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明細書 :波長変換デバイス、及びこれを用いたレーザ装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-079939 (P2020-079939A)
公開日 令和2年5月28日(2020.5.28)
発明の名称または考案の名称 波長変換デバイス、及びこれを用いたレーザ装置
国際特許分類 G02F   1/37        (2006.01)
FI G02F 1/37
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2019-204261 (P2019-204261)
出願日 令和元年11月11日(2019.11.11)
優先権出願番号 2018213226
優先日 平成30年11月13日(2018.11.13)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】桂川 眞幸
出願人 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107766、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠重
【識別番号】100070150、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠彦
審査請求 未請求
テーマコード 2K102
Fターム 2K102AA02
2K102AA06
2K102AA07
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102CA20
2K102CA26
2K102DA01
2K102DC01
2K102DC07
2K102DD06
2K102EB01
2K102EB20
2K102EB26
2K102EB30
要約 【課題】簡単な構成で、非線形光学作用に関与する電磁場の相対位相関係を制御して、高効率の波長変換を実現する。
【解決手段】波長変換デバイスは、2以上に分割された固体の非線形光学媒質と、前記非線形光学媒質の間に介在する分散媒質とを有し、前記非線形光学媒質のそれぞれの長さは、非線形光学現象が進行する過程で所望の結果を得るために位相操作が必要となる相互作用長に設計されており、前記分散媒質の光軸方向の光学長は、前記非線形光学媒質に入射する1以上の周波数成分と前記非線形光学媒質の中で生成される新たな周波数成分との間の相対位相関係が所望の関係となるように可変に調整されている。
【選択図】図1A
特許請求の範囲 【請求項1】
2以上に分割された固体の非線形光学媒質と、
前記非線形光学媒質の間に介在する分散媒質と、
を有し、
前記非線形光学媒質のそれぞれの長さは、非線形光学現象が進行する過程で所望の結果を得るために位相操作が必要となる相互作用長に設計されており、
前記分散媒質の光軸方向の光学長は、前記非線形光学媒質に入射する1以上の周波数成分と前記非線形光学媒質の中で生成される新たな周波数成分との間の相対位相関係が所望の関係となるように可変に調整されていることを特徴とする波長変換デバイス。
【請求項2】
前記分散媒質は空気であり、
前記分散媒質の光軸方向の光学長は、前記非線形光学媒質の位置制御によって設定されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換デバイス。
【請求項3】
前記波長変換デバイスを収容する容器、
をさらに有し、
前記分散媒質は気体または液体であり、
前記容器の内部で前記非線形光学媒質の間隔が所定の間隔に設定されて、前記分散媒質の前記光学長が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換デバイス。
【請求項4】
前記波長変換デバイスを収容する容器、
をさらに有し、
前記分散媒質は気体または液体であり、前記容器内の前記気体または前記液体の圧力が所定の値に設定されて前記分散媒質の前記光学長が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換デバイス。
【請求項5】
前記波長変換デバイスを収容する容器、
をさらに有し、
前記分散媒質は、2種以上の気体の混合気体、または2種以上の液体の混合液であり、前記混合気体または前記混合液の混合比率が所定の値に設定されて、前記分散媒質の前記光学長が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換デバイス。
【請求項6】
前記分散媒質は固体であり、
前記固体の分散媒質の前記光軸方向の厚さが所望の厚さに可変に設定されて前記分散媒質の前記光学長が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換デバイス。
【請求項7】
前記分散媒質は、使用波長に対して透明な一対のくさび型パーツで形成され、
前記一対のくさび型パーツの少なくとも一方が前記くさび型パーツの稜線に沿った方向に動かされて前記分散媒質の前記光学長が調整されていることを特徴とする請求項6に記載の波長変換デバイス。
【請求項8】
前記分散媒質は、使用波長に対して透明なプレートで形成され、
前記プレートが前記光軸方向に対して所定の角度または傾きに設定されて前記分散媒質の前記光学長が調整されていることを特徴とする請求項6に記載の波長変換デバイス。
【請求項9】
2以上に分割された前記非線形光学媒質は、結晶軸の向きが交互に反転するように配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の波長変換デバイス。
【請求項10】
2以上に分割された前記非線形光学媒質は、隣り合って配置される第1の非線形光学媒質と第2の非線形光学媒質を含み、
前記第1の非線形光学媒質と前記第2の非線形光学媒質の間の距離は、前記第2の非線形光学媒質の入射面において、前記第1の非線形光学媒質に入射した前記1以上の周波数成分と、前記第1の非線形光学媒質の中で生成された新たな周波数成分との間で位相整合条件が満たされるように設定されていることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の波長変換デバイス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の波長変換デバイスと、
前記波長変換デバイスに入射する前記1以上の周波数成分を含む光を出力する光源と、
を有するレーザ装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換デバイスと、これを用いたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザの発明により非線形光学の研究が進み、非線形光学効果を利用した波長変換、光パルス技術、非線形分光などの技術が普及している。特に波長変換は、レーザの直接発振が得られない波長域でコヒーレント光源を実現する有用な技術である。
【0003】
非線形光学現象が進行する過程に関与する複数の電磁場間の位相関係を制御して、非線形光学過程を操作またはデザインする試みが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この提案では、非線形光学媒質の中に1つ以上の透明な分散媒質を配置し、分散媒質の位置と実効的な厚みを調整することで、非線形光学過程を操作する。
【0004】
非線形光学媒質の複屈折が大きい場合、角度位相整合を用いる波長変換では、入射したレーザ光と、波長変換により発生したビームが分離するウォークオフ現象が生じて、十分な変換効率を得ることができない。ウォークオフを補償するために、β-BBO(BaB24:ホウ酸バリウム)の薄片を常温接合したウォークオフ補償構造が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】再公表特許WO2015/170780号
【0006】

【非特許文献1】小山修平,"常温接合を用いたウォークオフ補償β-BaB2O4デバイスの高効率化に関する研究"、学校法人中央大学 修士論文要旨(2016年度)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
公知の非線形光学過程の操作技術では、非線形光学媒質中に分散媒質を配置し、非線形光学媒質内で分散媒質の実効的な厚さを制御している。光波に対する分散媒質の厚さは、分散媒質をくさび形状のペアで構成して一方の挿入厚みを変える、あるいは板状の分散媒質を用いて光軸に対する傾きを変える等によって調整可能である。しかし、非線形光学媒質内で分散媒質の挿入厚みや傾きを制御するため、分散媒質を駆動制御する機構が大掛かりになる。
【0008】
本発明は、簡単な構成で、非線形光学に関与する光波(電磁場)の相対位相関係を制御して、高効率の波長変換を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、2以上に分割した固体の非線形光学媒質の間に分散媒質を配置し、非線形光学媒質を透過する複数の周波数成分の間で所望の位相関係が得られるように、非線形光学媒質間に介在する分散媒質の光軸方向の光学長を調整する。
【0010】
分散媒質の光軸方向の光学長は、分散媒質の(実効的な)厚み、または屈折率の少なくとも一方を制御することで調整可能である。
【0011】
具体的には、波長変換デバイスは、
2以上に分割された固体の非線形光学媒質と、
前記非線形光学媒質の間に介在する分散媒質と、
を有し、
前記非線形光学媒質のそれぞれの長さは、非線形光学現象が進行する過程で所望の結果を得るために位相操作が必要となる相互作用長に設計されており、
前記分散媒質の光軸方向の光学長は、前記非線形光学媒質に入射する1以上の周波数成分と前記非線形光学媒質の中で生成される新たな周波数成分との間の相対位相関係が所望の関係となるように可変に調整されている。
【0012】
良好な構成例では、2以上に分割された前記非線形光学媒質は、その結晶軸が交互に反転するように配置されている。
【発明の効果】
【0013】
簡単な構成で、非線形光学に関与する複数の光波または電磁場の間の相対位相関係を制御して、多様な波長変換を高効率で実現する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】実施形態の波長変換デバイスを用いたレーザ装置の概略図である。
【図1B】非線形光学媒質の位置制御の例を示す図である。
【図2】変形例の波長変換デバイスを用いたレーザ装置の概略図である。
【図3】さらに別の変形例の波長変換デバイスを用いたレーザ装置の概略図である。
【図4】さらに別の変形例の波長変換デバイスを用いたレーザ装置の概略図である。
【図5】非線形光学媒質間の各周波数成分の伝搬を説明する図である。
【図6】図1の構成にウォークオフ補償機能を持たせた構成例である。
【図7】ウォークオフ補償を説明する図である。
【図8】図7の配置構成での実測データである。
【図9】ウォークオフ補償の測定に用いた別のレーザ装置の模式図である。
【図10】図9の装置におけるウォークオフ補償の概念図である。
【図11】図9の装置における光パラメトリック増幅器の出力プロファイルである。
【図12】実施例の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1Aは、実施形態の波長変換デバイス10を用いたレーザ装置1の概略図である。レーザ装置1は、光源2と、波長変換デバイス10を有する。光源2は、1以上の周波数成分を含むレーザ光を発生する。1以上の周波数成分は、たとえば、光源2に周波数コム光源を用いたときの離散的なスペクトル成分であってもよいし、光パラメトリック共振を用いてパルス化された離散スペクトルであってもよい。あるいは出力波長の異なる1以上のレーザダイオードで光源2を形成してもよい。

【0016】
波長変換デバイス10は、分散媒質12の中に配置される2以上に分割された固体の非線形光学媒質11を有する。図1Aでは、分散媒質12の中に非線形光学媒質11a、11b、11cが配置されているが、非線形光学媒質11の数は2以上の任意の数である。非線形光学媒質11に十分な強度を持つ光波が入射することで、非線形光学媒質11の内部に入射電場に対して非線形な(2次以上の)分極が生じ、その分極の振動から入射光と異なる周波数成分が発生する。

【0017】
分散媒質12は、その屈折率が周波数または波長に依存する媒質であり、気体、液体、固体を問わない。図1Aの例では、分散媒質12は空気である。

【0018】
図1Aの例で、光源2から波長変換デバイス10の1番目の非線形光学媒質11aに、たとえば角周波数がωoとω1の光波が入射する。これらの光波は十分な強度を有しており、非線形光学媒質11と相互作用して、電磁場に線形比例しない応答(分極)を生じさせる。

【0019】
波長変換デバイス10は非線形光学効果を利用しており、波長変換には、和周波または差周波の発生、高調波発生、光パラメトリック増幅、光パラメトリック発振等が含まれ得る。2以上に分割された非線形光学媒質11を用いることで、電磁波が非線形光学媒質11と作用する過程で生じる新たな周波数成分を増強することができる。

【0020】
非線形光学媒質11a、11b、11cは、分散媒質12の中で光軸に沿って配置されている。非線形光学媒質11a、11b、11cの光軸方向の位置は、これらの非線形光学媒質11a~11cに入射する1以上の周波数成分と、非線形光学媒質11a~11cの中で生成される新たな周波数成分との間の相対位相関係が所望の関係となるように調整されている。非線形光学媒質11a~11cの光軸方向の位置が調整されているということは、分散媒質12の光軸方向の光学長t1、t2が調整されていることを意味する。分散媒質12の光軸方向の光学長t1、t2は、分散媒質12を透過する光の実効光路長であり、分散媒質12の屈折率を制御することによっても調整可能である。

【0021】
非線形光学媒質11a~11bの光軸方向の長さL1、L2,L3は、後述するように非線形光学現象が進行する過程で所望の結果を得るために、複数の周波数成分間の位相関係が所望の値に操作されるべき長さに設定されている。非線形光学媒質11の光軸方向の長さLもまた、非線形光学媒質11を透過する光の実効光路長を指す。

【0022】
図1Aの例では、分割された非線形光学媒質11の間には、空気等の分散媒質12が存在する。分散媒質12の光軸方向の光学長tの調整は、手動調整、機械及び/または電気駆動による調整、光学的制御など、手段を問わない。

【0023】
図1Bは、非線形光学媒質11の位置制御の例を示す図である。レーザ装置1Aの波長変換デバイス10Aは、2以上に分割された複数の非線形光学媒質11a~11cと、隣り合う非線形光学媒質11の間を満たす分散媒質12を有する。この例では、波長変換デバイス10Aの非線形光学媒質11a~11cの位置は、位置調整機構15によって制御可能である。位置調整機構15の一例として、光軸と平行な方向に延びるレールに、非線形光学媒質11a、11b、11cを個別に保持する支持体を設け、各支持体の位置を並進アクチュエータ、モータ、MEMS等の駆動手段によって制御してもよい。

【0024】
非線形光学媒質11a、11b、11cの光軸方向の位置を互いに独立して制御することで、隣り合う非線形光学媒質11間の間隔(すなわち、分散媒質12の光軸方向の光学長t)を調整可能にする。非線形光学媒質11の光軸方向の長さLは所望の相対位相関係への操作を必要とする長さに設計される。

【0025】
非線形光学媒質11aと11bの間に介在する分散媒質12の光軸方向の光学長t1、及び非線形光学媒質11bと11cの間に介在する分散媒質12の光軸方向の光学長t2は、波長変換デバイス10Aの全体にわたって位相整合条件が維持されるように調整されている。あるいは波長変換デバイス10Aの所望の位置で、所望の相対位相関係が得られるように、調整されていてもよい。

【0026】
分散媒質12の光軸方向の光学長t1、t2は、非線形光学媒質11a、11b、11cの少なくとも一部の光軸方向の位置を位置調整機構15で調整することで、変更可能である。図1Bの構成は、空気中で、非線形光学媒質11a~11cを簡単な位置調整機構15に保持するだけで実現可能である。

【0027】
非線形光学媒質11の内部で発生する新たな周波数成分が十分な強度を持つためには、1以上の入射光成分の間、及び/または入射光と新たに発生する周波数成分との間で位相が整合している必要がある。この位相整合条件は、次の非線形光学媒質11に入射する時点でも保たれていることが望ましい。分散媒質12の光軸方向の実効的な長さである光学長tを位置調整機構15で高精度に調整して、次の非線形光学媒質11への入射位置で位相整合条件が満たされているように制御することで、波長変換デバイス10Aで高い変換効率を達成することができる。

【0028】
さらに、非線形光学媒質11の光軸方向の長さLを適切な値に設定することで、複数の周波数成分間の位相関係を適切な相互作用長において所望の関係に設計することが可能である。波長変換デバイス10Aのどの位置でどの位相関係にもっているかを自由に設計することができ、波長変換デバイス10Aの最終的な出力として、図1A及び図1Bに示すように、所望の周波数プロファイルを得ることができる。

【0029】
図2は、波長変換デバイス10Bを用いたレーザ装置1Bの概略図である。波長変換デバイス10Bでは、隣接する非線形光学媒質11間に配置される分散媒質12の少なくとも一部に、固体の分散媒質12a、12bを用いる。固体の分散媒質12a、12bは、たとえば、使用波長に対して透明なガラス、ケイ酸塩、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等である。

【0030】
図2の例では、非線形光学媒質11aと11bの間に配置される分散媒質12aは、一対のくさび型のパーツ12a1と12a2で構成されている。非線形光学媒質11bと11cの間に配置される分散媒質12bは、一対のくさび型のパーツ12b1と12b2で構成されている。分散媒質12aと12bのいずれか一方を空気層としてもよい。

【0031】
固体の分散媒質12aの光軸方向の光学長t1を可変に制御する場合、パーツ12a1と12a2の少なくとも一方をくさびの稜線に沿った方向に動かす。分散媒質12a1及び/または12a2の位置は手動で調整してもよいし、図1Bのように位置調整機構15に接続してもよい。同様に、分散媒質12bの光軸方向の光学長t2を可変に制御する場合、パーツ12b1と12b2の少なくとも一方をくさびの稜線に沿った方向に動かす。図1Bのように位置調整機構15に接続する場合は、分散媒質12aと分散媒質12bを互いに独立して移動可能にしてもよい。パーツ12a1及び/または12a2の稜線方向への移動量と、パーツ12b1及び/または12b2の稜線方向への移動量は、非線形光学媒質11と空気の屈折率差、及び空気と固体の分散媒質12a、12bとの屈折率差を考慮して計算されてもよい。

【0032】
図3は、波長変換デバイス10Cを用いたレーザ装置1Cの概略図である。波長変換デバイス10Cでは、隣接する非線形光学媒質11間に配置される分散媒質12の少なくとも一部に、直方体またはプレート状の分散媒質12c、12dを用いる。固体の分散媒質12c、12dは、たとえば、使用波長に対して透明なガラス、ケイ酸塩、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等である。分散媒質12cと12dのいずれか一方を空気層としてもよい。

【0033】
固体の分散媒質12cの光軸方向の光学長t1、及び/または分散媒質12dの光軸方向の光学長t2を可変に制御する場合、分散媒質12c及び/または分散媒質12dの光軸に対する傾きまたは回転角を変える。分散媒質12c、12dの光軸に対する傾きを、図1Bのように位置調整機構15を用いて調整してもよい。分散媒質12c、12dの傾きまたは回転量は、非線形光学媒質11と空気の屈折率差、及び空気と分散媒質12c、12dとの屈折率差を考慮して計算されてもよい。

【0034】
図4は、波長変換デバイス10Dを用いたレーザ装置1Dの概略図である。波長変換デバイス10Dでは、隣り合う非線形光学媒質11の間を満たす分散媒質12として液体、または空気以外の気体を用いる。分散媒質12に空気以外の気体、あるいは液体を用いる場合は、波長変換デバイス10Aの全体が、入射側と出射側に透過窓22と透過窓23をそれぞれ設けた容器21の内部に配置される。

【0035】
空気以外の気体の分散媒質12として、窒素、アルゴンなどの不活性気体、あるいは空気に窒素、アルゴン等の不活性気体を混合したものなどを用いることができる。分散媒質12として液体を用いる場合は、屈折率が周波数または波長に依存する有機溶剤、光学ゲル等を用いることができる。

【0036】
容器21内に液体または空気以外の気体を充填する場合、容器21の外部に配置した位置調整機構15を用いて非線形光学媒質11a~11cの位置を制御することで、分散媒質12の光軸方向の光学長t1、t2を調整してもよい。

【0037】
あるいは、空気に混合する窒素、アルゴン等の不活性ガスの混合比率、または2種以上の液体の混合比率を変えて分散媒質12の屈折率を変化させることで、分散媒質12の光軸方向の光学長t1、t2を調整してもよい。さらに、分散媒質12の圧力を変えることで屈折率を変化させて、分散媒質12の光学長t1、t2を調整してもよい。

【0038】
図5は、複数の非線形光学媒質11間での各周波数成分の伝搬を説明する図である。波長変換デバイス10で、1番目の非線形光学媒質11aへの入射位置を位置I、非線形光学媒質11aへの入射直後の位置を位置II、非線形光学媒質11aの出射面での位置を位置IIIとする。2番目の非線形光学媒質11bへの入射位置を位置IV、非線形光学媒質11bの入射直後の位置を位置Vとする。

【0039】
非線形光学媒質11aの光軸方向への伝搬長はLである。非線形光学媒質11aと11bの間隔、すなわち分散媒質12の光軸方向への伝搬長(光学長)はtである。波長変換デバイス10に角周波数がω1とω2の周波数成分が入射して、周波数成分ω3=ω1+ω2を発生させる波長変換を考える。

【0040】
位置Iでの角周波数ω1の光波の位相をφI,1、位置Iでの角周波数ω2の光波の位相をφI,2、位置IIでの角周波数ω1の光波の位相をφII,1、位置IIでの角周波数ω2の光波の位相をφII,2とする。

【0041】
位置IIでは、ω1及びω2の入射光と非線形光学媒質11aとの相互作用により、ω3の周波数成分の発生が開始される。位置IIでのω3の位相をφII,3とすると、φII,3=φI,1+φI,2 +π/2 である。位置Iと位置IIの界面ではω3の発生はまだないので、ω3-ω2、ω3-ω1の非線形分極は起きておらず、φI,1=φII,1、φI,2=φII,2である。入射直後の位置IIでの光波間の位相差ΔφIIは、
ΔφII=φII,3-(φII,1+φII,2 +π/2)=0
である。

【0042】
位置IIIまで、ω1、ω2、ω3の周波数成分が光路長Lだけ伝搬すると、位置IIIでの各周波数成分の位相は以下のようになる。

【0043】
φIII,1=k1L+φII,1
φIII,2=k2L+φII,2
φIII,3=k3L+φII,3
ここで、k1、k2、及びk3は、非線形光学媒質11a中での各周波数成分の波数である。位置III、すなわち非線形光学媒質11aの出射面において、光波間で位相整合がとれているとすると、以下のようになる。

【0044】
ΔφIII=[k3-(k1+k2)]L+φII,3-(φII,1+φII,2 +π/2)
=ΔkL+ΔφII=0
位置IIIから位置IVまで、ω1、ω2、ω3の周波数成分がそれぞれ波数k1'、k2'、k3'で分散媒質12中を距離dだけ伝搬すると、2番目の非線形光学媒質11bの入射面の位置IVでのΔφII、およびΔφIIIに相当する位相は、以下のようになる。

【0045】
φIV,1=k1'd+φIII,1
φIV,2=k2'd+φIII,2
φIV,3=k3'd+φIII,3
位置IVでの各周波数成分の位相差は、以下のようになる。

【0046】
ΔφIV=[k3'-(k1'+k2')]d+ΔφIII=[k3'-(k1'+k2')]d
非線形光学媒質11bの入射直後の位置Vで、非線形光学媒質11bを伝搬する光波について、ω3=ω1+ω2の分極を考えると、位置Vでの各周波数成分の位相は、以下のようになる。

【0047】
φV,3=φIV,1+φIV,2 +π/2
このとき、非線形光学媒質11aで発生する周波数成分ω3と非線形光学媒質11bで新たに発生する周波数成分ω3の位相差は、
ΔφV=φIV,3-φV,3=φIV,3-(φIV,1+φIV,2 +π/2)
=ΔφIV=[k3'-(k1'+k2')]d
となる。

【0048】
所望の目的が、長い相互作用長に渡って位相のずれを起こさずに和周波ω3を高強度に発生させたい、ということである場合には、位置Vでの位相差ΔφVが2mπ(mは整数)となるように分散媒質12の光学長tを調整すればよい。このときに位相のずれを起こさずに(位相整合条件を保って)、和周波ω3を足し合わせることができる。このとき、非線形光学媒質11aと11bの間の距離、すなわち分散媒質12の光軸方向の光学長tは、ΔφV=2mπ(mは整数)を満たすように決定される。

【0049】
波数k、波長λ、及び屈折率nの関係は、k=2πn/λとなるので、位置Vでの位相差ΔφVは式(1)で表される。

【0050】
【数1】
JP2020079939A_000003t.gif
分散媒質12を空気または窒素とする場合、下記の空気と窒素の分散式を用いて、位相整合が得られる、すなわちΔφV=2mπ(mは整数)となる距離d、すなわち分散媒質12の光学長tを計算する。

【0051】
【数2】
JP2020079939A_000004t.gif
非線形光学媒質11a、11bが第2高調波発生用の結晶の場合、基本波を748.88nmとすると、位相整合条件ΔφV=2π(m=1)を満たす結晶間の距離、すなわち分散媒質12の光軸方向の光学長tは、空気(20℃、1気圧)の場合で42.04mm、窒素(20℃、1気圧)の場合で44.33mmである。

【0052】
基本波(748.88nm)と第2高調波(374.44nm)を混合して第3高調波(249.63nm)を発生させる結晶の場合は、位相整合条件ΔφV=2π(m=1)を満たす結晶間の距離、すなわち分散媒質12の光軸方向の光学長tは、空気の場合で12.335mm、窒素の場合で13.519mmである。

【0053】
波長変換デバイス10で用いられる非線形光学媒質11の間隔、すなわち分散媒質12の光軸方向の光学長tを制御することで、波長変換デバイス10の全体で位相整合を維持し変換効率を高く維持することができる。

【0054】
<ウォークオフ補償>
図6は、実施形態の波長変換デバイス10Eにウォークオフ補償機能を持たせた構成図である。入射光の光軸または伝搬軸をZ軸、波長変換デバイス10が配置される面をY-Z面、結晶の高さ方向をX軸とする。図6では、非線形光学媒質11は、そのC軸がY-Z面と平行な面内にあるように配置されている。

【0055】
ウォークオフは、非線形光学媒質11の複屈折性により、伝搬につれて入射レーザ光と波長変換により発生したビームが分離する現象をいう。ウォークオフは、結晶軸に対する角度依存性のある光成分で生じる。ウォークオフにより、波長変換デバイス10の出力段でのビームプロファイルがくずれ、変換効率が低下する。

【0056】
図6では、ウォークオフを補償するために、波長変換デバイス10Aで用いられる非線形光学媒質11a~11dのC軸の向きを交互に入れ替えている。たとえば、交互に結晶の上下を逆にして配置することで、結晶のC軸は図中の矢印で示される向きになる。このように配置することで、図7に示すようにウォークオフの方向を反転させて、出射面において波長変換光の基本光からのずれを小さくすることができる。この構成は、非線形光学媒質11の複屈折が大きい場合に有効である。

【0057】
<実験例>
図7の配置構成で、非線形光学媒質11a、11bとして同じ厚み(光軸方向の光学長L=6mm)のLBO(LiB35:リチウムトリボレート)を配置し、波長787nm、エネルギー14.5mJのナノ秒パルスレーザ光を基本波として、二倍波を発生させる。

【0058】
図8は得られた観測結果である。横軸は結晶間隔t1に相当する距離(mm)、縦軸は結晶11bの直後での二倍波出力エネルギー(mJ)である。黒丸が実測値、実線がフィッティングカーブである。この実験で、分散媒質12として空気(22℃、1気圧)が用いられている。

【0059】
図8に見られるように、観測された二倍波出力エネルギーの最大値は1.35mJ、最小値は0mJである。一つ目の結晶11a直後での二倍波発生エネルギーは、0.4mJである。

【0060】
空気の分散により、基本波(787nm)と二倍波(393.5nm)の間の相対位相関係が変化し、それに応じて2個目の非線形光学結晶11bの透過後の二倍波発生エネルギーが、0~1.35mJまで0~100%の幅で周期的に変化する。観測された結晶間隔t1の周期は50.5mmであり、分散媒質12である空気の分散から予想される計算値(50.2mm)に測定精度の範囲内で一致することが確認された。

【0061】
図9は、ウォークオフ補償の測定に用いた別のレーザ装置1の模式図である。レーザ装置1は、波長変換デバイス10として、光パラメトリック増幅器を構成している。非線形光学媒質11として、KTP(KTiOPO4:リン酸チタニルカリウム)を用いる。

【0062】
第1のKTPの光軸方向の長さL1は2.5mm、第2のKTPの光軸方向の長さL2は5mm、第3のKTPの光軸方向の長さL3は5mm、第4のKTPの光軸方向の長さL4は2.5mmである。分散媒質12は空気(20℃、1気圧)である。

【0063】
第1のKTPと第2のKTPの間の間隔(または分散媒質12の光学長t1)は493.4mm、もしくは493.4mmに比べて十分に小さい距離(たとえば20mm以下)である。第2のKTPと第3のKTPの間の間隔(または分散媒質12の光学長t2)は493.4mm、もしくは493.4mmに比べて十分に小さい距離(たとえば20mm以下)、第3のKTPと第4のKTPの間の間隔(または分散媒質12の光学長t3)は493.4mm、もしくは493.4mmに比べて十分に小さい距離(たとえば20mm以下)である。

【0064】
目的が、ウォーク補償機構を組み入れることで長い相互作用長に渡って入射レーザー光と波長変換光により発生したビームを空間的に重ね合わせ、光パラメトリック増幅を強く起こさせることにある場合は、光学長t1~t3は、上述したように位相整合条件が満たされるように設定される。位相整合条件ΔφV=2π(m=1)を満たすときの間隔(光学長t)の理論値は493.4mmであるが、図9の構成でパラメトリック過程を測定する場合、493.4mmの間隔は長すぎるので、493.4mmよりも十分に小さい値(位相整合条件のずれを無視できる程度に小さい値)に設定して結晶への入射光の強度を維持する。

【0065】
非線形光学媒質11a~11dとして用いられる4つのKTPは、図6と同様に、Y-Z面内でのC軸の向き(図中の矢印で示されている)が互い違いに逆方向を向くように配置反転されている。結晶軸の方向を互い違いにしてウォークオフを補償する際は、用いる非線形光学媒質11の数を偶数個にして、光軸方向の中点に対して対称な配置とするのが望ましい。

【0066】
光源2から波長変換デバイス10に、波長1201nmのシグナル光パルスと、波長801のポンプ光パルスを入射する。ポンプ光パルスは、非線形光学媒質11に大きな非線形分極を誘起させるためのものである。1201nmのシグナル光パルスは、外部共振器型半導体レーザ(ECDL:External Cavity Diode Laser)で発振させた1200nm帯のCW(連続波)レーザー光を、周期分極反転リチウム・ナイオベート(PPLN:Periodically Poled Lithium Niobate)結晶を用いた光パラメトリック共振器によりパルス化して生成される。

【0067】
この波長変換デバイス10は、波長2403nmのアイドラー光を生成する。

【0068】
図10に示すように、KTPのC軸の向きを交互に反転することで、波長2403nmの変換光のウォークオフが補償され、波長変換デバイス10の出力面で、基本波からのアイドラー光のビームのずれが最小になっている。

【0069】
1つ目の非線形光学媒質11aと2つ目の非線形光学媒質11bの間の間隔、ずなわち分散媒質12の光学長tは、位相整合条件Δφ=[k3-(k1+k2)]t=2π(m=1)を満たす値よりも十分に小さく設定されている。

【0070】
ここで、k3はポンプ光の波数、k1はシグナル光の波数、k2はアイドラー光の波数である。2つ目の非線形光学媒質11bに入射するアイドラー光と、ポンプ光及びシグナル光の位相は整合しており、アイドラー光は強め合う方向に働いて、非線形光学媒質11bで十分な強度の新たなアイドラー光が生成される。3つ目以降の非線形光学媒質11についても位相整合条件が満たされる配置となっている。

【0071】
図11は、図9の波長変換デバイス10からの出力プロファイルである。図11の(A)は結晶のC軸が存在する面に垂直な方向(x軸方向)のプロファイル、図11の(B)は、Y軸方向のプロファイルである。XY面は伝搬方向Zと直交する面である。非線形光学媒質11a~11bの結晶軸の向きが交互に反転するように配置し、かつ波長変換デバイス10の全体を通して位相整合条件が満たされるように配置することで、ウォークオフが補償され、x軸方向とy軸方向の双方で対称性の高いビームプロファイルが得られる。また、十分な強度のアイドラー光を得ることができ、変換効率を高く維持することができる。

【0072】
図12は、実施例の効果を示す図である。横軸は結晶の数、縦軸は変換効率(%)である。変換効率は、基本波エネルギーに対する二倍波の発生エネルギーの比(二倍波発生エネルギー/基本波エネルギー)で求める。

【0073】
ここでは、光軸に沿って7個の結晶を配置し、波長750nmの単一周波数ナノ秒パルスレーザ光(基本波)の二倍波(波長375nm)を発生させる。二倍波の発生は、図5を参照して説明した和周波発生における、2×ω3=ω1=ω2の場合と考えてもよい。

【0074】
二倍波の発生に用いる結晶は、光軸方向の長さ(L)が6mmの、タイプ1のLBOである。同じ形状の7個のLBO結晶を、ウォークオフをキャンセルするようにC軸を交互に反転させて配置し(図6参照)、変換効率を測定する。この条件での最適な結晶間隔、すなわち分散媒質としての空気層の光軸方向の光学長tは、43.1mmである。上述した式(1)と空気の分散式から計算される最適な結晶間隔は42.9mmであるが、図8のように実測値の2πの周期で得られる結晶間隔は43.1mmであり、測定精度の範囲内で一致する。

【0075】
ラインAは、7個のLBO結晶を最適位置に配置したとき、すなわち隣接する結晶間の間隔、または分散媒質の光軸方向の光学長を最適にしたときの変換効率を示す。ラインBは、7個のLBO結晶のすべてを、最適位置から1mmずれた位置に配置したときの変換効率である。ラインCは、結晶間隔を制御せずに、7個のLBO結晶を4~5cmの間隔で適当に配置したときの変換効率である。

【0076】
非線形光学結晶の配置位置を制御しない場合、ラインCのように結晶の数が3個程度であれば、厳密に位置制御する場合と同じく、50%程度までの変換効率が得られる。結晶の数が3個を超えるとラインCの変換効率は低下し、5個を超えると位相不整合が累積されて、ラインAとの格差が増大する。

【0077】
最適位置から1mmずらしたときのラインBは、結晶数が6個まではラインAと同様の傾向を示し、変換効率が単純増加するが、ラインAに比べて変換効率が低い。結晶数が6個を超えると、位相整合条件を維持できなくなり、変換効率が低下する。

【0078】
分割された複数の非線形光学結晶を光軸に沿って配置する場合、結晶の数が多くなるほど変換効率が高くなる。2つ目以降のすべてのLBO結晶の入射面で位相整合条件が保たれるようにLBO結晶を配置することで、二倍波の成分が減衰せずに出力される。7個目のLBO結晶の出力段階では、82%という極めて高いエネルギー変換効率が得られる。

【0079】
LBO結晶の光軸方向の長さは、その出射面で位相整合条件が満たされる長さであることが好ましいが、出射面で厳密に位相整合条件が満たされていなくても、結晶間隔を制御して、分散媒質の光学長を制御することで、高いエネルギー変換効率で和周波、差周波、二倍波、三倍波等を発生させることができる。量産された同じ形状の非線形光学結晶を複数用いて、最適な位置に配置するだけで、波長変換デバイスを実現することができる。

【0080】
以上、特定の構成例に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されない。たとえば、図2の波長変換デバイス10Bと、図3の波長変換デバイス10Cにウォークオフ補償構成を適用することができる。この場合、偶数個の非線形光学媒質11を光軸方向の中点に対して対称に配置し、かつC軸の向きを交互に反転させて配置する。

【0081】
非線形光学媒質11としては、LBO、KTP、β-BBO、PPLNの他に、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ホウ酸セシウムリチウム(CLBO)、ホウ酸カリウムアルミニウム(KABO)、リン酸二水素カリウム(KDP)などを用いてもよい。

【0082】
実施形態のレーザ装置は、半導体リソグラフィ光源、短波長加工レーザ、遠隔環境計測レーザ、光学顕微鏡等に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1、1A~1D レーザ装置
2 光源
10、10A~10E 波長変換デバイス
11、11a~11d 非線形光学媒質
12、12a、12b 分散媒質
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11
【図12】
12