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明細書 :磁気計測装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-063960 (P2020-063960A)
公開日 令和2年4月23日(2020.4.23)
発明の名称または考案の名称 磁気計測装置
国際特許分類 G01R  33/02        (2006.01)
G01N  24/00        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI G01R 33/02 A
G01N 24/00 E
G01N 24/00 G
G01N 21/64 Z
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2018-195324 (P2018-195324)
出願日 平成30年10月16日(2018.10.16)
発明者または考案者 【氏名】波多野 睦子
【氏名】岩崎 孝之
【氏名】原田 慶恵
【氏名】波多野 雄治
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100072718、【弁理士】、【氏名又は名称】古谷 史旺
【識別番号】100097319、【弁理士】、【氏名又は名称】狩野 彰
【識別番号】100151002、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 剛之
【識別番号】100201673、【弁理士】、【氏名又は名称】河田 良夫
審査請求 未請求
テーマコード 2G017
2G043
Fターム 2G017AA02
2G017AD15
2G017AD69
2G017CB04
2G043AA06
2G043EA01
2G043EA17
2G043FA09
2G043LA01
要約 【課題】ダイヤモンド基板が高純度でなく、NVセンタの密度及び電子スピンコヒーレンス時間に不均一性があっても、高感度で磁気を計測することができる磁気計測装置を提供する。
【解決手段】光検出磁気共鳴スペクトルの視野内平均値における4つの最大傾斜点を特定し、各最大傾斜点における相対蛍光強度低下度及びマイクロ波周波数を決定する決定部と、所定領域における相対蛍光強度の基準低下度を設定するとともに最大傾斜点におけるマイクロ波周波数の近傍で基準低下度が実現される4点の動作点周波数初期値を設定する設定部と、4点の動作点周波数を更新する周波数更新部と、更新された動作点周波数をマイクロ波発振器に補正後動作点周波数として入力する周波数補正部と、補正後動作点周波数それぞれにおけるイメージセンサの検出結果を画素ごとに積算する積算部とを有する。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
所定領域内にNVセンタを含むダイヤモンド基板と、
前記ダイヤモンド基板に載せられて超常磁性を示す複数の超常磁性粒子の集合体である1つ以上の磁性粒子、及び前記ダイヤモンド基板に対して静磁場を印加する静磁場印加部と、
前記ダイヤモンド基板に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、
前記ダイヤモンド基板に対して励起光を照射する光源部と、
前記励起光による前記ダイヤモンド基板の前記所定領域における蛍光の強度を二次元に配列された画素ごとに検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサの検出結果に基づいて、光磁気共鳴スペクトルをマイクロ波が照射されていない場合と照射されている場合の蛍光強度の差分のマイクロ波が照射されていない場合の蛍光強度に対する比である相対蛍光強度のマイクロ波周波数依存性とする時、前記静磁場によるゼーマン分裂後の前記ダイヤモンド基板の光検出磁気共鳴スペクトルの視野内平均値における2870MHz付近を対称の中心として生じる1組である2つの相対蛍光強度低下点それぞれから正負の2つの最大傾斜点を特定し、特定した合計4点の各最大傾斜点における相対蛍光強度低下度及びマイクロ波周波数を決定する決定部と、
前記決定部が最大傾斜点ごとに決定した相対蛍光強度低下度及びマイクロ波周波数に基づいて、前記所定領域における相対蛍光強度の基準低下度を設定するとともに前記最大傾斜点におけるマイクロ波周波数の近傍で前記基準低下度が実現される4点の動作点周波数初期値を設定する設定部と、
前記4点の動作点周波数における前記所定領域の相対蛍光強度低下度が前記基準低下度に近付くように、前記4点の動作点周波数を更新する周波数更新部と、
前記更新された動作点周波数をマイクロ波発振器に補正後動作点周波数として入力する周波数補正部と、
前記4点の動作点周波数のそれぞれのマイクロ波を前記マイクロ波照射部が所定時間内に順次に前記所定領域に照射する間に、前記補正後動作点周波数それぞれにおける前記イメージセンサの検出結果を前記画素ごとに積算する積算部と、
前記積算部が前記画素ごとに積算した結果に基づいて、前記所定領域における相対蛍光強度を画像として出力する出力部と
を有することを特徴とする磁気計測装置。
【請求項2】
所定領域内にNVセンタを含むダイヤモンド基板と、
前記ダイヤモンド基板に対して静磁場を印加する静磁場印加部と、
前記ダイヤモンド基板に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、
前記ダイヤモンド基板に対して励起光を照射する光源部と、
前記励起光による前記ダイヤモンド基板の前記所定領域における蛍光の強度を検出する蛍光検出手段とからなり、
マイクロ波が照射されている場合とされていない場合との、または蛍光強度に影響がない周波数のマイクロ波が照射されている場合との蛍光強度差分の、マイクロ波が照射されていない場合または蛍光強度に影響がない周波数のマイクロ波が照射されている場合の蛍光強度に対する比を相対蛍光強度とするとき、
前記静磁場により、前記マイクロ波周波数の2870MHz付近を対称の中心として生じる1組である2つの相対蛍光強度低下域を選び、
それぞれの低下域の中を最小値の前後でさらに低周波側と高周波側に分ける時、
第一の相対蛍光強度低下域の低周波側及び高周波側と
第二の相対蛍光強度低下域の低周波側及び高周波側の
合計4個の周波数領域において、
周波数変化に対する相対蛍光強度変化が極力大きく、
かつ4個の周波数領域に共通に含まれる相対蛍光強度の基準低下度を設定し、
上記4個の周波数領域に各1点の合計4点のマイクロ波周波数を順次周期的に照射しつつ、
前記蛍光検出手段によりそれぞれの周波数における相対蛍光強度を検出することにより
それぞれのマイクロ波周波数における相対蛍光強度積算結果と、上記基準低下度の差分を反映して、
それぞれの周波数領域の中でマイクロ波周波数を調整することにより、
相対蛍光強度を基準低下度に収束させた4点のマイクロ波周波数の間の線型演算値として、
前記ダイヤモンド基板の所定領域内の磁場または温度を計測することにより、
上記周期よりも長周期の雑音を排除することを特徴とする磁気計測装置。
【請求項3】
前記イメージセンサは、
前記4点の動作点周波数のいずれかのマイクロ波を前記マイクロ波照射部が前記所定領域に照射する期間及び照射しない期間ごとに、露光及び読み出しを行うこと
を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気計測装置。
【請求項4】
前記マイクロ波照射部は、
マイクロ波を生成するマイクロ波生成部と、
前記マイクロ波生成部が生成したマイクロ波の位相の遅延を設定するフェーズシフタと、
前記フェーズシフタが位相の遅延を設定したマイクロ波を前記ダイヤモンド基板に対して照射するマイクロ波コイルと
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気計測装置。
【請求項5】
前記マイクロ波コイルは、
前記ダイヤモンド基板の表面に平行な方向にマイクロ波磁場を生成すること
を特徴とする請求項4に記載の磁気計測装置。
【請求項6】
前記ダイヤモンド基板は、
前記NVセンタを含む薄膜であるNV層の厚さが磁性粒子の直径と略同じであること
を特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気計測装置。
【請求項7】
前記積算部が所定の時間間隔をあけて積算した結果それぞれを画素ごとに記憶する記憶部を有し、
前記出力部は、
前記記憶部が記憶した結果に基づいて、前記時間間隔ごとに前記所定領域における相対蛍光強度の画素ごとの分布を、あらかじめ画素ごとに測定しておいた相対蛍光強度の低下点の最低値により補正した上で、画像として出力すること
を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気計測装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド結晶中のNVセンタ(窒素-空孔中心)は、ナノスケールの構造であり、褪色しない高輝度の蛍光を発する。光磁気共鳴による蛍光は、自家蛍光に対して容易に識別可能である。また、ダイヤモンドは、完全な生体親和性を有することから、生体イメージングへの適用研究が広く進められている。
【0003】
特に、ダイヤモンドのNVセンタにおける蛍光が磁気に対して鋭敏に変化することを活用して、高品質のダイヤモンド基板中に高密度のNVセンタ層を形成することにより、ダイヤモンド基板表面における2次元磁気分布を画像として計測することにより生体磁気を計測する技術が注目を集めており、直径200nmの超常磁性粒子の細胞内組織への取込過程が10時間に亘って計測されている。
【0004】
200nmオーダーの高解像度計測が10時間の長時間に亘って可能なことが、ダイヤモンド基板による磁気計測の最大の特徴である。これは、ダイヤモンド基板から蛍光を得るために照射する励起光が、本質的にはダイヤモンド基板のみを照射すればよいからであって、細胞自身を照射する必要はなく、光障害を回避可能であるために可能となっている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Hunter C. Davis, Pradeep Ramesh, Aadyot Bhatnagar, Audrey Lee-Gosselin, John F. Barry, David R. Glenn, Ronald L. Walsworth & Mikhail G. Shapiro, “Mapping the microscale origins of magnetic resonance image contrast with subcellular diamond magnetometry.” NATURE COMMUNICATIONS (2018) 9:131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Davisの方法は、ダイヤモンド基板中のNVセンタの光磁気共鳴スペクトルにおけるハイパーファイン準位による先鋭なピーク位置を磁場検出に使用している。ここでは、ハイパーファイン準位によるピークを先鋭なものにするために、ダイヤモンド基板に高純度の結晶を用いるとともに、NVセンタ層の形成に同位体制御を用い、13C原子を除去している。
【0007】
しかし、高純度のダイヤモンド基板結晶は、成長に多大な日時を要する。また、同位体制御は、同位体精製を施した特殊な原料ガスを必要とする。
【0008】
一方、成長速度が速く、製造が容易なダイヤモンド基板を用いる場合には、基板中に一定量の不純物が混入してしまうことが不可避である。また、同位体精製を施さない低廉な原料ガスを使用する場合には、13C原子が12C原子に対して1%程度混入してしまうことが不可避である。これらにより以下のような問題が生じる。
【0009】
・ハイパーファイン準位が先鋭には確認できないこと。
・NV層中のNV密度、電子スピンのコヒーレンス時間に不均一性が生じること。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ダイヤモンド基板が高純度でなく、NVセンタの密度及び電子スピンコヒーレンス時間に不均一性があっても、高感度で磁気を計測することができる磁気計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、所定領域内にNVセンタを含むダイヤモンド基板と、前記ダイヤモンド基板に載せられて超常磁性を示す複数の超常磁性粒子の集合体である1つ以上の磁性粒子、及び前記ダイヤモンド基板に対して静磁場を印加する静磁場印加部と、前記ダイヤモンド基板に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、前記ダイヤモンド基板に対して励起光を照射する光源部と、前記励起光による前記ダイヤモンド基板の前記所定領域における蛍光の強度を二次元に配列された画素ごとに検出するイメージセンサと、前記イメージセンサの検出結果に基づいて、光磁気共鳴スペクトルをマイクロ波が照射されていない場合と照射されている場合の蛍光強度の差分のマイクロ波が照射されていない場合の蛍光強度に対する比である相対蛍光強度のマイクロ波周波数依存性とする時、前記静磁場によるゼーマン分裂後の前記ダイヤモンド基板の光検出磁気共鳴スペクトルの視野内平均値における2870MHz付近を対称の中心として生じる1組である2つの相対蛍光強度低下点それぞれから正負の2つの最大傾斜点を特定し、特定した合計4点の各最大傾斜点における相対蛍光強度低下度及びマイクロ波周波数を決定する決定部と、前記決定部が最大傾斜点ごとに決定した相対蛍光強度低下度及びマイクロ波周波数に基づいて、前記所定領域における相対蛍光強度の基準低下度を設定するとともに前記最大傾斜点におけるマイクロ波周波数の近傍で前記基準低下度が実現される4点の動作点周波数初期値を設定する設定部と、前記4点の動作点周波数における前記所定領域の相対蛍光強度低下度が前記基準低下度に近付くように、前記4点の動作点周波数を更新する周波数更新部と、前記更新された動作点周波数をマイクロ波発振器に補正後動作点周波数として入力する周波数補正部と、前記4点の動作点周波数のそれぞれのマイクロ波を前記マイクロ波照射部が所定時間内に順次に前記所定領域に照射する間に、前記補正後動作点周波数それぞれにおける前記イメージセンサの検出結果を前記画素ごとに積算する積算部と、前記積算部が前記画素ごとに積算した結果に基づいて、前記所定領域における相対蛍光強度を画像として出力する出力部とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、所定領域内にNVセンタを含むダイヤモンド基板と、前記ダイヤモンド基板に対して静磁場を印加する静磁場印加部と、前記ダイヤモンド基板に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、前記ダイヤモンド基板に対して励起光を照射する光源部と、前記励起光による前記ダイヤモンド基板の前記所定領域における蛍光の強度を検出する蛍光検出手段とからなり、マイクロ波が照射されている場合とされていない場合との、または蛍光強度に影響がない周波数のマイクロ波が照射されている場合との蛍光強度差分の、マイクロ波が照射されていない場合または蛍光強度に影響がない周波数のマイクロ波が照射されている場合の蛍光強度に対する比を相対蛍光強度とするとき、前記静磁場により、前記マイクロ波周波数の2870MHz付近を対称の中心として生じる1組である2つの相対蛍光強度低下域を選び、それぞれの低下域の中を最小値の前後でさらに低周波側と高周波側に分ける時、第一の相対蛍光強度低下域の低周波側及び高周波側と第二の相対蛍光強度低下域の低周波側及び高周波側の合計4個の周波数領域において、周波数変化に対する相対蛍光強度変化が極力大きく、かつ4個の周波数領域に共通に含まれる相対蛍光強度の基準低下度を設定し、上記4個の周波数領域に各1点の合計4点のマイクロ波周波数を順次周期的に照射しつつ、前記蛍光検出手段によりそれぞれの周波数における相対蛍光強度を検出することによりそれぞれのマイクロ波周波数における相対蛍光強度積算結果と、上記基準低下度の差分を反映して、それぞれの周波数領域の中でマイクロ波周波数を調整することにより、相対蛍光強度を基準低下度に収束させた4点のマイクロ波周波数の間の線型演算値として、前記ダイヤモンド基板の所定領域内の磁場または温度を計測することにより、上記周期よりも長周期の雑音を排除することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、前記イメージセンサが、前記4点の動作点周波数のいずれかのマイクロ波を前記マイクロ波照射部が前記所定領域に照射する期間及び照射しない期間ごとに、露光及び読み出しを行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、前記マイクロ波照射部が、マイクロ波を生成するマイクロ波生成部と、前記マイクロ波生成部が生成したマイクロ波の位相の遅延を設定するフェーズシフタと、前記フェーズシフタが位相の遅延を設定したマイクロ波を前記ダイヤモンド基板に対して照射するマイクロ波コイルとを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、前記マイクロ波コイルが、前記ダイヤモンド基板の表面に平行な方向にマイクロ波磁場を生成することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、前記ダイヤモンド基板が、前記NVセンタを含む薄膜であるNV層の厚さが磁性粒子の直径と略同じであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る磁気計測装置は、前記積算部が所定の時間間隔をあけて積算した結果それぞれを画素ごとに記憶する記憶部を有し、前記出力部は、前記記憶部が記憶した結果に基づいて、前記時間間隔ごとに前記所定領域における相対蛍光強度の画素ごとの分布を、あらかじめ画素ごとに測定しておいた相対蛍光強度の低下点の最低値により補正した上で、画像として出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダイヤモンド基板が高純度でなく、NVセンタの密度及び電子スピンコヒーレンス時間に不均一性があっても、高感度で磁気を計測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態に係る磁気計測装置の構成例を模式的に示す図である。
【図2】マイクロ波コイルの構造と、ダイヤモンド基板との関係を模式的に示す図である。
【図3】CPUが実行するプログラムが有する機能例を示す図である。
【図4】静磁場によるゼーマン分裂後のダイヤモンド基板の光検出磁気共鳴スペクトルを例示するグラフである。
【図5】(a)は、予め定められた周波数リストに応じて、マイクロ波発振器がマイクロ波周波数を切替えるタイミングを示すタイミングチャートである。(b)は、(a)においてマイクロ波周波数がfBであるときの信号切替えタイミングを示すタイミングチャートである。
【図6】動作点としてのマイクロ波周波数fA,fB,fC,fDでの視野内における相対蛍光強度が目標値となる基準低下度Vからずれてしまった場合に、動作点を基準低下度Vに対応する周波数に収束させる過程を概念的に示すグラフである。
【図7】相対蛍光強度の分布から磁場分布を算出する過程で行われる処理を概念的に示すグラフである。
【図8】(a)は、明視野画像を示す図である。(b)は、視野において比較的短時間に積算した磁気画像を示す図である。(c)は、視野において比較的長時間に積算した磁気画像を示す図である。
【図9】磁性粒子周辺のNVセンタから発生する蛍光の画像への影響をシミュレーションするためのモデルを示す図である。
【図10】実測値とシミュレーション値との整合を示すグラフである。
【図11】h=1.0μmの場合の磁場強度分布の磁性粒子直下からの距離依存性を示すグラフである。
【図12】磁場強度分布ピーク値のNV層厚依存性(実線)および画素あたりのショットノイズと磁場強度分布ピーク値とのSNR(破線)を示すグラフである。
【図13】生きた動く細胞に対して磁性粒子を付着させる方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を用いて磁気計測装置1の一実施形態を詳細に説明する。

【0021】
図1は、一実施形態に係る磁気計測装置1の構成例を模式的に示す図である。図1に示すように、磁気計測装置1は、ダイヤモンド基板2、静磁場印加部20、マイクロ波照射部3、光源部4、イメージセンサ5、制御部6、入力部60及び出力部62を有する。磁気計測装置1は、標的の磁場などを高感度で計測し、磁場の変化を画像等によって出力することができる固体量子センサシステムとなっている。

【0022】
ダイヤモンド基板2は、視野となる所定領域内にNVセンタ(窒素-空孔中心)が含まれたNV層を表面に備えたいわゆるダイヤモンドセンサであり、光を通過させる顕微鏡ステージ10上に配置されている。顕微鏡ステージ10とダイヤモンド基板2の間には、光を通過させるカバーガラス11がある。ここでは、ダイヤモンド基板2の表面に垂直な方向にz軸をとることとする。(111)面のダイヤモンド基板2では、NV軸を100%一方向((111)面に面直な方向)に揃えられることが知られている。

【0023】
静磁場印加部20は、ダイヤモンド基板2に載せられた1つ以上の磁性粒子22、及びダイヤモンド基板2に対して静磁場を印加する。磁性粒子22は、超常磁性を示す複数の超常磁性粒子220(図13参照)がポリマー222で被覆され集合体にされた例えば直径が約1μmの球状粒子である。超常磁性粒子220は、例えば直径が5nm程度の微小な酸化鉄(Fe2O3)粒子である。超常磁性は、例えば直径が50nm以下の強磁性体やフェリ磁性体のナノ微粒子に現れる。すなわち、磁性粒子22は、静磁場印加部20が印加する静磁場によって磁化される。

【0024】
なお、ダイヤモンド基板2の厚さは、ダイヤモンドの屈折率も考慮され、後述する対物レンズ42の実効的な作動長(Working Distance)以下にされている。よって、ダイヤモンド基板2は、表面に載せられた磁性粒子22の磁性を裏面から計測可能となっている。

【0025】
マイクロ波照射部3は、マイクロ波発振器30、フェーズシフタ32、及びマイクロ波コイル基板34を有する。マイクロ波発振器30は、パルス生成部300、マイクロ波生成部302、及び増幅部304を有する。パルス生成部300は、制御部6の制御に応じて、パルス変調信号306、周波数更新信号308及び掃引開始信号310をマイクロ波生成部302に対して出力し、イメージセンサ5に対して露光信号を出力する。マイクロ波生成部302は、制御部6の制御に応じて、後述する周波数リストに示された周波数のマイクロ波を生成する。増幅部304は、マイクロ波生成部302が生成したマイクロ波を増幅させ、フェーズシフタ32に対して出力する。

【0026】
フェーズシフタ32は、分岐点320、粗調部322及び微調部324を有し、マイクロ波発振器30が生成したマイクロ波の位相の遅延を設定し、調整する。粗調部322は、分岐点320を介して受け入れたマイクロ波の位相を粗く調整する。微調部324は、分岐点320を介して受け入れたマイクロ波の位相を微調整する。

【0027】
そして、フェーズシフタ32は、マイクロ波の位相を調整することにより、後述する光検出磁気共鳴スペクトルにおける1組2つの”谷”の深さをそろえる。2つの“谷”の深さは、一般には異なっている。

【0028】
具体的には、フェーズシフタ32は、分岐点320に電圧定在波の”腹”を持ってくることにより、微調部324が有効に機能するように粗調部322での位相シフト量を調節する。なお、ダイヤモンド基板2と、静磁場印加部20、マイクロ波コイル340及び対物レンズ42との位置関係の変化が小さい場合、例えば対物レンズ42の焦点がダイヤモンド基板2内の異なる位置に移動するだけである場合には、微調部324による調整だけでもよい。

【0029】
マイクロ波コイル基板34は、例えば複数層のプリント基板であり、複数層の配線によって形成されたマイクロ波コイル340を備え、フェーズシフタ32が位相を調整したマイクロ波をダイヤモンド基板2に対して照射する。図2は、(111)用のマイクロ波コイル340の構造と、ダイヤモンド基板2との関係を模式的に示す図である。図2に示すように、マイクロ波コイル340は、ダイヤモンド基板2の表面に平行な方向にマイクロ波磁場を効率的に生成する。このように、ダイヤモンド基板2のNV軸に対してマイクロ波磁場が直交させられると、磁場変化の検出効率を最大化することが可能である。

【0030】
光源部4は、例えばレーザー光源又はLED光源であり、波長が533nmである緑色光を励起光として出力し、ダイクロイックミラー40及び対物レンズ42を介してダイヤモンド基板2の所定領域内に含まれるNVセンタを励起させる。対物レンズ42は、ダイヤモンド基板2の表面に焦点を合わされている。光源部4が出力する励起光は、CW(Continuous Wave;定常出力)であり、変調は行われていない。また、光源部4が出力する励起光は、ケーラー照明によりダイヤモンド基板2の視野全体を照明する。

【0031】
ここで、光源部4は、ダイヤモンド基板2に対してのみ励起光を照射し、ダイヤモンド基板2に載せられた磁性粒子22などには励起光を照射しないようにすることができる。例えば、光源部4は、ダイヤモンド基板2に対する励起光の照射角度が調整されることにより、ダイヤモンド基板2によって励起光を略反射されるように設定される。

【0032】
そして、励起光により励起されたダイヤモンド基板2は、赤色の蛍光を発する。ダイヤモンド基板2が発した蛍光は、対物レンズ42、ダイクロイックミラー40及び集光レンズ44などを介して、イメージセンサ5が視野の画像として撮像する。

【0033】
イメージセンサ5は、例えばCMOSエリアセンサであり、励起光によるダイヤモンド基板2の視野における蛍光の強度を二次元に配列された画素ごとに検出する。

【0034】
制御部6は、CPU600及びメモリ(記憶部)602を有し、磁気計測装置1を構成する各部を制御するとともに、積算部として後述する積算などの演算と、画像処理などを行う。入力部60は、磁気計測装置1に対する作業者の操作入力を受け入れ、制御部6に対して出力する。出力部62は、例えばディスプレイやプリンタなどであり、磁気計測装置1が計測した磁気に関する情報等を画像等によって出力する。

【0035】
図3は、CPU600が実行するプログラム7が有する機能例を示す図である。プログラム7は、例えば決定部70、設定部71、周波数補正部72及び周波数更新部73を有する。

【0036】
ここで、図4を用いて、決定部70が有する機能について説明する。図4は、静磁場によるゼーマン分裂後のダイヤモンド基板2の光検出磁気共鳴(Optically Detected Microwave Resonance;ODMR)スペクトルを例示するグラフである。

【0037】
光検出磁気共鳴スペクトル(以下、ODMRスペクトル)とは、マイクロ波照射部3がダイヤモンド基板2に対してマイクロ波を照射した場合に、マイクロ波を照射していない場合よりもダイヤモンド基板2のNV層が発する蛍光の強度が相対的に低下する割合を、マイクロ波の周波数の変化に対して示したものである。

【0038】
即ち、マイクロ波をオフ・オンする期間に検出される蛍光強度をそれぞれFoff・Fonとすると、相対蛍光強度は(Foff-Fon)/Foffで定義される。

【0039】
ここで、ODMRスペクトルにおいて、磁気共鳴が起こるマイクロ波周波数で相対蛍光強度が低下する部分を”谷”とする。外部磁場が無い場合には、”谷”は、2870MHz付近に1つできる。

【0040】
NVセンタは、一般にはダイヤモンドの結晶方位により4方位に存在するため、外部磁場が加えられると、”谷”は結晶方位により一般に2つ又は4つ(以上)に分裂する。上述したように、(111)面のダイヤモンド基板ではNV軸を100%一方向((111)面に面直な方向)に揃えられることが知られており、この場合には、z方向の磁場Bzが印加されると、図4に示したように”谷”は2つになる。

【0041】
なお、図4に示したような2つの”谷”を含むODMRスペクトルは、イメージセンサ5の各画素において、複数の画素からなる一定の領域の平均において、又は、視野全体の平均においても、同様に観測される。しかし、総光量が多くなる視野全体の平均を観測した場合に、最もショットノイズの影響が小さくなり、ODMRスペクトルが鮮明となる。

【0042】
なお、ODMRスペクトルは、例えば周囲の温度が変化した場合、温度変化に応じてマイクロ波の周波数方向に、全体が平行にシフトする。

【0043】
以下、ODMRスペクトルは、”画素ごと”あるいは”ある画素の”とことわらない限り視野内平均のものを指すこととする。ODMRスペクトルに”谷”が4つ以上存在する場合には、2870MHz付近を対称の中心とする1組の2つの”谷”を用いるものとする。

【0044】
例えば、決定部70は、イメージセンサ5の検出結果に基づいて、ゼーマン分裂後のダイヤモンド基板2のODMRスペクトルにおける2つの相対蛍光強度の低下する”谷“X,Yそれぞれから正負の2つの最大傾斜点を特定する。相対蛍光強度の低下する”谷“Xは、負の最大傾斜点がAとなり、正の最大傾斜点がBとなっている。相対蛍光強度の低下する”谷“Yは、負の最大傾斜点がCとなり、正の最大傾斜点がDとなっている。

【0045】
そして、決定部70は、特定した4つの最大傾斜点A,B,C,Dにおける蛍光強度低下度及び各点の周波数fA,fB,fC,fDを決定する。例えば、蛍光強度低下度は、例えば相対蛍光強度1.00から最大傾斜点の相対蛍光強度をそれぞれ差し引いた値である。また、蛍光強度低下度は、蛍光強度の低下の程度が相対的に示されれば、他の値であってもよい。

【0046】
一般的には、2つの”谷”の両側の斜面が最も急峻となるのは、”谷”の深さの60~75%の深さである。後述するように、最大傾斜点A,B,C,Dのマイクロ波周波数における蛍光強度分布から、磁気分布を取得するためには、ODMRスペクトルの対称性を仮定しているため、”谷”の深さが同じであることが必須である。

【0047】
そこで、前述したように、フェーズシフタ32によりマイクロ波の位相を調整し“谷”の深さを揃える。それでもなお、”谷”の斜面が最も急峻となる深さは、最大傾斜点A,B,C,Dそれぞれで異なることがある。

【0048】
このため、設定部71は、決定部70が決定した各最大傾斜点における蛍光強度低下度に基づいて、共通の相対蛍光強度の基準低下度Vを設定する。例えば、設定部71は、最大傾斜点A,B,C,Dそれぞれの深さが異なる場合には、深さの平均をとって基準低下度Vを設定する。そして、ODMRスペクトルの相対蛍光強度が基準低下度Vに対応する動作点A,B,C,Dそれぞれのマイクロ波の周波数fA,fB,fC,fDの初期値fA,fB,fC,fDを決定する。

【0049】
設定された基準低下度Vに対応する動作点A,B,C,Dそれぞれのマイクロ波の周波数fA,fB,fC,fDは、下式(1)~(4)によって近似される。また、fcenterは、下式(5)によって表される。

【0050】
【数1】
JP2020063960A_000003t.gif
【数2】
JP2020063960A_000004t.gif
【数3】
JP2020063960A_000005t.gif
【数4】
JP2020063960A_000006t.gif
【数5】
JP2020063960A_000007t.gif

【0051】
ただし、
=2870MHz付近の一定の値
T:絶対温度
γ:磁気回転比 28.07[MHz/mT]
w:ODMRスペクトルの”谷”の中心からの幅
ε:定数
であるとする。

【0052】
また、上式(1)~(4)から、下式(6)が導かれる。

【0053】
【数6】
JP2020063960A_000008t.gif

【0054】
wは、NVセンタの電子スピンのコヒーレンス時間に反比例し、NV層の局所的な品質に依存する。しかし、上式(6)には、T、wへの依存項が無く、Bzを正確に検出可能である。このため、上式(6)によって動作点4点の関係を算出することにより、温度の時間的変動、電子スピンコヒーレンス時間の空間的揺らぎを除いて磁場Bzを検出することが可能となる。

【0055】
そして、周波数更新部73は、動作点4点の周波数における相対蛍光強度低下度が、基準低下度Vに近付くように、4点の動作点周波数を更新する。

【0056】
周波数補正部72は、周波数更新部73が更新した動作点周波数をマイクロ波発振器30に補正後動作点周波数として入力する。

【0057】
次に、磁気計測装置1の動作及び処理について説明する。ここでは、磁気計測装置1が検出した磁気に関する結果を画像として出力するまでの過程を、諸パラメータのキャリブレーションを行う初期設定処理と、長時間に亘る細胞計測のような一定時間毎の積算画像コマ撮り処理と、積算画像コマ撮り処理で得たデータを画素ごとに補正するデータ補正処理に分けて説明する。

【0058】
<初期設定処理>
作業者は、ダイヤモンド基板2を顕微鏡ステージ10に装着し、静磁場印加部20、マイクロ波コイル340、ダイヤモンド基板2と対物レンズ42との相対位置、及びマイクロ波照射部3におけるマイクロ波コイル340までの配線状態が確定した後に、入力部60等を介して、以下の初期設定処理を一度だけ行う。ただし、対物レンズ42の焦点がダイヤモンド基板2における異なる位置に移動する場合には、再度初期設定を行う必要がある。

【0059】
<1> マイクロ波照射部3が照射するマイクロ波の周波数を上述した2つの”谷”の最深部を含む周波数範囲で掃引し、ODMRスペクトルを計測して2つの”谷”の最深部の周波数位置を特定する。

【0060】
<2> フェーズシフタ32がマイクロ波コイル340に供給するマイクロ波の位相を調整し、2つの”谷”の最深部の深さをそろえる。

【0061】
<3> 2つの”谷”の深さがそろった状態で、2つの”谷”を含む周波数範囲でODMRスペクトルの一定時間(例えば数分~数十分)の積算を行い、画素ごとのODMRスペクトルにおける”谷”の深さをメモリ602に記憶させる。画素ごとの”谷”の深さのばらつきは、NV層の密度・厚さ・膜質及び励起光またはマイクロ波の視野内の不均一性に起因する。

【0062】
<4> 上述した<3>の処理により、視野内平均のODMRスペクトルを鮮明にした後に、視野内平均のODMRスペクトルに対する基準低下度V及び基準低下度Vに対応する4点の動作点周波数fA,fB,fC,fDの周波数積算画像コマ撮り処理時の初期値としてfA,fB,fC,fDを設定する。

【0063】
<積算画像コマ撮り処理>
次に、作業者は、画素ごとに相対蛍光強度を積算させる処理を入力部60等を介して行う。

【0064】
<5> マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDにおける画素ごとの相対蛍光強度の積算をN回(例:N=10)行う。

【0065】
<6> 画素ごとに積算された相対蛍光強度の視野内の平均をとり、相対蛍光強度VA,VB,VC,VDとし、下式(7)~(10)によって、更新後マイクロ波周波数fAnew,fBnew,fCnew,fDnewを算出させて設定する。

【0066】
【数7】
JP2020063960A_000009t.gif
【数8】
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【数9】
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【数10】
JP2020063960A_000012t.gif

【0067】
ただし、S,Kは、後述する定数とする。

【0068】
<7> 上述した<5>,<6>をM回繰り返した時点での画素ごとの相対蛍光強度の積算値をファイルとしてメモリ602に記憶させる。そして、一旦画素ごとの積算値をクリア(初期化)し、<5>の処理に戻って再度積算を開始させる。

【0069】
ただし、マイクロ波周波数の初期化はせず、前サイクルの<6>で得られたfAnew,fBnew,fCnew,fDnewをfA,fB,fC,fDとして用いる。

【0070】
Mの値をいくつに設定するかは、どれくらいの鮮明さで、どれくらいの間隔で動態を計測するかによる。例えば、M=3とする。

【0071】
<8> 上述した<5>,<6>,<7>の処理を必要な観測時間(例えば、数日間)だけ繰り返し、それぞれの結果をメモリ602に記憶させる。

【0072】
<データ補正処理>
次に、作業者は、積算画像コマ撮り処理によってメモリ602に記憶させた結果を用いて、制御部6に画像処理を実行させる。

【0073】
<9> 上述した<7>の処理で得られた結果を<3>の処理で得られた画素ごとのODMRスペクトルにおける”谷”の深さで補正し、磁気強度の2次元分布を表す正しい磁気画像を出力部62に出力させる。本処理は、リアルタイムでなくてもよい。また、得られた磁気画像を連続させるとコマ撮りされた動画となる。

【0074】
次に、上述した磁気計測装置1が行う処理について、具体的に説明する。

【0075】
図5は、マイクロ波発振器30によるマイクロ波周波数の切替えタイミングを示すタイミングチャートである。図5(a)は、予め定められた周波数リストに応じて、マイクロ波発振器30がマイクロ波周波数を切替えるタイミングを示すタイミングチャートである。図5(b)は、図5(a)においてマイクロ波周波数がfBであるときの信号切替えタイミングを示すタイミングチャートである。

【0076】
磁気計測装置1は、上述した<5>,<6>の処理を行う場合、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDを所定時間内に順次に切り替えつつ、画素ごとの相対蛍光強度の積算を行う。そして、磁気計測装置1は、視野内の積算結果の平均値をマイクロ波周波数に反映させるようにフィードバックを行い、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDにおける視野内平均蛍光強度低下度が基準低下度Vとなる動作点A,B,C,Dを追随させる。

【0077】
マイクロ波発振器30(図1)は、制御部6から予め受け入れた周波数リストに基づき、周波数更新信号308に同期して、マイクロ波周波数を変更させていくリスト掃引の機能を有する。まず、制御部6は、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDを最初の周波数リスト更新時間にマイクロ波発振器30へリスト掃引の周波数リストとして設定する。その後、マイクロ波発振器30は、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDのマイクロ波の生成をN回繰返す。

【0078】
図5(b)にも示すように、周波数更新信号308の1サイクルは、マイクロ波オフ期間と、マイクロ波オン期間がそれぞれ50%となっている(デューティ比50%)。マイクロ波周波数切替タイミングは、マイクロ波オフ期間内に有り、マイクロ波オン期間内では安定なマイクロ波周波数が保たれるようにする。マイクロ波オフ期間及びマイクロ波オン期間は、それぞれイメージセンサ5の露光時間(例えば20ms)と、読出し時間(例えば17ms)を含む。

【0079】
マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDを切替える1サイクルの計測時間は、各マイクロ波周波数におけるマイクロ波オンでのイメージセンサ5の露光時間と読出し時間と、マイクロ波オフでのイメージセンサ5の露光時間と読出し時間との計8回の露光時間及び読出し時間を含む。露光時間が20msであり、読出し時間が17msである場合には、1サイクルの計測時間は296msである。

【0080】
磁気計測装置1が計測を実行しているときに、上述の1サイクルの時間よりも緩慢な温度変化が生じても、影響は上式(6)によってキャンセルされる。そして、磁気計測装置1は、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDを切替えて1サイクルをN回繰返すことにより、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDにおける相対蛍光強度を取得して蓄積する。

【0081】
その後、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDにおける相対蛍光強度の視野内の平均がVA,VB,VC,VDとして求められる。

【0082】
一方、事前の測定により、視野内の平均のODMRの基準低下度Vが求められる。そして、実行済のN回の視野内の蛍光強度蓄積過程で繰返し使用されたマイクロ波周波数fA,fB,fC,fDと、各マイクロ波周波数で得られた視野内の相対蛍光強度VA,VB,VC,VDから、次のN回の反復におけるマイクロ波周波数fAnew,fBnew,fCnew,fDnewの値が上式(7)~(10)によって算出される。

【0083】
図6は、動作点としてのマイクロ波周波数fA,fB,fC,fDでの視野内における相対蛍光強度が目標値となる基準低下度Vからずれてしまった場合に、動作点を基準低下度Vに対応する周波数に収束させる過程を概念的に示すグラフである。図6(a)は、低周波数側の”谷”におけるマイクロ波周波数fA,fBにおける動作点を基準低下度Vに対応する周波数に収束させる過程を概念的に示すグラフである。図6(b)は、高周波数側の”谷”におけるマイクロ波周波数fC,fDにおける動作点を基準低下度Vに対応する周波数に収束させる過程を概念的に示すグラフである。

【0084】
ここで、Sは、傾斜の逆数の絶対値であり、ODMRスペクトル上の動作点での接線が、ODMRスペクトルのピークと谷底の高さの水平線と交叉する周波数位置の差として定義する。Kは、収束調整用の定数であり、f及びSをMHz単位とする。また、相対蛍光強度最低値が図4のように0.95程度である場合には、Kは例えば100とする。MHz単位でのSは、3600であった。

【0085】
そして、マイクロ波周波数fAnew,fBnew,fCnew,fDnewは、次の周波数リスト更新時間において、マイクロ波発振器30に設定される。その周波数リスト更新時間の後、マイクロ波発振器30は、マイクロ波周波数fAnew,fBnew,fCnew,fDnewの系列をN回反復する。

【0086】
このように、図6は、VA-V,VB-V,VC-V,VD-Vがゼロでない場合のマイクロ波周波数fA、fB、fC、fDからマイクロ波周波数fAnew,fBnew,fCnew,fDnewへの周波数更新の過程を示している。そして、マイクロ波周波数fAnew,fBnew,fCnew,fDnewは、マイクロ波周波数fA、fB、fC、fDよりもターゲットとする動作点A,B,C,Dに近付き、<5>,<6>の手順が反復されることによって動作点A,B,C,Dに収束する。

【0087】
次に、<7>の処理よる画素ごとの相対蛍光強度の積算値から、<9>の処理による画素ごとのODMRスペクトルにおける”谷”の深さの補正によって、磁気画像を得る過程について詳述する。

【0088】
図7は、相対蛍光強度の分布から磁場分布を算出する過程で行われる処理を概念的に示すグラフである。

【0089】
ダイヤモンド基板2における磁場Bzは、外部静磁場Bと、外部静磁場Bにより磁化された磁性粒子22による局所的な磁場ΔBzとからなる。ここで、Bz、B、ΔBzは、下式(11)の関係がある。

【0090】
【数11】
JP2020063960A_000013t.gif

【0091】
磁性粒子22がダイヤモンド基板2上に疎に撒布されている場合、視野内の平均のBzは、略B0に等しい。このため、視野内の平均ODMRスペクトルに対し、上式(6)で得られるBzはBとなる。

【0092】
そして、各画素におけるODMRスペクトルの視野内の平均ODMRスペクトルからの変化分がΔBzを反映することになる。基準低下度Vは、マイクロ波周波数fA,fB,fC,fDにおける視野内の平均のODMRスペクトルであるので、FiA,FiB,FiC,FiDは、第i番目の画素におけるマイクロ波周波数fA,fB,fC,fDでの相対蛍光強度の基準低下度Vからの変化分とする。

【0093】
第i番目の画素におけるΔBzをΔBziとすると、図7に示すようにΔBzi>0である場合には、FiA<0,FiB>0,FiC>0,FiD<0となる。視野内でODMRスペクトルの”谷”の深さにばらつきが無い場合には、ΔBziは、下式(12)によって表される。

【0094】
【数12】
JP2020063960A_000014t.gif

【0095】
しかし、一般には、画素ごとにODMRスペクトルの”谷”の深さにばらつきが生じ得る。また、低周波側の”谷”の深さと、高周波側の”谷”の深さにも差異を生じ得る。これは、<2>の処理において視野内の平均としては2つの”谷”の深さをそろえてはいるものの、全ての画素で2つの”谷”の深さが同時にそろうとは限らないからである。

【0096】
視野内の平均での”谷”の深さをPaveとし、第i番目の画素の低周波側の”谷”の深さをPil、第i番目の画素の高周波側の”谷”の深さをPihとすると、ΔBziは、下式(13)によって表される。

【0097】
【数13】
JP2020063960A_000015t.gif

【0098】
図8は、磁気計測装置1が出力する画像例を示す図である。図8(a)は、明視野画像を示す図である。図8(b)は、視野において比較的短時間に積算した磁気画像を示す図である。図8(c)は、視野において比較的長時間に積算した磁気画像を示す図である。

【0099】
図8における画像は、1.6×1016/cmのNV濃度、(111)方位への配向率100%、NV層の厚さtd=3.5μm、外部静磁場1.3mT、磁性粒子22の直径が1μmである場合の画像である。制御部6は、図8に示した画像から、磁気画像としての輝点のピークが平均2.4μTとなることを演算により取得している。

【0100】
この2.4μTの実測値を以下のようにシミュレーション値と照合する。

【0101】
磁性粒子22により生じる磁場は、ほぼ距離の3乗で急激に減少するため、磁性粒子22周辺のNVセンタから発生する蛍光の画像への影響を詳細に検討する。ここでは、Abbeの回折限界も考慮してシミュレーションを行う。

【0102】
図9は、磁性粒子22周辺のNVセンタから発生する蛍光の画像への影響をシミュレーションするためのモデルを示す図である。磁気計測装置1では、例えば60倍のNA=1.30、WD=0.30mmの対物レンズ42により、0.30mmの厚さの基板を介して裏面からダイヤモンド基板2の表面を観察している。

【0103】
ここでは、半径a=0.5μmの磁性体球(磁性粒子22)がダイヤモンド基板2の表面からhの高さで離れた位置にあるとする。(R、Θ)の座標軸は、ダイヤモンド基板2の表面にとる。z軸は、ダイヤモンド基板2に面直するようにとる。顕微鏡(撮像)の焦点は、ダイヤモンド基板2の表面に合せる。

【0104】
このとき、ダイヤモンド基板2の(R,Θ,0)座標が投影されるイメージセンサ5の画素で検出される蛍光I(R,Θ)に対しては、ある円錐体内で発生する蛍光全体を考慮する必要がある。

【0105】
円錐体の頂点は(R,Θ,-l(エル))であり、頂角はarcsin(NA/nd)である。円錐体の高さは(td+l(エル))である。ここで、l(エル)は、Abbeの回折限界であり、NVセンタの蛍光の場合、0.34μmである。

【0106】
NAは、対物レンズの開口数(Numerical Aperture)である。ndは、ダイヤモンドの屈折率である。

【0107】
円錐体内の座標(r,θ,z)で発生した蛍光は、R2+r2-2rRcos(Θ-θ)及びzに依存する確率分布を持って画素に到達する。まず、円錐体内のNVセンタの蛍光に影響を与える座標(r,θ,z)における磁場Bz(r,θ,z)を求める。

【0108】
一様な外部磁場Bz中にある磁性体球の磁化Mzは、下式(14)によって表される。

【0109】
【数14】
JP2020063960A_000016t.gif

【0110】
ここで使用した磁性粒子22の磁化率χは文献値より0.8とした。一様に磁化された磁性体球が生成する磁場は、球の中心に全磁気モーメントが存在する場合の磁場に等しい。図8の計測では、NV軸は、全てz軸に平行としているので、蛍光強度に影響する磁性粒子22による磁場としては、磁場のz成分のΔBzのみを考える。

【0111】
ΔBzは、下式(15)によって表される。
【数15】
JP2020063960A_000017t.gif

【0112】
I(R,Θ)は、下式(16)によって表される。
【数16】
JP2020063960A_000018t.gif

【0113】
ここで、F(r,θ,z)は、座標(r,θ,z)で発生する蛍光強度、σは、下式(17)によって表される。
【数17】
JP2020063960A_000019t.gif

【0114】
このため、深さが深い方がより広い範囲の蛍光に対応する。F(r,θ,z)は、14N核スピンによるハイパーファイン準位を考慮しなくてよい場合には、ローレンツ曲線によって下式(18)、(19)、(20)によって表される。

【0115】
【数18】
JP2020063960A_000020t.gif
【数19】
JP2020063960A_000021t.gif
【数20】
JP2020063960A_000022t.gif

【0116】
ここで、γは磁気回転比28.07[MHz/mT]、τはNVセンタの電子スピンコヒーレンス時間、14N核スピンによるハイパーファイン準位を考慮すると、下式(21)、(22)が得られる。

【0117】
【数21】
JP2020063960A_000023t.gif
【数22】
JP2020063960A_000024t.gif

【0118】
ODMRスペクトルの視野内の平均値から得られたΔf0=-0.3MHz,B0=1.31mT,τ=82nsを上式に適用した場合、h=1.0μmとすると、図10に示したように、実測値とシミュレーション値とが最もよく整合することが分かった。

【0119】
原子間力顕微鏡(AFM)によってダイヤモンド基板2の表面凹凸を計測した場合、表面凹凸は20~50nmであった。しかし、磁気画像の実測値とシミュレーション値の照合では、磁性粒子22とダイヤモンド基板2との距離が1μm程度存在するように見えることの原因として、磁性粒子22とダイヤモンド基板2の間隙に何らかの被膜が生じている等の可能性が考えられる。

【0120】
NV層の密度が一定である場合、NV層の厚さにより、ODMRスペクトルの変化として検出される磁性粒子22直下の磁場強度変化を図9に示したモデルによるシミュレーションにより調べた。

【0121】
図11は、h=1.0μmの場合の磁場強度の磁性粒子22直下からの距離R依存性を示すグラフである。図12の実線は、磁場強度分布ピーク値のNV層厚td依存性を示すグラフである。

【0122】
磁場強度分布ピーク値は、NV層厚tdが薄いほど大きくなる。一方、蛍光強度はNV層厚tdに比例するので、ショットノイズはNV層厚tdが薄いほど相対的に大きくなる。ショットノイズの大きさは、図8(b)と(c)の画素ごとの差分の標準偏差と、(b)の取得に要した露光時間とから算出される。

【0123】
また、図12の破線は、算出された画素あたりのショットノイズと磁場強度分布ピーク値とのSNR(信号対雑音比)を示している。図12の破線上に▽印で示したように、NV層厚td=0.9μmの時にSNRは最大となる。しかし、NV層厚td>0.9μmでのSNRの低下は緩慢であり、NV層厚td=0.9μmから1.0μmまでのSNRの低下はわずか(-0.3%)であるため、NV層厚tdが1.0μmであっても略最良であると言える。

【0124】
ここで、ショットノイズの絶対値は画素のビニング或いは積算時間で低下するが、低下の仕方はNV層厚tdには寄らずに一様である。このため、SNRとして最良であるNV層厚tdの値に変化は無い。

【0125】
以上より、NV層の密度が一定の場合、半径aの磁性粒子22の検出に最良なNV層の厚さは2a(磁性粒子22の直径)程度であると言える。

【0126】
次に、磁気計測装置1を用いて磁気を計測する実施例について説明する。

【0127】
磁気計測装置1は、例えばディッシュ内に培養されている生きた動く細胞に磁性粒子22を付着させ、磁性粒子22による磁気の変化を検出することにより、長時間に亘って動く細胞の動作を追跡することを可能にしている。

【0128】
図13は、生きた動く細胞8に対して磁性粒子22を付着させる方法を模式的に示す図である。図13に示すように、磁性粒子22は、超常磁性を示す複数の超常磁性粒子220がポリマー222で被覆されている直径が例えば約1μmの球状粒子である。磁性粒子22は、細胞8に対して例えば抗原抗体反応によって結合される。

【0129】
この場合にも、磁気計測装置1は、光源部4が照射する励起光をダイヤモンド基板2に対してのみ照射し、ダイヤモンド基板2に載せられる細胞や磁性粒子22に対しては励起光を照射しないでよい。よって、細胞8は、光による障害が生じず、長時間に亘って観察され得る。また、磁気計測装置1は、マイクロ波周波数を更新しつつ磁気を計測することができるので、時間経過による温度変動の影響も低減することができる。

【0130】
このように、実施形態に係る磁気計測装置1によれば、ダイヤモンド基板が高純度でなく、NVセンタの密度及び電子スピンコヒーレンス時間に不均一性があっても、高感度で磁気を計測することができる。
【符号の説明】
【0131】
1・・・磁気計測装置、2・・・ダイヤモンド基板、20・・・静磁場印加部、22・・・磁性粒子、220・・・超常磁性粒子、222・・・ポリマー、3・・・マイクロ波照射部、30・・・マイクロ波発振器、300・・・パルス生成部、302・・・マイクロ波生成部、304・・・増幅部、306・・・パルス変調信号、308・・・周波数更新信号、310・・・掃引開始信号、32・・・フェーズシフタ、320・・・分岐点、322・・・粗調部、324・・・微調部、34・・・マイクロ波コイル基板、340・・・マイクロ波コイル、4・・・光源部、40・・・ダイクロイックミラー、42・・・対物レンズ、44・・・集光レンズ、5・・・イメージセンサ、6・・・制御部、60・・・入力部、62・・・出力部、600・・・CPU、602・・・メモリ、7・・・プログラム、70・・・決定部、71・・・設定部、72・・・周波数補正部、73・・・周波数更新部、8・・・細胞
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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