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明細書 :荷電粒子ビーム操作装置、荷電粒子ビーム加速装置、及び荷電粒子ビーム操作方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-119644 (P2020-119644A)
公開日 令和2年8月6日(2020.8.6)
発明の名称または考案の名称 荷電粒子ビーム操作装置、荷電粒子ビーム加速装置、及び荷電粒子ビーム操作方法
国際特許分類 H05H   7/10        (2006.01)
H05H   7/08        (2006.01)
G21K   5/04        (2006.01)
FI H05H 7/10
H05H 7/08
G21K 5/04 D
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2019-007318 (P2019-007318)
出願日 平成31年1月18日(2019.1.18)
発明者または考案者 【氏名】原田 寛之
出願人 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000442、【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G085
Fターム 2G085AA11
2G085AA13
2G085BA13
2G085BB11
要約 【課題】電極への衝突を回避しつつ荷電粒子ビームを適切に操作可能な荷電粒子ビーム操作装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム操作装置は、荷電粒子ビームの進行方向に直交する第1方向において荷電粒子ビームを挟んで反対側に配置され、進行方向及び第1方向に直交する第2方向に延設された一対の第1電極12,13と、第2方向において荷電粒子ビームを挟んで反対側に配置され、各々が一対の第1電極それぞれと電気的に接続された一対の第2電極14,15とを備え、一対の第1電極と12,13、一対の第2電極14,15との間に電位差が付与されることを特徴とする。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
荷電粒子ビームを分離或いは結合する荷電粒子ビーム操作装置であって、
荷電粒子ビームの進行方向に直交する第1方向において荷電粒子ビームを挟んで反対側に配置され、前記進行方向及び前記第1方向に直交する第2方向に延設された一対の第1電極と、
前記第2方向において荷電粒子ビームを挟んで反対側に配置され、各々が前記一対の第1電極それぞれと電気的に接続された一対の第2電極とを備え、
前記一対の第1電極と、前記一対の第2電極との間に電位差が付与されることを特徴とする荷電粒子ビーム操作装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム操作装置において、
前記一対の第1電極に正電圧及び負電圧の一方が印加され、
前記一対の第2電極に正電圧及び負電圧の他方が印加されることを特徴とする荷電粒子ビーム操作装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム操作装置において、
前記第1電極及び前記第2電極の間に配置されるガイド電極と、
前記第1電極及び前記ガイド電極を接続する第1抵抗器と、
前記第2電極及び前記ガイド電極を接続する第2抵抗器とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム操作装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム操作装置において、
前記第2抵抗器は、前記第1抵抗器より抵抗値が大きいことを特徴とする荷電粒子ビーム操作装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の荷電粒子ビーム操作装置において、
前記第2電極及び前記ガイド電極は、前記第2方向に突出し、且つ前記進行方向に延設された平板形状であり、
前記第2方向における前記第2電極の突出量は、前記ガイド電極より大きいことを特徴とする荷電粒子ビーム操作装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム操作装置において、
一方側の前記第1電極及び前記一対の第2電極は、他方側の前記第1電極及び前記一対の第2電極と比較して、離間距離より長く且つ電位差が大きいことを特徴とする荷電粒子ビーム操作装置。
【請求項7】
荷電粒子ビームが通過する主ダクトと、
前記主ダクト内の荷電粒子ビームを加速させる加速装置と、
前記主ダクトに合流する合流ダクトと、
前記主ダクトから分岐した分岐ダクトと、
前記主ダクト及び前記合流ダクトの合流点より荷電粒子ビームの進行方向の下流側、或いは前記主ダクト及び前記分岐ダクトの分岐点より荷電粒子ビームの進行方向の上流側に配置される請求項1~6のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム操作装置とを含むことを特徴とする荷電粒子ビーム加速装置。
【請求項8】
第1方向に離間した位置に配置されて、各々が前記第1方向に直交する第2方向に延設された一対の第1電極と、前記第1方向における前記一対の第1電極の間で前記第2方向に離間して配置され、各々が前記一対の第1電極それぞれと電気的に接続された一対の第2電極とを用いて、荷電粒子ビームを分離或いは結合する荷電粒子ビーム操作方法であって、
前記一対の第1電極と、前記一対の第2電極との間に電位差を付与するステップと、
前記第1方向及び前記第2方向に直交する方向に進行する荷電粒子ビームを、前記一対の第1電極及び前記一対の第2電極で囲まれた空間内に通過させるステップとを含むことを特徴とする荷電粒子ビーム操作方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを分離或いは結合させる荷電粒子ビーム操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、荷電粒子ビームの軌道上にセプタム電極及びデフレクタ電極を配置することによって、荷電粒子ビームを分離する装置が開示されている。また、特許文献1には、デフレクタ電極に高電圧を印加し、セプタム電極を接地することで、分離ビームのみに電場の影響を与える装置が開示されている。さらに、特許文献1には、荷電粒子ビームが衝突することに起因する発熱に耐えるために、熱放射特性に優れたコーティング材でセプタム電極を覆うことが記載されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2003-36998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
荷電粒子ビームがセプタム電極に衝突すると、荷電粒子ビームの分離効率或いは結合効率の低下、セプタム電極の損傷及び高放射化など、セプタム電極の発熱以外にも様々な課題を生じる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、セプタム電極の発熱以外の課題を解決することができない。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電極への衝突を回避しつつ荷電粒子ビームを適切に操作可能な荷電粒子ビーム操作装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、荷電粒子ビームを分離或いは結合する荷電粒子ビーム操作装置であって、荷電粒子ビームの進行方向に直交する第1方向において荷電粒子ビームを挟んで反対側に配置され、前記進行方向及び前記第1方向に直交する第2方向に延設された一対の第1電極と、前記第2方向において荷電粒子ビームを挟んで反対側に配置され、各々が前記一対の第1電極それぞれと電気的に接続された一対の第2電極とを備え、前記一対の第1電極と、前記一対の第2電極との間に電位差が付与されることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、一対の第1電極及び一対の第2電極が荷電粒子ビームを囲むように配置されるので、荷電粒子ビームが電極に衝突することを回避できる。その結果、電極の発熱のみならず、荷電粒子ビームの分離効率或いは結合効率の低下、電極の損傷及び高放射化など、荷電粒子ビームが電極に衝突することに起因する様々な課題を一挙に解決することができる。
【0008】
また、上記記載の荷電粒子ビーム操作装置において、前記一対の第1電極に正電圧及び負電圧の一方が印加され、前記一対の第2電極に正電圧及び負電圧の他方が印加されることを特徴としてもよい。
【0009】
上記構成によれば、第1電極及び第2電極の一方を接地(グランド電位)する場合と比較して、大きな電位差を維持しつつ、印加電圧の絶対値を小さくすることができる。これにより、高電圧を印加することによる放電を抑制することができる。
【0010】
また、上記記載の荷電粒子ビーム操作装置において、前記第1電極及び前記第2電極の間に配置されるガイド電極と、前記第1電極及び前記ガイド電極を接続する第1抵抗器と、前記第2電極及び前記ガイド電極を接続する第2抵抗器とを備えることを特徴としてもよい。
【0011】
上記構成によれば、第1電極と第2電極との間に生じる電場を平行に近づけることができる。その結果、平行電場のため分離後及び結合前のビーム操作が容易となり、荷電粒子ビームの分離効率及び結合効率を向上させることができる。
【0012】
また、上記記載の荷電粒子ビーム操作装置において、前記第2抵抗器は、前記第1抵抗器より抵抗値が大きいことを特徴としてもよい。
【0013】
上記構成によれば、第2電極近傍の電位差が大きくなるため、荷電粒子ビームの分離効率及び結合効率がさらに向上する。
【0014】
また、上記記載の荷電粒子ビーム操作装置において、前記第2電極及び前記ガイド電極は、前記第2方向に突出し、且つ前記進行方向に延設された平板形状であり、前記第2方向における前記第2電極の突出量は、前記ガイド電極より大きいことを特徴としてもよい。
【0015】
上記構成によれば、第2電極の設置位置の近傍における電場の蛇行を抑制することができる。その結果、荷電粒子ビームの分離効率及び結合効率がさらに向上する。
【0016】
また、上記記載の荷電粒子ビーム操作装置において、一方側の前記第1電極及び前記一対の第2電極は、他方側の前記第1電極及び前記一対の第2電極と比較して、離間距離より長く且つ電位差が大きいことを特徴としてもよい。
【0017】
一般的に、主ビームは、主ビームから分離する(或いは主ビームに結合される)副ビームより大きい。また、大きなビームの方向を変えるには大きな電位差が必要になる。そのため、主ビームが通過する領域を大きく確保すると共に、当該領域の電位差を大きくするのが望ましい。
【0018】
また、本発明は、前記課題を解決するため、荷電粒子ビームが通過する主ダクトと、前記主ダクト内の荷電粒子ビームを加速させる加速装置と、前記主ダクトに合流する合流ダクトと、前記主ダクトから分岐した分岐ダクトと、前記主ダクト及び前記合流ダクトの合流点より荷電粒子ビームの進行方向の下流側、或いは前記主ダクト及び前記分岐ダクトの分岐点より荷電粒子ビームの進行方向の上流側に配置される上記記載の荷電粒子ビーム操作装置とを備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記課題を解決するため、第1方向に離間した位置に配置されて、各々が前記第1方向に直交する第2方向に延設された一対の第1電極と、前記第1方向における前記一対の第1電極の間で前記第2方向に離間して配置され、各々が前記一対の第1電極それぞれと電気的に接続された一対の第2電極とを用いて、荷電粒子ビームを分離或いは結合する荷電粒子ビーム操作方法であって、前記一対の第1電極と、前記一対の第2電極との間に電位差を付与するステップと、前記第1方向及び前記第2方向に直交する方向に進行する荷電粒子ビームを、前記一対の第1電極及び前記一対の第2電極で囲まれた空間内に通過させるステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、一対の第1電極及び一対の第2電極が荷電粒子ビームを囲むように配置されるので、荷電粒子ビームが電極に衝突することを回避できる。その結果、電極の発熱のみならず、荷電粒子ビームの分離効率或いは結合効率の低下、電極の損傷及び高放射化など、荷電粒子ビームが電極に衝突することに起因する様々な課題を一挙に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る荷電粒子ビーム加速装置の概略図である。
【図2】荷電粒子ビーム加速装置の分岐点周辺の拡大図である。
【図3】本実施形態に係る荷電粒子ビーム取出装置の内部構造を示す断面図である。
【図4】ビーム取出装置に生じる電場のシミュレーション結果を示す図である。
【図5】ビーム取出装置を通過する荷電粒子ビームの挙動のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、実施形態に係る荷電粒子ビーム加速装置1を説明する。なお、以下に記載する本発明の実施形態は、本発明を具体化する際の一例を示すものであって、本発明の範囲を実施形態の記載の範囲に限定するものではない。従って、本発明は、実施形態に種々の変更を加えて実施することができる。

【0023】
図1は、荷電粒子ビーム加速装置1の概略図である。荷電粒子ビーム加速装置1は、荷電粒子を加速するリング型の装置である。荷電粒子の具体例としては、例えば、電子、陽子、及び重粒子(炭素、ヘリウム等)が該当する。荷電粒子ビーム加速装置1は、例えば、原子核・素粒子物理学分野及び生命科学分野の基礎研究、がん治療に代表される医療分野で利用される。

【0024】
図1に示すように、荷電粒子ビーム加速装置1は、主ダクト2と、入射装置3と、合流ダクト4と、偏向電磁石5と、加速装置6と、分岐ダクト7と、荷電粒子ビーム取出装置10とを主に備える。図1に示す荷電粒子ビーム加速装置1は、蓄積リング及びシンクロトロンと呼ばれる円形加速器の形態である。しかしながら、本発明は、サイクロトロンなど、他の形態の加速器にも適用可能である。

【0025】
主ダクト2は、荷電粒子ビームが通過する内部空間を有する真空容器である。主ダクト2の内部空間は、周状に構成されている。すなわち、荷電粒子ビームは、主ダクト2の内部空間を繰り返し周回することができる。なお、主ダクト2の形状は真円である必要はなく、直線部と湾曲部とを組み合わせた形状であってもよい。また、主ダクト2の内部空間は、真空に保たれている。真空の度合いは、荷電粒子ビームの利用方法に応じて適宜選択される。

【0026】
入射装置3は、合流ダクト4を通じて主ダクト2内に荷電粒子ビームを出力する装置である。入射装置3は、荷電粒子ビームをある程度加速してから主ダクト2に出力するリニアック(線形加速器)であってもよい。例えば、入射装置3で400MeVまで加速された荷電粒子ビームが、荷電粒子ビーム加速装置1で3GeVまで加速される。

【0027】
合流ダクト4は、一端が入射装置3に接続され、他端が合流点4aで主ダクト2に合流する真空容器である。合流ダクト4を通過する荷電粒子ビーム(以下、「副ビーム」と表記する。)は、合流点4aから主ダクト2に進入し、主ダクト2内を周回する荷電粒子ビーム(以下、「主ビーム」と表記する。)に結合される。

【0028】
偏向電磁石5は、主ダクト2の曲率に合わせて荷電粒子ビームの進行方向を偏向する役割を担う。より詳細には、偏向電磁石5は、所定の向きの磁場を発生させることによって、主ダクト2内の荷電粒子ビームに、主ダクト2の曲率に沿って方向を変えるための力を付与する。図1では、主ダクト2の4箇所の湾曲部それぞれに偏向電磁石5が設置されている。偏向電磁石5の具体的な構成は既に周知なので、詳細な説明は省略する。

【0029】
加速装置6は、主ダクト2内の荷電粒子ビームを加速する装置である。より詳細には、加速装置6は、所定の向きの電場を発生させることによって、主ダクト2内の荷電粒子ビームに加速度を付与する。すなわち、主ダクト2内を周回する荷電粒子ビームは、加速装置6を通過するたびに徐々に加速される。加速装置6の具体的な構成は既に周知なので、詳細な説明は省略する。

【0030】
分岐ダクト7は、主ダクト2内を周回する主ビームから分離された荷電粒子ビーム(以下、「副ビーム」と表記する。)を、荷電粒子ビーム加速装置1の外部に取り出すための真空容器である。分岐ダクト7は、一端が分岐点7aで主ダクト2から分岐し、他端が実験装置や医療装置に接続される。

【0031】
荷電粒子ビーム取出装置10は、主ダクト2内を周回する主ビームの一部を副ビームとして分離し、分離した副ビームを分岐ダクト7を通じて荷電粒子ビーム加速装置1の外部に取り出す役割を担う。すなわち、荷電粒子ビーム取出装置10は、分岐点7aより荷電粒子ビームの進行方向の上流側に配置される。

【0032】
荷電粒子ビーム取出装置10は、荷電粒子ビーム操作装置の一例である。荷電粒子ビーム操作装置の他の例として、合流ダクト4を通過する副ビームを、主ダクト2を周回する主ビームに結合する荷電粒子ビーム結合装置が考えられる。すなわち、荷電粒子ビームを操作するとは、荷電粒子ビームの一部を分離することのみならず、荷電粒子ビームに他の荷電粒子ビームを結合することをも含む。

【0033】
荷電粒子ビーム結合装置は、合流点4aより荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置される。なお、荷電粒子ビーム結合装置の構成は、荷電粒子ビームの進行方向及び電場の向きが逆転する点を除いて、荷電粒子ビーム取出装置10と共通するので、以下、荷電粒子ビーム取出装置10について、詳細に説明する。

【0034】
図2は、荷電粒子ビーム加速装置1の分岐点7a周辺の拡大図である。図2に示すように、分岐点7aの周辺には、荷電粒子ビーム取出装置10に加えて、収束電磁石8と、軌道補正用電磁石9とがさらに配置されてもよい。

【0035】
収束電磁石8は、荷電粒子ビームの形状(より詳細には、荷電粒子ビームの進行方向に直交する断面形状)を整える役割を担う。収束電磁石8は、荷電粒子ビーム取出装置10より荷電粒子ビームの進行方向の上流側で、且つ直近の偏向電磁石5より荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置される。

【0036】
主ダクト2内を周回する荷電粒子ビームの直径または幅は、荷電粒子ビームの速度が速くなるほど小さくなる傾向がある。そこで、収束電磁石8は、直径が所定の大きさになるように荷電粒子ビームを拡散させる役割を担う。また、収束電磁石8は、真円に近い断面形状の荷電粒子ビームを、扁平な楕円形上に変形させる役割を担う。収束電磁石8の具体的な構成は既に周知なので、詳細な説明は省略する。

【0037】
軌道補正用電磁石9は、荷電粒子ビーム取出装置10を通過した主ビームの軌道を補正する役割を担う。より詳細には、軌道補正用電磁石9は、荷電粒子ビーム取出装置10によって主ダクト2の内側に偏った主ビームを、主ダクト2の中央を通過するように軌道補正する。軌道補正用電磁石9は、分岐点7aより荷電粒子ビームの進行方向の下流側に配置される。軌道補正用電磁石9の構成は偏向電磁石5と共通するので、偏向電磁石5が軌道補正用電磁石9の役割を担ってもよい。

【0038】
図3は、荷電粒子ビーム取出装置10の内部構造を示す断面図である。より詳細には、図3は、荷電粒子ビームの進行方向に直交する断面(X-Y断面)を示す。図3において、X方向は第1方向に相当し、Y方向は第2方向に相当し、Z方向は荷電粒子ビームの進行方向に相当する。

【0039】
荷電粒子ビーム取出装置10は、主ビーム100が通過する空間に所定の方向の電場を発生させることによって、主ビーム100の一部を副ビーム100bとして分離し、分離した副ビーム100bを分岐ダクト7に導き、副ビーム100bが分離された後の主ビーム100aを主ダクト2に導く装置である。

【0040】
図3に示すように、荷電粒子ビーム取出装置10は、筐体11と、一対の陰極(第1電極)12、13と、一対の陽極(第2電極)14、15と、複数のガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dと、複数の抵抗器17a~17e、19a~19e、21a~21e、23a~23eとを主に備える。

【0041】
なお、本実施形態では、正の電荷を持つ陽子ビームを主ビーム(荷電粒子ビーム)100の一例として、荷電粒子ビーム取出装置10の詳細を説明する。一方、負の電荷を持つ電子ビームを主ビーム100とする場合には、各電極12~15に印加する電圧を逆転させればよい。

【0042】
筐体11は、主ビーム100が通過する空間を画定する筒状の部材である。荷電粒子ビーム取出装置10が荷電粒子ビーム加速装置1に取り付けられたとき、筐体11は、主ダクト2の一部を構成する。また、筐体11の内面は、接地(グランド電位)されている。さらに、筐体11の内部空間は真空に保たれている。

【0043】
筐体11内を通過する主ビーム100は、収束電磁石8によって扁平な形状に変形されていてもよい。より詳細には、主ビーム100のX-Y断面は、X方向を長軸とし、Y方向を短軸とする楕円形状である。また、主ビーム100は、筐体11の中央より陰極13側に偏った位置(主ダクト2の径方向内側)を通過してもよい。但し、主ビーム100の断面形状及び通過位置は、これに限定されない。

【0044】
陰極12、13は、筐体11内において、X方向に離間して配置されている。より詳細には、陰極12、13は、筐体11内を通過する主ビーム100を挟んで、X方向の反対側に配置されている。また、陰極12、13は、Y方向及びZ方向に延設された平板形状である。より詳細には、陰極12、13は、Y方向において、主ビーム100の通過領域の全域にまで延設されている。すなわち、Y方向における陰極12、13の長さは、主ビーム100の短軸より長い。

【0045】
陽極14、15は、筐体11内において、Y方向に離間して配置されている。より詳細には、陽極14、15は、筐体11内を通過する主ビーム100を挟んで、Y方向の反対側に配置されている。また、陽極14、15は、X方向において、陰極12、13の間に配置されている。すなわち、陰極12、13及び陽極14、15は、筐体11内を通過する主ビーム100を囲むように配置される。

【0046】
ガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dは、陰極12、13と陽極14、15との間において、X方向に所定の間隔を隔てて配置されている。より詳細には、ガイド電極16a~16dは陰極12と陽極14との間に配置され、ガイド電極18a~18dは陰極12と陽極15との間に配置され、ガイド電極20a~20dは陰極13と陽極14との間に配置され、ガイド電極22a~22dは陰極13と陽極15との間に配置されている。

【0047】
陽極14、15及びガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dは、Y方向において主ビーム100に近づく向きに突出すると共に、Z方向に延設された平板形状である。また、Y方向における陽極14、15の突出量は、ガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dより大きく設定されている。

【0048】
すなわち、陰極12、13及び陽極14、15で囲まれた空間(以下、「ビーム通過空間」と表記する。)内において、陽極14、15の先端位置は、ガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dより主ビーム100に近い。換言すれば、陽極14、15は、Y方向において対面する一対のガイド電極(例えば、ガイド電極16a、18a)と比較して、先端同士の離間距離が短く設定されている。

【0049】
陽極14、15は、一対の陰極12、13それぞれと電気的に接続されている。より詳細には、陰極12、陽極14、及びガイド電極16a~16dは、抵抗器17a~17eによって直列に接続されている。また、陰極12、陽極15、及びガイド電極18a~18dは、抵抗器19a~19eによって直列に接続されている。また、陰極13、陽極14、及びガイド電極20a~20dは、抵抗器21a~21eによって直列に接続されている。さらに、陰極13、陽極15、及びガイド電極22a~22dは、抵抗器23a~23eによって直列に接続されている。

【0050】
そして、一対の陰極12、13と一対の陽極14、15との間には、電位差が付与される。本実施形態では、陰極12、13に負電圧(例えば、-25kV)が、陽極14、15に正電圧(例えば、+25kV)が、外部電源(図示省略)から印加される。これにより、陰極12、13と陽極14、15との間に、50kVの電位差が付与される。

【0051】
その結果、図3中に矢印で示すように、ビーム通過空間には、陽極14、15から陰極12に向かう電場と、陽極14、15から陰極13に向かう電場とが発生する。換言すれば、ビーム通過空間には、陽極14、15を通ってY方向に延びる仮想線L(図3の一点鎖線)の両側において、X方向の逆向きの電場が発生する。

【0052】
また、抵抗器17a~17eの抵抗値は、同一であってもよい。これにより、ガイド電極16aが+15kV、ガイド電極16bが+5kV、ガイド電極16cが-5kV、ガイド電極16dが-15kVとなる。抵抗器19a~19e、21a~21e、23a~23eについても同様である。これにより、図3中に矢印で示すように、ビーム通過空間内のY方向の全域において、電場がX方向に平行(平行電場)に近づく。

【0053】
図4は、本実施形態に係る荷電粒子ビーム取出装置10に生じる電場のシミュレーション結果を示す図である。電場のシミュレーションには、あらゆる周波数帯の電磁界解析に向けた高性能ソフトウェアのパッケージであるDassalt Systems社製「CST STUDIO SUITE 2019」を使用している。図4において、配置した全電極のX方向の厚みは2mm、Z方向の長さは600mm、各電極間のX方向の間隔は10mmと設定している。陰極12、13のY方向の幅は60mm、陽極14、15のY方向の幅は25mm、ガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dのY方向の幅は10mmと設定している。そして、陰極12、13に負電圧-25kV、陽極14、15に静電圧+30kVを印加し、ガイド電極16a、18a、20a、22aに+15kV、ガイド電極16b、18b、20b、22bに+5kV、ガイド電極16c、18c、20c、22cに-5kV、ガイド電極16d、18d、20d、22dに-15kVを印加した条件の下でシミュレーションを実施した結果を、図4に示す。

【0054】
図4において、Y方向に沿って延びる線は、電位が同一の位置を結んだ等電位線である。図4を参照すれば明らかなように、等電位線は、陽極14、15の周辺を除いて、Y方向に概ね平行になっている。すなわち、陽極14、15の周辺を除けば、ビーム通過空間に生じる電場は、X方向に概ね平行になることが分かる。

【0055】
一方、Y方向における陽極14、15の間の隙間において、等電位線が凹んでいる。すなわち、陽極14、15の周辺では、静電気力の回り込み等の影響によって、電場が蛇行していることが分かる。この電場の蛇行は、陽極14、15の先端同士の離間距離を小さくするほど軽減される。換言すれば、陽極14、15の先端同士の離間距離は、陽極14、15を結ぶ仮想線L上に位置する主ビーム100のY方向の長さより、僅かに大きく設定するのが望ましい。

【0056】
図5は、本実施形態に係る荷電粒子ビーム取出装置10を通過する荷電粒子ビームの挙動のシミュレーション結果を示す図である。図4で示す電場シミュレーション条件下において、Z方向の運動エネルギー30MeVを持つ陽子ビーム(荷電粒子ビーム)を荷電粒子ビーム取出装置10の上流に均一分布として配置してシミュレーションを実施した結果を、図5に示す。

【0057】
図5を参照すれば明らかなように、荷電粒子ビーム(陽子ビーム)は、陽極を境界にして左右方向に分離している。すなわち、図3の仮想線Lの両側に生じる反対向きの電場によって、荷電粒子ビームが引き裂かれていることが分かる。

【0058】
より詳細には、図3に示す主ビーム100は、仮想線Lより左側の部分が陰極13に向かう電場に引っ張られ、仮想線Lより右側の部分が陰極12に向かう電場に引っ張られることにより、主ビーム100aと副ビーム100bとに分離される。すなわち、主ビーム100のうち、仮想線Lより左側に位置するビーム量を調整することによって、主ビーム100から分離する副ビーム100bを増減させることができる。

【0059】
本実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。

【0060】
上記の実施形態によれば、陰極12、13及び陽極14、15が主ビーム100を囲むように配置されるので、主ビーム100が電極12~15に衝突することを回避できる。その結果、電極12~15の発熱のみならず、主ビーム100の分離効率或いは結合効率の低下、電極12~15の損傷及び高放射化など、主ビーム100が電極12~15に衝突することに起因する様々な課題を一挙に解決することができる。

【0061】
なお、電極12~15の間に電位差を付与する方法は、上記の実施形態の例に限定されず、例えば、陰極12、13をグランド(0V)とし、陽極14、15に+50kVを印加してもよい。但し、上記の実施形態の方法によれば、陰極12、13をグランド電位にする場合と比較して、大きな電位差(50kV)を維持しつつ、印加電圧の絶対値(25kV)を小さくすることができる。これにより、高電圧を印加することによる放電を抑制することができる。また、電極12~15からの放電を抑制するためには、既に周知のように電極12~15の角部を面取りするのも有効である。

【0062】
また、第1電極12、13に負電圧を印加し、第2電極14、15に正電圧を印加するのは、主ビーム100が正の電荷を持つ場合である。一方、主ビーム100が負の電荷を持つ場合、第1電極12、13に正電圧が、第2電極14、15に負電圧が印加される。すなわち、外部電源は、第1電極12、13に正電圧及び負電圧の一方を印加し、第2電極14、15に正電圧及び負電圧の他方を印加すればよい。

【0063】
また、上記の実施形態のように、電極12~15の間にガイド電極及び抵抗器を配置したことによって、電極12~15の間に生じる電場を平行に近づけることができる。その結果、平行電場のため分離後及び結合前のビーム操作が容易となり、主ビーム100の分離効率及び結合効率を向上させることができる。なお、電極12~15の間に配置するガイド電極及び抵抗器の数は、図3の例に限定されない。

【0064】
また、抵抗器17a~17eの抵抗値は、同一でなくてもよい。例えば、陽極14に最も近い抵抗器17a(第2抵抗器)の抵抗値を、その他の抵抗器17b~17e(第1抵抗器)より大きくしてもよい。さらに、抵抗器17a~17eの抵抗値を、陽極14に近いほど高くし、陰極12に近いほど低くしてもよい。これにより、陽極14近傍の電位差が大きくなるため、主ビーム100の分離効率及び結合効率がさらに向上する。抵抗器19a~19e、21a~21e、23a~23eについても同様である。

【0065】
また、上記の実施形態のように、Y方向における陽極14、15の突出量をガイド電極16a~16d、18a~18d、20a~20d、22a~22dより大きくすることによって、陽極14、15の近傍における電場の蛇行を抑制することができる。その結果、主ビーム100の分離効率及び結合効率がさらに向上する。

【0066】
なお、上記の実施形態では、X方向における陰極12、13の中央に陽極14、15を配置した例を説明した。換言すれば、上記の実施形態は、陰極12と陽極14、15との離間距離と、陰極13と陽極14、15との離間距離とが同一である。しかしながら、X方向における陽極14、15の位置は、上記の実施形態の例に限定されない。

【0067】
他の例として、陰極13と陽極14、15との離間距離を、陰極12と陽極14、15との離間距離より長くしてもよい。換言すれば、ビーム通過空間のうち、主ビーム100の大部分(すなわち、主ビーム100a)が通過する空間を、主ビーム100から分離されて副ビーム100bとなる部分が通過する空間より大きく設定してもよい。

【0068】
このとき、大きな主ビーム100aを曲げるには、小さな副ビーム100bを曲げるより大きな電位差が必要となる。そこで、陰極13と陽極14、15との間の電位差を、陰極12と陽極14、15との間の電位差より大きく設定してもよい。例えば、陽極14、15に+25kVを印加し、陰極12に-10kVを印加し、陰極13に-25kVを印加してもよい。これにより、主ビーム100から効率よく副ビーム100bを分離することができる。

【0069】
また、既存の荷電粒子ビーム加速装置1において、従来の荷電粒子ビーム取出装置を取り外して、本発明に係る荷電粒子ビーム取出装置10を取り付けてもよい。一方、従来の荷電粒子ビーム取出装置より荷電粒子ビームの進行方向の上流側に、本発明に係る荷電粒子ビーム取出装置10を追加してもよい。これにより、主ビーム100が主ビーム100aと副ビーム100bとに分離した状態で、従来の荷電粒子ビーム取出装置に入射する。その結果、荷電粒子ビームの軌道上に電極が配置された従来の荷電粒子ビーム取出装置においても、荷電粒子ビームが電極に衝突することに起因する課題が生じ難くなる。

【0070】
さらに、本発明は、前述した荷電粒子ビーム操作装置としてだけでなく、荷電粒子ビーム操作方法としても観念することができる。荷電粒子ビーム操作方法は、X方向に離間した位置に配置されて、各々がY方向に延設された一対の陰極12、13と、X方向における陰極12、13の間でY方向に離間して配置され、各々が陰極12、13それぞれと電気的に接続された一対の陽極14、15とを用いて、荷電粒子ビームを分離或いは結合する方法であって、陰極12、13と陽極14、15との間に電位差を付与するステップと、X方向及びY方向に直交するZ方向に進行する主ビーム100を、陰極12、13及び陽極14、15で囲まれたビーム通過空間内に通過させるステップとを含む。
【符号の説明】
【0071】
1…荷電粒子ビーム加速装置,2…主ダクト,3…入射装置,4…合流ダクト,4a…合流点,5…偏向電磁石,6…加速装置,7…分岐ダクト,7a…分岐点,8…収束電磁石,9…軌道補正用電磁石,10…荷電粒子ビーム取出装置,11…筐体,12,13…陰極(第1電極),14,15…陽極(第2電極),16a~16d,18a~18d,20a~20d,22a~22d…ガイド電極,17a~17e,19a~19e,21a~21e,23a~23e…抵抗器
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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