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明細書 :アスリート用アイシングシステム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-081360 (P2020-081360A)
公開日 令和2年6月4日(2020.6.4)
発明の名称または考案の名称 アスリート用アイシングシステム
国際特許分類 A61H  33/02        (2006.01)
A61F   7/00        (2006.01)
A61H  35/00        (2006.01)
B01F   3/04        (2006.01)
B01F   5/00        (2006.01)
B01F   5/10        (2006.01)
B01F  15/02        (2006.01)
B01F  15/06        (2006.01)
FI A61H 33/02 A
A61F 7/00 332
A61H 35/00 H
B01F 3/04 C
B01F 5/00 G
B01F 5/10
B01F 15/02 A
B01F 15/06 Z
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2018-220028 (P2018-220028)
出願日 平成30年11月26日(2018.11.26)
発明者または考案者 【氏名】福岡 義之
【氏名】北條 達也
【氏名】吉村 美保
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
【識別番号】100117097、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 充浩
審査請求 未請求
テーマコード 4C094
4C099
4G035
4G037
Fターム 4C094AA02
4C094AA07
4C094DD06
4C094EE01
4C094EE18
4C094GG03
4C099AA02
4C099CA07
4C099CA09
4C099EA05
4C099GA30
4C099HA01
4C099JA01
4C099LA01
4C099LA21
4C099NA20
4C099PA04
4C099TA10
4G035AB16
4G035AC29
4G035AC44
4G035AE02
4G035AE13
4G035AE15
4G037AA01
4G037AA18
4G037CA04
4G037CA11
4G037CA18
4G037EA01
要約 【課題】浸漬部位の冷却と血流促進を両立できるアスリート用アイシングシステムを提供する。
【解決手段】本発明に係るアスリート用アイシングシステムは、人体の少なくとも一部を浸漬可能な水槽2と、水槽2内に設置され、炭酸ガスのマイクロバブルMBを生成するバブル生成ノズル3と、カートリッジ52に充填された炭酸ガスを、配管を通してバブル生成ノズル3に供給するレギュレータ5と、水槽2に貯留された水を所定の温度に保持する恒温装置6とを備えている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
人体の少なくとも一部を浸漬可能な水槽と、
前記水槽内に設置され、炭酸ガスのマイクロバブルを生成するバブル生成ノズルと、
カートリッジに充填された炭酸ガスを、配管を通して前記バブル生成ノズルに供給するレギュレータと、
前記水槽に貯留された水を所定の温度に保持する恒温装置と、を備えたことを特徴とするアスリート用アイシングシステム。
【請求項2】
前記水槽に貯留された水を吸込み、前記バブル生成ノズルに供給するポンプを備えた、請求項1に記載のアスリート用アイシングシステム。
【請求項3】
前記恒温装置は、前記水槽内の水を、15℃を超え、かつ20℃以下の所定の温度に保持する、請求項1または2に記載のアスリート用アイシングシステム。
【請求項4】
前記バブル生成ノズルは、内部に形成された槽に水を導入しながら、槽内部に水による旋回流を発生させると共に、当該旋回流によって旋回の中心部に負圧空洞部を発生させ、
当該負圧空洞部による圧力差によって、前記槽内に前記レギュレータから供給された炭酸ガスを導入し、旋回流によるせん断力によって炭酸ガスを微細気泡に分断してマイクロバブルを生成する、請求項1乃至3のいずれかに記載のアスリート用アイシングシステム。
【請求項5】
前記レギュレータは、前記カートリッジに充填された炭酸ガスを、所定の流量を保持しながら前記バブル生成ノズルに供給する、請求項1乃至4のいずれかに記載のアスリート用アイシングシステム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アスリートの疲労回復や熱中症の現場対策のためのアイシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アイシングとは、氷や水等を用いて身体を局所的に冷却することを指す。アイシングは、主としてスポーツにおいて、負傷に対する応急処置以外に、運動後の疲労回復や筋肉痛を軽減させ、二次的低酸素障害(損傷が周囲に拡大すること)を防止する目的で行われる。またアイシングは、熱中症に対する身体の冷却にも効果を発揮する。
【0003】
アイシングは、冷却した部位の細胞の代謝を低下させる。筋肉の過高温そのものは筋力を低下させる可能性があり、アスリート(スポーツ選手)のパフォーマンスを低下させる。従って、アイシングを行うことで、エネルギー代謝を抑えて、筋損傷と炎症の抑制を図ることができる。
【0004】
アスリートにとってフィジカルトレーニングや競技の後のアイシングは、一般的なコンディショニングやケアの方法となっている。またアスリートは身体に慢性的な痛みや故障を抱えていることが多い。アイシングは組織代謝を低下させて、過度の炎症が惹起されることを防ぎ、痛みの緩和や障害の慢性化・悪化を防止するためにも行われる。慢性期では、痛みの閾値が上がることから、痛みが軽減する。
【0005】
一方、早期に疲労を回復するためには、血流を促進することが重要である。しかし、アイシングにより疲労部位・傷害部位が冷却されると血管が収縮することで血流が停滞し、炎症や疼痛を惹起させる物質が滞留するために、回復に必要な酸素や栄養素が疲労部位・傷害部位に届きにくくなる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2008-178547号公報
【特許文献2】特許第4652478号公報
【特許文献3】特開2016-205742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来より、血流促進による疲労回復や疼痛の緩和等に有効であるとして、浴用の炭酸泉生成装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
特許文献1に記載の装置では、炭酸ガス(二酸化炭素)のマイクロバブルが温水に長時間浮遊し、マイクロバブルの一部が溶解することによって炭酸ガスの濃度を補う。その結果、炭酸泉における溶存炭酸ガス濃度が長時間に亘ってほぼ一定になり、血流促進効果が保持される。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の装置は40℃程度の温水で用いることを前提としているため、アイシングに適用することは難しい。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、マイクロバブルによる血流促進効果をアイシングにも適用できるようにしたアイシングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明に係るアスリート用アイシングシステムは、
人体の少なくとも一部を浸漬可能な水槽と、
前記水槽内に設置され、炭酸ガスのマイクロバブルを生成するバブル生成ノズルと、
カートリッジに充填された炭酸ガスを、配管を通して前記バブル生成ノズルに供給するレギュレータと、
前記水槽に貯留された水を所定の温度に保持する恒温装置と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るアスリート用アイシングシステムは、前記水槽に貯留された水を吸込み、前記バブル生成ノズルに供給するポンプを備えていることが好ましい。
【0013】
また、前記恒温装置は、前記水槽内の水を、15℃を超え、かつ20℃以下の所定の温度に保持するものであることが好ましい。
【0014】
また前記バブル生成ノズルは、内部に形成された槽に、前記ポンプによって供給された水を導入しながら、槽内部に水による旋回流を発生させると共に、当該旋回流によって旋回の中心部に負圧空洞部を発生させ、当該負圧空洞部による圧力差によって、前記槽内に前記レギュレータから供給された炭酸ガスを導入し、旋回流によるせん断力によって炭酸ガスを微細気泡に分断してマイクロバブルを生成するものであることが好ましい。
【0015】
また前記レギュレータは、前記カートリッジに充填された炭酸ガスを、所定の流量を保持しながら前記バブル生成ノズルに供給するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアイシングシステムを用いれば、浸漬部位の冷却によるアスリートの筋損傷と炎症の修復と、血管拡張による血流促進を同時に行うことができるために、アスリートの疲労を早期に回復し、また疼痛の緩和を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るアスリート用アイシングシステムの概略構成を示す図である。
【図2】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その1)である。
【図3】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その2)である。
【図4】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その3)である。
【図5】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その4)である。
【図6】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その5)である。
【図7】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その6)である。
【図8】同実施の形態における実験結果を示すグラフ(その7)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るアスリート用アイシングシステムについて、図面を参照して説明する。

【0019】
<アイシングシステムの機能>
本実施の形態に係るアスリート用アイシングシステム(以降、単に「アイシングシステム」という)の構成について説明する前に、本発明に係るアイシングシステムの機能について説明する。

【0020】
前述したように、炭酸ガスのマイクロバブルを含む温水が、血流促進による疲労回復や疼痛の緩和等に有効であることが知られている。そこで発明者等は、濃度が1000ppmを超える炭酸ガスのマイクロバブルによる血管拡張と、それに伴う血流促進が、20℃の水温においても発揮されるか否かを検証した。

【0021】
その結果、20℃の水温においては、低温による交感神経機能の亢進から起こる、皮膚を含む表在血管や末梢血管の収縮効果よりも、炭酸ガスによる血管拡張効果のほうが優位に働くことを見出した。そのために、通常水に浸漬するよりも熱放散が促進され、結果として、皮膚温を低下させる効果があることがわかった。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。

【0022】
その一方で、上述の効果を得るためには、マイクロバブルを含む炭酸水にトレーニング後の疲労部位を浸漬する必要がある。その際、20℃を超える水温では、クーリング効果が減弱する。逆に、水温が低すぎると、炭酸ガスによる血管拡張効果よりも交感神経による血管収縮効果のほうが優位になり、血管拡張効果が得られなくなる。そのため本発明では、恒温装置を用いて水槽内の水温が所定の温度範囲から外れないようにしている。

【0023】
<アイシングシステムの構成と動作>
次に、図1を参照して、本実施の形態に係るアイシングシステムの構成と動作を説明する。図1に、本実施の形態に係るアイシングシステムの概略構成を示す。

【0024】
本実施の形態に係るアイシングシステム1は、水槽2、バブル生成ノズル3、ポンプ4、炭酸ガス供給用レギュレータ5および恒温装置6で構成されている。

【0025】
水槽2には水道水Wが満たされ、四肢、下半身等の人体の少なくとも一部を浸漬することができる。水槽2内には、水道水Wに炭酸ガスのマイクロバブルMBを放出するバブル生成ノズル3が設置されている。

【0026】
バブル生成ノズル3、水道水Wを循環させるポンプ4および炭酸ガスを供給するレギュレータ5は、マイクロバブル発生装置を構成しており、それぞれ配管41、42および51を介して接続されている。

【0027】
本実施の形態では、大巧技研有限会社製のマイクロバブル発生装置を使用しており、マイクロバブル発生の原理および装置構成については、特許文献2に詳述されている。

【0028】
マイクロバブル発生の原理を簡単に説明する。バブル生成ノズル3は、内部に形成された槽(図示せず)に、ポンプ4によって供給された水を導入しながら、槽内部に水による旋回流を発生させると共に、旋回流によって旋回の中心部に負圧空洞部を発生させている。そして負圧空洞部による圧力差によって槽内にレギュレータ5からの炭酸ガスを導入し、旋回流によるせん断力によって炭酸ガスを微細気泡に分断してマイクロバブルを生成している。

【0029】
図示しないが、ポンプ4にはモータが内蔵されており、外部から電力を供給することによってポンプ4を駆動する。水槽2内の水道水Wはポンプ4で吸引され、配管41および42を通ってノズル3に供給され、上述した旋回流を発生させる。

【0030】
レギュレータ5は、カートリッジ52に充填された炭酸ガスを、所定の流量を保持しながら放出し、配管51を通してバブル生成ノズル3に供給する。

【0031】
バブル生成ノズル3から放出される炭酸ガスのバブルには、直径10~20μmのマイクロバブルおよび直径数百nm~10μmのマイクロナノバブルが含まれているが、以後の説明では、総称して「マイクロバブルMB」という。

【0032】
マイクロバブルMBは体積が小さいために浮力が小さく、長時間にわたって水中に滞留し、また水に溶存しやすいため、高濃度の炭酸水が得られる。炭酸ガス濃度計を用いて炭酸水中の遊離炭酸濃度を測定したところ、1150ppmであった。

【0033】
水槽2内の炭酸水は、恒温装置6によって15℃を超え、かつ20℃以下の所定の温度に保持される。後に、図5を参照して説明するように、炭酸水の温度が15℃以下では、炭酸ガスによる血管拡張効果よりも交感神経による血管収縮効果のほうが優位になり、血管拡張の効果が得られなくなる。一方、炭酸水の温度が20℃を超えると、クーリング効果が低下する。

【0034】
このため、本実施の形態では、恒温装置6によって水槽2内の水道水Wの温度を調節し、アイシングに最適な20℃に保持している。例えば特許文献3に記載されたように、恒温装置6はインバータ式冷凍機を備えており、水道水Wの温度が20℃を超える場合、配管61を通して流入した水道水Wを20℃まで冷却した後、配管62を通して水槽2内に送り出す。

【0035】
一方、恒温装置6には、ヒータ等の加熱部材が内蔵されており、水道水Wの温度が20℃を下回る場合には、加熱部材によって水道水Wを20℃まで加熱した後、水槽2内に送り出す。

【0036】
なお、本実施の形態では、バブル生成ノズルとして、旋回流によりマイクロバブルを生成するタイプを用いたが、それに限定されず、炭酸ガスのマイクロバブルを発生させるものであれば、特許文献1に記載されたような、異なるタイプのノズルを用いてもよい。

【0037】
また図1に示すアイシングシステムでは、水槽2に貯留された水道水Wをポンプ4で循環させると共に、その水道水Wをバブル生成ノズル3に供給しているが、それ以外の形態として、水道の蛇口からバブル生成ノズル3に直接、水道水を供給したり、タンクに貯留された水をポンプで加圧してバブル生成ノズル3に供給するようにしてもよい。

【0038】
この場合、水槽2に炭酸水を貯留した後にアイシングを開始することになるが、上述したように、炭酸ガスのマイクロバブルは水中に長時間滞留するため、炭酸水による効果は維持される。

【0039】
また図1のアイシングシステムでは、インバータ式冷却機を用いて、水道水Wを一定の温度まで冷却したが、インバータ式冷却機の代わりに、氷を入れた第2の水槽を用意し、そこで冷却された水道水Wを、水槽2との間で循環させることによって水槽2内の水温を所定の温度に保持してもよい。このような構成を採用した場合、恒温装置6を安価に実現できる。

【0040】
<アイシングによる効果>
次に、図2~図8のグラフを参照して、図1のアイシングシステム1を用いてアイシングを行った際の効果について、それぞれの実験結果を説明する。

【0041】
図2は、図1の水槽2にアスリートの一方の脚を15分間、膝下まで浸漬したときの、左右の脚の皮膚温の経過を測定したグラフである。図2(a)に水槽に浸漬した脚の皮膚温、図2(b)に浸漬していない脚の皮膚温を示す。

【0042】
図において、横軸は脚を水槽に浸漬してからの経過時間を示し、縦軸はそのときの皮膚温を示す。図2の各データは、健常な若年男子15名で行った実験の平均値であり、各測定値の上下に示した細線は、測定値の標準誤差における分散の値を表している。以後のグラフにおいても同様とする。

【0043】
図中、太線のグラフは、炭酸ガスのマイクロバブルが充満した(遊離炭酸濃度1150ppm)水温20℃の水道水(以降、「炭酸水」という)に脚を浸漬したときの皮膚温を示し、細線のグラフは、比較のため、マイクロバブルを含まない水温20℃の水道水に脚を浸漬したときの皮膚温を示す。

【0044】
図2(a)に示すように、炭酸水に浸漬した場合、単に水道水に浸漬した場合と比較して、水槽から脚を取り出した後の回復期において皮膚温がより低くなっている。これは、炭酸水に浸漬することによって、回復期での熱放散が促進され、浸漬終了後もそれが継続していることを示している。

【0045】
更に、図2(b)に示すように、水槽に浸漬していない脚についても、皮膚温の低下が明確に現れている。これらの結果より、疲労部位・傷害部位を炭酸水に浸漬した場合、単なる水道水に浸漬する場合と比較して、炭酸ガスによって熱放散が促進されることがわかった。

【0046】
図3は、図2と同様に、図1の水槽2にアスリートの一方の脚を15分間浸漬したときの、下腿の前脛骨筋と腓腹筋の総ヘモグロビン・ミオグロビンの値(安静時を基準にした変化量)を、近赤外分光法を用いて測定した結果のグラフである。図3(a)は、前脛骨筋の深い層の測定値(変化量)、図3(b)は、腓腹筋の深い層の測定値(変化量)である。

【0047】
図の横軸は、水槽に脚を浸漬してからの経過時間を示し、縦軸は、酸素化ヘモグロビン・ミオグロビンの測定値と脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビンの測定値を加えた総ヘモグロビン・ミオグロビンの値を示している。

【0048】
図3のグラフから分かるように、炭酸水では、脚を水槽に浸漬してから総ヘモグロビン・ミオグロビンの値が漸増しているが、水道水ではその傾向はない。脚を水槽から取り出した後の回復では、炭酸水に浸漬した場合と水道水に浸漬した場合とで、総ヘモグロビン・ミオグロビンの値に明確な差が現れている。このことは、疲労部位・傷害部位を炭酸水に浸漬した場合、水道水に浸漬した場合に比較し、血流が増加することを示している。

【0049】
図4は、図3と同様に、図1の水槽2にアスリートの一方の脚を15分間浸漬したときの、前脛骨筋と腓腹筋の組織酸素飽和度(安静時を基準にした変化量)を、近赤外分光法を用いて測定した結果のグラフである。組織酸素飽和度は筋組織内の酸素濃度に対応している。図4(a)は、前脛骨筋の深い層の組織酸素飽和度の測定値(変化量)、図4(b)は、腓腹筋の深い層の組織酸素飽和度の測定値(変化量)である。

【0050】
図3と同様に、横軸は水槽に脚を浸漬してからの経過時間、縦軸は組織酸素飽和度の測定値(変化量)を示している。

【0051】
図4のグラフから分かるように、下腿の前脛骨筋および腓腹筋とも、炭酸水に脚を浸漬した場合、水道水に浸漬した場合と比較して、浸漬中および浸漬後の回復期のいずれにおいても、組織酸素飽和度が高い値を示している。このことから、アイシング部位を炭酸水に浸漬した場合、水道水に浸漬した場合と比較して、筋組織内は高い酸素化状態にあることがわかる。

【0052】
図2~図4のグラフから明らかなように、本実施の形態に係るアイシングシステムでは、冷水の炭酸水を用いて疲労部位・傷害部位を冷却することができると共に、筋血流の促進を図ることができる。その結果、従来のアイシングの問題点であった、疲労回復に必要な酸素や栄養素が疲労部位・傷害部位に届き難い点を改善して、疲労の早期回復を図ることができる。更に、炭酸ガスは血管拡張作用が強く働くので、熱放散機序が促進し、深部体温の低下が期待できる。

【0053】
参考として、図5に、腓腹筋の深い層の組織内の脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビンの測定値(変化量)を示す。図では、炭酸水の温度を10℃、15℃および20℃に保持した水槽にアスリートの一方の脚を浸漬したときの脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビンの値を、それぞれ示している。

【0054】
20℃の炭酸水では、浸漬後、脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビンの値がプラスで増加傾向であり、代謝が抑制されていないことを示している。一方、15℃および10℃の炭酸水では、安静時に比べて、脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビンの値がマイナスとなる。このことは、15℃以下になると、冷却によって代謝が抑制されることを示している。

【0055】
上述の結果より、トレーニング後の疲労物質の除去と組織冷却の両方の効果を目的としたアイシングにおいては、15℃を超え、かつ20℃以下の炭酸水を用いることが適切である。

【0056】
次に、図6、図7および図8を参照して、本発明に係るアイシングシステムの更なる効果を説明する。

【0057】
図6および図7は、有酸素パワー運動や無酸素パワー運動を行った後、アスリートが図1の水槽に半身を浸漬したときの、血中乳酸濃度と心拍数の変化を示したグラフである。

【0058】
ここで、有酸素パワー運動は、好気的代謝によって長時間継続可能な軽度または中程度の負荷の運動をいう。一方、無酸素パワー運動は、嫌気的代謝によって酸素の供給が逼迫した状態でも一時的にエネルギーを得る高負荷の運動をいう。本実施の形態では、いずれの運動もエアロバイク(登録商標)を用いて行った。

【0059】
図6は、横軸に示すように、安静の状態から無酸素パワー運動を30秒間行い、その後、アスリートの下半身を水槽に浸漬したときの血中の乳酸濃度を測定したグラフである。図中、太線は下半身を炭酸水に浸漬したときの値、細線は水道水に浸漬したときの値、破線は水槽に入らずに安静状態を保ったときの値である。本実験では、浸漬後、再度、無酸素パワー運動を行った。

【0060】
図から分かるように、運動後、炭酸水に浸漬した場合、水道水に浸漬した場合およびいずれにも浸漬しなかった場合と比較して乳酸の除去が大きく、炭酸水で疲労が解消されることを示している。

【0061】
次に、図7は、横軸に示すように、安静の状態から有酸素パワー運動および無酸素パワー運動をそれぞれ30秒間行った後、下半身を20分間水槽に浸漬したときの心拍数を測定したグラフである。図中、太線は下半身を炭酸水に浸漬したときの値、細線は水道水に浸漬したときの値、破線は水槽に入らずに安静を保ったときの値である。本実験では、浸漬後、再度、有酸素パワー運動と無酸素パワー運動を行った。

【0062】
図から分かるように、運動後、炭酸水に浸漬した場合、水道水に浸漬した場合およびいずれにも浸漬しなかった場合に比較して心拍数の低下が大きい、すなわち徐脈が促進されたことを示している。

【0063】
次に、図8は、有酸素パワー運動および無酸素パワー運動を20分間行って疲労困憊した後の、乳酸値と機械的作業効率の低下との相関関係を示したグラフである。ここで、機械的作業効率は、有酸素パワー運動の仕事量に対する人のエネルギー消費量の比である。

【0064】
図中、左側のデータは下半身を炭酸水に浸漬したときの値、中央のデータは、水道水に浸漬したときの値、右側のデータは、水槽に入らずに安静を保ったときの値である。なお、プロットされた値から垂直方向および水平方向に伸びた細線は、標準誤差における分散の値を示している。

【0065】
図から明らかなように、炭酸水に浸漬した場合、水道水に浸漬した場合およびいずれにも浸漬しなかった場合に比較し、乳酸値が低下するとともに、有酸素パワー運動を繰り返したときの機械的作業効率の低下が抑えられている。

【0066】
なお、図では示さないが、無酸素パワー運動を行った後、下半身を炭酸水・水道水に20分間浸漬し、その後、再度無酸素パワー運動を行ったときのパワー(30秒間で発揮できた仕事量)を測定した。結果は、炭酸水に浸漬した場合、水道水に浸漬した場合およびいずれにも浸漬しなかった場合に比較し、無酸素パワー運動のパワー低下が大きかった。このことから、炭酸水への浸漬は、無酸素パワー運動には適さないことがわかった。

【0067】
上述したように、本実施の形態に係るアイシングシステムを用いれば、浸漬部位の冷却と血流促進を両立でき、更には、乳酸の除去や脈拍の低下が促進され、機械的作業効率の低下をも抑えることができる。

【0068】
なお、本実施の形態では、アイシングシステムをアスリートの疲労回復に用いる場合について説明したが、それ以外に、熱中症対策として患者の身体を冷却する際にも活用できる。その場合、通常であれば、太い血管が走行する首や腋窩、鼠径を冷却するが、冷炭酸水による水浴であれば、どの部位であっても熱を効率よく奪うことができる。
【符号の説明】
【0069】
1 アイシングシステム
2 水槽
3 バブル生成ノズル
4 ポンプ
5 レギュレータ
6 恒温装置
41、42、51、61、62 配管
52 カートリッジ
W 水道水
MB マイクロバブル
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7