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明細書 :残留応力分布の測定方法、算出方法及びプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-041918 (P2020-041918A)
公開日 令和2年3月19日(2020.3.19)
発明の名称または考案の名称 残留応力分布の測定方法、算出方法及びプログラム
国際特許分類 G01L   1/00        (2006.01)
FI G01L 1/00 G
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2018-169714 (P2018-169714)
出願日 平成30年9月11日(2018.9.11)
発明者または考案者 【氏名】柴原 正和
【氏名】生島 一樹
【氏名】河原 充
【氏名】河尻 義貴
【氏名】沖見 優衣
出願人 【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
審査請求 未請求
要約 【課題】本発明は、左右非対称に部材を切断した場合でも残留応力分布の算出が可能となる残留応力分布の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の残留応力分布の測定方法は、金属部材の断面に切断面を付与した解析モデルを用いて切断面において第1金属片に働く荷重ベクトルと、切断面において第2金属片に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、残差力ベクトルを金属部材の解析モデルの断面に強制荷重として付与することにより断面における移動量を修正変位ベクトルとして算出するステップと、測定した第1又は第2金属片の切断面の形状を有する解析モデルを用いて算出した修正変位ベクトルに基づき第1又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップと、第1又は第2金属片の切断面の形状を修正した解析モデルを用いて解析モデルに強制変位を付与することにより断面における残留応力分布を算出するステップとを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
金属部材の第1金属部と第2金属部との間の断面における残留応力分布を測定する測定方法であって、
第1金属部が第1金属片となり第2金属部が第2金属片となるように前記断面において前記金属部材を切断するステップと、
第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を測定するステップと、
前記金属部材の前記断面に切断面を付与した解析モデルを用いて、前記切断面において第1金属片に働く荷重ベクトルと、前記切断面において第2金属片に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、
前記金属部材の解析モデルの前記断面に前記残差力ベクトルを強制荷重として付与することにより、前記断面における移動量を修正変位ベクトルとして算出するステップと、
測定した第1金属片の切断面の形状を有する解析モデル又は測定した第2金属片の切断面の形状を有する解析モデルを用いて、算出した修正変位ベクトルに基づき第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップと、
第1金属片の切断面の形状を修正した解析モデル又は第2金属片の切断面の形状を修正した解析モデルを用いて、解析モデルに強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップとを含むことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記残留応力分布を算出するステップは、解析モデルに弾性解析により強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップである請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
金属部材の第1金属部と第2金属部との間の断面における残留応力分布を算出する算出方法であって、
前記金属部材の前記断面に切断面を付与した解析モデルを用いて、前記切断面において第1金属片に働く荷重ベクトルと、前記切断面において第2金属片に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、
前記金属部材の解析モデルの前記断面に前記残差力ベクトルを強制荷重として付与することにより、前記断面における移動量を修正変位ベクトルとして算出するステップと、
第1金属部が第1金属片となるように前記金属部材を前記断面で切断することにより得た第1金属片の切断面の形状を有する解析モデル又は第2金属部が第2金属片となるように前記金属部材を前記断面で切断することにより得た第2金属片の切断面の形状を有する解析モデルを用いて、算出した修正変位ベクトルに基づき第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップと、
第1金属片の切断面の形状を修正した解析モデル又は第2金属片の切断面の形状を修正した解析モデルを用いて、解析モデルに強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップとを含む算出方法。
【請求項4】
前記残差力ベクトルを算出するステップは、有限要素法構造解析を用いて残差力ベクトルを算出するステップであり、
第1又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップは、第1又は第2金属片の切断面の形状を有限要素法構造解析を用いて修正するステップであり、
前記断面における残留応力分布を算出するステップは、解析モデルに弾性解析により強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップである請求項3に記載の算出方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の算出方法をコンピューターに実行させるためのプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、残留応力分布の測定方法、算出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶・橋梁を代表とする大型構造物の建造において、部材同士を組上げる際には、部材同士を接合する工程が必ず存在するため、接合技術は必要不可欠である。接合技術の中で、簡便さなどから広く用いられているのが溶接である。しかし、溶接の施工に伴い、溶接部近傍には必然的に高い残留引張り応力が発生し、疲労破壊、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking: SCC)の要因とされ、ときには脆性破壊を引き起こす場合もある。さらに、この応力と釣り合うために発生する残留圧縮応力は部材が薄板の場合、座屈変形を発生させる可能性があり、組立工程に大きな影響を与えることがある。これらの応力は一般的に溶接残留応力と呼ばれ、溶接部近傍における残留応力分布について評価することは溶接施工上きわめて重要であるといえる。
【0003】
低コストかつ簡便に部材内部の残留応力測定が可能な手法としてコンター法が挙げられる。コンター法では、測定対象の部材を2つに切断・分割し、残留応力の解放に伴う切断面の弾性変形量を測定し、そして、この測定結果に基づき、切断面全域における残留応力分布を算出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】US6470756B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンター法では2分割された部材の切断面形状を平均化し、切断面内の傷による測定粗さを除去する必要がある。しかしこの平均化は、2分割された部材の剛性が等しいという仮定がなければ厳密には成立しない。例えば均質な材料が正確に左右対称に切断された場合はこの仮定を満足するが、左右非対称な構造物を切断した場合や切断時に正確に2分割されなかった場合には、上記の仮定を満足しない。船舶や橋梁のように複雑な形状をもつ大型鋼構造物の残留応力を測定するに当たり、測定対象を剛性が等しくなるよう左右対称に切断することは極めて困難である。ゆえに、左右非対称に部材を切断した場合でも残留応力測定が可能となるようなコンター法の高度化が求められる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、左右非対称に部材を切断した場合でも残留応力分布の算出が可能となる残留応力分布の測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属部材の第1金属部と第2金属部との間の断面における残留応力分布を測定する測定方法であって、第1金属部が第1金属片となり第2金属部が第2金属片となるように前記断面において前記金属部材を切断するステップと、第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を測定するステップと、前記金属部材の前記断面に切断面を付与した解析モデルを用いて、前記切断面において第1金属片に働く荷重ベクトルと、前記切断面において第2金属片に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、前記金属部材の解析モデルの前記断面に前記残差力ベクトルを強制荷重として付与することにより、前記断面における移動量を修正変位ベクトルとして算出するステップと、測定した第1金属片の切断面の形状を有する解析モデル又は測定した第2金属片の切断面の形状を有する解析モデルを用いて、算出した修正変位ベクトルに基づき第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップと、第1金属片の切断面の形状を修正した解析モデル又は第2金属片の切断面の形状を修正した解析モデルを用いて、解析モデルに強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップとを含むことを特徴とする測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、残差力ベクトルを断面に強制荷重として付与して算出した移動量(修正変位ベクトル)を用いて切断面の形状を修正するため、第1金属片と第2金属片とが非対称となる断面における残留応力分布を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態の残留応力分布の測定方法の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態の残留応力分布の測定方法の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態の残留応力分布の測定方法で用いる金属部材の解析モデルである。
【図4】(a)(c)は第1金属片の切断面形状を用いる従来のコンター法で算出した残留応力分布であり、(b)(d)は第2金属片の切断面形状を用いる従来のコンター法で算出した残留応力分布である。
【図5】(a)(c)は第1金属片の修正した切断面形状を用いる本発明の修正コンター法で算出した残留応力分布であり、(b)(d)は第2金属片の修正した切断面形状を用いる本発明の修正コンター法で算出した残留応力分布である。
【図6】残留応力分布測定で用いた試験体の概略斜視図である。
【図7】(a)は第1金属片の切断面形状を用いる従来のコンター法で算出した残留応力分布であり、(b)は第2金属片の切断面形状を用いる従来のコンター法で算出した残留応力分布である。
【図8】(a)は第1金属片の修正した切断面形状を用いる本発明の修正コンター法で算出した残留応力分布であり、(b)は第2金属片の修正した切断面形状を用いる本発明の修正コンター法で算出した残留応力分布である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の測定方法は、金属部材の第1金属部と第2金属部との間の断面における残留応力分布を測定する測定方法であって、第1金属部が第1金属片となり第2金属部が第2金属片となるように前記断面において前記金属部材を切断するステップと、第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を測定するステップと、前記金属部材の前記断面に切断面を付与した解析モデルを用いて、前記切断面において第1金属片に働く荷重ベクトルと、前記切断面において第2金属片に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、前記金属部材の解析モデルの前記断面に前記残差力ベクトルを強制荷重として付与することにより、前記断面における移動量を修正変位ベクトルとして算出するステップと、測定した第1金属片の切断面の形状を有する解析モデル又は測定した第2金属片の切断面の形状を有する解析モデルを用いて、算出した修正変位ベクトルに基づき第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップと、第1金属片の切断面の形状を修正した解析モデル又は第2金属片の切断面の形状を修正した解析モデルを用いて、解析モデルに強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップとを含むことを特徴とする。

【0010】
前記残留応力分布を算出するステップは、解析モデルに弾性解析により強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップであることが好ましい。
本発明は、金属部材の第1金属部と第2金属部との間の断面における残留応力分布を有限要素法構造解析を用いて算出する算出方法であって、前記金属部材の前記断面に切断面を付与した解析モデルを用いて、前記切断面において第1金属片に働く荷重ベクトルと、前記切断面において第2金属片に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、前記金属部材の解析モデルの前記断面に前記残差力ベクトルを強制荷重として付与することにより、前記断面における移動量を修正変位ベクトルとして算出するステップと、第1金属部が第1金属片となるように前記金属部材を前記断面で切断することにより得た第1金属片の切断面の形状を有する解析モデル又は第2金属部が第2金属片となるように前記金属部材を前記断面で切断することにより得た第2金属片の切断面の形状を有する解析モデルを用いて、算出した修正変位ベクトルに基づき第1金属片の切断面の形状又は第2金属片の切断面の形状を修正するステップと、第1金属片の切断面の形状を修正した解析モデル又は第2金属片の切断面の形状を修正した解析モデルを用いて、解析モデルに強制変位を付与することにより前記断面における残留応力分布を算出するステップとを含む算出方法も提供する。
本発明は、本発明の算出方法をコンピューターに実行させるためのプログラムも提供する。

【0011】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。

【0012】
図1、2は、本実施形態の残留応力分布の測定方法の説明図である。図3は、本実施形態の残留応力分布の測定方法で用いる金属部材の解析モデルである。
本実施形態の測定方法は、金属部材2の第1金属部3と第2金属部4との間の断面7における残留応力分布を測定する測定方法である。本実施形態の測定方法は、第1金属部3が第1金属片5となり第2金属部4が第2金属片6となるように断面7(切断面8)において金属部材2を切断するステップと、第1金属片5の切断面8aの形状又は第2金属片6の切断面8aの形状を測定するステップと、金属部材2の断面7に切断面8を付与した解析モデル10を用いて、切断面8において第1金属片5に働く荷重ベクトルと、切断面8において第2金属片6に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、金属部材2の解析モデル10の断面7に前記残差力ベクトルを強制荷重として付与することにより、断面7における移動量を修正変位ベクトル15として算出するステップと、測定した第1金属片5の切断面8aの形状を有する解析モデル12又は測定した第2金属片6の切断面8bの形状を有する解析モデル13を用いて、算出した修正変位ベクトル15に基づき第1金属片5の切断面8aの形状又は第2金属片6の切断面8bの形状を修正するステップと、第1金属片5の切断面8aの形状を修正した解析モデル12又は第2金属片6の切断面8bの形状を修正した解析モデル13を用いて、解析モデル12又は13に強制変位を付与することにより断面7における残留応力分布を算出するステップとを含む。

【0013】
本実施形態の算出方法は、金属部材2の第1金属部3と第2金属部4との間の断面7における残留応力分布を有限要素法構造解析を用いて算出する算出方法である。本実施形態の算出方法は、金属部材2の断面7に切断面8を付与した解析モデル10を用いて、切断面8において第1金属片5に働く荷重ベクトルと、切断面8において第2金属片6に働く荷重ベクトルの和である残差力ベクトルを算出するステップと、前記残差力ベクトルを金属部材2の解析モデル10の断面7に強制荷重として付与することにより、断面7における移動量を修正変位ベクトル15として算出するステップと、第1金属部3が第1金属片5となるように金属部材2を断面7で切断することにより得た第1金属片5の切断面8aの形状を有する解析モデル12又は第2金属部4が第2金属片6となるように金属部材2を断面7で切断することにより得た第2金属片6の切断面8bの形状を有する解析モデル13を用いて、算出した修正変位ベクトル15に基づき第1金属片5の切断面8aの形状又は第2金属片6の切断面8bの形状を修正するステップと、第1金属片5の切断面8aの形状を修正した解析モデル12又は第2金属片6の切断面8bの形状を修正した解析モデル13を用いて、解析モデル12又は13に強制変位を付与することにより断面7における残留応力分布を算出するステップとを含む。
また、本実施形態のプログラムは、本実施形態の算出方法をコンピューターに実行させるように作成されている。

【0014】
金属部材2は、残留応力分布測定の対象となる部材である。金属部材2は、例えば溶接部材、加工済み金属部材、工業部品などである。例えば、金属部材2は、溶接済みの溶接線を有することができる。
本実施形態の測定方法は、例えば、試験的に製造した金属部材2の残留応力分布測定、故障などの問題が生じた金属部材2の残留応力分布の測定、生産した同一種の複数の金属部材2から任意に取り出した1つの金属部材2の残留応力分布測定などに用いることができる。

【0015】
残留応力は、金属部材2内に存在する自己平衡した応力である。残留応力は、溶接プロセスなどのプロセス中に金属部材中に生成される。
本実施形態の測定方法は、金属部材2の断面7における残留応力分布を測定する方法である。断面7は、断面7を切断面8として金属部材2を切断することにより、金属部材2を第1金属片5と第2金属片6とに分割できるような断面7である。金属部材2の第1金属片5に対応する部分を第1金属部3といい、金属部材2の第2金属片6に対応する部分を第2金属部4という。また、断面7は、平らな断面である。また、断面7は、溶接線を横切るように設定することができる。また、断面7は、第1金属部3と第2金属部4が非対称となるように設定することができる。

【0016】
図1(a)~(c)に示したように、溶接線20を有する金属部材2を破線A-Aで示した断面7(切断面8)において切断し、金属部材2を第1金属片5と第2金属片6とに分割する。金属部材2の切断には、例えば、ワイヤ放電加工を用いることができる。
金属部材2を切断すると第1金属片5の切断面8a及び第2金属片6の切断面8bにおいて残留応力が解放され再分配されることによって、切断面8a、8bにおいて凹む又は突出する弾性変形が生じる。例えば、断面7のうち引張り残留応力が生じていた部分に相当する切断面8a、8bの部分は凹み、断面7のうち圧縮残留応力が生じていた部分に相当する切断面8a、8bの部分は突出する。

【0017】
次に、図1(d)に示したように、三次元測定機を用いて第1金属片5の切断面8aの形状及び第2金属片6の切断面8bの形状を測定する。三次元測定機は、例えば、レーザー変位計、三次元座標測定器(CMM)、非接触光学スキャナなどである。また、測定された切断面8aの形状及び測定された切断面8bの形状に対しスムージング処理を施すことができる。

【0018】
次に、金属部材2の有限要素法(FEM)解析モデル10を作成する。解析モデルの要素は立方体とすることができる。そして、作成した解析モデル10の断面7に切断面8を付与し、切断面8において第1金属片5に働く荷重ベクトル(反力)と、切断面8において第2金属片6に働く荷重ベクトル(反力)の和である残差力ベクトルを算出する。この解析モデルでは、切断面8は弾性変形をしていない、また、第1金属片5の切断面8と第2金属片6の切断面8は、同一平面である。
さらに、算出した残差力ベクトルを金属部材2の解析モデル10の断面7に強制荷重として付与することにより、断面7における移動量を修正変位ベクトルとして算出する。残差力ベクトル及び修正変位ベクトルの算出を図2、3を用いて説明する。

【0019】
図2では、第1金属部3(第1金属片5)をばね26a(自然長l1、ばね定数k1)に置き換え、第2金属部4(第2金属片6)をばね26b(自然長l2、ばね定数k2)に置き換えて考える。
図2(a)のように、ばね26aの一方の端を固定し他方の端をu1だけ引っ張り、ばね26bの一方の端を固定し他方の端をu2だけ引っ張ることにより、ばね26a、26bを位置28aにおいて接触させる(連結しない)。この場合、位置28aにおけるばね26aの反力F1はk11となり、ばね26bの反力F2はk22となる。位置28aにおいて、F1とF2は釣り合っていないのでk11-k22=Rとなる。このRを残差力という。なお、F1とF2が釣り合っている場合k11-k22=0となる。

【0020】
残差力RによるF1とF2が釣り合っていない位置28aからF1とF2が釣り合っている位置28bまでの移動量umodを算出する。この移動量が修正変位ベクトルumodとなる。
図2(b)のように、ばね26aとばね26bとが連結した1本のばねについて考える。このばねのばね定数kは、k1+k2となる。このばねの位置26aに残差力Rを強制荷重として付与する。
このとき荷重を負荷した点(位置26a→位置26b)の移動量umod(修正変位ベクトル)、ばね定数k、残差力Rとの関係は、kumod=Rとなり、umod=R/(k1+k2)となる。

【0021】
図2(c)のように、得られた修正変位ベクトルumodをu1、u2に足し合わせることで、修正後の釣り合い位置u1'、u2'が算出される。
1'=u1+umod、u2' =u2-umod
このような理論を金属部材2の解析モデル10に当てはめると、第1金属片5の切断面8aの形状、第2金属片6の切断面8bの形状を残留応力による反力が釣り合う位置における形状に修正できると考えられる。

【0022】
次に、図3に示した溶接後の金属平板のような、金属部材2の解析モデル10を作成する。
作成した解析モデル10のX方向の両端面を固定し、第1金属部3と第2金属部4とを分ける断面7に切断面8を付与する(金属部材2は切断面8において第1金属片5と第2金属片6に分割されているが、第1金属片5の切断面8aと第2金属片6の切断面8bは切断面8において強制的にくっついている)。
このとき、第1金属片5、第2金属片6はそれぞれ固定境界(固定面)、強制変位境界(切断面8)、そして、いずれの境界にも含まれない自由度領域に分けて考えられる。
第1金属片5と第2金属片6の内部における釣り合い方程式はそれぞれ数1、数2のようになる。Kは剛性マトリクスであり、Uは変位ベクトル、Fは荷重ベクトルである。第1金属片5には上添え字1、第2金属片6には上添え字2を付ける。
固定境界に関する成分には下添え字1(下添え字10は固定境界の剛性に関する自由度領域の影響、下添え字11は固定境界の剛性、下添え字12は固定境界の剛性関する強制変位境界の影響)、強制変位境界に関する成分には下添え字2(下添え字20は強制変位境界の剛性に関する自由度領域の影響、下添え字21は強制変位境界の剛性に関する固定境界の影響、下添え字22は強制変位境界の剛性)、また、それ以外の自由度領域に関する成分には下添え字0(下添え字00は自由度領域の剛性、下添え字01は自由度領域の剛性に関する固定境界の影響、下添え字02は自由度領域の剛性に関する強制変位境界の影響)を付ける。

【0023】
【数1】
JP2020041918A_000003t.gif

【0024】
【数2】
JP2020041918A_000004t.gif

【0025】
数1、数2の釣り合い方程式より、切断面8において第1金属片5及び第2金属片6に働く反力はそれぞれ数3、数4となる。

【0026】
【数3】
JP2020041918A_000005t.gif

【0027】
【数4】
JP2020041918A_000006t.gif

【0028】
したがって、切断面8における不釣り合い力,すなわち残差力{R}は{F22}+{F21}となる。

【0029】
次に、作成した金属部材2の解析モデル10のX方向の両端面を固定し、第1金属部3と第2金属部4とを分ける断面7(強制荷重境界)に算出した残差力を強制荷重として付与する。ここでは、金属部材2を1つの部材(切断されていない)として考える。
このときの金属部材2の内部における釣り合い方程式は数5で表される。Kは剛性マトリクスであり、Uは変位ベクトル、Fは荷重ベクトルである。固定境界(固定面)に関する成分には下添え字5(下添え字53は固定境界の剛性に関する自由度領域の影響、下添え字55は固定境界の剛性、下添え字54は固定境界の剛性関する強制荷重境界の影響)、強制荷重境界(断面7)に関する成分には下添え字4(下添え字43は強制荷重境界の剛性に関する自由度領域の影響、下添え字45は強制荷重境界の剛性に関する固定境界の影響、下添え字44は強制荷重境界の剛性)、また、それ以外の自由度領域に関する成分には下添え字3(下添え字33は自由度領域の剛性、下添え字35は自由度領域の剛性に関する固定境界の影響、下添え字34は自由度領域の剛性に関する強制荷重境界の影響)を付ける。

【0030】
【数5】
JP2020041918A_000007t.gif

【0031】
断面7には残差力[R]を付与するので、{F4}={R}となる。また、断面7(強制荷重境界)における修正変位ベクトル(移動量)を{Umod}とすると、{U4}={Umod}となる。
既知の変位ベクトル{U5}と、未知の変位ベクトル{U3}、{Umod}に分けて整理すると、数5から数6が得られる。

【0032】
【数6】
JP2020041918A_000008t.gif

【0033】
固定境界面における変位ベクトル{U5}は0であり、固定境界及び荷重境界以外の領域における荷重ベクトル{F3}も0であるため、数6から数7が算出される。

【0034】
【数7】
JP2020041918A_000009t.gif

【0035】
得られた修正変位ベクトル{Umod}を{U21}、{U22}に足し合わせることで,修正後の釣り合い位置{U'21}、{U'22}が、{U'21}={U21}+{Umod}、{U'22}={U22}-{Umod}のように算出される。
このように、第1金属片5の強制変位境界(切断面8)の変位ベクトル{U21}及び第2金属片6の強制変位境界(切断面8)の変位ベクトル{U22}を{Umod}で修正することにより、強制変位境界(切断面8)における釣り合い状態を満足させることができる。

【0036】
次に、三次元測定器を用いて測定された第1金属片5の切断面8aの形状(スムージング処理済み)を有する解析モデル12又は三次元測定器を用いて測定された第2金属片6の切断面8bの形状(スムージング処理済み)を有する解析モデル13を作成し、算出した修正変位ベクトル{Umod}に基づき解析モデル12、13の第1金属片5の切断面8aの形状又は第2金属片6の切断面8bの形状を修正する。例えば、図1(e)(f)のように、切断面8aの形状を切断面8a’の形状に修正し、切断面8bの形状を切断面8b’の形状に修正する。このことにより、切断面形状を釣り合い形状に修正することができる。

【0037】
次に、第1金属片5の切断面8aの形状を修正した解析モデ12又は第2金属片6の切断面8bの形状を修正した解析モデル13を用いて、解析モデル12、13に強制変位を付与することにより断面7における残留応力分布を算出する。例えば、図1(f)のように、切断面8a’、切断面8b’に対し強制変位を付与し、弾性解析により切断面8a’の形状又は切断面8b’の形状を断面7のような平面状に押し戻すことにより、図1(g)に示したような残留応力分布23を算出することができる。

【0038】
シミュレーション
図3に示したような解析モデルを作成し、FEM解析により残留応力分布を算出した。このシミュレーションでは、FEM解析により算出した第1金属片5の切断面8aの形状及び第2金属片6の切断面8bの形状を用いた。
金属部材2(第1金属片5、第2金属片6)の材料はSM490Aとし、金属部材2の寸法は長さが200 mm,幅が200 mm,板厚が12 mmとした。金属部材2の表面の板幅方向中央部(溶接線20)にビードオン溶接を実施した。入熱条件は電流が300 A、電圧が32 V、溶接速度が11.7 mm/sec、そして、熱効率は0.8とした。

【0039】
作成した解析モデル10のX方向の両端面を固定し、第1金属部3と第2金属部4とを分ける断面7に切断面8を付与する。断面7は、X方向における第1金属部3の長さと第2金属部4の長さの比が3:1となる位置に定めた。
このような解析モデルを用いてコンター法により断面7における残留応力分布を算出した。
図4(a)(c)は、切断面8aの形状を用いた従来のコンター法で算出した残留応力分布であり、図4(b)(d)は、切断面8bの形状を用いた従来のコンター法で算出した残留応力分布である。従来のコンター法では、切断面8aの形状と切断面8bの形状が鏡面対称となることが前提であり、切断面8aの形状と切断面8bの形状を平均化した形状を用いる。しかし、本シミュレーションでは、第1金属部3と第2金属部4とが非対称であり、切断面8aの形状と切断面8bの形状が鏡面対称とならないため、切断面の形状を平均化せずに、切断面8aの形状と切断面8bの形状とについてそれぞれ残留応力分布を算出している。
図5(a)(c)は、算出した修正変位ベクトル{Umod}に基づき修正した切断面8aの形状を用いた本発明の修正コンター法で算出した残留応力分布であり、図5(b)(d)は、算出した修正変位ベクトル{Umod}に基づき修正した切断面8bの形状を用いた本発明の修正コンター法で算出した残留応力分布である。

【0040】
図4に示した従来のコンター法を用いて算出した残留応力分布は、第1金属片5の切断面8aの形状を用いて算出した残留応力分布と、第2金属片6の切断面8bの形状を用いて算出した残留応力分布とが大きく異なることがわかった。これは、第1金属片5と第2金属片6とが非対称となっているためと考えられる。
図5に示した本発明の修正コンター法を用いて算出した残留応力分布は、第1金属片5の切断面8aの形状を用いて算出した残留応力分布と、第2金属片6の切断面8bの形状を用いて算出した残留応力分布とがほぼ同じになっていることがわかった。これは、切断面8a、8bの形状を修正変位ベクトル{Umod}で修正することにより、第1金属片5と第2金属片6との形状の違いに基づく切断面の弾性変化の不釣合いが修正されたためと考えられる。

【0041】
実構造物の残留応力分布測定
図6(a)は、残留応力分布測定に用いた試験体を斜め上から見た概略斜視図であり、図6(b)は、試験体を斜め下から見た概略斜視図である。
試験体(金属部材2)は、舶用ディーゼル機関やプロペラなどの回転系の軸受け部分を模擬したものである。試験体は、直径が40 mmの穴が設けられた第1金属板(長さ:240 mm、幅:170 mm、板厚:40 mm)と、第1金属板の表面に溶接により接合された管形の金属部材(板厚:40 mm、外径100mm、内径:54mm)と、第1金属板の裏面に溶接により接合された第2金属板(長さ:180mm、幅:100mm、厚さ40mm)とから構成される。第1及び第2金属板の穴及び管形の金属部材の穴は重なっており貫通している。試験体の材料はS25Cである。第1金属板と管形の金属部材は2パスの隅肉溶接により接合した。また、第1金属板と第2金属板は、2パスの隅肉溶接により接合した。
この試験体(金属部材2)を点線A-Aにおいてワイヤ放電加工(ワイヤ径:0.3 mm)を用いて切断し、第1金属片5と第2金属片6とに分割し、第1金属片5の切断面8aの形状と第2金属片6の切断面8bの形状とをレーザー変位計を用いて測定した。また、測定した形状にスムージング処理を施した。

【0042】
測定された切断面8aの形状(スムージング処理済み)を有する第1金属片5の解析モデル及びの測定された切断面8bの形状(スムージング処理済み)を有する第2金属片6の解析モデルを作成し、従来のコンター法又は本発明の修正コンター法により断面7における残留応力分布を算出した。

【0043】
図7(a)は第1金属片5の切断面8aの形状(スムージング処理済み)を用いて従来のコンター法により弾性解析を実施し算出した残留応力分布であり、図7(b)は第2金属片6の切断面8bの形状(スムージング処理済み)を用いて従来のコンター法により弾性解析を実施し算出した残留応力分布である。従来のコンター法では、第1金属片5と第2金属片6の剛性の違いを考慮した切断面形状を得ることができないため、本測定のように非対称に試験体(金属部材2)を切断した場合には、切断面8aの形状と切断面8bの形状の平均化を行なうことができない。したがって、第1金属片5から測定した切断面8aの形状を第1金属片5の寸法の解析モデルの切断面に強制変位として付与することで残留応力分布を測定した。第2金属片6に関しても同様にして残留応力分布測定を実施した。
図7(a)(b)から、左右非対称に金属部材2を切断した場合、従来のコンター法により算出される残留応力分布は凸凹の多い分布であった。また、図7(a)に示した切断面8aの形状から算出した残留応力分布と、図7(b)に示した切断面8bの形状から算出した残留応力分布とは鏡面対称ではなく、不連続であった。

【0044】
図8(a)は第1金属片5の切断面8aの形状(スムージング処理済み)を修正変位ベクトル{Umod}で修正した切断面の形状を用いて本発明の修正コンター法により弾性解析を実施し算出した残留応力分布であり、図8(b)は第2金属片6の切断面8bの形状(スムージング処理済み)を修正変位ベクトル{Umod}で修正した切断面の形状を用いて本発明の修正コンター法により弾性解析を実施し算出した残留応力分布である。
図8(a)(b)から、左右非対称に金属部材2を切断した場合、本発明の修正コンター法により算出される残留応力分布は滑らかな分布であった。また、図8(a)に示した切断面8aの形状から算出した残留応力分布と、図8(b)に示した切断面8bの形状から算出した残留応力分布とはほぼ鏡面対称であり、連続的であった。
以上から、本発明の修正コンター法を用いることで、実構造物を任意の位置で非対称に2分割した際の各部材の剛性の違いを考慮した残留応力測定が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0045】
2: 金属部材 3:第1金属部 4:第2金属部 5:第1金属片 6:第2金属片 7:断面 8、8a、8a’、8b、8b’:切断面 10:金属部材の解析モデル 12:第1金属片の解析モデル 13:第2金属片の解析モデル 15:修正変位ベクトル 20:溶接線 21:三次元測定器 23:残留応力分布 24:切断装置 26、26a~26c:ばね 28a、28b:位置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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