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明細書 :化合物の溶解補助剤とそれを含む組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5099545号 (P5099545)
公開番号 特開2008-120793 (P2008-120793A)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月19日(2012.12.19)
公開日 平成20年5月29日(2008.5.29)
発明の名称または考案の名称 化合物の溶解補助剤とそれを含む組成物
国際特許分類 A61K  47/42        (2006.01)
A61K  31/5513      (2006.01)
A61K  31/498       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 47/42
A61K 31/5513
A61K 31/498
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2007-267395 (P2007-267395)
出願日 平成19年10月15日(2007.10.15)
優先権出願番号 2006283137
優先日 平成18年10月17日(2006.10.17)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年6月29日(2010.6.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】乾 隆
【氏名】竹内 正吉
【氏名】中嶋 秀満
【氏名】西村 重徳
個別代理人の代理人 【識別番号】100118924、【弁理士】、【氏名又は名称】廣幸 正樹
【識別番号】100110984、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 敬子
審査官 【審査官】原田 隆興
参考文献・文献 特表2002-541064(JP,A)
特表2001-501931(JP,A)
INOUE Katsuaki et al,Structural and functional studies of lipocalin-type prostaglandin D synthase by x-ray small angle scattering ~Application for drug delivery system~,生化学,2006年11月 1日,Page.A13347(4P-B-010)
調査した分野 A61K 47/42
A61K 31/498
A61K 31/5513
C12N 15/09
特許請求の範囲 【請求項1】
分子量が150から700である化合物の極性溶剤に対する溶解度を向上させる溶解補助剤であって、
前記溶解補助剤がリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素であることを特徴とする溶解補助剤
【請求項2】
前記化合物は人工合成物である請求項記載の溶解補助剤。
【請求項3】
極性溶剤と、
分子量が150から700である化合物と、
前記化合物に対する溶解補助剤とを含み、
前記溶解補助剤がリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素である組成物。
【請求項4】
前記極性物質は水である請求項記載の組成物。
【請求項5】
前記化合物は人工合成物である請求項3または4のいずれかの請求項に記載された組成物。
【請求項6】
前記化合物は、ジアゼパムである請求項乃至のいずれかの請求項に記載された組成物。
【請求項7】
前記化合物は、NBQXである請求項乃至のいずれかの請求項に記載された組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は体内産生物を基本にした薬剤運搬体とそれを用いた医薬品に関する。
また、本発明は化合物を水に溶解させる際の溶解度を向上させる溶解補助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
DDS(Drug Delivery System)において、薬物運搬体の開発はキーとなる技術である。これまで多くの薬物運搬体が研究されてきた。薬物運搬体に期待される性能の1つに、難水溶性薬物の運搬がある。薬物は、効能があっても難水溶性では、体内に注入するのが難しい。また改質によって水溶性にすると効能が落ちるものが多い。このような難水溶性の薬物を薬物運搬体によって体内を運搬することができれば、利用できる薬物は非常に多くなる。
【0003】
このような薬物運搬体としては、親水性特性を有する外側層と疎水性特性を有する内側の被包によって中に難水溶性薬物を入れる構成を持つものが考えられている(特許文献1)。
【0004】
これまで研究されてきた薬物運搬体としては、リポソーム、微粒子、ナノ関連物質および薬物・ポリマー結合体などがある。中でもポリマーミセルは、難水溶性薬物の伝達に有利な運搬体として注目されてきた。例えば、親水性シェルに囲まれた疎水性コアからなるミセル形成組成物であって、親水性シェルがPVP(N-ビニル-2-ピロリドン)からなるもの(特許文献2)がある。
【0005】
ところで、体内成分はすべて水溶性というわけではなく、例えばビタミンA、D、K、Eなどは難水溶性である。にもかかわらず、体内で循環できているのは、これらを運搬するリポカリンファミリーというタンパク質があるからである。
【0006】
例えばリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は、さまざまな組織で活発に産生され、多くの生理的現象に関与している。従って、その利用の提案も多く、L-PGDSを測定することで痴呆性疾患を鑑別したり(特許文献3)、腎疾患の病態管理に利用したり(特許文献4)、破水の検出(特許文献5)に利用したりする発明がある。
【0007】
しかし、これらはL-PGDSの酵素としての特性を利用しているものである。なお、L-PGDSの構造は最近になって公開された(特許文献6)。

【特許文献1】特表平10-502376号公報
【特許文献2】特表2004-501180号公報
【特許文献3】特開2000-221248号公報
【特許文献4】特開2000-246980号公報
【特許文献5】特開2000-22983号公報
【特許文献6】特開2004-194581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウィルス型のような薬物運搬体は、細胞内への運搬能力はあっても、毒性の除去に不安が残る。従って、薬物運搬体は上記のように、人工的に合成されたものが多い。しかし、人工的に合成された物は体内で、吸収されたり、逆に体外に排出されずに残留してしまうといった課題があった。また、化合物、特に難水溶性と言われる薬剤は、水に溶けないために、利用を制限されるといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
願発明は、リポカリンファミリーから選ばれたタンパク質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を、化合物、特に難水溶性の薬剤を極性溶剤(特に水)に溶解できるようにする溶解補助剤として用いる用途も提供するものである。また、本願発明は、このような溶解補助剤と化合物と、極性溶媒を含む組成物も提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
リポカリンファミリーはそもそも体内産生物質であるので、安全性に心配はない。また、特にL-PGDSは、薬物の構造に関わらず、一定長のポリペプチドを包み込んで、体内を運搬する。従って、安全で効果の高い薬物運搬体及びそれを付加した薬品を提供することができる。
【0011】
また、リポカリンファミリーに属するタンパク質は、一定の分子量までの化合物をポケット状の部分に取り込み水に溶かすことができるので、水に溶けにくいために使用が制限されている薬剤を水に溶かすことができる。
【0012】
また、従来疫病に対して開発される薬剤に関しては、体内に摂取させるために、水溶性を付与させなければならず、薬効を多少犠牲にする場合もあったが、本発明の溶解補助剤を用いることで、薬効と水溶性をトレードオフする必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
リポカリンファミリー
脂溶性低分子輸送たんぱく質群として知られているリポカリンファミリーに属するリポカリン蛋白質は、アミノ酸残基が160~200個からなり、分子量が約2万程度の蛋白質である。また、アミノ酸配列の相同性が、20%程度であるにもかかわらず、その構造上の類似性は非常に高いことが知られている。
【0014】
図1には、リポカリンファミリーの一部を示す。(a)レチノール結合蛋白質、(b)主要尿蛋白質、(c)ビリン結合蛋白質、(d)β-ラクトグロブリン、(e)ロブスタークラストシアニン、(f)臭物質結合蛋白質などがリポカリンファミリーのメンバーである。
【0015】
これら、リポカリン蛋白質の折りたたみ構造は、連続的に水素結合した8本の逆平行のβストランドからなり、疎水性低分子(リガンド)結合部を囲むようなバレル(樽)型になっている。8本のβストランドをつなぐ7箇所のループは、6箇所が短いヘヤピンで、1箇所がオメガループであり、このオメガループがリガンド結合部の蓋の役割をすると考えられている。また、1つのαヘリックスを有する。すなわち、8本のβストランドと1本のオメガループと、1つのαヘリックスを有する点がこれらリポカリンファミリーの構造上の類似点である。本発明においては、リポカリンファミリーとは、8本のβストランドと1本のオメガループと、1つのαヘリックスを有し、アミノ酸残基が約160~200個のタンパク質を含む。図1ではそれぞれのメンバーのαヘリックスおよびオメガループを符号9と符号10で示した。
【0016】
この構造では、バレル構造の中は疎水性であり、バレル構造の外側は親水性となっている。従って、バレルの中に疎水性リガンドを取り込み、輸送することができる。なお、ここでリガンドとは、分子量が数百程度以下の低分子物質の意味である。
【0017】
図2には、これらの蛋白質のアミノ酸配列を示す。それぞれの蛋白質のアミノ酸配列の相同性は低いが、89番目と186番目にシステイン残基があり、この間でジスルフィド結合が形成される。これもリポカリンファミリーに共通する特徴の1つである。
【0018】
本発明は、これらリポカリンファミリーに属する蛋白質を、DDSの薬物運搬体として利用するものである。また、物質に対する溶解補助剤として利用するものである。
【0019】
図3には、最近公表されたリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)の結晶構造の模式図を示す。L-PGDSは、シクロオキシゲナーゼの働きによりアラキドン酸から合成されたPGHを基質として、PGDを合成する酵素である。PGDは、中枢神経系において、睡眠誘発、体温低下、黄体ホルモン分泌の抑制、痛みや匂いの応答調節などの作用を示し、末梢神経では、肥満細胞からアレルギーのメディエーターとして放出され、血管拡張、気管支収縮、血小板凝集阻害などの作用を示す物質である。
【0020】
一方、L-PGDSは、リポカリンファミリーにも属しており、図1で示したリポカリンファミリー同様、8本のβストランドと1つのαヘリックスと1本のオメガループを有する。図3には、バレル構造部分に1から8までの番号を付し、またαヘリックスとオメガループをそれぞれ符号9と10で示した。また、図2にはL-PGDSのアミノ酸配列も示したが他のリポカリンファミリー同様、89番目と186番目にシステイン残基があり、この間でジスルフィド結合が形成される事を示す。以下では、このL-PGDSをDDSの薬物運搬体や、溶解補助剤として利用した例について説明する。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
<組み替え体L-PGDSの作製>
L-PGDSは生体内で産生される酵素であるので、薬物運搬体として利用する場合は、人工的に合成し、場合によっては人工的に作り変える必要もある。そこで、まず生体が産生するL-PGDSを組み換え体で作製した。
【0022】
1.L-PGDSをコードするcDNAのクローニング
マウス全脳より標準的方法によりRNAを抽出し、これを鋳型として逆転写によりcDNAを合成した。本cDNAを、マウス由来のL-PGDSの塩基配列(EMBL/GenBank/DDBJTM accession number D83329)に基いて設計したプライマーを用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。プライマーは表1に配列番号1および2として示す。
【0023】
PCRは、94℃にて90秒熱変成させた後、94℃にて30秒、アリーニング55℃にて30秒、および73℃にて1分の反応サイクルを計30回サイクル行い、その後72℃にて7分間の伸長反応を行った。
【0024】
増幅cDNAは、クローニングベクターpCR-Scrpit(Stratgene)中のSrf Iサイトにライゲーションし、反応液の一部を大腸菌に形質転換し、クローンを得た。得られたクローンは、ジデオキシ法(Thermo Sequence Cy5 Dye Terminator Cycle sequencing Kit(Amersham)及びLong-Read Tower DNAシーケンサー(Amersham)をマニュアルに従って用いて決定した)での配列決定より、本cDNAがMouse L-PGDSタンパク質をコードしていることが確認できた(配列番号3)。表1に配列番号3として示す。本ベクターを「L-PGDS/pCR-script」と命名した。
【表1】
JP0005099545B2_000002t.gif

【0025】
2.インサートの調製
L-PGDS発現用のインサートを調整するために、上記L-PGDS/pCR-scriptを制限酵素処理しフラグメントを得た。簡潔には、L-PGD/pCR-script 10μgに10UのBam HI(Takara)、10UのEco RI(Takara)、10×K Buffer(Takara)を加えて20μlの反応液を調製し、37℃にて一時間反応させた。次いでこの反応液を2.0%核酸電気泳動用アガロースゲル(nacalai tesque)中で電気泳動し、付加した制限酵素部位も含めほぼ500bpであること確認し、PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いてマニュアルに従い、ゲルより発現用のインサートを回収しこれをポリペプチド発現用のインサートとした。
【0026】
3.ベクターの調製
発現ベクターとしてpGEX-2Tを用いた。pGEX-2Tベクター中のGlutathione S-transfetase(GST)遺伝子の下流に上記cDNAを挿入するために、ベクターpGEX-2Tを制限酵素処理した。簡潔には、pGEX-2Tベクター10μgに10UのBam HI(Takara)、10UのEco RI(Takara)、10×K Buffer(Takara)を加えて20μlの反応液を調製し、37℃にて一時間反応させた。
【0027】
次いでこの反応液を、1.0%核酸電気泳動用アガロースゲル(nacalai tesque)中で電気泳動し、5000bpであること確認し、PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いてマニュアルに従い、ゲルより発現用のインサートを回収し、これをポリペプチド発現用のベクターとした。回収したベクターは、上記の各インサートとのライゲーションに使用した。
【0028】
4.ライゲーション及び形質転換
ライゲーション反応は、Ligation-High(TOYOBO)を用いてマニュアルに従い、上記のインサート500ngとベクター50ngとのライゲーションを行った。
【0029】
ライゲーション後、反応液の一部を大腸菌に形質転換しクローンを得た。得られたクローンは、制限酵素処理しポリペプチド発現用のインサートを持つ発現ベクターを得た。簡潔には、得られたクローン1μgを1UのBam HI(Takara)、1UのEco RI(Takara)、10×K Buffer(Takara)を加えて20μlの反応液を調製し、37℃にて一時間反応させた。次いでこの反応液を2.0%核酸電気泳動用アガロースゲル(nacalai tesque)中で電気泳動し、インサートが約500bpでベクターが約5000bpあること確認した。
【0030】
次いで、インサートが挿入されたベクターで大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株を形質転換した。その後、LB寒天培地(100μg/mlアンピシリン含有)にて37℃で一晩培養することにより、形質転換クローンを選択した。これらのクローン(以下、「L-PGDS/pGEX」をグリセロールストックとして-80℃で保存した。
【0031】
L-PGDS/pGEXをLB液体培地(アンピシリン含有)5ml中で37℃にて一晩振盪培養した。Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を最終濃度が0.6mMになるように加えてインサートDNA由来タンパク質の発現を誘導し、さらに6時間培養を続けた。ポリペプチドは、GSTタグとの融合タンパク質として発現される。
【0032】
培養液を4℃にて8,000×gで10分間遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体を0.5mMのPhenylmethylsulfonyl Fluoride(WAKO)を添加した10倍量のLysis buffer(10mMリン酸水素ニナトリウム、1.8mMリン酸水素ニカリウム、140mM塩化ナトリウム、2.7mM塩化カリウム、pH7.5)中で超音波処理(ULTRASONIC DISRUPTOR、TOMY SEIKO)により破砕した。破砕物を4℃にて10,000×gで20分間遠心分離し、上清をタンパク質抽出画分として回収した。
【0033】
5.ポリペプチドの精製
GSTタグ融合ポリペプチドを、タンパク質抽出画分より、Glutathione Sepharose 4B(GE Healthcare)を用いて以下のように精製した。マニュアルに従ってGlutathioneゲルにGSTタグ融合ポリペプチドを吸着させた。続いてL-PGDSを溶出させるために、Glutathioneゲル(1ml)に吸着させたGST-L-PGDSに対し、100単位のThrombin Protease(SIGMA)を加え、室温にて16時間反応させた。
【0034】
翌日これに、PBS(-)を加え、L-PGDSとThrombin Proteaseを溶出させた。溶出したL-PGDSは、濃縮フィルター(apollo)を用いて濃縮後、5mM Tris/Cl、pH8.0でゲルろ過(superdex75, GE healthcare)後、L-PGDS画分を回収し、1mg/mlの濃度で-20℃にて凍結保温した。回収したL-PGDSをrL-PGDSと呼ぶ。なお、PBS(Phosphate-Buffered Saline)は、リン酸緩衝生理食塩水である。
【0035】
<ジアゼパムの実験>
L-PGDSが薬物を生体内で運搬し、運んだ薬物が効果を示すという点を確認するために、ジアゼパム複合体のペントバルビタール麻酔時間延長作用を調べた。抗不安薬ジアゼパムは疎水性化合物で、水系溶媒には極めて溶けにくく、動物へ適用する際にはセルロース溶媒などに懸濁させて使用されている。
【0036】
ジアゼパムの薬理活性を検出できる指標として、ペントバルビタール麻酔時間延長作用がある。ジアゼパムが利いていると、麻酔時間が長くなるので、L-PGDSを用いた場合と用いない場合で、麻酔時間の長短を調べることで、薬理活性の有無を判断するものである。
【0037】
具体的には、水系溶媒中に可溶化したジアゼパムとL-PGDSジアゼパム複合体溶液をマウスの脳室内に投与し、ペントバルビタール麻酔時間に及ぼす影響について調べた。
【0038】
<薬液の調製>
水系溶媒(5mM Tris-HCl buffer pH8.0)にジアゼパム(3mg/mL)を充分に懸濁し、0.2μmフィルターに通して不溶性粒子を除去したものをジアゼパム溶液とした。また、rL-PGDS(0.5,2および5mg/mL)存在下で同様に調製したものをrL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液とした。また、rL-PGDSを2mg/mL溶かした溶液をL-PGDS溶液とした。
【0039】
<薬液の脳室内投与とペントバルビタール麻酔作用の測定>
実施例にはddY系雄性マウス(6週齢)を使用した。軽エーテル麻酔下に頭皮を切開し、頭蓋部ブレグマより右方1mmの箇所からマイクロシリンジ付き二段針(3mm)を挿入することで脳室内投与(5μL/マウス)を行った。各投与群は以下の様に設定した。なお、ジアゼパムが実際に溶解した量を、rL-PGDSの量とジアゼパムの量をこの順で併記する。
(1)溶媒投与群(5mM Tris-HCl buffer pH8.0)
(2)rL-PGDS(2mg/mL)のみ
(3)ジアゼパム溶液投与群(2.6mg/mL)
(4)rL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液投与群(0.5mg/mL:3.5mg/mL)
(5)rL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液投与群(2mg/mL:8.0mg/mL)
(6)rL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液投与群(5mg/mL:13.6mg/mL)
【0040】
脳室内投与10分後にペントバルビタール(35mg/kg)を腹腔内投与し、マウスを仰臥位に保定することでその正向反射を観察した。正向反射が消失した時間を麻酔導入開始時間として記録した。麻酔導入後も正向反射を随時観察し、反射が完全に回復した時点を覚醒時間として記録した。麻酔時間は覚醒時間から麻酔導入開始時間を除算して求め、溶媒投与群の平均値を100%として平均値±標準誤差で表した。
【0041】
<結果>
図4に結果を示す。縦軸は相対的な麻酔時間であり上記(1)の溶剤投与群を100%として表示している。横軸には、上記の(1)から(6)の投与群を記載した。
【0042】
(1)溶媒投与群(図では「対照」と記載した)と(3)ジアゼパム溶液投与群(図では「DZP/PBS」と記載した)とのペントバルビタール麻酔時間に差は認められなかったことから、本試験で調製したジアゼパム溶液は麻酔延長作用を示す有効濃度に到達していないと考えられた。
【0043】
一方で、上記(4)から(6)のrL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液投与群(図ではカッコ付の番号と「Complex」およびジアゼパムとrL-PGDSの濃度を記載した)はrL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液の濃度依存的にペントバルビタール麻酔時間の延長作用が認められ、rL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液濃度が400μM以上では有意な作用を示した。図4では、「*」印をつけて示した(5)および(6)は、有意水準0.05での判断である。
【0044】
また、(4)から(6)を見ると、rL-PGDSの濃度が上昇するに従ってジアゼパムの濃度も上昇してゆくのがわかる。
【0045】
この結果は、rL-PGDS-ジアゼパム複合体溶液ではジアゼパムの溶解性が高まり、有効濃度に到達したと考えられる。以上の結果から、L-PGDSは難水溶性化合物の溶解性を改善すること、また、その複合体はin vivoで薬剤の持つ作用を発揮しうることが示された。
【0046】
(実施例2)
雌雄砂ネズミ(体重70~80g)を軽エーテル麻酔後、1-2%フローセンにて維持麻酔を行った。砂ネズミを背位に固定し、正中頚部を切開して、両側総頚動脈および右側総頚静脈を丁寧に剥離した。右側総頚静脈には、ヘパリン生食液を満たしたPE10カテーテルを留置した。
【0047】
前脳虚血は、両側総頚動脈をクリッピングすることで行った。虚血開始5分後にクリップを外し、前脳への血流を再開させた。再還流直後に、カテーテルより溶媒および検体(NBQX(2,3-Dioxo-6-nitro-1,2,3,4- tetrahydrobenzo[f]quinoxaline-7-sulfonamide)/rL-PGDS複合体)を単回静脈内投与し、直ちにインフュージョンポンプ(Harvard apparatus model 11)と連結して持続的静脈内投与(流速0.2mL/h)を開始した。持続的静脈内投与は2時間行った。
【0048】
投与終了後、カテーテル先端を縛ることで血液と検体の逆流を防ぎ、カテーテルを皮下に埋没させ、縫合を行った。なお、麻酔や外科手術に起因する非特異的な体温低下を防ぐため、全ての過程を白熱灯下の元で実施し、直腸温を36~38℃に維持した。
【0049】
前脳虚血手術の1週間後に、ペントバルビタール深麻酔下で経心的にホルマリン還流固定を行い、全脳を摘出後、海馬を含む冠状脳切片(2mm)を作製した。海馬CA1錐体神経細胞数は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色により評価した。
【0050】
図5乃至図8に海馬の染色写真を示す。図5乃至図6で、矢印は海馬のCA1錐体神経細胞の部分である。上記の実験のように砂ネズミは前脳虚血状態にされているので、CA1錐体神経細胞はダメージを受けている。NBQXはこの前脳虚血を回復させる薬として知られている。しかし、溶解しにくく、薬効が現れるほどの量を付与することが難しい薬としても知られている。
【0051】
図5(a)は前脳虚血にしていない通常のCA1錐体神経細胞を示す。CA1錐体神経細胞は染色され、濃い曲線のように確認できた。図5(b)は前脳虚血された状態にPBSだけを投与した場合を示す。CA1錐体神経細胞はダメージを受けたままであり、図5(a)の場合と比較して薄い曲線のように観察された。図5(c)はrL-PGDSだけを与えた場合の結果である。図5(b)の場合とあまり変わらなかったのがわかる。なお、図5および図6を通じて写真右下の太黒線は200μmである。
【0052】
図6では比較を容易にするために(a)に図5(a)と同じ写真を掲載する。図6(d)は、NBQXを与えた場合の結果である。NBQXは溶媒(PBS)に溶解できるだけ溶解させて投与した。NBQXは前脳虚血を回復させる薬効があるが、図5(b)や(c)の場合とほとんど変わらず、ほとんどCA1錐体神経細胞の回復は見られなかった。
【0053】
図6(e)はNBQXとrL-PGDSを合わせて溶解させたものを投与した結果である。CA1錐体神経細胞は、前脳虚血をしていない図6(a)の場合と同じ程度に回復していたのがわかった。
【0054】
図7は、倍率を高め撮影した結果を表す。この倍率であると、PBSのみ、rL-PGDSのみ、NBQXのみを示す図7の(b)、(c)、および図8(d)は、CA1錐体神経細胞がダメージを受けたままで、図8(e)で示すNBQXとrL-PGDSの混合物の場合は、CA1錐体神経細胞がほぼすべて生存していたのがわかった。なお、図7及び8を通じて太黒線は50μmを表す。
【0055】
図9は、図8で撮影された細胞数をカウントした結果を示す。縦軸は平方mmあたりの細胞数を示し、横軸はサンプルを示す。棒グラフ中に示した(a)乃至(e)は、図5乃至図8で示した(a)乃至(e)に相当する。符合(a)で示した前脳虚血を起こさなかった場合は、約3300個/mmあった細胞は、前脳虚血を生じたために(b)乃至(d)で示すように500個/mm以下に消滅してしまっていた。これは、PBSやrL-PGDS、NBQXだけでは前脳虚血はほとんど回復しないことを示す。しかし、NBQXをrL-PGDSにまぜた混合物(e)(図9では「complex」と記した)では、約80%以上回復していた。
【0056】
この時の溶液中のNBQXの濃度を調べると、NBQXだけの場合は0.9mMであるのに対して、rL-PGDSを混合すると4.6mMと約5.1倍も溶解度が向上していた。
【0057】
このことから、rL-PGDSはNBQXの溶解度を向上させることができ、またrL-PGDSと混ぜられたNBQXは、血液脳関門(Blood-brain-barrier)を乗り越えて脳内に入り、海馬のCA1領域で薬効を発揮したと結論できた。
【0058】
またNBQXの分子量は336であり、rL-PGDSは数万であるので、およそ500程度以上の分子量の物質をブロックするといわれる血液脳関門をrL-PGDSが通過したとは考えにくい。従って、rL-PGDSと結合して多量に解けたNBQXは、血液脳関門でrL-PGDSから分離し、脳内に入ったと考えられる。
【0059】
このようにrL-PGDSは、物質の溶解度を向上させるだけでなく、体内で分離し物質だけを放出することもできる。すなわち、DDSとしても利用することができる。
【0060】
(実施例3)
rL-PGDSが物質の溶解度を向上させることを確認するために、いくつかの物質で溶解度がどのように変化するかを確認した。
【0061】
調べた物質は、ゲニステイン、ジアゼパム、レチノイン酸、NBQX、ビリルビンである。特にジアゼパムとNBQXは人工的に合成された物質である。それぞれの物質がPBSに対して単独で溶解させた時の濃度と、rL-PGDSと一緒に溶解させた時の濃度を調べた。rL-PGDSの量を増やせば溶解する量は増えるので、ここでは、rL-PGDSを425μM一定とした。検体の分子量と結果を表2に示す。
【0062】
検体であるゲニステイン、ジアゼパム、レチノイン酸、NBQX、ビリルビンは、PBSに対しては、58、150、22、740、0.28μMしか溶解しない。しかし、rL-PGDSと一緒にすると1.2、1.1、0.24、1.7、0.03mMと非常に多量に溶解した。これをより分かりやすくするために、PBSだけのときの濃度とrL-PGDS存在下での濃度の比を取った。結果はそれぞれの検体に対して、21、7.3、11、2.3、110倍となりそれぞれの検体の溶解度が向上したのが分かる。
【表2】
JP0005099545B2_000003t.gif

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、体内に薬物を供給するDDSへ利用できる。また、薬物を含むリガンドと一緒に水などの極性溶媒中に混入させることで、リガンドの溶解度を向上させる溶解補助剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】リポカリンファミリーの構造を示す図である。
【図2】リポカリンファミリーのアミノ酸配列の特徴を示す図である。
【図3】リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の構造を示す図である。
【図4】rL-PGDSジアゼパム複合体のペントバルビタール麻酔時間延長効果を確認する実験結果を示す図である。
【図5】海馬のCA1領域を染色した写真を示す図である。
【図6】海馬のCA1領域を染色した写真を示す図である。
【図7】海馬のCA1領域を染色した写真を示す図である。
【図8】海馬のCA1領域を染色した写真を示す図である。
【図9】サンプル毎の海馬のCA1領域で染色された細胞数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1乃至8 βストランド
9 αヘリックス
10 オメガループ
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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