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明細書 :ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-172604 (P2019-172604A)
公開日 令和元年10月10日(2019.10.10)
発明の名称または考案の名称 ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤
国際特許分類 A61K  31/22        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
FI A61K 31/22
A61P 25/00
A61P 25/28
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2018-062011 (P2018-062011)
出願日 平成30年3月28日(2018.3.28)
発明者または考案者 【氏名】林田 直樹
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
審査請求 未請求
テーマコード 4C206
Fターム 4C206AA01
4C206AA02
4C206DB03
4C206DB06
4C206DB56
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA61
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA76
4C206MA79
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA16
要約 【課題】日本をはじめとした先進国では高齢化社会を迎え、神経変性疾患を根治する薬剤の開発が切望されている。そこで本発明の課題は、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症等に大きく関与する軸索に着目し、軸索を伸展することが可能な薬剤を提供することにある。
【解決手段】ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤を作製する。ホルボールエステルが、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート又はホルボール12,13-ジブチレートであることが好ましい。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤。
【請求項2】
ホルボールエステルが、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート又はホルボール12,13-ジブチレートであることを特徴とする請求項1記載の軸索の伸展剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の軸索の伸展剤を含有する、タウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬。
【請求項4】
神経変性疾患が、前頭側頭型認知症又はアルツハイマー病であることを特徴とする請求項3記載の予防又は治療用医薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤や、かかる軸索の伸展剤を含有する、タウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患は多くの疾患に分類されるが、それらの疾患には認知症状を伴うものが多い。現在の日本において、認知症患者は250万人にも上るといわれている。その認知症患者のうち約7割はアルツハイマー病と考えられたことから、アルツハイマー病治療薬の開発競争が激しく行われきた。しかしながら、これまで開発された約400にも達する薬剤のほとんどは十分な治療効果を示すことができていない。
【0003】
アルツハイマー病治療薬の開発が困難な原因としては諸説ある。その開発が困難な原因としては、たとえば、ヒトのアルツハイマー病の再現が非常に不十分なモデルマウスを用いていたことが挙げられる。あるいは、アルツハイマー病は他の神経変性疾患と異なり、βアミロイドによる老人斑と高度にリン酸化されたタウタンパク質による神経原線維変化の2つの特徴的な構造物が形成されるが、開発された治療薬のターゲットがもっぱらβアミロイドに偏っていたことも挙げられる。治験においては、老人斑は減少したが、認知症状は改善されない、もしくは悪化することが多くみられ、さらに、副作用として悪性黒色腫の発症などが認められてしまうことがしばしば生じていた。こうしたなか、老人斑はそもそもアルツハイマー病を発症していない高齢者や、認知症状を呈していない高齢者にも認められる構造物であることから、現在はタウ蛋白に注目した治療薬開発が増えてきている。
【0004】
発明者らは、治療薬開発研究のターゲットを最初からタウタンパク質やその他の神経細胞内に凝集体を形成するタンパク質に定め、このような凝集を抑制する薬剤の探索を行ってきた。その中で、ホルボールエステルであるPMA(ホルボール12-ミリスタート13-アセタート)が、前頭側頭型認知症培養神経細胞の実験系において凝集体形成を抑制することを見出した(特許文献1参照)。
【0005】
一方、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などの神経変性疾患には、共通して「神経細胞死」や、「神経細胞の変性、特に神経突起の変性若しくは切断」が認められる。従って、この「神経細胞死」や、「神経細胞の変性、特に神経突起の変性若しくは切断」を防ぐことで、神経変性疾患を治療できる薬剤の開発が望まれている。
【0006】
ところで、ホルボールエステルは、ジテルペンのチグリアンファミリーの天然の植物由来有機化合物であり、東南アジア原産のトウダイグサ科の葉状灌木であるクロトンチグリウム(Croton tiglium)の種に由来するクロトン油の加水分解生成物として、1934年に初めて単離されたものである。ホルボールの中で、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)は、複数の細胞系及び初代細胞における分化及び/又はアポトーシスの誘発因子と考えられており、悪性腫瘍や白血病、HIV、パーキンソン病等の治療剤として用いることが開示されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特願2016-242230号明細書
【特許文献2】特表2015-513315号公報
【特許文献3】特開2016-056192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
日本をはじめとした先進国では高齢化社会を迎え、神経変性疾患を根治する薬剤の開発が切望されている。上述のように、これまでに神経変性疾患に対して様々な治療薬が開発されているが、実際に治療に使われているものはすべて対処療法のものであり、根治につながる治療薬の開発に成功していない。そこで本発明の課題は、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症等に大きく関与する軸索に着目し、軸索を伸展することが可能な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ホルボールエステルであるPMA(ホルボール12-ミリスタート13-アセタート)が軸索を大幅に伸展させる効果を有することを見出した。さらにこの効果は正常神経細胞に限らず、変性タウタンパク質が細胞内に生じている異常な軸索突起も、正常神経細胞と同じレベルまで伸展させることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのものである。
(1)ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤。
(2)ホルボールエステルが、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート又はホルボール12,13-ジブチレートであることを特徴とする上記(1)記載の軸索伸展剤。
(3)上記(1)又は(2)記載の軸索の伸展剤を含有する、タウタンパク質の凝集又はベータアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬。
(4)神経変性疾患が、前頭側頭型認知症又はアルツハイマー病であることを特徴とする上記(3)記載の予防又は治療用医薬。
【0011】
また、本発明の他の態様としては、(1)ホルボールエステルを対象に投与することを特徴とする軸索の伸展方法や、(2)軸索の伸展剤として使用するための、ホルボールエステルや、(3)ホルボールエステルの、軸索の伸展剤の調製における使用を挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、軸索(axon)を伸展させることが可能となる。また、軸索を伸展させることにより、神経細胞の変性に起因する神経変性疾患の予防又は治療を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1において、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後PMAを加えて7日間培養後の細胞の写真である。
【図2】実施例2において、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後PMAを異なる濃度で培地に投与し、軸索が伸びる最適なPMAの濃度を調べたものである。
【図3】実施例3において、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後PMA+βアミロイド、又はβアミロイドを加えて48時間培養後したアルツハイマー病培養細胞モデルにおける、典型的な細胞の状態の違いを示す図である。
【図4】実施例3において、軸索の長さが細胞体の長さの10倍以上となっている細胞の割合を計算した結果を示すグラフである。
【図5】ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後PMAを加えて7日間培養した後の細胞を回収してウェスタンブロット解析を行った結果である。
【図6】ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後PMAを加えて7日間培養した後の細胞を回収してRT-PCR解析を行った結果である。
【図7】正常タウタンパク質、及び異常タウタンパク質を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後PMAを加えて7日間培養後し、軸索の長さが細胞体の長さの5倍以上となっている細胞の割合を計算した結果を示す図である。
【図8】ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を培養し、その後、ホルボール12,13-ジブチレート(PDBu)を加えて7日間培養後し、軸索の長さが細胞体の長さの5倍以上となっている細胞の割合を計算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の軸索の伸展剤としては、ホルボールエステルを有効成分とする軸索の伸展剤であればよく、かかる軸索の伸展剤を用いれば、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症等に大きく関与する軸索を進展させることが可能となる。

【0015】
上記ホルボールエステルは、上述のようには、ジテルペンのチグリアンファミリーの天然の植物由来有機化合物である。かかるホルボールエステルは、ホルボールの酸エステルであれば特に制限されず、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)、ホルボール12,13-ジブチレート(PDBu)、ホルボール12,13-ジデカノエート、ホルボール13-ブチレート、ホルボール12-デカノエート、ホルボール13-デカノエート、ホルボール12,13-ジアセタート、ホルボール13,20-ジアセタート、ホルボール12,13-ジベンゾアート、ホルボール12,13-ジヘキサノエート、ホルボール12,13-ジプロピオネート、ホルボール12-ミリステート、ホルボール13-ミリステート、ホルボール12,13,20-トリアセタート、12-デオキシホルボール13-アンゲレート、12-デオキシホルボール13-アンゲレート20‐アセタート、12-デオキシホルボール13-イソブチレート、12-デオキシホルボール13-イソブチレート20-アセタート、12-デオキシホルボール13-フェニルアセタート、12-デオキシホルボール13-フェニルアセタート20-アセタート、12-デオキシホルボール13-テトラデカノエート、ホルボール12-チグリエート13-デカノエート、12-デオキシホルボール13-アセタート、ホルボール12-アセタート、ホルボール13-アセタート等を挙げることができ、PMA又はPDBuを好適に挙げることができる。PMAやPDBu等の上記ホルボールエステルは、クロトン油などの天然植物の加水分解生成物として調製することや、化学的に合成することや、市販品を購入することによって得ることが可能である。

【0016】
本発明における神経細胞としては、脳の神経細胞を挙げることができ、海馬神経細胞、大脳皮質神経細胞、中脳神経細胞、又は線条体神経細胞を好適に挙げることができる。また、神経細胞の由来は特に制限されないが、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類を挙げることができ、哺乳動物を好適に挙げることができ、ヒトをより好適に挙げることができる。

【0017】
本発明における軸索とは、神経細胞から延びている細長い突起状の構造体であって、神経細胞において他の神経細胞への情報を伝達する機能を有するものである。

【0018】
軸索が伸展することによって、神経細胞同士の情報交換及び伝達物質の交換が非常に活性化されることにより、前頭側頭型認知症又はアルツハイマー病の予防又は治療が可能となる。

【0019】
本発明のタウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬としては、上記本発明の軸索の伸展剤を含んでいれば特に制限されず、ここで、タウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患とは、神経細胞内においてタウタンパク質の凝集によって認知機能が低下する疾患を意味する。また、βアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患とは、神経細胞内においてβアミロイドの蓄積によって認知機能が低下する疾患を意味する。かかる神経変性疾患としては、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症(FTLD:frontotemporal lobar dengeration)、ダウン症候群を挙げることができ、アルツハイマー病又は前頭側頭型認知症(FTLD)を好適に挙げることができる。前頭側頭型認知症(FTLD)は、臨床病型として主にFTLD-tau、FTLD-TDP、及びFTLD-FUSに分類され、FTLD-Ttauにはピック病、FTLD-17、皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)、嗜銀顆粒性認知症(AGD)、神経原線維変化型老年認知症(SD-NFT)、MSTD、WMT-GGIが含まれ、FTLD-TDPにはFTD-MND、FTD-TDPが含まれ、FTLD-FUSにはatypical FTLD-U、BIBD、NIFIDが含まれる。

【0020】
本発明の軸索の伸展剤や、本発明のタウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬には、製剤化のために通常使用され薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤等の添加物を含んでいてもよい。製剤の剤型としては散剤、顆粒剤等の固形製剤であってもよい。

【0021】
本発明のタウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬の投与方法としては、所望の神経変性疾患の予防又は治療効果が得られる限り特に制限されず、静脈内投与、経口投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等を挙げることができる。また、本発明のタウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬の投与量は特に制限されず、被検者や被検動物の体調、病状、体重、年齢、性別等によって適宜調整することができる。1日あたりの投与量は、上記の投与方法のうちいずれを用いるかによって異なるが、感受性の違いを踏まえ、10~500μg、好ましくは20~100μg、より好ましくは40~60μgを挙げることができる。さらに、本発明のタウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬を他の神経変性疾患の予防又は治療医薬と併用してもよい。本発明のタウタンパク質の凝集又はβアミロイドの蓄積に起因する神経変性疾患の予防又は治療用医薬の投与回数や投与期間等も特に制限されず、1日あたりの投与量を1日1回又は数回に分けて投与することもできる。また投与対象の細胞、組織の由来や生体は特に制限されず、好ましくは哺乳類であり、例えばヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスター等を例示することができ、好ましくはヒトを例示することができる。なお、PMAはすでに白血病、特に急性骨髄性白血病の治療に用いられており、例えば白血病の治療においては、患者から取り出した白血球をPMA20μM及びイオノマイシンで処理したのち、患者の体内に戻す治療が定着している。

【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
(PMAによる軸索の伸展)
10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbecco‘s Modified Eagle Medium (DMEM)培地を加えた6cm dishにヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を1.0×10となるようにまいて37℃で24時間培養した。その後1.0nMの濃度となるようにDMSOで溶解したPMA(Sigma-Aldrich社製)、又はコントロールとして等量のDMSOのみを加えた2群に分けてさらに37℃で7日間培養した。7日間培養後の細胞の写真を図1に示す。
【実施例】
【0024】
図1に示すように、PMAを加えることでヒト神経芽細胞腫の軸索が20μmと大きく伸展していることが明らかとなった。なお、DMSOのみで処理のヒト神経芽細胞腫の軸索は長いものでも2~10μmであった。かかる結果より、PMAを投与することで、軸索を伸展することが可能であることが明らかとなった。
【実施例】
【0025】
[実施例2]
(PMAの濃度)
上記実施例1においては1.0nMの濃度となるようにDMSOで溶解したPMAを用いたが、さらに0.2、0.5、1.0、2.0nMの様々な濃度となるようにDMSOで溶解したPMAを用いて、実施例1と同様に軸索の伸展を調べた。結果を図2に示す。
【実施例】
【0026】
図2中、横軸はPMAの濃度、縦軸は軸索が細胞体の長さの5倍以上になった細胞の割合を示す。なお、軸索の長さ、細胞体の長さは図1に示すように細胞の写真に基づいて測定した。図2から明らかなように、1.0nMが最適なPMA濃度であることが明らかとなった。
【実施例】
【0027】
[実施例3]
(PMAによるアルツハイマー病培養神経細胞モデルの神経突起の伸展)
アルツハイマー病培養神経細胞モデルとしてβアミロイドを神経細胞に添加し、軸索の伸展を調べた。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM培地を加えた6cm dishにヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を2.0×10となるようにまき、さらに4.0nMの濃度となるように神経成長因子(nerve growth factor:NGF)を加えて37℃で48時間培養した。その後、1)DMSOのみ、2)3.0nMの濃度となるようにβアミロイドを添加、3)3.0nMの濃度となるようにβアミロイドを添加+1.0nMの濃度となるようにPMAを添加、4)3.0nMの濃度となるようにβアミロイドを添加+5.0nMの濃度となるようにPMAを添加、の4群に分けてさらに48時間培養した。培養後、3)3.0nMの濃度となるようにβアミロイドを添加+1.0nMの濃度となるようにPMAを添加場合の写真を図3に示す。また、培養後、上記1)~4)それぞれにおいて、軸索の長さが細胞体の長さの10倍以上となっている細胞の割合を計算した結果を図4に示す。図4中、横軸はPMAの濃度、縦軸は神経突起の長さが細胞体の長さの10倍以上となっている細胞の割合(%)である。
【実施例】
【0028】
図4に示すように、PMAの存在により、たとえβアミロイドが存在していたとしても、神経突起が長く維持されている細胞割合が多いことが明らかとなった。かかる結果より、PMAを用いることで、既に細胞内にβアミロイドの蓄積により神経変性疾患を発症した患者の治療も可能である。
【実施例】
【0029】
[実施例5]
(PMA処理による熱ショック転写因子の発現量の変化)
10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM培地を加えた6cm dishにヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を1.0×10となるようにまき、その後1.0nMの濃度となるようにDMSOで溶解したPMA(Sigma-Aldrich社製)、又はコントロールとして等量のDMSOのみを加えた2群に分けてさらに37℃で7日間培養した。7日間培養後の細胞を回収してウェスタンブロット解析を行った。ウェスタンブロット解析には各レーンに30μgのタンパク質をアプライし、電気泳動後、ニトロセルロース膜に転写されたものを解析した。HSF1とHSF2の検出には、過去に本発明者が作製した抗HSF1抗体と抗HSF2抗体を用い、HSP70の検出にはW27抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を用い、内部コントロールのベータアクチンには、M177-3抗体(MBL社製)を用いた。結果を図5に示す。
【実施例】
【0030】
図5に示すように、PMAで処理することにより、タンパク質レベルで熱ショック転写因子であるHSF1及びHSF2、HSP70の発現が増加していることが明らかとなった。HSF1及びHSF2は活性化しても発現量は変わらないというのがこの分野の研究者のコンセンサスであるが、このデータからPMAによる神経細胞保護機構はこれまでに知られたものとは異なる機構であると考えられる。
【実施例】
【0031】
さらに、RT-PCR解析によりHSF1及びHSF2、HSP70のmRNAの発現を調べた。結果を図6に示す。
【実施例】
【0032】
図6に示すように、PMAで処理することにより、mRNAレベルでも熱ショック転写因子であるHSF1及びHSF2、HSP70の発現が増加していることが明らかとなった。また、HSP40、タウのmRNAも増加していることも明らかとなった。上記のように、HSF1及びHSF2は活性化しても発現量は変わらないというのがこの分野の研究者のコンセンサスであるが、このデータからPMAは少なくともHSF1及びHSF2自体の転写を活性化してHSF1及びHSF2の量そのものを増加させる機構を用いて神経細胞を保護しており、この神経細胞保護機構はこれまでに知られたものとは異なる機構であると考えられる。
【実施例】
【0033】
[実施例6]
(PMA処理によるタウタンパク質を発現した軸索の伸展)
正常なタウタンパク質を発現した神経細胞、前頭側頭型認知症(FTLD)の原因となる変異型タウタンパク質(タウタンパク質の406番目のアミノ酸であるアルギニンがトリプトファンに置換)を発現した神経細胞を作製し、PMA処理を行った。
【実施例】
【0034】
(1)正常のタウタンパク質(Tau)を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株の作製
配列番号1に示す塩基配列からなるヒトのタウタンパク質をコードするcDNAをpEGFP-N1ベクターに組み込み、pEGFP-N1-tauベクターを作製した。さらに、前記cDNAのC末端側に緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)のcDNAをつなげ、GFPの蛍光によって可視化出来るタウタンパク質が発現するようにした。さらに上記pEGFP-N1-tau-GFPベクターをpShuttle-CMVベクターに組み込んだ。
【実施例】
【0035】
次に、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を、上記pEGFP-N1-tau-GFPベクターを組み込んだpShuttle-CMVベクターによってトランスフェクションし、正常タウタンパク質を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を作製した。
【実施例】
【0036】
(2)異常タウタンパク質(TauR406W)を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株の作製
上記配列番号1に示す塩基配列からなるcDNAをテンプレートとして、PCR法を用いて、タウタンパク質の406番目のアミノ酸であるアルギニンがトリプトファンに置き換わるように塩基の置換を行い、ヒトの変異型タウタンパク質をコードするcDNAを得た。置換のためのPCRに用いたフォワードプライマーの塩基配列を配列番号2に、リバースプライマーの塩基配列を配列番号3に示す。PCRの条件は、94℃1分、65℃2分、72℃3分を1サイクルとして30サイクル繰り返し、その後72℃5分処理し、その後4℃とした。ポリメラーゼはEx-Taq (タカラバイオ社製)を用いた。PCR産物は、cDNAの塩基配列を調べて正しく変異が入っていることを確認した。かかるヒトの変異型タウタンパク質をコードするcDNAをpEGFP-N1ベクターに組み込み、pEGFP-N1-tauR406Wベクターを作製し、前記cDNAのC末端側に緑色蛍光タンパク質(GFP)のcDNAをつなげ、GFPの蛍光によって可視化出来るタウタンパク質が発現するようにした。さらに上記pEGFP-N1-tauR406W-GFPベクターをpShuttle-CMVベクターに組み込んだ。なお、配列番号1における1240番目の塩基は正常型では「c」であるが、これが「t」に変わることによってタウタンパク質の406番目のアミノ酸のアルギニン(R)がトリプトファン(W)に変化し(R406W:タウタンパク質はアイソフォームが6種類知られており、慣例によりアミノ酸番号は441アミノ酸型最長アイソフォームに準じる)、前頭側頭型認知症(FTLD)の原因となることが知られている。
【実施例】
【0037】
次に、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を、上記pEGFP-N1-tauR406W-GFPベクターを組み込んだpShuttle-CMVベクターによってトランスフェクションし、異常タウタンパク質(TauR406W)を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を作製した。
【実施例】
【0038】
(3)PMA処理による軸索の伸展
10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM培地を加えた6cm dishに、上記で作製した正常タウタンパク質を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株、及び異常タウタンパク質(TauR406W)を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を1.0×10となるようにまき、37℃で24時間培養した。その後1.0nM、2.0nM又は4.0nMの濃度となるようにDMSOで溶解したPMA(Sigma-Aldrich社製)、又はコントロールとして等量のDMSOのみを加えてさらに37℃で7日間培養した。培養後、軸索の長さが細胞体の長さの5倍以上となっている細胞の割合を計算した。結果を図7に示す。図7中、縦軸は軸索の長さが細胞体の長さの5倍以上となっている細胞の割合(%)である。また、白カラムは、コントロールとして等量のDMSOを加えた場合である。
【実施例】
【0039】
図7に示すとおり、PMAは正常タウタンパク質を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株、及び異常タウタンパク質(TauR406W)を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株のいずれにおいても軸索を伸展させることが明らかとなった。したがって、PMAの投与により、前頭側頭型認知症(FTLD)はもちろん、タウタンパク質が関与する神経疾患の予防又は治療が可能であることが明らかとなった。
【実施例】
【0040】
また、軸索は、神経細胞が他の神経細胞あるいは筋肉細胞などの他の細胞に情報を伝達する際に不可欠なものであり、この軸索の伸展が不十分であったり、あるいは変性若しくは切断により機能を失えば生物個体の行動に重篤な制限をもたらす。上記により異常神経細胞の軸索の伸展レベルを正常神経の軸索の伸展と同等までに出来ることが明らかとなり、すでに神経疾患を発症した患者に投与しても脳神経の機能を回復し症状を大幅に抑制出来る可能性がある。
【実施例】
【0041】
[実施例7]
(PDBu処理による軸索の伸展)
ホルボールエステル化合物として実施例1~6ではPMAを用いたが、他のホルボールエステル化合物であるPDBuでも同様な伸展効果があるかどうかを調べた。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM培地を加えた6cm dishに、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y株を1.0×10となるようにまき、37℃で24時間培養した。その後1.0nM、2.0nM又は4.0nMの濃度となるようにDMSOで溶解したPDBu(Sigma-Aldrich社製)、又はコントロールとして等量のDMSOのみを加えてさらに37℃で7日間培養した。培養後、軸索の長さが細胞体の長さの5倍以上となっている細胞の割合を計算した。結果を図8に示す。図8中、縦軸は軸索の長さが細胞体の長さの5倍以上となっている細胞の割合(%)である。また、白カラムは、コントロールとして等量のDMSOを加えた場合である。
【実施例】
【0042】
図8に示すとおり、PMAだけでなく、同じホルボールエステル化合物であるPDBuも軸索を伸展させることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
神経細胞の変性によって引き起こされる神経変性疾患全般に対する治療薬として、使用できる可能性がある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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