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明細書 :発電池用の負極、胃酸電池、金属イオン二次電池、システム、及び、電池の使用方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6656697号 (P6656697)
公開番号 特開2020-004700 (P2020-004700A)
登録日 令和2年2月7日(2020.2.7)
発行日 令和2年3月4日(2020.3.4)
公開日 令和2年1月9日(2020.1.9)
発明の名称または考案の名称 発電池用の負極、胃酸電池、金属イオン二次電池、システム、及び、電池の使用方法
国際特許分類 H01M   4/06        (2006.01)
H01M   4/02        (2006.01)
H01M   4/38        (2006.01)
H01M   4/62        (2006.01)
H01M  10/44        (2006.01)
A61B   1/00        (2006.01)
FI H01M 4/06 Q
H01M 4/02 A
H01M 4/38 Z
H01M 4/62 Z
H01M 10/44 P
A61B 1/00 C
請求項の数または発明の数 9
全頁数 11
出願番号 特願2019-034587 (P2019-034587)
出願日 平成31年2月27日(2019.2.27)
優先権出願番号 2018117085
優先日 平成30年6月20日(2018.6.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 令和元年9月25日(2019.9.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】本間 格
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
【識別番号】100143834、【弁理士】、【氏名又は名称】楠 修二
審査官 【審査官】宮田 透
参考文献・文献 特開2000-223117(JP,A)
特開2016-076361(JP,A)
特開2008-204653(JP,A)
国際公開第2012/172837(WO,A1)
特開2004-022548(JP,A)
特開平06-283157(JP,A)
国際公開第2011/092936(WO,A1)
調査した分野 H01M 4/00- 4/62
H01M 6/00- 6/52
H01M 10/00-10/39
特許請求の範囲 【請求項1】
標準電極電位が標準水素電極電位より卑である金属、合金または化合物から成る負極粉末と、導電性ポリマーとから成り、前記負極粉末を分散して固定するように、前記導電性ポリマーが分布した負極材料を含む負極であって、
前記負極材料は、前記負極粉末を60重量%以上90重量%以下の割合で含有することを特徴とする水系発電池用の負極。
【請求項2】
電解液と前記負極粉末の反応に伴い、前記電解液が前記負極内部に浸透することを特徴とする請求項1に記載の水系発電池用の負極。
【請求項3】
前記導電性ポリマーは、導電助剤として炭素を含む請求項1または2に記載の水系発電池用の負極。
【請求項4】
前記負極粉末は、亜鉛またはマグネシウムの粉末から成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水系発電池用の負極。
【請求項5】
前記導電性ポリマーは、アクリル樹脂またはエポキシ樹脂と導電助剤とを含んでいることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水系発電池用の負極。
【請求項6】
正極と、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の負極とを備えた胃酸電池。
【請求項7】
正極と、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の負極とを備えた、金属イオン二次電池。
【請求項8】
正極と、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の負極とを備えた発電池と、前記負極の放電電流を制御する制御装置を備えたシステムであって、
前記制御装置は、前記負極からの水素の発生を抑制する放電電流で制御することを特徴とするシステム。
【請求項9】
正極と、標準電極電位が標準水素電極電位より卑である金属、合金または化合物から成る負極粉末及び導電性ポリマーからなり、前記負極粉末を分散して固定するように、前記導電性ポリマーが分布した負極とを含む電池準備する工程、
前記電池の前記正極及び前記負極を酸性電解液に浸漬する工程、
前記負極上の反応により水素の発生が抑制されながら発電する工程、
を含む、電池の使用方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、一次、又は、二次電池用の負極に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、特に、水素の発生が問題となる電池や、長時間発電が必要な電池に好適な技術であるが、以下では、一つに例として、飲み込み型のセンシングデバイスに用いられる電池を例に説明を行う。
従来、高い生体適合性および小型化が求められる飲み込み型のセンシングデバイスでは、電源としてボタン電池が用いられてきたが、近年、ボタン電池に代わる新たな電源として、胃酸を電解質溶液とする胃酸電池が開発されている。胃酸電池としては、例えば、胃酸が導入される筒状のケースの内面に、望ましくは白金で構成される陽極と、望ましくは亜鉛で構成される陰極とを設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
胃酸電池は、人体に有害な電解液を使用せず、使用者自身の体液を使用するため、液漏れによる胃腸液の損傷の危険性が無い。また、構造が比較的単純になるため、小型化が可能である。また、電極材料として、摂取しても人体に悪影響のない金属を使用することにより、生体適合性を高めることができ、さらに、電極や構造体を環境負荷が小さい材料にすることにより、排泄後に回収せずにそのまま下水に流すことも可能になる。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2007-200739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の胃酸電極では、亜鉛などの負極材料の 標準電極電位が、標準水素電極電位より卑であるため、発電時に酸性水溶液である胃酸が 電気分解して水素が発生してしまうという課題があった。また、その発生した水素が負極 の表面に吸着、泡として覆うため、発電電位や発電容量といった電池性能が短時間で低下し、安定した発電を行うことができないという課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、水素の発生および電池性能の低下を抑制することができ、長時間安定した発電が可能な発電池用の負極、ならびに発電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者等は、負極材料として亜鉛を用いた場合など、負極材料の標準電極電位が標準水素電極電位より卑である場合の、発電時の水素発生のメカニズムにまで遡って検討を行った。まず、負極での電極反応は、腐食と同様に局部電池メカニズムで生じることが知られており、負極材料表面の不均一性に由来して、その負極材料が電気化学的酸化反応を起こす。例えば、負極材料が亜鉛の場合には、(1)式により、亜鉛イオンが水溶液電解質に溶け出す。
Zn → Zn + 2e (1)
【0008】
次に、(1)式で発生した電子が、より正電位の場所に移動し、その場所で電解液中のプロトンと反応して、(2)式により水素分子を生成する。
2H + 2e → H (2)
この(1)式および(2)式の反応は、通常は異なる場所で進行する。
【0009】
本発明者は、(2)式の反応を抑制することにより、水素の発生を抑制することができると考え、本発明に至った。なお、このような水素発生のメカニズムにまで遡って水素発生の抑制を図ったものは、これまで存在していない。
【0010】
すなわち、本発明に係る負極材料は、標準電極電位が標準水素電極電位より卑である金属、合金または化合物から成る負極粉末と、導電性ポリマーとを含んでいることを特徴とする。本発明に係る発電池用の負極材料は、前記負極粉末と前記導電性ポリマーとを含む混合物から成ることが好ましい。
また、負極材料を構成する負極粉末を約60重量%~約90重量%とし、それ以外を導電性アクリル樹脂や導電助剤とすれば、本発明の課題を解決することができる。

【0011】
本発明に係る負極材料は、水素の発生を大きく抑制することができる。
この理由として、発明者は、以下のメカニズムによるものと考えている。
本発明の負極は、負極粉末の周辺に導電性ポリマーが存在することにより、上述の(1)式の亜鉛の反応により発生した電子は、プロトンと反応する過程で水素ラジカルを形成する。該水素ラジカルは、導電性ポリマーに吸収される性質を有するため、生成後、水素分子となる前に、導電性ポリマーに吸収される。そのため、上述の(2)式の反応を抑制することができたと考えている。
本発明の負極材料により、水素の発生を抑えることができ、負極への水素の吸着、泡に覆われることによる電池性能の低下も抑制することができる。
【0012】
また、本発明の負極材料は、導電性ポリマー内で、粉末同士が近接あるいは、導電ポリマーの空隙と接する構造のため、電解液が粉末との反応に伴い、内部にまで徐々に浸透し、反応するパーコレーションが起きるため、全ての負極粉末を電気化学的に活性化した負極として機能させることができる。そのため、本発明に係る発電池用の負極材料は、負極に使用したとき、粉末の重量比に対して効率よく発電し、また、長時間安定した発電を行うことができる。また、本発明に係る発電池用の負極材料は、(2)式の反応が抑制されるため、(1)式で発生した電子が導電性ポリマーを介して、負極側から陽極側に移動する。これにより、電池容量や起電力などの電池性能を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る発電池用の負極材料は、導電性ポリマーに固定された粉末が電解液との反応に伴い、電解液内に金属イオンとして流出し、導電性ポリマーには、粉末が流出したことに伴う、微小の空隙が発生する。この状態で、外部の充電電源で充電を行うと、導電性ポリマーの微小空隙に金属イオンを析出させることで、再び、負極内に金属を取り込むことが可能であるので、2次電池の負極材料としても用いることができる。
【0014】
本発明に係る発電池用の負極材料は、負極粉末と導電性ポリマーとをコンポジット化して、複合材料とすることで簡便に作成することができる。
【0015】
本発明に係る発電池用の負極材料で、負極粉末は、標準電極電位が標準水素電極電位より卑であり、生体適合性が高いものであれば、いかなる金属や合金、化合物であってもよい。負極粉末は、例えば、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、または、四酸化三鉄(Fe)の粉末である。
【0016】
本発明に係る発電池用の負極材料で、前記導電性ポリマーは、アクリル樹脂またはエポキシ樹脂と導電助剤とを含んでいることが好ましい。この場合、特に水素の発生を効果的に抑制することができる。導電助剤は、例えば、カーボンブラックや、その一種であるアセチレンブラックである。
【0017】
本発明に係る発電池用の負極は、電極表面に、本発明に係る発電池用の負極材料を塗布することでも構成することができる。また、本発明に係る発電池は、正極と、本発明に係る負極とからなる。
【0018】
本発明に係る発電池用の負極、および、本発明に係る発電池は、本発明に係る発電池用の負極材料により、水素の発生および電池性能の低下を抑制することができ、長時間安定した発電を行うことができる。
また、粉末が反応に伴い流出した空隙を利用することで、二次電池の負極材料として利用できる可能性を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素の発生および電池性能の低下を抑制することができ、長時間安定した発電が可能な発電池用の負極、ならびに発電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の発電池用の負極材料の、Zn粉末と導電性アクリル樹脂とを用いた実施例の負極材料の(a)走査型電子顕微鏡(SEM)写真、(b) (a)の一部を拡大したSEM写真である。
【図2】(a)図1に示す実施例の負極材料の、擬似胃液に72時間浸漬後の表面のSEM写真、(b) (a)の一部を拡大したSEM写真、(c)比較試料のZn箔の、擬似胃液に72時間浸漬後の表面のSEM写真である。
【図3】図1に示す実施例の負極材料を負極として用いた定電流放電試験の結果を示す、(a)電圧(Cell voltage)の経時変化を示すグラフ、(b)電気量(Capacity)と電圧(Cell voltage)との関係を示すグラフである。
【図4】図1に示す実施例の負極材料の、図3に示す定電流放電試験後の断面の(a)SEM写真、(b) (a)の一部を拡大したSEM写真である。
【図5】本発明の実施の形態の発電池用の負極材料の、Zn粉末と導電性ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂とを用いた実施例の負極材料のSEM写真である。
【図6】図5に示す実施例の負極材料を負極として用いた定電流放電試験の結果を示す、(a)電圧(Cell voltage)の経時変化を示すグラフ、(b)電気量(Capacity)と電圧(Cell voltage)との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の発電池用の負極材料の、Zn粉末と導電性エポキシ樹脂とを用いた実施例の負極材料を負極として用いた定電流放電試験の結果を示す、(a)電圧(Cell voltage)の経時変化を示すグラフ、(b)電気量(Capacity)と電圧(Cell voltage)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の発電池用の負極材料は、標準電極電位が標準水素電極電位より卑である金属、合金または化合物から成る負極粉末と、導電性ポリマーとを含む混合物から成っている。負極粉末は、例えば、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、または、四酸化三鉄(Fe)の粉末である。導電性ポリマーは、例えば、アクリル樹脂またはエポキシ樹脂と導電助剤とを含んでいる。
本発明者は、本願の課題を解決する負極となる負極材料の負極粉末と、導電性ポリマーとの配合割合を検討したところ、負極材料を構成する負極粉末を約60重量%~約90重量%とし、それ以外を導電性アクリル樹脂や導電助剤とすれば、本願の課題を解決する負極となることを確認した。
以下では、本願の課題を解決する好適な様態について具体的に記載する。
【実施例1】
【0022】
負極粉末として、亜鉛(Zn)の粉末(和光純薬工業株式会製社)を用い、導電性ポリマーとして、導電性を有するアクリル樹脂(SEM試料包理用常温硬化アクリル樹脂、KM-CO;PRESI社製)を用い、本発明の実施の形態の発電池用の負極を作製した。まず、Zn粉末と導電性アクリル樹脂とを混合、撹拌した後、その混合物を金線の先端に塗布し、常温常圧下で約24時間乾燥させた。乾燥後、所望の形、大きさに切断し、結着していないZnや樹脂を除去するために、エタノールで洗浄し、負極材料とした。なお、Zn粉末および導電性アクリル樹脂の配合割合は、それぞれ約75重量%および約25重量%である。また、導電性アクリル樹脂は、導電助剤として炭素を含んでいる。
【実施例1】
【0023】
作製した負極材料(以下、「実施例1の負極材料」という)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図1に示す。図1に示すように、直径1~5μm程度のZn粒子を分散して固定するように、導電性アクリル樹脂が分布しており、導電性アクリル樹脂がZn粉末同士を結合してコンポジット化しているのが確認された。
【実施例1】
【0024】
[擬似胃液への浸漬試験]
実施例1の負極材料を用いて、擬似胃液(崩壊試験第1液、pH1.2;関東化学株式会社製)への浸漬試験を行った。試験では、実施例1の負極材料を、5mm×5mm×0.5mmの板状にし、空気が入らないようにして、擬似胃液と共に4ml用のスクリュー管に入れた。擬似胃液中に72時間浸漬後、発生した気泡(水素)の体積を測定した。なお、比較のため、5mm×5mm×0.1mmのZn箔(株式会社ニラコ製)を用い、実施例1の負極材料と同様に擬似胃液に浸漬して、72時間浸漬後の水素気泡の体積を測定した。
【実施例1】
【0025】
測定された水素発生量は、比較試料のZn箔で2.0ml、実施例1の負極材料で0.21mlであった。このように、実施例1の負極材料は、Zn箔と比べて、水素発生量が約1/10となっており、水素の発生を抑えることができていると考えられる。このように、実施例1の負極材料は、Zn箔と異なり、周囲に導電性ポリマーが存在するため、プロトンが水素分子となることが阻害され、水素発生量が少なくなるものと考えられる。
【実施例1】
【0026】
擬似胃液に72時間浸漬後の、実施例1の負極材料の表面のSEM写真を、図2(a)および(b)に示す。また、擬似胃液に72時間浸漬後の、比較試料のZn箔の表面のSEM写真を、図2(c)に示す。図2(c)に示すように、Zn箔では、表面全体で腐食が進行していることが確認された。これに対し、図2(a)および(b)に示すように、実施例1の負極材料では、導電性ポリマーの表面にZnが露出している部位から腐食が進行していることが確認された。
【実施例1】
【0027】
[定電流放電試験]
実施例1の負極材料を用いて、定電流放電試験を行った。試験では、前述した、好適な応用例である、飲み込み型のセンシングデバイスでの胃酸電池を模擬するため、正極にAg/AgCl電極、負極に実施例1の負極材料、参照極にAg/AgCl電極、電解液に擬似胃酸(崩壊試験第1液、pH1.2;関東化学株式会社製)を使用してラミネートセルを作製した。実施例1の負極材料は、約2mm×2mm×1mmの大きさとした。このセルをポテンショスタット(VMP3 Bio-Logic;株式会社東陽テクニカ製)に接続し、放電電流値を1μA、2μA、100μAとして放電試験を行った。なお、比較のため、負極にZnめっき膜(約2mm×2mm×1mm)およびZn箔を用いたものについても、同様の試験を行った。Znめっき膜は、Ti、Auを成膜したSi基盤の表面に、電気めっきでZnを成膜したものである。放電試験での電圧(Cell voltage)の経時変化、および、電気量(Capacity)と電圧(Cell voltage)との関係を、それぞれ図3(a)および(b)に示す。
【実施例1】
【0028】
図3(a)に示すように、比較例のZnめっき膜(電流値5μA)は、濃い鎖線で示すように、数時間のうちに、電圧が低下している。これは、水素の発生に伴い、気泡で電極表面が覆われ内部抵抗が増大したためである。実施例1の負極材料は、薄い一点鎖線で示す、放電電流値100μAのときには、比較例のZnめっき膜およびZn箔(図示せず)のものと同様に、内部抵抗の増大により、電圧が低下していることが確認された。一方、実線で示す、放電電流値1μAおよび薄い鎖線で示す、放電電流値2μAのときには、約1Vの電圧が30時間以上維持されることが確認された。この結果から、実施例1の負極材料は放電電流値が100μAのときは、電極での反応が早すぎ、発生する水素ラジカルの導電性ポリマーでの吸収が追い付かず、水素の発生が起こり、気泡で電極表面が覆われ内部抵抗が増大するが、放電電流値が1μA、2μAでは、緩やかに反応することで、発生する水素ラジカルの導電性ポリマーでの吸収が問題なく行われ、水素の発生を防ぐことができている。
また、図3(b)に、図3(a)の放電試験の電気量と電圧の関係を示す。薄い一点鎖線で示すように、放電電流値100μAのときには、10μhAで電圧が0.9V程度まで落ちるが、その後、0.9Vを維持することができ、電圧が再び急落するまでの電気量が約86μhAであった。また、実線で示される放電電流値1μAおよび薄い破線で示される放電電流値2μAのときには、1Vを維持し続け、電圧が急落する電気量はそれぞれ約48μhAおよび約70μhAであった。一方、Zn箔(図示せず)や、濃い鎖線で示すZnめっき膜(放電電流値5μAのとき)は、Znめっき膜では電気量10μhA以下で急落している。また、発電量を比較すると、実施例1の負極材料を用いた場合、Zn箔や、Znめっき膜と比較して、大きい発電量が得られることが確認された。実施例1の負極材料を用いた場合の発電量は、正極のAgCl量から求めた理論容量と同等の容量が得られており、正極が反応しきる発電量が少なくとも得られ、正極の選択によっては、より高い発電量が期待できる。
実施例1の負極材料で高い発電量が得られるのは、放電電流値が1μA、2μAのとき、前述のように、Znめっき膜およびZn箔と比べて、水素発生量が抑制され、かつ、徐々に電解液が浸透して、Zn粉末が効率よく反応するためであると考えられる。また、実施例1の負極材料の放電電流値100μAにおいては、10μAhの0.9Vの下落は、導電ポリマーでの水素ラジカルの吸収が追い付かないことにより、水素の発生がおきたため、電圧が1Vで維持できなかったためと思われる。しかし、この場合でも、水素の発生が起きたものの、発電量がZnめっき膜およびZn箔に比べ圧倒的に大きなものとなったのは、負極表面で激しい反応が起こりながらも、電解液が内部に浸透し続けたことで、Zn粉末が効率よく反応したものと思われる。
【実施例1】
【0029】
定電流放電試験後の、実施例1の負極材料から成る負極のうち、放電電流値2μAで制御した負極の断面のSEM写真を、図4に示す。
図4(b)に示すように、擬似胃液に接する負極の表面付近(図の右側)には、球状の空隙が多数認められた。この空隙は、Zn粒子とほぼ同じ大きさであることから、Zn粒子が擬似胃液により溶解した跡であると考えられる。これに対し、負極の内部では、球状のZn粒子が存在していることが確認された。また、その球状のZn粒子が存在している領域と、球状の空隙が認められる表面付近との境界付近には、球状でない歪な形のZn粒子が認められた。この歪なZn粒子は、周囲の導電性アクリル樹脂との間に空隙が認められることから、擬似胃液による溶解途中のZnであると考えられる。このことから、擬似胃液中では、負極の表面から順に擬似胃液と反応し、Zn粒子を溶解した空隙を形成しつつ負極の内部に擬似胃液が徐々に浸透していくものと考えられる。
以上のように、本発明の実施例1の負極材料は、水素の発生を抑え、安定的な電圧を長時間維持できるものであること、および、Zn粒子と電解液の反応と共に電解液が内部に浸透するため、Zn粉末が効率的に反応するため、高い発電量を得られる特性を有することが理解できる。
【実施例2】
【0030】
負極粉末として、亜鉛(Zn)の粉末(和光純薬工業株式会社製)を用い、導電性ポリマーとして、導電性を有するポリメタクリル酸メチル樹脂を用い、本発明の実施の形態の発電池用の負極材料を作製した。まず、Zn粉末とポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂の原料と導電助剤のアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)とを混合、撹拌した後、その混合物を金線の先端に塗布し、常温で24時間、さらに40℃で24時間乾燥させた。乾燥後、所望の形、大きさに切断し、結着していないZnや樹脂を除去するために、エタノールで洗浄し、負極材料とした。なお、PMMA、Zn粉末、および導電助剤の配合割合は、それぞれ約24.8重量%、約74.5重量%、および約0.7重量%である。
【実施例2】
【0031】
作製した負極材料(以下、「実施例2の負極材料」という)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図5に示す。図5に示すように、直径1~5μm程度のZn粒子を覆うよう、導電性PMMA樹脂が分布しており、導電性PMMA樹脂がZn粉末同士を結合してコンポジット化しているのが確認された。
【実施例2】
【0032】
[擬似胃液への浸漬試験]
実施例2の負極材料を用いて、擬似胃液(崩壊試験第1液、pH1.2;関東化学株式会社製)への浸漬試験を行った。試験では、実施例2の負極材料を、5mm×5mm×0.5mmの板状にし、空気が入らないようにして、擬似胃液と共に4ml用のスクリュー管に入れた。擬似胃液中に48時間浸漬後、発生した気泡(水素)の体積を測定した。なお、比較のため、5mm×5mm×0.5mmのZn箔を用いて、同様に擬似胃液に浸漬して、48時間浸漬後の水素気泡の体積を測定した。
【実施例2】
【0033】
測定された水素発生量は、比較試料のZn箔で2.7ml、実施例2の負極材料で0.3mlであった。このように、実施例2の負極材料は、Zn箔と比べて、水素発生量が約1/10となっており、実施例1同様、水素の発生を抑えることができていると考えられる。
【実施例2】
【0034】
[定電流放電試験]
実施例2の負極材料を用いて、定電流放電試験を行った。試験では、負極に実施例2の負極材料(約2mm×2mm×1mm)を用い、放電電流値を5μAとした以外は、実施例1と同様である。なお、比較のため、負極にZnめっき膜を使用したものについても、同様の試験を行った(作成方法、大きさは、実施例1と同様である。)。放電試験での電圧(Cell voltage)の経時変化、および、電気量(Capacity)と電圧(Cell voltage)との関係をそれぞれ、図6(a)および(b)に示す。
【実施例2】
【0035】
図6(a)に示すように、薄い破線で示すZnめっき膜は、放電電流値5μAのとき、水素の発生に伴う内部抵抗の増大により、電圧が低下しているのに対し、実施例2の実線で示される負極材料は、放電電流値5μAのとき、約1Vの電圧が維持されることが確認された。また、図6(b)に、図6(a)の放電試験の発電量と電圧の関係を示す。実施例2の負極材料は、実線で示すように、5μAのとき、1Vを維持しつつ電気量が約40μhAで急激な電圧の低下を示した。一方、比較例のZnめっき膜は電圧を維持できず、電気量が10μhA以下で電圧は急激な低下を示した。以上から、実施例2のように、導電ポリマーを変化させても、本発明の負極材料では、Znめっき膜と比べて、水素発生量が抑制され、長時間安定な電圧を維持し、高い発電量を得ることができる。
【実施例3】
【0036】
負極粉末として、亜鉛(Zn)の粉末(和光純薬工業株式会社製)を用い、導電性ポリマーとして、導電性を有するエポキシ樹脂を用い、本発明の実施の形態の体内飲み込み型発電池用の負極材料を作製した。まず、Zn粉末とエポキシ樹脂の原料(日新EM株式会社製)と導電助剤のアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)とを混合、撹拌した後、その混合物を金線の先端に塗布し、70℃で18時間真空乾燥させた。乾燥後、所望の形、大きさに切断し、結着していないZnや樹脂を除去するために、エタノールで洗浄し、負極材料とした。なお、エポキシ樹脂、Zn粉末、および導電助剤の配合割合は、それぞれ約36.9重量%、約60.9重量%、および約2.2重量%である。
【実施例3】
【0037】
[定電流放電試験]
作製された負極材料(以下、「実施例3の負極材料」という)を用いて、定電流放電試験を行った。試験では、負極に実施例3の負極材料(約2mm×2mm×1mm)を用い、放電電流値を5μAとした以外は、実施例1と同様である。なお、比較のため、負極にZnめっき膜を使用したものについても、同様の試験を行った(作成方法、大きさは、実施例1と同様である。)。放電試験での電圧(Cell voltage)の経時変化、および、電気量(Capacity)と電圧(Cell voltage)との関係をそれぞれ、図7(a)および(b)に示す。
【実施例3】
【0038】
図7(a)に示すように、Znめっき膜は、薄い破線で示すように、放電電流値5μAのとき、水素の発生に伴う、内部抵抗の増大により、電圧が低下しているのに対し、実施例3の負極材料は、実線で示すように、放電電流値5μAのとき、時間の経過に従って徐々に電圧が低下するが、約1~0.6Vの電圧が得られることが確認された。また、図7(b)に、図7(a)の放電試験の電気量と電圧の関係を示す。実施例3の負極材料は、実線で示すように、5μAのとき、電圧が徐々に低下しながら、急落する電気量は約60μhAであった。一方、比較例のZnめっき膜の急落電気量10μhA以下であった。このように実施例3の負極材料でも、Znめっき膜と比べて、水素発生量が抑制される、且つ、高い発電量を得ることができるものである。
【実施例3】
【0039】
[二次電池の負極利用]
本発明の負極材料により製造された電極は、粒子同士が近接した電解液がパーコレーションを起こす構造である。電解液は粉末との反応に伴い、内部にまで徐々に浸透し、粒子が溶解するのに伴い、粒子の部分が微小空隙となって残る。
一方、この状態で、外部の充電電源で充電を行うと、導電性ポリマーの微小空隙に金属イオンを析出させることで、再び、負極内に金属を取り込むことが可能となり、金属イオン二次電池の電極として用いることができる。
本発明は、上記のように、金属イオン二次電池の負極を、単に、粒子を導電性ポリマーでコンポジットするだけで作成でき、安価で高機能の、二次電池の負極を提供可能にする。
【実施例3】
【0040】
以上の各試験の結果に示すように、本発明の実施の形態の発電池用の負極材料は、負極粉末だけでなく、導電性ポリマーも含むため、プロトンが水素分子となる過程が阻害されるため、水素の発生を抑制できる。このため、負極の電極表面が気泡で覆われる、又は、水素の吸着による電池性能の低下を抑制することができる。また、電解液が粉末との反応に伴い、内部にまで徐々に浸透し、反応するパーコレーション構造となっているため、粉末が効率よく反応して、高い発電力を有するとともに、長時間安定した発電を行うこともできる。
さらに、金属粉末が溶解した箇所に再び金属イオンを析出させることで、金属イオン二次電池としても活用することができる。
【実施例3】
【0041】
本発明の実施の形態の電池用の負極材料は、電池の負極に使用されることにより、水素の発生を抑制することができるため、体内飲み込み型発電池に用いても安定的な発電が可能な電池として使用できる。また、亜鉛空気電池や亜鉛二次電池など、高エネルギー密度を有する大容量の二次電池の安価な負極としても利用することもできる。また、このような二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車、ロボット、ドローンなどの各種移動体の電源として利用可能であるため、リチウムイオン電池の代替品として利用することもできる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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