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明細書 :ビリベルジン結合性シアノバクテリオクロム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-138930 (P2020-138930A)
公開日 令和2年9月3日(2020.9.3)
発明の名称または考案の名称 ビリベルジン結合性シアノバクテリオクロム
国際特許分類 C07K  14/405       (2006.01)
C12N  15/31        (2006.01)
C12N  15/63        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C07K 14/405 ZNA
C12N 15/31
C12N 15/63 Z
C07K 19/00
C12P 21/02 C
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2019-035694 (P2019-035694)
出願日 平成31年2月28日(2019.2.28)
発明者または考案者 【氏名】成川 礼
【氏名】伏見 圭司
【氏名】佐藤 守俊
出願人 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100124800、【弁理士】、【氏名又は名称】諏澤 勇司
【識別番号】100126653、【弁理士】、【氏名又は名称】木元 克輔
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
4H045
Fターム 4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA10
4H045EA50
4H045FA74
要約 【課題】哺乳動物個体のインビボイメージングに利用可能なタンパク質の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有し、ビリベルジン結合性であるタンパク質。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、ビリベルジン結合性であるタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質に、配列番号1に記載のアミノ酸配列の95番目又はそれに相当するシステイン残基を介してビリベルジンが結合した、複合体。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養することを含む、請求項1に記載のタンパク質の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ビリベルジン結合性シアノバクテリオクロムに関する。
【背景技術】
【0002】
光は時間・空間分解能が高く、また、波長及び強度という二つのパラメーターによって細かく制御することができる。そのため、細胞内におけるタンパク質の局在などの測定に、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光分子による、光を利用する分子イメージング手法が近年利用されている。しかしながら、細胞に存在する様々な要因(ヘモグロビン、メラニン、水など)により、低波長領域の光の多くは吸収されてしまうことから、低波長領域の光を吸収して蛍光を発するGFPなどの蛍光分子を生体内で利用しようとすると、励起光が蛍光分子まで届きにくく、また蛍光の検出も困難であった。そのため、生体内での分子イメージングには、吸収され難い長波長光吸収型の蛍光分子が望まれている。
【0003】
近年、長波長領域の光を吸収するビリベルジン(BV)と結合するバクテリオフィトクロムという光受容体が注目されている。バクテリオフィトクロムは、ビリベルジンと共有結合することで、700nm及び750nmの波長により、可逆的に光変換する光受容体である。バクテリオフィトクロムを用いた蛍光プローブは、色素を結合するタンパク質領域の分子量が比較的大きく、また、タンパク質が二量体以上の多量体を形成するという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、シアノバクテリオクロムを利用した蛍光プローブが提案されている。シアノバクテリオクロムは、フィコシアノビリン(PCB)及びフィコビオロビリンなどの開環テトラピロールと結合し、紫-青/緑色光、紫/黄色光及び緑/赤色光の間で可逆的に光変換を示す。シアノバクテリオクロムは、25kDa程度の発色団結合ドメイン(GAFドメイン)単量体で色素と結合することができるため、バクテリオフィトクロムを用いた蛍光プローブよりも低分子で利用できる。シアノバクテリオクロムの2番目のGAFドメインであるAM1_1557g2にBVが結合した蛍光プローブが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第6404665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、哺乳動物個体のインビボイメージングに利用可能なタンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シアノバクテリオクロムNpF2164の5番目のGAFドメインであるNpF2164g5に、4つのアミノ酸残基に変異を導入することで、BV非結合性のNpF2164g5がBV結合性に変化することを見出し、この変異体タンパク質をNpF2164g5_BV4と名付けた。また、BVが結合したNpF2164g5_BV4をマウス個体に導入することで、非侵襲的に肝臓をイメージングできることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]に関する。
[1] 配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、ビリベルジン結合性であるタンパク質。
[2] 上記[1]に記載のタンパク質に、配列番号1に記載のアミノ酸配列の95番目又はそれに相当するシステイン残基を介してビリベルジンが結合した、複合体。
[3] 上記[1]に記載のタンパク質をコードする核酸。
[4] 上記[3]に記載の核酸を含むベクター。
[5] 上記[4]に記載のベクターを含む形質転換体。
[6] 上記[5]に記載の形質転換体を培養することを含む、上記[1]に記載のタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタンパク質は、哺乳動物個体のインビボイメージングへの利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)BVが結合したAnPixJg2_BV4の立体配置を示す図である。(b)PCBが結合したAnPixJg2の立体配置を示す図である。(c)BVとPCBの構造を比較する図である。Cys321はスティックモデルで表し、βシートはリボンモデルで表す。(d)Phe/Thr308及びIle/Val336残基と発色団の空間充填モデルを表す図である。上段はAnPixJg2_BV4を、中段はBVをAnPixJg2_BV4に重ね合わせたものを、下段はAnPixJg2を表す。
【図2】(a)NpF2164g5(破線)及びBVが結合したNpF2164g5_BV4(実線)の標準化した吸収スペクトルを表す図である。(b)PCBが結合したNpF2164g5及びBVが結合したNpF2164g5_BV4の標準化した蛍光励起スペクトル及び蛍光発光スペクトルを表す図である。
【図3】(a)GFP-NpF2164g5_BV4(左列)、GFP(中央列)又はGFP-iRFP(右列)でトランスフェクトしたCOS-7細胞の共焦点蛍光画像を示す図である。(b)GFP-NpF2164g5_BV4、GFP又はGFP-iRFPでトランスフェクトしたCOS-7細胞のNIR蛍光強度を表す図である。発現レベルの変動を標準化するため、GFP蛍光でNIR蛍光を除している。(P値:*<0.05)
【図4】(a)生きたマウスの光画像及びNIR蛍光画像を重ね合わせた図を表す。左はGFP-NpF2164g5_BV4でトランスフェクトしたマウスを表し、右は陰性対照のマウスを表す。(b)GFP-NpF2164g5_BV4でトランスフェクトした生きたマウス又は未注射の生きたマウスの肝臓の蛍光強度を表す図である。(P値:*<0.05)
【図5】(a)GFP-NpF2164g5_BV4でトランスフェクトしたマウス(上段)又は未注射のマウス(下段)から単離した肝臓の光画像(左列)及びNIR蛍光画像(右列)を表す図である。(b)GFP-NpF2164g5_BV4でトランスフェクトしたマウス又は未注射のマウスから単離した肝臓の蛍光強度を示す図である。(P値:*<0.05)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。

【0012】
本実施形態のタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、ビリベルジン結合性である。配列番号1に記載のアミノ酸配列は、シアノバクテリオクロムNpF2164の5番目のGAFドメインであるNpF2164g5の4つのアミノ酸残基に変異を導入したタンパク質「NpF2164g5_BV4」のアミノ酸配列である(以下、配列番号1に記載のアミノ酸配列が示すタンパク質及びこれと90%以上の同一性を有し、ビリベルジン結合性であるタンパク質を「NpF2164g5_BV4等」と総称する場合もある。)。

【0013】
ビリベルジン結合性とは、タンパク質のビリベルジン結合効率が30%以上であることを意味する。結合効率は、タンパク質の濃度を測定し、ホロタンパク質を酸性条件で変性することで結合しているビリベルジンの濃度を測定し、タンパク質及びビリベルジンのモル濃度の比から算出することができる。具体的には、例えば、実施例に記載の方法に従って結合効率を測定することができる。ビリベルジン結合効率は好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上である。ビリベルジン結合効率が高いタンパク質は、効率的なインビボイメージングが可能である。

【0014】
本実施形態のタンパク質は、ビリベルジン結合性を損なわない範囲で、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有する。アミノ酸配列の同一性は、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%以上であってもよい。あるいは、本実施形態のタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して17個以下のアミノ酸残基が変異してもよい。変異されるアミノ酸残基の個数は、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3又は2個以下であってもよく、1個であってもよい。アミノ酸残基の変異は、置換、欠失、挿入及び付加のいずれであってもよい。

【0015】
アミノ酸の変異が置換である場合、置換の種類は保存的アミノ酸置換であってよい。保存的アミノ酸置換とは、類似の側鎖を有する残基の互換性を意味する。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンであり;脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸は、セリン及びスレオニンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン及びヒスチジンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸は、リジン、アルギニン及びヒスチジンであり;酸性側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸であり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン及びグルタミンであり;硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の基は、システイン及びメチオニンである。

【0016】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のCys95残基は、ビリベルジンのC3位のビニル基と結合する。したがって、本実施形態のタンパク質においてCys95は変異しない。また、配列番号1に記載のアミノ酸配列のTyr67、Thr82、Tyr92及びVal110の4つの残基は、ビリベルジン非結合性のNpF2164g5をビリベルジン結合性へと変化させるのに重要な役割を果たす残基である。したがって、本実施形態のタンパク質においてTyr67、Thr82、Tyr92及びVal110は変異しない。また、Trp63、Asp65、Arg75、Gly91、Tyr96及びTyr126は、ビリベルジン結合性に大きな影響を与える位置に存在するアミノ酸であるため、これらのアミノ酸を変異させるとビリベルジン結合性が低下する可能性がある。したがって、本実施形態のタンパク質において、Trp63、Asp65、Arg75、Gly91、Tyr96及びTyr126も変異しない。逆に、ビリベルジンのD環周辺に位置するアミノ酸を変異させることで、蛍光強度を増強させることができる可能性があるため、これらのアミノ酸は変異していてもよい。

【0017】
本実施形態の複合体は、上記タンパク質に、配列番号1のアミノ酸配列の95番目又はそれに相当するシステイン残基を介してビリベルジンが結合している。「相当するシステイン」とは、アミノ酸配列を配列番号1に記載のアミノ酸配列と比較した際に、配列番号1に記載のアミノ酸配列の95番目のシステインに対応するシステインを意味する。

【0018】
本実施形態の複合体は、光変換を行うことなく、遠赤外光を安定的に吸収し、近赤外領域をカバーする蛍光を発する。例えば、励起スペクトルは680nm付近にピークを有し、発光スペクトルは700nm付近にピークを有する。

【0019】
本実施形態の複合体を哺乳動物に投与すると、非侵襲的に深部組織をインビボイメージングすることができる。すなわち、複合体を投与した哺乳動物に励起光を照射することで本実施形態の複合体が蓄積した部位が蛍光を発する。これを利用して、例えば、標的タンパク質及びNpF2164g5_BV4等が融合タンパク質として発現するベクターを設計し、これを宿主細胞に導入、発現後、ビリベルジンと結合させることで、標的タンパク質の局在、挙動などを、本実施形態の複合体が発する蛍光により観測することができる。この際のビリベルジンの添加方法については、特に限定されるものではなく、直接細胞に透過させて導入させてもよいし、ビリベルジンを発現するベクターを組み込んでもよい。本実施形態の複合体は、長波長領域の光を吸収し、遠赤色光の蛍光を発することができるため、励起光や発する蛍光が生体内の要因により吸収され難く、インビボ蛍光プローブとして好ましい特性を備えている。

【0020】
NpF2164g5_BV4等は、例えば、NpF2164g5_BV4等をコードする核酸を含むベクターで宿主細胞を形質転換させ、得られた形質転換体を培養することで得られる。

【0021】
本実施形態の核酸は、NpF2164g5_BV4等をコードする。NpF2164g5_BV4をコードする核酸配列を配列番号2に示す。したがって、NpF2164g5_BV4等をコードする核酸として、例えば、配列番号2に記載の配列からなる核酸との相同性が90%以上である核酸であって、ビリベルジン結合性であるタンパク質をコードする核酸が挙げられる。

【0022】
本実施形態のベクターは、NpF2164g5_BV4等をコードする核酸を含む。ここで、核酸を組込むプラスミドとしては遺伝子工学的に常用される宿主細胞(例えば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞宿主、酵母、等の真核細胞宿主)中で核酸にコードされているタンパク質が発現できるプラスミドであればどのようなプラスミドでもよい。こうした配列内には、例えば選択した宿主細胞で発現するのに好適なコドンを導入することや、制限酵素部位を設けることも可能である。また、目的とする遺伝子の発現を容易にするための制御配列、促進配列等、目的とする遺伝子を結合するのに役立つリンカー、アダプター等、さらには抗生物質耐性等の制御、代謝の制御、菌体の選別等に有用な配列等を含ませることが可能である。

【0023】
本実施形態のベクターを宿主細胞に導入することにより、NpF2164g5_BV4等を産生可能な形質転換体が得られる。このような形質転換体も本発明に包含される。
【実施例】
【0024】
材料と方法
(細菌株及び増殖培地)
大腸菌株JM109(タカラバイオ社)は、プラスミドDNAのクローニング用に用い、BV又はPCB系(それぞれ、pKT270及びpKT271)を持つ大腸菌株C41(コスモ・バイオ社)は、タンパク質発現(R. Narikawa et al., "A biliverdin-binding cyanobacteriochromefrom the chlorophyll d-bearing cyanobacterium Acaryochloris marina". Sci.Rep. 5, 7950 (2015)に記載の方法)に用いた。細菌細胞は、20μg/mLのカナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地で増殖させた。タンパク質発現のため、600nmの光学密度が0.4-0.8になるまで細胞をLB培地中37℃にて増殖させた。その後、イソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度が0.1-0.2mMとなるように加え、細胞を18℃にて一晩培養した。
【実施例】
【0025】
(バイオインフォマティクス)
MEGA7ソフトウェア(S. Kumar, G. Stecher, K.Tamura, "MEGA7: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Version 7.0 forBigger Datasets". Mol. Biol. Evol. 33, 1870-1874 (2016).)により、多重整列を構築した。PCBが結合したAnPixJg2(PDB ID:3W2Z)の結晶構造を利用してBV取り込みの鍵となるアミノ酸残基を評価し、BVが結合したAnPixJg2_BV4(PDB ID:5ZOH)のアミノ酸残基と比較した。分子グラフィックス及びオミットマップはUSCFキメラソフトウェア(E. F. Pettersen et al., "UCSF Chimera--a visualization systemfor exploratory research and analysis". J Comput Chem. 25, 1605-1612(2004).)により作成した。
【実施例】
【0026】
(プラスミド構築)
Hisタグ化したAnPixJg2(アミノ酸位置221-397)(R.Narikawa, Y. Fukushima, T. Ishizuka, S. Itoh, M. Ikeuchi, "A novelphotoactive GAF domain of cyanobacteriochrome AnPixJ that shows reversiblegreen/red photoconversion". J. Mol. Biol. 380, 844-855 (2008).)を発現するプラスミドは既知の方法により構築した。NpF2164g5(アミノ酸位置862-1033)(N. C. Rockwell, S. S. Martin, J. C. Lagarias, Red/greencyanobacteriochromes: sensors of color and power. Biochemistry. 51, 9667-9677(2012).)は、Nostoc punctiforme PCC 73102のゲノムDNAから、PrimeStar Max DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)及び適切なヌクレオチドプライマーを用いてPCRにより増幅した。Gibson Assembly System(ニュー・イングランド・バイオラボ社)を用いてクローン化したDNA断片をpET28aベクターに融合した。PrimeStar Max DNA Basal Mutagenesisキット試薬(タカラバイオ社)及び適切なヌクレオチドプライマーを用いて、部位特異的変異導入を行った。NpF2164g5の多重変異は合成DNA(ジェンスクリプト社)として作製し、その後、Gibson Assembly Systemを用いて、野生型の遺伝子を含むpET28aベクターと融合した。発現構築物はヌクレオチド配列決定により確認した。
【実施例】
【0027】
(タンパク質発現及び精製)
タンパク質は大腸菌C41 pKT270で発現させた。さらに、NpF2164g5は大腸菌C41 pKT271でも発現させた。培養容積は1-2.5Lであった。0.5mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)含有又は不含の、20mM HEPES-水酸化ナトリウム pH7.5,0.1M塩化ナトリウム及び10%(w/v)グリセロールからなる溶解バッファー中、12,000psiにてEmulsifex C5 高圧ホモジナイザーにて細胞を破砕した。細胞破砕液を165,000gにて30分間遠心し、上清を0.2μmのセルロースエステル膜でろ過し、AKTAprime plus(GEヘルスケア社)又はNGCクロマトグラフィー(バイオ・ラッド社)システムを用いたニッケルアフィニティー His-トラップカラム(GEヘルスケア社)にロードした。カラムを100mMのイミダゾールを含む溶解バッファーにて洗浄し、その後、100mM-400mMのイミダゾールを含む溶解バッファーのリニアグラジエント(1mL/分、合計15分)にてHisタグ化したタンパク質を溶出させた。1mMのEDTAにて1時間インキュベーションし、1mMのジチオスレイトール(DTT)含有又は不含の溶解バッファーに対してタンパク質を透析し、EDTA及びイミダゾールを除去した。ウシ血清アルブミンを用いた検量線によるブラッドフォード法(バイオ・ラッド社)にて、タンパク質濃度を測定した。
【実施例】
【0028】
(電気泳動及び亜鉛誘導蛍光アッセイ)
精製したタンパク質を60mM Tris-塩酸 pH8.0,2%(w/v)SDS及び60mM DTTに溶解し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した。試料を95℃にて3分間変性させ、その後、12%(w/v)のアクリルアミドゲルを用いて室温で電気泳動した。ゲルはクマシーブリリアントブルーR-250(CBB)で染色した。
【実施例】
【0029】
亜鉛誘導蛍光アッセイのため、電気泳動後のゲルを20mM 酢酸亜鉛中に室温にて30分間浸した。その後、青色光(λmax=470nm)による励起を600nmのロングパスフィルターを通して蛍光を可視化するか、緑色光(λmax=527nm)による励起を562nmのショートパスフィルターを通して蛍光を可視化し、WSE-6100 LuminoGraph(アトー社)及びWSE-5500 VariRays(アトー社)によりイメージングした。
【実施例】
【0030】
(スペクトロスコピー)
タンパク質の紫外・可視の吸収スペクトルは、UV-2600分光光度計(島津製作所)にて室温で測定した。Opto-Spectrum Generator(浜松ホトニクス社)を用いて様々な波長の単色光を発生させ、光変換に用いた。
【実施例】
【0031】
タンパク質の蛍光励起スペクトル及び蛍光発光スペクトルは、RF-6000分光蛍光高度計を用いて室温にて測定した。Quantaurus-QY(浜松ホトニクス社)を用いて、蛍光量子収率を測定した。
【実施例】
【0032】
(シアノバクテリオクロムの生化学的特性評価)
変性アッセイのため、天然のタンパク質の暗状態(15Z異性体)及び光産物(15E異性体)の両方を7Mの塩化グアニジウム(GdmCl)/1%(v/v)塩酸で5倍に希釈し、白色光による3分間の照射の前後で、室温にて吸収スペクトルを測定した。
【実施例】
【0033】
光変換及び暗反転の過程をモニターするため、赤色光(700nm)に対する698nmの吸収を、25℃にて5分間の暗間隔で2分間、AnPixJg2_BV4に対して測定した。暗反転速度から半減期を算出した。
【実施例】
【0034】
BV結合効率を計算するため、様々な濃度でのフリーのBV(Frontier Scientific社)のZ異性体の吸収スペクトルを測定し、検量線を作成した。この検量線を用い、7M GdmCl/1%(v/v)塩酸で変性させたZ異性体の700nmの吸光度に基づいて、様々なタンパク質のBV結合効率を計算した。
【実施例】
【0035】
大腸菌C41 pKT270で発現させたホロタンパク質(AnPixJg2及びその変異体)の相対的な発現増強を見積もるため、溶解液にオレンジ色光(620nm及び600nm)を照射し、Pfr型のホロタンパク質を暗条件下でNGCクロマトグラフィーシステム(バイオ・ラッド社)にて精製した。クロマトグラフィー中の700nmの吸光度でモニターされ、生細胞の重量で標準化された、各ピークエリアに基づいて増強を見積もった。
【実施例】
【0036】
天然のタンパク質の暗状態及び光産物のモル吸光係数は、ブラッドフォード法で測定したホロタンパク質のモル濃度あたりのピーク波長における吸光度から計算した。
【実施例】
【0037】
(BV結合AnPixJg2_BV4の結晶化及び構造決定)
ニッケルアフィニティー精製、濃縮及びろ過後、AnPixJg2_BV4をさらに、AKTAexplorer 10S/100システム(GEヘルスケア社)を用いたゲルろ過カラム(Superdex 200 increase 10/300 GL;GEヘルスケア社)にロードした。20mM HEPES-水酸化ナトリウム pH7.5,0.1M 塩化ナトリウム及び10%(w/v)グリセロールにて試料を溶出させた。精製したAnPixJg2_BV4を限外ろ過(アミコン、ミリポア社)にて約10mg/mLまで濃縮した。精製したAnPixJg2_BV4の均一性をSDS-PAGEで確認した。
【実施例】
【0038】
AnPixJg2_BV4のPfr型の結晶化スクリーニングをCrystal Screen and Crystal Screen 2 kit(ハンプトン・リサーチ社)を用い、20℃にてハンギングドロップ蒸気拡散法で行った。1μLのタンパク質溶液(10mg/mL)と1μLの各リザーバー溶液とを混合して、結晶化した小滴をシリコン化したカバーグラス上に調製し、その後、500μLの同じリザーバー溶液で平衡化した。試薬#15(0.2M 硫酸アンモニウム、0.1M カコジル酸ナトリウム三水和物 pH6.5及び30%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG)8000;Crystal Screen kitから)を用いることで、AnPixJg2_BV4の結晶化に成功した。スクリーニングに基づき最適化したリザーバー溶液(0.2M 硫酸アンモニウム、0.1M カコジル酸ナトリウム三水和物 pH6.0-6.3及び26-34%(w/v)PEG3350)を用いることで、最終的に大きな緑色の結晶を得られた。結晶化の実験は、緑色光(540±20nm)下で行った。
【実施例】
【0039】
得られた結晶を20%(v/v)のグリセロールを添加したリザーバー溶液中に入れて凍害を防ぎ、液体窒素で急速に凍結した。放射光科学研究施設(フォトンファクトリー;つくば市)のPF-AR NW12A ビームラインを用いて、100Kの回折データを収集した。HKL2000を使用してすべてのデータを処理した(Z. Otwinowski, W. Minor, [20] Processing of X-ray diffraction datacollected in oscillation mode. Meth. Enzymol. 276, 307-326 (1997).)。CCP4 software suit(Collaborative Computational Project, Number 4, The CCP4 suite:programs for protein crystallography. Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr.50, 760-763 (1994).)のMOLREP(Z. Otwinowski, W. Minor,[20] Processing of X-ray diffraction data collected in oscillation mode. Meth.Enzymol. 276, 307-326 (1997).)を使用した分子置換法により、AnPixJg2(PDB ID:3W2Z)の座標をサーチモデルとすることで、BVを含むAnPixJg2_BV4の構造を解いた。REFMAC5ソフトウェアを用いて微調整を行い(G. N. Murshudov, A. A. Vagin, E. J. Dodson, Refinement ofmacromolecular structures by the maximum-likelihood method. Acta Crystallogr. DBiol. Crystallogr. 53, 240-255 (1997).)、COOTソフトウェアを用いてモデルの手動調製及び再構築を行った(P. Emsley, B. Lohkamp, W. G. Scott, K. Cowtan, Features anddevelopment of Coot. Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 66, 486-501 (2010).)。ARP/wARPソフトウェアを用いて溶媒分子を導入した(A. Perrakis, R. Morris, V. S. Lamzin, Automated protein modelbuilding combined with iterative structure refinement. Nat. Struct. Biol. 6,458-463 (1999).)。MolProbityソフトウェアを用いて、構造の検証を行った(V. B.Chen et al., MolProbity: all-atom structure validation for macromolecularcrystallography. Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 66, 12-21 (2010).)。BVを含むAnPixJg2_BV4の座標及び構造因子は、Protein Data Bankに受入番号5ZOHとして登録した。
【実施例】
【0040】
(哺乳動物での発現用の構築物)
NpF2164g5_BV4及びiRFPをエンコードする哺乳動物のコドンに最適化したcDNAを、それぞれGenScript社及びEurofins Genomics社により合成した。PrimeStar HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)及び適切なヌクレオチドプライマーを用いたPCRにより、N末端で7アミノ酸からなるフレキシブルリンカーが付いたGFPを融合させた。GFP-NpF2164g5_BV4及びGFP-iRFPを、HindIII及びXhoI部位を使用してCAGプロモーターを含む哺乳動物発現ベクターにクローン化した。GFP-NpF2164g5_BV4及びGFP-iRFPの配列は、DNA配列決定(Eurofins Genomics社)により確認した。
【実施例】
【0041】
(哺乳動物細胞の培養及びトランスフェクション)
COS-7細胞(ATCC,CRL-1651)を、2mM L-グルタミン(ギブコ社)、10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(シグマ社)にて、37℃、5%(v/v)二酸化炭素雰囲気化で培養した。トランスフェクションの24時間前に、COS-7細胞を35mmのガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業)上に固定した。
【実施例】
【0042】
リポフェクタミン3000(ライフテクノロジーズ社)を用いてトランスフェクションを行った。トランスフェクションの18時間後、ストック溶液から加えた25μM BV(Frontier Scientific社)を含む培地に細胞を置き換えた。BVのストック溶液は、ジメチルスルホキシド(DMSO、富士フィルム和光純薬)中の25mMとして調製した。トランスフェクションの48時間後、共焦点蛍光イメージングのために、細胞をハンクス平衡塩溶液(HBSS、ギブコ社)にて洗浄し、置換した。
【実施例】
【0043】
(共焦点蛍光イメージング)
GFP-NpF2165g5_BV4、GFP-iRFP又はGFPでトランスフェクトしたCOS-7細胞を、Plan-Apochromat 63×/1.4 油浸対物レンズを取り付けたZeiss LSM 共焦点顕微鏡(Carl Zeiss社)を用いてイメージングした。トランスフェクトした細胞の近赤外(NIR)蛍光を、He/Neレーザー(対物レンズの開口部で測定したとき60μW)を用いて633nmの励起により640-758nmで検出した。トランスフェクトした細胞の緑色蛍光を、Arレーザー(対物レンズの開口部で測定したとき3.5μW)を用いて488nmの励起により500-550nmで検出した。NpF2165g5_BV4及びiRFPのNIR蛍光を定量的に評価するため、これらのタンパク質をGFPと融合し、NIR蛍光をGFPの蛍光で除して発現レベルの変動を標準化した。ZEN2009ソフトウェア(Carl Zeiss社)、MetaMorph offline 7.8ソフトウェア(Molecular Devices社)及びOriginPro 2018(OriginLab社)を用いて、データ解析を行った。統計学的有意差は、両側ウェルチのt検定により決定した。0.05未満のP値を有意とした。
【実施例】
【0044】
(マウス)
5週齢雌性BALB/cマウスをジャパンSLC社から入手し、消化管の自家蛍光を抑えるため、アルファルファフリーの飼料(AIN-76A、リサーチダイエット社)で飼育した。
【実施例】
【0045】
(生きたマウス及び単離した肝臓の蛍光イメージング)
TransIT-EE Hydrodynamic Delivery Solution(Mirus社)を用いて、ハイドロダイナミック尾静脈(HTV)注射により、マウスをGFP-NpF2165g5_BV4でトランスフェクトした。陰性対象として、未注射のマウスを用いた。HTV注射の23時間後に、HTV注射及び未注射のマウスの両方に、BV(50nmol/gマウス体重)を静脈注射し、腹部の毛を脱毛クリームで除去した。BV注射の1時間後、マウスをイソフルランで麻酔し、EMCCDカメラ(Evolve 512、ホトメリクス社)及び発光フィルターET700/75m(クロマ社)を取り付けたLumazone in vivoイメージングシステム(ショーシンEM社)でイメージングした。励起光源として、チューナブルフィルターチェンジャー(LAMBDA VF-5、Sutter Instrument社)を付けた水冷式高出力LED光源(LAMBDA HPX、Sutter Instrument社)を用いた。蛍光画像を2つのチャンネルで得た。チャンネル1は、570±7nmの励起(検体で1.05W/m)で700±37.5nmの発光にて取得し、チャンネル2は、630±6.5nmの励起(検体で0.53W/m)で700±37.5nmの発光にて取得した。暴露時間は100ミリ秒で、ゲイン及びインテンシフィケーションのカメラパラメーターをそれぞれ1及び100に設定した。in vivoイメージング後、標準的な外科手術によりマウスから肝臓を単離し、in vivoイメージングと同じイメージングチャンネル及び条件にてイメージングした。さらに、GFP-NpF2165g5_BV4の発現を確認するため、単離した肝臓のGFP蛍光を、GFP用のフィルターセット(フィルターセット38HE、Carl Zeiss社)を取り付けた蛍光ステレオズーム顕微鏡(Axio Zoom.V16、Carl Zeiss社)でも測定した。
【実施例】
【0046】
(スペクトル分離及びデータ解析)
マウスの蛍光画像は主に消化管からの自家蛍光を含んでいた。自家蛍光からGFP-NpF2165g5_BV4のNIR蛍光を抽出するため、Spectral Unmixing for ImageJ(J.WalterによりImageJプラグイン)によりスペクトル分離を行った。簡潔に説明すると、チャンネル1(Ex/Em=570/700nm)及びチャンネル2(Ex/Em=630/700nm)のHTV注射したマウスから単離した肝臓の画像をGFP-NpF2165g5_BV4の参照画像とした。未注射のマウスのチャンネル1及び2の画像を自家蛍光の参照画像とした。説明書に従って、分離したマトリクスを構築しHTV注射及び未注射のマウスの蛍光画像に適用し、分離した画像を得た。単離した肝臓のNIR蛍光画像として、チャンネル2の画像を用いた。MetaMorph offline 7.8ソフトウェア及びOriginPro 2018を用いて、データ解析を行った。統計学的有意差は、両側ウェルチのt検定により決定した。0.05未満のP値を有意とした。
【実施例】
【0047】
(実験例1:BV取り込みに重要な残基の同定)
AnPixJg2がBVを取り込むことができるかを確認するため、Hisタグ化AnPixJg2をBV産生性大腸菌から精製した。AnPixJg2はBVに結合し、吸収極大が698nmのPfr型と吸収極大が614nmのPo型との間で可逆的な光変換を示した。しかし、AM1_C0023g2(70%)及びAM1_1557g2(40%)と比較して、AnPixJg2の結合効率は3.9%と極めて低かった。AM1_1870g3のBV結合効率がAnPixJg2と同じくらい低いことも既に知られている。これらの配列比較をすると、Val273,Gln307,Tyr310,Lys318,Thr325,Ser334,Tyr335,Asp337及びVal353(AM1_C0023g2)の9つのアミノ酸残基がAM1_C0023g2とAM1_1557g2の間で特異的に保存されていることが分かった。これらのアミノ酸残基は、AnPixJg2のAla256,Glu290,His293,Arg301,Phe308,Gly317,His318,Ser320及びIle336に相当する。これらのうち、Ser344/Gly317がAM1_C0023g2におけるBV結合に重要であることは既に知られており、Ser344をGlyに置換するとBV結合ホロタンパク質の安定性が向上する。これは、AnPixJg2のGly317はBV結合能に重要であることを示唆する。そこで、AnPixJg2の残りの8つのアミノ酸残基に焦点を当てて、アミノ酸が1つだけ変異したAnPixJg2の部位特異的変異体を8つ作製した:A256V,E290Q,H293Y,R301K,F308T,H318Y,S320D及びI336V。これらの変異体を発現する大腸菌細胞はいずれも、野生型タンパク質を発現する大腸菌細胞と同様の色を示し見た目では区別できなかった。
【実施例】
【0048】
次に、AnPixJg2の8つのアミノ酸残基すべてが、AM1_C0023g2及びAM1_1557g2の間で保存されているアミノ酸残基に置換されている変異体を構築した。変異体AnPixJg2_BV8(A256V,E290Q,H293Y,R301K,F308T,H318Y,S320D及びI336V)はBV取り込み能が著しく改善され、遠赤/オレンジ可逆的光変換を保持していた。変異体タンパク質のBV取り込み能を評価するために、精製したタンパク質のBV結合効率及び野生型タンパク質に対するホロタンパク質の発現増強の2つのパラメーターを用いた。AnPixJg2_BV8の結合効率及び発現増強は、それぞれ、52.6±9.1%及び52.6±19.5倍であった。
【実施例】
【0049】
PCB結合AnPixJg2の構造に基づくと、Ala256,Glu290及びSer320は発色団の結合には直接関与していない可能性が高い。さらに、別のBV結合CBCR GAFドメインであるAM1_6305g2をシアノバクテリアA.mariaから同定されている。このドメインは、AM1_C0023g2及びAM1_1557g2のLys318の代わりにHisを有しており、これはAnPixJg2のArg301に相当する。そこで、4つのアミノ酸残基が置換された変異体AnPixJg2_BV4(H293Y,F308T,H318Y及びI336V;配列番号3に配列を示す。アミノ酸位置293,308,318及び336は、それぞれ、配列番号3の73,88,98及び116に相当する。)を構築した。この変異体は、遠赤/オレンジの可逆的な光変換を示し、結合効率が74.7±13.0%であり、発現増強が75.7±8.6倍であり、いずれの数値もAnPixJg2_BV8よりも高かった。このことは、残りの4つのアミノ酸残基はBV結合に不要であるだけでなく、いくつかのアミノ酸残基は阻害的であることを示唆している。
【実施例】
【0050】
変異残基の数を減らすため、AnPixJg2_BV4から1つのアミノ酸残基置換を元に戻した変異体を作製したところ、いずれもAnPixJg2_BV4と比べて結合効率及び発現増強が低下した。以上の結果から、Tyr293,Thr308,Tyr318及びVal336がBV結合に必須であることが分かった。
【実施例】
【0051】
(実験例2:BV取り込みの構造的知見)
BV取り込みの分子機構を解明するため、AnPixJg2_BV4のPfr型の結晶構造(1.6Å分解能)を決定した。BVが結合したAnPixJg2_BV4の構造は、PCBが結合したAnPixJg2_BV4の構造と極めて類似していたが(残基233-388のCα原子の平均二乗偏差は0.908Å)、N末端のαヘリックスが逆方向を向いていた。この相違は結晶充填の由来するアーティファクトの可能性がある。電子密度図(2|F|-|F|)は、AnPixJg2_BV4のカノニカルなCys残基(Cys321)がBVのビニル基のC3位置に結合している一方、AnPixJg2のCys残基はPCBのエチリデン基のC3位置に結合していることを明らかに示していた(図1(a)及び(b))。A環のC3とCys321の硫黄原子の間の共有結合に追加の炭素(C3)が挿入されているため、AnPixJg2_BV4に取り込まれたBVは、AnPixJg2に取り込まれたPCBと比べて、発色団が結合するポケットのβシートの方にシフトしていた(図1(c))。それにもかかわらず、発色団の安定に重要だと報告されている5残基(Trp289,Asp291,Arg301,His322及びTyr352)は2つの構造間で高度に保存されていた(図1(a)及び(b))。Arg301は2つのタンパク質で異なった様式で発色団結合に関与していた。AnPixJg2_BV4では、水分子を介した水素結合によりBVのC環のプロピオン酸を安定化しているのに対し、AnPixJg2では、PCBの同じプロピオン酸を水素結合により直接相互作用している。
【実施例】
【0052】
4つの変異部位(His293,Phe308,His318及びIle336)の側鎖は、両構造の発色団のC環の周囲に位置していたが、これらの側鎖のタンパク質-発色団相互作用は2つの構造で全く異なっていた(図1(a)及び(b))。Phe/Thr308及びIle/Val336の位置では、AnPixJg2の嵩高いPhe308及びIle336が疎水性相互作用によってC環を支えていた(図1(d)下段)。AnPixJg2は効率よくBVと結合できなかったという事実は、これらの嵩高い残基はC環の立体障害の原因となっていることを意味し、BVのC環はPCBとC環と比較してβシート方向に大きくシフトしている(図1(c))。この解釈は、AnPixJg2構造へBVを重ね合わせることによっても支持される(図1(d)中段)。逆に、AnPixJg2_BV4のコンパクトなThr308及びVal336残基は、C環の立体障害を避けていた(図1(d)上段)。BVのC環のプロピオン酸はB-C平面に対して垂直方向であったのに対して、PCBのC環のプロピオン酸はB-C平面と平行に並んでいる(図1(a)及び(b))。このことは、コンパクトな残基への置換だけではなく、C環のプロピオン酸の自由な再編成もまた、BV取り込みに重要なことを示唆する(図1(a)及び(b))。これに関連して、His/Tyr293及びHis/Tyr318における他の置換も再編成に寄与している(図1(a)及び(b))。AnPixJg2のHis318はPCBのB環のプロピオン酸と直接的な水素結合により相互作用しているのに対して、AnPixJg2_BV4のTyr318はBVのC環のプロピオン酸と直接水素結合している。AnPixJg2のHis293は水分子の水素結合を介してPCBのC環のプロピオン酸安定化していたが、AnPixJg2_BV4のTyr293は発色団と水素結合を形成していなかった。これらの独特な相互作用ネットワークがC環のプロピオン酸の「平行な」及び「垂直な」立体構造を助長しているようである。すなわち、His318をTyrに置換すると、相互作用の相手がB環のプロピオン酸からC環のプロピオン酸へとスイッチし、「垂直な」立体構造に直接寄与するのに対し、His318をTyrに置換すると、C環のプロピオン酸との水素結合がなくなり、「平行な」立体構造の不安定化へ寄与する。さらに、Thr308の水酸基は、水分子を介してBVのC環のプロピオン酸と間接的に水素結合しており、これもまた「垂直な」立体構造を助長している(図1(a))。これは、Phe308をThrに置換すると、立体障害の減少に影響するだけでなく、C環のプロピオン酸の再編成にも影響することを意味している。以上説明したように、AnPixJg2_BV4の4つの残基は協調的に働いて、発色団シフトによって引き起こされる問題を解決し、安定なBV取り込みをもたらしている。
【実施例】
【0053】
(実験例3:NpF2164g5_BV4の作製)
BVをほとんど取り込まないNpF2164g5(光変換を起こさない、強い遠赤蛍光)を、AnPixJg2_BV4の配列に基づいてBV取り込みができるよう操作した。4つのアミノ酸変異を導入したタンパク質であるNpF2164g5_BV4のアミノ酸配列を配列番号1に示す。変異を導入することで、NpF2164g5は、顕著にBV結合効率が向上した(70%)。NpF2164g5は光変換をせずに遠赤光を安定的に吸収し、4%の量子収率で近赤外領域をカバーする蛍光を示した。BVに結合したNpF2164g5_BV4の励起及び発光スペクトルは、それぞれ680nm及び700nmにピークを有しており、PCBが結合したNpF2164g5と比較してレッドシフトしていた(図2(a)及び(b))。
【実施例】
【0054】
(実験例3:NpF2164g5_BV4を用いた生きたマウスでの蛍光イメージング)
コンパクトなNIR蛍光タンパク質であるNpF2164g5_BV4が、生きたマウスのインビボイメージングに適用できるか調べた。生きた哺乳動物細胞においてNpF2164g5_BV4のNIR蛍光が観察できるかをまず調べた。COS-7細胞をNpF2164g5_BV4でトランスフェクトし、共焦点顕微鏡でイメージングした。NpF2164g5_BV4のNIR蛍光を定量的に評価するため、GFPを融合したNpF2164g5_BV4を作製し、GFP蛍光でNIR蛍光を除して発現レベルの変動を標準化した。NpF2164g5_BV4を発現する細胞は、陰性対照であるGFPを発現する細胞と比較して、明るいNIR蛍光を示した(図3(a)及び(b))。次に、NpF2164g5_BV4のNIR蛍光が、生きたマウスでのインビボイメージングが可能かを調べた。HTV注射によりNpF2164g5_BV4でマウスの肝臓を一過的にトランスフェクトした。HTV注射の24時間後、トランスフェクトしたマウスをインビボ蛍光イメージャーによりイメージングした。NpF2164g5_BV4のNIR蛍光を生きたマウスの肝臓から観察することができた(図4(a)及び(b))。さらに、トランスフェクトしたマウスから単離した肝臓は、未注射のマウスの肝臓と比較して、明るいNIR蛍光を示すことを確認した(図5(a)及び(b))。これらの結果は、NpF2164g5_BV4は生きたマウスの深部組織のインビボ蛍光イメージングに利用できることを示している。
【実施例】
【0055】
インビボ蛍光イメージングに広く使用されているNIR蛍光タンパク質であるiRFPとNpF2164g5_BV4とを比較した。iRFPは、BV結合バクテリオフィトクロムであるRpBphP2を広範な変異で操作しており、光変換を阻害するD202H変異などのほか、蛍光を大きく増強するBVのD環周囲を含む13の変異がある。一方、NpF2164g5_BV4はBV結合特性を付与するB及びC環の周囲の変異を有するが、蛍光強度を改善するD環の周囲の変異はまだ行われていない。それにも関わらず、NpF2164g5_BV4のNIR蛍光強度はiRFPの20%に達しており(図3(a)及び(b))、これは、NpF2164g5_BV4はインビボ蛍光イメージングのための、強力かつコンパクトなNIR蛍光プローブを開発する有望なプラットフォームであることを示唆している。iRFPの開発の場合と同じように追加の変異を適用することで、NpF2164g5_BV4のNIR蛍光は大幅に増強し得る。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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