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明細書 :フェロシアン化物粒子-多糖類複合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6320781号 (P6320781)
公開番号 特開2015-147860 (P2015-147860A)
登録日 平成30年4月13日(2018.4.13)
発行日 平成30年5月9日(2018.5.9)
公開日 平成27年8月20日(2015.8.20)
発明の名称または考案の名称 フェロシアン化物粒子-多糖類複合体
国際特許分類 C09C   3/10        (2006.01)
C09C   1/22        (2006.01)
C09C   3/06        (2006.01)
C01C   3/12        (2006.01)
FI C09C 3/10
C09C 1/22
C09C 3/06
C01C 3/12
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2014-021082 (P2014-021082)
出願日 平成26年2月6日(2014.2.6)
審査請求日 平成29年2月6日(2017.2.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】関根 由莉奈
【氏名】深澤 裕
【氏名】秋吉 一成
【氏名】佐々木 善浩
【氏名】澤田 晋一
個別代理人の代理人 【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
【識別番号】100131392、【弁理士】、【氏名又は名称】丹羽 武司
【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
審査官 【審査官】菅野 芳男
参考文献・文献 特開2013-215723(JP,A)
特開2013-068438(JP,A)
特開2013-173863(JP,A)
調査した分野 C09C 3/10
C09C 1/22
C09C 3/06
C01C 3/12
特許請求の範囲 【請求項1】
フェロシアン化物粒子と疎水化多糖とを複合化したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
【請求項2】
前記フェロシアン化物粒子の平均粒子径が500nm以下である、請求項1に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
【請求項3】
前記フェロシアン化物粒子が、プルシアンブルー、フェロシアン化ニッケル、及びフェロシアン化コバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
【請求項4】
多糖類が溶解又は分散している溶媒中でフェロシアン化物塩と金属イオンとを反応させる工程を含むことを特徴とする、フェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法。
【請求項5】
前記フェロシアン化物塩が、フェロシアン化ナトリウム(Na4[Fe(CN)6])又はフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6])である、請求項に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法。
【請求項6】
前記金属イオンが、Al、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Bi、Fe、Ni、Cu、Ag、Co、Zn、Cd、及びHgからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンである、請求項又はに記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロシアン化物粒子と多糖類とを複合化したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体に関し、より詳しくは顔料、エレクトロクロミック材料、放射性セシウムによる体内汚染の低減等に利用することができるフェロシアン化物粒子-多糖類複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
プルシアンブルーに代表されるフェロシアン化物(Mx[FeII(CN6)]y)は、その呈色特性から古くから顔料として利用されているが、近年、電荷を印加することによって可逆的に色を変化させることができる、いわゆるエレクトロクロミック材料として利用することが提案されている。エレクトロクロミック材料は、呈色を継続させるだけではエネルギーを消費しないため、例えば透明導電性基板等に塗布して、電子ペーパー等の省エネ型ディスプレイや光の透過率を調節できる調光ガラスとして応用することができる。特にプルシアンブルー等のフェロシアン化物は、耐久性に優れているため、エレクトロクロミック材料として好適な材料の1つとして注目されている(特許文献1参照)。また、プルシアンブルーを含む製剤は、放射性セシウム体内除去剤、タリウム及びタリウム化合物解毒剤として医療に供されている(販売名:ラディオガルターゼカプセル500mg、医薬承認番号22200AMX00966000)。
【0003】
一方、多糖類は、食品のほか、繊維、化粧品、医療等の幅広い分野で利用される重要な物質である。天然高分子である多糖類は、石油等の化石燃料由来の合成高分子等とは異なり、恒常的に生産することが可能で、さらに生分解性を有することから環境に優しい材料であると言える。
また、多糖類から派生した材料の一つとして、多糖類に適当な分子を介してコレステロール等を導入した、いわゆる疎水化多糖が見出されている。このような疎水化多糖は、被膜形成能、水分保持能に優れ、化粧料等に応用することができる(特許文献2参照)。また、プルランやマンナン等の疎水化多糖を水中に分散させると、疎水性相互作用により約20~30nmの物理架橋ナノゲルが形成することが知られている。このナノゲルは蛋白質等を内包することができるため、サイトカイン等の薬剤を運搬するドラッグデリバリーシステムとして利用することができることが報告されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2007/20945号
【特許文献2】国際公開第00/57841号
【特許文献3】特開平07-097333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のようにフェロシアン化物(Mx[FeII(CN6)]y)は、様々な用途に利用することができ、例えば代表的なフェロシアン化物であるプルシアンブルーは、顔料、エレクトロクロミック材料等として利用することができることが知られている。
しかし、フェロシアン化物には水に難溶で加工性に乏しいものが多く、不溶性のものは一般的に粒子径の大きな粉体の状態で利用されているために、フェロシアン化物の特性を効率良く利用できなかったり、例えば分散液を塗布してフェロシアン化物層を形成する場合等において、平滑な層を形成することが困難であったりする問題があった。
タリウム解毒剤に使用されるプルシアンブルー製剤についても、粒子径の小さいプルシ
アンブルーがタリウムの吸着性に優れるために好ましい(Yang Y.等、Int J Pharm. 2008
Apr 2;353(1-2):187-194)。
本発明は、フェロシアン化物の利用性を高めることができるように、微粒子状のフェロシアン化物が安定に分散された材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フェロシアン化物粒子を多糖類と複合化させることにより、フェロシアン化物が多糖類中に安定に分散された複合体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> フェロシアン化物粒子と多糖類とを複合化したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
<2> 前記フェロシアン化物粒子の平均粒子径が500nm以下である、<1>に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
<3> 前記フェロシアン化物粒子が、プルシアンブルー、フェロシアン化ニッケル、及びフェロシアン化コバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>又は<2>に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
<4> 前記多糖類が、アニオン性官能基を有する多糖類又は疎水化多糖である、<1>~<3>の何れかに記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体。
<5> 多糖類が溶解又は分散している溶媒中でフェロシアン化物塩と金属イオンとを反応させる工程を含むことを特徴とする、フェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法。
<6> 前記フェロシアン化物塩が、フェロシアン化ナトリウム(Na4[Fe(CN)6])又はフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6])である、<5>に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法。
<7> 前記金属イオンが、Al、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Bi、Fe、Ni、Cu、Ag、Co、Zn、Cd、及びHgからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンである、<5>又は<6>に記載のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えばフェロシアン化物の水への分散性を高めるため、分散液を塗布してフェロシアン化物層を形成する場合等において、平滑な層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1~5、7~9において調製したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、及び比較例1、2において調製したフェロシアン化物粒子の水への分散状態を表す写真である(図面代用写真)。
【図2】実施例1~3において調製したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、及び比較例1において調製したプルシアンブルーの紫外可視吸収スペクトル測定の結果である。
【図3】実施例1において調製したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、及び比較例1において調製したプルシアンブルーの粉末X線回折測定の結果である。
【図4】実施例1において調製したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、及び比較例1において調製したプルシアンブルーの透過型電子顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【図5】実施例1~3、5~7において調製したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、及び比較例1において調製したプルシアンブルーの動的光散乱測定の結果である。
【図6】実施例1において調製したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、及び比較例1において調製したプルシアンブルーを透明導電性基板に塗布し、その塗布面を走査型電子顕微鏡によって観察した写真である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体、フェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。

【0011】
<フェロシアン化物粒子-多糖類複合体>
本発明の一態様であるフェロシアン化物粒子-多糖類複合体(以下、「本発明の複合体」と略す場合がある。)は、「フェロシアン化物粒子と多糖類とを複合化した」複合体物質である。
前述のように、フェロシアン化物には水に難溶で加工性に乏しいものが多く、不溶性のものは一般的に粒子径の大きな粉体の状態で利用されているために、その特性を効率良く利用できていないのが現状であった。本発明者らは、フェロシアン化物粒子を多糖類と複合化させることにより、例えば水への分散性を高めることや分散液を塗布してフェロシアン化物層を形成する場合等において平滑な層を形成すること等が可能となり、フェロシアン化物の利用性を著しく高めることができることを見出した。即ち、本発明は、フェロシアン化物粒子の加工性、応用性を高めた新規材料の発明なのである。
なお、本発明において「複合化」とは、フェロシアン化物粒子と多糖類とが物理的及び/又は化学的に結合(吸着)している状態を意味するものとする。

【0012】
(フェロシアン化物粒子)
本発明の複合体は、フェロシアン化物粒子と多糖類とを複合化した粒子であるが、フェロシアン化物粒子はフェロシアン化物イオン([FeII(CN6)]4-)から形成される固体化合物であれば、その種類は特に限定されない。
例えば、本発明におけるフェロシアン化物粒子として、下記化学式(1)で表される化合物が挙げられる(なお、化学式(1)で表される化合物には、例えば水和物のようにその他の分子やイオンを含んだ状態にある化合物も含まれる。)。
x[FeII(CN6)]y・・・・(1)
化学式(1)中のMは、1種又は2種以上の陽イオンを表し、具体的にはLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属のイオン、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属のイオン、Al、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Bi等の典型金属のイオン、Fe、Ni、Cu、Ag、Co、Zn、Cd、Hg等の遷移金属のイオン、並びにアンモニウムイオン(NH4)からなる群より選ばれる少なくとも1種を表す(化学式(1)中のxとyの値は、Mの価数によって定まる。)。Mは、好ましくはLi、Na、K、NH4、Fe、Ni、Cu、Co、Zn及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはLi、Na、K、NH4、Co及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種である。

【0013】
具体的なフェロシアン化合物としては、プルシアンブルー(Mx'Fex"[Fe(CN)6y)、フェロシアン化ニッケル(Mx'Nix"[Fe(CN)6y)、フェロシアン化コバルト(Mx'Cox"[FeII(CN)6y)、Hg2[Fe(CN)6]、Cu2[Fe(CN)6]・10H2O、Tl4[Fe(CN)6]・4H2O、Sn2[Fe(CN)6]、Sn[Fe(CN)6]、Pb2[Fe(CN)6]・3H2O等が挙げられるが(Mx'Fex"[Fe(CN)6y、Mx'Nix"[Fe(CN)6y、及びMx'Cox"[FeII(CN)6y中のx’は0であってもよい。)、プルシアンブルー、フェロシアン化ニッケル、及びフェロシアン化コバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、プルシアンブルーが特に好ましい。なお、本発明の複合体におけるフェロシアン化物粒子は、1種類のみに限られず、複数のフェロシアン化物粒子を組み合わせた複合体であってもよい。

【0014】
(多糖類)
本発明の複合体は、フェロシアン化物粒子と多糖類とを複合化した粒子であるが、多糖類は単糖分子がグリコシド結合によって重合したものであれば、ホモ多糖、ヘテロ多糖若しくはムコ多糖等の種類の違い、直鎖状若しくは分岐状等の構造の違い、天然物若しくは合成物等の由来違い、分子量等は特に限定されない。
多糖類の種類としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、アガロース、デキストラン、グリコーゲン、ラミナラン、カードラン、カロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、硫酸セルロース、ヒドロキシエチルデキストラン、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ペクチン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、ガラクタン、ガラクトグルコマンノグリカン、アラビノガラクトグリカン、グルコラムノグリカン、グリコサミノグリカン、キトサン、キシログルカン、ペクチン、カラヤガム、トラガントガム、ファーセレラン、低メトキシペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、デルマタン硫酸、及びこれらの多糖類の誘導体等が挙げられる。なお、「多糖類の誘導体」とは、例えばカチオン性官能基又はアニオン性官能基を有する多糖類の塩、及び疎水基を導入した疎水化多糖(以下、疎水基を導入した多糖類を「疎水化多糖」と略す場合がある。)を少なくとも含むことを意味し、具体的な疎水化多糖としては、疎水化マンナン、疎水化プルラン、疎水化アミロペクチン、疎水化アミロース、疎水化デキストラン、疎水化レバン、疎水化イヌリン、疎水化キチン、疎水化キトサン、疎水化キシログルカン、疎水化水溶性セルロール、並びにこれらの疎水化多糖の誘導体が挙げられる。なお、「疎水化多糖の誘導体」とは、疎水化多糖にさらにカチオン性官能基又はアニオン性官能基等の官能基を導入した官能基導入疎水化多糖(以下、官能基を導入した疎水化多糖類を「官能基導入疎水化多糖」と略す場合がある。)を少なくとも含むことを意味し、具体的な官能基導入疎水化多糖としては、アミノ基導入疎水化プルラン等が挙げられる。

【0015】
多糖類の中でも、マンナン等のアニオン性官能基を有する多糖類、又は疎水化プルラン等の疎水化多糖が好ましく、マンナン、疎水化プルラン、及び疎水化マンナンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
なお、「アニオン性官能基」とは、水に溶解させた場合等において負電荷を帯びる官能基を意味し、本発明においては特にカルボキシル基、スルホン酸基、又はリン酸基が好ましい。
多糖類の分子量(重量平均分子量Mw)は、特に限定されないが、通常100以上、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上であり、通常1000000以下、好ましくは500000以下、より好ましくは200000以下である。また、多糖類は、通常10個以上の単糖が結合したもの、好ましくは50個以上の単糖が結合したもの、より好ましくは100個以上の単糖が結合したものであり、通常100万個以下の単糖が結合したもの、好ましくは10万個以下の単糖が結合したものである。

【0016】
具体的な多糖類として、疎水化プルラン等の疎水化多糖が挙げられることを前述したが、疎水化多糖における疎水基の種類は特に限定されず、多糖類の疎水化に利用される公知の有機基を適宜採用することができる。具体的にはラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、コレステリル基、スチグマステリル基、β-シトステリル基、ラノステリル基、エルゴステリル基等が挙げられるが、ミリステチル基、ステアリル基、コレステリル基が好ましく、コレステリル基が特に好ましい。
導入する疎水基の数は特に限定されないが、単糖100個当たりの疎水基の数は、通常1個以上であり、通常5個以下、好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下である。
また、多糖類への疎水性基の導入方法も特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができるが、例えば下記の(I)又は(II)の方法が挙げられる。
(I)多糖類とモノクロロ酢酸とを反応させ、得られたカルボキシメチル化多糖類とエチ
レンジアミンを反応させ、さらに得られたN-(2-アミノエチル)カルバモイルメチル化多糖類とコレステリルクロロホルメイトを反応させる方法(特開昭61-69801号公報参照)
(II)ステロールとジイソシアナート化合物を反応させ、得られたモノイソシアナート化合物と多糖類を反応させる方法(特開平3-292301号公報、国際公開第00/12564号参照)
多糖類への疎水性基の導入方法としては、(II)の方法が好ましい。

【0017】
本発明の複合体は、フェロシアン化物粒子と多糖類とが物理的及び/又は化学的に結合(吸着)しているものであれば、複合形態は特に限定されないが、具体的な複合形態として、
(a)フェロシアン化物粒子の表面に多糖類が吸着した形態
(b)多糖類が凝集した多糖類粒子とフェロシアン化物粒子が結合した形態
(c)多糖類が自己組織化して形成したナノゲルにフェロシアン粒子が内包された形態等が挙げられるが、多糖類が自己組織化して形成したナノゲルにフェロシアン粒子が内包された形態が特に好ましい。
例えば、疎水基を導入したマンナンやプルランは、水中に分散させると疎水性相互作用により、約20~30nmの物理的に架橋したナノゲルが形成することが知られている。本発明の複合体として、このナノゲルにフェロシアン粒子が内包された形態であると、微粒子化したフェロシアン化物をより安定的に保つことができるとともに、水への分散性を顕著に高めることができる。なお、フェロシアン化物粒子と多糖類の複合形態は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)観察にて確認することができる。

【0018】
本発明の複合体におけるフェロシアン化物粒子と多糖類の質量比は、目的の複合形態に応じて適宜選択されるべきであるが、フェロシアン化物粒子の質量に対する多糖類の質量は、通常0.1倍以上、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは1倍以上であり、通常500倍以下、好ましくは400倍以下、より好ましく300倍以下である。上記範囲内であると、微粒子化したフェロシアン化物をより安定的に保つことができるとともに、水への分散性を顕著に高めることができる。

【0019】
本発明の複合体におけるフェロシアン化物粒子の形態又は物性等は特に限定されないが、複合体におけるフェロシアン化物粒子の粒子径は小さいことが好ましい。フェロシアン化物粒子の粒子径が小さいと、例えば水への分散性を顕著に高めることができる。複合体におけるフェロシアン化物粒子の平均粒子径は、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下であり、通常10nm以上である。なお、複合体におけるフェロシアン化物粒子の平均粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)にていくつかのフェロシアン化物粒子を観察し、その粒子径の平均値を算出することによって得ることができる。
また、上記の多糖類が自己組織化して形成したナノゲルにフェロシアン粒子が内包された形態である場合、ナノゲルの平均粒子径は、通常500μm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下であり、通常10nm以上である。

【0020】
<フェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法>
本発明の複合体は、フェロシアン化物粒子と多糖類とが物理的及び/又は化学的に結合(吸着)しているものであれば、その製造方法は特に限定されないが、例えば、
(i)フェロシアン化物粒子と多糖類を溶媒に溶解又は分散させて複合化する方法
(ii)多糖類が溶解又は分散している溶媒中でフェロシアン化物粒子を形成して複合化する方法
等が挙げられる。
上記(i)の方法としては、例えば予め調製した或いは入手したフェロシアン化物粒子
と多糖類を水等の溶媒に溶解又は分散させて、溶媒中でフェロシアン化物粒子と多糖類を化学的に結合させたり、溶媒を蒸発させてフェロシアン化物粒子と多糖類を物理的に結合させたりする方法が挙げられる。なお、上記(i)の方法は、「フェロシアン化物粒子と多糖類を溶媒に溶解又は分散させる工程」を含むフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法であると言える。
上記(ii)の方法としては、例えば多糖類が溶解又は分散している水溶液中で、フェロシアン化カリウム等の水溶性のフェロシアン化物塩と3価のFeイオン等の金属イオンを反応させることにより、多糖類の存在下でフェロシアン化物粒子が形成して、これらを複合化する方法が挙げられる。なお、上記(ii)の方法は、「多糖類が溶解又は分散している溶媒中でフェロシアン化物塩と金属イオンとを反応させる工程」を含むことを特徴とするフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法であると言える。
なお、「多糖類が溶解又は分散している溶媒中でフェロシアン化物塩と金属イオンとを反応させる工程」を含むフェロシアン化物粒子-多糖類複合体の製造方法は、上記の多糖類(疎水化多糖)が自己組織化して形成したナノゲルにフェロシアン粒子が内包された形態を有する複合体の製造に特に適しており、本発明の一態様である(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)
以下、本発明の製造方法の詳細について説明する。

【0021】
本発明の製造方法は、「多糖類が溶解又は分散している溶媒中でフェロシアン化物塩と金属イオンとを反応させる工程」を含むこと特徴とするが、溶媒の種類、反応させる具体的な方法等は特に限定されない。
溶媒は、多糖類、フェロシアン化物塩、及び金属イオン等を溶解し易い観点から、通常水系溶媒であり、純水のほか、メタノール、エタノール等のアルコール、又は界面活性剤等が含まれる水溶液、さらには酸又は塩基を含む酸性溶液又は塩基性溶液であってもよい。
反応させる具体的な方法としては、多糖類及び金属イオンが溶解した溶液とフェロシアン化物塩が溶解した溶液を混ぜ合わせる方法が挙げられる。なお、これらの溶液における多糖類、金属イオン、及びフェロシアン化物塩の濃度は特に限定されないが、多糖類及び金属イオンが溶解した溶液における多糖類の濃度は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、通常50質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
多糖類及び金属イオンが溶解した溶液における金属イオンの濃度は、通常0.0015molL-1以上、好ましくは0.015molL-1以上、より好ましくは0.075molL-1以上であり、通常5molL-1以下、好ましくは1molL-1以下、より好ましくは0.5molL-1以下である。
フェロシアン化物塩が溶解した溶液におけるフェロシアン化物塩の濃度は、通常0.001molL-1以上、好ましくは0.01molL-1以上、より好ましくは0.05molL-1以上であり、通常0.5molL-1以下、好ましくは0.2molL-1以下、より好ましくは0.1molL-1以下である。

【0022】
本発明の製造方法に用いる多糖類は、製造目的であるフェロシアン化物粒子-多糖類複合体に応じて適宜選択されるべきである。また、本発明の製造方法に用いるフェロシアン化物塩は、フェロシアン化物粒子を形成することができるものであれば特に限定されないが、水溶性のフェロシアン化ナトリウム(Na4[Fe(CN)6])又はフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6])が挙げられる。さらに本発明の製造方法に用いる金属イオンは、製造目的であるフェロシアン化物粒子-多糖類複合体に応じて適宜選択されるべきであり、通常はAl、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Bi、Fe、Ni、Cu、Ag、Co、Zn、Cd、及びHgからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンである。
【実施例】
【0023】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0024】
<実施例1>
(疎水化プルランの調製)
コレステロール(1.95g、5.04mmol)とヘキサメチレンジイソシアナート(12mL、75mmol)を60mLの脱水トルエン(1.0mLのピリジン含有)中においてN2雰囲気下、80℃で22時間反応させた。反応溶液を減圧乾燥させた後、350mLのヘキサンに再度溶解させ、-15℃で一晩静置した。得られた沈殿物をHPLCで精製し、減圧乾燥してイソシアナート含有コレステロールを得た。
次いで、市販のプルラン(東京化成工業社製、1.0g)及びコレステロールイソシアナート(0.2g)を65mLの脱水DMSO(5.2mLのピリジン含有)中においてN2雰囲気下、80℃で8時間反応させた。反応溶液に撹拌しながら300mLのエタノールを加え、4℃で一晩静置した。得られた沈殿物をセルロースから成る透析膜を用いて精製し、コレステリル基を導入した疎水化プルラン(CHP、重量平均分子量100000、コレステリル基の数:単糖100個当たり約1.2個)を調製した。
【実施例】
【0025】
(プルシアンブルー-疎水化プルラン複合体の調製)
1mLイオン交換水にフェロシアン化ナトリウム十水和物2.9mgを溶解し、フェロシアン化ナトリウム水溶液を調製した(フェロシアン化ナトリウム濃度:0.006molL-1)。次に、1mLイオン交換水に調製した疎水化プルラン30mg、及び硝酸鉄(III)九水和物3.6mgを溶解(分散)させ、疎水化プルランが分散した硝酸鉄水溶液を調製した(疎水化プルラン濃度:30gL-1、鉄イオン濃度:0.009molL-1)。
そして、フェロシアン化ナトリウム水溶液1mLと疎水化プルランが分散した硝酸鉄水溶液1mLを25℃、5分間混ぜ合わせたところ、図1の(a)に示す青色透明水溶液が得られた。なお、かかる水溶液を1ヶ月以上室温で放置したところ、沈殿物等が形成することなく、青色透明水溶液の状態を維持していた。
【実施例】
【0026】
(紫外可視吸収スペクトル測定)
得られた青色透明水溶液をガラスセルに入れ、紫外可視分光光度計(日本分光社製V660)を用いて室温、常圧の条件で紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、図2の(a)に示すスペクトルが得られた。プルシアンブルーと同様に700nmを極大吸収とするスペクトルが得られたことから、多糖類存在下においてもプルシアンブルーが形成していること明らかである。
【実施例】
【0027】
(粉末X線回折測定)
青色透明水溶液を室温、常圧の条件下で乾燥させて粉末状にし、X線回折測定を行ったところ(Rigaku社製透過型X線回折装置)、図3の(a)に示すX線回折パターンが得られた。プルシアンブルーとほぼ同じ位置にBraggピークが確認されたことから、多糖類存在下においても結晶性の高いプルシアンブルーが形成していることが明らかである。
【実施例】
【0028】
(透過型電子顕微鏡観察)
青色粉末をカーボングリッド上に固定化し、透過型電子顕微鏡にて観察した。観察写真を図4の(a)に示す。粒子径が300nm程度のほぼ均一なプルシアンブルーが形成していること、さらにこれらのプルシアンブルー粒子がプルランに内包されていることが明らかである。
【実施例】
【0029】
(動的光散乱測定)
青色透明水溶液を1/10に希釈し、ガラスセルに入れ、動的光散乱測定(マルバーン社製ゼータサイザー)を行った。粒子径分布のグラフを図5の(a)に示す。粒子径が約300nm程度のほぼ均一なプルシアンブルーが形成していることが明らかである。
【実施例】
【0030】
(導電性基板への塗布)
青色透明水溶液を透明導電性基板へ塗布し、常圧の条件下で乾燥させて、その塗布面を走査型電子顕微鏡観察にて観察した。観察写真を図6の(a)に示す。均一で滑らかな塗布面が形成されていることが明らかである。
【実施例】
【0031】
<比較例1>
疎水化プルランを加えなかった以外、実施例1と同様の操作でフェロシアンカリウム水溶液と硝酸鉄水溶液を混ぜ合わせたところ、図2の(b)に示す青色粉末が沈殿した水溶液が得られた。得られた青色粉末について、実施例1と同様に紫外可視吸収スペクトル測定、粉末X線回折測定、透過型電子顕微鏡観察、動的光散乱測定、導電性基板への塗布を行った。紫外可視吸収スペクトル測定の結果を図2の(b)に、粉末X回折測定の結果を図3の(b)に、透過型電子顕微鏡観察の写真を図4の(b)に、粒子径分布のグラフを図5の(b)に、塗布面の走査型電子顕微鏡観察の写真を図6の(b)に示す。透過型電子顕微鏡観察の写真及び粒子径分布のグラフから、粒子径が1000nm以下の粒子と1000nm以上の粒子が存在し(平均粒子径:3μm)、粒子径が比較的不均一なプルシアンブルーが形成していることが明らかである。また、走査型電子顕微鏡観察の写真から、大きな粒子が付着した塗布面となっていることが明らかである。
【実施例】
【0032】
<実施例2>
プルランを市販のマンナン(シグマアルドリッチ社製、30mg)に置き換えた以外、実施例1と同様の操作で疎水化マンナンを調製し、さらにフェロシアン化ナトリウム水溶液と疎水化マンナン(コレステリル基の数:単糖100個当たり約1.5個)が分散した硝酸鉄水溶液を混ぜ合わせた。結果、図1の(c)に示す青色透明水溶液が得られた。なお、かかる水溶液を1ヶ月以上室温で放置したところ、沈殿物等が形成することなく、青色透明水溶液の状態を維持していた。
また、得られた青色粉末について、紫外可視吸収スペクトル測定、動的光散乱測定を行った。紫外可視吸収スペクトル測定の結果を図2の(c)に、粒子径分布のグラフを図5の(c)に示す。粒子径が70nm程度のほぼ均一なプルシアンブルーが形成していることが明らかである。
【実施例】
【0033】
<実施例3>
疎水化プルランを市販のマンナン(シグマアルドリッチ社製、30mg)に置き換えた以外、実施例1と同様の操作でフェロシアン化ナトリウム水溶液とマンナンが分散した硝酸鉄水溶液を混ぜ合わせた。結果、図2の(d)に示す青色透明水溶液が得られた。なお、かかる水溶液を1ヶ月以上室温で放置したところ、沈殿物等が形成することなく、青色透明の水溶液の状態を維持していた。
また、得られた青色粉末について、紫外可視吸収スペクトル測定、動的光散乱測定を行った。紫外可視吸収スペクトル測定の結果を図2の(d)に、粒子径分布のグラフを図5の(d)に示す。粒子径が60nm程度のほぼ均一なプルシアンブルーが形成していることが明らかである。
【実施例】
【0034】
<実施例4>
疎水化プルランをメチルセルロース10mgに置き換えた以外、実施例1と同様の操作でフェロシアン化ナトリウム水溶液とメチルセルロースが分散した硝酸鉄水溶液を混ぜ合
わせた。結果、図1の(e)に示す青色粉末が沈殿した青色水溶液が得られた。
また、得られた青色粉末について、動的光散乱測定を行った。粒子径分布のグラフを図5の(e)に示す。平均粒子径が500nm以上の不均一な粒子が存在することが明らかである。
【実施例】
【0035】
<実施例5>
疎水化プルランをカルボキシメチルセルロース10mgに置き換えた以外、実施例1と同様の操作でフェロシアン化ナトリウム水溶液とカルボキシメチルセルロースが分散した硝酸鉄水溶液を混ぜ合わせた。結果、図1の(f)に示す青色粉末が沈殿した青色水溶液が得られた。
また、得られた青色粉末について、動的光散乱測定を行った。粒子径分布のグラフを図5の(f)に示す。平均粒子径が500nm以上の不均一な粒子が存在することが明らかである。
【実施例】
【0036】
<実施例6>
疎水化プルランをヒドロキシメチルセルロース10mgに置き換えた以外、実施例1と同様の操作でフェロシアン化ナトリウム水溶液とヒドロキシメチルセルロースが分散した硝酸鉄水溶液を混ぜ合わせた。結果、青色粉末が沈殿した青色水溶液が得られた。
また、得られた青色粉末について、動的光散乱測定を行った。粒子径分布のグラフを図5の(g)に示す。平均粒子径が500nm以上の不均一な粒子が存在することが明らかである。
【実施例】
【0037】
<実施例7>
1mLイオン交換水にフェロシアン化カリウム2.5mgを溶解し、フェロシアン化カリウム水溶液を調製した(濃度:0.006molL-1)。次に、1mLイオン交換水に実施例1で調製した疎水化プルラン30mg、及び酢酸コバルト(II)四水和物2.2mgを溶解(分散)させ、疎水化プルランが分散した酢酸コバルト水溶液を調製した(疎水化プルラン濃度:30gL-1、コバルトイオン濃度:0.009molL-1)。
そして、フェロシアン化カリウム水溶液1mLと疎水化プルランが分散した酢酸コバルト水溶液1mLを25℃、5分間混ぜ合わせたところ、図1の(g)に示す橙色透明水溶液が得られた。
【実施例】
【0038】
<実施例8>
プルランを市販のマンナン(シグマアルドリッチ社製、30mg)に置き換えた以外、実施例1と同様の操作で疎水化マンナンを調製し、さらに実施例1と同様の操作によってフェロシアン化カリウム水溶液と疎水化マンナン(コレステリル基の数:単糖100個当たり約1.5個)が分散した酢酸コバルト水溶液を混ぜ合わせた。結果、図1の(h)に示す橙色透明水溶液が得られた。
【実施例】
【0039】
<実施例9>
疎水化プルランを市販のマンナン(シグマアルドリッチ社製、30mg)に置き換えた以外は、実施例5と同様の操作によってフェロシアン化カリウム水溶液とマンナンが分散した酢酸コバルト水溶液を混ぜ合わせたところ、図1の(i)に示す橙色透明水溶液が得られた。
【実施例】
【0040】
<比較例2>
疎水化プルランを加えなかった以外、実施例5と同様の操作でフェロシアンカリウム水溶液と酢酸コバルト水溶液を混ぜ合わせたところ、図2の(j)に示す橙色粉末が沈殿した水溶液が得られた。
【実施例】
【0041】
【表1】
JP0006320781B2_000002t.gif
【実施例】
【0042】
以上のことから、平均粒子径が500nm以下のフェロシアン化物粒子と多糖類とが複合化したフェロシアン化物粒子-多糖類複合体が得られ、かかる複合体が水への分散安定性に優れることが明らかである。また、フェロシアン化物粒子-多糖類複合体が分散した分散液を塗布した場合、平滑な層が形成することが可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のフェロシアン化物粒子-多糖類複合体は、例えば塗料、インク、合成樹脂、織物、化粧品、食品等の着色に使用する顔料(染料)、エレクトロクロミック材料、又は、放射性セシウム、タリウム若しくはタリウム化合物などの有毒物の除去剤又は解毒剤として利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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