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明細書 :T細胞受容体の認識機構を用いたがん又は感染症の治療及び診断

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年6月27日(2019.6.27)
発明の名称または考案の名称 T細胞受容体の認識機構を用いたがん又は感染症の治療及び診断
国際特許分類 A61K  38/17        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  31/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  11/00        (2006.01)
A61P  15/00        (2006.01)
A61P  37/04        (2006.01)
A61K  47/68        (2017.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K  16/00        (2006.01)
C07K  14/725       (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
C12N  15/13        (2006.01)
C12N  15/12        (2006.01)
C12N  15/62        (2006.01)
FI A61K 38/17 ZNA
A61K 39/395 Y
A61P 35/00
A61P 31/00
A61P 43/00 105
A61P 11/00
A61P 15/00
A61P 37/04
A61K 47/68
A61P 43/00 121
A61K 39/395 C
A61K 39/395 E
A61K 39/395 D
C12P 21/02 C
C07K 19/00
C07K 16/00
C07K 14/725
G01N 33/574 A
G01N 33/569 F
C12N 15/13
C12N 15/12
C12N 15/62 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 45
出願番号 特願2018-532015 (P2018-532015)
国際出願番号 PCT/JP2017/028490
国際公開番号 WO2018/026018
国際出願日 平成29年8月4日(2017.8.4)
国際公開日 平成30年2月8日(2018.2.8)
優先権出願番号 2016154742
優先日 平成28年8月5日(2016.8.5)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】小笠原 康悦
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
Fターム 4B064AG20
4B064AG26
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C076AA95
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4C076GG50
4C084AA02
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4H045AA11
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4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA28
4H045FA74
要約 T細胞受容体の認識機構を用いたがん又は感染症の治療及び診断方法の提供。
がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域又は感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、がん細胞のMHC分子複合体と結合して、MHCクラス1分子複合体の発現を低下させ、NK細胞に認識されるようにすることにより前記がん細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤、及びNK細胞にMHCクラス1分子を発現しているがん細胞又は感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞の認識機能を賦与しTDCC(T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性により前記がん細胞又は感染細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
特許請求の範囲 【請求項1】
がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、がん細胞のMHC分子複合体と結合して、MHCクラス1分子複合体の発現を低下させ、NK細胞に認識されるようにすることにより前記がん細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
【請求項2】
がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、NK細胞に、MHCクラス1分子を発現しているがん細胞の認識機能を賦与しTDCC(T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性により前記がん細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
【請求項3】
T細胞受容体キメラタンパク質がT細胞受容体の可変領域とCDR3の全てとJ領域を含む、請求項1又は2に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項4】
T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖及び/又はβ鎖である、請求項1~3のいずれか1項に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項5】
T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖である、請求項4記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項6】
免疫グロブリンのFc領域がIgGのFc領域である、請求項1~5のいずれか1項記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項7】
2つのT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質からなる2量体であり、前記2つのタンパク質がジスルフィド結合により結合している、請求項1~6のいずれか1項に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項8】
T細胞受容体がMHCクラス1分子と結合する、請求項1~7のいずれか1項に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項9】
がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を被験体の生体試料から採取した細胞と接触させ、前記T細胞受容体キメラタンパク質が被験体の生体試料から採取した細胞と結合した場合に、被験体中に標的細胞が存在すると判定する、がん細胞検出方法。
【請求項10】
がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を含むがん検出用試薬。
【請求項11】
がん患者から採取したT細胞からがん特異的抗原を認識するがん抗原特異的T細胞受容体をコードするDNAをクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
【請求項12】
がん患者から採取したT細胞を用いてがん患者の有するT細胞受容体のレパートリーを解析し、がん患者において出現頻度が高いT細胞受容体をそのがんに対する特異性が高い特異的T細胞受容体としてクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、請求項11記載のT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
【請求項13】
がん特異的抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の受容体の複合体。
【請求項14】
in vitroでがん特異的抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞を接触させることによりT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の複合体を作製する方法。
【請求項15】
感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞のMHCクラス1分子複合体と結合して、MHC分子複合体の発現を低下させ、NK細胞に認識されるようにすることにより前記感染細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
【請求項16】
感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、NK細胞に、MHCクラス1分子を発現している、感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞の認識機能を賦与しTDCC(T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性により前記感染細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
【請求項17】
T細胞受容体キメラタンパク質がT細胞受容体の可変領域とCDR3の全てとJ領域を含む、請求項15又は16に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項18】
T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖及び/又はβ鎖である、請求項15~17のいずれか1項に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項19】
T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖である、請求項18記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項20】
免疫グロブリンのFc領域がIgGのFc領域である、請求項15~19のいずれか1項記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項21】
2つのT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質からなる2量体であり、前記2つのタンパク質がジスルフィド結合により結合している、請求項15~20のいずれか1項に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項22】
T細胞受容体がMHCクラス1分子と結合する、請求項15~21のいずれか1項に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項23】
感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を被験体の生体試料から採取した細胞と接触させ、前記T細胞受容体キメラタンパク質が被験体の生体試料から採取した細胞と結合した場合に、被験体中に標的細胞が存在すると判定する、感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞検出方法。
【請求項24】
感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を含む感染細胞検出用試薬。
【請求項25】
感染症患者から採取したT細胞から感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識する病原体抗原特異的T細胞受容体をコードするDNAをクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
【請求項26】
感染症患者から採取したT細胞を用いて感染症患者の有するT細胞受容体のレパートリーを解析し、感染症患者において出現頻度が高いT細胞受容体をその感染症に対する特異性が高い特異的T細胞受容体としてクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、請求項25記載のT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
【請求項27】
感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の受容体の複合体。
【請求項28】
in vitroで感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞を接触させることによりT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の複合体を作製する方法。
【請求項29】
T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、標的細胞のMHC分子複合体と結合して、MHCクラス1分子複合体の発現を低下させる、MHC分子複合体発現低下剤。
【請求項30】
T細胞受容体キメラタンパク質がT細胞受容体の可変領域とCDR3の全てとJ領域を含む、請求項29記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項31】
T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖及び/又はβ鎖である、請求項29又は30に記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項32】
T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖である、請求項31記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項33】
免疫グロブリンのFc領域がIgGのFc領域である、請求項29~32のいずれか1項記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項34】
2つのT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質からなる2量体であり、前記2つのタンパク質がジスルフィド結合により結合している、請求項29~33のいずれか1項に記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項35】
T細胞受容体がMHCクラス1分子と結合する、請求項29~34のいずれか1項に記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項36】
標的細胞が、がん細胞または感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞である、請求項29~35のいずれか1項に記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項37】
がん患者のがん組織中のリンパ球のT細胞受容体α鎖可変領域のレパートリー及び前記がん患者の末梢血中のリンパ球のT細胞受容体α鎖のレパートリーを同定し、がん組織中のリンパ球における存在量が末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項38】
複数のがん患者において、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定し、複数のがん患者において、がん組織中のリンパ球における存在量が末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、請求項37記載のがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項39】
がん患者のがん組織中のリンパ球のT細胞受容体α鎖可変領域のレパートリー及び健常人の末梢血中のリンパ球のT細胞受容体α鎖のレパートリーを同定し、がん組織中のリンパ球における存在量が健常人の末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域とする、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項40】
複数のがん患者のがん組織中のリンパ球の混合物と複数の健常人の末梢血中のリンパ球の混合物を用いて、がん組織中のリンパ球における存在量が健常人の末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、請求項39記載のがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項41】
請求項38に記載の方法で特定したがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域と請求項40に記載の方法で特定したがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域の両方をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項42】
がんが扁平上皮がんである、請求項37~41のいずれか1項に記載のがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項43】
がんが子宮頸部がん又は肺がんである、請求項37~41のいずれか1項に記載のがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【請求項44】
TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01及びTRAV38-2/DV8-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされるT細胞受容体α鎖可変領域である、子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域。
【請求項45】
AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T)で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有するT細胞受容体α鎖可変領域である子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域。
【請求項46】
TRAV12-1-01、TRAV16-01、TRAV19-01、TRAV22-01、TRAV35-02、TRAV17-01、TRAV9-2-02及びTRAV13-1-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされるT細胞受容体α鎖可変領域である、肺がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域。
【請求項47】
T細胞受容体可変領域が、請求項37~42のいずれか1項に記載の方法で特定されたT細胞受容体可変領域である、請求項1~8及び15~22のいずれかの、NK細胞機能増強剤。
【請求項48】
T細胞受容体可変領域が、TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01及びTRAV38-2/DV8-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、請求項47記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項49】
T細胞受容体可変領域が、AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T)で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有する子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、請求項47又は48に記載のNK細胞機能増強剤。
【請求項50】
T細胞受容体可変領域が、TRAV12-1-01、TRAV16-01、TRAV19-01、TRAV22-01、TRAV35-02、TRAV17-01、TRAV9-2-02及びTRAV13-1-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる肺がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、請求項47のNK細胞機能増強剤。
【請求項51】
T細胞受容体可変領域が、請求項37~43のいずれか1項に記載の方法で特定されたT細胞受容体可変領域である、請求項29~36のいずれかの、MHC分子複合体発現低下剤。
【請求項52】
T細胞受容体可変領域が、TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01及びTRAV38-2/DV8-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、請求項51記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項53】
T細胞受容体可変領域が、AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T)で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有する子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、請求項51又は52に記載のMHC分子複合体発現低下剤。
【請求項54】
T細胞受容体可変領域が、TRAV12-1-01、TRAV16-01、TRAV19-01、TRAV22-01、TRAV35-02、TRAV17-01、TRAV9-2-02及びTRAV13-1-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる肺がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、請求項51のMHC分子複合体発現低下剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がん又は感染症の治療又は診断に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療法として、基本的に外科治療法、放射線治療法、化学療法の3種類があり、これらを3大療法と呼んでいる。
【0003】
近年は3大療法に加え、第4の治療法として、免疫療法が注目されている。免疫療法として、生体が本来有している免疫力(免疫細胞)を利用してがんを攻撃する、抗腫瘍免疫を活性化する方法と、がん細胞による免疫抑制反応を遮断する方法がある。前者の治療法として、サイトカインによる免疫増強、キラーT細胞やNK細胞の増強、樹状細胞ワクチン療法やペプチドワクチン療法があり、後者の治療法として、免疫チェックポイント阻害療法がある。
【0004】
上記のように、抗腫瘍免疫を活性化する方法として、キラーT細胞やNK細胞が利用されており、NK細胞はがんを直接攻撃できるため、がんの転移抑制等がん治療に有用であることも知られていた(非特許文献1を参照)。
【0005】
T細胞は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体:major histocompatibility complex)とペプチドを認識する。T細胞は、標的細胞にMHCが発現していないと認識できない。一方、NK細胞は、MHCがないことを認識して作用する。NK細胞は、標的細胞にMHCが発現していると認識できない。正常細胞は通常MHC分子を発現しているので、NK細胞の標的にはならない。
【0006】
MHCを発現している細胞を標的としないNK細胞のみでは、十分ながんの免疫療法効果があがらず、近年はがんを特異的に認識するT細胞の利用について研究がおこなわれ、キラーT細胞を誘導する方法が集中的に研究されていた。
【0007】
また、がん特異的抗原の特定についての研究も進み、がんペプチド療法や樹状細胞療法等が開発されている。
【0008】
T細胞の作用にはT細胞受容体(TCR)が重要な役割を果たしており、近年は、ある疾患に罹患している患者のT細胞受容体のT細胞受容体レパートリーを分析し、疾患特異的なT細胞受容体を同定する方法も開発されている。また、T細胞受容体の断片を有するタンパク質を利用する方法も報告されている(特許文献1を参照)。
【0009】
がん同様に、感染症、特に治療法が確立されていない新興再興感染症では、NK細胞やT細胞の感染細胞を排除する能力を用いた免疫療法が期待されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特表2007-513326号公報
【0011】

【非特許文献1】Ogasawara K et al. Clin J Immunol ;25(6):534-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、T細胞受容体の認識機構を用いたがん又は感染症の治療及び診断方法の提供を目的とし、具体的には、標的細胞のMHC複合体にT細胞受容体キメラタンパク質を結合させて標的細胞内へ取り込みさせることで効率的に細胞を破壊することができる。すなわち、T細胞受容体キメラタンパク質、あるいは、T細胞受容体キメラタンパク質を認識するタンパク質などに磁性体や薬剤を付与することで、標的細胞選択的に薬剤の細胞質内への取り込みを促し、これを利用して細胞を破壊することができる。さらに、NK細胞の機能を二通りで増強する方法を提供する。一つはT細胞受容体キメラタンパク質による標的細胞上のMHC複合体の発現低下(ダウンモジュレーション)を誘導することで、NK細胞に標的細胞を認識しやすくする方法、もう一つは、NK細胞にMHCクラス1分子認識機能を賦与し、NK細胞がMHCクラス1分子を発現している標的細胞(がん細胞又は感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞など)を殺傷できるようにNK細胞の機能を増強する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
NK細胞はがんの転移抑制、及び感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞の排除に利用できることが報告されていた。一方で、NK細胞はMHCクラス1分子を発現するがん細胞や感染細胞を認識することができず、がん細胞の治療や感染細胞の排除へ利用するには限界があると考えられていた。
【0014】
本発明者らは、NK細胞を用いてがんや感染症の治療を行う方法について鋭意検討を行い、T細胞受容体の認識機構を用いることによりNK細胞の機能を増強し、MHCクラス1分子を発現したがん細胞や感染細胞も殺傷する能力を賦与できることを見出した。
【0015】
すなわち、T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を標的細胞と共存させることにより、T細胞受容体キメラタンパク質のT細胞受容体の可変領域ががん細胞や感染細胞のMHCクラス1分子に結合し、二通りの反応が誘導される。一つは、抗原を提示しているMHCクラス1分子のダウンモジュレーションを誘導し、発現を低下させる。MHCクラス1の発現低下によりNK細胞が標的細胞を認識し、殺傷するようになる。もう一つは、T細胞受容体キメラタンパク質の免疫グロブリンのFc領域がNK細胞に発現しているFc受容体に結合することにより、NK細胞とMHCクラス1分子を発現しているがん細胞や感染細胞が結合し、NK細胞が該がん細胞や感染細胞を認識し、殺傷するようになる。
【0016】
本発明者らは、T細胞受容体キメラタンパク質により賦与されるNK細胞がMHCクラス1分子を発現しているがん細胞や感染細胞を殺傷する活性をT細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害(TDCC)活性と名付けた。
【0017】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、がん細胞のMHC分子複合体と結合して、MHCクラス1分子複合体の発現を低下させ、NK細胞に認識されるようにすることにより前記がん細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
[2] がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、NK細胞に、MHCクラス1分子を発現しているがん細胞の認識機能を賦与しTDCC(T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性により前記がん細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
[3] T細胞受容体キメラタンパク質がT細胞受容体の可変領域とCDR3の全てとJ領域を含む、[1]又は[2]のNK細胞機能増強剤。
[4] T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖及び/又はβ鎖である、[1]~[3]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[5] T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖である、[4]のNK細胞機能増強剤。
[6] 免疫グロブリンのFc領域がIgGのFc領域である、[1]~[5]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[7] 2つのT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質からなる2量体であり、前記2つのタンパク質がジスルフィド結合により結合している、[1]~[6]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[8] T細胞受容体がMHCクラス1と結合する、[1]~[7]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[9] がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を被験体の生体試料から採取した細胞と接触させ、前記T細胞受容体キメラタンパク質が被験体の生体試料から採取した細胞と結合した場合に、被験体中に標的細胞が存在すると判定する、がん細胞検出方法。
[10] がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を含むがん検出用試薬。
【0018】
[11] がん患者から採取したT細胞からがん特異的抗原を認識するがん抗原特異的T細胞受容体をコードするDNAをクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
[12] がん患者から採取したT細胞を用いてがん患者の有するT細胞受容体のレパートリーを解析し、がん患者において出現頻度が高いT細胞受容体をそのがんに対する特異性が高い特異的T細胞受容体としてクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、[11]のT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
[13] がん特異的抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の受容体の複合体。
[14] in vitroでがん特異的抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞を接触させることによりT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の複合体を作製する方法。
[15] 感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞のMHCクラス1分子複合体と結合して、MHC分子複合体の発現を低下させ、NK細胞に認識されるようにすることにより前記感染細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
[16] 感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、NK細胞に、MHCクラス1分子を発現している、感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞の認識機能を賦与しTDCC(T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性により前記感染細胞を殺傷させるための、NK細胞機能増強剤。
[17] T細胞受容体キメラタンパク質がT細胞受容体の可変領域とCDR3の全てとJ領域を含む、[15]又は[16]のNK細胞機能増強剤。
[18] T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖及び/又はβ鎖である、[15]~[17]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[19] T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖である、[18]のNK細胞機能増強剤。
[20] 免疫グロブリンのFc領域がIgGのFc領域である、[15]~[19]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
【0019】
[21] 2つのT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質からなる2量体であり、前記2つのタンパク質がジスルフィド結合により結合している、[15]~[20]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[22] T細胞受容体がMHCクラス1分子と結合する、[15]~[21]のいずれかのNK細胞機能増強剤。
[23] 感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を被験体の生体試料から採取した細胞と接触させ、前記T細胞受容体キメラタンパク質が被験体の生体試料から採取した細胞と結合した場合に、被験体中に標的細胞が存在すると判定する、感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞検出方法。
[24] 感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質であって標識されたT細胞受容体キメラタンパク質を含む感染細胞検出用試薬。
[25] 感染症患者から採取したT細胞から感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識する病原体抗原特異的T細胞受容体をコードするDNAをクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
[26] 感染症患者から採取したT細胞を用いて感染症患者の有するT細胞受容体のレパートリーを解析し、感染症患者において出現頻度が高いT細胞受容体をその感染症に対する特異性が高い特異的T細胞受容体としてクローニングし、免疫グロブリンのFc領域をコードするDNAを連結し発現ベクターに導入し、該発現ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞で発現させることを含む、[25]のT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を製造する方法。
[27] 感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の受容体の複合体。
[28] in vitroで感染症の原因となる病原体に特異的な抗原を認識するT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞を接触させることによりT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の複合体を作製する方法。
[29] T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、標的細胞のMHC分子複合体と結合して、MHCクラス1分子複合体の発現を低下させる、MHC分子複合体発現低下剤。
[30] T細胞受容体キメラタンパク質がT細胞受容体の可変領域とCDR3の全てとJ領域を含む、[29]のMHC分子複合体発現低下剤。
【0020】
[31] T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖及び/又はβ鎖である、[29]又は[30]のMHC分子複合体発現低下剤。
[32] T細胞受容体の可変領域が、T細胞受容体のα鎖である、[31]のMHC分子複合体発現低下剤。
[33] 免疫グロブリンのFc領域がIgGのFc領域である、[29]~[32]のいずれかのMHC分子複合体発現低下剤。
[34] 2つのT細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質からなる2量体であり、前記2つのタンパク質がジスルフィド結合により結合している、[29]~[33]のいずれかのMHC分子複合体発現低下剤。
[35] T細胞受容体がMHCクラス1分子と結合する、[29]~[34]のいずれかのMHC分子複合体発現低下剤。
[36] 標的細胞が、がん細胞または感染症の原因となる病原体が感染した感染細胞である、[29]~[35]のいずれかのMHC分子複合体発現低下剤。
[37] がん患者のがん組織中のリンパ球のT細胞受容体α鎖可変領域のレパートリー及び前記がん患者の末梢血中のリンパ球のT細胞受容体α鎖のレパートリーを同定し、がん組織中のリンパ球における存在量が末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
[38] 複数のがん患者において、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定し、複数のがん患者において、がん組織中のリンパ球における存在量が末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、[37]のがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
[39] がん患者のがん組織中のリンパ球のT細胞受容体α鎖可変領域のレパートリー及び健常人の末梢血中のリンパ球のT細胞受容体α鎖のレパートリーを同定し、がん組織中のリンパ球における存在量が健常人の末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域とする、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
[40] 複数のがん患者のがん組織中のリンパ球の混合物と複数の健常人の末梢血中のリンパ球の混合物を用いて、がん組織中のリンパ球における存在量が健常人の末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、[39]のがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
【0021】
[41] [38]の方法で特定したがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域と[40]の方法で特定したがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域の両方をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
[42] がんが扁平上皮がんである、[37]~[41]のいずれかのがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
[43] がんが子宮頸部がん又は肺がんである、[37]~[41]のいずれかのがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法。
[44] TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01及びTRAV38-2/DV8-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされるT細胞受容体α鎖可変領域である、子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域。
[45] AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T)で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有するT細胞受容体α鎖可変領域である子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域。
[46] TRAV12-1-01、TRAV16-01、TRAV19-01、TRAV22-01、TRAV35-02、TRAV17-01、TRAV9-2-02及びTRAV13-1-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされるT細胞受容体α鎖可変領域である、肺がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域。
[47] T細胞受容体可変領域が、[37]~[42]のいずれかの方法で特定されたT細胞受容体可変領域である、[1]~[8]及び[15]~[22]のいずれかの、NK細胞機能増強剤。
[48] T細胞受容体可変領域が、TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01及びTRAV38-2/DV8-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、[47]のNK細胞機能増強剤。
[49] T細胞受容体可変領域が、AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T)で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有する子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、[47]又は[48]のNK細胞機能増強剤。
[50] T細胞受容体可変領域が、TRAV12-1-01、TRAV16-01、TRAV19-01、TRAV22-01、TRAV35-02、TRAV17-01、TRAV9-2-02及びTRAV13-1-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる肺がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、[47]のNK細胞機能増強剤。
【0022】
[51] T細胞受容体可変領域が、[37]~[43]のいずれか1項に記載の方法で特定されたT細胞受容体可変領域である、[29]~[36]のいずれかの、MHC分子複合体発現低下剤。
[52] T細胞受容体可変領域が、TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01及びTRAV38-2/DV8-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、[51]のMHC分子複合体発現低下剤。
[53] T細胞受容体可変領域が、AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T)で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有する子宮頸部がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、[51]又は[52]のMHC分子複合体発現低下剤。
[54] T細胞受容体可変領域が、TRAV12-1-01、TRAV16-01、TRAV19-01、TRAV22-01、TRAV35-02、TRAV17-01、TRAV9-2-02及びTRAV13-1-01からなる群から選択されるT細胞受容体α鎖可変領域遺伝子のいずれかによりコードされる肺がんのがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域である、[51]のMHC分子複合体発現低下剤。
[55] T細胞受容体の可変領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質であるT細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、標的細胞のMHC複合体と結合して、MHC複合体のダウンモジュレーションを誘導して発現を低下させる方法。
[56] T細胞受容体キメラタンパク質を、標的細胞上のMHC複合体と結合させ、標的細胞内に取り込ませる方法。
[57] T細胞受容体キメラタンパク質、あるいは、T細胞受容体キメラタンパク質を認識するタンパク質などに磁性体や薬剤を付与することで、標的細胞選択的に薬剤の細胞質内への取り込みを促し、これを利用して細胞を破壊する方法。
【0023】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2016-154742号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0024】
T細胞受容体キメラタンパク質は、がん細胞や感染細胞のMHCクラス1分子に結合し、抗原を提示しているMHCクラス1分子のダウンモジュレーションを誘導し、発現を低下させる。MHCクラス1の発現低下によりNK細胞が標的細胞を認識し、殺傷するようになる。また、T細胞受容体キメラタンパク質の免疫グロブリンのFc領域がNK細胞に発現しているFc受容体に結合することにより、NK細胞とMHCクラス1分子を発現しているがん細胞や感染細胞が結合し、NK細胞にMHCクラス1分子を発現しているがん細胞や感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞の認識機能を賦与しTDCC(T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性によりがん細胞や感染細胞を殺傷させる機能を賦与する。すなわち、T細胞受容体キメラタンパク質は、NK細胞のがん細胞や感染細胞に対する殺傷機能を増強することができる。
【0025】
さらに、T細胞受容体キメラタンパク質は、MHCクラス1分子を発現しているがん細胞や感染細胞に結合することができるため、がん細胞や感染細胞の検出に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】T細胞のがん細胞の認識機構を示す図である。
【図2】NK細胞のがん細胞の認識機構を示す図である。
【図3】NK細胞による抗体依存性細胞障害(ADCC)の機構を示す図である。
【図4】T細胞受容体キメラタンパク質の構造を示す図である。
【図5】T細胞受容体キメラタンパク質の遺伝子組換え技術による製造方法の概要を示す図である。
【図6】NK細胞のT細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害(TDCC:TCR-IgFc dependent cellular cytotoxicity)の機構を示す図である。
【図7】NK細胞のT細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害及び通常のNK細胞傷害がおこることからNK細胞傷害能力の増強を示す図である。
【図8】E.G7細胞上のPD-L1の発現解析の結果を示す図である。
【図9】CD8+T細胞上のPD-1の発現解析の結果を示す図である。
【図10】MHCクラス1分子とOVA由来ペプチドを発現したE.G7細胞を示す図である。
【図11】TCRレパートリー解析の実験方法を示す図である。
【図12】TCRレパートリー解析において、ナイーブマウスから採取したリンパ球のTCRα鎖の解析の結果を示す図である。
【図13】TCRレパートリー解析において、E.G7接種10日後マウスから採取したリンパ球のTCRα鎖の解析の結果を示す図である。
【図14】TCRレパートリー解析において、E.G7接種15日後マウスから採取したリンパ球のTCRα鎖の解析の結果を示す図である。
【図15】TCRレパートリー解析において、ナイーブマウスから採取したリンパ球のTCRβ鎖の解析の結果を示す図である。
【図16】TCRレパートリー解析において、E.G7接種10日後マウスから採取したリンパ球のTCRβ鎖の解析の結果を示す図である。
【図17】TCRレパートリー解析において、E.G7接種15日後マウスから採取したリンパ球のTCRβ鎖の解析の結果を示す図である。
【図18】T細胞受容体キメラタンパク質ががん細胞へ結合することを示す図である。
【図19】T細胞受容体キメラタンパク質ががん細胞へ結合する様式を示す図である。
【図20】従来型のT細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-IgFc)と、新規T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)との結合性の比較を示す図である。
【図21】T細胞受容体キメラタンパク質によるMHC複合体の検出の結果を示す図である。
【図22】MHC分子に結合したT細胞受容体キメラタンパク質の細胞内在化を示す図である。
【図23】T細胞受容体キメラタンパク質によるMHC複合体の発現低下を示す図である。
【図24】ヒト細胞におけるMHC分子に結合したT細胞受容体キメラタンパク質の細胞内在化とT細胞受容体キメラタンパク質によるMHC複合体の発現低下を示す図である。
【図25】T細胞受容体キメラタンパク質による細胞内在化を利用した標的細胞の増殖抑制を示す図である。
【図26】T細胞受容体キメラタンパク質によるNK細胞の機能増強効果を示す図である。
【図27】T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害(TDCC: TCR-Ig fusion protein dependent cellular cytotoxicity)機構によりがん細胞が傷害されることを示す図である。
【図28】T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害における従来型(mTRAV8-IgFc)と新規T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)の比較を示す図である。
【図29】T細胞受容体キメラタンパク質によるヒトNK細胞の機能増強効果を示す図である。
【図30】T細胞受容体キメラタンパク質によるがんの転移抑制効果を示す図である。
【図31】疾患に対する共通TCRの特定方法のプロトコールを示す図である。
【図32】子宮頸がんに共通するTCRの特定の結果を示す図である。
【図33-1】子宮頸がんに共通するCDR3のコンセンサスフレームを示す図である。
【図33-2】子宮頸がんに共通するCDR3のコンセンサスフレームの頻度を示す図である。
【図34】HPV感染の検出の結果を示す図である。
【図35】T細胞受容体キメラタンパク質を用いたHPV感染細胞の検出の結果を示す図である。
【図36】肺がんに共通するTCRの特定の結果を示す図である。
【図37】T細胞受容体キメラタンパク質を用いた肺がん細胞の検出の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.T細胞受容体キメラタンパク質
(1)T細胞受容体キメラタンパク質の構造
本発明の方法においては、T細胞受容体(TCR:T cell receptor)の可変領域と免疫グロブリンのFc領域とを融合させたT細胞受容体キメラタンパク質を用いる。該T細胞受容体キメラタンパク質をT細胞受容体-イムノグロブリンキメラタンパク質やTCR-IgFc fusion proteinとも呼ぶ。

【0028】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、T細胞受容体の可変領域(TCR V領域)とCDR3の全てとJ領域を、IgFc部分と結合させたキメラタンパク質である。また、T細胞受容体の可変領域(TCR V領域)とCDR3の全てとJ領域とC領域の一部を、IgFc部分と結合させたキメラタンパク質であってもよい。本発明のT細胞受容体キメラタンパク質をmTRAV8-CDR3-IgFcと表すことができる。

【0029】
T細胞受容体の可変領域としては、がん細胞や感染細胞に特異的な抗原を認識するT細胞受容体の可変領域を用いる。T細胞受容体キメラタンパク質は、NK細胞がMHCクラス1分子を発現しているMHC陽性(MHC+)がん細胞やMHC陽性(MHC+)感染細胞を認識できるようにすることにより、NK細胞にキラーT細胞のような機能を賦与することができる。

【0030】
T細胞受容体はα鎖とβ鎖、又はγ鎖とδ鎖から構成される2量体であり、それぞれの鎖が可変領域と定常領域から構成される。可変領域は複数の遺伝子断片V(variable)領域(V遺伝子断片)、D(diversity)領域及びJ(joining)領域(β鎖、δ鎖)、あるいはV領域及びJ領域によりコードされ(α鎖、γ鎖)、遺伝子再構成を通して多数のレパートリーを有するようになる。さらに、可変領域にはCDR(complementarity determining region:相補性決定領域)と呼ばれる超可変領域が3つ存在し、これらの領域の体細胞突然変異によりさらに多数のレパートリーを有するようになる。特にCDR3領域は抗原特異性に関与しており、配列の変異が生じやすく配列の多様性が大きい。

【0031】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質が有するT細胞受容体の可変領域は、α鎖又はβ鎖であり、α鎖とβ鎖の両方を融合した1本鎖であってもよい。また、2量体を構成するT細胞受容体キメラタンパク質において、一方の鎖が免疫グロブリンのFc領域とT細胞受容体のα鎖の融合タンパク質であって、他方の鎖が免疫グロブリンのFc領域とT細胞受容体のβ鎖の融合タンパク質であってもよい。あるいは、T細胞受容体キメラタンパク質が有するT細胞受容体の可変領域は、γ鎖又はδ鎖であり、γ鎖とδ鎖の両方を融合した1本鎖であってもよい。また、2量体を構成するT細胞キメラタンパク質において、一方の鎖が免疫グロブリンのFc領域とT細胞受容体のγ鎖の融合タンパク質であり、他方の鎖が免疫グロブリンのFc領域とT細胞受容体のδ鎖の融合タンパク質であってもよい。T細胞受容体の可変領域のα鎖、β鎖、γ鎖及びδ鎖は約200~400個のアミノ酸からなる。本発明で用いるT細胞受容体の可変領域のα鎖、β鎖、γ鎖及びδ鎖は、例えば、天然に存在するT細胞受容体の可変領域のα鎖、β鎖、γ鎖及びδ鎖、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するT細胞受容体可変領域を含む。

【0032】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、CDR3領域を含むことが必須であり、好ましくは2量体又は4量体等の多量体であり、2量体の可変領域として、α鎖-α鎖の組合せ、α鎖-β鎖の組合せ、β鎖-β鎖の組合せが挙げられる。4量体の可変領域として、α鎖-α鎖とβ鎖-β鎖の組合せが挙げられる。

【0033】
CDR3領域は、抗原特異的であるので、本発明のT細胞キメラタンパク質は、特異的抗原とMHCとの複合体に対して、選択的に結合してその発現を低下させることができる。

【0034】
T細胞受容体の可変領域はMHCクラス1に結合するものであれば、いずれのT細胞由来のものでもよく、ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)、キラーT細胞(CD8陽性T細胞)由来のものでもよく、制御性T細胞(regulatory T cell、Treg)由来のものでもよく、エフェクターT細胞由来のものでもよい。これらのいずれのT細胞由来のT細胞受容体もMHCクラス1分子を認識し結合するので、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質の構成分子として用いることができる。

【0035】
本発明において、「免疫グロブリンのFc領域」とは、免疫グロブリンのFcフラグメント、すなわち、天然の免疫グロブリンのCH2及びCH3定常ドメインをいう。免疫グロブリンのFc領域はヒト由来のものを用いることが好ましいが、マウス免疫グロブリン等非ヒト動物の免疫グロブリンを用いることもできる。免疫グロブリンは好ましくはIgGである。ヒトIgGのサブクラスにはIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4があり、マウス免疫グロブリンにはIgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3がある。ヒトIgGでは、IgG1及びIgG3のFc領域がFc受容体に強く結合するため、IgG1及びIgG3が好ましく、その中でもIgG1が好ましい。マウスIgGでは、IgG2aのFc領域はNK細胞のFc受容体(FcR)に結合しやすいため、IgG2aが好ましい。前記免疫グロブリンのFc領域には、天然の突然変異体、人工変異体、及びトランケートされた形態のいずれも含まれる。例えば、天然に存在する免疫グロブリンのFc領域と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するFc領域を含む。

【0036】
T細胞受容体キメラタンパク質において、T細胞受容体の可変領域の間と免疫グロブリンのFc領域の間、あるいはT細胞受容体の可変領域のα鎖とβ鎖の両方を有する場合のα鎖とβ鎖の間には、リンカーが含まれていてもよく、2つのタンパク質がリンカーを介してタンデムに結合していればよい。リンカーは、特定の長さのアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであり、アミノ酸数は限定されないが、1~30個、好ましくは3~25個、さらに好ましくは5~20個である。アミノ酸の種類は限定されず、側鎖が小さく反応性が大きくないアミノ酸や連結したときにαへリックス構造をとるアミノ酸が好ましい。このようなアミノ酸として、グリシン(G)、セリン(S)、アラニン(A)、トレオニン(T)、アスパラギン酸(D)、リシン(K)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、メチオニン(M)等が挙げられる。

【0037】
(2) T細胞受容体(TCR)の特定方法
がん細胞を標的細胞とし、がん細胞におけるTCRを特定する場合、T細胞受容体の可変領域としては、特定のがん細胞に発現する、がん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域を用いればよい。このようなT細胞受容体の可変領域としては、例えば、特定のがん患者由来のT細胞受容体の可変領域を用いることができる。がん種は限定されず、本発明で治療対象となるがんとして、発生する部位別では、肺扁平上皮がんや子宮頸部扁平上皮がんなどの扁平上皮がん、肺腺がんや子宮頸部腺がんなどの腺がん、未分化がんが挙げられる。組織、器官別には、胃がん、肺がん、肝がん、結腸がん、膵がん、膀胱がん、前立腺がん、肛門・直腸がん、食道がん、子宮頸がん、子宮体がん、乳がん、皮膚がん、腎がん、副腎がん、尿道がん、陰茎がん、精巣がん、腎盂尿管がん、脳・神経腫瘍、リンパ腫・白血病、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫、中皮腫等が挙げられる。この際、大腸がんや消化器がんに特異的ながん胎児性抗原(CEA);悪性黒色腫(メラノーマ)に特異的なMAGE(Melanoma antigen);乳がんに特異的なHER2/neu;前立腺がんに特異的なヒト前立腺がん特異抗原(PSA)、ヒト前立腺酸性フォスファーターゼ(PAP)及びPSMA(prostate specific membrane antigen);白血病や各種がんに特異的なWT1ペプチド;肝細胞がんに特異的なグリピカン3(GPC3)等のがん特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域を用いることにより、多数のがん患者の治療に汎用的に用いることができるT細胞受容体キメラタンパク質を得ることができる。ただし、がん患者ごとに適切ながん治療を行うためには、がん患者からリンパ球を採取し、リンパ球のT細胞受容体のレパートリーを同定し、そのがん患者に高頻度で認められるT細胞受容体の可変領域を用いればよい。この場合、T細胞受容体はそのがん患者のがん特異的抗原の特定のエピトープを認識する。このような、がん細胞の特定のエピトープに特異的なT細胞受容体をコードするDNAは、がん患者のT細胞受容体を網羅的に解析することにより得ることができる。T細胞受容体には、1018ものレパートリーがあるが、現在では網羅的解析が可能である。例えば、がん患者のリンパ節より、T細胞を採取し、トータルmRNAを抽出精製する。次いで、トータルmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、cDNAライブラリーを作製する。作製したcDNAライブラリーについて次世代シークエンサーにより配列を決定し、T細胞受容体のレパートリーを解析することができる。がん患者において出現頻度が高いT細胞受容体をそのがんに対する特異性が高い特異的T細胞受容体であると判断することができる。

【0038】
次いで、T細胞受容体の全長配列をクローニングする。この際、T細胞受容体の可変領域をコードするDNAの5'末端部分に結合するプライマーとT細胞受容体の定常領域の3'末端部分に結合するプライマーを用いてT細胞受容体の全長配列を増幅し、クローニングベクターに組込み、T細胞受容体をコードする全長遺伝子のライブラリーを作製する。この全長遺伝子ライブラリーの遺伝子について、再度シークエンスする。前記のT細胞受容体のレパートリー解析で、出現頻度が高かったT細胞受容体をがんに特異的なT細胞受容体とし、このT細胞受容体の遺伝子の配列を有するクローンをがん特異的T細胞受容体のクローンとして選択する。

【0039】
感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞を標的細胞とする場合、T細胞受容体の可変領域としては、特定の細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞に発現する、細菌やウイルス等の病原体の特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域を用いればよい。このようなT細胞受容体の可変領域としては、例えば、特定の感染症患者由来のT細胞受容体の可変領域を用いることができる。病原体の特異的抗原を認識するT細胞受容体の可変領域を特定の感染症に特異的なT細胞受容体の可変領域ということもできる。感染症は限定されず、細菌、ウイルス、真菌、リケッチア、寄生虫等による感染症が挙げられ、感染症の原因となる病原体としては、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HCV(C型肝炎ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、EBV(B型肝炎ウイルス)、HAV(A型肝炎ウイルス)、HPV(ヒトパピローマウイルス)、狂犬病ウイルス、デングウイルス、エボラウイルス、ラッサウイルス、ジカウイルス等のウイルス;溶連菌、O157等の病原大腸菌、クラミジア・トラコマティス、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、レジオネラ属菌、炭疽菌、結核菌、黄色ブドウ球菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)等の細菌抗原;マラリア等の原虫などが挙げられる。患者ごとに適切な感染症治療を行うためには、感染症患者からリンパ球を採取し、リンパ球のT細胞受容体のレパートリーを同定し、その感染症患者に高頻度で認められるT細胞受容体の可変領域を用いればよい。この場合、T細胞受容体はその感染症患者の病原体特異的抗原の特定のエピトープを認識する。このような、病原体の特定のエピトープに特異的なT細胞受容体をコードするDNAは、感染症患者のT細胞受容体を網羅的に解析することにより得ることができる。T細胞受容体には、1018ものレパートリーがあるが、現在では網羅的解析が可能である。例えば、感染症患者のリンパ節より、T細胞を採取し、トータルmRNAを抽出精製する。次いで、トータルmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、cDNAライブラリーを作製する。作製したcDNAライブラリーについて次世代シークエンサーにより配列を決定し、T細胞受容体のレパートリーを解析することができる。感染症患者において出現頻度が高いT細胞受容体をその感染症の原因となる病原体に対する特異性が高い特異的T細胞受容体であると判断することができる。

【0040】
次いで、T細胞受容体の全長配列をクローニングする。この際、T細胞受容体の可変領域をコードするDNAの5'末端部分に結合するプライマーとT細胞受容体の定常領域の3'末端部分に結合するプライマーを用いてT細胞受容体の全長配列を増幅し、クローニングベクターに組込み、T細胞受容体をコードする全長遺伝子のライブラリーを作製する。この全長遺伝子ライブラリーの遺伝子について、再度シークエンスする。前記のT細胞受容体のレパートリー解析で、出現頻度が高かったT細胞受容体を感染症に特異的なT細胞受容体すなわち病原体の抗原に特異的なT細胞受容体にとし、このT細胞受容体の遺伝子の配列を有するクローンを病原体の抗原特異的T細胞受容体のクローンとして選択する。

【0041】
T細胞受容体のレパートリー解析は、例えば、IMGT/V-Questツール(http://www.imgt.org/)を利用して行うことができる。

【0042】
上記の方法では、T細胞受容体のレパートリー解析により、がん特異的T細胞受容体又は病原体の抗原特異的T細胞受容体の配列を決定した後に、再度T細胞受容体の全長遺伝子をクローニングし、ライブラリーを作製し、その中からがん特異的抗原又は病原体の抗原特異的T細胞受容体の認識に関与するT細胞受容体の配列を有するクローンを選択する。

【0043】
がん患者又は感染症患者のT細胞受容体の網羅的解析は、採血後、1~2週間で行うことができる。その後、T細胞受容体をクローニングし、キメラタンパク質を製造すればよく、最短で、採血から3~5週間程度で特定のがん患者又は感染症患者に適した個別化(カスタムメイド)治療を可能にするT細胞受容体キメラタンパク質を得ることができる。この際、T細胞受容体も免疫グロブリンのFc領域も患者のものを用いてもよく、いずれも自己のもの由来のT細胞受容体キメラタンパク質を用いることになるため、免疫反応による副作用を抑えることができる。

【0044】
さらに、以下の具体的な方法でT細胞受容体を特定することができる。

【0045】
第1の方法として、疾患周囲組織、例えば、がん周囲組織、と末梢血のTCR頻度を比較する方法が挙げられる。まず、各検体につき疾患組織と末梢血のTCR頻度を算出する。疾患組織のTCR頻度と末梢血のTCR頻度を比較して(疾患組織のTCR頻度/末梢血のTCR頻度)、比が2倍以上の差が見られたものをTCRのV領域で並べる(個別ペア解析)。疾患周囲組織でTCR頻度が極端に少ないもの、例えば1%未満のもの、を除外する。個別ペア解析において、比が大きいTCR、例えば比が2倍以上、好ましくは3倍以上のTCRの中で上位5~10程度を抽出する。この方法を解析1と呼ぶ。

【0046】
すなわち、この方法は、がん患者のがん組織中のリンパ球のT細胞受容体α鎖可変領域のレパートリー及び前記がん患者の末梢血中のリンパ球のT細胞受容体α鎖のレパートリーを同定し、がん組織中のリンパ球における存在量が末梢血中のリンパ球における存在量の、例えば、2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法である。また、複数のがん患者において、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定し、複数のがん患者において、がん組織中のリンパ球における存在量が末梢血中のリンパ球における存在量の、例えば2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法である。本方法は、T細胞受容体α鎖可変領域のみならず、β鎖可変領域の特定にも利用できる。

【0047】
第2の方法として、疾患組織でのTCR頻度についてそれぞれの検体の頻度を合算、平均を求めた後、頻度順に並べ上位10程度を抽出する(合算シングル解析)。健常人末梢血のTCR頻度を頻度順にならべ上位10程度の頻度を抽出する。V領域に着目して、疾患組織で抽出したTCRの中で健常人末梢血から抽出したものと重複するものを除外し、特定TCRとする。この方法を解析2と呼ぶ。本方法は、T細胞受容体α鎖可変領域のみならず、β鎖可変領域の特定にも利用できる。

【0048】
すなわち、この方法は、がん患者のがん組織中のリンパ球のT細胞受容体α鎖可変領域のレパートリー及び健常人の末梢血中のリンパ球のT細胞受容体α鎖のレパートリーを同定し、がん組織中のリンパ球における存在量が健常人の末梢血中のリンパ球における存在量の、例えば2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的T細胞受容体α鎖可変領域とする、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法である。また、複数のがん患者のがん組織中のリンパ球の混合物と複数の健常人の末梢血中のリンパ球の混合物を用いて、がん組織中のリンパ球における存在量が健常人の末梢血中のリンパ球における存在量の2倍以上であるT細胞受容体α鎖可変領域をがん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域と決定する、がん特異的T細胞受容体α鎖可変領域を特定する方法である。

【0049】
解析1と解析2で選ばれたTCRのV領域を合算してこれを共通TCRとする。その中でも、解析1と解析2で重複する共通TCRは、特に重要なTCRとする。

【0050】
解析1と解析2で重複する共通TCRとして、例えば、以下のT細胞受容体α鎖可変領域を有するTCRが挙げられる。

【0051】
子宮頸部がんに特異的なTCRとして、TRAV(T cell receptor Alpha Variable)1-1-01、1-1-02、21-02、22-01、1-2-01、12-2-03、39-01、TRAV2-01、21-01、12-1-01、1-2-01、38-2/DV8-01の12個のT細胞受容体α鎖可変領域を有するTCRを挙げることができる。

【0052】
子宮頸部がんに特異的ながん特異的ヒト共通T細胞受容体α鎖可変領域は、AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T))で表されるコンセンサスフレームを有するCDR3領域を有する。

【0053】
また、肺がんに特異的なTCRとして、TRAV12-1-01、16-01、19-01、22-01、35-02、17-01、9-2-02及び13-1-01の8個のT細胞受容体α鎖可変領域を有するTCRを挙げることができる。

【0054】
(3) T細胞受容体キメラタンパク質の製造
一度に複数の患者について、T細胞受容体の網羅的解析を行えば、多数のT細胞受容体のレパートリーを取得することができ、T細胞受容体の可変領域をコードする多数のDNAのライブラリーを作製しておくことができる。その後に治療を必要とするがん患者又は感染症患者に対して、T細胞受容体の解析を行い、その患者が有するT細胞受容体あるいは配列が近似しているT細胞受容体が前記のライブラリーに存在する場合は、そのDNAを用いてT細胞受容体キメラタンパク質を製造すればよい。

【0055】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、T細胞受容体のα鎖可変領域及び/又はβ鎖可変領域と免疫グロブリンのFc領域が融合し、必要に応じてリンカーペプチドを含む融合タンパク質を1つ有する単量体も、2つ有する2量体も含む。好ましくは、図4に示す2量体が好ましい。本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、ジスルフィド結合により2量体を形成し得る。2量体の2つのT細胞受容体の可変領域の一方がα鎖で他方がβ鎖であってもよい。

【0056】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、公知の融合タンパク質を作製する方法、例えば化学合成法、遺伝子組み換え技術による方法で作製することができるが、遺伝子組換え技術による方法で作製することが好ましい。遺伝子組換え技術による方法の概要を図5に示す。遺伝子組換え技術により本発明のT細胞受容体キメラタンパク質を作製する場合には、T細胞受容体のα鎖可変領域及び/又はβ鎖可変領域と免疫グロブリンのFc領域、さらに必要に応じてリンカーペプチドコードするDNAをインフレームで連結し、融合タンパク質をコードするDNAを発現ベクターに導入し組換えベクターを作製し、さらに、該組換えベクターを動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、細菌等の宿主に導入し発現させればよい。

【0057】
ベクターとしては、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能ないかなるベクターも用いることができる。ベクターは、プロモーター、複製開始点、選択マーカーを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。

【0058】
作製したT細胞受容体キメラタンパク質は、必要に応じて、当該技術分野の当業者にとって周知の単離及び精製手段により、単離及び精製することができる。例えば、単離及び精製方法としては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ミックスモードクロマトグラフィー、透析、沈殿分画法、電気泳動等が挙げられる。これらの方法を適宜組み合わせて、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質を単離及び精製することができる。

【0059】
また、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は無細胞翻訳系(セルフリーシステム)で発現させることもできる。

【0060】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、当業者にとって公知の化学修飾がされていてもよい。例えば、化学修飾には、ポリエチレングリコール(PEG)化、グリコシル化、アセチル化、アミド化等が挙げられる。

【0061】
2.T細胞受容体キメラタンパク質の利用
(1) T細胞受容体キメラタンパク質の細胞への取り込み、及び細胞表面のMHC複合体の発現の低下
T細胞受容体キメラタンパク質により、MHC複合体の細胞表面上の発現を低下させることができる。また、MHC複合体へ結合したT細胞受容体キメラタンパク質を細胞内へ導入させることができる。

【0062】
本発明は、T細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含む、細胞におけるMHC複合体の発現低下剤を包含する。該MHC複合体の発現低下剤の有効成分として用いるT細胞受容体キメラタンパク質は、好ましくは2量体又は4量体等の多量体である。多量体の方が、クラスタリング効率がよく、MHC複合体の発現低下の効果が高い。

【0063】
T細胞受容体は、MHC複合体と結合してT細胞に信号を伝えて機能を発揮する。本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は細胞表面のMHC複合体と結合して、その後該細胞内に取り込まれることでMHC複合体の細胞表面の発現を低下させる。細胞表面のMHC複合体に結合したT細胞受容体キメラタンパク質は、1~10時間後、好ましくは4~8時間後、さらに好ましくは6時間後に細胞内に取り込まれる。

【0064】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質が結合するMHC複合体はクラス1分子に限定せず、クラス2分子でもよい。マウスではH-2K, D, L, I-A, I-Eであり、ヒトでは、HLA-A, B, C, DR, DQ, DM, Eである。また、標的細胞は、がん、感染症に限定したものではなく、正常細胞を含むあらゆる細胞を対象とする。

【0065】
また、T細胞受容体キメラタンパク質がMHC複合体と結合して、数時間後には細胞内に取り込まれる現象を以下のように利用することができる。すなわち、標的となる細胞のMHC複合体を認識するT細胞受容体キメラタンパク質を作製する。次いで、該T細胞受容体キメラタンパク質に直接、磁性体又は薬剤の付与を行うか、あるいは、T細胞受容体キメラタンパク質を認識する磁性体又は薬剤を付与した2次抗体などの結合タンパク質を加える。その結果、T細胞受容体キメラタンパク質を利用して、標的細胞の細胞質中に磁性体又は薬剤を導入することができる。ここで、磁性体としては、磁性ナノ粒子等が挙げられる。磁性ナノ粒子としては、1~100nmの直径を有する酸化鉄ナノ粒子、マグネタイトナノ粒子等の金属ナノ粒子などが挙げられる。磁性体ナノ粒子は、リポソーム内に包入して用いてもよい。がん細胞等の標的細胞中に取り込まれた磁性ナノ粒子を発熱体として利用し、体外から交流磁場を照射し、局所的な昇温により細胞をハイパーサーミアを利用した温熱療法により標的細胞を死滅させることができる。また、抗がん剤や細胞を死滅させる薬剤により標的細胞を死滅させることができる。抗がん剤は限定されないが、アルキル化剤、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗がん性抗生物質、分子標的薬、プラチナ製剤、ホルモン剤等が挙げられる。このように、T細胞受容体キメラタンパク質を用いて細胞質中に取り込んだ磁性体や薬剤を利用して、がん細胞等の標的細胞を選択的に効率よく破壊することができる。

【0066】
このように、T細胞受容体キメラタンパク質を磁性体や薬剤の担体として利用することができる。

【0067】
(2) T細胞受容体キメラタンパク質によるNK細胞の機能増強法
また、本発明はT細胞受容体キメラタンパク質を用いてNK細胞の機能増強を図る方法である。本発明は、さらに、そのために用いるT細胞受容体キメラタンパク質である。

【0068】
本発明は、NK細胞の機能増強を図るための以下の2つの方法(a)及び(b)を提供する。
(a)NK細胞は、MHC分子を発現していない細胞を標的細胞として認識する。T細胞受容体キメラタンパク質は、特異的抗原を発現しているMHC複合体と結合して、数時間後、例えば6時間後には細胞内に取り込まれるため、標的細胞上のMHC複合体分子の発現が低下する。このため、NK細胞は標的細胞を認識することができ、攻撃できる。

【0069】
(b) NK細胞がMHCクラス1分子を認識できるようにし、NK細胞がMHCクラス1分子を発現しているがん細胞又は感染細胞を標的細胞として認識できるようになる。このため、細胞は標的細胞を認識することができ、攻撃できる。

【0070】
本発明においては、(a)及び(b)の方法をいずれもNK細胞の機能を増強させる方法という。

【0071】
T細胞は、MHCクラス1分子と抗原を認識するので、MHCクラス1分子が発現している細胞を認識する(図1)。実際には、T細胞はMHCクラス1分子にがん特異的抗原や感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体の抗原が結合した複合体を認識することにより、MHCクラス1分子に結合した抗原を認識する。一方、NK細胞は、MHCがないことを認識して作用するので、NK細胞はMHCクラス1分子が発現している標的細胞は認識できない(図2)。正常細胞は、通常MHCクラス1分子を発現しているので、NK細胞の標的にはならない。また、悪性化したがん細胞ではMHCクラス1分子の発現が消失する場合が多いが、多くのがん細胞や感染細胞はMHCクラス1分子を有している。ここで、感染細胞とは感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞のことをいう。キラーT細胞はがん細胞や感染細胞のMHCクラス1分子を認識してがん細胞や感染細胞を攻撃するので、広くがん免疫治療や感染症の免疫療法に用いられている。また、悪性化したがん細胞、難治性のがん細胞等、ある種のがん細胞ではMHCクラス1分子が消失する。このようながん細胞は、T細胞による攻撃を免れるので、NK細胞により攻撃する必要があった。NK細胞は免疫グロブリンのFc領域受容体(Fc受容体:FcR)を有し、これにより液性免疫により感作された細胞を標的にした抗体依存性細胞障害(ADCC)を行う(図3)。

【0072】
上記の(a)の方法により、標的細胞の表面のMHC分子の発現が低下する。そのため、患者の生体内に元々存在していたNK細胞が、がん細胞や感染細胞等の標的細胞を認識し、攻撃し、これらの標的細胞を死滅させることができる。

【0073】
また、上記の(b)の方法により、NK細胞はMHCクラス1分子を認識できるようになるので、NK細胞がMHCクラス1分子を発現しているがん細胞や感染細胞を標的細胞として攻撃するようになる。

【0074】
(b)の方法において、NK細胞は、そのままではMHCクラス1分子を発現したがん細胞や感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞を認識しない(図2)。しかしながら、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質の存在下では、T細胞受容体キメラタンパク質のFc部分がNK細胞のFc受容体(FcR)に結合し、かつT細胞受容体キメラタンパク質のT細胞受容体の可変領域が、標的となるがん細胞のMHCクラス1分子と結合したがん特異的抗原又は病原体の特異的抗原と結合する。この結果、NK細胞はT細胞受容体キメラタンパク質を介してMHCクラス1分子を発現しているがん細胞又は感染細胞を標的細胞として認識し、該がん細胞又は感染細胞を攻撃する。

【0075】
従って、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、生体がもともと有するNK細胞にMHCクラス1分子を認識する機能を賦与し、NK細胞がMHCクラス1分子を発現しているMHCクラス1分子陽性がん細胞又はMHCクラス1分子陽性感染細胞に対する傷害活性を賦与する。すなわち、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、NK細胞にMHCクラス1分子陽性がん細胞又はMHCクラス1分子陽性感染細胞に対する傷害活性を賦与するというNK細胞の機能増強効果を有する。この点で、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、NK細胞の機能増強剤として用いることができる。本発明のMHCクラス1分子を認識できるようになったNK細胞の傷害細胞毒性をTDCC(TCR-IgFc dependent cellular cytotoxicity:T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)と呼ぶ(図6)。

【0076】
なお、患者の生体内に元々存在するNK細胞は、難治性のがんや末期がん等MHCクラス1分子を発現しないがん細胞を認識する。従って、NK細胞はT細胞受容体キメラタンパク質を介してTDCC(TCR-IgFc dependent cellular cytotoxicity:T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)活性により、MHCクラス1タンパク質を発現するがん細胞を殺傷するとともに、単独でMHCクラス1タンパク質を発現しないがん細胞を殺傷することができる(図7)。

【0077】
本発明は、T細胞受容体キメラタンパク質を用いてNK細胞のがん細胞傷害活性機能又は感染細胞傷害活性機能を増強する方法であり、T細胞受容体キメラタンパク質を有効成分として含むNK細胞のがん細胞傷害活性機能増強剤又は感染細胞傷害活性機能増強剤として用い得る医薬組成物である。該医薬組成物は、がん治療又は感染症治療に用いることができる。

【0078】
さらに、T細胞受容体キメラタンパク質は、がんの転移も抑制するので、がん転移抑制剤としても利用することができる。

【0079】
本発明の医薬組成物の剤型は限定されず、用法に応じ種々の剤型のものが使用される。例えば、経口剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等が挙げられる。また、非経口剤としては、注射剤、吸入粉末剤、吸入液剤、点眼剤、液剤、ローション剤、スプレー剤、点鼻剤、点滴剤、軟膏剤、坐剤、貼付剤等を挙げることができる。本発明の医薬組成物は、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により調製することができる。例えば、医薬品添加物としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物が挙げられる。前記医薬品添加物には、生理食塩水、注射用水等も含まれる。

【0080】
本発明の医薬組成物は、用法に応じ種々の投与方法が用いられる。例えば、経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、局所投与等が挙げられる。

【0081】
本発明の医薬組成物をがん治療又は感染症治療に用いる場合、その有効成分である本発明のタンパク質の投与量は、患者の年齢、性別、体重、疾患の程度、剤型、投与経路等により、適宜決定される。例えば、成人に対して経口投与により投与する場合、0.1μg/kg ~1000mg/kg/日の範囲で定めればよい。1日投与量を、1回、2回又は3回に分けて投与してもよい。また、成人に対して非経口投与で投与する場合、0.01μg/kg ~1000mg/kg/日範囲で定めることもできる。非経口投与の1日投与量は、剤型に応じて、好ましくは0.1μg/kg ~10μg/kg/日、1μg/kg ~100μg/kg/日、又は10μg/kg ~1000μg/kg/日の範囲とすればよい。

【0082】
上記の(a)の方法では、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質を生体に投与することにより、特定の標的細胞の表面におけるMHCクラス1タンパク質の発現が低下し、そのため患者の生体に元々存在するNK細胞が標的細胞を攻撃し、死滅させることができる。

【0083】
上記の(b)の方法では、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質を生体に投与し、生体が本来有しているNK細胞の機能を増強するが、がん患者又は感染症患者からNK細胞を採取し、NK細胞を数週間培養し増殖させ、必要に応じ凍結し、その後、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質と一緒に前記がん患者又は感染症患者に投与してもよい。投与は同時でもよいし、先にNK細胞を投与しその後T細胞受容体キメラタンパク質を投与してもよいし、先にT細胞受容体キメラタンパク質を投与し、その後NK細胞を投与してもよい。この場合、本発明はNK細胞とT細胞受容体キメラタンパク質を組合せて投与することになり、本発明はNK細胞とT細胞受容体を組合せた医薬組成物又はキットも含む。

【0084】
また、in vitroで、がん患者又は感染症患者から採取し培養したNK細胞とT細胞受容体キメラタンパク質を接触させ、NK細胞とT細胞受容体キメラタンパク質の複合体を作製し、該複合体をがん治療又は感染症治療に用いることもできる。本発明は、T細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の受容体の複合体を含み、さらに、in vitroでT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞を接触させることによりT細胞受容体キメラタンパク質とNK細胞の複合体を作製する方法を包含する。該複合体は、細胞試薬として投与することができる。さらに、がん患者又は感染症患者からNK細胞を採取し、NK細胞にT細胞受容体キメラタンパク質をコードするDNAを導入し、発現させてもよい。その後、NK細胞を数週間培養し増殖させ、必要に応じ凍結し、がん患者又は感染症患者に投与すればよい。がん患者又は感染症患者へのTDCC(TCR-IgFc dependent cellular cytotoxicity:T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害)を有するNK細胞の投与は、例えば、点滴静注により行えばよい。投与されたNK細胞はT細胞受容体キメラタンパク質を発現し、T細胞受容体キメラタンパク質を介して、TDCCにより、MHCクラス1タンパク質を発現するがん細胞又は感染細胞を殺傷する。

【0085】
(3)がん細胞又は感染細胞の検出
さらに、本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、がん細胞のMHCクラス1分子とがん特異的抗原の複合体あるいは感染細胞のMHCクラス1分子と病原体特異的抗原に結合するため、がん細胞や感染細胞の検出に利用することができ、がん細胞を検出することによりがんの検出を行うことができる。また、感染症の原因となる細菌やウイルス等の病原体が感染した感染細胞を検出することにより感染症の検出を行うことができる。

【0086】
T細胞受容体キメラタンパク質をがん細胞又は感染細胞の検出に用いる場合、T細胞受容体キメラタンパク質を蛍光色素、消光色素、蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ(ALP)や西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素等で標識して用いればよい。標識物質による標識は、公知のタンパク質の標識方法で行うことができ、ビオチン-アビジン(ストレプトアビジン)系を利用して標識してもよい。

【0087】
検出は、FACSやフローサイトメーターを用いて行うこともできるし、免疫細胞化学の手法により行うこともできる。フローサイトメーターとしては、例えば、FACSCanto II(ベクトン・ディッキンソン社製)等を用いればよい。免疫細胞化学の手法による測定は、採取したがん細胞又は感染細胞をスライドガラス上に固定して行えばよい。免疫細胞化学において、染色は顕微鏡や肉眼で判断することもできるし、適当な光学的測定装置を用いてもよい。

【0088】
被験体の血液や組織等の生体試料から細胞を採取し、T細胞受容体キメラタンパク質と接触させ、T細胞受容体キメラタンパク質に結合する細胞が存在した場合、該細胞はがん細胞又は感染細胞であると判定され、前記被験体中にがん細胞又は感染細胞が存在すると判定される。被験体中にがん細胞が検出されたとき、被験体はがんに罹患していると判断することができる。また、被験体中に感染細胞が検出されたとき、被験体は感染症に罹患していると判断することができる。T細胞受容体キメラタンパク質を用いた検出により、がん診断又は感染症診断のための補助的データを得ることができる。

【0089】
本発明は、T細胞受容体キメラタンパク質を含むがん検出用試薬又は感染症検出用試薬を含み、該T細胞受容体キメラタンパク質は好ましくは標識されている。

【0090】
がんに罹患していると判断した患者に対しては、本発明のNK細胞機能増強剤を用いて免疫療法により治療すればよい。また、外科治療法、放射線治療法、化学療法により治療することもできる。感染症に罹患していると判断した患者に対しては、本発明のNK細胞機能増強剤を用いて免疫療法により治療すればよい。また、抗菌剤や抗ウイルス剤を投与して治療することもできる。
【実施例】
【0091】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0092】
がん細胞を認識するT細胞受容体を特定するために、マウス腫瘍細胞として、MHC class Iを発現し、OVA(卵白アルブミン)遺伝子導入腫瘍細胞E.G7を用いた。E.G7-OVAはC57BL/6 (H-2b)マウスリンパ腫細胞株であるEL4(ATCC TIB-39)由来である。EL4細胞をエレクトロポレーションにより、ニワトリオボアルブミンmRNAの完全なコピーとネオマイシン(G418)耐性遺伝子を保持しているプラスミドpAc-neo-OVAでトランスフェクトした(Moore MW. et al., Cell 54: 777-785, 1988)。
【実施例】
【0093】
1.フローサイトメトリーによるCD8+T細胞上のPD-1の発現解析
1)E.G7細胞上のPD-L1の発現解析
マウスリンフォーマ細胞であるE.G7細胞上のPD-L1の発現を確認した。E.G7細胞に、抗PD-L1蛍光標識抗体(クローン名10F.9G2)を0.25μgを加え、4℃、30分間染色し、その後、PBSにて細胞を2回洗った。このサンプルを用いて、フローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリー解析はFACSCanto II (Becton Dickinson社製)にて行った。図8に結果を示す。図の数値は、Mean Fluorescence Intensity 値(MFI)を示す。E.G7細胞上にPD-L1が発現していることが確認できた。
【実施例】
【0094】
2)CD8+T細胞上のPD-1の発現解析
C57BL/6マウスに、E.G7細胞を5×106個、足蹠に移植した。0、10日後、15日後の脾臓中のリンパ球を採取した(p18)。蛍光標識抗体を用いて、PD-1の発現を検討した。1×106個のリンパ球に対し、市販の蛍光標識抗体を0.25μgを加え、4℃、30分間染色し、その後、PBSにて細胞を2回洗った。また、死細胞を標識するため、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、解析サンプルとした。このサンプルを用いて、フローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリー解析はFACSCanto II (Becton Dickinson社製)にて行った。
【実施例】
【0095】
用いた蛍光標識抗体は、以下である。
抗PD-1抗体(クローン名RMP1-14)
抗CD8抗体(クローン名53-6.7)
【実施例】
【0096】
結果を図9に示す。図9には、ナイーブ(Naive)マウスとE.G7投与マウスの結果を示す。CD8+T細胞においてPD-1の発現が増加した。図10にMHCクラス1分子とOVA由来ペプチドを発現したE.G7細胞の模式図を示す。
【実施例】
【0097】
2.TCRレパートリー解析
C57BL/6マウスから、脾臓中のリンパ球を採取した。これをナイーブマウスサンプルとした。C57BL/6マウスに、E.G7細胞を5x106個、足蹠に移植した。10日後、15日後の脾臓中のリンパ球を採取した。マウスは2匹ずつ用いた。
【実施例】
【0098】
上記サンプルから通法にて、total RNAを抽出、cDNA libraryを作成した。「遺伝子特異的非バイアス増幅法」を用いて、アダプターを付与しPCRを行ってTCR鎖の遺伝子増幅を行い、これを解析サンプルとした。
【実施例】
【0099】
遺伝子非バイアス増幅法とは、cDNA libraryにアダプターを付与した後、2重鎖アダプターのアンチセンス鎖(あるいはセンス鎖)を酵素にて消化する。残ったアダプター部分の塩基配列を基にしたプライマー及びTCR特異的プライマーを用いて、アダプターライゲーションPCR法を行うことで非特異的なプライマー結合を抑制し、遺伝子特異的な増幅が可能となる。
【実施例】
【0100】
具体的には以下の方法で行う。
(i) 2本鎖cDNAの両端に以下の[1]~[3]のいずれかの2本鎖アダプターDNAをライゲーションする工程;
(ii) 2本鎖アダプターDNAをライゲーションした遺伝子をウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)で処理し、さらに加熱処理することによりアダプターDNAのアンチセンス鎖を分解する工程;
(iii) 2本鎖アダプターDNAのアンチセンス鎖の一部又は全部の配列からなるフォワードプライマー及び標的遺伝子に特異的にアニーリングするリバースプライマーを用いてPCR増幅を行う工程。
【実施例】
【0101】
この方法では、フォワードプライマーのみによる伸長反応は起こらず、リバースプライマーによる伸長反応が起こり、アダプターのセンス鎖の相補鎖が形成された後に、該相補鎖にフォワードプライマーがアニーリングし伸長反応が起こり、リバースプライマーによる伸長及びフォワードプライマーによる伸長がこの順序で一方向に起こることにより、標的遺伝子を一方向にバイアスをかけずにPCR法により増幅させることができる。
【実施例】
【0102】
[1] 以下の特徴を有する非バイアス遺伝子増幅に用いる2本鎖アダプターDNA:
(a) センス鎖とアンチセンス鎖がアニーリングしており、センス鎖とアンチセンス鎖の塩基長は同じであるか、又はセンス鎖が長い;
(b) センス鎖の塩基長は15~40bpである;
(c) アンチセンス鎖に複数のウラシルを含み、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)でアダプターを処理することにより、ウラシルが除去され、その後加熱処理することによりアンチセンス鎖が分解される;
(d) アダプターDNAの少なくとも1端は平滑末端の形態を有する;
(e) 一方の末端で増幅しようとする標的遺伝子に結合する;及び
(f) センス鎖の一部又は全部が遺伝子増幅に用いるフォワードプライマーの配列である。
【実施例】
【0103】
[2] アンチセンス鎖に含まれるウラシルの数がアンチセンス鎖の塩基数の10~25%であり、5~10塩基ごとにウラシルが存在する、[1]記載の2本鎖アダプターDNA。
【実施例】
【0104】
[3] アンチセンス鎖の5'末端にリン酸基が結合しており、3'末端にアミノ基が結合している、[1]又は[2]の2本鎖アダプターDNA。
【実施例】
【0105】
次世代シークエンサーは、Roche454GS Juniorを用い、メーカーのプロトコールに従って、サンプルを解析した。実験方法を図11に示す。
【実施例】
【0106】
α鎖ナイーブ、E.G7接種10日後、E.G7接種15日後の結果が得られた。β鎖も同様に解析を行った。α鎖の解析の結果を図12~14に示す。図12はα鎖ナイーブマウスの結果を、図13はE.G7接種10日後の結果を、図14はE.G7接種15日後の結果を示す。図中A及びBは用いた2匹のそれぞれのマウスの結果を示す。また、β鎖の解析の結果を図15~17に示す。図15はβ鎖ナイーブマウスの結果を、図16はE.G7接種10日後の結果を、図17はE.G7接種15日後の結果を示す。図中A及びBは用いた2匹のそれぞれのマウスの結果を示す。図12~17には、それぞれのTCRのCDR3のアミノ酸配列(配列番号2~31)を示す。
【実施例】
【0107】
その結果、α鎖について、E.G7に反応するTCRは、
V領域:TRAV8-1-01 J領域:TRAJ42-01 CDR3(アミノ酸配列):ATLYSGGSNAKLT(配列番号1)となった。
【実施例】
【0108】
3.T細胞受容体キメラタンパク質の作製(mTRAV8-CDR3-IgFc)
1)T細胞受容体の遺伝子クローニングと発現プラスミド構築
V領域:TRAV8-1-01 J領域:TRAJ42-01 CDR3(アミノ酸配列):ATLYSGGSNAKLTのT細胞受容体を、E.G7移植15日後の脾臓サンプルcDNA libraryから、以下のPCRプライマーを用いてTCRα鎖のL領域からC領域の一部まで含む領域をクローニングした(del Cと命名)。
Primer配列:
TO1002(V領域sense鎖、EcoRI siteを付与):CGG AAT TCA TGC ACA GCC TCC TGG GGT TG(配列番号32)
TO1005(C領域を一部含むAntisense鎖、Bgl II siteを付与):GAA GAT CTA GGT TCT GGG TTC TGG ATG TTT G(配列番号33)
【実施例】
【0109】
市販のpFUSE-mIgG2A-Fcプラスミド(invivogen社)のEco RI、Bgl II部位に、del C cDNAを挿入して、T細胞受容体キメラタンパク質プラスミドを構築した(TP58と命名)。
【実施例】
【0110】
図5にT細胞受容体キメラタンパク質の作製法の概要を示す。
【実施例】
【0111】
2)T細胞受容体キメラタンパク質(TCR-IgFc fusion protein)の産生及び精製
TP58プラスミドをHEK293細胞に遺伝子導入した後、ultralow IgG-FCS(その後の精製過程でウシIgGが混入することを避けるため)存在培地中で、4日培養した。培養上清を回収し、Hi Trap protein Gカラム(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いてメーカーのプロトコールに従って、精製を行った。
【実施例】
【0112】
この新型T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)は、TCR V領域とCDR3とJ領域とC領域の一部を、IgFc部分と結合させたキメラタンパク質である。
【実施例】
【0113】
3)従来型のT細胞受容体キメラタンパク質の作製
T細胞受容体キメラタンパク質は、先行研究により作成されているが、従来型のT細胞受容体キメラタンパク質は、TCR V領域をIgFc部分と結合させたキメラタンパク質である。そこで、上記、V領域:TRAV8-1-01をpFUSE-mIgG2A-Fcプラスミドに結合して従来型のT細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-IgFc)を構築した。
【実施例】
【0114】
4.T細胞受容体キメラタンパク質のがん細胞への結合
E.G7に反応するT細胞受容体をもとにした新規T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc fusion protein)を作製したので、そのタンパク質を市販のビオチン化キット(Dojindo biotin labeling kit; 和光純薬株式会社)を用いてビオチン化した。
【実施例】
【0115】
E.G7細胞にビオチン化T細胞受容体キメラタンパク質0.5μgを加え、4℃、60分間結合させた後、PBSにて細胞を2回洗った。その後、Streptavidin-PE (ebioscience社)を加え4℃、30分間染色し、PBSにて細胞を2回洗った。また、死細胞を標識するため、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、解析サンプルとした。このサンプルを用いて、フローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリー解析はFACSCanto II (Becton Dickinson社製)にて行った。比較対照群として、E.G7細胞に、Streptavidin-PE (ebioscience社)を加え4℃、30分間染色し、PBSにて細胞を2回洗ったサンプルをおいた。さらに、E.G7細胞の親株であるEL4細胞を用いて、T細胞受容体キメラタンパク質の結合を同様の方法で染色して、フローサイトメトリー解析を行った。結果を図18に示す。図の数値は、MFIを示している。T細胞受容体キメラタンパク質はE.G7(図18A)、EL4(図18B)ともに結合することが判明した。比較対象群として、C57BL/6マウス脾臓細胞を同様の方法で染色して、フローサイトメトリー解析を行ったが、T細胞受容体キメラタンパク質の脾臓細胞への結合は見られなかった(図18C)。したがって、T細胞受容体キメラタンパク質はがん細胞へ特異的に結合することが判明した。図19にT細胞受容体キメラタンパク質ががん細胞へ結合する模式図を示す。この結果は、新規T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc fusion protein)は、がん特異的かつ共通MHC複合体を認識することを示している。
【実施例】
【0116】
5.従来型のT細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-IgFc)と、新規T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)との結合性の比較
E.G7細胞にビオチン化T細胞受容体キメラタンパク質(従来型又は新規)0.5μgをそれぞれ加え、4℃、60分間結合させた後、PBSにて細胞を2回洗った。その後、Streptavidin-PE (ebioscience社)を加え4℃、30分間染色し、PBSにて細胞を2回洗った。また、死細胞を標識するため、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、解析サンプルとした。このサンプルを用いて、フローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリー解析はFACSCanto II (Becton Dickinson社製)にて行った。比較対照群として、E.G7細胞に、Streptavidin-PE (ebioscience社)を加え4℃、30分間染色し、PBSにて細胞を2回洗ったサンプルをおいた。結果を図20に示す。図の数値は、MFIを示している。図20Aは新型T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)の結果を示し、図20Bは従来型T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-IgFc)の結果を示す。新規T細胞受容体キメラタンパク質は、CDR3領域を持つことで抗原ペプチドを特異的に認識し、従来型と比較して約1.5倍の効率でがん細胞へ結合した。
【実施例】
【0117】
6.T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)によるMHC複合体の検出
E.G7細胞に、抗MHCクラス1抗体(H-2KbDb; Biolegend社)を0.25μg加える群、加えない群を用意して4℃、30分間結合させた後、PBSにて細胞を2回洗った。新規ビオチン化T細胞受容体キメラタンパク質0.5μgをそれぞれ加え、4℃、60分間結合させた後、PBSにて細胞を2回洗った。その後、Streptavidin-PE (ebioscience社)を加え4℃、30分間染色し、PBSにて細胞を2回洗った。また、死細胞を標識するため、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、解析サンプルとした。このサンプルを用いて、フローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリー解析はFACSCanto II (Becton Dickinson社製)にて行った。結果を図21に示す。図の数値は、MFIを示している。図21Aは、抗MHCクラス1抗体を加えなかった群の結果を、図21Bは加えた群の結果を示す。T細胞受容体キメラタンパク質は、抗MHCクラス1抗体により結合を阻害されたことから、T細胞受容体キメラタンパク質はMHC複合体と結合していることが明らかとなった。グラフの上に結合様式を示す。
【実施例】
【0118】
7.T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)の細胞内在化
E.G7 2x105個に対してビオチン化mTRAV8-CDR3-IgFc (0.5μg)を、4℃1時間培養した。細胞をPBSで2回洗浄して、MHC複合体に結合していないmTRAV8-CDR3-IgFcを除去した。次に、ストレプトアビジン-FITCを添加し4℃、30分間染色を行った。細胞をPBSで2回洗浄した後、経時的に蛍光顕微鏡によりmTRAV8-CDR3-IgFcの局在を観察した(図22)。洗浄直後(0hr)では、細胞膜のみが染色されているのが認められたが、6時間後には細胞内部が染色されている(図 矢印)ことが認められた。MHC複合体と結合したT細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)は、6時間後には、細胞内に取り込まれることが明らかとなった。
【実施例】
【0119】
8.T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)によるMHC 複合体の発現低下
E.G7 1x105個に対して、mTRAV8-CDR3-IgFcを(0, 1, 5μg)存在下で6時間培養した。その後、抗H-2KbDb抗体(Biolegend社)で染色し、フローサイトメトリーで測定した。グラフはmTRAV8-CDR3-IgFc 0μgに対するMean Fluorescence intensity 値(MFI)の差dMFIで示している(図23)。T細胞受容体キメラタンパク質と結合して6時間後には、MHC 複合体の発現低下がみられることが判明した。
【実施例】
【0120】
9.ヒトT細胞受容体キメラタンパク質(hTRAV21-CDR3-IgFc)の細胞内在化およびヒトT細胞受容体キメラタンパク質によるMHC 複合体の発現低下
子宮頸がんヒト培養細胞株であるHela細胞2x105個に対してビオチン化hTRAV21-CDR3-IgFc (0.5μg)を、4℃、1時間培養した。細胞をPBSで2回洗浄して、MHC複合体に結合していないhTRAV21-CDR3-IgFcを除去した。次に、ストレプトアビジン-FITCを添加し4℃、30分間染色を行った。細胞をPBSで2回洗浄した後、経時的に蛍光顕微鏡によりhTRAV21-CDR3-IgFcの局在を観察した(図24A)。洗浄直後(0hr)では、細胞膜部分が染色されているのが認められたが(矢印)、6時間後には細胞内部が染色されていることが認められた(矢印)。MHC複合体と結合したT細胞受容体キメラタンパク質(hTRAV21-CDR3-IgFc)は、6時間後には、細胞内に取り込まれることが明らかとなった。ここで用いたhTRAV21-CDR3は、実施例17、18により特定した、子宮頸がんに共通するTCRであるhTRAV21-CDR3を用いて実施した。
【実施例】
【0121】
Hela細胞(2x105個)に0.5μgのhTRAV21-CDR3-IgFcを添加し、1時間静置した後に洗浄した。その後、5%FCS/DMEMに置換し、96-well plate上で6時間培養した。トリプシン処理して細胞を剥がした後に抗HLA-A抗体(Biolegend社)で染色し、フローサイトメトリーにて解析した(図24B)。T細胞受容体キメラタンパク質と結合して6時間後には、ヒト細胞においてもMHC 複合体の発現低下がみられることが判明した。
【実施例】
【0122】
10.T細胞受容体キメラタンパク質による細胞内在化を利用した標的細胞の増殖抑制
E.G7 1x105個をCFSEにより蛍光標識し、マウスT細胞1x105個と混合する。これらの細胞にmTRAV8-CDR3-IgFc (0.5μg)を、4℃1時間培養した後2回PBSで洗浄した。抗マウスIgG磁性体抗体(BioMag(登録商標) anti-mouse IgG; Qiagen社)を添加し4℃、30分間培養し、2回PBSで洗浄した。37℃で0時間、あるいは16時間培養した後、MRI(Bruker社 7T-MRI)にて磁場を加えた(3テスラ、30分)。比較対照として、mTRAV8-CDR3-IgFc を加えない群をおいて、24時間後、これらサンプルをフローサイトメトリーにて解析した(図25)。mTRAV8-CDR3-IgFc を加えない群、mTRAV8-CDR3-IgFcを加え37℃で0時間培養した群においては、CFSEの蛍光が減少した分画(CSFE low)が観察され、E.G7の分裂増殖が認められた。それに対し、mTRAV8-CDR3-IgFcを加え37℃で16時間培養した群は、E.G7の増殖は認められなかった(図25A、B)。また、マウスT細胞については、全ての群において検出できたことから、磁場による正常細胞に対する悪影響は認められなかった(図25C)。E.G7とマウスT細胞の存在比を検討したところ、mTRAV8-CDR3-IgFcを加え37℃で16時間培養した群は、他群と比較してE.G7の比率が低下しており(図25D)、がん特異的に細胞が傷害をうけたものと考えられた。これらの結果は、磁場によるハイパーサーミア効果と考えられ、これは細胞内に磁性体が取り込まれることが効果的であること、T細胞受容体キメラタンパク質は、正常細胞に影響を与えずに標的細胞特異的に傷害できる薬剤として有効であることが明らかとなった。
【実施例】
【0123】
11.T細胞受容体キメラタンパク質によるNK細胞の機能増強
E.G7 1x 104個にmTRAV8-J42-IgFcを1, 10μg/ml添加し、37℃で16時間培養した(MHC クラスI分子の細胞内取り込みによる消失効果)。この細胞を標的細胞として、予めC57BL/6マウス脾臓から単離・IL-2 (500 U/ml)存在下で培養したNK細胞を添加し、共培養した(NK細胞: EG7の割合 = 1 : 1, 10: 1)。4時間後に死細胞をPropidium Iodideで染色し、フローサイトメトリー解析により細胞死が誘導されたE.G7を計数した(図26)。T細胞受容体キメラタンパク質による標的細胞のMHC発現低下、及び下記TCR-Ig fusion protein dependent cellular cytotoxicity; TDCC効果による細胞傷害活性が認められた。
【実施例】
【0124】
12.T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害(TCR-Ig fusion protein dependent cellular cytotoxicity; TDCC)機構
マウス脾臓リンパ球よりNK細胞を単離した。IL-2 (500 U/ml)存在下で7日間培養し、NK細胞を増殖させ、この細胞をeffector細胞として用いた。
【実施例】
【0125】
E.G7細胞 5×104個に1μg/mlのmTRAV8-CDR3-IgFcを添加し、37℃、30分培養後、PBSにて細胞を2回洗った。対象群には、E.G7細胞 5×104個に1μg/mlのマウスIgGを添加し、37℃、30分培養後、PBSにて細胞を2回洗ったものをおいた。これらTarget細胞に、effector細胞を、20:1(Effector:Target)の割合で加え、37℃、4時間、共培養した。共培養後、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、E.G7細胞分画におけるPI陽性細胞を、フローサイトメトリーにて解析した。PI陽性細胞を死細胞としてその%を評価した。結果を図27に示す。図27に示すように、NK細胞はMHCクラス1分子を発現しているがん細胞をそのままでは殺すことはできなかったが、T細胞受容体キメラタンパク質と4時間共培養することにより8%のがん細胞を殺すことができた。
【実施例】
【0126】
13.T細胞受容体キメラタンパク質依存性細胞傷害における従来型(mTRAV8-IgFc)と新規T細胞受容体キメラタンパク質(mTRAV8-CDR3-IgFc)の比較
マウス脾臓リンパ球よりNK細胞を単離した。IL-2 (500 U/ml)存在下で7日間培養し、NK細胞を増殖させ、この細胞をeffector細胞として用いた。E.G7細胞 5×104個に1μg/mlのmTRAV8-CDR3-IgFc、又はmTRAV8-IgFcを添加し、37℃、30分培養後、PBSにて細胞を2回洗った。対象群には、E.G7細胞 5×104個に1μg/mlのマウスIgGを添加し、37℃、30分培養後、PBSにて細胞を2回洗ったものをおいた。これらTarget細胞に、effector細胞を、20:1(Effector:Target)の割合で加え、37℃、4時間、共培養した。共培養後、PI(Propidium Iodide)を用いて染色し、E.G7細胞分画におけるPI陽性細胞を、フローサイトメトリーにて解析した。PI陽性細胞を死細胞としてその%を評価した(図28)。従来型のT細胞受容体キメラタンパク質を用いたTDCC効果の比較においても、CDR3領域部分が有効であり、新規T細胞受容体キメラタンパク質の効率が良いことが判明した。
【実施例】
【0127】
14.ヒトT細胞受容体キメラタンパク質によるNK細胞の機能増強
Hela細胞 1x 104個にhTRAV21-CDR3-IgFcを0, 2.5μg/ml添加し、37℃で2時間培養して(MHC クラスI分子の細胞内取り込みによる消失効果)、この細胞を標的細胞とした。ヒトNK細胞培養株NK92を添加し、3時間共培養した(NK細胞:がん細胞の割合 = 1 : 1, 5:1,10: 1)。細胞傷害活性をCytotoxicity assay kit (Promega社)を用いて評価した(図29)。T細胞受容体キメラタンパク質による標的細胞のMHC発現低下、及びTCR-Ig fusion protein dependent cellular cytotoxicity; TDCC効果による細胞傷害活性がヒトの実験系においても認められた。
【実施例】
【0128】
15.T細胞受容体キメラタンパク質によるがんの転移抑制
がん細胞E.G7をCFSEで蛍光標識して、mTRAV8-CDR3-IgFc 10μg/mlを添加し同時投与した群、及び未処理群を用意した。これらがん細胞1x106をC57BL/6マウス尾静脈から接種し、24時間後に脾臓に転移したE.G7細胞数を計測した。脾臓細胞3x105個中のE.G7細胞数を示す(図30)。図30に示すように、T細胞受容体キメラタンパク質により、がん転移抑制効果が認められた。
【実施例】
【0129】
16.疾患に対する共通TCRの特定方法
疾患における共通TCRの特定法を開発して。方法は、解析1(腫瘍組織と末梢血の比較(同一検体))による方法と解析2による方法(健常人末梢血との比較)がある。図31に、解析1と解析2のプロトコールを示す。
【実施例】
【0130】
解析1として、疾患周囲組織、例えば、がん周囲組織、と末梢血のTCR頻度を比較する。まず、各検体につき疾患組織と末梢血のTCR頻度を算出する。疾患組織のTCR頻度と末梢血のTCR頻度を比較して(疾患組織のTCR頻度/末梢血のTCR頻度)、比が2倍以上の差が見られたものをTCRのV領域で並べる(個別ペア解析)。疾患周囲組織でTCR頻度が極端に少ないもの、例えば1%未満のもの、を除外する。個別ペア解析において、比が大きいTCRの中で上位5-10程度を抽出する。
【実施例】
【0131】
解析2として、疾患組織でのTCR頻度についてそれぞれの検体の頻度を合算、平均を求めた後、頻度順に並べ上位10程度を抽出する(合算シングル解析)。健常人末梢血のTCR頻度を頻度順にならべ上位10程度の頻度を抽出する。V領域に着目して、疾患組織で抽出したTCRの中で健常人末梢血から抽出したものと重複するものを除外し、これを解析2による特定TCRとする。
【実施例】
【0132】
解析1と解析2で選ばれたTCRのV領域を合算してこれを共通TCRとする。その中でも、解析1と解析2で重複する共通TCRは、特に重要なTCRとする。
【実施例】
【0133】
17.子宮頸がんに共通するTCRの特定
子宮頸がんの患者15名より、疾患部位周囲組織5mm角の組織をサンプルとして採取した。また、同一患者の末梢血10mlを採取し、比重遠心法により単核球を単離してサンプルとして用いた。
【実施例】
【0134】
上記サンプルから通法にて、total RNAを抽出、cDNA libraryを作成した。「遺伝子特異的非バイアス増幅法」を用いて、アダプターを付与しPCRを行ってTCRの遺伝子増幅を行い、これを解析サンプルとした。次世代シークエンサーは、Roche454GS Junior又はillumina Miseqを用い、メーカーのプロトコールに従って、サンプルを解析した。
【実施例】
【0135】
疾患に対する共通TCRの特定方法を用いて、共通TCRを特定した。図32に結果を示す。解析1におけるトップ7のTCRは、TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03及びTRAV39-01であった。また、解析2におけるトップ7のTCRは、TRAV2-01、TRAV21-02、TRAV21-01、TRAV22-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01、TRAV38-2/DV8-01であった。このうち、TRAV21-02及びTRAV22-01は解析1と解析2で共通であった。結局、解析1と解析2の2つの解析法により、TRAV1-1-01、TRAV1-1-02、TRAV21-02、TRAV22-01、TRAV1-2-01、TRAV12-2-03、TRAV39-01、TRAV2-01、TRAV21-01、TRAV12-1-01、TRAV1-2-01、TRAV38-2/DV8-01の12個のT細胞受容体α鎖可変領域を有する、ターゲットとなるTCRが決定された。
【実施例】
【0136】
がん特異的TCRが存在する場合、TCRのレパートリーは均一にならずに偏りが生じることが知られている。特定した12個のTCRの頻度理論値は、合算して10.2%(12/117)である。それにもかかわらず、上記12個のTCRが子宮頸がん患者サンプルで理論値に比べ頻度が高いことから、TCRのレパートリーに偏りがあるという結果になった。実際、12個のTCRの合算頻度は、15検体中13検体で35%以上、12検体で40%以上、6検体で50%以上となり、理論値である10.2%より大幅に高かった。この結果は、上記の12個のTCRが子宮頸がんに特異的なTCRであることを示している。さらに、12個のTCRの合算頻度が35%以上と理論値に比べ頻度に偏りがあるものは15検体中13検体となっており(13/15=0.86)、上記の12個のTCRは子宮頸がん患者の80%以上に共通するがん特異的TCRであることを意味している。
【実施例】
【0137】
18.子宮頸がんに共通するCDR3の特定
疾患に対する共通TCRの特定方法にて抽出したV領域について各がん患者組織のCDR3出現頻度上位5つを抽出した。各V領域について全てのがん患者組織のCDR3出現頻度順に並べた。図33-1に示すように、32パターンに集約された。図に示すように、高いコンセンサス配列(high consensus sequence)と部分的なコンセンサス配列(partial consensus sequence)が存在した。この中から、上位10個のCDR3パターンを抽出した。抽出したCDR3にはアミノ酸配列AVRを含む配列が有意に多かった。そのためAVRを含む配列32パターンにおいてアラインメントを行い、さらなる共通配列を導き出し(AVR---(x=1~6)--G-(x=1~3)--KL(I)/(T))で表されるコンセンサスフレームを子宮頸がん特異的CDR3として特定した。17.で特定したがん患者で出現頻度の特に高いV領域では、調査した15検体中12検体がこの特異的CDR3を示していた(図33-2)。
【実施例】
【0138】
19.T細胞受容体キメラタンパク質を用いた感染細胞の検出
子宮頸がんの検体A、B、および未知の検体Cについて、HPV感染の有無を確認した。検体からDNAを抽出し、HPV typing kit (Takara)により、HPVの検出を行った。図34に示すように、検体A、B、Cとも、HPV遺伝子が検出され、悪性型であるHPV16の感染であることが明らかとなった。さらに、検体A、BはHPV感染が認められ、かつTCRの頻度はTRAV21が高かったことから、17.18.で決定したTRAV21-02かつ共通CDR3を含むT細胞受容体キメラタンパク質(TRAV21-CDR3-IgFc)を用いて、HPV感染患者サンプル(検体C)の感染細胞の検出を試みた。凍結包埋したHPV感染子宮頸部組織をクリオスタットにより10μm厚に薄切し、通法によりアセトン固定した。正常ヤギ血清でブロッキングを行った後に、hTRAV21-CDR3-IgFc (1μg)を添加し、4℃で16時間培養した。洗浄後、ビオチン化抗マウスIgG抗体に続いてストレプトアビジン-APC及び核染色のためにDAPIを添加し、蛍光顕微鏡により観察した。結果を、図35に示す。図35A、BはDAPI染色像を、図35Cは、対照となるIg染色像(control Ig: cIg)を、図35Dは、hTRAV21-CDR3-IgFcによる蛍光染色像を示す。T細胞受容体キメラタンパク質(TRAV21-CDR3-IgFc)により、HPV感染細胞を検出することができた(図35D)。T細胞受容体キメラタンパク質は、感染細胞の検出にも利用可能であることが示された。
【実施例】
【0139】
また、後日検体Cは、子宮頸がんであることも判明し、17.18.で決定したTRAV21-CDR3は、T細胞受容体タンパク質としてがんと結合することから、子宮頸がん特異的TCRであることも実証された。
【実施例】
【0140】
20.肺がんに共通するTCRの特定
肺がんの患者13名より、疾患部位周囲組織5mm角の組織をサンプルとして採取した。また、同一患者の末梢血10mlを採取し、比重遠心法により単核球を単離してサンプルとして用いた。
【実施例】
【0141】
上記サンプルから通法にて、total RNAを抽出、cDNA libraryを作成した。「遺伝子特異的非バイアス増幅法」を用いて、アダプターを付与しPCRを行ってTCR鎖の遺伝子増幅を行い、これを解析サンプルとした。次世代シークエンサーは、illumina Miseqを用い、メーカーのプロトコールに従って、サンプルを解析した。
【実施例】
【0142】
疾患に対する共通TCRの特定方法を用いて、共通TCRを特定した。結果を図36に示す。解析1におけるトップ5のTCRは、TRAV12-1-01、16-01、19-01、22-01及び35-02であった。また、解析2におけるトップ4のTCRは、TRAV19-01、17-01、9-2-02及び13-1-01であった。このうち、TRAV19-01は解析1と解析2で共通であった。結局、解析1と解析2の2つの解析法により、TRAV12-1-01、16-01、19-01、22-01、35-02、17-01、9-2-02及び13-1-01、の計8個のT細胞受容体α鎖可変領域を有する、ターゲットとなるTCRが決定された。
【実施例】
【0143】
がん特異的TCRが存在する場合、TCRのレパートリーは均一にならずに偏りが生じることが知られている。特定した8個のTCRの頻度理論値は、6.8%(8/117)である。それに対して、実際には、13検体中12検体で頻度が20%以上、9検体で25%以上、7検体で30%以上となり、理論値より合算頻度が大幅に高くTCRに偏りがみられた。この結果は、上記の8個のTCRが肺がんに特異的なTCRであることを示している。さらに、8個のTCRの合算頻度が20%以上と理論値に比べ頻度に偏りがあるものは13検体中12検体となっており(12/13=0.92)、上記の8個のTCRは肺がん患者の90%以上に共通するがん特異的TCRであることを意味している。
【実施例】
【0144】
21.T細胞受容体キメラタンパク質を用いたがん細胞の検出
20.で特定したTCRの中でTRAV19-CDR3, TRAV35-CDR3を用いて、T細胞受容体キメラタンパク質を作成した(TRAV19-CDR3-IgFc、TRAV35-CDR3-IgFc)。肺がんの検体Aについて、T細胞受容体キメラタンパク質を用いて、肺がん患者サンプルのがん細胞の検出を試みた。
【実施例】
【0145】
凍結包埋した肺疾患組織をクリオスタットにより10μm厚に薄切し、通法によりアセトン固定した。正常ヤギ血清でブロッキングを行った後に、TRAV19-CDR3-IgFc、またはTRAV35-CDR3-IgFc (1μg)を添加し、4℃で16時間培養した。洗浄後、ビオチン化抗マウスIgG抗体に続いてストレプトアビジン-APC及び核染色のためにDAPIを添加し、蛍光顕微鏡により観察した(図37)。図37A、B、CはDAPI染色像を、図37Dは、対照となるIg染色像(control Ig: cIg)を、図37Eは、蛍光標識hTRAV35-CDR3-IgFcによる染色像を、図37Fは、蛍光標識hTRAV19-CDR3-IgFcによる染色像を示す。T細胞受容体キメラタンパク質(TRAV19-CDR3-IgFc、またはhTRAV35-CDR3-IgFc)により、肺がん細胞を検出することができた(図35D)。T細胞受容体キメラタンパク質は、がん細胞の検出にも利用可能であることが示された。この結果は、20.で特定したTCRは、T細胞受容体タンパク質としてがんと結合することから、肺がん特異的TCRであることも実証された。
【実施例】
【0146】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のT細胞受容体キメラタンパク質は、がんや感染症の治療や検出に用いることができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0148】
配列番号1~31 合成
配列番号32及び33 プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31
【図33-1】
32
【図33-2】
33
【図34】
34
【図35】
35
【図36】
36
【図37】
37