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明細書 :睡眠状態の評価

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-161432 (P2018-161432A)
公開日 平成30年10月18日(2018.10.18)
発明の名称または考案の名称 睡眠状態の評価
国際特許分類 A61B   5/16        (2006.01)
A61B   5/02        (2006.01)
FI A61B 5/16
A61B 5/02 310Z
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2017-061892 (P2017-061892)
出願日 平成29年3月27日(2017.3.27)
発明者または考案者 【氏名】早野 順一郎
【氏名】湯田 恵美
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4C017
4C038
Fターム 4C017AA09
4C017BC16
4C017BC21
4C017BC23
4C038PP05
4C038PS00
要約 【課題】睡眠状態、特にノンレム睡眠を高精度で且つ高い信頼性で検出する手段を提供する。
【解決手段】被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成するステップ1と、前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析するステップ2と、各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出するステップ3と、算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するステップ4と、を含む。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成するステップ(ステップ1)と、
前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析するステップ(ステップ2)と、
各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出するステップ(ステップ3)と、及び
算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するステップ(ステップ4)と、
を含む、ノンレム睡眠を検出する方法。
【請求項2】
ステップ1の時系列データが、心電図のR-R間隔又は脈波の拍動間隔を用いて生成される、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
ステップ2の前に、ステップ1で生成した時系列データから外れ値を除去するとともに、欠損部分が補間される、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記ウィンドウのサイズを規定する時間長が1分~15分である、請求項1~3のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項5】
ステップ3における、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度が以下の(1)~(6)の手順で算出される、請求項1~4のいずれか一項に記載の検出方法、
(1)各ウィンドウのスペクトルから、高周波数領域(0.15~0.45 Hz)でパワーが最も高いピークを検出し、その周波数をFm(Hz)とする;
(2)Fm(Hz)を中心とする領域へのパワー集中度を調べる周波数帯の幅をLとする;
(3)心拍変動スペクトルをP(f)とし、そのFm-L/2からFm+L/2の範囲のパワーの和S(L)を以下の式で求める;
【数1】
JP2018161432A_000018t.gif
(4)P(f)のFm-ω/2からFm+ω/2の範囲のパワーの和をωの関数S(ω)として以下の式で求める(0<ωJP2018161432A_000019t.gif
(5)S(L)に対するS(ω)の割合であるパワー比R(ω)を以下の式で求める;
【数3】
JP2018161432A_000020t.gif
(6)心拍変動高周波数成分のパワー集中度を表す指標SI(sleep indicator)を、パワー比曲線R(ω)のarea under the curve(AUC)として以下の式で得る。
【数4】
JP2018161432A_000021t.gif

【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の検出方法によって得られた情報と、アクチグラム、心電図、脈波、呼吸曲線、酸素飽和度、及びそれらの信号の時系列解析指標から選択される一以上の手段を利用して求めた一以上の指標を併用し、入眠時刻、覚醒時刻、中途覚醒時刻、再入眠時刻、睡眠時間、入眠潜時、睡眠効率、睡眠の質、睡眠ステージ、無呼吸・低呼吸の時刻、及び無呼吸・低呼吸の頻度からなる群より選択される一以上の睡眠パラメータを推定することを特徴とする、睡眠パラメータの推定方法。
【請求項7】
脈波検出用の又は心電図記録用の検出手段と、
前記検出手段が取得したデータから、被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成する手段と、
前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析する手段と、
各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出する手段と、
算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するする手段と、
を備える入眠評価システム。
【請求項8】
取得したデータから被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成する処理と、
前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析する処理と、
各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出する処理と、
算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを格納した、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は睡眠状態の評価に関する。詳しくは、ノンレム睡眠を検出する方法及び検出システム、並びにそれらの用途などに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェアラブルセンサの普及により、日常生活中の心拍数や身体加速度のデータがビッグデータとして蓄積されつつあり、そこから身体活動度や睡眠の質などの健康指標を評価する方法の開発ニーズが高まっている。その中で、心拍数や加速度データから、入眠時点および覚醒時点を推定することは、基本的かつ必須の要素技術であり、開発研究の主要な課題である。これまでに、身体加速度や心拍数、心拍変動の副交感神経指標の変化から、入眠・覚醒を推定する方法が提案されている(例えば非特許文献1~4を参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Cole RJ et al. Automatic sleep/wake identification from wrist activity. Sleep. 1992;15:461-469
【非特許文献2】Kushida CA et al. Comparison of actigraphic, polysomnographic, and subjective assessment of sleep parameters in sleep-disordered patients. Sleep medicine. 2001;2:389-396
【非特許文献3】Long X et al. Sleep and wake classification with actigraphy and respiratory effort using dynamic warping. IEEE journal of biomedical and health informatics. 2014;18:1272-1284
【非特許文献4】Bsoul M et al. Real-time sleep quality assessment using single-lead ecg and multi-stage svm classifier. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc. 2010;2010:1178-1181
【非特許文献5】The aasm manual for the scoring of sleep and associated events: Rules, terminology and technical specifications. Westchester, Illinois: American Academy of Sleep Medicine; 2007.
【非特許文献6】Hayano J. Introduction to heart rate variability. In: Iwase S, Hayano J, Orimo S, eds. Clinical assessment of the autonomic nervous system. Japan: Springer; 2016:109-127.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の技術によって推定される入眠・覚醒時点の時間分解能は低く、またそれらの指標が睡眠を単なる休息や安静臥位などと区別し得るという主張には、生理学的根拠がない。そこで本発明は、睡眠状態、特にノンレム睡眠を高精度で且つ高い信頼性で検出する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み検討を重ねる中で本発明者らは、心拍変動の高周波数(HF,0.15~0.45Hz)成分のパワーが狭い周波数帯に集中する度合いの増加・減少に着眼した。ノンレム睡眠は呼吸パターンの変化を伴い、特に呼吸周期の規則性が、覚醒時やレム睡眠時と比べて高くなる。呼吸は、心臓の1拍ごとの拍動周期を変調し、心拍変動にHF成分を生成する。心拍変動のスペクトルにおいて、HF成分のピークは呼吸の周波数(呼吸数)と一致した場所に現れるので、呼吸周期の規則性が増加すると、HF成分のパワーが狭い周波数帯に集中することになる。したがって、心拍変動HF成分のパワーの集中度を測定し、その増加や減少を捉えることでノンレム睡眠を検出すること、即ち、ノンレム睡眠と、覚醒及びレム睡眠との間の識別が可能と考えられる。この着想の実効性ないし有用性を、睡眠ポリグラフ検査例によって検証した結果、期待を超えるともいえる高評価が得られた(後述の実施例を参照)。
以下の発明は以上の成果及び考察に基づく。
[1]被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成するステップ(ステップ1)と、
前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析するステップ(ステップ2)と、
各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出するステップ(ステップ3)と、及び
算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するステップ(ステップ4)と、
を含む、ノンレム睡眠を検出する方法。
[2]ステップ1の時系列データが、心電図のR-R間隔又は脈波の拍動間隔を用いて生成される、[1]に記載の検出方法。
[3]ステップ2の前に、ステップ1で生成した時系列データから外れ値を除去するとともに、欠損部分が補間される、[1]又は[2]に記載の検出方法。
[4]前記ウィンドウのサイズを規定する時間長が1分~15分である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の検出方法。
[5]ステップ3における、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度が以下の(1)~(6)の手順で算出される、[1]~[4]のいずれか一項に記載の検出方法、
(1)各ウィンドウのスペクトルから、高周波数領域(0.15~0.45 Hz)でパワーが最も高いピークを検出し、その周波数をFm(Hz)とする;
(2)Fm(Hz)を中心とする領域へのパワー集中度を調べる周波数帯の幅をLとする;
(3)心拍変動スペクトルをP(f)とし、そのFm-L/2からFm+L/2の範囲のパワーの和S(L)を以下の式で求める;
【数1】
JP2018161432A_000003t.gif
(4)P(f)のFm-ω/2からFm+ω/2の範囲のパワーの和をωの関数S(ω)として以下の式で求める(0<ωJP2018161432A_000004t.gif
(5)S(L)に対するS(ω)の割合であるパワー比R(ω)を以下の式で求める;
【数3】
JP2018161432A_000005t.gif
(6)心拍変動高周波数成分のパワー集中度を表す指標SI(sleep indicator)を、パワー比曲線R(ω)のarea under the curve(AUC)として以下の式で得る。
【数4】
JP2018161432A_000006t.gif
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載の検出方法によって得られた情報と、アクチグラム、心電図、脈波、呼吸曲線、酸素飽和度、及びそれらの信号の時系列解析指標から選択される一以上の手段を利用して求めた一以上の指標を併用し、入眠時刻、覚醒時刻、中途覚醒時刻、再入眠時刻、睡眠時間、入眠潜時、睡眠効率、睡眠の質、睡眠ステージ、無呼吸・低呼吸の時刻、及び無呼吸・低呼吸の頻度からなる群より選択される一以上の睡眠パラメータを推定することを特徴とする、睡眠パラメータの推定方法。
[7]脈波検出用の又は心電図記録用の検出手段と、
前記検出手段が取得したデータから、被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成する手段と、
前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析する手段と、
各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出する手段と、
算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するする手段と、
を備える入眠評価システム。
[8]取得したデータから被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成する処理と、
前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析する処理と、
各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出する処理と、
算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
[9][8]に記載のプログラムを格納した、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の検出方法の一例を示すフローチャート。
【図2】本発明の検出システムの構成例。
【図3】心拍変動の高周波数(HF)成分のパワー集中度による睡眠指標。Fm:HF成分のピークの周波数、L:集中度を評価する周波数帯の幅、P(f):心拍変動のパワースペクトル、SL:周波数帯Fm-L/2からFm+L/2の範囲のパワーの和、Sω:周波数帯Fm-ω/2からFm+ω/2の範囲のパワーの和、SI:HF成分のパワー集中度による睡眠指標。
【図4】代表例の覚醒からNREM睡眠への移行時の体動(BM)、R-R間隔(RRI)、R-R間隔のパワースペクトル密度(PSD)、及び新しい睡眠指標(SI)であるHF成分パワーの集中度を表すパワー比曲線。15分間のデータを示し、パワースペクトルおよびパワー比曲線は、左から、それぞれ、はじめ、中央、終わりの5分間に対応する。
【図5】代表例の全就床時間中の睡眠ステージ、体動(BM)、R-R間隔(RRI)、心拍変動HF成分のパワー集中度による睡眠指標(SI)。睡眠ステージは、W:覚醒、REM:レム睡眠、N1-N3:ノンレム睡眠。SI>70%のときをNREM睡眠と判定し、その部分を黒色のバーで示した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.ノンレム睡眠の検出方法
本発明の第1の局面は、ノンレム睡眠を検出する方法に関する。本発明の検出方法では、以下のステップ1~4を行う。
ステップ1:被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成するステップ
ステップ2:前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析するステップ
ステップ3:各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出するステップ
ステップ4:算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定するステップ

【0008】
図1に示すフローチャートを参照しながら本発明の検出方法の詳細を説明する。尚、本発明の検出方法は、後述のノンレム睡眠検出システムなどによって実行することができる。

【0009】
第1のステップとして、検出手段が取得したデータから、被検者の心臓の拍動間隔の時系列データが生成される(ステップ1)。検出手段として例えば、脈波を検出する機器や心電図の記録用の機器などが用いられる。前者の場合、脈波間隔のデータが取得され、後者の場合、例えば、心電図から1拍毎のR-R間隔のデータが取得される。脈波を検出する機器としては、光センサ(例えば発光素子としてのLEDと受光素子としてのLED又は光トランジスタを備えたもの)を利用したウエアラブル脈波センサ、指尖容積脈波、パルスオキシメータ等を用いることができる。一方、心電図の記録用の機器としては各種心電計(例えば、ホルタ心電計、無線心電計、ベッドサイドバイタルモニタ)を用いることができる。

【0010】
続いて、時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウインドウ(解析する時間帯を規定する区画枠)を設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析する(ステップ2)。言い換えれば、時系列データ上にウィンドウを走らせ、時系列に沿ってスペクトル解析を実行する。時系列上にウィンドウを走らせることにより、時系列データが分割(区画化)されることになる。典型的には、時系列データがウィンドウのサイズで分割されることになるが、隣接する区画が両端又は片端でオーバーラップするようにしてもよい。

【0011】
ウィンドウのサイズ(時間長)は特に限定されない。但し、ウィンドウのサイズは時間分解能に影響することから、必要な時間分解能(精度)を考慮の上、ウィンドウのサイズを決定するとよい。例えば、ウィンドウのサイズを1分~15分とする。好ましいサイズは2分~5分である。ウィンドウのサイズが小さいほど、ノンレム睡眠判定の時間分解能は高くなるが、その一方でスペクトルの周波数分解能が低下し、ノンレム睡眠の判定制度が低下する。但し、技術の向上によって処理能力が高められればこのような問題は解決できることから、上記の範囲はあくまでも例示にすぎない。ウィンドウのサイズは通常は不変(一定)であるが、可変(例えば、ノンレム睡眠が現れる確率の高い時間帯ではサイズを小さくして時間分解能を高め、それ以外の時間帯ではサイズを大きくして判定制度を高め誤認識の低減を図る)としてもよい。

【0012】
各ウィンドウ内のスペクトル解析には高速フーリエ変換法(FFT)や最大エントロピー法(MEM)等が好適である。

【0013】
好ましくは、スペクトル解析を実行する前に、生成した時系列データから期外収縮やノイズなどの外れ値を除去するとともに、ステップ補間などの方法で欠損部分を補間する。これによって、ノンレム睡眠判定の偽陽性及び偽陰性が減少し、検出感度及び特異度が高まる。

【0014】
次に、各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数(HF)成分のパワーの集中度(sleep indicator, SI)を算出する(ステップ3)。即ち、心拍変動の高周波(HF, 0.15~0.45Hz)成分のパワーが集中する度合を算出する。心拍変動HF成分のパワーの集中度(SI)は例えば、以下の(1)~(6)の手順で算出される。

【0015】
(1)各ウィンドウのスペクトルから、HF領域(0.15~0.45 Hz)でパワーが最も高いピークを検出し、その周波数をFm(Hz)とする(図3A)。従って、Fm(Hz)は0.15~0.45の範囲となる。

【0016】
(2)Fm(Hz)を中心とする領域へのパワー集中度を調べる周波数帯の幅をLとする。この例ではLを定数(0.14Hz)とし、Fmの左右0.07Hzとしているが、左右が同じ幅である必要はなく、Lの大きさも0.3Hz以下の正の値の中で自由に設定することができる。

【0017】
(3)心拍変動スペクトルをP(f)とし、そのFm-L/2からFm+L/2の範囲のパワーの和S(L)を以下の式で求める。
【数1】
JP2018161432A_000007t.gif

【0018】
(4)P(f)のFm-ω/2からFm+ω/2の範囲のパワーの和をωの関数S(ω)として以下の式で求める(0<ωJP2018161432A_000008t.gif

【0019】
(5)S(L)に対するS(ω)の割合であるパワー比R(ω)を以下の式で求める。
【数3】
JP2018161432A_000009t.gif

【0020】
(6)心拍変動HF成分のパワー集中度を表す指標SI(sleep indicator)を、パワー比曲線R(ω)(図3B)のarea under the curve(AUC)として以下の式で得る。尚、ωを定数(例えば0.005~0.05、好ましくは0.01~0.02)にすることもできる。
【数4】
JP2018161432A_000010t.gif

【0021】
好ましい一態様では、以上のようにして算出した、心拍変動HF成分のパワー集中度の指標(SI)に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定する(ステップ4)。具体的には、SIが基準値よりも大きいとき又は基準値以上のときにノンレム睡眠の状態であると判定する。基準値(閾値)の具体例は60%~80%の範囲内の特定の値(例えば60%、65%、70%、75%、80)である。尚、基準値は複数名(好ましくは100名以上、更に好ましくは200名以上)の被験者から取得したデータに基づき設定することができる。

【0022】
別の態様では、パワー比R(ω)(S(L)に対するS(ω)の割合)を利用してノンレム睡眠であるか否かを判定する。この態様の場合、例えば、以下の通り(例1、例2)判定することができる。

【0023】
<例1(ωを特定する場合)>
ωを特定(例えば0.01)し、パワー比の値が基準値(閾値)よりも高いとき又は基準値以上のときにノンレム睡眠の状態であると判定する。基準値の具体例は30%~60%の範囲内の特定の値(例えば30%、40%、50%等)である。尚、基準値は複数名(好ましくは100名以上、更に好ましくは200名以上)の被験者から取得したデータに基づき設定することができる。

【0024】
<例2(ωを2点に設定する場合)>
ωを2点(例えば0.01Hzと0.1Hz)に設定し、各々のパワー比を算出し、その比率R(ω=0.01Hz)/R(ω=0.1Hz)が基準値よりも高いとき又は基準値以上のときにノンレム睡眠の状態であると判定する。尚、基準値は複数名(好ましくは100名以上、更に好ましくは200名以上)の被験者から取得したデータに基づき設定することができる。

【0025】
ここで、用語「レム睡眠」は、瞼の下で眼球が動く現象(急速眼球運動)に由来する。レム睡眠時の脳は覚醒に近い状態にあるとされ、その一方で身体体は骨格筋が弛緩して休息状態にある。ノンレム睡眠は急速眼球運動を伴わない睡眠であり、徐波睡眠とも呼ばれる。ノンレム睡眠はステージ1~ステージ4の4段階に分けられる。ノンレム睡眠は、いわゆる安らかな眠りであり、脳が覚醒していない。

【0026】
判定結果を利用して入眠時点(ノンレム睡眠の開始時)を推定することも可能である。例えば、ノンレム睡眠の状態ではないとの判定結果をもたらしたウィンドウと、ノンレム睡眠の状態であるとの判定結果をもたらしたウィンドウが、この順序で隣接する時系列上の時点又はその周辺、或いは後者のウィンドウに含まれる時間帯に入眠時点が存在すると推定することができる。

【0027】
本発明の検出方法によれば、被検者がノンレム睡眠である時間帯や入眠時点を判定ないし推定することができる。本発明による判定結果は入眠時間帯及び/又は覚醒時間帯の推定に利用できる。即ち、睡眠状態や睡眠の質(例えば、実睡眠時間/総睡眠時間で表される睡眠効率)又はこれらに関連した健康リスク、或いは睡眠障害の把握、判定などに有益である。

【0028】
本発明がもたらす情報(ノンレム睡眠の時間帯や入眠時点)と、他の手段ないし装置、例えば、アクチグラム、心電計、脈派計、血流計、呼吸モニタ、パルスオキシメータ等を利用して求めた生理的指標及び/又は行動指標(例えば身体加速度、心拍、脈拍、呼吸、それらの信号の時系列解析指標)を併用すれば、様々な睡眠パラメータを推定することが可能となる。推定可能な睡眠パラメータとしては、入眠時刻、覚醒時刻、中途覚醒時刻、再入眠時刻、睡眠時間、入眠潜時、睡眠効率、睡眠の質、睡眠ステージ(覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠)、無呼吸・低呼吸の時刻、無呼吸・低呼吸の頻度等が挙げられる。尚、ここで挙げた睡眠パラメータの一部は本発明単独でも推定可能であるが、他の手段ないし装置を併用することにより、精度、信頼性などを高めることができる。

【0029】
2.ノンレム睡眠検出システム
図2は、本発明のノンレム睡眠検出システムの構成例を概念的に示す図である。ノンレム睡眠検出システム1は、検出器2、演算処理手段3、操作手段4、記憶手段5、及び出力手段6を備える。

【0030】
検出器2は例えば脈波センサである。脈波センサとして、例えば、発光素子とその駆動装置、及び受光素子を備えた光学式反射型センサを用いる。脈波センサは脈波の検出のために手指、手首、上腕、前腕、胸部などに装着される。

【0031】
通常、演算処理手段3はウェアラブルセンサ内またはクラウドを含む外部のコンピュータ内に設けられ、CPU、メモリ(RAM、ROM)等から構成される。演算処理手段3に対して、演算処理操作を行うための操作手段4と、演算処理されたデータを記憶保持するための記憶手段5と、演算処理後のデータ(表やグラフの形式に変換ないし編集されてもよい)を出力する出力手段6が有線又は無線で接続される。

【0032】
演算処理手段3は、プログラムに従い、所定の処理(図1に示す各ステップ)を実行する。プログラムは、例えば、CDやDVD、各種メモリーカード、ネットワーク又はクラウド上の他のコンピュータ/サーバからインストールされ、実行される。

【0033】
出力手段6は例えばモニタ等の表示装置であり、その場合には、演算処理後の結果がグラフや表などの形式で表示される。出力手段6が演算処理後のデータを直接表示するのではなく、出力手段6が別の場所(例えば据え置き型又はポータブルタイプの記憶装置ないし記憶媒体/記録媒体やクラウドコンピュータ)に演算処理後のデータを出力するように構成してもよい。

【0034】
3.プログラム
本発明はノンレム睡眠検出システムに用いるコンピュータプログラムも提供する。本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータに以下の処理(i)~(iv)を実行させる。尚、本発明のコンピュータプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、或いは各種メモリーカード(USBフラッシュメモリー、SDメモリーカード等)等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納した状態、或いはクラウドコンピュータからダウンロードする形態で提供される。
(i)取得したデータから被検者の心臓の拍動間隔の時系列データを生成する処理
(ii)前記時系列データの時間軸に沿って移動する、所定の時間長のウィンドウを設定し、時間軸上の複数の判定時点の各々について、それを含むウィンドウ内の時系列データをスペクトル解析する処理
(iii)各ウィンドウのスペクトルから、心拍変動高周波数成分のパワーの集中度を算出する処理
(iv)算出した集中度に基づいて、ノンレム睡眠であるか否かを判定する処理
【実施例】
【0035】
ノンレム(NREM)睡眠中の呼吸は、覚醒時に比べて規則性が高く、周波数(呼吸数)のばらつきが少ない。心拍変動の高周波数(HF,0.15-0.45 Hz)成分は呼吸による心拍のゆらぎを反映することから、入眠による呼吸数のばらつきの減少によって、HF成分のパワーは狭い周波数帯に集中する。そこで、HF成分のパワー集中度による新しい睡眠指標(SI)を作成し、SIによるNREM睡眠の識別力を、従来の心拍変動や体動指標による識別力と比較した。
【実施例】
【0036】
<方法>
1.HF成分のパワー集中度の指標
新しい睡眠指標(sleep indicator,SI)として、心拍変動のパワースペクトルのHF領域(0.15-0.4 5Hz)の最も高いピークとその周辺にパワーが集中する度合いを表す指標を開発した(図3)。SIの計算方法は以下の通りとした。
【実施例】
【0037】
まず、心電図から1拍ごとのR-R間隔を計測し、心拍動間隔時系列データを得る。心拍動間隔時系列から期外収縮やノイズによる外れ値を除去し、欠損部分を補間する(本研究ではステップ補間を使用)。補間された心拍動間隔時系列上を、5分の長さのウィンドウを走らせ、各ウィンドウ内の時系列を高速フーリエ変換しパワースペクトルを計算する。
【実施例】
【0038】
次に、各ウィンドウのスペクトルから、以下の(1)~(6)の手順でSIを得る。
【実施例】
【0039】
(1)各ウィンドウのスペクトルから、HF領域(0.15~0.45 Hz)でパワーが最も高いピークを検出し、その周波数をFm(Hz)とする(図3A)。
【実施例】
【0040】
(2)Fm(Hz)を中心とする領域へのパワー集中度を調べる周波数帯の幅をLとする。本研究では、L=0.14Hzとした。
【実施例】
【0041】
(3)心拍変動スペクトルをP(f)とし、そのFm-L/2からFm+L/2の範囲のパワーの和S(L)を以下の式で求める。
【数1】
JP2018161432A_000011t.gif
【実施例】
【0042】
(4)P(f)のFm-ω/2からFm+ω/2の範囲のパワーの和をωの関数S(ω)として以下の式で求める(0<ωJP2018161432A_000012t.gif
【実施例】
【0043】
(5)S(L)に対するS(ω)の割合であるパワー比R(ω)を以下の式で求める。
【数3】
JP2018161432A_000013t.gif
【実施例】
【0044】
(6)心拍変動HF成分のパワー集中度を表す指標SI(sleep indicator)を、パワー比曲線R(ω)(図3B)のarea under the curve(AUC)として以下の式で得る。
【数4】
JP2018161432A_000014t.gif
【実施例】
【0045】
<対象>
睡眠時無呼吸障害の診断を目的として睡眠ポリグラフ検査を受けた人で、心房細動、ペーメーカ埋込例、apnea-hypopnea indexが30以上の重症睡眠時無呼吸を有しない男性176例(51±16歳)、女性86例(52±18歳)の睡眠ポリグラフデータを分析の対象とした。
【実施例】
【0046】
<プロトコール>
睡眠ポリグラフ検査では、心電図は修正V2誘導で記録し、500 Hzで標本化した。また、左手首に3軸加速度計を内蔵した体動センサを装着し、アクチグラフを記録した。
【実施例】
【0047】
<データの分析>
睡眠ステージは、American Academy of Sleep Medicine(AASM)guidelines(非特許文献5)に従って、30秒毎のエポックを覚醒、NREM、REMの3ステージのいずれかとして判定した。さらに、連続する10個のエポックを1セグメント(5分)とし、10個中6個以上のエポックが同じ睡眠ステージであった時、それをそのセグメントの睡眠ステージとした。同じ睡眠ステージのエポックが6個未満のセグメントは、移行セグメントとして分類した。
【実施例】
【0048】
ポリグラフの心電図より、すでに報告した方法(非特許文献6)に従ってR-R間隔時系列を抽出した。R-R間隔時系列およびアクチグラフデータは、睡眠ステージを判定したセグメントの区切りに合わせて、5分ごとのセグメントに区切って分析を行った。
【実施例】
【0049】
R-R間隔時系列は不整脈やノイズによるR-R間隔を除去した後、平均R-R間隔を計算し、心拍数に変換した。次に、step関数によってR-R間隔時系列を補間し、等間隔の512ポイントの時点で再サンプリングした。再サンプリング時系列をHanning window処理した後、FFTによるスペクトル解析を行った。得られたスペクトル密度関数を、超低周波数(VLF、0.0033-0.04 Hz)領域、低周波数(LF,0.04-0.15 Hz)領域、HF領域について積分し、VLF、LF、HF成分のパワーを計算した。LF成分とHF成分のパワーの比としてLF/HFを求めた。なお、各周波数成分のパワーは自然対数値に変換した。
【実施例】
【0050】
アクチグラフデータは、31.25 Hzでサンプリングされたx、y、z軸の加速度を、0.02~0.08 Hzのband-passフィルター処理して直流成分と高周波数ノイズを除去した後、体動の大きさの指標としてBM(t)を次式で求めた。
【数5】
JP2018161432A_000015t.gif
【実施例】
【0051】
各5分間のセグメントについて、BM(t)の最大値を計算し、体動による睡眠ステージの判定の指標とした。
【実施例】
【0052】
<統計処理>
統計解析には、Statistical Analysis Systemプログラムパッケージ(SAS Institute Inc.、Cary、NC、米国)を用いた。睡眠ステージによる心拍数、心拍変動指標、体動、SIの差は、general linear modelによるANOVAによって検定した。各指標によるNREM睡眠の検出力は、覚醒およびREM睡眠に分類されたセグメントと、NREM睡眠に分類されたセグメントの間の識別力を、receiver-operating characteristic(ROC) curveのarea under the curve(AUC)によって評価した。P<0.05を統計的有意性の基準とした。【0053】
2.結果
図4は代表例の覚醒からNREM睡眠への移行時(左図)とNREM睡眠中(右図)のデータを示す。覚醒時に比べ、NREMステージでは先鋭なHF成分のスペクトルが現れ、SIの値が70%を超えている。図5は代表例の全就床時間中のデータで、NREMステージにはSIが70%を超えている。本研究では262件の睡眠ポリグラフから、合計22,103セグメントのデータが得られ、3,522セグメント(15.9%)は覚醒ステージ、7,759(35.1%)はNREMステージ、3136(14.2%)はREMステージ、残りの7,686(34.8%)が移行セグメントであった。
【実施例】
【0054】
表1(睡眠ステージによる各指標の差異)に示すように、SIは覚醒やREMステージに比べて、NREMセグメントで増大した。一方、心拍数は、覚醒ステージに比べて、NREM及びREMステージで低下し、HF成分のパワーは逆に増加した。
【表1】
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SI=HF成分のパワー集中度による睡眠指標、HR=心拍数、BM=5分間のセグメント中の体動の最大値
【実施例】
【0055】
NREMステージ7,759セグメントを、覚醒とREM睡眠を合わせた6,658セグメントから識別する能力について、ROCから分析した結果を表2(NREM睡眠セグメントと覚醒とREM睡眠を合わせたセグメントの間の識別力のROC解析)に示す。SIは、AUC=0.852で両者を識別し、SI=70%をカットオフ値とするとき、感度75.3%、特異度80.5%であった。従来の指標によるNREMセグメントの識別力(AUC)は、心拍数、VLF、LF、HF、LF/HF、体動のいずれのAUCもSIのAUCよりも低かった(全てP<0.0001)。JP2018161432A_000017t.gif
【実施例】
【0056】
3.結論
NREM睡眠に伴う呼吸の規則性の増加を利用した、心拍変動のパワースペクトルのHF成分のパワーの集中度を表す指標(SI)は、NREM睡眠と、覚醒およびREM睡眠との識別において、心拍数や従来の心拍変動指標、加速度による体動の指標よりも、高い識別力を有する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
睡眠中の呼吸は、覚醒時に比べて規則性が高く、周波数(呼吸数)のばらつきが少ない。心拍変動のHF成分は呼吸による心拍のゆらぎを反映することから、入眠による呼吸数のばらつきの減少によって、HF成分のパワーは狭い周波数帯に集中する。この現象を利用した本発明によれば、精度のみならず、確たる生理学的根拠に基づいて入眠時点(ノンレム睡眠の開始時点)を推定することができる。この点において本発明は従来の技術・方法をはるかに凌駕する。心拍や脈拍を検出するウェアラブルセンサ、心拍や脈拍を検知する各種機器、心拍や脈拍データの解析装置等に本発明を適用ないし応用すれば、様々な睡眠パラメータを推定することができる。定期的或いは日常的に睡眠パラメータを測定することは、健康管理、健康リスクや自覚されていない睡眠障害の発見や客観的評価等に役立つ。
【0058】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【符号の説明】
【0059】
1 ノンレム睡眠検出システム
2 検出器
3 演算処理手段
4 操作手段
5 記憶手段
6 出力手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4