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明細書 :培地用高分子ゲル、培地、細胞の培養方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年5月9日(2019.5.9)
発明の名称または考案の名称 培地用高分子ゲル、培地、細胞の培養方法及びキット
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C08F   8/00        (2006.01)
C08F  20/54        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 1/00 B
C12N 1/00 F
C08F 8/00
C08F 20/54
国際予備審査の請求
全頁数 28
出願番号 特願2018-529902 (P2018-529902)
国際出願番号 PCT/JP2017/026832
国際公開番号 WO2018/021289
国際出願日 平成29年7月25日(2017.7.25)
国際公開日 平成30年2月1日(2018.2.1)
優先権出願番号 2016148725
優先日 平成28年7月28日(2016.7.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】原田 明
【氏名】▲高▼島 義徳
【氏名】中畑 雅樹
【氏名】田中 求
【氏名】ホールニング マルセル
出願人 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
4J100
Fターム 4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065BC41
4B065CA44
4J100AM15P
4J100AM23Q
4J100BA02Q
4J100BA03Q
4J100BC09Q
4J100BC53Q
4J100CA04
4J100CA23
4J100CA31
4J100DA71
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA19
4J100GC35
4J100HA51
4J100HC38
4J100JA50
要約 硬さを容易、かつ、可逆的に変化させることができ、しかも、その硬さに応じて細胞の形を制御させることを可能とする、培地用高分子ゲル及び培地、また、当該培地を使用した細胞の培養方法を提供する。
培地用高分子ゲルは、可逆的結合によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含む。培地用高分子ゲルは、硬さを容易、かつ、可逆的に変化させることができる。ゆえに、本発明に係る培地用高分子ゲルによれば、その硬さに応じて細胞の形および機能を可逆的に制御させることが可能である。
特許請求の範囲 【請求項1】
可逆的結合によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含む、培地用高分子ゲル。
【請求項2】
前記可逆的結合が、ホスト基とゲスト基との結合、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、配位結合、π電子相互作用及びこれら以外の分子間相互作用の群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の培地用高分子ゲル。
【請求項3】
前記可逆的結合が、ホスト基とゲスト基との結合である、請求項1又は2に記載の培地用高分子ゲル。
【請求項4】
前記架橋構造体は、
下記一般式(1a)
【化1】
JP2018021289A1_000006t.gif
[式中、Raは水素原子またはメチル基を示す。Rはヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を示す。Rはホスト基を示す]
で表される繰り返し構成単位、
下記一般式(2a)
【化2】
JP2018021289A1_000007t.gif
[式中、Raは前記式(1a)と同じである。水素原子またはメチル基、Rはヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を示す。Rはゲスト基を示す]
で表される繰り返し構成単位、及び、
下記一般式(3a)
【化3】
JP2018021289A1_000008t.gif
[式中、Raは前記式(1a)と同じである。Rはハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又は1個以上の置換基を有していてもよいアミド基を示す]
で表される繰り返し構成単位
を有する重合体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の培地用高分子ゲル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の培地用高分子ゲルを含む、培地。
【請求項6】
請求項5に記載の培地で細胞を培養する、細胞の培養方法。
【請求項7】
前記培地に前記可逆的結合の形成を阻害する性質を有する競争物質を添加する工程をさらに含む、請求項6に記載の細胞の培養方法。
【請求項8】
前記培地に添加された前記競争物質の濃度を増大又は減少させる、請求項7に記載の細胞の培養方法。
【請求項9】
前記培地に含まれる前記競争物質の濃度を10mol/L以下の範囲に調節する、請求項7又は8に記載の細胞の培養方法。
【請求項10】
請求項5に記載の培地を含む、キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、培地用高分子ゲル、培地、細胞の培養方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療等の分野の研究とその応用が急激に発展する中、所望の組織を簡便、かつ、安価に培養する技術の構築が急務となっている。そのため、様々な視点から、細胞培養、細胞の分化を制御する研究開発が盛んにおこなわれている。
【0003】
再生医療の分野においては、幹細胞を培養するための培地の種類が、多能性細胞の分化に対して大きな影響をおよぼすことが知られている。例えば、最近の研究においては、培地の硬さを静的に制御して培養された幹細胞について、その培地の硬さに応じて分化に違いが生じることが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。このような報告例においては、培地としてアクリルアミド系の高分子ゲルが使用されており、この高分子ゲルの構造等を制御することで、培地の硬さが調節されている。上記の技術のように、細胞培養の培地の特性に着目して細胞の培養挙動を把握することは、再生医療・組織工学等の分野において極めて興味深い研究であるといえる。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Cell 126, 677-689, August 25, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記技術のように従来のアクリルアミドゲルのような共有結合で架橋される培地では、培地の硬さは静的にしか(例えば、架橋度や分子量、濃度等の調節により)制御できないため、必要なタイミングで培地の硬さを変化させることができない。そのため、細胞の培養挙動を動的に制御するための自由度がなく、しかも、実用化の観点においても多くの課題が残されていた。このような観点から、培地を動的に制御することを可能にして、所望のタイミングで培地の硬さを調節することができれば、従来にはない細胞分化の制御技術を確立できることが期待される。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、硬さを容易、かつ、可逆的に変化させることができ、しかも、その硬さに応じて細胞の形を制御させることを可能とする、培地用高分子ゲル及び培地を提供することを目的とする。また、本発明は、当該培地を使用した細胞の培養方法、並びに培地を構成要素として含むキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、可逆的結合を有する架橋構造体を必須の成分として含むことで、上記目的を達成できることを見出すと共に、可逆的結合を有する架橋構造体の架橋密度を制御しながら細胞を培養することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.可逆的結合によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含む、培地用高分子ゲル。
項2.前記可逆的結合が、ホスト基とゲスト基との結合、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、配位結合、π電子相互作用及びこれら以外の分子間相互作用の群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の培地用高分子ゲル。
項3.前記可逆的結合が、ホスト基とゲスト基との結合である、項1又は2に記載の培地用高分子ゲル。
項4.前記架橋構造体は、
下記一般式(1a)
【0009】
【化1】
JP2018021289A1_000003t.gif

【0010】
[式中、Raは水素原子またはメチル基を示す。Rはヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を示す。Rはホスト基を示す]
で表される繰り返し構成単位、
下記一般式(2a)
【0011】
【化2】
JP2018021289A1_000004t.gif

【0012】
[式中、Raは前記式(1a)と同じである。水素原子またはメチル基、Rはヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を示す。Rはゲスト基を示す]
で表される繰り返し構成単位、及び、
下記一般式(3a)
【0013】
【化3】
JP2018021289A1_000005t.gif

【0014】
[式中、Raは前記式(1a)と同じである。Rはハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又は1個以上の置換基を有していてもよいアミド基を示す]
で表される繰り返し構成単位
を有する重合体である、項1~3のいずれか1項に記載の培地用高分子ゲル。
項5.項1~4のいずれか1項に記載の培地用高分子ゲルを含む、培地。
項6.項5に記載の培地で細胞を培養する、細胞の培養方法。
項7.前記培地に前記可逆的結合の形成を阻害する性質を有する競争物質を添加する工程をさらに含む、項6に記載の細胞の培養方法。
項8.前記培地に添加された前記競争物質の濃度を増大又は減少させる、項7に記載の細胞の培養方法。
項9.前記培地に含まれる前記競争物質の濃度を10mol/L以下の範囲に調節する、項7又は8に記載の細胞の培養方法。
項10.項5に記載の培地を含む、キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る培地用高分子ゲルは、可逆的結合によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含むため、硬さを容易、かつ、可逆的に変化させることができる。ゆえに、本発明に係る培地用高分子ゲルによれば、その硬さに応じて細胞の形および機能を可逆的に制御させることが可能である。よって、上記培地用高分子ゲルは、各種様々な細胞を培養するための培地として適した材料である。
【0016】
本発明に係る細胞の培養方法は、上記培地を使用するので、培地の硬さを調節しながら、細胞の形を簡便な方法で制御することを可能とする。
【0017】
本発明に係るキットは、上記培地を含むので、各種細胞の培養に適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】架橋構造体中に形成されているホスト-ゲスト相互作用の様子を説明する模式図である。
【図2】高分子ゲルの製造方法の一例を示す反応スキームである。
【図3】(a)は時間変化に伴う培地の硬さの変化を測定した結果を示すグラフ、(b)は競争物質の濃度と高分子ゲルのヤング率との関係を示すグラフである。
【図4】時間変化に伴う培養した細胞の形態変化の様子を顕微鏡で観察した結果である。
【図5】(a)は、細胞の面積の変化、(b)は細胞の真円度の変化を示すグラフである。
【図6】試験例4及び5の様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。

【0020】
<培地用高分子ゲル>
本実施形態に係る培地用高分子ゲルは、可逆的結合によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含む。この高分子ゲルは、例えば、後述するように競争物質を存在させること等により、可逆的結合の形成及び切断を制御できるように形成されている。そのため、高分子ゲルの硬さ、すなわち、弾性率等の物性を、動的に制御することが可能な材料である。このように、本実施形態に係る培地用高分子ゲルは、硬さを容易、かつ、可逆的に変化させることができるため、このような培地用高分子ゲルを用いて形成される培地で、細胞を培養すると、高分子ゲルの硬さに応じて、細胞の形および機能を容易に制御させることができる。

【0021】
以下、上記培地用高分子ゲルの形態について詳述する。なお、本明細書において、本実施形態の培地用高分子ゲルを単に「高分子ゲル」と表記することもある。

【0022】
上記高分子ゲルは、可逆的結合によって架橋された架橋構造体をマトリックスとし、このマトリックス中に溶媒が存在することによってゲル状に形成される。例えば、架橋構造体は溶媒によって膨潤した状態となる。

【0023】
架橋構造体は、高分子鎖が三次元網目構造に形成された構造を有する。このような三次元網目構造を有する架橋構造体は、高分子鎖どうしが架橋することによって形成される。

【0024】
本実施形態の高分子ゲルでは、架橋構造体は、可逆的結合を架橋点として形成されている。

【0025】
ここでいう可逆的結合とは、結合の形成及び切断が可逆的に起こることをいう。例えば、可逆的結合とは、非共有結合のことをいう。

【0026】
より具体的な可逆的結合としては、ホスト基とゲスト基との結合、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、配位結合、π電子相互作用及びこれら以外の分子間相互作用の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの結合はいずれも、結合の形成及び切断を容易に制御することができる。

【0027】
上記可逆的結合は、特に、ホスト基とゲスト基との結合、いわゆる、ホスト-ゲスト相互作用であることが好ましい。このようなホスト-ゲスト相互作用であれば、特に、その結合の形成及び切断を制御することが容易であるからであり、また、高分子ゲルの硬さ、特に弾性率を所望の範囲に調節しやすい。例えば、ホスト-ゲスト相互作用は、後述するように、競争物質の存在によって、容易にその結合の形成及び切断を制御できる。

【0028】
従って、高分子ゲルに含まれるマトリックスとしての架橋構造体は、ホスト-ゲスト相互作用を架橋点として三次元網目構造に形成されていることが好ましい。

【0029】
ホスト-ゲスト相互作用は、例えば、ホスト分子とゲスト分子との疎水性相互作用、水素結合、分子間力、静電相互作用、配位結合、π電子相互作用等によって生じ得るが、これらに限定されるものではない。

【0030】
架橋構造体を形成する高分子鎖の種類は特に限定されない。

【0031】
高分子鎖は、例えば、側鎖に可逆的結合することが可能な官能基を有する構造が挙げられる。可逆的結合することが可能な官能基とは、例えば、ホスト-ゲスト相互作用、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、配位結合、π電子相互作用及びこれら以外の分子間相互作用を形成することが可能な官能基である。

【0032】
側鎖に可逆的結合することが可能な官能基を有する重合体を含むことにより、重合体どうしが架橋されて架橋構造体が形成される。このような架橋構造体は、ある一つの重合体側鎖の可逆的結合可能な官能基と、他の重合体側鎖の可逆的結合可能な官能基とが結合し、この結合部位が架橋点となることにより形成され得るものである。

【0033】
より具体的な高分子鎖としては、側鎖にホスト分子及びゲスト分子が共有結合的に結合した構造を有する高分子鎖が例示される。ホスト分子及びゲスト分子が共有結合的に高分子側鎖に結合する場合は、ホスト分子及びゲスト分子はそれぞれ、例えば、ホスト分子及びゲスト分子から水素原子又は水酸基等が除された1価の基として結合する。言い換えれば、高分子鎖は、側鎖にホスト基及びゲスト基を有することができ、ホスト基及びゲスト基はいずれも、共有結合的に高分子側鎖に結合する。

【0034】
上記ホスト分子及びゲスト分子は、互いにホスト-ゲスト相互作用が生じることが可能な分子で細胞毒性がない限り、特にその種類は制限されない。

【0035】
ホスト分子としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、カリックス[6]アレーンスルホン酸、カリックス[8]アレーンスルホン酸、12-クラウン-4、18-クラウン-6、[6]パラシクロファン、[2,2]パラシクロファン、ククルビット[6]ウリル及びククルビット[8]ウリルの群から選ばれる少なくとも1種が例示され、これらは置換基を有していてもよい。このようなホスト分子をホスト基として側鎖に有している重合体は、後述のゲスト基とのホスト-ゲスト相互作用が起こりやすいので、安定した架橋構造を有する架橋構造体が形成され、また、高分子ゲルの硬さの制御も容易となる。

【0036】
上記ゲスト基としては、炭素数4~18のアルキル化合物が挙げられる。その具体例としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、アダマンタン等が挙げられ、いずれの化合物も直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。また、上記炭素数4~18の炭化水素は、有機金属錯体であるフェロセンを置換基として結合させたアルキル基でもよい。このようなゲスト分子をゲスト基として側鎖に有している重合体は、上記のホスト基とのホスト-ゲスト相互作用が起こりやすいので、安定した架橋構造を有する架橋構造体が形成され、また、高分子ゲルの硬さの制御も容易となる。

【0037】
ホスト-ゲスト相互作用が起こりやすく、硬さの調節をより行いやすくするという観点から、ホスト分子としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンの群から選ばれる少なくとも1種の分子又はこれらいずれかの誘導体であることが好ましい。ここでいうシクロデキストリンの誘導体とは、例えば、シクロデキストリンの水素原子又は水酸基が他の置換基で置換された化合物をいう。置換基としては特に限定されず、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルケニル基及びアセチル基等のC=O結合を有する基等が例示される。

【0038】
同様の理由により、ゲスト基としては、n-ブチル基、n-ドデシル基、t-ブチル基及びアダマンチル基の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【0039】
ホスト基とゲスト基の組み合わせとしては、ホスト基を構成するホスト分子がα-シクロデキストリンである場合、ゲスト基はn-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基及びn-ドデシル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基を構成するホスト分子がβ-シクロデキストリンである場合、ゲスト基はアダマンチル基、ヒドロキシル基置換アダマンチル基、エチル基置換アダマンチル基、及びイソボルニル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基を構成するホスト分子がγ-シクロデキストリンである場合、ゲスト基はn-オクチル基、n-ドデシル基及びシクロドデシル基等の群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。

【0040】
上記のように、高分子鎖は側鎖に上記ホスト基及びゲスト基を有するが、高分子鎖の主鎖の構造については特に限定されない。

【0041】
例えば、架橋構造体に含まれる高分子鎖の主鎖の構造としては、前記一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位のすべてを有することが好ましい。

【0042】
なお、以下では、前記一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位のすべてを有する重合体を「重合体A」と表記する。

【0043】
架橋構造体を構成する重合体は1種又は2種以上を含むことができる。例えば、架橋構造体を構成する重合体は、1種類の重合体Aのみを含んでもよいし、異なる2種類以上の重合体Aを含んでもよい。なお、架橋構造体は、本発明の効果を阻害しない程度である限り、ホスト基及びゲスト基を有しない重合体を含んでもよい。

【0044】
重合体Aは、側鎖にホスト基及びゲスト基を有しているので、ホスト-ゲスト相互作用による架橋点が発生し、これにより、架橋構造体が形成される。

【0045】
式(1a)中、Rがアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルコキシ基として炭素数1~10のアルコキシ基が例示され、直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。

【0046】
式(1a)中、Rがチオアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該チオアルコキシ基として炭素数1~10のチオアルコキシ基が例示され、直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。

【0047】
式(1a)中、Rがアルキル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルキル基として炭素数1~30のアルキル基が例示され、直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。

【0048】
式(1a)中、Rが1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミノ基の窒素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。

【0049】
式(1a)中、Rが1個の置換基を有していてもよいアミド基であれば、アミド基の炭素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。

【0050】
式(1a)中、Rがアルデヒド基であれば、アルデヒド基の炭素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。

【0051】
式(1a)中、Rがカルボキシル基であれば、カルボキシル基の炭素原子が主鎖(C-C結合)の炭素原子と結合し得る。

【0052】
式(1a)中、Rとしては、上述したホスト基が例示される。

【0053】
式(1a)中、Rはアミド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成されていることが好ましい。すなわち、式(1a)で表される繰り返し構成単位は、水素原子がRで置換されたアミド基を側鎖に有する構造及び水素原子がRで置換されたカルボキシル基を側鎖に有する構造の少なくともいずれか一方を有していることが好ましい。この場合、重合体Aの合成が容易である。また、硬さの制御が容易な高分子ゲルを得ることができる。

【0054】
式(2a)中、Rの定義は上記式(1a)中のRと同様であり、主鎖(C-C結合)への結合の仕方も同様である。

【0055】
式(2a)中、Rとしては、上述したゲスト基が例示される。

【0056】
また、式(2a)中、Rはアミド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成されていることが好ましい。すなわち、式(2a)で表される繰り返し構成単位は、水素原子がRで置換されたアミド基を側鎖に有する構造及び水素原子がRで置換されたカルボキシル基を側鎖に有する構造の少なくともいずれか一方を有していることが好ましい。この場合、重合体Aの合成が容易である。また、硬さの制御が容易な高分子ゲルを得ることができる。

【0057】
式(3a)中、Rが1個の置換基を有するカルボキシル基としては、例えば、カルボキシル基の水素原子がアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基)で置換されたカルボキシル基が挙げられる。

【0058】
式(3a)中、Rが1個以上の置換基を有するアミド基、すなわち、第2級アミド又は第3級アミドである場合、第1級アミドの少なくとも一つの水素原子又は2個の水素原子がアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基)で置換されたアミド基が挙げられる。

【0059】
また、式(3a)中、Rは、アミノ基;アミド基;水素原子がアルキル基、水酸基又はアルコシル基で置換されたアミド基;カルボキシル基;水素原子がアルキル基、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシエチル基)又はアルコシル基で置換されたカルボキシル基;であることが好ましい。この場合、重合体Aの合成が容易である。また、硬さの制御が容易な高分子ゲルを得ることができる。

【0060】
重合体A中、各繰り返し構成単位は、規則的に配列していてもよいし、あるいはランダムに配列していてもよい。すなわち、重合体Aは、ブロックポリマー、交互ポリマー及びランダムポリマーのいずれであってもよく、また、グラフトポリマーであってもよい。

【0061】
重合体Aを構成する一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位各々の含有割合は特に限定されない。例えば、重合体Aのすべての繰り返し構成単位に対して、一般式(1a)で表される繰り返し構成単位が0.5~10モル%、一般式(2a)で表される繰り返し構成単位が0.5~10モル%とすることができる。この場合、ホスト基とゲスト基との相互作用が生じやすく、重合体Aが架橋構造を形成しやすくなるので、安定した架橋構造体となりやすく、しかも、硬さの制御が容易な高分子ゲルが形成されやすい。

【0062】
重合体Aのすべての繰り返し構成単位に対して、一般式(1a)で表される繰り返し構成単位が1~5モル%、一般式(2a)で表される繰り返し構成単位が1~5モル%であることがより好ましい。一般式(1a)で表される繰り返し構成単位が2~4モル%、一般式(2a)で表される繰り返し構成単位が2~4モル%であることが特に好ましい。

【0063】
高分子ゲルに含まれる溶媒は、水が例示され、その他、公知の細胞培養液を広く使用することができる。

【0064】
高分子ゲルは、本発明の効果が損なわれない限り、その他添加剤をさらに含有してもよい。その他添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、各種フィラー、電解質等が挙げられる。また、高分子材料の機械特性等を改良する目的で、架橋構造体とは別の高分子化合物を含んでもよい。

【0065】
高分子ゲルは、本発明の効果が損なわれない程度であれば、可逆的結合による架橋点の他、共有結合によって形成される架橋点を有していてもよい。

【0066】
高分子ゲルの形状は特に限定されず、培地に適合するように形成され得る。例えば、高分子ゲルは、公知の手段により、シート状等に形成され得る。

【0067】
高分子ゲルの製造方法は特に限定されない。例えば、重合性単量体の重合によって高分子ゲルを製造することができる。重合性単量体は、高分子ゲルを構成する繰り返し単位を生じさせるための化合物である。

【0068】
例えば、高分子ゲルは、上記一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位を形成するための重合性単量体を重合する方法によって製造され得る。この場合、上記各々の重合性単量体を水性媒体中、重合開始剤の存在下で重合することにより、高分子ゲルを製造することができる。なお、上記一般式(1a)、一般式(2a)及び一般式(3a)で表される繰り返し構成単位を形成するための重合性単量体をそれぞれ、「単量体(1)」、「単量体(2)」及び「単量体(3)」と略記する。

【0069】
重合性単量体としては、例えば、上記ホスト基を分子構造中に有する重合性単量体、上記ゲスト基を分子構造中に有する重合性単量体、並びに、ホスト基及びゲスト基のいずれをも有しない重合性単量体の混合物を使用できる。

【0070】
ホスト基を分子構造中に有する重合性単量体(以下、「単量体(1)」と略記する)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド-α-シクロデキストリン、(メタ)アクリルアミド-β-シクロデキストリン、(メタ)アクリルアミド-γ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリンメタクリレート、β-シクロデキストリンメタクリレート、γ-シクロデキストリンメタクリレート、α-シクロデキストリンアクリレート、β-シクロデキストリンアクリレート、γ-シクロデキストリンアクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド-α-シクロデキストリン、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド-β-シクロデキストリン、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド-γ-シクロデキストリン、アクリルアミドメチル-α-シクロデキストリン、アクリルアミドメチル-β-シクロデキストリン、アクリルアミドメチル-γ-シクロデキストリンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。上記単量体(1)は公知の方法で製造することができる。

【0071】
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルのいずれかを意味する。

【0072】
ゲスト基を分子構造中に有する重合性単量体(以下、「単量体(2)」と略記する)としては、例えば、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、1‐アクリルアミドアダマンタン、N-(1-アダマンチル)(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアダマンチル(メタ)アクリレート、エチルアダマンチル(メタ)アクリレート、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド、N-1-ナフチルメチル(メタ)アクリルアミド、イソボルニルアクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なお、単量体(2)の代わりにスチレンを使用してもよい。上記単量体(2)は公知の方法で製造することができる。

【0073】
ホスト基及びゲスト基のいずれをも有していない重合性単量体(以下、「単量体(3)」と略記する)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。

【0074】
重合性単量体(1)、(2)及び(3)の配合割合は、目的とする高分子ゲルの特性に応じて適宜決めることができる。例えば、重合性単量体(1)、(2)及び(3)の総量に対して重合性単量体(1)を0.5~10モル%、重合性単量体(2)を0.5~10モル%とすることができる。この場合、得られた重合体のホスト基とゲスト基との相互作用が生じやすく、架橋構造を形成しやすい。重合性単量体(1)、(2)及び(3)の総量に対して重合性単量体(1)を1~5モル%、重合性単量体(2)を1~5モル%とすることがより好ましい。また、重合性単量体(1)、(2)及び(3)の総量に対して重合性単量体(1)を2~4モル%、重合性単量体(2)を2~4モル%とすることが特に好ましい。

【0075】
重合性単量体の重合反応は、水性媒体中、特に水中で行うことができる。この場合、製造される高分子ゲルは、架橋構造体と水とを含む。高分子ゲルの形成が阻害されない程度であれば、水性媒体は水とその他の溶媒の混合溶媒であってもよい。その他の溶媒としては、上述の水よりも沸点が高い親水性の溶媒(例えば、DMF、DMSO等)が挙げられ、その他、水と相溶性のある有機溶媒、例えば、低級アルコールであってもよい。

【0076】
重合性単量体の重合反応で使用する重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム(以下、APSと称することもある)、アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと称することもある)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(以下、VA-044と称することもある)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)シリーズ等)等が挙げられる。好ましくは、APS、VA-044である。

【0077】
重合開始剤の濃度は、重合性単量体の総量に対し、0.5~5モル%とすることができる。

【0078】
水性媒体と、重合開始剤と、重合性単量体との混合物は、各々、所定の配合量で混合することで調製することができる。なお、混合物を調製するにあたり、単量体(1)と単量体(2)とをあらかじめ加熱混合してから、その他の原料を混合してもよい。この場合、単量体(1)と単量体(2)とのホスト-ゲスト相互作用による包接錯体が形成された状態で重合が進行し得るので、安定した架橋構造体を含む高分子ゲルが製造され得る。

【0079】
重合反応には必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、重合促進剤、架橋剤等が例示される。上記重合促進剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等である。

【0080】
上記重合反応は、使用する単量体の重合性や使用量、重合開始剤の半減期温度等に応じて適宜の条件で行うことができる。例えば、重合反応は、0~100℃、好ましくは、20~25℃で行う。重合反応の時間は、例えば、1~24時間であり、好ましくは、12~24時間である。なお、重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合は、例えば、上記混合物に波長200~400nmのUV光を照射することにより重合反応を行う。

【0081】
上記のように重合反応を行うことで、単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)が重合してなる共重合体が得られる。ここでいう共重合体は上記の重合体Aに相当する。

【0082】
上記重合反応の後、必要に応じて毒性を持ちうる単量体や低分子重合体の除去、精製及び乾燥を行うなどすることで、架橋構造体と溶媒とを含む高分子ゲルが得られる。

【0083】
なお、ホスト基及びゲスト基を有する高分子ゲルの別の製造方法として、ホスト基及びゲスト基を有していない重合体をあらかじめ製造しておき、この重合体とホスト分子及びゲスト分子を反応させて、重合体側鎖にホスト基及びゲスト基を導入する方法も挙げられる。

【0084】
上記製造方法は、生成物がホスト-ゲスト相互作用によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含む高分子ゲルである場合の例であるが、その他の可逆的結合によって架橋された架橋構造体と溶媒とを含む高分子ゲルも、使用する重合性単量体を適宜変更すれば、同様の製造方法で得ることができる。

【0085】
以上のように形成される培地用高分子ゲルの一つの特徴として、その硬さを容易に調節できる点が挙げられる。例えば、高分子ゲルの硬さは、架橋構造体の架橋点である可逆的結合の数に依存しやすい。高分子ゲルの種類にもよるが、例えば、架橋構造体の架橋点が多くなるほど、高分子ゲルがより硬くなることがあり、つまり、可逆的結合の数が多いほど、高分子ゲルがより硬くなることがある。従って、高分子ゲルに含まれる架橋構造体の可逆的結合の形成及び切断を制御することで、高分子ゲルの硬さを容易に調節することが可能となる。

【0086】
高分子ゲルの硬さを調節する方法は特に制限されず、可逆的結合の性質に応じて適宜の方法を採用することができる。可逆的結合がホスト基とゲスト基との結合であれば、高分子ゲルに競争物質を加えてその量を変化させることで硬さを調節する方法が挙げられる。

【0087】
ホスト基とゲスト基とを有する高分子ゲルでは、高分子ゲルに加える競争物質の量を変化させることで硬さを調節する方法が好ましい。この方法では、架橋構造体の架橋点である可逆的結合の形成又は切断を促進しやすいので、高分子ゲルの硬さを正確に制御できる。

【0088】
ここでいう「競争物質」とは、例えば、架橋構造体に形成されている可逆的結合の形成及び切断に寄与する性質を有する物質をいう。特には、「競争物質」とは、架橋構造体に形成されている可逆的結合の形成及び切断を促進させる作用を有する物質をいう。より具体的には、架橋構造体中の高分子鎖が有している可逆的結合可能な官能基に対して、可逆的に結合することが可能である物質を「競争物質」ということができる。

【0089】
競争物質は、細胞の性質、寿命等に影響を与えるおそれが少ない化合物であることが特に好ましい。

【0090】
競争物質は、架橋構造体が有している可逆的結合可能な基を形成することができる分子同様であってもよいし、あるいは、異なる分子であってもよい。

【0091】
競争物質が高分子ゲルに添加されると、高分子鎖の架橋点を形成している可逆的結合が切断されて、その可逆的結合を形成していた基は、添加された競争物質の方と可逆的結合を形成し得る。これにより、架橋構造体の架橋点の数が変化し、その結果、高分子ゲルの硬さ、例えば、高分子ゲルの弾性率に変化がもたらされる。

【0092】
可逆的結合が、ホスト基とゲスト基との結合(ホスト-ゲスト相互作用)である架橋構造体を含む高分子ゲルであれば、上記競争物質としては、ホスト分子及びゲスト分子の少なくとも一方が挙げられる。競争物質としてのホスト分子及びゲスト分子は、高分子鎖に結合しているホスト分子又はゲスト分子と同様の分子であってもよいし、あるいは、異なる構造の分子であってもよい。

【0093】
図1は、架橋構造体に形成されているホスト-ゲスト相互作用による架橋点の数が、競争物質の存在によって変化する様子を模式的に説明した図である。具体的に、図1は、高分子ゲルBの状態において(図1(a))、競争物質を加えた場合の架橋点の変化の様子((図1(b))及び競争物質を除去した場合の架橋点の変化の様子(図1(a))を示している。

【0094】
図1(a)に示すように、この形態の高分子ゲルBは、架橋構造体1を含む。架橋構造体1は、側鎖にホスト基11及びゲスト基12を有する高分子鎖10の架橋体である。この架橋体は、ホスト基11及びゲスト基12とのホスト-ゲスト相互作用によって架橋点15(図1(a)の破線丸枠)が形成されている。なお、ホスト基11は、例えば、βシクロデキストリンから1個の水素原子が除された基であり、ゲスト基12は、例えば、アダマンタンから1個の水素原子が除された基である。

【0095】
このような高分子ゲルBに、競争物質としてのホスト分子21を添加すると、図1(b)に示すように、ホスト分子21は、高分子鎖に結合しているゲスト分子12(ゲスト基)と結合、つまり、ホスト-ゲスト相互作用をする。そして、ホスト分子11(ホスト基)及びゲスト分子12(ゲスト基)とのホスト-ゲスト相互作用により形成されていた架橋点15が消失する。なお、図1において、ホスト分子21はβシクロデキストリンである。

【0096】
このようにして、架橋構造体中の架橋点の数が減少し、その結果として、高分子ゲル自体の弾性率に変化がもたらされる。

【0097】
図1(b)において、競争物質であるホスト分子21に代えてゲスト分子を添加した場合にあっても上記同様、架橋点15が消失し、競争物質であるゲスト分子が、高分子鎖に結合しているホスト基11とホスト-ゲスト相互作用をする。

【0098】
高分子ゲルに競争物質を含ませる方法は、特に限定されない。例えば、競争物質を含む液体中に高分子ゲルを浸漬させることで、高分子ゲルに競争物質を含ませることができる。以下、この方法を「浸漬法」と称することがある。また、競争物質を含む液体を「液体A」と表記する。この浸漬法によれば、競争物質が高分子ゲルの架橋構造体中に浸透する。従って、液体A中の競争物質の濃度を調節することで、高分子ゲルに含まれる競争物質量を制御でき、これにより、架橋構造体の架橋点の数を変化させることができる結果、高分子ゲルの硬さを制御できる。

【0099】
浸漬法における液体Aの種類は特に限定されず、例えば、高分子ゲルに含まれる溶媒と同じにすることができる。もちろん、浸漬法に用いる液体Aは高分子ゲルに含まれる溶媒と異なる種類であってもよい。浸漬法に用いる液体Aは2種以上の溶媒を含んでもよい。また、浸漬法に用いる液体Aは、培地で培養させる細胞が含まれた培養液を含むものであってもよい。

【0100】
上記浸漬法においては、高分子ゲルを溶媒又は培養液に浸し、この高分子ゲルが浸されている溶媒又は培養液中に上記競争物質を直接又は溶媒に溶解させた状態で添加することで、高分子ゲルに競争物質を含ませることができる。あるいは、液体Aをあらかじめ調製して、この液体Aへ高分子ゲルを浸漬させることで、高分子ゲルに競争物質を含ませることができる。液体Aを調製する方法は特に限定されず、例えば、競争物質を直接溶媒に添加する方法を採用できる。

【0101】
また、液体Aは、送液ポンプを用いて連続的に、高分子ゲルが浸された溶媒に添加することができる。この送液する競争物質の濃度を調節すれば、高分子ゲルが浸されている液体A中の競争物質濃度を連続的に変化させることができ、高分子ゲルに含まれる競争物質の濃度を簡便な方法で制御できる。

【0102】
また、競争物質が加えられた高分子ゲルから、競争物質を除去するなどして競争物質の濃度を減少させれば、再度、可逆的結合が形成され、架橋が生じる。これにより、高分子ゲルの硬さを回復させることが可能となり、高分子ゲルの硬さを元の状態に戻す又は近づけることができる。このように、高分子ゲル中の競争物質の濃度を調節することにより、高分子ゲルの硬さを可逆的に変えることができるので、本実施形態の高分子ゲルでは、その硬さを動的に制御することができる。なお、本明細書中において、高分子ゲルの硬さを「動的に制御する」とは、高分子ゲルの硬さを経時的に変化及び調節できることをいい、高分子ゲルの硬さを「静的に制御する」とは、初期状態からの変化及び調節ができないことをいう。

【0103】
高分子ゲル中の競争物質の濃度を減少させる方法としては、例えば、高分子ゲルを、競争物質を含まない溶媒で洗浄又は置換させればよい。また、上記送液ポンプを使用する場合は、競争物質を含む液体Aに代えて競争物質を含まない溶媒を送液ポンプで注入して、高分子ゲルが浸されている液体Aを希釈させればよい。

【0104】
<培地>
本実施形態の培地は、上記した培地用高分子ゲルを含んで構成される。培地用高分子ゲルとは、培地において細胞を培養させるための支持体となり得る基材である。培地は、基材としての当該培地用高分子ゲルを含む限りは、その形態は限定されない。例えば、細胞を培養させるための支持体は、本実施形態の培地用高分子ゲルのみで構成されていてもよいし、他の部材と組み合わせて構成されていてもよい。また、培地は、上記培地用高分子ゲルが培養液に浸されて形成されていてもよい。あるいは、培地は、上記培地用高分子ゲルを減圧脱水又は凍結乾燥等により溶媒を減少又は除去して乾燥状態(例えば、キセロゲル)としたところに、培養液を加えて再度膨潤させて形成させてもよい。

【0105】
培養液の組成は特に限定されず、例えば、公知の培養液と同様とすることができる。培養液は、その他、公知の成分、例えば、糖分、脂質、アミノ酸やミネラル、ビタミン等の細胞培養のための栄養成分、細胞培養の増殖因子となる成分、細胞を遊走させる遊走因子、pH調整剤等が含まれていてもよい。

【0106】
上記培地は、培地用高分子ゲルを含み、上述の方法によって基材としての高分子ゲルの硬さを容易に制御することができるので、培地の硬さを制御することが可能となる。なお、念のための注記に過ぎないが、本明細書でいう「培地の硬さ」とは、特には細胞を培養するために支持する基材の弾性率のこという。特に、細胞の培養においては、培地の硬さが細胞の分化や細胞周期に大きな影響を与え得るため、硬さを自在に制御できる上記培地は、これまでにない細胞の分化や細胞周期、増殖、形態等の制御を可能とするものである。

【0107】
本実施形態の培地で培養できる細胞の種類は特に限定されず、幹細胞のような未分化の細胞でも、筋芽細胞のような分化途中の細胞でも、線維芽細胞のような分化の進んだ細胞でも、終末分化細胞でもよい。細胞は、初代培養細胞であってもよいし、細胞株であってもよい。本実施形態の培地を用いて未分化の細胞を培養することにより、その細胞周期、具体的には分化や分化を伴わない増殖などを動的に制御し得る。未分化の細胞としては、受精卵;胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞;栄養外胚葉幹細胞(TS細胞)、胚体外内胚葉細胞(XEN細胞)、エピブラスト幹細胞、間葉系幹細胞;造血幹細胞;脂肪由来幹細胞;精子幹細胞(GS細胞);歯髄幹細胞;神経幹細胞;膵幹細胞;肝幹細胞;皮膚幹細胞;がん幹細胞などが挙げられる。幹細胞より分化の進んだ分化途中の細胞としては、前駆細胞が挙げられる。前駆細胞の例としては、膵前駆細胞、神経前駆細胞が挙げられる。終末分化細胞の例としては、神経細胞、筋細胞、肝細胞が挙げられる。細胞は、一種類のみであってもよく、二種類以上でもよい。

【0108】
また、本実施形態の培地により、細胞培養用のキットを製作することもできる。このようなキットは、上記培地を含むことで、細胞の培養に適したものである。

【0109】
<細胞の培養方法>
培養の方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。特に、上記培地は、硬さを制御できる点に特徴があるので、例えば、次のように培地の硬さを変化させつつ、細胞を培養することができる。

【0110】
まず、培地用高分子ゲルを含む培地を準備する。例えば、シャーレ等の容器に高分子ゲルを収容し、それを細胞培養液等で馴化することで、高分子ゲルが液体(例えば、前記液体A)に浸された培地を得ることができる。

【0111】
高分子ゲルを培養液等の液体に浸すにあたっては、高分子ゲルに含まれる溶媒の置換を行うことができる。この溶媒の置換は、公知の方法によって行うことができる。置換後の高分子ゲルに含まれる溶媒は、例えば、培養液の溶媒と同じとすることができる。

【0112】
上記により培地が得られ、細胞が培養される。

【0113】
次いで、培地における高分子ゲルの硬さを変化させるべく、競争物質を高分子ゲルが浸されている液体中へ添加する。競争物質を添加するにあたっては、直接、液体中へ競争物質を添加してもよいし、あるいは、競争物質を溶解又は希釈して添加してもよい。また、競争物質は、送液ポンプを用いて連続的に高分子ゲルが浸されている液体中へ添加することができる。具体的に、高分子ゲルが収容されている容器に注入口と排出口を設け、送液ポンプを注入口に接続することで、競争物質を含む液体を連続的に液体中へ添加することができる。容器に注入させた液体は、必要に応じて排出口から排出させればよい。

【0114】
上記のようにして、液体中に競争物質が添加されると、高分子ゲル中の架橋構造体の架橋点の数が減少し、培地の硬さが変化し得る。

【0115】
本実施形態の細胞の培養方法では、培地に可逆的結合の形成を阻害する競争物質を添加する操作を有することにより、細胞を培養している培地の硬さを変化させることができるので、細胞の動的応答をその場で観測しながら培地の硬さを調節することができる。

【0116】
さらに、培地に加えられた競争物質の濃度を減少させれば、再度、高分子ゲル中の架橋構造体の高分子鎖の間の可逆的結合によって架橋が生じるので、高分子ゲルの硬さを徐々に回復させることができる。これによって、細胞の培養挙動も可逆的に制御することが可能となる。

【0117】
競争物質の濃度を減少させる方法としては、例えば、上記送液ポンプを使用するなどして競争物質を含まない液体(例えば、競争物質を含まない培養液)を培地に添加し、培地中の液体を置換すればよい。これにより、培地に含まれる競争物質が希釈され、競争物質の濃度を減少させることができる。

【0118】
競争物質の濃度を減少させた後、さらに、上記同様の操作により、競争物質の濃度を増加させる操作を行ってもよい。このように、競争物質の濃度を増加及び減少させる操作を繰り返し行うことができる。

【0119】
以上のように、本実施形態の細胞の培養方法では、培地中の競争物質の濃度を減少させる操作及び増加させる操作により、細胞を培養している培地の硬さを自在に変化させることができる。その結果、細胞の培養挙動を動的に変化させることができる。

【0120】
前記培地に含まれる前記競争物質の濃度を10mol/L以下の範囲に調節することが好ましい。この範囲で、競争物質の量を調節できれば、培地の硬さは、細胞の安定な培養に適した範囲となり得る。ここでいう競争物質の濃度とは、培地用高分子ゲルが浸されている液体に対する濃度である。

【0121】
前記競争物質の濃度は、1mol/L以下の範囲に調節することができ、0.05mol/L以下の範囲に調節することがより好ましい。前記競争物質の濃度の下限は特に限定的ではないが、例えば、0.0001mol/Lである。

【0122】
以上のように、本実施形態の細胞の培養方法によれば、細胞の培養挙動も可逆的に制御することができることから、従来にはない細胞分化の制御技術を確立できることが期待される。しかも、培地の硬さを、競争物質の濃度に応じて変化させることができるので、細胞に悪影響をおよぼすおそれが小さい条件にて細胞の培養挙動を制御することができる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0124】
(調製例1:培地用高分子ゲルの調製)
図2に示す反応スキームにより、高分子ゲルを調製した。
【実施例】
【0125】
具体的には、水中にて、ホスト基含有重合性単量体(単量体(1))として6-アクリルアミド-β-シクロデキストリン(βCD-AAm)及びゲスト基含有重合性単量体(単量体(2))としてN-(1-アダマンチル)アクリルアミド(Ad-AAm)をそれぞれ40mmol/kgの濃度になるように混合した。この混合液を密封状態にて、90℃で3時間の撹拌を行った。得られた混合液を室温まで放冷し、そこに単量体(3)としてアクリルアミドを1.92mol/kgの濃度になるように溶解することで、重合性単量体の総濃度が2mol/kgとなる溶液を調製した。
【実施例】
【0126】
その後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム20mmol/kg、N,N,N´,N´-テトラメチルエチレンジアミン20mmol/kgの濃度になるようにこの順に加え、ガラス基板上に薄く広げ室温で1時間放置することにより、ゲル化を進行させ、ホスト基とゲスト基との可逆的結合によって架橋された架橋構造体を得た。このように得られた架橋構造体を、さらにジメチルスルホキシド(DMSO)と水の混合溶媒にて溶媒を交換しながら洗浄し、最終的に架橋構造体に含まれる溶媒を水に置換することで、厚さ約70μm、25mm四方の高分子ゲルを得た。当該高分子ゲルは、βCD-AAm由来の繰り返し構成単位及びAd-AAm由来の繰り返し構成単位を、いずれも重合体中に2モル%の割合で含む。なお、図2において、全ての重合性単量体に対するホスト基含有重合性単量体、ゲスト基含有重合性単量体の仕込みmol%をそれぞれx、yとしてβCD-Ad gel(x,y)と表記している。
【実施例】
【0127】
(試験例1:弾性率の測定)
調製例1で調製した高分子ゲルを、一方に注入口を、その反対側に排出口を備える35mm径のプラスチック製ディッシュ内に固定し、そこにRoswell Park Memorial Institute培地(以下、「RPMI培地」という。)を添加して高分子ゲルを浸漬させ、試験を開始した。実験開始から10分毎に高分子ゲルの弾性率を測定した。なお、弾性率の測定は、原子間力顕微鏡(AFM)により行った。具体的には、カンチレバーを高分子ゲルに押し込み、その際のカンチレバーの変位とひずみに基づいて、弾性率を算出した。
【実施例】
【0128】
試験開始から25分後に、10mMのβ-CDを含むRPMI培地を注入口から添加してディッシュ内の溶液を置換し、試験開始85分後まで維持した。85分経過後、β-CDを含まないRPMI培地を注入してディッシュ内の溶液を置換し、試験開始235分後まで維持した。同様に、試験開始235分経過後から295分後まで10mMのβ-CDを含むRPMI培地を注入して維持し、試験開始295分経過後から445分後までβ-CDを含まないRPMI培地を注入して維持し、試験開始445分経過後、再度10mMのβ-CDを含むRPMI培地を注入した。弾性率の測定結果を図3(a)に白丸で示す。本試験において、β-CDを含むRPMI培地を注入する流速、及び、β-CDを含まないRPMI培地の注入はいずれも、4.3mL/minとした。
【実施例】
【0129】
(試験例2)
10mMのβ-CDを含むRPMI培地の代わりに2.5mMのβ-CDを含むRPMI培地を用いたこと以外は試験例1と同様にして弾性率を測定した。結果を図3(a)に黒丸で示す。
【実施例】
【0130】
試験例1、2の結果から、溶液中に競争物質であるβ-CDが存在することにより、架橋構造体中の架橋点が減少し、高分子ゲルの弾性率が低下すること、β-CD濃度が高いほど弾性率の低下も大きいこと、及び、溶液中のβ-CD濃度の増減に対応して高分子ゲルの弾性率も変化すること、すなわち、高分子ゲルの弾性率を動的に制御し得ることが示された。
【実施例】
【0131】
(試験例3)
調製例1で調製した高分子ゲルを、試験例1と同様のプラスチックディッシュ内に固定し、β-CDを含まないRPMI培地中で静置した後、0.5mMのβ-CDを含むRPMI培地を注入口から添加しディッシュ内の溶液を置換し、試験例1と同様にして高分子ゲルの弾性率を測定した。β-CDを1mM、2mM、5mM、10mM、15mM、20mM及び25mM含むRPMI培地を用いて、それぞれ同様に弾性率を測定した。弾性率を縦軸に、β-CD濃度を対数目盛の横軸にプロットした結果を図3(b)に示す。図3(b)に示す結果から、競争物質であるβ-CDの濃度が増えると、架橋構造体中の架橋点が減少することにより、高分子ゲルの弾性率が対数関数的に減少することが明らかである。すなわち、添加するβ-CDの量及び濃度等によって、高分子ゲルの弾性率を所望の値に動的に制御できることが示された。
【実施例】
【0132】
(試験例4:マウス筋芽細胞の形態観察)
調製例1で調製した高分子ゲルを、試験例1と同様のプラスチックディッシュ内に固定し、次いで、10%ウシ胎児血清ペニシリン、およびストレプトマイシンを含むRPMI-1640培地(以下、「β-CDを含まないRPMI培地」という。)をディッシュ内に注入し、ここに10000cellsのマウス筋芽細胞(C2C12)を播種し、測定開始まで24時間インキュベーションした。
【実施例】
【0133】
細胞の形態を倒立型顕微鏡(オリンパス社製IX81)で観察、撮影した。図4の左側から、測定開始時(図4(a))、測定開始から0.5時間後(図4(b))、1.5時間後(図4(c))、10.1時間後(図4(d))、10.4時間後(図4(e))、15.6時間後(図4(f))及び22.3時間後(図4(g))の細胞の写真を示す。なお、各写真の1辺の長さが108μmに相当する。この測定においては、まず、測定開始30分後から10mMのβ-CDを含むRPMI培地を注入口から添加し、ディッシュ内の溶液を置換して測定開始2時間後まで維持した。その後、β-CDを含まないRPMI培地を注入して測定開始20時間後まで高分子ゲルを弾性率が高い(固い)状態に維持した。次いで、10mMのβ-CDを含むRPMI培地を注入し、測定開始24時間後まで高分子ゲルを弾性率が低い(柔らかい)状態に維持した。
【実施例】
【0134】
測定開始直後及び測定開始から30分後の高分子ゲルの弾性率が高い(固い)状態では、図4(a)、(b)の2枚の写真から明らかな通り、細胞が広がった状態であるものの、高分子ゲルの弾性率を低くした1.5時間後(図4(c))では、細胞は丸い形状に変化した。高分子ゲルの弾性率を再び高くしてから8時間を経過した時点(測定開始から10.1時間後)では、図4(d)に示す通り依然丸い形状であったが、10.4時間後(図4(e))には急に広がった形状へと変化を始め、約15時間経過後には図4(f)から明らかな通り、大きく広がった。再び、高分子ゲルの弾性率を低くした22.3時間後の時点では、図4(g)から明らかな通り、細胞は再び丸い形状となった。
【実施例】
【0135】
以上の結果から、高分子ゲルの弾性率が高いとき(固いとき)は、細胞は広がった形状となり、競争物質を添加し弾性率が低くなったとき(柔らかいとき)は、細胞は球に近い形状となること、この形状変化は繰り返すことができること、特に球状から広がった形状への変化には時間を要することが明らかとなった。
【実施例】
【0136】
(試験例5)
試験例4の観察と同時に、デジタルデータを2値化処理し、細胞の面積と細胞の真円度を求めた。細胞の面積を図5(a)に、細胞の真円度を図5(b)に示す。なお、細胞の真円度は下記式
(4π×面積)/{(細胞の外周の長さ)^2}
より求め、真円度が1に近いほど円形に近い。
【実施例】
【0137】
図5(a)、(b)に示す結果から、高分子ゲルの弾性率が低下すると(図5(a)、(b)におけるβCDと表示された網掛け領域)、比較的急速に細胞が円形に向かって変形し、細胞の面積も減少すること、及び、高分子ゲルの弾性率が低い状態から高い状態へと変化すると、細胞はすぐには変形せず、しばらく面積を変えずにいるものの、一定時間経過後急速に変形することが明らかである。また、測定開始20時間経過後に再び高分子ゲルの弾性率を低下した際、再度細胞が円形に近づいたことから、本発明の高分子ゲルの弾性を変えることにより細胞の形状を変化できること、いいかえると、本発明の高分子ゲルを用いて細胞を培養することにより、細胞の性状を動的に制御できることが示された。
【実施例】
【0138】
図6は、上記試験例4、5の様子を示す模式図である。図6に示すように、競争物質の濃度が低く、培地が硬い状態の場合では細胞が拡がった形態となり、逆に培地が柔らかい状態の場合では細胞が収縮した球状に近い形態となる。
【実施例】
【0139】
以上より、培地用高分子ゲルによれば、その硬さに応じて細胞の形および機能を可逆的に制御させることが可能であることが示された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5