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明細書 :放射性モリブデンの作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5888781号 (P5888781)
公開番号 特開2013-127446 (P2013-127446A)
登録日 平成28年2月26日(2016.2.26)
発行日 平成28年3月22日(2016.3.22)
公開日 平成25年6月27日(2013.6.27)
発明の名称または考案の名称 放射性モリブデンの作製方法
国際特許分類 G21G   4/08        (2006.01)
FI G21G 4/08 T
請求項の数または発明の数 6
全頁数 9
出願番号 特願2012-121785 (P2012-121785)
出願日 平成24年5月29日(2012.5.29)
優先権出願番号 2011248993
優先日 平成23年11月14日(2011.11.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月11日(2015.5.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】西方 香緒里
【氏名】木村 明博
【氏名】石田 卓也
【氏名】北岸 茂
【氏名】土谷 邦彦
【氏名】秋山 博明
【氏名】長倉 正昭
【氏名】鈴木 邦彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100074631、【弁理士】、【氏名又は名称】高田 幸彦
審査官 【審査官】林 靖
参考文献・文献 特開2010-223937(JP,A)
特開2011-2370(JP,A)
調査した分野 G21G 1/00-5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
MoO3粉末を準備する工程と、前記MoO3粉末を加熱されたダイに充填し、大気中で焼結処理し、MoO3ペレットを作製する工程と、前記MoO3ペレットを酸化処理する工程と、酸化処理された前記MoO3ペレットに中性子を照射し、照射済MoO3ペレットを作製する工程と、前記照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程、から成る放射性モリブデン溶液の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性モリブデン溶解液の製造方法において、前記MoO3ペレットを酸化処理する工程が、室温以上120℃未満の反応温度にて、MoO3ペレットをオゾンガスに暴露、もしくは350℃以上500℃以下の反応温度範囲にて、MoO3ペレットを大気中で仮焼させて行うことを特徴とする放射性モリブデン溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の放射性モリブデン溶液の作製方法において、前記照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程が、前記照射済MoO3ペレットを6M-NaOH溶液中で超音波を用いて行うことを特徴とする放射性モリブデン溶液の作製方法。
【請求項4】
MoO3粉末を用意する工程と、前記MoO3粉末を加熱されたダイ中でプラズマ焼結法を用いて、大気中で500℃以上540℃未満の温度で焼結処理し、MoO3ペレットを作製する工程と、前記MoO3ペレットを酸化処理する工程と、酸化処理された前記MoO3ペレットに中性子を照射し、照射済MoO3ペレットを生成する工程と、前記照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程、から成る放射性モリブデン溶液の作製方法。
【請求項5】
請求項4に記載の放射性モリブデン溶液の作製方法において、前記MoO3ペレットを酸化処理する工程が、室温以上120℃未満の反応温度にて、MoO3ペレットをオゾンガスに暴露、もしくは350℃以上500℃以下の反応温度範囲にて、MoO3ペレットを大気中で仮焼させて行うことを特徴とする放射性モリブデン溶液の作製方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の放射性モリブデン溶液の作製方法において、前記照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程が、前記照射済MoO3ペレットを6M-NaOH溶液中で超音波を用いて行うことを特徴とする放射性モリブデン溶液の作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がん、心筋梗塞、脳卒中をはじめとする疾病の画像診断において欠かせない放射性診断薬であるテクネチウム-99m(99mTc)の親核種である放射性モリブデン(99Mo)を、原料の98Moに中性子を照射することにより製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
99mTcはその親核種である99Moのβ-崩壊により生成している。そして、99Moの生成方法の一つとして、98Moを原料として、中性子照射により99Moを生成する(n, γ)法が知られている。(n, γ)法は,天然モリブデンを含む固体(MoO3ペレット等)を照射容器(以下、ラビット)に入れ,原子炉内で中性子照射し,98Moの中性子捕獲反応(98Mo(n, γ)99Mo反応)によって99Moを製造する方法である。
【0003】
(n, γ)法による放射性モリブデン(99Mo)の製造では,照射後の処理がラビットからMoO3ペレットを取出し、溶解する程度であり,原料として濃縮ウランを用いないことから放射性廃棄物の発生量が、放射性モリブデンの別の製造方法である(n, f)法と比べて少ないという長所がある。また、99Moの製造コストは,37 GBq当り0.83 US$と安価である。しかしながら、(n, γ)法によって生成される99Moは,他の質量数のモリブデンで薄められてしまうので,(n, f)法と比べて比放射能が低く,37~74 GBq/g-Moという欠点がある。このため,99Moの生成量を増加させる必要がある。
【0004】
99Mo生成量を増加させるためには、様々な理由から高密度のMoO3ペレットを照射ターゲットとして使用することが必要である。MoO3ペレットの製造方法として、一軸加圧成形法、ホットプレス法、熱間静水圧焼結法、プラズマ焼結法などが用いられてきた。例えば、本発明と類似の目的を達成する発明を開示している特許文献1には、プラズマ焼結法の内、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)法により、高密度MoO3ペレットを製造する方法が開示されている。この特許文献1の方法では、SPS法により、真空中で焼結温度540~640℃の条件により高密度MoO3ペレットを製作している。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2010-175409
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的にセラミックスの製造方法として用いられる一軸加圧成形法、ホットプレス法、熱間静水圧焼結法などで製造したMoO3ペレットは、焼結密度が低いという欠点があった。また、MoO3ペレット形成時に樟脳、ポリビニルアルコール(PVA)などのバインダーを添加しなければならず、MoO3ペレット中に不純物が混入する可能性があった。一方、特許文献1に開示されているように、SPS法で製造したMoO3ペレットは約95%と高い焼結密度を有するものであるが、この方法で製造した高密度MoO3ペレットを水酸化ナトリウム(NaOH)で溶解した時、溶解に要する時間が長いこと、溶液中に不溶解性残渣が多いことなどの課題点があり、放射性診断薬である99mTcを抽出するにはまだ必ずしも十分ではなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、溶解時に不溶解性残渣が少ない、高密度MoO3ペレットの製造工程を確立することにより、放射性診断薬である99mTcの抽出に適する放射性モリブデン溶液を作製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの観点に係る放射性モリブデン溶液の作製方法は、MoO3粉末を準備する工程と、前記MoO3粉末を加熱されたダイ中で焼結処理し、MoO3ペレットを製造する工程と、前記MoO3ペレットを酸化処理する工程と、酸化処理された前記MoO3ペレットに中性子を照射し、99Moを含んだ照射済MoO3ペレットを作製する工程と、前記照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程の5つの工程から成る。
【0009】
好適には、前記製作する工程で得られたMoO3ペレットを酸化処理する工程が、室温以上120℃未満の反応温度範囲にて、MoO3ペレットをオゾンガスに暴露、もしくは350℃以上500℃以下の温度範囲にて、空気中で仮焼することにより、より多くの不溶解性残渣を低減させることができることを特徴とする放射性モリブデン溶液の作製方法である。
【0010】
本発明の他の観点に係る放射性モリブデン溶液の作製方法は、MoO3粉末を準備する工程と、前記MoO3粉末を加熱されたダイ中でプラズマ焼結法を用いて大気中にて500℃以上540℃未満の焼結処理し、MoO3ペレットを作製する工程と、前記MoO3ペレットを酸化処理する工程と、酸化処理された前記MoO3ペレットに中性子を照射し、照射済MoO3ペレットを生成する工程と、前記照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程から成る。

【0011】
本発明に用いるプラズマ焼結法は、SPS法やプラズマ活性化焼結(PAS:Plasma Activated Sintering)法のいずれかが適用でき、かつMoO3ペレットを大気中で焼結する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、特に、照射済MoO3ペレットを溶解し、放射性モリブデン溶液を得る工程の前工程として、MoO3ペレットを製造したのち、酸化処理する工程を有することにより、溶解時の不溶解性残渣を大幅に低減でき、最終的に高品質の放射性診断薬を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、放射性モリブデン溶液の作製方法を示すフローチャートである。
【図2】図2はプラズマ焼結法によるMoO3ペレット焼結装置の概略構成図である。
【図3】図3は、プラズマ焼結法によるMoO3ペレットの焼結温度と焼結密度の依存性を示すグラフである。
【図4】図4は、MoO3ペレットの酸化処理装置の概略構成図である。
【図5】図5は、オゾンガス濃度の温度依存性を示すグラフである。
【図6】図6は、中性子照射済MoO3ペレットの溶解装置の概略構成図である。
【図7】図7は、オゾンガス暴露による酸化処理およびMoO3ペレットの溶解試験結果を説明するための表である。
【図8】図8は、MoO3ペレットの高温大気中酸化処理の特性試験結果を説明するための表である。
【図9】図9は、大気中350℃×2時間の条件で酸化処理をしたMoO3ペレットおよびそのペレットを6M-NaOHで溶解した溶液の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[放射性モリブデン製造の全工程]
初めに、図1を参照し、放射性モリブデン(99Mo)溶液の作製方法の概略について説明する。工程1として、MoO3粉末を準備する(S101)。このようなMoO3粉末としては、例えば、4Nの高純度MoO3粉末、99Moの生成量を増やすための98Mo濃縮MoO3粉末などのものが使用できる。工程2において、高密度のMoO3ペレットを得るために、プラズマ焼結法(SPS法もしくはPAS法)により、大気中でMoO3粉末を焼結処理する(S102)。次に、工程3として、最終工程での溶解時に不溶解残渣を少なくするため、MoO3ペレットを酸化処理する(S103)。工程4において、酸化処理されたMoO3ペレットは、例えば、原子炉内で中性子照射され、照射済MoO3ペレットを作製する(S104)。最後に、照射済MoO3ペレットを水酸化ナトリウム溶液(NaOH)で溶解し、放射性モリブデン溶液を得る(S105)。各工程の詳細については、後述する。

【0015】
以上の工程1から工程5までは、例えば、中性子照射施設及びそれに付随する放射性物質を取り扱える施設において実施される。その後、そこで得られた放射性モリブデン溶液は、配管を介して直接99mTc抽出工程に送られるか、Mo吸着剤に99Moを吸着させ、Mo吸着剤をガラス製カラムに充填したのち、遮蔽機能を有する専用容器に入れられ、放射性診断薬として使用するため病院に発送される。大型の総合病院の場合には、病院内に本発明にかかる放射性モリブデンの製造方法を実施できる施設を設けることも可能である。病院では、β-崩壊によって生成された99mTcを抽出し、例えばがんの診断に使用することになるが、その詳細についての説明は省略する。

【0016】
[高密度MoO3ペレットの製造工程]
次に、図2を参照し、図1の工程2(S102)のプラズマ焼結法による高密度MoO3ペレットの製造工程について説明する。図2に示された高密度MoO3ペレットの製造に使用する焼結装置は、試料粉体を焼結型に充填する容器、一軸加圧機構、試料加熱系、パルス電流を印加できる電極系などから構成されている。型内部の温度は、型に開けられた孔を介して挿入される熱電対によって測定される。このようなプラズマ焼結法に使用する焼結装置は、従来から周知であるので構造についての詳細説明は省略する。

【0017】
プラズマ焼結法によるMoO3ペレットの製作においては、大気中での焼結を可能とし、焼結時における還元を極力低減させることに特徴がある。

【0018】
SPS法によるMoO3ペレットの製作においては、これまで真空中での焼結しか行っていなかったが、空気を導入できるガスフロー部を設置することにより、大気中での焼結を行った。今回実施したφ20×10mmのMoO3ペレット焼結条件の一例を以下に示す。MoO3粉末を所定の量を充填した後、加圧する。加圧後、所定の電流を印加することにより、MoO3粉体表面にある水分や酸素などを除去しながら、所定の焼結温度まで上昇させ、これらの条件が一定になった後、5分程度保持する。その後、完成したMoO3ペレットを取り出し、特性評価を行った。

【0019】
PAS法によるMoO3ペレットの製作においては、従来から大気中での焼結が可能であること、かつ焼結前にパルス電流を流すことにより、粉体間の焼結性を活性化させる効果をもたらすことに特徴がある。今回実施したφ20×10mmのMoO3ペレット焼結条件の一例を以下に示す。MoO3粉末を所定の量を充填した後、加圧する。加圧後、室温にて2V程度の電圧を100ms幅の矩形波パルスで約30秒間印加する。これにより、MoO3粉体表面にある水分や酸素などが除去できる。次に、電圧及び電流を印加しながら、所定の焼結温度まで上昇させ、これらの条件が一定になった後、5分程度保持する。その後、完成したMoO3ペレットを取り出し、各種特性評価に供した。

【0020】
プラズマ焼結法によるMoO3ペレットの製作の内、圧力、電圧及び電流を一定にし、焼結温度をパラメータにして得られたMoO3ペレットの焼結特性の結果を図3に示す。図3は、MoO3ペレットの焼結温度と焼結密度の依存性を示している。図3のデータから、焼結する温度の上昇とともに、MoO3ペレットの焼結密度が増加することが明らかとなった。また、このデータから、SPS法及びPAS法とも大気中で焼結温度を500℃以上540℃未満とすることにより、一軸加圧成型法で製作したMoO3ペレットに比べ、約3割99Moを多く製造可能な焼結密度が90%T.D.(T.D.:理論密度)以上の高密度MoO3ペレットを得られることが分かった。すなわち、従来の特許文献1に示された温度よりも低い温度で目標焼結密度を達成できた。

【0021】
[MoO3ペレットの低温オゾン酸化処理工程]
図4は、本発明に係るMoO3ペレットのオゾン酸化処理装置の概略説明図である。酸化処理装置は、MoO3ペレットの酸化を促進させるためのオゾン発生装置を備える。MoO3ペレットは反応温度を管理するために恒温槽中に装荷した容器に挿入され、前記オゾン発生装置からオゾンを連続的に流すことにより、容易に反応できる構造となっている。また、恒温槽中の反応容器から排出されるオゾンは、オゾン濃度計を経て、オゾン分解器を通過し、排出される。この酸化処理装置を用いて、MoO3ペレットをオゾン酸化処理した。

【0022】
オゾンガスは強い酸化能力を有することから、酸化反応は主として有機物の酸化に利用されるに留まっている。一方、無機酸化物として近年数多く機能性セラミックスが開発されてきたが、その酸化処理にオゾンガスを使用している例はほとんどない。セラミックスの酸化反応の検討にあたっては、反応温度によるオゾン濃度を把握することが必要であることから、本装置の性能試験を行った(図5参照)。この結果、恒温槽内の温度が120℃以上の時、オゾンは分解し始め、約180℃ではほとんどオゾンは存在せず、酸化効果がなくなるという試験結果が得られた。

【0023】
図5のグラフに示された試験結果に基づいて、実際にプラズマ焼結法で製造した高密度MoO3ペレットを用いて、酸化処理を行った。酸化処理の条件は、以下の通りである。
(1)MoO3ペレット:高密度MoO3ペレット(約95%T.D.)
(2)反応時間:1時間、2時間、20時間
(3)反応温度:室温、50℃、80℃、100℃、120℃、150℃

【0024】
プラズマ焼結法で製造した高密度MoO3ペレットは、室温から120℃の暴露温度範囲では容易に酸化した。この酸化反応は、暴露温度とはほとんど関係なく、オゾンガス濃度に依存していることが分かった。暴露時間については、反応時間が長くなれば、ペレット内部まで酸化処理が可能である。

【0025】
[MoO3ペレットの高温大気中酸化処理工程]
MoO3の昇華は、約650℃以上から始まるため、本発明に係るMoO3ペレットの空気中酸化処理条件を選定した。酸化温度を管理するために電気炉内に装荷したセラミックス皿の上にMoO3ペレットを置き、MoO3ペレット近傍に計測用の熱電対を設置し、MoO3ペレットを大気中で酸化処理した。

【0026】
セラミックスの酸化処理は、高温で酸素ガスもしくは大気中で行うのが一般的である。しかしながら、低い温度で昇華するセラミックスに対しては、高温での酸化処理工程は、焼結密度、結晶状態などの変化が容易に起こる。このため、前述の通り、オゾンガスによる低温での酸化処理条件を選定したが、高温での酸化処理条件も把握することは重要であることから、MoO3ペレットの酸化性能試験を行った。酸化特性試験の温度条件は、オゾンを用いた酸化処理効果が小さくなった180℃以上、MoO3ペレットの昇華が始まる650℃以下の温度範囲とし、実際にプラズマ焼結法で製造した高密度MoO3ペレットを用いて、高温大気中酸化処理を行った。処理の条件は、以下の通りである。
(1)MoO3ペレット:高密度MoO3ペレット(約95%T.D.)
(2)反応時間: 2時間
(3)反応温度:200℃、300℃、350℃、400℃、500℃、600℃

【0027】
プラズマ焼結法で製造した高密度MoO3ペレットは、200℃から300℃の温度範囲で2時間の条件では酸化は困難であり、MoO3ペレットの表面の色も酸化処理を行う前と大きな変化はなかった。一方、400と500℃で2時間の条件で酸化処理を行ったMoO3ペレットについては、表面の色は酸化処理を行う前と比べて、白色に変化した。そこで、酸化処理温度に関し、300℃と400℃の間の境界温度を調べるため、350℃で2時間の条件でも酸化処理を行ったところ、MoO3ペレット表面の色は白色であった。これらのMoO3ペレットの焼結密度及び電子顕微鏡による結晶粒の観察を行ったところ、酸化処理を行う前のMoO3ペレットの焼結密度と変化はなく、結晶粒の成長も見られなかった。一方、600℃で2時間の条件で酸化処理を行ったところ、MoO3ペレットの表面の色は白色に変化し、焼結密度の変化もなかったが、酸化処理を行う前のMoO3ペレットと比べて、結晶粒の成長が観察された。

【0028】
以上の結果、高密度MoO3ペレットの酸化処理温度は、低温領域においては、オゾンガスを用いた方法が有望であり、オゾンガス濃度が変化しない室温以上120℃以下が最適であることが分かった。また、高温領域においては、空気中でMoO3が昇華せず、MoO3ペレットの結晶粒の成長を起こさない350℃以上500℃以下の温度範囲で行うことが最適であることが分かった。

【0029】
[中性子照射による照射済MoO3ペレットの作製]
酸化処理された高密度MoO3ペレットは、ラビットに装荷し、例えば原子炉内で中性子照射される。その結果、(n, γ)99Mo、すなわち99Moを含んだ照射済MoO3ペレットが作製される。得られた99Moの半減期は約66時間と短いため、次の溶解工程はできるだけ短時間で行うことが要求される。

【0030】
[高密度MoO3ペレットからのモリブデン溶液の作製]
図6は、高密度MoO3ペレットの溶解装置の概略構成図である。溶解装置には、照射済MoO3ペレットの溶解を促進させるために超音波装置が設置され、超音波装置に照射済MoO3ペレット溶解槽を装荷した構造となっている。照射済MoO3ペレットを溶解した放射性モリブデン溶液は、ポンプにより99mTc抽出工程に容易に移送できるシステムとなっている。開発した超音波型MoO3ペレット溶解装置を用いて、上記の条件で低温オゾン酸化処理したMoO3ペレットについて、6M-NaOHを用いて溶解試験を行った。その結果を図7に示す。超音波の周波数は40KHzとし、溶解時における温度は、MoO3ペレットがNaOHに溶解する反応熱により、約60℃まで徐々に上昇した。

【0031】
オゾンガスに暴露したのち、そのMoO3ペレットを6M-NaOHに溶解した。オゾンガスに暴露していないMoO3ペレットを溶解して得られたモリブデン溶液の色はオリーブ色となり、残渣があることが分かった。一方、150℃の温度でオゾンガスに暴露したMoO3ペレットを溶解して得られたモリブデン溶液の色は薄いオレンジ色であり、暴露していないものよりも少ないものの残渣は存在していることが分かった。オゾンガスに対する暴露温度を、オゾンガス濃度が変化しない室温から120℃に設定して酸化処理したMoO3ペレットは、酸化処理時間が2時間及び20時間とも、酸化処理を行っていないものと比べてモリブデン溶液の色は透明であり、不溶解性残渣がないことが分かった。

【0032】
超音波型MoO3ペレット溶解装置を用いて、低温オゾン酸化処理したMoO3ペレットの溶解条件と同様の条件で高温大気中酸化処理したMoO3ペレットについても、6M-NaOHを用いて溶解試験を行った。その結果を図8及び図9に示す。

【0033】
高温大気中酸化処理したのち、そのMoO3ペレットを6M-NaOHに溶解した。酸化処理していないMoO3ペレットおよび200℃から300℃の温度範囲で2時間の酸化処理を施したMoO3ペレットを溶解して得られたモリブデン溶液の色はオリーブ色となり、残渣があることが分かった。350℃以上で2時間の酸化処理したMoO3ペレットを溶解して得られたモリブデン溶液の色は透明であり、不溶解性残渣がないことが分かった。
なお、図8においては、平均粒子径が3μmの粒子についてのデータのみを示しているが、平均粒子径によらず同一の結果が得られた。
【符号の説明】
【0034】
10 酸化処理を行うための恒温槽
20 オゾン発生装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8