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明細書 :雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年5月28日(2020.5.28)
発明の名称または考案の名称 雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法
国際特許分類 C12N  15/64        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/64 Z
A01K 67/027
C12N 5/10
国際予備審査の請求
全頁数 29
出願番号 特願2019-517614 (P2019-517614)
公序良俗違反の表示 1.TRITON
2.TWEEN
国際出願番号 PCT/JP2018/017650
国際公開番号 WO2018/207736
国際出願日 平成30年5月7日(2018.5.7)
国際公開日 平成30年11月15日(2018.11.15)
優先権出願番号 2017092384
優先日 平成29年5月8日(2017.5.8)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】篠原 隆司
【氏名】渡邉 哲史
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA91X
4B065AA91Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA60
要約 本開示は、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを脊椎動物の精巣に注入することを含む方法等に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
脊椎動物の精巣内の雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入するための、アデノ随伴ウイルスベクターを含む組成物。
【請求項2】
雄性不妊症を治療するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脊椎動物がヒトである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを非ヒト脊椎動物の精巣に注入することを含む方法。
【請求項6】
雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドが導入された非ヒト脊椎動物を製造する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを非ヒト脊椎動物の精巣に注入することを含む方法。
【請求項7】
アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
雄性生殖細胞が精子幹細胞である、請求項5~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
脊椎動物が血液精巣関門を有する、請求項5~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アデノ随伴ウイルスベクターを精巣間質に注入する、請求項5~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
遺伝子改変非ヒト脊椎動物の製造方法であって、
非ヒト脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入して、遺伝子改変精子を形成させること、および
前記遺伝子改変精子と卵とを受精させ、遺伝子改変個体を得ること
を含む方法。
【請求項12】
遺伝子改変精子の製造方法であって、
非ヒト脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入して、遺伝子改変精子を形成させることを含む方法。
【請求項13】
アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
脊椎動物が血液精巣関門を有する、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
アデノ随伴ウイルスベクターを精巣間質に注入する、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本出願は、日本国特許出願第2017-092384号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本出願は、遺伝子改変および遺伝子治療の分野に関し、具体的には、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法および遺伝子改変動物の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
精子幹細胞は、自己複製能を有する唯一の雄性生殖細胞であり、当該細胞への形質導入は、遺伝子改変動物作製の効率を大幅に改善する可能性がある。精子形成の場である精細管は、セルトリ細胞が形成する血液精巣関門により基底膜側の区画と内腔側の区画にわけられており、精子幹細胞を含む未分化な雄性生殖細胞は、基底膜側の区画に存在し保護されている。レトロウイルスベクターを用いた精子幹細胞への遺伝子導入が報告されているが、精子幹細胞にベクターを到達させるためには、血液精巣関門が形成されていない幼若な精細管にベクターを注入する必要があった。極めて細い幼若な精細管への顕微注入は高い技術を要し、また、注入可能な時期も限定的であった。
【0003】
セルトリ細胞は、精子形成を支持する細胞であり、雄性不妊症への関与が示唆されている。レンチウイルスまたはアデノウイルスベクターを精細管に顕微注入することによるセルトリ細胞への遺伝子導入が報告されているが、レンチウイルスは生殖細胞に導入遺伝子による挿入変異をもたらす恐れがあり、また、アデノウイルスベクターは炎症反応を誘発するという問題があった。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際出願公開第2005-115133号公報
【0005】

【非特許文献1】Ikawa M, Tergaonkar V, Ogura A, Ogonuki N, Inoue K, Verma IM. Restoration of spermatogenesis by lentiviral gene transfer: offspring from infertile mice. Proc Natl Acad Sci USA 2002; 99: 7524-7529.
【非特許文献2】Kanatsu-Shinohara M, Ogura A, Ikegawa M, Inoue K, Ogonuki N, Tashiro K, Toyokuni S, Honjo T, Shinohara T. Adenovirus-mediated gene delivery and in vitro microinsemination produce offspring from infertile male mice. Proc Natl Acad Sci USA 2002; 99: 1383-1388.
【非特許文献3】Kanatsu-Shinohara M, Ogonuki N, Inoue K, Miki H, Ogura A, Toyokuni S, Shinohara T. Long-term proliferation in culture and germline transmission of mouse male germline stem cells. Biol Reprod 2003; 69: 612-616.
【非特許文献4】Kanatsu-Shinohara M, Toyokuni S, Shinohara T. Transgenic mice produced by retroviral transduction of male germ line stem cells in vivo. Biol Reprod 2004;71:1202-1207.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入するための改良方法およびその応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ある態様において、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを脊椎動物の精巣に注入することを含む方法を提供する。
【0008】
本発明は、別の態様において、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドが導入された脊椎動物を製造する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを脊椎動物の精巣に注入することを含む方法を提供する。
【0009】
本発明は、別の態様において、遺伝子改変脊椎動物の製造方法であって、
脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入して、遺伝子改変精子を形成させること、および
前記遺伝子改変精子と卵とを受精させ、遺伝子改変個体を得ること
を含む方法を提供する。
【0010】
本発明は、別の態様において、遺伝子改変精子の製造方法であって、
脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入して、遺伝子改変精子を形成させることを含む方法を提供する。
【0011】
本発明は、別の態様において、脊椎動物の精巣内の雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入するための、アデノ随伴ウイルスベクターを含む組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞に簡便にポリヌクレオチドを導入することが可能となった。アデノ随伴ウイルス(本明細書中、AAVとも記載する)ベクターは、既に遺伝子治療で用いられている安全で取扱い容易なベクターであり、広い応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】図1Aは、アデノウイルス(adenovirus)またはレンチウイルス(lentivirus)ベクターによるR26R-EYFPマウス精巣への形質導入(A)を示す。顕微注入の経路を示す模式図。ガラスキャピラリー(glass capillary)により、ウイルス粒子(virus particles)を、精細管注入(tubular injection)では精巣輸出管(efferent duct)を経由して精細管(seminiferous tubule)に、間質注入(interstitial injection)では精巣(testis)の間質領域に顕微注入した。精細管の周囲には間質細胞(interstitial cells)が存在する。
【図1B】図1Bは、アデノウイルスまたはレンチウイルスベクターによるR26R-EYFPマウス精巣への形質導入(B)を示す。AxCANCreおよびCSII-EF1-Creの顕微注入の7日(1週間)後の、R26R-EYFPマウス精巣の巨視的外観。
【図1C】図1Cは、アデノウイルスまたはレンチウイルスベクターによるR26R-EYFPマウス精巣への形質導入(C)を示す。顕微注入の7日後の未分化精原細胞(GFRA1)、セルトリ細胞(VIM)、精細管周囲筋様細胞(ACTA2)、およびライディッヒ細胞(STAR)マーカーによるR26R-EYFPマウス精巣の免疫染色。
【図2A】図2Aは、AAV血清型のスクリーニング(A)を示す。mCherry発現AAVの顕微注入の7日後の、野生型マウス精巣の巨視的外観。上の写真は、精細管注入(tubular injection)の注入1週間後(1 week postinjection)、下の写真は、間質注入(interstitial injection)の注入1週間後の結果を示す
【図2B】図2Bは、AAV血清型のスクリーニング(B)を示す。未分化精原細胞(GFRA1)およびセルトリ細胞(WT1)マーカーによる、AAV1、AAV8、またはAAV9-mCherryを注入した精巣の注入7日後の免疫染色。
【図2C】図2Cは、AAV血清型のスクリーニング(C)を示す。免疫染色の定量化。精細管注入および間質注入について、それぞれ少なくとも3つの精細管を数えた。WT1セルトリ細胞中のmCherry細胞の割合(%)(mCherry+ cells/WT1+ sertoli cells (%))、およびマーカー陽性細胞中のmCherry細胞の割合(%)(mCherry+ cells/ marker+ cells (%))を示す。
【図2D】図2Dは、AAV血清型のスクリーニング(D)を示す。未分化精原細胞(GFRA1)マーカーによる、AAV7M8-mCherryを注入した精巣の注入7日後の免疫染色。
【図3A】図3Aは、AAV9-CreをR26R-EYFPマウスに顕微注入することにより解析した、形質導入の動態(A)を示す。AAV9-Cre顕微注入後の、各時点でのR26R-EYFPマウス精巣の巨視的外観。
【図3B】図3Bは、AAV9-CreをR26R-EYFPマウスに顕微注入することにより解析した、形質導入の動態(B)を示す。未分化精原細胞(GFRA1)およびセルトリ細胞(WT1)マーカーによる、R26R-EYFPマウス精巣の免疫染色。
【図3C】図3Cは、AAV1-mCherryまたはAAV9-mCherryの野生型マウスへの顕微注入の2日後の、Gdnf、Fgf2、およびKitl発現のリアルタイムPCR解析(n=3)を示す。相対的発現レベル(relative expression levels)を示す。カラムは、左から、対照(Control)(ビヒクル)、AAV1-mCherry、AAV9-mCherryの結果を示す。
【図3D】図3Dは、ビヒクル(Vehicle)、AAV1-mCherryまたはAAV9-mCherryの野生型マウスへの顕微注入7日後の、CLDN11の免疫染色を示す。
【図3E】図3Eは、血液精巣関門(BTB)の機能解析を示す。野生型およびCldn11ノックアウトマウスへのAAV8-mCherry、AAV1-mCherryまたはAAV9-mCherryの精細管または間質への注入の3日後、精巣間質にビオチン(biotin)を顕微注入した。試料は顕微注入の30分後に回収した。
【図4A】図4Aは、AAVによる精子幹細胞(SSC)形質導入の機能解析(A)を示す。AAV1-CreまたはAAV9-Creを(精細管または間質)注入した精巣 (AAV1 or 9-Cre injected testis (tubular or interstitial))からの細胞の分離(dissociation)、ブスルファン処理マウスの精巣への顕微注入(microinjection)、コロニーカウント(colony count)、顕微授精(microinsemination)、子孫の遺伝子型決定(genotyping of offspring)、AAV導入遺伝子の検出(detection of AAV transgene)のスキームを示す。
【図4B】図4Bは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(B)を示す。ドナー細胞回収時のR26R-EYFP精巣の巨視的外観。
【図4C】図4Cは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(C)を示す。レシピエント精巣の巨視的外観。
【図4D】図4Dは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(D)を示す。正常な外観のドナー由来精子形成を示す、精子形成マーカー(ピーナッツアグルチニン、PNA)による、レシピエント精巣の染色。
【図4E】図4Eは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(E)を示す。コロニーカウント(n=18-19)。10細胞あたりのコロニー数(Colonies/105 cells)を示す。
【図4F】図4Fは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(F)を示す。AAV9感染R26R-EYFPドナー精巣細胞を用いた顕微授精後に生まれた子孫。
【図4G】図4Gは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(G)を示す。子孫におけるEYFP蛍光。野生型(wild type)マウス、および精細管(tubular)または間質(interstitial)注入したマウスの、精巣(testis)、腎臓(kidney)、肝臓(liver)、脳(brain)のEYFP蛍光を、明視野(bright field)の観察結果とともに示す。
【図4H】図4Hは、AAVによるSSC形質導入の機能解析(H)を示す。Creによる欠失のPCR解析。精細管または間質注入後に生まれた子孫(offspring)の尻尾DNA試料を図中のプライマーで解析した。
【図5A】図5Aは、AAV形質導入の改善(A)を示す。AAV9-2YF-mCherryを注入した野生型精巣の巨視的外観。
【図5B】図5Bは、AAV形質導入の改善(B)を示す。ノイラミニダーゼ(neuraminidase)と共にAAV9-mCherryを注入した野生型精巣の巨視的外観。
【図5C】図5Cは、AAV形質導入の改善(C)を示す。未分化精原細胞(GFRA1)およびセルトリ細胞(WT1)マーカーによる、野生型精巣の免疫染色。
【図5D】図5Dは、AAV形質導入の改善(D)を示す。免疫染色の定量化。精細管注入および間質注入について、それぞれ少なくとも3つの精細管を数えた。mCherry細胞中のWT1細胞の割合(%)(WT1+ cells / mCherry+ cells (%))、およびmCherry細胞中のGFRA1細胞の割合(%)(GFRA1+ cells / mCherry+ cells (%))を示す。カラムは、左がビヒクル、右がノイラミニダーゼ添加の結果を示す。
【図6A】図6Aは、AAV9-Kitl感染による、KitlSl/KitlSl-dマウスの不妊症の治療(A)を示す。AAV9-Kitlの顕微注入後の、KitlSl/KitlSl-dマウス精巣の巨視的、組織学的、およびレクチン組織化学的外観。
【図6B】図6Bは、AAV9-Kitl感染による、KitlSl/KitlSl-dマウスの不妊症の治療(B)を示す。Kitl発現AAV9の精細管注入後に形成された精子を用いた顕微授精後に生まれた子孫。
【図6C】図6Cは、AAV9-Kitl感染による、KitlSl/KitlSl-dマウスの不妊症の治療(C)を示す。AAV9-Kitlの間質注入後に形成された精子を用いた顕微授精後に生まれた子孫。
【図6D】図6Dは、AAV9-Kitl感染による、KitlSl/KitlSl-dマウスの不妊症の治療(D)を示す。Kitl cDNAプローブを用いたEcoRI消化DNAのサザンブロット解析。AAV9-Kitlの精細管注入後に形成された精子の顕微授精後に生まれた代表的子孫から回収したDNA試料を用いた。野生型の遺伝子座は4.3kbおよび13kbに、KitlSl-dの遺伝子座は4.3kbおよび7kbにバンドを示し、KitlSlの遺伝子座はバンドを示さなかった(図6Eにおいて同じ)。
【図6E】図6Eは、AAV9-Kitl感染による、KitlSl/KitlSl-dマウスの不妊症の治療(E)を示す。Kitl cDNAプローブを用いたEcoRI消化DNAのサザンブロット解析。AAV9-Kitlの間質注入後に形成された精子の顕微授精後に生まれた代表的子孫から回収したDNA試料を用いた。
【図7A】図7Aは、子孫へのAAV9組み込みの解析(A)を示す。AAV9-Creの精細管または間質注入後に生まれた子孫由来の尻尾DNA試料を、Cre特異的プライマーを用いて解析した。
【図7B】図7Bは、子孫へのAAV9組み込みの解析(B)を示す。AAV9-Kitlの精細管または間質注入後に生まれた子孫由来の尻尾DNA試料を、AAV9特異的プライマーを用いて解析した。
【図8】図8は、AAVによるウサギ精巣細胞への形質導入を示す。mCherry: 抗mCherry抗体による染色結果。Merge: 抗mCherry抗体による染色結果とHoechst 33342による染色結果の重ね合わせ。
【図9】図9は、AAVによるマーモセット精巣細胞への形質導入を示す。Merge: 抗mCherry抗体、Hoechst 33342、および抗SSEA3抗体または抗WT1抗体による染色結果の重ね合わせ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。

【0015】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「20±10%~30±10%」を含むものとする。

【0016】
脊椎動物としては、例えば、哺乳動物、鳥、魚、両生動物および爬虫類動物が挙げられる。哺乳動物としては、限定はされないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク、イヌ、ネコ、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー、ヒトなどが挙げられる。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、オーストリッチ、エミュ、ダチョウ、ホロホロ鳥、ハトなどが挙げられる。好ましい実施形態において、脊椎動物は、哺乳動物である。ある実施形態において、哺乳動物は、齧歯目、ウサギ目、または霊長目の動物である。さらなる実施形態において、哺乳動物は、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー、またはヒトである。さらなる実施形態において、哺乳動物は、ヒトである。

【0017】
脊椎動物は、いずれの発達段階にある動物であってもよい。ある実施形態において、脊椎動物は、血液精巣関門(本明細書中、BTBとも記載する)を有する動物である。血液精巣関門を有する動物としては、血液精巣関門が形成された後の発達段階にある動物が挙げられる。血液精巣関門が形成される時期は、脊椎動物の種類により異なるが、例えば、マウスでは2週齢、ラットでは2~3週齢、ウサギでは10週齢、ウシでは20~32週齢、アカゲザルでは10~15月齢、マーモセット(Marmoset monkey)では5~6月齢などである。ある実施形態において、血液精巣関門を有する動物は、成体動物である。別の実施形態において、脊椎動物は、血液精巣関門を有さない動物である。血液精巣関門を有さない動物としては、例えば、血液精巣関門が形成される前の発達段階にある動物が挙げられ、かかる動物を本明細書において「幼若動物」と称する。好ましい実施形態において、脊椎動物は、血液精巣関門を有する動物である。

【0018】
本明細書におけるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターには、雄性生殖細胞(好ましくは、精子幹細胞)またはセルトリ細胞への指向性を有し、精細管の基底膜または血液精巣関門を通過しうる任意のAAVベクターが含まれる。AAVベクターは、天然のカプシドタンパク質を有していても、人為的に改変されたカプシドタンパク質を有していてもよい。好ましくは、AAVベクターは、精細管の基底膜を通過しうるものである。好適なAAVベクターは、実施例の記載に準じて脊椎動物の精巣に注入した場合に目的の細胞に感染するか否かを調べることにより、選択することができる。好ましい実施形態において、AAVベクターは、AAV1、AAV9、もしくはAAV7M8、より好ましくはAAV1もしくはAAV9、またはその標的指向性と基底膜または血液精巣関門の透過性とを保持する変異体である。所望の変異体を得る方法は、当業界において公知である。例えば、カプシドタンパク質を改変し、その性質を実施例の記載に準じて確認することにより、所望の変異体を得ることができる。DNAシャッフリングまたはエラープローンPCR等によりカプシドタンパク質を変異させたAAVのライブラリーを作製し、スクリーニングしてもよい。

【0019】
AAVベクターに含まれるポリヌクレオチドは、特に限定されず、タンパク質またはペプチドをコードするポリヌクレオチド、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、stRNA、リボザイム、デコイ核酸などの核酸分子をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。ある実施形態において、ポリヌクレオチドは、GFP、eGFP、BFP、YFP、EYFP、CFP、RFP、dsRed、およびmCherry等の蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチド(本明細書中、マーカー遺伝子とも称する)でありうる。

【0020】
ポリヌクレオチドは、CRISPR/Cas9、TALEN、またはZFNなどによるゲノム編集のためのタンパク質または核酸分子をコードするポリヌクレオチドであってもよい。通常、AAVベクターは細胞のゲノムに挿入されないが、ゲノム編集技術と組み合わせることにより、雄性生殖細胞またはセルトリ細胞のゲノムを改変することができる。CRISPR/Cas9によるゲノム編集のためのタンパク質および核酸分子としては、エンドヌクレアーゼであるCas9タンパク質、およびCas9タンパク質を標的配列へ動員するガイドRNA(gRNA)、ゲノムの二本鎖切断部位に導入されるドナーベクターなどが例示される。

【0021】
ポリヌクレオチドは、プロモーター、エンハンサー等の調節要素を含んでも良い。プロモーターは、細胞内でポリヌクレオチドの発現を調節できるものであれば特に限定されない。プロモーターとしては、CAGプロモーター、SRαプロモーター、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、PGKプロモーター、U6プロモーター、およびtRNAプロモーター等の組織非特異的プロモーター;肝臓特異的α1ATプロモーター、骨格筋特異的α-アクチンプロモーター、神経特異的エノラーゼプロモーター、および血管内皮細胞特異的tieプロモーター等の組織特異的プロモーターが挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。

【0022】
AAVベクターに含まれるポリヌクレオチドのサイズは、特に限定はされないが、通常4.7kbp程度までである。1つのAAVベクターが2種以上のポリヌクレオチドを含んでもよく、あるいは、2種以上のAAVベクターを組み合わせて注入してもよい。

【0023】
AAVベクターは、当業界において知られる如何なる方法により作製してもよい。例えば、HEK293細胞またはその改変体であるAAV-293細胞などのパッケージング細胞に、1)両端にAAVの末端逆位反復配列(ITR)を有し、その間に目的のポリヌクレオチドを挿入したAAVベクタープラスミド、2)AAVの複製や粒子形成に必要とされるRep遺伝子およびCap遺伝子を有するAAVヘルパープラスミド、および3)AAVの増殖に必要とされるアデノウイルスのヘルパー遺伝子を有するアデノウイルスヘルパープラスミドをトランスフェクションすることにより、作製することができる。かかるAAVベクターの作製は、AAV Helper-Free System(Agilent Technologies)などの市販のキットを用いて行うことができる。

【0024】
AAVベクターは、その導入効率を高めるための試薬とともに、精巣に注入することができる。かかる試薬としては、ノイラミニダーゼ、MG132などのプロテアソーム阻害剤、Eeyarestatin I、トリチウムチミジン、シスプラチン、エトポシド、カルパイン阻害剤、ユビキチンリガーゼ阻害剤などが挙げられる。

【0025】
本明細書において、AAVベクターは、インビボで脊椎動物の精巣に注入される。AAVベクターは、精巣のいずれの部位に注入してもよい。注入部位としては、精巣間質、精細管、輸出管、および精巣網が挙げられる。ある実施形態において、AAVベクターは、精巣間質に注入される。

【0026】
本明細書におけるAAVベクターは、精細管の基底膜または血液精巣関門を通過して、基底膜側の区画に存在する雄性生殖細胞またはセルトリ細胞に感染することができる。よって、本明細書におけるAAVベクターは、血液精巣関門を有さない動物の精細管、輸出管、または精巣網に注入する必要がなく、精巣への注入時期や注入部位が限定されない。また、AAVベクターを用いれば、国際出願公開第99/038991号公報に記載のように精巣内細胞を減少させる処理を行う必要はなく、本発明の方法はかかる工程を含まない。

【0027】
AAVベクターの注入量は、対象に応じて適宜変更されるが、例えば、体重20g当たり約1×1010~1.0×1011個のウイルス粒子である。

【0028】
本明細書において、雄性生殖細胞には、あらゆる発達段階の生殖細胞が含まれる。雄性生殖細胞としては、精子幹細胞(本明細書中、SSCとも記載する)、精原細胞、精母細胞、精娘細胞、精細胞、精子が挙げられる。ある実施形態において、雄性生殖細胞は、精子幹細胞である。

【0029】
ある実施形態では、ポリヌクレオチドが導入された雄性生殖細胞から精子を形成させることにより、遺伝子改変精子を得ることができる。精子幹細胞は自己複製能を有することから、精子幹細胞が遺伝子改変された場合、遺伝子改変精子が継続的に産生されうる。一方、精子幹細胞以外の生殖細胞は自己複製能を有さないことから、これら生殖細胞から産生された精子は、精子形成の1サイクルに要する期間(マウスにおいては約35日)後には消失すると考えられる。よって、AAVベクターの注入後、当該期間が経過した後に遺伝子改変精子の存在が確認される場合は、ポリヌクレオチドが精子幹細胞へ導入されたと判断することができる。遺伝子改変精子は、公知の方法により確認または選択することができる。例えば、マーカー遺伝子を(他のポリヌクレオチドと共に、または単独で)導入した場合、マーカー遺伝子の発現を指標に確認または選択することができる。

【0030】
上記のようにして得られる遺伝子改変精子を卵と受精させ、動物個体を発生させることにより、遺伝子改変動物を得ることができる。本明細書において卵とは、精子が受精可能な雌性配偶子を意味し、例えば、卵細胞、卵母細胞等が挙げられる。卵は、通常、精子と同種の脊椎動物の卵である。精子と卵の受精は、自然交配、あるいは顕微受精(ICSI)、体外受精(IVF)等による人工授精など、周知の方法により行うことができる。例えば、AAVベクターを注入した雄を雌と交配すればよい。交配前にAAVベクターを注入した雄が遺伝子改変精子を有することを確認する工程は必須ではない。あるいは、AAVベクターを注入した動物から得た精子を卵と人工受精し、偽妊娠動物の子宮に移入してもよい。

【0031】
遺伝子改変動物が得られたか否かは、公知の方法により確認することができる。例えば、マーカー遺伝子の発現を調べてもよく、ゲノムDNAを回収してPCRまたはサザンブロッティング等を行ってもよく、導入したポリヌクレオチドの発現産物(例えば、タンパク質)の存在を調べてもよい。

【0032】
雄性生殖細胞またはセルトリ細胞へポリヌクレオチドを導入することにより、これら細胞の遺伝子異常に起因する疾患を治療することができる。例えば、セルトリ細胞は雄性不妊症に関与することが示唆されており、セルトリ細胞の遺伝子改変により雄性不妊症を治療できる可能性がある。ポリヌクレオチドは、遺伝子異常によって低下または欠失したタンパク質の機能を補う、または亢進したタンパク質の機能を抑制する、タンパク質、ペプチド、または核酸分子をコードしうる。

【0033】
AAVベクターを含む組成物は、有効成分であるAAVベクターに加えて、医薬上許容される担体および/または添加剤を含みうる。医薬上許容される担体としては、生理食塩水または他の生理学的に許容される緩衝液が例示される。添加剤としては、溶解補助剤、pH調節剤、保存剤、安定化剤などが例示される。剤型は、限定はされないが、例えば注射剤であり、液状の注射剤、および用時溶解して用いる固形注射剤(例えば、凍結乾燥注射剤)が例示される。AAVベクターを含む組成物は、キットとして提供されてもよく、キットは、用時溶解に用いる緩衝液や使用説明書などをさらに含んでもよい。

【0034】
AAVベクターの投与量は、対象に応じて適宜変更されるが、例えば、体重1kg当たり約10~1015vg(vector genome)、好ましくは1010~1014vg、または1010~1013vgである。

【0035】
本開示の実施形態を例示する。
1.雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを脊椎動物の精巣に注入することを含む方法。
2.雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドが導入された脊椎動物を製造する方法であって、前記ポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを脊椎動物の精巣に注入することを含む方法。
3.アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8、好ましくはAAV1またはAAV9である、前記1または2に記載の方法。
4.雄性生殖細胞が精子幹細胞である、前記1~3のいずれかに記載の方法。
5.脊椎動物が血液精巣関門を有する、前記1~4のいずれかに記載の方法。
6.アデノ随伴ウイルスベクターを精巣間質に注入する、前記1~5のいずれかに記載の方法。
7.脊椎動物が非ヒト脊椎動物である、前記1~6のいずれかに記載の方法。
8.脊椎動物が哺乳動物である、前記1~7のいずれかに記載の方法。
9.哺乳動物が齧歯目、ウサギ目、または霊長目の動物である、前記8に記載の方法。
10.脊椎動物がヒトである、前記1~6のいずれかに記載の方法。

【0036】
11.遺伝子改変脊椎動物の製造方法であって、
脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入して、遺伝子改変精子を形成させること、および
前記遺伝子改変精子と卵とを受精させ、遺伝子改変個体を得ること
を含む方法。
12.アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8、好ましくはAAV1またはAAV9である、前記11に記載の方法。
13.脊椎動物が血液精巣関門を有する、前記11または12に記載の方法。
14.アデノ随伴ウイルスベクターを精巣間質に注入する、前記11~13のいずれかに記載の方法。
15.脊椎動物が非ヒト脊椎動物である、前記11~14のいずれかに記載の方法。
16.脊椎動物が哺乳動物である、前記11~15のいずれかに記載の方法。
17.哺乳動物が齧歯目、ウサギ目、または霊長目の動物である、前記16に記載の方法。

【0037】
18.遺伝子改変精子の製造方法であって、
脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入して、遺伝子改変精子を形成させることを含む方法。
19.アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8、好ましくはAAV1またはAAV9である、前記18に記載の方法。
20.脊椎動物が血液精巣関門を有する、前記18または19に記載の方法。
21.アデノ随伴ウイルスベクターを精巣間質に注入する、前記18~20のいずれかに記載の方法。
22.脊椎動物が非ヒト脊椎動物である、前記18~21のいずれかに記載の方法。
23.脊椎動物が哺乳動物である、前記18~22のいずれかに記載の方法。
24.哺乳動物が齧歯目、ウサギ目、または霊長目の動物である、前記23に記載の方法。

【0038】
25.脊椎動物の精巣内の雄性生殖細胞またはセルトリ細胞にポリヌクレオチドを導入するための、アデノ随伴ウイルスベクターを含む組成物。
26.疾患を治療するための、前記25に記載の組成物。
27.雄性生殖細胞またはセルトリ細胞の遺伝子異常に起因する疾患を治療するための、アデノ随伴ウイルスベクターを含む組成物。
28.雄性不妊症を治療するための、前記26または27に記載の組成物。
29.脊椎動物がヒトである、前記25~28のいずれかに記載の組成物。
30.アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8、好ましくはAAV1またはAAV9である、前記25~29のいずれかに記載の組成物。
31.脊椎動物が血液精巣関門を有する、前記25~30のいずれかに記載の組成物。
32.脊椎動物の精巣に注入される、前記25~31のいずれかに記載の組成物。
33.脊椎動物の精巣間質に注入される、前記25~32のいずれかに記載の組成物。

【0039】
34.雄性生殖細胞またはセルトリ細胞の遺伝子異常に起因する疾患を治療する方法であって、脊椎動物の精巣にアデノ随伴ウイルスベクターを注入することを含む、方法。
35.疾患が雄性不妊症である、前記34に記載の方法。
36.脊椎動物がヒトである、前記34または35に記載の方法。
37.アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、AAV9、またはAAV7M8、好ましくはAAV1またはAAV9である、前記34~36のいずれかに記載の方法。
38.脊椎動物が血液精巣関門を有する、前記34~37のいずれかに記載の方法。
39.脊椎動物の精巣間質にアデノ随伴ウイルスベクターを注入する、前記34~38のいずれかに記載の方法。

【0040】
以下、実施例により本発明を説明するが、如何なる意味においても本発明はこれら実施例に限定されない。
【実施例1】
【0041】
1.方法
(1)ウイルス産生
AAVベクターの産生のため、AAVベクタープラスミド(pAAV-CAG-mCherryまたはpAAV-CAG-Cre)、アデノウイルスヘルパープラスミド(pHelper; Agilent Technologies, Santa Clara, CA)、およびAAVヘルパープラスミド(pAAV1、pAAV-RC[Agilent Technologies]、pXR5、pAAV6、pAAV6.2、pAAV7、pAAV7M8、pAAV8、pAAV9、pAAV10、pAAV11、pAAVhu11、Anc80L65、pAAV-DJまたはpAAV-DJ8)を、AAV-293細胞(Agilent Technologies)に一過性にトランスフェクトした。ウイルス力価は、FastStart Universal SYBR Green Master Mix (Roche, Penzberg, Germany)と特異的プライマーとを用いて、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により決定した。Creを発現するレンチウイルス(CSII-EF-Cre-IRES2-Puro)および一過性の293Tトランスフェクションによるその産生については、Morimoto H et al. (Biol Reprod 2015;92:147) に記載されている。ウイルス培養上清を、194,000×g、2時間の超遠心により濃縮し、ウイルス力価を、qPCR Lentivirus Titration Kit (Abm, BC, Canada)を用いて決定した。Creを発現するアデノウイルス(AxCANCre; RIKEN BRC, Tsukuba, Japan)は、Takehashi et al. (Proc Natl Acad Sci USA 2007; 104: 2596-2601)の記載にしたがい、293細胞により産生し、CsCl遠心法を用いて調製し、ウイルス力価を決定した。特に記載する場合を除き、AAVベクターは1×1012ウイルス粒子/ml、レンチウイルスは3×10ウイルス粒子/ml、アデノウイルスは1.7×10pfu(plaque forming unit)/mlで用いた。
【実施例1】
【0042】
(2)動物および移植
インビボスクリーニング実験およびトレーサー実験のために、4-5週齢C57BL/6(B6)×DBA/2F1(BDF1)マウスを用いた。トレーサー実験の陽性対照として、Cldn11ノックアウトマウス(3ヶ月齢)を用いた。一部の実験では、4-8週齢のトランスジェニックマウスGt(ROSA)26Sortm1(EYFP)Cos(本明細書中、R26RまたはR26R-EYFPとも記載する)(Srinivas et al, BMC Dev Biol 2001;1:4)を用いた。生殖能力(fertility)回復実験には、4-5週齢KitlSl/KitlSl-dマウス(Japan SLC, Shizuoka, Japan)を用いた。
【実施例1】
【0043】
(3)ウイルス粒子の顕微注入および精原細胞移植
精細管注入では、ウイルス粒子を、精巣輸出管を経由して精細管へ導入した。BDF1マウスへは約10μl、KitlSl/KitlSl-dマウスへは約4μlを投与した。間質注入では、同量のウイルスを精巣の間質領域に顕微注入した。一部の実験で、感染力を高めるためにノイラミニダーゼ(Sigma, St. Lois, MO)を用いた。
【実施例1】
【0044】
精原細胞移植のため、ドナー精巣細胞を、コラゲナーゼおよびトリプシン(共にSigma製)を用いた二段階の酵素処理により、単細胞に分離した。この細胞を、4週齢でブスルファン(44mg/kg、Sigma)により処理したBDF1マウスの精巣輸出管に顕微注入した。各インジェクションにより、精細管の75-85%を満たした。ブスルファン処理レシピエントマウスはいずれも、ブスルファン処理後4-8週間で用いた。
【実施例1】
【0045】
(4)トレーサー実験
Sulfo-NHS-LC-ビオチン(7.5mg/ml;557D; Thermo Fisher Scientific)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した。精巣の間質に、約20μlの溶液を顕微注入した。30分後、マウスを屠殺し、その精巣を直ちに摘出して、4%パラホルムアルデヒド中で4℃で一晩固定した。試料は、Tissue-Tek OCT化合物に包埋し、加工して凍結切片にした。対比染色の前に、Alexa Fluor 488結合ストレプトアビジン(BD Biosciences)とインキュベートすることにより、Sulfo-NHS-LC-ビオチンを検出した。
【実施例1】
【0046】
(5)レシピエント精巣の解析
SSC活性の評価のため、レシピエントを移植後2ヵ月で屠殺して、ドナー細胞の定着を紫外光下で調べた。生殖細胞クラスターが精細管の基底面全体を占め、少なくとも0.1mmの長さであるときに、コロニーと規定した。組織学的解析によりドナー細胞定着を評価するため、切片を×400の倍率で観察して、精巣中の定着の程度を決定し、CCDカメラを備えた倒立顕微鏡(DP70、 Olympus, Tokyo, Japan)で観察した切片の画像をPhotoshop software (Adobe, San Jose, CA)を用いて収集した。切片はいずれもHoechst 33342で染色した。
【実施例1】
【0047】
(6)免疫組織化学的検査
免疫組織化学的検査のため、精巣試料を4%パラホルムアルデヒドで2時間固定した。その後、凍結切片作成のために、Tissue-Tek OCT化合物(Sakura Finetek, Tokyo, Japan)に包埋した。凍結切片の免疫染色は、0.1%Triton-XのPBS溶液で試料を処理することにより行った。試料をブロッキングバッファー(0.1%Tween20、1%ウシ血清アルブミンおよび1%ヤギ血清のPBS溶液)に1時間以上浸漬した後、1次抗体と4℃で一晩インキュベートした。PBSで三回洗浄した後、試料を2次抗体とインキュベートした。
【実施例1】
【0048】
(7)遺伝子発現解析
全RNAをTRIzol(登録商標) (Invitrogen, Carlsbad, CA)により単離し、一本鎖cDNAをVerso cDNA Synthesis Kit (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて合成し、RT-PCRに使用した。リアルタイムPCRのため、StepOnePlusTM Real-Time PCR systemおよびFastStart Universal SYBR Green PCR Master Mix (Roche, Basel, Switzerland) を、製造元 (Applied Biosystems, Warrington, UK)の説明にしたがい使用した。 転写産物のレベルは、Hprtのレベルに対して標準化した。
【実施例1】
【0049】
(8)DNA解析
子孫から、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を用いた標準的手順により、ゲノムDNAを単離した。loxPが導入された(floxed)対立遺伝子の欠失およびウイルスの組み込みは、PCRにより検出した。
【実施例1】
【0050】
サザンブロッティングによりウイルスDNAを検出するため、20μgのDNAを、EcoRIで切断し、1.0%アガロースゲル中で分離した。DNAをナイロンメンブレン(Hybond-N+; Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)上に移し、ブロットした。全長Sl cDNAの、434bpのNciI-BglIフラグメントをプローブとして用いた標準的プロトコールに従い、ハイブリダイゼーションを行った。メンブレンは、32P標識プローブと、65℃で16時間、ハイブリダイズさせた。
【実施例1】
【0051】
(9)顕微授精
AAVを注入した精巣を一晩冷蔵し、翌日回収後に顕微授精に用いた。レシピエント精巣の精細管を切断し、精細管フラグメントを繰り返しピペッティングして分離した。R26Rマウス精巣を用いた実験では、EYFP発現ドナー細胞を含有する精細管フラグメントを、UV照明下で分離した。顕微授精は、BDF1卵母細胞への細胞質内注入により行った。インビトロでの培養後、二細胞期の胚を、偽妊娠1日目の雌ICRマウス(CLEA Japan, Inc., Tokyo, Japan)の卵管に移した。子孫は、帝王切開により19.5日目に生まれた。
【実施例1】
【0052】
(10)統計解析
一対の比較における平均値間の有意差を、スチューデントt検定により決定した。多重比較解析は、AVONAとそれに続くチューキーのHSD検定(Tukey’s honestly significant Difference test)を用いて行った。
【実施例1】
【0053】
2.結果
(1)アデノウイルスまたはレンチウイルスベクターによる生殖細胞への形質導入の欠如
これまでの研究で、アデノウイルスおよびレンチウイルスが生殖細胞に形質導入する能力は限定的であることが示されている(Ikawa et al., 2002; Kanatsu-Shinohara et al, 2002)。アデノウイルスおよびレンチウイルスベクターの生殖細胞への感染能を試験するため、EYFPレポーター遺伝子の上流にloxPが導入された転写停止因子を有し、loxP配列が欠失するとEYFP遺伝子を発現する、R26Rマウスを用いた。R26Rマウスの精細管に、AxCANCreまたはCSII-EF1-IRES-Creを顕微注入した(図1A)。また、同じウイルスを、対照として間質領域に注入した。顕微注入の1週間後に精巣を回収すると、精細管注入を受けた精巣は、ウイルスのタイプに関わらず、強いEYFPの蛍光を示した(図1B)。
【実施例1】
【0054】
精巣の組織片を作成し、生殖細胞およびセルトリ細胞のマーカー(それぞれGFRA1およびVIM)を用いた免疫組織化学的検査により、細胞タイプを調べた(図1C)。精細管注入を受けた精細管では多数の細胞がEYFP発現を示したが、詳細な試験により、全てのEYFP発現細胞がVIMを発現するセルトリ細胞であったことが明らかとなった。対照的に、生殖細胞への感染の証拠は見られなかった。
【実施例1】
【0055】
間質注入では、レンチウイルスとアデノウイルスとで異なる結果が得られた。レンチウイルスの間質注入ではEYFP発現細胞は観察されなかったが、アデノウイルスでは弱いEYFP発現が認められた。組織片の免疫染色により、アデノウイルスによりSTAR発現ライディッヒ細胞とACTA2発現精細管周囲筋様細胞が標的となったことがわかった。生殖細胞およびセルトリ細胞の感染は見られなかった。これらの結果より、アデノウイルスおよびレンチウイルスベクターはインビボでの生殖細胞への形質導入に有用でないという以前の研究が確認された
【実施例1】
【0056】
(2)精細管へのインビボ顕微注入によるAAV血清型のスクリーニング
次に、AAVによる遺伝子導入パターンを調べた。CAGプロモーター制御下でmCherryを発現する、13種類のAAVカプシド(AAV1、2、5、6、6.2、7、8、9、10、11、hu11、Anc80L65、およびDJ8)をスクリーニングした。ウイルス粒子は、精細管または間質組織に顕微注入した。感染の1週間後、精巣を回収して、紫外光下で導入遺伝子の発現を調べた。試験した13種類のうち、AAV1、8、9、11およびDJ8を精細管に顕微注入した精巣は、明らかなmCherryの蛍光を示した(図2A)。繰り返し試験したところ、AAV6.2およびAAV10により局所的であるが安定した感染が見られた。AAV1、AAV8、およびAAV9の間質注入を受けた精巣でも比較的強いシグナルが認められたが、AAVDJ8の間質注入では蛍光は見られなかった。
【実施例1】
【0057】
感染した細胞のタイプを明らかにするために、免疫組織化学染色を行った。精細管注入を受けた精巣の二重免疫組織化学検査により、AAV8が選択的にセルトリ細胞に形質導入していることが明らかとなった(図2B)。生殖細胞の形質導入は見られなかった。対照的に、AAV1およびAAV9はセルトリ細胞および生殖細胞の両方に感染した(図2B)。AAV1およびAAV9は、内腔側の区画の精子形成細胞のみならず、基底膜上の精原細胞にも形質導入した。GFRA1(Asingle(A),Apaired(Apr)精原細胞および一部のAaligned(Aal)精原細胞)および、CDH1(未分化精原細胞)の定量化により、これらの細胞タイプの形質導入において、AAV9がAAV1よりも優れていることが示された(図2C)。これらウイルスは、KIT細胞(分化中の精原細胞)またはSYCP3細胞(精母細胞)への形質導入効率はそれほど相違せず、IZUMO1細胞(精子細胞から精子)ではほとんど形質導入が見られなかった。他のタイプのAAVを注入した精巣では、シグナルは非常にまばらであった。セルトリ細胞への感染も、同程度の効率であった。これらの結果は、内腔側の区画に導入されたAAV1およびAAV9が、血液精巣関門(BTB)を通過し、基底の区画の未分化の精原細胞に感染したことを示唆した。
【実施例1】
【0058】
AAV1またはAAV9の間質注入を受けた精巣の免疫組織化学的検査において、精細管注入と非常によく似たパターンが示された。STAR(ライディッヒ)細胞およびACTA2(精細管周囲筋様)細胞に加えて、基底膜側および内腔側の両方の区画において、多数の生殖細胞が感染した(図2B)。生殖細胞区画のシグナルは、GFRA1未分化精原細胞から、少なくともIZUMO1精細胞-精子の段階まで見られた。感染細胞の定量化により、KIT細胞は注入経路にかかわらずAAV9が常に高効率で感染するが、GFRA1およびCDH1精原細胞のAAV感染効率には違いが見られないことが示された。さらに、セルトリ細胞は、間質注入により、AAV9によってAAV1より効率的に形質導入された。精細管注入と対照的に、AAV8の間質注入によって感染したセルトリ細胞は見られなかった。
【実施例1】
【0059】
同様に、AAV7M8を精細管または間質に顕微注入したところ、GFRA1未分化精原細胞への感染が確認された(図2D)。
【実施例1】
【0060】
この結果を確認するために、Cre発現AAV9とR26R-EYFPマウスを用いた。注入の1、3および5日後に精巣を比較したところ、精細管注入が、より迅速で強いEYFP発現を示した(図3A)。免疫染色により、WT1セルトリ細胞はGFRA1精原細胞が蛍光を示さない顕微注入後1日目に感染したことが示され(図3B)、このことからセルトリ細胞への感染が非常に迅速な過程であることが示唆された。リアルタイムPCRより、AAV1またはAAV9の形質導入は精原細胞の自己複製および分化に関連するサイトカインの発現レベルに影響しないことが示されたことから、AAV感染はSSCの微小環境にはそれほど影響しないようである(図3C)。さらに、免疫染色により、BTBの主要成分であるCLDN11はAAV1およびAAV9感染によって大きく変化しないことが示された(図3D)。
【実施例1】
【0061】
AAVの顕微注入がBTBの透過性を障害するかを試験するため、トレーサー実験を行った。AAV1-mCherryまたはAAV9-mCherryの精細管または間質への注入の3日後に、成体の精巣の間質に、ビオチン(557D)を顕微注入した。BTBを有さないCldn11ノックアウトマウスの精巣を、陽性対照として用いた。Cldn11ノックアウトマウスでは精細管管腔への漏出が観察されたが(図3E)、AAV注入では内腔側の区画への明らかなビオチンの漏出は見られず、このことは、AAV感染がBTBの完全性を損なわないことを示唆した。GFRA1はSSCに発現していると考えられていることから、本結果は、AAV1とAAV9が基底膜およびBTBを透過し、セルトリ細胞と、精子幹細胞(SSC)を含むであろう生殖細胞とに感染したことを示唆する。
【実施例1】
【0062】
(3)AAV1/9によるSSCのインビボ形質導入
SSCの形質導入を確認するために、精原細胞移植を用いた(Brinster and Zimmermann, 1994)(図4A)。本実験では、Cre発現AAV1またはAAV9(AAV1-CreまたはAAV9-Cre)を、精細管注入および間質注入により、R26R-EYFPマウスの精巣に顕微注入した。顕微注入の1週間から2週間後に、マウスを屠殺し、精巣を回収した。精細管注入を受けたR26Rマウスの精巣は、紫外光下で、強い蛍光を示した(図4B)。対照的に、間質注入を受けた精巣では、この時点では、EYFP発現は明らかではなかった。ドナー精巣を酵素消化により単細胞に分離し、内在性の精子形成を欠損するブスルファン処理したマウスの精細管に顕微注入した。
【実施例1】
【0063】
移植後2ヵ月のレシピエントマウスの解析では、いずれのドナータイプもレシピエント精巣に生殖細胞コロニーを産生し、このことは、注入経路にかかわらず、SSCがAAV1/9により形質導入されたことを証明した(図4C)。組織学的解析により、ドナー細胞タイプおよび注入経路にかかわらず、レシピエント精巣において正常な外見の精子形成が示された(図4D)。しかしながら、コロニーの定量化により、コロニー形成の頻度はウイルスタイプおよび注入経路に依存することが示された。精細管注入によりAAV1およびAAV9を受けたR26R精巣細胞は、それぞれ10個の移植細胞当たり、0.4および1.2のコロニーを産生した(図4E)。一方、AAV1およびAAV9の間質注入により生じたコロニーの数は、それぞれ、10個の細胞当たり0.04および0.21であった。いずれの場合も、間質注入を受けたR26R精巣をドナーとして用いた場合のコロニー数が顕著に少なかった。
【実施例1】
【0064】
CreがトランスフェクトされたSSCの機能を確認するために、インビトロの顕微授精を行った。AAV9の精細管注入または間質注入を受けた精巣由来の生殖細胞を移植したレシピエントマウスから伸長精子細胞を回収して、卵母細胞に顕微注入した(表1)。いずれのタイプの細胞も正常な子孫をもたらし、それぞれ合計で10および18の子孫が生まれた(図4F)。子孫はUV光の下でEYFP蛍光を示し(図4G)、loxPの欠失が確認された(図4H)。これらの結果は、インビボでAAV9により形質導入されたSSCが、感染経路にかかわらず、機能的に正常であることを示した。
【実施例1】
【0065】
【表1】
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【実施例1】
【0066】
(4)ノイラミニダーゼによるAAV9のトランスフェクションの改善
AAVによる遺伝形質導入の効率の改善のため、AAV9変異体カプシドを用いた。AAV9カプシド表面に露出するチロシンがチロシンキナーゼによるリン酸化を受け、それによりウイルス粒子のユビキチン化と分解が引き起こされることが示されている。7つのカプシド残基のうち位置446および731の2つのチロシンのフェニルアラニンへの部位特異的変異(AAV9-2YF)がユビキチン化を遅らせることが知られており、トランスフェクション効率を改善するために用いられている。しかしながら、AAV9-2YFを用いても明らかな改善は見られなかった(図5A)。
【実施例1】
【0067】
次に、AAV感染効率を改善するため、ノイラミニダーゼを用いた。細胞表面グリカンへの接触はAAV感染経路において重要なステップであり、ノイラミニダーゼにより末端シアル酸を取り除くと、肺でのAAV9取り込みが大きく上昇する。AAV9-mCherryを、ノイラミニダーゼと共に、野生型マウスの精細管および間質組織に注入した。注入1週間後に当該マウスを屠殺すると、ノイラミニダーゼの同時注入を受けた精巣は、注入経路にかかわらず、mCherry発現の顕著な増強を示した(図5B)。二重免疫染色および精細管数の定量化により、ノイラミニダーゼが、精細管注入および間質注入により、それぞれ約2.2倍および約1.5倍、GFRA1未分化精原細胞の形質導入効率を増加させたことが示された(図5C、D)。セルトリ細胞の形質導入では顕著な違いは見られず、これはおそらく、セルトリ細胞が何ら処理をしなくとも既に高効率で感染しているためである。これらの結果は、ノイラミニダーゼ処理が、未分化の精原細胞においてAAV9形質導入効率を改善し得ることを示した。
【実施例1】
【0068】
(5)セルトリ細胞のAAV9形質導入によるKitlSl/KitlSl-dマウスにおける不妊症の治療
KitlSl/KitlSl-d雄マウスの不妊症の回復によりAAVの有用性および安全性を試験した。このマウスは、セルトリ細胞の膜結合Kitlの発現を欠損することから先天的に不妊であるが、その精巣は、生存が膜結合KITLに依存しない少数のSSCを有する(野生型の5%以下と推定される)。KitlSl/KitlSl-dマウスの精巣は野生型マウスよりも小さく、組織学的解析では明らかな生殖細胞は見られない(図6A)。AAV9-Kitlを、精細管または間質組織に顕微注入した。一部の実験では、形質導入効率の改善のためにノイラミニダーゼを添加した。
【実施例1】
【0069】
精子形成レベルを調べるため、顕微注入の3ヵ月後にマウスを屠殺した。KitlSl/KitlSl-dマウスの精巣は小さいが(約11mg)、AAV9-Kitl注入を受けた精巣は注入経路にかかわらずより大きく成長しており(図6A)、このことは精子形成の再生を示唆した。精巣の組織学的解析により、全ての試料において精子形成が明らかとなった。精子形成の回復の成功には、試料間で大きく差があったが、いずれの注入方法によっても、同等の数の精細管が精子形成を示した。最も成功したケースでは、精細管顕微注入または間質顕微注入により、それぞれ、約77.1%および64.1%の精細管が精子形成を示した(表2)。アデノウイルスによる遺伝子形質導入とは異なり、組織化学的解析において明らかな炎症反応は見られなかった(図6A)。これらの結果は、セルトリ細胞が、投与経路にかかわらず、AAVベクターにより形質導入され精子形成を回復しうることを示唆した。
【実施例1】
【0070】
【表2】
JP2018207736A1_000003t.gif
【実施例1】
【0071】
KitlSl/KitlSl-dマウスから子孫を得るために、顕微授精を実施した。両タイプのマウス由来の精巣を一晩冷蔵し、翌日に顕微授精に用いた。ピペッティングを繰り返して精細管を分離し、円形または伸長精子細胞を卵母細胞への顕微注入に用いた。AAV9-Kitlの精細管注入または間質注入を受けたKitlSl/KitlSl-d精巣由来の精子を用いて、それぞれ、合計で135および118の胚が産生され、これらの胚の98(72.6%)および100(84.7%)が顕微授精の48時間後に2細胞段階の胚に成長した。これらの2細胞段階の胚を全て、偽妊娠の母の子宮に移した。AAV9-Kitlの精細管注入または間質注入を受けたKitlSl/KitlSl-dマウスから、それぞれ、合計31および27の子孫が生まれた(図6B、C)。サザンブロット解析により、各子孫が突然変異遺伝子KitlSlまたはKitlSl-dを有することを示された(図6D、E)。
【実施例1】
【0072】
(6)生殖系列へのAAV9組み込み欠損
SSCおよびセルトリ細胞への形質導入によりAAV9がこれら細胞に感染することが示されたため、これら方法により生じる子孫がAAV9ゲノムを含んでいる可能性がある。この可能性を調べるために、SSCまたはセルトリ細胞形質導入実験から生まれた全ての子孫から回収した尻尾DNAを用いてPCR解析を行った。解析により、いずれの子孫もAAV9DNAを含んでいないことが明らかとなった(図7AおよびB)。これらの結果は、AAV9が、ゲノムに組み込まれることなく、SSCおよびセルトリ細胞の両方に形質導入できることを示す。
【実施例2】
【0073】
ウサギ精巣断片をマウス精巣へ移植する実験系を用いて、AAVのウサギ精巣への感染実験を行った。初めに、雄のヌードマウス(KSN/nu)にブスルファン(44mg/kg)を腹腔内投与し、内在の精子形成を欠損させた精巣を持つヌードマウスを作製した。この処理により精子形成を失った精巣は、精子幹細胞の増殖や維持および精子形成の進行に必要な環境は保ちつつも、精巣が小さくなるため、精巣断片の移植に適している。次に、ニュージーランドホワイト系統の16週齢ウサギの精巣を摘出し、ハサミで約2ミリ角の精巣断片を作製した。この精巣断片をブスルファン処理したヌードマウス精巣に移植した。移植から1週間後に、AAV9-CAG-mCherry(1.0x1014ウイルス粒子/ml)10μlを精巣間質に注入した。注入後1週間で精巣を回収し、組織切片を作製し、抗mCherry抗体を用いて免疫染色を行った。丸い細胞の形態から、生殖細胞に感染していることが示唆され、間質注入したAAV9がウサギの精細管内の細胞に感染していることが示された(図8)。
【実施例3】
【0074】
実施例2と同様にして、ヌードマウスへの移植実験をマーモセット精巣断片を用いて行った。マーモセット(Callithrix jacchus)の精巣を摘出し、ハサミで約2ミリ角の精巣断片を作製して、ブスルファン処理したヌードマウス精巣に移植した。移植から1週間後に、AAV9-CAG-mCherry(1.0x1014ウイルス粒子/ml)10μlを精巣間質に注入した。注入後1週間で精巣を回収し、組織切片を作製し、抗mCherry抗体、抗SSEA3抗体、および抗WT1抗体を用いて免疫染色を行った。精原細胞マーカーであるSSEA3およびセルトリ細胞マーカーであるWT1を発現する細胞でそれぞれmCherryの発現が確認され、間質注入したAAV9がマーモセットの精細管内の精原細胞およびセルトリ細胞に感染していることが示された(図9)。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図2A】
3
【図2B】
4
【図2C】
5
【図2D】
6
【図3A】
7
【図3B】
8
【図3C】
9
【図3D】
10
【図3E】
11
【図4A】
12
【図4B】
13
【図4C】
14
【図4D】
15
【図4E】
16
【図4F】
17
【図4G】
18
【図4H】
19
【図5A】
20
【図5B】
21
【図5C】
22
【図5D】
23
【図6A】
24
【図6B】
25
【図6C】
26
【図6D】
27
【図6E】
28
【図7A】
29
【図7B】
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【図8】
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【図9】
32