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明細書 :スイッチング電源システム、コントローラ、及び制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年2月27日(2020.2.27)
発明の名称または考案の名称 スイッチング電源システム、コントローラ、及び制御方法
国際特許分類 H02M   3/155       (2006.01)
FI H02M 3/155 W
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 24
出願番号 特願2019-512485 (P2019-512485)
国際出願番号 PCT/JP2018/014659
国際公開番号 WO2018/190249
国際出願日 平成30年4月6日(2018.4.6)
国際公開日 平成30年10月18日(2018.10.18)
優先権出願番号 2017078861
優先日 平成29年4月12日(2017.4.12)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】引原 ▲隆▼士
【氏名】佐段田 裕平
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100111567、【弁理士】、【氏名又は名称】坂本 寛
審査請求 未請求
テーマコード 5H730
Fターム 5H730AS01
5H730AS02
5H730BB13
5H730BB14
5H730BB17
5H730BB57
5H730BB82
5H730BB88
5H730DD04
5H730EE59
5H730FD31
5H730FG01
要約 並列接続された複数の回路に、受動性に基づく制御を適用する場合において、より簡便な目標状態を用いる。スイッチング電源システム10は、負荷Rに対して並列接続される複数のスイッチング電源回路100と、複数のスイッチング電源回路10に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御によって、複数のスイッチング電源回路100それぞれをスイッチングするコントローラと、を備える。
特許請求の範囲 【請求項1】
負荷に対して並列接続される複数のスイッチング電源回路と、
前記複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御によって、前記複数のスイッチング電源回路それぞれをスイッチングするコントローラと、
を備えるスイッチング電源システム。
【請求項2】
前記受動性は、偏差系のハミルトニアンの時間変化を負とする制御則である
請求項1に記載のスイッチング電源システム。
【請求項3】
前記電流の和は、流れる方向が同一である電流の和である
請求項1又は2に記載のスイッチング電源システム。
【請求項4】
前記電流の和を、前記複数のスイッチング電源回路に流れる電流が合流する線路において検出するセンサを更に備える請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項5】
前記複数のスイッチング電源回路に流れる電流を検出する複数のセンサと、
加算器と、
を更に備え、
前記電流の和は、前記複数のセンサによって検出された電流の値を前記加算器が加算することで計算される
請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記複数のスイッチング電源回路それぞれに対応して設けられた複数のサブコントローラを有し、
各サブコントローラは、前記電流の和を用いて、対応するスイッチング電源回路における受動性に基づく制御によって、対応するスイッチング電源回路をスイッチングする
請求項1~5のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項7】
前記複数のスイッチング電源回路それぞれは、前記複数のスイッチング電源回路に含まれる他のスイッチング電源回路からエネルギーを吸収可能に、前記他のスイッチング電源回路に接続されている
請求項1~6のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項8】
前記複数のスイッチング電源回路それぞれは、連続電流を出力する
請求項1~7のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項9】
前記複数のスイッチング電源回路それぞれは、パルス電流を出力する
請求項1~7のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項10】
複数のスイッチング電源回路は、種類の異なる複数の電源に接続される
請求項1~9のいずれか1項に記載のスイッチング電源システム。
【請求項11】
負荷に対して並列接続される複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御によって、前記複数のスイッチング電源回路それぞれをスイッチングさせるためのコントローラ。
【請求項12】
負荷に対して並列接続される複数のスイッチング電源回路の制御方法であって、
前記複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御によって、前記複数のスイッチング電源回路それぞれをスイッチングする
制御方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源システム、コントローラ、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DC-DCコンバータなどのスイッチング電源に受動性に基づく制御を適用することで、スイッチング電源を安定化させることができる。受動性は、エネルギーに着目した概念であり、受動性を持つシステムでは、(システムへのエネルギー供給率)≧(システムの蓄積エネルギー増加率)となる。受動性を満たすシステムに入力されたエネルギーは、システムに蓄積されるか、散逸されるかのどちらかである。受動性に基づく制御は、システムの受動性に着目した制御であり、対象が受動性を満たすように動作させることでシステムを安定化することができる。
【0003】
非特許文献1では、受動性を満たすサブシステムからなるシステムもまた受動性を満たすという性質を利用し、DC-DCコンバータの並列回路における安定化の数値的検証が行われている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】T. Hikihara and Y. Murakami, Regulation of Parallel Converters with Respect to Stored Energy and Passivity Characteristics, IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences, 94 (3), 1010-1014 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
並列接続された複数のコンバータそれぞれに対して、受動性に基づく制御を適用することで、並列回路全体として受動性を満たし、安定化可能であることが期待される。
【0006】
しかし、並列接続された複数の回路それぞれに対して、受動性に基づく制御を適用するには、蓄積エネルギーとなる関数を設定する必要がある。そのためには、並列接続された複数の回路それぞれに目標状態を設定する必要がある。この場合、並列数が増加すると、設定すべき目標状態数が多くなり、コントローラの設計が複雑になるという問題が生じる。
【0007】
したがって、並列接続された複数の回路に、受動性に基づく制御を適用する場合において、より簡便な目標状態を用いることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態において、上記の課題は、並列接続された回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御をすることによって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1Aは、スイッチング電源システムの回路図である。図1Bは、スイッチング電源システムのブロック図である。
【図2】図2は、単一コンバータのスイッチング電源システムの回路図である。
【図3】図3は、ダイオードを有するスイッチング電源システムの回路図である。
【図4】図4Aは、スイッチング電源システムの回路図である。図4Bは、スイッチング電源システムのブロック図である。
【図5】図5は、スイッチング電源システムの等価回路である。
【図6】図6は、数値計算に用いたスイッチング電源システムの回路図である。
【図7】図7Aは、Case1における偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図7Bは、図6に示す並列回路全体の偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図7Cは、ブーストコンバータの偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図7Dは、バックコンバータの偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図7Eは、チュックコンバータの偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。
【図8】図8Aは、Case2における偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図8Bは、図6に示す並列回路全体の偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図8Cは、ブーストコンバータの偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図8Dは、バックコンバータの偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。図8Eは、チュックコンバータの偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形である。
【図9】図9Aは、Case1におけるバックコンバータ3並列回路における電流及び出力電圧の過渡応答波形である。図9Bは、出力電圧vの過渡応答波形である。図9Cは、電流iの過渡応答波形である。図9Dは、電流iの過渡応答波形である。図9Eは、電流iの過渡応答波形である。
【図10】図10Aは、Case2におけるバックコンバータ3並列回路における電流及び出力電圧の過渡応答波形である。図10Bは、出力電圧vの過渡応答波形である。図10Cは、電流iの過渡応答波形である。図10Dは、電流iの過渡応答波形である。図10Eは、電流iの過渡応答波形である。
【図11】図11Aは、Case1及びCase2のバックコンバータ3並列回路における電流の和の過渡応答波形である。図11Bは、Case1のバックコンバータ3並列回路における電流の和の過渡応答波形である。図11Cは、Case2のバックコンバータ3並列回路における電流の和の過渡応答波形である。
【図12】図12Aは、Case1及びCase2のバックコンバータ3並列回路における出力電圧の過渡応答波形である。図12Bは、Case1のバックコンバータ3並列回路における出力電圧の過渡応答波形である。図12Cは、Case2のバックコンバータ3並列回路における出力電圧の過渡応答波形である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.スイッチング電源システム、コントローラ、及び制御方法]

【0011】
(1)実施形態に係るスイッチング電源システムは、負荷に対して並列接続される複数のスイッチング電源回路を備える。スイッチング電源回路は、スイッチングにより、出力される電力が制御される回路であり、例えば、DC-DCコンバータ又はAC-DCコンバータである。DC-DCコンバータは、例えば、バックコンバータ、ブーストコンバータ、バックブーストコンバータ、チュックコンバータである。複数のスイッチング電源回路は、全て同じ種類の回路であってもよいし、異なる種類の回路が含まれていても良い。複数のスイッチング電源回路は、一部の回路素子を共用するものであってもよい。

【0012】
実施形態に係るスイッチング電源システムは、受動性に基づく制御によって、前記複数のスイッチング電源回路それぞれをスイッチングするコントローラを備える。コントローラは、複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御をする。複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いた制御により、目標状態数を少なくすることができる。

【0013】
(2)前記受動性は、偏差系のハミルトニアンの時間変化を負とする制御則であるのが好ましい。

【0014】
(3)前記電流の和は、流れる方向が同一である電流の和であるのが好ましい。

【0015】
(4)スイッチング電源システムは、電流の和を、複数のスイッチング電源回路に流れる電流が合流する線路において検出するセンサを備えるのが好ましい。この場合、センサの数を削減できる。

【0016】
(5)前記複数のスイッチング電源回路に流れる電流それぞれを検出する複数のセンサと、加算器と、を更に備え、前記電流の和は、前記複数のセンサによって検出された電流の値を前記加算器が加算することで計算されてもよい。この場合、複数のセンサで検出された電流を加算することで、複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和が得られる。

【0017】
(6)前記コントローラは、前記複数のスイッチング電源回路それぞれに対応して設けられた複数のサブコントローラを有し、各サブコントローラは、前記電流の和を用いて、対応するスイッチング電源回路における受動性に基づく制御によって、対応するスイッチング電源回路をスイッチングすることができる。

【0018】
(7)複数のスイッチング電源回路それぞれは、複数のスイッチング電源回路に含まれる他のスイッチング電源回路からエネルギーを吸収可能に、他のスイッチング電源回路に接続されていてもよい。複数のスイッチング電源回路間でのエネルギーの流入出を許容することで、各スイッチング電源回路へのエネルギー流入阻止のために、ダイオード等の素子を設ける必要がない。

【0019】
(8)複数のスイッチング電源回路それぞれは、一般的なDC-DCコンバータ又はAC-DCコンバータのように、連続電流を出力する回路であってもよい。

【0020】
(9)複数のスイッチング電源回路それぞれは、パルス電流(離散的な電流)を出力する回路であってもよい。例えば、スイッチング電源回路は、負荷に電力を送るパルス電流を流す電圧パルスであって、アドレスや制御情報を含む電圧パルス列を生成するものであってもよい。より具体的には、スイッチング電源回路は、WO2014/077191及びWO2014/189051に記載されている電力パケットを生成する装置であってもよい。パルス電流を出力するスイッチング電源回路は、例えば、電源からの出力に対してスイッチングするスイッチング素子を有して構成される。パルス電流を出力するスイッチング電源回路は、パルス電流を出力できるように、DC-DCコンバータに比べて、インダクタ成分及びキャパシタ成分は小さい。なお、仮に、パルス電流を出力するスイッチング電源回路において、インダクタ又はキャパシタとなる素子が存在していなくても、回路中の線路自体が、インダクタ成分及びキャパシタ成分を有するため、エネルギー蓄積は生じ、受動性に基づく制御を適用可能である。

【0021】
(10)複数のスイッチング電源回路は、種類の異なる複数の電源に接続されていてもよい。電源の種類は、例えば、一次電池、二次電池、太陽電池等の自然エネルギーによる発電器、商用電源、回生電源である。なお、種類の異なる複数の電源とは、複数の電源の中に、少なくとも一つの種類の異なる電源が含まれていればよく、複数の電源全ての種類が異なっている必要はない。

【0022】
(11)実施形態に係るコントローラは、負荷に対して並列接続される複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御によって、複数のスイッチング電源回路それぞれをスイッチングする。

【0023】
(12)実施形態に係る制御方法は、負荷に対して並列接続される複数のスイッチング電源回路の制御方法であって、複数のスイッチング電源回路に流れる電流の和を用いて、受動性に基づく制御によって、複数のスイッチング電源回路それぞれをスイッチングすることを含む。

【0024】
[2.スイッチング電源システムの例]

【0025】
[2.1 スイッチング電源システムの構成]

【0026】
図1Aは、複数のバックコンバータ(Buck Converter)100を備えるスイッチング電源システム10を示している。複数のバックコンバータ100は、負荷Rに並列接続されている。図1Aにおいて、複数のコンバータ100の数は、n(nは2以上の整数)である。複数のコンバータ100それぞれは、スイッチング素子SW、ダイオードD、インダクタL、キャパシタCを備える。スイッチング素子SWは、例えば、MOSFETによって構成される。スイッチング素子SWのON/OFF制御によって、コンバータ100の出力の大きさを決定することができる。コンバータ100の入力側には、電源Eが接続されている。電源Eは、例えば、直流電源である。コンバータ100の出力側には負荷Rが接続されている。各コンバータ100から延びる複数の出力線路Mは、負荷Rに繋がる単一の線路110に並列接続されている。線路110には、各コンバータ100の出力線路Mから出力された電流の和が流入する。

【0027】
図1A及び図1Bにおいて、各コンバータ100に含まれる素子SW,D,L,C、コンバータ100を流れる電流i、及び各コンバータ100の入力側に接続される電源E、出力線路Mを区別するため、それらを示す記号には、1からnの添え字が付されている。

【0028】
図1Bに示すように、スイッチング電源システム10は、コントローラ200を備える。コントローラ200は、複数のコンバータ100を制御する。実施形態において、コントローラ200は、n個のコンバータ100それぞれに対応して設けられた複数のコントローラ200-1~200-nを有している。以下では、コントローラ200-1~200nそれぞれをサブコントローラという。各サブコントローラ200-1~200-nは、制御対象のコンバータ100が有するスイッチング素子のスイッチングを制御する。実施形態において、コントローラ200は、コンバータ100に流れる電流(図1ではインダクタ電流)iをフィードバックさせて、スイッチング素子SWのスイッチングを制御する。

【0029】
図示のスイッチング電源システム10は、インダクタL~Lに流れる電流i~iそれぞれを測定する複数の電流センサP~Pを備えている。電流センサP~Pによって測定された電流i~iの値は、ADコンバータ300によってデジタル信号に変換され、コントローラ200に与えられる。

【0030】
図1Bに示すコントローラ200は、電流i~iの和を計算する加算器210を備える。各サブコントローラ200-1~200-nは、制御則に従って制御入力μを計算する計算部220と、ΔΣ変調器230と、を備える。各計算部220は、制御対象のスイッチング素子SWに適用される制御則に基づき、加算器210から出力された電流i~iの和から、ΔΣ変調器230へ入力される制御入力μ~μを計算する。制御則については後述する。

【0031】
ΔΣ変調器230は、制御入力μからスイッチング素子SWの駆動制御信号を生成する。制御入力μは、連続値の信号であり、例えば、0から1までの値をとる。ΔΣ変調器230は、制御入力μの大きさをパルス密度により表現するパルスを、駆動制御信号として出力する。ΔΣ変調器230から出力された駆動制御信号は、図示しない駆動回路に与えられ、駆動回路が、駆動制御信号のHigh/Lowレベルの切り替わりに応じて、スイッチング素子SWをON/OFFする。

【0032】
コントローラ200は、目標電圧及び目標電流を設定可能である。目標電圧及び目標電流は、コントローラ200外部から与えられても良いし、コントローラ200が決定してもよい。目標電圧は、負荷Rの電圧の目標値である。実施形態において、目標電流は、電流i~iの和の目標値である。この点については後述する。

【0033】
各サブコントローラ200-1~200nは、制御対象のコンバータ100に対して、受動性に基づく制御を適用し、並列接続された複数のコンバータ100から負荷Rへの出力電流及び出力電圧を安定化させる。以下では、理解の容易のため、まず受動性に基づく制御及びバックコンバータ単体への受動性に基づく制御の適用を説明し、その後、並列接続された複数のコンバータ100に対する受動性に基づく制御の適用について説明する。

【0034】
[2.2 受動性の定義]

【0035】
【数1】
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【0036】
[2.3 受動性に基づく制御]

【0037】
受動性は、エネルギーに着目した概念である。したがって、エネルギーに着目して対象システム(ここでは、スイッチング電源システム)を表現することで、対象システムの受動性について議論し易くなる。エネルギーに着目したシステムの表現として、ポート制御ハミルトニアンシステム(以下、PCHシステム)がある。

【0038】
【数2】
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【0039】
【数3】
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【0040】
受動性に基づく制御を適用するには、対象システムをPCHシステムで表現することが有効であることが知られており、コンバータはPCHシステムにより表現可能である。受動性に基づく制御による、システム安定化手法は、以下のとおりである。
【数4】
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【0041】
[2.4 バックコンバータ単体への受動性に基づく制御の適用]

【0042】
図2に示す単体のバックコンバータ100は、回路内部の損失として、例えば、スイッチング素子(MOSFET)SW,ダイオードD、インダクタLの導通損がある。バックコンバータ特性は、導通損を考慮し、状態空間平均化モデルを用いて、例えば、以下のように表される。
【数5】
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φはインダクタLの磁束である。qはキャパシタCに蓄えられた電荷である。Rcond.(μ)=μR+(1-μ)R+Rである。μは制御入力であり、ΔΣ変調器230への入力となる。Rはスイッチング素子(MOSFET)SWのON抵抗であり、RはダイオードDのON抵抗であり、Rは、インダクタLの直列抵抗である。Rは負荷の抵抗である。iは、インダクタLを流れる電流であり、電流センサPによって測定される。vは負荷Rの電圧である。Eは電源電圧である。

【0043】
図2に示す単体のバックコンバータ100を、式(5)のモデルを用いて、PCHシステムにより表現する。なお、図2及び以下の式では、インダクタLを流れる電流はiで示される。
【数6】
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【0044】
【数7】
JP2018190249A1_000009t.gif

【0045】
【数8】
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【0046】
図2のインダクタLに流れる電流(インダクタ電流)iをフィードバックする制御則は、以下のとおりである。
【数9】
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ここで、μは制御入力μの目標値である。μは、負荷Rの目標電圧vに応じて決定される。iはインダクタ電流iの目標値である。kは制御ゲインである。

【0047】
式(9)の制御則が与えられたとき、式(8)より、
【数10】
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となり、
【数11】
JP2018190249A1_000013t.gif
が成立するとき、偏差系のハミルトニアンの時間変化が負となり、制御系はリアプノフの意味で漸近安定となる。

【0048】
[2.5 バックコンバータのn並列回路の状態方程式]
以下では、PCHシステムを用いて、図1Aに示すようなバックコンバータ100のn並列回路を表現する。バックコンバータのn並列回路の状態方程式は、以下のPCHシステムで表される(出力yに関する式は省略する)。
【数12】
JP2018190249A1_000014t.gif

【0049】
バックコンバータ100のn並列回路においても、単体のバックコンバータ100に与えられる制御則(式(9))と同じ制御則を、個々のバックコンバータ100に適用し、受動性に基づく制御を行うことで、システム全体を安定化できる。受動性を満たすサブシステムからなるシステムもまた受動性を満たすという性質によれば、サブシステムである個々のコンバータ100に受動性に基づく制御を適用することで、スイッチング電源システム10全体が受動性を満たし、並列回路からなるシステム全体を安定化させることができる。

【0050】
ただし、式(12)に対して目標状態を設定する場合、状態変数xがn+1次元のベクトルであるため、n+1個の目標状態が必要となる。目標状態が多くなると、目標状態の設定のための制約が厳しくなり、コントローラ200の設計が複雑になる。

【0051】
目標状態数を削減するため、低次元の状態変数x’のPCHシステムによって、n並列回路を表現する。式(12)を変形すると、以下の状態方程式が得られる。
【数13】
JP2018190249A1_000015t.gif

【0052】
式(13)によれば、各コンバータ100のインダクタ電流の和(i+・・・+i)と、出力電圧vと、を目標値とすることができる。つまり、式(13)では、目標値として、目標電流値と目標電圧値の2値を設定すればよい。なお、インダクタ電流の和(i+・・・+i)は、定常状態において負荷Rに供給される電流となる。

【0053】
式(13)によれば、目標電流値として、負荷に流れる所望の電流値を設定すればよく、個々のバックコンバータ100から出力される電流に対して目標電流値を設定する必要がない。

【0054】
[2.6 n並列回路の安定化のための制御則]

【0055】
式(13)のPCHシステムに対して、受動性に基づく制御を適用する。
【数14】
JP2018190249A1_000016t.gif

【0056】
【数15】
JP2018190249A1_000017t.gif

【0057】
式(15)の右辺第二項が負になる制御則は、例えば、以下の式(16)で表される。
【数16】
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ここで、μは、i番目のコンバータ100(スイッチSW)のための制御則である。μidは、μの目標値であり、負荷Rの目標電圧vに応じて決定される。kはi番目のコンバータ100のための制御ゲインである。Iは、コンバータ10のn並列回路全体としての目標出力電流値である。

【0058】
図1Bに示す各サブコントローラ200-1~200-nにおけるn個のμ計算部220それぞれは、式(16)に従い、制御対象のスイッチSWを制御するための制御入力μを計算する。

【0059】
式(16)によれば、個々のコンバータ100を制御するための制御則μにおいては、コンバータ100のn並列回路全体としての目標出力電流値Iが設定されればよく、各コンバータ100に対して目標電流値が設定される必要がない。しかも、並列回路全体に着目したことで、式(16)の制御則には、単体のコンバータ100の制御則には現れない項fが導入されている。後述の数値計算では、この項fに着目する。

【0060】
ここで、複数のコンバータ100を負荷に対して並列接続する場合には、図3に示すように、あるコンバータ100に対して他のコンバータから電流iが流入しないように、各コンバータ100の出力にダイオードD-1~D-nが設けられることが一般的である。これに対して、図1の回路では、各コンバータ100は、他のコンバータ100から電流が流入しても問題がないため、出力線路M~Mにダイオードが設けられていない。つまり、各コンバータ100は、他のコンバータ100からエネルギーを吸収可能に、他のコンバータ100に接続されている。この結果、図1Aの回路では、ダイオードを不要化できている。

【0061】
前述の式(12)で示されるPCHシステムは、図4Aに示すような2Port回路1000が、負荷Rを含む回路1200に並列接続されたものとみなした表現である。一方、式(13)で示されるPCHシステムは、図5のように、バックコンバータ100のn並列回路を、1つの2Port回路1300とみなしたものと解釈できる。

【0062】
ここで、図1A及び図1Bでは、各コンバータ100のインダクタ電流の和(i+・・・+i)は、n個の電流センサPPnによって測定された電流値をコントローラ200が加算することによって得られる。これに対して、図4Aのように、各インダクタ電流i~iが流れる線路T~Tが合流して負荷Rに至る線路1100を設けておくと、この線路1100には、インダクタ電流の和(i+・・・+i)が流れる。線路1100に流れる電流を測定する電流センサPを設けることで、単一の電流センサPによって、インダクタ電流の和(i+・・・+i)を測定することができる。したがって、図4Bに示すように、コントローラ200へ与えられるフィードバック要素の数を、n個から1個に削減できる。しかも、コントローラ200は、電流の和(i+・・・+i)を計算する加算器210を有する必要がない。なお、図1Aの回路の線路110に単一の電流センサPを設けるとともに、各キャパシタC~Cの電圧を測定するセンサを設けておき、コントローラ200が、キャパシタ電圧の微分値及びキャパシタ電圧に基づいて、線路110を流れる電流値から、インダクタ電流の和(i+・・・+i)を計算してもよい。

【0063】
[2.7 数値計算]

【0064】
式(16)に示す制御則の効果を確認するため、図6に示す並列回路の数値計算を行った。図6の回路は、バックコンバータの3並列回路500、1個のブーストコンバータ600、及び、1個のチュックコンバータ600が、負荷Rに対して並列接続されている。

【0065】
バックコンバータの並列回路500のパラメータは、次のとおりである。
=22[μH],L=47[μH],L=30[μH],C=26[μF],E=E=E=30[V]

【0066】
ブーストコンバータ600のパラメータは、次のとおりである。
Boost=10[μH],CBoost=20[μF],EBoost=3[V]

【0067】
チュックコンバータ700のパラメータは、次のとおりである。
Cuk1=LCuk2=8[μH],CCuk1=8[μF],CCuk2=4[μF],ECuk=10[V]

【0068】
これらの回路500,600,700は、低電圧・大電流電源として利用される回路であり、並列化により電流容量を増加させることができる。また、様々な回路構成の電源回路を並列接続しているため、図6の並列システム全体は、複雑なシステムとなっている。

【0069】
数値計算において、3並列バックコンバータ500それぞれには、式(16)の制御則を適用し、ブーストコンバータ600及びチュックコンバータ700には、受動性に基づく制御により、単体のコンバータ600,700を安定化する制御則を適用する。ブーストコンバータ600及びチュックコンバータ770は、それぞれ、単体のコンバータであるため、受動性に基づく制御により、当然に受動性を満たすことができる。ブーストコンバータ600の制御則μBoost及びチュックコンバータ700の制御則μCukは、それぞれ、以下の式で表される。
【数17】
JP2018190249A1_000019t.gif
【数18】
JP2018190249A1_000020t.gif
Boostはブーストコンバータ600のインダクタ電流,iCuk1,iCuk2,vCuk1はそれぞれ、チュックコンバータ700のインダクタLCuk1,LCuk2の電流、キャパシタCCuk1の電圧である。各変数の目標値には、それぞれ添え字にdが付されている。kBoost,kCukは、制御ゲインである。

【0070】
ここでは、負荷Rを1から1.25Ωに変動させたときの過渡応答を測定した。また、サンプリング周波数10MHzのΔΣ変調によりスイッチング素子SW,SW,SW,SWBoost,SWCukを駆動する。負荷Rの目標電圧は7Vである。負荷電流の分担比xCuk=xBoost=1/4,xBuck=1/2とする。バックコンバータの3並列回路500には、全体で負荷Rが要求する電流量の半分を出力するという目標のみ与える。負荷変動前の定常状態では、各バックコンバータのインダクタ電流i,i,iは等しくなるように制御し、負荷変動と同時にバックコンバータの制御則を式(16)に切り替える。

【0071】
数値計算は、Case1及びCase2の2つの設定において行った。Case1は、並列接続された各回路において、お互いの設定が分からないものとして、式(15)においてf=0とした制御則を各回路に適用した。Case2は、3並列回路における1番目と3番目の回路がお互いの設定が分かっているものとして、f=-f=-2.4×10-4(v-vd),f=0とした。Case1、Case2ともに、制御ゲインk=0.05に設定した。

【0072】
以下、数値計算により得られた偏差系のハミルトニアンの過渡応答について説明する。なお、ブーストコンバータ600の偏差系のハミルトニアン
【数19】
JP2018190249A1_000021t.gif
チュックコンバータ700の偏差系のハミルトニアン
【数20】
JP2018190249A1_000022t.gif
バックコンバータ並列回路500の偏差系のハミルトニアン
【数21】
JP2018190249A1_000023t.gif
である。図6に示す並列回路全体の偏差系のハミルトニアンは、式(19)~(21)の和となる。

【0073】
図7A,及び図8Aは、偏差系のハミルトニアンの数値計算結果を示している。なお、図7A及び図8Aにおいて、”Parallel Converter”は、図6に示す並列回路全体の偏差系のハミルトニアンを示している。図7B,図7C,図7D,図7Eは、図7Aにおける各コンバータの偏差系のハミルトニアンを個別に示したものである。図8B,図8C,図8D,図8Eは、図8Aにおける各コンバータの偏差系のハミルトニアンを個別に示したものである。図7Aに示すCase1及び図8Aに示すCase2ともに、図6に示す並列回路全体の偏差系のハミルトニアンが徐々に減少して、0に収束しており、並列回路全体が受動性を満たしていることが分かる(図7B及び図8B参照)。ブーストコンバータ600及びチュックコンバータ770は、それぞれ、単体で受動性を満たすような制御が適用されているため、図6に示す並列回路全体が受動性を満たしていることから、バックコンバータの3並列回路500も受動性を満たしていることが分かる。

【0074】
なお、図7D,図8Dに示すように、バックコンバータ並列回路500の偏差系のハミルトニアンが、過渡応答において増加している。これは、数値計算で求めたバックコンバータ並列回路500の偏差系のハミルトニアンが、バックコンバータ並列回路500のエネルギーを正確に表していないためである。図6に示す並列回路における各コンバータ500,600,700の蓄積エネルギーを表す関数においては、負荷Rに並列に接続されたキャパシタC,CBoost,CCuk2同士のカップリングの影響が反映されていない。このため、数値計算で求めたバックコンバータ並列回路500の偏差系のハミルトニアンは、バックコンバータ並列回路500のエネルギーを正確に表していない。したがって、数値計算上は、バックコンバータ並列回路500の偏差系のハミルトニアンが、過渡応答において増加しているが、図6に示す並列回路全体が受動性を満たしていることから、バックコンバータの3並列回路500も受動性を満たしている。

【0075】
図9A及び図10Aは、図6のバックコンバータの3並列回路500における各コンバータの電流i,i,i及び電圧vの過渡応答波形を示している。図9B,図9C,図9D,図9Eは、図9Aにおける電圧v及び電流i,i,iを個別に示したものである。図10B,図10C,図10D,図10Eは、図10Aにおける電圧v及び電流i,i,iを個別に示したものである。各バックコンバータには、異なる制御則を適用したため、各コンバータのインダクタ電流i,i,iの過渡応答は、異なったものとなっている。そして、図9Aに示すCase1及び図10Aに示すCase2ともに、出力電圧vが目標値に収束しており(図9B及び図10Bも参照)、バックコンバータ3並列回路500における各コンバータに目標電流値を設定せずに、並列回路を安定化可能であることが分かる。

【0076】
図11Aは、バックコンバータ3並列回路500における各コンバータのインダクタ電流の和(i+i+i)の過渡応答波形を示し、図12Aは、出力電圧vの過渡応答波形を示している。図11A)では、図11Bに示すCase1及び図11Cに示すCase2を重ねて示している。図12Aでは、図12Bに示すCase1及び図12Cに示すCase2を重ねて示している。図11A及び図12Aに示すように、Case1とCase2の過渡応答波形がほぼ一致していることがわかる。これは、Case2で制御則に与えたfiの影響が、バックコンバータ3並列回路500内で収まっていることを示している。よって、Case1、Case2で、偏差系のハミルトニアンの過渡応答波形も一致する。

【0077】
[3.応用]
本実施形態によれば、並列接続された複数のスイッチング電源回路を安定化させることができる。本実施形態のスイッチング電源システムは、電源の並列化が求められる状況において有効である。電源の並列化技術は、様々な分野で用いられている。本実施形態のスイッチング電源システムは、例えば、様々な種類の電源回路を多数並列接続するために有効である。特に、閉鎖系内の複数電源の並列化に有効である。閉鎖系内においては、エネルギーの供給が限られているため、複数の小型の電源を適切に並列化して必要なエネルギーを確保することが求められる。

【0078】
閉鎖系内の複数電源並列化は、例えば、少量多品種の生産工場において行われることがある。このような工場では、生産する製品に応じて、稼動させる生産ロボットのサイズ(モータの数、使用電力量)が異なることがある。例えば、通常は、少ないモータを有する小ロボットが複数稼動している。一方、多数のモータを有する大ロボットを稼動させるときは、小ロボット用の複数の電源を並列化することになる。

【0079】
また、情報通信用電源では、数百Aの電流容量を確保するため、電源の並列化が行われる。電源の並列化により、電源としての冗長性を大きくすることもできる。

【0080】
さらに、近年では、電動化された輸送機器においても電源の並列化が行われている。例えば、大型航空機では、両翼に搭載された発電機が、並列に接続されている。また、小型の飛行機では、太陽光パネルと蓄電池を並列に接続したシステムもある。

【0081】
さらに、太陽光パネルの幾つかのセルごとにコンバータを接続し、パネル上の照度のばらつきを考慮したMTTP制御が可能なシステムも用いられている。

【0082】
[4.変形]

【0083】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 スイッチング電源システム
100 バックコンバータ
200 コントローラ
210 加算器
220 μ計算部
230 ΔΣ変調器
300 ACコンバータ
1100 線路
SW スイッチング素子
P 電流センサ
R 負荷
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11