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明細書 :構造物評価システム及び構造物評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6756927号 (P6756927)
登録日 令和2年8月31日(2020.8.31)
発行日 令和2年9月16日(2020.9.16)
発明の名称または考案の名称 構造物評価システム及び構造物評価方法
国際特許分類 G01N  29/14        (2006.01)
FI G01N 29/14
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2019-544751 (P2019-544751)
出願日 平成30年2月27日(2018.2.27)
国際出願番号 PCT/JP2018/007314
国際公開番号 WO2019/167137
国際公開日 令和元年9月6日(2019.9.6)
審査請求日 令和元年8月16日(2019.8.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】塩谷 智基
【氏名】橋本 勝文
【氏名】高峯 英文
【氏名】渡部 一雄
個別代理人の代理人 【識別番号】110001634、【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
審査官 【審査官】嶋田 行志
参考文献・文献 国際公開第2017/199544(WO,A1)
米国特許出願公開第2014/0123758(US,A1)
特開2017-090311(JP,A)
国際公開第2017/217033(WO,A1)
国際公開第2017/217034(WO,A1)
調査した分野 G01N 29/00-29/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波の発生源の位置を標定し標定により得られた前記発生源の位置と、前記複数のセンサの配置位置によって定められる閾値を超える振幅を有する弾性波を用いて前記弾性波の発生源の位置を再度標定する位置標定部と、
前記位置標定部による前記弾性波の発生源の位置標定結果に基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価システム。
【請求項2】
前記位置標定部は、前記複数の弾性波の発生源の位置と、前記複数のセンサの配置位置とに基づいて、計測対象領域を複数の領域に分割し、分割した領域毎に異なる閾値を設定し、設定した前記閾値を超える振幅を有する弾性波を用いて弾性波の発生源の位置を標定する、請求項1に記載の構造物評価システム。
【請求項3】
弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記位置標定部による前記弾性波の発生源の位置標定結果に基づいて、弾性波の発生源の密度の分布を表す弾性波源密度分布を生成する密度分布生成部と、
前記複数のセンサの配置位置に応じて前記弾性波源密度分布を補正するための補正係数を用いて、前記弾性波源密度分布を補正する補正部と、
前記補正部により補正された前記弾性波源密度分布に基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価システム。
【請求項4】
弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記位置標定部による前記弾性波の発生源の位置標定結果に基づいて、弾性波の発生源の密度の分布を表す弾性波源密度分布を生成する密度分布生成部と、
前記複数のセンサの配置位置に応じて、予め健全な構造物により得られた比較対象となる弾性波源密度分布を補正するための補正倍率を用いて、前記比較対象となる弾性波源密度分布を補正する補正部と、
前記密度分布生成部により生成された前記弾性波源密度分布と、前記補正部により補正された前記比較対象となる弾性波源密度分布とに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価システム。
【請求項5】
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波の振幅と、第1の閾値とを比較し、前記第1の閾値より高い振幅値を有する弾性波に対して信号処理を行う信号処理部をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項6】
弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波の発生源の位置を標定し標定により得られた前記発生源の位置と、前記複数のセンサの配置位置によって定められる閾値を超える振幅を有する弾性波を用いて前記弾性波の発生源の位置を再度標定する位置標定ステップと、
前記位置標定ステップによる前記弾性波の発生源の位置標定結果に基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有する構造物評価方法。
【請求項7】
弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、弾性波の発生源の位置を標定する位置標定ステップと、
前記位置標定ステップによる前記弾性波の発生源の位置標定結果に基づいて、弾性波の発生源の密度の分布を表す弾性波源密度分布を生成する密度分布生成ステップと、
前記複数のセンサの配置位置に応じて前記弾性波源密度分布を補正するための補正係数を用いて、前記弾性波源密度分布を補正する補正ステップと、
前記補正ステップにより補正された前記弾性波源密度分布に基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有する構造物評価方法。
【請求項8】
弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、弾性波の発生源の位置を標定する位置標定ステップと、
前記位置標定ステップによる前記弾性波の発生源の位置標定結果に基づいて、弾性波の発生源の密度の分布を表す弾性波源密度分布を生成する密度分布生成ステップと、
前記複数のセンサの配置位置に応じて、予め健全な構造物により得られた比較対象となる弾性波源密度分布を補正するための補正倍率を用いて、前記比較対象となる弾性波源密度分布を補正する補正ステップと、
前記密度分布生成ステップにより生成された前記弾性波源密度分布と、前記補正ステップにより補正された前記比較対象となる弾性波源密度分布とに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価ステップと、
を有する構造物評価方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造物評価システム及び構造物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁などの構造物の表面にAEセンサ等のセンサを設置することで、構造物内部の損傷箇所などから発生する弾性波を検出することができる。更に複数のセンサを設置することで、センサ間の弾性波到達時刻の差から、弾性波の発生源(以下「弾性波源」という。)の位置を標定することができる。また、外部から構造物に対して衝撃を与えることによっても、同様の弾性波が発生するため、弾性波源の位置を標定することができる。しかし、弾性波の伝搬経路に損傷がある場合、弾性波の伝搬が妨げられるため、センサで弾性波を検出することができない。その結果、正しい弾性波源の位置を標定することができなくなる。このような特性を利用して、位置標定された弾性波源の分布の乱れから、構造物内部の損傷を検出することができる。しかしながら、センサの配置によっては、構造物に損傷がなく弾性波源として一様に分布した衝撃が外部から構造物に与えられた場合であっても、センサで得られた信号から標定される弾性波源の分布が一様でない場合がある。このような場合、構造物の劣化状態を正しく評価できない場合があった。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2004-125721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることができる構造物評価システム及び構造物評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の構造物評価システムは、複数のセンサと、位置標定部と、評価部とを持つ。複数のセンサは、弾性波を検出する。位置標定部は、前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波の発生源の位置を標定し標定により得られた前記発生源の位置と、前記複数のセンサの配置位置によって定められる閾値を超える振幅を有する弾性波を用いて前記弾性波の発生源の位置を再度標定する。評価部は、前記位置標定部による前記弾性波源の位置標定結果に基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する。

【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】第1の実施形態における構造物評価システムの構成を示す図。
【図2】ランダムで一様な衝撃を付与した位置を示す図。
【図3】一様な衝撃が付与された場合に、弾性波源の位置評定を行った結果を示す図。
【図4】4つのセンサで囲まれる領域を拡大した図。
【図5A】弾性波源の位置と、弾性波が4番目に到達するセンサの位置との間の距離の関係を示す図。
【図5B】弾性波源の位置と、弾性波が4番目に到達するセンサの位置との間の距離の関係を示す図。
【図6】弾性波源の位置と、弾性波が4番目に到達するセンサの位置との間の距離を比で表した図。
【図7】第1の実施形態における構造物評価システムの処理の流れを示すシーケンス図。
【図8A】弾性波源から弾性波が4番目に到達するセンサまでの距離をコンター図で表した図。
【図8B】領域分割線の一例を示す図。
【図9】領域毎の閾値の設定方法を説明するための図。
【図10】本実施形態における手法を用いた効果を示す図。
【図11A】新たな閾値の設定方法の別例を示す図。
【図11B】新たな閾値の設定方法の別例を示す図。
【図12】第2の実施形態における構造物評価システムの構成を示す図。
【図13A】弾性波源分布の一例を示す図。
【図13B】弾性波源密度分布の一例を示す図。
【図14】第2の実施形態における構造物評価システムの処理の流れを示すシーケンス図。
【図15】第3の実施形態における構造物評価システムの構成を示す図。
【図16】第3の実施形態における構造物評価システムの処理の流れを示すシーケンス図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の構造物評価システム及び構造物評価方法を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における構造物評価システム100の構成を示す図である。
構造物評価システム100は、構造物の健全性の評価に用いられる。以下の説明において、評価とは、ある基準に基づいて構造物の健全性の度合い、すなわち構造物の劣化状態を決定することを意味する。なお、以下の説明では、構造物の一例として橋梁を例に説明するが、構造物は橋梁に限定される必要はない。例えば、構造物は、亀裂の発生または進展、あるいは外的衝撃(例えば雨、人工雨など)に伴い弾性波が発生する構造物であればどのようなものであってもよい。なお、橋梁は、河川や渓谷などの上に架設される構造物に限らず、地面よりも上方に設けられる種々の構造物(例えば高速道路の高架橋)なども含む。

【0008】
構造物評価システム100は、衝撃付与部10、複数のセンサ20-1~20-n(nは2以上の整数)、信号処理部30及び構造物評価装置40を備える。信号処理部30と構造物評価装置40とは、有線又は無線により通信可能に接続される。なお、以下の説明では、センサ20-1~20-nについて区別しない場合にはセンサ20と記載する。

【0009】
衝撃付与部10は、構造物50に対して衝撃11を与えることによって、構造物内部に弾性波を発生させる。衝撃付与部10は、例えば構造物50上を走行する車両等の乗物に設けられる装置である。衝撃付与部10は、構造物50の路面に対して、一様な分布となるように、多数の衝撃11を付与する。衝撃11の付与は、例えば水滴、氷粒、固形物の散布、ハンマ等の槌による連打、レーザによる加熱等により行われる。衝撃付与部10が衝撃11の付与として水滴を散布する場合、ノズルの調整や吐出タイミングの制御により、路面に衝突する水滴のサイズとタイミングが制御できることが望ましい。ハンマ等の槌による連打においても、衝撃11の強度とタイミングを所望の値に制御できることが望ましい。

【0010】
センサ20は、構造物50に設置される。例えば、センサ20は、衝撃付与部10が衝撃11を与える面と反対側の面に設置される。センサ20は、圧電素子を有し、構造物50内部から発生する弾性波を検出し、検出した弾性波を電圧信号であるAE源信号に変換する。センサ20は、AE源信号に対して増幅、周波数制限などの処理を施して信号処理部30に出力する。なお、センサ20に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、センサ20と同様の処理を行うことによって、信号処理後の信号を信号処理部30に出力する。構造物50の厚さは、例えば15cm以上である。

【0011】
信号処理部30は、センサ20による処理が施されたAE源信号を入力とする。信号処理部30は、入力したAE源信号のうち、ノイズレベルより高く定められた第1の閾値より高い振幅値を有するAE源信号に対して信号処理を行う。具体的には、まず信号処理部30は、第1の閾値と比較して大きい振動が検出された場合、第1の閾値を超えた時刻から所定の時間分の信号を弾性波波形と判断し、第1の閾値より高い振幅値を有するAE源信号を保存する。そして、信号処理部30は、保存したAE源信号が示す弾性波波形のデータに基づいて、弾性波に関する情報を含むAE特徴量を抽出する。なお、第1の閾値は、予め設定される。

【0012】
信号処理部30が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、パラメータ抽出等である。また、弾性波に関する情報とは、例えば、AE源信号の振幅、エネルギー、立ち上がり時間、持続時間、周波数、ゼロクロスカウント数等の情報である。信号処理部30は、抽出したAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置40に出力する。信号処理部30が出力するAE信号には、センサID、AE検知時刻、AE源信号振幅、エネルギー、立ち上り時間および周波数などの情報が含まれる。

【0013】
ここで、AE源信号の振幅は、例えば弾性波の中で最大振幅の値である。エネルギーは、例えば各時点において振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。立ち上がり時間は、例えば弾性波がゼロ値から予め設定される所定値を超えて立ち上がるまでの時間T1である。持続時間は、例えば弾性波の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。周波数は、弾性波の周波数である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線を弾性波が横切る回数である。

【0014】
構造物評価装置40は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、評価プログラムを実行する。評価プログラムの実行によって、構造物評価装置40は、位置標定部401、評価部402、表示部403を備える装置として機能する。なお、構造物評価装置40の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、評価プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、評価プログラムは、電気通信回線を介して送受信されてもよい。

【0015】
位置標定部401は、信号処理部30から出力されたAE信号を入力とする。また、位置標定部401は、構造物50におけるセンサ20の設置位置に関する情報(以下、「センサ位置情報」という。)をセンサIDに対応付けて予め保持する。設置位置に関する情報は、例えば緯度および経度、あるいは構造物50の特定位置からの水平方向および垂直方向の距離などである。

【0016】
位置標定部401は、入力されたAE信号に含まれるセンサID、AE検知時刻等の情報と、予め保持しているセンサ位置情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う。具体的には、位置標定部401は、各センサ20への弾性波の到達時刻、すなわちAE検知時刻の差に基づいて、弾性波源の位置を評定する。また、位置標定部401は、位置標定結果を用いて弾性波源分布を生成する。弾性波源分布は、構造物50で発生した弾性波源の位置が示された分布である。

【0017】
また、位置評定部401は、所定の条件に従って、弾性波源分布内の領域を複数の領域に分割する。位置評定部401は、分割した領域毎に異なる閾値を新たに設定する。以下の説明では、説明の簡単化のため弾性波源分布内の領域を2つの領域に分割する場合を例に説明する。その後、位置評定部401は、新たに設定した閾値より高い振幅値を有するAE信号を用いて、再度弾性波源の位置標定を行う。そして、位置標定部401は、位置標定結果を用いて弾性波源分布を生成する。位置標定部401は、生成した弾性波源分布を評価部402に出力する。

【0018】
評価部402は、位置標定部401から出力された弾性波源分布を入力とする。評価部402は、入力された弾性波源分布に基づいて構造物50の劣化状態を評価する。具体的には、評価部402は、弾性波源分布における弾性波の特徴量から構造物50の劣化状態を評価する。弾性波源分布における弾性波の特徴量とは、弾性波源の密度に相当する。

【0019】
具体的な処理としては、評価部402は、弾性波源分布に基づいて、弾性波源の密度が、あらかじめ定められた判定閾値未満の領域を構造物50の劣化が生じている領域と評価する。弾性波源の密度は、例えば3つのセンサ20で囲まれる領域毎に求められてもよいし、4つのセンサ20で囲まれる領域毎に求められてもよいし、弾性波源分布を予め定められた領域で分割し、分割後の領域毎に求められてもよい。評価部402は、評価結果を表示部403に表示させる。

【0020】
表示部403は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部403は、評価部402の制御に従って評価結果を表示する。表示部403は、画像表示装置を構造物評価装置40に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部403は、評価結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。

【0021】
次に、上記のように、新たな閾値を設定する理由について説明する。
構造物50に対して一様な分布で衝撃11が付与された場合、弾性波源の位置標定結果の分布が一様でなければ、密度の低下している領域が損傷している領域と判断することができる。しかしながら、損傷のない健全な構造物に対して一様な分布で衝撃11が付与された場合でも、標定される弾性波源の分布が一様にならない場合が起こり得る。

【0022】
図2は、ランダムで一様な衝撃11を付与した位置を示す図である。図2において、縦軸及び横軸は計測対象となる領域の長さ(m)を表す。図2に示す点55は、衝撃11を付与した位置を示す。
また、図3は、図2に示すような一様な衝撃11が付与された場合に、弾性波源の位置評定を行った結果を示す図である。図3において、縦軸及び横軸は計測対象となる領域の長さ(m)を表す。図3の三角の位置はセンサ20の設置位置を示す。図3では、15個のセンサ20が設置されている場合を示している。図3の点60の位置は弾性波源の位置を示す。図3の左上の4つのセンサ20(センサ20-1~センサ20-4)で囲まれる領域を拡大した図を図4に示す。

【0023】
図4では、センサ20近傍の弾性波源の密度が低下している。図3中の点線で区切った四角い領域61内の密度と、センサ20の設置位置を含む四角い領域61外の密度とを比較すると、弾性波源の密度に差が生じていることが分かる。これは、弾性波源の位置と、センサ20の設置位置との距離関係に起因する。弾性波源の位置は、一般的に、弾性波を検出した4つのセンサ20間の時刻差に基づいて算出される。

【0024】
図5A及び図5Bは、弾性波源の位置と、弾性波が4番目に到達するセンサ20の位置との間の距離の関係を示す図である。以下の説明では、弾性波が4番目に到達するセンサ20を4thヒットセンサと記載する。図5Aに示すように、弾性波源の位置60が4つのセンサ20の中心にある場合、弾性波源の位置60と4thヒットセンサの位置との距離は弾性波が他のセンサ20に到達する距離と略同じである。ここで、他のセンサ20とは、弾性波が1番目に到達するセンサ20、弾性波が2番目に到達するセンサ20及び弾性波が3番目に到達するセンサ20である。この場合、全てのセンサ20で略同じ振幅を有する弾性波を検出することができる。その結果、1つのセンサ20で検出された弾性波の振幅値が信号処理部30に設定されている第1の閾値を超えれば、全てのセンサ20で検出された弾性波の振幅値が第1の閾値を超える可能性が高くなる。この場合、弾性波源の位置を評定することができる。

【0025】
それに対して、図5Bに示すように、弾性波源の位置60が、ある1つのセンサ20に近づくほど(図5Bでは、左下のセンサ20)、ある1つのセンサ20と対角に位置するセンサ20(図5Bでは、右上のセンサ20)と弾性波源の位置60との距離が図5Aにおける弾性波源の位置60と4thヒットセンサの位置との距離に比べて遠くなる。距離が遠くなるほど、経路での弾性波の減衰が大きくなる。その場合、弾性波の振幅が小さくなる。その結果、信号処理部30に設定されている第1の閾値を超えない可能性が高くなる。

【0026】
4thヒットセンサで弾性波が検出されなかった場合、弾性波源の位置が特定しにくくなり、弾性波源の位置を特定できない弾性波の割合が増加する。そのため、図3及び図4に示したように、一様な分布の入力に対して、弾性波源の位置標定結果に密度の差が生じることになる。このように健全な構造物50において、弾性波源に密度の偏りが生じた場合、構造物評価装置40において相対的に密度の低い領域を誤って劣化が生じている領域と評価してしまう可能性がある。

【0027】
図6は、図3に示した計測対象領域全体における弾性波源の位置と、4thヒットセンサの位置との間の距離を比で表したシミュレーション結果を示す図である。図5Aに示したように、弾性波源の位置が4つのセンサ20の中心にある場合、弾性波源の位置と4thヒットセンサの位置との距離が最小となる。そこで、図6では、弾性波源から4thヒットセンサまでの最小距離を“1”と表している。領域12を例にすると、領域12内の4つのセンサ20で囲まれる中央の点の弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が最小距離1となる。

【0028】
また、センサ20が設置されている付近の点の弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が最大となる。例えば、センサ20が設置されている付近の点の弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が、4つのセンサ20で囲まれる中央の点の弾性波源から4thヒットセンサまでの距離の約2倍となる。そこで、図6では、弾性波源から4thヒットセンサまでの最大距離を“2”と表している。領域12を例にすると、領域12内の4つのセンサ20のいずれか1つのセンサ20付近の点の弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が最大距離2となる。
そのため、図6に示すように、1つのセンサ20に弾性波源の位置が近いほど、弾性波源と4thヒットセンサとの距離が遠いことが示されている。また、4つのセンサ20の中心に弾性波源の位置が近いほど、弾性波源と4thヒットセンサとの距離が短いことが示されている。

【0029】
そこで、本実施形態における構造物評価システム100では、位置評定部401において計測対象領域を複数の領域に分割し、分割された領域毎に異なる閾値を新たに設定する。具体的には、位置評定部401は、弾性波源の位置と、4thヒットセンサの位置との間の距離に基づいて計測対象領域を複数の領域に分割する。そして、位置評定部401が、新たに設定された閾値を超えたAE信号を用いて再度位置標定を行うことにより、前述の密度の偏りを抑制し、より正確な診断を行うことができる。

【0030】
図7は、構造物評価システム100の処理の流れを示すシーケンス図である。なお、図7の処理では、信号処理部30及び構造物評価装置40を用いて特徴的な処理についてのみ説明する。
信号処理部30は、センサ20による処理が施されたAE源信号を取得する(ステップS101)。信号処理部30は、取得したAE源信号の振幅値と、第1の閾値とを比較する。そして、信号処理部30は、第1の閾値より高い振幅値を有するAE源信号を保存する(ステップS102)。信号処理部30は、所定の期間分のAE源信号を保存する。信号処理部30は、保存したAE源信号に対して信号処理を行う(ステップS103)。信号処理部30は、抽出したAE特徴量に基づく情報をAE信号として構造物評価装置40に出力する(ステップS104)。

【0031】
位置標定部401は、入力されたAE信号に含まれるセンサID、AE検知時刻等の情報と、予め保持しているセンサ位置情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う(ステップS105)。その後、位置標定部401は、位置標定結果を用いて弾性波源分布を生成する(ステップS106)。なお、ステップS106の処理で得られる弾性波源分布は、センサ20の配置を反映した偏りを持つ分布になる。

【0032】
位置評定部401は、生成した弾性波源分布と、センサ20の配置位置とに基づいて、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離の分布を表す距離分布を生成する(ステップS107)。例えば、位置評定部401は、図8Aに示すコンター図を距離分布として生成する。図8Aは、センサ20を9つ配置した平面内の各位置で、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離をコンター図で表した図である。なお、コンター図としては、図3に示したような理論的な標定シミュレーションを行い、この標定点の密度を算出して利用することもできる。

【0033】
次に、位置評定部401は、生成した距離分布を用いて、図8Bのように任意の距離(弾性波源から4thヒットセンサまでの距離)で等高線21を引くことによって、等高線21を領域分割線として設定する(ステップS108)。図8Bは、領域分割線の一例を示す図である。位置評定部401が、等高線21を引く基準となる距離は、予め設定されている。なお、図8A及び図8Bでは、センサ20を9つ配置した場合の図で説明しているが、図3のように計測対象領域にセンサ20を15個配置した場合には、位置標定部401はそれに応じたコンター図を生成する。

【0034】
その後、位置評定部401は、領域分割線で分割される領域毎の閾値を設定する(ステップS109)。ここでは、位置評定部401は、領域分割線内の領域の閾値と、領域分割線外の領域の閾値とをそれぞれ設定する。領域分割線内の領域とは、等高線21内の領域である。領域分割線外の領域とは、等高線21外の領域である。なお、位置評定部401は、領域分割線として等高線21をそのまま利用してもよいし、等高線21やセンサ20の配置位置を踏まえて、図3のように四角形、楕円等のように適当な形状で利用してもよい。

【0035】
領域分割線で分割される領域毎の閾値の設定方法について説明する。
図9は、領域毎の閾値の設定方法を説明するための図である。計測される弾性波の数が振幅に対して正規分布を持っていると仮定する。図9において、縦軸は弾性波の振幅を表し、横軸は弾性波源から4thヒットセンサまでの距離を表す。横軸におけるDは、例えば図8Aのようなコンター図を元に得られる領域分割線の位置を表す。図9に示す線分62は、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離に対する弾性波の振幅の上限を示す。図9に示す線分63は、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離に対する弾性波の振幅の下限を示す。弾性波の伝搬距離が長くなるほど、弾性波の振幅は減衰するため、検出される振幅は右下がりの線で表される。

【0036】
上記の減衰特性や弾性波の振幅分布などは、例えば、計測対象やこれに似た構造物、健全な供試体などでの事前試験で計測して決定できる。また、材料や構造などから、事前に推定値を算出し、算出した推定値を用いることもできる。弾性波の計測時は信号処理部30において第1の閾値を設けているため、第1の閾値を下回る振幅の弾性波は弾性波減の位置標定に用いられない。したがって、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が遠くなるほど検出される第1の閾値以上の振幅を持つ弾性波は減少し、結果として弾性波源が標定される密度が低下する。そこで、位置標定部401は、距離Dの位置を、基準に領域を分割する。

【0037】
位置評定部401は、例えばDより近距離の領域の閾値を第2の閾値、Dより遠距離の領域の閾値を第3の閾値として、領域毎に異なる閾値を持つようにそれぞれの閾値を設定する。Dより近距離の領域は、領域分割線内の領域である。遠距離の領域は、領域分割線外の領域である。例えば、位置評定部401は、Dより距離が短く第2の閾値より高い振幅の弾性波の数と、Dより距離が長く第3の閾値より高い振幅の弾性波の数がほぼ均等になるように第2の閾値及び第3の閾値を調整する。これにより、近距離領域と遠距離領域との弾性波源の標定密度を等しく調整することができる。図9の例では、位置標定部401は、第2の閾値及び第3の閾値が第1の閾値よりも高く、かつ、第2の閾値が第3の閾値よりも高くなるように設定する。

【0038】
位置評定部401は、新たに設定した第2の閾値及び第3の閾値を超えるAE信号を、保存しているAE信号から選別する(ステップS110)。具体的には、位置評定部401は、Dより近距離の領域内の弾性波源の位置標定に用いた保存しているAE信号の中から第2の閾値を超えるAE信号を選別する。位置評定部401は、Dより遠距離の領域内の弾性波源の位置標定に用いた保存しているAE信号の中から第3の閾値を超えるAE信号を選別する。

【0039】
そして、位置評定部401は、選別したAE信号を用いて、再度、弾性波源の位置標定を行う。その後、位置評定部401は、位置標定結果を用いて弾性波源分布を生成する(ステップS111)。位置評定部401は、生成した弾性波源分布を評価部402に出力する。得られた弾性波源の分布は、センサ20の配置に起因する偏りが補正されたものとなっている。この分布において、評価部402が、弾性波源の密度が低下している部分を損傷と診断することで、より正確に構造物の評価を行うことができる。

【0040】
評価部402は、位置評定部401から出力された弾性波源分布に基づいて構造物50の劣化状態を評価する(ステップS112)。具体的には、評価部402は、弾性波源分布に基づいて、得られた弾性波源の密度が一様であるか否かを判定する。得られた弾性波源の密度が一様である場合、評価部402は健全な状態であると判定する。
一方、得られた弾性波源の密度が一様ではない場合、評価部402は劣化が生じていると判定する。この場合、評価部402は、弾性波源の密度が、あらかじめ定められた判定閾値未満の領域を構造物50の劣化が生じている領域と評価する。表示部403は、評価部402の制御に従って評価結果を表示する(ステップS113)。

【0041】
図10は、上記に示した手法を用いた効果を示す図である。図10では、図3との比較を簡単にするために、領域分割線を図3に示した点線61で示している。また、領域分割線内の閾値が、領域分割線外の閾値よりも高くなるように設定している。図10に示すように、図3にて領域毎に密度の差が大きくあったのに対して、図10では両領域において図3よりも密度の差を小さくすることができている。

【0042】
以上のように構成された構造物評価システム100によれば、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることができる。具体的には、まず構造物評価システム100は、弾性波源の位置と、4thヒットセンサとの距離に基づいて、計測対象領域を複数の領域に分割する。次に、構造物評価システム100は、分割した領域毎に異なる閾値を設定する。この際、構造物評価システム100は、弾性波源の位置と、4thヒットセンサとの距離が短い領域の閾値を、弾性波源の位置と、4thヒットセンサとの距離が長い領域の閾値よりも高く設定する。これにより、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が短い領域の弾性波が検出されにくくなる。そして、構造物評価システム100は、設定した閾値を超える振幅の弾性波を用いて弾性波源の位置標定を行う。これにより、構造物が損傷を有していない場合に一様に分布した衝撃11が構造物50に与えられたとしても、位置標定結果として弾性波源の密度が一様になる。その結果、誤って健全な構造物を劣化していると評価してしまうことがなくなる。そのため、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることが可能になる。

【0043】
以下、第1の実施形態における構造物評価システム100の変形例について説明する。
本実施形態では、位置標定部401が、新たに設定する閾値(例えば、第2の閾値及び第3の閾値)が第1の閾値よりも高く設定する構成を示したが、新たに設定される閾値はこれに限定されない。例えば、位置標定部401は、領域分割線内の閾値を第1の閾値よりも高く設定し、領域分割線外の閾値を第1の閾値と同じに設定してもよい。図11Aは、新たな閾値の設定方法の別例を示す図である。図11Aに示すように、位置評定部401は、Dより近距離の領域の第2の閾値を第1の閾値よりも高く設定し、Dより遠距離の領域の第3の閾値を第1の閾値と同じに設定する。

【0044】
また、例えば、位置標定部401は、領域分割線内の閾値を第1の閾値よりも高く設定し、領域分割線外の閾値を第1の閾値よりも小さく設定してもよい。図11Bは、新たな閾値の設定方法の別例を示す図である。図11Bに示すように、位置評定部401は、Dより近距離の領域の第2の閾値を第1の閾値よりも高く設定し、Dより遠距離の領域の第3の閾値を第1の閾値よりも小さく設定する。図11Bのように、領域分割線外の閾値を第1の閾値よりも小さく設定する場合には、位置標定部401は信号処理部30から第1の閾値を超えていないAE信号も取得する必要がある。

【0045】
位置標定部401が領域を分割する数は2つである必要はなく、段階的に複数の領域を設定してもよい。例えば、位置標定部401は、距離分布で得られる距離毎に領域分割線を設定し、領域を段階的に分割してもよいし、距離分布で得られる距離のうち特定の距離毎に領域分割線を設定し、領域を段階的に分割してもよい。また、位置標定部401は、領域分割を細かくして、距離に応じた連続的な閾値を設定してもよい。なお、位置標定部401は、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が短い領域ほど、新たに設定する閾値が第1の閾値よりも高くなるように設定することが望ましい。

【0046】
構造物評価装置40は、人工的な衝撃(例えば、人手による衝撃や衝撃付与部10による衝撃)入力時と、自然降雨時等のように、衝撃の特性が異なる場合には、モードを切り替えるように構成されてもよい。このように構成される場合、位置標定部401は、モード毎に、領域分割線の設定基準や新たな閾値の設定方法を記憶する。そして、位置標定部401は、モードに応じて切替えて処理を行う。

【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、構造物評価システムは、新たな閾値の設定を行わず、弾性波源の密度分布を生成し、弾性波源の密度分布を補正することによって構造物の劣化状態を評価する。
図12は、第2の実施形態における構造物評価システム100aの構成を示す図である。
構造物評価システム100aは、衝撃付与部10、複数のセンサ20-1~20-n、信号処理部30及び構造物評価装置40aを備える。構造物評価システム100aは、構造物評価装置40に代えて構造物評価装置40aを備える点で構造物評価システム100と構成が異なる。以下、構造物評価装置40aについてのみ説明する。

【0048】
構造物評価装置40aは、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、評価プログラムを実行する。評価プログラムの実行によって、構造物評価装置40aは、位置標定部401a、評価部402a、表示部403、密度分布生成部404、補正部405を備える装置として機能する。なお、構造物評価装置40aの各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、評価プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、評価プログラムは、電気通信回線を介して送受信されてもよい。

【0049】
構造物評価装置40aは、位置標定部401及び評価部402に代えて位置標定部401a及び評価部402aを備える点、密度分布生成部404及び補正部405を新たに備える点で構造物評価装置40と構成が異なる。構造物評価装置40aは、その他の構成については構造物評価装置40と同様である。そのため、位置標定部401a、評価部402a、密度分布生成部404及び補正部405についてのみ説明する。

【0050】
位置標定部401aは、入力されたAE信号に含まれるセンサID、AE検知時刻等の情報と、予め保持しているセンサ位置情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う。弾性波源の位置標定の方法は、第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。また、位置標定部401aは、位置標定結果を用いて弾性波源分布を生成する。位置標定部401aは、生成した弾性波源分布を密度分布生成部404に出力する。

【0051】
密度分布生成部404は、生成された弾性波源分布を用いて、弾性波源密度分布を生成する。弾性波源密度分布は、弾性波源の密度が示された分布である。密度分布生成部404は、生成した弾性波源密度分布を補正部405に出力する。

【0052】
図13Aは弾性波源分布の一例を示す図であり、図13Bは図13Aに示す弾性波源分布に基づいて得られる弾性波源密度分布の一例を示す図である。図13Aにおいて、縦軸及び横軸は計測対象となる領域の長さ(m)を表す。図13Aでは、中心付近に弾性波源が集中しており、中心から離れた位置ほど弾性波源が少なくなっていることが分かる。図13Bのような弾性波源密度分布を生成することによって、どのあたりが弾性波源の密度が高いのかを容易に判定することができる。

【0053】
補正部405は、生成された弾性波源密度分布に、補正係数1/F(x,y)を乗じることによって弾性波源密度分布を補正する。補正部405は、補正後の弾性波源密度分布を評価部402aに出力する。なお、健全な構造物50において、この補正後の弾性波源密度分布が一様となるように補正係数が定められる。補正係数は、より詳細には、例えば以下の方法により定められる。補正係数は、センサ20の配置位置に応じた弾性波源密度のずれを補正するための係数である。そのため、弾性波源の位置ごとに、正しく位置標定される確率F(x,y)の逆数を乗じればよい。(x,y)の基準位置(0, 0)は、例えば弾性波源密度分布の左上である。

【0054】
F(x,y)は、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離が遠くなるほど低下する。F(x,y)と、弾性波源から4thヒットセンサまでの距離との対応関係は、例えば、図8に示したようなコンター図と弾性波の減衰特性等をもとにした数値シミュレーションや、健全な構造物50での実験などにより予め算出される。

【0055】
評価部402aは、補正部405によって補正された弾性波源密度分布に基づいて構造物の劣化状態を評価する。評価部402aは、評価結果を表示部403に表示する。

【0056】
図14は、構造物評価システム100aの処理の流れを示すシーケンス図である。なお、図14の処理では、信号処理部30及び構造物評価装置40aを用いて特徴的な処理についてのみ説明する。また、図14において、図7と同様の処理については図7と同様の符号を付して説明を省略する。
位置標定部401aは、ステップS106の処理で生成した弾性波源分布を密度分布生成部404に出力する。密度分布生成部404は、位置標定部401aから出力された弾性波源分布を用いて、弾性波源密度分布を生成する(ステップS201)。密度分布生成部404は、生成した弾性波源密度分布を補正部405に出力する。補正部405は、生成された弾性波源密度分布に、補正係数1/F(x,y)を乗じることによって弾性波源密度分布を補正する(ステップS202)。

【0057】
補正部405は、補正後の弾性波源密度分布を評価部402aに出力する。評価部402aは、補正部405によって補正された弾性波源密度分布に基づいて構造物の劣化状態を評価する(ステップS203)。具体的には、評価部402aは、補正後の弾性波源密度分布に基づいて、弾性波源密度分布の密度が一様であるか否かを判定する。弾性波源密度分布で示される密度が一様である場合、評価部402aは健全な状態であると判定する。
一方、弾性波源密度分布で示される密度が一様ではない場合、評価部402aは劣化が生じていると判定する。この場合、評価部402aは、弾性波源密度分布で示される密度が、あらかじめ定められた判定閾値未満の領域を構造物50の劣化が生じている領域と評価する。

【0058】
以上のように構成された構造物評価システム100aは、弾性波源分布から得られる弾性波源密度分布を、センサ20の配置に応じた補正係数で補正することによって構造物50の劣化状態を評価する。補正係数により弾性波源密度分布を補正することによって、構造物が損傷を有していない場合には、弾性波源密度分布で示される密度が略一様になる。その結果、誤って健全な構造物を劣化していると評価してしまうことがなくなる。そのため、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることが可能になる。

【0059】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、構造物評価システムは、新たな閾値の設定を行わず、計測結果との比較対象となる健全な構造物50において得られた弾性波源密度分布に補正を行うことによって構造物の劣化状態を評価する。
図15は、第3の実施形態における構造物評価システム100bの構成を示す図である。
構造物評価システム100bは、衝撃付与部10、複数のセンサ20-1~20-n、信号処理部30及び構造物評価装置40bを備える。構造物評価システム100bは、構造物評価装置40aに代えて構造物評価装置40bを備える点で構造物評価システム100aと構成が異なる。以下、構造物評価装置40bについてのみ説明する。

【0060】
構造物評価装置40bは、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、評価プログラムを実行する。評価プログラムの実行によって、構造物評価装置40aは、位置標定部401a、評価部402b、表示部403、密度分布生成部404b、補正部405bを備える装置として機能する。なお、構造物評価装置40bの各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、評価プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、評価プログラムは、電気通信回線を介して送受信されてもよい。

【0061】
構造物評価装置40bは、評価部402a、密度分布生成部404a及び補正部405aに代えて評価部402b、密度分布生成部404b及び補正部405bを備える点で構造物評価装置40aと構成が異なる。構造物評価装置40bは、その他の構成については構造物評価装置40aと同様である。そのため、評価部402b、密度分布生成部404b及び補正部405bについてのみ説明する。

【0062】
密度分布生成部404bは、生成された弾性波源分布を用いて、弾性波源密度分布を生成する。密度分布生成部404bは、生成した弾性波源密度分布を評価部402bに出力する。

【0063】
補正部405bは、比較対象となる弾性波源密度分布に補正を行う。ここで、比較対象となる弾性波源密度分布は、健全な構造物50において得られた弾性波源密度分布である。すなわち、比較対象となる弾性波源密度分布は、一様な分布を有する弾性波源密度分布である。補正部405bは、比較対象となる弾性波源密度分布を予め記憶していてもよいし、比較対象となる弾性波源密度分布を記憶している記憶装置から取得してもよい。

【0064】
また、補正部405bは、予め別途算出しておいた理論的な密度の偏り、もしくは、実験的に検証した密度の偏りに基づいて、弾性波源の位置毎の補正倍率を算出する。この補正倍率は、例えば、F(x,y)のような分布となる。補正部405bは、算出した補正倍率を、比較対象となる弾性波源密度分布に乗じることによって、比較対象となる弾性波源密度分布を補正する。以下、補正後の比較対象となる弾性波源密度分布を補正後基準密度分布と記載する。補正部405bは、補正後基準密度分布を評価部402bに出力する。

【0065】
評価部402bは、密度分布生成部404bから出力された弾性波源密度分布と、補正部405bから出力された補正後基準密度分布に基づいて構造物の劣化状態を評価する。評価部402bは、評価結果を表示部403に表示する。

【0066】
図16は、構造物評価システム100bの処理の流れを示すシーケンス図である。なお、図16の処理では、信号処理部30及び構造物評価装置40bを用いて特徴的な処理についてのみ説明する。また、図16において、図14と同様の処理については図14と同様の符号を付して説明を省略する。
密度分布生成部404bは、位置標定部401aから出力された弾性波源分布を用いて、弾性波源密度分布を生成する(ステップS301)。密度分布生成部404bは、生成した弾性波源密度分布を評価部402bに出力する。補正部405bは、比較対象となる弾性波源密度分布に対して、弾性波源の位置毎に算出される補正倍率を乗じて補正を行うことによって補正後基準密度分布を生成する(ステップS302)。密度分布生成部404は、生成した補正後基準密度分布を評価部402bに出力する。

【0067】
評価部402bは、密度分布生成部404bから出力された弾性波源密度分布と、補正部405bから出力された補正後基準密度分布に基づいて構造物の劣化状態を評価する(ステップS303)。具体的には、評価部402bは、補正後基準密度分布と、弾性波源密度分布とを比較し、補正後基準密度分布と弾性波源密度分布とが略一致している場合に健全な状態であると判定する。ここで、略一致の基準は、予め設定されている。
一方、評価部402bは、補正後基準密度分布と、弾性波源密度分布とを比較し、補正後基準密度分布に対して密度が低下している領域を構造物50の劣化が生じている領域と評価する。

【0068】
以上のように構成された構造物評価システム100bは、基準となる弾性波源分布に補正を行い、弾性波源密度分布と、補正後弾性波源密度分布とを比較することによって構造物50の劣化状態を評価する。第2の実施形態では、比較対象となる健全時の弾性波源密度分布が一様であったが、本実施形態では、比較対象となる弾性波源密度分布に補正がなされる。これにより、比較対象となる健全な状態の構造物50により得られた弾性波源密度分布が、計測時のセンサ20の配置位置に応じた弾性波源密度分布となる。そして、構造物評価装置40bは、補正後弾性波源密度分布と、実際の計測により得られた弾性波源密度分布とを比較することによって、弾性波源密度分布が補正後弾性波源密度分布と略一致する場合には、健全な状態であると評価することができる。したがって、弾性波源密度分布が補正後弾性波源密度分布と略一致する場合には、実際の計測により得られた弾性波源密度分布内の密度があらかじめ定められた判定閾値未満な領域があったとしても、誤って健全な構造物を劣化していると評価してしまうことがなくなる。そのため、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることが可能になる。

【0069】
以下、各実施形態に共通の変形例について説明する。
構造物評価システム100、100a及び100bには、3つ以上のセンサ20が備えられていればよい。
構造物評価システム100、100a及び100bは、衝撃付与部10を備えなくてもよい。このように構成される場合、構造物50に対する衝撃11は、人手で与えればよい。
構造物評価装置40が備える各機能部は、一部又は全てが別の筺体に備えられていてもよい。例えば、構造物評価装置40が評価部402のみを備えて、位置標定部401および表示部403が別の筺体に備えられてもよい。このように構成される場合、評価部402は、弾性波源分布を別の筺体から取得し、取得した弾性波源分布を用いて構造物の健全性を評価する。そして、評価部402は、評価結果を別の筺体が備える表示部403に出力する。
このように構成されることによって、弾性波源分布の導出に既存の装置を用いることによって、構造物評価装置40の製造コストを抑えることができる。

【0070】
信号処理部30には第1の閾値を設定せず、信号処理部30が計測期間中の信号を全て連続で保存してもよい。このように構成される場合、信号処理部30に対して、第1の閾値を計測終了後に設定するように構成されてもよい。これにより、信号処理部30は、新たに設定された第1の閾値を超える振幅の弾性波を構造物評価装置40(又は構造物評価装置40a、構造物評価装置40b)に出力する。その結果、全ての信号を保存することで、個々の弾性波を識別するための第1の閾値を、計測終了後に自由に設定することができる。また、レベルの低い信号も全て保存されるため、後から閾値を下げて再度弾性波を識別し直すことにより、一度第1の閾値にかからなかった弾性波波形も後から取得することができる。
また、信号処理部30には第1の閾値を設定せず、信号処理部30が計測期間中のAE信号を全て構造物評価装置40(又は構造物評価装置40a、構造物評価装置40b)に出力してもよい。このように構成される場合、位置標定部401(又は位置標定部401a、位置標定部401b)は、取得したAE信号を用いて各実施形態における処理を行う。

【0071】
信号処理部30は、構造物評価装置40(又は構造物評価装置40a、構造物評価装置40b)に備えられてもよい。このように構成される場合、信号処理部30は、センサ20による処理が施されたAE源信号を、センサ20から直接、又は、不図示の中継装置を介して取得する。
図1では、複数のセンサ20-1~10-nに1台の信号処理部30が接続されているが、構造物評価システム100(又は構造物評価システム100a、構造物評価システム100b)は複数台の信号処理部30を備え、各センサ20にそれぞれ信号処理部30が接続されて複数台のセンサユニットを備えるように構成されてもよい。

【0072】
また、評価部402(又は評価部402a、評価部402b)は、出力制御部として動作してもよい。出力制御部は、出力部を制御して、評価結果を出力する。ここで、出力部には、表示部403、通信部および印刷部が含まれる。出力部が通信部である場合、出力制御部は通信部を制御して、評価結果を他の装置に送信する。また、出力部が印刷部である場合、出力制御部は印刷部を制御して、評価結果を印刷する。なお、構造物評価装置40(又は構造物評価装置40a、構造物評価装置40b)は、出力部として、表示部403、通信部および印刷部の一部又は全てを備えて上記の動作を実行してもよい。

【0073】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、構造物評価システム100は、複数のセンサ20-1~20-Nと、位置標定部401と、評価部402とを持つ。複数のセンサ20-1~20-Nは、弾性波を検出する。位置標定部401は、複数のセンサ20-1~20-Nそれぞれによって検出された複数の弾性波のうち、複数の弾性波源の位置によって定められる閾値を超える振幅を有する弾性波を用いて弾性波源の位置を標定する。評価部402は、位置標定部401による弾性波源の位置標定結果に基づいて、構造物の劣化状態を評価する。これにより、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることが可能になる。

【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5A】
4
【図5B】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8A】
8
【図8B】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11A】
12
【図11B】
13
【図12】
14
【図13A】
15
【図13B】
16
【図14】
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【図15】
18
【図16】
19