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明細書 :ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体、その抗原結合断片、および、その使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-210211 (P2019-210211A)
公開日 令和元年12月12日(2019.12.12)
発明の名称または考案の名称 ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体、その抗原結合断片、および、その使用
国際特許分類 C07K  16/26        (2006.01)
C12N   5/20        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C12N  15/13        (2006.01)
FI C07K 16/26 ZNA
C12N 5/20
G01N 33/53 B
C12N 15/13
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2018-104153 (P2018-104153)
出願日 平成30年5月30日(2018.5.30)
公序良俗違反の表示 1.TWEEN
発明者または考案者 【氏名】岩田 祐之
【氏名】渋谷 周作
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100156443、【弁理士】、【氏名又は名称】松崎 隆
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4H045
Fターム 4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AB05
4B065BA08
4B065BA23
4B065CA25
4B065CA46
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA52
4H045FA72
4H045GA26
要約 【課題】 本発明はウシプロカルシトニン濃度を測定可能な抗体およびそれを用いたウシプロカルシトニンの検出方法の提供を課題とする。
【解決手段】 ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片であって、(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、または、(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片であって、
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、または、
(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、
前記(I)の抗体またはその抗原結合断片が、受領番号NITE AP-02715として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片であり、
前記(II)の抗体またはその抗原結合断片が、以下(i)~(iv)のいずれかである抗体またはその抗原結合断片:
(i)受領番号NITE AP-02711として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(ii)受領番号NITE AP-02712として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(iii)受領番号NITE AP-02713として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、または、
(iv)受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片の組み合わせであって、
請求項1または2に記載の(I)の抗体またはその抗原結合断片と(II)の抗体またはその抗原結合断片とを含む、抗体またはその抗原結合断片の組み合わせ。
【請求項4】
ウシプロカルシトニン検出用キットであって、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合断片の組み合わせを含む、キット。
【請求項5】
敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助するための、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
受領番号NITE AP-02715、受領番号NITE AP-02711、受領番号NITE AP-02712、受領番号NITE AP-02713、または、受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマ。
【請求項7】
試料に含まれるウシプロカルシトニンを検出する方法であって、
(ア)前記試料に含まれるウシプロカルシトニンと下記(I)および(II)の抗体またはその抗原結合断片とを接触させる工程と:
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、
(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、
(イ)前記試料に含まれるウシプロカルシトニンへの抗体またはその抗原結合断片の結合を検出する工程と
を含む検出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の検出方法であって、
前記(I)の抗体またはその抗原結合断片が、受領番号NITE AP-02715として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片であり、
前記(II)の抗体またはその抗原結合断片が、以下(i)~(iv)のいずれかである検出方法:
(i)受領番号NITE AP-02711として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(ii)受領番号NITE AP-02712として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(iii)受領番号NITE AP-02713として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、または、
(iv)受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項7または8に記載の検出方法であって、
サンドイッチELISA法により前記ウシプロカルシトニンを検出する、検出方法。
【請求項10】
被験体における敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する方法であって、
請求項7~9のいずれか一項の検出方法を用いて、被験体の体液由来の試料に含まれるプロカルシトニン濃度を定量的に測定する工程と
測定したプロカルシトニン濃度値に基づき敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する工程と、を含む方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体、その抗原結合断片、および、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は重篤な全身症状を引き起こす病態であり、迅速な診断が必要とされる。しかし、敗血症の検査所見は非感染性の炎症性疾患(自己免疫疾患、がんなど)と重複する検査所見が多く判別が難しい。そこで敗血症の特異的マーカーの開発が望まれていた。近年、敗血症の特異的マーカーとしてカルシトニン(CT)の前駆タンパク質であるプロカルシトニン(PCT)が注目されている。
通常時においては、PCTは甲状腺のC細胞で産生されるが、細胞内で速やかに切断を受け、N末端のアミノプロカルシトニン、中央部のカルシトニン、C末端側のカタカルシンへと分解され、主に中央部のカルシトニンが血中に放出される。一方、敗血症時には細菌のリゾホスファチジルコリン(LPS)や、炎症時に増加するIL-1β、TNF-αなどのサイトカインの働きにより、PCTは全身の細胞において産生され、切断を受けずにPCTの全長の形を留めたまま血中に分泌される。
このように敗血症時にはPCTの血中濃度が急激に上昇し、長期間にわたってPCTの血中濃度が維持される。また、非感染性の炎症疾患やウイルス感染時にはPCTの血中濃度に変化が生じないため、敗血症に対して特異性が高いという利点を有する(非特許文献1)。
【0003】
ハムスターやブタを用いた動物実験において、敗血症罹患時に抗PCT血清を投与することで死亡率が低下したことから(非特許文献2~4)、敗血症時に産生されたPCTが敗血症を悪化させると考えられる。このことから、PCT濃度の測定は敗血症の罹患の診断および予後判定の指標として有用である可能性がある。
【0004】
血中のPCTを特異的に検出するためには、通常時には血中に分泌されないPCTのN末端領域とC末端領域とに特異的な抗体を用いて検出すれば良いと考えられる。しかし、N末端領域またはC末端領域のどちらか片方に当たる抗体を用いて検出することは不十分である。なぜならこの場合には、全長PCTだけでなく、N末端のアミノプロカルシトニンまたはC末端のカタカルシンも認識してしまうことになり、正しいPCT濃度が得られないためである。
【0005】
これまでにPCTを検出するための抗体がいくつか報告されている。例えば、特許文献1には、ヒトPCT(シグナル配列を除く116残基)のN末端側にある25~37番目アミノ酸領域と、C末端側にある53~116番目アミノ酸領域に対して結合するモノクローナル抗体を用いて、サンドイッチ法によりヒトPCTを検出する方法を開示する。また、例えば非特許文献5は、N末端側にある3~21番目のアミノ酸領域と、C末端側にある99~109番目のアミノ酸領域に結合するモノクローナル抗体を用いて、サンドイッチ法によりヒトPCTを検出する方法を開示する。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2015-163877号公報
【0007】

【非特許文献1】Misa Nakamura et al., “Procalcitonin: Mysterious Protein in Sepsis” Journal of Basis & Clinical Medicine (2013) 2(1):7-11
【非特許文献2】Nylen ES et al, “Mortality is increased by procalcitonin and decreased by an antiserum reactive to procalcitonin in experimental sepsis” Crit Care Med. (1998) 26:1001-6.
【非特許文献3】Wagner KE et al., “Early immunoneutralization of calcitonin precursors attenuates the adverse physiologic response to sepsis in pigs” Crit Care Med (2002) 30:2313-21.
【非特許文献4】Martinez JM et al., “Late immunoneutralization of procalcitonin arrests the progession of lethal porcine sepsis” Surg Infect (2001) 2(3): 193-202
【非特許文献5】Kramer P. M. et al., “Development and characterization of new rat monoclonal antibodies for procalcitonin” Anal Bioanal Chem. (2008) Oct, 392(4): 727-36. doi: 10.1007/s00216-008-2321-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
敗血症の罹患の診断および予後診断を確度高く簡易に行う方法は、ウシなどの家畜を扱う畜産業においても重要な課題である。本発明は、敗血症の特異的マーカーとして近年注目されるプロカルシトニンの臨床応用に向け、ウシプロカルシトニン(boPCT)濃度を測定可能な抗体およびそれを用いたウシプロカルシトニンの検出方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはまず、上記課題解決のためにヒトプロカルシトニンに対する抗体の応用を検討した。そこでヒトプロカルシトニンとウシプロカルシトニンとのアミノ酸配列を比較し、アミノ酸配列間の同一性を確認した。その結果、アミノ酸配列間の同一性は約60%程度と低いものであり(図1)、ヒトプロカルシトニンを認識する抗体をそのままウシプロカルシトニンの検出に用いることは難しいと推察された。そこで本発明者らは、ウシプロカルシトニンのN末端領域とC末端領域とを認識する抗体を新たに作製することを試みた。
具体的には、大腸菌を用いてチオレドキシン-ヒスチジンタグ(Trx-Hisタグ)を付加したウシプロカルシトニン(以下Trx-His-boPCT)を調製し、この精製Trx-His-boPCTをマウスへの免疫に利用することでTrx-His-boPCTに特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得た。ELISA法によるスクリーニングを行った結果、anti-boPCTモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを5クローン(1C11, 1A8, 1A3, 1E12, 2E4)得ることができた。これらの抗体のエピトープ解析をウエスタンブロット法およびELISA法を用いて行った結果、2E4はN末端領域(アミノ酸26~96)を認識したのに対し、残る4種の抗体はC末端領域(87~143)を認識した。さらに、得られたN末端領域を認識する抗体とC末端領域を認識する抗体とを用いたサンドイッチELISA法を行うことで、ウシプロカルシトニンの検出および定量に成功した。
本発明は上記知見により完成に至ったものであり、以下の態様を含む。
【0010】
本発明は一態様において、
〔1〕ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片であって、
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、または、
(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片に関する。
ここで、本発明に係る抗体またはその抗原結合断片は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、
前記(I)の抗体またはその抗原結合断片が、受領番号NITE AP-02715として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片であり、
前記(II)の抗体またはその抗原結合断片が、以下(i)~(iv)のいずれかであることを特徴とする:
(i)受領番号NITE AP-02711として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(ii)受領番号NITE AP-02712として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(iii)受領番号NITE AP-02713として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、または、
(iv)受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片。
【0011】
また、本発明は別の態様において、
〔3〕ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片の組み合わせであって、
上記〔1〕または〔2〕に記載の(I)の抗体またはその抗原結合断片と(II)の抗体またはその抗原結合断片とを含む、抗体またはその抗原結合断片の組み合わせに関する。
【0012】
また、本発明は別の態様において、
〔4〕ウシプロカルシトニン検出用キットであって、上記〔3〕に記載の抗体またはその抗原結合断片の組み合わせを含む、キットに関する。
ここで、本発明に係るキットは、一実施の形態において、
〔5〕敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助するための、上記〔4〕に記載のキットであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は別の態様において、
〔6〕受領番号NITE AP-02715、受領番号NITE AP-02711、受領番号NITE AP-02712、受領番号NITE AP-02713、または、受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマに関する。
【0014】
また、本発明は別の態様において、
〔7〕試料に含まれるウシプロカルシトニンを検出する方法であって、
(ア)前記試料に含まれるウシプロカルシトニンと下記(I)および(II)の抗体またはその抗原結合断片とを接触させる工程と:
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、
(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、
(イ)前記試料に含まれるウシプロカルシトニンへの抗体またはその抗原結合断片の結合を検出する工程と
を含む検出方法に関する。
ここで、本発明に係る試料に含まれるウシプロカルシトニンを検出方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔7〕に記載の検出方法であって、
前記(I)の抗体またはその抗原結合断片が、受領番号NITE AP-02715として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片であり、
前記(II)の抗体またはその抗原結合断片が、以下(i)~(iv)のいずれかであることを特徴とする:
(i)受領番号NITE AP-02711として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(ii)受領番号NITE AP-02712として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、
(iii)受領番号NITE AP-02713として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片、または、
(iv)受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体またはその抗原結合断片。
また、本発明に係る試料に含まれるウシプロカルシトニンを検出方法は、一実施の形態において、
〔9〕上記〔7〕または〔8〕に記載の検出方法であって、
サンドイッチELISA法により前記ウシプロカルシトニンを検出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は別の態様において、
〔10〕被験体における敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する方法であって、
上記〔7〕~〔9〕のいずれかの検出方法を用いて、被験体の体液由来の試料に含まれるプロカルシトニン濃度を定量的に測定する工程と
測定したプロカルシトニン濃度値に基づき敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する工程と、を含む方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片によれば、N末端側を認識する抗体またはC末端側を認識する抗体と共に用いることで、試料中のウシプロカルシトニンをその分解物であるアミノプロカルシトニンおよびカタカルシンと区別して検出・定量することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ヒトプロカルシトニンとウシプロカルシトニンとのアミノ酸配列の比較を示した図である。
【図2】図2は、下記実施例「1.抗体の作製」において用いたウシプロカルシトニンの塩基配列およびアミノ酸配列と、当該ウシプロカルシトニンを組み込んだ大腸菌発現用プラスミドマップを示す。
【図3】図3は、下記実施例「1.抗体の作製」において大腸菌内で発現させたTrx-His-boPCTを、His GraviTrapTM(GE healthcare)を用いて精製し、ウェスタンブロット法で確認した結果を示す画像である。
【図4】図4は、下記実施例「1.抗体の作製」におけるBALB/cマウスの免疫プロトコル#1および#2の各スケジュールを示す概念図である。
【図5】図5は、下記実施例「2-1.直接ELISA法」において、1A3、1A8、1C11、1E12、2E4のそれぞれの抗体とboPCT全長、N末端側断片、または、C末端側断片との認識をELISA法により測定した結果を示すグラフである。
【図6】図6は、下記実施例「2-2.ウェスタンブロット法」において、1A3、1A8、1C11、1E12、2E4のそれぞれの抗体とboPCT全長、N末端側断片、または、C末端側断片との認識をウェスタンブロット法により検出した結果を示す画像である。
【図7】図7は、下記実施例「3.サンドイッチELISA法によるウシプロカルシトニンの検出」において精製した抗boPCTモノクローナル抗体について、SDS-PAGEとクマシーブリリアントブルー染色した画像を示す。
【図8】図8は、下記実施例「3-1.サンドイッチELISA法」の原理を示す概念図である。
【図9】図9は、下記実施例「3-1.サンドイッチELISA法」において、抗boPCTモノクローナル抗体として2E4(N末側認識)および1A8(C末側認識)を用いて精製Trx-His-boPCTを検出した際の450nmの吸光度を示すグラフである。
【図10】図10は、下記実施例「3-1.サンドイッチELISA法」において、抗boPCTモノクローナル抗体として2E4(N末側認識)および1A8(C末側認識)を用いて精製boPCTを検出した際の450nmの吸光度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は一態様において、ウシプロカルシトニンを特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片を提供する。当該抗体またはその抗原結合断片は、下記(I)または(II)のように特定することができる:
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片、または、
(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体またはその抗原結合断片。

【0019】
本明細書において「ウシプロカルシトニン」とは、カルシウム代謝に重要な副甲状腺ホルモンであるカルシトニンの前駆体タンパク質であって、ウシ生体内で産生されるタンパク質である。ウシプロカルシトニンの合成は、143残基のアミノ酸からなる前駆体ペプチドであるプレプロカルシトニン(プレPCT)(配列番号1に示されるアミノ酸配列;図2)の翻訳により開始される。ウシプロカルシトニンは、シグナルペプチド(プレPCTの1~25番目のアミノ酸からなる領域)の脱離後に形成される118残基のアミノ酸からなるタンパク質をいう。上述のように、通常時においてウシプロカルシトニンは甲状腺のC細胞で産生され、細胞内で速やかに切断を受ける。すなわち、N末端のアミノプロカルシトニン(配列番号1における26~84番目のアミノ酸からなる領域)、中央部のカルシトニン(配列番号1における87~118番目のアミノ酸からなる領域)、C末端側のカタカルシン(配列番号1における123~143番目のアミノ酸からなる領域)へと分解される。そして主に中央部のカルシトニンが血中に放出される。一方、敗血症罹患時にはウシプロカルシトニンは全身の細胞において産生され、上記の切断を受けずにアミノプロカルシトニン、カルシトニン、および、カタカルシンの領域を有するウシプロカルシトニンの形を留めたまま血中に分泌される。

【0020】
また本明細書において「ウシプロカルシトニン」は配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~143番目のアミノ酸配列からなるタンパク質に加え、その変異体を含む。ここで、「変異体」とはウシプロカルシトニンのアミノ酸配列において1または複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個)のアミノ酸残基の置換、欠失、および/または付加を含み、実質的にウシプロカルシトニンと同じ抗原性を有するペプチドを意味する。ここで「実質的に」とはウシプロカルシトニンの発現によって特徴付けられる敗血症の診断に使用され得る程度に、抗ウシプロカルシトニン抗体によって特異的に認識されるような特異性の程度を意味する。変異体の典型的な例には、遺伝子型多型やスプライシングなどによる配列変化を挙げることができる。

【0021】
本発明に用いられる抗体はイムノグロブリンであり、例えばIgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、および、IgMのクラスまたはサブクラスのイムノグロブリンを含む。また当該抗体の軽鎖の定常領域はλまたはκのいずれでもよく、好ましくはκである。本発明に用いる抗体は、モノクローナルまたはポリクローナル抗体とすることができ、好ましくはモノクローナル抗体である。
また、本発明に係る抗体はキメラ化抗体やヒト化抗体のように構造の一部が改変されていてもよく、またウシプロカルシトニンの検出のため蛍光標識などで修飾されていてもよい。抗体のキメラ化やヒト化、蛍光色素や化学発光色素による標識化は公知の手法に準じて適宜実施することができる。標識に用いる蛍光色素や化学発光色素は特に制限されず、抗体の標識に用いられる公知の色素を用いることができる。
また本発明に係る抗体またはその抗原結合断片は、以下に限定されないが、好ましくは2.0 ng/ml以上、より好ましくは0.5ng/ml以上の抗体濃度の使用でウシプロカルシトニンを測定可能なものである。

【0022】
ここで、本発明に係る抗体は一実施の形態において、(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する。配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸からなる領域は、シグナルペプチドが脱離した後のウシプロカルシトニンのN末端領域に相当する。また当該(I)の抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列からなる領域を認識しない。よって、当該(I)の抗体はウシプロカルシトニンのN末端領域を特異的に認識する。
また、本発明に係る抗体の一実施の形態は、(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する。配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸からなる領域は、シグナルペプチドが脱離した後のウシプロカルシトニンのC末端領域に相当する。また、当該(II)の抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列からなる領域を認識しない。よって、当該(II)の抗体は、ウシプロカルシトニンのC末端領域を特異的に認識する。

【0023】
なお、(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列における26~96番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体としては、以下に限定されないが、受領番号NITE AP-02715として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体(本明細書においては便宜的に2E4という)を用いることができる。
また、(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列における87~143番目のアミノ酸配列内に含まれるエピトープを認識する抗体としては、以下に限定されないが、(i)受領番号NITE AP-02711として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体(本明細書においては便宜的に1A3という)、(ii)受領番号NITE AP-02712として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体(本明細書においては便宜的に1A8という)、(iii)受領番号NITE AP-02713として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体(本明細書においては便宜的に1C11という)、または、(iv)受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体(本明細書においては便宜的に1E12という)を用いることができる。

【0024】
本発明に使用する抗体は、以下に詳述するように、動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの哺乳動物)を免疫化し、血清または脾臓細胞を回収することを含む、従来の方法により作製することができる。このような動物の免疫感作による抗体の作製方法は公知であり、以下に制限されないが、例えば下記のようにして行うことができる。まずウシプロカルシトニンのリコンビナントペプチド(好ましくは、Thioredoxin-His等の可溶化および/または精製タグを付加したウシプロカルシトニン)を、大腸菌等を用いて合成するためのベクターを構築する。次いで、当該ベクターを宿主細胞へ導入し、培養によりウシプロカルシトニンの合成を促す。次いで、培養物として回収したウシプロカルシトニンを精製し、フロイントの完全アジュバント等の適当なアジュバントに乳濁し、マウス等の哺乳動物の免疫に用いる。免疫は、上記乳濁液を数週間おきに免疫された哺乳動物の腹腔、皮下または静脈に数回繰り返し接種することにより行なうことができる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水などから抗血清として採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、公知の手法に準じて行うことができる。例えば、抗血清中の抗体価の測定は、標識化したウシプロカルシトニンと抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。

【0025】
また、モノクローナル抗体は、上記の免疫感作の方法における最終免疫から3日~5日後に哺乳動物より脾臓を取り出し、抗体産生細胞を回収する。この時同時に、抗体産生細胞と融合させてハイブリド-マを得るための親細胞として、適切なマ-カ-を持つミエロ-マ細胞株を用意し、これと抗体産生細胞とを融合させてハイブリド-マを作製する。バイブリド-マ作製における培地として、イ-グルMEM、ダルベッコ変法培地、RPMI-1640などの通常良く使用されているものを用いることができる。融合にあたってはまず、親細胞であるミエロ-マと脾細胞を約1:5の割合で用意する。融合剤としてはポリエチレングリコ-ル(PEG)を50%濃度で用いるのが融合率が高いとされている。融合株はHAT選択法により選択できる。生じるハイブリド-マのスクリ-ニングは培養上清を用い、直接ELISA法などの既知の方法により行ない、目的の免疫グロブリンを分泌しているハイブリドーマのクロ-ンを選択する。ハイブリド-マの単一性を担保するには、96ウエルなどの細胞培養プレ-トにハイブリド-マを1穴に1個より多くならないように蒔き、生育してくるクロ-ンについて再びスクリ-ニングを行なう。このサブクロ-ニングを繰り返すことにより、単一性のハイブリド-マを得ることができる。

【0026】
抗体の分離精製は、公知の免疫グロブリンの分離精製法(例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法)に従って行うことができる。

【0027】
得られたモノクローナル抗体のエピトープは公知の手法により確認することができる。例えば、エピトープの候補となるペプチドを複数作製し、当該ペプチドを用いた直接ELISA法やウェスタンブロッティング法によりモノクローナル抗体のエピトープを確認することができる。

【0028】
本発明は、上述する抗体に由来する抗原結合断片も提供する。抗原結合断片とは、由来する抗体が有するエピトープに対する特異的な認識能を維持している抗体の断片をいう。このような抗原結合断片以下に限定されないが、例えば具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、単鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)、もしくはCDRを含むペプチドのような抗体の機能的断片、ダイアボディ(Diabodies)、および、ミニボディ(Minibodies)などが挙げられる。なお、ジスルフィド安定化V領域断片は、VおよびV中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをシステイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。このような抗原結合性断片の作製方法は当業者に公知である。

【0029】
また本発明に係る抗体は、分解後のカルシトニンなどの偽陽性を避け、ウシプロカルシトニンの濃度を正確に測定するために、ウシプロカルシトニンの(I)N末端領域を特異的に認識する抗体と、(II)C末端領域を特異的に認識する抗体とを組み合わせて用いる。
上述のように、一実施の形態においては、(I)N末端領域を特異的に認識する抗体として2E4を用いることができ、(II)C末端領域を特異的に認識する抗体として1A3、1A8、1C11、および、1E12を用いることができる。2E4の抗体は、1A3、1A8、1C11、および、1E12のいずれの抗体と組み合わせて用いてもよい。以下に限定されないが好ましくは、(I)N末端領域を特異的に認識する抗体として2E4と、(II)C末端領域を特異的に認識する抗体として1A8との組み合わせを挙げることができる。

【0030】
本発明は一態様において、試料に含まれるウシプロカルシトニンを検出する方法を提供する。
本発明に係るウシプロカルシトニンを検出する方法は、(ア)試料に含まれるウシプロカルシトニンと上記(I)および(II)の抗体またはその抗原結合断片とを接触させる工程と、(イ)前記試料に含まれるウシプロカルシトニンへの抗体またはその抗原結合断片の結合を検出する工程とを含む。

【0031】
ここで試料に含まれるウシプロカルシトニンは合成したものであっても、生体由来のものであってもよい。好ましくは試料中のウシプロカルシトニンは生体由来のものである。生体由来のウシプロカルシトニンを含む試料としては、例えばウシ由来の体液を用いることができ、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、痰、及び胸水などを挙げることができる。または、これら体液に由来する精製物や抽出物などであってもよい。
また、本発明の検出方法は、試料中にアミノプロカルトシトニン、カルトシトニン、および/またはカタカルシンが含まれていてもよい。そのような場合であってもウシプロカルトシトニンのみを区別して検出または定量可能である。

【0032】
本発明のウシプロカルシトニンを検出する方法は、上記工程(ア)および(イ)を含む。工程(ア)において、上記(I)および(II)の抗体またはその抗原結合断片を、試料中のウシプロカルトシニンと接触させ、当該ウシプロカルトシニンのN末端領域およびC末端領域へそれぞれ結合させる。その後、工程(イ)によりウシプロカルトシトニンに結合した(I)および(II)の抗体またはその抗原結合断片を検出する。
本発明の検出方法における工程(ア)および(イ)は、公知の抗体を用いた検出手法に準じて実施することができる。本発明のウシプロカルシトニンを検出する方法に用いることのできる検出方法としては、以下に制限されないが、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光及び蛍光イムノアッセイ、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ルミネックスに基づいた(Luminex-based)ビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、および、例えば、免疫イムノクロマトグラフィー試験紙などの高速試験形式などの様々な形式のイムノアッセイを含む。当業者であればこれら採用する公知の検出手法に応じて、工程(ア)および工程(イ)の条件を適宜設定することができる。
好ましい一実施の形態において採用される検出手法はサンドイッチ法によるイムノアッセイであり、より具体的にはサンドイッチELISA法である。例えば、サンドイッチELISA法においてウシプロカルシトニンを検出する場合、(I)N末端領域を特異的に認識する抗体と、(II)C末端領域を特異的に認識する抗体とをウシプロカルトシニンに結合させる。(I)N末端領域を特異的に認識する抗体と(II)C末端領域を特異的に認識する抗体とのいずれを第一抗体または第二抗体として用いてもよいが、第一抗体は固相、例えばビーズ、ウェル又は他の容器の表面、チップ又はストリップに結合して用いることができる。固相化した第一抗体に対して、ウシプロカルシトニンを接触させて結合させ、当該ウシプロカルシトニンに対してさらに第二抗体を結合させる。第二抗体は、例えば色素、放射性同位体、又は反応性又は触媒活性部分で標識された抗体とすることができる。次いで、検体と結合した標識された第二抗体の量は、好適な方法により測定される。例えば下記実施例に記載するように、第二抗体にビオチンを修飾しておくことで、アビジン-HRP、市販のTMB-ペルオキシダーゼ基質キット、マイクロプレートリーダーなどを用いて酵素反応による発色反応の吸光度を測定し、ウシプロカルシトニンを定量することができる。サンドイッチイムノアッセイに関連した一般的な検出および定量手法は確立されており、当業者であれば適宜条件を設定して実施することができる。

【0033】
また、別の検出方法としては、一方の抗体に蛍光又は化学発光の消光または増幅に基づく標識系の一部が標識しておき、もう一方の抗体に当該消光または増幅に影響する標識系を標識させておき、ウシプロカルシトニンに双方の抗体が結合することにより変化する蛍光または発光の消光または増幅を測定する公知の手法なども採用することができる。

【0034】
本発明は別の態様において、被験体における敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する方法を提供する。当該敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する方法は、上述のウシプロカルシトニンの検出方法により被験体の体液由来の試料に含まれるプロカルシトニン濃度を定量的に測定する工程と、測定したプロカルシトニン濃度値に基づき敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する工程とを含む。
「敗血症の罹患の可能性または予後の状態の診断を補助する」とは、体液中に存在するウシプロカルシトニンの量を測定することにより、敗血症に罹患しているか否か、または、敗血症治療後における予後の状態の診断において補助となるデータを提供することを意味する。例えば、ウシの体液中に存在するウシプロカルシトニンの量を測定し、敗血症に罹患しているか否かの判断は公知の情報に基づき行うことができる(例えば、Nazli Ercan et al., “Diagnostic value of serum procalcitonin, neopterin, and gamma interferon in neonatal calves with septicemic colibacillosis” (2016) Journal of Veterinary Diagnostic Investigation, Vol. 28(2) 180-183参照)。

【0035】
本発明は一態様において、ウシプロカルシトニン検出用キットを提供する。本発明に係るキットは、上述する(I)N末端領域を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片と、(II)C末端領域を特異的に認識する抗体またはその抗原結合断片との組み合わせを含む。また、本発明に係るキットは、ウシプロカルシトニンを検出するために必要なその他の試薬や器具などを含むことができる。以下に限定されないが、例えば、標識物質や抗体又はその標識物を固定した固相化試薬などを含めることができる。その他、本発明の検出方法等を実施するための各種バッファーや各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、ブロッキング剤、実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよい。

【0036】
本発明は一態様において、(I)受領番号NITE AP-02715として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマ、(II)(i)受領番号NITE AP-02711として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマ、(ii)受領番号NITE AP-02712として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成305月16日付けで寄託されたハイブリドーマ、(iii)受領番号NITE AP-02713として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマ、または(iv)受領番号NITE AP-02714として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成30年5月16日付けで寄託されたハイブリドーマを提供する。
本発明により提供されるハイブリドーマは生体内または生体外において培養することができ、その回収物または培養物から(I)N末端領域を特異的に認識する抗体、または、(II)C末端領域を特異的に認識する抗体を得ることができる。ハイブリドーマを生体内または生体外で培養する手法は公知であり、当業者であれば公知の手法に従い適宜実施することができる。例えば、生体外で培養する場合、培地は通常用いられる培地に血清を添加したものでよく、この培地で数日培養の後、培養上清からモノクロ-ナル抗体を得ることができる。また、生体内で培養する場合には、ハイブリド-マをマウスなどの哺乳動物の腹腔に接種し、1~3週間後に腹水を採取し、これよりモノクロ-ナル抗体を得ることができる。

【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(1.抗体の作製)
Thioredoxin-His(Trx-His)タグを付加したウシプロカルシトニン(bovine procalcitonin, boPCT)のリコンビナントタンパク質(Trx-His-boPCT)を精製するため、pET32aプラスミド(Novagen)のEcoRV/XhoI制限酵素サイトにboPCTを組み込んだ大腸菌発現用プラスミドを作製した(図2;またboPCTの塩基配列およびアミノ酸配列も図2中に示す)。このプラスミドをBL-21大腸菌(Novagen)に導入し、1 mM isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside (IPTG)によりboPCTの発現を誘導した。IPTGによる発現誘導および培養の後、大腸菌を結合バッファー(300 mM NaCl, 50 mM sodium phosphate, pH 7.4)に懸濁し、3分間の超音波処理を5回行った。その後、12,000 × g 、4℃で10分間遠心し、上清中のTrx-His-boPCTをHis GraviTrapTM (GE healthcare) を用いて精製した(図3)。精製タンパク質の濃度はProtein assay dye reagent concentrate (Bio-Rad)を用いて測定した。
【実施例】
【0039】
4匹のBALB/cマウス(雄、7週齢)を協和キリンプラス株式会社から購入し、購入から1週間後に免疫に用いた(図4)。免疫初日(Day 0)には、各マウスに50 μgの精製Trx-His-boPCTタンパク質(0.5~1.0 mg/ml)と等量の完全フロイントアジュバント(complete Freund’s adjuvant (CFA))(Difco)と混合したものを腹腔内注射した。4匹のマウスの内、1匹のマウスについては図4のプロトコル#1に示すように、Day 14には50 μgの精製Trx-His-boPCTタンパク質と等量の不完全フロイントアジュバント(incomplete Freund’s adjuvant (IFA))(Difco)を混合したものを腹腔内投与し、Day 28には50 μgの精製Trx-His-boPCTタンパク質を当量のPBSを混合したものを腹腔内投与した。4匹のマウスの内、残りの3匹については図4のプロトコル#2に示すように、Day 14およびDay 28に50 μgの精製Trx-His-boPCTタンパク質と等量の不完全フロイントアジュバントを混合したものを腹腔内投与し、Day 42に50 μgの精製Trx-His-boPCTタンパク質を当量のPBSを混合したものを腹腔内投与した。全てのマウスについて、最終免疫の3日後に麻酔下で採血し、安楽死後に脾臓を摘出した。採取した血液は37℃で1時間静置した後、4℃で一晩静置した。その後、8,500 × g、4℃で15分間遠心し、上清を抗血清として抗体作製確認のための実験に使用した。摘出した脾臓は0.8% NH4Clを含むトリス緩衝液(pH 7.6)で処理することで溶血させ、残った脾細胞をNS-1培地(RPMI-1640培地(Wako)に10%ウシ胎児血清、2 mM L-グルタミン、1 mM ピルビン酸ナトリウム、50 IU/ml ペニシリン、50 μg/ml ストレプトマイシンを追加)に再懸濁した。再懸濁後、得られた脾細胞はマウスミエローマP3U1細胞と5:1の割合(細胞数)で混合し、800 × g、室温で5分間遠心した。遠心処理後、ウシ胎児血清を含まないNS-1培地にて1回洗浄した。これらの細胞に1 mlの50% (w/v) ポリエチレングリコール4000 (Merck)を激しく混和しながら加えた後、10 mlのRPMI-1640培地を加え、170 × g、室温で5分間遠心した。その後、細胞をHAT選択培地(NS-1培地にHAT supplement(Gibco;100 μM ヒポキサンチン、 0.4 μM アミノプテリン、 16 μM チミジンを含む)を追加)に5 × 106 cells/mlの密度で再懸濁し、96ウェル平底プレート(Iwaki)に100 μl/well (5 × 105 cells/well)で加え、CO2インキュベーター(37℃、5% CO2)で培養した。培養4日目と6日目には50 μlのHAT選択培地を各ウェルに追加した。直接ELISA法により培養上清中の抗boPCT抗体の有無を調べ、抗boPCT抗体の産生が確認されたウェルについては、HT培地(RPMI-1640培地にHT supplement (Gibco:100 μMヒポキサンチン、16 μMチミジンを含む)を追加)を適宜追加しながら培養を続け、Briclone(大日本住友ファーマ)を加えたHT培地で限界希釈を2回行うことでハイブリドーマのクローニングを行った。得られたクローンはバンバンカー(日本ジェネティクス)を用い、-80℃で凍結保存した。
【実施例】
【0040】
(2.エピトープの決定)
クローン化されたハイブリドーマはNS-1培地で培養し、その培養上清をエピトープ解析に用いた。エピトープ解析はリコンビナントTrx-His-boPCT(全長、N末端側フラグメント、C末端側フラグメント)タンパク質を抗原として、直接ELISA法(図5)およびウェスタンブロット法(図6)により行った。なお、N末端側フラグメントは配列番号1におけるアミノ酸配列の26~96番目のアミノ酸からなり、C末端側フラグメントは配列番号1におけるアミノ酸配列の87~143番目のアミノ酸からなる。
【実施例】
【0041】
(2-1.直接ELISA法)
抗原として用いる精製Trx-His-boPCTタンパク質は炭酸バッファー(100 mM 炭酸ナトリウム、100 mM 炭酸水素ナトリウム、pH 8.7)に希釈した後、200 ng/wellのTrx-His-boPCTタンパク質を96ウェル平底プレート(NUNC)に加え、4℃で一晩静置した。0.1% Tween-20を含むPBS(-)(PBS-T)でプレートを1回洗浄した後、2%ゼラチン(Bio-Rad)を含むPBS(-)を加え37℃で30分間静置することによりブロッキングを行った。プレートをPBS-Tで3回洗浄した後、50 μlのハイブリドーマ培養上清を加え、37℃、30分間静置した。プレートをPBS-Tで3回洗浄し、PBS(-)で1:5000希釈したHRP付加Goat anti-mouse IgG(Jackson ImmunoResearch)を加え、37℃、30分間静置した。プレートをPBS-Tで3回洗浄した後、TMB peroxidase EIA substrate kit (Bio-Rad)により発色を行い、iMarkマイクロプレートリーダー(Bio-Rad)を用いて450 nmの吸光度を測定した。
その結果を図5に示す。各ハイブリドーマから産生される抗体のうち、boPCTを認識したモノクローナル抗体をそれぞれ2E4、1A3、1A8、1C11、1E12と表記する。図5に示すように、1A3、1A8、1C11、1E12は全長boPCTおよびC末端側フラグメントを認識した。また、2E4は全長boPCTおよびN末端側フラグメントを認識した。
【実施例】
【0042】
(2-2.ウェスタンブロット法)
Trx-His-boPCTを含むタンパク質サンプルは等量の2×SDSサンプルバッファーと混合し、12%アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEによりタンパク質を分離した。その後、polyvinylidene difluoride (PVDF)メンブレン(Merck-Millipore)に転写し、2%スキムミルクを含むPBS-T中で振盪することでブロッキングを行った。メンブレンを1次抗体(2%スキムミルクを含むPBS-Tで希釈)に浸し、4℃で16時間静置した。メンブレンをPBS-Tで3回洗浄し、PBS-Tで1:5000に希釈した2次抗体(HRP付加Goat anti-mouse IgG(Jackson ImmunoResearch))に浸し、室温で1時間振盪した。メンブレンをPBS-Tで3回洗浄した後、発光基質(EzWestLumi plus(Atto))を用いて発光反応を行い、LAS-3000 mini(富士フィルム)を用いて発光を検出した。
その結果を図6に示す。図6に示すように、ウェスタンブロット法においてもELISA法の結果と同様に、1A3、1A8、1C11、1E12は全長boPCTおよびC末端側フラグメントを認識し、N末端側フラグメントを認識しなかった。また、2E4は全長boPCTおよびN末端側フラグメントを認識し、C末端側フラグメントを認識しなかった。
ELISA法とウェスタンブロット法の結果を下記表1にまとめる。
【実施例】
【0043】
【表1】
JP2019210211A_000002t.gif
また、得られたハイブリドーマにより産生される抗体のアイソタイプ(重鎖および軽鎖)を調べた結果を下記表2に示す。これらの抗体のアイソタイプを確認したところ、免疫グロブリン重鎖は1C11がIgG1、残る4種がIgG2bであり、軽鎖は全ての抗体でκであった。
【表2】
JP2019210211A_000003t.gif
【実施例】
【0044】
(3.サンドイッチELISA法によるウシプロカルシトニンの検出)
ハイブリドーマ培養上清をHiTrap Protein G HPカラム(1 mlカラムボリューム、GE healthcare)に通過させ、製品の説明書に記載の方法に従って、Protein Gに結合した抗体分子を回収することにより抗boPCTモノクローナル抗体を精製した。得られたモノクローナル抗体はProtein assay dye reagent concentrate(Bio-Rad)を用いて濃度を測定し、SDS-PAGEとクマシーブリリアントブルー染色により分子量および精製度を確認した(図7)。
精製したモノクローナル抗体のうち、boPCTのN末側を認識する2E4を検出抗体として用いるため、biotin labeling kit-NH2(同仁化学)を用いて、製品の説明書に従ってビオチン化を行った。100 μgの精製モノクローナル抗体(2E4)をNH2反応性ビオチンと混合し、37℃にて10分間静置した後、200 μlのWSバッファーを用いて回収した。ビオチン化モノクローナル抗体の反応性については、ウェスタンブロット法において、メンブレン上のTrx-His-boPCTをビオチン化抗boPCT抗体とアビジン-HRPにより検出することで確認した(図8)。
【実施例】
【0045】
(3-1.サンドイッチELISA法)
補足抗体として用いた精製抗boPCTモノクローナル抗体(1A8、C末端側認識)は炭酸バッファー(100 mM 炭酸ナトリウム、100 mM 炭酸水素ナトリウム、pH 8.7)を用いて6 μg/mlの濃度に希釈した。希釈した抗体を96ウェル平底プレートに300 ng/well(50 μl/well)加え、4℃で一晩静置することにより補足抗体の固相化を行った。プレートを1回PBS-Tで洗浄した後、2%ゼラチンを含むPBS(-)を加え37℃で30分間静置することによりブロッキングを行った。プレートを3回PBS-Tで洗浄し、様々な濃度の50 μl/wellの精製Trx-His-boPCTまたは精製boPCT(Cusabio)を加え、37℃で90分間静置した。プレートを3回PBS-Tで洗浄し、炭酸バッファーで1:50に希釈したビオチン化抗boPCTモノクローナル抗体(2E4、N末端側認識)を50 μl/well加え、37℃で1時間静置した。プレートを3回PBS-Tで洗浄し、炭酸バッファーで1:2000に希釈したアビジン-HRPを50 μl/well加え、37℃で1時間静置した。プレートを3回PBS-Tで洗浄した後、TMB peroxidase EIA substrate kit(Bio-Rad)を用いて発色反応を行い、iMarkマイクロプレートリーダー(Bio-Rad)を用いて450 nmの吸光度を測定した。
【実施例】
【0046】
精製Trx-His-boPCTの検出結果を図9に、精製boPCTの検出結果を図10に示す。図9および図10に示すように、精製Trx-His-boPCTおよび精製boPCTの濃度に相関して吸光度が変化し、検量線を作成することができた。この結果は、上記実施例により得られたハイブリドーマにより産生されるC末端側を認識する抗体とN末端側を認識する抗体を用いたサンドイッチELISA法により、ウシプロカルシトニンを検出または定量可能であることを示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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