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明細書 :下肢装具

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6749016号 (P6749016)
公開番号 特開2018-050928 (P2018-050928A)
登録日 令和2年8月13日(2020.8.13)
発行日 令和2年9月2日(2020.9.2)
公開日 平成30年4月5日(2018.4.5)
発明の名称または考案の名称 下肢装具
国際特許分類 A61H   3/00        (2006.01)
A61F   2/66        (2006.01)
FI A61H 3/00 B
A61F 2/66
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2016-189970 (P2016-189970)
出願日 平成28年9月28日(2016.9.28)
審査請求日 令和元年8月1日(2019.8.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
発明者または考案者 【氏名】菊池 武士
【氏名】阿部 功
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100102819、【弁理士】、【氏名又は名称】島田 哲郎
【識別番号】100123582、【弁理士】、【氏名又は名称】三橋 真二
【識別番号】100112357、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
【識別番号】100130133、【弁理士】、【氏名又は名称】曽根 太樹
審査官 【審査官】今関 雅子
参考文献・文献 特開2016-049363(JP,A)
特表平08-503630(JP,A)
特表2002-504007(JP,A)
特開2004-166811(JP,A)
米国特許第06077301(US,A)
調査した分野 A61H 3/00
A61F 2/66
特許請求の範囲 【請求項1】
装着者の足首から近位側の脚部に装着される脚装着部と、
前記装着者の足首より遠位側の足部に装着されて前記脚装着部に対して三次元方向に移動可能な足装着部と、
前記脚装着部及び前記足装着部を連結するC形ばねと、
前記C形ばねの内部に配置されていて前記C形ばねの概ね中央の一部分のみに固定される円形弾性体と、
を具備する下肢装具。
【請求項2】
前記円形弾性体が前記C形ばねの内径に概ね等しい外径を有する、請求項1に記載の下肢装具。
【請求項3】
前記C形ばねが円弧状に湾曲する板ばねであり、前記円形弾性体が前記板ばねの内面に面接触する円柱体である、請求項1又は2に記載の下肢装具。
【請求項4】
前記円形弾性体がハニカム構造を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の下肢装具。
【請求項5】
前記C形ばね及び前記円形弾性体が前記装着者の外果部の近傍のみに配置される、請求項1から4のいずれか一項に記載の下肢装具。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢機能障害者の歩行時の足部の背底屈を補助する下肢装具に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の現状として、ロコモティブシンドローム、サルコペニアの症状を有し、筋量低下に伴う筋力低下、歩行や運動機能の低下、転倒や骨折の危険性の増加が発生している。疾病や要介護にならないように高齢者の歩行を工学的にサポートする必要がある。特に、遊脚期におけるつま先-地面間のクリアランスを確保することでつまずき・転倒を防止できる。
【0003】
下肢機能障害者の歩容を改善する目的で短下肢装具(Angle-foot orthosis:AFO)が適用されることが多い(非特許文献1参照)。一般的なAFOは、プラスチック型若しくは金属支柱型であり、立位安定性の向上と遊脚期におけるつま先-地面間のクリアランス確保を主な機能としている(非特許文献2参照)。プラスチック型は軽量であるが一般的には回転軸が無く、足部を固定する目的で使用される。金属支柱型は可動軸を有するものもあるが、AFOの回転軸と使用者の関節軸の厳密な調整が必要である。また、これら一般的な短下肢装具は足関節回りの補助トルクを調節できない。
【0004】
補助トルクをマニュアルで調節するために継手部分に油圧式ダンパを組込んだ短下肢装具(非特許文献3参照)も商品化されている。さらに、補助トルクを自動制御可能なロボット化されたAFOも開発されている(非特許文献4~8参照)。多くがDCモータ等を用いたアクティブなものであるが、重量・安全面から一般用途向けへの普及は難しい。
【0005】
そこで、自動制御型短下肢装具の軽量化と安全性向上を目指してコンパクト型MR流体(Magneto Rheological Fluid)ブレーキ(非特許文献9参照)を用いたi-AFOの開発を実施したが、センサ・バッテリ・コントローラ等を有する装置はコストが普及の障害になる。さらに、これらはいずれも使用者に合わせた関節軸の厳密な調整が必須である。
【0006】
前述の課題を解決するために、i-AFOで得られた知見をもとにセンサレス、バッテリレス、コントローラレスで同等の機能を有する下肢装具を開発する取り組みを実施した。第一試作として、C形ばねと、踵部に配置したゴムダンパと、を有する柔軟関節を開発し、下肢装具の回転軸と装着者の関節軸とにミスアライメントがあっても遊脚期の背屈保持及び立脚初期の底屈制動を実現できることが分かった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2016-49363号公報
【0008】

【非特許文献1】Redford J. B., Orthoses, In: Basmajian J. V. and Kirby R. L., eds., Medical rehabilitation, Baltimore, Williams & Wilkins (1984), pp.101.
【非特許文献2】日本整形外科学会,日本リハビリテーション学会監修,義肢装具のチェックポイント, 医学書院 (2007), pp.237.
【非特許文献3】安井匡,GaitSolutionの開発,第13回システムインテグレーション部門講演会(SI2012), pp.1778-1781.
【非特許文献4】Aaron M. Dollar, and Hugh Herr, Lower Extremity Exoskeletons ad Active Orthoses: Challenges and State-of-the-Art, IEEE Transactions on Robotics, Vol.24, No.1, pp.144-158, 2008.
【非特許文献5】Keith E. Gordon and Daniel P. Ferris, Learning to walk with a robotic ankle exoskeleton, Journal of Biomechanics, vol.40, pp.2636-2644, 2007.
【非特許文献6】Shorter, K. A., Kogler, G. F., Loth, E., Durfee, W. K. and Hsiao- Wecksler, E. T. A., Portable powered ankle foot orthosis for rehabilitation. JRRD Vol.48, No.4 (2011).
【非特許文献7】Bashir M.Y. Nouri and Arafat Zaidan, Conputer control of a powered two degree freedom reciprocating gait orthosis, ISA Transactions, vol.45, No. 2, pp.249-258, 2006.
【非特許文献8】Joaquin A. Blaya and Hugh Herr, Adaptive Control of a Variable-Impedance Ankle-Foot Orthosis to Assist Drop-Foot Gait, IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering, vol.12, No.1, pp.24-31, 2004.
【非特許文献9】Kikuchi, T., Otsuki, K., Furusho, J., Abe, H., Noma, J., Naito, M. and Lauzier, N., Development of compact MR fluid clutch for human-friendly actuator, Advanced Robotics, Vol.24 No.10 (2010), pp.1489-1502.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ゴムダンパを踵部に配置していたために、部品が後方に飛び出しており、見た目が悪く、長ズボン等の衣服によっては装着が困難であった。さらに、後方のゴムダンパを押付ける力の反力が上向きに働き、これが脚装着部のずれを生じさせていた。
【0010】
そこで、本発明は、下肢装具を小型化するとともに、足部の底屈制動における上向きの反力を低減して脚装着部のずれを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様によれば、装着者の足首から近位側の脚部に装着される脚装着部と、装着者の足首より遠位側の足部に装着されて脚装着部に対して三次元方向に移動可能な足装着部と、脚装着部及び足装着部を連結するC形ばねと、C形ばねの内部に配置されていてC形ばねの概ね中央の一部分のみに固定される円形弾性体と、を具備する下肢装具が提供される。
本発明の第二の態様によれば、第一の態様において、円形弾性体がC形ばねの内径に概ね等しい外径を有する、下肢装具が提供される。
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様において、C形ばねが円弧状に湾曲する板ばねであり、円形弾性体が板ばねの内面に面接触する円柱体である、下肢装具が提供される。
本発明の第四の態様は、第一から第三の態様のいずれか一つにおいて、円形弾性体がハニカム構造を有する、下肢装具が提供される
発明の第五の態様は、第一から第四の態様のいずれか一つにおいて、C形ばね及び円形弾性体が装着者の外果部の近傍のみに配置される、下肢装具が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、下肢装具を小型化するとともに、足部の底屈制動における上向きの反力を低減して脚装着部のずれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る下肢装具の前方斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る下肢装具の後方斜視図である。
【図3】正常歩行時の矢状面内における足関節運動を示すグラフである。
【図4】第一の実施形態に係る下肢装具の底屈動作を示す斜視図である。
【図5】第一の実施形態に係る下肢装具の背屈動作を示す斜視図である。
【図6】第一の実施形態に係る下肢装具の外内反動作を示す正面図(A)及び(B)である。
【図7】第一の実施形態に係る下肢装具の外内旋動作を示す平面図(A)及び(B)である。
【図8】本発明の第二の実施形態に係る下肢装具の斜視図である。
【図9】円形弾性体のハニカム構造の充填密度が、30%を示す図(A)、50%を示す図(B)、及び70%を示す図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同様の構成要素には同様の符号が付与されている。なお、以下に記載される内容は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。

【0015】
本明細書では、解剖学における方向表現を使用する。例えば、装着者の頭のある方を「上」といい、足のある方を「下」といい、装着者から見て右側を「右」といい、左側を「左」といい、装着者の顔がある方を「前」といい、背中のある方を「後」という。下肢については、体幹に近い側を「近位」といい、体幹から遠い側を「遠位」といい、両脚が向かい合う側を「内」といい、反対側を「外」という。また、左右軸に垂直な面を「矢状面」といい、前後軸に垂直な面を「前額面」といい、上下軸に垂直な面を「水平面」という。

【0016】
(第一の実施形態)
図1及び図2を参照して、本発明の第一の実施形態に係る下肢装具1の構成について説明する。図1は本実施形態に係る下肢装具1の前方斜視図であり、図2は本実施形態に係る下肢装具1の後方斜視図である。

【0017】
図1及び図2に示す下肢装具1は、装着者の足首から近位側の脚部(本実施形態では足首)に装着される脚装着部10と、装着者の足首より遠位側の足部(本実施形態では靴の踵部分に装着されるため足部全体)に装着されて脚装着部10に対して三次元方向に移動可能な足装着部20と、脚装着部10及び足装着部20を連結するC形ばね30、31と、C形ばね30、31の内部に配置される円形弾性体40、41と、を主要な構成要素として具備する。下肢装具1は、センサ、アクチュエータ、バッテリを持たないため、従来と比べて軽量である。

【0018】
脚装着部10は、装着者の足首後側において垂直方向に配置される近位ブラケット11と、近位ブラケット11の中央前面に連結されて足首後面をサポートするサポート部12と、近位ブラケット11の左右前面においてC形ばね30、31の近位端部を連結するL形の近位連結具13、14と、C形ばね30、31と円形弾性体40、41との間の上方間隙を埋めて脚装着部10の位置を安定させる近位スペーサ15、16と、を具備する。サポート部12は、近位ブラケット11の中央前面に連結されるバンド固定具17と、バンド固定具17の前面に連結されて装着者の足首後面に当接する湾曲プレート18と、を具備する。バンド固定具17は、バンド固定具17を左右に貫通する貫通孔17aを有していて、貫通孔17aにバンド(図示せず)が挿通され、バンドは装着者の足首に固定される。バンドは、例えば面ファスナを有するゴムバンドを採用してもよい。

【0019】
足装着部20は、装着者の踵部後側において垂直方向に配置される遠位ブラケット21と、遠位ブラケット21の中央前面に連結されて靴50(模式的に示す)の踵部分に装着される靴装着部22と、遠位ブラケット21の左右前面においてC形ばね30、31の遠位端部を連結するL形の遠位連結具23、24と、C形ばね30、31と円形弾性体40、41との間の下方間隙を埋めて足装着部10の位置を安定させる遠位スペーサ25、26と、を具備する。靴装着部22は、上端において前板と後板とを連結したクリップ27と、靴50の踵部分に挿入される踵プレート28と、を具備する。クリップ27の前板と後板との間には、装着者が履く靴50の踵部分と、踵部分に挿入された踵プレート28とが挿入される。他の実施形態では、靴装着部22が靴の中敷きと一体化されたものであってもよい。靴装着部22は、靴の中にあっても違和感の無いように薄型であることが好ましい。

【0020】
C形ばね30、31は、脚装着部10の近位ブラケット13、14の左右前面と足装着部20の遠位ブラケット23、24の左右前面とをそれぞれ連結し、装着者の外果部及び内果部の近傍に配置される。C形ばね30、31の材質としては、比較的大きな変形に対して比較的小さな抵抗力しか返さず、元の形状に戻る柔軟な弾性素材、すなわち弾性率が比較的小さく、弾性域が比較的大きい素材が好ましい。C形ばね30、31の材料として、例えばステンレス鋼、超弾性素材、エラストマ、ゴム等を挙げることができる。

【0021】
円形弾性体40、41は、C形ばね30、31の内部に配置されるため、従来と比べて下肢装具1のサイズを低減できる。円形弾性体40、41は、C形ばね30、31の内径に概ね等しい外径を有し、C形ばね30、31の内側にフィットすることが好ましく、これにより、足部の底屈動作に伴うC形ばね30、31の閉動作が開始するとすぐに、円形弾性体40、41の反力が発生するため、底屈制動の遅延が無くなる。さらに、円形弾性体40、41は、C形ばね30、31の板ばねの内面に面接触する円柱体であることが好ましく、これにより、円形弾性体40、41の反力が背屈方向に働き易くなって底屈制動トルクを増大させることができる。円形弾性体40、41は、C形ばね30、31の概ね中央の一部分のみにボルト42、43で固定されるため、背屈時にC形ばね30、31の開動作が起こっても、円形弾性体40、41がC形ばね30、31に追随することはなく、C形ばね30、31のみによる比較的弱い背屈制動が起こる。

【0022】
円形弾性体40、41の材質としては、軽量で加工性の高い弾性素材が好ましい。円形弾性体40、41の材料としては、例えば三次元プリンタで使用可能なエラストマ、NC切削加工可能なエラストマ、ゴム等を挙げることができる。円形弾性体40、41を三次元プリンタで形成する場合、最外壁がヒルベルト曲線を有し、内部がハニカム構造を有する円形エラストマであることが好ましく、これにより、円形弾性体40、41が軽量かつ高強度になるため、下肢装具1の軽量化を達成しつつ耐久性を向上させることができる。ハニカム構造の充填密度を調整することにより、装着者の前脛骨筋の筋力や症状に応じて底屈制動トルクを調整することが可能である。C形ばね30、31及び円形弾性体40、41から構成される足関節補助機構を、「弾性体内蔵型柔軟関節(elastmer-embended flexible joint:EEFJ)」と呼ぶ。

【0023】
ここで図3~図5を参照して、正常歩行時の矢状面内における足関節運動と、本発明の第一の実施形態に係る下肢装具1の底背屈動作について説明する。図3は正常歩行時の矢状面内における足関節運動を示すグラフであり、図4は本実施形態に係る下肢装具1の底屈動作を示す斜視図であり、図5は本実施形態に係る下肢装具1の背屈動作を示す斜視図である。

【0024】
図3において、縦軸の足関節角度は背屈を正で示しており、横軸は一歩行周期を100%で表している。正常歩行は、踵接地から始まり、足底接地までは約10°底屈する。次に踵離地までは背屈し、次いで蹴り出しが起こり、やや底屈位でつま先離地する。続いて、重力によって最大底屈角度までつま先が落ちるが、次の踵接地に向けて、つま先を持ち上げる。

【0025】
図3に示す踵接地から足底接地までの立脚初期における底屈時には、図4に示すように、C形ばね30、31の閉動作が円形弾性体40、41を締付けて圧縮し、これにより、円形弾性体40、41の反力(抵抗力)が発生し、C形ばね30、31の閉動作を制動するトルクを発生させ、足部の底屈制動が起こる。円形弾性体40、41の反力はC形ばね30、31の閉動作を制動するトルクであるため、従来と比べて上方向の反力ベクトルは小さい。これにより、脚装着部10のずれを防止することができる。

【0026】
図3に示す足底接地から踵離地までの立脚中期における背屈時には、図5に示すように、円形弾性体40、41がC形ばね30、31の概ね中央の一部分のみにボルト42、43で固定されるため、C形ばね30、31の開動作のみが起こり、C形ばね30、31のみによる弱い反力(抵抗力)が発生して、比較的弱い背屈制動が起こる。したがって、下肢装具1が足部の背屈運動を阻害することはない。

【0027】
図3に示す踵離地から遊脚期における底屈時には、蹴り出しと足部の自重によって底屈が起こるが、力学平衡点以降は底屈が起こらず、図4に示すように、C形ばね30、31の閉動作に伴う円形弾性体40、41の反力(抵抗力)によって背屈が保持されるため、遊脚期におけるつま先-地面のクリアランスを確保できる。したがって、本実施形態に係る下肢装具1は、従来と同様に、つまずきや転倒を防止することができる。引いては、歩行補助による歩数の増大により身体活動・運動の向上が期待できる。

【0028】
次に図6及び図7を参照して、本発明の第一の実施形態に係る下肢装具1の外内反動作及び外内旋動作について説明する。図6は本実施形態に係る下肢装具1の外内反動作を示す正面図(A)及び(B)であり、図7は本実施形態に係る下肢装具1の外内旋動作を示す平面図(A)及び(B)である。

【0029】
図6(A)及び図6(B)に示すように、C形ばね30、31及び円形弾性体40、41から構成されるEEFJによって、足装着部20は脚装着部10に対して前額面内でも小さな抵抗で移動可能である。この際、C形ばね30、31の一方が閉動作して円形弾性体40、41を圧縮するとともに、C形ばね30、31の他方が開動作する。したがって、下肢装具1は背屈運動だけでなく、外内反運動も阻害しない。

【0030】
また、図7(A)及び図7(B)に示すように、C形ばね30、31及び円形弾性体40、41から構成されるEEFJによって、足装着部20は脚装着部10に対して水平面内でも小さな抵抗で移動可能である。この際、C形ばね30、31の一方が閉動作して円形弾性体40、41を圧縮するとともに、C形ばね30、31の他方が開動作する。したがって、下肢装具1は背屈運動だけでなく、外内旋運動も阻害しない。

【0031】
図6及び図7に示すように、下肢装具1のEEFJは、矢状面内に固定された回転中心を持たないため、人の運動軸と下肢装具1の回転軸との間にミスアライメントがあっても足部の運動を阻害することがない。

【0032】
表1は、下肢装具1における足関節の可動範囲を示す。図3に示す正常歩行時における足関節の可動範囲は、底屈約20°、背屈約10°であるが、底屈の最大値20°はつま先離地後の惰性によるもので、下肢装具1に重要な数値ではない。蹴り出し後のつま先離地において底屈角度は約10°である。つま先-地面のクリアランスを確保するため、下肢装具1の底背屈の可動範囲は、底屈10°、背屈10°となるように設計される。

【0033】
また、歩行の衝撃吸収や安定化を図るため、足関節は外内反及び外内旋を行う。踵接地に伴い、下肢に荷重がかかる期間に受動的な現象として距骨下関節が7°外反し、内旋の角度は最大5°である。立脚後期では、床反力ベクトルの前進に伴い、前足部への体重の負荷が増大する。確実な足根骨間の安定性を確保するために、外反位から4°内反する。この際、外旋の角度は最大5°である。したがって、下肢装具1の外内旋の可動範囲は、外旋5°、内旋5°となるように設計され、外内反の可動範囲は、外反7°、内反4°となるように設計される。
【表1】
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【0034】
(第二の実施形態)
次に図8を参照して、本発明の第二の実施形態に係る下肢装具2について説明する。図8は、本実施形態に係る下肢装具2の斜視図である。図8に示す下肢装具2は、EEFJ(すなわちC形ばね80及び円形弾性体90)が装着者の外果部の近傍のみに配置されていて、装着者の内果部の近傍には何も配置されてない点で、第一の実施形態に係る下肢装具1とは異なる。下肢装具2は装着者の内果部の近傍に何も配置しない構成を採用しているため、左右両足に装着した2つの下肢装具2のEEFJが歩行時に干渉しなくなる。これにより、下肢装具2の装着性が向上し、正常歩行に近い快適な歩行を提供することができる。

【0035】
図8において、下肢装具2は、装着者の足首から近位側の脚部(本実施形態では腓腹部)に装着される脚装着部60と、装着者の足首より遠位側の足部(本実施形態では中足部)に装着されて脚装着部60に対して三次元方向に移動可能な足装着部70と、脚装着部60及び足装着部70を連結するC形ばね80と、C形ばね80の内部に配置される円形弾性体90と、を主要な構成要素として具備する。

【0036】
脚装着部60は、装着者の下腿外側側部において垂直方向に配置されてC形ばね80の近位端部に直接連結される近位ブラケット61と、近位ブラケット61の内側側面に連結されて腓腹部側面に当接する湾曲プレート62と、C形ばね80と円形弾性体90との間の上方間隙を埋めて脚装着部60の位置を安定させる近位スペーサ63と、を具備する。近位ブラケット61は、近位ブラケット61を前後に貫通する貫通孔61aを有していてバンド固定具を兼ねている。貫通孔61aにバンド(図示せず)が挿通され、バンドは装着者の腓腹部に固定される。

【0037】
足装着部70は、装着者の外果部近傍において垂直方向に配置されてC形ばね80の遠位端部80bに直接連結される遠位ブラケット71と、遠位ブラケット71の内側側面に連結されて靴の中に装着される靴装着部72と、を具備する。靴装着部72は、遠位ブラケット71の内側側面に連結される遠位連結具73と、遠位連結具73に連結される中敷き74と、中敷き74の左右中央側面に連結されるバンド75と、を具備する。バンド75は装着者の中足部に固定される。

【0038】
C形ばね80は、脚装着部60の近位ブラケット61の底面と足装着部70の遠位ブラケット71の上面とを連結し、装着者の外果部の近傍のみに配置される。C形ばね80の材質、弾性率、板厚等は、第一の実施形態と同様のものを採用できる。

【0039】
円形弾性体90は、C形ばね80の内部に配置される。円形弾性体90は、C形ばね80の内径に概ね等しい外径を有し、C形ばね80の内側にフィットする。C形ばね80は円弧形状に湾曲する板ばねであり、円形弾性体90は板ばねの内面に面接触する円柱体である。円形弾性体90は、C形ばね80の概ね遠位端部の一部分のみにボルト(図示せず)で固定されている。円形弾性体90の材質、構造、充填密度等は、第一の実施形態と同様のものを採用できる。

【0040】
足部の底屈時に、C形ばね80の閉動作が円形弾性体90を締付けて圧縮すると、円形弾性体90の反力(抵抗力)が発生し、C形ばね80の閉動作を制動するトルクを発生させ、足部の底屈制動が起こる。円形弾性体90の反力はC形ばね80の閉動作を制動するトルクであるため、従来と比べて上方向の反力ベクトルが小さい。このため、脚装着部60のずれを防止できる。また、円形弾性体90がC形ばね80の内部に配置されることにより、従来と比べて下肢装具2のサイズを低減できる。

【0041】
(機械特性試験)
第一の実施形態に係る下肢装具1に利用するC形ばね及び円形弾性体の機械特性試験を行った。より詳細には、C形ばねの板厚及び円形弾性体のハニカム構造の充填密度を変更して抵抗トルクを調査した。なお、図9は円形弾性体のハニカム構造の充填密度が、30%を示す図(A)、50%を示す図(B)、及び70%を示す図(C)である。

【0042】
C形ばねの素材は、耐食性・耐熱性・非磁性に優れたステンレス鋼帯を選定した。JISばね用ステンレス鋼帯で比較的よく使用されるSUS304、SUS301のうち、硬度が強く、永久変形が起こり難いSUS301、表面調質3/4Hを使用した。寸法は、幅15mm、長さ130mmとし、板厚は0.3mm/0.5mmの2種類を選定した。半径10mmの半円の空いた木型の上にステンレス鋼帯を置き、径のやや小さい木製の棒にて鋼帯をずらしながら押込み成形した。曲げ加工後の鋼帯は、残留応力を除去する目的で低温焼鈍(400°C、30分間加熱、次いで空冷)を行った。成形後のC形形状は直径50mmの半円形状とした。

【0043】
円形エラストマは、三次元プリンタ(ボンサイ、BS01)にて、三次元プリンタ用柔軟素材であるPolyFlex(ボンサイ、PolyFlex Black)を使用し製作した。エラストマの直径は48mm、厚みは15mmとした。最外壁はヒルベルト曲線、内部は最も強度のあるハニカム構造とし(図9参照)、充填密度を30%、50%、70%の三種類にて製作した。

【0044】
底背屈方向の抵抗トルクの測定は万能試験機(インストロン5865、ロードセル定格5kN)を使用した。他の方向はプッシュプルゲージ(イマダHF-50、定格500N)を使用した。二つのEEFJを左右に平行に並べ、実使用を想定して間隔が95mmとなるように剛体治具に固定した。計測した荷重に足関節の想定位置であるC形ばねの中央点からの距離をかけて抵抗トルクを算出した。

【0045】
前述した表1の可動範囲内における全方向の最大抵抗トルクを調査した。表2は、板厚0.5mm又は0.3mmのC形ばねと、充填密度70%、50%、又は30%の円形エラストマとから成る実施例1~4を示す。

【0046】
【表2】
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【0047】
表2より、板厚0.5mmのC形ばねを有する実施例1は、板厚0.3mmのC形ばねを有する実施例2~4と比べて、下肢装具1の底屈制動トルクを大きくすることができるが、同時に内外旋・内外反の不要な抵抗トルクも大きくなり、足部の運動を阻害する可能性があった。よって、板厚0.3mmのC形ばねを有する実施例2~4は、板厚0.5mmのC形ばねを有する実施例1より好適である。また、板厚が0.3mmより薄い場合には、下肢装具1の自重による変形でC形ばねの塑性変形が起こり得るため、好適ではない。

【0048】
円形エラストマの充填密度の違いにより、補助トルクの変更が可能であることが分かった。特に底屈トルクと内外旋の抵抗に違いがあった。底屈に関して、充填密度70%は3.7Nm、50%は1.0Nm、30%は0.1Nmであった。内外旋についても違いがあったが、充填密度70%にて0.09Nmと小さいため、足部の運動の阻害にはならないと判断できる。本発明に係る下肢装具は、底屈制御を一つの目的としているため、補助トルクの大きい、板厚0.3mmのC形ばね、70%の円形エラストマを有する実施例2が最も好適であることが分かった。

【0049】
立脚初期の足関節に働く底屈制動トルクは、約0.2Nmである。このトルクは身体重量で正規化された値である。つまり被験者の体重を60kgと仮定すれば12Nmとなる。背屈力は歳を重ねるごとに衰え、20代と60代とを比べると男性では利き足で385.9Nから約30%減の269N、女性では利き足で294.9Nから約20%減の235.7Nまで低下する。実施例2の組み合わせの場合、体重60kgの被験者の底屈制動トルク12Nmのうち、約30%(3.7Nm)の補助を行うことができる。また、内外旋と内外反に関しては、0.1Nm以下であり、歩行の妨げになり難い。

【0050】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後続の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0051】
1、2 下肢装具
10、60 脚装着部
20、70 足装着部
30、31、80 C形ばね
40、41、90 円形弾性体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
7
【図9】
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