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明細書 :マグネトロンスパッタガン及びマグネトロンスパッタ薄膜作製装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-163495 (P2019-163495A)
公開日 令和元年9月26日(2019.9.26)
発明の名称または考案の名称 マグネトロンスパッタガン及びマグネトロンスパッタ薄膜作製装置
国際特許分類 C23C  14/34        (2006.01)
FI C23C 14/34 L
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2018-050765 (P2018-050765)
出願日 平成30年3月19日(2018.3.19)
発明者または考案者 【氏名】春本高志
【氏名】史蹟
【氏名】中村吉男
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002136、【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4K029
Fターム 4K029DC03
4K029DC20
4K029DC25
4K029DC34
4K029DC40
要約 【課題】マグネトロンスパッタ薄膜作製装置のカソード部の温度上昇を抑制でき、更に、冷却水による冷却が不要であり設備コストを低減することのできるマグネトロンスパッタガンや、それを用いたマグネトロンスパッタ薄膜作製装置を提供する。
【解決手段】シールドカバー15と、ターゲットtを保持するためのターゲット保持手段11と、ターゲットtの表面上に磁場を発生させるための永久磁石12と、ターゲットt及び永久磁石12を冷却するための冷却手段とを有するマグネトロンスパッタガン10であって、冷却手段が非水冷式の熱バラスト13であることを特徴とするマグネトロンスパッタガン10により上記課題を解決した。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
シールドカバーと、ターゲットを保持するためのターゲット保持手段と、該ターゲットの表面上に磁場を発生させるための永久磁石と、該ターゲット及び該永久磁石を冷却するための冷却手段とを有するマグネトロンスパッタガンであって、該冷却手段が非水冷式の熱バラストであることを特徴とするマグネトロンスパッタガン。
【請求項2】
上記熱バラストの体積が、20cm以上500cm以下である請求項1に記載のマグネトロンスパッタガン。
【請求項3】
ターゲット径が2インチ以下のターゲット用である請求項1又は請求項2に記載のマグネトロンスパッタガン。
【請求項4】
上記永久磁石が、耐熱ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石又はアルニコ磁石である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のマグネトロンスパッタガン。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のマグネトロンスパッタガン、及び、ターゲットを、真空槽に設置したことを特徴とするマグネトロンスパッタ薄膜作製装置。
【請求項6】
上記マグネトロンスパッタガンが真空槽中の可動部に設置されている請求項5に記載のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置。
【請求項7】
上記熱バラストの主要部が、上記真空槽の壁面より離れて位置している請求項5又は請求項6に記載のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタガン及びマグネトロンスパッタ薄膜作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ法(スパッタリング)とは、真空槽中に基板とターゲット(スパッタ膜の原材料となる部材)を配置し、プラズマによって生成させたアルゴンイオン(Ar)等をターゲット表面に高速で衝突させることにより、ターゲット表面から叩き出された原材料の蒸気を基板上に堆積させる手法である。
スパッタ法による薄膜の成膜では、緻密な膜を形成できる、高融点物質にも適用できる、電圧で放電させるだけであり装置を比較的簡単な構成とすることができる、等の利点があり、電子部品、光学薄膜等の多くの製品の生産にスパッタ法が使用されている。
【0003】
スパッタ法においては、アルゴン等の導入ガスの圧力を、放電を維持できる程度に上げなければならないが、反面、圧力が高過ぎると、ターゲット表面から叩き出された蒸気が基板に到達しにくくなる(成膜速度が小さくなる);該蒸気の持つ運動エネルギーが低下し緻密な膜ができにくくなる;プラズマが作製中の膜の近くに存在し膜質に悪影響を与える;といった課題がある。
【0004】
マグネトロンスパッタ法(マグネトロンスパッタリング)は、永久磁石を使用することによりプラズマを安定化し、ターゲットの近傍に拘束する方法である。マグネトロンスパッタ法によれば、低圧や低電圧での成膜が可能であり、上記のような課題を解決することができる。
マグネトロンスパッタ法は、近年では、スパッタ法の中で最も一般的な手法となっており、真空槽に組み込んで使用することのできるマグネトロンスパッタガン(「マグネトロンスパッタ源」、「マグネトロンスパッタカソード」等と呼称される場合もある。)が種々市販されている。
【0005】
マグネトロンスパッタ薄膜作製装置においては、プラズマの発生による温度上昇に起因する永久磁石の磁気特性の変化が問題となる。このため、カソード部(永久磁石やターゲットの近傍)を冷却水により冷却するのが一般的であり、市販のマグネトロンスパッタガンには、冷却水用の配管が付属されている。
【0006】
マグネトロンスパッタガンにおける冷却水の配置については、様々な検討がなされている。
例えば、特許文献1には、ターゲットの基板側ではない面に取り付けられたバッキングプレートの外側に冷却手段を設けることで、ターゲットの冷却をターゲットの外周部から行う構造となっており、ターゲットを適切に冷却することのできるマグネトロンスパッタ薄膜作製装置が記載されている。
また、特許文献2には、磁界形成部を1つの磁石によって構成し、磁界形成部と冷却部とを分離したマグネトロンスパッタ薄膜作製装置が記載されている。
【0007】
マグネトロンスパッタガンの種類によっては、永久磁石が直接冷却水によって冷却される(永久磁石が冷却水に接触する)場合があり、このような場合、永久磁石の腐食による機能低下も問題となる。
特許文献3に記載のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置では、希土類磁石の水と接触する側の面にエポキシ樹脂被膜を設けることにより、耐食性を改善している。
【0008】
特許文献1~3に記載のものを含め、従来のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置においては、ターゲット付近の狭い部分に、真空部と冷却部という2つの部分(場合によっては、大気圧部を加えた3つの部分)が混在することとなる。例えば、直径1インチのターゲット用のマグネトロンスパッタガンでは、直径30mm、高さ10mm程の円柱状の空間に、これらの2つ(又は3つ)の部分が混在することになる。
このため、マグネトロンスパッタガンの製造には、高度な真空技術が必要であり、それ故に、コストを下げることは困難となっている。また、冷却部(冷却水の流路)と真空部が近接していることにより、高度な真空技術をもってしても、真空槽内への水の侵入によるガス放出を防止することは困難であり、真空度の悪化につながっている。
【0009】
更に、近年、研究開発用のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置においては、ターゲットの小型化が進行しており、また、nmオーダーの極薄膜が研究の対象となっている。
すなわち、研究開発におけるマグネトロンスパッタ法では、短時間で、小さな投入電力で成膜を行うことが多くなってきており、結果、カソード部で消費されるエネルギーは激減している。例えば、333V、15mA(5W)で、1時間プラズマを点灯した場合(後述の実施例1)の消費エネルギーは、わずか18kJ(1Lの水の温度を4.3℃上昇させる熱量)に過ぎない。
【0010】
現在市販されているマグネトロンスパッタガンでは、1~2L/min程度の冷却水を流した状態で使用することが推奨されているが、上記のようなわずかな熱量の発生を抑えるために、絶えず冷却水を循環させるのは、過剰設備といえる。
【0011】
このため、特に、研究開発用として、ガス放出を防止でき、また、設備コストを低減することのできるマグネトロンスパッタ薄膜作製装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開2010-280982号公報
【特許文献2】特開2008-156732号公報
【特許文献3】特開2017-088953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、マグネトロンスパッタ薄膜作製装置のカソード部の温度上昇を抑制でき、更に、冷却水による冷却が不要であり設備コストを低減することのできるマグネトロンスパッタガンや、それを用いたマグネトロンスパッタ薄膜作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、マグネトロンスパッタガンに、非水冷式の熱バラストを付加することによって、冷却水を使用せずとも、該熱バラストによる放熱でカソード部の温度上昇を永久磁石の磁気特性が変化しない程度に抑制することができ、結果、設備コストが低減でき、また、従来のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置で生じていた冷却水に起因するガス放出を抑制できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、シールドカバーと、ターゲットを保持するためのターゲット保持手段と、該ターゲットの表面上に磁場を発生させるための永久磁石と、該ターゲット及び該永久磁石を冷却するための冷却手段とを有するマグネトロンスパッタガンであって、該冷却手段が非水冷式の熱バラストであることを特徴とするマグネトロンスパッタガンを提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記のマグネトロンスパッタガン、及び、ターゲットを、真空槽に設置したことを特徴とするマグネトロンスパッタ薄膜作製装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マグネトロンスパッタ薄膜作製装置のカソード部の温度上昇を抑制でき、更に、冷却水による冷却が不要であり設備コストを低減することのできるマグネトロンスパッタガンや、それを用いたマグネトロンスパッタ薄膜作製装置を安価に提供することができる。
【0018】
本発明では、マグネトロンスパッタ薄膜作製装置のターゲット付近において、真空部と冷却部が混在する、という問題を解決することができ、これにより、放出ガス量を低減することができる。
【0019】
本発明では、冷却水の循環が不要であるので、設備コストの大幅な削減を図ることができる。また、冷却水の流路を確保する場合、真空槽内におけるターゲット等の配置に制限が生じることになる(従来のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置では、ターゲットは冷却水の関係で半固定的に設置せざるを得ない)。しかし、本発明では、熱バラストは、マグネトロンスパッタガンの一部であって、真空槽外のものとは孤立しているので(真空槽外にまで通じる冷却水の配管がないので)、真空槽内のバラストの大きさや形状を単に変化させるだけで、マグネトロンスパッタガンの配置を容易に設計し、また位置の変更をすることができるので、装置設計・運用の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のマグネトロンスパッタガンを示す模式図である。
【図2】従来のマグネトロンスパッタガンを示す模式図である。
【図3】本発明のマグネトロンスパッタガンの写真である。
【図4】本発明のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置におけるカソード部付近を示す模式図である(熱バラストの主要部の全体が真空槽内部に存在する場合)。
【図5】本発明のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置におけるカソード部付近を示す模式図である(熱バラストの主要部の一部が真空槽内部に存在する場合)。
【図6】本発明のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置におけるカソード部付近を示す模式図である(マグネトロンスパッタガンが真空槽中の可動部に設置されている場合)。
【図7】実施例1で成膜したAl薄膜のAES分析結果を示すグラフである。
【図8】実施例1におけるマグネトロンスパッタガンのガン電圧の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例1におけるマグネトロンスパッタガンの大気側端面の温度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例2で成膜したAl薄膜のAES分析結果を示すグラフである。
【図11】実施例2におけるマグネトロンスパッタガンのガン電圧の経時変化を示すグラフである。
【図12】実施例2におけるマグネトロンスパッタガンの大気側端面の温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。

【0022】
図1に本発明のマグネトロンスパッタガン(ターゲットを保持した状態)を示す。本発明のマグネトロンスパッタガン10は、シールドカバー15と、ターゲットtを保持するためのターゲット保持手段11と、ターゲットtの表面上に磁場を発生させるための永久磁石12と、ターゲットt及び永久磁石12を冷却するための冷却手段とを有する。

【0023】
本発明においては、冷却手段は、非水冷式の熱バラスト13である。熱バラスト13は、直接又は別の部材を介して、ターゲット保持手段11と接続されている。ターゲット付近でプラズマの発生により生じる熱は、熱バラスト13により一旦回収(蓄積)され、伝導及び/又は輻射により、外部に放熱される。

【0024】
また、本発明のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置は、本発明のマグネトロンスパッタガン10、及び、ターゲットtを、真空槽に設置したものである。

【0025】
図2に従来のマグネトロンスパッタガンを示す。従来のマグネトロンスパッタガンの冷却手段は、冷却水113による水冷式であり、給水管113aと排水管113bを有しており、装置の運転中は、常に冷却水113を循環させていなければならず、前記のように、真空槽内への水の侵入による真空度悪化の問題や、設備コストの高騰という問題を生じている。

【0026】
また、給水管113aと排水管113bのために、真空槽内におけるマグネトロンスパッタガンの設置位置に自由度がなかった(制約があった)。
すなわち、従来の冷却手段に必須の給水管113aや排水管113bは、ある程度の太さを持ち、また真空度の悪化を防止するため有機物(樹脂)は使えないため一般的にはフレキシブルでない。
これに対して、本発明のマグネトロンスパッタガンでは、「フレキシブルでないために真空槽の筐体に対しての設置位置に自由度を持たせられない給水管113aと排水管113b」が不要であるので、装置設計・運用の自由度を飛躍的に高めることができる。

【0027】
本発明のマグネトロンスパッタガンにおける冷却手段は、非水冷式の熱バラスト13であるため、水冷式の冷却手段を有する従来のマグネトロンスパッタガンにおいて生じる前記したような種々の問題が生じにくい。

【0028】
近年、ターゲットの小型化等によりカソード部で消費されるエネルギーは激減している。また、特に、研究開発用途に使用されるマグネトロンスパッタガンの場合、前記のように、カソード部で消費されるエネルギーが少なくなっていることに加え、長時間連続でプラズマを発生させる(すなわち、カソード部が加熱され続ける)ことが無い。
このため、非水冷式の熱バラスト13による冷却でも、永久磁石の磁気特性を維持することができる程度の冷却性能を発揮することができ、非水冷式の熱バラスト13を使用した本発明のマグネトロンスパッタガンは、従来の水冷式のマグネトロンスパッタガンの有する前記問題点を解決することができ、その上で簡便性を享受することができる。
また、研究開発では、通常バッチ式(回分式)で使用されるので、次のバッチの設定・準備をしている間に、熱バラスト13がほぼ室温まで冷却するので、研究開発用途では、本発明の非水冷式の熱バラストの長所のみを更に生かせる。

【0029】
また、「『空冷』を、積極的に気体を流して冷却すること」と定義すると、本発明のマグネトロンスパッタガンにおける冷却手段は、非水冷式であることに加えて非空冷式であることも好ましい。真空槽から伝導や輻射で外部に出てきた熱を真空槽の外部で積極的に空冷する必要はなく、また、冷却水が必須ではないので該冷却水の空冷も不要である。

【0030】
熱バラスト13は、非水冷式のものであれば、素材に特に限定は無いが、カソード部で発生する熱を効率良く回収するために、熱伝導率が大きいことが望ましい。
熱バラスト13を構成する素材として、具体的には、銅(Cu)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)等の金属が挙げられる。また、これらの金属の合金も挙げられ、これらの任意の2種以上の合金であってもよい。更に、これらの他、非磁性の鋼(例えば、オーステナイト系ステンレス鋼)であってもよい。
熱伝導率、比熱、コスト、加工のしやすさ等の観点から、銅が好ましい。また、ガス放出抑制の観点から、無酸素銅が特に好ましい。
図3に示すマグネトロンスパッタガンの熱バラスト13は、無酸素銅である。

【0031】
熱バラスト13は、図3や図4に示すように、その主要部の全体が、真空槽内部Iに存在するようになっていても(主要部が真空槽壁面Wより離れて位置していても)よいし、図5に示すように、主要部の一部が、真空槽内部Iに存在し、残りが真空槽外部Oに存在していてもよいし、図示しないが、主要部の全体が真空槽外部Oに存在するようになっていてもよい。
ここで「熱バラスト13の主要部」とは、熱バラスト13のうち、他の部材との接続のために必然的に設けざるを得ない部位以外の部位(すなわち、熱バラスト13の体積の大部分を占める部位)をいう。図3の場合、円筒状の部位が主要部であり、円筒状の部位の下のナット状の部分等は、主要部ではない。

【0032】
熱バラスト13の主要部の形状に特に限定は無く、円筒形、角柱形等が挙げられる。ターゲットtは円板状であることが多いことから、ターゲット保持手段11も円筒状の部分を有することが多く、ターゲット保持手段11との接続の容易性から、熱バラスト13も円筒状であるのが好ましい。また、異常放電を抑制する観点からも、熱バラスト13は円筒状であるのが好ましい。

【0033】
従来のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置は、冷却水が通過する配管を確保する必要があるため、設計上必然的にマグネトロンスパッタガンを半固定的に設置せざるを得ず、これによりターゲットの設置位置も半固定的となってしまっていた。
この点、本発明では、熱バラスト13はターゲットtの設置位置に束縛を与えないため、真空槽内部Iにおけるターゲットtの設置位置を自在に変更することができ、装置設計・運用の自由度を高めることができる。

【0034】
本発明のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置では、マグネトロンスパッタガンを、真空槽中の可動部に設置することが可能である。冷却水の配管を有する従来のものは、真空槽中の可動部への設置は困難であり、装置設計の自由度が低かった。
該「真空槽中の可動部」とは、真空槽中において直動運動や回転運動、又は、これらを組み合わせた運動をする部分のことをいう。

【0035】
マグネトロンスパッタガンが、真空槽中の可動部18に設置されているマグネトロンスパッタ薄膜作製装置の一例を図6に示す(なお、図6に描かれている部分は全て真空槽内部Iであり、真空槽壁面Wや真空槽外部Oは、図6においては省略している)。図6のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置においては、シールドカバー15が可動部18と接続され、熱バラスト13が電気絶縁体17を介して可動部18と接続されている。
可動部18は、真空槽中に設けられたレール19上を直動運動することができるため、可動部18を移動させることにより、真空槽中におけるマグネトロンスパッタガンを移動させることができる。
図6においては、可動部の例示として、レール上を直動運動する例を示したが、本発明における可動機構は、レールによる直動運動には限定されない。

【0036】
従来の水冷式のマグネトロンスパッタガンを用いたマグネトロンスパッタ薄膜作製装置では、冷却水が通過する配管を確保する必要があり、このような可動機構を設けることは不可能である。
本発明では、可動機構により、マグネトロンスパッタガンの位置の変更をすることができるので、装置設計・運用の自由度を高めることができる。本発明では、例えば、マグネトロンスパッタガンを移動させながら成膜することも可能である。

【0037】
熱バラスト13の主要部の体積について特に限定は無いが、20cm以上であることが好ましく、30cm以上であることがより好ましく、50cm以上であることが特に好ましい。また、500cm以下であることが好ましく、300cm以下であることがより好ましく、200cm以下であることが特に好ましい。
上記下限以上であると、冷却(放熱)効果が十分となり、永久磁石の磁気特性等を維持しやすい。上記上限以下であると、サイズ的に、真空槽内に設置しやすい。

【0038】
熱バラスト13の主要部が円筒形状の場合、直径は、ターゲット径と同程度であるか、又は若干大きめであるのが望ましい。例えば、「円筒の直径からターゲット径を引いた値」は、2cm以下であることが好ましく、0.5cm以上1cm以下であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、熱バラスト13の設置がしやすく、また、冷却(放熱)効率が十分となりやすい。

【0039】
熱バラスト13の主要部が円筒形状の場合、その高さは、3cm以上が好ましく、5cm以上が特に好ましい。また、30cm以下が好ましく、20cm以下が特に好ましい。
上記範囲内であると、冷却(放熱)効率が十分となり、また、真空槽内に設置しやすい。

【0040】
本発明において使用されるターゲットtの種類に特に限定は無く、一般のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置において使用されるものを適宜使用することができる。
例えば、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)等の金属;シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等の半金属;これらの金属や半金属の合金;これらの金属や半金属の酸化物や窒化物;等が挙げられる。

【0041】
ターゲットtの大きさに特に限定は無いが、ターゲット径が2インチ以下であることが、本発明の特長を生かすために好ましい。すなわち、本発明のマグネトロンスパッタガンは、ターゲット径が2インチ以下のターゲット用であることが好ましい。ターゲットtのターゲット径は、1.5インチ以下であることがより好ましく、1インチ程度であることが特に好ましい。
ターゲット径が上記上限以下であると、カソード部で消費されるエネルギーが十分に小さくなり、結果、カソード部における発熱量が少なくなるので、永久磁石の磁気特性を維持しやすくなる。
なお、ターゲットtは、通常円形であり「ターゲット径」とは、ターゲットの外径であるが、ターゲットが円形でない場合、「ターゲット径」とは、面積が円相当の円の外径である。

【0042】
本発明において使用される永久磁石12の種類に特に限定は無く、一般のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置において使用されるものを適宜使用することができる。
中でも、耐熱ネオジム磁石(耐熱性を向上させたNd-Fe-B磁石)、サマリウムコバルト磁石(Sm-Co磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石(Al-Ni-Co磁石)等が好ましく、耐熱ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石が、磁力が高いこと;耐熱温度や磁力の温度依存性が本発明の冷却手段に適応できる程度には高いこと;等の点から特に好ましい。

【0043】
このうち、耐熱ネオジム磁石は、高磁力であり、プラズマを拘束しやすいという長所を持ち、マグネトロンスパッタ法に適した性能を持つ反面、比較的熱に弱い(耐熱温度は150℃程度)という欠点がある。
しかし、研究開発用途の場合、プラズマを発生させる時間は、プリスパッタ工程も含めて1時間程度であることが多く、本発明のような熱バラスト13による冷却(放熱)であっても、上記耐熱温度まで上昇することはなく、耐熱ネオジム磁石の性能を十分に維持することができる。

【0044】
本発明において、真空槽内に導入する導入ガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の希ガス;窒素(N);酸素(O);水素(H)等が挙げられる。これらのガスは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記導入ガスのうち、アルゴン(又はアルゴンと他のガスの混合ガス)が特に好ましい。

【0045】
本発明のマグネトロンスパッタガン10において、ターゲットtや永久磁石12の保持(固定)方法等は、従来のマグネトロンスパッタガンと特段の違いは無い。
ターゲット保持手段11は、ターゲットを保持するための部材であり、永久磁石保持手段14は、永久磁石12を保持するための部材である。永久磁石保持手段14は、ターゲットtを保持するための役割も兼ねる場合がある。

【0046】
設計上、ターゲットtで発生した熱は、図1に示すように、永久磁石保持手段14を介して熱バラスト13に伝わるのが通常である。
このため、永久磁石保持手段14も、熱伝導率が大きい素材で形成されていることが好ましい。永久磁石保持手段14の具体的な素材には、前記した熱バラスト13と同様の素材を使用することができる。
また、永久磁石保持手段14は、設計によっては、熱バラスト13と一体化させることもでき、むしろ、そのようにした方が、冷却(放熱)効率やコスト等の観点から望ましい場合もある。

【0047】
本発明のマグネトロンスパッタガン10において、カソード部(永久磁石12やターゲットtの近傍)は、シールドカバー15によって覆われている。
シールドカバー15は、他の部材と接続・固定されている。例えば、図4に示すようにシールドカバー保持手段16によって、熱バラスト13と接続されていてもよいし、図5に示すように、真空槽壁面Wと接続されていてもよいし、図6に示すように、真空槽中の可動部18と接続されていてもよい。

【0048】
図3や図4においては、シールドカバー15は、短めに設計されている(外見上熱バラスト13が露出して見える)が、異常放電を抑制するべく、図5や図6に示すように、シールドカバー15は長めに設計する(熱バラスト13をより覆うようにする)方が望ましい。ただし、図3や図4のような場合が、本発明の範囲外となるわけではない。

【0049】
図示しないが、本発明のマグネトロンスパッタガン10は、従来のマグネトロンスパッタガンと同様に、ターゲット上での、磁界の大小や形をコントロールするために、ヨークを有していてもよい。
ヨークの形状は、使用する永久磁石12の個数や大きさによって適宜決定される。

【0050】
プラズマの発生させる際には、シールドカバー15は、真空チャンバーと同じGND電位(0V)とし、ターゲットには負の高電圧をかけ、シールドカバー15とターゲットtの間の電場により放電させる。
熱バラスト13は、ターゲットtと電気的に接続しているので、熱バラスト13とターゲットtは、同じ電位(負の高電圧)である。
よって、熱バラスト13と真空槽壁面W(又は真空槽中の可動部18)の間には、電気絶縁体17を設置する必要がある。

【0051】
図4に示すように、シールドカバー15をシールドカバー保持手段16によって、熱バラスト13と接続させる場合、シールドカバー保持手段16は、電気絶縁性を有する素材で形成されている必要がある。また、シールドカバー保持手段16は、真空度に影響を与えない部材である必要がある。
かかる条件を満たすシールドカバー保持手段16としては、例えば、樹脂ネジ、セラミックネジ等が挙げられる。

【0052】
本発明において、成膜を行う際の真空槽内部Iの圧力は、通常のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置の場合と同様に、0.001~10Pa程度が好ましい。

【0053】
本発明において、成膜を行う際の投入電力は、1~20W程度が好ましい。また、成膜時間は10~60分程度が好ましい。
上記範囲であれば、良質な膜を十分な厚さで成膜しやすい。また、熱バラスト13による冷却(放熱)で、永久磁石12に影響を与えない程度の発熱に抑えることができる。
マグネトロンスパッタ薄膜作製装置を研究開発用途で使用する場合、投入電力や成膜時間は、通常、上記の範囲となるため、本発明マグネトロンスパッタガンは、研究開発用途として使用するのに適している。

【0054】
真空槽の体積については、通常のマグネトロンスパッタ薄膜作製装置と同様に、5000cm~30000cm程度が好ましい。
また、真空槽内において、ターゲットtと基板との間の距離は、ターゲット径の1倍から5倍程度となるように設計されているのが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1
図3に示す熱バラストを有するマグネトロンスパッタガンを真空槽に組み込んだマグネトロンスパッタ薄膜作製装置を使用して、以下に示す装置構成及び実験条件でアルミニウム薄膜のスパッタリング成膜を実施した。
【実施例】
【0057】
[装置構成]
・真空槽体積:約13000cm
・ターゲット:1インチの円形のアルミニウム板(純度:99.99%)
・基板:石英ガラス
・永久磁石:耐熱ネオジム磁石
・ターゲット-基板間距離:55mm
・熱バラスト:直径39mm、高さ92mmの無酸素銅(熱容量:約380J/K)
【実施例】
【0058】
[実験条件]
・DC駆動、一定電流モード(電流値:15.0mA)
・投入電力:約5.0W
・プラズマ点灯時間:60分間(30分間プリスパッタ、30分間成膜)
・室温:20.6±1℃
・導入ガス:アルゴン
・真空槽内圧力:0.50Pa
【実施例】
【0059】
なお、上記条件下では、カソード部で消費されるエネルギーは18.1kJとなり、これを全て熱バラストで回収したと仮定した場合、熱バラストの温度は48℃上昇する(室温20℃の場合、68℃まで上昇する)ことになる。
【実施例】
【0060】
上記条件で成膜した結果、膜厚107nmの薄膜を得ることができた(成膜レートは3.6nm/minという現実的なレートであった)。得られた薄膜をオージェ電子分光(AES)により元素分析した結果(図7)、Alのみが検出され、酸素等の混入元素は検出されなかった。
【実施例】
【0061】
マグネトロンスパッタガンのガン電圧の変化を図8に示す(0hの時点でプラズマ点灯開始)。プラズマ点灯中のガン電圧は、±1V(0.3%)の範囲に収まっていた。特に、成膜中(0.5h~1h)におけるガン電圧が安定していた。
この結果は、プラズマ点灯中に、永久磁石の磁気特性に影響が及ぶほどの熱がカソード部で発生していないことを意味する。すなわち、非水冷式の熱バラストでも、十分に冷却機能を発揮できていることが示された。
【実施例】
【0062】
マグネトロンスパッタガンの大気側(真空槽外部)端面(図3においてAで示した箇所)における、温度変化(K型熱電対により測定)を図9に示す。
大気側端面の温度は、プラズマ点灯により徐々に上昇し、プラズマ消灯(1h)後、数分後には低下し始めた。最高で室温より18℃高い温度まで上昇した。熱散逸と、真空-大気間での温度低下を考慮すると、妥当な値といえる。
【実施例】
【0063】
実施例2
実施例1と同じ装置構成の装置を使用して、以下に示す実験条件でアルミニウム薄膜のスパッタリング成膜を実施した。
【実施例】
【0064】
[実験条件]
・DC駆動、一定電流モード(電流値:29.0mA)
・投入電力:約10.2W
・プラズマ点灯時間:60分間(30分間プリスパッタ、30分間成膜)
・室温:20.4±1℃
・導入ガス:アルゴン
・真空槽内圧力:0.50Pa
【実施例】
【0065】
なお、上記条件下では、カソード部で消費されるエネルギーは36.7kJとなり、これを全て熱バラストで回収したと仮定した場合、熱バラストの温度は97℃上昇する(室温20℃の場合、117℃まで上昇する)ことになる。
【実施例】
【0066】
上記条件で成膜した結果、膜厚200nmの薄膜を得ることができた(成膜レートは6.7nm/minという現実的なレートであった)。得られた薄膜をオージェ電子分光(AES)により元素分析した結果(図10)、Alのみが検出され、酸素等の混入元素は検出されなかった。
【実施例】
【0067】
マグネトロンスパッタガンのガン電圧の変化を図11に示す(0hの時点でプラズマ点灯開始)。実施例1の場合と同様に、プラズマ点灯中のガン電圧は、±1V(0.3%)の範囲であり、特に、成膜中(0.5h~1h)におけるガン電圧が安定していた。
実施例1よりも投入エネルギーが多い場合も、非水冷式の熱バラストで十分に冷却機能を発揮できていることが示された。
【実施例】
【0068】
マグネトロンスパッタガンの大気側(真空槽外部)端面(図3においてAで示した箇所)における、温度変化(K型熱電対により測定)を図12に示す。
実施例1の場合と同様に、プラズマ点灯により徐々に上昇した大気側端面の温度は、プラズマ消灯(1h)後、数分後には低下し始め、最高温度は室温より35℃高い温度だった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のマグネトロンスパッタガンは、放出ガス量を低減することができ、設備コストの大幅な削減を図ることができ、装置設計の自由度も高いため、研究開発用のマグネトロンスパッタ薄膜装置等に広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0070】
10 マグネトロンスパッタガン
11 ターゲット保持手段
12 永久磁石
13 熱バラスト
14 永久磁石保持手段
15 シールドカバー
16 シールドカバー保持手段
17 電気絶縁体
18 可動部
19 レール
113 冷却水
113a 給水管
113b 排水管
t ターゲット
W 真空槽壁面
I 真空槽内部
O 真空槽外部
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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