TOP > 国内特許検索 > p210 PH結合ペプチドおよび慢性骨髄性白血病治療薬 > 明細書

明細書 :p210 PH結合ペプチドおよび慢性骨髄性白血病治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-075917 (P2020-075917A)
公開日 令和2年5月21日(2020.5.21)
発明の名称または考案の名称 p210 PH結合ペプチドおよび慢性骨髄性白血病治療薬
国際特許分類 C07K   7/06        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  38/16        (2006.01)
A61P  35/02        (2006.01)
C12N  15/11        (2006.01)
FI C07K 7/06
A61K 45/00
A61K 38/16
A61P 35/02
C12N 15/11 Z
C12N 15/11 ZNA
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2019-198946 (P2019-198946)
出願日 令和元年10月31日(2019.10.31)
優先権出願番号 2018210822
優先日 平成30年11月8日(2018.11.8)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】西川 喜代孝
【氏名】▲高▼橋 美帆
【氏名】島▲崎▼ 健太朗
【氏名】長田 雅也
【氏名】丸 義朗
【氏名】塚原 富士子
【氏名】内藤 幹彦
【氏名】柴田 識人
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
【識別番号】100218062、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 悠樹
【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA03
4C084BA19
4C084BA42
4C084CA59
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC202
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA50
4H045EA28
4H045FA20
要約 【課題】p210 PHのCL結合部位に高親和性に結合し、ミトコンドリア障害に伴うBCR-ABLのミトコンドリアへの移行を阻害する分子(p210 PH結合ペプチド)を提供すること。
【解決手段】p210 PH結合ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドである。
【選択図】図13
特許請求の範囲 【請求項1】
p210型BCR-ABLのBCR領域に存在するPHドメイン(p210 PH)に結合するp210 PH結合ペプチドであって、
3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドであることを特徴とするp210 PH結合ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドモチーフのC末端側の前記スペーサーが膜透過性配列を含むことを特徴とする請求項1のp210 PH結合ペプチド。
【請求項3】
前記膜透過性配列は、1~4つのアルギニン(Arg)からなることを特徴とする請求項2のp210 PH結合ペプチド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかのp210 PH結合ペプチドを含むことを特徴とする慢性骨髄性白血病治療薬。
【請求項5】
さらに、BCR-ABLのABL領域を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤を含むことを特徴とする請求項4の慢性骨髄性白血病治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、p210型BCR-ABLのBCR領域に存在するPHドメイン(p210 PH)に結合するp210 PH結合ペプチドと、これを含有する慢性骨髄性白血病(CML)治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞の腫瘍化に伴う白血球の異常増殖を主症状とする骨髄増殖性疾患である。CMLは、9 番染色体と22 番染色体の相互転座により生じる融合染色体、フィラデルフィア染色体、に由来する融合遺伝子産物であるp210型BCR-ABL(以下BCR-ABL)により引き起こされることが知られている。
【0003】
もともとABL は非受容体型チロシンキナーゼであり、その活性は厳密な制御を受けている。しかしながら、融合遺伝子産物であるBCR-ABLは BCR領域のコイルドコイルドメイン依存的に多量体化(2量体あるいは4量体)しており、ABLが恒常的に活性化している。その結果、BCR-ABLの下流シグナル経路であるPI3K/AKT 経路、JAK/STAT 経路、RAS/MAPK 経路等が過剰に活性化され、CML 細胞の異常増殖が引き起こされる。
【0004】
既存のCML治療薬として、ABL領域のキナーゼドメインを標的としたチロシンキナーゼ阻害剤 (TKIs: tyrosine kinase inhibitors)が使用されている。
【0005】
しかしながら、第1世代のイマチニブ、第2世代のニロチニブ、ダサチニブに対しては薬剤耐性の問題が現実化しており、さらには第3世代のポナチニブに対しても薬剤耐性を示す変異が出現している。また、CML 幹細胞はABLのキナーゼ活性非依存的に増殖維持されていることが明らかにされており、TKIによる治療後であってもCML幹細胞による再発が起こることが報告されている。以上のことから、TKIとは異なる作用機構を有する新規治療薬の開発が急務である。
【0006】
一方、本発明者らは、BCR-ABLのBCR領域に存在し、病理的機能が不明であったPHドメイン(以下「p210 PH」と記載する)に着目し、p210 PHはphosphatidylinositol diphosphate (PIP2)、phosphatidic acid (PA)、cardiolipin(CL) 等の酸性リン脂質に対して強い結合活性を示すこと、特にCLに非常に強く結合するというユニークなリガンド特性を有していることを見出している(非特許文献1)。
【0007】
さらに、通常ミトコンドリア障害が誘導された場合、オートファジー系による障害ミトコンドリアの分解(マイトファジー)が引き起こされるが、BCR-ABLを高発現させた細胞ではp210 PH依存的にBCR-ABLがミトコンドリアへと局在性を変化させ、その結果マイトファジーが抑制されることを見出している(非特許文献1)。CLは通常ミトコンドリアの内膜に局在しており、ミトコンドリア障害によって外膜の細胞質側へと表出することが知られているが、p210 PHはこの外膜へと表出したCLに結合することにより、BCR-ABLのミトコンドリアへの移行を促進していることが示されている。さらに、マイトファジーが抑制された結果、障害ミトコンドリアが蓄積し、そのため活性酸素種(ROS)の産生亢進が引き起こされること、を見出している(非特許文献1)。
【0008】
また、これまでに、過剰なROSは細胞死を誘導するが、適度なROSはがん細胞の増殖シグナルを活性化させるシグナル分子として機能すること、さらにCML細胞あるいはCML幹細胞においては、高レベルのROS産生が生じており、このためCMLの悪性化およびTKI耐性体の出現が促進されること、が報告されている(非特許文献2、3)。
【0009】
一方、これまでに、本発明者らは、多量体形成によって発揮される強い相互作用(クラスター効果)を阻害する分子を同定する技術、多価型ペプチドライブラリー法を開発し、クラスター効果を発揮して機能する様々な分子(細菌毒素やprotein kinase等のシグナル分子)に対する阻害分子の開発に成功している(例えば、特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特許第4744443号
【特許文献2】特許第5754008号
【特許文献3】特許第5897178号
【特許文献4】特許第5718574号
【特許文献5】特許第5635779号
【0011】

【非特許文献1】Genes Cells, 2018, 23, 22-
【非特許文献2】Sanchez -Sanchez, B. et al. NADPH Oxidases as Therapeutic Targets in Chronic Myelogenous Leukemia. Clin. Cancer Res. 20, 4014-4025 (2014).
【非特許文献3】Nieborowska-skorska, M. et al. Rac2-MRC-cIII - generated ROS cause genomic instability in chronic myeloid leukemia stem cells and primitive progenitors. Blood 119, 4253-4263 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のようなこれまでの知見から、本発明者らは、BCR-ABLによる障害ミトコンドリアの蓄積、それに続くROS産生を抑制することができれば、CML細胞のみならず、CML幹細胞の維持・増殖を抑制することができるのではないかとの新規な着想を得た。
【0013】
また、上述したように、BCR-ABLは BCR領域 の コイルドコイルドメイン依存的に多量体構造をとっており、ABL のキナーゼドメインがクラスター化することにより恒常的に活性化している。そして、この時、p210 PHもクラスター化することにより効率良くリガンド認識を行っていると考えられることから、本発明者らによって確立された上記技術を用いることで、p210 PHのCL結合領域に強く結合するペプチド性化合物を同定することができると推察した。
【0014】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、p210 PHのCL結合部位に高親和性に結合し、ミトコンドリア障害に伴うBCR-ABLのミトコンドリアへの移行を阻害する分子(p210 PH結合ペプチド)と、新規な慢性骨髄性白血病治療薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のp210 PH結合ペプチドは、p210型BCR-ABLのBCR領域に存在するPHドメイン(p210 PH)に結合するペプチドであって、
3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドであることを特徴としている。
【0016】
このp210 PH結合ペプチドでは、ペプチドモチーフのC末端側のスペーサーが膜透過性配列を含むことが好ましい。
【0017】
このp210 PH結合ペプチドでは、膜透過性配列は、1~4つのアルギニン(Arg)からなることがより好ましい。
【0018】
本発明の慢性骨髄性白血病治療薬は、前記p210 PH結合ペプチドを含むことを特徴としている。さらに、この慢性骨髄性白血病治療薬では、BCR-ABLのABL領域を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のp210 PH結合ペプチドは、p210 PHのCL結合部位に高親和性に結合し、ミトコンドリア障害に伴うBCR-ABLのミトコンドリアへの移行を阻害することができる。本発明の慢性骨髄性白血病(CML)治療薬は、p210 PH結合ペプチドを含むため、CMLを治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】1次ライブラリーを用いた検討を示す図である。A)2次ライブラリー以下は全てセルロースシートを用いて各ペプチドをスポット合成しているが、1次ライブラリーのみ各ペプチドを384well plateに固相化されたセルロースディスクに合成した後、スポッターを用いてスライドグラス上にスポットしたものを使用した。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーがスポットされたスライドグラスを10μg/mlのp210 PHまたはR726A 存在下、4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、抗His-tag抗体、続いてHRP標識2次抗体を用いて発色させ、結合したp210 PHまたはR726Aを検出、定量した。B)4番目にGluあるいはValを持つモチーフの2種について、これらのモチーフの1価体ならびに4価体をセルロースシート上にスポット合成し、p210 PHあるいはR726Aとの結合力を比較した。
【図2】2次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図3】3次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図4】4次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図5】5次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図6】5次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図7】6次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図8】7次ライブラリーを用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
【図9】4価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いた、R726特異的高親和性p210 PH結合モチーフの同定スキームを示す図である。ライブラリー部であるMA-XXXXXXX-A-Ahx、のXXXXXXXに相当する7アミノ酸を示す。
【図10】取得したモチーフの名称と配列を示す図である。
【図11】テトラマー体のp210 PHならびにR726Aへの結合活性を示す図である。ELISA plateに、10μg/ml (A)あるいは1μg/ml (B)、の各テトラマーを固定化し、各濃度のp210 PHあるいはR726A存在下1時間、室温で反応させた。洗浄後、結合したp210 PHあるいはR726Aを抗His-tag抗体で検出した。縦軸は、(A)では吸光度を示し(n=1)、(B)では3μg/mlのp210 PHを用いた場合の吸光度を100%として示している(n=3, mean + SD)。
【図12】WDD-tetがp210 PHとCLとの結合に対して競合的に働くことを示す図である。ELISA plateに、1μg/mlのWDD-tetを固定化し、各小胞存在下あるいは非存在下、1μg/mlのp210 PHを加え、1時間、室温で反応させた。洗浄後、結合したp210 PHを抗His-tag抗体で検出した。縦軸は吸光度を示す(n=3, mean + SD)。CLを含む小胞(CL(+)SUV)は、egg PC:CL:biotinylated-phosphatidylethanolamine(biotin-PE)=75:20:5、CLを含まない小胞(CL(-)SUV)は、egg PC: biotin-PE=95:5、の組成で作成し、10 μM (total lipid)で使用した。 *P <0.05 (Student’s t-test)+ SE)。**P <0.01 (Student’s t-test)【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のp210 PH結合ペプチドの一実施形態について説明する。

【0022】
p210 PH結合ペプチドは、p210型BCR-ABLのBCR領域に存在するPHドメイン(p210 PH)に結合する。

【0023】
本発明のp210 PH結合ペプチドの一実施形態は、3つのリジン(Lys)が結合して形成された以下の分子核構造(化学式1)、

【0024】
【化1】
JP2020075917A_000003t.gif

【0025】
の端部に位置する4つの‐NH基の各々に、以下のペプチドモチーフ、
配列番号1:Trp-Asp-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn (WDDDEQN)が、直接またはスペーサーを介して結合した4価ペプチドである。

【0026】
このp210 PH結合ペプチドは、配列番号1のペプチドモチーフを4つ含むため、クラスター効果を発揮して、p210型BCR-ABLのPHドメイン(p210 PH)に強力に結合する。

【0027】
具体的には、この実施形態のp210 PH結合ペプチドは、例えば、以下の化学式2、

【0028】
【化2】
JP2020075917A_000004t.gif

【0029】
において、3つのリジン(Lys)からなる分子核構造の端部に位置する4つのXXXX部のそれぞれに、配列番号1のペプチドモチーフが組み込まれた4価ペプチドが例示される。なお、上記の化学式2では、ペプチドモチーフが組み込まれる位置を便宜的に「XXXX」と記載している。

【0030】
また、上記化学式2では、分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、スペーサーが結合している形態を例示しているが、スペーサーを介さず、4つのアミノ基の各々に、直接、配列番号1のペプチドモチーフを結合させることもできる。スペーサーを結合させる場合、p210 PHへの結合性を損なわないものであればよく、具体的な分子、長さは限定されず、適宜設計することができる。

【0031】
スペーサーとしては、例えば、末端にアミノ基を有する炭素数4~10程度の鎖長のものが好ましく、特に上記化学式2中の「U」で示される、amino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](アミノカプロン酸)を好ましく例示することができる。また、スペーサーに含まれるアミノ酸としては、例えば、アラニン(A)を例示することができる。

【0032】
さらに、このp210 PH結合ペプチドは、化学式2のXXXX部に組み込まれた配列番号1のペプチドモチーフの各々の末端に修飾分子を有していてもよい。なお、上記化学式2で例示するペプチドは、末端にMA(Met-Ala)を有しているが、これは、後述の実施例において、スクリーニングの際に導入したものを例示しており、上記化学式2のMAは、本発明のp210 PH結合ペプチドにおいては必ずしも必要ではない。ペプチドモチーフの末端にNHが露出するとプラス電荷になることから、電荷調節の観点からは、配列番号1のペプチドモチーフの各々の末端に、修飾分子として、電荷がない分子、さらには、疎水性の分子を結合させることも考慮される。また、例えば、本発明のp210 PH結合ペプチドを含有するCML治療薬を経口投与する場合、消化管内でのプロテアーゼによる分解を抑えるための安定化を目的として、末端のNHをアセチル基により保護することもできる。このように、ペプチドモチーフの末端の修飾分子は、所望の効果に応じて適宜選択することができ、リン酸化、メチル化、アデニリル化、糖鎖付加などの修飾が加えられていてよい。

【0033】
さらに、このp210 PH結合ペプチドは水溶性が高いことから、配列番号1のペプチドモチーフのC末端側に膜透過性配列を含むことが好ましい。

【0034】
膜透過性配列を構成するアミノ酸や長さは特に限定されず、適宜設計することができるが、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)などのアミノ酸を含む塩基性に富む配列であることが好ましい。具体的には、例えば、膜透過性配列としては、1~6つアルギニン(Arg)、特に好ましくは4つアルギニン(Arg)から構成されるポリアルギニン(Arg)を例示することができる。膜透過性配列の位置も特に限定されず、適宜設計することができるが、上記化学式2に例示した形態では、スペーサーであるアラニン(A)とamino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](U)の間に導入することがより好ましい。p210 PH結合ペプチドがポリアルギニン(Arg)などの膜透過性配列を含むことで、p210 PH結合ペプチドのp210 PHへの結合性を高めることができる。

【0035】
本発明のp210 PH結合ペプチドの作成方法は特に限定されず、例えば、ペプチド合成装置等を利用するなどの公知の方法によって作製することができる。本発明のp210 PH結合ペプチドに組み込まれる配列番号1のペプチドモチーフ(ペプチド性化合物)は、4価の核構造に順次アミノ酸を付加することにより合成でき、1価のペプチド合成と同様の手法にて簡便にバルク合成することができる。

【0036】
そして、本発明のp210 PH結合ペプチドは、p210 PHのCL結合部位に高親和性に結合し、ミトコンドリア障害に伴うBCR-ABLのミトコンドリアへの移行を阻害する。これによって、障害ミトコンドリアの蓄積、それに続くROS産生が抑制され、CML細胞のみならず、CML幹細胞の維持・増殖を抑制することができる。このため、本発明のp210 PH結合ペプチドは、CML治療薬(医薬組成物)として有用である。すなわち、本発明のCML治療薬は、上述したp210 PH結合ペプチドを含む。
さらに、本発明のCML治療薬は、p210 PH結合ペプチドに加え、BCR-ABLのABL領域を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤を含むことが好ましい。このようなチロシンキナーゼ阻害剤としては、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ポナチニブなどを例示することができる。本発明のCML治療薬として、上述したp210 PH結合ペプチドとチロシンキナーゼ阻害剤とを併用することで、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤によるCML幹細胞の増殖抑制効果を増強することができる。

【0037】
本発明のCML治療薬の投与形態は特に限定されず、経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射等の注射投与、経皮投与、経粘膜投与(経鼻、経口腔、経肺)投与などを例示することができる。

【0038】
本発明のCML治療薬は、有効成分としてのp210 PH結合ペプチドをそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。

【0039】
製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。

【0040】
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミンなどを例示することができる。

【0041】
本発明のCML治療薬をヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、100μg~1000 mgを1回または数回に分けて投与することができる。
本発明のp210 PH結合ペプチドおよびCML治療薬は、以上の実施形態に限定されることはなく、p210 PHのCL結合部位へ高親和性で結合し、BCR-ABLのミトコンドリアへの移行を阻害可能な範囲で適宜設計することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明のp210 PH結合ペプチドおよび慢性骨髄性白血病治療薬は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
<実施例1>高親和性p210 PH結合ペプチドの同定
1-1)スクリーニングに使用するp210 PHならびにその変異体の作成
p210 PH、あるいはp210 PHとCLとの結合に重要な役割を果たしていることが知られている726番目のArgをAlaに置換した変異体、R726A、それぞれにHis-tagを導入したものを大腸菌発現系を用いて作成した。
【実施例】
【0044】
1-2)多価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いた高親和性p210 PH結合モチーフの同定
セルロースシート上に2価あるいは4価の多価型ペプチドライブラリーをシート合成する技術を用い(特許文献4)、以下に示すような4価の多価型ペプチドライブラリーをシート上に合成した。
【実施例】
【0045】
(MA-ZXXXXXX-AU)4-3Lys
ZはCysを除く19種類の固定アミノ酸、XはCysを除く19種類のアミノ酸のミクスチャー、Uはスペーサーとしてのカプロン酸を示す(基本構造は化学式2と同じ)。ここで、Zをposition1から7までずらしてゆくと、合計133(=19*7)種類のライブラリーをスポット合成することになる(1次ライブラリー)。このシートにHis-tag標識p210 PHあるいはその変異体であるR726Aを結合させ、抗His-tag抗体を用いて検出する。その結合活性を指標に最適アミノ酸とその固定位置(ここでは仮にXXXB4XXXとする)を決定する。決定にあたっては、R726Aに比べ、野生型p210 PHにより強く、かつ特異的に結合することを指標とする。次に、得られた情報に基づき、 (MA-ZXXB4XXX-AU)4-3Lysから構成される114(=19*6)種類をスポット合成する(2次ライブラリー)。同様の操作を行い、最適アミノ酸とその固定位置を決定する。以下同様のスクリーニングを繰り返し(Xが7個あるので7次ライブラリーまで行う)、全てのXについて最適アミノ酸を決定し、最適モチーフ、B1B2B3B4B5B6B7を決定する。
【実施例】
【0046】
(1次スクリーニング)
2次ライブラリー以下は全てセルロースシートを用いて各ペプチドをスポット合成しているが、1次ライブラリーの場合のみ、以下に示す各ペプチドがスライドグラス上にスポットされたものを用いた。すなわち、各ペプチドを384well plateに固相化されたセルロースディスクに合成した後、溶解し、スポッターを用いてスライドグラス上にスポットした。
【実施例】
【0047】
4価の1次ランダムペプチドライブラリー(ライブラリー部は、MA-AXXXXXX-A-Ahx、Xの数は6個にしぼってある)がスポットされたスライドグラスを、p210 PHあるいはR726Aでブロットすることにより、各ペプチドとの結合活性を評価した(図1-A、表1)。
【実施例】
【0048】
具体的には、p210 PH(野生型を意味するWTと表示)、あるいはR726Aでブロットし、それぞれについて各ペプチドの濃さ(PSL)を定量した。WTへの結合力を指標として上位20位を選択し、各ペプチドのPSL値の総計がスポットの総数(20)になるように補正表示した(WT結合力、あるいはR726A結合力)。すなわち、各ペプチドの間で結合に差が全く存在しない場合には、値は全て1.0となる。また、結合特異性を示す指標として、補正後のp210 PHへの結合量(WT結合力)を、補正後のR726Aへの結合量(R726A結合力)で割った値、結合比を算出し、この値についても総計がペプチドの総数になるように補正して表示した(WT/R726A)。さらに、p210 PHへの結合力、ならびに結合比、双方に優れていることを示す指標として、WT結合力とWT/R726Aをかけた値を算出した(WT結合力×結合比)。表示は、WT結合力が高い順にソートしてある。各ペプチドのシート上での位置はシートの縦(A-E)と横(1-24)の組み合わせで表示した(ペプチドポジション)。
【実施例】
【0049】
【表1】
JP2020075917A_000005t.gif
【実施例】
【0050】
その結果、p210 PHへの結合量(WT結合力)、ならびに、p210 PHへの結合力及びR726Aに対する結合比が共に優れていることを示す指標(WT結合力×結合比)で評価し、上位20位の中から、その両者が共に最も高い値を示すモチーフとして、MA-AXXEXXX-A-Ahxを同定した。
【実施例】
【0051】
そこで、MA-AXXEXXX-A-Ahx、ならびに、WT結合力は低いもののWT結合力×結合比が高い値を示す、MA-AXXVXXX-A-Ahx、の2種について、これらのモチーフを1価体ならびに4価体としてセルロースシート上にスポット合成し、p210 PHあるいはR726Aとの結合力を比較した。
【実施例】
【0052】
その結果、MA-AXXEXXX-A-Ahxの方が上記結果と一致して非常に強く、かつR726特異的な結合活性を示すことが明らかとなった。さらに、同じMA-AXXEXXX-A-Ahxを持つモチーフでも、1価体に比べると4価体の方が結合活性が著しく増強されること、を見出した(図1-B)。このことは、p210 PHはクラスター効果を発揮してリガンドを認識していることを示している。
【実施例】
【0053】
(2次スクリーニング)
上記の結果から、ライブラリー部にMA-XXXXEXX-A-Ahxを4価で有する、2次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図2、表2)。
【実施例】
【0054】
【表2】
JP2020075917A_000006t.gif
【実施例】
【0055】
その結果、WT結合力が上位20位のモチーフの中から、WT結合力×結合比が最も高い値を示す、MA-XXXXEQX-A-Ahxを選出した。
【実施例】
【0056】
(3次スクリーニング)
上記の結果から、ライブラリー部にMA-XXXXEQX-A-Ahxを4価で有する3次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図3、表3)。
【実施例】
【0057】
【表3】
JP2020075917A_000007t.gif
【実施例】
【0058】
その結果、WT結合力が上位20位のモチーフの中から、WT結合力×結合比が最も高い値を示す、MA-XXDXEQX-A-Ahxを選出した。
【実施例】
【0059】
(4次スクリーニング)
上記の結果から、ライブラリー部にMA-XXDXEQX-A-Ahxを4価で有する4次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図4、表4)。
【実施例】
【0060】
【表4】
JP2020075917A_000008t.gif
【実施例】
【0061】
その結果、WT結合力が上位20位以内のモチーフの中から、WT結合力×結合比が最も高い値を示す、MA-XXDDEQX-A-Ahx、ならびにMA-XDDXEQX-A-Ahxを選出した。
【実施例】
【0062】
(5次スクリーニング)
上記の結果から、ライブラリー部にMA-XDDXEQX-A-Ahx、ならびにMA-XXDDEQX-A-Ahx、を4価で有する5次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図5、図6、表5、表6)。
【実施例】
【0063】
【表5】
JP2020075917A_000009t.gif
【実施例】
【0064】
【表6】
JP2020075917A_000010t.gif
【実施例】
【0065】
MA-XDDXEQX-A-Ahxの場合、WT結合力が上位10位以内のモチーフの中から、WT結合力×結合比が最も高い値を示す、MA-XDDFEQX-A-Ahx、MA-RDDXEQX-A-Ahxを選出した(図5、表5)。MA-XXDDEQX-A-Ahxの場合、WT結合力が上位10位以内のモチーフの中から、WT結合力×結合比が最も高い値を示す、MA-XXDDEQN-A-Ahxを選出した(図6、表6)。
【実施例】
【0066】
(6次スクリーニング)
上記の結果から、ライブラリー部にMA-XDDFEQX-A-Ahx、MA-RDDXEQX-A-Ahx、ならびにMA-XXDDEQN-A-Ahx、を4価で有する6次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図7、表7)。なお評価は全てのライブラリーを総合して行った。
【実施例】
【0067】
【表7】
JP2020075917A_000011t.gif
【実施例】
【0068】
その結果、WT結合力が上位20位以内のモチーフの中から、WT結合力×結合比が高い値を示すMA-XFDDEQN-A-Ahx、MA-WXDDEQN-A-Ahx、MA-FXDDEQN-A-Ahx、MA-XDDFEQR-A-Ahx、MA-XDDFEQG-A-Ahx、を選出した(表7)。
【実施例】
【0069】
(7次スクリーニング)
上記の結果から、ライブラリー部にMA-XFDDEQN-A-Ahx、MA-WXDDEQN-A-Ahx、MA-FXDDEQN-A-Ahx、MA-XDDFEQR-A-Ahx、MA-XDDFEQG-A-Ahx、を4価で有する7次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図8、表8)。なお評価は全てのライブラリーを総合して行った。
【実施例】
【0070】
【表8】
JP2020075917A_000012t.gif
【実施例】
【0071】
その結果、WT結合力が上位20位以内のモチーフから、WT結合力で評価し、7種を最終的な候補配列とした(表8)。なお、これらはいずれも十分なWT結合力×結合比の値を有していること確認している。
【実施例】
【0072】
以上のスクリーニングの結果、以下の7種のモチーフ(配列番号1~7)が得られた(図9)。また、これらの7種のモチーフの名称を図10に示す。
配列番号2:Tyr-Asp-Asp-Phe-Glu-Gln-Arg (YDDFEQR)
配列番号3:Asp-Asp-Asp-Phe-Glu-Gln-Arg (DDDFEQR)
配列番号4:Phe-Tyr-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn (FYDDEQN)
配列番号5:Phe-Gln-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn (FQDDEQN)
配列番号6:His-Phe-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn (HFDDEQN)
配列番号1:Trp-Asp-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn (WDDDEQN)
配列番号7:Trp-Trp-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn (WWDDEQN)
【実施例】
【0073】
<実施例2>取得ペプチドのp210 PHへの結合活性の検討
実施例1で最終的に取得した各モチーフ(配列番号1~7)を、クラスター効果を発揮させるためスクリーニングに使用したものと同じ核構造(化学式2のXXXX部)に導入し、以下のテトラマー体(YDD-tet、DDD-tet、FYD-tet、FQD-tet、HFD-tet、WDD-tet、WWD-tetと称する)を作成した(Uはカプロン酸を示す)。
【実施例】
【0074】
YDD-tet: [MA-YDDFEQR-AU]4-3Lys
DDD-tet: [MA-DDDFEQR-AU]4-3Lys
FYD-tet: [MA-FYDDEQN-AU]4-3Lys
FQD-tet: [MA-FQDDEQN-AU]4-3Lys
HFD-tet: [MA-HFDDEQN-AU]4-3Lys
WDD-tet: [MA-WDDDEQN-AU]4-3Lys
WWD-tet: [MA-WWDDEQN-AU]4-3Lys
これら一連のテトラマー体を用いて、p210 PHならびにR726Aとの結合活性をELISA法にて検討した。
【実施例】
【0075】
その結果、いずれの化合物もp210 PHの濃度依存的に結合活性を示すこと、一方でR726Aに対する結合活性は減弱していること、すなわちR726特異的に結合していることが明らかとなった(図11-A)。特に、高い結合親和性を示したWDD-tet 、WWD-tetの2種についてp210 PHの結合定数を算出したところ、0.34、0.47μg/mであった(図11-B)。そこで以下の実験では、WDD-tetを使用した。
【実施例】
【0076】
<実施例3>WDD-tetとp210 PHとの結合に対するCL含有小胞の阻害効果
これまでの結果から、配列番号1のペプチドを有するWDD-tetはp210 PHのCL結合部位に存在するR726に特異的に結合することが示されたが、実際にp210 PHとCLとの結合に対して競合的に働くか否かをELISA法を用いて検討した。CLは生理的な条件に近くなるように、20%のモル比でphosphatidylcholine(PC)から構成される小胞に存在している状態のものを使用した。
【実施例】
【0077】
その結果、plate上に固定化されたWDD-tetに対するp210 PHの結合は、CLを含むPC小胞が存在する時にのみ顕著に阻害されること、一方でPCのみから構成される小胞では全く阻害効果が見られないことが見出された(図12)。この結果は、WDD-tetはp210 PHとCLとの結合に対して競合的に働いていることを示している。
【実施例】
【0078】
<実施例4>ミトコンドリア障害に伴うp210 PHのミトコンドリアへの移行に及ぼすWDD-tetの阻害効果
WDD-tetのp210 PH結合モチーフは、配列番号1:Trp-Asp-Asp-Asp-Glu-Gln-Asn(WDDDEQN)であり、7アミノ酸のうち酸性アミノ酸を4個含んでいる。このため、WDD-tetの細胞への効果を検討するに際し、細胞膜を通過できないことが懸念された。すでに我々は、膜透過性に乏しいテトラマー体を効率良く細胞に導入するためには、各モチーフのC末端側にArgを4個(配列番号8:Arg-Arg-Arg-Arg)導入することが有効であることを見出している(特願2018-163521)。そこで、WDD-tetに膜透過性を付与するため、WDD-tetに存在している各p210 PH結合モチーフのC末端側にArgを4個導入した、WDD-R4-tetを作成した。従って、WDD-R4-tet は、[MA-WDDDEQN-ARRRRU]4-3Lysの構造を有する。WDD-R4-tetを用いて、ミトコンドリア障害に伴うp210 PHのミトコンドリアへの移行に及ぼす阻害効果を検討した。
【実施例】
【0079】
実験には、蛍光標識(赤)されたミトコンドリアマーカーであるmito7と、蛍光標識(緑)された野生型p210 BCR-ABL、あるいは、PHドメインにR726Aの変異を有するR726A BCR-ABL、とを同時に一過性に発現させたHEK293細胞を使用した。これらの細胞を、マイトファジー誘導作用をもちCLの表出を促進させることが知られている脱共役剤CCCP (carbonyl cyanide m-chlorophenylhydrazone) により刺激すると、野生型p210 BCR-ABLを用いた場合のみ、ミトコンドリアの周囲にBCR-ABLがドーナツ状に集積する様子が観察される。この時、CCCP刺激時にWDD-R4-tetを共存させておくと、顕著にBCR-ABLのミトコンドリアへの局在が阻害されることが明らかとなった(図13-A)。この局在性の変化を定量した結果を(図13-B)に示す。
【実施例】
【0080】
これまでの結果から、WDD-R4-tet はp210 BCR-ABLのPHドメインに結合することにより、CLを介したBCR-ABLのミトコンドリアへの集積を効率よく阻害すると考えられる。
【実施例】
【0081】
<実施例5>p210 BCR-ABL安定発現Ba/F3細胞に対するイマチニブとWDD-R4-tetの併用効果
マウスpro-B細胞株であるBa/F3細胞はIL3非存在下ではほとんど増殖能を示さないが、p210型BCR-ABLを安定発現することにより、IL3非依存的増殖能を示すようになる。CMLモデル細胞として、p210型BCR-ABL安定発現Ba/F3(p210-Ba/F3)細胞を用い、増殖に及ぼすWDD-R4-tetの効果を検討した。
【実施例】
【0082】
イマチニブは容量依存的にp210-Ba/F3細胞の増殖を抑制するが、WDD-R4-tetはほとんど増殖に影響を及ぼさない。一方で、両者を併用した場合、 WDD-R4-tet によってイマチニブによる増殖抑制効果が増強する傾向にあること(図14-A)、特に培養2日後では有意にこの増殖抑制増強作用が観察されることを見出した(図14-B)。
【実施例】
【0083】
イマチニブはABLのチロシンキナーゼ阻害活性を持つためp210-Ba/F3細胞の増殖を阻害する。一方で、イマチニブ処理により細胞のエネルギー獲得のための代謝が解糖系から酸化的代謝へとシフトすることが知られている。このシフトによってミトコンドリアの質が低下し、マイトファジーが誘導されるが、BCR-ABLのPHドメインは先述した機構によってマイトファジーを抑制する方向に働くことにより、細胞増殖を維持していると考えられる。WDD-R4-tetはこのPHドメインによるマイトファジー抑制を解除することによって、イマチニブによる増殖抑制効果を増強したものと考えられた。このようなエネルギー獲得のための代謝が酸化的代謝へとシフトした状態はCML幹細胞でも観察されていることから、CML幹細胞のチロシンキナーゼ非依存的な増殖維持にはBCR-ABLのPHドメインによるマイトファジー抑制が関与している可能性が考えられる。このことから、WDD-R4-tetはCML幹細胞の増殖抑制にも応用できると期待される。
【実施例】
【0084】
<まとめ>
4価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いた高親和性モチーフ同定技術を用い、P210 PHに対するペプチド性阻害薬WDD-tetを同定した。WDD-tetはP210 PHのCL結合領域に結合し、P210 PHとCLとの結合を効率よく阻害する。これまでにP210 PHを標的として、阻害分子が開発された例はなく、独自性が高い。
【実施例】
【0085】
さらに、WDD-tetに細胞膜透過性を付与したWDD-R4-tetは、ミトコンドリア障害に伴うCLを介したBCR-ABLのミトコンドリアへの集積を効率よく阻害することを見出した。
また、CMLモデル細胞であるp210-Ba/F3細胞において、WDD-R4-tet はイマチニブによる増殖抑制効果を増強することを見出した。
【実施例】
【0086】
これまでの知見から、CLを介したBCR-ABLのミトコンドリアへの集積は、マイトファジーを抑制し、その結果、ROS産生を亢進させ、CML細胞ならびにCML幹細胞の増殖に寄与していると考えられる。このことから、WDD-R4-tetは既存の治療薬とは作用機構を異にする新規CML治療薬として利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13