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明細書 :細胞質送達ペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年3月5日(2020.3.5)
発明の名称または考案の名称 細胞質送達ペプチド
国際特許分類 C07K  14/435       (2006.01)
C07K  17/08        (2006.01)
C07K  17/02        (2006.01)
C07K  17/04        (2006.01)
C12N  15/88        (2006.01)
C12N  15/86        (2006.01)
C12N  15/12        (2006.01)
FI C07K 14/435
C07K 17/08 ZNA
C07K 17/02
C07K 17/04
C12N 15/88 Z
C12N 15/86 Z
C12N 15/12
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 28
出願番号 特願2019-506969 (P2019-506969)
国際出願番号 PCT/JP2018/011406
国際公開番号 WO2018/174158
国際出願日 平成30年3月22日(2018.3.22)
国際公開日 平成30年9月27日(2018.9.27)
優先権出願番号 2017055508
優先日 平成29年3月22日(2017.3.22)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】二木 史朗
【氏名】坂本 健太郎
【氏名】秋柴 美沙穂
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4H045
Fターム 4H045AA10
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA42
4H045BA56
4H045CA50
4H045DA83
4H045EA20
4H045FA20
4H045FA74
要約 本発明は、下記式(I):
R-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-R(I)
(式中、X、X、X、X、X、X、X、X、X、R、Rは、明細書に定義されるとおりである。)
で表されるペプチドを提供するものである。
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(I):
R-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-R(I)
(式中、X及びXは、同一又は異なってH又はAを示す。XはE、L-2-aminoadipic acid (Aad) 、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示す。XはQ、L-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸又はEを示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。
但しX=H、X=H、X=E 、X=Q、かつ、X~X=Kの場合を除く、並びに、
=E、かつ、X~X=Kのとき、XとXの一方または両方がAである。 Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。)
で表されるペプチド。
【請求項2】
下記の(Ia)~(Ie)のいずれかで表される請求項1に記載のペプチド。
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (Ia)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (Ib)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (Ic)
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQQLSXL-R (Id)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQXLSXL-R (Ie)
(XはL-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示し、Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。)
【請求項3】
下記の(Ia)~(Ic)のいずれかで表される請求項2に記載のペプチド。
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (Ia)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (Ib)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (Ic)
(XはL-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示し、Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチドからなる細胞質送達剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチドをベクターに含む、細胞質を標的とする物質導入剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチドと目的物質が直接あるいはスペーサーを介して共有結合されてなる、細胞質を標的とする物質導入剤。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチドと目的物質が直接、あるいは目的物質と相互作用する他分子を介して非共有結合的な複合体を形成してなる、細胞質を標的とする物質導入剤。
【請求項8】
目的物質をベクターに内包する、請求項5に記載の細胞質を標的とする物質導入剤。
【請求項9】
前記ペプチドがベクターの構成成分に直接又はスペーサーを介して結合されている、請求項5に記載の物質導入剤。
【請求項10】
前記ペプチドと前記ペプチドの標的細胞へ親和性を高める分子とのコンジュゲートを含む、請求項4,5,6又は7に記載の物質導入剤。
【請求項11】
前記ペプチドが目的物質とともにベクターに内包されている、請求項5、8又は9に記載の物質導入剤。
【請求項12】
前記ベクターが、リポソーム、リピッドマイクロスフェア、高分子ミセル、高分子中空キャリア、ナノゲル、高密度リポタンパク質(HDL)、合成ポリマー、自己集合型核酸由来ベクター、ウイルス外殻タンパク質由来ベクター又はナノ粒子である、請求項5、8又は9に記載の物質導入剤。
【請求項13】
ベクターの構成成分がコレステロールあるいはリン脂質であり、前記ベクターがコレステロールあるいはリン脂質と請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチドを含む複合体を含む、請求項9に記載の物質導入剤。
【請求項14】
下記式(IA)
R1-(IWLTALXFLGXX1AAXX2X3AXQX4LSXL-Y)n-R2 (IA)
(式中、X及びXは、同一又は異なってH又はAを示す。XはE、L-2-aminoadipic acid (Aad) 、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示す。XはQ、L-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸又はEを示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。
但しX=H、X=H、X=E 、X=Q、かつ、X~X=Kの場合を除く、並びに、
=E、かつ、X~X=Kのとき、XとXの一方または両方がAである。 Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Yは単結合またはスペーサーを示す。nは2,3,4,5,6,7,8,9または10である。)
で表されるペプチド。
【請求項15】
下記式(IB):
Z-(R (IB)
(式中、Zは分岐型の多価リンカーを示し、Rは、同一または異なって、R1-IWLTALX5FLGX6X1AAX7X2X3AX8QX4LSX9L-Y-を示すか、Y-IWLTALX5FLGX6X1AAX7X2X3AX8QX4LSX9L-R2を示す。X及びXは、同一又は異なってH又はAを示す。XはE、L-2-aminoadipic acid (Aad) 、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示す。XはQ、L-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸又はEを示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。
但しX=H、X=H、X=E、X=Q、かつ、X~X=Kの場合を除く、並びに、
=E、かつ、X~X=Kのとき、XとXの一方または両方がAである。 Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Yは単結合またはスペーサーを示す。mは2~8の整数である。)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物質を細胞質に送達するためのペプチド、細胞質送達剤及び物質導入剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、核酸の生細胞内への導入は細胞機能の計測・解析や細胞機能の調節に非常に有用なアプローチである。例えば、現在、蛍光タンパク質との融合により、種々の細胞内タンパク質の局在や挙動の観察が行われている。しかし、蛍光タンパク質の融合による細胞内局在や挙動への影響やタンパク質活性への影響は捨てきれず、また、融合タンパク質の細胞内発現量の調節も難しい。従って、これらの厳密な評価においては、複数の方法での検証が望ましい。融合する蛍光タンパク質の蛍光特性にも制約があり、適切な蛍光団で化学標識したタンパク質を細胞内に導入できればこの問題の解決に資する。また、近年、天然タンパク質の認識能を活用した種々のバイオセンサーが開発されてきており(非特許文献1)、細胞内計測への応用が期待されている。しかし、このような化学修飾されたタンパク質を細胞外から細胞内へと導入しようとする際に、細胞外から加えたタンパク質の少なからぬ量がエンドソームに保持され、細胞質へと放出・拡散しないために、これらのタンパク質の細胞内可視化や計測の所望の機能を発揮できない場合が多い。
【0003】
一方、近年、種々のバイオ高分子医薬品の開発が急速に進んでいる。中でも抗体は非常に高い標的特異性を持つため、低分子医薬品に代わる分子標的薬として世界中で開発が進められている。しかし、一般に抗体は細胞質内に移行しないため、その標的は細胞膜上の受容体もしくは細胞外の疾患関連因子に限られているのが現状である。細胞質中には細胞骨格関連タンパク質や、キナーゼ関連因子など種々の疾病治療に際して標的となりうるものが多い。そのため、高分子の効率的細胞内導入法が確立すれば、抗体医薬の適用範囲は大幅に拡大する。さらにsiRNAなどの核酸(DNA、RNA)、医薬も細胞内導入の目的物質である。
【0004】
以上により、抗体を始めとする生理活性タンパク質、核酸、医薬を生細胞の細胞質へ効果的に導入する方法の確立が求められている。
【0005】
エンドソームに内包されたタンパク質や薬物を細胞質に放出する代表的なエンドソーム不安定化ペプチドとして、GALA(非特許文献2)、インフルエンザ・ヘマグルチニンHA2タンパク質由来ペプチド(非特許文献3)などが挙げられる。これらは、pH依存的膜融合ペプチドであり、エンドソーム内のpHが5程度になると膜融合性を発揮し、エンドソーム膜を傷害し、内包物を細胞質に放出するとされる。また、膜透過ペプチドとして知られるHIV-1 TatペプチドとHA2ペプチドの連結体(非特許文献4)なども報告されており、CreとTatの融合タンパク質等の生理活性タンパク質の細胞内導入に用いられた例が報告されている。
【0006】
また、高い膜傷害性を有するハチ毒メリチンにおいて、塩基性アミノ酸のリジンをpH感受性のマレイン酸誘導体で保護し、エンドソーム内でのpH低下により保護基が脱離することにより、エンドソーム膜を選択的に損傷させ、エンドソーム内包物を細胞質に放出される試みも報告されている(非特許文献5)。
【0007】
さらに、ポリエチレンイミンなどのポリカチオン性ポリマーのプロトン化の程度がpHの低下に伴い上昇することにより、エンドソームの膨潤を誘起し、内容物(核酸など)を細胞質に放出することが報告されている(プロトンスポンジ効果:非特許文献6)。また種々のpH感受性ポリマーが遺伝子導入に用いられている(特許文献1)。
【0008】
特許文献2は、抗体をはじめとするタンパク質を生細胞に導入することができるペプチドを開示しているが、その導入効率に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2009-007547
【特許文献2】WO2016/052442
【0010】

【非特許文献1】Takaokaら、Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 4088
【非特許文献2】Subbaraoら、Biochemistry 1987, 26, 2964
【非特許文献3】Maedaら、PNAS 1981, 78, 4133
【非特許文献4】Wadiaら、Nature Med. 2004, 10, 310
【非特許文献5】Rozemaら、Bioconjug. Chem., 2003, 14, 51
【非特許文献6】Boussifら、PNAS 1995, 92, 7297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
効果的な細胞機能の計測・解析のためには、細胞外から導入する生理活性タンパク質、核酸、医薬、あるいは蛍光標識タンパク質やセンサー分子の大部分が機能・活性発現の場である細胞質に導入できることが望ましい。しかし、従来の方法では、細胞の生理的取込機構であるエンドサイトーシスにより取り込まれたこれらの分子を、満足できる効率でエンドソームから細胞質へ放出することができないことが問題点であった。バイオ医薬品の細胞内への送達という観点からも、エンドサイトーシスで取り込まれた抗体などのタンパク質、核酸、医薬を効果的に細胞質に送達することが期待されるが、抗体などのタンパク質、核酸、医薬を満足できる効率で細胞質に放出できる方法は報告されていない。
【0012】
本発明は、エンドサイトーシスで取り込まれたタンパク質、核酸、医薬などの目的物質を高効率で細胞質に送達することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、塩基性両親媒性ペプチドLycotoxinのアミノ酸の一部を酸性アミノ酸と置換することで、抗体やセンサー分子、核酸、医薬などの目的物質のエンドソームから細胞質への放出を亢進させ得ることを見出した。
【0014】
本発明は以下のペプチド、タンパク質、核酸、医薬などの目的物質の細胞質送達剤及び物質導入剤を提供するものである。
【0015】
項1. 下記式(I):
R-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-R(I)
(式中、X及びXは、同一又は異なってH又はAを示す。XはE、L-2-aminoadipic acid (Aad) 、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示す。XはQ、L-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸又はEを示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。
但しX=H、X=H、X=E、X=Q、かつ、X~X=Kの場合を除く、並びに、
=E、かつ、X~X=Kのとき、XとXの一方または両方がAである。
は水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。)
で表されるペプチド。
【0016】
項2. 下記の(Ia)~(Ie)のいずれかで表される項1に記載のペプチド。
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (Ia)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (Ib)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (Ic)
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQQLSXL-R (Id)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQXLSXL-R (Ie)
(XはL-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示し、Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。)
【0017】
項3. 下記の(Ia)~(Ic)のいずれかで表される項2に記載のペプチド。
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (Ia)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (Ib)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (Ic)
(XはL-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示し、Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。)
【0018】
項4. 項1~3のいずれか1項に記載のペプチドからなる細胞質送達剤。
【0019】
項5. 項1~3のいずれか1項に記載のペプチドをベクターに含む、細胞質を標的とする物質導入剤。
【0020】
項6. 項1~3のいずれか1項に記載のペプチドと目的物質が直接あるいはスペーサーを介して共有結合されてなる、細胞質を標的とする物質導入剤。
【0021】
項7. 項1~3のいずれか1項に記載のペプチドと目的物質が直接、あるいは目的物質と相互作用する他分子を介して非共有結合的な複合体を形成してなる、細胞質を標的とする物質導入剤。
【0022】
項8. 目的物質をベクターに内包する、項5に記載の細胞質を標的とする物質導入剤。
【0023】
項9. 前記ペプチドがベクターの構成成分に直接又はスペーサーを介して結合されている、項5に記載の物質導入剤。
【0024】
項10. 前記ペプチドと前記ペプチドの標的細胞へ親和性を高める分子とのコンジュゲートを含む、項4,5,6又は7に記載の物質導入剤。
【0025】
項11. 前記ペプチドが目的物質とともにベクターに内包されている、項5、8又は9に記載の物質導入剤。
【0026】
項12. 前記ベクターが、リポソーム、リピッドマイクロスフェア、高分子ミセル、高分子中空キャリア、ナノゲル、高密度リポタンパク質(HDL)、合成ポリマー、自己集合型核酸由来ベクター、ウイルス外殻タンパク質由来ベクター又はナノ粒子である、項5、8又は9に記載の物質導入剤。
【0027】
項13. ベクターの構成成分がコレステロールあるいはリン脂質であり、前記ベクターがコレステロールあるいはリン脂質と項1~3のいずれか1項に記載のペプチドを含む複合体を含む、項9に記載の物質導入剤。
【0028】
項14. 下記式(IA)
R1-(IWLTALXFLGXX1AAXX2X3AXQX4LSXL-Y)n-R2 (IA)
(式中、X及びXは、同一又は異なってH又はAを示す。XはE、L-2-aminoadipic acid (Aad) 、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示す。XはQ、L-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸又はEを示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。
但しX=H、X=H、X=E、X=Q、かつ、X~X=Kの場合を除く、並びに、
=E、かつ、X~X=Kのとき、XとXの一方または両方がAである。
は水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Yは単結合またはスペーサーを示す。nは2,3,4,5,6,7,8,9または10である。)
で表されるペプチド。
【0029】
項15. 下記式(IB):
Z-(R (IB)
(式中、Zは分岐型の多価リンカーを示し、Rは、同一または異なって、R1-IWLTALX5FLGX6X1AAX7X2X3AX8QX4LSX9L-Y-を示すか、Y-IWLTALX5FLGX6X1AAX7X2X3AX8QX4LSX9L-R2を示す。X及びXは、同一又は異なってH又はAを示す。XはE、L-2-aminoadipic acid (Aad) 、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸を示す。XはQ、L-2-aminoadipic acid (Aad)、2-アミノピメリン酸、2-アミノスベリン酸又はEを示す。X~Xは、同一又は異なって、Lys(K)、Arg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidを示す。
但しX=H、X=H、X=E、X=Q、かつ、X~X=Kの場合を除く、並びに、
=E、かつ、X~X=Kのとき、XとXの一方または両方がAである。 Rは水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Rは水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基又は目的物質を示す。Yは単結合またはスペーサーを示す。mは2~8の整数である。)
【発明の効果】
【0030】
本発明のペプチドは、細胞表面と効果的に相互作用することにより、抗体などのタンパク質、核酸、医薬などの目的物質(細胞内導入分子)とともに、エンドソーム内に取り込まれる効果を奏する。
【0031】
本発明のペプチドは、エンドソーム内におけるpHの減少ならびにエンドソーム成熟化に伴う膜構成成分の変化に伴いエンドソーム膜の不安定化を誘起し、ペプチドとともにエンドソーム内に移行した抗体やセンサー分子、核酸、医薬などの目的物質の細胞質への放出を促進する効果を奏する。
【0032】
本発明のペプチドは、蛍光標識をはじめとした化学修飾を施したタンパク質やセンサー分子などの目的物質の細胞質内への送達を通して、当該目的物質の細胞内局在や挙動、また、細胞内環境の計測・制御を可能にする効果を奏する。
【0033】
本発明のペプチドは、抗体、核酸のようなサイズの大きな生理活性物質を細胞質内に送達する効果を奏する。
【0034】
本発明の第1の好ましい実施形態は、12位と16位のヒスチジン残基のアラニン置換である。
【0035】
特許文献2のL17Eは二つのヒスチジン(H)を含んでいる。ヒスチジンは細胞外のpHでは荷電せず、エンドソーム内のpHでは正に荷電すると考えられる。L17Eのエンドソーム膜選択的な傷害性は、ヒスチジンの正電荷により向上すると考えられたが、意外にもヒスチジン残基により低下することが分かった。このため、12位と16位のヒスチジン残基をアラニンで置換することでエンドソーム膜選択的な傷害性の向上を図った。
【0036】
2つのヒスチジン残基をアラニンで置換したHA/E1はL17Eに比べ高いヘリックス性を示し(図1)、高分子薬物モデルとしてのAlexa488-dextranのエンドソームからの放出活性は大きく向上した(図2)。
【0037】
さらに、21位をGlu(E)で置換したH12A/H16A/L17E/Q21E置換体(=HA/E2)は、酸性脂質膜存在下で高いヘリックス性を示し(図1)、HA/E1と同等のエンドソーム内包物放出活性を有していた(図2)。また、L17Eに比べて有意に高いエンドソーム内包物放出活性を有していた。
【0038】
12位、16位のヒスチジンをアラニン以外の親水性アミノ酸(グルタミン、セリン)に置換したH12Q/H16Q/L17E/Q21E、H12S/H16S/L17E/Q21Eの活性はL17Eに比べて劣るものであり、ヒスチジンの置換は、アラニンが望ましいと結論された。
【0039】
本発明の第2の好ましい実施形態は、17位(E)、21位(Q)の2-アミノアジピン酸(Aad)、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸への置換である。
【0040】
さらなるペプチドのヘリックス構造の安定化と膜親和性の向上を期待して、細胞膜に対してのエンドソーム膜の選択的不安定化に重要な役割を担うL17E中の17位のグルタミン酸(E)を、側鎖のメチレン鎖が一つ多い2-アミノアジピン酸(Aad)に置換した誘導体(L17Aad)を合成した。ヒスチジン残基が配列中に存在しているために、L17Aadのヘリックス含量自体はあまり向上しなかったが(図1)、図3に示すようにL17Eに比べて有意に高いエンドソーム内包物放出活性を示すことが明らかとなった。
【0041】
本発明の第3の好ましい実施形態は、12位と16位のヒスチジン残基をアラニン置換し、さらに17位のグルタミン酸残基の2-アミノアジピン酸(Aad) 2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸への置換である。
【0042】
第1及び第2の好ましい実施形態で得られた結果を基に、L17Eのヒスチジンをアラニンに置換すると共に17位のグルタミン酸をアミノアジピン酸に置換したペプチドHAadを合成した。HAadは図1に示すように酸性脂質膜存在下に高いヘリックス性を示すことが明らかとなり、図4ならびに実施例に示すようにL17Eに比べてエンドソームに取り込まれた薬物を格段に効果的に細胞質に放出する活性を有することが明らかとなった。
【0043】
本発明の第4の好ましい実施形態は、5個のLys(K)残基のArg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acidへの置換である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】ペプチドのPOPC/POPG (3:1)リポソーム存在下でのCDスペクトル(左)とヘリックス含量(右)。ヘリックス含量はY H Chen et al, 1972の方法により、222 nmのモル楕円率([θ]222)をもとにHelicity (%)= -([θ]222+2340)/30300*100を用いて計算した。
【図2】細胞質へのモデル高分子薬物Alexa488-dextran (10 kDa)の放出が見られた細胞(%). Cells; HeLa, peptides; 40 μM, Alexa488-dextran (10kDa); 200 μg/mL, treatment; 1hr in α-MEM(-). Results are presented as means ±SE (n=3). ***; p<0.001, ****; p<0.0001, n.s.; not significantly different (One-way ANOVA followed by Tukey-Kramer honestly significant difference test (post hoc test))【図6】デキストラン(10 kDa)の細胞内放出効率比較 (2)
【図7】ヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)の細胞内放出効率比較 (1)
【図8】ヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)の細胞内放出効率比較 (2)
【図9】ヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)の細胞内放出効率比較 (3)
【図10】毒素タンパク質saporinの細胞内送達による殺細胞アッセイ
【図11】Creタンパク質の細胞内送達による遺伝子組換えアッセイ
【図12】ペプチド処理におけるミトコンドリアに対する傷害性
【図13】NLS-EGFPの核集積。核局在化シグナル(NLS)と緑色蛍光タンパク質(EGFP)との融合タンパク質(細胞内に移行したタンパク質を核に集積させることで内在化を確認):HAadの高いエンドソーム内包物放出活性をこの系でも確認
【図14】血清存在下ペプチド処理24時間後の細胞生存率の評価
【図15】実施例16で得られたペプチドによるAlexa488-dextran (10 kDa)の細胞質への放出活性
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明のペプチドは、特許文献2に記載の以下のL17Eの誘導体である。
L17E: IWLTALXFLGXHAAXHEAXQQLSXL-amide(配列番号1)
(式中、X~XはLys(K)である。)
具体的には、本発明のペプチドは、Lycotoxin 1のXに対応する12位のH(His)、X2に対応する16位のH(His)、X3に対応する17位のE(Glu)、X4に対応する21位のQ(Gln)の少なくとも1種を置換したペプチドである。12位と16位のH(His)はA(Ala)に置換されてもよく、17位のE(Glu)と21位のQ(Gln)はX (L-2-aminoadipic acid, Aad、2-アミノピメリン酸又は2-アミノスベリン酸)に置換されてもよい。また、5個のLys(K)残基はArg(R)、ホモアルギニン、オルニチン、ホモリジン又は2-amino-7-guanidinoheptanoic acid残基で置換されてもよい。

【0046】
本発明の一般式(I)のペプチドは、以下の17種のペプチド(I-1)~(I-17)を含む。
R-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-R(I)
R-IWLTALXFLGXAAAXHEAXQQLSXL-R(I-1)
R-IWLTALXFLGXHAAXAEAXQQLSXL-R(I-2)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R(I-3)
R-IWLTALXFLGXHAAXHEAXQXLSXL-R(I-4)
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQQLSXL-R(I-5)
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R(I-6)
R-IWLTALXFLGXAAAXHXAXQQLSXL-R(I-7)
R-IWLTALXFLGXAAAXHEAXQXLSXL-R(I-8)
R-IWLTALXFLGXHAAXAXAXQQLSXL-R(I-9)
R-IWLTALXFLGXHAAXAEAXQXLSXL-R(I-10)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQXLSXL-R(I-11)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQQLSXL-R(I-12)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQELSXL-R(I-13)
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQXLSXL-R(I-14)
R-IWLTALXFLGXAAAXHXAXQXLSXL-R(I-15)
R-IWLTALXFLGXHAAXAXAXQXLSXL-R(I-16)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R(I-17)
(式中、X、X、X、X 、X、X、X、X、X、X、R、Rは前記に定義される通りである。)

【0047】
本発明の好ましいペプチドは、以下の5種のペプチドである。
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (I-6)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (I-3)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (I-17)
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQQLSXL-R (I-5)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQXLSXL-R (I-11)
[式中、X、R、R、X、X、X、X、Xは、前記に定義されるとおりである。]

【0048】
本発明のさらに好ましいペプチドは、以下の3種のペプチドである。
R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (I-6)
R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (I-3)
R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (I-17)
[式中、X、R、R、X、X、X、X、Xは、前記に定義されるとおりである。]

【0049】
本発明の特に好ましいペプチドを以下に示す。
HA/E2: IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-amide
L17Aad: IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-amide
HAad: IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-amide
HA/E1: IWLTALXFLGXAAAXAEAXQQLSXL-amide
L17Aad /Q21Aad: IWLTALXFLGXHAAXHXAXQXLSXL-amide
[X=L-2-aminoadipic acid (Aad)、X~X=Lys(K)]
HAad-homoR: IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-amide
[X=L-2-aminoadipic acid (Aad)、X~X=ホモアルギニン]

【0050】
本発明の最も好ましいペプチドを以下に示す。
HA/E2: IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-amide
L17Aad: IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-amide
HAad: IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-amide
[X=L-2-aminoadipic acid (Aad)、X~X=Lys(K)]
HAad-homoR: IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-amide
[X=L-2-aminoadipic acid (Aad)、X~X=ホモアルギニン]
1文字記号で表される本発明のペプチドの各アミノ酸はL型アミノ酸でもよく、D型アミノ酸でもよい。本発明のペプチドがD型アミノ酸を含む場合、D型アミノ酸の数は1個でも2個以上でもよいが、好ましくは全てのアミノ酸がL型アミノ酸であるか、全てのアミノ酸がD型アミノ酸である。なお、G(Gly)は不斉炭素を有しないので、本明細書においてL型アミノ酸として扱う。

【0051】
本発明のペプチドはエンドソームから細胞質に目的物質を高効率で放出させることができる。

【0052】
が水素原子のとき、N末端はアミノ基(NH)であり、Rがアルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基のときN末端は、各々モノアルキルアミノ、アシルアミノ、或いはアルコキシカルボニルアミノ、アラルキルオキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノなどのウレタンになる。

【0053】
本発明のペプチドのN末端は2個のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基であってもよい。

【0054】
が水酸基(OH)のときC末端はカルボキシル基(COOH)であり、Rがアミノ基(NH2)のとき、C末端はアミド基(CONH2)になる。

【0055】
好ましいRは、水素原子(H)、アルキル基、アルコキシカルボニル基又はアシル基であり、より好ましくは水素原子である。

【0056】
好ましいRは、水酸基(OH)、アルコキシ基又はアミノ基(NH2)である。

【0057】
アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。

【0058】
モノアルキルアミノ基としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、ペンチルアミノ、へキシルアミノなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基が挙げられる。

【0059】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn-プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジn-ブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジsec-ブチルアミノ、ジtert-ブチルアミノ、ジペンチルアミノ、ジヘキシルアミノなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~6のアルキル基でジ置換されたアミノ基が挙げられる。

【0060】
アシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、イソステアロイル、オレオイル、リノロイルなどの炭素数2~22、好ましくは2~18の直鎖又は分岐を有するアシル基が挙げられる。また、1-ピレンアセチル、1-ピレンブチリルなどのように芳香族基を含むアシル基であってもよい。

【0061】
アルコキシカルボニル基としては、コレステリルオキシカルボニル基、tert-ブチルオキシカルボニル基、フィトステリルオキシカルボニル基、ステアリルオキシカルボニル基、パルミチルオキシカルボニル基、2-オクチルドデシルオキシカルボニル基、ベヘニルオキシカルボニル基などが挙げられる。

【0062】
アラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アントリルメチルオキシカルボニル基、ビフェニリルメチルオキシカルボニル基、テトラヒドロナフチルメチルオキシカルボニル基、クロマニルメチルオキシカルボニル基、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルメチルオキシカルボニル基、インダニルメチルオキシカルボニル基及びフェナントリルメチルオキシカルボニル基などが挙げられる。

【0063】
アリールオキシカルボニル基としては、フルオレニルオキシカルボニル基、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントリルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基、テトラヒドロナフチルオキシカルボニル基、クロマニルオキシカルボニル基、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルオキシカルボニル基、インダニルオキシカルボニル基及びフェナントリルオキシカルボニル基などが挙げられる。

【0064】
モノアリールアミノ基としては、フェニルアミノ、ナフチルアミノ、アントリルアミノ、ビフェニリルアミノ、テトラヒドロナフチルアミノ、クロマニルアミノ、フルオレニルアミノ、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルアミノ、インダニルアミノ及びフェナントリルアミノが挙げられる。

【0065】
モノシクロアルキルアミノとしては、シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、シクロへプチルアミノ、シクロオクチルアミノなどの炭素数3~8のシクロアルキルアミノが挙げられる。

【0066】
アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基は、本発明のペプチドと直接結合してもよいが、PEG(ポリエチレングリコール)、アミド基(-CONH-、-NHCO-)、エステル基(-COO-,-O-CO-)、エーテル基(-O-)、アミノ基(-NH-)、アルキレン(メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレンなど)、アミノ酸(例えば天然の20種のアミノ酸)などの適当なスペーサーを介して本発明のペプチドと結合してもよい。例えば、コレステリル基、あるいはリン脂質(例えば、ホスファチジルエタノールアミン)がスペーサーを介して本発明のペプチドに結合され、その結合体がリポソームなどのベクターの構成成分を構成してもよい。

【0067】
が水酸基のとき、C末端はCOOHであり、Rがアミノ基のときC末端はCONHになり、Rがアルコキシ、アラルキルオキシ、アリールオキシのとき、C末端は対応するエステルになる。Rがモノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、モノシクロアルキルアミノ、ジアルキルアミノ基のとき、C末端は対応するアミドになる。

【0068】
アルコキシ基としては、コレステリルオキシ基、フィトステリルオキシ基、ステアリルオキシ基、パルミチルオキシ基、2-オクチルドデシルオキシ基、ベヘニルオキシ基などが挙げられる。

【0069】
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、フルオレニルメチルオキシ基、アントリルメチルオキシ基、ビフェニリルメチルオキシ基、テトラヒドロナフチルメチルオキシ基、クロマニルメチルオキシ基、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルメチルオキシ基、インダニルメチルオキシ基及びフェナントリルメチルオキシ基などが挙げられる。

【0070】
アリールオキシ基としては、フルオレニルオキシ基、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、テトラヒドロナフチルオキシ基、クロマニルオキシ基、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルオキシ基、インダニルオキシ基及びフェナントリルオキシ基などが挙げられる。

【0071】
細胞質に送達する目的物質としては、生理活性物質、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、医薬、糖あるいはこれらの標識物質、また、合成高分子、リポソーム、有機/無機/半導体微粒子などが挙げられる。タンパク質、ペプチド、核酸、医薬、糖あるいはこれらの標識物質、合成高分子、リポソーム、有機/無機/半導体微粒子などの生理活性物質は、適当なスペーサーを介して、IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXLで表されるペプチド部分のN末端又はC末端に結合されていてもよい。また、生理活性物質は、IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXLで表されるペプチド部分のN末端又はC末端にスペーサーを介さずに直接結合されていてもよい。

【0072】
とRの一方又は両方が目的物質である本発明のペプチドは、以下のものを含み得る:
(生理活性物質)-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-(生理活性物質)
(生理活性物質)-(スペーサー)-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-(スペーサー)- (生理活性物質)
(生理活性物質)-(スペーサー)-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL- (生理活性物質)
(生理活性物質)-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-(スペーサー)- (生理活性物質)
(生理活性物質) -(スペーサー)-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL- R (R2≠目的物質)
R-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-(スペーサー) -(生理活性物質) (R1≠目的物質)
(生理活性物質)-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL- R (R2≠目的物質)
R-IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXL-(生理活性物質) (R1≠目的物質)
(式中、X、X、X 、X、X、X、X、X、Xは前記に定義される通りである。R、Rは、目的物質以外の前記に定義されるものである。)
タンパク質としては抗体、酵素、細胞情報伝達因子、転写因子、DNAあるいはRNA結合タンパク質、核・ミトコンドリア・細胞骨格などの細胞内器官構成タンパク質、ユビキチンや熱ショックタンパク質などのユビキチン-プロテアソーム系関連タンパク質やカスパーゼなどのアポトーシス関連タンパク質、p53などの細胞周期調節タンパク質、レクチンなどが挙げられる。また、Creリコンビナーゼ、TALEN、Cas9などの遺伝子切断・組み換え能を有するタンパク質も含まれる。抗体に関しては、免疫グロブリンに加え、その断片タンパク質やラクダ科動物由来の一本鎖抗体も含まれる。これらの抗体の標的としては、キナーゼ類、HIF-1などの転写因子類、微小管などの細胞骨格タンパク質類などが挙げられる。ペプチドとしては、細胞内タンパク質相互作用を調節するヘリックスペプチドや環状ペプチド、細胞内タンパク質の断片ペプチド、DNA/RNA結合ペプチド、各種酵素基質・阻害剤、がんワクチン産生のための抗原ペプチドなどが挙げられる。医薬としては抗腫瘍剤、抗ウイルス剤などが挙げられ、糖としてはデキストラン、シアル酸などが挙げられ、核酸としてはDNA、RNA(好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA、rRNA、リボザイム、アンチセンスRNAなど)、DNA/RNAアプタマーならびにこれらの化学修飾体が挙げられる。また、Cas9/sgRNAなどのタンパク質と核酸の複合体も生理活性物質に含まれる。また、細胞内での生理活性や機能の向上のために上記の生理活性物質に必要に応じて化学修飾を施した誘導体を目的物質として細胞内に導入することも可能である。

【0073】
細胞内可視化・計測・相互作用解析のために上記のタンパク質や核酸などの生理活性物質を蛍光団、量子ドット、放射性同位元素、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、光架橋団等で修飾を行ったものや、細胞内NMR測定などのための安定同位体標識タンパク質も目的物質として挙げられる。蛍光団としては、必要に応じて細胞内環境に応じて蛍光特性が変化する蛍光団で修飾することも可能である。

【0074】
細胞内に導入される目的物質は特に以上のものに限定される必要はなく、膜透過性を有するペプチド、各種トランスフェクション試薬など他の細胞導入剤と併用し、これらの細胞質内移行効率の更なる向上のために本発明を用いることも可能である。

【0075】
とRがともに目的物質ではない本発明のペプチドは、目的物質と組み合わせて組成物、好ましくは医薬組成物として脊椎動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物に投与してもよい。目的物質が本発明のペプチドに結合していない場合、目的物質はタンパク質、ペプチド、核酸、医薬、糖あるいはこれらの標識物質、合成高分子、リポソーム、有機/無機/半導体微粒子などから構成され、スペーサーを含まない。

【0076】
本発明のペプチドと目的物質を含む組成物または医薬組成物において、目的物質100質量部に対し、本発明のペプチドを1~10000質量部、好ましくは5~200質量部、より好ましくは10~200質量部含む。

【0077】
本発明のペプチドは、目的物質に直接あるいは適当なスペーサーを介して共有結合的に結合してもよく、直接あるいは目的物質と相互作用する他分子を介して非共有結合的に結合して複合体を形成してもよい。さらに、エンドソームに内包されるベクター(細胞導入剤)に含ませてもよい。例えば、本発明のペプチドは、ベクターの内部に含まれていてもよく、ベクターの構成成分に直接又はスペーサーを介して結合されていてもよい。あるいは、本発明のペプチドがベクターの構成成分と相互作用する他分子を介して非共有結合的に複合体を形成することで、ベクターの表面に含ませてもよい。さらにベクターの内部に目的物質とともに本発明のペプチドを内包させて、目的物質がエンドソームに取り込まれた後に、エンドソームから細胞質への移行を促進することができる。本発明のペプチドと目的物質が非共有結合的に結合した複合体は、本発明の組成物または医薬組成物に包含される。

【0078】
本発明のペプチドは、二量体あるいは多量体の形態であってもよい。二量体あるいは多量体は、例えば以下の式(IA)で表わされる。
R1-(IWLTALX5FLGX6X1AAX7X2X3AX8QX4LSX9L-Y)n-R2 (IA)
(式中、R1、R2、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9は、前記に定義される通りである。Yは単結合またはスペーサーを示す。nは2,3,4,5,6,7,8,9または10であり、好ましくは2~6、より好ましくは2~4の整数である。)
本明細書において、スペーサーとしては、エステル結合(-CO-O-、-O-CO-)、エーテル結合(-O-)、アミド結合(NHCO, CONH)、糖鎖リンカー、ポリエチレングリコールリンカー、ペプチドリンカーなどが挙げられる。ペプチドリンカーとしては、タンパク質を構成する天然の20種のアミノ酸の少なくとも1種を含むリンカーが挙げられ、ペプチドリンカーのアミノ酸の数としては、1~20個、1~15個、1~12個、1~10個、1~8個、1~6個あるいは1~4個が挙げられるがこれらに限定されない。ペプチドリンカーとして、アルギニンダイマー、アルギニントリマー、アルギニンテトラマー、リジンダイマー、リジントリマー、リジンテトラマー、グリシンダイマー、グリシントリマー、グリシンテトラマー、グリシンペンタマー、グリシンヘキサマー、アラニン-アラニン-チロシン(AAY)、イソロイシン-ロイシン-アラニン(ILA)、アルギニン-バリン-リジン-アルギニン(RVKR)等が例示される。スペーサーは2価であっても多価であってもよい。

【0079】
本発明のペプチドが多量体の場合、デンドリマーのような分岐型の多価リンカー、あるいは金属錯体等で連結されたものであってもよい。デンドリマーは、例えば以下の式(IB)で表わされる。

【0080】
Z-(R (IB)
(式中、Zは分岐型の多価リンカーを示し、Rは、同一または異なって、R1-IWLTALXFLGXX1AAXX2X3AXQX4LSX9L-Y-を示すか、Y-IWLTALXFLGXX1AAXX2X3AXQX4LSX9L-R2を示す。R1、R2、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、Yは、前記に定義される通りである。mは3、4又は5である。)
Zで表わされる分岐型の多価リンカーとしては、ジエチレントリアミン、スペルミン、スペルミジン、トリエタノールアミン、エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)、ペンタエリスリトール、アジド-プロピル(アルキル)アミン、リジン、オルニチン、アスパラギン酸、グルタミン酸、多官能性ペプチド(リジン、オルニチン、アスパラギン酸又はグルタミン酸を含むジペプチド、トリペプチド又はテトラペプチド)、有機多価アミノ化合物(例えば、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)、トリス(エチレンアミン)アンモニア、ポリ(プロピレンイミン)(Astramol(商標))など)が挙げられる。mは、2~8の整数、好ましくは2~6の整数、さらに好ましくは2~4の整数、例えば3又は4である。例えば、IWLTALXFLGXXAAXXXAXQXLSXLで表わされるペプチドのN末端(あるいはC末端)同士を連結したダイマーは、本発明のデンドリマーに包含される。さらに、前記ペプチドのN末端側同士をつないでダイマーとしたもの」と「C末端同士をつないでダイマーとしたもの」を更に連結した4量体も本発明のデンドリマーに包含される。

【0081】
本発明のペプチドを目的物質と共存させると、目的物質のエンドソームから細胞質への移行を促進することができるが、特定の細胞へ導入するための特異性はない。したがって、本発明のペプチドと目的物質をDDSにより標的細胞に供給するか、細胞特異的なベクターと本発明のペプチドを組み合わせることにより、特定細胞の細胞質に目的物質を導入することができる。細胞特異的なベクターとして、細胞特異的な抗体、リガンドなどが表面に導入されたベクターが例示される。ベクターとしてはリポソーム(カチオニックリポソーム、アニオニックリポソーム)、リピッドマイクロスフェア、リポフェクタミン、親水性セグメントと内核形成セグメント(疎水性セグメント、カチオン性セグメント、金属錯体形成セグメント等)を含むブロックコポリマーから構成される高分子ミセル、高分子中空キャリア(特許第5142313号に記載のポリサルコシン誘導体を含む薬物担体、WO2004/105799に記載の非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体からなる静電結合型高分子ミセルなど)、ナノゲル、高密度リポタンパク質(HDL)、合成ポリマーやナノ粒子などが挙げられる。自己集合型核酸由来ベクター、ウイルス外殻タンパク質由来ベクターであってもよい。例えばベクターがリポソームの場合には、Rとして炭素数10以上のアシル基を使用するか、N末端にコレステリルオキシカルボニル基やC末端にコレステリル基などの脂溶性の大きい基、あるいはホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質を必要に応じて適当なスペーサーを介してエステル結合又はアミド結合で本発明のペプチドと結合させることで、本発明のペプチドを含むリポソームを得ることができる。スペーサーとしては、PEG(ポリエチレングリコール)、アミド基(-CONH-、-NHCO-)、エステル基(-COO-,-O-CO-)、エーテル基(-O-)、アミノ基(-NH-)、アルキレン(メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレンなど)、アミノ酸などが挙げられる。アミノ酸は側鎖のCOOHまたはNH2基を介して結合してもよい。ウイルス(外殻タンパク質)由来ベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が挙げられる。自己集合型核酸由来ベクターとしては、例えばWO 2012144560 A1、WO2016/006628に記載のものが挙げられる。「本発明のペプチドの標的細胞へ親和性を高める分子」と本発明のペプチドとのコンジュゲ-ションにより、当該細胞のエンドソーム内に本発明のペプチドをより効率的/効果的に移行・蓄積させることで、エンドソーム膜の不安定化効果と目的物質の細胞質への送達効果を高めることも可能である。「本発明のペプチドの標的細胞への親和性を高める分子」としては、細胞の表面に提示される受容体(葉酸受容体、トランスフェリン受容体、グルコース等の糖類の受容体、上皮細胞増殖因子(EGF)や血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子受容体等)に結合するリガンド、あるいは脂肪酸、疎水性ペプチド、ポリアルギニンなどの塩基性ペプチド、糖鎖などがある。

【0082】
さらに、本発明のペプチドと目的物質は、直接、あるいは目的物質と相互作用する他分子を介して非共有結合的な複合体を形成することができる。このような非共有結合的な複合体としては、
(a)[抗体と親和性を示すペプチド(ファージディスプレイ系などを用いて選択)と本発明のペプチドのコンジュゲート]と抗体との複合体
(b)核酸と本発明のペプチドとの非共有結合的な複合体
(c)[本発明のペプチドと核酸相互作用分子とのコンジュゲート]と核酸との非共有結合的な複合体
等が挙げられる。

【0083】
目的物質を細胞に送達すべき生物種は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
1.ペプチドの構造及び製造
L17E (L17): IWLTALXFLGXHAAXHEAXQQLSXL-amide(配列番号1、R1=H, R2=NH2)
L17E/Q21E (L17Q21): IWLTALXFLGXHAAXHEAXQELSXL-amide(配列番号2、R1=H, R2=NH2)
HA/E2: R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQELSXL-R (I-6)
L17Aad: R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQQLSXL-R (I-3)
HAad: R-IWLTALXFLGXAAAXAXAXQXLSXL-R (I-17)
HA/E1: R-IWLTALXFLGXAAAXAEAXQQLSXL-R (I-5)
L17Aad /Q21Aad: R-IWLTALXFLGXHAAXHXAXQXLSXL-R (I-11)
(式中、RはHである。R2はNH2である。XはL-2-aminoadipic acid (Aad)である。X~XはLys(K)である。)
特許文献2の実施例に記載のL17Eの配列中の12位、16位、17位、21位のアミノ酸を置換することにより、エンドソーム膜選択的に不安定化するペプチドを得た。ペプチドは、固相合成により得た。得られたペプチドの物性値を以下に示す。
L17E (L17)の物性値(MALDI-TOFMS): 理論値(M+H)+ 2860.6; 実測値 2860.5
L17E/Q21Eの物性値: 理論値(M+H)+ 2861.4; 実測値 2860.4
HA/E2の物性値: 理論値(M+H)+ 2727.6; 実測値 2727.4
L17Aadの物性値: 理論値(M+H)+ 2873.7; 実測値 2873.5
HAadの物性値: 理論値(M+H)+ 2755.7; 実測値 2755.6
HA/E1の物性値: 理論値(M+H)+ 2726.6; 実測値 2726.2
L17Aad /Q21Aadの物性値: 理論値(M+H)+ 2887.7; 実測値 2886.7
【実施例】
【0085】
実施例2.ヘリックス含量
実施例1で得たペプチド(L17E、L17E/Q21E、L17Aad、HA/E1、HA/E2、HAad)について、Y H Chen et al, 1972の方法により、222 nmのモル楕円率([θ]222)をもとにHelicity (%)= -([θ]222+2340)/30300*100を用いて、POPC/POPG (3:1)リポソーム存在下でのヘリックス含量を計算し、さらにCDスペクトルを測定した。図1にCDスペクトル(左)とヘリックス含量(右)を示す。
【実施例】
【0086】
実施例3.高分子薬物モデル(10 kDa dextran)の細胞内導入(1)
実施例1で得られたペプチド(L17E、L17E/Q21E、HA/E1、HA/E2) (40 μM)存在下又は非存在下(コントロール、no peptide)、HeLa細胞とAlexa488-dextran (Molecular Probes、10 kDa) (200 μg/mL)をα-MEM(-)中1 h処理、細胞を洗浄し、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図2に示す。
【実施例】
【0087】
本発明のペプチド存在下ではAlexa488-dextran (10 kDa) の有意な細胞質への流出・拡散が見られた。
【実施例】
【0088】
実施例4.高分子薬物モデル(10 kDa dextran)の細胞内導入(2)
実施例1で得られたペプチド(L17E、L17Aad)(40 μM)存在下又は非存在下(コントロール、no peptide)、HeLa細胞とAlexa488-dextran (Molecular Probes、10 kDa) (200 μg/mL)をα-MEM(-)中1 h処理、細胞を洗浄し、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図3に示す。
【実施例】
【0089】
本発明のペプチド(L17Aad)存在下では、公知のL17Eに対しAlexa488-dextran (10 kDa) の有意な細胞質への流出・拡散が見られた。
【実施例】
【0090】
実施例5.高分子薬物モデル(10 kDa dextran)の細胞内導入(3)
実施例1で得られたペプチド(HAad、HA/E2、L17Aad、L17E)(40 μM)存在下又は非存在下(コントロール、no peptide)、HeLa細胞とAlexa488-dextran (Molecular Probes、10 kDa) (200 μg/mL)をα-MEM(-)中1 h処理、細胞を洗浄し、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図4に示す。
【実施例】
【0091】
本発明のペプチド(HAad、HA/E2、L17Aad)存在下では、公知のL17Eに対しAlexa488-dextran (10 kDa) の有意な細胞質への流出・拡散が見られた。
【実施例】
【0092】
実施例6.デキストラン(10 kDa)の細胞内放出効率比較 (1)
HAad (40 μM)存在下にHeLa細胞を高分子薬物モデルとしてのAlexa488-dextran (10 kDa)(200 μg/mL)とα-MEM(-)培地中で1 hインキュベーションすることにより、約75%の細胞内(サイトゾル)へのAlexa488-dextranの放出が見られた。一方、L17Eを用いた際には約50%であった。
【実施例】
【0093】
細胞内に放出されたAlexa488-dextranのシグナルを50%の細胞に対して認めるために必要なペプチド濃度は、HAadが20 μMであるのに対し、L17Eは40 μMであった(EC50が1/2)。
【実施例】
【0094】
実施例7.デキストラン(10 kDa)の細胞内放出効率比較 (2)
HeLa細胞に較べて細胞内へのデキストランの放出が難しいNIH3T3細胞において、実施例6と同様に、HAad、HA/E2、L17E (各40 μM)存在下に細胞とデキストラン(10 kDa)をDMEM(-)培地中で1 hインキュベーションしたところ、全体のそれぞれ約35%、25%、17%の細胞で細胞内へのデキストランの放出が認められた(HAad処理による細胞内放出はL17Eによるものの2倍)。
【実施例】
【0095】
実施例8.ヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)の細胞内放出効率比較 (1)
実施例6と同様に、HAad、HA/E2、L17E (各40 μM)存在下に細胞とAlexa488で蛍光標識したヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)(500 μg/mL)をα-MEM(-)培地中で1 hインキュベーションしたところ、全体のそれぞれ約70%、45%、35%の細胞で細胞内へのヒト免疫グロブリンの放出が認められた(図7、HAad処理による細胞内放出はL17Eによるものの2倍)。
【実施例】
【0096】
実施例9.ヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)の細胞内放出効率比較 (2)
実施例8で、HAadが高いエンドソーム内包IgGの細胞内への放出能を有することが確認された。これを基に、投与するIgG量の低減可能かに関して検討した。
【実施例】
【0097】
HAad、L17E (各40 μM)存在下に細胞とAlexa488で蛍光標識したヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)(50 μg/mL:実施例8の1/10量)をα-MEM(-)培地中で1 hインキュベーションしたところ、HAadで処理した細胞では、全体の約50%の細胞で細胞内へのヒト免疫グロブリンの放出が認められたのに対し、L17Eで処理した場合は約10%の細胞でしかこれが認められなかった(図8,HAad処理による細胞内放出はL17Eによるものの5倍。また、50%の細胞内でIgGの放出が認められるのに必要なIgG量は1/10)。
【実施例】
【0098】
実施例10.ヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)の細胞内放出効率比較 (3)
実施例8及び9で、HAadがより低いIgG投与量でも高いエンドソーム内包IgGの細胞内への放出能を有することが確認された。これを基に、投与するペプチド量が低減可能かに関して検討した。
【実施例】
【0099】
HAad、L17E (各20 μM:実施例8及び9の1/2量)存在下に細胞とAlexa488で蛍光標識したヒト免疫グロブリン(IgG、~160 kDa)(500 μg/mL:実施例8と同量)をα-MEM(-)培地中で1 hインキュベーションしたところ、HAad 20 μMで処理した細胞では、全体の約37%の細胞で細胞内へのヒト免疫グロブリンの放出が認められたのに対し、L17Eで処理した場合は約15%の細胞でしかこれが認められなかった(図9,低濃度におけるHAad処理による細胞内放出はL17Eによるものの2.5倍。また、細胞内に放出されたヒト免疫グロブリンのシグナルを35%の細胞に対して認めるために必要なペプチド濃度は、L17Eが40 μMであるのに対し、HAadはその半分の20 μMである)。
【実施例】
【0100】
実施例11.毒素タンパク質saporinの細胞内送達による殺細胞アッセイ
細胞内への送達によりがん細胞を死滅される細胞毒としてsaporinが知られている。HAad、HA/E2、L17E (各40 μM)存在下にRAW264.7細胞とsaporin (10 μg/mL) をα-MEM(-)培地中で1 hインキュベーションし、その後、細胞を洗浄し、培地をDMEM(+)に交換し更に6 hインキュベーションした。WST-8 assayで細胞生存率を検定した(図10)。この結果、HAadおよびHA/E2存在下でsaporinを処理した細胞の生存率はそれぞれ4、6%とL17E存在下での生存率 (16%)と比較して有意に減少し、またHAad存在下の生存率は、L17E存在下の1/4であった。
【実施例】
【0101】
実施例12. Creタンパク質の細胞内送達による遺伝子組換えアッセイ
特許文献2の実施例と同様にして作製したloxP-DsRed-loxP-EGFPをコードするプラスミドをトランスフェクションしたHeLa細胞に、His-tag融合Cre (Cre-His6) (10 μM)をHAad、HA/E2、L17E (各40 μM)存在下、α-MEM(-)中1 hインキュベーションした。この系は、Creタンパク質が細胞内に放出されることで遺伝子組換えが誘起されるとEGFPが発現するように設計してある。細胞を洗浄し、α-MEM(+)で24 h培養後、共焦点顕微鏡観察した(図11)。ペプチド処理細胞群では、コントロール細胞群 (Cre-His6のみ投与)に比べ有意にEGFP発現細胞の割合が増加した。HAad、HA/E2、L17E処理時のGFP発現細胞の割合はそれぞれ41%、36%、30%であった。放出ペプチド非投与時のEGFP発現効率は9%であったことを考慮すると、ペプチド投与時には遺伝子組換えが、非投与時に較べ32、27、22%上昇したと考えることが可能であり、HAad投与時にはL17E投与時にくらべ有意に遺伝子組換えが促進された。
【実施例】
【0102】
実施例13.ペプチド処理におけるミトコンドリアに対する傷害性
ミトコンドリア膜は細胞膜に比べより酸性脂質に富んでいると言われていることから、上記のペプチドのミトコンドリア膜への影響をJC-1アッセイにより調べた。JC-1試薬はミトコンドリア膜が健常に保たれ、膜電位が保たれている場合は赤色(J-aggregate)の、ミトコンドリア膜が傷害され、膜電位が正常に保たれていない場合は緑色(J-monomer)の蛍光を発する。HeLa細胞をα-MEM(-)中、HAad、HA/E2、L17E (40 μM)と1 hインキュベーションした後、JC-1アッセイを行い、フローサイトメトリーにより赤色蛍光を発する細胞の割合を検定した。ATP合成を阻害する脱共役剤(carbonyl cyanide-p-trifluoromethoxyphenylhydrazone, FCCP) [α-MEM(-)中、40μM、1 hインキュベーション]、カチオン性の遺伝子のトランスフェクション試薬であるリポフェクタミン LTXとpCI vector (空ベクター)との複合体(標準プロトコルに従いα-MEM(+)中、一夜インキュベーション)の影響に関しても同様に検討した(図12)。
【実施例】
【0103】
結果として、FCCP処理の細胞ではほとんどの細胞が緑色の蛍光を発するように変化した。一方、L17E処理細胞では赤色を示す細胞の割合がペプチド未処理の場合と比べて僅かに低下したのに対して、HA/E2、HAad処理した場合には未処理の場合と有意な差が見られなかった。したがって、これらのペプチドのミトコンドリア膜に対しての影響はほとんど無く、HA/E2、HAadの傷害性はL17Eよりも一層低いことが示唆された。汎用されているリポフェクタミンには若干のミトコンドリア傷害活性を有するが、本発明のペプチドHA/E2、HAadにはミトコンドリア傷害性がみられないことが示された。
【実施例】
【0104】
実施例14. 核局在化シグナル融合緑色蛍光タンパク質 (NLS-EGFP) の核集積
実施例6と同様に、HAad, L17E (各40 μM) 存在下に細胞とNLS-EGFP (10 μM) をα-MEM(-)培地中で1 hインキュベーションした。NLS-EGFPが活性を保持したまま細胞内に放出されていれば、NLSにより緑色の蛍光が核に局在する様子が観察される。結果として、全体のそれぞれ約84%、56%の細胞で核へのNLS-EGFPの局在が認められた (図13)。HAadの高いエンドソーム内包物放出活性をこの系でも確認することができた。
【実施例】
【0105】
実施例15. 血清存在下ペプチド処理24時間後の細胞生存率の評価
HAad, HA/E2, L17E (各10, 20, 40 μM) で細胞をα-MEM(+)培地中で24 hインキュベーションした後の細胞生存率をWST-8 assayにより評価した (図14)。どのペプチドのどの濃度においても24時間後の生存率はほぼ100%で、L17Eと同様に、HA/E2およびHAadに顕著な毒性は見られなかった。
【実施例】
【0106】
実施例16
1)H-IWLTALZFLGZAAAZAXAZQXLSZL-amide [HAad-homoR] (Z=homoarginine、X= L-2-aminoadipic acid)の調製
Francesco L. Brancia., et al., Anal. Chem., 2004, 76 (10), 2748-2755に従って標記化合物を合成した。ヘミ硫酸O-メチルイソ尿素(1.23 g)の水溶液にアンモニア水を添加しpH 11.0とする。HAad[H-IWLTALKFLGKAAAKAXAKQXLSKL-amide]の水溶液(1.3 mM, 38 μL)をこれに加え、ヘミ硫酸O-メチルイソ尿素、1cの最終濃度がそれぞれ0.5M、5 μM、総液量10 mLとする。室温一夜反応。1% トリフルオロ酢酸水溶液を同体積加えて反応停止後、凍結乾燥、逆相HPLCで精製し、質量分析(MALDI TOFMS)で目的物が得られたことを確認した[実測値2965.8; 理論値 2965.8 (M+H)+]。
2)H-IWLTALZFLGZAAAZAXAZQXLSZL-amideのAlexa488-dextran (10 kDa)の細胞質への放出活性
HeLa細胞とAlexa488-dextran (Molecular Probes、10 kDa) (200 μg/mL)とHAad、あるいはHAad-homoR (20 μM)をα-MEM(-)中1 h処理、細胞を洗浄し、共焦点顕微鏡で観察した。HAad処理細胞では約40%の細胞で細胞質へのAlexa488-dextranの放出が見られたのに対し、HAad-homoR処理細胞では75%の細胞でこれが観察された。
【実施例】
【0107】
5個のLys(K)のアミノ基をグアニジノ基に変換してホモアルギニンにすることにより、細胞内に導入されたタンパク質の細胞質への放出活性が顕著に増大することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
1.生細胞へのタンパク質・生理活性物質導入試薬・導入キット
2.分子細胞生物学・医学分野における基礎研究(細胞内可視化、計測、相互作用解析、細胞活性制御等)
3.創薬分野における抗体医薬品・バイオ医薬品等の細胞内活性評価のための基礎研究(バイオ医薬品設計支援手法)
4.抗体医薬品・核酸医薬品・バイオ医薬品のex vivo・in vivo細胞内送達
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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