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明細書 :真菌の有無の判定方法、判定キット及びデータベース

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2021-000035 (P2021-000035A)
公開日 令和3年1月7日(2021.1.7)
発明の名称または考案の名称 真菌の有無の判定方法、判定キット及びデータベース
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI C12Q 1/04
C12M 1/34 B
G01N 33/48 M
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2019-115765 (P2019-115765)
出願日 令和元年6月21日(2019.6.21)
発明者または考案者 【氏名】石田 久哉
【氏名】法木 左近
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100110814、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 敏郎
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B029
4B063
Fターム 2G045BB01
2G045CB21
2G045FA16
4B029AA07
4B029BB08
4B029DG01
4B029FA11
4B029GA03
4B029GB05
4B029GB06
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QR50
4B063QS12
4B063QX01
要約 【課題】 爪などの硬い角質も確実に溶解して真菌の有無の判定を行え、別の判定方法との組み合わせで真菌の有無の判定精度をより高めることができる真菌の有無の判定方法を提供する。
【解決手段】 患部から採取した試料を用いて真菌の有無を判定する方法において、前記試料に含まれる生体組織を溶解する処理液と前記試料とを収容可能な容器を準備する工程と、前記容器内に、前記処理液と前記試料とを投入し、前記試験管内で前記生体組織を溶解して試料溶解液を生成する試料溶解工程とを有する。前記試料を処理して真菌を検出するための真菌検出手段を準備し、前記真菌検出手段の検出結果から前記試料における真菌の有無の判定を行う別の判定工程を、前記試料溶解工程より前に設けてもよい。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
患部から採取した試料を用いて真菌の有無を判定する方法において、
前記試料に含まれる生体組織を溶解する処理液と前記試料とを収容可能な容器を準備する工程と、
前記容器内に、前記処理液と前記試料とを投入し、前記試験管内で前記生体組織の少なくとも一部を溶解して試料溶解液を生成する試料溶解工程と、
を有することを特徴とする真菌の有無の判定方法。
【請求項2】
前記試料を処理して真菌を検出するための真菌検出手段を用いた真菌の有無の検出結果から前記試料における真菌の有無の判定を行う別の判定工程を、前記試料溶解工程より前に設けたこと、
を特徴とする1に記載の真菌の有無の判定方法。
【請求項3】
前記容器と前記真菌検出手段とを用いた前記別の判定工程で前記真菌の有無の判定を行った後に、当該容器に前記処理液を投入し、前記試料溶解液を生成することを特徴とする請求項2に記載の真菌の有無の判定方法。
【請求項4】
前記別の判定工程における判定が陽性だった場合に、前記試料溶解液を用いた前記真菌の有無の判定における真菌観察手段の倍率を陰性の場合よりも低倍率とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の真菌の有無の判定方法。
【請求項5】
前記真菌の有無の判定結果から、コンピュータ読み取り可能な判定データを作成するデータ作成工程をさらに有することを特徴とする真菌の有無の判定方法。
【請求項6】
請求項5に記載のデータ作成工程で作成された前記判定データを記憶するコンピュータ読み取り可能なデータベース。
【請求項7】
患部から採取した試料を処理して真菌を検出した後、真菌の有無の判定を行うための真菌の有無の判定キットであって、
前記真菌の検出を行う検出液及び前記試料の生体組織を溶解する処理液と、
前記試料、前記検出液及び前記処理液を収容可能な容器と、
前記容器に前記試料と前記検出液とを投入して真菌の検出を行うための真菌検出器と、
を有し、前記容器は、前記真菌検出器の検出結果から前記真菌の有無を判定した後に、前記処理液を投入して前記試料の生体組織の少なくとも一部を溶解し、前記容器内で前記試料溶解液を生成するものであること、
を特徴とする真菌の有無の判定キット。
【請求項8】
前記容器が密封可能であることを特徴とする請求項7に記載の真菌の有無の判定キット。
【請求項9】
前記容器が、加熱手段による加熱、振動付与手段による振動及び前記処理液又は前記検出液を攪拌する攪拌手段による攪拌が可能なものであることを特徴とする請求項7又は8に記載の真菌の有無の判定キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、患部における白癬菌などの真菌の有無を判定するための判定方法、この判定方法のための判定キット及び判定データを記憶したデータベースに関する。
【背景技術】
【0002】
真菌は、ヒトや動物の体の障壁を越えて定着することで真菌症を引き起こす。このような真菌症の代表的なものとして、白癬菌による白癬(水虫、たむし、しらくもなど)やカンジダによるカンジダ症、クリプトコックスによるクリプトコックス症、アスペルギルスによるアスペルギルス症などが知られている。
患部における真菌の有無の判定方法としては、前記患部から採取した試料を苛性カリ(KOH)で溶解して、菌糸の有無を顕微鏡で観察するKOH直接検鏡法が広く利用されている。
KOH直接検鏡法の手順を教示する文献では、患部から採取した試料をスライドガラスの中央に置き、前記試料の上にカバーガラスを被せた後、スライドガラスとカバーガラスとの間にスポイトなどを使ってKOHを供給して、顕微鏡観察が可能なプレパラートを作成することが推奨されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特許第5167488号公報
【0004】

【非特許文献1】Med.Mycol.J. Vol.58J.J51-J54,2017 ISSN 2185-6486「白癬菌抗原キット」(常深祐一郎 東京女子医科大学皮膚科)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、爪などの硬い角質は、カバーガラスとスライドガラスの間に大きな隙間ができてそのままでは顕微鏡観察は困難であり、硬く肉厚なためにKOHでもなかなか軟化せず、カバーガラスで潰すことも困難であるという問題がある。KOHを加熱することで多少は溶解しやすくなるが、それでも溶解には相応の時間がかかるうえ、時間経過とともにKOHが乾燥して結晶化してしまい、真菌有無の判定が困難になるという問題がある。
なお、加熱が必要で溶解に時間がかかるという問題については、本発明の発明者は、非イオン性界面活性剤又は両イオン性(両性)界面活性剤を含有する処理液を用いて非加熱で試料から皮膚糸状菌成分を抽出する工程を発明し、特許を取得している(特許文献1参照)。そして、この特許に基づいて、簡単かつ高精度で真菌の有無を判定できる白癬菌抗原キットが商品化されている。
【0006】
また、特許文献1に基づく白癬菌抗原キットは、免疫クロマトグラフィー法によるものであるが、この方法では真菌の有無は判定できるものの、真菌そのものを観察することはできないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、爪などの硬い角質も確実に溶解して真菌の判定を行え、真菌そのものの観察が可能で、別の判定方法と組み合わせることで真菌の有無の判定精度をより高めることが可能で、データ化した判定結果を蓄積したデータベースの構築も可能な判定方法、この方法のための判定キット及びデータベースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために請求項1に記載の発明は、患部から採取した試料を用いて真菌の有無を判定する方法において、前記試料に含まれる生体組織を溶解する処理液と前記試料とを収容可能な容器を準備する工程と、前記容器内に、前記処理液と前記試料とを投入し、前記試験管内で前記生体組織の少なくとも一部を溶解して試料溶解液を生成する試料溶解工程とを有する方法としてある。
前記処理液によって前記生体組織を溶解する際には、前記処理液を加熱したり、超音波振動などの振動を付与したり、処理液を攪拌等するとよい。
この方法によれば、試料に含まれる生体組織の溶解が容器内で行われるので、処理液の乾燥と結晶化を防いで、爪などの硬い角質も確実に溶解した試料溶解液を得ることができるとともに、真菌有無の判定を容易に行うことができる。
【0009】
前記容器は蓋や栓などで密封可能なものを用いるとよい。試料溶解液を長期に亘って保存することが可能になり、真菌の有無を判定した後に、前記試料溶解液を保存し、後日、真菌の観察を行うことが可能になる。
【0010】
請求項2に記載するように、前記試料を処理して真菌を検出するための真菌検出手段を用いた真菌の有無の検出結果から前記試料における真菌の有無の判定を行う別の判定工程を、前記試料溶解工程より前に設けてもよい。
前記試料は前記真菌検出手段で真菌の有無の判定を行った後の試料残滓でもよいし、同一患部から取り出した別の試料でもよい。このようにすることで、別の判定方法との組み合わせて真菌の有無の判定精度をより高めることができる。
【0011】
本発明の発明者は、常深による研究結果(非特許文献1参照)に着目した。常深は、試料に含まれる真菌と反応する抗体(検出液)を用い、前記真菌から抽出された抗原の有無から前記真菌の有無を判定する免疫クロマトグラフィー法による判定後にも、前記検出液から取り出した試料を使ってKOH法での真菌の形態検査が可能であることを報告している。
しかし、前記検出液から取り出した試料を使って常深が行ったKOH直接検鏡法は従来とおりのもので、前記試料をスライドガラスの中央に置き、前記試料の上にカバーガラスを被せた後、スライドガラスとカバーガラスとの間にスポイトなどを使ってKOHを供給して、顕微鏡観察が可能なプレパラートを作成するもので、KOHの結晶化の課題は解決されていない。
これに対し請求項3に記載の発明は、前記容器と前記真菌検出手段とを用いた前記別の判定工程で前記真菌の有無の判定を行った後に、当該容器に前記処理液を投入し、前記試料溶解液を生成するものである。
この方法によれば、前記真菌検出手段で用いた前記容器に前記処理液を投入することで、前記真菌検出手段で用いた試料の生体組織を、KOHなどの処理液を結晶化させることなく溶解して試料溶解液を得ることができ、この試料溶解液を利用して顕微鏡などの真菌観察手段によって真菌の有無の判定や真菌の観察を行うことが可能になる。
【0012】
この場合、別の判定工程で陽性と判定された場合には、すでに陽性の可能性が高いことから、顕微鏡などの真菌観察手段を用いた本発明の判定は確認的なものとすることができ、この場合は顕微鏡等の真菌観察手段の倍率をそれほど大きくする必要はなくなる。そこで請求項4に記載の方法では、前記別の判定工程における判定が陽性だった場合に、前記試料溶解液を用いた前記真菌の有無の判定における顕微鏡などの真菌観察手段の倍率を陰性の場合よりも低倍率とするようにしている。そのため、判定が陽性だった場合には、低倍率観察により短時間で再判定を行うことが可能になる。ここで真菌観察手段の「倍率」としては、顕微鏡観察時の拡大率、観察範囲率(視野率)、観察画像の分解精度などを挙げることができる。
本発明においては、前記容器を用いるため、複数の試料に対応した複数の容器から判定対象の試料を収容した前記容器を自動的に取り出して順次判定を行うことも可能になり、複数の試料を対象とした判定の自動化により判定時間の短縮及び作業の省力を図ることができる。また、判定結果をデータ化して管理することも可能になる。
請求項5に記載するように、前記真菌の有無の判定結果から、コンピュータ読み取り可能な判定データを作成するデータ作成工程をさらに設ければ、複数の前記判定結果を判定データとして記憶させたデータベースを構築することが可能になる。また、請求項6に記載の発明は、前記データ作成工程で作成された前記判定データを記憶するコンピュータ読み取り可能なデータベースである。
複数の判定データを記憶するデータベースを使用して、前記データベースに蓄積された過去の判定データと比較することで、例えば真菌の有無の自動判定を行うことも可能になる。
【0013】
本発明の判定キットは、請求項7に記載するように、患部から採取した試料を処理して真菌を検出した後、真菌の有無の判定を行うための真菌の有無の判定キットであって、前記真菌の検出を行う検出液及び前記試料の生体組織を溶解する処理液と、前記試料、前記検出液及び前記処理液を収容可能な容器と、前記容器に前記試料と前記検出液とを投入して真菌の検出を行うための真菌検出器とを有し、前記容器は、前記真菌検出器の検出結果から前記真菌の有無を判定した後に、前記処理液を投入して前記試料の生体組織の少なくとも一部を溶解し、前記容器内で前記試料溶解液を生成するものである構成としてある。
請求項8に記載するように、前記容器が密封可能であってもよい。真菌の有無を判定した後に、前記試料溶解液を保存し、後日、真菌の観察を行うことが可能になる。
このような容器を用いることで、試料溶解液を長期に亘って保存することが可能になり、真菌の有無を判定した後に、前記試料溶解液を保存し、後日、真菌の観察を行うことが可能になる。
【0014】
また、試料に含まれる生体組織の溶解を促進するために、試料と処理液を投入した前記容器を加熱手段によって加熱してもよいし、振動付与手段によって振動を付与してもよい。または攪拌手段によって前記処理液を攪拌してもよい。このような場合には、請求項9に記載するように、使用する前記容器として加熱、振動又は攪拌に耐えうるものを選択する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のように構成されているので、爪などの硬い角質も確実に溶解して真菌の判定を行うことが可能である。また、KOH等の処理液を乾燥・結晶化させることなく、真菌有無の判定を行うことが可能である。さらに、真菌そのものの観察が可能で、別の判定方法と組み合わせることで真菌の有無の判定精度をより高めることが可能である。また、前記真菌の有無の判定結果と前記試料溶解液の顕鏡画像(画像データ)とから、コンピュータ読み取り可能な判定データを作成することも可能で、この判定データを蓄積したデータベースの構築も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明における真菌の有無の判定方法の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、真菌の有無の判定方法における第一の実施形態にかかり、判定までの手順を説明する図である。
まず図1(a)に示すように、患部から採取した試料1を容器としての試験管2に投入する。次いで(b)に示すように、試料1を入れた試験管2に、例えば処理液投入手段としてのスポイト3aなどを使って、試料1の生体組織を溶解できる処理液4を投入し、所定時間保持する。処理液4としては、例えば、KOH直接検鏡法に用いられるKOH(水酸化カリウム)を挙げることができるが、試料1の生体組織の少なくとも一部を溶解して菌糸を試料1から処理液4内に抽出し、顕微鏡観察によって真菌を観察できるものであればKOHには限られない。
【0017】
次いで、(c)に示すように、試験管2内で処理液4により試料1の生体組織の少なくとも一部を溶解する。溶解を促進させるために、試験管2を加熱したり、振動を付与したり、処理液4を攪拌したりしてもよい。
このため試験管2は、KOHなどの処理液4によって融解したり変性を起こしたりしない耐薬品性と、加熱、振動、攪拌などの物理的衝撃に耐える耐衝撃性とを備えるものを使用する。
【0018】
真菌を覆っている試料1の生体組織が処理液4によって溶解され、顕微鏡などの真菌観察手段によって菌糸の有無が判断できる程度に試料1から処理液4中に菌糸が十分抽出されるまでを所定時間とすることができる。この時間は、試料の種類や大きさによっても異なるが、予め実験を行うことで求めることが可能である。皮膚剥離層などの薄肉又は鱗屑状の試料においては数分程度、肉厚のものや爪などの角質層のように硬い試料においては、15分から数十分程度で、真菌が処理液4中に抽出される。このようにして得られた試料溶解液6は、試料4に含まれる生体組織の少なくとも一部が溶解したものであればよく、固形の試料4に含まれる生体組織の全部が溶解したものであってよい。
【0019】
この後、(d)に示すように、試料溶解液取り出し手段としてスポイト3b等を使って試料溶解液6を試験管2から取り出し、スライドガラス10の上に適量(例えば0.1ml~2.0ml)滴下して、カバーガラス11を被せる。このようにして得られたプレパラートは、十分に真菌の有無を観察できる試料溶解液を用いているので、スライドガラス10上でKOHなどの処理液4を使って処理を施す必要はなく、そのまま真菌観測手段としての顕微鏡による観察に供することができ、顕微鏡観察によって真菌の有無を判定することができる。
さらに前記プレパラートは、試料溶解液を完全に乾燥させない状態、すなわちKOH等の処理液4が結晶化しない程度まで乾燥(例えば風乾)させた後に、水溶性封入剤(例えば大道産業株式会社製のMount-Quick ''Aqueous''(登録商標)(水溶性封入剤))で封入し、永久標本プレパラートとすることができる。
【0020】
また、試験管2としては蓋5付きのものを用いるとよい。上記した(c)の工程において蓋5によって試験管2を密封することで、振動付与の際の処理液4の飛び出しや、長時間の浸漬又は加熱による処理液4の蒸発・乾燥・結晶化を防止して保管することができる。
また、試料溶解液6が入った試験管2は、例えば(e)に示すようなラック13の試験管立て13aに差し込むことで、多数本の試験管2を試験管立て13aの位置に対応させて保管することが可能になる。なお、試験管2での管理に限らず、先に説明したプレパラートでの管理も可能である。
試料溶解液6を収容した試験管2をこのように保管することで、一定時間又は一定期間保管後に真菌の観察を行うことが可能になる。一定時間又は一定期間試験管2を保管する場合は、IDコード(識別データ)などの識別手段を用いて試験管2を管理できるようにするとよい。このようにして保管された試験管2は、例えば真菌の有無の自動判定装置の所定位置にラック13を位置決めしてセットすることで、試験管2を前記自動判定装置に備えられたマニピュレータ等でラック13から順番に取り出し、真菌の有無の判定を行った後に、当該判定結果及び必要に応じて顕鏡画像と前記識別手段とを関連付けた判定データを判定データ作成工程で作成する。これによりSDカードやCD,DVD,HDDなどの各種データ記憶手段のほか、コンピュータ読み取り可能なデータベースに記憶させることが可能になり、判定データを構成するデータをキーとして、特定の判定データへのアクセスや検索を可能とする判定済試料の管理方法を実現するためのシステムの構築が可能になる。
【0021】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態では、第一の実施形態の真菌の有無の判定工程より前に、真菌検出手段による別の真菌有無の判定工程を設けている。図2は、本発明の真菌の有無を判定する方法における第二の実施形態にかかり、真菌検出手段による別の判定までの手順を説明する図である。
別の判定工程に用いられる前記真菌検出手段は、真菌の有無の判定を行うことができるものであればよく、例えば、特許文献1で挙げた免疫クロマトグラフィー法によるものを挙げることができる。以下、具体的に例を挙げて説明する。
【0022】
図2(a)に示すように、試料1を試験管2内に投入し、(b)に示すように、検出液投入手段としてのスポイト3c等を用いて検出液14を試験管2内に投入する。検出液14としては、例えば特許文献1に記載されているもの、すなわち、試料1から真菌抗原成分を抽出することができる非イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤を含む液体を挙げることができる。(c)に示すように、この検出液14を用いて試料1から真菌抗原成分を抽出し、(d)に示すように市販の試薬デバイス15(例えばJNC株式会社から販売されている白癬菌抗原キット)を検出液14に漬ける。試薬デバイス15は、一般的なイムノクロマト法に用いられる試験紙と同様のもので、検出液14が試薬デバイス15に浸透しつつ上昇し、数分後に試薬デバイス上に現れる線の有無から、真菌の有無を判定できるものである。この試薬デバイス15を用いて別の判定工程による真菌の有無判定結果を得る。
【0023】
そしてこの後、(e)に示すように、検出液14と試料1が残存している試験管2に第一の実施形態の処理液4をスポイト3a等で投入し、試験管2内で試料1の生体組織を処理液4によって溶解させ、試料溶解液6を得る。以後の工程は、第一の実施形態の図1(d)以降と同じである。
なお、試験管2内の検出液14は、その大部分が試料デバイス15によって吸い上げられることで残存量は少なくなるが、検出液14が多量に残存していると、処理液4の濃度が低くなって試料1に含まれる生体組織の溶解が遅くなったり、十分に溶解しなかったりするおそれがある。そのため、(b)の工程において試験管2に投入する検出液14は必要最小限量とするか、(d)の判定工程の後に検出液投入時に用いたスポイト3c等で余剰の検出液14を取り出すようにするとよい。
【0024】
また、試料溶解液6を用いて顕微鏡観察を行う場合、従来のKOH直接検鏡法では10倍の倍率での観察が推奨されている。しかし、この第二の実施形態の判定方法のように、別の判定方法を利用して真菌の有無の判定を複数回(多段階)に分けて行う場合において、別の判定方法で陽性と判定された後に行う顕微鏡を用いた判定においては、それほど高精度に顕微鏡観察を行う必要性はあまりない。例えば、別の判定方法で陽性と判断された場合の顕微鏡観察における拡大倍率は、真菌が存在するかどうかがわかる程度であればよく、10倍未満の低い倍率で顕微鏡観察を行うことができる。
そこで、この実施形態では、別の判定工程である試薬デバイス15を用いた真菌の有無の判定工程において、その判定結果が陽性の場合には、試料溶解液6を用いた真菌の有無の判定における顕微鏡の拡大倍率を陰性の場合よりも低い倍率(2~6倍程度)で判定している。このようにすることで、顕微鏡観察における真菌の有無の判定を簡単かつ短時間で終了させることが可能になる。
なお、この実施形態においても、第一の実施形態と同様に判定データ作成工程を設けて、前記判定データ作成工程で作成した判定データを、SDカードやCD,DVDなどの各種データ記憶手段のほか、コンピュータ読み取り可能なデータベースに記憶させてもよい。
この実施形態では、判定データに別の判定工程の判定結果データが入力される。最終的に前記判定データには真菌の有無の判定結果データと、必要に応じて画像データに加え、別の判定工程での判定結果データが格納される。
【0025】
[判定キットの実施形態]
上記の第二の実施形態の方法に用いる判定キットの一例を図3に示す。図3は、本発明における真菌の有無を判定する判定方法のための判定キットの一実施形態にかかり、その構成を説明する概略斜視図である。
携行に便利なケースCには、試験管2,スポイト3a,3b,3c,処理液4を収容する処理液容器4′、検出液14を収容した検出液容器14′、顕微鏡観察のためのスライドガラス10及びカバーガラス11が収容されている。図示はしないが、顕微鏡をこの判定キットに含めてもよい。また、この実施形態の判定キットには、複数本の試験管2を並べて立てることのできるラック13も備えられている。さらに、不要になった検出液14や処理液4を一時的に収容するためのトレー16や、試験管2内の処理液4や検出液14を攪拌するための攪拌棒17、図示はしないが、試料1を試験管2内に投入したり取り出したりするためのピンセットを備えていてもよい。
【0026】
[データベースを用いたシステムの実施形態]
第一及び第二の実施形態において判定データの作成工程を設け、複数の判定データを記憶したデータベースを構築することで、前記判定データの利用を希望するユーザに対し、前記判定データの提供が可能になる。
判定データは、少なくともIDコード(識別データ)、試料データ、真菌有無の判定結果データを含み、必要に応じて顕鏡画像データを含む構成となっている。
判定データの作成工程は、IDコード(識別データ)の発行ステップの後に試料データの入力ステップ、真菌の有無の判定結果データの入力ステップ及び必要に応じて顕鏡画像データの入力ステップの各工程を含む。
【0027】
図4は、第一の実施形態又は第二の実施形態の判定データ作成工程で作成しデータベースに記憶させた判定データを、ユーザに対して利用可能にするシステムの一例にかかり、その構成を説明する概略図である。
図4に示すように判定データには、試料1,2,3・・・ごとに発行されたIDコードなどの識別データ1,2,3・・・と、これら識別データ1,2,3・・・が割り付けられた試料1,2,3・・・ごとの真菌の有無の判定結果データ1,2,3・・・と、試料1,2,3・・・に関する試料データ1,2,3・・・とが含まれる。試料データ1,2,3・・・には、例えば試料1,2,3・・・の採取年月日、真菌の種類や特徴、患者など試料提供者に関する情報をデータ化して含ませてもよい。また、判定データには、必要に応じて、試料1,2,3・・・ごとの試料溶解液の画像データ(顕鏡画像データ)1,2,3・・・を含ませてもよい。
インターネットなどのネットワークNには、クライアントコンピュータPC1,PC2・・・及びサーバコンピュータSが接続される。サーバコンピュータSは、前記判定データを記憶するデータベースDBと、データベースDBに対して判定データの入力を行う入力装置Iaとを有している。入力装置IaはネットワークNに接続されていてもよい。また、入力装置Iaは判定装置内に設けられていてもよい。
【0028】
サーバコンピュータSは、判定データのデータベースDBを構築した企業、大学、医療機関、研究機関などに所属する。クライアントコンピュータPC1,PC2・・・は、データベースDBに記憶された判定データを利用しようとする企業、大学、医療機関、研究機関などのユーザが使用する端末である。ユーザがネットワークNを介してデータベースDBにアクセスするために、必要に応じてユーザに対し予めアクセス権を設定してもよい。
クライアントコンピュータPC1,PC2・・・は、ユーザがネットワークNを介してデータベースDBにアクセスすることができるものであれば、汎用のパーソナルコンピュータのほか、タブレットPCやスマートフォンなどの携帯通信端末を利用することができる。
サーバコンピュータSはHTMLで記述されたwebページを有するWWWサーバを備え、ユーザは所定のURLでサーバコンピュータ16のwebページを要求し、データベースDBにアクセスすることができる。
【0029】
以上の構成により、サーバコンピュータSが所属する企業、大学、医療機関、研究機関などによって収集された判定データは、入力装置Iaを介してデータベースDBに記憶される。データベースDBに蓄積された判定データの利用を希望するユーザは、ネットワークNを介してクライアントコンピュータPC1,PC2・・・からデータベースDBにアクセスし、必要な判定データを読み出す。
このようなデータベースDBを有するシステムの利用例としては、例えばユーザが例えば医療機関である場合に、患者から採取した試料から得られた顕鏡画像データを、データベースDBに蓄積された過去の判定データとを比較することで、真菌の有無の自動判定を行うことなどを挙げることができる。
ネットワークNを介してデータベースDBを利用するシステムを説明したが、真菌の有無を判定する判定装置内に入力装置Ia及び判定データのデータベースDBを設けたシステムであってもよい。
【0030】
データベースDBへのアクセスシステムは、第一の実施形態で作成されたプレパラートや試験管2にIDコード(識別データ)などの識別手段を付しておき、スキャナー等で前記識別手段を読み取り、これを識別データ1,2,3・・・としてデータベースDBの判定データへアクセスする方法を実現するシステムであってもよい。
第二の実施形態で作成されたデータベースDBを用いると、真菌の有無の判定結果データとの別の判定工程で得られた真菌の有無の判定結果データ(この場合はこれらを、まとめて判定結果データ1,2,3・・・とする)がデータベースDBに格納されているので、両判定結果データ1,2,3・・・の相関を、蓄積された判定結果データ1,2,3・・・から分析することができる。そして得られた分析結果を真菌の有無の判定工程や別の判定工程に反映させることで、真菌の有無の判定の精度をより高めることが可能になり、例えば非特許文献などで指摘されている課題を解決することができる。
また、顕鏡画像データ1,2,3・・・を加えた分析を判定に反映させることでさらに精度を高めることができる。
【0031】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、第一及び第二の実施形態においては、試料1を試験管2に投入した後に処理液4又は検出液14を投入しているが、この順序は限定されず、同時又は逆であってもよい。
また、第二の実施形態では、試験管2を使って別の判定工程で真菌の有無を判定した後に、当該試験管2内に処理液4を投入するようにしているが、先の判定工程と後の判定工程とで別々の試験管2を用い、先の判定工程で使った試験2から試料1を別の試験管2に移し替えて当該別の試験管2に処理液4を投入するようにしてもよい。
さらに、上記の説明では容器の一例として試験管2を例に挙げて説明したが、マイクロチューブやシリンジであってもよい。また、これら容器を密封できるものであれば蓋5に限らず他の密封手段であってもよい。
【0032】
また、上記の説明において真菌の有無の判定を行う際に使用する真菌観察手段として顕微鏡を例に挙げて説明したが、試料溶解液に含まれる真菌を拡大して観察することができるものであれば、光学顕微鏡や電子顕微鏡、レーザ顕微鏡などの顕微鏡に限らず拡大鏡なども含まれる。
また、上記の説明では顕微鏡によって試料を観察して真菌の有無を判定する方法や顕鏡画像をディスプレイに表示させて真菌の有無を判定する方法を例に挙げて説明したが、顕鏡画像をディスプレイに表示させて行う画像診断や、データベースに蓄積された過去の判定データを利用して行う自動診断としてもよい。
また、処理や検出液はスポイト3a,3cを使って試験管2内に投入するものとして説明したが、処理液の投入、検出液の投入が行えるものであればスポイト3a,3cによる投入以外の手段であってもよい。例えば、蓋5に処理液や検出液を予め封入しておき、必要に応じて前記封入状態を解除して蓋5から試験管2内に処理液や検出液を投入できるように蓋5を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、白癬菌、カンジダ、クリプトコックス、アスペルギルスなどの真菌の有無の判定に適用が可能である。また、人や動物に真菌症を引き起こす真菌の検出に適用が可能であるほか、白癬菌など患部が皮膚の角質などに止まり真皮に及ばない表在性真菌症に限らず、患部が真皮以下の皮下組織におよぶ深部表在性真菌症や、脳、肺、心臓などの内部臓器まで及ぶ深在性真菌症(全身性真菌症、内臓真菌症)にも適用が可能であり、患部を切開したり内視鏡などの器具を使って取り出したりした試料を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の真菌の有無を判定する方法における第一の実施形態にかかり、判定までの手順を説明する図である。
【図2】本発明の真菌の有無を判定する方法における第二の実施形態にかかり、判定までの手順を説明する図である。
【図3】本発明の真菌の有無を判定する判定キットの一例にかかる概略斜視図である。
【図4】第一の実施形態又は第二の実施形態の判定データ作成工程で作成しデータベースに記憶させた判定データを、ユーザに対して利用可能にするシステムの一例にかかり、その構成を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 試料
2 試験管(容器)
3a,3b,3c スポイト
4 処理液
5 蓋
6 試料溶解液
10 スライドガラス
11 カバーガラス
13 ラック
14 検出液
15 試薬デバイス(真菌検出器)
16 トレー
C ケース
DB データベース
Ia 入力装置
N ネットワーク
PC1,PC2 クライアントコンピュータ
S サーバコンピュータ
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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