. 1170-1184.
【非特許文献2】J Heart Lung Transplant, 2016. 35(10): p. 1196-1205.
【非特許文献3】Gen Thorac Cardiovasc Surg, 2013. 61(2): p. 67-78.
【非特許文献4】Transplantation 85; 547-53, 2008
【非特許文献5】Arch Pathol Lab Med 141; 437-44, 2017
【非特許文献6】Verleden, Transpl Int 28(10); 1131-9, 2015
【非特許文献7】J Thorac Dis, 2014. 6(8): p. 1039-53.
【非特許文献8】Mol Cancer Ther, 2016. 15(8): p. 1859-69.
【非特許文献9】JCI Insight, 2016. 1(10).
【非特許文献10】Blood, 2013. 121(23): p. 4617-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
骨髄移植のような造血細胞移植と、肺移植のような固形臓器移植とでは、一般的に全く異なる領域の治療として認識されている。造血細胞移植では、移植前に全身放射線照射によりレシピエントの免疫系が破壊されるため、アロ反応としては、ドナーの細胞がレシピエントを攻撃する移植片対宿主病(GVHD)が起こるのみである。一方、固形臓器移植では、レシピエントの免疫系が維持されているため、アロ反応としては、レシピエントの免疫系がドナーを攻撃する拒絶反応が起こる。このように、造血細胞移植と固形臓器移植とでは全く異なるメカニズムのアロ反応を生じる。
【0009】
また、固形臓器移植の中でも肺移植は、肺が外界に通じている臓器であるためレシピエントの免疫系の活性化を契機として感染又は拒絶を起こしやすく、CLADを容易に発症する点で極めて深刻な問題を孕んでいる。
【0010】
本発明者らは、肺移植後の拒絶反応モデルラットに対し、これまで免疫抑制剤として用いられてきたカルシニューリン阻害剤の投与に代えて、非特許文献6,7で報告された骨髄移植後のGVHDモデルラットに対するMEK阻害剤の投与を適用してみた。しかしながら、上述のとおり骨髄移植後のGVHDと肺移植後の拒絶反応とは異なるメカニズムで生じるアロ反応であり、骨髄移植のGVHDモデルラットに対するMEK阻害剤の投与方法は、肺移植後の拒絶反応を抑制することはできなかった。
【0011】
そこで上記の問題に鑑み、本発明は、肺移植後の拒絶反応抑制を長期化できる免疫抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意検討の結果、MEK阻害剤が、ラットの肺移植後の拒絶反応モデルにおいて、急性期の拒絶反応ではなく慢性期の拒絶反応を特異的に抑制することを見出した。さらに驚くべきことに、МEK阻害剤が、慢性期の拒絶反応を特異的に抑制するだけでなく、胸腺機能を温存する、すなわち必要な免疫機能は温存することも見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. MEK阻害剤を有効成分とする、慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
項2. 前記MEK阻害剤が、トラメチニブ及び/又はコビメチニブである、項1に記載の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
項3. 急性免疫拒絶に対する処置を受けた肺移植患者に対して投与される、項1又は2に記載の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
項4. 前記急性免疫拒絶に対する処置が、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、副腎皮質ステロイド、及びミコフェノール酸モフェチル(MMF)からなる群から選択される免疫抑制剤の投与である、項3に記載の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、MEK阻害剤の投与により、慢性拒絶反応が抑制される、すなわち長期にわたる拒絶反応抑制が可能になる。さらにMEK阻害剤は胸腺機能を保持することで必要な免疫機能を温存するため、慢性移植肺機能不全(CLAD)を改善しつつ、日和見感染症を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験例1において構築した同種肺移植モデルと投薬プロトコルとを模式的に示す。
【図2】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された同種肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA、Tram0.3 alone)の摘出肺(Macro)及びその病理組織像(H&E stein及びM&T stein)を、陰性対照である同系移植(Syngeneic)の結果と共に示す。
【図3】図2の肺組織をISHLTの基準に基づいて病理組織学的に評価したA grade及びB gradeを数値化したグラフである。
【図4】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された同種肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)における肺機能解析の結果を、同系移植(Syngeneic)の結果とともに示す。
【図5】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された同種肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)において、末梢血(PBMC)及び脾臓(Spleen)由来のT細胞の細胞表面抗原CD4及びCD62Lを解析した結果を、同系移植(Syngeneic)の結果とともに示す。
【図6】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された同種肺移植モデル(DMSO、Tram 0.1、Tram 0.3、CsA)において、末梢血単核球(PBMC)中の成熟B細胞、すなわち細胞表面抗原CD3陰性かつCD45RA陽性で、さらに膜表面にIgMを発現する細胞を検出した結果を、同系移植(Syngeneic)の結果とともに示す。
【図7】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された同種肺移植モデル(DMSO、Tram 0.1、Tram 0.3、CsA)における移植肺の組織像を、同系移植(Syngeneic)における移植肺の組織像とともに示す。
【図8】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された同種肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)の、胸腺におけるT細胞の細胞表面抗原CD8及びCD4を解析した結果を、同系移植(Syngeneic)の結果とともに示す。
【図9】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)の、胸腺におけるCD4陽性細胞およびCD8陽性細胞におけるT細胞受容体TCRと、細胞表面抗原CD4及びCD8の発現を解析した結果を、同系移植(Syngeneic)の結果とともに示す。
【図10】試験例1のそれぞれの投薬プロトコルが適用された肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)の胸腺髄質の組織像を、同系肺移植モデル(Normal Lewis)及びシクロスポリンCsAの初期投与完了時の同種肺移植モデル(Brown Norway, Day14, CsA)の結果とともに示す。
【図11】試験例2の投薬プロトコルが適用された肺移植モデル(CsA->Cobimetinib)の摘出肺(Macro)及びその肺組織像(Micro(H&E))を、陽性対照(CsA->DMSO)の結果と共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、MEK阻害剤を有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬について詳述する。

【0017】
[有効成分]
有効成分であるMEK阻害剤は、Raf/MEK/ERKシグナル伝達経路(MAPK経路)に存在するリン酸化酵素MEK(マイトジェン活性化蛋白質(MAP)キナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)キナーゼ)の働きを阻害することで、MAPK経路を遮断することが知られている公知の物質である。

【0018】
MEK阻害剤の例としては、公知のMEK阻害剤が特に限定されることなく挙げられるが、例えば、トラメチニブ(Trametinib)、コビメチニブ(cobimetinib)、セルメチニブ(Selumetinib)、レファメティニブ(Refametinib)、ピマセルチブ(Pimasertib)、U0126、MEK162/ARRY-162、AZD8330/ARRY-424704、GDC-0973/RG7420、GDC-0623/RG7421/XL518、CIF/RG7167/RO4987655、CK127/RG7304/RO5126766、E6201、TAK-733、PD-0325901、AS703988/MSC2015103B、WX-554、CI-1040/PD184352、AS703026、PD318088、PD98059、SL327、並びにこれらの薬学的に許容される塩及び溶媒和物が挙げられる。これらの中でも、トラメチニブ、コビメチニブ、セルメチニブ、U0126、並びにこれらの薬学的に許容される塩及び溶媒和物が好ましく挙げられ、トラメチニブ、コビメチニブ並びにこれらの薬学的に許容される塩及び溶媒和物がより好ましく挙げられる。これらのMEK阻害剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。トラメチニブ及びコビメチニブの構造を以下に示す。

【0019】
【化1】
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【0020】
【化2】
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【0021】
薬学的に許容できる塩としては特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N-メチル-D-グルカミン等)の塩、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)、有機酸塩(酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等)が挙げられる。これらの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。

【0022】
溶媒和物に含まれる溶媒は、薬学上許容されるものであれば特に限定されず、例えば、水、エタノール、1-プロパノール、IPA、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、酢酸、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸、ギ酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘプタン、ペンタン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、エチレングリコール、THF、アニソール、クメン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒和物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。

【0023】
MEK阻害剤としては、上記例示の化合物、その塩、及び溶媒和物の中から、1種を選択して使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。

【0024】
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、MEK阻害剤を薬学的に許容される担体、添加剤等と共に製剤化して使用される。

【0025】
[投与対象]
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬の投与対象は、肺移植患者である。肺移植患者としては、ヒト及びその他の動物が挙げられる。その他の動物としては、ウシ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の哺乳動物が挙げられる。肺のドナーとしては、ヒト及びその他の動物が挙げられ、その他の動物としては、ウシ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の哺乳動物が挙げられる。移植形態としては、同種移植及び異種移植を問わない。また、肺移植は移植措置の緊急性から、通常、レシピエントとドナーとの免疫適合性のマッチングは行われていない。従って、本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、胸腺を含めた免疫系が温存されており、主要組織適合抗原がドナーと一致しない、本来的に移植後免疫拒絶を起こしやすい対象に対して投与することが特に有用である。

【0026】
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、肺移植後の慢性移植肺機能不全(CLAD)を改善又は予防することを目的として肺移植患者に対して投与される。CLADの改善は、CLADの症状の消失及び軽減を含む。本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬による免疫抑制作用は、移植後免疫拒絶の中でも、慢性免疫拒絶に対して特異的である。慢性免疫拒絶は、急性免疫拒絶期を経て生じる。従って、免疫抑制剤の投与により急性免疫拒絶に対する処置を受けた肺移植患者に対して投与される。本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬に先立って投与される免疫抑制剤としては、急性免疫拒絶を抑制する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、カルシニューリン阻害剤、mTOR阻害剤、副腎皮質ステロイド、及びミコフェノール酸モフェチル(MMF)が挙げられる。急性免疫拒絶をより好ましく抑制しCLADをより好ましく改善又は予防する観点から、好ましくはカルシニューリン阻害剤が挙げられ、カルシニューリンの中でも、好ましくはタクロリムス及びシクロスポリンが挙げられる。

【0027】
[用法・用量]
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、急性免疫拒絶を抑制する薬剤による薬効が得られなくなる病態、つまり慢性免疫拒絶を抑制することで、CLADを改善又は予防する。従って、本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬の投与タイミングは、急性免疫拒絶に対する処置後であればよく、CLADの予防を目的とする場合は、臨床経験的に慢性免疫拒絶反応が予想されるタイミング又は慢性免疫拒絶反応が認められたタイミングで投与することができ、CLADの改善を目的とする場合は、CLAD病態が認められたタイミングで投与することもできる。

【0028】
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬の投与方法としては、特に制限されず、全身投与又は局所投与のいずれであってもよく、例えば、経口投与、皮内投与、筋肉注射、皮下投与、静脈注射、点滴投与、腹腔内投与等が挙げられる。これらの投与方法の中でも、CLADの改善又は予防効果を高めるという観点から、好ましくは経口投与が挙げられる。

【0029】
本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬の投与量については、患者の年齢、体重、投与開始時における慢性拒絶反応の程度又はCLAD病態の有無に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~5.0mg/50kg/日が挙げられ、好ましくは0.5~3.0mg/50kg/日が挙げられ、より好ましくは1.5~2.5mg/50kg/日が挙げられる。投与頻度は、例えば1~3日に1回、好ましくは1~2日に1回が挙げられる。

【0030】
[薬理作用]
肺移植におけるドナーの抗原提示は、最初の段階ではドナー由来抗原提示細胞が行う(direct presentation)。つまり、ドナーの抗原提示細胞がドナーの抗原をレシピエントのT細胞に提示し、レシピエントの細胞がドナーの細胞を攻撃するアロ反応を起こす。しかしながらその後ドナーの抗原提示細胞は死滅し、さらにその後レシピエントの抗原提示細胞がドナーの抗原を提示(indirect presentation)してアロ反応を起こすと考えられる。本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、後者の抗原提示(indirect presentation)を抑制すると考えられる。

【0031】
また、本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、胸腺におけるT細胞の初期分化を温存する一方、胸腺外におけるT細胞の機能分化を抑制する。つまり胸腺ではT細胞の産生を保持し胸腺外へnaiveT細胞を供給し続けるが、胸腺外ではnaive T細胞の活性化を抑制することで最終分化細胞への機能分化を抑制する。その結果、当該初期段階の細胞集団(naiveT細胞及びcentral memoryT細胞)が温存される。このことはすなわちMEK阻害剤が慢性拒絶反応を抑制しながらも胸腺からのT細胞の供給を保持する、すなわち生理的な細胞性免疫を保持することを意味する。臨床的には、MEK阻害剤がCLADを改善又は予防しながらも、感染免疫を保持することが見込まれる。

【0032】
さらに、本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、体液性免疫を司るB細胞の機能分化を抑制することができる。従って、本発明の慢性移植肺機能不全の改善又は予防薬は、ドナーの抗体産生を抑制し、抗体関連拒絶も抑制することによっても、CLADの改善又は予防を可能にしていると考えられる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
[試験例1]
(肺移植モデルの作製)
Lewis及びBrown Norwayの2種類のラット(日本エスエルシー株式会社)を用意した。これらはSPFのinbred雄ラットで、体重は250~300gであった。本実験は京都大学動物実験委員会で承認され、所定の動物取扱規約に則って行った。
図1に示すように、肺移植のレシピエントにLewis(主要組織適合抗原がRT1lであるもの)を用い、ドナーにBrown Norway(主要組織適合抗原がRT1nであるもの)を用いた。肺移植は、これまでの報告(Transplantation, 2017. 101(5): p. e156-e165.)に則って行った。具体的には、グラフトは室内気で全身麻酔をかけ人工呼吸管理としたドナーから採取した。ドナーに経静脈的に500単位のヘパリンを投与し、ET-Kyoto液(大塚製薬株式会社)20mLでフラッシュした。心肺ブロックを採取し、移植の準備として3つの管(肺動脈、肺静脈、気管支)にプラスチックカフを装着した。レシピエントラットは全身麻酔、人工呼吸管理後に10mg/bodyのメリチルプレドニゾロンとセファゾリンとを経腹腔的に投与した。カフテクニックを用いてグラフトを胸腔内に同所性移植して、再灌流を行った。その後、胸腔を閉鎖して全身麻酔を終了、抜管した。
【実施例】
【0035】
(検討群)
得られた肺移植ラットモデルから表1に示す参考例1、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の5群を設計した。また、ドナー・レシピエントともにLewisを用いた肺移植ラットを作製し、表1に示す参考例2として設計した。
【実施例】
【0036】
【表1】
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【実施例】
【0037】
(投薬方法)
MEK阻害剤としてのトラメチニブ(Trametinib)は、MedChemexpress Co., limited(Monmouth Junction, NJ, USA)から購入し、シクロスポリン(CsA)はNovartis Pharmaceuticalsから購入した。CsAを肺移植直前及び術後最初の1週間は週4回(1回当たり25mg/kg)、2週目以降は週2回(1回当たり25mg/kg)のメンテナンス投与を行った。Trametinib投与群・DMSO投与群ではCsAをday 14で終了してからそれぞれの薬剤投与を開始した。Trametinibの投与頻度は、抗腫瘍効果が認められる濃度として報告されている(Oncotarget, 2015. 6(2): p. 969-78.)ものと同様、週5日とした。Trametinibはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解後、0.5%メチルセルロース(Sigma-Andrich)に懸濁し、0.1mg/kg/日(低用量)又は0.3mg/kg/日(中用量)を胃ゾンデにより経口投与した。
【実施例】
【0038】
参考例1(陽性対照;DMSO群)、実施例1(Tram0.1投与群)、実施例2(Tram0.3投与群)、比較例1(CsA投与群)、比較例2(Tram0.3 alone群)、及び参考例2(陰性対照;同系移植群)について、下記の評価を行った。なお、図中の統計グラフでは、平均±標準偏差及び中央値を表している。統計的有意性の判定は、スチューデントt検定またはウィルコクソン順位和検定を用いた。すべてのP値は両側検定によるものであり、P<0.05が統計的に有意であるとした。統計解析は、JMP 12ソフトウェア(SAS Institute、Cary、NC、USA)およびGraphPad Prism7(GraphPad Software、Inc、La Jolla、California、USA)を用いて行った。
【実施例】
【0039】
(組織学的評価)
移植肺は、肺動脈からフラッシュを行い、心肺ブロックとして採取した。その後20cmH2Oの圧で気道内にホルマリンを注入し、拡張したまま固定した。ホルマリン固定した5μmのパラフィン切片を免疫染色した。具体的には、脱パラフィン、及び20分間の抗原賦活化処理(Traget Retrieval Solution; DAKO)を行い、一次抗体を加えて一晩4℃でインキュベートした。一次抗体としては、Anti-CD3 (rabbit; 1:200; Abcam)、Anti-CD79a (mouse; 1:300, Abcam)、anti-Foxp3 (Mouse; 1:50; Abcam)、anti-MHC Class II (Mouse; 1:1000; Abcam)、及びanti-phospho-p44/42 MAPK (ERK1/2, 197G2) (Cell Signaling Technology)を用いた。その後洗浄を行い、VECTASTAIN Elite ABC Kit (Vector Laboratories)でインキュベートした後、ヘマトキシリンで組織構造の対比染色を行った(ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色法)。また、脱パラフィンを行い、膠原線維の染色も行った(マッソン・トリクローム(M&T)染色法)。
【実施例】
【0040】
摘出肺(Macro)及びその肺組織像(H&E stein及びM&T stein)を図2に示す。図2に示すように、CsA及びTram0.3 aloneの場合は、陽性対照であるDMSOと同様に肺に出血斑が出現し、顕著な拒絶反応が認められたが、Tram0.1及びTram0.3では、陰性対照である同系移植(Syngeneic)の場合と同様に出血斑は出現せず、拒絶反応は認められなかった。また、CsA及びTram0.3 aloneの場合は、陽性対照であるDMSOと同様に肺組織にリンパ球浸潤と線維化があり、顕著な拒絶反応が認められたが、Tram0.1及びTram0.3では、リンパ球浸潤と線維化は抑制され、拒絶反応は抑制されていた。これらのうちでも、Tram0.3では、リンパ球浸潤と線維化はさらに抑制されていた。以上の結果から、トラメチニブが肺移植後の拒絶反応を抑制することが示された。
【実施例】
【0041】
肺組織像を、国際心肺移植学会(International Society for Heart and Lung Transplantation;ISHLT)により提唱されている急性細胞性拒絶反応の組織学的診断基準に基づいて行い、HE染色において血管周囲の炎症細胞浸潤を認めたもの(A grade)及び気管支周囲を認めたものを(B grade)を数値化した。その結果を図3に示す。なお、病理評価は、病理専門医2名と胸部外科医1名が二重盲検で行った。図3に示すように、CsA、Tram0.1及びTram0.3では、急性細胞性拒絶(急性免疫拒絶)が抑制されていた。これらはいずれも初期(急性期に相当)にシクロスポリンが投与されているため、初期のシクロスポリンの投与が急性免疫拒絶を抑制することが示された。さらに、図3のTram 0.3 aloneの結果に示されるように、シクロスポリンを投与せずday 28までトラメチニブのみを投与した場合は、急性免疫拒絶を抑止できないことが示された。
【実施例】
【0042】
(肺機能解析)
ラット肺移植後のグラフト肺機能をFlexiVent system (SCIREQ Inc., Montreal Qc, Canada).を用いて評価した。ハーベスト時に、全身麻酔下で気管挿管を行った。胸骨正中切開で両側胸腔を開放し、右肺門部と縦隔葉の根部とを血管用鉗子で遮断し、Flexi Vent(フレキシベント;呼吸機能測定装置)に気管チューブを装着して呼吸機能を測定した。測定は3回行い、その平均値を測定値とした。その結果を図4に示す。図4に示すように、CsAでは感染症により呼吸機能が悪化したものが散見されたことにより結果にばらつきが認められたことに対し、Tram0.1及びTram0.3では感染症もなく、呼吸機能が温存されていることが認められた。以上の結果から、トラメチニブが移植肺の呼吸機能を温存することが示された。
【実施例】
【0043】
(多重染色フローサイトメトリ)
多重染色フローサイトメトリを用い、肺移植ラットの末梢血(PBMC)、脾臓(Spleen)、肺、胸腺における細胞の表面抗原の解析を行った。解析には、FITC anti-CD44H (Clone OX-49 mouse) (Becton Dickinson)、PE anti-CD62L (Biolegend)、PE-Cy7 anti-CD4 (Biolegend)、APC anti-CD8 (eBioscience)、APC anti-CD3 (eBioscience)、PE anti-CD45RA (Biolegend)、FITC anti-IgM (eBioscience)、FITC anti-MHC classII (HIS19, eBioscience)、及びFITC anti-TCR-αβ (Biolegend)を用いた。染色サンプルはFACS Caliburとを用いて解析し、FlowJo Softwareで評価した。
【実施例】
【0044】
末梢血(PBMC)及び脾臓(Spleen)におけるT細胞の細胞表面抗原CD4及びCD62Lを解析した結果を図5に示す。T細胞は活性化によって機能分化するが、その際CD62Lの発現が失われる。図5の上図に示すように、陰性対照つまり定常状態である同系移植(Syngeneic)でCD62L陰性細胞が少なく、機能分化はみられなかった。いっぽう、陽性対照であるDMSOではCD62L陰性細胞が多くみられ、多くの細胞が機能分化したことが示された。注目すべきことに、Tram0.1及びTram0.3では当該細胞への機能分化が抑制された。Tram0.3では特に当該細胞への機能分化が抑制されたことから、トラメチニブの効果は用量依存的であると考えられた。まとめると図5の下図の通りで、トラメチニブはT細胞の機能分化を抑制する傾向を示した。
【実施例】
【0045】
末梢血(PBMC)における細胞表面抗原CD3及びCD45RA並びに細胞表面に発現するIgMの解析結果を図6に示す。ラットの末梢組織における初期B細胞はCD3陰性CD45RA陽性の表現型を示し、細胞表面にIgMを発現する。図6の上段の四角で囲った部分がCD3陰性CD45RA陽性の細胞集団で、下段はその中におけるIgM陽性細胞(CD3-CD45RA+IgM+)の比率を示す。本細胞群の出現は液性免疫の活性化を示すが、その一部はドナー肺の慢性拒絶に関連したドナー特異的抗体の産生に関与すると考えられている。またB細胞の特異的抗原CD79aを標的とした免疫染色を行った移植肺の組織像を図7に示す。各投薬を受けた全4群(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)の移植肺組織像を、同系移植モデル(Syngeneic)の移植肺組織像とともに示す。
【実施例】
【0046】
図6に示すように、同種移植(allogeneic)を行った陽性対照(DMSO)群では、同系移植(syngeneic)群に比してCD3陰性CD45RA陽性細胞比率が高く(19.0%)、このうち39.6%がIgM陽性(CD3-CD45RA+IgM+)であった。これに対しトラメチニブを高用量で投与した群(Tra 0.3 mg/kg)ではCD3陰性CD45RA陽性細胞比率が低下し(13.6%)、さらにトラメチニブの低用量投与群(Tra 0.1 mg/kg)を含めて、本細胞群におけるIgM発現細胞比率は低値であった(Tra 0.1 mg/kgで25.5%、Tra 0.3 mg/kgで9.1%)。さらに図7に示すように、トラメチニブ投与群の移植肺組織中では、DMSO投与群に比してCD79a陽性B細胞の浸潤が顕著に抑制されていた。シクロスポリン投与群(CsA)でもCD3陰性CD45RA陽性細胞比率および移植肺組織中のB細胞浸潤は抑制された(図6、図7)が、CD3陰性CD45RA陽性細胞の一部はIgMを発現していた(40.7%)(図6)。すなわちトラメチニブは細胞性免疫に加えて液性免疫を抑制することで、慢性拒絶を抑制する可能性がある。シクロスポリンも肺組織へのB細胞浸潤を抑制するが、トラメチニブはB細胞の活性化をより深く抑制すると考えられる。
【実施例】
【0047】
図6及び図7の結果をふまえると、シクロスポリンに比してトラメチニブはT細胞だけでなくB細胞の活性化をも深く抑制するが、この作用はヘルパーT細胞の抑制を介した副次的なものと考えられる。実臨床ではカルシニューリン阻害剤の投与中にもドナー特異的抗体の出現に関連して慢性拒絶を呈することがあるが、トラメチニブはそのような拒絶反応をも抑制する可能性がある。
【実施例】
【0048】
胸腺細胞におけるT細胞の表面抗原CD4及びCD8の発現解析結果を図8に示す。胸腺ではCD4及びCD8の両方を発現するdouble positive細胞がCD4又はCD8のみを発現するsingle positive細胞へと分化し、この段階を初期分化と呼ぶ。陰性対照すなわち定常状態である同系移植(Syngeneic)群では胸腺機能が保持されるため、CD8およびCD4陽性のsingle positive細胞がそれぞれ7.7%及び19.2%検出された。また同種移植を受けDMSOを投与された群も免疫抑制を施されていないため、本群でも同様にsingle positive細胞をそれぞれ7.1%及び14.9%認めた。しかし同種移植を受けてCsAが投与された群では、CD4 single positive細胞の比率が顕著に低値であった。つまり、シクロスポリンは胸腺におけるT細胞の初期分化を阻害する。これに比してTram0.1及びTram0.3群では、CD4 single positive細胞が多く検出された。図8の下図で示した通り、この結果は複数回の実験で繰り返し認められた。以上の結果から、トラメチニブは免疫寛容を誘導しながらも胸腺におけるT細胞の初期分化を温存することが示された。
【実施例】
【0049】
さらに、T細胞が分化する過程で発現するT細胞受容体(T-cell receptor: TCR)の観点から、胸腺機能を評価した。胸腺におけるT細胞受容体TCRと、細胞表面抗原CD4及びCD8の発現を解析した結果を図9に示す。図9に示すように、胸腺でのT細胞の十分な分化によって発現するTCR(TCRHigh)の、CD4又はCD8との共発現が、陰性対照つまり定常状態である同系移植(Syngeneic)の場合は免疫学的に何も起こらないため十分認められた。また同種移植後にDMSOを投与した群でも、免疫抑制を施していないため十分認められたが、CsAの場合はほぼ認められなかった。つまり、シクロスポリンはT細胞の分化を阻害することが示された。これに対し、Tram0.1及びTram0.3ではTCRHighのCD4又はCD8との共発現が十分に認められた。以上の結果から、トラメチニブが胸腺におけるT細胞の初期分化を温存することが示された。
【実施例】
【0050】
胸腺髄質の組織像を図10に示す。図10では、肺移植モデル(DMSO、Tram0.1、Tram0.3、CsA)の胸腺髄質の組織像を、同系肺移植モデル(Normal Lewis)及びシクロスポリンCsAの初期投与完了時の同種肺移植モデル(Brown Norway, Day14, CsA)の胸腺髄質の組織像とともに示す。図10に示すように、シクロスポリンを投与すると、Day14, CsAのように胸腺髄質が一旦消失した。その後のday 28の時点では、陽性対照であるDMSOの場合は免疫抑制を施していないため胸腺髄質の回復をみた(つまりT細胞が産生された)が、CsAの場合は胸腺髄質の回復がみられなかった。つまり、シクロスポリンはT細胞の産生を抑制し続けることが示された。これに対し、Tram0.1及びTram0.3では胸腺髄質の回復を認めた。以上の結果から、トラメチニブが胸腺髄質を保持すること、つまり、トラメチニブが、免疫寛容を誘導しながらもT細胞産生機能を残している可能性が示唆された。
【実施例】
【0051】
[試験例2]
試験例1と同様にラットの肺移植モデルを作製した。得られた肺移植ラットモデルに、MEK阻害剤として、AdooQ Bioscienceから購入したコビメチニブを用い、用量を3mg/kg/日としたことを除いて、実施例2と同様に投薬を行った(実施例3)。
【実施例】
【0052】
【表2】
JP2019142795A_000005t.gif
【実施例】
【0053】
摘出肺(Macro)及びヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色法による肺組織像(Micro(H&E))を図11に示す。図11においては、実施例3(CsA->Cobimetinib)の結果を参考例1(CsA->DMSO)の結果とともに示す。図11に示されるように、シクロスポリンの後にコビメチニブを投与した場合も、実施例1及び2と同様に、移植肺の拒絶及びリンパ球浸潤が抑制された。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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