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明細書 :ナノ粒子、水性分散液、一酸化窒素放出制御剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-152661 (P2020-152661A)
公開日 令和2年9月24日(2020.9.24)
発明の名称または考案の名称 ナノ粒子、水性分散液、一酸化窒素放出制御剤
国際特許分類 A61K  31/655       (2006.01)
A61K   9/51        (2006.01)
A61K  47/22        (2006.01)
A61K  47/02        (2006.01)
A61K  47/30        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K   9/10        (2006.01)
FI A61K 31/655
A61K 9/51
A61K 47/22
A61K 47/02
A61K 47/30
A61P 43/00 105
A61K 9/10
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2019-051163 (P2019-051163)
出願日 平成31年3月19日(2019.3.19)
発明者または考案者 【氏名】中川 秀彦
【氏名】家田 直弥
【氏名】川口 充康
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100152272、【弁理士】、【氏名又は名称】川越 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C086
Fターム 4C076AA16
4C076AA65
4C076CC26
4C076DD65
4C076EE01
4C076EE02
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA10
4C086DA30
4C086MA01
4C086MA05
4C086MA37
4C086NA05
4C086ZB21
要約 【課題】応答する光の波長を容易に変更でき、一酸化窒素の放出効率に優れるナノ粒子を提供する。
【解決手段】下式、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種であるニトロソ化合物と、前記ニトロソ化合物を光の照射下で酸化する触媒と、前記触媒を溶解可能な有機ポリマーとを含み、前記有機ポリマーで形成されるポリマー粒子中に、前記ニトロソ化合物及び前記触媒が存在する、ナノ粒子。
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式(1)~(3)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~10の炭化水素基である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下式(1)で表される化合物(1)、下式(2)で表される化合物(2)、下式(3)で表される化合物(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種であるニトロソ化合物と、前記ニトロソ化合物を光の照射下で酸化する触媒と、前記触媒を溶解可能な有機ポリマーとを含み、
前記有機ポリマーで形成されるポリマー粒子中に、前記ニトロソ化合物及び前記触媒が存在する、ナノ粒子。
【化1】
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式(1)~(3)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~10の炭化水素基である。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ粒子を含む、水性分散液。
【請求項3】
請求項1に記載のナノ粒子を含む、一酸化窒素放出制御剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、水性分散液、一酸化窒素放出制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素は、生体内で種々の生理活性を示すことが知られている。そこで、生体内の所望の部位で一酸化窒素の濃度を任意に制御することが提案されている。例えば、非特許文献1には、下式(100)で表される化合物(100)が記載されている。
【0003】
【化1】
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【0004】
化合物(100)はBODIPY構造の光吸収部位を有する。化合物(100)に500~530nmの波長の光が照射されると、化合物(100)の分子内で酸化反応が起き、一酸化窒素分子(NO)が化合物(100)から放出される。化合物(100)は、一分子中に光吸収部位と一酸化窒素分子の放出部位との両方を有するため、光酸化反応の反応速度が充分である。
このように非特許文献1では、光に応答する化合物(100)を利用することで、一酸化窒素の生成時期を生体内で時空間的に制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Naoya Ieda,et al.,J.Am.Chem.Soc.2014,136,7085-7091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に記載の化合物(100)にあっては、応答する光の波長が光吸収部位の化学構造に主に依存する。そのため、応答する光の波長を変更するためには、化合物(100)の光吸収部位の化学構造を変更する必要がある。
ところが、化合物(100)において光吸収部位の化学構造を変更するには、高度な合成技術を必要とする。そのため、応答する光の波長を変更することは困難であり、吸収波長の変更が容易ではない。
加えて、非特許文献1に記載の化合物(100)にあっては、一分子の化合物(100)から、一分子の一酸化窒素しか放出されない。そのため、生体内でより多くの一酸化窒素を放出させて、一酸化窒素の放出効率を高めることに改良の余地がある。
【0007】
本発明は、応答する光の波長を容易に変更でき、一酸化窒素の放出効率に優れるナノ粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 下式(1)で表される化合物(1)、下式(2)で表される化合物(2)、下式(3)で表される化合物(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種であるニトロソ化合物と、前記ニトロソ化合物を光の照射下で酸化する触媒と、前記触媒を溶解可能な有機ポリマーとを含み、前記有機ポリマーで形成されるポリマー粒子中に、前記ニトロソ化合物及び前記触媒が存在する、ナノ粒子。
【化2】
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式(1)~(3)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~10の炭化水素基である。
[2] [1]のナノ粒子を含む、水性分散液。
[3] [1]のナノ粒子を含む、一酸化窒素放出制御剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、応答する光の波長を容易に変更でき、一酸化窒素の放出効率に優れるナノ粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1、2、比較例1~8で調製したサンプルの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【図2】実施例3、4、比較例9~16で調製したサンプルの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。

【0012】
本発明のナノ粒子は、ニトロソ化合物と、触媒と、有機ポリマーとを含む。本発明のナノ粒子は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ニトロソ化合物、触媒及び有機ポリマー以外の他の成分をさらに含んでもよい。

【0013】
本発明のナノ粒子においては、有機ポリマーで形成されるポリマー粒子中に、ニトロソ化合物及び触媒が存在する。ここで、ポリマー粒子は、有機ポリマーの粒状物であるともいえる。本発明のナノ粒子は、有機ポリマーで形成されるポリマー粒子を有するともいえる。
ポリマー粒子は、1本の分子鎖の有機ポリマーで構成されてもよく、複数本の分子鎖の有機ポリマーで構成されてもよい。

【0014】
本発明のナノ粒子においては、有機ポリマーで形成されるポリマー粒子中に、ニトロソ化合物及び触媒が存在するため、ニトロソ化合物と触媒との相互作用が起きる反応場が提供される。
本発明のナノ粒子においては、有機ポリマー、ニトロソ化合物、触媒が互いに混ざり合った状態で存在してもよい。加えて、本発明のナノ粒子において、ニトロソ化合物及び触媒はポリマー粒子の内部の有機ポリマーに分散している状態で存在してもよく、ニトロソ化合物及び触媒がポリマー粒子の内部の有機ポリマーに溶解している状態で存在してもよい。
他にも、本発明の効果が得られる範囲内であれば、ポリマー粒子の表面にニトロソ化合物、触媒の全量の一部が付着している状態で存在してもよい。

【0015】
(ニトロソ化合物)
ニトロソ化合物は、下式(1)で表される化合物(1)、下式(2)で表される化合物(2)、下式(3)で表される化合物(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種である。

【0016】
【化3】
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【0017】
式(1)~(3)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基である。Rは、炭素数1~10の炭化水素基である。

【0018】
化合物(1)としては、例えば、下記の化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-3)、化合物(1-4)、化合物(1-5)が挙げられる。ただし、化合物(1)は下記の例示に限定されない。これらの中でも合成効率の点から、化合物(1-1)が好ましい。

【0019】
【化4】
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【0020】
化合物(2)としては、例えば、下記の化合物(2-1)、化合物(2-2)、化合物(2-3)、化合物(2-4)、化合物(2-5)が挙げられる。ただし、化合物(2)は下記の例示に限定されない。これらの中でも合成効率の点から、化合物(2-1)が好ましい。

【0021】
【化5】
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【0022】
化合物(3)としては、例えば、下記の化合物(3-1)、化合物(3-2)、化合物(3-3)、化合物(3-4)、化合物(3-5)が挙げられる。ただし、化合物(3)は下記の例示に限定されない。これらの中でも合成効率の点から、化合物(3-1)が好ましい。

【0023】
【化6】
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【0024】
化合物(1)~(3)において、Rは、炭素数1~10の炭化水素基である。炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖でもよい。Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基等が挙げられる。ただし、ニトロソ化合物の脂溶性が向上する点から、Rの炭化水素基としてはアルキル基が好ましい。
炭化水素基の炭素数の上限値は、特に制限されない。ニトロソ化合物の合成効率を考慮すると、炭素数の上限値は例えば、10でもよく、8でもよく、6でもよい。炭化水素基の炭素数を変更することで、ナノ粒子中のニトロソ化合物の脂溶性を調節してもよい。
ここで、Rにおける炭化水素基は、芳香族環含有基を含む概念である。すなわち、Rにおける炭化水素基は、芳香族環構造を有してもよい。芳香族環含有基は、芳香族環構造を有する置換基であれば、特に限定されない。

【0025】
ニトロソ化合物としては、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)を一種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ニトロソ化合物としては、発明の効果が得られやすい点から、化合物(1)が好ましく、合成の簡便さを考慮すると、化合物(1-1)がより好ましい。

【0026】
(触媒)
触媒は、ニトロソ化合物を光の照射下で酸化する。触媒は、光を吸収可能であり、かつ、ニトロソ化合物から1電子奪う化合物であれば特に限定されない。触媒は、光を吸収可能であり、かつ、ニトロソ化合物を1電子酸化する化合物であるとも言える。
触媒としては、脂溶性の触媒が好ましい。ここで、脂溶性とは、有機媒体に対して溶解性を示す性質を意味する。触媒が脂溶性であると、ポリマー粒子内の反応場に触媒が取り込まれやすくなり、反応場における触媒の濃縮効果がさらに高くなる。その結果、触媒とニトロソ化合物との相互作用がさらに起きやすくなり、ニトロソ化合物の光酸化反応の反応効率がさらに高くなり、一酸化窒素の放出効率がさらによくなる。

【0027】
触媒が吸収する光の波長は特に限定されない。触媒が光を吸収し、電子をニトロソ化合物から奪うことで、ニトロソ化合物から一酸化窒素が放出される。
一酸化窒素の放出の生体内での時空間制御への適用を考慮する場合、触媒は可視光域の光を吸収することが好ましい。可視光域の光の波長は、400nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましく、560nm以上がさらに好ましく、650nm以上が特に好ましい。可視光域の光の波長が前記下限値以上であると、生体に対する負荷が少なくなり、生体内部の組織、細胞に本発明のナノ粒子が存在するときでも光応答性がよくなる。ここで、「生体」とはヒトの生体に限定されず、種々の動物の生体でもよく、細菌、真菌、培養細胞等の各種細胞を含む概念である。
触媒が吸収する光の波長の上限値は特に限定されない。通常、可視光域の光の波長の上限は、800nm程度である。
以上より、生体内での利用を考慮すると、触媒が吸収する光の波長は、400~800nmが好ましく、500~800nmがより好ましく、560~800nmがさらに好ましく、650~800nmが特に好ましい。

【0028】
脂溶性の触媒の具体例としては、例えば、下式(4)で表される金属錯体、下式(5)に示すポルフィリン構造を有する化合物が挙げられる。

【0029】
【化7】
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【0030】
式(4)中、Mは金属原子である。金属原子の具体例としては、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。これらの中でも、触媒の脂溶性を考慮すると、脂溶性に富む配位子との組み合わせが利用できるイリジウムが好ましい。すなわち、触媒としては、下記の化合物(4-1)が好ましい。

【0031】
【化8】
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【0032】
(有機ポリマー)
有機ポリマーは、触媒を溶解可能な重合体である。本発明において有機ポリマーは、粒状物であるポリマー粒子を形成している。有機ポリマーは、本発明のナノ粒子において、ニトロソ化合物及び触媒の媒体として機能する。
有機ポリマーは、触媒を溶解可能であり、ナノ粒子を形成し得るものであれば特に制限されない。
有機ポリマーの分子量、分子鎖の長さは、ナノサイズの本発明のナノ粒子を形成し得るものであれば特に制限されない。本発明のナノ粒子の大きさから、有機ポリマーの分子量、分子鎖の長さを概算で推定できると考えられる。

【0033】
有機ポリマーとしては、水酸基、カルボキシル基等の親水性の官能基と、粒子形成に寄与する疎水性部分との両方を有するポリマーの使用が好ましい。親水性の官能基を有するポリマーを使用すると、水性媒体中で親水性の官能基が粒子の表面に配向し、水性媒体中でポリマー粒子を形成しやすい。
有機ポリマーとしては、ポリマー粒子を形成可能であれば、親水性の官能基を有するポリマー以外の他のポリマーでもよい。

【0034】
有機ポリマーの具体例としては、例えば、下式(6)で表されるポリマー(6)、下式(7)で表されるポリマー(7)が挙げられる。
有機ポリマーとしてポリマー(6)を用いると、ナノ粒子の光応答性がよくなるため好ましい。
有機ポリマーとしてポリマー(7)を用いると、ナノ粒子の生体適合性がよくなり、水性媒体との親和性がよくなるため好ましい。
有機ポリマーは一種単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。

【0035】
【化9】
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【0036】
式(6)、式(7)において、l、m、nは、有機ポリマーの構成単位の繰り返しの数である。l、m、nの各値は、本発明のナノ粒子の大きさから、概算で推定できると考えられる。

【0037】
本発明のナノ粒子において、ニトロソ化合物、触媒、有機ポリマーの各成分の含有量は、特に限定されない。例えば、ナノ粒子中のニトロソ化合物の含有量は、1~1000nMでもよく、1~1000μMでもよく、1~1000mMでもよい。

【0038】
本発明のナノ粒子において、ニトロソ化合物の含有量(W1[mol/L])に対する触媒の含有量(W2[mol/L])の比(W2/W1)は、98/2~2/98が好ましく、93/7~7/93がより好ましく、75/25~25/75がさらに好ましい。
前記比(W2/W1)が前記下限値以上であると、本発明のナノ粒子において触媒によるニトロソ化合物の酸化反応の反応効率がさらによくなる。前記比(W2/W1)が前記上限値以下であると、本発明のナノ粒子による一酸化窒素の放出効率がさらによくなる。

【0039】
本発明のナノ粒子の平均粒子径は、1~1000nmの範囲内であれば特に限定されない。ナノ粒子の取り扱いの簡便さを考慮すると、本発明のナノ粒子の平均粒子径は、50~200nmの範囲内が好ましい。
ナノ粒子の平均粒子径は、例えば、動的光散乱法による粒度分布測定によって算出できる。

【0040】
本発明のナノ粒子中のニトロソ化合物の光応答の態様について、ニトロソ化合物が化合物(1-1)である場合を一例に説明する。下記の化学反応式で示すように、本発明のナノ粒子中において、化合物(4-1)に光が照射されると、光照射により活性化した化合物(4-1)によって、ニトロソ化合物が酸化されて一酸化窒素を生成する。一酸化窒素を放出した後の酸化された反応物は触媒と再度反応し、不均化してアミノフェノール誘導体とキノンイミン誘導体を生成すると推測される。

【0041】
【化10】
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【0042】
本発明のナノ粒子又は水性分散液は、例えば、下記の方法(1)で製造できる。ただし、本発明のナノ粒子の製造方法は方法(1)に限定されない。
方法(1):ニトロソ化合物と触媒と有機ポリマーとを溶媒に溶解させて、溶液Aを調製する。次いで、溶液Aと水性媒体とを混合して混合液Bを調製し、混合液Bに分散処理を施す。その後、混合液Bから溶媒Aを除去する。これにより、ニトロソ化合物と触媒と有機ポリマーとが互いに凝集し、ポリマー粒子を有するナノ粒子が水性媒体中に形成され、本発明のナノ粒子を含む水性分散液が得られる。
溶媒としては、ニトロソ化合物と触媒と有機ポリマーを溶解可能な化合物であれば特に限定されない。溶媒の具体例としては、例えば、テトラヒドロフランが挙げられる。
分散処理としては、例えば、超音波処理、ホモジナイザーによる処理が挙げられる。
溶媒の除去に際しては、エバポレーターの使用が好ましい。
方法(1)によって得られる水性分散液は、そのまま一酸化窒素放出制御剤として使用してもよい。

【0043】
(作用機序)
以上説明した本発明のナノ粒子にあっては、応答する光の波長が触媒の吸収波長によって決定される。そのため、触媒となる化合物の選択又は変更によって、ナノ粒子が応答する光の波長を変更でき、吸収波長の変更が容易である。
また、本発明のナノ粒子は、一つの粒子中にニトロソ化合物と触媒と有機ポリマーとを含む。そのため、一粒子あたりに複数のニトロソ化合物の分子を含有可能であり、一粒子から放出可能な一酸化窒素の分子数が多くなる。
加えて、本発明のナノ粒子は、触媒を溶解可能な有機ポリマーを含むため、ナノ粒子の内部が脂溶性となり、ニトロソ化合物と触媒とが互いに充分に混ざり合った状態でポリマー粒子中に存在し、ナノ粒子中で触媒の濃縮効果が得られる。その結果、ニトロソ化合物と触媒との相互作用能が増強される。よって、触媒によるニトロソ化合物の光酸化反応にとって好適な反応場がナノ粒子中に提供される。
このように、本発明のナノ粒子においては、ニトロソ化合物の光酸化反応にとって好適な反応場が提供され、かつ、一粒子から放出され得る一酸化窒素の分子数が多い。よって、光を照射した際のニトロソ化合物の酸化反応の効率が飛躍的に向上し、一酸化窒素の放出効率が向上する。
さらに、本発明のナノ粒子は前述の方法(1)のように、ニトロソ化合物と触媒と有機ポリマーとを互いに混合することで調整できる。そのため、化合物の構造の変更のための高度な合成技術を必要とせず、簡便な方法で調製可能であり、吸収波長の変更の自由度が高くなる。

【0044】
(用途)
本発明のナノ粒子は、一酸化窒素放出制御剤に適用できる。
本発明のナノ粒子を含む一酸化窒素放出制御剤にあっては、光の照射に応じて一酸化窒素の生体内での生成を制御できる。そのため、一酸化窒素放出制御剤は、一酸化窒素の生成を時空間的に制御する用途に適用できる。一酸化窒素の生成の時空間制御に際しては、光の照射時間、照射時期を適宜選択すればよい。
このように、本発明のナノ粒子によれば、光の照射前ではナノ粒子中にニトロソ化合物が封入された状態にあり、光の照射がないときは一酸化窒素を放出しない。そのため、光の照射時間、照射部位を制御することで、生体内の必要な部位に、必要な時期に、必要量の一酸化窒素を効果的に生成させることができる。
したがって、本発明のナノ粒子を用いることで、過剰量の一酸化窒素の生成に起因する生体への副作用が大幅に低減されることが期待される。

【0045】
例えば、一酸化窒素放出制御剤をマウス等のモデル生物に投与し、光の照射時間、照射時期を適宜選択することで、一酸化窒素の放出時間、放出時期を時間的に制御できる。加えて、光を照射するマウスの臓器部位を選択することで、一酸化窒素がマウスの体内で放出される部位を選択的に、かつ、空間的に制御できる。
特に本発明のナノ粒子は、ナノサイズの粒子であるため、腫瘍、がん細胞等のナノ粒子が集積しやすい生体内の部位に好適に適用できる。

【0046】
(一酸化窒素放出制御剤)
一酸化窒素放出制御剤は、本発明のナノ粒子に加えて、水性媒体をさらに含んでもよい。本発明の一酸化窒素放出制御剤は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、本発明のナノ粒子及び水性媒体以外の任意成分として添加剤をさらに含んでもよい。

【0047】
水性媒体としては、水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、メタリン酸緩衝液、ソルビン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン-HCl緩衝液(トリス塩酸緩衝液)、MES緩衝液(2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液)、TES緩衝液(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸緩衝液)、MOPS緩衝液(3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝液)、HEPES緩衝液(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液)等の緩衝液;グリシン-塩酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-KOH緩衝液等のアミノ酸系緩衝液;トリス-ホウ酸緩衝液、ホウ酸-NaOH緩衝液、ホウ酸緩衝液等のホウ酸系緩衝液;イミダゾール緩衝液等が挙げられる。

【0048】
添加剤としては、水酸化ナトリウム、アンモニア塩等のpH調整剤;乳糖、デンプン、ソルビトール等の賦形剤;アラビアゴム等の乳化剤;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の懸濁剤;プロピレングリコール等の安定剤;ベンジルアルコール等の保存剤等が挙げられる。

【0049】
一酸化窒素放出制御剤の組成は、特に限定されない。一酸化窒素放出制御剤の組成は、所望の用途、使用方法に応じて適宜変更できる。

【0050】
一酸化窒素放出制御剤の剤型は特に限定されない。所望の用途、使用方法、使用量、用法、用量に応じて適時選択できる。剤型の具体例としては、液剤、乳剤、懸濁剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、座剤等が挙げられる。
一酸化窒素放出制御剤は、剤型に応じて経口投与、非経口投与のいずれにも適用できる。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内注射、経皮投与、経鼻投与、経粘膜投与等が挙げられる。これらの投与方法は、一種単独で使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されない。
【実施例】
【0052】
(略号)
〔ニトロソ化合物〕
NAP:N-メチル-N-ニトロソアミノフェノール。
【実施例】
【0053】
〔有機ポリマー〕
PVK:ポリ(9-ビニルカルバゾール)、
PEG-COOH:末端基がカルボキシル基で修飾されたポリスチレングラフトエチレンオキシド。
ここで、PVKは、上述の式(6)で表されるポリマー(6)の一例であり、PEG-COOHは、上述の式(7)で表されるポリマー(7)の一例である。
【実施例】
【0054】
〔触媒〕
Ir(fppy):Tris(2-(4,6-difluorophenyl)pyridinato-C2,N)Iridium(III)。
ここで、Ir(fppy)は、上述の化合物(4-1)である。
【実施例】
【0055】
〔その他〕
THF:テトラヒドロフラン、
DMSO:ジメチルスルホキシド、
DAF-FM:4-アミノ-5-メチルアミノ-2’,7’-ジフルオロフルオレセイン。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
表1に示す濃度となるように、NAPとPVKとPEG-COOHとIr(fppy)とを、テトラヒドロフランに溶解し、溶液を調製した。得られた溶液:300μLをMilliQ水:1mLに添加し、MilliQ水と溶液との混合液に超音波処理によって分散処理を施した。
次いで、遠心エバポレーター(株式会社トミー精工製「Micro Vac(MV-100)」を使用して2.5時間かけて溶液からTHFを留去して、ポリマー粒子を形成した。その後、遠心分離によって、溶液から原料の凝集物を除去し、上澄み液を回収して、ナノ粒子を含む水性分散液を得た。
ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチ社製「D-PBS」)に、NAPの濃度がおよそ10μMとなるように、得られたナノ粒子を含む水性分散液を添加し、さらにDAF-FMの濃度がおよそ14μMとなるようにDAF-FMを添加して、500μLのサンプルを2本調製した。
次に、300Wキセノン光源(朝日分光株式会社製「MAX-303」)を使用して、調製した一方のサンプルに100mW/cmの出力で波長が400~430nmの紫色の可視光を室温で攪拌しながら10分間照射した。
次いで、光を照射したサンプルと照射しなかったサンプルのそれぞれについて、蛍光分光光度計(株式会社島津製作所製「RF5300-PC」)を用いて蛍光強度を測定し、光照射による一酸化窒素の生成について評価した。結果を図1、図2に示す。
【実施例】
【0057】
(実施例2~4、比較例5~8、比較例13~16)
表1又は表2に示す濃度となるように、NAPの濃度、Ir(fppy)の濃度をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてナノ粒子を含む水性分散液を作製した。得られた水性分散液について、実施例1と同様にして光照射による一酸化窒素の生成について評価した。結果を図1、図2に示す。
【実施例】
【0058】
(比較例1~4、比較例9~12)
表1又は表2に示す濃度となるように、1%のDMSOと1%のTHFとを含む混合溶媒に、NAP、Ir(fppy)のそれぞれを溶解し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチ社製「D-PBS」)を添加して、500μLのサンプルを2本調製した。これらのサンプルについて、実施例1と同様にして光照射による一酸化窒素の生成について評価した。結果を図1、図2に示す。
比較例2~4、比較例10~12では、ポリマー粒子が形成されず、サンプルの底部に原料の凝集物が沈殿した。そのため、サンプル中に溶存する各成分の有効濃度は、ナノ粒子の形成を行った実施例と比較して低いことが示唆された。
【実施例】
【0059】
【表1】
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【実施例】
【0060】
【表2】
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【実施例】
【0061】
ニトロソ化合物と触媒と有機ポリマーとを含む実施例1、2のナノ粒子を含む水性分散液では、ポリマー粒子を形成しなかった比較例1~4と比較して、蛍光強度の増強の度合いが高かった。この結果から、実施例1、2では比較例1~4と比較して、ナノ粒子中でニトロソ化合物と触媒とが光照射によって互いに相互作用し、一酸化窒素の放出が効果的に起きたことが示唆された。
一方で、実施例2では35μMの触媒がナノ粒子中に封入されたと予測される。つまり、通常の水性媒体中では実現できないような高濃度の触媒をナノ粒子に封入できると期待される。このように、高濃度の触媒を含有し得るナノ粒子にあっては、さらに蛍光強度の増強がさらに顕著に認められた。この結果から、一酸化窒素の放出効率が飛躍的に向上することが期待できる。
【実施例】
【0062】
同様に、実施例3、4でも比較例9~12と比較して、ナノ粒子中でニトロソ化合物と触媒とが光照射によって相互作用し、一酸化窒素の放出が効果的に起きたことが示唆された。
ここで、図2に示す結果から、比較例10、12でも一酸化窒素の放出が起きたことが示唆された。しかし、比較例10、12ではポリマー粒子が形成されていない。そのため、比較例10、12における一酸化窒素の放出は、混合液中に、ニトロソ化合物と触媒とが単に共存していることに起因すると考えられる。
また、比較例10、12ではポリマー粒子が形成されていないため、ナノ粒子による目的部位への集積効果を期待できず、また生体内ではそれぞれの分子が独立に拡散し濃縮効果が得られない。そのため、一酸化窒素の濃度の効率的な空間的な制御が困難であり、副作用の低減効果を期待しにくいと予想される。
【実施例】
【0063】
実施例の結果から推測されるナノ粒子中のNAPの光応答の態様について説明する。下記の化学反応式で示すように、ナノ粒子に光が照射されると、光照射により活性化した触媒によってNAPが酸化され、一酸化窒素が生成したと考えられる。
【実施例】
【0064】
【化11】
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【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は光応答性の研究用試薬、医薬品に利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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