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明細書 :放射線被ばくの検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-080781 (P2020-080781A)
公開日 令和2年6月4日(2020.6.4)
発明の名称または考案の名称 放射線被ばくの検出方法
国際特許分類 C12Q   1/06        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12Q 1/06
G01N 33/50 P
G01N 33/53 M
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2018-223161 (P2018-223161)
出願日 平成30年11月29日(2018.11.29)
発明者または考案者 【氏名】柏倉 幾郎
【氏名】中井 雄治
【氏名】山口 平
出願人 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100153394、【弁理士】、【氏名又は名称】謝 卓峰
【識別番号】100145056、【弁理士】、【氏名又は名称】當別當 健司
【識別番号】100116311、【弁理士】、【氏名又は名称】元山 忠行
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
Fターム 2G045AA25
2G045CB01
2G045DA14
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR36
4B063QR40
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
要約 【課題】放射線被ばくバイオマーカーを利用する放射線被ばくの検出方法および該方法を実行するためのキットに関する。
【解決手段】Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量を測定することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量を測定することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
【請求項2】
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量の増加を検出することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
【請求項3】
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる2種以上の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる2種以上の遺伝子のmRNA発現量を測定し、測定したすべてのmRNA発現量が増加する場合に放射線照射を受けたと判断することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
記載の方法。
【請求項4】
前記増加が、放射線照射による発現変動の少ない遺伝子または該遺伝子のオルソログのmRNA発現量を基準とし、該基準との比較において判断される、請求項2~4のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
放射線照射による発現変動の少ない遺伝子が、Tpt1またはそのオルソログである、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
前記遺伝子が、個体の体組織、粘膜組織または血液に存在する細胞から得られる、請求項1~5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
放射線被ばくが、3Gy以下である、請求項1~6に記載の検出方法。
【請求項8】
放射線被爆の判定が、放射線被ばくが疑われる24時間以内に行われることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項9】
mRNA発現の測定が、リアルタイムRT-PCR法を用いて行うことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項10】
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量を測定するためのプライマー対もしくはプローブ、またはそれらの標識物を備える、放射線被ばくの検出キット。
【請求項11】
個体における放射線被ばくの検出における、Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子の使用。






























発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線被ばくバイオマーカーを利用する放射線被ばくの判定方法および該方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
個体への放射線被ばくでは、 急性放射線症候群による造血組織や腸管粘膜などの再生能の高い組織の重篤な損傷から死に至る。放射線被ばく後の速やかな治療のためには、被ばく患者の被ばく線量評価が重要である。現在のところ、放射線ばく個体の線量評価において最も信頼性の高い方法は、二動原体染色体法である。二動原体染色体は二つの局在型動原体を持つ染色体であり、通常、放射線によってのみ誘発される染色体異常である。二動原体染色体の自然発生率は低く、また識別も比較的容易であるため、二動原体染色体の発生率が放射線被ばくの生物学的指標として用いられる。一方で、二動原体染色体法は、得られた結果についての染色体異常解析に熟練した専門性が必要であること、また解析に数日間を要するなど、放射線ばくの線量評価の迅速性に課題がある。
【0003】
放射線被ばく事故が発生した場合、放射線被ばくによる傷病者が必ずしも個人線量計を装着しているとは限らない。放射線被ばく傷病者が個人線量計を装着していない場合、事故時の被ばく線量をどのようにして評価するのかが繰り返し問題となってきた。現在のところ、世界的に放射線被ばく線量評価の標準的な方法は二動原体染色体法であるが、低線量被ばくにおける評価および多数の被ばく患者が同時に発生した場合における対応にも課題がある。
【0004】
二動原体染色体法を用いる方法以外に、放射線照射により変動するバイオマーカーを検出し、放射線被ばくを評価する方法が報告されている。例えば、特許文献1には、放射線被ばくが2Gyを超える場合に、血液サンプルの特定のバイオマーカーを測定する方法が報告され、バイオマーカーとしては、α-1-抗キモトリプシン、Fms関連チロシンキナーゼ3リガンドなどが開示されている。特許文献2には、マイクロアレイを用いて、高レベル電離放射線に感受性のある遺伝子として脂肪酸代謝関連遺伝子をバイオマーカーとして検出する方法が開示されている。特許文献3には、幹細胞におけるPPP1CA、BAD及び/又はBCL-XL遺伝子の発現量の増加を測定することにより、低線量被ばくを検出する方法が開示されている。特許文献4には、生体から採取した組織または血液に含まれるLyGDI タンパク質の1型および3型カスペース分解物の発現量を測定することにより、被ばく量を測定する方法が開示されている。特許文献5には、smamer、CXCL2、CXCL6、SCG2、THSD2、AREG、CXCL1、spaplaw、IL6、USP49およびIL8の遺伝子の発現量を測定することにより、低線量放射線被ばくを検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2016-533497
【特許文献2】特表2015-518706
【特許文献3】特開2008-173034
【特許文献4】特開2007-47147
【特許文献5】特開2007-47147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、個体が放射線被ばくしたかどうかを短時間で評価することができる、精度の高い放射線被ばくの検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
0.5~3Gyの放射線照射マウスの血液から全RNAを抽出し、得られたRNAを用いてDNAマイクロアレイ解析を行った結果、照射線量依存的に増加する遺伝子が特定され、本発明が完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、以下の発明により解決される。
〔1〕
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量を測定することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
〔2〕
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量の増加を検出することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
〔3〕
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる2種以上の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる2種以上の遺伝子のmRNA発現量を測定し、測定したすべてのmRNA発現量が増加する場合に放射線照射を受けたと判断することを特徴とする、個体における放射線被ばくの検出方法。
〔4〕
前記増加が、放射線照射による発現変動の少ない遺伝子または該遺伝子のオルソログのmRNA発現量を基準とし、該基準との比較において判断される、〔2〕~〔4〕のいずれかに記載の検出方法。
〔5〕
放射線照射による発現変動の少ない遺伝子が、Tpt1またはそのオルソログである、〔4〕に記載の検出方法。
〔6〕
前記遺伝子が、個体の体組織、粘膜組織または血液に存在する細胞から得られる、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の検出方法。
〔7〕
放射線被ばくが、3Gy以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の検出方法。
〔8〕
放射線被爆の判定が、放射線被ばくが疑われる24時間以内に行われることを特徴とする、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の検出方法。
〔9〕
mRNA発現の測定が、リアルタイムRT-PCR法を用いて行うことを特徴とする、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の検出方法。
〔10〕
Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量を測定するためのプライマー対もしくはプローブ、またはそれらの標識物を備える、放射線被ばくの検出キット。
〔11〕
個体における放射線被ばくの検出における、Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbもしくはLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量の増加を検出することにより、個体における放射線被ばくを、高い精度で迅速に検出する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】X線照射マウスの血液細胞において、Slfn4遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【図2】X線照射マウスの血液細胞において、Itgb5遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【図3】X線照射マウスの血液細胞において、Smin3遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【図4】X線照射マウスの血液細胞において、Cxxlc遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【図5】X線照射マウスの血液細胞において、Tmem40遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【図6】X線照射マウスの血液細胞において、Gplbb遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【図7】X線照射マウスの血液細胞において、Litaf遺伝子のmRNA発現量を、Tpt1遺伝子のmRNA発現量に対して正規化した発現量として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、個体が放射線被ばくを受けたかどうかを判定する方法を提供する。該方法は、Slfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbもしくはLitafからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子、または該遺伝子のオルソログからなる群より選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNA発現量を測定することを特徴とする方法である。

【0012】
本発明において、放射線被ばくにより発現が増加するバイオマーカー遺伝子であるSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafの主な発現部位、機能などは、マウス・ゲノム・インフォマティクス(Mouse Genome Informatics)のウェブサイト(http://www.informatics.jax.org/)に記載される。これらの遺伝子のmRNAまたは1本鎖の相補的DNA(cDNA)の塩基配列情報は、同ウェブサイトのデータベースで得ることができる。本発明におけるバイオマーカー遺伝子であるSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafはマウス由来の遺伝子であり、Entrez Gene IDは、それぞれ20558、16419、106878、72865、94346、14724および56722である。これらの遺伝子のオルソログは、ヒトにおいて発現していることが知られており、それぞれSLFN12L、ITGB5、SMIM3、RTL8A、TMEM40、GP1BBおよびLITAFであり、Entrez Gene IDは、それぞれ100506736、3693、85027、26071、55287、2812および9516である。これらの情報も、上記マウス・ゲノム・インフォマティクス(Mouse Genome Informatics)のウェブサイトより得ることができる。前記バイオマーカー遺伝子または該遺伝子のオルソログには、塩基の置換、欠失または挿入を伴う変異体が含まれる。

【0013】
本発明の一実施態様において、本発明におけるバイオマーカー遺伝子であるSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitaf、またはこれらのオルソログのmRNA発現量の増加は、放射線被ばく前の対応する個体から採取した体組織、粘膜組織または血液に存在する細胞から得られた前記バイオマーカー遺伝子のそれぞれのmRNA発現量を基準値とし、同一遺伝子間で該基準値と比較することにより評価することができる。

【0014】
本発明の一実施態様において、本発明における前記バイオマーカー遺伝子のmRNA発現の増加は、放射線照射による発現変動の少ない遺伝子(基準遺伝子)のmRNAの発現量を基準とし、該基準との比較において評価することができる。発現変動の少ない遺伝子としては、Tpt1、Ubb、Rp138などが挙げられるが、より発現変動が少ない遺伝子として、Tpt1が好ましい。Entrez Gene IDは、それぞれ22070、22187および883793である。Tpt1はマウス由来の遺伝子であり、この遺伝子のオルソログは、ヒトにおいてTPT1として知られている。Entrez Gene IDは7178である。

【0015】
本発明の一実施態様において、バイオマーカー遺伝子であるSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafから2種以上の遺伝子を選択し、または該遺伝子のオルソログから2種以上の遺伝子を選択し、それらのmRNAの発現を測定して、測定したすべてのmRNAの発現が増加する場合に放射線照射を受けたと判断することもできる。前記バイオマーカー遺伝子のmRNA発現は、放射線照射によりすべての遺伝子について発現増加が観察されるため、複数のバイオマーカー遺伝子に関するmRNA発現の結果をすべて評価に用いることにより、誤った判定をすることを防ぐことができる。例えば、あるバイオマーカー遺伝子のmRNAの発現が増加した場合であっても、別のバイオマーカー遺伝子のmRNAの発現が減少した場合は、放射線被ばくを受けていないと判定される。対象とする遺伝子は、前記バイオマーカー遺伝子の中から、任意の組み合わせで選択することができる。前記バイオマーカー遺伝子のmRNA発現増加の判断は、放射線被ばく前の対応する遺伝子のmRNA発現量を基準にする方法および放射線照射による発現変動の少ない遺伝子(基準遺伝子)のmRNAの発現量を基準とする方法のどちらの方法で行ってもよい。

【0016】
前記バイオマーカー遺伝子および基準遺伝子の起源は、これらの遺伝子が発現される細胞を含む体組織であれば特に限定されないが、組織を容易に採取することができる粘膜組織および血液が好ましい。粘膜組織は、口腔内粘膜、鼻粘膜および直腸粘膜が好ましい。血液は、細胞を含む全血を使用することができるが、ヒトにおいては、採取が容易な末梢血が好ましい。

【0017】
組織におけるmRNA発現量を測定するために、通常、組織から全RNAを抽出する。全RNAの抽出法としては、当業者には周知であるが、例えばAGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法(Chomczynski and Sacchi (1987) Analytical Biochemistry, 162: 156-159)、スピンカラム法などを採用することができる。本発明の一実施態様において、個体からの組織の採取および組織からの全RNA抽出は、個体の放射線被ばくが疑われる24時間以内に行われることが好ましい。放射線被ばくの検出は、被ばくした個体に対して必要な対策と治療を施すために迅速性が要求されるためである。したがって、個体からの組織の採取および組織からの全RNA抽出が、放射線被ばくから24時間を超過したとしても、本発明の意義が失われることはない。

【0018】
本発明におけるバイオマーカー遺伝子であるSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitaf、または該遺伝子のオルソログならびに前記基準遺伝子のmRNA発現量を検出する方法としては、これらの遺伝子のmRNAもしくは1本鎖の相補的DNA(cDNA)の一部または全部を特異的に検出できる方法であればどのような方法であってもよい。具体的には、採取された組織中に存在する細胞の全RNAを抽出・精製し、前記遺伝子のmRNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたノーザンブロッティング法で検出する方法、採取された組織中に存在する細胞の全RNA抽出・精製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、競合PCR(polymerase chain reaction)法、リアルタイムPCR法等の定量PCR法で検出する方法、および、採取された組織中に存在する細胞の全RNA抽出・精製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、ビオチンまたはジゴキシゲニンなどでcDNAを標識し、蛍光物質で標識されたビオチンに対する親和性の高いアビジンやジゴキシゲニンを認識する抗体などで間接的にcDNAを標識した後、ハイブリダイゼーションに使用可能なガラス、シリコン、プラスチックなどの支持体上に固定化された、前記バイオマーカー遺伝子および基準遺伝子のcDNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたマイクロアレイで検出する方法等を挙げることができる。

【0019】
前記遺伝子のmRNA発現量を検出する方法としては、逆転写反応(RNAから1本鎖cDNAを合成する)およびこのcDNAを鋳型とするPCRを別々に行う2ステップRT(reverse transcription)-PCR法と、同時に行う1ステップRT-PCR法があるが、多検体を短時間で分析するためには、1ステップRT-PCR法が好ましい。1ステップRT-PCR法は、逆転写反応およびPCRを同一チューブ内で連続して行うため、操作が簡便である。1ステップRT-PCR反応液には、逆転写酵素とDNAポリメラーゼがあらかじめ混合されている。

【0020】
本発明の一実施態様において、前記遺伝子のmRNA発現量を検出する方法としては、PCR産物をリアルタイム測定により検出するリアルタイム定量RT-PCR法を採用する。リアルタイムRT-PCR法においては、RT-PCRおよびPCR産物を検出する反応が同一チューブ内で連続して行われる。

【0021】
前記1ステップRT-PCR反応液には、逆転写反応およびPCRが適切な条件で遂行されるためのすべての成分が含まれる。該成分として、少なくとも逆転写酵素、逆転写反応プライマー、耐熱性DNAポリメラーゼ、PCRプライマー、dNTPミックス(deoxyribonucleotide 5’-triphosphate;dAT、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)が含まれる。逆転写酵素は、RNAを鋳型として、cDNAを生成する酵素であり、逆転写反応を触媒する限り特に限定されないが、トリ骨髄芽球症ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus、AMV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus、M-MLV)およびヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)などのRNAウイルス由来のRNA依存性DNAポリメラーゼならびにこれらの変異体を使用することができる。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体を使用することができるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼは、例えば抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼであり、PCRにおいて、最初の変性ステップ(90℃以上)を経た後にDNAポリメラーゼが活性化される酵素である。

【0022】
逆転写反応プライマーとしては、標的RNAの配列に特異的なプライマー、オリゴ(dT)プライマーまたはランダムプライマーを使用することができる。PCRプライマーとしては、逆転写反応により生成したcDNAの配列に特異的なプライマー対(フォワードおよびリバース)が使用される。PCRプライマーは、標的RNAの配列に特異的な前記逆転写反応プライマーと同一であってもよい。また、前記1ステップRT-PCR反応液には、増幅するDNA領域、すなわち標的配列の数に応じて2種類以上のPCRプライマーを添加してもよい。

【0023】
前記PCRプライマーおよびプローブは、NCBI(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/)のデータベースに登録されている塩基配列情報を参考にして、適切に設計または選択することができる。

【0024】
RT-PCRにおける逆転写反応の反応温度条件、およびPCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、当業者であれば容易に行うことができる。

【0025】
PCR産物の測定におけるリアルタイムPCRでは、通常PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法および蛍光標識プローブを用いる方法がある。インターカレーター性蛍光色素としては、SYBR(登録商標)Green Iが使用されるが、これに限定されるわけではない。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。

【0026】
蛍光標識プローブとしては、TaqManプローブ、Molecular Beacon、サイクリングプローブなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。TaqManプローブは、5’末端が蛍光色素で、また3’末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。TaqManプローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応ステップで、Taq DNAポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。前記蛍光色素としては、FAM、ROX、Cy5が挙げられるが、これらに限定されない。前記クエンチャーとしては、TAMRA(登録商標)およびMGBが挙げられるが、これらに限定されない。2種類以上の前記バイオマーカー遺伝子および基準遺伝子を区別して検出する、すなわち2種類以上のcDNA標的配列を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素を結合させた2種類以上のオリゴヌクレオチドプローブ(例えばTaqManプローブ)を用いてPCRを行う。リアルタイムPCRによる定量方法には大きく分けて絶対定量法と相対定量法があり、さらに相対定量法には検量線を用いる方法と検量線を用いない方法がある。絶対定量法では、DNA濃度が既知の標準サンプルを用いて検量線を作成し、濃度が未知のサンプルについて定量を行う。相対定量法では、DNA濃度が未知であっても、基準となるサンプルを決めて、そのサンプルの希釈系列から検量線を作成し、濃度が未知のサンプルの相対的濃度数値を求めて比較定量する。比較定量とは、解析するターゲット遺伝子の量(相対的濃度数値)を基準遺伝子の量で補正し、その補正した値を用いてサンプル間で比較することである。本発明では、定量方法として相対定量法を採用し、ターゲット遺伝子の発現量をサンプル間で比較する際に、直接得られたターゲット遺伝子の発現データを、サンプル間で発現が安定している遺伝子(基準遺伝子)の発現量を用いて補正する。さらに、X線を吸収線量0.5、1.0および3.0Gyで全身に照射した個体中のターゲット遺伝子の発現量を、吸収線量0Gy個体中のターゲット遺伝子の発現量で正規化する。

【0027】
本発明の放射線被ばくの検出キットは、バイオマーカー遺伝子であるSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafから選ばれる少なくとも1種の遺伝子または該遺伝子のオルソログから選ばれる少なくとも1種の遺伝子のmRNAの発現を検出するためのプライマー対もしくはプローブ、またはそれらの標識物を備える。一実施態様において、本発明のキットには、Tpt1またはそのオルソログなどの、基準遺伝子のmRNAの発現を検出するためのプライマー対もしくはプローブをさらに備える。本発明のキットが、リアルタイム定量RT-PCR法により前記遺伝子の発現を測定するキットである場合は、リアルタイムRT-PCRを行うことができるようにキットが構成される。キットに含まれるPCRプライマーは、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)のデータベースに登録されている塩基配列情報を参考にして適切に設計されたプライマーである。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらよって限定されない。
【実施例】
【0029】
〔個体への放射線照射とバイオマーカー遺伝子のmRNA発現〕
(1)マウスへの放射線照射
7週齢のC57BL/6JJclマウス(雌性、体重17~20g)を日本クレア株式会社より購入した。7日間馴化飼育後、X線発生装置(MBR-1520R、株式会社日立パワーソリューションズ)を使用して、150kVp、20mA、0.5mmAl及び0.3mmCuフィルター、1.0Gy/分で、X線(電離放射線)を吸収線量0.5、1.0および3.0Gyで全身に照射した。各群の動物数は、各線量照射群および非照射群ともn=7であった。
【実施例】
【0030】
(2)個体組織からのRNAの抽出及び逆転写反応
放射線照射後24時間で、エスカイン吸入麻酔下、マウス心臓から全血を0.1mL採取した。得られた全血を、RNAprotect Animal Blood Tubes及びRNeasy protect Animal Blood Kit(QIAGEN社)で処理して、全RNAを調製した。また、調製したRNA(100ng)をSuperScript IV VILO Master Mix with ezDNase(Thermo Fisher Scientific社)で逆転写反応を行い、cDNAを調製した。
【実施例】
【0031】
(3)検体と反応液との混合
RT-PCR反応液(#4367659、Thermo Fisher Scientific社)10μLをPCR反応チューブに加え、ここに、(2)で調製したcDNA(1~100ng)を2μL添加し、リアルタイムPCR装置(StepOne Plus real-time PCR System、Thermo Fisher Scientific社)を用いて、直ちにRT-PCR反応を開始した。反応混合液には、各バイオマーカー遺伝子および基準遺伝子について、以下の配列を有するプライマーを使用した。
Slfn4
(フォワード)5'- AGGCAGCTGTGTGAAGAGGT -3'(配列番号1)
(リバース)5'- ATCACCTTTCCAGGCATCAC -3'(配列番号2)
Itgb5
(フォワード)5'- ACCTGCCAAGATGGCATATC -3'(配列番号3)
(リバース)5'- CACGGACACTTCAAAGGATG -3'(配列番号4)
Smin3
(フォワード)5'- AAAGTTTCAGAAGCGTCTCAGC -3'(配列番号5)
(リバース)5'- TGCATAAGGGCAAAGCTCTC -3'(配列番号6)
Cxxlc
(フォワード)5'- AATGAGATGAAGGAGGAGTTCG -3'(配列番号7)
(リバース)5'- GACAGGAGCTCATCTTGTAGCC -3'(配列番号8)
Tmem40
(フォワード)5'- CATGGACTGACATCTCACCAA -3'(配列番号9)
(リバース)5'- TGGACTCCACCACTGTCTTG -3'(配列番号10)
Gplbb
(フォワード)5'- CTAGGAAGAGCCACGGTCAG -3'(配列番号11)
(リバース)5'- CATCCACCTCTGATCCAAGAC -3'(配列番号12)
Litaf
(フォワード)5'- TCCTGTGGCAGTCTGTGTCT -3'(配列番号13)
(リバース)5'- CTACGCAGAACGGGATGAAG -3'(配列番号14)
Tpt1
(フォワード)5'- GGATGGCTTAGAGATGGAGAAA -3'(配列番号15)
(リバース)5'- CAGTCCCATTTGTCCTAAGTCC -3'(配列番号16)
【実施例】
【0032】
(4)RT-PCR条件
95℃/10分間の初期変性を行い、次いで95℃/15秒間-60℃/60秒間のPCRを40サイクル行った。PCRにおける測光は、95℃/15秒間のステップで行った。
【実施例】
【0033】
(5)PCR産物の定量
Comparative Threshold cycle(比較Ct法)を用いて、検量線を作成することなく、同一個体における各バイオマーカー遺伝子および基準遺伝子のCt値の差(ΔCt値:デルタCt値)をもとに、さらに未知サンプル間のΔCt値の差(ΔΔCt値)から比較定量した。実際の解析では、計算式(2-ΔΔCt)に値を代入することにより、各バイオマーカー遺伝子の発現量を算出した。
【実施例】
【0034】
(6)結果と考察
7種のバイオマーカー遺伝子、すなわちSlfn4、Itgb5、Smin3、Cxxlc、Tmem40、GplbbおよびLitafのmRNA発現量を、基準遺伝子であるTpt1のmRNA発現量に対して正規化した結果を図1~7に示す。検討したすべてのバイオマーカー遺伝子は、基準遺伝子に対して、0.5~3Gyの範囲で照射線量依存的にmRNA発現量が増加した。照射線量とmRNA発現量との相関性は非常に良好であり、重み付き最小二乗法により、相関係数は0.94~0.99、有意差はp<0.05であった。
【実施例】
【0035】
本発明のバイオマーカー遺伝子のmRNA発現を検出することにより、3Gy以下の低線量であっても、放射線被ばくを高い精度で検出できることが示された。照射線量とmRNA発現量との相関性が非常に良好であることより、0.5Gy以下のさらに低線量領域であっても、放射線被ばくを検出することが可能であり、特に2種以上の前記バイオマーカー遺伝子のmRNA発現量を測定し、その結果を合わせて評価することにより、放射線被ばくの検出精度がさらに向上する。また、低線量(0.5Gy)の放射線被爆後24時間であっても放射線被ばくを検出することができることから、被爆後早期の検出が可能である。さらに、1ステップまたは2ステップRT-PCR法を適用することにより、通常1日以内で解析が終了する。


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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