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明細書 :化合物、光応答性放出制御剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-143001 (P2020-143001A)
公開日 令和2年9月10日(2020.9.10)
発明の名称または考案の名称 化合物、光応答性放出制御剤
国際特許分類 C07F   5/02        (2006.01)
A61K  47/54        (2017.01)
FI C07F 5/02 CSPD
A61K 47/54
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 25
出願番号 特願2019-038944 (P2019-038944)
出願日 平成31年3月4日(2019.3.4)
発明者または考案者 【氏名】家田 直弥
【氏名】中川 秀彦
【氏名】川口 充康
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100152272、【弁理士】、【氏名又は名称】川越 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4H048
Fターム 4C076AA95
4C076CC42
4C076EE59
4C076FF31
4C076FF67
4H048AA01
4H048AB20
4H048VA11
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
4H048VB90
要約 【課題】長波長の光に対する光応答性に優れ、一光子励起によっても時空間制御の対象となる分子を放出できる光解除性保護基を有する化合物を提供する。
【解決手段】下式(1)~(3)のいずれかで表される化合物。
[化1]
JP2020143001A_000013t.gif
式(1)~(3)中、Xは色素含有基であり、Yは放出分子含有基であり、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下式(1)~(3)のいずれかで表される化合物。
【化1】
JP2020143001A_000012t.gif
式(1)~(3)中、Xは色素含有基であり、Yは放出分子含有基であり、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。
【請求項2】
前記放出分子含有基が、生理活性分子含有基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を含む、光応答性放出制御剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、光応答性放出制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ケージド基と呼ばれる光解除性保護基を有する化合物が知られている(例えば、非特許文献1、2等)。非特許文献1には下式(101)で表されるようなクマリン構造の光解除性保護基を有する化合物が記載されている。また、非特許文献2には下式(102)~(104)で表される化合物が記載されている。
【0003】
【化1】
JP2020143001A_000002t.gif

【0004】
式(102)~(104)中、Rは(CHCHO)CHである。
【0005】
非特許文献1、2には環状アデノシン一リン酸(cAMP)、γ-アミノ酪酸(GABA)等の生理活性分子を光解除性保護基で化学修飾することが記載されている。光解除性保護基で化学的に保護された状態にある生理活性分子は、本来の生理活性を発揮せず、生理的に不活性な状態である。しかし、光の照射によって光解除性保護基と生理活性分子との間の化学結合が切断されると、生理活性分子が光解除性保護基から切り離されて放出される。その後、生理活性分子は、所定の生理活性を示す状態に活性化される。
このように光解除性保護基を有する化合物においては、生理活性分子の生理活性の発現を光の照射によって制御して、生理活性分子の生体への作用を時空間的に制御できると考えられている。そのため、種々の生理活性分子と光解除性保護基とを組み合わせて、光解除性保護基を有する化合物を医学、創薬等の産業分野に適用することが検討されている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Jeremy P.Olson et al.,J.Am. Chem.Soc.2013,135,15948-15954
【非特許文献2】Karolina A.Korzycka et al.,Chem.Sci.,2015,6,2419-2426
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医学、創薬への適用を考慮すると、光解除性保護基を有する化合物にあっては、時空間制御の対象となる分子の放出を生体内で制御できることが求められる。そのため、生体組織、臓器の内部まで透過しやすく、低エネルギー、すなわち、低侵襲性である長波長の光に、光解除性保護基が応答性を示すことが必要である。
しかしながら、非特許文献1に記載の光解除性保護基にあっては、応答する光の波長を長くするには化学構造上の制限がある。そのため、非特許文献1に記載の光解除性保護基では、長波長の光に対する光応答性が不充分である。
【0008】
非特許文献2に記載のように、長波長の光に光解除性保護基を応答させるために、近赤外レーザーによる二光子励起の利用が検討されている。しかし、二光子励起の利用は、高価で特殊な光源発生装置を必要とする。そのため、二光子励起の利用は、通常の一光子励起の利用と比較して実用的ではない。
【0009】
本発明は、長波長の光に対する光応答性に優れ、一光子励起によっても時空間制御の対象となる分子を放出できる光解除性保護基を有する化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 下式(1)~(3)のいずれかで表される化合物。
【化2】
JP2020143001A_000003t.gif
式(1)~(3)中、Xは色素含有基であり、Yは放出分子含有基であり、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。
[2] 前記放出分子含有基が、生理活性分子含有基である、[1]の化合物。
[3] [1]又は[2]の化合物を含む、光応答性放出制御剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長波長の光に対する光応答性に優れ、一光子励起によっても時空間制御の対象となる分子を放出できる光解除性保護基を有する化合物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の化合物の光応答の一態様を示す図である。
【図2】実施例で得られた化合物(3-E1)に470~530nmの可視光を照射したときのHPLCによる分析結果を示すグラフである。
【図3】実施例で得られた化合物(3-E1)に470~530nmの可視光を照射したときのHPLCによる分析結果を示すグラフである。
【図4】実施例で得られた化合物(3-E1)に470~530nmの可視光を照射したときの化合物(3-E1)の残存率及びp-ニトロアニリンの生成率と照射時間との関係を示すグラフである。
【図5】実施例の結果から推測される化合物(3-E1)の光応答の態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式(2)で表される基を基(2)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。

【0014】
本発明の化合物は、下式(1)~(3)のいずれかで表される。

【0015】
【化3】
JP2020143001A_000004t.gif

【0016】
式(1)~(3)中、Xは色素含有基であり、Yは放出分子含有基であり、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。アルキルとしてはメチル基が好ましい。
本発明の化合物においては、合成効率の点から、R、R、Rのいずれもが水素原子であることが好ましい。

【0017】
本発明の化合物としては、合成効率の点から、化合物(1)又は化合物(3)が好ましく、光応答性が向上する点から化合物(1)がより好ましい。

【0018】
化合物(1)の好適な具体例としては、例えば、下記の化合物(1-1)、化合物(1-2)が挙げられる。中でも合成効率の点から、化合物(1-1)が特に好ましい。

【0019】
【化4】
JP2020143001A_000005t.gif

【0020】
化合物(2)の好適な具体例としては、例えば、下記の化合物(2-1)、化合物(2-2)が挙げられる。中でも合成効率の点から、化合物(2-1)が特に好ましい。

【0021】
【化5】
JP2020143001A_000006t.gif

【0022】
化合物(3)の好適な具体例としては、例えば、下記の化合物(3-1)、化合物(3-2)が挙げられる。中でも合成効率の点から、化合物(3-1)が特に好ましい。

【0023】
【化6】
JP2020143001A_000007t.gif

【0024】
(色素含有基X)
色素含有基Xは、本発明の化合物において電子を供与する部位として機能する。色素含有基Xとしては、光の照射によって応答性を示す形態であれば特に限定されない。
通常、色素は、光の照射によって特定の波長の光を吸収する。そのため、色素含有基Xは、可視光域に吸収ピークを有する色素を含む。ここで、色素が応答性を示す可視光域の光の波長は特に限定されない。

【0025】
生体内での放出分子の時空間制御への適用を考慮する場合、可視光域の光の波長は、500nm以上が好ましく、560nm以上がより好ましく、650nm以上がさらに好ましい。可視光域の光の波長が前記下限値以上であると、生体に対する負荷が少なくなり、生体内部の組織、細胞に本発明の化合物が存在するときでも光応答性がよくなる。
可視光域の光の波長の上限値は特に限定されない。通常、可視光域の光の波長は、800nm程度である。
以上より、可視光域の光の波長は、500~800nmが好ましく、560~800nmがより好ましく、650~800nmがさらに好ましい。
ただし、本発明において色素含有基Xが応答性を示す光は、可視光に限定されない。

【0026】
色素含有基Xにおける色素としては、例えば、光の照射によって電子供与し得る色素が好ましい。
電子供与し得る色素としては、例えば、フルオレセイン、Si置換フルオレセイン、PO置換フルオレセインが挙げられる。ただし、電子供与し得る色素は、これらの例示に限定されない。

【0027】
色素含有基Xとしては、例えば、本発明の効果が得られやすいことから下記の基(4-1)~(4-5)が好ましい。色素含有基Xが基(4-2)又は基(4-3)であると、本発明の化合物がさらに長波長の光に対しても優れた応答性を示す。
ただし、色素含有基Xはこれらの好適な例に限定されない。

【0028】
【化7】
JP2020143001A_000008t.gif

【0029】
(放出分子含有基Y)
放出分子含有基Yは、本発明の化合物において、放出分子を化学的に安定な状態で保持する部位として機能する。ここで、放出分子とは、時空間制御の対象となる分子である。放出分子含有基Yは、放出分子を含む基であるともいえる。
放出分子含有基Yとしては、本発明の化合物における光解除性保護基と化学結合を形成し得る形態であれば特に限定されない。通常、光解除性保護基によって保護された状態にある放出分子は、化学的に不活性な状態であり、放出分子の本来の化学的特性を発揮しにくい。光解除性保護基が光に応答すると、光解除性保護基と放出分子含有基Yとの間の化学結合が切断され、放出分子が化学的に活性な状態となる。

【0030】
放出分子含有基Yは、例えば、下式(5)で表すことができる。
-(S)-(T) ・・・(5)

【0031】
式(5)中、nは0又は1であり、mは1又は2であり、Tは放出分子から水素原子が1つ除去された基である。

【0032】
式(5)中、nが0である場合、mは1であり、放出分子は、本発明の化合物が有する光解除性保護基と化学結合を形成可能なカルボキシル基を有する。この場合、当該カルボキシル基と光解除性保護基との間で化学結合が形成され、放出分子含有基Yは、下記の基(5-1)である。
-O-C(O)-(T) ・・・(5—1)
式(5—1)中、Tは放出分子からカルボキシル基が1つ除去された基である。

【0033】
光解除性保護基と化学結合を形成可能なカルボキシル基を有する放出分子としては、酢酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸等の芳香族カルボン酸;グリシン、γ-アミノ酪酸等のアミノ酸;タンパク質、ペプチド等の生体高分子が挙げられる。

【0034】
式(5)中、nが1であり、mが1である場合、Sは、-O-C(O)-、-O-C(O)-NH-、-O-P(O)-(OR)(O)、-O-からなる群から選ばれる少なくとも一つである。Rは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムカチオンからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上である。
この場合、一つの放出分子含有基Yが、一分子の放出分子を含む。例えば、Sが-O-P(O)-(OR)(O)である場合、放出分子含有基Yは、下記の基(5-2)である。この場合、放出分子含有基Yが、一分子の放出分子をリン酸塩の状態で含む。
-O-P(O)-(OR)(O) ・・・(5—2)

【0035】
式(5)中、nが1であり、mが2である場合、Sは、-O-P(O)-(Oである。この場合、放出分子含有基Yは、下記の基(5-3)である。この場合、一分子の放出分子含有基Yが、二分子の放出分子をリン酸塩の状態で含む。
-O-P(O)-(O ・・・(5—3)

【0036】
放出分子がアミノ基を有する場合(ただし、カルボキシル基を有する放出分子を除く。)、nが1であり、かつ、Sが-O-C(O)-であることが好ましい。この場合、放出分子が有するアミノ基とS中のカルボニル炭素との間で化学結合が形成される。加えて、Sが-O-C(O)-であると、二酸化炭素の脱離によって-O-C(O)-が分解され、放出分子が所望の活性を発揮しやすい。
アミノ基を有する放出分子としては、メチルアミン、ジメチルアミン等の脂肪族アミン;アニリン、4-ニトロアニリン等の芳香族アミンが挙げられる。

【0037】
放出分子は、本発明の化合物の光解除性保護基と化学結合を形成可能な化合物であれば特に限定されない。放出分子は、本発明の化合物の用途に応じて適宜選択できる。
本発明の化合物を医薬、創薬の分野に適用する場合、放出分子含有基Yとしては、生理活性分子含有基が好ましい。この場合、放出分子は生理活性分子である。

【0038】
生理活性分子としては、生体内で作用し得る分子であれば特に限定されない。ここで、「生体」とはヒトの生体に限定されず、種々の動物の生体でもよく、細菌、真菌、培養細胞等の各種細胞を含む概念である。
生理活性分子としては、例えば、DNA(Deoxyribonucleic Acid)、RNA(Ribonucleic Acid)等の核酸;アデノシン三リン酸等のヌクレオチド;サイトカイン等のシグナル伝達因子;GFP(Green Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)等の各種蛍光タンパク質;キナーゼ、フォスファターゼ、リガーゼ等の各種酵素;抗体;蛍光標識プローブ;染色プローブ等が挙げられる。
生理活性分子は、例えば、抗がん剤、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、分子標的治療薬等の薬剤分子でもよい。

【0039】
本発明の化合物においては、上述の色素含有基X、放出分子含有基Yの各具体例を任意に組み合わせてよい。
例えば、本発明の化合物の具体例としては、下記の化合物(3-1-1)、化合物(3-1-2)が挙げられる。化合物(3-1-1)においては、放出分子含有基Yがヒスタミンを含有する。化合物(3-1-2)においては、放出分子含有基Yがγ-アミノ酪酸を含有する。

【0040】
【化8】
JP2020143001A_000009t.gif

【0041】
図1は、本発明の化合物の光応答の一態様を示す図である。
図1に示すように、化合物(3-1)は、色素含有基Xと放出分子含有基Yと光解除性保護基Zとを有する。色素含有基Xは、図1中に示す「-X」の部分であり、放出分子含有基Y」は、図1中に示す「-Y」の部分である。そして、光解除性保護基Zは、化合物(3-1)から色素含有基Xと放出分子含有基Yとを除く部分の2価の基である。光解除性保護基Zは、「-X」と「-Y」の間の部分に存在する基であるともいえる。

【0042】
図1に示すように化合物(3-1)に光が照射されると、色素含有基Xが光を吸収する。そして、光を吸収することで色素含有基Xから光解除性保護基Zのピリジニウムカチオンへの電子移動が起き、ピリジン環がラジカル化される。次いで、芳香族性を失ったピリジン環ラジカルが、芳香族性を回復させようとして、光解除性保護基Zと放出分子含有基Yとの間の共有結合が切断される。このように、電子は、光解除性保護基Zを経由して、色素含有基Xから放出分子含有基Yと光解除性保護基Zの間の化学結合に移動する。
このように図1中、光解除性保護基Zが光に応答して、光解除性保護基Zと放出分子含有基Yとの間の化学結合が切断される。その結果、放出分子含有基Yが光解除性保護基Zから切り離され、化合物(3-1)は、時空間制御の対象となる放出分子を含む放出分子含有基Yを放出する。
図1に示すように、本発明の化合物においては光の照射により、放出分子含有基Yと光解除性保護基Zとの共有結合が切断される。その結果、放出分子含有基Yが化合物(3—1)から分離されて、放出分子含有基Yが放出される。

【0043】
このように、本発明の化合物においては、光の照射によって色素含有基Xから放出分子含有基Yに電子が移動して、放出分子含有基Yが分離される。その後、放出分子含有基Yに含有される放出分子が所望の空間で生成又は出現する。このように、光の照射によって放出分子の生成時期を制御できるため、光を照射する場所、照射時間、照射時期をそれぞれ制御することで、放出分子の生成及び活性の発現を時空間的に任意に制御できる。

【0044】
(作用機序)
以上説明したように、本発明の化合物は特定の化学構造で示される光解除性保護基を有する。本発明の化合物が有する光解除性保護基は、後述の実施例で示すように、長波長の光に対する光応答性がよく、長波長の光によって放出分子含有基との間の化学結合が切断される。
よって、本発明の化合物によれば、長波長の光で、放出分子含有基に含まれる放出分子の出現又は生成を制御できる。加えて、光解除性保護基で保護された放出分子を、一光子励起の利用によって出現又は生成させることができるため、高価で特殊な光源発生装置を必要とする二光子励起を利用する必要がなくなる。

【0045】
本発明の化合物は、例えば、後述の実施例で示す方法によって合成できる。ただし、本発明の化合物の合成方法は、式(1)~(3)に示す化学構造を実現できる方法であれば、特に限定されず、実施例の記載の方法に限定されない。

【0046】
(用途)
本発明の化合物は、光応答性放出制御剤に適用できる。本発明の化合物を含む光応答性放出制御剤にあっては、光の照射に応じて放出分子の出現を制御できる。
そのため、光応答性放出制御剤は、光の照射時間、照射時期を適宜選択することで、放出分子の出現を時空間的に制御する用途に適用できる。
例えば、光応答性放出制御剤をマウス等のモデル生物に投与し、光の照射時間、照射時期を適宜選択することで、放出分子の放出時間、放出時期を時間的に制御できる。加えて、光を照射するマウスの臓器部位を選択することで、放出分子がマウスの体内で放出される部位を選択的に、かつ、空間的に制御できる。

【0047】
本発明の化合物を医薬品の用途に適用する場合、放出分子としては例えば、抗がん剤、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、分子標的治療薬が挙げられる。これらは一種単独で使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
本発明の化合物を研究用試薬の用途に適用する場合、放出分子としては、例えば、DNA(Deoxyribonucleic Acid)、RNA(Ribonucleic Acid)等の核酸;アデノシン三リン酸等のヌクレオチド;サイトカイン等のシグナル伝達因子;GFP(Green Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)等の各種蛍光タンパク質;キナーゼ、フォスファターゼ、リガーゼ等の各種酵素;抗体;蛍光標識プローブ;染色プローブ等が挙げられる。

【0048】
(光応答性放出制御剤)
光応答性放出制御剤は、本発明の化合物に加えて、液状媒体をさらに含んでもよい。本発明の光応答性放出制御剤は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、本発明の化合物及び液状媒体以外の任意成分として添加剤をさらに含んでもよい。

【0049】
液状媒体は、水性媒体でも有機媒体でもよい。
水性媒体としては、水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、メタリン酸緩衝液、ソルビン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン-HCl緩衝液(トリス塩酸緩衝液)、MES緩衝液(2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液)、TES緩衝液(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸緩衝液)、MOPS緩衝液(3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝液)、HEPES緩衝液(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液)等の緩衝液;グリシン-塩酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-KOH緩衝液等のアミノ酸系緩衝液;トリス-ホウ酸緩衝液、ホウ酸-NaOH緩衝液、ホウ酸緩衝液等のホウ酸系緩衝液;イミダゾール緩衝液等が挙げられる。
有機媒体としては、エタノール、2-プロパノール等のアルコール;ジエチルエーテル等のエーテル、トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の脂肪族溶媒;トルエン、クロロベンゼン等の芳香族溶媒が挙げられる。

【0050】
添加剤としては、水酸化ナトリウム、アンモニア塩等のpH調整剤;乳糖、デンプン、ソルビトール等の賦形剤;アラビアゴム等の乳化剤;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の懸濁剤;プロピレングリコール等の安定剤;ベンジルアルコール等の保存剤等が挙げられる。

【0051】
光応答性放出制御剤の組成は、特に限定されない。光応答性放出制御剤の組成は、所望の用途、使用方法に応じて適宜変更できる。
例えば、本発明の化合物の含有量は、1~1000nMでもよく、1~1000μMでもよく、1~1000mMでもよい。

【0052】
光応答性放出制御剤の剤型は特に限定されない。所望の用途、使用方法、使用量、用法、用量に応じて適時選択できる。剤型の具体例としては、液剤、乳剤、懸濁剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、座剤等が挙げられる。
光応答性放出制御剤は、剤型に応じて経口投与、非経口投与のいずれにも適用できる。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内注射、経皮投与、経鼻投与、経粘膜投与等が挙げられる。これらの投与方法は、一種単独で使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されない。
【実施例】
【0054】
下記の記載にしたがって下記の化合物(3-E1)を合成した。
ここで、H-NMRは、周波数:500MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、CDClを用いた。
【実施例】
【0055】
【化9】
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【実施例】
【0056】
まず、化合物(E1)(4-(ブロモメチル)ベンゾニトリル)から化合物(E2)を合成し、次いで、化合物(E3)合成した。別途、化合物(E4)から化合物(E5)を合成し、化合物(E3)と化合物(E5)を反応させて化合物(3-E1)を合成した。
【実施例】
【0057】
【化10】
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【実施例】
【0058】
具体的には、4-(ブロモメチル)ベンゾニトリル:391mg(1.99mmol)をテトラヒドロフラン:10mLに溶かし、アルゴンバルーンをつけ、0℃で攪拌しながら水素化ジイソブチルアルミニウムの1.0mol/Lのヘキサン溶液:4.30mL(4.30mmol、2.2当量)を加えた。室温で6時間攪拌したのち、2規定塩酸:10mLを加えて反応を終了させた。反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ取し、溶媒を留去したのち、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、化合物(E2)を116mg(収率:29%)、オレンジ色の固体として得た。
化合物(E2)のH-NMRスペクトル:4.52ppm(2H、s)、7.57ppm(2H、d、J=8.0Hz)、7.87ppm(2H、d、J=8.0Hz)、10.0ppm(1H、s)。Jはスピン結合定数であり、以下、同様に記載する。
【実施例】
【0059】
次に、化合物(E2):191mg(0.963mmol)をジクロロメタン:20mLに溶かし、撹拌しながら2,4-ジメチルピロール:219μL(1.93mmol、2.2当量)とトリフルオロ酢酸:50μLを加えた。一晩室温で攪拌後、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアパラベンゾキノン:250mg(1.10mmol、1.1当量)を加え、さらに1時間攪拌した。反応溶液にN,N-ジイソプロピルエチルアミン:900μL(5.18mmol、5.4当量)と三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体:1.40mL(5.20mmol、5.4当量)を加えた。さらに1時間室温で攪拌した後、反応液を水で2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥したのち、硫酸ナトリウムをろ取して除き、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、化合物(E3)を26mg(収率:6%)、オレンジ色の固体として得た。
化合物(E3)のH-NMRスペクトル:1.32ppm(6H、s)、2.55ppm(6H、s)、4.55ppm(2H、s)、5.99ppm(2H、s)、7.28ppm(2H、d、J=5.2Hz)、7.53ppm(2H、d、J=8.1Hz)。
【実施例】
【0060】
次に、化合物(E4):213mg(1.96mmol)をテトラヒドロフラン:10mLに溶かし、攪拌しながら4-ニトロフェニルイソシアナート:316mg(1.93mmol、0.99当量)とN,N-ジメチル—4-アミノピリジン:240mg(1.96mmol、1.0当量)を加えた。反応液を80℃で17時間攪拌したのち、水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ取して除き、溶媒を留去したのち、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチルのみ)で精製し、化合物(E5)を244mg(収率:46%)、黄色個体として得た。
化合物(E5)のH-NMRスペクトル:5.25ppm(2H、s)、7.30ppm(2H、d、J=5.8Hz)、7.58ppm(2H、d、J=9.1Hz)、8.23ppm(2H、dd、J=7.5Hz、J=1.7Hz)、8.43ppm(2H、dd、J=4.6Hz、J=1.7Hz)。
【実施例】
【0061】
次に、化合物(E3):3.24mg(7.79μmol)をアセトニトリル:7mLに溶かし、攪拌しながら化合物(E5):37.9mg(0.139mmol、18当量)を加えた。反応液を加熱還流しながら一晩撹拌したのち、溶媒を留去した。残差を分取HPLCで精製し、化合物(3-E1)を1.35mg(28%)、赤色固体として得た。
化合物(3-E1)のH-NMRスペクトル:1.32ppm(6H、s)、2.55ppm(6H、s)、5.50ppm(2H、s)、5.91ppm(2H、s)、5.99ppm(2H、s)、7.46ppm(2H、d、J=8.1Hz)、7.53ppm(2H、d、J=8.1Hz)、7.71ppm(2H、d、J=8.6Hz)、8.19ppm(2H、d、J=9.2Hz)、8.33ppm(2H、s)、8.96ppm(2H、s)、9.81ppm(1H、s)。
【実施例】
【0062】
分取HPLCの条件を下記に示す。
・カラム:GL Science社製「Inertsil ODS-3」、
・流速:1mL/分。
移動相としては、下記の溶液Aと溶液Bを使用してグラジエント溶離を行った。
・溶液A:0.1%トリフルオロ酢酸-水、
・溶液B:0.1%トリフルオロ酢酸-アセトニトリル)。
具体的には、分析の開始直後(0分)の移動相は、溶液A30%、溶液B70%とした。次いで、移動相の溶液Bの濃度が100%となるまで溶液Bの濃度を25分間かけて上昇させた(分析開始後25分)。移動相の溶液Bの濃度が100%となった状態を10分間維持した(分析開始後35分)。次いで、移動相の溶液Bの濃度が30%となるまで溶液Bの濃度を1分間かけて低下させた(分析開始後36分)。そして、移動相の溶液Bの濃度が30%となった状態を4分間維持した(分析開始後40分)。
【実施例】
【0063】
次に、得られた化合物(3-E1)の濃度が10μMとなるように、化合物(3-E1)、10mMのジメチルスルホキシド溶液:5μL、100mMのHEPES緩衝液(pH7.3):5mLを混合してサンプルを調製し、サンプルを6本の15mL遠沈管に分取した。
次に、300Wキセノン光源(朝日分光株式会社製「MAX-303」)を使用して、これらの6本の遠沈管のうち5本の遠沈管中のサンプルを30mLバイアルに移し、透明恒温槽に浸し、37℃で攪拌しながら78.0mW/cmの出力で波長が470~530nmの可視光を照射した。ここで、それぞれのバイアルに可視光を照射した時間は、1分、2分、5分、10分、20分とした。可視光を照射した5本のサンプルと、可視光を照射しなかった1本のサンプルの合計6本のサンプルについてHPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析を行った。
【実施例】
【0064】
ここで、HPLC分析に際しては分析装置(株式会社島津製作所製「SPD-M10AVP」)を使用した。使用したカラム、移動相、流速の各条件を下記に示す。
・カラム:GL Science社製「Inertsil ODS-3」、
・移動相:0.1%トリフルオロ酢酸-アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸-水、
・流速:1mL/分。
【実施例】
【0065】
図2は、実施例のHPLC分析の結果を示すグラフである。
合成した化合物(3-E1)は、500nmに吸収ピークを有する。そこで、図2に示すHPLC分析においては、各サンプルの500nmの吸光度を測定し、化合物(3-E1)の光応答を分析した。
図2に示すように、可視光を照射した時間が、1分、2分、5分、10分、20分と長くなるにしたがって、化合物(3-E1)に特有の吸収ピークが減衰し、そのピークの高さが低くなったことが確認できた。この結果から、各サンプルの光の照射時間に依存して化合物(3-E1)が分解されることが確認できた。
【実施例】
【0066】
合成した化合物(3-E1)においては、p-ニトロアニリン(p-NA)が光解除性保護基によって化学的に保護されている。p-ニトロアニリンは、378nmに吸光ピークを有する。そこで図3に示すHPLC分析においては、各サンプルの378nmの吸光度を測定し、p-ニトロアニリンの放出を確認した。
図3に示すように、可視光を照射した時間が、1分、2分、5分、10分、20分と長くなるにしたがって、p-ニトロアニリンに特有の吸収ピークが出現し、そのピークの高さが高くなったことが確認できた。この結果から、各サンプルの光の照射時間に依存してp-ニトロアニリンが放出されることが確認できた。
【実施例】
【0067】
図4は、図2、3に示す結果における吸光ピークの面積に基づいて、化合物(3-E1)の残存率(%)とp-ニトロアニリンの生成率(%)とを算出した結果を縦軸にプロットした図である。図4の横軸には光の照射時間(分)をプロットした。
図4に示すように、化合物(3-E1)の残存率の減少とp-ニトロアニリンの生成率の増加との間に相関関係が認められた。すなわち、化合物(3-E1)の残存率が減少するにしたがって、p-ニトロアニリンの生成率が増加した。この結果から、化合物(3-E1)が光解除性保護基を有するケージド化合物として有用であることが示唆された。
【実施例】
【0068】
以上の実施例で示す結果から、化合物(3-E1)は、優れた応答性を示す光の波長が500nm程度と長く、通常の一光子励起によっても時空間制御の対象となる分子を放出できることが示唆された。
【実施例】
【0069】
図5は、以上の結果から推測される化合物(3-E1)の光応答の態様を示す図である。図5に示すように化合物(3-E1)に光が照射されると、色素含有基X1が光を吸収する。そして、色素含有基X1による光の吸収によって、色素含有基X1から放出分子含有基Y1への電子移動が起きる。このとき、電子は、光解除性保護基Z1を経由して、色素含有基X1から放出分子含有基Y1に移動する。
その後、放出分子含有基Y1は、化合物(3-E1)から分離して、放出分子含有基Y1が有する-O-C(O)-が二酸化炭素の脱離によって分解される。その結果、放出分子含有基Y1中のp-ニトロアニリンが放出分子として放出されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は光応答性の研究用試薬、医薬品に利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
X…色素含有基、Y…放出分子含有基、Z…光解除性保護基
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4