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明細書 :クリスタリン網膜症の処置および/または予防方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年3月12日(2020.3.12)
発明の名称または考案の名称 クリスタリン網膜症の処置および/または予防方法
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P  27/02        (2006.01)
A61P   3/06        (2006.01)
A61K  31/355       (2006.01)
A61K  31/724       (2006.01)
FI A61K 45/00
A61P 27/02
A61P 3/06
A61K 31/355
A61K 31/724
国際予備審査の請求
全頁数 28
出願番号 特願2019-514654 (P2019-514654)
国際出願番号 PCT/JP2018/017183
国際公開番号 WO2018/199287
国際出願日 平成30年4月27日(2018.4.27)
国際公開日 平成30年11月1日(2018.11.1)
優先権出願番号 2017090296
優先日 平成29年4月28日(2017.4.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】畑 匡侑
【氏名】池田 華子
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
Fターム 4C084AA17
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZC331
4C084ZC332
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC33
要約 本開示は、コレステロール蓄積阻害剤を含むクリスタリン網膜症の処置および/または予防用の組成物、コレステロール蓄積阻害剤を対象に投与することを含む、クリスタリン網膜症の処置および/または予防方法、または、クリスタリン網膜症の処置および/または予防のためのコレステロール蓄積阻害剤の使用を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
コレステロール蓄積阻害剤を含むクリスタリン網膜症の処置および/または予防用の組成物。
【請求項2】
コレステロール蓄積阻害剤が、シクロデキストリン化合物またはビタミンE化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
コレステロール蓄積阻害剤が、シクロデキストリン化合物である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
コレステロール蓄積阻害剤が、少なくとも1個のヒドロキシル基がアルキル化またはヒドロキシアルキル化されていてもよいβ-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリン、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である、請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
コレステロール蓄積阻害剤が、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD)またはメチル-β-シクロデキストリン(MBCD)である、請求項1ないし4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
コレステロール蓄積阻害剤がHPBCDまたはHPGCDである、請求項1ないし5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
コレステロール蓄積阻害剤がHPBCDである、請求項1ないし6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
コレステロール蓄積阻害剤がHPGCDである、請求項1ないし6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
コレステロール蓄積阻害剤がビタミンE化合物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
コレステロール蓄積阻害剤がトコフェロールである、請求項1、2または9に記載の組成物。
【請求項11】
コレステロール蓄積阻害剤がδ-トコフェロールである、請求項1、2、9または10に記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2017-090296号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、クリスタリン網膜症を処置および/または予防するためのコレステロール蓄積阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クリスタリン網膜症は、1937年にBiettiが報告した常染色体劣性遺伝形式の網膜変性疾患であり、常染色体劣性遺伝型の網膜変性疾患の約10%を占める(非特許文献1)。日本人を含むアジア人に多く、通常、20歳代以降に進行性の視野および視力の障害が現れ、60歳代以降で失明に至る。クリスタリン網膜症では網膜視細胞および網膜色素上皮(RPE)細胞の萎縮が進行性に生じ、眼底にみられるクリスタル様沈着物が特徴的な所見である。光干渉断層計(OCT)などの検査機器の発達により、クリスタル様沈着物がRPE細胞に多くみられること、RPE細胞の萎縮が網膜萎縮に先行することなどが報告されておりRPE細胞が初期病変であると考えられている(非特許文献2)。
【0003】
患者からRPE細胞を採取できないため、クリスタリン網膜症の詳細な病態は解明されていない。クリスタリン網膜症とCYP4V2遺伝子(4q35)の変異との関連が2004年に報告された(非特許文献3)。CYP4V2はRPE細胞で強い発現が見られ、脂質代謝に関わる酵素であると想定されるが、その詳細な機能は明らかになっていない(非特許文献4)。クリスタリン網膜症の病態を解明し、病態に基づいた治療法を確立することが求められている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2015/083736号
【特許文献2】特表2015-524444号公報
【0005】

【非特許文献1】Mataftsi A et al. RETINA 2004 Jun;24(3):416-26.
【非特許文献2】Halford et al. Ophthalmology 2014 Jun:121(6):1174-1184.
【非特許文献3】Li A et al. Am J Hum Genet 2004 May;74(5):817-26.
【非特許文献4】Nakano M et al. Mol Pharm 2012 Oct;82(4):679-86.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、クリスタリン網膜症の処置および/または予防方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、iPS細胞を用いてクリスタリン網膜症の病態を研究し、クリスタリン網膜症とRPE細胞内の遊離コレステロール蓄積との関連を初めて見出した。さらに、コレステロール蓄積阻害剤により、クリスタリン網膜症に特徴的なRPE細胞の異常が低減されることを示した。
【0008】
従って、ある態様では、本願は、コレステロール蓄積阻害剤を含むクリスタリン網膜症の処置および/または予防用の組成物を提供する。
別の態様では、本願は、コレステロール蓄積阻害剤を対象に投与することを含む、クリスタリン網膜症の処置および/または予防方法を提供する。
また別の態様では、本願は、クリスタリン網膜症の処置および/または予防のためのコレステロール蓄積阻害剤の使用を提供する。
また別の態様では、本願は、クリスタリン網膜症の処置および/または予防用の医薬を製造するための、コレステロール蓄積阻害剤の使用を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本願の開示に従い、クリスタリン網膜症を処置および/または予防し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】健常人(WT)またはクリスタリン網膜症患者(BCD)に由来する未分化iPS細胞、および、それらを分化させたiPS-RPE細胞におけるCYP4V2タンパク質の発現を示す。
【図2】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞の明視野顕微鏡像を示す。
【図3】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞の電子顕微鏡像を示す。
【図4】細胞数により測定したWT iPS-RPE前駆細胞およびBCD iPS-RPE前駆細胞の増殖能を示す。BCD vs.NOR;スチューデントのt検定;各群n=3
【図5】Ki67発現量により測定したWT iPS-RPE前駆細胞およびBCD iPS-RPE前駆細胞の増殖能を示す。BCD vs.NOR;スチューデントのt検定;各群n=4
【図6】WT iPS-RPE前駆細胞およびBCD iPS-RPE前駆細胞の死細胞率を示す。BCD vs.NOR;スチューデントのt検定;各群n=3
【図7】CYP4V2遺伝子(正常もしくは変異遺伝子)を導入したWT iPS-RPE前駆細胞およびBCD iPS-RPE前駆細胞の増殖能を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;各群n=4。BCD+CYP4V2(WT)vs.BCD+CYP4V2(mut):day1 p=0.003、day5 p=0.003、day7p=0.003。BCD+CYP4V2(WT)vs.BCD+GFP:day5 p=0.024、day7 p=0.006
【図8】CYP4V2遺伝子(正常もしくは変異遺伝子)を導入したWT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞における変性細胞の割合を示す。一元配置分散分析の後、テューキーの検定;各群n=5
【図9】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞における、バフィロマイシンAの存在下または非存在下でのオートファジー関連タンパク質の発現を示す。NOR Tx- vs.NOR BafA1:*p=0.0459(LC3-II)、*p=0.0496(p62)、n=3、対応のあるt検定;NOR Tx- vs.BCD Tx-、***p<0.001(LC3-II)、**p=0.0013(p62)、n=3、スチューデントのt検定
【図10】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞におけるLysoTracker陽性細胞の割合を示す。BCD vs.NOR;スチューデントのt検定;各細胞株につきn=3
【図11】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞の細胞内の糖セラミドの量を示す。NOR vs.BCD;スチューデントのt検定;n=10
【図12】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞の細胞内のコレステロールエステルの量を示す。NOR vs.BCD;スチューデントのt検定;n=8
【図13】WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞の細胞内の遊離コレステロールの量を示す。NOR vs.BCD;スチューデントのt検定;n=3
【図14】NBDNJ、HPBCD、HPGCD、MBCDまたはδ-Tで処理したBCD iPS-RPE細胞における細胞内の遊離コレステロールおよびコレステロールエステルの量を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;n=3
【図15】NBDNJ、HPBCDまたはHPGCDで処理したBCD iPS-RPE細胞における変性細胞の割合を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;n=3
【図16】HPBCDで処理したBCD iPS-RPE細胞の電子顕微鏡像を示す。
【図17】NBDNJ、HPBCD、HPGCD、MBCDまたはδ-Tで処理したBCD iPS-RPE前駆細胞の増殖能を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;各群n=4
【図18】NBDNJ、HPBCD、HPGCD、MBCDまたはδ-Tで処理したBCD iPS-RPE前駆細胞の死細胞率を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;各群n=3
【図19】NBDNJ、HPBCDまたはHPGCDで処理したBCD iPS-RPE細胞におけるLysoTracker陽性細胞の割合を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;各細胞株につきn=3
【図20】NBDNJ、HPBCDまたはHPGCDで処理したBCD iPS-RPE細胞における各種の糖セラミドの量を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;n=3
【図21】NBDNJ、HPBCDまたはHPGCDで処理したBCD iPS-RPE細胞における各種のコレステロールエステルの量を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;n=3
【図22】NBDNJ、HPBCDまたはHPGCDで処理したBCD iPS-RPE細胞における各種のコレステロールエステルの量を示す。一元配置分散分析の後、ダネットの検定;n=3
【図23】HPBCDで処理したBCD iPS-RPE細胞におけるにおけるオートファジー関連タンパク質の発現を示す。対応のあるt検定;n=3
【発明を実施するための形態】
【0011】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。

【0012】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。

【0013】
「コレステロール蓄積阻害剤」は、遊離コレステロールの合成もしくは取り込みを阻害するか、または、遊離コレステロールの細胞外排出を促進することにより、細胞内の遊離コレステロールの蓄積を阻害する物質を意味する。コレステロール蓄積阻害剤の例として、シクロデキストリン化合物、ビタミンE化合物、スタチン類などのHMG-CoA還元酵素阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、リソソーム酸リパーゼ阻害剤が挙げられる。コレステロール蓄積阻害剤は、当分野で公知の方法で合成し得るか、または、購入し得る。

【0014】
ある実施態様では、コレステロール蓄積阻害剤はシクロデキストリン化合物である。シクロデキストリンは、一般的に、グルコースがα-1,4結合で環状に結合した化合物を意味し、グルコースが6、7、8個環状に結合したものを、それぞれα-、β-、γ-シクロデキストリンと称する。「シクロデキストリン化合物」は、シクロデキストリン、および、シクロデキストリンの置換可能な基が置換されている誘導体、並びにそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物および水和物を含む。例えば、シクロデキストリン化合物は、α-、β-、γ-シクロデキストリン、および、α-、β-、γ-シクロデキストリンの置換可能な基が置換されている誘導体、並びにそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物および水和物を含む。

【0015】
ある実施態様において、シクロデキストリン化合物は、式(I)の化合物またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。
【化1】
JP2018199287A1_000003t.gif
式中、各Rは独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであって、これらはそれぞれ置換されていてもよく;または、-C(O)OR、-OC(O)R、-C(O)R、または-C(O)NRであり;
各Rは独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、-CN、-CF、-N、-NO、-OR、-SR、-SOR、-SO、-N(R)S(O)-R、-N(R)S(O)NR、-NR、-C(O)OR、-OC(O)R、-C(O)R、-C(O)NR、またはN(R)C(O)Rであって、これらはそれぞれ置換されていてもよく;
各Rは独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであって、これらはそれぞれ置換されていてもよく;
各Rは独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであって、これらはそれぞれ置換されていてもよく;
nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であり;そして
各mは独立して、0、1、2、3、4、または5である。

【0016】
本明細書で用いられる用語「アルキル」は、炭素数1~10、好ましくは1~6の、飽和された、直鎖または分岐鎖の炭化水素基を示す。アルキル基の例は、これに限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、ヘプチル、オクチル基などを包含する。

【0017】
本明細書で用いられる用語「アルケニル」は、炭素数1~10、好ましくは1~6の、1つまたはそれ以上の二重結合を含んでいる直鎖または分岐鎖の炭化水素を意味する。アルケニル基は、これに限定されないが、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1-メチル-2-ブテン-1-イル、ヘプテニル、オクテニルなどを包含する。

【0018】
本明細書で用いられる用語「アルキニル」は、炭素数1~10、好ましくは1~6の、1つまたはそれ以上の三重結合を含んでいる直鎖または分岐鎖の炭化水素を意味する。アルキニル基は、これに限定されないが、例えば、エチニル、1-プロピニル、1-ブチニル、ヘプチニル、オクチニルなどを包含する。

【0019】
用語「シクロアルキル」は、単環式または多環式の飽和炭素環化合物から派生する一価の基を示す。シクロアルキルの例は、これに限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルおよびビシクロ[2.2.2]オクチルなどを包含する。用語「炭素環」または「炭素環式」または「カルボシクリル」は、環原子として0個のヘテロ原子を含んでいる飽和(例えば、「シクロアルキル」)、部分飽和(例えば、「シクロアルケニル」またはシクロアルキニル)または完全不飽和(例えば、「アリール」)環系を示す。カルボシクリルは単環、2またはそれ以上の縮合環、架橋またはスピロ環であってよいが、これに限定されない。カルボシクリルは、例えば、3~10個の環員原子を含有できる。置換されたカルボシクリルはシスまたはトランスの何れかの配置を有することができる。カルボシクリル基の代表的な例は、これに限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキサジエニル、アダマンチル、デカヒドロ-ナフタレニル、オクタヒドロ-インデニル、シクロヘキセニル、フェニル、ナフチル、フルオレニル、インダニル、1,2,3,4-テトラヒドロ-ナフチル、インデニル、イソインデニル、ビシクロデカニル、アントラセニル、フェナントレン、ベンゾナフテニル(「フェナレニル」として知られている)、デカリニル、およびノルピナニルなどを包含する。カルボシクリル基は、置換可能な基の炭素原子の何れかを介して親分子部分に結合できる。

【0020】
用語「アリール」は、6~14個の環員原子を含んでいる芳香族のカルボシクリルを示す。アリールの限定されない例は、フェニル、ナフタレニル、アントラセニル、およびインデニルなどを包含する。アリール基は置換可能な基の炭素原子の何れかを介して親分子部分に結合できる。

【0021】
用語「ヘテロアリール」は、一般的に5~18個の環員原子(ここで、少なくとも1つの環員原子はヘテロ原子である)を含んでいる芳香族のヘテロシクリルを意味する。ヘテロアリールは単環、または2またはそれ以上の縮合環であってよい。5員環ヘテロアリールの限定されない例は、チアゾリル;1,2,3-、1,2,4-、1,2,5-、および1,3,4-オキサジオザリル;およびイソチアゾリルを包含する。6員環ヘテロアリールの限定されない例は、ピリジニル;ピラジニル;ピリミジニル;ピリダジニル;および1,3,5-、1,2,4-、および1,2,3-トリアジニルを包含する。6/5員環の縮合環ヘテロアリールの限定されない例は、ベンゾチオフラニル、イソベンゾチオフラニル、ベンズイソキサゾリル、ベンズオキサゾリル、プリニル、およびアントラニリルを包含する。6/6員環の縮合環ヘテロアリールの限定されない例は、キノリニル;イソキノリニル;およびベンゾキサジニル(シンノリニルおよびキナゾリニルを含んでいる)を包含する。

【0022】
用語「ヘテロシクロアルキル」は非芳香族3-、4-、5-、6-または7-員環、または2環式または3環式の縮合系を示し、ここで少なくとも1つの環員原子はヘテロ原子であり、そしてここで、(i)それぞれの5員環は0~1の二重結合を有し、そしてそれぞれの6員環は0~2の二重結合を有し、(ii)窒素および硫黄原子は酸化されていてもよく、(iii)窒素ヘテロ原子は4級化されていてもよく、そして(iv)上記の環は何れもベンゼン環に縮合していてもよい。代表的なヘテロシクロアルキル基は、これに限定されないが、[1.3]ジオキソラン、ピロリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキサゾリジニル、イソキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、およびテトラヒドロフリルなどを包含する。

【0023】
用語「ハロ」および「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を意味する。

【0024】
用語「置換されていてもよい」は、その基の1個、2個、または3個またはそれ以上の水素原子が以下の置換基のいずれかで独立して置換されていてもよいことを意味する。
-アルキル、-アルケニル、-アルキニル、-アリール、-アリールアルキル、-ヘテロアリール、-ヘテロアリールアルキル、-ヘテロシクロアルキル、-シクロアルキル、-酸素環、-複素環、
-F、-Cl、-Br、-I、
-OH、保護されたヒドロキシ、アルコキシ、オキソ、チオオキソ、
-NO、-CN、-CF、N
-NH、保護されたアミノ、-NHアルキル、-NHアルケニル、-NHアルキニル、-NHシクロアルキル、-NH-アリール、-NH-ヘテロアリール、-NH-複素環、-ジアルキルアミノ、-ジアリールアミノ、-ジヘテロアリールアミノ、
-O-アルキル、-O-アルケニル、-O-アルキニル、-O-シクロアルキル、-O-アリール、-O-ヘテロアリール、-O-複素環、
-C(O)-アルキル、-C(O)-アルケニル、-C(O)-アルキニル。-C(O)-シクロアルキル、-C(O)-アリール、-C(O)-ヘテロアリール、-C(O)-ヘテロシクロアルキル、
-CONH、-CONH-アルキル、-CONH-アルケニル、-CONH-アルキニル、-CONH-シクロアルキル、-CONH-アリール、-CONH-ヘテロアリール、-CONH-ヘテロシクロアルキル、
-OCO-アルキル、-OCO-アルケニル、-OCO-アルキニル、-OCO-シクロアルキル、-OCO-アリール、-OCO-ヘテロアリール、-OCO-ヘテロシクロアルキル、-OCONH、-OCONH-アルキル、-OCONH-アルケニル、-OCONH-アルキニル、-OCONH-シクロアルキル、-OCONH-アリール、-OCONH-ヘテロアリール、-OCONH-ヘテロシクロアルキル、
-NHC(O)-アルキル、-NHC(O)-アルケニル、-NHC(O)-アルキニル、-NHC(O)-シクロアルキル、-NHC(O)-アリール、-NHC(O)-ヘテロアリール、-NHC(O)-ヘテロシクロアルキル、-NHCO-アルキル、-NHCO-アルケニル、-NHCO-アルキニル、-NHCO-シクロアルキル、-NHCO-アリール、-NHCO-ヘテロアリール、-NHCO-ヘテロシクロアルキル、-NHC(O)NH、-NHC(O)NH-アルキル、-NHC(O)NH-アルケニル、-NHC(O)NH-アルキニル、-NHC(O)NH-シクロアルキル、-NHC(O)NH-アリール、-NHC(O)NH-ヘテロアリール、-NHC(O)NH-ヘテロシクロアルキル、-NHC(S)NH、-NHC(S)NH-アルキル、-NHC(S)NH-アルケニル、-NHC(S)NH-アルキニル、-NHC(S)NH-シクロアルキル、-NHC(S)NH-アリール、-NHC(S)NH-ヘテロアリール、-NHC(S)NH-ヘテロシクロアルキル、-NHC(NH)NH、-NHC(NH)NH-アルキル、-NHC(NH)NH-アルケニル、-NHC(NH)NH-アルキニル-NHC(NH)NH-シクロアルキル、-NHC(NH)NH-アリール、-NHC(NH)NH-ヘテロアリール、-NHC(NH)NH-ヘテロシクロルキル、-NHC(NH)-アルキル、-NHC(NH)-アルケニル、-NHC(NH)-アルキニル、-NHC(NH)-シクロアルキル、-NHC(NH)-アリール、-NHC(NH)-ヘテロアリール、-NHC(NH)-ヘテロシクロアルキル、
-C(NH)NH-アルキル、-C(NH)NH-アルケニル、-C(NH)NH-アルキニル、-C(NH)NH-シクロアルキル、-C(NH)NH-アリール、-C(NH)NH-ヘテロアリール、-C(NH)NH-ヘテロシクロアルキル、
-S(O)-アルキル、-S(O)-アルケニル、-S(O)-アルキニル、-S(O)-シクロアルキル、-S(O)-アリール、-S(O)-ヘテロアリール、-S(O)-ヘテロシクロアルキル、-SONH、-SONH-アルキル、-SONH-アルケニル、-SONH-アルキニル、-SONH-シクロアルキル、-SONH-アリール、-SONH-ヘテロアリール、-SONH-ヘテロシクロアルキル、
-NHSO-アルキル、-NHSO-アルケニル、-NHSO-アルキニル、-NHSO-シクロルアキル、-NHSO-アリール、-NHSO-ヘテロアリール、-NHSO-ヘテロシクロアルキル、
-CHNH-、CHSOCH、ポリアルコキシアルキル、ポリアルコキシ、-メトキシメトキシ、-メトキシエトキシ、-SH、-S-アルキル、-S-アルケニル、-S-アルキニル、-S-シクロアルキル、-S-アリール、-S-ヘテロアリール、-S-ヘテロシクロアルキル、またはメチルチオメチル。

【0025】
ある実施態様において、式(I)中、各Rは独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであって、これらはそれぞれ置換されていてもよく、好ましくはヒドロキシで置換されていてもよく;または、-C(O)OR、-OC(O)R、-C(O)R、または-C(O)NRである。

【0026】
ある実施態様において、式(I)中、各Rは独立して、H、置換されていてもよいアルキル、-C(O)OR、-OC(O)R、-C(O)R、または-C(O)NRである。

【0027】
ある実施態様において、式(I)中、各Rは独立して、H、ヒドロキシで置換されていてもよいアルキル、-C(O)OR、-OC(O)R、-C(O)R、または-C(O)NRである。

【0028】
ある実施態様において、式(I)中、各Rは独立して、H、または、ヒドロキシで置換されていてもよいアルキルである。

【0029】
ある実施態様において、式(I)中、各Rは独立して、H、メチル、エチル、プロピル、またはヒドロキシプロピルである。

【0030】
ある実施態様において、式(I)中、各Rは独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、-CN、-CF、-N、-NO、-OR、-SR、-SOR、-SO、-N(R)S(O)-R、-N(R)S(O)NR、-NR、-C(O)OR、-OC(O)R、-C(O)R、-C(O)NR、またはN(R)C(O)Rである。

【0031】
ある実施態様において、式(I)中、nは1、2、または3である。
ある実施態様において、式(I)中、nは2または3である。
ある実施態様において、式(I)中、mは0である。

【0032】
ある実施態様では、シクロデキストリン化合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリン、それらの誘導体、例えば、少なくとも1個のヒドロキシル基がアルキル化またはヒドロキシアルキル化されている誘導体、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。ある実施態様では、シクロデキストリン化合物は、β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリン、それらの誘導体、例えば、少なくとも1個のヒドロキシル基がアルキル化またはヒドロキシアルキル化されている誘導体、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。

【0033】
ある実施態様において、シクロデキストリン化合物は、メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)、2-ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン(HPBCD)または2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD)、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。ある実施態様において、シクロデキストリン化合物は、HPBCDまたはHPGCD、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。ある実施態様において、シクロデキストリン化合物は、HPGCDまたはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。

【0034】
ある実施態様では、コレステロール蓄積阻害剤は、ビタミンE化合物である。ビタミンE化合物には、トコフェロールまたはトコトリエノール、例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノールおよびδ-トコトリエノール、並びにそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物および水和物が含まれる。トコフェロールのエステルとしては、例えば、酢酸トコフェロール、リン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール等が挙げられる。ある実施態様では、コレステロール蓄積阻害剤は、δ-トコフェロールまたはその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である。

【0035】
本明細書で用いられる用語「薬学的に許容される塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを起こさずにヒトおよび動物の組織に接触させて使用するのに適していて、合理的な利益/リスク比が釣り合っている、化合物の塩を示す。薬学的に許容される塩は当該技術分野において周知である。例えば、S. M. Berge, et al はJ. Pharmaceutical Sciences, 66: 1-19 (1977) に薬学的に許容される塩を詳細に記載している。薬学的に許容される塩の例は、これに限定されないが、非毒性酸付加塩、または塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸および過塩素酸のような無機酸、または酢酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸のような有機酸を用いて、またはイオン交換のような当該技術分野で用いられているその他の方法によって形成される塩を包含する。その他の薬学的に許容される塩は、これに限定されないが、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、カンホラート、カンホスルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオンサン塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、および吉草酸塩を包含する。代表的なアルカリまたはアルカリ土類金属の塩は、ナトリウム、リチウム、ポタシウム、カルシウム、またはマグネシウム塩などを包含する。さらなる薬学的に許容される塩は、適切なら、ハライド、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、1~6個の炭素原子を有しているアルキル、スルホン酸塩およびアリールスルホン酸塩のような、対イオンを用いて形成されるアンモニウム、4級アンモニウム、およびアミンカチオンを包含する。

【0036】
本明細書で用いられる用語「薬学的に許容されるエステル」は、インビボで加水分解され、ヒトまたは動物の体内で容易に分解して親化合物またはその塩を置き去るようなものを包含する、化合物のエステルを示す。適切なエステル基は、例えば、薬学的に許容される脂肪酸、特に、それぞれのアルキルまたはアルケニル部分が有利には6個以上の炭素原子を有していない、アルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸およびアルカンジオン酸に由来するものを包含する。特定のエステルの例は、これに限定されないが、ギ酸エステル、酢酸エステル、リン酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、アクリル酸エステル、ニコチン酸エステルおよびコハク酸エステルを包含する。

【0037】
「クリスタリン網膜症」は、CYP4V2遺伝子の変異により生じる網膜変性疾患を意味する。一般的に、網膜や周辺部角膜表層に閃輝性の結晶沈着物であるクリスタリン顆粒の沈着(いわゆる「クリスタル様沈着物」)が認められる場合に、クリスタリン網膜症と診断される。進行性の視野障害および視力障害を呈し、予後は症例によって異なる。

【0038】
本明細書で使用されるとき、「処置する」または「処置」は、クリスタリン網膜症に罹患している対象において、クリスタリン網膜症の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、および/または、その症状を軽減、緩和、改善または除去することを意味する。

【0039】
本明細書で使用されるとき、「予防する」または「予防」は、対象において、特に、クリスタリン網膜症に罹る可能性が高いが、未だ罹患していない対象において、クリスタリン網膜症への罹患を防止すること、または、クリスタリン網膜症に罹る可能性を低減することを意味する。クリスタリン網膜症に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、CYP4V2遺伝子に変異を有する対象、クリスタリン網膜症の家族歴がある対象が含まれる。

【0040】
クリスタリン網膜症の処置および/または予防の対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。なお、ヒト以外の動物に適用する場合、本発明の薬剤の投与量は、動物の体重もしくは大きさに応じて適宜加減すればよい。

【0041】
本明細書に開示される組成物は、医薬組成物であり得る。医薬組成物の投与方法は特に限定されないが、経口投与、直腸投与、注射、輸液、点眼、硝子体内注射による投与等の一般的な投与経路を経ることができ、組成物は、各投与経路に適する剤形であり得る。

【0042】
経口投与の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、(マイクロ)カプセル剤、チュアブル剤、シロップ、ジュース、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。また注射による投与の剤形としては、静脈直接注入用、点滴投与用、硝子体注射用、活性物質の放出を延長する製剤等などの医薬製剤一般の剤形を採用することができる。

【0043】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。更に、製剤用物質を具体的に例示すると、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよびその他の糖類、タルク、牛乳蛋白、ゼラチン、澱粉、セルロースおよびその誘導体、動物および植物油、ポリエチレングリコール、および溶剤、例えば滅菌水および一価または多価アルコール、例えばグリセロール等を挙げることができる。

【0044】
前記組成物によるコレステロール蓄積阻害剤の投与量は、対象患者の年齢、体重もしくは病態、または医薬の剤形もしくは投与方法などによって異なり得る。例えば、シクロデキストリン化合物は、成人1日あたり、約1mg/kg体重~10g/kg体重、約1mg/kg体重~5g/kg体重、約1mg/kg体重~1g/kg体重の量で投与され得る。上記1日あたりの量は一度に、もしくは数回に分けて投与することができる。

【0045】
コレステロール蓄積阻害剤は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分、特に、クリスタリン網膜症の処置および/または予防のための有効成分と併用できる。例えば、前記医薬組成物は、コレステロール蓄積阻害剤に加えて、1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含み得る。

【0046】
成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらがクリスタリン網膜症の予防および/または処置に使用される限り、各成分を同時に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。

【0047】
併用に適する有効成分には、例えば、アダプチノール、チョコラA、カルシウムブロッカー、バルプロ酸、ビタミンA、DHA、タウリン、ルテイン、イソプロピルウノプロストン、ブリモニジンなどが含まれる。

【0048】
コレステロール蓄積阻害剤によるクリスタリン網膜症の処置および/または予防に加えて、薬物療法以外の眼疾患の治療法を実施することもできる。適する治療法には、例えば、外科手術、光線力学療法、遺伝子治療、再生医療、人工網膜移植、レーザー治療が含まれる。

【0049】
さらに、コレステロール蓄積阻害剤を、クリスタリン網膜症のリスクの低減、または、眼機能の維持もしくは改善の効果を有する機能性食品の形態でも使用することができる。従って、ある態様では、コレステロール蓄積阻害剤を含む、クリスタリン網膜症のリスクの低減、または、眼機能の維持もしくは改善用の食品が提供される。当該食品は、コレステロール蓄積阻害剤を含む一般的な食事形態であればいかなるものでも良い。例えば、適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、例えば、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー、ヨーグルト、飴等として飲食することができる。

【0050】
また、このような食品を、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントとして提供することも可能である。この保健機能食品には、特定保健用食品および栄養機能食品なども含まれる。特定保健用食品は、例えば、クリスタリン網膜症のリスクの低減、または、眼機能の維持もしくは改善など、特定の保健の目的が期待できることを表示できる食品である。また、栄養機能食品は、1日あたりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が、国が定めた上・下限値の規格基準に適合している場合その栄養成分の機能の表示ができる食品である。ダイエタリーサプリメントには、いわゆる栄養補助食品または健康補助食品などが含まれる。特定保健用食品には、クリスタリン網膜症のリスクの低減、または、眼機能の維持もしくは改善などの用途に用いるものであるという表示を付した食品、さらには、かかる用途に用いるものである旨を記載した書類(いわゆる能書き)などをパッケージとして包含する食品なども含まれるものとする。

【0051】
本願は、例えば、下記の実施態様を提供する。
[1]コレステロール蓄積阻害剤を含むクリスタリン網膜症の処置および/または予防用の組成物。
[2]コレステロール蓄積阻害剤が、シクロデキストリン化合物またはビタミンE化合物である、第1項に記載の組成物。
[3]コレステロール蓄積阻害剤が、シクロデキストリン化合物である、第1項または第2項に記載の組成物。
[4]コレステロール蓄積阻害剤が、少なくとも1個のヒドロキシル基がアルキル化またはヒドロキシアルキル化されていてもよいβ-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリン、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である、第1項ないし第3項のいずれかに記載の組成物。
[5]コレステロール蓄積阻害剤が2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD)またはメチル-β-シクロデキストリン(MBCD)である、第1項ないし第4項のいずれかに記載の組成物。
[6]コレステロール蓄積阻害剤がHPBCDまたはHPGCDである、第1項ないし第5項のいずれかに記載の組成物。
[7]コレステロール蓄積阻害剤がHPBCDである、第1項ないし第6項のいずれかに記載の組成物。
[8]コレステロール蓄積阻害剤がHPGCDである、第1項ないし第6項のいずれかに記載の組成物。
[9]コレステロール蓄積阻害剤が、式(I)のシクロデキストリン化合物またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物もしくは水和物である、第1項ないし第3項のいずれかに記載の組成物。
[10]式(I)中、各Rが独立して、H、または、ヒドロキシで置換されていてもよいアルキルである、第8項に記載の組成物。
[11]式(I)中、各Rが独立して、H、メチル、エチル、プロピル、またはヒドロキシプロピルである、第8項または第10項に記載の組成物。
[12]式(I)中、nが1、2、または3である、第8項ないし第11項のいずれかに記載の組成物。
[13]式(I)中、nが2または3である、第8項ないし第12項のいずれかに記載の組成物。
[14]式(I)中、mが0である、第8項ないし第13項のいずれかに記載の組成物。
[15]コレステロール蓄積阻害剤がビタミンE化合物である、第1項または第2項に記載の組成物。
[16]コレステロール蓄積阻害剤がトコフェロールである、第1項、第2項または第15項に記載の組成物。
[17]コレステロール蓄積阻害剤がδ-トコフェロールである、第1項、第2項、第15項または第16項に記載の組成物。
[18]コレステロール蓄積阻害剤を対象に投与することを含む、クリスタリン網膜症の処置および/または予防方法。
[19]コレステロール蓄積阻害剤が第2項ないし第17項のいずれかに記載のものである、第18項に記載の方法。
[20]クリスタリン網膜症の処置および/または予防のためのコレステロール蓄積阻害剤の使用。
[21]コレステロール蓄積阻害剤が第2項ないし第17項のいずれかに記載のものである、第20項に記載の使用。
[22]クリスタリン網膜症の処置および/または予防用の医薬を製造するための、コレステロール蓄積阻害剤の使用。
[23]コレステロール蓄積阻害剤が第2項ないし第17項のいずれかに記載のものである、第22項に記載の使用。

【0052】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例】
【0053】
実験1:iPS細胞のRPE分化
健常人およびクリスタリン網膜症患者から皮膚の細胞を採取し、iPS細胞を樹立し(各々、WT iPS細胞およびBCD iPS細胞)、Sugita S et al. Stem cell reports 2016 Oct 11;7(4):619-634.に記載の方法に準じて、各iPS細胞からRPE細胞への分化を開始した。分化開始1ヵ月で色素が見られた。2ヵ月で浮遊培養を開始した。2.5~3ヵ月で色素細胞を選別し、さらに培養した(P0)。3.5~4.5ヵ月でRPEを精製した(P1)。5~6ヵ月で継代し(P2)、6~7ヵ月でさらに継代した(P3)。P2~P3の細胞(WT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞)を以下の実験に使用した。3人の健常人に由来する細胞の系列を、NOR-1、NOR-2、NOR-3と、3人のクリスタリン網膜症患者に由来する細胞の系列を、BCD-1、BCD-2、BCD-3と称する。
【実施例】
【0054】
実験2:iPS-RPE細胞におけるCYP4V2タンパク質の発現
CYP4V2タンパク質の発現をウェスタンブロッティングにより分析した。未分化細胞(WT iPS細胞およびBCD iPS細胞)およびP2の分化細胞(WT iPS-RPE細胞およびBCDiPS-RPE細胞)、並びにヒトRPE培養細胞(ARPE19)の溶解物(タンパク質20μg/レーン)をSDS-PAGEにより分離し、PVDF膜に転写した。CYP4V2およびβ-アクチンを、抗cyp4v2抗体(sigma、ウサギポリクローナル、1:100)および抗β-アクチン抗体(Millipore、マウスモノクローナル、1:10000)で検出した。結果を図1に示す。未分化細胞ではCYP4V2タンパク質の発現は見られなかった。分化細胞では、健常人由来のWT iPS-RPE細胞ではCYP4V2タンパク質の発現が見られたが、クリスタリン網膜症患者由来のBCD iPS-RPE細胞では見られなかった。
【実施例】
【0055】
実験3:iPS-RPE細胞の形態
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-1)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-1)をさらに10ヵ月培養し、明視野顕微鏡で観察した。結果を図2に示す(スケールバー=50μm)。WT iPS-RPE細胞は、典型的なRPE細胞の形態、即ち、多角形の形状および色素顆粒を有した。BCD iPS-RPE細胞では、細胞の空胞様変性、大型化および色素顆粒過剰が見られた。
【実施例】
【0056】
実験4:iPS-RPE細胞の電子顕微鏡観察
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-1)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-1)をさらに10ヵ月培養し、電子顕微鏡で観察した。培養細胞をまずダルベッコPBS(D-PBS)で洗浄し、2%グルタルアルデヒドおよび4%ホルムアルデヒドの混合物で固定した。細胞を1%四酸化オスミウムに60分間浸すことにより、さらに固定した。次いで、段階的なエタノール浴(50~100%)で細胞を脱水し、酸化プロピレン中で清澄にし、エポキシ樹脂に包埋した。ウルトラミクロトームで超薄切片を作成し、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色した。染色した切片を透過型電子顕微鏡で観察した(モデルH-7650;日立製作所、東京、日本)。結果を図3に示す(スケールバー=1μm)。WTiPS-RPEは、豊富な頂端側の微絨毛および色素顆粒を有する高度に極性化した立方状細胞の単層であった。BCD iPS-RPE細胞は、メラノソーム、リソソームおよびオートファゴソームの蓄積と細胞変性を示した。
【実施例】
【0057】
実験5:iPS-RPE細胞の増殖能
24ウェルプレート(Costar)を、CELLstatTM(Gibco)で、終夜4℃でコーティングした後、コーティング液を除去した。P1のWT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞を1ヵ月培養し、5x10個/プレート(=1.1x10個/cm)で上記24ウェルプレートに再播種した。具体的には、iPS-RPE細胞2.1×10個を、RPE培養培地(DMEM/F12培地、B27(Invitrogen)およびペニシリン/ストレプトマイシン添加)中、各ウェルに播種し、iPS-RPE前駆細胞の増殖能を評価した。1、2および3日目の培養の最後に、25μlのCell Count Reagent SF(ナカライテスク)を、225μlの培養液に加え、0.5時間インキュベートした。各ウェルの450nm(参照650nm)の吸光をマイクロプレートリーダー(ARVO)で測定し、細胞数を算出した。結果を図4に示す。BCD iPS-RPE前駆細胞は、WT iPS-RPE前駆細胞よりも増殖能が低かった。
【実施例】
【0058】
P2のWT iPS-RPE前駆細胞(NOR-1)およびBCD iPS-RPE前駆細胞(BCD-1)を3日間培養し、抗Ki67抗体(DAKO、マウスモノクローナル、1:100)およびDAPIを用いて免疫組織化学染色した。DAPI陽性細胞数に対するKi67陽性細胞数の割合を算出した。結果を図5に示す。BCD iPS-RPE細胞のKi67陽性細胞数の割合は、WT iPS-RPE細胞のものよりも低かった。Ki67は、細胞周期関連核タンパク質であり、増殖中の細胞では、G1期、S期、G2期、M期において発現し、増殖を休止しているG0期には発現しない。従って、Ki67の発現量は増殖中の細胞の数を反映する。この結果は、BCD iPS-RPE細胞は、WT iPS-RPE細胞よりも増殖能が低いことを示す。また、明視野顕微鏡で細胞を観察すると、BCD iPS-RPE細胞はWT iPS-RPE細胞よりも細胞数が明らかに少なかった。
【実施例】
【0059】
実験6:iPS-RPE細胞の細胞死
実験5と同様に、P2のWT iPS-RPE前駆細胞(NOR-1~3)およびBCD iPS-RPE前駆細胞(BCD-1~3)を24ウェルプレートに播種した。播種の3日後に、iPS-RPE前駆細胞を0.1mLの0.4%トリパンブルー(4%トリパンブルー原液:4gのトリパンブルーを蒸留水に添加)に加え、トリパンブルー(死細胞を青色に染めるが、生きている細胞は染色しない)により染色される細胞数を測定し、細胞死を評価した。結果を図6に示す(エラーバー=SD)。BCD iPS-RPE前駆細胞は、WT iPS-RPE前駆細胞よりも死細胞率が高かった。
【実施例】
【0060】
実験7:CYP4V2遺伝子導入によるiPS-RPE細胞の増殖能の変化
アデノウィルスベクター構築コスミドDNA(pAxcwit2DNA)に、野生型CYP4V2遺伝子を含むpIRES-EGFP-CYP4V2(WT)、変異型CYP4V2遺伝子を含むpIRES-EGFP-CYP4V2(mut)またはpIRES-EGFP(対照)をライゲーションして、コスミドDNAを作製した。これを293細胞にトランスフェクションし、組み換えアデノウィルスを得た。実験5と同様に、iPS-RPE細胞を24ウェルプレートに播種した。ただし、播種の2日前に、上記の3種類の組み換えアデノウィルスを感染させた。
【実施例】
【0061】
実験5と同様に細胞増殖能を評価した結果を図7に示す。Bonferroni補正後のP値は、BCD+CYP4V2(WT)対BCD+CYP4V2(mut)で、1日目p=0.003、5日目p=0.003、7日目p=0.003であった。BCD+CYP4V2(WT)対BCD+GFPでは、5日目p=0.024、7日目p=0.006であった。野生型CYP4V2遺伝子を導入されたBCD iPS-RPE前駆細胞の増殖能は、変異型または対照の遺伝子を導入されたBCD iPS-RPE前駆細胞よりも有意に高かった。この結果は、野生型CYP4V2遺伝子によりクリスタリン網膜症患者由来細胞の表現型が回復したことを示す。
【実施例】
【0062】
実験8:CYP4V2遺伝子導入による変性細胞における変化
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-2)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-2)をさらに3ヵ月培養し、実験7と同様に、3種類の組み換えアデノウィルスを感染させた。さらに2週間培養し、再度アデノウィルスを感染させた。最初のアデノウィルス感染から1ヵ月後に、実験3と同様に細胞を観察し、変性細胞の数を計数し、視野中の細胞数に対する変性細胞の割合を算出した。結果を図8に示す。野生型CYP4V2遺伝子を導入されたBCD iPS-RPE細胞における変性細胞の割合は、変異型または対照の遺伝子を導入されたBCD iPS-RPE細胞よりも有意に低かった。この結果は、野生型CYP4V2遺伝子によりクリスタリン網膜症患者由来細胞の表現型が回復したことを示す。
【実施例】
【0063】
実験9:オートファジーマーカーおよびリソソームタンパク質のウェスタンブロッティングおよび免疫染色
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-1~3)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養した。リソソーム阻害剤であるバフィロマイシンA(20nM)で細胞を処理し、ウェスタンブロッティングに供した。ウェスタンブロッティングに使用した抗体は、抗p62(BD(610832)、マウスモノクローナル、1:1000)/LC3(MBL(PM036)、ウサギポリクローナル、1:1000)/Actin(sigma-aldrich(064M4789V)、マウスモノクローナル、1:5000)であった。結果を図9に示す。バフィロマイシンAの非存在下(Tx-)で、BCD iPS-RPE細胞では、WT iPS-RPE細胞と比較してLC3およびp62のレベルが高く、オートファジーが阻害されていることが示唆される。バフィロマイシンAの存在下(Baf A1)で、WT iPS-RPE細胞ではTx-と比較してLC3およびp62が増加したが、BCD iPS-RPE細胞ではバフィロマイシンAの影響は見られなかった。WT iPS-RPE細胞ではリソソーム阻害剤によりオートファジーが阻害されたが、BCD iPS-RPE細胞では常にオートファジーが阻害されているため、リソソーム阻害剤の影響を受けなかったと考えられる。
【実施例】
【0064】
P2のWT iPS-RPE細胞およびBCD iPS-RPE細胞をさらに3ヵ月培養し、抗p62(BD(610832)、マウスモノクローナル、1:50)、抗lamp2(abcam(ab25631)、マウスIgG1、1:100)およびDAPIを用いて免疫染色した。免疫染色でも、BCD iPS-RPE細胞においてリソソームタンパクであるLamp2の発現亢進とp62発現亢進が確認され、BCD iPS-RPE細胞では、リソソームの蓄積とともに、オートファジーの流れが障害されていることが示唆された。
【実施例】
【0065】
実験10:LysoTracker標識によるリソソーム機能の解析
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-1~3)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養した後、製造業者の指示に従い、LysoTracker Green (CST) と共に30分間37℃でインキュベートして染色した。フローサイトメトリー(BD FACS Calibur)により約100,000のイベントを検出した(各細胞株につき、n=3)。全細胞中のLysoTracker陽性細胞の割合を、図10に示す。BCD iPS-RPE細胞では、WT iPS-RPE細胞よりもLysoTracker陽性細胞が少なかった。LysoTrackerは酸性のリソソームを検出するので、LysoTracker陽性細胞の減少は、リソソームpHの上昇、即ち、リソソーム機能の障害を示唆する。
【実施例】
【0066】
実験11:糖セラミドおよびコレステロールエステルの検出
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-1~3)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養し、細胞中の糖セラミドおよびコレステロールエステルを、ノンターゲットのリピドミクスを使用して、LC-MS/MS(QTOF5600)により検出した。結果を図11および12に示す。BCD iPS-RPE細胞では様々な糖セラミドが蓄積していた。更に、BCD iPS-RPE細胞のコレステロールエステルが減少しており、コレステロールのエステル化障害が示唆された。
【実施例】
【0067】
実験12:細胞内遊離コレステロールの検出
P2のWT iPS-RPE細胞(NOR-1~3)およびBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養し、Cholesterol/Cholesteryl Ester Quantitation Kit II(BioVision, #K623-100)を製造業者の指示通りに使用し、細胞内の非エステル化コレステロールを測定した(各ラインn=1)。簡潔に説明すると、クロロホルム:イソプロパノール:NP-40溶液(7:11:0.1)40μl中の2x10個の細胞をホモジナイズした。15,000xgで5分間遠心分離した後、上清を回収し、分析液40μlに加え、蛍光プレートリーダーにより算出した。結果を図13に示す。BCD iPS-RPE細胞では、遊離コレステロールの蓄積が見られた。
【実施例】
【0068】
実験13:BCD iPS-RPE細胞におけるコレステロール蓄積に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P2のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養し、次いで、50μMのN-ブチルデオキシノジリマイシン(NBDNJ、Wako 020-12631)、1mMの2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD、AppliChem GmbH, A0367.0025)、1mMの2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD、SIGMA, H125-5G-I)、300μMのメチル-β-シクロデキストリン(MBCD、ALDRICH, 332615-5G)、または、40μMのδ-トコフェロール(δ-T、Sigma, 47784)と共に14日間培養した(各群n=3)。実験11および12と同様に、細胞内遊離コレステロールおよびコレステロールエステルを測定した。結果を図14に示す。HPBCD、HPGCD、MBCDおよびδ-T処理群では、非処理群(Tx(-)群)と比較して、遊離コレステロールが有意に低下していた。また、MBCD処理群では、非処理群と比較して、コレステロールエステルが有意に増加していた。
【実施例】
【0069】
実験14:BCD iPS-RPE細胞における細胞変性に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P2のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1)をさらに3ヵ月培養し、50μMのNBDNJ、1mMのHPBCDまたは1mMのHPGCDと共に1ヵ月間培養した(各群n=3)。実験3と同様に細胞を観察し、各ウェル中の高倍率視野中の変性細胞の数を計数し、視野中の細胞数に対する変性細胞の割合を算出した。結果を図15に示す。HPBCDまたはHPGCD処理群では、非処理群と比較して、変性細胞が有意に少なかった。
【実施例】
【0070】
実験15:BCD iPS-RPE細胞における細胞変性に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P2のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1)をさらに3ヵ月培養し、1mMのHPBCDと共に1か月間培養した。実験4と同様に細胞を電子顕微鏡で観察した。結果を図16に示す。BCD iPS-RPE細胞中に大型化したリソソームとオスミウム酸親和性構造が見られたが、細胞質中のこれらの特徴的な構造の量は、HPBCD処理したBCD iPS-RPE細胞において少なかった。
【実施例】
【0071】
実験16:BCD iPS-RPE前駆細胞の細胞増殖に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P1のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1)をさらに1ヵ月培養し、50μMのNBDNJ、1mMのHPBCD、1mMのHPGCD、300μMのMBCDまたは40μMのδ-Tと共に7日間培養し、24ウェルプレートに5x10細胞/24ウェルプレート(=1.1x10細胞/cm)で再播種し、NBDNJ、HPBCD、HPGCD、MBCDまたはδ-Tによる処理を継続した。7日目に、実験5と同様に細胞数を算出した(各群n=4)。結果を図17に示す。HPBCD、HPGCD、MBCDおよびδ-T処理群は、非処理群(Tx(-)群)と比較して、増殖能が有意に高かった。
【実施例】
【0072】
実験17:BCD iPS-RPE前駆細胞の細胞死に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P1のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1)をさらに1ヵ月培養し、50μMのNBDNJ、1mMのHPBCD、1mMのHPGCD、300μMのMBCDまたは40μMのδ-Tと共に7日間培養し、24ウェルプレートに5x10細胞/プレート(=1.1x10細胞/cm)で再播種し、NBDNJ、HPBCD、HPGCD、MBCDまたはδ-Tによる処理を継続した。3日目に、実験6と同様に細胞死を評価した(各群n=3)。結果を図18に示す。HPBCD、HPGCD、MBCDおよびδ-T処理群は、非処理群と比較して、死細胞率が低かった。
【実施例】
【0073】
実験18:BCD iPS-RPE細胞のリソソーム機能に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P2のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養し、50μMのNBDNJ、1mMのHPBCDまたは1mMのHPGCDと共に14日間培養した。実験10と同様にLysoTracker陽性細胞の割合を算出し、リソソーム機能を評価した(各細胞株につき、n=3)。結果を図19に示す。HPBCDおよびHPGCD処理群では、非処理群と比較して、リソソーム機能が改善されていた。
【実施例】
【0074】
実験19:BCD iPS-RPE細胞の細胞内糖セラミドおよびコレステロールエステルに対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P2のBCD iPS-RPE細胞(BCD-2)をさらに3ヵ月培養し、次いで、50μMのNBDNJ、1mMのHPBCDまたは1mMのHPGCDと共に14日間培養した(各群n=3)。細胞中の糖セラミドおよびコレステロールエステルを、LC-MS/MS(QTOF5600)により検出した。結果を図20~22に示す。NBDNJ、HPBCDおよびHPGCD処理群では、非処理群(Tx(-)群)と比較して、各種の糖セラミドが有意に減少していた。また、HPBCDおよびHPGCD処理群では、非処理群と比較して、各種のコレステロールエステルが有意に増加していた。
【実施例】
【0075】
実験20:BCD iPS-RPE細胞のオートファジー障害に対するコレステロール蓄積阻害剤の効果
P2のBCD iPS-RPE細胞(BCD-1~3)をさらに3ヵ月培養し、次いで、1mMのHPBCDと共に14日間培養し、実験9と同様にウェスタンブロッティングに供した(各群n=3)。結果を図23に示す。HPBCD処理群では、非処理群(Tx(-)群)と比較して、LC3-IIおよびp62のレベルが低かった。このことは、HPBCD処理によりオートファジー障害が改善されたことを示唆する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
22