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明細書 :イミダゾリルポルフィリン金属錯体を単量体とするポルフィリン二量体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3256742号 (P3256742)
公開番号 特開2001-081091 (P2001-081091A)
登録日 平成13年12月7日(2001.12.7)
発行日 平成14年2月12日(2002.2.12)
公開日 平成13年3月27日(2001.3.27)
発明の名称または考案の名称 イミダゾリルポルフィリン金属錯体を単量体とするポルフィリン二量体
国際特許分類 C07D487/22      
A61P  7/00      
A61K 31/407     
FI C07D 487/22
A61P 7/00
A61K 31/407
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願平11-255978 (P1999-255978)
出願日 平成11年9月9日(1999.9.9)
審査請求日 平成11年9月9日(1999.9.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598169457
【氏名又は名称】奈良先端科学技術大学院大学長
発明者または考案者 【氏名】小夫家 芳明
【氏名】稲葉 優介
【氏名】釘宮 愼一
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外5名)
審査官 【審査官】内藤 伸一
特許請求の範囲 【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】
JP0003256742B2_000002t.gif{式中、MはFe(II)又はCo(II)を表し、Imは、次のイミダゾリル基Im1~Im6
【化2】
JP0003256742B2_000003t.gif(式中、R2、R3及びR4は、各々独立に水素原子又はアルキル基を表す。)のいずれか1を表し、R1は次の置換フェニル基(a):
【化3】
JP0003256742B2_000004t.gif(式中、R5は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表し、R6は、アルキル基、アリール基、アリール置換アルキル基又はハロゲン置換アルキル基を表し、R7は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又は-NHCO-R8を表し、R8は、アルキル基、アリール基、アリール置換アルキル基又はハロゲン置換アルキル基を表す。)を表わす。}により表されるポルフィリン二量体。

【請求項2】
一般式(1)において、R5が水素原子である請求項1のポルフィリン二量体。

【請求項3】
一般式(1)において、R2、R3及びR4が水素原子である請求項1又は請求項2のポルフィリン二量体。

【請求項4】
一般式(1)において、R6及びR8が、各々独立に炭素原子数3~20個のアルキル基、炭素原子数6~20個のアリール基、炭素原子数7~20個の、アリール置換アルキル基、又は炭素原子数1~20個、ハロゲン原子数1~20のハロゲン置換アルキル基である請求項1ないし請求項3のいずれか1項のポルフィリン二量体。

【請求項5】
一般式(1)において、Imにより表されるイミダゾリル基が、Im1である請求項1ないし請求項4のいずれか1項のポルフィリン二量体。

【請求項6】
一般式(1)において、R6がt-ブチル基である請求項5のポルフィリン二量体。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なポルフィリン金属錯体に関する。より詳細には、本発明は、イミダゾリルポルフィリン金属錯体を単量体とするポルフィリン二量体に関する。

【0002】
【従来の技術】ポルフィリン金属錯体は、4個のピロール核が4個のメチン基により架橋された環状テトラピロールの中心に金属が挿入された錯体である。ポルフィリン金属錯体のうち、中心金属として鉄(II)が挿入されたポルフィリン鉄錯体は、ヘムと呼ばれ、これは、蛋白質と結合してヘム蛋白質を構成している。ヘム蛋白質には、生体内で酸素分子との吸脱着反応に関与するものが多く知られている。ヘム蛋白質は、その酸素分子との結合様式により、酸素分子の解離曲線が、ラングミュア型を示すものとシグモイド型を示すものとに分類できる。前者のラングミュア型解離曲線を示すヘム蛋白質の代表例には、ミオグロビンがあり、後者のシグモイド型の解離曲線を示すヘム蛋白質の代表例には、ヘモグロビンがある。

【0003】
ヘム蛋白質及びそれを構成するポルフィリン錯体は、その生体内での呼吸生理学的重要性等から、様々な研究がなされている。

【0004】
例えば、Collmannらは、1975年に、分子状酸素のラングミュア型吸脱着をするピケットフェンスポルフィリン鉄錯体を合成した。Collmannらは、ポルフィリン酸素分子錯体を用いる人工ミオグロビンも提供している(J. Am. Chem. Soc., 105, 3038(1983))。また、土田らは、ピケットフェンスポルフィリン鉄錯体をリポソーム脂質膜に埋め込み、生理条件下で酸素分子をラングミュア型吸脱着し得る人工血液を提供している(Chem. Lett., 969(1985))。さらに、Traylorら(J. Am. Chem. Soc., 104, 1391(1982))を初めとするいくつかのグループは、酸素原子添加酵素であるチトクロームP450蛋白質のモデル化をポルフィリン鉄及びマンガン錯体により行い、ある程度の人工チトクロームP450としての触媒活性が認められている。

【0005】
一方、酸素分子とシグモイド型の結合をし、アロステリズム制御を発現する物質については、ヘモグロビンのような天然のアロステリック酵素では知られているものの、それ以外の系ではあまり知られていない。天然のアロステリック酵素以外の系でアロステリズム制御に関する検討は、例えば、Rebek、小夫家による金属イオンの協同的捕捉、Reinhoultによる金属イオンと中性分子の協同的捕捉等がある。また、田伏らは、ゲーブルポルフィリンコバルト錯体の酸素分子とのアロステリック結合を検討しているが、成功を納めたとは言い難い。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、アロステリズム制御を可能にし得る新規な化合物を提供することを目的とする。

【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポルフィリンにイミダゾリル基を結合させ、このイミダゾリルポルフィリンの金属錯体2分子を用いて、一方のイミダゾリルポルフィリン金属錯体の金属原子に他方のイミダゾリルポルフィリン金属錯体のイミダゾリル基の窒素原子を配位させ、二量体化したポルフィリン二量体により達成し得ることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、次の一般式(1):

【0008】
【化4】
JP0003256742B2_000005t.gif【0009】{式中、MはFe(II)又はCo(II)を表し、Imは、次のイミダゾリル基Im1~Im6

【0010】
【化5】
JP0003256742B2_000006t.gif【0011】(式中、R2、R3及びR4は、各々独立に水素原子又はアルキル基を表す。)のいずれか1を表し、R1は次の置換フェニル基(a):

【0012】
【化6】
JP0003256742B2_000007t.gif【0013】(式中、R5は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表し、R6は、アルキル基、アリール基、アリール置換アルキル基又はハロゲン置換アルキル基を表し、R7は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又は-NHCO-R8を表し、R8は、アルキル基、アリール基、アリール置換アルキル基又はハロゲン置換アルキル基を表す。)を表わす。}により表されるポルフィリン二量体を提供する。

【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明のポルフィリン二量体を詳細に説明する。

【0015】
上記一般式(1)において、Mは、Fe(II)又はCo(II)を表す。

【0016】
Imにより表されるイミダゾリル基Im1~Im6

【0017】
【化7】
JP0003256742B2_000008t.gif【0018】において、R2、R3及びR4は、各々独立に水素原子又はアルキル基を表す。各式において、Nの下に付した矢印(↓)は、その窒素原子を介して金属(M)に配位することを示す。R2、R3及びR4により表されるアルキル基としては、炭素原子数1~12個を有する、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が含まれ、これらのアルキル基の具体例には、メチル、イソプロピル、t-ブチルが含まれる。

【0019】
上記式(1)において、Imにより表される2つのイミダゾリル基は、同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが製造上の容易性等の点から好ましい。

【0020】
1により表される置換フェニル基(a):

【0021】
【化8】
JP0003256742B2_000009t.gif【0022】において、R5は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。R5がハロゲン原子又はアルキル基の場合、R5の置換位置は、置換フェニル基(a)がポルフィリン金属錯体に結合する結合位置に対して、m-位又はp-位のどちらでもよい。

【0023】
5により表されるハロゲン原子の例には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれ、塩素原子が製造上、安定性等の観点から好ましい。R5がアルキル基の場合、炭素原子数1~12個を有する直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が含まれ、その具体例には、イソプロピル、t-ブチル、ネオペンチル、シクロヘキシル、アダマンチルが含まれる。

【0024】
一般式(1)が有する置換フェニル基(a)において、R6及びR8は、各々独立にアルキル基、アリール基、アリール置換アルキル基又はハロゲン置換アルキル基を表す。R6及びR8は、かさ高い疎水性の基が好ましい。R6及びR8がかさ高い疎水性の基であることにより、特に、ポルフィリン二量体と結合した酸素分子の安定化をはかることができるからである。特には、R6=R8が合成上の点から好ましい。

【0025】
6及びR8がアルキル基の場合、疎水性のアルキル基としては、炭素原子数3~20個を有する直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が含まれ、その具体例には、イソプロピル、t-ブチル、ネオペンチル、シクロヘキシル、アダマンチルが含まれる。R6及びR8がアリール基の場合、炭素原子数6~20個を有する芳香環、縮合芳香環が含まれ、その具体例には、フェニル、ナフチル、ピレニルが含まれる。R6及びR8がアリール置換アルキル基の場合、炭素原子数7~20個を有する、アリール置換アルキル基が含まれ、その具体例には、ベンジル、トリフェニルメチルが含まれる。R6及びR8がハロゲン置換アルキル基の場合、炭素原子数1~20個、ハロゲン原子数1~20個を有する、ハロゲン置換アルキル基が含まれ、具体的には、トリクロロメチル、ジクロロメチルが含まれる。

【0026】
一般式(1)が有する置換フェニル基(a)において、R7は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又は-NHCO-R8を表す。R7は、製造上の観点から、水素原子が好ましい。

【0027】
上記一般式(1)に示すように、本発明のポルフィリン二量体の4つのピロール環と4つのメチン基とは同一平面上に広がり配置されている。ポルフィリン二量体に置換するイミダゾリル基のイミダゾール環は、ピロール環とメチン基とにより構成される平面に対してほぼ垂直な平面上に広がるように配置されている。ポルフィリン二量体に置換する置換フェニル環も同様に、ピロール環とメチン基とにより構成される平面に対してほぼ垂直な平面上に広がるように配置されている。

【0028】
上記一般式(1)において、金属Mとピロール核の窒素原子との結合は、配位結合である。中心金属Mとイミダゾリル基の窒素原子との結合も、配位結合である。

【0029】
以下に、本発明の一般式(1)で表されるポルフィリン二量体の合成方法を説明するが、本発明のポルフィリン二量体の合成方法はこれらに限定されるものではない。

【0030】
本発明のポルフィリン二量体において、Mで表される金属が鉄(II)であるものは、次の工程1~工程6を経て合成することができる。

【0031】
【化9】
JP0003256742B2_000010t.gif【0032】
【化10】
JP0003256742B2_000011t.gif【0033】<工程1>化合物4の合成
化合物2(式中、R5は、一般式(1)で規定したとおり)及び化合物3(式中、Imは、一般式(1)で規定したとおり)を、プロピオン酸、酢酸のような溶媒に溶解し、これにピロール(1)を添加し、反応させ、ポルフィリンを合成する。

【0034】
化合物2、化合物3及びピロール(1)の添加量は、通常2:1:3~3:1:4に設定することができる。

【0035】
溶媒は、通常、ピロール重量に対し20倍量~100倍量用いることができる。

【0036】
反応時間は、通常、20℃~還流温度に設定することができる。

【0037】
反応時間は、通常、30~60分に設定することができる。

【0038】
反応後、必要に応じて精製等の工程を経て、得られた物質を次の工程2)に供する。

【0039】
精製工程は、例えば、上記反応に用いた溶媒を留去した後、クロロホルム、ジクロロメタンのような溶媒に溶解し、ろ過し、得られたろ液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等により行うことができる。

【0040】
<工程2>化合物5の合成
上記工程1で得られた化合物4のニトロ基をアミノ基に変換する。この反応は、化合物4を塩酸のような酸に溶解し、塩化スズ(II)のようなニトロ基をアミノ基に変換し得る化合物を添加することにより行うことができる。

【0041】
添加する酸の量は、通常、化合物重量の50~200倍量に設定することができる。

【0042】
ニトロ基をアミノ基に変換し得る化合物の添加量は、通常、10~30倍に設定することができる。

【0043】
反応温度は、通常、室温(約25~30℃)に設定することができ、反応時間は、30~60分に設定することができる。

【0044】
反応後、アンモニア水、重曹水等により、反応溶液のpH値を好ましくは8~9の範囲の弱アルカリ性にし、クロロホルムのような有機溶媒で抽出する。

【0045】
有機層は、必要に応じて、洗浄(希アンモニア水、水など)、乾燥、濃縮等の工程に供することができる。

【0046】
<工程3>化合物5Cの精製
工程2で得られた化合物5は、上記反応工程に示す3種類(5A~5C)の回転異性体を含む異性体の混合物である。これらの混合物から所望の立体配置を有する化合物5Cを精製する。

【0047】
精製は、ベンゼン、トルエンのような無極性有機溶媒に懸濁させたシリカゲルなどの吸着剤に所望の回転異性体である化合物5Cを吸着させ、さらに、クロマトグラフィーにより行うことができる。

【0048】
吸着剤は、通常、化合物重量量に対し、20~100倍量用いることができる。

【0049】
有機溶媒は、通常、40~200倍量用いることができる。

【0050】
反応は、通常、80~100℃の温度に設定した、アルゴンガスのような不活性気体雰囲気下で、2~30時間行うことができる。

【0051】
得られた反応溶液は、クロロホルム/メタノール混合溶媒などの極性溶媒でろ過し、ろ液を濃縮後、薄層シリカゲルクロマトグラフィー等に供することにより、さらに精製することができる。

【0052】
<工程4>化合物6の合成
工程3で得られた化合物5Cのアミノ基をアシル化する。この反応は、化合物5Cを、クロロホルムのような非極性溶媒に溶解し、塩基としてピリジンを加え、アシルハライド:R6C(=O)X(式中、R6は、一般式(1)で規定した通り。Xは、塩素、臭素等のハロゲン原子を表す。)を添加する。

【0053】
用いる溶媒の量は、50~200倍量に設定することができる。

【0054】
アシルハライドの量は、3~10倍量に設定することができる。

【0055】
反応は、室温で行うことができ、異性化を防ぐためには低温で行うことが好ましい。

【0056】
反応時間は、通常、30~120分に設定することができる。

【0057】
得られた反応混合物は、必要に応じて、濃縮、洗浄(飽和炭酸水素ナトリウム溶液等)、乾燥等の工程に供することができる。

【0058】
<工程5>化合物7の合成
工程4で得られた化合物6に、金属原子を挿入する。

【0059】
挿入すべき金属が鉄(II)である場合、無水臭化鉄(II)、無水塩化鉄(II)のような鉄化合物を用いることができる。

【0060】
鉄化合物の添加量は、20~100倍量に設定することができる。

【0061】
反応は、THF、酢酸のような溶媒に溶かし、3,5-ルチジンのような塩基を添加し、窒素ガスのような不活性ガス雰囲気下に、還流温度で行うことができる。

【0062】
反応時間は、通常、1~4時間に設定することができる。

【0063】
反応後、必要に応じて濃縮、洗浄(水等)、精製工程に供することができる。

【0064】
<工程6>化合物8の合成
工程5で得られた化合物7を二量体化する。

【0065】
二量体化は、化合物7をTHF/ベンゼン(1:1)、ベンゼンのような溶媒に溶解し、窒素ガスのような不活性ガス雰囲気下に亜二チオン酸ナトリウムのような還元剤の水溶液を添加し、激しく撹拌することにより行うことができる。

【0066】
溶媒の量は、通常、化合物重量に対し100~1000倍量用いることができる。

【0067】
還元剤の量は、通常、20~200倍量用いることができる。

【0068】
撹拌時間は、20分~60分に設定することができる。

【0069】
撹拌後、ベンゼン、トルエン等の有機溶媒により、目的とする二量体を抽出することができる。

【0070】
<工程7>化合物9の合成
挿入すべき金属が鉄(II)以外の場合の本発明のポルフィリン二量体は、上記工程4までは鉄(II)と同じ工程を経で合成した化合物6と、所望の金属をポルフィリンに挿入し得る化合物とを反応させることにより合成することができる。

【0071】
挿入すべき金属がコバルト(II)の場合、金属をポルフィリンに挿入し得る化合物としては、塩化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)を用いることができる。

【0072】
コバルト化合物の添加量は、化合物重量に対し、5~20倍量に設定することができる。反応は、RHF、酢酸、メタノールのような溶媒と、3,5-ルチジンを添加し、窒素ガスのような不活性ガス雰囲気下に、還流温度で行うことができる。反応時間は、通常、30~60分に設定することができる。

【0073】
本発明のポルフィリン二量体は、ポルフィリン金属錯体単位2つから構成される二量体である。本発明のポルフィリン二量体を構成するポルフィリン金属錯体単位は、ポルフィリンの5、10、15及び20位の4つの位置の1つの位置に、置換していてもよいイミダゾリル基が結合し、残りの3つの位置に疎水性の基が置換したフェニル基が結合する構造を有することを特徴とする。

【0074】
本発明のポルフィリン二量体は、1つのポルフィリン金属錯体単位のイミダゾリル基と、もう一つのポルフィリン金属錯体単位の金属とが互いに結合し、二量体を形成している。本発明者らは、本発明のポルフィリン二量体は、このようなイミダゾリル基と金属との2つの結合により、安定な二量体を形成することができると考えている。

【0075】
また、本発明のポルフィリン二量体は、1つのポルフィリン金属錯体単位が有する、各々置換アルキル基を有する3つのフェニル基において、これらのアルキル基の立体配置が、何れも、もう一つのポルフィリン二量体単位側とは反対方向である外側に配向するように(α位)配置されている。本発明者らは、このような立体配置を有するポルフィリン二量体において、特に、アルキル基を疎水性の基にすることにより、一般式(1)のMで表される金属に結合した酸素分子を安定化することができると考えている。さらに、本発明のポルフィリン二量体鉄(II)錯体は、配位結合により二量体化する際、酸素分子が吸着していないデオキシ体では、金属原子はポルフィリン環平面よりイミダゾリル基側へ引き寄せられた構造をしていると考えられ(類似化合物の結晶構造、J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 3980)、酸素分子吸着能力の低いT状態に相当する。酸素分子が2つの鉄(II)イオンのうち1つに結合すると、結合した鉄原子はポルフィリン平面に引き寄せられ、ポルフィリン環同士が接近し、同時に酸素分子が結合していない鉄原子の方もポルフィリン面内に近づきデオキシR状態が発生すると考えられ、酸素分子親和性が増大し、協同的酸素分子の吸脱着が行われると考えている。

【0076】
本発明のポルフィリン二量体が奏するアロステリック機能を用いることにより、本発明のポルフィリン二量体は、人工血液の成分としての利用が期待される。また、本発明のポルフィリン二量体は、協同的分子状酸素を活性化することができるので、高級アルカンその他の炭化水素における位置選択的酸素化試薬としての応用も期待される。さらに、本発明のポルフィリン二量体は、酸素、一酸化窒素、一酸化炭素などの分子との吸脱着力が、各分子の量が特定の値を越すと急激に変化するので、これらの気体の高感度センサーとしての応用も期待される。このような本発明のポルフィリン二量体の奏し得る急激な吸脱着力の変化は、例えばミオグロビンのようなラングミュア型の吸脱着機能を有する化合物では奏し得ない有利な効果である。

【0077】
【実施例】以下に本発明のポルフィリン二量体の合成例を記載するが、本発明のポルフィリン二量体は、これに限定されるものではない。

【0078】
1)工程
5,10,15-トリス(o-ニトロフェニル)-20-イミダゾリルポルフィリン(4’)の合成
2-ニトロベンズアルデヒド(2)(3.74g、24.8mmol)とイミダゾール-2-カルボアルデヒド(3)(1.19g、12.4mmol)をプロピオン酸110ミリリットル(以下、「mL」とも表記する。)に溶かし、ピロール(1)(2.50g、37.2mmol)を加えた。反応器を予め加熱しておいたオイル浴に浸し、還流、撹拌した。40分後、プロピオン酸を留去し、クロロホルムを加え、ろ過した。ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(展開溶媒:CHCl3/MeOH=15/1)。紫色固体713mgを得た。

【0079】
MS(TOF) m/e 740(M+1), 計算値 740(M+1); 紫外可視吸収(CHCl3)λmax 423, 518, 555, 595, 654 nm; 蛍光強度(CHCl3)λmax 658, 716 nm(λext 420 nm)。

【0080】
2)工程
5,10,15-トリス(o-アミノフェニル)-20-イミダゾリルポルフィリン(5’)の合成
化合物4’(144mg、0.194mmol)を塩酸8mLに溶かし、過剰の塩化スズ(II)二水和物(642mg、2.85mmol)を加え、室温で撹拌した。25分後、アンモニア水を加え弱アルカリ性にした後、CHCl3で抽出、有機層をろ過した。ろ液を、希アンモニア水、水(×2)で洗浄後、無水Na2SO4で乾燥し、濃縮した。紫色固体70mg(55.6%)を得た。

【0081】
MS(TOF) m/e 650(M+1), 計算値 650(M+1); 紫外可視吸収(CHCl3)λmax 421, 515, 555, 586, 644 nm; 蛍光強度(CHCl3)λmax 657, 718 nm(λext 420 nm)。

【0082】
3)工程
5,10,15-トリス(α,α,α-o-アミノフェニル)-20-イミダゾリルポルフィリン(5C’)の合成
異性体混合物5’(70mg、0.107mmol)、シリカゲル2.52gをベンゼン6mLに懸濁させ、アルゴンガスで数分間バブリングした。アルゴンガス置換した反応器を、約80℃のオイルバスに浸し撹拌した。20時間後、反応液をCHCl3、MeOH混合溶媒でろ過し、ろ液を濃縮した。薄層シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:CHCl3/アセトン=3/1)でRf=0.14の成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(展開溶媒:CHCl3/アセトン=3/1→1/1)、紫色固体11mg(15.7%)を得た。

【0083】
MS(TOF) m/e 650(M+1), 計算値 650(M+1); 紫外可視吸収(CHCl3)λmax 421, 517, 555, 588, 647 nm; 蛍光強度(CHCl3)λmax 657, 716 nm(λext 421 nm)。

【0084】
4)工程
5,10,15-トリス(α,α,α-o-ピバロイルアミノフェニル)-20-イミダゾリルポルフィリン(6’):

【0085】
【化11】
JP0003256742B2_000012t.gif【0086】の合成
化合物5C’(11mg、0.016mmol)をCHCl3 1mLに溶かし、ピリジン10μLを加えた。撹拌中、ピバロイルクロリド10μLを加え、室温で撹拌した。2時間後、反応液を濃縮し、CHCl3を加え飽和NaHCO3水溶液、水(×2)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。ろ過、濃縮後、紫色固体31mgを得た。

【0087】
得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(展開溶媒CHCl3/アセトン=10/1→9/1)。収量7mg(46.7%)。

【0088】
1H NMR(CDCl3) δ -2.69(2H, s, NH), 0.03, 0.13(18H, s; 9H, s; t-Bu), 7.15(1H, s, NH), 7.27(2H, s, Im), 7.47(3H, q, benzene-c1,2), 7.82(5H, q, benzene-a2, b1,2), 7.89(1H, d, benzene-a1), 8.72(3H, t, benzene-d1,2), 8.81(4H, s, pyrrole), 8.84(2H, d, pyrrole), 9.06(2H, s, pyrrole); MS(TOF)m/e 902(M+1), 計算値 902(M+1); 紫外可視吸収(CHCl3)λmax 421, 514, 552, 588, 649 nm; 蛍光強度(CHCl3)λmax 655, 715 nm(λext 421 nm)。

【0089】
5)工程
5,10,15-トリス(α,α,α-o-ピバロイルアミノフェニル)-20-イミダゾリル鉄(III)ポルフィリン(7’)の合成
化合物6’(15mg、0.016μmol)と過剰の無水臭化鉄(II)(244mg、1.13mmol)を窒素雰囲気下グローブボックス中で反応器に入れ、実験室においてTHF2mL、3,5-ルチジン約5mg(0.048mmol)を加え、加熱還流した。3時間後溶媒を留去し、得られた茶褐色固体をアルミナカラムクロマトグラフィー(活性度0、溶媒クロロホルム)で精製した。

【0090】
得られた画分に1%臭化水素酸メタノール溶液を加え撹拌後、クロロホルムで抽出し、乾燥後濃縮し、褐色固体4mg(0.003mmol、18.8%)を得た。

【0091】
MS(TOF) m/e 955(M+), 計算値 955(M+); 紫外可視吸収(CHCl3)λmax 415, 512nm。

【0092】
6)工程
5,10,15-トリス(α,α,α-o-ピバロイルアミノフェニル)-20-イミダゾリル鉄(II)ポルフィリン二量体(8’)の合成
窒素雰囲気ブローブボックス中、化合物7’(4mg、0.003mmol)をTHF/ベンゼン(1:1)2mLに溶かし、その溶液に0.2M亜二チオン酸ナトリウム水溶液3mLを加え、30分間激しく撹拌した。ベンゼンを加え有機層を抽出した。

【0093】
紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、添付の図1の8’でに示す実線のように、ソーレ帯の顕著なブロード化が確認された。一般的な人工ミオグロビンモデル化合物であるピケットフェンスポルフィリン(図1の10で示す波線)のソーレー帯と比べて、半値幅が約2倍であった。このことは、化合物8’が二量体構造を有していることを強く示唆している。

【0094】
MS(TOF) m/e 956(M+1), 計算値956(M+1);紫外可視吸収(ベンゼン)λmax 432, 558 nm。

【0095】
7)工程
5,10,15-トリス(α、α、α-O-ピバロイルアミノフェニル)-20-イミダゾリルコバルト(II)ポルフィリン二量体(9’)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物6’(5mg、5.54μmol)をTHF 1mLに溶かし、3,5-ルチジン6mg(55.4μmol)を加えた。メタノール1mLに溶かした無水塩化コバルト5mg(38.5μmol)を過剰に加え、加熱還流した。約30分後、反応液を濃縮した後、クロロホルムに溶かし、水洗後、有機層を抽出、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し紫色固体5mgを得た。粗収率94.2%。

【0096】
紫外可視吸収(クロロホルム)λmax :439, 548 nm。MS(TOF) m/e 959(M+1)計算値959(M+1)。
図面
【図1】
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