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明細書 :遺伝子特異的非バイアス増幅法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年11月30日(2017.11.30)
発明の名称または考案の名称 遺伝子特異的非バイアス増幅法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00 A
C12N 15/00 ZNA
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 29
出願番号 特願2017-502372 (P2017-502372)
国際出願番号 PCT/JP2016/055192
国際公開番号 WO2016/136716
国際出願日 平成28年2月23日(2016.2.23)
国際公開日 平成28年9月1日(2016.9.1)
優先権出願番号 2015033236
優先日 平成27年2月23日(2015.2.23)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】小笠原 康悦
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA13
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ43
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS16
4B063QS25
要約 本発明は、標的遺伝子をバイアスをかけずに増幅する方法、及びそのために用いるアダプターDNAの提供を目的とし、本発明は、以下の特徴を有する非バイアス遺伝子増幅に用いる2本鎖アダプターDNAである:
(a) センス鎖とアンチセンス鎖がアニーリングしており、センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長は同じであるか、又はセンス鎖が長い;
(b) センス鎖の塩基長は15~40bpである;
(c) アンチセンス鎖に複数のウラシルを含み、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)でアダプターを処理することにより、ウラシルが除去され、その後加熱処理することによりアンチセンス鎖が分解される;
(d) アダプターDNAの少なくとも1端は平滑末端の形態を有する;
(e) 一方の末端で増幅しようとする標的遺伝子に結合する;及び
(f) センス鎖の一部又は全部が遺伝子増幅に用いるフォワードプライマーの配列である。
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の特徴を有する非バイアス遺伝子増幅に用いる2本鎖アダプターDNA:
(a) センス鎖とアンチセンス鎖がアニーリングしており、センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長は同じであるか、又はセンス鎖が長い;
(b) センス鎖の塩基長は15~40bpである;
(c) アンチセンス鎖に複数のウラシルを含み、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)でアダプターを処理することにより、ウラシルが除去され、その後加熱処理することによりアンチセンス鎖が分解される;
(d) アダプターDNAの少なくとも1端は平滑末端の形態を有する;
(e) 一方の末端で増幅しようとする標的遺伝子に結合する;及び
(f) センス鎖の一部又は全部が遺伝子増幅に用いるフォワードプライマーの配列である。
【請求項2】
アンチセンス鎖に含まれるウラシルの数がアンチセンス鎖の塩基数の10~25%であり、5~10塩基ごとにウラシルが存在する、請求項1記載の2本鎖アダプターDNA。
【請求項3】
アンチセンス鎖の5'末端にリン酸基が結合しており、3'末端にアミノ基が結合している、請求項1又は2に記載の2本鎖アダプターDNA。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアダプターDNAと該アダプターDNAのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるプライマーを含む、非バイアス遺伝子増幅キット。
【請求項5】
2本鎖アダプターDNA及び2本鎖アダプターDNAのセンス鎖の一部配列からなるフォワードプライマーを用いるアダプターライゲーションPCR増幅法において、フォワードプライマーのみによる遺伝子増幅を阻害することにより、非バイアス遺伝子増幅を行うために用いる阻害プライマーであって、
(a) 該阻害プライマーの配列は、
(i) 増幅しようとする標的遺伝子のmRNAから1本鎖cDNAを合成するときに用いる、オリゴdTプライマーの5'末端にアンカー配列を連結させたアンカーオリゴdTプライマーのアンカー配列部分の全部又は一部配列からなるか、若しくは
(ii) アダプターライゲーションPCR増幅法に用いる2本鎖アダプターのセンス鎖の一部配列であって、前記のフォワードプライマーの配列より3'側に存在する配列からなり、
(b) 3'側がリン酸基、アミノ基若しくはジデオキシルNTPで修飾されている、阻害プライマー。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアダプターDNAと該アダプターDNAのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるプライマーと請求項5記載の阻害プライマーを含む、非バイアス遺伝子増幅キット。
【請求項7】
以下の工程を含む、標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させる方法:
(i) 2本鎖cDNAの両端に請求項1~4のいずれか1項に記載の2本鎖アダプターDNAをライゲーションする工程;
(ii) 2本鎖アダプターDNAをライゲーションした遺伝子をウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)で処理し、さらに加熱処理することによりアダプターDNAのアンチセンス鎖を分解する工程;
(iii) 2本鎖アダプターDNAのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるフォワードプライマー及び標的遺伝子に特異的にアニーリングするリバースプライマーを用いてPCR増幅を行う工程。
【請求項8】
フォワードプライマーのみによる伸長反応は起こらず、リバースプライマーによる伸長反応が起こり、アダプターのセンス鎖の相補鎖が形成された後に、該相補鎖にフォワードプライマーがアニーリングし伸長反応が起こり、リバースプライマーによる伸長及びフォワードプライマーによる伸長がこの順序で一方向に起こる、請求項7記載の標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させる方法。
【請求項9】
さらに、請求項5に記載の阻害プライマーを用いることによりフォワードプライマーのみによる伸長反応を阻害する、請求項7又は8に記載の標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させる方法。
【請求項10】
T細胞又はB細胞から抽出したトータルRNAからcDNAを合成し、リバースプライマーとして、T細胞受容体(TCR)又はB細胞受容体(BCR)のC領域の配列に特異的にアニーリングするプライマーを用いてTCR遺伝子又はBCR遺伝子のレパートリーを、請求項7又は8に記載の方法により網羅的に増幅し、シーケンサーにより配列決定を行うことを含む、TCR又はBCRのレパートリーの分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子を特異的に非バイアス増幅させる方法、及びそのために用いるアダプターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定遺伝子を増幅させる方法としてPCR法が用いられてきた。また、増幅に偏りのない非バイアス増幅のためには、アダプターを付与し、アダプターの一部と遺伝子特異的部分をプライマーとして、遺伝子増幅を行ってきた。しかし、アダプターは、DNA両端に付加されてしまうことから、アダプター部分のみでPCR増幅されてしまうことが問題であった。従来、制限酵素による消化で可能とされてきたが、技術的に問題であった。
【0003】
従来技術は、アダプター部、あるいは、cDNA末端部(3'側)に制限酵素部位を挿入し、制限酵素処理を行うことで、特異的遺伝子をバイアスをかけずに増幅させる方法であった。しかし、制限酵素処理が100%ではなく、未処理DNAや、残存アダプターにより、アダプター部分のみでPCR増幅が起こってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Kobayashi H. et al., PLoS One 8: e76385 doi: 10.1371/journal.pone.0076385.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、標的遺伝子をバイアスをかけずに増幅する方法、及びそのために用いるアダプターの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
非バイアス遺伝子増幅法のためには、アダプター付与は必須である。しかし、アダプターは、DNA両端に付加されてしまうことから、アダプター部分のみでPCR増幅されてしまうことが問題であった。従来、制限酵素による消化で可能とされてきたが、技術的に問題であった。
【0007】
本発明者らは、制限酵素処理を施さず、アダプター部に通常のDNAには存在しないウラシルを付与すること、ウラシルDNAグリコシラーゼで消化し、アダプター部分の一部(センスあるいはアンチセンスの片方のDNA鎖)を除去することで、アダプター部分のみでPCR増幅されることを防ぐことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の遺伝子特異的非バイアス増幅法により、特異的遺伝子をバイアスをかけずに増幅させることが可能になった。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 以下の特徴を有する非バイアス遺伝子増幅に用いる2本鎖アダプターDNA:
(a) センス鎖とアンチセンス鎖がアニーリングしており、センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長は同じであるか、又はセンス鎖が長い;
(b) センス鎖の塩基長は15~40bpである;
(c) アンチセンス鎖に複数のウラシルを含み、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)でアダプターを処理することにより、ウラシルが除去され、その後加熱処理することによりアンチセンス鎖が分解される;
(d) アダプターDNAの少なくとも1端は平滑末端の形態を有する;
(e) 一方の末端で増幅しようとする標的遺伝子に結合する;及び
(f) センス鎖の一部又は全部が遺伝子増幅に用いるフォワードプライマーの配列である。
[2] アンチセンス鎖に含まれるウラシルの数がアンチセンス鎖の塩基数の10~25%であり、5~10塩基ごとにウラシルが存在する、[1]の2本鎖アダプターDNA。
[3] アンチセンス鎖の5'末端にリン酸基が結合しており、3'末端にアミノ基が結合している、[1]又は[2]の2本鎖アダプターDNA。
[4] [1]~[3]のいずれかのアダプターDNAと該アダプターDNAのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるプライマーを含む、非バイアス遺伝子増幅キット。
[5] 2本鎖アダプターDNA及び2本鎖アダプターDNAのセンス鎖の一部配列からなるフォワードプライマーを用いるアダプターライゲーションPCR増幅法において、フォワードプライマーのみによる遺伝子増幅を阻害することにより、非バイアス遺伝子増幅を行うために用いる阻害プライマーであって、
(a) 該阻害プライマーの配列は、
(i) 増幅しようとする標的遺伝子のmRNAから1本鎖cDNAを合成するときに用いる、オリゴdTプライマーの5'末端にアンカー配列を連結させたアンカーオリゴdTプライマーのアンカー配列部分の全部又は一部配列からなるか、若しくは
(ii) アダプターライゲーションPCR増幅法に用いる2本鎖アダプターのセンス鎖の一部配列であって、前記のフォワードプライマーの配列より3'側に存在する配列からなり、
(b) 3'側がリン酸基、アミノ基若しくはジデオキシルNTPで修飾されている、阻害プライマー。
[6] [1]~[3]のいずれかのアダプターDNAと該アダプターDNAのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるプライマーと[5]の阻害プライマーを含む、非バイアス遺伝子増幅キット。
[7] 以下の工程を含む、標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させる方法:
(i) 2本鎖cDNAの両端に[1]~[4]のいずれかの2本鎖アダプターDNAをライゲーションする工程;
(ii) 2本鎖アダプターDNAをライゲーションした遺伝子をウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)で処理し、さらに加熱処理することによりアダプターDNAのアンチセンス鎖を分解する工程;
(iii) 2本鎖アダプターDNAのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるフォワードプライマー及び標的遺伝子に特異的にアニーリングするリバースプライマーを用いてPCR増幅を行う工程。
[8] フォワードプライマーのみによる伸長反応は起こらず、リバースプライマーによる伸長反応が起こり、アダプターのセンス鎖の相補鎖が形成された後に、該相補鎖にフォワードプライマーがアニーリングし伸長反応が起こり、リバースプライマーによる伸長及びフォワードプライマーによる伸長がこの順序で一方向に起こる、[7]の標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させる方法。
[9] さらに、[5]の阻害プライマーを用いることによりフォワードプライマーのみによる伸長反応を阻害する、[7]又は[8]の標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させる方法。
[10] T細胞又はB細胞から抽出したトータルRNAからcDNAを合成し、リバースプライマーとして、T細胞受容体(TCR)又はB細胞受容体(BCR)のC領域の配列に特異的にアニーリングするプライマーを用いてTCR遺伝子又はBCR遺伝子のレパートリーを、[7]又は[8]の方法により網羅的に増幅し、シーケンサーにより配列決定を行うことを含む、TCR又はBCRのレパートリーの分析方法。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2015-033236号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウラシルを含むアダプターを用いてアダプターライゲーションPCRによる遺伝子増幅方法により、特異的遺伝子をバイアスをかけずに増幅させることが可能となった。本発明の遺伝子増幅方法により、T細胞受容体(TCR)やB細胞受容体(BCR)の多様なレパートリーを網羅的に増幅することができ、次世代シーケンサーを用いて配列決定を行い、TCRやBCRのレパートリー分析が可能になる。 本法は、従来法のアダプターライゲーションPCR(AL-PCR)より、全ての面で優れており、現在利用可能なすべての方法においても優位性があり、非バイアス遺伝子増幅法と言える方法である
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の遺伝子増幅法の原理、及び標的遺伝子とアダプターとプライマーの位置関係を示す図である。
【図2】本発明の阻害プライマーによる伸長阻害の原理、及び標的遺伝子とアダプターとプライマーの位置関係を示す図である。
【図3】アダプターを用いた遺伝子特異的非バイアス増幅の結果を示す図である。
【図4】アダプター配列の検討の結果を示す図である。
【図5】TCR網羅的解析を次世代シークエンサーを用いて行った結果を示す図である。
【図6】阻害プライマーを用いた非バイアス増幅の結果を示す図である。
【図7】TCR鎖の、フローサイトメトリーによる解析結果と次世代シークエンサーによる解析結果の比較の結果を示す図である。
【図8】本発明の方法により、サイズの異なる5種類のマウスTCRが、均等に非バイアス増幅されることを示す図である。
【図9】PCR前後の5つのサイズの異なるマウスTCRの存在比を示す図である。
【図10】TCRレパートリー解析時の遺伝子増幅の正確性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0013】
本発明は、増幅しようとする標的遺伝子をバイアスをかけずに増幅させる方法であり、特定の配列を有する非バイアス遺伝子増幅用アダプターを用いるアダプターライゲーションPCR増幅法である。本発明の遺伝子増幅方法において、アダプター部やcDNA 3'末端部に制限酵素部位を挿入して制限酵素処理を行うことなく、上記アダプターを用いることにより、アダプター部分のみでPCR増幅が起こらず、PCR増幅は一方向のみに進行する。PCRが一方向に進むことを、PCRが極性を有するともいう。

【0014】
また、本発明は、阻害プライマーを用いて特定の遺伝子をバイアスをかけずに増幅させる方法も包含する。

【0015】
1.アダプター
本発明のアダプターは、センス鎖とアンチセンス鎖からなり、これらがアニーリングしている2本鎖DNAである。本発明において、アダプターをアダプターDNAともいう。アダプターの一方の鎖は一定の頻度でウラシル(dUTP:デオキシウリジン三リン酸)を含んでいる。以下、アダプターのアンチセンス鎖にウラシルが含まれる場合について説明する。以下の説明において、センス鎖とアンチセンス鎖を置き換えることができる。アンチセンス鎖に相補的なセンス鎖部分における、アンチセンス鎖のウラシルに対応する塩基はアデニンとなる。センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長は同じでもよく、ウラシルを含むアンチセンス鎖が短くてもよい。アダプターは少なくとも一端が平滑末端の形態を有している。アンチセンス鎖がセンス鎖より短い場合、アダプターの一端は平滑末端の形態を有しており、もう一端は突出末端の形態を有しており、平滑末端側で増幅しようとする標的遺伝子にライゲーションして用いる。センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長が同じ場合、アダプターの両端は平滑末端の形態を有している。

【0016】
本発明のアダプターを用いた遺伝子増幅法においては、アダプターのセンス鎖に含まれる配列からなるプライマーをフォワードプライマーとして用いる。従って、フォワードプライマーがアダプター以外にアニーリングすることを避けるため、アダプター配列は遺伝子を増幅させようとする生物のゲノムに存在しないか、又は極めて存在頻度が低い、人為的な配列とする。あるいは、アダプターの塩基配列は、増幅対象である標的ファミリー遺伝子に存在しない配列とする。例えば、T細胞受容体やB細胞受容体のレパートリー分析を目的として遺伝子増幅を行う場合、T細胞受容体やB細胞受容体に存在しない配列とする。この結果、アダプターが標的遺伝子の末端にライゲーションしない限りアダプターのセンス鎖に含まれる配列からなるプライマーにより増幅は起こらない。

【0017】
アダプターの塩基長は、15~40塩基、好ましくは20~35塩基、さらに好ましくは20~30塩基である。センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長が異なる場合、短鎖であるアンチセンス鎖の塩基長は10~20塩基、好ましくは10~15塩基である。

【0018】
アンチセンス鎖に含まれるウラシルは、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)によりウラシルを除去し無塩基部位を生成させ、その後熱処理により無塩基部位の分解により、アンチセンス鎖全体が分解されるように存在させる。例えば、アダプターのアンチセンス鎖の塩基のうち、トータル塩基数の10~50%の数の塩基、好ましくは10~25%の数の塩基、さらに好ましくは10~20%あるいは12~20%の数の塩基がウラシルであればよい。ウラシルはアンチセンス鎖に規則的に出現する必要は必ずしもないが、例えば、3~15塩基ごと、好ましくは3~10塩基ごと、さらに好ましくは5塩基程度ごとに出現するように設計する。ウラシルDNAグルコシラーゼ及び加熱処理により最終的にアンチセンス鎖を分解するためには、ウラシルは偏って存在させるのではなく、アンチセンス全体にわたって万遍なく存在させることが好ましい。

【0019】
また、アダプター配列はGC含量が50%前後、すなわち40~60%、好ましくは45~55%になるように設計する。さらに、連続した塩基の配列が存在しないことが好ましい。ただし、アダプター部に制限酵素部位を含ませる場合、センス鎖においてAが連続して出現する場合がある。この場合、アンチセンス鎖において、部分的に2~3個のウラシルが連続して存在し得るが、この場合は許容できる。

【0020】
平滑末端側であるアンチセンス鎖の5'末端には、標的遺伝子にライゲーションするためにリン酸基を結合させておく。すなわち、標的遺伝子と結合する側の末端(結合側末端)が5'末端であるアンチセンス鎖の5'末端をリン酸化しておく。このように一端のみをリン酸化することにより、アダプターの両端が平滑末端の形態を有している場合でも、アダプターはリン酸化されている末端と反対側の末端では標的遺伝子にライゲーションすることはできない。また、一端が平滑末端で他端が突出末端の形態を有している場合、平滑末端側のみで標的遺伝子にライゲーションする。

【0021】
アンチセンス鎖の3'末端には、アミノ基などPCR伸長反応を阻害する修飾を連結させておくことが好ましい。後述のようにアンチセンス鎖にはウラシルが含まれており、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)処理し加熱することによりアンチセンス鎖は分解されるので、アダプター部にプライマーが結合せず、伸長反応は起こらないが、アンチセンス鎖が分解されない場合を考慮し、アミノ基などPCR伸長反応を阻害する修飾を連結させておくことが好ましい。アミノ基を連結させることにより、アンチセンス鎖がプライマーとして作用することがないので、伸長反応は起こらない。

【0022】
アダプターを遺伝子にライゲーションした後に、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)で処理することにより、ウラシルグルコシド結合が分解され、ウラシルが除去され、アダプターのアンチセンス鎖DNA内にアルカリ感受性無塩基部位が生成される。その後、80~90℃で数分加熱処理することにより、ウラシルが除去された無塩基部位が分解され、アダプターのアンチセンス鎖が完全に分解される。

【0023】
本発明のPCR遺伝子増幅法において、アダプター部分にアニーリングさせるアダプター用フォワードプライマーはアダプターのセンス鎖の全部又は一部の配列で設計されている。好ましくは、センス鎖の5'末端からの10~30塩基、好ましくは15~25塩基からなる配列である。

【0024】
本発明のアダプターは、センス鎖とアンチセンス鎖を公知の方法で合成し、アニーリングすることにより作製することができる。ウラシルを含むアンチセンス鎖は、dUTPを用いて合成すればよい。

【0025】
本発明のアダプターとして以下の配列からなるアダプターを例示することができる。
(1)配列番号2に表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号3に表される塩基配列からなるアンチセンス鎖であって、5'末端をリン酸化したアンチセンス鎖をアニーリングさせたアダプター。アンチセンス鎖の3'末端にアミノ基を結合させてもよい。このアダプターは、リン酸基が結合した末端が平滑末端の形態を有し、他端は突出末端の形態を有する。このアダプターを用いる場合、フォワードプライマーとして、配列番号4に表される塩基配列からなるプライマーを用いる。
(2)配列番号8に表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号9に表される塩基配列からなるアンチセンス鎖であって、5'末端をリン酸化したアンチセンス鎖をアニーリングさせたアダプター。アンチセンス鎖の3'末端にアミノ基を結合させてもよい。このアダプターは、両端が平滑末端の形態を有する。このアダプターを用いる場合、フォワードプライマーとして、配列番号17に表される塩基配列からなるプライマーを用いる。
(3)配列番号8に表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号10に表される塩基配列からなるアンチセンス鎖であって、5'末端をリン酸化したアンチセンス鎖をアニーリングさせたアダプター。アンチセンス鎖の3'末端にアミノ基を結合させてもよい。このアダプターは、両端が平滑末端の形態を有する。このアダプターを用いる場合、フォワードプライマーとして、配列番号17に表される塩基配列からなるプライマーを用いる。
(4)配列番号8に表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号11に表される塩基配列からなるアンチセンス鎖であって、5'末端をリン酸化したアンチセンス鎖をアニーリングさせたアダプター。アンチセンス鎖の3'末端にアミノ基を結合させてもよい。このアダプターは、両端が平滑末端の形態を有する。このアダプターを用いる場合、フォワードプライマーとして、配列番号17に表される塩基配列からなるプライマーを用いる。

【0026】
本発明は、上記アダプターと該アダプターのセンス鎖の一部又は全部の配列からなるプライマーを含む、非バイアス遺伝子増幅キットも含む。該キットは、その他、標的遺伝子に特異的なリバースプライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチド等を含んでいてもよい。また、下の4で詳述する阻害プライマーを含んでいてもよい。

【0027】
2.本発明の遺伝子増幅法
本発明の遺伝子増幅方法は、フォワードプライマーとして、上記のアダプターのセンス鎖の全部又は一部の配列からなり、アダプターのセンス鎖に内在する配列を有するアダプター用フォワードプライマーを用い、リバースプライマーとして増幅させようとする標的遺伝子の3'末端近傍にアニーリングするプライマーを用いる。

【0028】
本発明の遺伝子増幅法が対象とする標的遺伝子は限定されず、あらゆるゲノムDNAが対象となる。最初に細胞からトータルmRNAを抽出精製し、1本鎖cDNAを合成する。cDNAの合成は、対象遺伝子に特異的な合成用プライマー、逆転写酵素を用い公知の方法で行うことができる。また、オリゴdTプライマーやアンカー配列を連結させたアンカーオリゴdTプライマーを用いてもよい。ここで、アンカーオリゴdTプライマーのアンカー配列はオリゴdT配列の5'側に連結される、標的遺伝子配列と相補的でない配列であり、例えば、制限酵素部位を含む。また、4.で詳述する阻害プライマーの配列を含んでいてもよい。アンカー配列の塩基長は限定されないが、10~40塩基である。合成した1本鎖cDNAに相補的なDNA鎖を合成し、2本鎖cDNAを合成する。細胞の由来生物種は限定されないが、好ましくは真核細胞、さらに好ましくは哺乳類、特に好ましくはヒト若しくはマウスの細胞を用いる。一連のcDNAの合成は市販のcDNA合成キットを用いて行うことができる。アダプターを結合(ライゲーション)する際には、元となるDNA、例えば、合成したcDNAやゲノムDNAは、末端を平滑処理する必要がある。

【0029】
合成した二本鎖cDNAの両端に本発明のアダプターをDNAリガーゼを用いてライゲーションする。DNAリガーゼとしては、T4 DNAリガーゼ、大腸菌DNAリガーゼ等の常温性DNAリガーゼを用いることができる。また、耐熱性DNAリガーゼを用いてもよい。

【0030】
次いで、アダプターをライゲーションした遺伝子をウラシルDNAグルコシラーゼ(UNG)で処理する。処理は、20~30℃で5~30分間行えばよい。ウラシルDNAグルコシラーゼ(UNG)で処理することにより、ウラシルグルコシド結合が分解され、ウラシルが除去され、アダプターのアンチセンス鎖DNA内にアルカリ感受性無塩基部位が生成される。その後、80~100℃、例えば95℃で数分、例えば2分間加熱処理することにより、ウラシルが除去された無塩基部位が分解され、アダプターのアンチセンス鎖が完全に分解される。さらに、過剰に存在するアダプターのアンチセンス鎖を分解することもできる。アダプターが過剰に存在している場合、遊離のアダプターのアンチセンス鎖がプライマーとして作用して意図しない増幅が起こる可能性があり、遊離のアダプターのアンチセンス鎖を分解することにより、意図しない増幅を回避することができる。この結果、アダプターのセンス鎖のみが残る。ウラシルDNAグルコシラーゼ(UNG)としては、好ましくは温度感受性のものを用いる。温度感受性の酵素を用いることにより加熱処理により酵素自体を不活性化させることができる。

【0031】
アダプターのセンス鎖の全部又は一部配列からなるフォワードプライマーであるアダプター用フォワードプライマーと標的遺伝子の一部配列に相補的で標的遺伝子に特異的なリバースプライマーを添加して、PCR伸長反応を行う。アダプター用フォワードプライマーは、アダプターのセンス鎖の全部又は一部の配列で設計されている。好ましくは、センス鎖の5'末端からの10~30塩基、好ましくは15~25塩基からなる配列である。また、アダプター用プライマーはアダプターのセンス鎖の相補鎖であるアンチセンス鎖にアニーリングするが該アンチセンス鎖の配列に対して、1~数個、好ましくは1個若しくは2個のミスマッチがあってもよく、該アンチセンス鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る配列を有していればよい。リバースプライマーは、標的遺伝子の3'末端近傍の配列に相補的な塩基配列からなり、10~30塩基、好ましくは15~25塩基からなる配列である。また、標的遺伝子の塩基配列に対して1~数個、好ましくは1個若しくは2個のミスマッチがあってもよく、該標的遺伝子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る配列を有していればよい。PCR伸長反応は、DNAポリメラーゼを用いて通常用いる条件で公知の方法で行えばよい。例えば、98℃で10秒間加熱、60℃で30秒間冷却、68℃で60秒間加熱を1サイクルとして30サイクル程度繰り返せばよい。

【0032】
PCR増幅反応の際、アダプターのアンチセンス鎖は分解されているため、フォワードプライマーはアンチセンス鎖とアニーリングしないので、最初はフォワードプライマーによる増幅反応は起こらない。一方、リバースプライマーは標的遺伝子のセンス鎖の3'末端近傍にアニーリングし、増幅反応が進行する。リバースプライマーによりDNA合成が進行し、アダプター部分のセンス鎖の相補鎖部分まで伸長し、相補鎖が形成されると、フォワードプライマーがアダプターのアンチセンス鎖の相補鎖部分にアニーリングし、フォワードプライマーによる増幅が進行する。すなわち、遺伝子伸長によりアダプターのアンチセンス鎖ができない限り、フォワードプライマーはアダプターにアニーリングすることはないので、フォワードプライマーのみによる増幅は進行しない。あるいは、本発明の方法においては、フォワードプライマーのみでは増幅は起こらず、リバースプライマーにより伸長したDNAに対してフォワードプライマーがアニーリングし、フォワードプライマーとリバースプライマーによる増幅のみが起こるということもできる。

【0033】
結局、本発明の遺伝子増幅法においては、アダプター用プライマーによる増幅は標的遺伝子特異的プライマーによる増幅の後に起こるので、リバースプライマーによる伸長及びフォワードプライマーによる伸長がこの順序で一方向に起こり、遺伝子増幅は常に一方向で進行する。本発明において、「一方向に増幅させる」とは、このことを意味する。

【0034】
本発明の遺伝子増幅法により、細胞中の各mRNAの存在比率を保持したまま、バイアスをかけることなく遺伝子を増幅させることができ、本発明の遺伝子増幅法の原理及び標的遺伝子(中央の黒で示した2本鎖)とアダプターとプライマーの位置関係を図1に示す。図1のAの図において、遺伝子の両端に存在する5'側の長鎖(センス鎖)と3'側の短鎖(アンチセンス鎖)の2本鎖はアダプターを示し、短鎖の×は短鎖がUNG処理及び加熱処理により分解されることを示す。Bの図は、アンチセンス鎖が分解された後、標的遺伝子特異的なリバースプライマーで1の矢印方向に増幅が起こり、アダプターのセンス鎖に対する相補鎖まで伸長した後にアダプターに結合するフォワードプライマーで2の矢印方向に増幅が起こることを示す。

【0035】
3.本発明の遺伝子増幅法によるT細胞受容体及びB細胞受容体のレパートリー分析
本発明の遺伝子増幅法により、T細胞受容体(TCR)やB細胞受容体(BCR)等の抗原受容体のレパートリーを偏りなく分析することができる。

【0036】
T細胞受容体及びB細胞受容体は、遺伝子領域(セグメント)による体細胞遺伝子組換えによって生成され、遺伝子領域として、V(variable)領域、D(diversity)領域、J(joining)領域及びC(constant)領域が存在する。V(D)J組換えとして知られている組換え(再構成)によりT細胞受容体及びB細胞受容体のレパートリーが拡大し、約1020の多様性を獲得する。本発明の遺伝子増幅方法によれば、この多様なT細胞受容体及びB細胞受容体のレパートリーを分析することができる。

【0037】
T細胞受容体及びB細胞受容体のレパートリーを分析するには、ヒトやマウス等の哺乳類動物のT細胞からトータルmRNAを抽出精製し、本発明の遺伝子増幅法によりTCR遺伝子を増幅すればよい。また、脾細胞や脾臓組織からトータルmRNAを抽出精製してもよい。

【0038】
遺伝子増幅は上記2に記載の方法で行えばよいが、この際、リバースプライマーとして、C領域の塩基配列に特異的にアニーリングするものを用いればよい。C領域は定常領域であるため、配列のバリエーションが少なく、1種類あるいは数種類のリバースプライマーを用いることによりすべてのT細胞受容体遺伝子を増幅させることができる。

【0039】
T細胞受容体遺伝子に特異的な複数のフォワードプライマーとリバースプライマーを用いる従来の方法(マルチプレックスPCR等)では、V領域の5'末端近傍を増幅できないことが多く、この部分の配列決定をすることは困難であった。本発明の遺伝子増幅方法では、V領域末端のさらに5'側にアダプターをライゲーションし、該アダプターに結合するフォワードプライマーを用いるため、V領域の5'端あるいはV領域の5'端側に存在するL領域の一部も増幅することが可能であり、T細胞受容体の再構成に関わるJ領域からV領域全部の500~600bpの領域を増幅し、配列を決定することができる。

【0040】
本発明の遺伝子増幅法により、T細胞受容体遺伝子の5'末端にアダプターを付加し、アダプター用フォワードプライマーとC領域特異的プライマーを用いてPCRを実施することで、すべてのT細胞受容体遺伝子を均一に増幅することができる。

【0041】
増幅した遺伝子について配列決定を行いレパートリーを分析することができる。この際、数千万のDNA断片の塩基配列を同時並行的に決定することができる次世代シーケンサー(第2世代シーケンサー)を用いればよい。次世代シーケンサーとしては、Genome Sequencer FLX(GD FLX)(Roche社)、Illumina HiSeq/MiSeq(Illumina社)等を用いることができる。

【0042】
この方法により、例えば、ある疾患に罹患している患者のT細胞受容体のT細胞受容体レパートリーを分析し、疾患特異的なT細胞受容体を同定することが可能になる。

【0043】
本発明の方法によりレパートリー解析を行う場合の、塩基配列一致率は高く、90%塩基配列が一致した遺伝子が80%以上存在する。すなわち、本発明の方法により、特異的遺伝子の増幅が正確に行われる。その結果、生体内のT細胞受容体(TCR)やB細胞受容体(BCR)等の抗原受容体のレパートリーの比率を反映することができる。

【0044】
4.阻害プライマー
本発明はアダプターライゲーションPCR増幅法において、非バイアス遺伝子増幅に用いる阻害プライマーも包含する。

【0045】
本発明の阻害プライマーを用いて特定の遺伝子をバイアスをかけずに増幅させることができる。

【0046】
アダプターは、DNA両端に付加されてしまうことから、上記1の本発明のアダプターのように特定の配列を有しないプライマーを用いる場合、そのままではアダプター部分のみでPCR増幅されてしまう。そこで、アダプター部分をプライマーとしてアンチセンス鎖が増幅できないように、アダプターの一部の塩基配列をプライマーとした阻害プライマーを設計すればよい。この場合、アダプターの一部の塩基配列である阻害プライマーの配列は、アダプターにアニーリングするフォワードプライマーの配列よりも3'側、すなわち標的遺伝子側に位置するように設計する。あるいは、1本鎖cDNA合成の際に用いるプライマーとして、上記2に記載のように、オリゴdTプライマーの5'末端にアンカー配列を連結させたアンカーオリゴdTプライマーを用い、該アンカーオリゴdTプライマーのoligo (dT)部分より5’側のアンカー配列部分の塩基配列をプライマーとした阻害プライマーを設計してもよい。該阻害プライマーの3’側には、リン酸基やアミノ基、ジデオキシルNTPなどPCRにおける伸長反応を阻害できる修飾を施すことで、阻害プライマー以降の伸長反応を阻害することができる。この結果、阻害プライマーを用いることで特定の遺伝子をバイアスをかけずに増幅させることができる。

【0047】
本発明の阻害プライマーによる伸長阻害の原理及び標的遺伝子(中央の黒で示した2本鎖)とアダプターとプライマーの位置関係を図2に示す。図2に示す例では、アダプターとしては、ウラシルを含まないアダプターを用いている。図2Aは阻害プライマーを用いない場合を示す。アダプターは標的遺伝子の両端に結合する。アダプターのセンス鎖(長鎖)の配列からなるフォワードプライマーは、標的遺伝子の両端のアダプターにアニーリングし、プライマーとしてフォワードプライマーしか添加しない場合でも、フォワードプライマーによる伸長が2(F)の矢印の方向に起こってしまう。この場合、図2Aに示すように、アダプターのセンス鎖とアンチセンス鎖の長さを変え、フォワードプライマー配列をセンス鎖の1本鎖の部位の配列とすれば、理論上は、フォワードプライマーはアダプターにアニーリングせず、伸長は起こらない。しかしながら、実際には、標的遺伝子に結合しないで遊離の状態で残存しているアダプターのアンチセンス鎖がアダプターのセンス鎖にアニーリングしリバースプライマーとして作用し、そこから伸長が2(R)の方向に起こってしまうことがある。さらに、伸長がアダプター部分まで進み、センス鎖の相補鎖ができると、その相補鎖にフォワードプライマーがアニーリングし、伸長が2(F)の矢印の方法に起こってしまう。すなわち、フォワードプライマーのみによる伸長反応が起こってしまう。図2Bは阻害プライマーを用いた場合であり、1は標的遺伝子特異的なリバースプライマーによる伸長を、2(F)はアダプターのセンス鎖(図2のアダプターの長鎖)の配列からなるフォワードプライマーによる伸長を、2(R)はアダプターがリバースプライマーとして作用した場合の伸長を示す。3は本発明の阻害プライマーを示し、2(R)の方向の伸長は阻害プライマー部分で阻害される。この結果、標的遺伝子に特異的なリバースプライマーによる伸長が起こらない限り、フォワードプライマーのみによる増幅反応は起こらない。図2Bに示す阻害プライマーはアダプターのセンス鎖の配列からなり、3'側が修飾されている。阻害プライマーはアダプターの一部又はアンカーオリゴdTプライマーのアンカー配列部分を含む。ここで、アダプターは上記1に記載したアンチセンス鎖にウラシルを含むアダプターが望ましいが、ウラシルを含まないアダプターを用いた場合でも、阻害プライマーの作用で非バイアス増殖が可能になる。

【0048】
本発明の阻害プライマーは、単独で用いることによって非バイアスPCR増幅を可能にするが、上記1の本発明のアダプターと併用してもよい。ウラシルを含むアダプターを用いた場合、上記1に記載のように遺伝子増幅は一方向で伸長する。一方、ウラシルを含まないアダプターであっても、アンチセンス鎖の3'末端にアミノ基などのPCR伸長反応を阻害する修飾を連結させておくことにより、伸長反応が一方向で進行する。伸長反応を一方向で進行させることを目的とした場合、1のウラシルを含むアダプターを用いることが最もよいが、ウラシルを含まないアダプターであって、アンチセンス鎖の3'末端にアミノ基などのPCR伸長反応を阻害する修飾を連結させたアダプターと本発明の阻害プライマーの併用によっても、一方向への伸長反応を達成することができる。

【0049】
例えば、本発明の阻害プライマーとして、配列番号18に表される塩基配列からなるヌクレオチドの3'末端にリン酸基を結合させたものが挙げられ(TO979)、配列番号1に表されるNotI制限酵素部位を有するアンカー配列を連結させたオリゴdTプライマー(TO903 oligo (dT) NotI)のオリゴdT部分より5'側の塩基配列からなるプライマーが挙げられる。
【実施例】
【0050】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1 アダプターを用いた遺伝子特異的非バイアス増幅法
1. RNAからのcDNA合成
10μgまでのtotal RNAをマウス脾臓細胞から準備し、以下の配列を有するオリゴdTプライマー(TO903)を用いて第1鎖(first strand)合成を行った。
オリゴdTプライマー
TO903 oligo (dT) Not1:5'- ataagaatgcggccgctaaactatttttttttttttttttt -3' (配列番号1)
【実施例】
【0052】
試薬は以下の通りであった。
Total RNA ~10μg, 10mM dNTP (Invitrogen(商標)), 50μM オリゴdTプライマー(TO903), 5x first strand buffer (Invitrogen(商標)), 0.1 M DTT (Invitrogen(商標)), RNase out (Invitrogen(商標), 200 units/μl SuperScript III (Invitrogen(商標))
【実施例】
【0053】
これらを混合し、50℃, 60分で合成反応を行った。
【実施例】
【0054】
次に、第2鎖(second strand)合成を行った。上記の合成産物に以下の試薬を混合し、16℃, 120分合成反応を行った。
5x 2nd strand buffer (Invitrogen(商標)), 10mM dNTPs (Invitrogen(商標)), E.coli DNA ligase (10 units/μl) (Invitrogen(商標)), E.coli DNA polymerase1 (10 units/μl) (Invitrogen(商標)), RNase H (2 units/μl) (Invitrogen(商標))
【実施例】
【0055】
この反応液にT4 DNA polymerase (TOYOBO) を1μl (7 units/μl) 加え、16℃, 5分反応させ、cDNAの末端平滑化を行った。
【実施例】
【0056】
2. アダプター結合反応
アダプターのセンス鎖とアンチセンス鎖として、以下のオリゴDNA、TO1011及びTO995を合成した。
【実施例】
【0057】
アダプター
JP2016136716A1_000002t.gif
【実施例】
【0058】
配列番号2のセンス鎖TO1011の枠囲み部分はアダプターにアニーリングするフォワードプライマーの配列である。また、配列番号2のアンチセンス鎖TO995の配列は、配列番号2のTO01011のイタリック体で表した下線部の相補鎖であり、この部分にアニーリングし、2本鎖のアダプターを形成する。TO995のPはリン酸基が結合していることを示し、NH2はアミノ基が結合していることを示す。
【実施例】
【0059】
上記のTO1011及びTO995(デオキシウラシル含有)のオリゴDNAをアニーリングさせ、アダプターを作製した。1で合成したcDNA(1~2μg)と作製したアダプター(20 ng/ml)をDNAリガーゼを用いて、16℃, 60分間反応させ結合させた。
【実施例】
【0060】
3. アダプターを用いた非バイアス増幅
アダプター付与したcDNAは1サンプルあたり25ng含まれるように調製した。
【実施例】
【0061】
以下のように反応液を混ぜた。
10x Buffer for KOD Plus Ver.2, 2 mM dNTPs, 25 mM MgSO4, 5μM F-primer (TO1022), 5μM R-primer (TO945), DMSO, KOD Plus (1 units/μl), UNG (2 unit/μl)
【実施例】
【0062】
フォワードプライマー(F-primer)TO1022及びリバースプライマー(R-primer)TO945(MCA195)の配列は以下のとおりであった。リバースプライマー(R-primer)TO945はマウスT細胞受容体(TCR)α鎖のC領域に特異的な配列にアニーリングする。
【実施例】
【0063】
PCR用フォワードプライマー
TO 1022: 5'- gcatgtacccatacgatgatcacc -3'(配列番号4)
配列番号は、上記TO1011の枠囲み部分の配列である。
【実施例】
【0064】
PCR用リバースプライマー(増幅させたい、特異的プライマーを設計する。例としてマウスTCRのalpha鎖 beta鎖)
マウスTCRα鎖用 (マウスTCR c領域)
TO945(MCA195): 5'- agg tga agc ttg tct ggt tgc tc -3'(配列番号5)
【実施例】
【0065】
本実施例では、マウスTCRα鎖用であるTO945をフォワードプライマーとして用いたが、マウスTCRβ鎖用であるTO1031も設計した。
【実施例】
【0066】
マウスTCRβ鎖用 (マウスTCR c領域)
TO 1031: 5'- cactgtggacctccttgccattc -3'(配列番号6)
【実施例】
【0067】
これらの混合物を25℃, 10~30min処理することで、アダプター部分、TO995に含まれるウラシルにおいて、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)によって、ウラシル-グリコシド結合が分解され,ウラシルが除去されDNA内にアルカリ感受性無塩基部位が生成された。その後、95℃, 2 min反応させることでウラシルが除去された無塩基部位が分解され、アダプターのアンチセンス部位であるTO995部分が分解された。
【実施例】
【0068】
その後、通常のPCR反応を行った。95℃, 30 sec, 60℃, 30 sec, 68℃, 60 secで30 cycleの条件で行った。この際、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を加えることで、PCRプライマーによる特異的増幅感度を上げた。反応終了後、ゲル抽出を行った。リンパ球の少ないサンプルに関しては、さらに増幅した遺伝子に対してnested PCRを行い反応終了後、ゲル電気泳動を行った。
【実施例】
【0069】
結果を図3に示す。図3に示すように、フォワードプライマー単独では、遺伝子増幅は起こらず、フォワードプライマーとリバースプライマーが存在するときに遺伝子増幅が起こった。この結果は、図1に示すように、増幅が一方向に起こったことを示す。
【実施例】
【0070】
実施例2 アダプター配列の検討
1の増幅法において用いるアダプター配列の検討を行った。
【実施例】
【0071】
用いたDNAは、マウスTCRα鎖cDNA(VA18-1)cDNAである。
【実施例】
【0072】
アダプターはセンス鎖とアンチセンス鎖の塩基長を同じとし、塩基長を25bp又は45bpとし、ウラシルが5塩基ごと、10塩基ごと、又は20塩基ごとに出現するように設計した。
【実施例】
【0073】
用いたアダプターのセンス鎖及びアンチセンス鎖の配列は以下のとおりであった。
【実施例】
【0074】
25bpのアダプター
ウラシルを挿入する前の元となるセンス鎖(GC含量:50%)
5'-gcatgtacccatacgatgatcacg-3' (配列番号7)
【実施例】
【0075】
5bpごとにウラシルを挿入したアダプター
アダプターのGC含量:48%
JP2016136716A1_000003t.gif センス鎖の枠囲み部分はフォワードプライマーの配列を示す。
Pはリン酸基が結合していることを表し、NH2はアミノ基が結合していることを表す。
【実施例】
【0076】
10bpごとにウラシルを挿入したアダプター
アダプターのGC含量:48%
JP2016136716A1_000004t.gif
【実施例】
【0077】
20bpごとにウラシルを挿入したアダプター
アダプターのGC含量:48%
JP2016136716A1_000005t.gif
【実施例】
【0078】
45bpのプライマー
ウラシルを挿入する前の元となるセンス鎖(GC含量:51.1%)
5'-gcatgtacccatacgatgatcaccggacagaccatgtactacgag-3'(配列番号12)
【実施例】
【0079】
5bpごとにウラシルを挿入したアダプター
アダプターのGC含量:51.1%
JP2016136716A1_000006t.gif センス鎖の枠囲み部分はフォワードプライマーの配列を示す。
Pはリン酸基が結合していることを表し、NH2はアミノ基が結合していることを表す。
【実施例】
【0080】
10bpごとにウラシルを挿入したアダプター
アダプターのGC含量:51.1%
JP2016136716A1_000007t.gif
【実施例】
【0081】
20bpごとにウラシルを挿入したアダプター
アダプターのGC含量:51.1%
JP2016136716A1_000008t.gif
【実施例】
【0082】
上記のアダプターに対して用いたフォワードプライマー及びリバースプライマーの配列は以下のとおりであった。
【実施例】
【0083】
フォワードプライマー(TO1168)
5'-gcatctgactgtacgtgatc-3' (配列番号17)
【実施例】
【0084】
リバースプライマー(TO945(MCA195)) マウスのTCRのC領域に相補的な配列
5'- aggtgaagcttgtctggttgctc -3' (配列番号5)
【実施例】
【0085】
上記のアダプター、フォワードプライマー及びリバースプライマーを用い、実施例1と同様にPCR(Pfu)で遺伝子増幅を行い、ゲル電気泳動を行った。
【実施例】
【0086】
図4に結果を示す。図4には、ウラシルの頻度が5bpごと、10bpごと若しくは20bpごとの25bpのアダプターを用いた場合、及びウラシルの頻度が5bpごと、10bpごと若しくは20bpごとの45bpのアダプターを用いた場合の各場合について、UNG処理を行った場合と行わなかった場合の結果を示す。
【実施例】
【0087】
図4の1に示すように、塩基長が25bpのアダプターを用いた場合、UNG処理を行わない場合は、フォワードプライマーのみで増幅が起こった。また、図4の2に示すようにUNG処理を行った場合、5bpごと、及び10bpごとに1個のウラシルが存在するアダプターを用いたときは、フォワードプライマーのみによるPCR増幅は起こらなかった。一方、20bpごとに1個のウラシルが存在するアダプターを用いたときは、フォワードプライマーのみでPCR増幅が起こってしまった。
【実施例】
【0088】
図4の5及び6に示すように、塩基長が45bpのアダプターを用いた場合、UNG処理を行わない場合は、フォワードプライマーのみで増幅が起こった。また、図4の6に示すようにUNG処理を行った場合、5bpごと、及び20bpごとに1個のウラシルが存在するアダプターを用いたときは、フォワードプライマーのみによるPCR増幅は起こらなかった。一方、10bpごとに1個のウラシルが存在するアダプターを用いたときは、フォワードプライマーのみでPCR増幅が起こってしまった。
【実施例】
【0089】
この結果より、アダプターの塩基長は25bp程度がよく、5bpに1個以上の頻度でウラシルを挿入することがよいことが判明した。
【実施例】
【0090】
実施例3 次世代シークエンス解析
前項で示す方法を用いて、TCR網羅的解析を次世代シークエンサー(Roche 454 GS Junior)にて行った。結果を図5に示す。
【実施例】
【0091】
糖尿病モデルマウス(NODマウス)膵臓所属リンパ節より、total RNAを抽出し、前項で示した方法によりTCRを非バイアス遺伝子増幅した。このサンプルを次世代シークエンサーにてシークエンスし、TCRのα鎖およびβ鎖の各々のV鎖の頻度を解析し図示した。
【実施例】
【0092】
実施例4 阻害プライマー(inhibit primer)を用いた非バイアス増幅
阻害プライマー
JP2016136716A1_000009t.gif(TO903 oligo (dT) Not1のoligo (dT)部分より5’側の塩基配列)
【実施例】
【0093】
アダプター配列
JP2016136716A1_000010t.gif
【実施例】
【0094】
フォワードプライマー(TO993(AF20N))
TO993: 5'- cac atg gat gac gat ca cag -3' (配列番号21)
【実施例】
【0095】
リバースプライマー(TO945(MCA195)) マウスのTCRのC領域に相補的な配列
5'- aggtgaagcttgtctggttgctc -3' (配列番号22)
【実施例】
【0096】
本実施例で用いたアダプターは、実施例1で用いた、アンチセンス鎖にウラシルを含むアダプターではないが、アンチセンス鎖の3'側にアミノ基が連結されている。ウラシルを含むアダプターを用いた場合ほどの効果は得られないが、アミノ基による修飾により、フォワードプライマーのみによる伸長を阻害することができ、一方向への伸長を可能にする。
【実施例】
【0097】
アダプター付与したcDNAは1サンプルあたり25ng含まれるように調製した。
【実施例】
【0098】
以下のように反応液を混ぜた。
10x Buffer for KOD Plus Ver.2, 2 mM dNTPs, 25 mM MgSO4, 5μM F-primer (TO993), 5μM R-primer (TO945) , DMSO, KOD Plus (1 units/μl), 5μM Inhibit primer (TO979).
【実施例】
【0099】
その後PCR反応を行った。95℃, 30 sec, 60℃, 30 sec, 72℃, 60 secで30 cycleの条件で行った。反応終了後、ゲル抽出を行った。リンパ球の少ないサンプルに関しては、さらに増幅した遺伝子に対してnested PCR を行い反応終了後、ゲル抽出を行った。
【実施例】
【0100】
結果を図6に示す。図6Aのレーン1及び3は、フォワードプライマー(TO993)及びリバースプライマー(MCA195)を添加した場合であり、遺伝子増幅が認められる。ここでは、リバースプライマーによる伸長が起こり、その後フォワードプライマーによる伸長が起こっている。レーン2及び4はフォワードプライマー(TO993)のみを添加した場合である。フォワードプライマーのみを添加した場合、リバースプライマー(MCA195)による伸長が起こらないので、本来は遺伝子増幅は起こらない。しかしながら、遊離の残存アダプターのアンチセンス鎖がリバースプライマーとして働き、その結果フォワードプライマーのみによる伸長が起こってしまっている。図6Bのレーン3はフォワードプライマー(TO993)及びリバースプライマー(MCA195)に加え、阻害プライマー(TO979)を添加した場合である。この場合は、阻害プライマーが存在していても、最初に阻害プライマーよりも3'側にアニーリングし得る標的遺伝子に特異的なリバースプライマー(MCA195)による伸長が起こるので、フォワードプライマー(TO993)による伸長も起こり遺伝子増幅が認められる。一方、図6Bのレーン4はフォワードプライマー(TO993)と阻害プライマー(TO979)のみを添加した場合である。この場合、たとえ遊離の残存アダプターのアンチセンス鎖がリバースプライマーとして働いても、阻害プライマーが3'側にアニーリングしているため、伸長は阻害される。その結果、フォワードプライマーのみによる伸長は起こらない。
【実施例】
【0101】
このように、阻害プライマーを用いることで、フォワードプライマー単独での遺伝子増幅が阻害された。
【実施例】
【0102】
実施例5 TCR鎖の、フローサイトメトリーによる解析結果と次世代シークエンサーによる解析結果の比較方法
1.フローサイトメトリーによるTCR鎖の存在比率解析
BALB/cマウスのリンパ節からリンパ球を採取した。蛍光標識抗体を用いて、TCR鎖の存在比率を検討した。1x106個のリンパ球に対し、市販の蛍光標識抗体を0.25μgを加え、4℃、30分間染色し、その後、PBSにて細胞を2回洗った。また、死細胞を標識するため、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、解析サンプルとした。このサンプルを用いて、フローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリー解析はFACSCanto II (Becton Dickinson社製)にて行った。
用いた蛍光標識抗体は、以下である。
抗CD4抗体(クローン名GK1.5)
抗CD8抗体(クローン名53-6.7)
抗Vβ2抗体(クローン名B20.6)
抗Vβ11抗体(クローン名B20.6)
抗Vb8.1.2抗体(クローン名KJ16-133.18)
【実施例】
【0103】
T細胞中の特異的TCRの存在比を計算するため、まず、CD4及びCD8陽性細胞をT細胞とした。また、T細胞中において目的のTCR(Vβ2,Vβ11,Vβ8.1/8.2)を発現している細胞数を調べた。
【実施例】
【0104】
発現頻度の算出方法として、目的TCR発現細胞数 / T細胞数 ×100(%)で表示した。
【実施例】
【0105】
この結果をフローサイトメトリーによる解析結果とした。
【実施例】
【0106】
2.次世代シークエンサーを用いたTCR鎖の存在比率解析
BALB/cマウスのリンパ節から、total RNAを抽出、通法によりcDNA libraryを作成した。本発明による方法を用いて、今回発明の新アダプターを付与し、非バイアス遺伝子増幅法によるPCRを行ってTCR鎖の遺伝子増幅を行い、これを解析サンプルとした。次世代シークエンサーは、Roche454GS Juniorを用い、メーカーのプロトコールに従って、サンプルを解析した。
【実施例】
【0107】
この結果を次世代シークエンサーを用いた解析結果とし、上記のフローサイトメトリーによる解析結果と比較検討した。 結果を図7に示す。実験は2回行い、それぞれの結果を図7A及び図7Bに示す。図中、FACSがフローサイトメトリーによる解析結果を示し、NGSが自生代シークエンサーによる解析結果を示す。図7に示すように、次世代シークエンサーの解析結果とFACS解析によるTCRレパートリーの発現率は同等であり、この結果は本発明の2本鎖アダプターDNAを用いた遺伝子増幅により非バイアス遺伝子増幅が行われていることを示す。
【実施例】
【0108】
本実施例の結果は、本発明のアダプターを用いた方法の正確さ示している。
【実施例】
【0109】
実施例6 サイズの異なる5種類のマウスTCRが、均等増幅されることの比較
実験方法
1. 以下のサイズの異なるマウスTCR cDNA fragmentを用意した(C領域を含むTCRα鎖遺伝子、約50bpごと短い)。
1) 633bp 25ng/μl
2) 569bp 25ng/μl
3) 517bp 25ng/μl
4) 459bp 25ng/μl
5) 409bp 25ng/μl
それぞれ20μlずつ混合、fragment mix 100μlとした(それぞれのcDNAの終濃度5ng/μl).
【実施例】
【0110】
このfragment mixに対して、従来のアダプター(旧アダプター)、今回発明のアダプター(新アダプター)をそれぞれ付与した。
【実施例】
【0111】
2. ヒト組織のcDNA libraryを用意し、旧アダプター、新アダプターをそれぞれ付与した。
【実施例】
【0112】
3. 旧アダプター、新アダプターをそれぞれ付与したサンプルを用いヒトサンプルとマウスfragment mixを、100:1の濃度比で混合(ヒト:マウス=1000ng:1ng)。旧アダプターを付与したヒトとマウスcDNA mix(サンプル1)と新アダプターを付与したヒトとマウスcDNA mix(サンプル2)が出来上がった。この時点で、fragment mixは、バンドとして検出することはできなくなった。
【実施例】
【0113】
4. サンプル1とサンプル2について、それぞれPCR法により増幅した。新アダプターについては、今回発明の方法による処理後(UNG処理後)にPCRを行った。
【実施例】
【0114】
PCRの条件は旧アダプターサンプル(サンプル1)、新アダプターサンプル(サンプル2)とも以下の通りである。
98℃ 10 sec
64℃ 30 sec
68℃ 60 sec
x 25 cycle
【実施例】
【0115】
プライマー濃度、PCR buffer, 酵素(KOD polymerase)は、本発明のPCR条件と同一である。
【実施例】
【0116】
アダプター配列
旧アダプター
Sense:(TO904: 5’-gacgatgacgaccgaattcc-3’(配列番号23))
Antisense:(TO932: 5’-ggaattcggtcgtc -3’(配列番号24))
【実施例】
【0117】
PCRプライマー
旧アダプター付与したcDNAサンプル(サンプル1)に対するプライマー
フォワードプライマー:(TO904: 5’-gacgatgacgaccgaattcc-3’(配列番号23))
リバースプライマー:(TO945: 5’-aggtgaagcttgtctggttgctc -3’(配列番号25))マウスTCRのC領域に相補的な配列
【実施例】
【0118】
新アダプター付与したcDNAサンプル(サンプル2)に対するプライマー
フォワードプライマー:(TO1022: 5’-gcatgtacccatacgatgatcacc -3’(配列番号26))
【実施例】
【0119】
リバースプライマー:(TO945: 5’-aggtgaagcttgtctggttgctc -3’(配列番号25))マウスTCRのC領域に相補的な配列
【実施例】
【0120】
5. サンプル1とサンプル2について、それぞれPCR法により増幅後、バイオアナライザー Agilent 2100(Agilent Technologies社製)にて、解析し図示した。
【実施例】
【0121】
結果を図8に示す。図8中、Aは5つのサイズの異なるマウスTCR均等混合した場合の結果を示し、Bは旧アダプターを付与した従来の増幅方法の結果を示し、Cは新アダプターを付与した本発明の増幅方法の結果を示す。Bに示すように、従来の増幅方法では、バンドが確認できず、非特異的なものが増幅されている。この結果は、従来のAL-PCRでバイアス遺伝子増幅が起こっていたことを示す。一方、Cに示すように本発明の2本鎖アダプターDNAをもちいた本発明の増幅方法では、5本のバンドが確認、きちんと目的の遺伝子が増幅されているアダプター付与分で約50bp遺伝子長が伸びた。すなわち、非バイアス遺伝子増幅が起こっていることを確認することができた。
【実施例】
【0122】
図9AにPCR前の5つのサイズの異なるマウスTCR均等混合物中の各TCRの存在比を示し、図9Bに本発明のアダプターを用いたPCR後の各TCRの存在比を示す。旧アダプターを用いた従来のAL-PCR増幅では、TCRの存在比の計測は不可能であった。図9に示すように、本発明のアダプターを用いたPCR増幅では、サイズが異なっていても存在比がほとんど変わらなかった。
【実施例】
【0123】
サイズの異なるTCR遺伝子を混合したライブラリーを用いて従来法と比較した結果、従来法のAL-PCRでは、非特異的な遺伝子増幅により、バイアスがある増幅結果となった。本発明の方法では、目的の遺伝子増幅が得られ、サイズが異なっても、バイアスの少ない増幅であった。本発明の方法では、存在比も元のものとほぼ変わらず、バイアスの少ない増幅であった。
【実施例】
【0124】
本実施例の結果は、本発明の2本鎖アダプターDNAを用いた方法の正確さを示している。
【実施例】
【0125】
実施例7 TCRレパートリー解析時の遺伝子増幅の正確性の比較
TCRは数塩基の違いで、他のレパートリーに分類される場合がある。遺伝子増幅が正確であれば、正確なTCRの存在比を解析できる。正確なTCRの存在比解析には、塩基配列一致率が90%以上であることが望ましい。本実施例では、TCRレパートリー解析時の遺伝子増幅の正確性の比較を検討した。
【実施例】
【0126】
方法
1. BALB/cマウスのリンパ節から、total RNAを抽出、通法によりcDNA libraryを作成した。従来のアダプター(旧アダプター)、今回発明のアダプター(新アダプター)をそれぞれ付与した。旧アダプターサンプルをサンプル1、新アダプターサンプルをサンプル2とした。
【実施例】
【0127】
2. サンプル1とサンプル2について、それぞれPCR法により増幅した。新アダプターについては、今回発明の方法による処理後(UNG処理後)にPCRを行った。
【実施例】
【0128】
PCRの条件は旧アダプターサンプル(サンプル1)、新アダプターサンプル(サンプル2)とも以下の通りである。
98℃ 10 sec
64℃ 30 sec
68℃ 60 sec
x 30 cycle
【実施例】
【0129】
アダプター配列
旧アダプター
Sense:(TO904: 5’-gacgatgacgaccgaattcc-3’(配列番号23))
Antisense:(TO932: 5’-ggaattcggtcgtc -3’(配列番号24))
PCRプライマー
旧アダプター付与したcDNAサンプル(サンプル1)に対するプライマー
フォワードプライマー:(TO904: 5’-gacgatgacgaccgaattcc-3’(配列番号23))
リバースプライマー:(TO945: 5’-aggtgaagcttgtctggttgctc -3’(配列番号25))マウスTCRのC領域に相補的な配列
【実施例】
【0130】
新アダプター付与したcDNAサンプル(サンプル2)に対するプライマー
フォワードプライマー:(TO1022: 5’-gcatgtacccatacgatgatcacc -3’(配列番号26))
リバースプライマー:(TO945: 5’-aggtgaagcttgtctggttgctc -3’(配列番号25))マウスTCRのC領域に相補的な配列
【実施例】
【0131】
3. PCRによりTCR鎖の遺伝子増幅を行い、これを解析サンプルとした。次世代シークエンサーは、Roche454GS Juniorを用い、メーカーのプロトコールに従って、サンプルを解析した。
【実施例】
【0132】
4. アダプター改善前後の遺伝子増幅の正確性の比較をV領域について行った。
【実施例】
【0133】
V領域の配列はIMGT(the international ImMunoGeneTics information system for immunoglobulins or antibodies;Web site)に提示されている遺伝子配列と照らし合せた。
【実施例】
【0134】
一致率の計算は、IMGTで示してある目的のTCR-V領域の配列を100%とし、サンプルのTCR-Vの配列がどれだけ一致しているかを計算した。
解析したサンプルのTCRのV領域の配列 / IMGTにて目的のV領域の全長配列 ×100(%)
【実施例】
【0135】
例)IMGTにて目的のV領域の全長配列が100bpの場合、解析したサンプルのTCRのV領域のうち80bpが IMGTで提示されていた配列と一致していたとすると、一致率は80%となる。
【実施例】
【0136】
一致率の分布は下記計算にて行った
一致率が○○%であったTCR数 / 全TCR数 ×100(%)
上記の一致率をAからFまで範囲ごとに分類し、図示した。
一致率が以下の範囲に属する。
A: 0-59%, B: 60-69%, C: 70-79%, D 80-89%, E: 90-99%, F: 100%
【実施例】
【0137】
結果を図10に示す。図10に示すように、TCRレパートリー解析時の遺伝子増幅の正確性を比較した結果、従来法のアダプターライゲーションPCR(AL-PCR)では、TCR遺伝子一致率が低かった(黒)。一方、本発明の2本鎖アダプターDNAを用いた本発明の方法では、TCR遺伝子一致率が高く(90%以上一致した遺伝子が80%以上となっている)、特異的遺伝子増幅が正確に行われていることを示している(白)。TCR遺伝子一致率が高ければ、解析時のエラーが少ないため、生体内のTCRの比率を反映できる。
【実施例】
【0138】
本実施例の結果は、本発明の2本鎖アダプターDNAを用いた方法の正確さを示している。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の遺伝子特異的非バイアス増幅法により、T細胞受容体(TCR)やB細胞受容体(BCR)等の多様のレパートリーを有する遺伝子を網羅的に増幅して解析することができ、疾患特異的TCRの同定等、臨床に役立てることもできる。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0140】
配列番号1、4、5、6、17、18、21、22、23~26 プライマー
配列番号2、3、7~16、19、20 合成
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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