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明細書 :配列選択的遺伝子活性制御剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-199471 (P2019-199471A)
公開日 令和元年11月21日(2019.11.21)
発明の名称または考案の名称 配列選択的遺伝子活性制御剤
国際特許分類 C07D 413/14        (2006.01)
A61K  47/54        (2017.01)
A61K  31/5377      (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
C07K   7/02        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
FI C07D 413/14 CSP
A61K 47/54 ZNA
A61K 31/5377
C12N 15/09 Z
C12Q 1/68
C07K 7/02
A61P 43/00 111
C12N 9/10
C12N 9/99
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 25
出願番号 特願2019-091307 (P2019-091307)
出願日 令和元年5月14日(2019.5.14)
新規性喪失の例外の表示 新規性喪失の例外適用申請有り
優先権出願番号 2018093273
優先日 平成30年5月14日(2018.5.14)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】杉山 弘
【氏名】芹江 和夫
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
【識別番号】100170520、【弁理士】、【氏名又は名称】笹倉 真奈美
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4B063
4C063
4C076
4C086
4H045
Fターム 4B050GG06
4B050LL03
4B063QA20
4B063QQ26
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR06
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QS02
4B063QX01
4C063AA05
4C063BB01
4C063CC51
4C063DD26
4C063EE01
4C076AA95
4C076CC29
4C076CC41
4C076DD60
4C076EE59
4C076FF67
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC73
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA51
4H045DA55
4H045EA50
4H045FA10
要約 【課題】DNAやヒストンの特定の領域に特定のエピジェネティック修飾を導入する技術を開発すること。
【解決手段】特定のDNA配列を認識するピロール-イミダゾールポリアミドと、ブロモドメイン阻害剤とを含む複合体を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
特定のDNA配列を認識するピロール-イミダゾールポリアミドと、ブロモドメイン阻害剤とを含む複合体。
【請求項2】
ブロモドメイン阻害剤がヒストンアセチル基転移酵素、ヒストンメチル基転移酵素、ATP依存性クロマチンリモデリング複合タンパク質、およびBETタンパク質からなる群から選択されるタンパク質が含有するブロモドメインと相互作用する化合物である、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
ブロモドメイン阻害剤が、ヒストンアセチル基転移酵素と相互作用する化合物である、請求項2記載の複合体。
【請求項4】
ブロモドメイン阻害剤が、5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物である、請求項1~3のいずれか1項記載の複合体。
【請求項5】
5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物が、下記式:
【化1】
JP2019199471A_000015t.gif
[式中、
Rは、NHまたはNHCOCHCHCHCOOHであり、
R’は、H、CH、F、Cl、またはNOであり、
R’’は、下記式:
【化2】
JP2019199471A_000016t.gif
で表される基であり、
R’’’は、HまたはCHであり、
R’’’’は、HまたはCHであり、
Xは、CHまたはNであり、
Yは、CHまたはOであり、
Zは、CHまたはOである]
で表される化合物である、請求項4記載の複合体。
【請求項6】
式I:
【化3】
JP2019199471A_000017t.gif



または式II:
【化4】
JP2019199471A_000018t.gif
で示される、請求項3記載の複合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合体を含む、生化学的活性制御用組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項記載の複合体を含む、ヒストン修飾制御用組成物。
【請求項9】
請求項3~6のいずれか1項記載の複合体をヌクレオソームを含む試料に接触させる工程を含む、DNA配列選択的にヌクレオソームをアセチル化する方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項記載の複合体を含む、ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項記載の複合体を試料に接触させる工程を含む、DNA配列選択的にブロモドメイン含有タンパク質を動員する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、特定のDNA配列を認識するピロール-イミダゾールポリアミドおよびブロモドメイン阻害剤を含む複合体(コンジュゲート)、ならびに該複合体を含む生化学的活性制御用組成物、該複合体を含むヒストン修飾制御用組成物、特にヒストンアセチル化誘導組成物、該複合体を含むブロモドメイン含有タンパク質動員(リクルート)組成物、該複合体を用いるヌクレオソームアセチル化方法、および該複合体を用いるブロモドメイン含有タンパク質動員方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞のゲノムDNAは、ヌクレオソームを最小単位とするクロマチンとして核内に収納されている。ヌクレオソームはDNAとヒストンによって構成されており、該ヌクレオソーム構造の反復によってクロマチンが形成されている。クロマチン構造や遺伝子発現は、ヒストンやDNAのエピジェネティック修飾に調節されていると考えられる。
【0003】
ヒストンにおける主要な翻訳後修飾(posttranslational modification(PTM))の1つとして、リジン残基のアセチル化があり、転写活性化に強く相関する。ヒストンリジン残基のアセチル基修飾は、ヒストンアセチル基転移酵素(histone acetyltransferase(HAT))により導入され、ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase(HDAC))によって消去される。アセチル化ヒストンは、一般的にユークロマチンや活性化遺伝子の領域に見られ、2つのメカニズムを介して機能することが知られている。1つは、ヒストンタンパク質の正電荷を減少させて、ヒストンとDNA間の相互作用を弱化し、次いでクロマチン構造を開けることである。もう1つは、アセチル化リジン残基に選択的に結合するブロモドメインを含有するタンパク質によって仲介されるメカニズムである。ヒストンアセチル化の遺伝子座特異的(すなわち、DNA配列特異的)調節は生物学的プロセスにおいて必須であるが、現在、目的の領域でのヒストンアセチル化を調節する技術は非常に限られている。
【0004】
一方、N-メチルピロールとN-メチルイミダゾールからなるピロール-イミダゾールポリアミド(以下、「PIポリアミド」または「PIP」ともいう)は、合成オリゴマーであり、ヘアピン連結によって対面するピロール(P)およびイミダゾール(I)対により、DNAの副溝に塩基配列選択的に結合可能な化合物である。PIポリアミドは、P/I対がC・G塩基対を、P/P対がA・TまたはT・A塩基対を、I/P対がG・C塩基対を認識し、これにより任意の二重鎖DNA配列に特異的に結合することができる。したがって、様々な順序のP/I対を設計することにより、所望のゲノム上の標的部位へのPIポリアミドのインビボデリバリーが可能になることから、核内のDNAを標的としてさまざまな応用がされてきた。
【0005】
近年の研究では、強力なHDAC阻害剤であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)とコンジュゲートしたPIポリアミドが合成された(非特許文献1、非特許文献2)。また、HATを活性化する化合物であるN-(4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル)-2-エトキシベンズアミド(CTB)とコンジュゲートしたPIポリアミドが合成された(特許文献1)。該SAHA-PIポリアミドコンジュゲートおよびCTB-PIポリアミドコンジュゲートは、標的遺伝子の発現を特異的にアップレギュレートすることが示された。しかしながら、遺伝子活性化のレベルはいまだ一定ではない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第WO2016/129680
【0007】

【非特許文献1】Pandian, G. N. et al., Sci Rep 4, 3843, doi:10.1038/srep03843 (2014)
【非特許文献2】Saha, A. et al., Bioorg Med Chem 21, 4201-4209, doi:10.1016/j.bmc.2013.05.002 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、DNAの特定の領域または特定のヌクレオソームに特定のエピジェネティック修飾を導入する技術を開発することを目的の一つとした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ブロモドメイン(以下、「BD」ともいう)を有するHATは、BDを介してアセチル化されたリジンへ結合し、HATドメインで近傍のリジンをアセチル化することにより、アセチル基修飾が伝播すると考えられる。発明者らは、この天然のアセチル化伝播システムに注目し、鋭意研究の結果、ブロモドメインへ結合するブロモドメイン阻害剤と配列特異的にDNAへ結合するPIポリアミドを用いて、DNA配列特異的にブロモドメイン含有タンパク質をリクルート(動員)することにより、該タンパク質による修飾をDNA上の特定の領域にもたらす技術の開発に成功した。すなわち、発明者らは、ブロモドメイン阻害剤(以下、「Bi」ともいう)およびPIポリアミドの二分子を結合させることによりBi—PIポリアミドコンジュゲート(以下、「Bi-PIP」ともいう)を合成し、一連の新規技術を完成させた。
【0010】
すなわち、以下の態様が提供される。
[1]特定のDNA配列を認識するピロール-イミダゾールポリアミドと、ブロモドメイン阻害剤とを含む複合体、
[2]ブロモドメイン阻害剤がヒストンアセチル基転移酵素、ヒストンメチル基転移酵素、ATP依存性クロマチンリモデリング複合タンパク質、およびBETタンパク質からなる群から選択されるタンパク質が含有するブロモドメインと相互作用する化合物である、[1]記載の複合体、
[3]ブロモドメイン阻害剤が、ヒストンアセチル基転移酵素と相互作用する化合物である、[2]記載の複合体、
[4]ブロモドメイン阻害剤が、5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物である、[1]~[3]のいずれか1項記載の複合体、
[5]5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物が、下記式:
【0011】
【化1】
JP2019199471A_000002t.gif
[式中、
Rは、NHまたはNHCOCHCHCHCOOHであり、
R’は、H、CH、F、Cl、またはNOであり、
R’’は、下記式:
【0012】
【化2】
JP2019199471A_000003t.gif
で表される基であり、
R’’’は、HまたはCHであり、
R’’’’は、HまたはCHであり、
Xは、CHまたはNであり、
Yは、CHまたはOであり、
Zは、CHまたはOである]
で表される化合物である、[4]記載の複合体、
[6]式I:
【0013】
【化3】
JP2019199471A_000004t.gif
または式II:
【0014】
【化4】
JP2019199471A_000005t.gif
で示される、[3]記載の複合体、
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の複合体を含む、生化学的活性制御用組成物、
[8][1]~[6]のいずれか1項記載の複合体を含む、ヒストン修飾制御用組成物、[9][3]~[6]のいずれか1項記載の複合体をヌクレオソームを含む試料に接触させる工程を含む、DNA配列選択的にヌクレオソームをアセチル化する方法、
[10][1]~[6]のいずれか1項記載の複合体を含む、ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物、および
[11][1]~[6]のいずれか1項記載の複合体を試料に接触させる工程を含む、DNA配列選択的にブロモドメイン含有タンパク質を動員する方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、一例として、所望の標的DNA配列を認識するPIポリアミドと、所望のBD含有タンパク質のBDに対する阻害剤との複合体Bi-PIPを用いることにより、該標的DNA配列を含む特定のヌクレオソームに所望の修飾をもたらすことができる。本開示の一態様において、Bi-PIPは、ヌクレオソーム上の標的DNA配列へ選択的に結合し、Biを通じて所望のBD含有タンパク質(例えばHAT)を標的配列付近にリクルートし、それにより、当該配列付近に所望の修飾(例えばリジン基のアセチル化)をもたらす。例えば、本明細書に開示されるBi-PIPによる標的ヌクレオソームの修飾技術は、ヌクレオソーム単位でのエピジェネティック修飾クロストークのメカニズム解明や、エピゲノム編集・内在性遺伝子の発現制御などへの応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例で使用したBi-PIP、Bi、およびPIPの構造を表す。図中、Meはメチル基を示す。
【図2A】図2Aは、実施例で使用したDNA鋳型を図示したものである。
【図2B】図2Bは、実施例で行ったHAT反応-インビトロChIP-qPCRの概略図である。
【図3】図3は、Bi-PIPによる、標的ヌクレオソームのアセチル化誘導の結果を示すグラフである。左から、陽性対照、ビヒクル群におけるP300を0、1、3、10、30、100nM添加した結果、Bi-PIP1群におけるP300を0、1、3、10、30、100nM添加した結果を示す。
【図4】図4は、Bi-PIP1、PIP1モノマー、Biモノマー、BiおよびPIP1の混合物による標的ヌクレオソームのアセチル化誘導の結果を示す。
【図5】図5は、Bi-PIP1およびBi-PIP2による標的ヌクレオソームのアセチル化誘導の結果を示す。
【図6】図6は、Bi-PIPによる、核抽出物中における標的ヌクレオソームのアセチル化誘導の結果を示す。
【図7A】図7Aは、培養細胞におけるBi-PIPによる選択的遺伝子活性化を示す。Bi-PIP1対ビヒクル(左)およびBi-PIP2対ビヒクル(右)のトランスクリプトーム比較のボルケーノプロットである。
【図7B】図7Bは、培養細胞におけるBi-PIPによる選択的遺伝子活性化を示す。Bi-PIP1またはBi-PIP2の存在下における、培養細胞中におけるNTSおよびIER5Lの発現をRT-qPCRによって定量した結果である。エラーバーは、2つの培養ウェルから得られたデータの標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.PIポリアミド
PIポリアミドは、一般に、N-メチルピロール単位(P)とN-メチルイミダゾール単位(I)と、γ-アミノ酪酸部分とを含むポリアミドであり、PとIとγ-アミノ酪酸部分とは互いにアミド結合(-C(=O)-NH-)で連結される(Trauger et al, Nature, 382, 559-61(1996); White et al, Chem.Biol., 4,569-78(1997);およびDervan, Bioorg. Med. Chem., 9, 2215-35(2001))。PIポリアミドは、γ-アミノ酪酸部分がリンカー(以下、「γ-リンカー」という)となって全体が折りたたまれてU字型のコンフォメーション(ヘアピン型)をとる。U字型のコンフォメーションにおいては、γ-リンカーを挟んでPとIとを含む2本の鎖が並列に並ぶ。この2本の鎖の向かい合うPおよび/またはIからなる対(以下、「ピロール-イミダゾール対」ともいう)が特定の組み合わせ(P/I対、I/P対、またはP/P対)のときに、PIポリアミドは、DNA中の特定の塩基対に高い親和性で結合する。例えば、P/I対はC・G塩基対に結合することができ、I/P対はG・C塩基対に結合することができる。また、P/P対はA・T塩基対およびT・A塩基対の両方に結合することができる。また、PIポリアミドには、PおよびIの他に、3-ヒドロキシピロール(Hp)またはβアラニンが含まれていてもよく、PをHpまたはβアラニンに置き換えることができる。Hp/P対は、T・A塩基対に結合することができる(White at al., Nature, 391, 468-71 (1998))。βアラニン/βアラニン対は、T・A塩基対もしくはA・T塩基対に結合することができる。βアラニン/I対はC・G塩基対に、I/βアラニン対はG・C塩基対に結合することができる。βアラニン/P対およびP/βアラニン対は、T・A塩基対もしくはA・T塩基対に結合することができる。また、γ-リンカー部分や、PIポリアミドのN末端に付加したβアラニン部分も、T・A塩基対もしくはA・T塩基対に結合することができる。P、I、Hp、および/またはβアラニンによって形成される対の構成、順序、および組み合わせ等を適宜変更することにより、標的のDNA配列を認識し、結合するPIポリアミドを設計することができる。

【0018】
本開示において、PIポリアミドを構成するPおよびIの1位の窒素上のメチル基は、水素またはメチル基以外のアルキル基で置き換わっていてもよい。メチル基以外のアルキル基の例としては、炭素数2~10個の直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基、好ましくは、炭素数2~5個の直鎖、分枝鎖直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基が挙げられ、例えば、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。また、メチル基を含め、アルキル基は置換されていてもよく、例えば、アルキル基中のメチレンは、酸素等で置換されていてもよい。さらに、本開示において、PIポリアミドを構成するPの3位はヒドロキシ基で置換されていてもよい。本明細書で用いる場合、「P」または「ピロール単位」および「I」または「イミダゾール単位」なる語は、上記したようなN置換またはN非置換ピロール単位、3-ヒドロキシピロール単位、およびN置換またはN非置換イミダゾール単位を包含する。

【0019】
本開示において、PIポリアミドを構成するγ-リンカーは、α位またはβ位に側鎖を有していてもよい。例えば、α位またはβ位がアミノ基で置換されたγ-リンカー、すなわち、N-α-N-γ-ジアミノ酪酸残基またはN-β-N-γ-ジアミノ酪酸残基からなるリンカーであってもよく、さらに該アミノ基が蛍光基やビオチン等の分子で修飾されていてもよい。

【0020】
本開示において、PIポリアミドのN末端およびC末端には、種々の官能基または分子が付加されていてもよい。PIポリアミドのN末端およびC末端に付加する官能基または分子は、当業者が適宜決定することができる。例えば、アミド結合を介して様々な官能基を付加することができる。該官能基の例としては、限定するものではないが、β-アラニン残基、γ-アミノ酪酸残基などのカルボキシル基、アセチル基、アミノ基等が挙げられる。例えば、限定するものではないが、N末端にはアセチル基が付加されていてもよい。例えば、限定するものではないが、C末端にはジメチルアミノプロピルアミノ基が付加されていてもよい。また、PIポリアミドのN末端およびC末端は、蛍光基やビオチン、イソフタル酸等の分子で修飾されていてもよい。本願明細書において、蛍光基としては、限定するものではないが、例えば、フルオレセイン、ローダミン系色素、シアニン系色素、ATTO系色素、Alexa Fluor系色素、BODIPYが挙げられる。フルオレセインには、フルオレセイン誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート等)も含まれる。

【0021】
また、本開示において、PIポリアミドは、DNAに対する結合能力を維持または向上するように修飾されたPIポリアミド修飾物であってもよい。該PIポリアミド修飾物としては、例えば、PIポリアミドのγ-リンカーのα位またはβ位にアミノ基を付加した修飾物、すなわち、N-α-N-γ-ジアミノ酪酸残基またはN-β-N-γ-ジアミノ酪酸残基からなるγ-リンカーを有する修飾物、該修飾物の上記アミノ基を蛍光基やビオチン等の分子で修飾した修飾物、PIポリアミドのN末端を蛍光基やビオチン等の分子で修飾した修飾物、およびPIポリアミドのC末端をイソフタル酸等の分子で修飾した修飾物等が挙げられる。

【0022】
本開示において使用されるPIポリアミドは、特定のDNA配列、すなわち、所望のいずれかのDNA配列を認識するように設計される。所望のDNA配列は、例えば、修飾または発現制御したい遺伝子の配列またはその関連配列の一部から選択すればよい。発現制御には、発現の活性化および抑制が包含される。

【0023】
本開示において使用されるPIポリアミドを構成する、P、I、Hp、および/またはβアラニンによって形成されるピロール-イミダゾール対の数は、2個以上であれば特に限定されないが、例えば3~12個、好ましくは4~10個、より好ましくは4~8個が挙げられる。対の個数が5個以上のDNA配列認識部分を有するPIポリアミドを設計する場合は、好ましくはβアラニンを含むように設計される。なお、本明細書において用いる場合、「ピロール-イミダゾール対」なる語は、P、I、Hp、およびβアラニンのいずれの組み合わせからなる対も包含する。

【0024】
PIポリアミドの設計方法および製造方法は公知である(例えば、特許第3045706号、特開2001-136974号、WO03/000683号、特開2013-234135号、特開2014-173032号参照)。例えば、Fmoc(9-フルオレニルメトキシカルボニル)を用いた固相合成法(Fmoc固相合成法)による自動合成法によって簡便に製造することができる。また、液相合成法によって製造することもできる。

【0025】
2.PIポリアミドコンジュゲート
本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」(複合体)は、安定したより大きな構築物を形成するのに十分な結合(例えば、共有結合)を介して連結されて、当該構築物を形成している2つまたはそれより多くの分子を指す。本開示において、一実施形態において、PIポリアミドは、そのN末端、C末端、および/またはγリンカー部位に、BD阻害剤が結合されてBi—PIポリアミドコンジュゲート(Bi-PIP)を形成している。

【0026】
本明細書で使用される場合、「ブロモドメイン(BD)」は、一般的には、アセチル化リジン残基を選択的に認識し、結合するタンパク質ドメインであり、HATをはじめ様々なタンパク質中に存在することが知られている。例えば、ブロモドメインは、ヒストン上のアセチル化リジン残基を認識する。

【0027】
本明細書において使用される場合、「BD阻害剤」との用語は、ブロモドメインと特異的に相互作用する化合物であり、近年、様々な化合物が同定され、また、その同定手法も開発されている。例えば、一実施形態において、BD阻害剤は、BDのポケットに特異的に結合して、アセチル化リジン残基との結合を妨害する化合物である。本明細書において用いる場合、BD阻害剤は、例えば、BDに特異的に結合する化合物であればよく、阻害作用をもたらす化合物に限定されず、阻害作用以外の相互作用をもたらす化合物であってもよい。

【0028】
本開示の態様において、PIポリアミドコンジュゲートに含まれるBD阻害剤は、特に限定されないが、好ましくは、所望の生化学的活性を有するBD含有タンパク質のBDに特異的に結合する化合物から選択される。このようなBD阻害剤は、既知の手法によって同定することもできる。該BD含有タンパク質としては、限定するものではないが、各種酵素や転写活性化因子等が挙げられ、より具体的には、例えば、HAT、ヒストンメチル基転移酵素、ATP依存性クロマチンリモデリング複合タンパク質、BET(bromodomain and extra-terminal)タンパク質(例えば、BRD2、BRD3、BRD4、BRDT等)等が挙げられる。さらに、HATドメインおよびBDの両方を有するHATとしては、P300/CBPファミリー、例えば、P300(KATB)およびCBP(KATA)等、GNATファミリー、例えば、GCN5(KATA)およびPCAF(KATB)等、TAF1(KAT)等が挙げられる。

【0029】
BD阻害剤の具体例としては、限定するものではないが、5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物、JQ1およびその類似化合物、I-BET762、OTX015等が挙げられる。本開示の態様においては、既知のBD阻害剤を使用してもよく、または既知の手法によって同定されたBD阻害剤を使用してもよい。

【0030】
BD阻害剤としての5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物の例としては、限定するものではないが、下記式:

【0031】
【化5】
JP2019199471A_000006t.gif
[式中、
Rは、NHまたはNHCOCHCHCHCOOHであり、
R’は、H、CH、F、Cl、またはNOであり、
R’’は、下記式:

【0032】
【化6】
JP2019199471A_000007t.gif
で表される基であり、
R’’’は、HまたはCHであり、
R’’’’は、HまたはCHであり、
Xは、CHまたはNであり、
Yは、CHまたはOであり、
Zは、CHまたはOである]
で表される化合物が挙げられる。

【0033】
BD阻害剤としての5-イソキサゾリル-ベンゾイミダゾール化合物のさらに具体的な例としては、限定するものではないが、下記式:

【0034】
【化7】
JP2019199471A_000008t.gif
[式中、Rは、NHまたはNHCOCHCHCHCOOHである]
で表される化合物が挙げられる。

【0035】
BD阻害剤とPIポリアミドとのコンジュゲーション(結合)は、常法により行うことができる(例えば、J. Am. Chem. SOC. 1995, 117, 2479-2490参照)。BD阻害剤は、PIポリアミドのN末端、C末端、および/またはγリンカー部位に、直接結合してもよいし、あるいはリンカーを介して結合してもよい。N末端、C末端、およびγリンカー部位から選ばれる2以上の位置に、BD阻害剤が結合する場合、各BD阻害剤は互いに同一であってもよく、または異なっていてもよい。

【0036】
上記PIポリアミドコンジュゲートにおけるBD阻害剤とPIポリアミドとの間のリンカーとしては、BD阻害剤の作用を妨げず、かつPIポリアミドのDNA配列認識を妨げないものであれば特に限定されないが、例えば、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、またはエーテル結合等そのもの、あるいはこれらの結合の1種類以上を形成する官能基を含む分子を例示することができる。「これらの結合の1種類以上を形成する官能基を含む分子」は、PIポリアミドおよび/またはBD阻害剤の末端部分と共に、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、およびエーテル結合等からなる群から選択される1種類以上の結合を形成する官能基を含む分子である。「これらの結合の1種類以上を形成する官能基を含む分子」はまた、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、およびエーテル結合等からなる群から選択される1種類以上の結合を1個以上含む分子であってもよい。好ましいリンカーとしては、アミド結合、またはアミド結合を形成する官能基を含む分子が挙げられる。上記リンカーは当業者により適宜決定することができる。

【0037】
本開示の一態様において、PIポリアミドコンジュゲートは、薬理学的に許容し得る塩の形態であってもよい。例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩もしくは臭化水素酸塩等の無機酸塩、または酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩もしくはトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。

【0038】
本開示の一態様において、PIポリアミドコンジュゲートは、PIポリアミド、BD阻害剤、および/またはPIポリアミドとBD阻害剤とを連結するリンカー部分の1つ以上の部分または分子が、エナンチオマーもしくはジアステレオマーの形態またはこれらの混合物で存在していてもよい。上記PIポリアミドコンジュゲートは、立体異性体の混合物またはそれぞれ純粋なもしくは実質的に純粋な異性体を包含する。上記複合体がジアステレオマーまたはエナンチオマーの形態で得られる場合、これらを当該技術で周知の慣用方法、例えば、クロマトグラフィーまたは分別結晶法等で分離することができる。

【0039】
また、上記PIポリアミドコンジュゲートは、PIポリアミド、BD阻害剤、および/またはPIポリアミドとBD阻害剤とを連結するリンカー部分の1つ以上の部分または分子上で、同位元素(例えば、H、13C、14C、15N、18F、32P、35S、125I等)等で標識されていてもよく、または重水素変換体であってもよい。

【0040】
3.ブロモドメイン含有タンパク質のリクルート(動員)
上記のとおり、本開示の一態様において、PIポリアミドコンジュゲートは、特定のDNA配列を認識するPIポリアミドおよび特定のBD含有タンパク質を標的とするBD阻害剤を含むため、該PIポリアミドのDNA認識能によりDNA上の特定の配列に結合すると同時に、該BD阻害剤を介して、該BD阻害剤の標的となるBD含有タンパク質を動員することができる。したがって、上記のPIポリアミドコンジュゲートを用いることにより、ゲノムDNA上の所望の特定の領域または該領域を含む特定のヌクレオソームに、所望の生化学的活性を有するBD含有タンパク質を動員することができ、延いては、上記の特定の領域またはヌクレオソームに、該BD含有タンパク質による所望の生化学的活性をもたらすことができる。上記生化学的活性には、限定するものではないが、翻訳後修飾、例えば、ヒストンの修飾、例えば、ヒストンのアセチル化やメチル化等も含まれる。したがって、本開示によれば、DNA上の特定の領域または特定のヌクレオソームにBD含有タンパク質を動員する組成物、すなわち、DNA配列選択的にBD含有タンパク質を動員する組成物(以下、「ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物」ともいう)が提供される。さらに、本開示によれば、DNA上の特定の領域または特定のヌクレオソームにBD含有タンパク質を動員する方法、すなわち、DNA配列選択的にBD含有タンパク質を動員する方法(以下、「ブロモドメイン含有タンパク質動員方法」ともいう)が提供される。さらには、本開示によれば、DNA上の特定の領域または特定のヌクレオソームにおいて生化学的活性を制御する組成物(以下、「生化学的活性制御用組成物」ともいう)、およびDNA上の特定の領域または特定のヌクレオソームにおいて、ヒストン修飾を制御する組成物(以下、「ヒストン修飾制御用組成物」ともいう)が提供される。ここで、「制御」には、活性化および抑制のいずれもが包含され、上記PIポリアミドコンジュゲートのターゲットとなるBD含有タンパク質の種類によって、所望の制御をもたらす組成物を製造することができる。

【0041】
本開示の一態様において、ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物、生化学的活性制御用組成物、およびヒストン修飾制御用組成物(以下、「ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物等」ともいう)は、本明細書に開示されるPIポリアミドコンジュゲートを含有する組成物である。該組成物は、上記PIポリアミドコンジュゲートそのものであってもよく、または使用目的に応じて、上記PIポリアミドコンジュゲートの他に担体や添加物を含んでいてもよい。該担体および添加物としては、好ましくは医薬上許容される担体および添加物であり、限定するものではないが、例えば、水、酢酸、有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤等が挙げられる。また、上記ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物等は、使用目的に応じて、常法にしたがい製剤化することもできる。該組成物の剤形は、経口投与および非経口投与用のいずれの剤形であってもよく、例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤、噴霧剤、塗布剤、点眼剤、外用剤、注射剤等が挙げられる。

【0042】
本開示の一態様において、ブロモドメイン含有タンパク質動員方法は、本明細書に開示されるPIポリアミドコンジュゲートまたは本明細書に開示されるブロモドメイン含有タンパク質動員組成物を試料と接触させることを特徴とする。該方法は、インビトロ、インビボ、およびエクスビボのいずれの方法も包含する。該試料は、DNA、例えばゲノムDNA、またはヌクレオソームを含むものであり、生体、および生体外試料が包含される。生体としては、二本鎖DNAを生体制御に利用するあらゆる生物、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)が挙げられる。生体外試料は、生体から単離されたいずれかの試料であり、例えば、限定するものではないが、血液、体液、各種細胞等が挙げられる。試料として細胞を用いる場合は、例えば、通常の培養培地中に上記PIポリアミドコンジュゲートまたはブロモドメイン含有タンパク質動員組成物を添加して培養すればよい。PIポリアミドコンジュゲートまたはブロモドメイン含有タンパク質動員組成物の添加量および培養条件は、当業者により適宜決定することができる。

【0043】
4.ヒストンアセチル化の誘導および促進
本開示の一態様において、PIポリアミドコンジュゲートがHATのBDに対する阻害剤を含む場合、該PIポリアミドコンジュゲートは、特定のヌクレオソームにヒストンアセチル化を誘導し、かつ、促進することができる。すなわち、該PIポリアミドコンジュゲートは、PIポリアミドのDNA認識能によりDNA上の特定の配列に結合すると同時に、BD阻害剤を介して、該BD阻害剤の標的となるHATを、該特定配列を含むヌクレオソームに誘導し、該特定配列の近辺のヒストン上のリジン基をアセチル化することができる。本開示において、上記PIポリアミドコンジュゲートにより一旦ヒストンアセチル化が誘導されると、HATに含まれるBDがアセチル化リジンに結合してその近辺のリジン基をアセチル化するというHATを介したアセチル基修飾伝播により、ヒストンアセチル化が促進される。このように、上記のHATに対するBD阻害剤を含むPIポリアミドコンジュゲートは、BDによって仲介されるヒストンアセチル化の天然の伝播システムを標的アセチル化の調節に利用することにより、ヌクレオソームのアセチル化を促進する。したがって、本開示によれば、DNA配列選択的にヌクレオソームのヒストンアセチル化を誘導し且つ促進する組成物、およびDNA配列選択的にヌクレオソームをアセチル化する方法が提供される。

【0044】
本開示の態様において、ヒストンアセチル化誘導組成物は、本明細書に開示されるPIポリアミドコンジュゲートを含有する組成物である。該組成物は、さらに、ヒストンアセチル化を促進する。該組成物は、上記PIポリアミドコンジュゲートそのものであってもよく、または使用目的に応じて、上記PIポリアミドコンジュゲートの他に担体や添加物を含んでいてもよい。該担体および添加物としては、ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物等について上記したのと同様の例が挙げられる。また、上記ヒストンアセチル化誘導組成物は、使用目的に応じて、常法にしたがい製剤化することもできる。該組成物の剤形としては、ブロモドメイン含有タンパク質動員組成物等について上記したのと同様の例が挙げられる。

【0045】
本開示において、ヌクレオソームアセチル化方法は、本明細書に開示されるPIポリアミドコンジュゲートまたは本明細書に開示されるヒストンアセチル化誘導組成物を、ヌクレオソームを含む試料と接触させることを特徴とする。該方法は、インビトロ、インビボ、およびエクスビボのいずれの方法も包含する。該試料としては、ブロモドメイン含有タンパク質動員方法について上記したのと同様の例が挙げられる。上記PIポリアミドコンジュゲートは特定の配列を認識するPIポリアミドを含むので、本開示におけるヌクレオソームアセチル化方法は、配列選択的にヌクレオソームのヒストンをアセチル化する。

【0046】
実際に、Bi-PIP存在下でヌクレオソームの混合物にHAT(P300)を作用させると、標的DNA配列を含むヌクレオソームに選択的にアセチル化がもたらされ、配列選択的なアセチル化が促進することが示された(実施例2)。また、培養細胞(HEK293T細胞)を用いて、塩基配列特異的なアセチル化が選択的に遺伝子発現を亢進していることを実証した(実施例4)。本開示において、PIポリアミドの認識配列を変えることにより、所望の特定の遺伝子群を活性化することができる。

【0047】
以下、実施例を用いて、本明細書に開示される新規技術をさらに説明するが、これらの実施例は例示的なものであり、これらの実施例を当該新規技術の外延を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0048】
実施例1:Bi-PIPの設計および合成
(1)BD阻害剤の設計および合成
標的となるBD含有タンパク質として、コアアクチベーターP300/CBPファミリータンパク質を選択した。P300/CBPは、真核細胞における転写活性化において中心的な役割を果たすヒストンアセチル基転移酵素であり、P300/CBPは、HATドメインおよびBDの両方を有する。BD阻害剤として、以前に報告された5-イソキサゾイル-ベンズイミダゾールを有するP300/CBP選択的BD阻害剤(CBP30)のうち、CBPのBDに対して中程度の結合アフィニティーを示すCBP30誘導体の1つを用いた(Hay et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 9308-9319)。該BD阻害剤の合成は以前の報告(前掲の文献)にしたがった。次いで、常法にしたがい、第一アミンを有するBD阻害剤ユニットを設計し、合成した。
【実施例】
【0049】
【化8】
JP2019199471A_000009t.gif
【実施例】
【0050】
メチル3-(4-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)フェニル)プロパノエート(11)
メチル3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート(9)およびtert-ブチル(2-ヒドロキシエチル)カルバマート(10)を既知の方法にしたがって合成した。メチル3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート(550mg、3.1mmol)、tert-ブチル(2-ヒドロキシエチル)カルバマート(486mg,3.0mmol)およびトリフェニルホスフィン(PPh)(1.01g、3.9mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(3mL)中に溶解し、4℃に冷却した。THF(3mL)中のジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)(690mg、4.0mmol)を滴下した。該反応混合物を次いで、室温に温め、一晩攪拌した。該混合物を次いで、濃縮し、(酢酸エチル(EtOAc)中に溶解した。有機層を水、水性水酸化ナトリウム(NaOHaq)およびブラインで洗浄した。該溶液をNaSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮した。粗化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc=4:1)で精製して、510mgの無色油を得た(1.6mmol、53%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ = 7.11 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 6.81 (d, J = 8.9, 2H), 4.98 (s, br, 1H), 3.99 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 3.66 (s, 3H), 3.52 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 2.89 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 2.59 (t, J = 7.9, 2H), 1.45 (s, 9H)
【実施例】
【0051】
メチル3-(4-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)フェニル)プロピオン酸(12)
11(510mg,1.6mmol)および水酸化カリウム(525mg,9.36mmol)をMeOH(10mL)および水(5mL)の混合物中に溶解した。該混合物を70℃で30分間攪拌し、次いで室温に冷却した。該混合物をAcOHで中和し、EtOAcで2階抽出し、ブラインで洗浄した。該混合物を次いで、NaSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮して、136mgの白色固体を得た(0.44mmol,27%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ = 7.12 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.82 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 4.99 (s, br, 1H), 3.99 (t, J = 5.1 Hz, 2H), 3.52 (m, 2H), 2.90 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.65 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.45 (s, 9H)
【実施例】
【0052】
tert-ブチル(2-(4-(2-(5-(3,5-ジメチルイソキサゾール-4-イル)-1-(2-モルホリノエチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)エチル)フェノキシ)エチル)カルバマート(13)
3-(4-(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)フェニル)プロパン酸(8)を既知の方法にしたがって合成した。8(94mg,0.30mmol)、12(93mg,0.30mmol)、プロピルホスホン酸無水物(T3P)(193mg,0.61mmol)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(63μL,0.36mmol)をEtOAc(4mL)中に溶解した。該混合物を電子レンジで加熱した(150℃,10分)。該反応物を0.1M NaOHaqで塩基性にし、EtOAcと水の間に分相した。有機相を回収し、ブラインで洗浄した。該混合物をMgSOで乾燥させ、ろ過した。粗化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/MeOH=9:1)で精製して、132mgのベージュ色のガムを得た(0.22mmol,73%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ = 7.63 (s, 1H), 7.35 (d, J = 8.3, 1H), 7.15 (d, J = 8.9, 2H), 7.12 (d, J = 7.9, 1H), 6.84 (d, J = 8.9, 2H), 4.98 (s, br, 1H), 4.12 (m , 2H), 4.00 (t, J = 5.2 , 2H), 3.67 (t, J = 4.5, 4H), 3.53 (d, J = 4.8, 2H), 3.23 (m, 2H), 3.17 (m, 2H), 2.61 (t, J = 7.2, 2H), 2.46 (t, 4H), 2.43 (s, 3H), 2.30 (s, 3H), 1.45 (s, 9H)
【実施例】
【0053】
2-(4-(2-(5-(3,5-ジメチルイソキサゾール-4-イル)-1-(2-モルホリノエチル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)エチル)フェノキシ)エタン-1-アミン(Biユニット、14)
13(30mg,51μmol)を、1.25mmolのHClを含有するMeOH(5mL)およびCHCl(5mL)の混合物中に溶解した。該混合物を3時間還流した。該反応物を冷却し、濃縮し、EtOAcおよびCHCl中に溶解した。該混合物を飽和NaHCOaqで中和した。有機相をブラインで洗浄し、NaSOで乾燥させ、ろ過した。該混合物を次いで、濃縮して、25.6mgのベージュ色のガムを得た。該混合物を更に精製するとなく、PIポリアミドコンジュゲートの合成に用いた。
【実施例】
【0054】
(2)PIポリアミドの設計および合成
5’-WWCWGWCW-3’および5’-WGCCGCCW-3’(ここに、WはAまたはT)を標的配列とする2つのPIポリアミドを設計し(それぞれ、「PIP1」および「PIP2」と称する)、既知の方法にしたがって合成した。簡単に言うと、PSSM-8ペプチド合成器(島津製作所)により、Py-オキシム樹脂上で固相合成を行った。次いで、化合物をN,N-ジメチルプロパンジアミンを用いて切り出した(45℃、3時間)。粗化合物を、YMC Pack Pro C18カラム(150×20mm,YMC)を用いるEngineering PU-2089プラスシリーズシステム(Jasco)上で逆相HPLCにより精製した。溶離剤として水中0.1%TFAおよびアセトニトリルを用い、流速10ml/分で、254nmで検出した。
【実施例】
【0055】
(3)PIポリアミドコンジュゲートの合成
【実施例】
【0056】
【化9】
JP2019199471A_000010t.gif
【実施例】
【0057】
N末端にカルボン酸を有するPIポリアミドと、上記BD阻害剤ユニットとのカップリングにより、それぞれ5’-WWCWGWCW-3’および5’-WGCCGCCW-3’(ここに、WはAまたはT)を標的とする2つのコンジュゲート(それぞれ、「Bi-PIP1」および「Bi-PIP2」と称する)を既知の方法にしたがって合成した。簡単に言うと、Biユニット(1当量)および上記で合成したPIP(1当量)および1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリ(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)(2当量)を150μLのジメチルホルムアミド中で混合した。次に、DIEA(5当量)を加え、反応物を室温で1.5時間振盪した。粗Bi-PIPを、COSMOSIL 5C18-MS-IIカラム(150×10mm,Nacalai Tesque)を用いるEngineering PU-2089プラスシリーズシステム(Jasco)上における逆相HPLCで精製した。水中0.1%TFAおよびアセトニトリルを溶離剤として用い、流速3ml/分で、254nmで検出した。精製したBi-PIPを分析HPLCおよびMALDI-TOF MSで特徴付けた。
Bi-PIP1
分析HPLC tR = 17.6 min; MALDI-TOF MS m/z C118H152N35O24+ [M + H]+の計算値2443.17、測定値2443.51
Bi-PIP2
分析HPLC tR = 17.8 min; MALDI-TOF MS m/z C115H149N38O24+ [M + H]+ の計算値2446.16、測定値2446.46
【実施例】
【0058】
実施例2:Bi-PIPによる標的DNA配列を有するヌクレオソーム上でのヒストンアセチル化の促進
(1)Bi-PIPによるヌクレオソーム上での配列選択的ヒストンアセチル化
Bi-PIPによる配列選択的ヒストンアセチル化を試験するために、HAT反応、次いで以前に報告された再構成したヌクレオソームを用いる免疫沈降(ChIP)(Nguyen et al, Nat. Methods 2014, 11, 834-40)、および定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を組み合わせることによる生化学的アッセイ(HAT反応-インビトロChIP-qPCR)を確立した(図2A~C)。
【実施例】
【0059】
ヒストン発現および精製
ヒトヒストンタンパク質(H2A type1-B/E、H2B type1-K、H3.1およびH4)を、T7プロモーター駆動発現ベクターpET22bを用いて、Escherichia coli BL21(DE3)に発現させた。尿素バッファー(6M尿素,20mM HEPES-KOH(pH7.5)および1mM2-メルカプトエタノール)中の粗ヒストンを、AKTA pure 25タンパク質製製システム(GE Healthcare)上のHiTrap SP HPカラム(GE Healthcare)を用いる陽イオン交換クロマトグラフィーによって精製した。0.2-0.7M NaClを含有する尿素バッファーを溶出に用いた。標的ヒストンモノマーを含有するフラクションを回収し、Amicon Ultra-4(Merck),MWCO 10kDa遠心フィルターユニットを用いて濃縮した。バッファーをアンフォールディングバッファー(6M塩化グアニジウム,20mM HEPES-KOH(pH7.5)および5mM2-メルカプトエタノール)に交換した。
【実施例】
【0060】
ヒストンオクタマーの精製
上記で得たアンフォールディングバッファー中の各ヒストンモノマー20μMを含有する10mlのH2A-H2B-H3-H4オクタマー再構成溶液を7000 MWCO SnakeSkin Dialysis Tubing(Thermo Fisher Scientific)にパックし、500mlのプレ-リフォールディングバッファー(6M尿素、2M NaCl、10mM HEPES-KOH(pH7.5)、1mM EDTAおよび5mM 2-メルカプトエタノール)およびリフォールディングバッファー(6M尿素無しのプレ-リフォールディングバッファー)に対して各々、2時間および12時間4℃で透析した。遠心分離(15000rpm,10分,4℃)によって不純物を除去後、AKTA pure 25タンパク質精製システム上のSuperdex 200 Increase 200(GE Healthcare)およびリフォールディングバッファーを用いるサイズ排除クロマトグラフィーによって、ヒストンオクタマーを精製した。SDS-PAGEによってフラクションを分析し、ヒストンオクタマーを含有するフラクションを回収し、Amicon Ultra-4を用いて濃縮した。
【実施例】
【0061】
ヌクレオソームの再構成
ヒストンオクタマーならびにWidom601ヌクレオソームポジショニング配列および5つのPIポリアミド結合配列(Bi-PIP1について、5’-AACAGTCA-3’、およびBi-PIP2について5’-AGCCGCCA-3’)を有するDNA鋳型から、塩透析法(salt-dialysis method)を用いてモノヌクレオソームを再構成した(図2A)。ゲル電気泳動により、DNA鋳型の大部分が首尾良くヌクレオソーム上に形成されたことを確認した。こうして得られた2つのヌクレオソームをそれぞれ、「Nuc1」(Bi-PIP1に対する結合配列を5つ有するもの)、および「Nuc2」(Bi-PIP2に対する結合配列を5つ有するもの)と称する。
【実施例】
【0062】
簡単に言うと、鋳型DNA(400nM)およびヒストンオクタマー(440nM)の20mM HEPES-KOHバッファー(pH7.5)中混合物を、透析カップ(MWCO 8000, Bio.tech)を用いて、高塩バッファー(20mM HEPES-KOH,pH7.5;2M NaCl)を用いて2時間透析し、次いで低塩バッファー(20mM HEPES-KOH,pH7.5;0M NaCl)中で、4℃で一晩透析した。透析後、260nm波長でDNAの吸光度を測定することによって、ヌクレオソームの濃度を決定した。再構成されたヌクレオソームは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(6%DNA遅延ゲル,Thermo Fisher Scientific)によって分析した。使用した鋳型DNAの配列を下記に示す。
【実施例】
【0063】
Nuc1の鋳型DNA(下線部は、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを示す。Bi-PIP結合配列を四角で囲む。太文字は、Widom601ヌクレオソームポジショニング配列を示す。)
【実施例】
【0064】
【化10】
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【実施例】
【0065】
Nuc2の鋳型DNA(下線部は、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを示す。Bi-PIP結合配列を四角で囲む。太文字は、Widom601ヌクレオソームポジショニング配列を示す。)
【実施例】
【0066】
【化11】
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【実施例】
【0067】
ヒストンアセチル化反応
HAT反応は既知の方法に基づいて行った。簡単に言うと、15μLのHATバッファー(50mM Tris-HCl,0.1mM EDTA,10%グリセロール,1mM DTT,pH8.0)中の再構成したヌクレオソームNuc1およびNuc2の混合物(各10nM)を、種々の濃度(0、1、3、10、30、100nM)の組み換えヒトP300(アミノ酸965-1810)(BPS Bioscience, catalog number: 50071)と共に、10μMのアセチル-CoA(Wako)の存在下、100nMのBi-PIP1の存在下または不在下(Bi-PIP1の代わりに、DMSO(vehicle)を添加した)で、30℃で1時間インキュベートした。
【実施例】
【0068】
インビトロクロマチン免疫沈降ないし定量的ポリメラーゼ連鎖反応(in vitro ChIP-1PCR)
HAT反応液(15μL)に、1/500容量のパン-アセチル化H3(K9、K14、K18、K23、K27でアセチル化)に対する抗体(抗-アセチル化H3、Abcam社製, ab47915)を含有する85μLのABバッファー(20mM Tris-HCl,pH7.5,50mM NaCl,5mM EDTA)を加え、室温で1時間インキュベートした。次いで、100μLのABバッファー中の40μLのDynabeads Protein G(Thermo Fisher Scientific)を混合物に加え、さらに室温で1時間インキュベートした。200μLのABバッファーでビーズを3回洗浄し、100μLの溶離バッファー(100mM Tris-HCl,pH7.5,1M NaCl)を加えた。沈澱したDNAを90℃で5分間振盪することによって溶離させた。DNA溶液を希釈し、LightCycler 480(Roche Diagnostics GmbH)上でのSYBR FAST qPCR Kit(Kapa Bioscience)を用いるqPCRによって、免疫沈降した各ヌクレオソームの量を測定した(図2B)。Cp値は、2nd derivative maximum法によって決定し、相対的RNA量をΔΔCp法によって計算した。qPCRには、上記DNA鋳型に特異的なプライマー対(表1)を用いた。陽性対照として、合成アセチル化ヒストンH3(K4ac、K9ac、K14ac、K18ac、K23ac)を有するヌクレオソームを用いて同様に実験した。
【実施例】
【0069】
【表1】
JP2019199471A_000013t.gif
【実施例】
【0070】
結果を図3に示す。100nM Bi-PIP1の添加は、その標的Nuc1において強力なアセチル化を誘導した。一方、Nuc2ではアセチル化は誘導されなかった。アセチル化レベルの増加は、P300の濃度に依存した。
【実施例】
【0071】
(2)BiモノマーおよびPIPモノマーとの比較
次に、BiおよびPIPドメインの重要性を明らかにするために、各モノマー分子を上記(1)に記載のアッセイにおいて試験した(図1参照)。上記(1)に記載の方法にしたがい、Nuc1およびNuc2の混合物を10nMの組み換えヒトP300(アミノ酸965-1810)と共に、100nMのBi-PIP1、100nMのPIP1モノマー単独、100nMのBiモノマー単独、または100nMのPIP1モノマーおよび100nMのBiモノマーの混合物の存在下でインキュベートし、ChIP、次いでqPCRを行った。陰性対照として、上記Bi-PIP、PIPモノマーまたはBiモノマーあるいはその混合物の代わりに、DMSO(vehicle)を添加して同様の実験を行った。
【実施例】
【0072】
結果を図4に示す。PIP1モノマー単独、Biモノマー単独およびその混合物はいずれも、アセチル化を促進しなかった。この結果は、明らかに、PIPドメインのその標的DNA配列への配列選択的結合およびBD-Bi相互作用によって媒介されるP300のリクルートによって、Bi-PIPによるNuc1選択的アセチル化が達成されたことを示す。
【実施例】
【0073】
(3)Bi-PIPのプログラム可能性の確認
Bi-PIPのプログラム可能性を試験するために、Nuc2を標的とするように設計されたBi-PIP2を用いて上記(1)と同様に試験した(図1参照)。上記(1)に記載の方法にしたがい、Nuc1およびNuc2の混合物を10nMの組み換えヒトP300(アミノ酸965-1810)と共に、100nMのBi-PIP1または100nMのBi-PIP2の存在下でインキュベートし、ChIP、次いでqPCRを行った。
【実施例】
【0074】
結果を図5に示す。Bi-PIP2は、Nuc2の選択的アセチル化を引き起こした。したがって、Bi-PIPの標的配列がプログラム可能であることが示された。
【実施例】
【0075】
(4)マススペクトロメトリー分析
Bi-PIPでのヒストンアセチル化を直接マススペクトロメトリー分析で確認した。Nuc1(500nM)、Bi-PIP1(0または2.5μM)、組み換えヒトP300(50nM)およびAc-CoA(10μM)を用いるHAT反応後、ヒストンを非修飾リジンのプロピオニル化、トリプシン消化、および末端アミンのプロピオニル化によって処理した。得られたペプチドを液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー(LC-MS/MS)によって分析した。その結果、上記の抗体によるアッセイ結果と同様に、H3(例えば、H3K14ac、H3K18ac、H3K23ac、H3K27ac、およびH3K36ac)のN末端領域にアセチルリジンを含有するペプチドについて、シグナル強度の増加が観察された。また、アセチル化は、H4K5ac、H4K8ac、およびH4K12acを含む、ヒストンH4のN末端領域において促進されることも見出された。
【実施例】
【0076】
実施例3:Bi-PIPによる生存細胞における選択的遺伝子活性化
Bi-PIPが細胞性環境において機能するか否かを評価した。最初の実験として、HAT供給源として組み換えP300の代わりにHeLa核抽出物を用いて、実施例2-(1)に記載の方法にしたがって、HAT反応-インビトロChIP-qPCRアッセイを行った。HeLa核抽出物は、P300/CBPだけでなく他の細胞性HATおよびHDACも含有するので、組み換えP300のみを用いて観察された場合よりも、細胞様環境を提供した。簡単に言うと、Nuc1およびNuc2の混合物に、反応液中2%v/vになるようにHeLa核抽出物(0.3μL/反応)を添加し、100nMのBi-PIP1の存在下または不在下でインキュベートし、ChIP、次いでqPCRを行った。対照として、HeLa核抽出物およびBi-PIP1の両方を用いずにインキュベートし、同様に実験した。
【実施例】
【0077】
結果を図6に示す。図6は、[核抽出物(+)/Bi-PIP(-)]試料の値に対して標準化したNuc1およびNuc2の相対量を示す。Bi-PIP1を用いないアセチル化の基底レベルは増加したものの、Bi-PIP1は、Nuc2ではなく、Nuc1のアセチル化のみを増強した。このことは、Bi-PIPを生存細胞に適用できることを示唆する。
【実施例】
【0078】
実施例4:Bi-PIP処理細胞におけるトランスクリプトーム解析
遺伝子発現を活性化する転写コアクチベーターとしてのP300/CBPの基本的役割を考慮して、Bi-PIPで処理された細胞(HEK293T細胞)から抽出した全RNAのトランスクリプトーム解析を行った。>2または<-2倍変化および<0.05P値の基準を差別的発現された転写物の検出に適用した。
【実施例】
【0079】
細胞処理およびRNA抽出
HEK293T細胞は、ATCCから購入し、10%(v/v)胎子ウシ血清(FBS, Sigma Aldrich)を補足したDMEM中、37℃、5%CO下で維持した。Bi-PIPでの処理のために、細胞を24ウェルプレート(2×10細胞/ウェル)に播種した。1日後、1μMの各Bi-PIPおよび4μMのEndo-Porter(10%ポリエチレングリコール形態, Gene Tools)を加えた。0.1%DMSO(v/v)をビヒクルとして用いた。Bi-PIP処理の15時間後、FastGene(登録商標)RNA Basic Kit(Nippon Genetics)を用いて、製造者の指示書にしたがい、RNAを抽出した。
【実施例】
【0080】
マイクロアレイ
RNAのクオリティーは、Agilent RNA 6000 Pico Kit(Agilent Technologies)を用いてBioanalyzer(Agilent Technologies)でチェックした。全RNAは、by GeneChip WT PLUS Reagent Kit(Affymetrix)で処理し、GeneChip Hybridization, Wash, and Stain Kit(Affymetrix)を用いてHuman Gene 2.1 ST Array Strip(Affymetrix)にハイブリダイズした。GeneChip Hybridization, Wash, and Stain Kit(Affymetrix)を用いて、フルーディックスおよびスキャンをGeneAtlas System(Affymetrix)で行った。データの標準化、サマライズおよび比較を、Transcriptome Analysis Console v4(Affymetrix)を用いて行った。
【実施例】
【0081】
その結果、Biモノマーは、遺伝子発現において最小限の変化のみを示した(2つのアップレギュレート転写物および4つのダウンレギュレート転写物)。PIP1モノマーおよびPIP2モノマーは、全体的な遺伝子発現において中程度の変化をもたらした(PIP1により32個のアップレギュレートおよび31個のダウンレギュレート転写物、PIP2により143個のアップレギュレートおよび63個ダウンレギュレート転写物)。一方、Bi-PIP1およびBi-PIP2コンジュゲートは、主に抑制よりも活性化について、より大きなトランスクリプトソーム変化を与えた(Bi-PIP1により473個のアップレギュレートおよび258個のダウンレギュレート転写物、Bi-PIP2により446個のアップレギュレートおよび137個のダウンレギュレート転写物)。したがって、Bi-PIPが、クロマチン上へP300/CBPをリクルートし、ヒストンアセチル化により、遺伝子発現の活性化をもたらすことが示された。
【実施例】
【0082】
次いで、DNA配列選択性の相違が遺伝子発現において異なる変化をもたらすか否かを評価した。トランスクリプトーム解析の結果に、247個の転写物がBi-PIP1およびBi-PIP2の両方によって共通してアップレギュレートされた。これは、Bi-PIP1およびBi-PIP2の結合部位がゲノム全体において排他的に分布しておらず、故に、いくつかの遺伝子はBi-PIP1およびBi-PIP2の両方によって活性化されることができるためであると考えるのが妥当である。しかしながら、>1.5または<-1.5倍変化の基準を適用することによって、差別的に発現された転写物が同定された(図7A)。これらの独特に活性化された転写物のうち、Bi-PIP1およびBi-PIP2によって最もアップレギュレートされたタンパク質コード遺伝子は、それぞれ、NTS(ニューロテンシン)およびIER5L(immediate early response 5-like)であった。
【実施例】
【0083】
RT-qPCR
上記2つの転写物の発現量をRT-qPCRを用いて測定した。全RNAをReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(Toyobo)で逆転写した。LightCycler 480(Roche Diagnostics GmbH)において、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(Toyobo)を用いてqPCRを行った。Cp値は、2nd derivative maximum法によって決定し、相対的RNA量をΔΔCp法によって計算した。使用したプライマーの配列を表2に示す。
【実施例】
【0084】
【表2】
JP2019199471A_000014t.gif
【実施例】
【0085】
結果を図7Bに示す。さらに、各遺伝子座におけるBi-PIP1およびBi-PIP2の結合配列の位置を調べたところ、興味深いことに、NTS遺伝子座のゲノム配列は、Bi-PIP2ではなく、Bi-PIP1の結合部位を含有し、IER5L遺伝子座は、Bi-PIP1ではなく、Bi-PIP2の結合部位を有することが分かった。このような別個の転写活性化および別個の結合部位の分布から、NTSおよびIER5Lはそれぞれ、Bi-PIP1およびBi-PIP2の推定標的遺伝子であると結論付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本明細書に開示されるBi-PIPによる標的ヌクレオソームの修飾技術は、ヌクレオソーム単位でのエピジェネティック修飾クロストークのメカニズム解明や、エピゲノム編集・内在性遺伝子の発現活性化などへの応用が期待される。
【配列表フリ-テキスト】
【0087】
SEQ ID NO:1: Sequence of template DNA for Nuc1
SEQ ID NO:2: Sequence of template DNA for Nuc2
SEQ ID NO:3: Forward primer for Nuc1
SEQ ID NO:4: Forward primer for Nuc2
SEQ ID NO:5: Reverse primer for Nuc1 & Nuc2
SEQ ID NO:6: Forward primer for GAPDH
SEQ ID NO:7: Reverse primer for GAPDH
SEQ ID NO:8: Forward primer for NTS
SEQ ID NO:9: Reverse primer for NTS
SEQ ID NO:10: Forward primer for IER5L
SEQ ID NO:11: Reverse primer for IER5L
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7A】
7
【図7B】
8