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明細書 :癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤及び癌治療用医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-045303 (P2020-045303A)
公開日 令和2年3月26日(2020.3.26)
発明の名称または考案の名称 癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤及び癌治療用医薬組成物
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/7048      (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI A61K 45/00
A61K 31/713
A61K 31/7105
A61K 31/7088
A61P 43/00 111
A61K 31/7048
C12N 15/113 ZNAZ
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2018-173611 (P2018-173611)
出願日 平成30年9月18日(2018.9.18)
発明者または考案者 【氏名】恒富 亮一
【氏名】永野 浩昭
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
Fターム 4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
要約 【課題】本発明の課題は、癌細胞、特に癌幹細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤を提供することにある。
【解決手段】(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子;(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物;の(I)又は(II)のいずれかを有効成分とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤を作製する。癌幹細胞が、肝癌の癌幹細胞であることや、免疫チェックポイント因子が、PD-L1又はPD-L2であることが好ましい。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(I)又は(II)のいずれかを有効成分とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子;
(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物;
【請求項2】
癌細胞が、癌幹細胞であることを特徴とする請求項1記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
【請求項3】
癌幹細胞が、肝癌の癌幹細胞であることを特徴とする請求項1又は2記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
【請求項4】
免疫チェックポイント因子が、PD-L1又はPD-L2であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
【請求項5】
核酸分子がsmall
interfering RNA(siRNA)、micro RNA、small hairpin RNA(shRNA)、guide RNA(gRNA)、アンチセンス核酸、又はリボザイムからなる群から選択される少なくとも1種の核酸分子であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
【請求項6】
核酸分子がsiRNAであることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤と、薬理学的に許容される添加物を含有する癌治療用医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞、特に癌幹細胞特性を有する癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤や、癌治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自己複製能、多分化能、造腫瘍能、再発、転移能、又は治療抵抗性などを持つ癌の根本ともいえる癌幹細胞(cancer stem cells)の存在が報告されてきた。癌幹細胞の中には、薬剤耐性を獲得しているものがあるという報告もあり(非特許文献1参照)、治療によって大部分の癌細胞を除いても、ごく少数の癌幹細胞が生き残っていれば再発や転移が生じる可能性が高くなると考えられている。そのため、癌治療において、癌細胞だけでなく癌幹細胞も治療標的とすることが注目され、癌幹細胞をターゲットとする新たな癌治療の概念が報告されている。癌細胞と同時に癌幹細胞も除去することができれば、癌の再発や転移の防止にも有用な治療法の開発につながることが期待されている。
【0003】
しかしながら、癌幹細胞は癌細胞集団において極めて少数であるということだけでなく、癌細胞における不均一性(heterogeneity)と同様に、癌幹細胞においても不均一性があることが分かってきており、コンセプトに基づく癌治療法の開発は困難であった。また、癌幹細胞の研究の困難な点は、癌組織中の癌幹細胞の割合が少ないため、多くの癌幹細胞を用いた研究を行うことが難しかった。そこで本発明者らは、血清を含有しない動物細胞培養用基礎培地に、神経生存因子-1(neural survival factor-1:NSF-1)を添加した培地を用いた消化器系癌幹細胞の増殖方法(特許文献1参照)を提案した。これによって、CSCの特性を有する癌幹細胞様細胞(cancer stem-like cells:以下「CSLC」ともいう)を効率的に得ることが出来るようになった。
【0004】
ところで、近年、癌治療において免疫チェックポイント療法(immune checkpoint therapy)が行われるようになってきた。かかる免疫チェックポイント療法は、癌の免疫監視機構を利用して癌細胞を破壊する療法である。免疫チェックポイント療法に用いられる免疫チェックポイント阻害剤としては、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体等が知られている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2013-208104号公報
【0006】

【非特許文献1】Cancer stem-like sphere cells induced from de-differentiated hepatocellular carcinoma-derived cell lines possess the resistance to anti-cancer drugs. BMC Cancer, 14: 722 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在免疫チェックポイント阻害剤として用いられているものは、免疫チェックポイント分子又はそのリガンドに結合して、癌の免疫逃避機構を変化させてT細胞等の細胞障害性免疫細胞の活性を制御するものが中心である。しかしながら、これらの免疫チェックポイント阻害剤のほとんどは、全身性に免疫細胞に発現している分子を標的としているため、血中サイトカインの上昇によるサイトカインストーム等の全身的な副作用が生じ、場合によっては死に至るという問題があった。そこで、本発明の課題は、癌細胞、特に癌幹細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、自らが開発した独自の誘導法により、癌幹細胞の特性の一つである浮遊細胞塊(sphere)形成能を癌幹細胞の指標としてCSLCの機能的選択を行い、これによって得られた細胞群において、種々の抗癌剤に対する耐性が亢進するだけでなく、血行性肝転移能が亢進していることを免疫不全マウスにおける経門脈的肝転移モデルにおいて確認した。従来のCSCマーカーCD44v9によるソーティング法では得られる細胞数が少ないため、さらにDNA chip等の網羅的解析を行うことが困難であったが、本発明者らは癌幹細胞の性質を有する細胞を誘導することで、大量のCSLCを得ることが可能となり、RNA-seq解析(mRNA)、DNA chip解析(microRNA)を行った。さらに、癌幹細胞の性質の中でも再発・転移能に着目してヒト臨床検体でのRNA-seq解析結果も統合して解析することで、転移性肝内再発に特異的な遺伝子であるRAB3B遺伝子を同定した。
【0009】
ここで、癌幹細胞は抗癌剤治療や放射線治療に対して抵抗性があることが知られている。また、近年では癌幹細胞の治療抵抗性に免疫療法も含まれることが示唆されている。そこで、上記sphere形成能を有するCSLCを解析したところ、複数の免疫チェックポイント関連分子の発現が変化しており、CSLCにおける免疫逃避機構が示された。さらに、CSLC特異的遺伝子であるRAB3BのCSLC免疫逃避機構への関与について解析を進める中で、癌幹細胞におけるRAB3B遺伝子をノックアウトすると免疫チェックポイント分子PD-1(programmed cell death-1)のリガンドであるPD-L1(programmed cell death-1 ligand-1)及びPD-L2(programmed cell death-1 ligand-2)の発現が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)以下の(I)又は(II)のいずれかを有効成分とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子;
(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物;
(2)癌細胞が、癌幹細胞であることを特徴とする上記(1)記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(3)癌幹細胞が、肝癌の癌幹細胞であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(4)免疫チェックポイント因子が、PD-L1又はPD-L2であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(5)核酸分子がsmall interfering (siRNA)、micro RNA、small hairpin RNA(shRNA)、guide RNA(gRNA)、アンチセンス核酸、又はリボザイムからなる群から選択される少なくとも1種の核酸分子であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(6)核酸分子がsiRNAであることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤。
(7)上記(1)~(6)のいずれか記載の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤と、薬理学的に許容される添加物を含有する癌治療用医薬組成物。
【0011】
また、本発明の他の態様としては、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤として使用するための、(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子、又は(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物や、(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子、又は(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物の、免疫チェックポイント因子の発現抑制剤の調製における使用や、(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子、又は(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物を対象に投与することを特徴とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤を用いることにより、癌細胞、特に癌幹細胞における免疫チェックポイント分子のリガンドであるPD-L1及びPD-L2の発現を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例2におけるSK-sphereにて特異的に発現亢進を示し、かつ、転移性肝内再発有り群においても共通して発現亢進を示す遺伝子の探索手法の概略を示す図である。
【図2】実施例2におけるMA plot解析(SK-sphere vs SK-HEP-1)の結果を示す図である。
【図3】実施例2におけるMA plot解析(Short-DFS vs Long-DFS in Tumor)の結果を示す図である。
【図4A】(a)は実施例3におけるRNA-seq解析からRAB3B mRNA発現量を抽出した結果を示すグラフであり、(b)は定量PCR (RT-qPCR) にてRAB3B mRNA発現量を解析した結果を示すグラフである。それぞれ縦軸はSK-HEP-1(sphereformed)のmRNA発現レベルを1とした場合の相対発現レベルである。(c)はタンパク質レベルでRAB3Bがsphereで亢進しているWestern blot解析の結果を示す図である。VCPは内在コントロールとしてのValosin Containing Proteinの発現量を示す。
【図4B】摘除手術後2年を超えて肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(>2 year))若しくは摘除手術後1年以内転移性肝内再発有りHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除標本(それぞれn=10)における癌部組織及び周辺非癌部肝組織からのRAB3B mRNA発現量をまとめた箱ひげ図である。縦軸は非癌部肝組織(n=20)における平均値を1とした場合の比を示す。
【図5】(a)は実施例4におけるqPCRによるmRNAレベルでのノックダウンの結果、(b)はWestern blotによるタンパク質レベルでのノックダウン解析の結果を示す図である。
【図6】実施例4におけるsiRNAによるノックダウン後の細胞接着性を顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図7】実施例4におけるコントロール(siNegaCont)及びsiRNAによるRAB3Bノックダウン株(siRAB3B#1,#2)における接着細胞数/浮遊細胞塊細胞数比を示す図である。
【図8】(a)実施例5において、SK-HEP-1とSK-sphereにおける培地中のtotal RNA濃度を調べた結果を示す図である。(b)実施例5において、SK-HEP-1、SK-sphere及びSK-sphereの培養上清それぞれにおけるhas-miR-15a-5p発現量を調べた結果を示す図である。(c)実施例5において、has-miR-15a-5pのmimic RNAの移入によるRAB3BのmRNA発現抑制効果を調べた結果を示す図である。
【図9】実施例6で行ったゲノム編集に関する配列を示す図である。図中、「200_201insA」は、RAB3B coding配列における200番目と201番目の間にアデニン(A)がインサートされたことを示す。
【図10】実施例6において、RAB3B発現を解析した結果を示す図である。(a)は、HuH-7細胞株、mono-allelic RAB3B knock-out細胞株(RAB3B-KO8細胞株)及びSK-HEP-1細胞株それぞれをDMEM培地又はNSC培地で培養し、RAB3B発現を確認した結果を示す図である。(b)は上記RAB3B-KO8及びSK-HEP-1の細胞株においてウエスタンブロット解析からのRAB3Bタンパク質発現を調べた結果を示す。
【図11】実施例6において、SK-HEP-1細胞株及びmono-allelic RAB3B knock-out (RAB3B-KO8)株の形態を調べた結果である。(a)はSK-HEP-1細胞株をDMEM培地で培養した場合、(b)はRAB3B-KO8細胞株をDMEM培地で培養した場合、(c)はSK-HEP-1細胞株をsphere誘導のNSC培地で培養した場合、(d)はRAB3B-KO8細胞株をsphere誘導のNSC培地で培養した場合である。
【図12】実施例6において、pcDNA3.1(-) vectorのみのmock移入株とpRAB3B移入株をそれぞれsphere誘導のNSC培地にて7日、15日、又は24日間のsphere誘導処置を行い、顕微鏡下にて観察した結果を示す図である。
【図13】実施例7において、SK-HEP-1細胞株(親株:parent)とSK-sphere株(Sphere)の免疫監視機構関連のmRNAの発現量を調べ、発現量の比(sphere/parent)を調べた結果を示す図である。
【図14】実施例7において、SK-HEP-1細胞株(親株:parent)とSK-sphere株(Sphere)におけるPD-L1、PD-L2及びHLA-ABCタンパク質の発現量をフローサイトメトリーで調べた結果を示す図である。
【図15】実施例8において、SK-HEP-1細胞株及びSK-sphere株それぞれにおける膜結合MICA及び可溶性MICAを調べた結果を示す図である。図15(a)は膜結合MICAをフローサイトメトリー解析した結果、(b)は可溶性MICAをELISA解析した結果である。
【図16】実施例9において、RAB3B遺伝子のノックアウトによるPD-L1の発現への影響を調べた結果を示す図である。
【図17】実施例9において、RAB3B遺伝子のノックアウトによるPD-L2の発現への影響を調べた結果を示す図である。
【図18】実施例9において、RAB3B遺伝子のノックアウトによるHLA-ABCの発現への影響を調べた結果を示す図である。
【図19】実施例9において、RAB3B遺伝子のノックアウトによるULBP1の発現への影響を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤としては、
(I)RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子;
(II)配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物;
の(I)又は(II)のいずれかを有効成分とする、癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤であれば特に制限されず、ここで、「RAB3B」(Entrez Gene ID:5865, mRNA: NM_002867.3, protein: NP_002858.2)は、Rasスーパーファミリーに属し、炎症反応に依存して誘導されることや、下垂体培養細胞において分泌顆粒の細胞内輸送の過程に関与していることが知られている。

【0015】
また、本発明の癌治療用医薬組成物としては、上記本件免疫チェックポイント因子の発現抑制剤と、薬理学的に許容される添加物を含有する癌治療用医薬組成物であれば特に制限されない。

【0016】
上記「癌細胞」、「癌幹細胞」、又は「抗癌剤」における癌としては、固形癌でも血液癌でもよく、肝癌(肝細胞癌、又は胆管細胞癌)、膵臓癌、胃癌、食道癌、腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌、小細胞癌、皮膚癌、乳癌、前立腺癌、膀胱癌、膣癌、頸部癌、子宮癌、腎臓癌、脾臓癌、肺癌、気管癌、気管支癌、大腸癌(直腸癌、又は結腸癌)、小腸癌、胆嚢癌、胆道癌、精巣癌、卵巣癌等の癌や、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織の癌のほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫等の肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫等の芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病を挙げることができる。

【0017】
上記「癌細胞における免疫チェックポイント因子」としては、癌細胞で発現し、免疫監視機構に関与する受容体のリガンドを意味する。具体的にはPD-L1又はPD-L2等のT細胞の免疫寛容を誘導するPD-1のリガンドや、TIM-3のリガンドであるCEACAM1、NKG2DのリガンドであるRAE1を挙げることができ、PD-L1又はPD-L2を好適に挙げることができる。なお、上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現が抑制されることで、免疫寛容が解除され、その結果、免疫細胞により癌細胞が破壊される。

【0018】
上記「RAB3B遺伝子を標的とし、RAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子」としてはRAB3B遺伝子の全長又は部分配列と結合し、RAB3B遺伝子の発現を抑制できる核酸分子であるかぎり特に制限されず、RAB3B遺伝子の転写を抑制する核酸分子や、RAB3B遺伝子を破壊する核酸分子や、RAB3B遺伝子の翻訳を抑制する核酸分子を挙げることができる。具体的にはRAB3B遺伝子の全長又は部分配列を標的とするsiRNA、microRNA、又はshRNAや、RAB3B遺伝子の全長又は部分配列を標的とするguide RNAや、RAB3B遺伝子の全長又は部分配列を標的とするアンチセンス核酸や、RAB3B遺伝子の全長又は部分配列を標的とするリボザイム等を挙げることができる。上記「siRNA」としては、例えば配列番号2に示されるセンス配列と配列番号3に示されるアンチセンス配列とから形成されるsiRNA、又は配列番号4に示されるセンス配列と配列番号5に示されるアンチセンス配列とから形成されるsiRNAを挙げることができる。また、Cas9タンパク質をゲノムに標的化させるguide RNA配列としては、例えば配列番号10に示されるguide RNA配列を挙げることができる。guide RNA配列を用いる場合には、Cas9又はその改変物(エンドヌクレアーゼ活性から転写調節活性への置き換え等) のmRNAと共に用いることが好ましい。さらに、microRNAとしては、例えば配列番号6に示されるhas-miR-15a-5p(microRNA database(http://www.mirbase.org/)ID:MIMAT0000068)や、has-miR-15a-5pのミミック RNAを挙げることができる。また、上記siRNA、上記guide RNA配列、又は上記microRNAの塩基配列と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を示す塩基配列からなり、かつRAB3B遺伝子を標的としてRAB3B遺伝子の発現を抑制できるRNAを挙げることもできる。なお、配列番号2における3’末端のtt(tはチミン)、配列番号3における3’末端のcc(cはシトシン)、配列番号4における3’末端のtt、配列番号5における3’末端のgg(gはグアニン)はRNAをヌクレアーゼから保護するためのオーバーハング配列である。また、上記RAB3B遺伝子には、RAB3Bタンパク質の構造遺伝子だけでなく、その構造遺伝子の5’-UTR及び3’-UTRやプロモーター領域、エンハンサー領域などの転写調節領域も含む。

【0019】
上記「RAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物」としては、RAB3Bタンパク質の少なくとも一部に結合する低分子の化合物であればよく、ゲニステイン(Genistein)等のチロシンキナーゼ(tyrosine kinase)阻害剤を挙げることができ、かかる低分子化合物は、公知の方法によりスクリーニングして得ることができ、天然の化合物であっても又は人工の化合物のいずれであっても良い。上記スクリーニング方法としては、例えば、RAB3Bタンパク質又はその部分ペプチドと被検低分子化合物を接触させて、RAB3Bタンパク質又はその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を調べ、RAB3Bタンパク質又はその部分ペプチドと結合する化合物を選択する方法を挙げることができる。

【0020】
上記「薬理的に許容される添加剤」としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。

【0021】
上記癌治療用医薬組成物には抗癌剤を含有してもよく、かかる抗癌剤としては、ドキソルビシン、イダルビジン、マイトマイシンC等の抗腫瘍性抗生物質、ドセタキセル、ビンクリスチン等の微小管阻害剤、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン等のプラチナ製剤、ボリノスタット等のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、スニチニブ、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、イリノテカン、エトポシド等のトポイソメラーゼ阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピジリズマブ等の抗PD-1抗体、アテゾリズマブ、アベルマブ、又はデュルバルマブ、BMS-936559等の抗PD-L1抗体、イピリムマブ又はトレメリムマブ等の抗CTLA-4抗体を挙げることができ、抗腫瘍性抗生物質、微小管阻害剤、プラチナ製剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、キナーゼ阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体を好適に挙げることができる。

【0022】
上記癌治療用医薬組成物は、当業者に既知の方法を用いて、癌の治療を必要とする被検体に投与することができ、投与方法としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。

【0023】
上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は上記癌治療用医薬組成物の投与量は、癌の種類、位置、重症度、治療を受ける被検体の年齢、体重及び状態等に応じて適宜調整できるが、好ましくは、1回の投与において体重1kgあたりRAB3B遺伝子の発現を抑制する核酸分子として0.01μg-1000μg、より好ましくは0.1μg-100μgを挙げることができ、配列番号1に示されるRAB3Bタンパク質に結合する低分子化合物として0.01μg-100μg、好ましくは0.1μg-10μgを挙げることができる。

【0024】
投与する上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は上記癌治療用医薬組成物は、1日4回、3回、2回又は1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回独立して投与する方法を挙げることができる。

【0025】
上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は癌治療用医薬組成物は、他の抗癌剤と併用して用いることこができる。前記「他の抗癌剤と併用して用いる」方法としては、該他の抗癌剤を用いて処理し、その後上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は癌治療用医薬組成物を用いる方法や、上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は癌治療用医薬組成物と該他の抗癌剤を同時に用いる方法や、上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は癌治療用医薬組成物を用いて処理し、その後該他の抗癌剤を用いる方法を挙げることができる。また、上記癌細胞における免疫チェックポイント因子の発現抑制剤又は癌治療用医薬組成物と該他の抗癌剤と併用した場合には、薬物の治療効果がより向上すると共に、該薬物の投与回数又は投与量を減らすことで、該薬物による副作用を低減させることが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
(SK-HEP-1細胞株からの浮遊細胞塊の誘導)
本発明者らが以前開示した癌幹細胞誘導法(上記特許文献1)を用い、肝癌由来の肝癌細胞株SK-HEP-1より、浮遊細胞塊(sphere)形成能を有する癌幹細胞を誘導した。具体的には以下に示すとおりである。
【実施例】
【0028】
まず、低分化型肝細胞癌由来の肝癌細胞株であるSK-HEP-1細胞株の生細胞数をトリパンブルー染色より計測し、1.0×10個/mlとなるように以下に示すNSF(neural survival factor-1)含有無血清培地(neural stem cell培地:以下、「NSC培地」ともいう)に懸濁した後、ベントキャップタイプフラスコ(BDファルコン社製)又は超低接着表面フラスコ カントネック ベントキャップ(Corning社製)に播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。培養後7日目には、SK-HEP-1細胞株由来の癌幹細胞様細胞塊のうち浮遊した細胞塊の細胞(以下、「SK-sphere」ともいう)を誘導した。NSC培地は、以下の成分A、B、及びCからなるものを作製して用いた。
【実施例】
【0029】
(1)成分A
DMEM/F12(シグマ-アルドリッチ社製) 86mL
1M Hepes(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid) 900μL
Antibiotic/antimycotic liquid(100倍濃度) 900μL
30% グルコース 1.7mL
(2)成分B
DMEM/F12培地(シグマ-アルドリッチ社製) 8.6mL
30%グルコース(シグマ-アルドリッチ社製) 200μL
トランスフェリン(シグマ-アルドリッチ社製)10mg+H2O 200μL
インスリン(シグマ-アルドリッチ社製) 2.5mg+0.1N HCl 100μL(先にインスリンを溶解) +H2O 900μL(溶解後に加える) 計1mL
プトレシン(Alexis Biochemicals社製) 19.33mg
0.3mM 亜セレン酸ナトリウム(シグマ-アルドリッチ社製) 10μL
2mM プロゲステロン(シグマ-アルドリッチ社製) 1μL
(3)成分C
200μg/mL ヒトEGF(シグマ-アルドリッチ社製) 10μL
4μg/mL Basic FGF(和光純薬工業社製) 500μL
1mg/mL ヘパリン(シグマ-アルドリッチ社製) 200μL
10μg/mL LIF(ケミコン社製) 100μL
NSF-1(50倍濃度)(カンブレックス社製) 2mL(最終濃度;2%[w/v])
60mg/mL N-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)(シグマ-アルドリッチ社製) 100μL
【実施例】
【0030】
なお、ここでは約100mLの無血清培地を作製する場合の組成を記載している。また、無血清培地は、成分A、B及びCをそれぞれ個別に作製した後、混合して作製した。
【実施例】
【0031】
上記で誘導したSK-sphereを免疫不全マウスNOD-Rag1null IL2r null double mutant mice (NRG mice)の脾臓に27Gの注射針を用いて注入した後に脾臓を摘出し、8週間後にマウスを開腹し肝腫瘍形成を確認することで、上記SK-sphereは血行性肝転移能を有することを確認した。
【実施例】
【0032】
(SK-HEP-1細胞株の培養)
SK-HEP-1細胞株を1.0×10個/mLとなるように10%ウシ胎児血清(FBS:fetal bovine serum)を含むDMEM培地(以下、「DMEM培地」という)に懸濁した後、培養シャーレに播種し、37℃、5% CO2条件下で3日間培養した。DMEM培地で培養したSK-HEP-1細胞株(以下、「SK-HEP-1」ともいう)は培養シャーレに接着する接着性の癌細胞株である。
【実施例】
【0033】
(HuH7細胞株の培養)
高分化型肝細胞癌由来の細胞株であるHuH7細胞株を、上記NSC培地、又は上記DMEM培地で培養した。具体的には、HuH7細胞株を1.0×105個/mLとなるように上記NSC培地又は上記DMEM培地に懸濁した後、培養シャーレに播種し、37℃、5%CO2条件下でそれぞれ7日間又は3日間培養した。上記NSC培地及び上記DMEM培地で培養したHuH7細胞株(それぞれ、以下「HuH7/NSC」、「HuH7/DMEM」ともいう)はいずれも培養シャーレに接着し、浮遊細胞塊は形成されなかった。したがって、NSC培地を用いたとしても、低分化型肝癌由来のSK-HEP-1細胞株を培養した場合には浮遊細胞塊を形成するのに対し、高分化型肝癌由来のHuH7細胞株を培養した場合には浮遊細胞塊を形成しないことが明らかとなった。
[実施例2]
(転移性肝内再発に特異的な遺伝子の同定)
実施例1で得られたSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの肝細胞癌由来細胞、及び摘除手術後5年以上肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(≧5year))若しくは摘除手術後1年以内転移性肝内再発ありHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除標本における癌部組織及び周辺非癌部組織のmRNA発現を解析することで、原発巣除去後の転移性肝内再発に特異的な遺伝子の同定を行った。
【実施例】
【0034】
(mRNAの抽出)
miRNeasy(QIAGEN社製)を用いて、実施例1で作製したSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの癌由来細胞株、及び摘除手術後5年以上肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(≧5year))及び摘除手術後1年以内転移性肝内再発有りHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除原発巣標本(それぞれn=5)における癌部組織からtotal RNAを抽出した。
【実施例】
【0035】
(mRNAの発現解析)
TruSeq Stranded Total RNA with Ribo-Zero Gold LT Sample Prep kit(イルミナ社製)及びNextSeq500(イルミナ社製)を用いて、そのプロトコルに従ってribosomal RNA除去後にRNAシークエンスを行い、26,475遺伝子の網羅的なmRNA発現解析を行った。NextSeq 500より得られたfastqファイルからcutadaptによるデータトリミング、FastQCによるクオリティ確認を経てSTARによるhg38ヒトリファレンスゲノムへのマッピングを行った。26,475遺伝子それぞれにおけるリードカウント数について、R softwareにおけるTCCパッケージを用いて正規化及び群間比較を行った。群間比較に先立って正規化後に何れの分においても発現量が低い(read count=10)遺伝子は除外した。発現変動遺伝子(Differentially expressed Genes; DEGs)の検出にはGLM LRT法を用いた。解析にあたっては、(a)SK-sphereとSK-HEP-1、(b)SK-sphereとHuH7/NSC、(c)HCC with IHR(≦1year)vs HCC without IHR(≧5year)におけるmRNAの発現量を比較して、転移性肝内再発有り群及びSK-sphereに共通して発現亢進を示す遺伝子候補を選択した。選択基準は(Fold-change)2.0、q値〈0.05)とした。q値は、FDR多重検定(multiple-testing correction)により算出した。
【実施例】
【0036】
(MA plot解析)
さらに、上記それぞれの発現量解析の結果を統合してMA plot解析(SK-sphere vs SK-HEP-1及びShort-DFS(Disease-free survival)vs Long-DFS in Tumor)を行い、SK-sphere及び転移性肝内再発有り群に共通して発現亢進を示す遺伝子の探索を行った。肝癌におけるDFSは無再発生存期間を意味し、RFS (relapse-free survival)と同義である。上記遺伝子の探索手法の概略を図1に、MA plot解析の結果を図2及び3に示す。図2及び3中、横軸はSK-sphereとSK-HEP-1での総カウント数(mRNAの発現量に相当)又はShort-DFSとLong-DFSでの総カウント数のLog2値、縦軸はSK-sphere/SK-HEP-1又はShort-DFS/Long-DFS発現比のLog2値を表す。
【実施例】
【0037】
図3に示すMA plot解析により、転移性肝内再発有り群及びSK-sphereに共通して発現亢進を示す遺伝子、すなわち、原発巣除去後の術後転移性肝内再発に特異的な遺伝子の候補として図3の矢印のスポットに位置するsmall GTPaseをコードする遺伝子RAB3Bを同定した。
【実施例】
【0038】
[実施例3]
(mRNA発現レベルの比較)
1.RNAシークエンス
実施例2におけるmRNAの発現解析によるSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの癌由来細胞株からのRAB3B mRNA発現をまとめたグラフを図4A(a)に示す。図4A(a)に示すように、SK-sphereはSK-HEP-1と比較して2.3倍もRAB3BのmRNAが発現していることが明らかとなった。一方、HuH7においては、培養条件にかかわらずRAB3BのmRNA発現レベルはSK-HEP-1におけるRAB3BのmRNA発現レベルよりも低かった。
【実施例】
【0039】
2.定量PCR
定量PCRによりSK-sphere、SK-HEP-1、HuH7/NSC、HuH7/DMEMそれぞれの癌由来細胞株、及び摘除手術後2年を超えて肝内再発無しHCC患者(HCC without IHR(>2year))若しくは摘除手術後1年以内転移性肝内再発有りHCC患者(HCC with IHR(≦1year))からの摘除標本(それぞれn=5)における癌部組織からのRAB3B mRNA発現量を解析した。定量PCR解析は、以下の方法で行った。
【実施例】
【0040】
まず、miRNeasy(QIAGEN社製)を用いてtotalRNAを抽出及び精製し、さらにPrimeScript T reagent Kit with gDNA Eraser(TaKaRa Bio社製)を用いてゲノムDNA除去後にcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型として、LightCycler 480 Probe Master(Roche Diagnostics社製)、Universal ProbeLibrary(Roche Diagnostics社製)、及びLightCycler480 System II(Roche Diagnostics社製)を用いて定量PCRを行った。その後の統計学的解析は、R softwareを用いて行った。P値は、漸近計算した対応のないt-検定(unpaired t-test)により算出した。結果を図4A(b)、(c)、図4Bに示す。図4A(c)は図4(b)のSK-HEP-1、SK-sphereのウエスタンブロットの結果である。RAB3Bに対する抗体にはAnti-RAB3B Mouse monoclonalantibody (ab55655, abcam社製)を用いた。
【実施例】
【0041】
図4A(b)、図4Bに示すように、RAB3Bは親株と比較してSK-sphereにてmRNA発現が有意に2.9倍上昇し、かつ臨床検体において5年以上肝内再発無しと比較して術後1年以内転移性肝内再発有りにおいてmRNA発現が有意に9.5倍上昇していた。さらに非癌部と比較して癌部でのmRNA発現が3.7倍高かった。HuH7においても通常培養下と比較して浮遊細胞塊誘導条件下での発現亢進を認めるが、その発現レベルはSK-HEP-1よりも低いことが明らかとなった。また、図4A(c)に示すように、タンパク質レベルでRAB3Bがsphereで発現が亢進していることが確認された。図4A(b)、(c)、図4Bの結果より、RAB3Bの発現が浮遊細胞塊形成や転移性肝内再発に関与することが明らかとなった。
【実施例】
【0042】
[実施例4]
(siRNAによるノックダウン解析)
SK-HEP-1細胞に対して、Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent (Thermo Fisher Scientific社製)を用いてreverse transfection法により以下のsiRNAsをトランスフェクションした。siRNAとして、配列番号2(Sense 5’ to 3’: GCUUCAUUCUGAUGUAUGAtt)に示されるセンス配列と配列番号3(Antisense 5’ to 3’: UCAUACAUCAGAAUGAAGCcc)に示されるアンチセンス配列とから形成されるsiRAB3B#1、又は、配列番号4(Sense 5’ to 3’: GCUAUGCUGAUGACACGUUtt))に示されるセンス配列と配列番号5(Antisense 5’ to 3’: AACGUGUCAUCAGCAUAGCgg)に示されるアンチセンス配列とから形成されるsiRAB3B#2の塩基配列、及びコントロールsiRNA (siNegaCont: Silencer(登録商標) Select Negative Control No.1 siRNA; Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。Reverse transfection法には以下の条件を適用した。1x105 cells/ 5nM each siRNA/1 μL Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent/ 1mL Opti-MEM I Reduced Serum培地 (Thermo Fisher Scientific社製)。結果を図5(a)、(b)、図6、図7に示す。
【実施例】
【0043】
図5(a)、(b)に示すように、RAB3B遺伝子発現を、siRNA(siRAB3B#1,#2)を用いてノックダウンしたところ、RAB3Bが遺伝子レベル(移入3日後)でもタンパク質レベル(移入4日後)でも発現が抑制されていることが確認された。また、図6に示すように、SK-HEP-1株においてRAB3B遺伝子発現を、siRNA(siRAB3B#1,#2)を用いてノックダウンしたところ、浮遊細胞塊誘導条件下では「浮遊細胞塊」から「接着性の細胞」への転換が見られた。さらに、図7に示すように、コントロール(siNegaCont)と比較してsiRNAによるRAB3Bノックダウン株(siRAB3B#1,#2)では接着細胞数/浮遊細胞塊細胞数比が2倍以上上昇していた。このことから、RAB3B遺伝子の発現を抑制することで、癌幹細胞における接着性(adherent)誘導、換言すれば、幹細胞性(stemness)解除を誘導することができることが明らかとなった。なお、細胞における接着性が誘導されれば、血中で浮遊状態での生存がしづらく、転移能が低下すると考えられている。
【実施例】
【0044】
[実施例5]
(SK-sphere特異的microRNAの探索)
microRNAは配列依存的に複数の遺伝子発現を制御するnon-coding RNAである。近年、microRNAは細胞内だけでなく、エクソソーム小胞に内包され細胞外に分泌されることも知られるようになった。すなわち、microRNAは細胞内における一つの遺伝子発現制御だけでなく、他の細胞における遺伝子発現をも制御しうる。まず、SK-HEP-1とSK-sphereにおける培地中のRNA濃度を調べたところ、SK-sphereはSK-HEP-1と比較してRNA濃度が上昇していた(図8(a))。そのため、CSLCにおいてはmicroRNAによって癌微小環境や周辺細胞の制御が考えられた。
【実施例】
【0045】
そこで、SK-sphere特異的microRNAの探索を行った。microRNAの発現解析は3D-Gene miRNA Labeling kit及び3D-Gene Human miRNA Oligo Chip(東レ社製)を用いて行った。サンプルとしてSK-HEP-1、SK-sphere及びSK-sphereの培養上清を用い、ハイブリダイゼーションシグナルの相対蛍光強度をそれぞれの中央値を指標として標準化した後に、それぞれにおけるmicroRNAの発現量を比較し、Log2 Ratio及びFisher比を求めた。その結果、SK-sphere特異的microRNAとしてhas-miR-15a-5p (MIMAT0000068)を同定した。SK-HEP-1、SK-sphere及びSK-sphereの培養上清それぞれの発現量の結果を図8(b)に示す。
【実施例】
【0046】
図8(b)において、has-miR-15a-5pはSK-HEP-1と比較してSK-sphereにて発現が低下し、SK-sphere培養上清における発現割合も低いmicroRNAであることが明らかとなった。興味深いことに、has-miR-15a-5pはRAN3B mRNAを標的とするということは配列上からは予測されていないが、図8(c)に示すように、has-miR-15a-5のmimic RNA(mirVana miRNA mimic, Thermo Fisher Scientific社製, mature miRNA Sequence; UAGCAGCACAUAAUGGUUUGUG(配列番号7), stem loop sequence; CCUUGGAGUAAAGUAGCAGC ACAUAAUGGUUUGUGGAUUU UGAAAAGGUGCAGGCCAUAU UGUGCUGCCUCAAAAAUACA AGG(配列番号8)の移入によってRAB3BのmRNA発現抑制が観察された。has-miR-15a-5pのmimic RNAの移入は以下の条件下でのReverse transfection法により行った;1x105 cells/ 10nM each RNA/ 1μL Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent/ 1mL Opti-MEM I Reduced Serum培地 (Thermo Fisher Scientific社製)。コントロールRNA (cont-RNA) としてmirVana miRNA Mimic, Negative Control No. 1 (Thermo Fisher Scientific社製)を同濃度用いた。
【実施例】
【0047】
[実施例6]
(CRISPR/Cas9によるノックアウト解析)
CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を用いて、SK-HEP-1株を親株としてmono-allelic RAB3B knock-out株を樹立した。ゲノム編集にはCas9 mRNA及び配列番号9に示す(-)鎖配列(GTTTCACCCGCTTCTCGTGA)及び続くCGGをそれぞれ標的配列及びPAM配列とし、配列番号10に示す配列 (GUUUCACCCGCUUCUCGUGAguuuuagagcuagaaauagcaaguuaaaauaaggcuaguccguuaucaacuugaaaaaguggcaccgagucggugcuuuu)をguide RNAとして合成し、guide RNAをlipofectamine RNAi Max(Thermo Fisher Scientific社製)によりSK-HEP-1細胞株に移入した後にsingle cell cloningを行った。得られたcloneからgenome DNAを抽出し、サンガーシーケンスにより変異導入を確認した。上記guide RNAとCas9 mRNAを用いてゲノム編集を行うことで、図9に示されるように、SK-HEP-1細胞株におけるgenome DNA中のPAM配列 (下線にて示したCCG) に隣接する標的配列に二本鎖切断が起こり、結果として配列番号1に示されるRAB3Bのアミノ酸配列が、配列番号11に示されるアミノ酸配列へと変異したクローンが得られた。図9右側上段はRAB3B野生型配列を示し、下段には変異クローンにおける配列を示した。野生型の全長219アミノ酸に対して変異型では67番目のアミノ酸以降の配列が異なり、全長も102アミノ酸となっている。左側は塩基配列を示し、guide RNAは相補鎖に対して設計し、下段に示されるようにcoding領域の200番目のアデニン(A)と201番目のシトシン(C)との間にAが挿入された配列が変異クローンにおけるRAB3B配列である。
【実施例】
【0048】
HuH-7細胞株、上記で樹立したmono-allelic RAB3B knock-out細胞株(RAB3B-KO8細胞株)及びSK-HEP-1細胞株それぞれをDMEM培地又はNSC培地で培養し、RAB3B発現を確認した結果を図10に示す。図10(a)は上記それぞれの細胞株においてRNA-seq解析からのRAB3B mRNA発現を示す。RAB3B-KO8細胞株ではsphere誘導のNSC培地においてもSK-HEP-1よりも低いRAB3Bの発現レベルであった。また、図10(b)は上記それぞれの細胞株においてウエスタンブロット解析からのRAB3Bタンパク発現及び内部標準としてvalosin containing protein (VCP)発現を示す。normal培地とsphere誘導のNSC培地の両方において、SK-HEP-1と比較してRAB3B-KO8細胞株におけるRAB3B発現低下を認めた。
【実施例】
【0049】
次に、SK-HEP-1細胞株及び上記で樹立したmono-allelic RAB3B knock-out (RAB3B-KO8)株の形態を調べた。結果を図11に示す。図11(a)はSK-HEP-1細胞株をDMEM培地で培養した場合、図11(b)はRAB3B-KO8細胞株をDMEM培地で培養した場合、図11(c)はSK-HEP-1細胞株をsphere誘導のNSC培地で培養した場合、図11(d)はRAB3B-KO8細胞株をsphere誘導のNSC培地で培養した場合である。図11(d)に示すように、RAB3B-KO8細胞株をsphere誘導のNSC培地で培養してもsphereの形成があまり生じておらずRAB3B-KO8細胞株ではsphere形成の著しい抑制が観察された。
【実施例】
【0050】
さらに、レスキュー実験として、RAB3B-KO8細胞株にpcDNA3.1(-) vector 、又はpRAB3B(pcDNA3.1(-) vectorにRAB3Bをクローニングしたもの)をlipofectamine 3000を用いて移入した後に、抗生物質G418により薬剤選択を行った。得られた、pcDNA3.1(-) vectorのみのmock移入株とpRAB3B移入株をそれぞれsphere誘導のNSC培地にて7-24日間のsphere誘導処置を行い、顕微鏡下にて観察した結果を図12に示す。図12に示すように、pRAB3B移入株におけるsphere形成能の回復が見られた。上記結果から、RAB3Bがsphere形成能に関与していることが確認された。
【実施例】
【0051】
[実施例7]
(免疫監視機構関連因子の解析)
上記で作製したSK-HEP-1細胞株(親株:parent)及びSK-sphere株(Sphere)における免疫監視機構に関連するmRNAの発現量を調べるためにRNAシーケンスを行い、さらにその発現量の比(sphere/parent)を調べた。結果を図13に示す。
【実施例】
【0052】
図13から明らかなように、PD-1のリガンドであるPD-L1及びPD-L2はSphere/parentとしてそれぞれ1.2倍、2.0倍も発現が上昇していた。さらに、HLA-A、HLA-B、HLA-CやCEACAM、MICAやMICB、ADAM17においても発現が亢進していた。このほか、図13には示していないが、NCR3LG1 (B7-H6)は発現が亢進(Log2=0.95)し、HMGB1は発現が減少(Log2=-0.75)し、CD276(B7-H3)、PVR (CD155)、及びCD47はSphere株と親株とで有意な差は見られなかった。VTCN1(B7-H4)、HHLA2 (B7-H5)、LGALS9 (galectin 9)、BTLA (CD272)、TIGIT、及びCD96については、有意な発現自体が見られなかった。
【実施例】
【0053】
上記結果により、SK-HEP-1細胞株に対してSK-sphere株においてPD-L1、PD-L2及びHLA-ABCのmRNAの発現が上昇していたことから、さらにフローサイトメトリーによってPD-L1、PD-L2及びHLA-ABCタンパク質発現を解析した。結果を図14に示す。
【実施例】
【0054】
図14ら明らかなように、フローサイトメトリーによっても、sphere形成によりPD-L1及びPD-L2の発現量が増加することが確認された。
【実施例】
【0055】
[実施例8]
次に、SK-HEP-1細胞株及びSK-sphere株それぞれにおける膜結合MICA/B及び可溶性MICA/Bを調べた。膜結合MICAは抗MICA/B抗体を用いたフローサイトメトリーにより解析し、可溶性MICAは抗MICA抗体を用いたELISAにより解析した。結果を図15に示す。図15(a)により、sphereが形成されると膜結合型MICAの発現が低下し、他方、図15(b)により可溶性MICAの発現量が増加していた。免疫活性化を担うNKG2Dに対するリガンドの膜発現は活性化シグナルを引き起こし、一方、遊離したNKG2DリガンドはNKG2D活性化シグナルを抑制することが知られている。かかる結果より、膜結合型リガンドの減少によりNKG2Dからの活性化シグナルを減弱させると共に、分泌型リガンドの増加によっても活性化シグナルを抑制することで、CSLCが免疫逃避していることが明らかとなった。
【実施例】
【0056】
[実施例9]
(RAB3Bのノックアウトによる免疫監視機構関連因子の発現への影響)
上記結果に基づいて、RAB3Bをノックアウトした場合の免疫逃避機構関連因子の発現について確認するために、SK-HEP-1細胞株をDMEM培地で培養したSK-HEP-1/DMEM、SK-HEP-1細胞株をNSC培地で培養したSK-sphere/NSC、RAB3B-KO8をDMEMで培養したRAB3B-KO8/DMEM、及びRAB3B-KO8をNSCで培養したRAB3B-KO8/NSCそれぞれにおけるPD-L1、PD-L2、HLA-ABC、及びULBP1の発現をフローサイトメトリーで調べた。PD-L1の発現を調べた結果を図16に、PD-L2の発現を調べた結果を図17に、HLA-ABCの発現を調べた結果を図18に、ULBP1の発現を調べた結果を図19に示す。
【実施例】
【0057】
図16から明らかなように、SK-HEP-1細胞株をNSC培地培養すると、DMEM培地で培養した場合と比較してPD-L1陽性細胞の割合が増加しているのに対し、RAB3B-KO8株をNSC培地培養すると、DMEM培地で培養した場合と比較してPD-L1陽性細胞の割合が減少していた。また、図17から明らかなように、SK-HEP-1細胞株をNSC培地培養すると、DMEM培地で培養した場合と比較してPD-L2陽性細胞の割合が増加しているのに対し、RAB3B-KO8株をNSC培地培養すると、DMEM培地で培養した場合と比較してPD-L2陽性細胞の増加の割合が減少していた。一方、図18、19から明らかなように、HLA-ABCやULBP1においてはRAB3Bをノックアウトすることによる発現の変化はみられなかった。かかる結果より、RAB3Bをノックアウトすることで、癌細胞におけるPD-L1及びPD-L2の発現を抑制可能であることが確認された。換言すれば、RAB3Bの発現を抑制すれば、癌の免疫逃避機構を変化させてT細胞の活性化抑制を解除できることが明らかとなった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4A】
3
【図4B】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
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【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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