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明細書 :間葉系幹細胞の製造方法、間葉系幹細胞の治療効果マーカー及び治療効果判定方法、並びに間葉系幹細胞を含む細胞製剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年3月12日(2020.3.12)
発明の名称または考案の名称 間葉系幹細胞の製造方法、間葉系幹細胞の治療効果マーカー及び治療効果判定方法、並びに間葉系幹細胞を含む細胞製剤
国際特許分類 C12N   5/0775      (2010.01)
C12Q   1/6851      (2018.01)
A61K  35/28        (2015.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  35/12        (2015.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/0775 ZNA
C12Q 1/6851 Z
A61K 35/28
A61P 43/00 105
A61K 35/12
G01N 33/53 Y
C12N 15/09 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 53
出願番号 特願2019-514592 (P2019-514592)
国際出願番号 PCT/JP2018/016883
国際公開番号 WO2018/199194
国際出願日 平成30年4月25日(2018.4.25)
国際公開日 平成30年11月1日(2018.11.1)
優先権出願番号 2017086514
2017092030
優先日 平成29年4月25日(2017.4.25)
平成29年5月3日(2017.5.3)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】千見寺 貴子
【氏名】藤宮 峯子
【氏名】齋藤 悠城
【氏名】中野 正子
【氏名】大谷 美穂
【氏名】水江 由佳
【氏名】松村 崇史
【氏名】神谷 梢
出願人 【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002480、【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
4C087
Fターム 4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR08
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4C087AA01
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4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB21
要約 【課題】
本発明は、治療効果の高いMSCを含む細胞製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて、哺乳動物胎児付属物由来の賦活化剤を含む培地中でMSCを培養する工程を含む、賦活化されたMSCの製造方法が提供される。また、p16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択されるMSCの治療効果マーカー、同マーカーを用いた治療効果判定方法、治療効果を高めるための処理に対するMSCの適応性判定方法、MSCを含む細胞製剤及びその製造方法も提供される。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤で間葉系幹細胞を処理する賦活化工程を含む、賦活化された間葉系幹細胞の製造方法であって、賦活化工程が、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて、前記賦活化剤を含む培地中で間葉系幹細胞を培養する工程である、前記製造方法。
【請求項2】
細胞培養担体が、ナノメートル~マイクロメートル単位の平均繊維径を有するファイバーによって細胞との接触面上に形成された開口部を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
開口部の平均径が500nm~1000μmである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
細胞培養担体が、生分解性ポリマーからなるナノファイバーを含有してなる細胞培養担体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
培地中の賦活化剤の濃度が、ファイバーからなる3次元構造を有さない細胞培養担体を用いて間葉系幹細胞を培養する賦活化工程における培地中の賦活化剤濃度の1/10~1/100000である、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
培地中の賦活化剤の濃度が、タンパク質換算で0.01μg/mL~500μg/mLである、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
賦活化工程における細胞の継代回数が2回以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
間葉系幹細胞が疾患を有する対象から分離された間葉系幹細胞である、請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
CD47陽性細胞の割合が2%以下である、間葉系幹細胞を含む細胞製剤。
【請求項11】
間葉系幹細胞が、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法により製造される賦活化された間葉系幹細胞である、請求項10に記載の細胞製剤。
【請求項12】
間葉系幹細胞集団の中からCD47陰性の間葉系幹細胞を濃縮する工程を含む、間葉系幹細胞を含む細胞製剤の製造方法。
【請求項13】
p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される、間葉系幹細胞の治療効果と正に相関する間葉系幹細胞の治療効果評価のためのマーカー。
【請求項14】
CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される、間葉系幹細胞の治療効果と負に相関する間葉系幹細胞の治療効果評価のためのマーカー。
【請求項15】
被験間葉系幹細胞におけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を対照間葉系幹細胞における発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において少ない場合に、被験間葉系幹細胞は対照間葉系幹細胞より治療効果が高いと判定する判定工程を含む、間葉系幹細胞の治療効果を判定する方法。
【請求項16】
測定工程が、被験間葉系幹細胞における
(A)DNMT1、Nanog、SOX2、OCT4、IDO、TSG6、IL-6及びTERTよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質、並びに/又は
(B)p53及びα-SMAよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質
の発現量を測定することをさらに含み、
判定工程が、p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において多いこと並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において少ないことに加えて、前記(A)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において多い場合及び/又は前記(B)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において少ない場合に、被験間葉系幹細胞は対照間葉系幹細胞より治療効果が高いと判定する工程である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の方法の測定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量に代えて間葉系幹細胞中のCD47陽性細胞の割合を測定し、判定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において少ないことに代えて間葉系幹細胞中のCD47陽性細胞の割合が対照間葉系幹細胞よりも被験間葉系幹細胞において低い場合に被験間葉系幹細胞は対照間葉系幹細胞より治療効果が高いと判定する、間葉系幹細胞の治療効果を判定する方法。
【請求項18】
被験間葉系幹細胞が、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤を含む培地中で培養された間葉系幹細胞である、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
被験間葉系幹細胞が、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて培養された間葉系幹細胞である、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
被験間葉系幹細胞が、間葉系幹細胞の自家移植療法を受けようとする対象から分離された間葉系幹細胞である、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
被験間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
処理された間葉系幹細胞におけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を処理されていない間葉系幹細胞における発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において少ない場合に、その間葉系幹細胞は当該処理に適していると判定する判定工程を含む、間葉系幹細胞の治療効果を高めるための処理に対する間葉系幹細胞の適応性を判定する方法。
【請求項23】
測定工程が、処理された間葉系幹細胞と処理されていない間葉系幹細胞のそれぞれにおける
(A)DNMT1、Nanog、SOX2、OCT4、IDO、TSG6、IL-6及びTERTよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質、並びに/又は
(B)p53及びα-SMAよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質
の発現量を測定することをさらに含み、
判定工程が、p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において多いこと並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において少ないことに加えて、前記(A)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において多い場合及び/又は前記(B)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において少ない場合に、その間葉系幹細胞は当該処理に適していると判定する工程である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項22又は23に記載の方法の測定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量に代えて間葉系幹細胞中のCD47陽性細胞の割合を測定し、判定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において少ないことに代えて間葉系幹細胞中のCD47陽性細胞の割合が処理されていない間葉系幹細胞よりも処理された間葉系幹細胞において低い場合にその間葉系幹細胞は当該処理に適していると判定する、処理に対する間葉系幹細胞の適応性を判定する方法。
【請求項25】
処理が、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤を含む培地中で間葉系幹細胞を培養する処理である、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
処理が、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて間葉系幹細胞を培養する処理である、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
間葉系幹細胞が、間葉系幹細胞の自家移植療法を受けようとする対象から分離された間葉系幹細胞である、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
間葉系幹細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞である、請求項22から27のいずれか一項に記載の方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の製造方法、間葉系幹細胞の治療効果を評価するためのマーカー、間葉系幹細胞の治療効果を判定する方法、治療効果を高めるための処理に対する間葉系幹細胞の適応性を判定する方法及び間葉系幹細胞を含む細胞製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell、以下MSCともいう)は、多分化能及び自己複製能を有する幹細胞であり、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋細胞といった間葉系に属する細胞に分化するだけでなく、神経細胞や肝細胞等にも胚葉を超えて分化する能力を有する。またMSCは、自身が産生する液性因子によるパラクライン効果及び細胞接着相互作用も有することが知られている。MSCは、これらの作用に基づいて、標的組織や細胞の修復・再生能、及び抗炎症等の免疫制御能を発揮し、その結果、様々な疾患への治療効果を示すと考えられている。
【0003】
MSCは、単離培養が容易かつ増殖力が旺盛で、短期間で移植可能な細胞数を確保できること、免疫拒絶のない自家移植が可能であること、倫理的問題も少ないこと、低免疫原性により前処置を要せず同種移植が現実的であること等から、理想的な細胞移植療法の材料として、多様な疾患に対する治療への応用の検討が進められている。
【0004】
本発明者らは、MSCを用いた細胞移植療法を確立する過程において、患者例えば糖尿病患者のMSCが異常なMSCであること、具体的には前述のような多様な能力を失った又はこれらの能力が正常なMSCと比べて低減した結果として、疾患治療効果を失った又は治療効果が正常なMSCと比べて低減したMSCであること、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物が前記異常なMSCを賦活化して治療効果を回復させることができること、及びかかる賦活化されたMSCを用いた自家移植治療が可能となること等を見出し、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する異常なMSCに対する賦活化剤を発明し、特許出願した(特許文献1)。この賦活化剤は、特に、治療が必要となった段階の患者に対してもMSCの自家移植を可能とする点において、重要な意義を有する。
【0005】
特許文献1に記載の異常なMSCに対する賦活化剤は、哺乳動物の胎児付属物、例えばヒトの臍帯組織や胎盤組織からの抽出物として製造することができる。幸いにも、ヒトを含む哺乳動物の胎児付属物は、比較的入手が容易で一定の供給量も期待し得る生物学的試料ではある。しかしながら、MSCを用いた細胞移植療法の適用が望ましい患者、例えば世界的に増加の一途を辿っている多数の糖尿病患者に対してMSCの自家移植を可能とするには、哺乳動物の胎児付属物及びこれから抽出される賦活化剤の供給量は、十分であるとは言い難い。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開WO2015/137419号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの研究により、賦活化剤は異常なMSCのみならず、健常者のMSCの治療効果をも高めることができること、一方で賦活化剤で処理しても治療効果の上昇がほとんど認められないMSCがあること、等が明らかにされた。前述のように、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤は有効利用が求められる貴重な物質であり、治療効果の上昇が殆ど認められないMSCに使用することは、結果的なことであっても好ましくない。さらに、賦活化剤で処理しても治療効果の上昇が認められないMSCは、患者に投与してもその効果が期待できないため、投与前にその活性を確認することが望まれる。
【0008】
したがって、本発明は、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤を用いた賦活化されたMSCの製造において、より効率的にMSCを賦活化する手段を提供することを目的とする。本発明はまた、MSCの治療効果を評価する方法を提供すること、対象から分離されたMSCが賦活化剤での処理等の治療効果を高めることを意図した処理への適応性があるか否かを判定する方法を提供すること、及び治療効果の高いMSCを含む細胞製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体上で異常なMSCを賦活化することで、より少量の賦活化剤でより治療効果の高い賦活化されたMSCを製造することができること、及び前記細胞培養担体上で賦活化剤の存在下で培養することで正常なMSCも賦活化されることを見出した。さらに本発明者らは、治療効果の高いMSCの遺伝子発現プロファイルを解析し、特定の遺伝子発現変動を見出した。下記の各発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
(1)哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤でMSCを処理する賦活化工程を含む、賦活化されたMSCの製造方法であって、賦活化工程が、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて、前記賦活化剤を含む培地中でMSCを培養する工程である、前記製造方法。
(2)細胞培養担体が、ナノメートル~マイクロメートル単位の平均繊維径を有するファイバーによって細胞との接触面上に形成された開口部を有する、(1)に記載の製造方法。
(3)開口部の平均径が500nm~1000μmである、(2)に記載の製造方法。
(4)細胞培養担体が、生分解性ポリマーからなるナノファイバーを含有してなる細胞培養担体である、(1)から(3)のいずれか一項に記載の製造方法。
(5)培地中の賦活化剤の濃度が、ファイバーからなる3次元構造を有さない細胞培養担体を用いてMSCを培養する賦活化工程における培地中の賦活化剤濃度の1/10~1/100000である、(1)から(4)のいずれか一項に記載の製造方法。
(6)培地中の賦活化剤の濃度が、タンパク質換算で0.01μg/mL~500μg/mLである、(1)から(5)のいずれか一項に記載の製造方法。
(7)賦活化工程における細胞の継代回数が2回以下である、(1)から(6)のいずれか一項に記載の製造方法。
(8)MSCが骨髄由来のMSCである、(1)から(7)のいずれか一項に記載の製造方法。
(9)MSCが疾患を有する対象から分離されたMSCである、(1)から(8)のいずれか一項に記載の製造方法。
(10)CD47陽性細胞の割合が2%以下である、MSCを含む細胞製剤。
(11)MSCが、(1)から(9)のいずれか一項に記載の方法により製造される賦活化されたMSCである、(10)に記載の細胞製剤。
(12)MSC集団の中からCD47陰性のMSCを濃縮する工程を含む、MSCを含む細胞製剤の製造方法。
(13)p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される、MSCの治療効果と正に相関するMSCの治療効果評価のためのマーカー。
(14)CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される、MSCの治療効果と負に相関するMSCの治療効果評価のためのマーカー。
(15)被験MSCにおけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を対照MSCにおける発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ない場合に、被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定する判定工程を含む、MSCの治療効果を判定する方法。
(16)測定工程が、被験MSCにおける
(A)DNMT1、Nanog、SOX2、OCT4、IDO、TSG6、IL-6及びTERTよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質、並びに/又は
(B)p53及びα-SMAよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質
の発現量を測定することをさらに含み、
判定工程が、p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多いこと並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ないことに加えて、前記(A)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多い場合及び/又は前記(B)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ない場合に、被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定する工程である、(15)に記載の方法。
(17)(15)又は(16)に記載の方法の測定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量に代えてMSC中のCD47陽性細胞の割合を測定し、判定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ないことに代えてMSC中のCD47陽性細胞の割合が対照MSCよりも被験MSCにおいて低い場合に被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定する、MSCの治療効果を判定する方法。
(18)被験MSCが、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤を含む培地中で培養されたMSCである、(15)から(17)のいずれか一項に記載の方法。
(19)被験MSCが、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて培養されたMSCである、(15)から(18)のいずれか一項に記載の方法。
(20)被験MSCが、MSCの自家移植療法を受けようとする対象から分離されたMSCである、(15)から(19)のいずれか一項に記載の方法。
(21)被験MSCが骨髄由来のMSCである、(15)から(20)のいずれか一項に記載の方法。
(22)処理されたMSCにおけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を処理されていないMSCにおける発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない場合に、そのMSCは当該処理に適していると判定する判定工程を含む、MSCの治療効果を高めるための処理に対するMSCの適応性を判定する方法。
(23)測定工程が、処理されたMSCと処理されていないMSCのそれぞれにおける
(A)DNMT1、Nanog、SOX2、OCT4、IDO、TSG6、IL-6及びTERTよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質、並びに/又は
(B)p53及びα-SMAよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質
の発現量を測定することをさらに含み、
判定工程が、p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多いこと並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ないことに加えて、前記(A)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い場合及び/又は前記(B)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない場合に、そのMSCは当該処理に適していると判定する工程である、(22)に記載の方法。
(24)(22)又は(23)に記載の方法の測定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量に代えてMSC中のCD47陽性細胞の割合を測定し、判定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ないことに代えてMSC中のCD47陽性細胞の割合が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて低い場合にそのMSCは当該処理に適していると判定する、処理に対するMSCの適応性を判定する方法。
(25)処理が、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤を含む培地中でMSCを培養する処理である、(22)から(24)のいずれか一項に記載の方法。
(26)処理が、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いてMSCを培養する処理である、(22)から(25)のいずれか一項に記載の方法。
(27)MSCが、MSCの自家移植療法を受けようとする対象から分離されたMSCである、(22)から(26)のいずれか一項に記載の方法。
(28)MSCが骨髄由来のMSCである、(22)から(27)のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のMSC製造方法によれば、MSCの賦活化を従来よりも遥かに少ない量の賦活化剤を用いて行うことができ、貴重な賦活化剤の消費量を節約することが可能となる。また、当該製造方法により製造することができる本発明の細胞製剤は高い治療効果を有しており、治療等に必要な細胞数を減らすことが可能となる。投与細胞数の低減は、細胞培養の継代回数の低減につながり、細胞製剤の製造に必要とされる期間の短縮及びコストの削減といった効果をもたらす。さらに、本発明の治療効果マーカー及び判定方法によれば、MSCの治療効果を対象への投与の前に判定することができる。加えて、本発明の適応性判定方法によれば、賦活化処理等の処理に対するMSCの適応性を、治療に必要とされる量のMSCを調製する前に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体(以下、3次元培養担体ともいう)上で賦活化剤の存在下で培養した変形性股関節症患者MSC(以下、OA-MSCという)の遺伝子発現プロファイルをクラスター解析した結果を示す図である。
【図2】従来型の2次元構造の細胞培養担体(以下、2次元培養担体という)上で賦活化剤の存在下で培養したOA-MSC、及び3次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養したOA-MSCにおけるマーカー遺伝子の相対的発現量を、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したOA-MSCのそれと比較して表したグラフである。
【図3】3次元培養担体上で培養したOA-MSC及び2次元培養担体上で培養したOA-MSCの外観を示す電子顕微鏡観察写真である。左上が賦活化剤を加えずに3次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率600倍)、右上が賦活化剤を加えて3次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率200倍)、左下が賦活化剤を加えずに2次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率700倍)、右下が賦活化剤を加えて2次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率500倍)に対応する。
【図4】3次元培養担体上で培養したOA-MSC及び2次元培養担体上で培養したOA-MSCの外観を示す強拡大の電子顕微鏡観察写真である。左上が賦活化剤を加えずに3次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率3500倍)、右上が賦活化剤を加えて3次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率2500倍)、左下が賦活化剤を加えずに2次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率7000倍)、右下が賦活化剤を加えて2次元培養担体上で培養したOA-MSC(倍率8000倍)に対応する。
【図5】比較例の細胞培養担体上で、又は別の3次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養したOA-MSCの遺伝子発現プロファイルを、3次元培養担体のそれと合わせてクラスター解析した結果を示す図である。
【図6】別の3次元培養担体上で、賦活化剤を加えて培養したOA-MSCの外観を示す電子顕微鏡観察写真(倍率3500倍)である。
【図7】2次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養した健常者MSC及び3次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養した健常者MSCにおけるOCT4、SOX2及びTSG-6遺伝子の相対的発現量を、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養した健常者MSCのそれと比較して表したグラフである。
【図8】賦活化剤で処理されたOA-MSCを投与した皮膚欠損モデルラットの、皮膚切除後3日目及び7日目の残存欠損面積を示すグラフである。
【図9】賦活化剤で処理されたOA-MSCを投与した皮膚欠損モデルラットの、皮膚切除7日後の皮膚欠損部を示す写真である。
【図10】賦活化剤で処理されたOA-MSCを投与した皮膚欠損モデルラットの、皮膚切除21日後の皮膚組織の破断応力を測定した結果を示すグラフである。
【図11】賦活化剤で処理されたOA-MSCを投与したアルツハイマー病モデルマウスの、モリス水迷路での学習テストの結果を示すグラフである。縦軸のEscape latencyはマウスがプール内に置かれたプラットホームにたどり着くまでの時間を、横軸は学習テスト開始からの日数を示す。
【図12】賦活化剤で処理されたOA-MSCを投与したアルツハイマー病モデルマウスの、モリス水迷路での記憶テストの結果を示すグラフである。縦軸のTime in quadrantは、総遊泳時間に対する、学習過程でプラットフォームのあった4分割エリア内で遊泳する時間の割合を示す。
【図13】賦活化剤で処理されたOA-MSCを移植した、抗がん剤処置後の糖尿病性腎症ラットの血清クレアチニンの推移を示すグラフである。
【図14】賦活化剤で処理されたOA-MSCを移植した、抗がん剤処置後の糖尿病性腎症ラットの移植後11週までの生存率の推移を示すグラフである。太線は各群の平均値を、細線は各群の95%CI(信頼区間)を示す。
【図15】OA-MSC(n=10)の遺伝子発現プロファイルをクラスター解析した結果を示す図である。
【図16】OA-MSC(n=10)の遺伝子発現プロファイルをクラスター解析した結果を示す図である。
【図17】賦活化剤で処理されたOA-MSCにおける遺伝子発現量を処理されていないMSCのそれと比較して算出した、OCT4、SOX2、NANOG、IDO及びTSG6のそれぞれの相対的発現量とp16ink4aの相対的発現量との相関を示す図である。
【図18】賦活化剤で処理されたOA-MSCにおける遺伝子発現量を処理されていないMSCのそれと比較して算出した、p14ARFの相対的発現量とp16ink4aの相対的発現量との相関を示す図である。
【図19】OA-MSC(BM-021、BM-022、BM-023)におけるOCT4、p16ink4a及びRB遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。図中、賦活化剤で処理されたOA-MSCをPE+又はPE+MSCと、処理されていないOA-MSCをPE-又はPE-MSCと表す(以下の図についても同様)。
【図20】3次元培養担体上で賦活化剤で処理されたOA-MSC(BM-010)におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。
【図21】3次元培養担体上で賦活化剤で処理された関節リウマチ患者MSC(RA)、高齢者MSC(Aged)、肝硬変患者MSC及び若年者MSC(Young)のそれぞれにおけるCD47遺伝子の相対的発現量を、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したMSCのそれと比較して表したグラフである。
【図22】未処理の若年者MSC及び高齢者MSCのそれぞれにおける細胞表面のCD47発現量を示すヒストグラムである。
【図23】3次元培養担体上で賦活化剤で処理された若年者MSC及び高齢者MSCのそれぞれにおける細胞表面のCD47発現量を示すヒストグラムである。
【図24】OA-MSC(BM-008、BM-021、BM-005)におけるp16ink4a遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。
【図25】OA-MSC(BM-008、BM-021、BM-005)と共培養したRAW264.7細胞の貪食能を示すグラフである。
【図26】OA-MSC(BM-008、BM-021、BM-005)と共培養したRAW264.7細胞におけるFpr2(Formyl Peptide Receptor-2)遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。
【図27】OA-MSC(BM-021)におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。
【図28】賦活化剤で処理された若しくは処理されていないOA-MSC(BM-021)又はPBSを局所投与した多発性筋炎モデルマウスにおける、死細胞を除いた単核細胞の総数に対する総マクロファージ(MΦ)、M1マクロファージ及びM2マクロファージの割合を示すグラフである。
【図29】賦活化剤で処理された若しくは処理されていないOA-MSC(BM-021)を局所投与した多発性筋炎モデルマウスの後肢筋機能を示すグラフである。
【図30】OA-MSC(BM-008)におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。
【図31】賦活化剤で処理された若しくは処理されていないOA-MSC(BM-008)又はPBSを全身投与した多発性筋炎モデルマウスの筋機能を示すグラフである。
【図32】賦活化剤で処理された若しくは処理されていないOA-MSC(BM-008)又はPBSを全身投与した多発性筋炎モデルマウスの筋組織のHE染色像である。
【図33】賦活化剤で処理された若しくは処理されていないOA-MSC(BM-008)又はPBSを全身投与した多発性筋炎モデルマウスの筋断面積を示す図である。
【図34】2次元培養担体又は3次元培養担体上で賦活化剤で処理されたOA-MSC(BM-021)におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を示すグラフである。
【図35】抗がん剤処置後の糖尿病性腎症ラットに移植された賦活化剤で処理されたOA-MSCにおけるOCT4、SOX2、NANOG、p16ink4a、p14ARF、IDO、α-SMA及びTERTそれぞれの遺伝子の相対的発現量を、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したMSCのそれと比較して表したグラフである。
【図36】3次元培養担体上で賦活化剤で処理したCDKN2AノックアウトOA-MSCのp16ink4aの発現を示す画像である。
【図37】3次元培養担体上で賦活化剤で処理したCDKN2AノックアウトOA-MSCを下腿三頭筋に局所投与した多発性筋炎モデルマウスの筋組織のラミニン染色像(左)及び筋断面積を示す図(右)である。
【図38】CD47を過剰発現させたOA-MSCを投与した皮膚欠損モデルマウスの、皮膚切除後3日目から9日目の創傷面積変化量を示すグラフ(左)及び皮膚切除後9日目の皮膚欠損部の代表例の写真(右)である。
【図39】CD47陽性細胞率の異なる2種類のOA-MSCを投与したアルツハイマー病モデルマウスの、モリス水迷路での学習テストの結果を示すグラフである。
【図40】CD47陽性細胞率の異なる2種類のOA-MSCを投与したアルツハイマー病モデルマウスの、モリス水迷路での記憶テストの結果を示すグラフである。
【図41】抽出方法の異なる別の賦活化剤の存在下で2次元培養担体又は3次元培養担体上で培養したOA-MSC及び賦活化剤の不存在下で3次元培養担体上で培養したOA-MSCにおけるOCT4、SOX2及びTSG-6遺伝子の相対的発現量を、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養した健常者MSCのそれと比較して表したグラフである。
【図42】抽出方法の異なる別の賦活化剤の存在下で2次元培養担体又は3次元培養担体上で培養したOA-MSC及び賦活化剤の不存在下で3次元培養担体上で培養したOA-MSCにおけるp16ink4a遺伝子の相対的発現量を、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養した健常者MSCのそれと比較して表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
賦活化されたMSCの製造方法
本発明の第1の態様は、哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤でMSCを処理する賦活化工程を含む、賦活化されたMSCの製造方法であって、賦活化工程が、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて、前記賦活化剤を含む培地中でMSCを培養する工程である、前記製造方法に関する。

【0014】
本発明において使用されるMSCは、健常な対象から分離されたMSCであっても、疾患を有する対象から分離されたMSCであってもよい。また、本発明において使用されるMSCは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)等の多能性幹細胞から分化誘導して得られたものであってもよい。

【0015】
本明細書における用語「対象」、「疾患を有する対象から分離されたMSC」及び「哺乳動物の胎児付属物からの抽出物」は、いずれも特許文献1である国際公開WO2015/137419号パンフレット及びこれに対応する米国出願である米国特許出願公開US2017/0071984号公報に記載された各用語と同じ意味をもつものとして解釈される。これらの文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるが、これらの文献及び本明細書における各用語の意味の概略を以下に示す。

【0016】
「対象」とは、MSCを有する任意の動物を意味し、好ましくは哺乳動物の個体、例えば、ヒト、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等の齧歯類、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の偶蹄目、ウマ等の奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコ等の個体であり、さらに好ましくはヒトの個体である。

【0017】
特許文献1にも記載があるように、ある種の疾患を有する対象及び老化した対象のMSCは、健常者のMSCと比べて治療効果が低いことが知られており、これらの対象に自己MSCをそのまま移植しても高い治療効果は期待できない。一方、第1の態様の製造方法によると、そのような治療効果が低いMSCであっても賦活化して治療効果を高めることができる。治療効果が低いMSCを有する対象が罹患している疾患は慢性疾患であり、その例は特許文献1にMSCが異常化する疾患として記載されている。

【0018】
MSCは、その後の細胞移植療法における安全性を考慮した場合、細胞を投与する個体と同種又は近縁種の個体から採取するのが好ましい。例えば、ヒトの個体に細胞移植を行う場合、好ましくは同種であるヒトから採取された細胞が、より好ましくは投与を受ける同一のヒト個体から採取された細胞、すなわち自己MSCが用いられる。

【0019】
本発明において使用されるMSCは、対象の骨髄液、脂肪組織、胎児付属組織、歯髄等の試料から、一般的な方法で採取することができる。例えば、試料として骨髄液を用いる場合、密度勾配遠心法、骨髄播種法等の公知の手法により、MSCを分離することが可能である。本発明の好ましい実施形態の一つにおいて、MSCは、骨髄由来のMSCである。

【0020】
「哺乳動物の胎児付属物からの抽出物」は、哺乳動物、好ましくはヒトの胎児娩出後に後産として母体から娩出されるか又は帝王切開により母体から摘出された胎児付属物、好ましくは臍帯組織、胎盤組織又は卵膜を、そのまま又は切断若しくは破砕して、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、細胞培養において通常用いられる培地等の抽出媒体中に浸漬する等して調製される抽出物である。抽出物は、特に、ドナーである哺乳動物由来の増殖能を有する細胞を含まないものであることが好ましい。具体的な抽出操作及び条件は、特許文献1に記載された操作及び条件に従えばよい。

【0021】
また、「哺乳動物の胎児付属物からの抽出物」は、胎児付属物、典型的には胎盤から生理活性物質を抽出する際に当業者が通常用いる処理、例えば酸や酵素を用いた加水分解等の処理を胎児付属物に施すことによっても調製することができる。かかる抽出物の例は、メルスモン製薬株式会社から販売されているヒト胎盤抽出物「メルスモン」、株式会社日本生物製剤から販売されているヒト胎盤抽出物「ラエンネック」その他の市販胎盤製剤及びプラセンタエキスと呼ばれる様々な市販品である。

【0022】
本発明における「哺乳動物の胎児付属物からの抽出物を有効成分として含有する賦活化剤」とは、前述の抽出物を有効成分として含有する、MSCの治療効果を増大させるための剤をいい、以下これを「賦活化剤」と表す。ここで「賦活化」とは、何らかの処理を受けたMSCが、未処理の場合と比較してより高い治療効果を示すようになることを意味する。

【0023】
第1の態様の製造方法において、賦活化工程は、インビトロで、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて、前記賦活化剤を含む培地中でMSCを培養することにより行われる。具体的には、3次元培養担体を足場として使用し、賦活化剤の存在下でMSCを培養することにより行われる。

【0024】
好ましい実施形態において、3次元培養担体は、ナノメートル(nm)~マイクロメートル(μm)単位の平均繊維径を有するファイバーからなる。ここで「平均繊維径」は、培養担体を細胞接着面の側から、典型的には上から観察したときにファイバーの長さ方向に対して直交する方向における長さとして測定されるファイバー径の算術平均値をいう。さらに好ましい実施形態において、3次元培養担体は、ナノメートル(nm)~マイクロメートル(μm)単位の平均繊維径を有するファイバーによって細胞と接触する面上に形成された開口部を有する。ここで「開口部」は、上記ファイバーにより形成される、担体の細胞との接触面上に存在するくぼみをいう。なお、特に指定がないかぎり、本明細書における平均とは数平均を意味する。

【0025】
開口部の平均径は、ファイバー同士が接している場合は、培養担体を上から観察したときに認められる、ファイバーを輪郭とした図形の径の平均値をいう。図形の径とは、図形が多角形の場合は各頂点からの対角線の長さの算術平均値に、図形が円形の場合はその直径に、図形が楕円形又はそれに類似した形状の場合はその長径に相当する。

【0026】
また、ファイバー同士が接していない場合、開口部の平均径は、ASTM-F316に規定されている方法により得られる平均流量孔径をいい、これは、例えばポロメーター(コールター社製等)を用いてミーンフローポイント法により測定することができる。

【0027】
3次元培養担体を構成するファイバーの平均繊維径は、nm~μm単位の範囲内に、好ましくは10nm~500μm、より好ましくは10nm~300μmの範囲内にあり得る。特定の実施形態において、平均繊維径は、例えば10nm~1μm、100nm~1μm、500nm~1μm、1μm~10μm、1μm~100μm、1μm~300μm、又は1μm~500μmの範囲内に、好ましくは10nm~1μm、1μm~10μm又は10μm~300μmのいずれかの範囲内にあればよい。本発明においては、一般にナノファイバーと呼ばれるファイバーを用いることもできる。

【0028】
細胞との接着面上に開口部を有する3次元培養担体において、開口部の平均径は、500nm~1000μmであればよく、好ましくは700nm~600μm、より好ましくは900nm~400μmの範囲内にあり得る。特定の実施形態において、開口部の平均径は、例えば500nm~100μm、5μm~100μm、10μm~100μm、20μm~100μm、100μm~200μm、100μm~400μm、又は100μm~600μmの範囲内に、好ましくは500nm~100μm又は100μm~400μmの範囲内にあればよい。

【0029】
特定の実施形態において、3次元培養担体は、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上の空隙率を有する。

【0030】
別の実施形態において、3次元培養担体の開口部の平均面積は、0.1~100μm、好ましくは0.2~60μm、より好ましくは0.5~30μmである。開口部が孔である場合、開口部面積は孔面積に相当する。

【0031】
3次元培養担体は、ファイバーが3次元的に集積した、すなわちファイバーが3次元方向に積み重なった構造を持つものであり、ファイバーの配置が規則的であってもなくてもよく、またファイバー同士が結合していても結合していなくてもよい。

【0032】
3次元培養担体は、細胞接着面にファイバーからなる3次元構造を有するものであればよく、細胞と接着しない部分、典型的にはファイバーからなる3次元構造の下にベースとなる部材を有していてもよい。ベース部材は、前記3次元構造を支持できるものであればどのような構造体であってもよく、例えば、不織布、編物、織物、多孔質足場材料等であり得る。

【0033】
3次元培養担体における細胞接着面は、その主たる部分がファイバーからなる3次元構造を有する部分であればよく、具体的には、培養担体を細胞接着面の側から、典型的には上から観察したときの培養担体の面積の50%以上がファイバーからなる3次元構造を有する部分で占められていればよい。したがって、3次元培養担体は、細胞接着面の一部に「ファイバーからなる3次元構造」ではない部分、例えば3次元構造を持たない平坦な膜状の部分等を、接着面における当該部分の面積が50%に満たない範囲で、好ましくは40%に満たない範囲で、さらに好ましくは30%に満たない範囲で含むことができる。

【0034】
ファイバーを形成する素材としては特に制限はなく、ポリフッ化エチレン、ポリスチレン等のポリマー化合物、シリカ等の無機化合物、生分解性ポリマー等を挙げることができる。生分解性ポリマーとしては、生体適合性を有し、所望の期間にわたって培養担体上で3次元構造を維持することができるものであればよく、例えば合成高分子材料ではポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、その他乳酸-グリコール酸共重合体等の上記の共重合体;無機材料ではβ-りん酸三カルシウム、炭酸カルシウム等;天然高分子材料ではコラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、アガロース、キトサン、フィブリン、フィブロイン、キチン、セルロース、シルク等が挙げられる。

【0035】
3次元培養担体は、培養時に細胞がファイバーからなる3次元構造に接触できるものであるかぎり形状に制限はない。3次元培養担体は、細胞培養容器内に設置されて使用されるインサート状の形状であってもよく、あるいは細胞培養容器の内面、例えばウェルの底面等にファイバーからなる3次元構造が一体的に成形された形状であってもよい。

【0036】
本発明において利用可能な3次元培養担体の例としては、ベセル株式会社のVECELL(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、平均繊維径:<1μm、平均孔面積:1~20μm、開口部の平均径:20~100μm、空隙率:80~90%)、日本バイリーン株式会社のCellbed(登録商標)(高純度シリカファイバー、平均繊維径:1μm、平均流量孔径:7~8μm、空隙率:>95%)、3D Biotekの3D Insert-PSシリーズ(ポリスチレンファイバー、平均繊維径:PS-200は~150μm、PS-400は~300μm、開口部の平均径:PS-200は200μm、PS-400は400μm)、国際公開WO2014/196549号パンフレットに記載された細胞培養基材、国際公開WO2016/068266号パンフレット及びこれに対応する米国出願である米国特許出願公開US2017/319747号公報に記載された細胞培養基材(生分解性ポリマー、平均繊維径50nm~5μm)、Liu L,Kamei K et al. Biomaterials 124(2017) 47-54に記載された細胞培養基材(ポリグリコール酸、平均繊維径:345±91nm、平均孔面積:0.68±0.02μm、平均孔面積から算出される開口部の平均径:0.93μm((0.68μm/π)1/2)×2)、ネオベール及びネオベールナノ(グンゼ株式会社)といった市販の組織補強材等を挙げることができる。上記の各文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。

【0037】
3次元培養担体上でのMSCの培養は、24時間~144時間、好ましくは24時間~96時間、より好ましくは48~96時間行われる。賦活化工程における培養温度及びガス濃度は、MSCの培養に通常用いる温度及びガス濃度の範囲内であればよく、温度は例えば25℃~37℃、好ましくは30℃~37℃、より好ましくは37℃であり、酸素濃度は例えば2%~30%、好ましくは2%~20%である。賦活化処理は、十分な賦活化が達成されるまで、複数回行うことができる。

【0038】
賦活化工程における培地中の賦活化剤の濃度は、タンパク質換算の最終濃度で0.01μg/mL~500μg/mLであれば足りるが、好ましくは0.02μg/mL~300μg/mL、0.03μg/mL~200μg/mL、より好ましくは0.04μg/mL~100μg/mLであり、特定の実施形態においては0.05μg/mL~10μg/mLであり得る。特許文献1において例示されている賦活化剤のより好ましい濃度0.1mg/mL(100μg/mL)~5mg/mL(5000μg/mL)と上記特定の実施形態における賦活化剤の濃度とを比較することで示されるように、3次元培養担体を用いることによって、賦活化剤の濃度を従来の1/10~1/100000にまで低減することができる。賦活化剤の濃度範囲の下限は、例えば従来の2次元培養担体を用いる場合に使用される濃度の1/100000、1/50000、1/20000、1/10000、1/5000又は1/2000であり、賦活化剤の濃度範囲の上限は、例えば従来の2次元培養担体を用いる場合に使用される濃度の1/10、1/20、1/50、1/100、1/200、1/500又は1/1000である。

【0039】
培地は、MSCの培養に通常用いられる培地、例えばα-MEM、DMEM等を利用することができる。これら培地は、賦活化を妨げない限り、MSCの増殖に必要な各種成分、例えば血清成分等を含有していてもよい。

【0040】
後の実施例において示すように、3次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養したMSCは、ファイバーからなる3次元構造を有さない培養担体、例えばCorning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養プレート(Thermo Fisher Science社)等のポリスチレン等からなる2次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養したMSCと比較して、より高い治療効果を有する。治療効果がより高いMSCであればより少ない細胞数でも効果を期待することができることから、本発明における賦活化工程のMSCの継代回数は、ファイバーからなる3次元構造を有さない細胞培養担体を用いてMSCを培養する賦活化工程におけるそれよりも少なくすることが可能となる。賦活化工程におけるMSCの継代回数は好ましくは2回以下であり、1回、さらには0回であってもよい。また第1の態様の製造方法により製造される賦活化されたMSCは、好ましくは継代数が3、すなわちP3以下であり、P2、さらにはP1であってもよい。

【0041】
MSCが賦活化されたか否かの判定は、特許文献1に記載された方法及び基準に従って行うことができる。例えば、疾患モデル動物や疾患モデル動物由来細胞等の疾患を反映した評価系において、3次元培養担体上で賦活化剤の存在下で培養したMSC(以下、「3D賦活化処理MSC」ともいう)の治療効果が、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したMSC(以下、「比較対象MSC」ともいう)と比べて高い場合、その3D賦活化処理MSCは賦活化されたと判定される。

【0042】
また、細胞及び細胞内小器官の形態、細胞増殖能、分化能、並びに治療効果のあるMSCのマーカーとして公知の増殖因子、分化関連因子及びサイトカイン・ケモカインといった各種因子のタンパク質発現量、遺伝子発現量、細胞外分泌量等の評価指標を用いることによっても賦活化を判定することができる。

【0043】
例えば、3D賦活化処理MSCの細胞増殖能又は分化能が比較対象MSCと比べて高い場合、その3D賦活化処理MSCの治療効果が高い、すなわち賦活化されたと判定することもできる。

【0044】
さらに、幹細胞性に関与する因子(例えばDNMT1、Nanog、SOX2及びOCT4等)、免疫制御・抗炎症機能に関与する因子(例えばIDO、TSG6及びIL-6等)若しくはテロメアーゼ活性に関与する因子(例えばTERT等)の遺伝子若しくはタンパク質発現量が3D賦活化処理MSCにおいて比較対象MSCよりも多い場合に、又は細胞老化に関与する因子(例えばP53等)若しくは細胞骨格に関与する因子(例えばα-SMA等)の遺伝子若しくはタンパク質発現量が3D賦活化処理MSCにおいて比較対象MSCよりも少ない場合に、その3D賦活化処理MSCの治療効果が高い、すなわち賦活化されたと判定することもできる。

【0045】
さらには、3D賦活化処理後のMSCの細胞の厚みの増加、突起数の増加、ネットワーク構造の形成亢進、分泌小胞の形成亢進等が観察された場合に、その3D賦活化処理MSCの治療効果が高い、すなわち賦活化されたと判定することもできる。

【0046】
加えて、後に説明するように、本発明者らが新たに見出したMSCの治療効果との正の相関性が高いp16ink4a及びp14ARF、並びに同じく本発明者らが新たに見出したMSCの治療効果との負の相関性が高いCDK4、CDK6、RB及びCD47の遺伝子又はタンパク質発現を指標として、3D賦活化処理MSCの治療効果が比較対象MSCのそれより高いか否か、すなわち3D賦活化処理MSCが賦活化されたか否かと判定することもできる。

【0047】
賦活化されたMSCは、未分化な状態で維持してもよく、あるいは所望の細胞に分化させてもよい。MSCの未分化状態での維持は、未分化状態の維持に好適な培地、例えばHyClone AdvanceSTEM Mesenchymal Stem Cell Expansion Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、MesenCult(商標)MSC Basal Medium(STEMCELL Technology)、Stromal Cellutions(商標)Media(DV Biologics)、MSC専用培地キット(MSCGM BulletKit、Lonza)等を用いて、MSCを培養することにより行うことができる。また、MSCの分化は、所望の細胞への分化誘導作用を持つ因子を加えた分化誘導培地中での培養等の一般に知られる方法で行うことができる。例えば、骨芽細胞への分化においてはBone Morphogenetic Proteins(BMP)4、BMP2等が、脂肪細胞への分化においてはデキサメタゾン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、インスリン等が分化誘導因子として用いられる。

【0048】
またMSCは、賦活化、増殖培養、分化誘導培養等の処理の前後において、凍結保存等の一般的な手法により保存することができる。例えば、賦活化されたMSCを培養により増殖させた後に、一定の細胞数となるように分けて保存しておき、投与の度に必要量を解凍して用いることが可能である。

【0049】
MSCの治療効果マーカー、及びMSCの治療効果の判定方法
本発明の別の態様は、p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される、MSCの治療効果と正に相関するMSCの治療効果評価のためのマーカーに関する。また、本発明のさらなる別の態様は、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される、MSCの治療効果と負に相関するMSCの治療効果評価のためのマーカーに関する。

【0050】
p16ink4aは、アンキリンリピートを有するサイクリン依存性キナーゼ阻害因子である。p16ink4aは、癌抑制因子の1つとして知られ、また細胞が分裂寿命に達する、発癌ストレスに曝される等でDNA損傷が生じたときに発現量が上昇する老化関連遺伝子としても知られている(E.Hara et al.,Mol.Cell.Biol.,1996,Vol.16,p.859-867;B.G.Childs et al.,Nature Medicine,2015,vol.21,p.1424-1435)。

【0051】
p16ink4aは、サイクリン依存性キナーゼであるCDK4及びCDK6、細胞周期の制御因子であるRB(レチノブラストーマタンパク質、RBをコードする遺伝子はRbとも呼ばれる)と共に、p16ink4a-RB経路と呼ばれるシグナル伝達経路を形成する。同経路において、p16ink4aはCDK4/6と特異的に結合してその作用を阻害する。CDK4/6の阻害は、活性型の脱リン酸化RBを増加させ、細胞周期の進行を停止させる。以下、これらの因子をまとめてp16ink4a-RB経路因子とも呼ぶ。

【0052】
ヒトのp16ink4a遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はデータベース名GenBank/NCBIにアクセッション番号NM_000077及びNM_001195132として、タンパク質のアミノ酸配列はデータベース名GenPept(NCBI Protein Database)にアクセッション番号NP_000068として、それぞれ登録されている。

【0053】
ヒトのCDK4及びCDK6の遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はデータベース名GenBank/NCBIにアクセッション番号NM_000075及びNM_001259として、タンパク質のアミノ酸配列はデータベース名GenPept(NCBI Protein Database)にアクセッション番号NP_000066及びNP_001138778(又はNP_001250)として、それぞれ登録されている。

【0054】
ヒトのRBの遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はデータベース名GenBank/NCBIにアクセッション番号NM_000321として、タンパク質のアミノ酸配列はデータベース名GenPept(NCBI Protein Database)にアクセッション番号NP_000312として、それぞれ登録されている。

【0055】
p14ARFは、p16ink4aのスプライシングバリアントであり、両者はCDKN2A遺伝子によりコードされている。p14ARFは、p53安定化タンパク質であるMDM2に結合することでp53の分解を抑制する機能を有しており、p16ink4a同様に癌抑制因子の1つとして知られている。

【0056】
ヒトのp14ARF遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はデータベース名GenBank/NCBIにアクセッション番号NM_058195として、タンパク質のアミノ酸配列はデータベース名GenPept(NCBI Protein Database)にアクセッション番号NP_478102として、それぞれ登録されている。

【0057】
CD47(インテグリン関連タンパク質(IAP)とも呼ばれる)は、イムノグロブリンスーパーファミリーに属する膜貫通型タンパク質である。正常細胞の細胞膜上に発現したCD47はマクロファージ細胞膜上のシグナル制御タンパク質α(SIRPα)と結合し、これによりマクロファージの貪食作用を抑制することが知られている。細胞移植療法において用いられる細胞は、マクロファージによる貪食を回避するため、CD47を発現していることが好ましいと考えられている。またCD47は、MSCのホーミング及び組織修復効果を増大させることが報告されており(Int J Clin Exp Pathol.2015;8(9):10555-10564)、MSCの疾患治療効果を高める機能を有すると推測されている。

【0058】
ヒトのCD47遺伝子及びタンパク質に翻訳されるmRNAの塩基配列はデータベース名GenBank/NCBIにアクセッション番号NM_001777及びNM_198793として、タンパク質のアミノ酸配列はデータベース名GenPept(NCBI Protein Database)にアクセッション番号NP_001768として、それぞれ登録されている。

【0059】
意外なことに、賦活化されたMSCの遺伝子発現プロファイルを解析した結果、賦活化処理によるp16ink4a-RB経路因子の発現変動、具体的にはp16ink4aの遺伝子発現量の増加、並びにp16ink4aの下流因子であるCDK4、CDK6及びRBの遺伝子発現量の減少等が見出された。また、p14ARFの遺伝子発現量は、p16ink4aと同じく増加を示し、一方、CD47遺伝子の発現量は減少を示した。さらに、賦活化処理しても治療効果が上昇したとは認められないMSCでは上記のようなp16ink4a-RB経路因子、p14ARF及びCD47の発現変動は起こらないことも実験的に確認された。

【0060】
加えて、賦活化されたMSCでは、幹細胞性に関与する因子であるOCT4、SOX2及びNanog、免疫制御・抗炎症機能に関与する因子であるIDO及びTSG-6といったMSCの治療効果と関連した遺伝子の発現量が増加することを本発明者らは確認しているが、p16ink4aの遺伝子発現は、これらの遺伝子の発現と非常に高い正の相関性を有することが確認された。p16ink4aの遺伝子発現はまた、p14ARFの遺伝子発現とも正に相関していた。

【0061】
また、p16ink4a及びp14ARFは、上記の治療効果と関連した遺伝子と同様に、治療効果が高いMSCにおいて発現量の増加が認められ、またCD47は治療効果が高いMSCにおいて発現量の減少が認められた。さらに、p16ink4a及びp14ARFを欠損させたMSC、CD47を強制発現させたMSCのいずれも、治療効果が低減することが実験的に確認された。

【0062】
これらの結果に基づくと、p16ink4a及びp14ARFは、MSCの疾患治療効果と正に相関するMSCの治療効果評価のためのマーカーとして、またp16ink4aの下流因子CDK4、CDK6及びRB、並びにCD47は、MSCの疾患治療効果と負に相関するMSCの治療効果評価のためのマーカーとして利用することができる。また、これらのマーカーを利用して、MSCの治療効果を評価することができる。

【0063】
本発明のまた別の態様は、被験MSCにおけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を対照MSCにおける発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ない場合に、被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定する判定工程を含む、MSCの治療効果を判定する方法に関する。

【0064】
上記態様の治療効果判定方法は、被験MSCにおけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47(以下、治療効果マーカーともいう)よりなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは2、3又は全ての遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程を含む。

【0065】
被験MSCは、治療効果の判定が望まれるMSCであればよい。被験MSCの例は、細胞移植療法において使用が予定されるMSCである。自家移植療法における使用が予定されている場合、被験MSCは、自家移植療法を受けようとする対象から分離された、好ましくは骨髄由来のMSCである。これらのMSCの治療効果を移植前に判定することによって、患者への不要な細胞移植を避けることができ、細胞移植療法の成功率を高めることができる。特定の実施形態において、被験MSCは治療効果を高める処理を施されたMSCであってよく、かかるMSCの例は、賦活化剤を含む培地中で培養された、すなわち賦活化処理されたMSCや、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて培養されたMSCである。

【0066】
MSCにおける治療効果マーカーの遺伝子又はタンパク質発現量の測定は、塩基配列又はアミノ酸配列が公知である遺伝子又はタンパク質の発現量を測定することが可能な、当業者に公知の各種方法を採用して行うことができる。

【0067】
マーカータンパク質の発現量の測定は、これに特異的な抗体を用いて、直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等のELISA法、RIA法、インサイツハイブリダイゼーション、イムノブロット解析、ウエスタンブロット解析及び組織アレイ解析等の周知の方法によって行うことができる。この場合、特異抗体は由来する動物種により制限されず、またポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよく、免疫グロブリン全長からなる抗体又はFab断片若しくはF(ab’)2断片などの部分断片などでもよい。特異抗体は、蛍光物質(例えばFITC、ローダミン、ファロイジン等)、金等のコロイド粒子、Luminex(登録商標、ルミネックス社)等の蛍光マイクロビーズ、重金属(例えば金、白金等)、色素タンパク質(例えばフィコエリトリン、フィコシアニン等)、放射性同位体(例えばH、14C、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えばペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジンその他の標識化合物によって標識されていてもよい。

【0068】
マーカー遺伝子の発現量の測定は、その塩基配列を基に設計される適当な塩基配列からなるプライマー核酸を用いたPCR法、特にリアルタイムPCR法及び核酸の絶対定量が可能なデジタルPCR法、そのmRNAの塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるプローブ核酸を用いたハイブリダイゼーション法、そのmRNAの塩基配列にハイブリダイズし得る塩基配列からなるプローブ核酸が固定化されたチップを用いたマイクロアレイ法、RNAシーケンシング法その他の、当該マーカー遺伝子の発現を検出することができる公知の方法により行うことができる。プライマー核酸又はプローブ核酸は、用いられる方法に応じて、蛍光物質、放射性同位体、酵素、ビオチン、ストレプトアビジンその他の標識化合物によって標識されていてもよい。

【0069】
上記態様の治療効果判定方法はまた、測定された発現量を対照MSCにおける発現量と比較する比較工程を含む。ここで対照MSCは、治療効果判定の基準となるMSCである。例えば、被験MSCが細胞移植療法において使用が予定されるMSCである場合には、対照MSCとしては、細胞移植療法において使用可能な最低レベルの治療効果を有するMSCを用いることができる。対照MSCにおける治療効果マーカーの遺伝子又はタンパク質発現量は、被験MSCと同時に測定されたものであっても、予め用意されたものであってもよい。

【0070】
上記態様の治療効果判定方法は、p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ない場合に、被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定する判定工程をさらに含む。

【0071】
判定工程においては、測定工程において測定した治療効果マーカーがp16ink4a又はp14ARFであった場合、p16ink4a又はp14ARFの遺伝子又はタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多いときに、被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定することができる。また、測定工程において測定した治療効果マーカーがCDK4、CDK6、RB又はCD47であった場合、これらの遺伝子又はタンパク質発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ないときに、被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定することができる。

【0072】
複数の治療効果マーカーを用いてMSCの治療効果を判定する場合、クラスター解析を利用することも可能である。具体的には、被験MSCにおいて測定した各治療効果マーカーの相対的発現データを、治療効果が高いポジティブコントロールのMSC、すなわち細胞移植療法において使用するのに十分なレベルの治療効果を有するMSC及び治療効果が低いネガティブコントロールのMSC、すなわち細胞移植療法において使用するには不十分なレベルの治療効果しか有さないMSCにおける各治療効果マーカーの相対的発現データと共にクラスター解析に供し、被験MSCがポジティブコントロールMSCと同じクラスターに属した場合は治療効果が高いと、ネガティブコントロールMSCと同じクラスターに属した場合は治療効果が低いと判定することができる。

【0073】
クラスター解析は、R version 3.0.1(Various R programming tools for plotting data;gplots等の統計ソフトにより、適切なクラスタリング手法、例えばウォード法や群平均法等の階層的手法を用いて行うことができる。

【0074】
また、治療効果が高いMSCでは、上記治療効果マーカーの他に、幹細胞性の指標となるDNMT1、Nanog、SOX2及びOCT4遺伝子、テロメアーゼ活性に関与する遺伝子とされるTERT遺伝子等も未処理MSCにおける発現レベルより高いことが、さらに、細胞老化に関与する遺伝子とされるp53及び細胞骨格に関与する遺伝子とされるα-SMAの発現量が未処理MSCにおける発現レベルより低いことが本発明者らにより確認されている。したがって、測定工程において上記治療効果マーカーの遺伝子又はタンパク質発現量の測定に加えて、
(A)DNMT1、Nanog、SOX2、OCT4、IDO、TSG6、IL-6及びTERTよりなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは2、3、4、5、6、7個若しくは全ての遺伝子若しくはタンパク質、並びに/又は
(B)p53及びα-SMAよりなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは全ての遺伝子若しくはタンパク質
の発現量を測定し、判定工程においてその結果を上記治療効果マーカーの遺伝子又はタンパク質発現量の変化と組み合わせること、具体的には
p16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多いこと並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ないことに加えて、前記(A)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて多い場合及び/又は前記(B)の遺伝子若しくはタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ない場合に、そのMSCは治療効果が高いと判定することも可能である。

【0075】
さらに、上記態様の治療効果判定方法の測定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量に代えてMSC中のCD47陽性細胞の割合を測定し、判定工程においてCD47遺伝子又はタンパク質の発現量が対照MSCよりも被験MSCにおいて少ないことに代えてMSC中のCD47陽性細胞の割合が対照MSCよりも被験MSCにおいて低い場合に被験MSCは対照MSCより治療効果が高いと判定する方法も、本発明に包含される。

【0076】
MSC中のCD47陽性細胞の割合は、MSCをCD47に対する標識化抗体で標識し、アイソタイプコントロール等をネガティブコントールとしてフローサイトメトリー法等で解析することにより、決定することができる。

【0077】
治療効果を高めるための処理に対するMSCの適応性判定方法
本発明のさらなる態様は、処理されたMSCにおけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を処理されていないMSCにおける発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない場合に、そのMSCは当該処理に適していると判定する判定工程を含む、MSCの治療効果を高めるための処理に対するMSCの適応性を判定する方法に関する。

【0078】
また、本発明のなおさらなる態様は、処理されたMSCにおけるp16ink4a、p14ARF、CDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子又はタンパク質の発現量を測定する測定工程、測定された発現量を処理されていないMSCにおける発現量と比較する比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない若しくは同等である場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い若しくは同等である場合に、そのMSCは当該処理に適していないと判定する除外判定工程を含む、MSCの治療効果を高めるための処理に対するMSCの適応性を判定する方法に関する。

【0079】
上記態様の適応性判定方法における「処理されたMSC」とは、MSCの治療効果を高めるための何らかの処理を受けたMSCをいう。また「処理されていないMSC」とは、かかる処理を受けていないMSC又はかかる処理の対照となる処理を受けたMSCをいう。このような処理とその対照処理の例としては、賦活化剤存在下での培養/賦活化剤不存在下での培養、3次元培養担体上での培養/2次元培養担体上での培養、低酸素濃度下又は低栄養下での培養/通常酸素濃度下又は通常栄養下での培養、微小重力環境又は過重力環境での培養/通常重力環境の培養、bFGF、TNF-α、IL-6、TGF-β又はPDGFといった増殖因子、サイトカイン・ケモカイン等の存在下での培養/不存在下での培養、遺伝子の導入による形質転換処理/未処理等が挙げられる。

【0080】
上で述べたように、p16ink4a及びp14ARFはMSCの治療効果と正に相関し、CDK4、CDK6、RB及びCD47はMSCの治療効果と負に相関することから、MSCの治療効果を高めるための処理をされたMSC及び処理されていないMSCにおけるこれらの発現量を比較することで、そのMSCが当該処理に応答性であるか否か、当該処理に対する適応性があるか否かを判定することができる。

【0081】
上記態様の適応性判定方法における測定工程及び比較工程は、前述の治療効果判定方法の対応する工程に説明されるとおりである。また、処理されていないMSCにおける治療効果マーカーの遺伝子又はタンパク質発現量は、処理されたMSCと同時に測定されたものであっても、予め用意されたものであってもよい。

【0082】
処理されたMSCにおけるp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない場合には、そのMSCは当該処理により治療効果が高められるMSCであると予測され、当該処理に適しているMSCである、言い換えればそのMSCは当該処理への適応性がある、と判定することができる。上記態様の適応性判定方法はまた、前記測定工程及び比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない場合にそのMSCの治療効果が当該処理により上昇したと判定する工程を含む、MSCの治療効果を高めるための処理によるMSCの治療効果の上昇を判定する方法と表すこともできる。

【0083】
一方、処理されたMSCにおけるp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない若しくは同等である場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い若しくは同等である場合には、そのMSCは治療効果を高めるための処理をしても治療効果が高められる可能性が低いMSCであると予測され、そのMSCは当該処理への適応性が低い又はないと判定することができる。上記態様の適応性判定方法はまた、前記測定工程及び比較工程、並びにp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない若しくは同等である場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い若しくは同等である場合にそのMSCの治療効果が当該処理により上昇していないと判定する工程を含む、MSCの治療効果を高めるための処理によるMSCの治療効果の上昇の不存在を判定する方法と表すこともできる。

【0084】
上記態様の適応性判定方法においては、前述の治療効果判定方法と同じく、複数の治療効果マーカーを用いた適応性判定の際のクラスター解析の利用、幹細胞性に関与する因子、免疫制御・抗炎症機能に関与する因子及びテロメアーゼ活性に関与する因子と組み合わせての判定、並びにCD47遺伝子又はタンパク質の発現量に代えたMSC中のCD47陽性細胞の割合の使用も可能であり、その詳細は前述の治療効果判定方法に説明されるとおりである。

【0085】
なお、上記態様の適応性判定方法におけるMSCの治療効果を高めるための処理に代えてMSCの治療効果を高めるか否か不明である処理を行い、そのMSCにおけるp16ink4a及びp14ARFよりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて多い場合並びに/又はCDK4、CDK6、RB及びCD47よりなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子若しくはタンパク質の発現量が処理されていないMSCよりも処理されたMSCにおいて少ない場合に、当該処理がMSCの治療効果を高めるのに適していると判定することもできる。本発明は、このような判定方法も提供する。

【0086】
上記の治療効果判定方法及び適応性判定方法によって、治療効果が高い、治療効果を高めるための処理への適応性が高い又は治療効果が上昇したと判定されたMSCについては当該処理による移植用MSCの製造又はその検討をさらに進めればよい。一方、治療効果が低い、適応性が低い若しくはない又は治療効果が上昇していないと判定されたMSCについては当該処理による移植用MSCの製造を行わず、MSC及び処理に必要とされる賦活化剤等の薬剤の消費を抑制することができる。

【0087】
細胞製剤
本発明の別の態様は、CD47陽性細胞の割合が2%以下である、MSCを含む細胞製剤に関する。

【0088】
前述のとおり、CD47はMSCの治療効果と負に相関する治療効果マーカーであることが確認されている。本発明者らは、第1の態様の製造方法によって、CD47陽性細胞の割合が極めて低いMSCを製造することができることを見出した。かかるMSCは治療効果が極めて高いものと期待されることから、これを含む細胞製剤は、MSCを用いた細胞移植療法が有効な疾患の治療及び/又は予防のための医薬として利用することができる。

【0089】
細胞製剤は、第1の態様の製造方法により製造したMSCを用いて製造することができる。細胞製剤に含まれるMSCは、CD47陽性細胞の割合が2%以下であるという特徴を有する。後の実施例において示すように、治療効果が高いと考えられる若年者から採取したMSCにおいてすらCD47陽性細胞の割合は2%を超えていたことからすると、このようにCD47陽性細胞の割合が極めて低いMSCは従来にない高い治療効果を有するものと期待される。

【0090】
細胞製剤に含まれるMSCにおけるCD47陽性細胞の割合は2%以下、好ましくは1.5%以下である。MSC中のCD47陽性細胞の割合は、前述の治療効果判定方法において既に述べた手法により、確認することができる。

【0091】
細胞製剤は、対象から分離されたMSC等のMSC集団の中からCD47陰性のMSCを濃縮することによっても、製造することができる。したがって、本発明は、MSC集団の中からCD47陰性のMSCを濃縮する工程を含む、MSCを含む細胞製剤の製造方法も提供するものである。

【0092】
CD47陰性MSCの濃縮は、特定の細胞表面マーカーを有さない細胞の濃縮に用いられる周知の技術、例えばCD47のネガティブセレクションにより行うことができる。CD47のネガティブセレクションにおいて、MSC集団はCD47特異抗体が結合したビーズやCD47特異抗体を用いたフローサイトメトリーに供され、抗体と結合しないMSCが回収される。

【0093】
細胞製剤は、有効量のMSCを含む。「有効量」とは、疾患を治療及び/又は予防するのに効果的な量を意味する。かかる有効量は疾患の種類、症状の重症度、投与経路、患者その他の医学的要因によって適宜調節される。好ましい実施形態において、MSCの有効量は、全身投与の場合で投与される個体の体重1kgあたり10細胞~10細胞、好ましくは10細胞~10細胞であり、局所投与の場合で投与される個体の体重1kgあたり10細胞~10細胞、好ましくは10細胞~10細胞である。前述の通り、本発明の第1の態様に係る製造方法により製造されるMSCは、ファイバーからなる3次元構造を有さない培養担体上で、典型的には2次元培養担体上で賦活化剤を用いて賦活化されたMSCと比較してより高い治療効果を有することから、細胞製剤中のMSCの有効量は、ファイバーからなる3次元構造を有さない細胞培養担体を用いて製造される賦活化されたMSCの有効量の1/20~1/2の量、好ましくは1/10~1/4の量であり得る。これら有効量の細胞製剤は、1回又は複数回に分けて投与することができる。

【0094】
またMSCの培養物には、MSCが産生する様々な液性因子が含まれており、やはり疾患治療効果を有することが知られている。したがって、上記態様の細胞製剤に含まれるMSCを培養して得られる培養物もまた、疾患の治療及び/又は予防のための医薬として利用することができる。培養物は、好適には培養上清であり、MSCの培養に通常用いられる培地、例えばα-MEM、DMEM等の中で、賦活化剤の存在下でMSCを培養することにより、又は賦活化された後のMSCを培養することにより、得ることができる。MSC培養物を含む医薬における培養物の有効量は、投与される個体の体重1kgあたり0.01mg~100mg、好ましくは0.02mg~50mg、より好ましくは0.05mg~20mgであり、これを1回又は複数回に分けて投与することができる。

【0095】
上記の細胞製剤、及び培養物を含む医薬(以下まとめて本発明の医薬という)は、通常、注射剤等の非経口製剤の形態で用いられる。非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖、D-ソルビトール等を含む等張液といった水性担体が挙げられる。また本発明の医薬は、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤その他の成分を含む医薬組成物であってもよい。

【0096】
本発明の医薬の投与方法は、特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与、被膜下投与等の局所投与(被膜は各種臓器を被う膜組織を意味する)を挙げることができる。好ましい実施形態の一つにおいて、本発明の医薬は、静脈内投与により生体に投与される。また、本発明の医薬は、治療及び/又は予防される疾患に応じて、その他の医薬と組み合わせて使用してもよい。

【0097】
細胞製剤は、3次元培養担体に接着した形態で、生体内で疾患が生じている部位、生じるおそれがある部位若しくは疾患の原因となる部位、又はそれらの近傍に貼付することにより、生体に局所投与することもできる。本実施形態においては、3次元培養担体のファイバーを形成する素材は、生体適合性材料、特に生分解性ポリマーであることが好ましい。

【0098】
本発明の医薬は、MSCを用いた細胞移植療法が有効な疾患、例えば糖尿病及びその合併症、脳血管疾患、脳変性疾患、脱髄性疾患、機能性発作性疾患、認知症性疾患、末梢神経疾患、心血管疾患、自己免疫疾患、肝・胆道・膵疾患、胃・十二指腸疾患、小腸・大腸疾患、甲状腺疾患、血液・造血器疾患、肺疾患、急性腎障害及び慢性腎臓病、眼疾患、皮膚疾患、筋・骨疾患、外傷及びGVHD(移植片対宿主病)の治療及び/又は予防のために用いることができる。これらの疾患としては、具体的に、1型糖尿病及び2型糖尿病並びにこれらの合併症、例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽など;脳卒中(脳梗塞及び脳出血)などの脳血管疾患、パーキンソン病、ハンチントン病、大脳基底核変性症、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、筋委縮性側索硬化症などの脳変性疾患;多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、視神経脊髄炎などの脱髄性疾患;てんかんや脳性麻痺などの機能性発作性疾患;血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、糖尿病性認知症などの認知症性疾患;ギランバレー症候群、末梢神経障害、顔面神経麻痺、三叉神経痛、排尿障害、勃起障害、自律神経失調症などの末梢神経疾患;心筋梗塞、狭心症、閉塞性動脈硬化症、心筋症などの心血管疾患;関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組織病、リウマチ性多発筋痛症、好酸球増多症、ベーチェット病、サルコイドーシス、Still病、脊椎関節炎、川崎病等の自己免疫疾患;急・慢性肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、急・慢性膵炎、自己免疫性膵炎などの肝・胆道・膵疾患;急性・慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの胃・十二指腸疾患;クローン病、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、過敏性腸症候群などの小腸・大腸疾患;バセドー病、急性・慢性甲状腺炎などの甲状腺疾患;自己免疫性溶血性貧血、真性多血症、特発性血小板減少性紫斑病などの血液・造血器疾患;慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺線維症、塵肺、気管支喘息、好酸球性肺炎、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などの肺疾患;体液量減少や虚血に伴う急性腎障害、ANCA関連腎炎、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽種症、好酸球性多発血管炎性肉芽種症、悪性高血圧、クリオグロブリン血症、感染後糸球体腎炎、IgA腎症、急性間質性腎炎、薬剤性腎障害、骨髄腫腎、痛風腎、横紋筋融解症、急性尿細管壊死などの急性腎障害;膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、ループス腎炎、アミロイド—シス、腎硬化症、紫斑病性腎炎、IgG4関連腎疾患、シェーグレン症候群、強皮症腎、慢性間質性腎炎、多発性嚢胞腎などの慢性腎臓病;黄班変性症、視神経炎、ブドウ膜炎などの眼疾患;アトピー性皮膚炎、水泡性疾患、Stevens-Johnson症候群などの皮膚疾患;重症筋無力症、筋ジストロフィー、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、骨粗鬆症、手根管症候群などの筋・骨疾患;脊髄損傷、脳挫傷などの外傷;褥瘡等の創傷、口腔内潰瘍、GVHD(移植片対宿主病)、縫合不全、臓器の損傷を挙げることができる。本発明の医薬が適応される疾患は、好適には、糖尿病性腎症、急性腎障害、慢性腎臓病、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、アルツハイマー病、糖尿病性認知症、関節リウマチ、多発性筋炎及び創傷である。

【0099】
本明細書において用いられる治療及び/又は予防は、疾患又は症状の治癒、一時的寛解、予防等を目的とする医学的に許容される全てのタイプの治療的及び/又は予防的介入を包含する。すなわち、疾患又は症状の治療及び/又は予防は、疾患又は症状の進行の遅延又は停止、病変の退縮又は消失、発症の予防又は再発の防止等を含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。

【0100】
本発明はまた、有効量の本発明の医薬をその必要がある対象に投与することを含む、MSCを用いた細胞移植療法が有効な疾患を治療及び/又は予防する方法も、別の態様として包含する。本態様における各用語の意味は、上で説明したとおりである。

【0101】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0102】
実施例1 3次元培養担体上で賦活化処理されたMSCの調製
1)賦活化剤の調製
特許文献1の記載にしたがって、ヒト胎盤組織から賦活化剤を調製した。簡潔には、細切したヒト胎盤組織を湿重量50gに対して、100mLの割合で無血清培地(alpha-MEM)に入れ、4℃で72時間、振とうした。遠心分離により上清を回収し、胎盤組織抽出物である賦活化剤を得た。
【実施例】
【0103】
2)賦活化処理
変形性股関節症患者の人工関節置換術時に採取した骨髄由来のMSC(OA-MSC)を、賦活化剤を含まないMSC培養培地(15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン及び100mg/dLグルコースを含有するDMEM)で培養を行った。細胞を回収して、それぞれ3次元培養担体であるPreset VECELL 6well(登録商標)(ベセル株式会社)に8×10細胞/well、Cellbed 24well(登録商標)(日本バイリーン株式会社)に2×10細胞/well、3D-insert PS-200 12well及び3D-insert PS-400 12well(3DBiotek社)に3.8×10細胞/wellを播種し、MSC培養培地を用いて37℃で72時間培養した。培地を除去した後、タンパク質換算で10μg/mL、1μg/mL若しくは0.1μg/mLの上記賦活化剤を含む又は賦活化剤を含まないMSC培養培地を、それぞれPreset VECELL 6wellに2mL、Cellbed 24wellに0.6mL、3D-insert PS-200 12well及び3D-insert PS-400 12wellに1mLを加えて37℃で4日間培養を行った。この培養を1~3回行った後、細胞を回収して、継代数1~3のOA-MSCを調製した。
【実施例】
【0104】
また、平板状の2次元細胞培養担体であるCorning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート(Thermo Fisher Science社)に6×10細胞/wellを播種し、100μg/mLの賦活化剤の存在下又は不存在下で培養を行った。この培養をさらに1回繰り返すことで、継代数2の対照のOA-MSCを調製した。
【実施例】
【0105】
実施例2 3次元培養担体上で賦活化処理されたOA-MSCの遺伝子発現解析及び形態観察
1)遺伝子発現解析
実施例1の2)で調製した各OA-MSCからTri Reagent(Molecular Research Center,Inc)を用いてtotal RNAを抽出した。逆転写反応によりclone DNAを合成し、OCT4、Nanog、SOX2、DNMT1、TERT、IL-6、IDO、TSG-6、p21、p53、α-SMA及び18sRNAについて、表1に示した塩基配列からなるプライマーセットを用いてリアルタイムPCRを実施した。
表中の(F)はフォワードプライマーを、(R)はリバースプライマーを意味する。
【表1】
JP2018199194A1_000003t.gif
【実施例】
【0106】
18sRNAをハウスキーピング遺伝子として、2次元培養担体上で100μg/mLの賦活化剤の存在下で培養した対照のOA-MSCをもとにΔΔCT値を算出し、遺伝子発現プロファイルを解析して、クラスター化した。Preset VECELL上で0.1μg/mLの賦活化剤の存在下で培養したOA-MSC(VECELL_0.1)、Cellbed上で0.1、1又は10μg/mLの賦活化剤の存在下で培養したOA-MSC(それぞれCellBed_0.1、CellBed_1、CellBed_10)、3D-insert PS-200上で0.1μg/mLの賦活化剤の存在下で培養したOA-MSC(3D.insert200_0.1)、3D-insert PS-400上で10μg/mLの賦活化剤の存在下で培養したOA-MSC(3D.insert400_10)、及び2次元培養担体上で100μg/mLの賦活化剤の存在下で培養した対照のOA-MSC(2D_100)の結果を図1に示す。また、2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したOA-MSC(2D_0)に対する2D_100及びVECELL_0.1のOCT4、SOX2及びTERTの相対的遺伝子発現量を図2に示す。
【実施例】
【0107】
2D_100及び2D_0と比較して、3次元培養担体上で賦活化処理されたOA-MSCはいずれも、幹細胞性に関与する遺伝子とされるDNMT1、Nanog、SOX2及びOCT4、免疫制御・抗炎症機能に関与する遺伝子とされるIDO、TSG6及びIL-6、テロメアーゼ活性に関与する遺伝子とされるTERTの発現量が増加しており、細胞老化に関与する遺伝子とされるP53、細胞骨格に関与する遺伝子とされるα-SMAの発現量が減少していることが確認された。この結果は、治療効果のあるMSCのマーカーとして知られる遺伝子群の発現の傾向が、2次元培養担体上で賦活化処理されたMSCよりも、3次元培養担体上で賦活化処理されたMSCにおいて強く表れることを示すものである。
【実施例】
【0108】
2)形態観察
次に、Preset VECELL上で0.1μg/mLの賦活化剤の存在下又は不存在下で培養したOA-MSC(MSC(3D・賦活剤+)及びMSC(3D・賦活剤-))、並びに2次元培養担体上で100μg/mLの賦活化剤の存在下又は不存在下で培養したOA-MSC(MSC(2D・賦活剤+)及びMSC(2D・賦活剤-))を2.5%グルタールアルデヒド及び2%パラフォルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液で4℃で1時間固定し、その後1%オスミウムを含む0.1Mリン酸緩衝液で1時間、4℃で後固定した。その後、脱水・乾燥して、金属コーティングを行い、走査電子顕微鏡で観察した。
【実施例】
【0109】
2次元培養担体上で培養した場合、賦活化剤の添加によりMSCの突起数は増加し、細胞の厚みが増し(図3下段)、またエクソソームと推定される小胞がより多く形成された(図4下段)。3次元培養担体上で賦活化剤を添加せずに培養すると、MSCは、賦活化剤存在下での2次元培養と同等以上の形態変化を示した(図3左上及び右下、図4左上及び右下)。さらに、賦活化剤存在下での3次元培養担体上での培養は、MSCの突起数を飛躍的に増加させてネットワーク構造を形成させ(図3右上)、また小胞形成を増加させた(図4右上)。なお、図4右上のMSC(3D・賦活剤+)では、多量に形成された小胞が放出された痕跡が多数の空洞として示されている。
【実施例】
【0110】
3)別の培養担体上で賦活化処理されたOA-MSCの遺伝子発現解析及び形態観察
比較例の培養担体として細胞培養基材A(平均繊維径0.1~0.5μm、空隙率70%以下、平均孔面積0.2μm、24well)を用いて、賦活化剤濃度1μg/mL又は0.1μg/mLで、実施例1の2)のCellbed 24wellの場合と同様に、OA-MSCの賦活化処理を行った。基材Aは、その一部にファイバーからなる3次元構造を有するが、3次元構造を持たない平坦な膜状の部分が細胞接着面の約50%を占める基材である。
【実施例】
【0111】
また、別の3次元培養担体として細胞培養基材Bを用いてOA-MSCの賦活化処理を行った。細胞培養基材Bは、国際公開WO2016/068266号パンフレット及びLiu L,Kamei K et al. Biomaterials 124(2017) 47-54に記載の方法で製造される、ポリグリコール酸からなるベース部材上にポリグリコール酸からなるナノファイバーを含有する3次元培養担体である。
【実施例】
【0112】
賦活化剤を含まないMSC培養培地(15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン及び100mg/dLグルコースを含有するDMEM)でOA-MSCを培養した。細胞を回収し、2次元培養担体(Corning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート、Thermo Fisher Science社)に2.5cm×2.5cmの細胞培養基材Bを入れ、8×10細胞のMSCを播種し、1μg/mLの賦活化剤を含むMSC培養培地2mLを加えて、37℃で72時間培養を行うことで、継代数1の賦活化処理されたMSCシートを調製した。この方法で調製されたMSCシートは、おおよそ8,500細胞/cmのMSCを含む。
【実施例】
【0113】
基材A及びBからMSCを回収し、各遺伝子の発現量をリアルタイムPCRによって測定し、先のリアルタイムPCRの結果と合わせてクラスター化した。結果を図5に示す。基材A上で賦活化処理されたOA-MSCは2D_100と類似した遺伝子発現プロファイルを示しており、基材A上での賦活化処理は2次元培養担体上での賦活化処理と同程度の効果しかもたらさないことが確認された。また、基材B上で賦活化処理されたOA-MSCは他の3次元培養担体と類似した遺伝子発現プロファイルを示しており、賦活化処理の効果は他の3次元培養担体と同様であると推測された。
【実施例】
【0114】
また、基材B上で賦活化処理されたOA-MSCの走査電子顕微鏡の観察像を図6に示す。上記Preset VECELL上で賦活化処理を行ったOA-MSCと同様に数多くの小胞が観察された。
【実施例】
【0115】
実施例3 3次元培養担体上で賦活化処理された健常者由来MSCの遺伝子発現解析
前十字靭帯断裂以外に所見が認められない22歳女性から採取した骨髄由来のMSC(健常者由来MSC)を、賦活化剤を含まないMSC培養培地で培養を行った。細胞を回収して、Preset VECELL 6well(登録商標)(ベセル株式会社)に8×10細胞/wellを播種し、MSC培養培地を用いて37℃で72時間培養した。培地を除去し、1μg/mLの賦活化剤を含むMSC培養培地2mLを加えて培養を行うことで、継代数1の賦活化処理された健常者由来MSC(3D・賦活剤+)を調製した。
【実施例】
【0116】
また、2次元培養担体(Corning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート、Thermo Fisher Science社)に6×10細胞/wellの健常者由来MSCを播種し、100μg/mLの賦活化剤の存在下又は不存在下で培養を行った。この培養をさらに1回繰り返すことで、継代数2の賦活化処理された又は賦活化処理されていない健常者由来MSC(2D・賦活剤+、2D・賦活剤-)を調製した。
【実施例】
【0117】
上記3種類のMSCにおける各遺伝子の発現量を、実施例2の1)と同様にリアルタイムPCRによって測定した。賦活化処理されていないMSC(2D・賦活剤-)に対する賦活化処理されたMSC(2D・賦活剤+及び3D・賦活剤+)のOCT4、SOX2及びTSG-6の相対的遺伝子発現量を図7に示す。いずれの遺伝子の発現量も2D・賦活剤-、2D・賦活剤+、3D・賦活剤+の順に高くなっており、特にOCT4及びTSG-6の発現量は3D・賦活剤+において顕著に高い値を示した。このことは、3次元培養担体上での賦活化処理が、疾患を有する患者由来のMSCだけでなく健常者由来のMSCをも賦活化してその治療効果を高めることができることを示唆する。
【実施例】
【0118】
実施例4 3次元培養担体上で賦活化処理されたMSCの治療効果(皮膚欠損)
10週齢のLewisラットの背部に3cm×3cmの皮膚を切除した部位を2箇所設けることで、皮膚欠損モデルラットを作製した。皮膚切除から1日後に、実施例1の2)で調製したMSC(2D・賦活剤-)(5×10細胞/匹)、MSC(2D・賦活剤+)(5×10細胞/匹)、MSC(3D・賦活剤+)(1×10細胞/匹)又はPBS(vehicle)をラットに静脈内投与して、21日間飼育した。
【実施例】
【0119】
皮膚切除から3日後及び7日後に皮膚欠損部の残存欠損面積を測定することで創傷治癒の度合いを評価した。その結果を図8に示す。また7日後の皮膚欠損部を撮影した写真を図9に示す。MSC(3D・賦活剤+)を投与したラットでは、MSC(2D・賦活剤+)を投与したラットと比較して、投与した細胞数が1/5であるにもかかわらず、創傷治癒が早いことが確認された。
【実施例】
【0120】
また、皮膚切除から21日後に皮膚欠損部の周囲2cm×2cmの皮膚をラットから摘出し、精密万能試験機(AG-1)(株式会社島津製作所)を用いて皮膚の破断応力を測定した。その結果を図10に示す。MSC(3D・賦活剤+)を投与したラットの皮膚組織は、MSC(2D・賦活剤+)を投与したラットの皮膚組織と比較して、投与した細胞数が1/5であるにもかかわらず、より高い破断応力を獲得していることが確認された。
【実施例】
【0121】
実施例1において賦活化に使用した賦活化剤の濃度を基に、ヒトの胎盤1個から製造される賦活化剤を用いて賦活化されたMSCで治療等を行うことができるヒト患者数を算出すると、ファイバーからなる3次元構造を有さない細胞培養担体を用いた賦活化ではおよそ10人であるのに対して、ファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いた賦活化ではおよそ10,000人となると推定された。
【実施例】
【0122】
また、実施例4で確認されたファイバーからなる3次元構造を有する細胞培養担体を用いて賦活化されたMSCの高い治療効果は、投与細胞数がファイバーからなる3次元構造を有さない2次元培養担体を用いて賦活化されたMSCの投与細胞数の1/5であることも考慮すると、治療及び/又は予防に必要な細胞数を大きく減らすことを可能とする。このことは、投与時間の短縮及び副作用の低減等の患者の治療負担の軽減という利点をもたらす。さらに、必要とされる細胞数を確保するための継代培養の継代回数を減らすことができ、細胞製造期間の短縮及びコスト削減等の利点ももたらす。
【実施例】
【0123】
実施例5 3次元培養担体上で賦活化されたMSCの治療効果(認知機能)
Preset VECELL 6well(登録商標)(ベセル株式会社)に8×10細胞/wellのOA-MSCを播種し、MSC培養培地を用いて37℃で72時間培養した。培地を除去し、0.1μg/mLの賦活化剤を含むMSC培養培地を2mL/wellで加えて37℃で4日間培養を行った後、細胞を回収して、継代数1の賦活化処理されたOA-MSC(3D・賦活剤+)を調製した。また、2次元培養担体(Corning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート、Thermo Fisher Science社)に6×10細胞/wellのOA-MSCを播種し、賦活化剤を含まないMSC培養培地を1.3mL/wellで加えて37℃で4日間培養を行い、継代数1の未処理MSC(2D・賦活剤-)を調製した。
【実施例】
【0124】
17月齢の雄性APP/PS1マウス(チャールズリバー)に、上で調製したMSC(2D・賦活剤-)(2.5×10細胞/匹)又はMSC(3D・賦活剤+)(2.5×10細胞/匹)を髄腔内投与して、28日間飼育した。髄腔内投与から21日後から6日間、モリス水迷路試験を行った。モリス水迷路試験では、水(25℃±1℃)を張った円形のプール(直径1.2m)の端からマウスを入れ、水面直下に設置された、マウスの脚が接地可能なプラットフォーム(直径10cm)に到達できる時間を測定した。プラットフォームの位置は一定として、マウスの入れる位置を変えながら、1日4回を5日間施行し、プラットフォームの位置を学習する能力を評価した(hidden platform tests)。Hidden platform tests終了の翌日にプラットフォームをプールから除去し、総遊泳時間(60秒)に対し、先のhidden platform testsでプラットフォームのあった4分割エリア内で遊泳する時間の割合を測定し、マウスの記憶能力を評価した(probe test)。
【実施例】
【0125】
モリス水迷路での学習テストの結果を図11に、記憶テストの結果を図12に示す。MSC(3D・賦活剤+)を投与したマウスは、MSC(2D・賦活剤-)を投与したマウスと比較して学習能力及び記憶能力が高く、MSC(3D・賦活剤+)の高い治療効果が確認された。
【実施例】
【0126】
実施例6 3次元培養担体上で賦活化されたMSCの治療効果(糖尿病性腎症)
【実施例】
【0127】
糖尿病性腎症を発症している14月齢の雄性OLETFラット(星野試験動物)に、リツキシマブ(中外製薬)5mg/匹を1日1回4日間、尾静脈投与した。リツキシマブ初回投与から10~14日後、リツキシマブを投与したラットの腎臓に実施例2の3)で基材Bを用いて調製したMSCシートを移植した(3D賦活剤+MSC群、n=6)。リツキシマブ投与のみをVehicleとした(Vehicle群、n=7)。イソフルラン吸入麻酔下、側臥位のラットの最下位肋骨下より皮切を入れ、筋層を切開して一方の腎臓を体外に引き出した。ゲロータ筋膜、脂肪層及び線維被膜を、副腎を損傷しないように慎重に切開して腎表面から剥がし、腎門部に引き寄せた。2.5cm×2.5cmのMSCシート1枚及び1/3に切った同MSCシート1枚を、腎臓の全体を包むように貼付した。他方の腎臓にも同様にMSCシートを貼付した。MSCシート移植日、移植後3週、及び6週時にラットから血液を採取し、酵素法(SRL)を用いて血清クレアチニンを測定した。
【実施例】
【0128】
移植後11週間生存していた動物(Vehicle群、3D賦活剤+MSC群ともn=2)の血清クレアチニンの推移を図13に示す。Vehicle群では血清クレアチニンの経時的な上昇が認められたのに対し、3D賦活剤+MSC群では血清クレアチニン値の上昇は認められなかった。また、移植後11週までの生存率を表すカプランマイヤー曲線を図14に示す。3D賦活剤+MSC群は、Vehicle群と比べて高い生存率を示した。
【実施例】
【0129】
本試験で用いたラットは、糖尿病性腎症に加えて抗がん剤処置によりさらに急性腎障害を誘導することで程度の揃った重篤な慢性腎臓病を発症するモデル動物であり、腎症第4期(腎不全期)に相当する非常に重篤な末期腎障害を呈していた。3次元培養担体上で賦活化されたMSCシートは、このような重篤な疾患に対しても治療効果を示すことが確認された。
実施例7 賦活化処理されたOA-MSCにおける治療効果マーカー遺伝子の発現解析
1)MSCの賦活化処理
変形性股関節症患者(n=13)の人工関節置換術時に採取した骨髄由来のMSC(OA-MSC)を、賦活化剤を含まないMSC培養培地(15%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン及び100mg/dLグルコースを含有するDMEM)で培養した。細胞を回収して、Corning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート(Thermo Fisher Science社)に6×10細胞/wellを播種し、賦活化剤を含む又は賦活化剤を含まないMSC培養培地を1.3mL/wellで加えて37℃で4日間培養を行った。この培養をさらに1回繰り返すことで、継代数2の賦活化処理されたOA-MSC及び未処理のOA-MSCを調製した。
【実施例】
【0130】
また、前十字靭帯断裂以外に所見が認められない22歳女性から採取した骨髄由来のMSC(健常者MSC)を、上記OA-MSCと同様に培養、賦活化処理を行うことで、賦活化処理された健常者MSC及び未処理の健常者MSCを調製した。
【実施例】
【0131】
2)遺伝子発現解析
上記1)で調製した各OA-MSCにおける各遺伝子(OCT4、Nanog、SOX2、DNMT1、TERT、IL-6、IDO、TSG-6、p16ink4a、RB、p21、p53、α-SMA、18sRNA)の発現量を、実施例2の1)と同様にリアルタイムPCRによって測定した。
【実施例】
【0132】
18sRNAをハウスキーピング遺伝子として、未処理OA-MSCをもとに賦活化処理されたOA-MSCにおける各遺伝子発現のΔΔCT値を算出し、遺伝子発現プロファイルを解析し、クラスター化した。10症例のOA-MSCについての解析結果を図15に示す。
【実施例】
【0133】
さらに、同じ症例のOA-MSCを用いて、表2に示した塩基配列からなるプライマーを用いたリアルタイムPCRによりp14ARF及びCD47の遺伝子発現量を測定し、先に測定した遺伝子発現量の結果と合わせてクラスター化した。結果を図16に示す。
【表2】
JP2018199194A1_000004t.gif
【実施例】
【0134】
これらの結果から、分離源の患者毎にMSCの遺伝子発現プロファイルは異なっており、MSCが分離された患者毎に賦活化処理への反応性が異なることが明らかとなった。
【実施例】
【0135】
また、MSCの治療効果の負のマーカーであると考えられていたp16ink4a及びp14ARFは、意外なことに、MSCの治療効果の正のマーカーとして知られているDNMT1、Nanog、SOX2、OCT4、IDO、TSG6及びTERTと同じクラスターに属していた。9症例のOA-MSCにおける、OCT4、SOX2、Nanog、IDO及びTSG6遺伝子の相対的発現量とp16ink4a遺伝子の相対的発現量との相関を図17に、p14ARFの相対的発現量とp16ink4a遺伝子の相対的発現量との相関を図18に示す。OCT4、SOX2、Nanog、IDO及びTSG6とp16ink4a、及びp14ARFとp16ink4aには高い相関性が認められた。
【実施例】
【0136】
さらに、p16ink4aの下流因子であるCDK4、CDK6及びRB、並びに細胞療法に使用する細胞において発現することが望ましいと考えられていたCD47の遺伝子発現は、p16ink4aとは逆傾向を示していた。リアルタイムPCRにより測定した3症例のOA-MSC(BM-021、BM-022、BM-023)におけるOCT4、p16ink4a及びRB遺伝子の相対的発現量を図19に示す。いずれのMSCにおいても賦活化処理によりOCT4及びp16ink4a発現が亢進した一方、RB発現は低下していた。
【実施例】
【0137】
この3症例のOA-MSCのtotal RNAについて、Affymetrix Clariom(登録商標) S Arrayを用いてマイクロアレイ解析を行った。データはAffymetrix Transcriptome Analysis Console (TAC) Softwareを用いて解析した。いずれのMSCにおいても賦活化処理によりCDK6の発現量は約2.04倍減少していた(データを図示せず)。
【実施例】
【0138】
賦活化処理による上記因子の発現変動の傾向は健常者MSCにおいても認められ、例えばSOX2及びp16ink4aの遺伝子発現量は賦活化処理により2倍強に増加していた(データを図示せず)。以上から、p16ink4aは上記既知因子と同様にMSCの治療効果の正のマーカーとして、またCDK4、CDK6及びRBは治療効果の負のマーカーとして利用可能性があることが示唆された。
【実施例】
【0139】
実施例8 3次元培養担体上で賦活化処理されたOA-MSCにおける治療効果マーカー遺伝子の発現解析
1)OCT4、SOX2及びp16ink4a
OA-MSCを用いて、3次元培養担体上での賦活化処理による遺伝子発現の変動を解析した。Preset VECELL 6well(登録商標)(ベセル株式会社)に8×10細胞/wellのOA-MSCを播種し、MSC培養培地を用いて37℃で72時間培養した。培地を除去し、0.1μg/mLの賦活化剤を含む又は賦活化剤を含まないMSC培養培地を2mL/wellで加えて37℃で4日間培養を行った後、細胞を回収して、継代数1の賦活化処理されたOA-MSC及び未処理のOA-MSCを調製した。これらのOA-MSCにおける各因子の発現量をリアルタイムPCRにより測定した。
【実施例】
【0140】
1症例のOA-MSC(BM-010)におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を図20に示す。実施例7の2次元培養担体上での賦活化処理と同様に、3次元培養担体上での賦活化処理によっても各因子の発現量が増加することが確認された。
【実施例】
【0141】
2)CD47
関節リウマチ患者、72歳男性、肝硬変患者及び38歳男性から採取した骨髄由来のMSC(それぞれRA、Aged、肝硬変、Young)を用いて、2種類の賦活化剤濃度(1μg/mL、0.1μg/mL)で、上記1)と同様にして3次元培養担体上での賦活化処理を行い、継代数1の賦活化処理されたMSCを調製した。また、2次元培養担体(Corning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート、Thermo Fisher Science社)に同じMSCを6×10細胞/wellの量で播種し、賦活化剤を含まないMSC培養培地を1.3mL/wellで加えて37℃で4日間培養を行い、継代数1の未処理MSCを調製した。
【実施例】
【0142】
これらのMSCにおけるCD47の遺伝子発現量をリアルタイムPCRにより測定した。未処理MSCに対する3次元培養担体上で賦活化処理したMSCにおけるCD47の相対的遺伝子発現量を図21に示す。いずれのMSCにおいても賦活化処理によりCD47の遺伝子発現量は減少し、その傾向は関節リウマチ患者、72歳男性、肝硬変患者のMSCでより顕著であった。疾患を有する対象及び高齢者のMSCは一般に治療効果が低いことを考慮すると、CD47は治療効果の負のマーカーとして利用可能性があることが示唆された。
【実施例】
【0143】
実施例9 細胞表面マーカーCD47の発現解析
38歳男性及び72歳男性から採取した骨髄由来のMSC(それぞれ若年者MSC、高齢者MSC)を用いて、賦活化剤濃度0.1μg/mLで、実施例8の2)と同様にして継代数1の賦活化処理されたMSC及び未処理のMSCを調製した。これらのMSCを死細胞染色のためZombie Violet(商標) Dye(Biolegend)で反応し、その後FITC anti-human CD47 抗体(Biolegend)で標識し、FACSCanto(商標) II(BD Biosciences)でフローサイトメトリー解析を行なった。ネガティブコントロールは、isotype controlもしくは2次抗体のみを反応させたMSCを用いた。データ解析は、FACSDiva(商標)(BD Biosciences)及びKaluza V1.5a(Beckman Coulter)で行なった。
【実施例】
【0144】
未処理MSCの結果を図22に示す。シグナル強度がネガティブコントロールにおいて検出されたシグナル強度よりも高いMSCをCD47陽性、ネガティブコントロールにおいて検出されたシグナル強度よりも低いMSCをCD47陰性と判定した。若年者MSCにおけるCD47陽性細胞率、すなわち当該MSC集団におけるCD47陽性MSCの割合は2.34%という低値であったのに対し、高齢者MSCにおけるCD47陽性細胞率は90.10%という高い値を示した。
【実施例】
【0145】
賦活化処理されたMSCの結果を図23に示す。若年者MSC、高齢者MSCのいずれにおいても賦活化処理によりCD47陽性細胞率は低下し、特に高齢者MSCにおいて著しい低下を示した。高齢者MSCは一般に疾患治療効果が低いことを考慮すると、CD47は治療効果の負のマーカーとして利用可能性があることが示唆された。
【実施例】
【0146】
実施例10 p16ink4a高発現MSCの機能評価(マクロファージに対する作用)
実施例7の1)で賦活化処理を行ったOA-MSCのうち、発現変動の程度が異なる3症例のOA-MSC(BM-008、BM-021、BM-005)について、機能評価を行った。これらのOA-MSCにおけるp16ink4a遺伝子の相対的発現量を図24に示す。p16ink4a発現量は、BM-008においては賦活化処理によって約1.4倍、BM-021においては約1.6倍増加した一方、BM-005においては0.2倍程度に減少していた。
【実施例】
【0147】
賦活化処理された上記3種のOA-MSC及びこれらに対応する未処理OA-MSC、合計6種のMSCを、マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7との共培養に供した。セルカルチャーインサート(Falcon(登録商標))のインサートのメンブレン部分にPKH赤色素で染色したMSCを2x10細胞で播種し、プラスチックプレート部分にPKH緑色素で染色した2x10細胞のRAW264.7細胞を播種して、DMEM培地を用いて37℃で24時間共培養を行った。
【実施例】
【0148】
共培養終了後、インサートのメンブレンからMSCをトリプシンで剥がし、RAW264.7細胞の存在するプラスチックプレート部分に移して、接触共培養を24時間行った。接触共培養後に、4%パラホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリー解析を行った。
【実施例】
【0149】
フローサイトメトリー解析によってPKH赤とPKH緑のダブルポジティブを示した細胞が死細胞を除いた単核細胞の総数に占める割合を図25に示す。ダブルポジティブの細胞は、MSC由来の死細胞デブリを貪食したマクロファージに相当する細胞であると考えられることから、これらの細胞数増加はマクロファージの貪食能の亢進を意味する。ダブルポジティブ細胞の割合は、BM-008及びBM-021においては賦活化処理によって増加した一方、BM-005においては減少していた。
【実施例】
【0150】
また、共培養後のRAW264.7細胞を回収し、Tri Reagent(Molecular Research Center,Inc)を用いてtotal RNAを抽出した。逆転写反応によりclone DNAを合成し、M1マクロファージのマーカーであるFpr2(Formyl Peptide Receptor-2)の発現量を、以下のプライマーセットを用いたリアルタイムPCRにより測定した。
Fpr(F):5’-TCTACCATCTCCAGAGTTCTGTGG-3’(配列番号33)
Fpr(R):5’-TTACATCTACCACAATGTGAACTA-3’(配列番号34)
【実施例】
【0151】
OA-MSC(BM-008、BM-021、BM-005)と共培養したRAW264.7細胞におけるFprの相対的発現量を図26に示す。Fpr発現量は、BM-008及びBM-021においては賦活化処理によって増加した一方、BM-005においては変化が認められなかった。
【実施例】
【0152】
近年、従来、慢性炎症性疾患と言われていた疾患以外の様々な疾患においても、慢性炎症の関与が確認されている。慢性炎症が関与する疾患としては、慢性炎症性疾患に加えて、アレルギー性疾患、自己免疫性疾患、がん、動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳卒中等)、神経変性疾患(アルツハイマー病)、メタボリックシンドローム・生活習慣病(肥満、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪性肝炎等)、排尿障害等を挙げることができ、さらには老化においても慢性炎症の関与が知られている。
【実施例】
【0153】
急性炎症においては炎症初期にM1マクロファージが増加し、役目を終えた老化細胞や損傷した細胞等の種々の細胞を貪食する。M1マクロファージの貪食によるクリアランスの後、組織にはM2マクロファージが出現し、サイトカイン等の刺激を受けて周辺細胞からのコラーゲン等の産生を促し、組織を修復に導くものと考えられている。一方、慢性炎症においてはM2マクロファージ優位な状態が継続し、線維芽細胞等の種々の細胞が貪食により除去されず存在し続けるため、組織修復が起こらず炎症が継続し、組織の線維化が助長されるものと考えられている(J.G.Tidbal et al.,Nature Medicine,2015,vol.21,p.665-666;X.M.Meng et al.,Nature Reviews Nephrology,2014,vol.10,p.493-503;A.Pellicoro et al.,Nature Reviews Immunology,2014,vol.14,p.181-194)。慢性炎症が関与する疾患の処置にはM1マクロファージ優位な状態を誘導することが重要であると推測されており、したがってM1マクロファージの増加は、これらの慢性炎症が関与する疾患において治療効果の指標として利用され得る。
【実施例】
【0154】
実施例10の試験によると、賦活化処理によりp16ink4a発現量が増加したMSCは共培養したマクロファージの貪食能を高め、M1型へのシフトを誘導したが、賦活化処理によりp16ink4a発現量が減少したMSCはマクロファージに対するそのような作用を示さないことが確認された。M1マクロファージの増加は慢性炎症が関与する疾患において治療効果の指標として利用され得ることから、賦活化処理によりp16ink4a発現量が増加したMSCは賦活化処理により治療効果が高められた、すなわち賦活化された一方、賦活化処理によりp16ink4a発現量が減少したMSCは賦活化処理により治療効果が高められていない、すなわち賦活化されていないものと考えられた。
【実施例】
【0155】
実施例11 p16ink4a高発現MSCの機能評価(多発性筋炎)
1)局所投与
賦活化処理によりp16ink4a発現量が増加したOA-MSC(BM-021)を用いて、慢性炎症が関与する疾患である多発性筋炎に対する治療効果の確認を行った。BM-021におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を図27に示す。いずれの因子も賦活化処理により発現量が増加していた。
【実施例】
【0156】
8週齢のBalb/cマウスのリンパ節近傍に、別のBalb/cマウスの骨格筋から調製したミオシン画分(1mg/匹)と完全フロイトアジュバント(Chondrex社、200μg/匹)とのエマルジョンを投与し、同時に百日咳毒素(List Biological Laboratories社、500ng/匹)を腹腔内投与して免疫を行った。初回免疫の1週間後及び2週間後に、上記エマルジョンをマウスリンパ節近傍に投与して追加免疫を行うことで、多発性筋炎モデルマウスを作製した。初回免疫から4週間後、マウスを3群(n=9)に分け、実施例7で調製した賦活化処理されたMSC(1x10細胞/匹のBM-021)、未処理のMSC(1x10細胞/匹のBM-021)又はPBS(vehicle)を後肢下腿三頭筋に局所投与した。
【実施例】
【0157】
MSC投与の2日後、下腿三頭筋を採取し、コラゲナーゼ酵素処理後に、RBC Lysisバッファーで赤血球を除去し、単細胞懸濁液を作成した。その後、死細胞マーカー(Zonbi Dye)、PE-Cy7-CD11b抗体、APC-F4/80抗体、FITC-Ly6C抗体で抗原抗体反応を行い、フローサイトメトリー解析を行った。その結果を図28に示す。賦活化処理されたMSCを投与したマウス(PE+)においては、未処理のMSCを投与したマウス(PE-)と比較して、総マクロファージ及びM1マクロファージの割合が有意に増加していた。
【実施例】
【0158】
MSC投与の7日後及び13日後に、以下のように後肢筋機能評価を実施した。マウスの頸部及び尾を保持し、直径1mmの金属製ワイヤーに後肢を載せ、マウスが両後肢で金属製ワイヤーを把持したことを目視にて確認後、マウスが金属ワイヤーを把持できなくなるまでマウスをワイヤーから引き離した。把持できなくなった時点の牽引力(gram)を後肢筋力として記録した。牽引力は電子天秤で計測し、その分解能は0.01gであった(A&D社)。計測は各マウス3回実施し、その中央値を代表値として使用した。結果を図29に示す。PE+マウスでは、PE-マウスと比較して後肢筋機能がより向上していた。
【実施例】
【0159】
2)全身投与
次に、賦活化処理によりp16ink4a発現量が増加したOA-MSC(BM-008)を用いて、多発性筋炎に対する治療効果の確認を行った。BM-008におけるOCT4、SOX2及びp16ink4a遺伝子の相対的発現量を図30に示す。BM-021と同じく、いずれの因子も賦活化処理により発現量が増加していた。
【実施例】
【0160】
上記1)と同様に多発性筋炎モデルマウスを作製し、初回免疫から4週間後に、実施例7で調製した賦活化処理されたMSC(1x10細胞/匹のBM-008)、未処理のMSC(1x10細胞/匹のBM-008)又はPBS(vehicle)を静脈内投与した。MSC投与の0、7及び14日後に、以下のようにinverted screen testによる筋機能評価を実施した。直径1mm、網目5mmの金属メッシュ上にマウスを乗せ、金属メッシュを逆さにし、前・後肢でぶら下がっていられる時間を計測した。マウスの体重(gram)とぶらさがり時間(秒)の積を筋機能データとした。未処理MSCを投与したマウス(PE-MSC)と比較して、賦活化処理されたMSCを投与したマウス(PE+MSC)では、筋機能がより向上していた(図31)。
【実施例】
【0161】
MSC投与の14日後に採取したマウス筋組織のHE染色像の一例を図32に示す。PE+MSCマウスでは、PE-MSCマウスと比較して筋組織への炎症細胞の浸潤が少なかった。また、MSC投与の14日後に採取したマウス筋組織(各群n=3)について、筋断面積を解析した。筋断面積は8μmの凍結切片を作成し、1次抗体にウサギ抗ラミニン抗体(Abcam社)、2次抗体に抗ウサギCy3標識抗体を用いて染色し、共焦点顕微鏡(Nikon社)で画像データを取得した。ラミニンは筋基底膜を検出するため、ラミニンで囲まれた閉鎖域が筋断面積となる。閉鎖域の面積はImageJを用いて画像データから算出した。未処理MSCを投与したマウス(MSC PE-)と比較して、賦活化処理されたMSCを投与したマウス(MSC PE+)では、筋断面積がより大きかった(図33)。
【実施例】
【0162】
以上1)、2)に示すとおり、賦活化処理によりp16ink4a発現量が増加したMSCは、未処理のMSCと比較して、総マクロファージ及びM1マクロファージの割合を増加させ、また炎症により損傷を受けた組織の修復を促すことが確認された。このことは、MSCにおけるp16ink4a遺伝子の発現亢進が、MSCの賦活化、すなわち治療効果の上昇と相関性のある事象であることを指し示すものである。
【実施例】
【0163】
実施例12 p16ink4a高発現MSCの機能評価(皮膚欠損)
実施例4においてラットに投与した3種類のMSCについて、OCT4、SOX2及びp16ink4aの遺伝子発現量をリアルタイムPCRにより測定した。2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したMSC(PE-(2D))に対する相対的発現量を図34に示す。賦活化処理により各因子の発現量は増加し、特に3次元培養担体を用いたときに著しく増加していた。実施例4で確認された創傷治癒効果の傾向から、p16ink4aの発現量が増加したMSCは、未処理のMSCと比較してより速やかに創傷治癒をもたらすこと、特にp16ink4aの発現量が著しく増加したMSCは細胞数が少なくても極めて高い創傷治癒能力を有することが確認された。
【実施例】
【0164】
実施例13 p16ink4a高発現MSCの機能評価(糖尿病性腎症)
実施例6においてラットに投与したMSCについて、OCT4、SOX2、Nanog、p16ink4a、p14ARF、IDO、α-SMA及びTERTの発現量をリアルタイムPCRによって測定した。2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したMSCに対する相対的発現量を図35に示す。3次元培養担体上での賦活化処理により、OCT4、SOX2、Nanog、p16ink4a、p14ARF、IDO及びTERTの発現量は増加し、α-SMAの発現量は減少していた。実施例6で確認された腎症治療効果から、p16ink4a及びp14ARFの発現量が増加したMSCは高い腎症治療効果を奏することが確認された。
【実施例】
【0165】
実施例14 p16ink4欠損MSCの機能解析(多発性筋炎)
1)p16ink4aノックアウトMSCの調製
OA-MSCから採取した骨髄由来MSCに対して、p14 ARF/p16 CRISPR/Cas9 KO plasmids(Santa Cruz Biotechnology)を用いて、p16ink4a及びp14ARFをコードするCDKN2A遺伝子のノックアウトを行った。CDKN2A遺伝子ノックアウトのための標的gRNAを組み込んだCRISPR/Cas9ノックアウトプラスミド、又は対照としての標的gRNAの代わりにスクランブルgRNAを組み込んだスクランブルプラスミドをMSCにトランスフェクションした。これらのMSCを、実施例8の2)と同様に賦活化処理に供した後、1次抗体として抗p16ink4a抗体(anti-p16INK4A human,Proteintech)を反応させ、2次抗体としてAlxa 647 Anti-rabbit IgG(Jackson)を用いて標識し、免疫染色した。
【実施例】
【0166】
MSCの蛍光観察画像を図36に示す。ノックアウトプラスミドを導入したMSC(ノックアウトMSC)においてのみp16ink4aの蛍光が観察されなかったことから、当該MSCはp16ink4aノックアウトであることが確認された。
【実施例】
【0167】
2)多発性筋炎モデルマウスにおけるMSCの治療効果
実施例11の1)と同様にして、上記1)の賦活化処理後のノックアウトMSC、スクランブルMSC又はPBSを多発性筋炎モデルマウスの下腿三頭筋に局所投与し、治療効果を評価した。MSC投与の11日後に採取したマウス筋組織のラミニン染色像の一例、及び筋断面積の解析結果を図37に示す。PBSを投与したマウス(Vehicle)と比べて、スクランブルMSCを投与したマウス(SC)の筋断面積は増加したが、ノックアウトMSCを投与したマウス(CDKN2A KO)では筋断面積の増加は認められなかった。このように、p16ink4aをノックアウトしたMSCは治療効果が低減することが確認され、p16ink4aは治療効果の正のマーカーとなることが示された。
【実施例】
【0168】
実施例15 CD47高発現MSCの機能評価(皮膚欠損)
1)CD47高発現MSCの調製
38歳男性から採取した骨髄由来MSCに対して、CD47 CRISPR activation plasmid(Santa Cruz Biotechnology)を用いてCD47を活性化させるための標的gRNAを組み込んだプラスミドをトランスフェクトし、CD47を過剰発現させたMSCを作成した。
【実施例】
【0169】
2)皮膚欠損モデルマウスにおけるMSCの治療効果
35週齢のBalb/cマウスの背部に1.5cm×1.5cmの皮膚を切除した部位を2箇所設けることで、皮膚欠損モデルラットを作製した。皮膚切除から1日後に、上記1)で調製したMSC(2.5×10細胞/匹)、プラスミドのトランスフェクトを行わない対照のMSC(2.5×10細胞/匹)又はPBS(Vehicle)をマウスに静脈内投与して、9日間飼育した。
【実施例】
【0170】
皮膚切除後3日目から9日目までの創傷面積の変化量、及び9日目の皮膚欠損部を撮影した写真を図38に示す。CD47過剰発現MSCを投与したマウス(CD47activate)は、対照MSCを投与したマウス(Control)と比較して、創傷面積の変化量が小さい、すなわち創傷治癒が遅いことが確認され、CD47は治療効果の負のマーカーとなることが示された。
【実施例】
【0171】
実施例16 CD47発現量の異なるMSCの機能評価(認知機能)
1)CD47発現量の異なるMSCの調製
OA-MSCから採取した骨髄由来のMSCを用いて、賦活化剤濃度0.0001mg/mLで、実施例8の2)と同様にして3次元培養担体上での賦活化処理を行い、継代数1の賦活化処理されたMSCを調製した。また、2次元培養担体(Corning(登録商標)Costar(登録商標)細胞培養 6wellプレート、Thermo Fisher Science社)に同じMSCを6×10細胞/wellの量で播種し、賦活化剤を含まないMSC培養培地を1.3mL/wellで加えて37℃で4日間培養を行い、継代数1の未処理MSCを調製した。これらのMSCにおけるCD47陽性細胞率を実施例9と同様にして測定したところ、賦活化処理されたMSCで<20%、未処理MSCで>90%であった。
【実施例】
【0172】
2)アルツハイマー病モデルマウスにおけるMSCの治療効果
実施例5と同様にして、上記1)の2種類のMSCをAPP/PS1マウスに髄腔内投与し、治療効果を評価した。モリス水迷路での学習テストの結果を図39に、記憶テストの結果を図40に示す。CD47陽性細胞率の高いMSCを投与したマウスは、CD47陽性細胞率の低いMSCを投与したマウスと比較して学習能力及び記憶能力が低く、CD47は治療効果の負のマーカーとなることが示された。
【実施例】
【0173】
実施例17 抽出方法の異なる賦活化剤を用いたMSCの賦活化処理
市販のヒト胎盤抽出物(「メルスモン」、メルスモン製薬株式会社)をエバポレーターで濃縮することで賦活化剤を調製し、これを用いてPreset VECELL及び2次元培養担体上でのOA-MSCの賦活化処理を実施例8の2)と同様に行った。これらのOA-MSCにおける各遺伝子の発現量をリアルタイムPCRによって測定した。2次元培養担体上で賦活化剤の不存在下で培養したMSC(2D・賦活剤なし)に対する各MSCにおけるOCT4、SOX2、TERT及びp16ink4aの相対的遺伝子発現量を図41及び図42に示す。ヒト胎盤抽出物から調製した賦活化剤は、実施例1の1)で調製した賦活化剤と同様に、3次元培養担体上でより強い賦活化効果を示した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
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【図16】
15
【図17】
16
【図18】
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【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
29
【図31】
30
【図32】
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【図33】
32
【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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