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明細書 :前処理方法、白金族金属の抽出方法、および白金族金属の抽出システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-105632 (P2020-105632A)
公開日 令和2年7月9日(2020.7.9)
発明の名称または考案の名称 前処理方法、白金族金属の抽出方法、および白金族金属の抽出システム
国際特許分類 C22B  11/00        (2006.01)
C22B   3/04        (2006.01)
C22B   3/26        (2006.01)
C22B   3/02        (2006.01)
B01J  38/00        (2006.01)
B01J  38/64        (2006.01)
B01J  38/50        (2006.01)
B01J  38/68        (2006.01)
B01J  23/44        (2006.01)
FI C22B 11/00 101
C22B 3/04
C22B 3/26
C22B 3/02
B01J 38/00 301K
B01J 38/00 301L
B01J 38/64
B01J 38/50
B01J 38/68
B01J 23/44 A
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2019-237037 (P2019-237037)
出願日 令和元年12月26日(2019.12.26)
新規性喪失の例外の表示 新規性喪失の例外適用申請有り
優先権出願番号 2018245981
優先日 平成30年12月27日(2018.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】岡田 敬志
【氏名】谷口 義弥
【氏名】福澤 伸
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4G169
4K001
Fターム 4G169AA10
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC73A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169CA03
4G169FB29
4G169GA01
4G169GA10
4G169GA12
4G169GA13
4K001AA41
4K001BA22
4K001CA49
4K001DB02
4K001DB04
4K001DB07
4K001DB11
4K001DB26
4K001DB27
4K001DB28
4K001DB31
4K001GA13
4K001JA01
4K001JA03
4K001JA10
要約 【課題】廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を、水性溶媒により効率的に抽出する方法を提供する。
【解決手段】本発明の前処理方法は、白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程、および/または、上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得る工程、を含む。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法であって、下記の(a)または(b)の工程を含むことを特徴とする前処理方法:
(a)上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程、
(b)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程。
【請求項2】
白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法であって、下記の(c)または(d)の工程を含むことを特徴とする前処理方法:
(c)上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得る工程、
(d)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに上記原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得る工程。
【請求項3】
請求項1に記載の(a)の工程および請求項2に記載の(c)の工程の組合せ、または、請求項1に記載の(b)の工程および請求項2に記載の(d)の工程の組合せ、を含むことを特徴とする、前処理方法。
【請求項4】
上記加熱は、600~1100℃の温度にて行われることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の前処理方法。
【請求項5】
上記混合物は、両性元素のオキソアニオンをさらに含むことを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の前処理方法。
【請求項6】
上記白金族金属は、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、またはRuであることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の前処理方法。
【請求項7】
上記アルカリ金属は、Na、K、Li、Rb、またはCsであることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の前処理方法。
【請求項8】
上記酸化物は、NaO、B、KO、SiO、LiO、RbO、CsO、およびPからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の前処理方法。
【請求項9】
上記加熱産物を得る工程で、上記混合物の組成を調整することにより、
上記溶解液を得る工程での、上記白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整することを特徴とする、請求項3に記載の前処理方法。
【請求項10】
上記加熱産物を得る工程で、上記混合物の加熱が行われる雰囲気中の酸素分圧を調整することにより、
上記溶解液を得る工程での、上記白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整することを特徴とする、請求項3に記載の前処理方法。
【請求項11】
請求項2または3に記載の前処理方法にて得られた上記溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する工程を含むことを特徴とする、白金族金属の抽出方法。
【請求項12】
(A)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得るための加熱槽、または、
(B)アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得るための加熱槽、を備えていることを特徴とする、白金族金属の抽出システム。
【請求項13】
(C)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得るための溶解槽、または、
(D)アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得るための溶解槽、を備えていることを特徴とする、白金族金属の抽出システム。
【請求項14】
請求項12に記載の(A)の加熱槽および請求項13に記載の(C)の溶解槽の組合せ、または、請求項12に記載の(B)の加熱槽および請求項13に記載の(D)の溶解槽の組合せ、を備えていることを特徴とする、白金族金属の抽出システム。
【請求項15】
上記溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する抽出槽を、さらに備えていることを特徴とする、請求項13または14に記載の白金族金属の抽出システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族金属を含む原料の前処理方法、白金族金属の抽出方法、および白金族金属の抽出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属は、優れた触媒性能を有することから、自動車排ガス浄化触媒および燃料自動車の触媒等、様々な用途に用いられている。このように、白金族金属は産業上不可欠な元素である一方で、その希少性から白金族金属の生産量はベースメタルと比べて非常に少ない。例えば、白金族金属の中でも比較的生産量が多いPtおよびPdについても、それぞれの生産量は200トン程度である。さらに、白金族金属の一次供給源は南アフリカおよびロシア等に限定されている。そのため、白金族金属を用いた新規材料の開発によって白金族金属の需要が増大すると、白金族金属の供給不足が発生することになる。すなわち、現在白金族金属の供給リスクは高い状態にあるといえる。
【0003】
このような資源の偏在性による供給リスクに対応するため、日本国内で発生する廃触媒等の廃製品から白金族金属を抽出回収することは非常に重要である。また、天然の鉱石の採掘・製錬は、大きな環境負荷を伴うものである。そのため、天然の鉱石よりも白金族金属濃度の高い廃製品から、効率的に白金族金属を抽出することができれば、環境負荷の低減にもつながる。ただし、白金族金属は化学的に極めて安定であるため、従来の乾式法では、廃製品から白金族金属を分離濃縮したのち、その濃縮物を高濃度の酸で溶解する必要がある。このため、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量が大きく、薬剤コストおよび廃液処理コストも高い。したがって、より効率的な白金族金属の回収方法を開発することが急務となっている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2018-145479
【特許文献2】特開2011-252217
【特許文献3】特開2008-202063
【特許文献4】特開2013-249494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4には、白金族金属の回収方法に関する従来技術が開示されている。以下に、特許文献1~4に開示された従来技術およびその問題点について説明する。
【0006】
(1)製錬技術を活用した白金族金属の回収方法
特許文献1には、白金族金属を回収するために、Cu等のコレクターメタルを含んだSiO-CaO-Alの混合融体中において、白金族金属を含む廃製品を1300~1600℃で溶融する方法が開示されている。これにより、白金族金属をコレクターメタル中に吸収させることができる。コレクターメタル中に濃縮された白金族金属は、電解精製等の工程を経て、さらに濃縮された固体として回収される。
【0007】
その後、王水を用いて白金族金属の濃縮物を溶解し、得られた溶解液に各種有機溶媒を接触させることで、有機相中に各種白金族金属を順次選択的に分離できる。しかし、王水中において発生する塩素ガスおよび塩化ニトロシル等は、腐食性および有毒性が高い。これらのガスによって周辺設備の腐食が進行するため、腐食箇所を補修するためのコストが生じる。また、使用済みの王水を処理するためには大量の中和剤を必要とし、また硝酸イオン濃度を排水基準以下にする必要もある。このため、排水処理の工程が複雑となる。
【0008】
したがって、有害な王水の使用を避けるため、以下のような王水フリーのプロセスが検討されている。
【0009】
(2)白金族金属と活性金属との反応による白金族金属の溶解性向上
特許文献2には、白金族金属と活性金属とを反応させることで合金化する技術が開示されている。得られた合金を塩化処理または酸化処理することにより、白金族金属の塩化物または酸化物と、塩化物との複合化合物が生成する。この複合化合物を塩水で処理することによって、白金族金属を抽出することができる。しかし、白金族金属と活性金属との合金化、合金の塩化・酸化処理といった工程を要するため、プロセスが複雑である。また、塩化剤として腐食性の高い塩素ガスまたは塩素化合物を用いるため、それによる周辺設備の腐食が避けられない。
【0010】
(3)白金族金属と塩素ガスとの反応による白金族金属の溶解性向上
特許文献3には、上記(2)の技術のプロセスを簡易化するために、溶融塩中において白金族金属と塩素ガスとを反応させ、白金族金属を水に易溶性の塩化物に変換する技術が開示されている。しかし、白金族金属を塩化物とするためには、白金族金属と大量の塩素ガスとを反応させる必要がある。そのため、塩素ガスによる反応炉および周辺設備の腐食が進行し、それを補修するためのコストが高い。
【0011】
(4)白金族金属とアルカリ金属炭酸塩との反応による白金族金属の溶解性向上
特許文献4には、白金族金属とアルカリ金属炭酸塩とを反応させることによって、可溶性の白金族金属の複合酸化物を形成させる技術が開示されている。生成した複合酸化物は塩酸に対する溶解性が高いため、王水ではなく、12Mの塩酸で溶解することができる。しかし、依然として溶解に必要な酸濃度が高く、排水の中和コストは高い。また、高濃度の塩酸からは腐食性の高い塩化水素ガスが発生するため、それによる周辺設備の腐食も問題となる。
【0012】
本発明の一態様は、王水または高濃度の塩酸といった酸性溶媒を用いることなく、塩素ガスまたは塩化水素ガスが発生しない低腐食環境下において、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を水性溶媒により効率的に抽出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る前処理方法は、白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法であって、下記の(a)または(b)の工程を含むことを特徴とする前処理方法:
(a)上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程、
(b)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程。
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る前処理方法は、白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法であって、下記の(c)または(d)の工程を含むことを特徴とする前処理方法:
(c)上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得る工程、
(d)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに上記原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得る工程。
【0015】
本発明の一態様に係る前処理方法は、上記(a)の工程および上記(c)の工程の組合せ、または、上記(b)の工程および上記(d)の工程の組合せ、を含み得る。
【0016】
本発明の一態様に係る前処理方法では、上記加熱は、600~1100℃の温度にて行われ得る。
【0017】
本発明の一態様に係る前処理方法では、上記混合物は、両性元素のオキソアニオンをさらに含み得る。
【0018】
本発明の一態様に係る前処理方法では、上記白金族金属は、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、またはRuであり得る。
【0019】
本発明の一態様に係る前処理方法では、上記アルカリ金属は、Na、K、Li、Rb、またはCsであり得る。
【0020】
本発明の一態様に係る前処理方法では、上記酸化物は、NaO、B、KO、SiO、LiO、RbO、CsO、およびPからなる群から選択される少なくとも1つであり得る。
【0021】
本発明の一態様に係る前処理方法は、上記加熱産物を得る工程で、上記混合物の組成を調整することにより、上記溶解液を得る工程での、上記白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整し得る。
【0022】
本発明の一態様に係る前処理方法は、上記加熱産物を得る工程で、上記混合物の加熱が行われる雰囲気中の酸素分圧を調整することにより、上記溶解液を得る工程での、上記白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整し得る。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る白金族金属の抽出方法は、本発明の一態様に係る前処理方法にて得られた上記溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る白金族金属の抽出システムは、(A)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得るための加熱槽、または、(B)アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得るための加熱槽、を備えていることを特徴とする。
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る白金族金属の抽出システムは、(C)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得るための溶解槽、または、(D)アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得るための溶解槽、を備えていることを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様に係る白金族金属の抽出システムは、上記(A)の加熱槽および上記(C)の溶解槽の組合せ、または、上記(B)の加熱槽および上記(D)の溶解槽の組合せ、を備え得る。
【0027】
本発明の一態様に係る白金族金属の抽出システムは、上記溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する抽出槽を、さらに備え得る。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、王水または高濃度の塩酸といった酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を水性溶媒により効率的に抽出する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例における、加熱温度と、加熱産物からのPd溶出濃度との関係を示す図である。
【図2】本発明の一実施例における、加熱時間と、加熱産物からのPd溶出濃度との関係を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において、(a)は、KO-B媒体中のKOの濃度と、Pd溶出濃度との関係を示す図であり、(b)は、KO-B媒体を用いた際の、炭酸カリウムの投入量とPd溶出濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。

【0031】
<1.原料の前処理方法>
本発明の一実施形態に係る白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法は、下記の(a)または(b)の工程を含み得る:(a)上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程、(b)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程。

【0032】
また、本発明の一実施形態に係る白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法は、下記の(c)または(d)の工程を含み得る:(c)上記原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得る工程、(d)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに上記原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得る工程。

【0033】
また、本発明の一実施形態に係る白金族金属を含む原料から白金族金属を抽出する際の上記原料の前処理方法は、上記(a)の工程および上記(c)の工程の組合せ、または、上記(b)の工程および上記(d)の工程の組合せ、を含み得る。

【0034】
上記原料に含まれる白金族金属は、加熱されることで酸化物およびアルカリ金属の炭酸塩または水酸物と反応して酸化され、白金族金属の酸化生成物となる。当該酸化生成物は水溶性であり、水等の水性溶媒に溶解できることから、上記酸化生成物を水性溶媒に溶解することで、白金族金属の溶解液が得られる。

【0035】
一方、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解した原料処理液には、アニオンが多く含まれている。当該アニオンが白金族金属に対して配位結合を形成することで、白金族金属の溶解液が得られる。なお、白金族金属を含む原料を上記原料処理液に溶解して溶解液を得る工程では、原料処理液に、白金族金属を含む原料と酸化剤とを加えて、白金族金属が溶解している溶解液を得てもよい。

【0036】
得られた白金族金属の溶解液に対して、従来技術にしたがって有機溶媒処理を行うことで、目的の白金族金属を選択的に抽出できる。

【0037】
このような方法によれば、白金族金属を水等に溶解できることから、白金族金属を含む原料の前処理を行うために、王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いる必要がない。そのため、廃液処理コストを低減できる。また、高濃度の塩酸等に起因する塩化水素ガスが発生せず、さらに、腐食性の高い塩化物を用いる必要もないため、設備の腐食が回避できる。

【0038】
(加熱産物を得る工程)
加熱産物を得る工程としては、(a)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程、および、(b)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得る工程、を挙げることができる。(a)の工程にて得られる加熱産物には、アニオンによって水溶性になった、白金族金属の酸化生成物が多く含まれている。一方、(b)の工程にて得られる加熱産物には、白金族金属と配位結合を形成し得るアニオンの供給源が多く含まれている。

【0039】
上記(b)の工程の場合、加熱産物から、白金族金属を含む原料を処理するための原料処理液を一度に大量に製造することができる。そして、上記(b)の工程の場合、白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱する工程を行う回数を減らすことができる。その結果、上記(b)の工程の場合、加熱コスト、薬剤コストおよび廃液処理コストを低減できる。

【0040】
上記白金族金属は、例えば、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、またはRuが挙げられる。また、このような白金族金属を含む原料として、例えば、廃自動車触媒および電子機器スクラップ等が挙げられる。

【0041】
上記アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物におけるアルカリ金属として、例えば、Na、K、Li、Rb、またはCsが挙げられる。より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、この中でも、NaおよびKが好ましく、Kがより好ましい。上記アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物は、単独で用いられてもよく、複数種類の混合物で用いられてもよい。

【0042】
上記酸化物は、例えば、NaO、B、KO、SiO、LiO、RbO、CsO、およびPからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。このような酸化物として、例えば、ガラス(例えば、廃ガラス)等が挙げられる。上記酸化物としてガラスを用いる構成によれば、安価に調達できるガラスを有効活用することができる。上記酸化物は、単独で用いられてもよく、複数種類の混合物として用いられてもよい。上記酸化物を複数種類の混合物として用いる場合、少なくともBを含む混合物として用いれば、より確実に、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。

【0043】
上記アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物は、白金族金属を酸化するための酸化剤として機能する。また、上記酸化物は、白金族金属を酸化するための反応助剤として機能する。上記原料、上記アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物、および上記酸化物の混合物は、加熱することで上記混合物中に含まれる白金族金属が酸化され、白金族金属の酸化生成物が得られる。このとき、上記混合物の加熱は600~1100℃の温度にて行われることが好ましく、800~1100℃の温度にて行われることがより好ましい。当該構成によれば、加熱に要するコストを低くすることができる。本発明によればマイルドな条件下において、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。それ故に、加熱温度の上限値は、1000℃、900℃、または、800℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。

【0044】
また、上記アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱すると、白金族金属と配位結合を形成し得るアニオンの供給源が得られる。このとき、上記混合物の加熱は600~1100℃の温度にて行われることが好ましく、800~1100℃の温度にて行われることがより好ましい。本発明によればマイルドな条件下において、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。それ故に、加熱温度の上限値は、1000℃、900℃、または、800℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。

【0045】
加熱の時間は30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分であることがより好ましい。また、加熱の時間は、上記混合物の組成に応じて適切な時間が適宜選択されてもよい。また、上記混合物の加熱は、白金族金属の酸化を促進するために、酸素を含む雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、大気雰囲気下で行うことが好ましい。

【0046】
また、上記混合物の組成、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧は、適宜調整されてよい。これにより、白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整することができる。

【0047】
例えば、上記混合物の塩基度、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧を変化させることによって、白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整することができる。

【0048】
具体的に、上記混合物の塩基度、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧を変化させることによって、任意の量の水を含む水性溶媒(例えば、水を98重量%以上、95重量%以上、90重量%以上、85重量%以上、または、80重量%以上含む水性溶媒)に好適に溶解する白金族化合物を合成してもよい。

【0049】
また、酸素を含む気体を供給する配管を上記混合物内に浸漬させ、当該配管から上記混合物中に酸素を含む気体を供給し、当該混合物をバブリング攪拌しながら加熱することが好ましい。

【0050】
また、上記混合物中に高価数のカチオンを加えて、白金族金属を酸化する力をより増大させることが好ましい。高価数のカチオンとしては、例えばFe3+、Ce4+、またはGd3+を挙げることができる。

【0051】
また、より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、上記混合物は、少なくとも加熱後に、両性元素のオキソアニオンをさらに含むことが好ましい。両性元素として、例えば、Al、Ti、V、Co、またはZrが挙げられ、これらの中では、Al、または、Tiがより好ましい。このようなオキソアニオンが上記混合物中に存在することで、白金族金属の酸化生成物がオキソアニオンと反応し、上記酸化生成物の水溶性が向上しやすくなると考えられる。両性元素のオキソアニオンの具体例としては、AlO、TiO2-、VO3-、またはCoOを挙げることができる。

【0052】
オキソアニオンは、上記混合物に直接添加してもよく、また、上記混合物が保持および加熱される際の容器としてアルミナ坩堝等の両性元素を含む容器を用いることで、当該容器に含まれる両性元素がオキソアニオンとなって上記混合物中に溶出してもよい。

【0053】
また、上記混合物を保持および加熱する際に用いる容器として、ステンレスおよび/またはチタン等の金属によって形成された容器を用いてもよい。この場合、球状、棒状、または板状等の形状に成形した、アルミナ等の両性元素を含むセラミックス材料を、上記容器内の混合物中に投入してもよい。言い換えれば、上記加熱産物を得る工程で、上記混合物に、両性元素の酸化物をさらに加えてもよい。これにより、当該セラミックス材料中に含まれる両性元素がオキソアニオンとなって、上記混合物中に溶出する。上記セラミックス材料は、オキソアニオンの溶出を促進するため、多孔質であることが好ましい。

【0054】
(溶解液を得る工程)
溶解液を得る工程としては、(c)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得る工程、(d)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得る工程、を挙げることができる。なお、上記原料処理液には、白金族金属を含む原料と酸化剤とを溶解してもよい。

【0055】
上記(d)の工程の場合、加熱産物から、白金族金属を含む原料を処理するための原料処理液を一度に大量に製造することができる。そして、上記(d)の工程の場合、白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱する工程を行う回数を減らすことができる。その結果、上記(d)の工程の場合、加熱コスト、薬剤コストおよび廃液処理コストを低減できる。

【0056】
上記水性溶媒は、水を主成分として含む溶媒を意図し、例えば、水を60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%、より好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、最も好ましくは100重量%含む溶媒を意図する。上記水性溶媒は、より具体的に、(i)水を60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%、より好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、最も好ましくは100重量%含み、かつ、(ii)ハロゲンを含まない溶媒であることが好ましい。ハロゲンを含まない溶媒のハロゲン濃度は、3mol/L以下であってよく、好ましくは1mol/L以下であり、より好ましくは0.1mol/L以下であり、さらに好ましくは0.01mol/L以下である。当該構成であれば、白金族金属を水性溶媒に容易に溶解することができる。

【0057】
上記水性溶媒は、水以外の成分を含むことが可能であり、当該成分としては、ハロゲンを含まない成分を挙げることができる。当該成分の具体例としては、極性溶媒が好ましく、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール類、クエン酸等の水溶性の有機酸を含んだ溶液、過塩素酸等の無機酸を含んだ溶液、または両性元素の水酸化物錯体を含んだ溶液を挙げることができる。

【0058】
上記水性溶媒には、任意のpHに調整するためのpH調整剤が添加されていてもよい。このとき、上記水性溶媒のpHは特に限定されるものではない。本発明では、従来技術とは異なり、強酸性の溶媒を用いる必要がない。それ故に、上記水性溶媒のpHは、6~8であってもよく、6~7であってもよく、7~8であってもよい。このような水性溶媒を用いれば、効率良く白金族金属を抽出できるのみならず、自然に対して悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。

【0059】
上記水性溶媒を用いて白金族金属の溶解液を得た後、溶解せずに残った加熱産物に対して、新たに用意した水性溶媒を用いて同様の処理を行い、溶解液を得ることができる。また、この操作を繰り返し行って、さらに溶解液を得てもよい。このような、繰り返し溶解液を得る工程において、繰り返しの工程の各々にて水性溶媒の組成は限定されるものではなく、繰り返しの工程ごとに異なる組成の水性溶媒を用いてもよい。例えば、98重量%以上の水を含む水性溶媒で加熱産物を溶解した後、未溶解の加熱産物を80重量%以上90重量%以下の水を含む水性溶媒で溶解してもよい。

【0060】
また、混合物に含まれる酸化物の量を増減する等、加熱産物を得る工程で混合物の組成を調整することにより、溶解液を得る工程での、白金族金属の水性溶媒への溶解性を調整することができる。例えば、98重量%以上の水を含む水性溶媒に好適に白金族金属が溶解するように、酸化物の量を調整してもよい。また、98重量%以上の水を含む水性溶媒に白金族金属を溶解する場合よりも、混合物に含まれる酸化物の量を少なくすることによって、80重量%以上90重量%以下の水を含む水性溶媒により好適に白金族金属が溶解するように調整することができる。

【0061】
上記酸化剤としては、空気、酸素ガス、過酸化水素水、または、高価数のカチオンを含んだ溶液を用いることができる。白金族金属を迅速に酸化することができる、という利点を有することから、上述した酸化剤の中では、酸素ガス、または、高価数のカチオンが好ましい。高価数のカチオンとしては、例えばFe3+、Ce4+、またはCo3+が挙げられる。

【0062】
このような酸化剤は、上記混合物の加熱前または加熱中に、当該混合物に投入されることが好ましい。加熱時に酸化剤が存在することで、白金族金属の酸化が効果的に進行する。なお、酸化剤の投入時期はこれに限られず、上記混合物の加熱後であってもよく、上記混合物の水性溶媒への溶解中であってもよい。

【0063】
また、上記溶解液を得たのち、未溶解の白金族金属を再び加熱産物を得る工程に投入してもよい。すなわち、未溶解の白金族金属を再び加熱産物を得る工程に投入することによって、水溶性の物質に変換し、再度、白金族金属の溶解液を得てもよい。

【0064】
<2.白金族金属の抽出方法>
本実施形態に係る白金族金属の抽出方法は、上述の工程により得られた溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する工程を含む。当該工程は、従来技術の有機溶媒処理による白金族金属の抽出方法によって行われ得る。

【0065】
このような白金族金属の抽出方法によれば、有害な王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を選択的に抽出できる。

【0066】
上記有機溶媒としては、例えば、Dialkyl Sulfide、Hydroxyoxime、8-Quinolinol、Tertiary amine、またはTrialkylphosphateを用いることができる。有機溶媒としてHydroxyoximeを用いれば、白金族金属の中でも、特にPdを選択的に抽出することができ、有機溶媒としてTertiary amineを用いれば、白金族金属の中でも、特にPtを選択的に抽出することができる。また、上記溶解液からPdおよびPtを抽出したのち、有機溶媒としてTertiary amineを用いれば、残った白金族金属の中でも、特にIrを選択的に抽出することができ、当該抽出後の溶解液を精製することでRhを得ることができる。RuおよびOsについては、これらの分離行程中における蒸留操作によって揮発分離することができる。

【0067】
なお、上述した白金族金属の抽出方法によって白金族金属が抽出された後の溶解液は、原料処理液として、再度、前処理方法に用いることができる。この場合、白金族金属が抽出された後の溶解液である原料処理液に、白金族金属を含む原料が加えられる。なお、原料処理液に白金族金属を含む原料を溶解するときには、原料処理液に、白金族金属を含む原料と酸化剤とを加えてもよい。原料処理液(または、原料処理液および酸化剤)によって白金族金属が酸化され、原料処理液中に酸化された白金族金属が溶解し、再び白金族金属の溶解液が得られる。上記酸化剤として、上述したものが挙げられる。このような方法によれば、加熱コスト、薬剤コストおよび廃液処理コストを低減できる。

【0068】
<3.抽出システム>
本発明の一実施形態に係る白金族金属の抽出システムは、(A)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得るための加熱槽、または、(B)アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して、加熱産物を得るための加熱槽、を備え得る。

【0069】
また、本発明の一実施形態に係る白金族金属の抽出システムは、(C)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得るための溶解槽、または、(D)アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得るための溶解槽、を備え得る。

【0070】
また、本発明の一実施形態に係る白金族金属の抽出システムは、上記(A)の加熱槽および上記(C)の溶解槽の組合せ、または、上記(B)の加熱槽および上記(D)の溶解槽の組合せ、を備え得る。

【0071】
上記加熱槽は、例えば、(i)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を収容するための容器、または、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物と、酸化物との混合物を収容するための容器と、(ii)当該容器内の混合物を加熱するためのヒーターと、を備えたものであり得る。上記加熱槽は、更に、容器内に両性元素を供給するための両性元素注入口を備えたものであってもよく、容器内へ供給される両性元素を収容するための収容タンクを備えたものであってもよい。

【0072】
また、上記加熱槽は、両性元素を含む材料によって形成されたものであってもよい。このような容器として、例えば、アルミナ坩堝、ジルコニア坩堝、チタン酸アルミ坩堝、または、ムライト坩堝が挙げられる。このような構成によれば、上記混合物を加熱する際に、上記加熱槽に含まれる両性元素がオキソアニオンとして溶出する。当該オキソアニオンは、上記混合物に含まれる白金族金属の酸化を促進し、白金族金属の水溶性を向上させることができる。

【0073】
上記溶解槽は、(iii)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、溶解液を得るための容器、または、アルカリ金属の炭酸塩もしくは水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解して、原料処理液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を原料処理液に溶解して、溶解液を得るための容器と、(iv)当該容器内へ水性溶媒を供給するための水溶性溶媒注入口と、を備えたものであり得る。上記溶解槽は、容器内へ供給される水性溶媒を収容するための収容タンクを備えたものであってもよい。また、上記溶解槽は、容器内へ酸化剤を供給するための酸化剤注入口を備えたものであってもよく、容器内へ供給される酸化剤を収容するための収容タンクを備えたものであってもよい。

【0074】
上記溶解槽は、上記加熱槽がそのまま投入できる大きさであることが好ましい。また、加熱槽に用いる容器と、溶解槽に用いる容器とを、同一の容器として構成することも可能である。このような構成によれば、上記加熱槽から上記加熱産物を一度取り出して上記溶解槽に移す必要がない。また、上記溶解槽は、攪拌棒またはスターラー等の攪拌部材を備えることが好ましい。このような構成によれば、上記加熱産物を水性溶媒に効率的に溶解できる。

【0075】
また、本実施形態に係る白金族金属の抽出システムは、上記溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する抽出槽を、さらに備えていてもよい。当該抽出槽は、従来技術による有機溶媒処理を行うことができるものであれば、特に限定されない。

【0076】
このような抽出システムによれば、有害な王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を水性溶媒に効率的に抽出できる。
【実施例】
【0077】
<試料および方法>
(本実施例および一部の比較例において使用した反応媒体)
本発明に係る酸化物として調製した反応媒体について、以下に説明する。市販の化合物標準試薬(NaOH、KOH、B、SiO、Al)を用い、以下の手順により複数種類の反応媒体(NaO-B媒体、KO-B媒体、KO-SiO-Al媒体)を調製した。各種標準試薬の混合物を容積30mLのアルミナ坩堝に投入し、電気炉内に設置した。30分かけて炉内の温度を1000℃にまで昇温し、その状態を保ったままアルミナ坩堝を1時間加熱した。その後、アルミナ坩堝内の溶融物を冷却し、得られた固化物を反応媒体とした。表1に、本実施例および一部の比較例において用いた反応媒体の組成を示す。
【実施例】
【0078】
【表1】
JP2020105632A_000002t.gif
【実施例】
【0079】
反応媒体A~Dを調製する際は、Al試薬は用いていないが、加熱時に容器として使用したアルミナ坩堝の成分の一部が反応媒体中に溶出したと考えられる。そのため、反応媒体A~Dには両性元素のオキソアニオンであるAlz-が含まれる。一方、反応媒体Eにはあらかじめ試薬のAlを溶解させることで、Alz-を含ませている。
【実施例】
【0080】
(水溶性白金族化合物の合成実験)
比較例1,2および実施例1~14では、上述の方法により調製した反応媒体(酸化物)、金属Pd(白金族金属)、およびアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物を混合した。実施例15では、金属Pdを加えず、反応媒体(酸化物)、およびアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物を混合した。この混合物を容積30mLのアルミナ坩堝に加え、当該アルミナ坩堝を容積100mLのアルミナ坩堝内に設置した。この状態で、実施例1~15および比較例1,2では容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をし、実施例17では容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をせず、それぞれ電気炉内において加熱した(以下の表2に加熱条件を示す)。当該加熱の際、混合物に金属Pdが含まれている条件では、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物との反応によって金属Pdが酸化される。また、混合物が加えられたアルミナ坩堝の成分の一部は、反応媒体中に溶解しAlz-として混合物中に存在するようになる。このように、混合物の加熱を所定時間(以下の表2に示す加熱時間)進行させたのち、加熱物を冷却して得られたものを加熱産物と定義する。
【実施例】
【0081】
【表2】
JP2020105632A_000003t.gif
【実施例】
【0082】
(加熱産物の評価)
加熱産物を容積30mLのアルミナ坩堝ごと容積200mLのビーカー内に設置し、当該ビーカーに150mLのイオン交換水を加えた。比較例1,2および実施例1~14では、液中に撹拌棒を浸漬させ、撹拌速度7000rpmで2時間撹拌した。その後、溶液を1μmペーパーろ紙で吸引濾過したのち、得られた水溶性Pd溶解液中のPd濃度をICP発光分析装置により測定した。
【実施例】
【0083】
実施例9,10,17では、イオン交換水に溶解しなかった固体残渣を、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液の順に浸漬させ、それぞれの水溶液中でイオン交換水を加えた場合と同様の処理を行った。各塩酸水溶液中のPd濃度を、ICP発行分析装置により測定した。イオン交換水および上述の各塩酸水溶液は、いずれも本発明の一実施形態に係る水性溶媒である。
【実施例】
【0084】
また、実施例15では、加熱産物にイオン交換水を加えて得られた原料処理液に、酸化された金属Pdを加えた。液中にスターラーを浸漬させ、撹拌速度500rpmで1時間撹拌した。その後、溶液を1μmペーパーろ紙で吸引濾過したのち、得られた水溶性Pd溶解液中のPd濃度をICP発光分析装置で測定した。
【実施例】
【0085】
(実施例および比較例)
水溶性Pdの生成を促進する処理条件を明らかにするため、パラメータを変化させて試験を行った。実施例1~14では、反応媒体A~Eのいずれかにおいて、アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物を加えた状態で金属Pdを加熱した。なお、実施例1では、反応媒体中へのアルミナ坩堝成分の溶解を抑制するため、窒化ホウ素(BN)を加えた。この条件では、反応媒体中に存在するAlz-の量が他の実施例と比べて少なくなると考えられる。
【実施例】
【0086】
比較例1では、炭酸ナトリウムと金属Pdとの混合物を加熱した。反応媒体を用いていないため、金属Pdの酸化反応が進行しにくく、また、Pd酸化物とAlz-との反応も生じないと考えられる。比較例2では、酸化ホウ素と金属Pdとの混合物を加熱した。アルカリ金属の炭酸塩または水酸化物を加えていないため、金属Pdの酸化反応が進行しにくく、また、アルミナ坩堝成分の溶出量が少ないため、酸化ホウ素中に含まれるAlz-の量が少なくなる。そのため、Pdの酸化生成物とAlz-との反応が進行しにくいと考えられる。
【実施例】
【0087】
<結果>
(オキソアニオンを含む反応媒体中での加熱による水溶性Pdの生成促進)
表3に、加熱産物からのPd溶出量を示す。比較例1、2において、Pdの溶出濃度は検出限界以下(0.01mg/L)であった。これに対して、実施例2において、Pd溶出濃度は6.6mg/Lであった。これにより、炭酸ナトリウム中での加熱のみ、または酸化ホウ素中での加熱のみでは、水溶性Pdの生成は促進されないことが明らかとなった。また、実施例2のように反応媒体Aを用いても、反応媒体中にAlz-が溶解しない場合(実施例1)では、Pdの溶出濃度は0.05mg/Lであり、十分に溶出および検出はされたが、実施例2と比べて低かった。また、表4に示すように、実施例1と比べて、実施例2におけるアルミニウム溶出濃度は高かった。
【実施例】
【0088】
以上より、本発明の一態様は水溶性白金族化合物を抽出する際の原料の前処理方法として有効であることが明らかとなった。また、単に反応媒体中で金属Pdを加熱しても水溶性Pd化合物は十分に生成されるが、Alz-が溶解した状態の反応媒体中で加熱することが、水溶性Pd化合物の生成に好適であることが明らかとなった。
【実施例】
【0089】
【表3】
JP2020105632A_000004t.gif
【実施例】
【0090】
【表4】
JP2020105632A_000005t.gif
【実施例】
【0091】
(加熱条件が及ぼす水溶性Pd生成量への影響)
図1は、加熱温度と、加熱産物からのPd溶出濃度との関係を示す図である。図1に示すように、加熱温度が600~700℃の場合(実施例3~4)、Pd溶出濃度は0.39~0.90mg/Lであった。加熱温度を800℃以上とすると(実施例5)、Pd溶出濃度が7.4mg/Lへと顕著に増加した。このことから、水溶性Pdは加熱温度が600℃以上であれば十分に生成するが、加熱温度が800℃以上であれば、より効率的に水溶性Pdが生成できることが明らかとなった。
【実施例】
【0092】
図2は、加熱時間と、加熱産物からのPd溶出濃度との関係を示す図である。図2に示すように、加熱時間を長くするにしたがって、Pd溶出濃度が増加した。特に、加熱時間を60分から120分に延長すると、Pd溶出濃度が大きく増加した。したがって、加熱時間を120分以上にすることで、より効率的に水溶性Pdを生成できることが明らかとなった。
【実施例】
【0093】
(反応媒体の組成が及ぼす水溶性Pd生成量への影響)
実施例2~7の結果より、NaO-B媒体(反応媒体A)中で金属Pdを加熱した場合、Pd溶出濃度は0.39~8.2mg/Lであった。一方、KO-B媒体(反応媒体B~D)を用いると、最大でPd溶出濃度が31mg/Lとなった(実施例10)。また、KO-SiO-Al媒体(反応媒体E)を用いると、Pd溶出濃度が22mg/Lとなった(実施例13)。
【実施例】
【0094】
以上の結果から、反応媒体はナトリウムホウ酸塩に限定されず、実施例8~12のようなカリウムホウ酸塩、および実施例13のようなケイ酸塩などの様々な反応媒体を用いることもできることが明らかとなった。これは、反応媒体の系によらず水溶性白金族化合物が効率的に生成できること、より具体的に、反応媒体中にAlz-が溶解していれば、反応媒体の系によらず、水溶性白金族化合物がより効率的に生成できることを示唆する結果である。
【実施例】
【0095】
図3の(a)は、KO-B媒体中のKOの濃度と、Pd溶出濃度との関係を示す図である。図3の(a)に示すように、反応媒体中のKO濃度の増加にともなって、Pd溶出量が増加した(実施例8,9,12)。図3の(b)は、KO-B媒体を用いた際の、炭酸カリウムの投入量とPd溶出濃度との関係を示す図である(実施例9~11)。図3の(b)に示すように、炭酸カリウム量の増加にともなって、Pd溶出量が増加した。反応媒体中のカリウム量が最も多い実施例10では、投入した金属Pdの80%を水溶性化合物へと変換することができた。以上の結果より、反応媒体中のカリウム量を増やすことによって、水溶性Pd化合物の生成量が増加することが明らかとなった。
【実施例】
【0096】
表5に、反応媒体中の炭酸カリウム量と、加熱産物から水性溶媒へのPd溶出量との関係を示す。実施例9の条件では、Pdの溶出量が、イオン交換水よりも0.01M塩酸水溶液の方が高かった。一方、実施例9よりも反応媒体中の炭酸カリウム量が多い実施例10の条件では、Pdの溶出量が、0.01M塩酸水溶液よりもイオン交換水の方が高かった。このように、反応媒体中のアルカリ金属の量を変化させる等、反応媒体とアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物との混合物の組成を変化させることで、金属Pdの各種水性溶媒への溶解性を調整できることが明らかとなった。
【実施例】
【0097】
【表5】
JP2020105632A_000006t.gif
【実施例】
【0098】
反応媒体中のアルカリ金属のモル濃度、および投入するアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物のモル濃度が同じでも、アルカリ金属種が異なると水溶性Pdの生成量も異なっていた。具体的には、アルカリ金属としてナトリウムを用いた実施例2では、Pdの溶出濃度は8.2mg/Lであった。これに対して、反応媒体中のアルカリ金属およびアルカリ金属炭酸塩のモル濃度を等しくし、アルカリ金属種をカリウムとした場合、Pdの溶出濃度が13mg/Lであった(実施例9)。
【実施例】
【0099】
ここで、ナトリウム酸化物とカリウム酸化物との塩基度を比較すると、カリウム酸化物の塩基度の方が高い。よって、反応媒体中におけるアルカリ金属の塩基度は、水溶性Pd化合物の生成を促進するための条件の一つとなると考えられる。したがって、本発明において、Alz-が溶解した反応媒体を用いることに加え、反応媒体中における塩基度を制御することが好ましい。これによって、Pdの酸化生成物とAlz-との反応を促進することができ、効率的に水溶性Pd化合物を生成することができると考えられる。
【実施例】
【0100】
(投入するアルカリ金属化合物の形態)
実施例1~13では、アルカリ金属化合物として炭酸塩を用いた。これに対し、実施例14では、アルカリ金属の水酸化物であるNaOHを用いた。この条件では、Pdの溶出濃度は5.3mg/Lであった。したがって、アルカリ金属の水酸化物を用いても、他の実施例と同様に水溶性Pd化合物が十分に生成することが明らかとなった。
【実施例】
【0101】
(酸素分圧が及ぼす水溶性Pd生成量への影響)
表6に、加熱中に、容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をした場合(実施例9)と、蓋をしなかった場合(実施例17)との、金属Pdの水性溶媒への溶出量をそれぞれ示す。
【実施例】
【0102】
容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をした場合、外部から当該アルミナ坩堝への空気の流入が遮断された状態となる。この状態で上記アルミナ坩堝を加熱すると、上記アルミナ坩堝中の空気に含まれていた酸素が、金属Pdの酸化により消費されていく。また、反応媒体中に投入した炭酸カリウム等の分解によってCOガスが発生し、上記アルミナ坩堝内の圧力が、上記アルミナ坩堝外の圧力よりも高くなる。したがって、上記アルミナ坩堝と蓋との間のわずかな隙間からの、上記アルミナ坩堝内への空気の流入が阻害される。その結果、上記アルミナ坩堝内の酸素分圧が、大気中よりも低い状態となる。
【実施例】
【0103】
一方、容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をしなかった場合、反応媒体中に投入した炭酸カリウム等の分解によるCOガスが当該アルミナ坩堝の外部に排出される。これにより、上記アルミナ坩堝内にCOガスが滞留せず、外部から上記アルミナ坩堝内に空気が流入する。したがって、上記アルミナ坩堝内の酸素分圧は、大気中の酸素分圧と略同じとなる。
【実施例】
【0104】
表6に示すように、容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をした実施例9では、Pdの溶出量が、イオン交換水よりも0.01M塩酸水溶液の方が略2倍高い。一方、容積100mLのアルミナ坩堝に蓋をしなかった実施例17では、Pdの溶出量が、イオン交換水と0.01M塩酸水溶液とでは略同じであった。このように、加熱中のアルミナ坩堝中の酸素分圧を変化させることで、金属Pdの各種水性溶媒への溶解性を調整できることが明らかとなった。
【実施例】
【0105】
【表6】
JP2020105632A_000007t.gif
【実施例】
【0106】
(原料処理液を用いた水溶性Pd生成)
実施例15では、原料処理液に、酸化された金属Pdとして酸化パラジウム(PdO)を加えた。この条件では、Pdの溶出濃度は0.3mg/Lであった。したがって、加熱工程において金属Pdを加えていなくても、原料処理液に金属Pdを加え、これを酸化することで、他の実施例と同様に水溶性Pd化合物が十分に生成することが明らかとなった。
【実施例】
【0107】
(Ptの水溶化を目的とした加熱実験)
本発明に係る前処理方法によるPtの水溶化を試行した。表7に示すように、実施例16は、白金族金属の種類がPdではなくPtであること以外は、実施例9と同様の条件および方法によって、加熱産物の作製および当該加熱産物のイオン交換水への溶解を行った。表8に示すように、得られた溶解液におけるPt溶出濃度は25mg/Lであった。したがって、本発明に係る前処理方法によれば、水溶性Pt化合物が十分に生成することが明らかとなった。
【実施例】
【0108】
【表7】
JP2020105632A_000008t.gif
【実施例】
【0109】
【表8】
JP2020105632A_000009t.gif
【実施例】
【0110】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、白金族金属を含む廃触媒等からの白金族金属の回収に利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2