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明細書 :免疫チェックポイント阻害剤の血中モニタリングおよび患者層別化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-148631 (P2020-148631A)
公開日 令和2年9月17日(2020.9.17)
発明の名称または考案の名称 免疫チェックポイント阻害剤の血中モニタリングおよび患者層別化方法
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
C07K  16/30        (2006.01)
FI G01N 33/68
G01N 33/574 A
C07K 16/30
請求項の数または発明の数 23
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2019-046447 (P2019-046447)
出願日 平成31年3月13日(2019.3.13)
発明者または考案者 【氏名】岩井 佳子
【氏名】弦間 昭彦
【氏名】清家 正博
出願人 【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
【識別番号】100137729、【弁理士】、【氏名又は名称】赤井 厚子
【識別番号】100151301、【弁理士】、【氏名又は名称】戸崎 富哉
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4H045
Fターム 2G045AA26
2G045DA36
2G045FB03
2G045JA03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA51
4H045FA71
要約 【課題】生体試料中の、bsPD-L1を検出・定量することにより、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法、免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法、免疫チェックポイント阻害剤での治療に対する感受性に関して患者を層別化する方法、およびこれらの方法を実施するためのシステムやキットなどの提供。
【解決手段】被験体から治療前及び/又は治療後に得た生体試料を用い、該生体試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法、等。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
被験体における免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法であって、被験体から治療前及び/又は治療後に得た生体試料を用い、該生体試料中の「PD-1結合能を有する可溶型PD-L1(bsPD-L1)」及び/又は「可溶型PD-L1(sPD-L1)」の濃度を測定する工程を含む方法。
【請求項2】
被験体から治療前及び治療後に得た生体試料を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤であって、被験体から治療後に得た生体試料中のbsPD-L1濃度が、該被験体の治療前に得た生体試料中のbsPD-L1濃度に比べて低下している場合に、PD-1阻害剤による治療効果が高いと予測する請求項2記載の方法。
【請求項4】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤であって、被験体から治療後に得た生体試料中のsPD-L1濃度が、該被験体の治療前に得た生体試料中sPD-L1濃度に比べて上昇している場合に、PD-L1阻害剤による治療効果が低いと予測する請求項2記載の方法。
【請求項5】
被験体における、PD-1阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法であって、被験体から治療の前後に生体試料を採取する工程及び該試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む方法。
【請求項6】
生体反応性のモニタリングが、免疫チェックポイント阻害剤の血中残存量、治療効果及び生体の治療反応性の同時モニタリングである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生体の治療反応性が獲得免疫応答及び自然免疫応答である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
被験体における、PD-L1阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法であって、被験体から治療の前後に生体試料を採取する工程及び該試料中のsPD-L1の濃度を測定する工程を含む方法。
【請求項9】
さらに、該試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生体反応が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)又は炎症反応である、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
被験体から治療前に得た生体試料を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1濃度が高値の場合、免疫チェックポイント阻害剤による治療効果が低いと予測する請求項11記載の方法。
【請求項13】
高値が2000pg/ml以上である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤及び/又はPD-L1阻害剤である、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤であって、被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1が陽性である場合、PD-L1阻害剤による治療効果が低いと予測する請求項11記載の方法。
【請求項16】
免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関して被験体を層別化する為の方法であって、被験体から治療前に得た生体試料におけるbsPD-1の濃度を測定する工程を含む方法。
【請求項17】
被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1濃度が高値の場合、免疫チェックポイント阻害剤無効例と関連付ける、請求項16記載の方法。
【請求項18】
高値が2000pg/ml以上である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤及び/又はPD-L1阻害剤である、請求項16~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤であって、被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1が陽性である場合、PD-L1阻害剤無効例と関連付ける、請求項16記載の方法。
【請求項21】
被験体から得られた生体試料中のbsPD-L1を検出・定量する為のシステムであって、PD-1タンパク質を含み、該タンパク質と生体試料とを反応させる手段および該タンパク質に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムであって、(i)免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を評価する、または評価を補助する為、(ii)免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする為、又は(iii)免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関して被験体を層別化する為のシステム。
【請求項22】
さらに、抗PD-L1抗体を含み、該抗体と生体試料とを反応させる手段および該抗体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む請求項21記載のシステム。
【請求項23】
ELISAシステムである請求項21又は22記載のシステム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体(例、患者)由来の生体試料中の、PD-1結合能を有する可溶型PD-L1を検出・定量することにより、患者における免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法、免疫チェックポイント阻害剤の血中残存量等の該阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法等に関する。さらに本発明は、治療前、あるいは治療前後の患者から得られた生体試料中のPD-1結合能を有する可溶型PD-L1を検出・定量することにより、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における患者の層別化を可能にする方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫チェックポイント分子は、リンパ球などの免疫担当細胞に発現し、免疫を抑制するシグナルを伝達する分子である。生体の自己寛容の維持や感染時の過剰な免疫抑制などの役割を有するが、癌の発症時には癌細胞の免疫からの逃避を誘導し、結果として癌の増殖の原因となる。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント分子(PD-1、PD-L1、CTLA-4など)の機能を抑制することで抗腫瘍効果を発揮する抗がん剤である(特許文献1、2;非特許文献1~3)。本邦では、2014年に抗PD-1抗体ニボルマブが悪性黒色腫に対して保険適応となり、現在は非小細胞肺がんにおいても承認されている。免疫チェックポイント阻害剤の奏効率は約20%と低いが、その原因はわかっておらず、低感受性群(無効例)を見分ける診断法や治療法は今のところない。効果を認める症例においては長期間その効果が持続することが経験されているが、頻度は少ないものの大腸炎、1型糖尿病や間質性肺炎などの重篤な免疫関連有害事象が報告されている。また、呼吸器合併症として、他の薬剤同様の間質性肺炎のほか、腫瘍が一時的に増大し周辺に間質性肺炎様の陰影を呈し、自然軽快する「偽増悪」と呼ばれる現象が4%程度の患者で起こることが報告されている。
免疫チェックポイント阻害剤の使用の際には、偽増悪の存在により抗腫瘍効果判定が困難であること、また、薬剤性肺障害により治療中断や変更が余儀なくされることが、適正使用の障害となっている。そのため、効果予測マーカーおよび副作用のメカニズムの解明が求められている。
現在、免疫チェックポイント阻害剤として、PD-1阻害剤(nivolumab, pembrolizumab)とPD-L1阻害剤(atezolizumab, durvalumab)が承認されているが、その使用はランダムに行われていて、どちらの使用が適切か判断する方法がないのが現状である。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】日本国特許第4409430号
【特許文献2】日本国特許第5885764号
【0004】

【非特許文献1】Iwai Y, et al., Ishida M, Tanaka Y, Okazaki T, Honjo T, and Minato N: Involvement of PD-L1 on tumor cells in the escape from host immune system and tumor immunotherapy by PD-L1 blockade. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Sep 17;99(19):12293-7.
【非特許文献2】Iwai Y, Terawaki S, and Honjo T: PD-1 blockade inhibits hematogenous spread of poorly immunogenic tumor cells by enhanced recruitment of effector T cells. Int Immunol. 2005 Feb;17(2):133-44.
【非特許文献3】Leach DR, Krummel MF, and Allison JP: Enhancement of antitumor immunity by CTLA-4 blockade. Science. 1996 Mar 22;271(5256):1734-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被験体由来の生体試料中の、PD-1結合能を有する可溶型PD-L1を検出・定量することにより、被験体における免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法、免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法、免疫チェックポイント阻害剤での治療に対する感受性に関して患者を層別化する方法、およびこれらの方法を実施するためのシステムやキットなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、全身性の免疫機能を評価しうるものとして、血中に存在する可溶型PD-L1(soluble PD-L1、以下、「sPD-L1」)に着目して研究をはじめ、その結果、sPD-L1にはPD-1に対して高い結合能を有する結合型可溶型PD-L1(PD-1 binding sPD-L1、以下、「bsPD-L1」)が存在すること、さらにbsPD-L1を高精度で検出・定量しうる方法の開発に成功している(PCT/JP2018/033161;M. Takeuchi et al., Immunol Lett. 2018 Apr;196:155-160. Epub 2018 Jan 31.)。
本発明者らは、上記課題に鑑み、これまでの知見に基づき鋭意研究を重ねた。具体的には、免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法を受ける患者に対し、治療前、あるいは治療前と治療後に血液を採取し、該血液中のbsPD-L1を検出し、及び/又はその濃度を測定することによって、免疫療法の治療効果との相関性や血液中の免疫チェックポイント阻害剤の動態との関連性について調べた。結果、幾つかの免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における治療指針となり得る評価基準を見出すことに成功し本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)被験体における免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法であって、被験体から治療前及び/又は治療後に得た生体試料を用い、該生体試料中の「PD-1結合能を有する可溶型PD-L1(bsPD-L1)」及び/又は「可溶型PD-L1(sPD-L1)」の濃度を測定する工程を含む方法。
(2)被験体から治療前及び治療後に得た生体試料を用いる、上記(1)記載の方法。
(3)免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤であって、被験体から治療後に得た生体試料中のbsPD-L1濃度が、該被験体の治療前に得た生体試料中のbsPD-L1濃度に比べて低下している場合に、PD-1阻害剤による治療効果が高いと予測する上記(2)記載の方法。
(4)PD-1阻害剤がPD-1抗体である、上記(3)記載の方法。
(5)免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤であって、被験体から治療後に得た生体試料中のsPD-L1濃度が、該被験体の治療前に得た生体試料中sPD-L1濃度に比べて上昇している場合に、PD-L1阻害剤による治療効果が低いと予測する上記(2)記載の方法。
(6)PD-L1阻害剤がPD-L1抗体である、上記(5)記載の方法。
(7)被験体における、PD-1阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法であって、被験体から治療の前後に生体試料を採取する工程及び該試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む方法。
(8)生体反応性のモニタリングが、免疫チェックポイント阻害剤の血中残存量、治療効果及び生体の治療反応性の同時モニタリングである、上記(7)記載の方法。
(9)生体の治療反応性が獲得免疫応答及び自然免疫応答である、上記(8)記載の方法。
(10)PD-1阻害剤がPD-1抗体である、上記(7)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)被験体における、PD-L1阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法であって、被験体から治療の前後に生体試料を採取する工程及び該試料中のsPD-L1の濃度を測定する工程を含む方法。
(12)さらに、該試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、上記(11)記載の方法。
(13)生体反応が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)又は炎症反応である、上記(11)又は(12)記載の方法。
(14)PD-L1阻害剤がPD-L1抗体である、上記(11)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)被験体から治療前に得た生体試料を用いる、上記(1)記載の方法。
(16)被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1濃度が高値の場合、免疫チェックポイント阻害剤による治療効果が低いと予測する上記(15)記載の方法。
(17)高値が2000pg/ml以上である、上記(16)記載の方法。
(18)免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤及び/又はPD-L1阻害剤である、上記(15)~(17)のいずれかに記載の方法。
(19)PD-1阻害剤がPD-1抗体である、上記(18)記載の方法。
(20)PD-L1阻害剤がPD-L1抗体である、上記(18)記載の方法。
(21)免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤であって、被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1が陽性である場合、PD-L1阻害剤による治療効果が低いと予測する上記(15)記載の方法。
(22)PD-L1阻害剤がPD-L1抗体である、上記(21)記載の方法。
(23)免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関して被験体を層別化する為の方法であって、被験体から治療前に得た生体試料におけるbsPD-1の濃度を測定する工程を含む方法。
(24)被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1濃度が高値の場合、免疫チェックポイント阻害剤無効例と関連付ける、上記(23)記載の方法。
(25)高値が2000pg/ml以上である、上記(24)記載の方法。
(26)免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤及び/又はPD-L1阻害剤である、上記(23)~(25)のいずれかに記載の方法。
(27)PD-1阻害剤がPD-1抗体である、上記(26)記載の方法。
(28)PD-L1阻害剤がPD-L1抗体である、上記(26)記載の方法。
(29)免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤であって、被験体から治療前に得た生体試料中のbsPD-L1が陽性である場合、PD-L1阻害剤無効例と関連付ける、上記(23)記載の方法。
(30)PD-L1阻害剤がPD-L1抗体である、上記(29)記載の方法。
(31)被験体から得られた生体試料中のbsPD-L1を検出・定量する為のシステムであって、PD-1タンパク質を含み、該タンパク質と生体試料とを反応させる手段および該タンパク質に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムであって、(i)免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を評価する、または評価を補助する為、(ii)免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする為、又は(iii)免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関して被験体を層別化する為のシステム。
(32)さらに、抗PD-L1抗体を含み、該抗体と生体試料とを反応させる手段および該抗体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む上記(31)記載のシステム。
(33)ELISAシステムである上記(31)又は(32)記載のシステム。
(34)PD-1タンパク質が固相化された担体および該担体に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出する為の検出用マーカーを含み、任意で抗PD-L1抗体が固相化された担体および該担体に結合した可溶型PD-L1をsPD-L1として検出する為の検出用マーカーを含んでなるELISAキットであって、(i)免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を評価する、または評価を補助する為、(ii)免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする為、又は(iii)免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関して被験体を層別化する為のキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における治療指針、例えば、免疫チェックポイント阻害剤無効例の同定、患者に適した免疫チェックポイント阻害剤の選定、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における薬物投与計画の作成等が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】PD-L1阻害剤を使用した肺がん患者(11症例)における治療前血中bsPD-L1と治療効果との関連を示したグラフである。PR: partial response (部分奏功)、SD: stable disease (安定)、PD: progressive disease (進行)。陰性:治療前にbsPD-L1陰性、陽性:治療前にbsPD-L1陽性。
【図2】PD-1阻害剤を使用した肺がん患者(39症例)における治療前後血中bsPD-L1変化と治療効果との関連を示したグラフである。CR: complete response (完全奏効)、PR: partial response (部分奏功)、SD: stable disease (安定)、PD: progressive disease (進行)。低下:治療後にbsPD-L1値が低下、不変:治療後にbsPD-L1値が不変、上昇:治療後にbsPD-L1値が上昇。
【図3】PD-1阻害剤によるbsPD-L1検出系への影響を模式的に示した図である。
【図4】PD-L1阻害剤を使用した肺がん患者(11症例)における治療前後血中sPD-L1変化と治療効果との関連を示したグラフである。PR: partial response (部分奏功)、SD: stable disease (安定)、PD: progressive disease (進行)。不変:治療後にsPD-L1値が不変、上昇:治療後にsPD-L1値が上昇。
【図5】免疫チェックポイント阻害剤を使用した肺がん患者(50症例)における治療前血中bsPD-L1を測定した結果を示すグラフである。bsPD-L1高値の3症例はPD(progressive disease)で症状が進行し治療効果が認められなかった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、生体試料中のPD-1結合能を有する可溶型PD-L1(以下、「bsPD-L1」とも称する)を検出乃至その濃度を測定する工程を含む。
本発明の別態様としては、生体試料中の可溶型PD-L1(以下、「sPD-L1」とも称する)の濃度を測定する工程を含む。
本発明において用いる「生体試料」は、生体に由来する試料である限り特に限定する必要はなく、被験体に由来する種々の生体試料を用いることができる。測定対象がbsPD-L1の場合には、該試料は、bsPD-L1が存在する可能性があれば足り、結果としてbsPD-L1が存在しなかったとしてもかまわない。測定対象がsPD-L1の場合には、該試料は、sPD-L1が存在する可能性があれば足り、結果としてsPD-L1が存在しなかったとしてもかまわない。生体試料として、生体から直接採取した試料、これを洗浄または破砕した試料などを用いることができ、血液、肺胞などの組織洗浄液、尿、髄液、組織切片などが例示される。好ましくは血液が用いられる。これらの生体試料については、bsPD-L1及び/又はsPD-L1を検出・定量する方法(系)により、そのままの形で用いても、一定の前処理を行った後に測定用試料としてもよい。被験体としては、生体試料中のbsPD-L1及び/又はsPD-L1を検出・定量することが求められる限り特に限定される必要はなく、免疫チェックポイント阻害剤の投与により病態や免疫応答の変化が予想される患者の他、その対照となり得る健常人や免疫チェックポイント阻害剤を用いる治療を受けない患者であってもよい。現在の適応疾患であるがんの患者や、将来的に適応の可能性のある感染症の患者は好ましい対象となる。

【0010】
免疫チェックポイント阻害剤の投与により病態や免疫応答の変化が予想される患者としては、免疫系が関与する疾患に罹患している患者で特に限定する必要はないが、がん、感染症、自己免疫疾患、アレルギー、生活習慣病などが挙げられる。
疾患のうちがんとしては、例えば、癌腫、扁平上皮癌(子宮頚管、瞼、結膜、膣肺、口腔、皮膚、膀胱、舌、喉頭、食道の癌)、腺癌(前立腺、小腸、子宮内膜、子宮頚管、大腸、肺、膵、食道、直腸、子宮、胃、乳房、卵巣の癌)が挙げられる。さらに肉腫(例えば、筋原性肉腫)、白血病、神経腫、メラノーマ、リンパ腫も含まれる。
また、感染症としては、例えば、ヒト肝炎(B型肝炎、C型肝炎、A型肝炎またはE型肝炎)ウイルス、ヒトレトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV1、HIV2)、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒトTリンパ向性ウイルス(HTLV1、HTLV2)が挙げられる。その他の感染症として、例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、水痘-帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6を含むヒトヘルペスウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、おたふくウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)を発症するウイルス、エボラウイルス、西ナイルウイルスなどのウイルスによる感染症が挙げられる。
さらに、自己免疫疾患としては、例えば、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、強皮症、尋常性天疱瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、セリアック病、橋本甲状腺炎、グレーブス病(甲状腺)、シェーグレン症候群、ギラン・バレー症候群、グッドパスチャー症候群、アジソン病、ウェゲナー肉芽腫症、原発性胆汁性硬化症、硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、リウマチ性多発性筋痛、レイノー現象、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、結節性多発動脈炎、ベーチェット病、原発性胆汁性肝硬変、ブドウ膜炎、心筋炎、リウマチ熱、強直性脊椎炎、糸球体腎炎、サルコイドーシス、皮膚筋炎、重症筋無力症、多発性筋炎などが挙げられる。

【0011】
ここで、「免疫チェックポイント阻害剤」とは、免疫チェックポイント分子もしくはそのリガンドに結合して免疫抑制シグナルの伝達を阻害することで、免疫チェックポイント分子によるT細胞の活性化抑制を解除することが可能な化合物であり、具体的には、PD-1やPD-L1を阻害する化合物が挙げられる。活性化T細胞上に発現しているPD-1が、がん細胞や抗原提示細胞に発現したPD-L1と結合すると、T細胞活性化が抑制され、がんに対する免疫が抑制される。PD-1を阻害する化合物としては抗PD-1抗体が、PD-L1を阻害する化合物としては抗PD-L1抗体が挙げられる。抗PD-1抗体は、T細胞上のPD-1に結合してPD-1とPD-L1の結合を阻害することにより、抑制シグナルの伝達をブロックしてT細胞の活性化を維持させる。抗PD-L1抗体は、がん細胞や抗原提示細胞が発現するPD-L1に結合することによりT細胞上のPD-1との相互作用を阻害し、その結果T細胞への抑制シグナル伝達が阻害され、T細胞の活性化が維持される。抗PD-1抗体としては、nivolumab, pembrolizumabが知られ、抗PD-L1抗体としては、atezolizumab, durvalumab, avelumabが知られている。

【0012】
bsPD-L1を検出乃至その濃度を測定する方法としては、生体試料中のbsPD-L1を検出乃至その濃度を測定できる方法であれば特に限定されないが、好ましくは、本発明者らが開発した、PD-1タンパク質が固相化された担体を用いたELISA法(PCT/JP2018/033161;M. Takeuchi et al., Immunol Lett. 2018 Apr;196:155-160. Epub 2018 Jan 31.)が挙げられる(便宜上、新ELISA法と称する場合がある)。新ELISA法は、後述の本発明のシステム及び/又はキットを用いて好適に実施することができる。
sPD-L1の濃度を測定する方法としては、生体試料中のsPD-L1の濃度を測定できる方法であれば特に限定されず、例えば、抗PD-L1抗体が固相化された担体を用いたELISA法が挙げられる(M. Takeuchi et al., Immunol Lett. 2018 Apr;196:155-160. Epub 2018 Jan 31.)。

【0013】
具体的には、本発明は以下の方法を提供する。
1.免疫チェックポイント阻害剤の治療効果の予測方法
本発明は、被験体から治療前及び/又は治療後に得た生体試料を用い、該生体試料中のbsPD-L1およびsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、被験体における免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法を提供する。
当該方法は、治療前後の生体試料の両方を用いて実施する方法(方法1-1)と治療前の生体試料のみを用いて実施する方法(方法1-2)の2つに大別される。
(方法1-1)
本方法は、免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤(好ましくは抗PD-1抗体)の場合であって、PD-1阻害剤により治療前後の被験体の生体試料中のbsPD-L1濃度を測定することによって、PD-1阻害剤の治療効果を予測する方法である。
後述の実施例から明らかなように治療後に生体試料中のbsPD-L1濃度が上昇した場合および不変である場合、治療効果が低い傾向にあり、一方、治療後に生体試料中のbsPD-L1濃度が低下した場合、治療効果が高い傾向にある。
従って、本方法によれば、PD-1阻害剤治療後に生体試料中のbsPD-L1濃度が上昇した場合に、PD-1阻害剤の治療効果が低いと予測することができる。
本方法の別の実施態様として、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤(好ましくは抗PD-L1抗体)の場合であって、PD-L1阻害剤により治療前後の被験体の生体試料中のsPD-L1濃度を測定することによって、PD-L1阻害剤の治療効果を予測する方法を提供する。
後述の実施例から明らかなように治療後に生体試料中のsPD-L1濃度が上昇した場合、治療効果が低い傾向にあり、一方、治療後に生体試料中のsPD-L1濃度が不変である場合、治療効果が高い傾向にある。
従って、本方法によれば、PD-L1阻害剤治療後に生体試料中のsPD-L1濃度が上昇した場合に、PD-L1阻害剤の治療効果が低いと予測することができる。
(方法1-2)
本方法は、bsPD-L1を指標に、治療開始前に免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法である。
後述の実施例から明らかなように免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤(好ましくは抗PD-L1抗体)である場合、治療前にbsPD-L1陽性群は陰性群に比べてPD-L1阻害剤による治療効果が低い。
従って、本方法によればPD-L1阻害剤の治療開始前の生体試料中のbsPD-L1が陽性である場合、PD-L1阻害剤による治療効果が低いと予測することができる。
また、後述の実施例から明らかなように治療前にbsPD-L1濃度が高値の場合、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が低い。高値のbsPD-L1濃度としては、2000pg/ml以上、好ましくは3000pg/ml以上、より好ましくは4000pg/ml以上、いっそう好ましくは5000pg/ml以上が例示される。ここで免疫チェックポイント阻害剤は好ましくはPD-1阻害剤(好ましくは抗PD-1抗体)である。
従って、本方法によれば免疫チェックポイント阻害剤の治療開始前に生体試料中のbsPD-L1濃度が2000pg/ml以上の患者に対しては、免疫チェックポイント阻害剤による治療効果が低いと予測することができる。

【0014】
2.免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法
本発明は、被験体から治療前後に得た生体試料を用い、該生体試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、被験体における免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法を提供する。ここで免疫チェックポイント阻害剤としてはPD-1阻害剤(好ましくは抗PD-1抗体)が挙げられる。
本方法の一実施態様としては、免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤(好ましくは抗PD-1抗体)の場合であって、被験体における、PD-1阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法が挙げられる。ここで、生体反応性のモニタリングとしては、免疫チェックポイント阻害剤の血中残存量、治療効果及び生体の治療反応性が挙げられ、好ましくはこれらの同時モニタリングである。生体の治療反応性としては具体的には獲得免疫応答及び自然免疫応答が挙げられる。
免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする本方法の別の実施態様として、本発明は、被験体から治療前後に得た生体試料を用い、該生体試料中のsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、被験体における免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする方法を提供する。ここで免疫チェックポイント阻害剤としてはPD-L1阻害剤(好ましくは抗PD-L1抗体)が挙げられる。ここで、モニタリングの対象となる生体反応としては、抗体依存性細胞傷害(ADCC)や補体依存性細胞傷害活性(CDC)をはじめとする抗体の作用や炎症反応が挙げられる。
当該方法は、同時に生体試料中のbsPD-L1濃度を測定する工程を含んでいてもよく、好ましくは含む。生体試料中のsPD-L1濃度およびbsPD-L1濃度を組み合わせてモニタリングすることにより、より詳細な免疫チェックポイント阻害剤に対する被験体の生体反応性の評価が可能になる。

【0015】
3.免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関する被験体の層別化方法
本発明は、被験体から治療前に得た生体試料を用い、該生体試料中のbsPD-L1の濃度を測定する工程を含む、免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関する被験体の層別化方法を提供する。ここで、被験体の層別化とは、被験体の集団を、免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に基づき群分けすることを意味し、感受性の無い、又は低い被験体群を抽出し、治療対象から除外することを可能にする方法である。
後述の実施例から明らかなように治療前にbsPD-L1濃度が高値の場合、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が低い。高値のbsPD-L1濃度としては、2000pg/ml以上、好ましくは3000pg/ml以上、より好ましくは4000pg/ml以上、いっそう好ましくは5000pg/ml以上が例示される。ここで免疫チェックポイント阻害剤は好ましくはPD-1阻害剤(好ましくは抗PD-1抗体)である。
従って、本方法によれば免疫チェックポイント阻害剤の治療開始前に生体試料中のbsPD-L1濃度が2000pg/ml以上の患者に対しては、免疫チェックポイント阻害剤無効例と判断して治療対象から除外することができる。このことによって不要な薬剤投与を回避し得る。
また、後述の実施例から明らかなように免疫チェックポイント阻害剤がPD-L1阻害剤(好ましくは抗PD-L1抗体)である場合、治療前にbsPD-L1陽性群は陰性群に比べてPD-L1阻害剤による治療効果が低い。
従って、本方法によれば免疫チェックポイント阻害剤の治療開始前の生体試料中のbsPD-L1が陽性である場合、PD-L1阻害剤無効例と判断して治療対象から除外することができる。また、この患者群に対してはPD-L1阻害剤ではなくPD-1阻害剤を用いる方がよいことがわかる。

【0016】
4.システムおよびキット
本発明は、(i)免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を評価する、または評価を補助する為、(ii)免疫チェックポイント阻害剤に対する生体反応性をモニタリングする為、又は(iii)免疫チェックポイント阻害剤での治療に対するそれらの感受性に関して被験体を層別化する為のシステムを提供する。
該システムは、被験体から得られた生体試料中のbsPD-L1を検出・定量する為のシステムであり、PD-1タンパク質を含み、該タンパク質と生体試料とを反応させる手段および該タンパク質に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムである。具体的には以下のELISAシステムの構成を採用することができる(便宜上、新ELISAシステムと称する場合がある)。
本発明の新ELISAシステムは、PD-1タンパク質が固相化された担体(以下、「PD-1担体」ともいう)を含み、該担体と生体試料とを反応させる手段および該担体に結合した可溶型PD-L1をbsPD-L1として検出・定量する為の手段を含むシステムである。好ましくは、さらに、抗PD-L1抗体が固相化された担体(以下、「抗PD-L1抗体担体」ともいう)を含み、該担体と前記被験試料とを反応させる手段および該担体に結合した可溶型PD-L1を検出・定量する為の手段を含む。

【0017】
担体は、PD-1タンパク質を固相化するための担体としての役割を果たす。担体は、この役割を果たす限り特に限定する必要はなく、種々の素材ないし形状のものを用いることができる。担体として典型的には、疎水性プラスティック素材のマイクロプレート、ビーズ、チューブなどを用いることができ、最も好ましくは、多穴マイクロプレートを用いることができる。

【0018】
PD-1担体は、公知の方法により、作製することができる。すなわち、担体に、PD-1タンパク質を溶解させた溶液を加え静置し、PD-1タンパク質を担体に吸着させた後、溶液を除去、洗浄やブロッキング液による保護・洗浄を行うことにより、PD-1担体を作製することができる。

【0019】
本発明の新ELISAシステムでは、該担体に、生体試料、検出用マーカーを順に反応させる。
また、PD-1担体と生体試料との反応を行う場合も、用いるPD-1担体や生体試料に応じて、反応時間や反応温度を調整することができ、反応後は、必要に応じ、上清を除去し、洗浄液にて洗浄を行うなどすればよい。

【0020】
生体試料との反応終了後、検出用マーカーを反応させる。
検出用マーカーは、PD-1とbsPD-L1の結合反応を検出するマーカーとしての役割を果たすものであり、検出用マーカーの検出を通じて、結合反応の検出・定量を可能とするものである。検出用マーカーは、これらの役割を果たす限り特に限定する必要はなく、種々の態様で行うことができる。
検出用マーカーは、例えば、PD-1に結合したbsPD-L1を、直接的ないし間接的に検出するマーカーとして構成することができる。
直接的な検出としては、例えば、検出用マーカーとして、放射標識や蛍光標識された抗PD-L1抗体を用い、PD-1と結合したbsPD-L1に反応させるなどである。
間接的な検出としては、例えば、ビオチン標識された抗PD-L1抗体をPD-1と結合したbsPD-L1に反応させた後、検出用マーカーとしてビオチン定量試薬を反応させて検出を行うなどである。
また、検出用マーカーについては、検出が可能である限り特に限定する必要はなく、PD-1担体の態様や測定目的に応じて、適宜、変更することができ、例えば、酵素標識抗体、蛍光標識体、放射標識体、もしくはこれらを組み合わせるなどして用いてもよい。

【0021】
本発明の新ELISAシステムについて、さらに、抗PD-L1抗体が固相化された担体(以下、「抗PD-L1抗体担体」という)に、生体試料、検出用マーカーの順に反応させ、この検出・定量結果を合わせて評価を行うELISAシステムとすることが好ましい。これにより、sPD-L1とbsPD-L1の同時検出・定量が可能となり、より詳細な免疫チェックポイント阻害剤に対する被験体の生体反応性の評価が可能になる。
かかる場合、sPD-L1とbsPD-L1の同時検出・定量が可能である限り特に限定する必要はなく、種々の態様ないし構成とすればよい。
例えば、96穴マイクロプレートのうち、半分をPD-1タンパク質で固相化し、残りを抗PD-L1抗体で固相化するなどである。また、PD-1担体と抗PD-L1抗体担体、ならびに検出マーカーとしての抗PD-L1抗体を含んだELISAキットとして構成するなどである。

【0022】
本発明の新ELISAシステムについて、ELISAキットとして構成することが好ましい(便宜上、新ELISAキットと称する場合がある)。本発明において新ELISAキットは、PD-1担体、検出用マーカーを必須の部材とする限り特に限定する必要はなく、必要に応じて他の試薬などを含むことができる。
一例をあげると、PD-1担体としてPD-1タンパク質が固相化された96穴マイクロプレート、検出マーカーとしてビオチン標識抗PD-L1抗体ならびにビオチン定量試薬などを組み合わせるなどである。

【0023】
また、本発明は、以下の通り、治療前の被験体から得た生体試料を用いる場合(治療前の診断)及び被験体の治療前後の生体試料を用いる場合(治療前後の診断)に大別することができる。
A.治療前の診断
本方法は、生体試料中のbsPD-L1を指標に、治療開始前に免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測する方法である。
後述の実施例から明らかなように治療前のbsPD-L1の濃度が、
陰性の場合:PD-L1阻害剤又はPD-1阻害剤の効果有りと予測でき;
陽性の場合:血中でPD-L1阻害剤がbsPD-L1と結合して消費される可能性があり、PD-L1阻害効果が減弱するため、免疫チェックポイント阻害剤としてはPD-1阻害剤を用いる方がよいと予測でき;
陽性かつ高値の場合(2000pg/ml以上):bsPD-L1が血液中に過剰に存在し、PD-1阻害剤と競合する可能性があり、PD-1阻害剤及びPD-L1阻害剤のいずれも効果がないことが予測される。
B.治療前後の診断
本方法は、免疫チェックポイント阻害剤を投与した患者の治療前及び治療後の生体試料中のbsPD-L1及び/又はsPD-L1を指標に、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測し、及び/又は、その免疫チェックポイント阻害剤への患者の反応性をモニタリングする方法である。
B-1.免疫チェックポイント阻害剤としてPD-L1阻害剤を用いる場合
後述の実施例から明らかなように治療前後のsPD-L1値を調べることによって、PD-L1阻害剤による炎症反応、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)を評価することが可能である。生体試料中のsPD-L1の濃度が治療後に上昇する場合には、PD-L1阻害剤投与による副作用(炎症反応)が生じ(反応性モニタリング)、増加したsPD-L1により血中でPD-L1阻害剤が消費され、PD-L1阻害剤の治療効果が低下することが予測される(治療効果予測)。このような場合には、免疫チェックポイント阻害剤による治療をPD-L1阻害剤からPD-1阻害剤に変更することが効果的である。sPD-L1の濃度が治療後にも変わらない(不変)場合には、PD-L1阻害剤投与による副作用がなく(反応性モニタリング)、その患者はPD-L1阻害剤に治療効果があることが予測される(治療効果予測)。このような場合には、免疫チェックポイント阻害剤として引き続きPD-L1阻害剤を用いることができる。
B-2.免疫チェックポイント阻害剤としてPD-1阻害剤を用いる場合
後述の実施例から明らかなように治療前後のbsPD-L1の濃度を調べることによって、PD-1阻害剤の血中残存量およびPD-1阻害効果、さらに生体の治療反応性を同時に複合的に評価することができる。治療後にbsPD-L1の濃度が低下しない(変わらないか上昇する)場合には、PD-1阻害剤の治療効果が低いことが予測される(治療効果予測)。また、血中PD-1抗体が枯渇している可能性があり(反応性モニタリング(血中残存量))、このような場合には、PD-1阻害剤を増量するか、中止を検討する。psPD-L1の濃度が低下する場合には、PD-1阻害剤の治療効果があることが予測される(治療効果予測)。また、血中に十分にPD-1阻害剤が残存しているので(反応性モニタリング(血中残存量))、このような場合には、引き続きPD-1阻害剤を投与でき、減量を検討してもよい。
A及びBのいずれの診断においても、bsPD-L1の濃度を測定する場合には、上記した「4.システムおよびキット」を用いることができ、また、用いることが好ましい。sPD-L1の濃度を測定する場合には、抗PD-L1抗体が固相化された担体を用いた従来のキット等が用いられる。
【実施例】
【0024】
本発明について、実験例を用いて詳述するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。また、使用する試薬および材料は特に限定されない限り商業的に入手可能である。
【実施例】
【0025】
<<実験方法概略>>
1.患者検体
実験には、日本医科大学付属病院倫理委員会の承認を経て、インフォームド・コンセントのもとに肺がん患者より採取された血液検体を用いた。
2.DNAコンストラクト
Human PD-1-Ig発現ベクターは、cDNA断片をpEF BOSベクターに挿入して作製した。
3.PD-1-Igタンパク質の精製
293T細胞に、リン酸カルシウム法によりHuman PD-1-Ig発現ベクターを遺伝子導入し、7日後に培養上清を回収して、Protein Gによるaffinityクロマトグラフィーにより、Human PD-1-Igタンパク質を精製した。
4.ELISAシステム
抗PD-L1抗体およびPD-1-Igタンパク質をcoatingした2種類のELISAプレートを作製し、既知の濃度の組換えPD-L1タンパク質(R&D社)を添加してビオチン標識抗PD-L1抗体によるImmunoassayにより比色定量を行った。
抗PD-L1抗体をcoatingしたELISAでは、PD-L1タンパク質が50~10000pg/mLの範囲で、PD-1-Igタンパク質をcoatingしたELISA(新ELISAシステム)ではbsPD-L1タンパク質が316~200000pg/mLの範囲で濃度依存性に吸光度の増加がみられた。尚、bsPD-L1の検出限界値は30pg/ml、PD-L1の検出限界値は50pg/mlであった。2つの検量線から総PD-L1タンパク質中のbsPD-L1量を求め、以後の実験の基準値とした。
【実施例】
【0026】
実施例1
(方法)
免疫チェックポイント阻害剤を使用した肺がん患者(PD-1阻害剤(nivolumabまたはpembrolizumab)使用39症例およびPD-L1阻害剤(atezolizumab)使用11症例)を対象として、治療前に採取した血液検体中のbsPD-L1値を、新ELISAシステムにより測定し、治療効果との関係を調べた。
(結果)
免疫チェックポイント阻害剤使用患者50名中3名(6%)はPD-1阻害剤による治療効果が低かった(PD:progressive disease)。これらの患者における血中bsPD-L1値は高値(2000pg/ml以上)を示した(図5)。
bsPD-L1高値群では、bsPD-L1が血液中に過剰に存在し、PD-1に結合して、PD-1阻害剤と競合する。そのため、免疫チェックポイント阻害剤による治療効果がないと考えられた。治療前血液検査でbsPD-L1高値群は、免疫チェックポイント阻害剤による治療効果が低い。この結果は、治療前のスクリーニング検査で、bsPD-L1高値群は免疫チェックポイント阻害剤無効例と関連付け、治療対象から除外できる可能性を示唆している。
【実施例】
【0027】
実施例2
(方法)
PD-L1阻害剤(抗PD-L1抗体:atezolizumab)を使用した肺がん患者(11症例)を対象として、治療前に採取した血液検体中のbsPD-L1値をELISAシステムにより測定し、治療効果との関係を調べた。
(結果)
PD-L1阻害剤使用患者11名中4名はbsPD-L1陽性で、7名はbsPD-L1陰性であった。bsPD-L1陽性群は陰性群に比べて、bsPD-L1阻害剤による治療効果が低かった(図1および表1)。
【実施例】
【0028】
【表1】
JP2020148631A_000002t.gif
【実施例】
【0029】
PR: partial response (部分奏功)、
SD: stable disease (安定)、
PD: progressive disease (進行)。
陰性:治療前にbsPD-L1陰性、
陽性:治療前にbsPD-L1陽性。
bsPD-L1陽性群では、PD-L1阻害剤が、血中bsPD-L1と結合して消費され、腫瘍組織におけるPD-L1阻害効果が減弱するため、PD-L1阻害剤の治療効果が低くなると考えられた。治療前血液検査でbsPD-L1陽性群は、PD-L1阻害剤による治療効果が低い。従ってこのような患者にはPD-L1阻害剤ではなく、PD-1阻害剤使用が望ましいと考えられる。この結果は、治療前のスクリーニング検査で、bsPD-L1陽性群に対してはPD-L1阻害剤ではなく、PD-1阻害剤を選択することが望ましいことを示唆している。
【実施例】
【0030】
実施例3
(方法)
PD-1阻害剤(抗PD-1抗体:nivolumab, pembrolizumab)を使用した肺がん患者(39症例)を対象として、治療前および治療後(2か月後、PD-1抗体追加投与直前)に採取した血液検体中のbsPD-L1値を、ELISAシステムにより測定し、治療前後のbsPD-L1値の変化と、治療効果との関係について調べた。
(結果)
PD-1阻害剤使用患者39名中4名(10%)は治療後にbsPD-L1値が上昇、16名(41%)は不変で、19名(49%)は低下した。治療後にbsPD-L1が低下した群は、PD-1阻害剤による治療効果が高く(CR5%, PR53%, SD26%, PD16%)、上昇した群は治療効果が低い傾向(CR0%, PR0%, SD25%, PD75%)を示した(図2、表2)。
【実施例】
【0031】
【表2】
JP2020148631A_000003t.gif
【実施例】
【0032】
CR: complete response (完全奏効)、
PR: partial response (部分奏功)、
SD: stable disease (安定)、
PD: progressive disease (進行)。
低下:治療後にbsPD-L1値が低下、
不変:治療後にbsPD-L1値が不変、
上昇:治療後にbsPD-L1値が上昇。
(血中PD-1阻害剤のモニタリングについて)
血液中にPD-1阻害剤が存在すると、bsPD-L1検出系において、PD-1阻害剤が固相化されたPD-1タンパク質と結合して、bsPD-L1と競合するため、bsPD-L1値が低下することが考えらえた(図3)。
(治療反応性の評価について)
PD-1阻害剤治療により、T細胞免疫応答が増強すると、PD-L1発現レベルが上昇する。さらに自然免疫系も活性化すると、炎症性プロテアーゼによりPD-L1が切断されて、血中bsPD-L1値が上昇する。治療前後のbsPD-L1値を調べることによって、PD-1阻害剤の血中残存量およびPD-1阻害効果、さらに生体の治療反応性(獲得免疫応答+自然免疫応答)を同時に複合的に評価することが可能であることがわかった。例えば、以下の判定基準が考えられる。
・治療後にbsPD-L1値が低下→血液中に十分なPD-1阻害剤が存在して、PD-1阻害効果があることを示す。
・治療後にbsPD-L1が不変→血中PD-1阻害剤が不足して、PD-1阻害効果が減弱していることを示す。
・治療後にbsPD-L1値が上昇→PD-1阻害剤により免疫応答が増強しているが、血中PD-1阻害剤が不足してPD-1阻害効果が減弱していることを示す。
これらの結果より、本発明により、例えば、bsPD-L1上昇群および不変群に対してはPD-1阻害剤の増量や投与間隔の縮小について検討することができ、bsPD-L1低下群に対してPD-1阻害剤の減量や投与間隔の延長について検討することができる、といった免疫チェックポイント阻害剤の投与計画の作成が可能となることがわかった。
【実施例】
【0033】
実施例4
(方法)
PD-L1阻害剤(抗PD-L1抗体:atezolizumab)を使用した肺がん患者(11症例)を対象として、治療前および治療後(2か月後、抗PD-L1抗体追加投与直前)に採取した血液検体中のsPD-L1値を、従来型の抗PD-L1抗体が固相化された担体を用いたELISAシステムにより測定し、治療前後のsPD-L1値の変化と、治療効果との関係について調べた。
(結果)
PD-L1阻害剤使用患者11名中9名(82%)は治療後にsPD-L1値が上昇し、2名(18%)は変化がなかった。sPD-L1上昇群は治療効果が低く(PD5名、SD2名、PR2名)、sPD-L1不変群は治療効果が高い傾向(2名ともPR)を示した(図4、表3)。
【実施例】
【0034】
【表3】
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【実施例】
【0035】
PR: partial response (部分奏功)、
SD: stable disease (安定)、
PD: progressive disease (進行)。
不変:治療後にsPD-L1値が不変、
上昇:治療後にsPD-L1値が上昇。
PD-L1阻害剤が、血管内皮細胞上に発現する膜型PD-L1に結合して、ADCC(抗体依存性細胞傷害)や補体依存性細胞傷害活性(CDC)活性が誘導されると、炎症細胞が遊走・集積して、局所的な炎症反応がおこり、PD-L1が切断・分解されて、血液中のsPD-L1が増加する。このようにPD-L1阻害剤による炎症反応が惹起された症例では、増加したsPD-L1と結合してPD-L1阻害剤が血中で消費されるため、腫瘍組織におけるPD-L1阻害効果は減弱すると考えられた。従って、本発明によれば、治療前後のsPD-L1値を調べることによって、PD-L1阻害剤によるADCCやCDCなどの炎症応答を評価することが可能である。治療後にsPD-L1が上昇しない群は上昇した群に比べて治療効果が高い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における治療指針、例えば、免疫チェックポイント阻害剤無効例の同定、患者に適した免疫チェックポイント阻害剤の選定、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における薬物投与計画の作成等が可能になる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4