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明細書 :構造物評価システム、構造物評価方法及び衝撃付与装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6794435号 (P6794435)
登録日 令和2年11月13日(2020.11.13)
発行日 令和2年12月2日(2020.12.2)
発明の名称または考案の名称 構造物評価システム、構造物評価方法及び衝撃付与装置
国際特許分類 G01M   7/08        (2006.01)
G01N  29/14        (2006.01)
G01M  99/00        (2011.01)
FI G01M 7/08 C
G01N 29/14
G01M 99/00 Z
請求項の数または発明の数 13
全頁数 13
出願番号 特願2018-513401 (P2018-513401)
出願日 平成29年6月21日(2017.6.21)
国際出願番号 PCT/JP2017/022856
国際公開番号 WO2018/235195
国際公開日 平成30年12月27日(2018.12.27)
審査請求日 平成30年3月12日(2018.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】高峯 英文
【氏名】渡部 一雄
【氏名】塩谷 智基
【氏名】西田 孝弘
個別代理人の代理人 【識別番号】110001634、【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
審査官 【審査官】瓦井 秀憲
参考文献・文献 米国特許第06257064(US,B1)
特開2013-044523(JP,A)
特開2014-202682(JP,A)
国際公開第2015/194171(WO,A1)
特開2010-169465(JP,A)
特開2002-148244(JP,A)
特開2001-041940(JP,A)
特開平11-271286(JP,A)
特開2006-038598(JP,A)
特開2011-191202(JP,A)
特開2015-114146(JP,A)
調査した分野 G01M 5/00- 7/08
G01M 13/00-13/04
G01M 99/00
G01N 29/00-29/52
特許請求の範囲 【請求項1】
構造物に対して衝撃を与える衝撃付与部と、
弾性波を検出するセンサと、
検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する構造物評価装置と、
を備え、
前記衝撃付与部は、前記衝撃を付与する強度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる頻度以下で前記衝撃を与える構造物評価システム。
【請求項2】
構造物に対して衝撃を与える衝撃付与部と、
弾性波を検出するセンサと、
検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する構造物評価装置と、
を備え、
前記衝撃付与部は、前記衝撃を付与する頻度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる強度以下で前記衝撃を与える構造物評価システム。
【請求項3】
構造物に対して衝撃を与える衝撃付与部と、
弾性波を検出するセンサと、
検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する構造物評価装置と、
を備え、
前記衝撃付与部は、第1の衝撃による弾性波を検出するセンサから所定の距離離れた位置から第2の衝撃を与え、
前記衝撃付与部は、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度と、前記構造物に配置されたセンサの配置位置とから定まる強度で前記衝撃を与える構造物評価システム。
【請求項4】
前記センサは、前記構造物に与えられる衝撃の強度又は頻度に基づく間隔で配置される、請求項1又は2に記載の構造物評価システム。
【請求項5】
前記衝撃は、水滴、氷粒、固形物の散布、槌による連打及びレーザによる加熱により計測領域において一様な分布で付与される衝撃である、請求項1から4のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項6】
構造物に対して衝撃を与える衝撃付与ステップと、
弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有し、
前記衝撃付与ステップにおいて、前記衝撃を付与する強度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる頻度以下で前記衝撃を与える構造物評価方法。
【請求項7】
構造物に対して衝撃を与える衝撃付与ステップと、
弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有し、
前記衝撃付与ステップにおいて、前記衝撃を付与する頻度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる強度以下で前記衝撃を与える構造物評価方法。
【請求項8】
構造物に対して衝撃を与える衝撃付与ステップと、
弾性波を検出するセンサによって検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有し、
前記衝撃付与ステップにおいて、第1の衝撃による弾性波を検出するセンサから所定の距離離れた位置から第2の衝撃を与え、
前記衝撃付与ステップにおいて、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度と、前記構造物に配置されたセンサの配置位置とから定まる強度で前記衝撃を与える構造物評価方法。
【請求項9】
前記衝撃は、水滴、氷粒、固形物の散布、槌による連打及びレーザによる加熱により計測領域において一様な分布で付与される衝撃である、請求項6から8のいずれか一項に記載の構造物評価方法。
【請求項10】
弾性波を検出するセンサを用いた構造物の評価に用いられる衝撃付与装置であって、
構造物に対して、弾性波を発生させるための衝撃を与える衝撃付与部、
備え、
前記衝撃付与部は、衝撃を付与する強度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる頻度以下で前記衝撃を与える衝撃付与装置。
【請求項11】
弾性波を検出するセンサを用いた構造物の評価に用いられる衝撃付与装置であって、
構造物に対して、弾性波を発生させるための衝撃を与える衝撃付与部、
備え、
前記衝撃付与部は、衝撃を付与する頻度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる強度以下で前記衝撃を与える衝撃付与装置。
【請求項12】
弾性波を検出するセンサを用いた構造物の評価に用いられる衝撃付与装置であって、
構造物に対して、弾性波を発生させるための衝撃を与える衝撃付与部、
備え、
前記衝撃付与部は、第1の衝撃による弾性波を検出するセンサから所定の距離離れた位置から第2の衝撃を与え、
前記衝撃付与部は、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度と、前記構造物に配置されたセンサの配置位置とから定まる強度で衝撃を与える衝撃付与装置。
【請求項13】
前記衝撃は、水滴、氷粒、固形物の散布、槌による連打及びレーザによる加熱により計測領域において一様な分布で付与される衝撃である、請求項10から12のいずれか一項に記載の衝撃付与装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物評価システム構造物評価方法及び衝撃付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁などの構造物の表面にAEセンサ等のセンサを設置することで、構造物内部の損傷箇所などから発生する弾性波を検出することができる。更に複数のセンサを設置することで、センサ間の弾性波到達時刻の差から、弾性波の発生源(以下「弾性波発生源」という。)の位置を標定することができる。降雨時の雨滴の路面への衝突などでも、同様の弾性波が発生し、その発生位置を標定することができる。しかし、この弾性波の伝搬経路に損傷がある場合、弾性波の伝搬が妨げられるため、正しく発生位置を標定することができなくなる。これを利用して、位置標定された弾性波発生源の分布の乱れから、構造物内部の損傷を検出することができる。ただし、降雨のみを利用する手法では、意図した計測を効率良く行うことが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2004-125721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、計測を効率良く行うことができる構造物評価システム構造物評価方法及び衝撃付与装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の構造物評価システムは、衝撃付与部と、センサと、構造物評価装置とを持つ。衝撃付与部は、構造物に対して衝撃を与える。衝撃付与部は、前記衝撃を付与する強度と、仮定した弾性波の分布より計算された有効データの取得頻度とに応じて定まる頻度以下で前記衝撃を与える。センサは、弾性波を検出する。構造物評価装置は、検出された前記弾性波に基づいて前記構造物の劣化状態を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施形態の構造物評価システムのシステム構成を示す図。
【図2】実施形態の信号振幅と持続時間との関係を表す図。
【図3】直線lの設定について説明するための図。
【図4】図3の振幅A=85dB付近の持続時間の分布と、最適な直線位置の求め方を表した図。
【図5】複数の衝撃を与える場合における影響を緩和させる構成の説明図。
【図6】センサ配置の一例を示す図。
【図7】構造物評価システムの評価処理の流れを表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の構造物評価システム構造物評価方法及び衝撃付与装置を、図面を参照して説明する。図1は、実施形態の構造物評価システム100のシステム構成を示す図である。構造物評価システム100は、構造物の健全性の評価に用いられる。本実施形態において、評価とはある基準に基づいて、構造物の健全性の度合い、すなわち構造物の劣化状態を決定することを意味する。なお、本実施形態では、構造物の一例として橋梁を例に説明するが、構造物は橋梁に限定される必要はない。例えば、構造物は、亀裂の発生または進展、あるいは外的衝撃(例えば雨、人工雨など)に伴い弾性波が発生する構造物であればどのようなものであってもよい。なお、橋梁は、河川や渓谷などの上に架設される構造物に限らず、地面よりも上方に設けられる種々の構造物(例えば高速道路の高架橋)なども含む。

【0008】
構造物評価システム100は、衝撃付与部10、複数のセンサ20-1~20-n(nは2以上の整数)、信号処理部30及び構造物評価装置40を備える。信号処理部30及び構造物評価装置40は、有線又は無線により通信可能に接続される。なお、以下の説明では、センサ20-1~20-nについて区別しない場合にはセンサ20と記載する。

【0009】
衝撃付与部10は、構造物50に衝撃11を与え、弾性波を発生させる。衝撃付与部10は、例えば構造物50上を走行する車両等の乗物に設けられる。衝撃付与部10は、構造物50の路面に対して多数の衝撃11を付与する。衝撃付与部10が付与する衝撃11は、計測領域において一様な分布で付与されることが望ましい。衝撃11の付与は、例えば水滴、氷粒、固形物の散布、ハンマ等の槌による連打、レーザによる加熱等により行われる。衝撃付与部10が衝撃11の付与として水滴を散布する場合、ノズルの調整や吐出タイミングの制御により、路面に衝突する水滴のサイズとタイミングが制御できることが望ましい。ハンマ等の槌による連打においても、衝撃11の強度とタイミングを所望の値に制御できることが望ましい。これらの衝撃11は、後述の条件を満たすように付与される。具体的な説明は後述する。

【0010】
センサ20は、構造物50に設置される。例えば、センサ20は、衝撃付与部10が衝撃11を与える面と反対側の面に設置される。センサ20は、圧電素子を有し、構造物50が発生する弾性波を検出し、検出した弾性波を電圧信号であるAE源信号に変換する。センサ20は、AE源信号に対して増幅、周波数制限などの処理を施して信号処理部30に出力する。なお、センサ20に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、センサ20と同様の処理を行うことによって、信号処理後の信号を信号処理部30に出力する。構造物50の厚さは、例えば15cm以上である。

【0011】
信号処理部30は、センサ20による処理が施されたAE源信号を入力とする。信号処理部30は、入力したAE源信号に対して、必要とされるノイズ除去、パラメータ抽出等の信号処理を行うことによって弾性波に関する情報を含むAE特徴量を抽出する。弾性波に関する情報とは、例えば、AE源信号の振幅、エネルギー、立ち上がり時間、持続時間、周波数、ゼロクロスカウント数などの情報である。信号処理部30は、抽出したAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置40に出力する。信号処理部30が出力するAE信号には、センサID、AE検知時刻、AE源信号振幅、エネルギー、立ち上り時間および周波数などの情報が含まれる。

【0012】
ここで、AE源信号の振幅は、例えば弾性波の中で最大振幅の値である。エネルギーは、例えば各時点において振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。立ち上がり時間は、例えば弾性波が予め設定される所定値を超えてから振幅がピークに達するまでの時間である。持続時間は、例えば弾性波の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。周波数は、弾性波の周波数である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線を弾性波が横切る回数である。

【0013】
構造物評価装置40は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、評価プログラムを実行する。評価プログラムの実行によって、構造物評価装置40は、位置標定部401、評価部402、表示部403を備える装置として機能する。なお、構造物評価装置40の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、評価プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、評価プログラムは、電気通信回線を介して送受信されてもよい。

【0014】
位置標定部401は、信号処理部30から出力されたAE信号を入力とする。また、位置標定部401は、構造物50におけるセンサ20の設置位置に関する情報(以下、「センサ位置情報」という。)をセンサIDに対応付けて予め保持する。設置位置に関する情報は、例えば緯度および経度、あるいは構造物50の特定位置からの水平方向および垂直方向の距離などである。

【0015】
位置標定部401は、入力されたAE信号に含まれるセンサID、AE検知時刻等の情報と、予め保持しているセンサ位置情報とに基づいて弾性波発生源の位置標定を行う。例えば、位置標定部401は、構造物50への衝撃11による複数のAE信号を用いて、それぞれ弾性波発生源の位置標定を行う。また、位置標定部401は、位置標定結果を用いて、発生源分布を導出する。発生源分布は、構造物50で発生した弾性波の発生源が示された分布である。位置標定部401は、導出した発生源分布を評価部402に出力する。

【0016】
評価部402は、位置標定部401から出力された発生源分布を入力とする。評価部402は、入力された発生源分布に基づいて構造物50の劣化状態を評価する。例えば、評価部402は、発生源分布における弾性波の特徴量から構造物50の劣化状態を評価する。発生源分布における弾性波の特徴量とは、弾性波発生源の密度に相当する。具体的な処理としては、評価部402は、発生源分布に基づいて、弾性波発生源の密度が第一の閾値未満の領域を構造物50の劣化が生じている領域と評価する。弾性波発生源の密度は、例えば3つのセンサ20で囲まれる領域毎に求められてもよいし、4つのセンサ20で囲まれる領域毎に求められてもよいし、発生源分布を予め定められた領域で分割し、分割後の領域毎に求められてもよい。評価部402は、評価結果を表示部403に表示させる。第一の閾値は、予め設定されていてもよいし、適宜設定されてもよい。

【0017】
表示部403は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部403は、評価部402の制御に従って評価結果を表示する。表示部403は、画像表示装置を構造物評価装置40に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部403は、評価結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。

【0018】
次に、衝撃付与部10が構造物50に付与する衝撃11が満たすべき条件について説明する。衝撃付与部10が構造物50に対して衝撃11を与える間隔が長すぎれば多くの衝撃11を与えるのに長い時間を要する。それに対して、衝撃付与部10が構造物50に対して衝撃11を与える間隔が短すぎれば直前に与えた衝撃11により発生した弾性波と、今回与えた衝撃11により発生した弾性波との分離できなくなる。そのため、与えた衝撃11の数に対して検出される弾性波が少なくなる。したがって、効率的に劣化状態の評価を実現するには、構造物50へ衝撃11を付与する強さ(強度)およびタイミングを最適化する必要がある。

【0019】
一般的に、センサ20に到達する弾性波の振幅が大きい方が、得られる信号のS/Nが良くなり位置標定の精度が向上するため、できるだけ強い衝撃11を付与することが望ましい。また、短時間で効率的に構造物50の劣化状態を評価するためには、短い時間間隔で衝撃11を付与し、一定の時間内により多くの信号を検出することが望ましい。したがって、センサ20で検出される信号振幅A[dB]は大きい方が望ましく、衝撃11を与える間隔T[ms]は小さい方が望ましい。

【0020】
一方、弾性波発生源の位置を標定するには、センサ20側で弾性波波形の立ち上がりを捉える必要がある。しかし、T[ms]が小さ過ぎた場合、連続して発生した弾性波が重なり分離できなくなるため、センサ20では後の衝撃11により発生した弾性波の立ち上がりを捉えられない。したがって、個々の衝撃11による弾性波を分離するためには、センサ20で検出された弾性波の持続時間をD[ms]とすると、前の衝撃付与から少なくともD[ms]の間隔をあけてから次の衝撃11を付与する必要がある。

【0021】
図2は、構造物50としてコンクリート供試体にセンサ20を設置し、コンクリート供試体に多数の衝撃11を与えて発生させた弾性波を検出した際の信号振幅A[dB]と持続時間D[ms]との関係を表す図である。図2において、縦軸は持続時間[ms]を表し、横軸は振幅[dB]を表す。持続時間は、弾性波が継続して検出された時間を表す。強い衝撃を付与するほど、構造物50内で反響した弾性波が減衰しきるまでに時間を要するため、振幅A[dB]と持続時間D[ms]が概ね比例関係にある。また、図2に示す点51は、検出された弾性波を表す。

【0022】
図2に示した各点51よりも下側、つまり、同じ強度でより短い間隔で衝撃11を与えた場合、もしくは、各点51よりも右側、つまり、同じ間隔でより強い衝撃11を与えた場合、その衝撃11により生じた弾性波は、直前に発生した弾性波と重なり分離できなくなる。したがって、直前に発生した弾性波を分離してセンサ20において検出するには、適切な直線l:D=αA+βを設け、この直線lを上回る条件で衝撃11を与える必要がある。したがって、衝撃付与間隔T[ms]が満たすべき条件は、式(1)で表される。

【0023】
【数1】
JP0006794435B2_000002t.gif

【0024】
次に、直線lの設定について説明する。図3は、直線lの設定について説明するための図である。図3において、縦軸は持続時間[ms]を表し、横軸は振幅[dB]を表す。図3では、複数の直線l、l、l、lが示されている。直線l(α=0.036、β=-2.0)より下部では、点がほぼ存在しない。これは、直線lより短い持続時間を持つ弾性波が検出されていないことを示し、直線lより下部に相当する条件で衝撃11を与えた場合は、直前に発生した弾性波とその次に発生した弾性波とが必ず重なり分離できないことを意味する。したがって、衝撃付与部10は、少なくとも1つ以上の弾性波を分離して検出するために、最低限直線lより上にあたる条件で衝撃11を与える必要がある。

【0025】
衝撃付与間隔Tは少なくとも直線lより上にあたる条件を満たす必要があるが、より好ましくは別の直線を基準とすることもできる。直線lを基準とした場合、直前に発生した弾性波と重ならない弾性波も存在するが、ほとんどの弾性波は直前に発生した弾性波と重なるため、計測の効率としてはそれほど高くない。したがって、例えば最小二乗法によって得られた近似直線l(α=0.057、β=-2.9)を基準とすることで、衝撃11の間隔は長くなるが、直前に発生した弾性波と重なる割合が減るため、直線lより効率を向上させることができる。

【0026】
また、分布の上限近くに相当する直線l(α=0.074、β=-3.4)を基準とした場合、衝撃11を与える間隔はl、lに比べてさらに長くなるが、直前に発生した弾性波と重なる弾性波はほとんどなくなるため、直線lより効率を向上させることができる。

【0027】
さらに望ましくは、直前に発生した弾性波と重なる割合と、衝撃付与間隔Tとの関係から導かれる直線lを基準とすることができる。図4は、図3の振幅A=85dB付近の持続時間Dの分布と、最適な直線位置の求め方を表した図である。各振幅での弾性波の分布を図4上のグラフのように正規分布と仮定する。下図4のグラフの左側の縦軸は弾性波の発生頻度を表し、右側の縦軸は有効データの取得頻度を表し、横軸は基準とする直線lを変化させたときの打撃間隔を表す。

【0028】
衝撃付与部10が直線lに相当する頻度で衝撃11を与えた場合、衝撃付与の頻度は曲線70で表される。直線lより短い持続時間Dを有する弾性波は直前に発生した弾性波と重ならないため、有効に検出される弾性波の割合は、正規分布を直線lの位置まで積分したものの割合となり、曲線71で表される。すなわち、曲線71は、分離可能な弾性波の割合を表す。波形を取得できる効率は、衝撃11の頻度と、直前に発生した弾性波弾性波と重ならない割合を掛け合わせて、曲線72のようになる。すなわち、曲線72は、有効データの取得頻度を表し、曲線70と曲線71とを掛け合わせて得られる値である。この曲線72が極大値をとる点が効率の最大の点を意味する。この場合、衝撃付与部10は、直線l(α=0.066、β=-3.2)を設定して制限とすることで、より効率よく衝撃11を与えることができる。

【0029】
以上は、図2~4に示したコンクリート供試体に関する例であり、計測対象に応じて試験的な衝撃11を与えて弾性波信号を取得して図2に示したようなD-A分布を作成し、上記と同様の手順で直線lを設定することができる。また、必ずしも計測対象自体でD-A分布を作成する必要はなく、類似の供試体や、類似の事例におけるD-A分布に基づいて直線lを設定することもできる。

【0030】
式(1)で示した条件は、次の衝撃11を与える位置を遠く離すことで緩和される。図5に概略を示す。センサ20において十分強い振幅Aで検出される強さの衝撃11を衝撃付与部10が与えたとき、その衝撃11により生じる弾性波は計測対象内での弾性波速度をVとすると、おおよそV[mm/ms]D[ms]=V(αA+β)[mm]の距離まで検出可能な振幅を保って到達する。

【0031】
衝撃付与部10が第1の衝撃を付与する第1の衝撃付与位置12-1からV(αA+β)の距離以内に配置されているセンサ20には、第1の衝撃により生じる弾性波が到達する。しかし、当該センサ20からV(αA+β)以上離れた位置(例えば、衝撃付与部10が第2の衝撃を付与する第2の衝撃付与位置12-2)であれば、第1の衝撃と同時に第2の衝撃を付与しても、第1の衝撃による弾性波と重ならない可能性が出る。したがって、第1の衝撃により生じた弾性波が到達したセンサ20からV(αA+β)以上離れた位置であれば、衝撃付与部10は上記式(1)の制限を必ずしも満たす必要はない。より好ましくは、第1の衝撃により生じた弾性波が到達したセンサ20からV(αA+β)以上離れた位置であれば、衝撃付与部10が第1の衝撃と同時に第2の衝撃を与えてもほぼ重ならずに弾性波を検出することができる。

【0032】
衝撃11を与える条件から、センサ20の配置に制約が与えられる。弾性波発生源分布から構造物50の劣化状態の評価を正しく行うには、計測領域全域で弾性波発生源位置を特定しなければ、分布にムラを生じ、誤診断につながる。弾性波発生源の位置を特定するには、少なくとも3つのセンサ20に弾性波が到達して検出される必要がある。衝撃付与部10が、センサ20において十分強い振幅Aで検出される強さの衝撃11を与えた場合、その衝撃11により生じる弾性波は、計測対象内での弾性波速度をVとすると、少なくとも凡そV[mm/ms]Dmin[ms]=V(αA+β)[mm]の距離まで検出可能な振幅を保って到達する。ここで、Dminは、D-A分布の下限をとった直線l上の持続時間Dを示す。したがって、弾性波発生源位置から最も遠いセンサ20、つまり3番目に弾性波が到達する(3rdヒット)センサ20が、弾性波発生源の位置からVDminの距離以内に配置される必要がある。最も遠いセンサ20までの距離をMとすると、センサ20の配置は式(2)を満たす必要がある。

【0033】
【数2】
JP0006794435B2_000003t.gif

【0034】
センサ配置が格子状の場合の例を図6に示す。右下のセンサ20-3を3rdヒットとした場合、最も遠くなる距離は図6のMとなり、センサ間隔をSとすると、Mは式(3)のように表される。

【0035】
【数3】
JP0006794435B2_000004t.gif

【0036】
したがって、この例では、(2)にM、Dを代入し、式(4)が得られる。

【0037】
【数4】
JP0006794435B2_000005t.gif

【0038】
式(4)より、センサ間隔から、与える衝撃11の強度の下限が規定され、逆に与える衝撃11の強さに対して、センサ間隔の上限が規定される。より厳密には、床版の厚さzを考慮して組み込むことができる。この場合、弾性波発生源からセンサまでの距離Mが式(5)となり、式(6)で表される。

【0039】
【数5】
JP0006794435B2_000006t.gif

【0040】
【数6】
JP0006794435B2_000007t.gif

【0041】
図7は、構造物評価システム100の評価処理の流れを表すフローチャートである。
衝撃付与部10は、計測用に複数の衝撃11を構造物50に与える(ステップS101)。これにより、構造物50で弾性波が発生する。発生した弾性波は、構造物50中を伝搬してセンサ20によって検出される。センサ20は、検出した弾性波を電圧信号であるAE源信号に変換し、AE源信号を信号処理部30に出力する。信号処理部30は、センサ20から出力されたAE源信号を入力する。信号処理部30は、入力したAE源信号から振幅A及び持続時間Dを取得する。信号処理部30は、取得した振幅A及び持続時間Dを用いて図2に示す信号振幅A[dB]と持続時間D[ms]との関係を表すD-A分布を生成する(ステップS102)。

【0042】
衝撃付与部10は、生成されたD-A分布に基づいて、基準となる直線を設定し、傾きα及び切片βを設定する(ステップS103)。なお、衝撃付与部10は、信号処理部30によって生成されたD-A分布をどのような方法で取得してもよい。例えば、衝撃付与部10は、外部メディアを介して信号処理部30によって生成されたD-A分布を取得してもよいし、衝撃付与部10とセンサ20との間で有線又は無線通信により取得してもよい。

【0043】
衝撃付与部10は、設定した傾きα及び切片βを用いて、式(1)に基づく条件で、構造物50に対して与える衝撃11の強度及び衝撃11を与える時間間隔を設定する(ステップS104)。その後、衝撃付与部10は、設定した強度及び時間間隔で構造物50に対して衝撃11を付与する(ステップS105)。センサ20は、構造物において発生した弾性波を検出する(ステップS106)。センサ20は、検出した弾性波を電圧信号であるAE源信号に変換し、AE源信号を信号処理部30に出力する。

【0044】
信号処理部30は、センサ20から出力されたAE源信号を入力する。信号処理部30は、入力したAE源信号に対して、必要とされるノイズ除去、パラメータ抽出等の信号処理を行うことによってAE特徴量を抽出する。信号処理部30は、抽出したAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置40に出力する。位置標定部401は、入力されたAE信号に含まれるセンサID、AE検知時刻等の情報と、予め保持しているセンサ位置情報とに基づいて弾性波発生源の位置標定を行う(ステップS107)。その後、位置標定部401は、位置標定結果を用いて、発生源分布を導出する(ステップS108)。評価部402は、入力された発生源分布に基づいて構造物50の劣化状態を評価する(ステップS109)。表示部403は、評価部402の制御に従って評価結果を表示する(ステップS110)。

【0045】
以上のように構成された構造物評価システム100によれば、衝撃付与部10において付与する衝撃11の強度に応じて定まる時間間隔で、衝撃付与部10が構造物50に対して衝撃11を付与する。この際に付与される衝撃11の強度は、1回目の衝撃11を与えることによって発生した弾性波と、2回目の衝撃11を与えることによって発生した弾性波とが重なる割合が低いと推定される強度である。したがって、衝撃付与部10が、このような強度から定まる時間間隔で衝撃11を構造物50に付与することによって、信号処理部30において信号の分離ができる。これにより、構造物評価装置40においてより精度の高い構造物の劣化状態の評価ができる。このように、構造物評価システム100では、計測を効率良く行うことが可能になる。

【0046】
また、構造物評価システム100では、衝撃付与部10が衝撃11を付与する時間間隔に応じて定まる一定の強度以下の強度で、衝撃付与部10が構造物50に対して衝撃11を付与する。衝撃付与部10が衝撃11を付与する時間間隔は、1回目の衝撃11を与えることによって発生した弾性波と、2回目の衝撃11を与えることによって発生した弾性波とが重なる割合が低いと推定される時間間隔である。したがって、衝撃付与部10が、このような時間間隔に応じて定まる強度で衝撃11を構造物50に付与することによって、信号処理部30において信号の分離ができる。これにより、構造物評価装置40においてより精度の高い構造物の劣化状態の評価ができる。このように、構造物評価システム100では、計測を効率良く行うことが可能になる。

【0047】
以下、構造物評価システム100の変形例について説明する。
構造物評価装置40が備える各機能部は、一部又は全てが別の筺体に備えられていてもよい。例えば、構造物評価装置40が評価部402のみを備えて、位置標定部401および表示部403が別の筺体に備えられてもよい。このように構成される場合、評価部402は、発生源分布を別の筺体から取得し、取得した発生源分布を用いて構造物の健全性を評価する。そして、評価部402は、評価結果を別の筺体が備える表示部403に出力する。
このように構成されることによって、発生源分布の導出に既存の装置を用いることによって、構造物評価装置40の製造コストを抑えることができる。

【0048】
信号処理部30は、構造物評価装置40に備えられてもよい。このように構成される場合、信号処理部30は、センサ20による処理が施されたAE源信号を、センサ20から直接、又は、不図示の中継装置を介して取得する。
図1では、複数のセンサ20-1~10-nに1台の信号処理部30が接続されているが、構造物評価システム100は複数台の信号処理部30を備え、各センサ20にそれぞれ信号処理部30が接続されて複数台のセンサユニットを備えるように構成されてもよい。

【0049】
また、評価部402は、出力制御部として動作してもよい。出力制御部は、出力部を制御して、評価結果を出力する。ここで、出力部には、表示部403、通信部および印刷部が含まれる。出力部が通信部である場合、出力制御部は通信部を制御して、評価結果を他の装置に送信する。また、出力部が印刷部である場合、出力制御部は印刷部を制御して、評価結果を印刷する。なお、構造物評価装置40は、出力部として、表示部403、通信部および印刷部の一部又は全てを備えて上記の動作を実行してもよい。

【0050】
本実施形態では、信号処理部30がD-A分布を生成する構成を示したが、必ずしも信号処理部30がD-A分布を生成する必要はない。例えば、予め類似の計測対象に対して得られたD-A分布がある場合には、衝撃付与部10はそのD-A分布を用いてステップS103の処理を実行してもよい。このように構成される場合、図7におけるステップS103の処理は実行されなくてもよい。

【0051】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、構造物に対して衝撃を与える衝撃付与部10と、弾性波を検出するセンサ20と、検出された弾性波に基づいて構造物の劣化状態を評価する構造物評価装置40と、を持ち、衝撃付与部10が、衝撃を付与する強度に応じて定まる頻度以下で衝撃を与えることにより、計測を効率良く行うことができる。

【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
10…衝撃付与部,20(20-1~20-n)…AEセンサ,30…信号処理部,40…構造物評価装置,401…位置標定部,402…評価部,403…表示部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6