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明細書 :関節リウマチ診断薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和2年7月30日(2020.7.30)
発明の名称または考案の名称 関節リウマチ診断薬
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
C07K  14/81        (2006.01)
C07K  16/38        (2006.01)
FI G01N 33/68 ZNA
G01N 33/53 D
G01N 27/62 V
C07K 14/81
C07K 16/38
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 33
出願番号 特願2019-527688 (P2019-527688)
公序良俗違反の表示 1.TWEEN
国際出願番号 PCT/JP2018/025020
国際公開番号 WO2019/009231
国際出願日 平成30年7月2日(2018.7.2)
国際公開日 平成31年1月10日(2019.1.10)
優先権出願番号 2017132888
2018005038
優先日 平成29年7月6日(2017.7.6)
平成30年1月16日(2018.1.16)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】松本 功
【氏名】住田 孝之
【氏名】川口 星美
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G041
2G045
4H045
Fターム 2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA09
2G041DA13
2G041DA16
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA05
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA09
2G041HA01
2G041LA08
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB09
2G045DA36
2G045FB03
2G045FB20
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA56
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA71
要約 本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチを診断する方法、関節リウマチの診断を補助する方法、及び関節リウマチの疾患活動性及び/又は関節リウマチ薬に対する治療効果のモニタリング方法を提供する。本発明はまた、配列番号1若しくは5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基がシトルリン残基に改変されたシトルリン化タンパク質又はその断片、該シトルリン化タンパク質に結合する抗体、及び該抗体を含む関節リウマチ診断薬を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの診断方法、又は関節リウマチの診断を補助する方法。
【請求項2】
被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの疾患活動性及び/又は関節リウマチ薬による治療効果のモニタリング方法。
【請求項3】
アルギニン残基が配列番号1又は5に示すアミノ酸配列中438番目のアルギニン残基である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
生物学的サンプルが、被験体から採取された全血、血漿、血清、皮膚、又は関節組織である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
シトルリン化の検出が、シトルリンを含むタンパク質を認識する質量分析法、ウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
シトルリン化の検出が、配列番号1又は5に示すアミノ酸配列中438番目のアルギニンがシトルリンに改変された改変タンパク質又は該シトルリンを含むペプチド断片に結合する抗体との結合を介するものである、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
配列番号1若しくは5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基のシトルリン残基への改変を有するシトルリン化タンパク質、又は該シトルリン残基を有するその断片。
【請求項8】
請求項7記載のシトルリン化タンパク質又はその断片を含む、関節リウマチの診断のためのバイオマーカー。
【請求項9】
請求項7記載のシトルリン化タンパク質又はその断片に結合し、非シトルリン化タンパク質には結合しない抗体。
【請求項10】
請求項9記載の抗体を含む、関節リウマチ診断薬。
【請求項11】
関節リウマチの診断又は診断の補助のために使用されるキットであって、請求項9記載の抗体を含む、上記キット。
【請求項12】
関節リウマチの診断又は診断の補助のために使用されるキットであって、質量分析における内部標準として請求項7記載のシトルリン残基を有する断片を含む、上記キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチの新規診断薬及び診断方法に関する。より具体的には、本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの診断を補助する方法に関する。本発明はまた、ヒトITIH4における特定のアルギニン残基がシトルリン化された新規タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis, RA)は、関節に腫脹及び痛みが生じ、更に関節の変形・破壊へと進行する炎症性自己免疫疾患である。RAは、関節の腫脹及び痛み、炎症反応の有無、関節炎の持続期間、及び後述する血液検査値等を総合して診断されるが、それ以前に関節炎とは確定されない長期間の前臨床段階が存在することが知られ、またRAの発症には遺伝的なリスク因子及び環境的なリスク因子が関与することが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
RA患者の体内にはシトルリン化ペプチドに対して結合する抗シトルリン化タンパク質抗体(anti-citrullinated protein antibodies, ACPA)が存在していることが知られている(非特許文献2)。また、RA患者の関節において複数種類のシトルリン化タンパク質が増加しており、これがRAに関与している可能性が示唆されている(非特許文献3~5)。
しかしながら、血清中での主たるシトルリン化タンパク質、及びその病因との関連性については明らかではない。
【0004】
RAの治療としては、炎症及び痛みに対する薬剤治療、手術、リハビリテーション等が行われているが、近年、発症早期に抗サイトカイン療法を行うことで臨床的寛解が得られる症例が報告されていることから、早期診断・早期治療が必要とされている。
【0005】
RAの臨床症状の総合的指標として、例えば28関節の評価を行うDAS(Disease Activity Score)28が広く利用されている。DAS28において、血液炎症反応を示す検査値としてC反応性タンパク質(CRP)を用いたものがDAS28-CRPである。その他、リウマトイド因子及びACPAを指標とする血液検査値がRAの診断のために利用されており、リウマトイド因子と比較してACPAによる検出の方が精度が高いとされている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Arthritis Rheum 2013; 65: 2219-32
【非特許文献2】Autoimmun Rev 2014; 13: 1114-20
【非特許文献3】Clin Exp Immunol 2013; 172: 44-53
【非特許文献4】Arthritis Rheum 2008; 58: 2287-95
【非特許文献5】Arthritis Rheum 2013; 65: 69-80
【非特許文献6】J Rheumatol 2006; 33: 2390-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
RA及び非RA疾患を早期に層別化できることから、ACPAは現在、RAの診断のための有用なマーカーと考えられており、患者におけるACPAを検出するためのキットも市販されている。ACPA検出のためのキットには、抗原として用いられる複数のシトルリン化ペプチドを連結させた合成ポリペプチド(環状シトルリン化ペプチド:CCP)が含まれており、従って検出されるACPAは、当分野において抗CCP抗体とも呼ばれている。抗CCP抗体を用いたRA診断の感度は76%、特異度は96%とされている(MESACUP-2 テストCCP;Scellkens GA, et al., J Clin Invest 1998, 101: 273-81)が、CCPは実際にヒト体内に存在し得るシトルリン化タンパク質とは異なるものである。
【0008】
また、血清中のいかなるシトルリン化タンパク質がRAの発症と関連するかについてはまだ明らかとはなってないため、この検査結果の病勢との関係や病因的意義は明らかではない。更に、ACPAの測定は、患者の体内の自己抗体を測定するものであるため、その検査は1回のみとなり、例えば症状のモニタリングのために使用することはできない。
【0009】
図1は、J. Sokolove等(PLoS ONE, Vol.7, Issue 5, e35296, 2012)によって報告されたものであり、臨床所見からRAと診断された被験者(米軍兵士)の発症(診断)前後の血清中のACPAの存在を、16種のシトルリン化ペプチドを抗原としてそれぞれ用いて検出し、予め設定されたカットオフ値に基づいて陽性であるか否かを決定した結果を示すものである。様々なシトルリン化ペプチドに対する抗体(ACPAサブタイプ)がRA発症前から血清中に存在し、次第に増加して、RA診断時(横軸の「0」)においてその存在量がほぼピークに達した後、プラトーになっていることが示されている。
【0010】
このように、一旦上昇したACPAの価は、例えば治療によって症状が軽減したとしてもそれに応じて低下するものではなく、疾患活動性の指標としては適していない。
従って、RA患者に特異的であり、かつ疾患活動性との相関性の高い新たな診断薬が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、RAのマウスモデルであるペプチドグルコース-6-リン酸イソメラーゼ(pGPI)誘導性関節炎(pGIA)マウス及びヒトRA患者において、どのようなシトルリン化タンパク質が存在しているかについて詳細に検討した。その結果、pGIAマウス及び一部のRA患者の血清において、シトルリン化インターαトリプシンインヒビターの重鎖(Inter-α-trypsin inhibitor heavy chain, ITIH)4の特定のアルギニン残基が共通してシトルリン化されており、驚くべきことに、その存在及び量が、関節炎の存在及びその症状と相関することを見出した。また、シトルリン化ITIH4を血清中に有するRA患者群ではC-反応性タンパク質、DAS28-CRP及びリウマトイド因子が有意に高いことも確認し、これらの知見に基づいて、本発明に到った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1. 被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの診断方法、又は関節リウマチの診断を補助する方法。
2. 被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの疾患活動性及び/又は関節リウマチ薬による治療効果のモニタリング方法。
3. アルギニン残基が配列番号1又は5に示すアミノ酸配列中438番目のアルギニン残基である、上記1又は2記載の方法。
4. 生物学的サンプルが、被験体から採取された全血、血漿、血清、皮膚、又は関節組織である、上記1~3のいずれか記載の方法。
5. シトルリン化の検出が、シトルリンを含むタンパク質を認識する質量分析法、ウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法である、上記1~4のいずれか記載の方法。
6. シトルリン化の検出が、配列番号1又は5に示すアミノ酸配列中438番目のアルギニンがシトルリンに改変された改変タンパク質又は該シトルリンを含むペプチド断片に結合する抗体との結合を介するものである、上記1~5のいずれか記載の方法。
7. 配列番号1若しくは5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基のシトルリン残基への改変を有するシトルリン化タンパク質、又は該シトルリン残基を有するその断片。
8. 上記7記載のシトルリン化タンパク質又はその断片を含む、関節リウマチの診断のためのバイオマーカー。
9. 上記7記載のシトルリン化タンパク質又はその断片に結合し、非シトルリン化タンパク質には結合しない抗体。
10. 上記9記載の抗体を含む、関節リウマチ診断薬。
11. 関節リウマチの診断又は診断の補助のために使用されるキットであって、上記9記載の抗体を含む、上記キット。
12. 関節リウマチの診断又は診断の補助のために使用されるキットであって、質量分析における内部標準として上記7記載のシトルリン残基を有する断片を含む、上記キット。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-132888号、及び同2018-005038号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、RAの新たなバイオマーカーが提供され、またRA患者の臨床的症状を軽減するための新たな治療標的が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】関節リウマチ(RA)と診断された81名の被験者の発症前後の血清サンプルを用いて得られたACPA陽性結果の割合を示す。縦軸は、16種のペプチド(Apolipo E(277-296)cit2 cyclic;Biglycan (247-266)cit cyclic;Clusterin(221-240)cit cyclic;Clusterin(231-250)cit cyclic;Enolase(5-21)cit;Fibrinogen A(211-230)cit cyclic;Fibrinogen A(41-60)cit3 cyclic;Fibrinogen A(556-575)cit cyclic;Fibrinogen A(616-635)cit3 cyclic;Fibrinogen A-CIT;Filaggrin(48-65)cit2 cyclic;Histone 2A(1-20)cyclic;Histone 2B(62-81)cit cyclic;Histone 2B-CIT;Vimentin(58-77)cit3 cyclic;Vimentin-CIT)を抗原として用いた場合の抗体陽性被験者の割合を示す。横軸は血清採取時点をRAの診断時(0)を基準とした時間(正の値は診断後の日数、負の値は診断前の日数)で示す(Sokolove等、PLoS ONE, Vol.7, Issue 5, e35296, 2012より引用)。尚、ペプチドの表記における「cit」、「cit2」及び「cit3」はシトルリン残基の数がそれぞれ1個、2個及び3個であることを、「CIT」はペプチド合成時にシトルリン化することを、「cyclic」は環状であることを示す。
【図2】A:pGIAマウスの臨床スコアを示す(平均±SEM、n=11)。B:対照マウス(左)と比較して、pGIAマウスでは前肢(上図)及び後肢(下図)の関節に重度の腫脹が観察された。
【図3】CFA又はpGPIを注入したマウスから採取した血清における抗-pGPI抗体(A、n=6~9)及び抗CCP抗体(B、n=12~18)の力価を示す。各シンボルはそれぞれのマウスを示し、バーは平均±SEMを示す。p<0.05、**p<0.01。
【図4】関節及び皮膚の切片をAMC抗体を用いて免疫組織化学によって染色した結果を示す。CFA注入マウスでは変化が見られなかったのに対して、pGPIを注入したマウスの関節(A)では14日目、皮膚(B)では7日目にシトルリン化タンパク質が検出された。14日目の関節及び7日目の皮膚の拡大写真をそれぞれ右側に示す。
【図5】A:AMC抗体を用いたウェスタンブロット解析の結果を示す。レーン1,2:0日目;レーン3,4:7日目;レーン5,6:14日目;レーン7,8:28日目。B:ウェスタンブロットにおける120kDのバンドの強度をグラフ化したものを示す(n=3~6、平均±SEM)。
【図6】A:pGIAマウス(pGPI)又は対照マウス(CFA)の14日目の血清サンプルのウェスタンブロット解析の結果を示す。pGIAマウスの血清ではシトルリン化タンパク質が検出されたが、対照マウスでは検出されなかった。レーン1~5:対照マウス;レーン6~10:pGIAマウス。B:ウェスタンブロットにおける120kDのバンドの強度を示す。**p<0.01。
【図7】A:免疫14日後のpGIAマウス(pGPI)及び対照マウス(CFA)から採取した血清を2D-PAGEで展開し、クマシーブリリアントブルーで染色し、更にAMC抗体を用いたウェスタンブロットを行った結果を示す。pGIAマウス血清では、約120kD、pH5.3の位置にシトルリン化タンパク質が検出されたが、対照マウス血清では検出されなかった。B:pGIAマウス及び対照マウスの血清中で約120kD、pH5.3の位置に存在し得る候補タンパク質のリストを示す。最も高い割合でITIH4である可能性が示された。
【図8】A:ITIH4429-438(配列番号3)及びpGIAサンプル中のシトルリン化アルギニン(R438)を有する改変ペプチド(配列番号4)のMSスペクトルを示す。B:pGIAサンプル中のMS及びMSEデータを示す。シトルリン化された残基は改変されたy6、y7及びy8イオンによって特定された。
【図9】pGIAマウス(pGPI)及び対照マウス(CFA)の注入14日目の血清サンプルをSDS-PAGEで分離し、クマシーブリリアントブルーで染色し(図9A)、またAMC抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った(図9B)結果をそれぞれ示す。G1及びG2:pGIAマウスサンプル;C1及びC2:対照マウスサンプル。
【図10】A:関節リウマチ患者(RA)及び健常者(HS)の血清サンプルのウェスタンブロット解析の代表的な結果を示す。レーン1~5:健常者サンプル;レーン6~11:RAサンプル;レーン12:マウスpGIAサンプル。B:ウェスタンブロットにおける120kDのバンドの強度を示す。各シンボルはそれぞれのマウスを示す。バーは平均±SEMを示す。**p<0.01。
【図11】A:関節リウマチ患者(RA)及び健常者(HS)から採取した血清を2D-PAGEで展開し、クマシーブリリアントブルーで染色し、更にAMC抗体を用いたウェスタンブロットを行った結果を示す。関節リウマチ患者の血清では、約120kD、pH5.3の位置にシトルリン化タンパク質が検出されたが、健常者の血清では検出されなかった。B:関節リウマチ患者及び健常者の血清中で約120kD、pH5.3の位置に存在し得る候補タンパク質のリストを示す。最も高い割合でITIH4である可能性が示された。
【図12】ITIH4429-438(配列番号7)及び関節リウマチ患者サンプル中のシトルリン化アルギニン(R438)を有する改変ペプチド(配列番号8)のMSスペクトルを示す。B:関節リウマチ患者サンプル中のMS及びMSEデータを示す。シトルリン化された残基は非改変b6イオン及び改変y6イオンによって特定された。
【図13】健常者(HS、A:レーン1-12)、変形性関節症患者(OA、B:レーン1-12)、全身性エリテマトーデス患者(SLE、C:レーン1-15)、及びシェーグレン症候群患者(SS、D:レーン1-11)から採取した血清についてAMC抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った結果の一部をそれぞれ示す。対照として同時に解析した関節リウマチ患者(RA、A:レーン13、B:レーン13、C:レーン16、D:レーン12)では約120kDの位置にシトルリン化タンパク質が検出されるが、健常者及び他の疾患患者ではほとんど検出されなかった。E:健常者(HS)、シェーグレン症候群患者(SS)、及び関節リウマチ患者(RA)から採取した血清について抗ITIH4抗体(左)及びAMC抗体(右)を用いてウェスタンブロット解析を行った結果の一部を示す。RAではいずれの抗体を用いた場合でも約120kDの位置に明確なバンドが検出されるが、HS及びSSではAMC抗体では120kDの位置のバンドは検出されなかった。
【図14】健常者(HS、n=30)、変形性関節症患者(OA、n=12)、全身性エリテマトーデス患者(SLE、n=15)、シェーグレン症候群患者(SS、n=27)及び関節リウマチ患者(RA、n=60)から採取した血清をAMC抗体を用いたウェスタンブロット解析に供して検出された120kDのシトルリン化タンパク質のバンド強度を示す。それぞれのドットは1サンプルの結果を示し、水平のバーは平均値、垂直のバーはSEM、破線はカットオフ値を示す。**p<0.01。【図16】治療前の関節リウマチ患者(RA、n=17)血清中のシトルリン化ITIH4濃度と疾患活性スコア(A:DAS28-CRP、B:DAS28-ESR、C:SDAI、D:CDAI)との相関性を示す。それぞれのドットは1サンプルの結果を示す。r:相関係数。
【図17】A:生物製剤による治療前(-)及び治療24時間後(+)の関節リウマチ患者(RA)血清についてAMC抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った結果の一部を示す。レーン1,2:アバタセプト、レーン3-8:インフリキシマブ。B:シトルリン化ITIH4レベルの低下とDAS28-CRP値の低下との相関性を示す。r:相関係数。C:シトルリン化ITIH4レベルの低下とDAS28-ESR値の低下との相関性を示す。r:相関係数。
【図18】健常者(HS、n=30)及び関節リウマチ患者(RA、n=60)から採取した血清について、非シトルリン化ITIH4428-447ペプチド(native-pITIH4)又はシトルリン化ITIH4428-447ペプチド(cit-pITIH4)に対する抗体反応をELISAによって検出した結果を示す。それぞれのドットは1サンプルの結果を示し、水平のバーは平均値、垂直のバーはSEM、破線はカットオフ値を示す。**p<0.01、n.s.:有意差なし。【0016】
本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの診断方法、又は関節リウマチの診断を補助する方法を提供する。シトルリン化の「検出」は、シトルリン化された残基の存在または増減(変動)を検出することを含む。本明細書において、「関節リウマチの診断」とは、関節リウマチの発症、症状の進行並びに疾患活動性及び症状の軽減、更に例えば関節リウマチ治療薬の効果の評価をも含むものとする。診断の「補助」とは、診断に必要なデータの提供を意味し得る。また、本発明の方法は、従来使用されているリウマトイド因子及び/又は抗CCP抗体について血清陰性の関節リウマチの補助診断としても使用することができる。従って、本発明の方法は、被験体由来の生物学的サンプル中の抗シトルリン化抗体を指標とする関節リウマチの診断と組み合わせて使用しても良い。本発明の方法は、被験体由来のサンプル、例えば血清中のシトルリン化ITIH4タンパク質を新たなバイオマーカーとして検出する。

【0017】
本発明の方法は、被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出し、関節リウマチを有さない健常者由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化と比較することを含み得る。あるいは、本発明の方法は、予め作成した基準値と比較することを含み得る。被験体由来の検出結果から、被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4においてシトルリン化されたアルギニン残基が存在する場合、あるいは健常者由来の検出結果又は基準値と比較してシトルリン化されたアルギニン残基の増大が示された場合に、被験体が関節リウマチを有する可能性が示される。

【0018】
一実施形態として、本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4のアルギニン残基のシトルリン化を検出することを特徴とする、被験体における関節リウマチの疾患活動性及び/又は関節リウマチ薬による治療効果のモニタリング方法を提供する。
本発明による関節リウマチの疾患活動性及び/又は関節リウマチ薬による治療効果のモニタリング方法は、上記シトルリン化の検出を複数の時点、例えば2回、3回又はそれ以上の時点で行い、検出結果を比較することを含む。特に、治療効果のモニタリング方法は、関節リウマチの治療薬を用いた治療前後を含む複数の時点で上記シトルリン化の検出を行い、検出結果を比較することを含む。

【0019】
複数の時点でシトルリン化の検出を行った場合に、シトルリン化された残基、すなわちシトルリン化されたインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4の量が増大していれば、疾患がより悪化していることが示唆される。一方、シトルリン化された残基、すなわちシトルリン化されたインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4の量が減少していれば、疾患が軽快していることが示唆される。また、関節リウマチ薬による治療前及び治療後に上記シトルリン化の検出を行って、シトルリン化された残基、すなわちシトルリン化されたインターαトリプシンインヒビター重鎖(ITIH)4の量が減少していれば、関節リウマチ薬による治療効果が得られていることが示唆される。

【0020】
本発明の方法の対象となる被験体は、哺乳動物、例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ等であり得る。特に、被験体はヒトであり、その場合、本発明の方法は、ヒトにおける関節リウマチの診断のための方法である。あるいは、被験体はマウス等の非ヒト哺乳動物であり、本発明の方法は、意図的に誘導される関節リウマチの動物モデルを対象とする方法であり得る。
本発明の検出の対象となる生物学的サンプルは、被験体から採取された全血、血漿、血清、皮膚、又は関節組織から選択される。

【0021】
インターαトリプシンインヒビターは、哺乳類の血漿中に存在するトリプシンインヒビタータンパク質ファミリー分子であり、鳥類及び魚類にも存在する糖タンパク質である。インターαトリプシンインヒビターは、ビクニンと呼ばれる共通の軽鎖と、いくつかの重鎖(ITIH1~ITIH6)とが結合した複合体構造を有し、トリプシン、キモトリプシン等のプロテアーゼに対する阻害活性を有することが知られている。本発明者等が関節リウマチの疾患活動性との相関性を見出したITIH4は上記の重鎖ドメインの1種であるが、生体内におけるその機能については未解明な点が多く残されている。

【0022】
シトルリンは、尿酸回路を構成する1種のアミノ酸であり、2-アミノ-5-(カルバモイルアミノ)ペンタン酸のIUPAC名を有する。哺乳動物等の生体内で天然に産生するタンパク質は、20種のL-アミノ酸から構成されるものであり、この中にシトルリンは含まれていない。従って、翻訳直後のタンパク質中にシトルリンは存在せず、翻訳されたタンパク質中のアルギニン残基がペプチジルアルギニンデイミナーゼ(Peptidylarginine Deiminase, PAD)によってシトルリン残基に変換されることが知られている。このアルギニンからシトルリンへの翻訳後修飾が、一般的に「シトルリン化」と呼ばれている。

【0023】
生体内でのPADの作用は、例えば細胞の再生のために必要と言われており、タンパク質のシトルリン化と老化との関連も報告されている。従って、体内には様々なシトルリン化タンパク質が混在しており、また1つのタンパク質中にはシトルリン化される可能性がある複数のアルギニン残基が存在し得る。現在関節リウマチの診断において使用されているACPAの検出は、これらのシトルリン化タンパク質に対する特異性を有する複数の抗体をまとめて検出するものであり、このことが、疾患活動性との相関性の低さにつながる可能性があると考えられる。
本発明者等は、従来報告がされていないITIH4におけるシトルリン化が、関節リウマチの疾患活動性と高い相関性を有することを見出した。

【0024】
マウスITIH4は、そのアミノ酸配列が配列番号1に示される942個のアミノ酸からなるタンパク質である(UniProtKB accession No.: A6X935)。配列番号1中には複数のアルギニン残基が含まれるが、本発明の方法においてシトルリン化の有無を検出するためには、配列番号1中438番目のアルギニン残基を選択することが好適であることが見出された。

【0025】
また、ヒトITIH4は、そのアミノ酸配列が配列番号5に示される930個のアミノ酸からなるタンパク質である(UniProtKB accession No.: Q14624)。配列番号5中には複数のアルギニン残基が含まれるが、本発明の方法においてシトルリン化の有無を検出するためには、配列番号5中同じく438番目のアルギニン残基を選択することが好適であることが見出された。

【0026】
尚、配列番号1及び5に示すアミノ酸配列は、ITIH4遺伝子によってコードされるアミノ酸配列であって、シグナルペプチドを含むものである。またタンパク質には一般的にアイソフォームが存在することは当業者には理解されている。従って、例えば本発明者等が意図するヒトITIH4タンパク質が、配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質のみでなく、生体内で機能し得る成熟タンパク質及び複数のアイソフォームを含むものであることは理解されるべきである。

【0027】
ヒト及びマウスのITIH4のアミノ酸配列は高い配列相同性(65%)を有しており、438番目のアルギニンを含む領域も非常に類似した配列を有している。この傾向は、広い範囲の哺乳動物で見られるものであり、例えば米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)が管理するデータベースから得られる配列情報に基づけば、ヒト及びマウス以外の哺乳動物におけるITIH4のアミノ酸配列情報を取得し、配列番号1及び5のアミノ酸配列とのアライメントによって、配列番号1及び5における438番目のアルギニン残基に対応するアルギニン残基を特定することができる。

【0028】
ITIH4におけるシトルリン化の検出は、シトルリン化されたタンパク質又はペプチドをシトルリン化されていないタンパク質又はペプチドと識別することができるものであればいずれでも良く、特に限定するものではないが、例えば質量分析法、あるいは免疫学的方法、例えばウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法等によって実施することができる。

【0029】
以下、本明細書において、配列番号1若しくは5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基のシトルリン残基への改変を有するシトルリン化タンパク質を、便宜的に「シトルリン化ITIH4タンパク質」と記載する場合がある。

【0030】
<質量分析法>
質量分析によるタンパク質の分析では、質量分析(MS)に供する前の試料を、液体クロマトグラフ(LC)により、分離・濃縮することが一般的であり、LCとタンデム質量分析を組み合わせたLC/MS/MSにより分析を行うこともできる。

【0031】
質量分析法によってITIH4のシトルリン化を検出する場合、例えば配列番号3又は7に示すアミノ酸配列からなるペプチドをシグネチャーペプチドとして分析することができる。

【0032】
配列番号3で示されるペプチド(MALDNGGLAR)は、配列番号1における429~438番目のアミノ酸に対応する10個のアミノ酸からなる。このペプチドは、マウスITIH4タンパク質をトリプシン消化することによって得ることができ、従って配列番号1における438番目のアルギニン残基を含むペプチダーゼ(トリプシン)消化断片である。また、配列番号3で示されるペプチドにおいて、10番目のアルギニン残基がシトルリン化されているペプチドは、マウスシトルリン化ITIH4タンパク質を検出するためのシグネチャーペプチドとなり得る。このペプチドのアミノ酸配列を、配列番号4で示す。

【0033】
配列番号7で示されるペプチド(LALDNGGLAR)は、配列番号5における429~438番目のアミノ酸に対応する10個のアミノ酸からなる。このペプチドは、ヒトITIH4タンパク質をトリプシン消化することによって得ることができ、従って配列番号5における438番目のアルギニン残基を含むペプチダーゼ(トリプシン)消化断片である。また、配列番号7で示されるペプチドにおいて、10番目のアルギニン残基がシトルリン化されているペプチドは、ヒトシトルリン化ITIH4タンパク質を検出するためのシグネチャーペプチドとなり得る。このペプチドのアミノ酸配列を、配列番号8で示す。

【0034】
当業者には理解されている通り、トリプシンは、タンパク質のアミノ酸配列中で、リシン及びアルギニンのC末側であって、隣がプロリンでない部位でタンパク質を切断する。従って、ITIH4をトリプシン消化して得られる数多くの断片の中で、配列番号3及び7で示されるペプチドが438番目のアルギニンを含む断片となり得る。従って、質量分析で好適に使用されるトリプシン消化断片は、配列番号3及び7で示されるペプチドである。また、438番目のアルギニンのシトルリン化の検出のためには、配列番号4及び8で示されるペプチドを使用することができる。

【0035】
質量分析による検出のためには、まず被験体由来の生物学的サンプルから測定対象以外の物質をできる限り排除し、適切な溶媒に溶解することが必要である。そのために、例えば遠心分離、ゲル電気泳動等でITIH4を含む画分あるいはゲルを取得する。次いで、トリプシン等のプロテアーゼによりペプチドに分解する。分析精度を高める等の目的で、質量分析に供する前の試料を、LCにより更に分離することができる。

【0036】
質量分析は、アミノ酸配列を決定可能であるため、ペプチド断片が目的のペプチド断片であるか否かを判別可能である。また、ピーク強度に基づいてサンプル中のペプチド断片の濃度を決定できる。

【0037】
質量分析におけるイオン化法は特に限定されず、電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、電界脱離(FD)法、高速原子衝突(FAB)法、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法等を採用し得る。イオン化された試料の分析方法も特に限定されず、磁場偏向型、四重極(Q)型、イオントラップ(IT)型、飛行時間(TOF)型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)型等を、イオン化法に応じて適宜に決定できる。また、三連四重極型質量分析装置等を用いて、MS/MS分析、あるいはMS3以上の多段階質量分析を行うこともできる。

【0038】
本発明の方法において使用できる装置は、特に限定するものではないが、例えばnanoAcquity Ultra-performance LC(UPLC)システム(Waters Co.)及びQ-TOF質量分析計(Synapt high definition mass spectrometry system, Waters)を組み合わせて使用することができる。

【0039】
質量分析において、アルギニン残基のシトルリン化は、通常のペプチドの質量分析データに加えて、シトルリン化等の修飾を有するペプチドの質量分析データを含むデータベースを参照することによって同定することができる。

【0040】
必要に応じて、分析に供する前のサンプルを、濃縮又は希釈することができる。定量のためには、例えば合成によって取得した、配列番号3又は配列番号7で示されるペプチド、及びこれらのペプチドのC末端のアルギニンがシトルリン化された配列番号4又は8で示されるペプチドを内部標準として用い、予め検量線を作成しておくことが好ましい。

【0041】
<免疫学的方法>
シトルリン化タンパク質の分析のために使用し得る免疫学的方法としては、限定するものではないが、ウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法が挙げられる。これらの方法はいずれも、シトルリン化ITIH4タンパク質に対する抗体を用いて行うことができる。従って、これらの方法はいずれも、配列番号1又は5に示すアミノ酸配列中438番目のアルギニン残基がシトルリン残基に改変された改変タンパク質又は該シトルリン残基を含むペプチド断片に結合する抗体との結合を介してシトルリン化を検出する方法を含み得る。

【0042】
ウェスタンブロット法による検出は、ITIH4タンパク質を含み得る生物学的サンプルを、SDS-PAGEによって展開した後、タンパク質を疎水性膜に転写し、バンドにおけるシトルリン化を抗シトルリン化タンパク質抗体を用いて検出することを含む。

【0043】
免疫組織学的検出法は、被験体から採取した組織切片を固定した後、シトルリン化ITIH4タンパク質とこれに対する抗体との結合を可視化することによって行う。可視化のための方法としては、オートラジオグラフィー、金コロイド法、蛍光抗体法、酵素抗体法等が挙げられ、また、抗体の標識は、抗シトルリン化ITIH4タンパク質に対して結合する抗体を直接標識するものであっても、標識した二次抗体を使用するものであっても良い。

【0044】
免疫沈降法は、血清等の生物学的サンプル中のシトルリン化ITIH4タンパク質と、これに対する抗体との反応で得られる複合体を形成させ、ビーズに固相化したプロテインA若しくはG又は二次抗体と結合させた後、未結合の物質と分離することを含む。

【0045】
ELISA法は、抗原抗体反応の後、酵素標識した一次抗体又は二次抗体による酵素活性を測定して数値化することを含み、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法が知られ、当分野において広く使用されている検出・定量方法である。

【0046】
免疫学的方法において使用可能な抗シトルリン化タンパク質抗体は、例えばサンプル又は分離された画分にシトルリン化タンパク質としてITIH4以外のタンパク質がほとんど又は全くないことが想定される場合には、複数のシトルリン化タンパク質に対して結合し得る抗体であっても良い。この場合、例えばアブカム社等からポリクローナル抗シトルリン化タンパク質抗体として市販されているものを使用することができる。あるいはまた、後の実施例に記載するように、シトルリンを強酸中で呈色試薬と加熱して生じる着色物質を抗原とする抗修飾シトルリンモノクローナル抗体(AMC抗体)を利用することもできる。

【0047】
一方、サンプル中に複数のシトルリン化タンパク質の存在が想定され、それらを分離することなく検出することが意図される場合には、シトルリン化ITIH4タンパク質に特異的に結合し得る抗体を用いることが好ましい。そのような抗体の取得方法については、後に記載する。

【0048】
被験体由来の生物学的サンプル中にシトルリン化ITIH4タンパク質及びシトルリン残基を有するその断片の存在が検出された場合、被験体は関節リウマチを有する、あるいは関節リウマチの疾患活動性が高いと判定することができる。また、複数の時点で検出して、生物学的サンプル中におけるシトルリン化ITIH4タンパク質及びシトルリン残基を有するその断片の増加が観察された場合、被験体において関節リウマチが悪化していると判定することができ、減少が観察された場合、関節リウマチが軽快していると判定することができる。

【0049】
本発明の方法は更に、生物学的サンプル中のシトルリン化ITIH4タンパク質及びシトルリン残基を有するその断片の検出結果を、関節リウマチの判定のために予め作成された基準値と比較することを更に含み得る。関節リウマチの有無及び/又は重症度の判定のための「基準値」は、例えば血清中のシトルリン化ITIH4タンパク質濃度、シトルリン化ITIH4タンパク質に結合する抗体量(絶対量若しくは標識に由来する蛍光強度等)、又はLC/MSから得られるピーク面積等として得ることができる。あるいは、「基準値」は、ウェスタンブロットで検出されたバンド強度から算出することもできる。

【0050】
例えば、関節リウマチ患者と健常者、あるいは臨床的症状との相関性を考慮して重症度によって2群(重症群及び軽症群)に分けた患者群でシトルリン化ITIH4タンパク質又はシトルリン残基を有するその断片の検出結果をそれぞれ取得し、統計学的に得られるカットオフ値を基準値として使用することができる。

【0051】
上記の基準値を使用して、関節リウマチ患者由来のサンプルからの検出結果に基づいて、その患者の状態、例えば重症度を判定することが可能となる。上記の基準値と比較して被験体由来のシトルリン化ITIH4タンパク質及びシトルリン残基を有するその断片の検出結果が高い場合に、その被験体が関節リウマチを有するか否か、また重症か否かを判定することが可能である。

【0052】
本発明の方法は、生物学的サンプル中のシトルリン化ITIH4タンパク質をin vitroで検出するものであるため、最初の診断時のみでなく、疾患の進行又は関節リウマチ薬による治療効果等を判定するために適宜使用することができる。

【0053】
関節リウマチは自己免疫疾患であるため、従来使用されている関節リウマチ薬としては、メトトレキサート等の免疫抑制薬、免疫調節薬、ステロイドの他、生物学的製剤が知られている。生物学的製剤としては、例えば腫瘍壊死因子(TNF)-αを標的とするモノクローナル抗体であるインフリキシマブやアダリムマブ、T細胞の活性化を阻害するアバタセプト等が知られている。

【0054】
本発明は、更なる実施形態では、上記の本発明の方法によって関節リウマチを有すると判定された被験体に対して関節リウマチ薬を投与することを含む、被験体における関節リウマチの治療方法も提供する。

【0055】
本発明者等は、上記の関節リウマチ薬による治療によって症状が軽減した患者において、血清中のシトルリン化ITIH4タンパク質量が減少することを見出した。また、本発明者等は、血清中のシトルリン化ITIH4タンパク質量の変動は、DAS28等の既存の総合疾患活動性指標と高い相関性を有していることも確認した。これらのことは、本発明の方法が、疾患活動性のより有効な指標となり得ることを更に実証するものである。DAS28等の従来の疾患活動性指標は、複数のパラメーターを用いる複雑な計算によって得られるものであるが、本発明の方法は、血清中のシトルリン化ITIH4タンパク質という単一のパラメーターを決定するものであり、簡便な診断及びモニタリングを可能とし得る。

【0056】
また、現在RAの診断に用いられているACPAは、RAの発症前より数値が上昇し(図1)、検査で陽性となった場合には以降の検査は行われない。これに対して本発明の方法では、シトルリン化ITIH4タンパク質の存在量が疾患活動性と相関して増減するため、シトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片をRAの診断のためのバイオマーカーとして、RA発症前及び発症後早期の検査のみならず、発症後の疾患活動性、すなわち病勢を判定するための、またモニタリングのための方法としても使用することができる。また、本発明の方法は、RAの重症度の判定方法としても使用することができ、RAの診断のためのデータを取得・提供することができるものである。

【0057】
<シトルリン化ITIH4タンパク質>
本発明はまた、配列番号1若しくは5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基のシトルリン残基への改変を有するシトルリン化ITIH4タンパク質、又は該シトルリン残基を有するその断片を提供する。シトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片は、単離されたタンパク質又はその断片である。

【0058】
本発明のシトルリン化ITIH4タンパク質及びその断片は、被験体由来の生物学的サンプル中のその存在を検出することによって、RAの診断又は診断の補助に利用することができる。また、本発明のシトルリン化ITIH4タンパク質及びその断片は、RAの疾患活動性の指標となるバイオマーカーとなり得る。

【0059】
従って、本発明はまた、本発明のシトルリン化タンパク質又はその断片を含む、関節リウマチの診断のためのバイオマーカーを提供し得る。被験体由来の生物学的サンプル中のバイオマーカーを検出することで、その被験体が関節リウマチであるか否かについてのデータを取得することができる。

【0060】
上記した通り、配列番号1及び5はいずれも配列中に複数のアルギニン残基を有する。本発明のシトルリン化ITIH4タンパク質は、438番目のアルギニン残基がシトルリン化されている限り、他のアルギニン残基はシトルリン化されていてもされていなくても良い。また、他のアミノ酸残基が異なる翻訳後修飾を受けているものであっても良い。従って、特に限定するものではないが、本発明のシトルリン化ITIH4タンパク質の一例として、配列番号1及び5における438番目のアルギニン残基のみがシトルリン残基に改変されたアミノ酸配列を、それぞれ配列番号2及び6に示す。

【0061】
本発明の断片は、上記のシトルリン化ITIH4タンパク質において、シトルリン化された438番目のアミノ酸を含むいずれの断片であっても良い。例えば、断片は、配列番号1又は5において、アルギニンがシトルリン化された438番目のアミノ酸を含む、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個又はそれ以上の断片であり得る。例えば、配列番号5において、438番目にシトルリンを有する、421~450番目、428~447番目、例えば429~438番目のアミノ酸からなる断片であり得る。断片は、例えば配列番号4又は8に示すアミノ酸配列からなる断片であり得る。

【0062】
例えば質量分析によりシトルリン化ITIH4タンパク質を検出して関節リウマチの診断又は診断の補助のために利用する場合、配列番号3又は7に示されるアミノ酸配列において、C末端がシトルリン化されたペプチド断片(配列番号4又は8)をシグネチャーペプチドとして検出することが好適である。

【0063】
<抗体>
本発明はまた、上記の本発明のシトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片に結合し、非シトルリン化タンパク質には結合しない抗体を提供する。本発明の抗体は、in vitroにおいてシトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片を検出して関節リウマチについての診断を行うための、シトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片に対する結合特異性を有する抗体である。
好適には、本発明の抗体は、配列番号1又は5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基がシトルリン残基に改変されたタンパク質(シトルリン化ITIH4タンパク質、例えば配列番号2又は6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質)、又は438番目にシトルリン残基を有する断片(例えば配列番号4又は8に示すアミノ酸配列からなるペプチド)に対して結合し、この位置にシトルリン残基を有さないタンパク質(例えば配列番号1又は5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質)又は断片(例えば配列番号3又は7に示すアミノ酸配列からなるペプチド)には結合しない抗体である。

【0064】
本明細書において、「結合する」及び「特異的に結合する」とは、特に限定するものではないが、抗原と抗体との結合が10-8M以下、好ましくは10-9M以下、より好ましくは10-10M以下のKD値の結合親和性を有するものであることを意味し得る。従って、本発明の抗体は、配列番号1又は5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、438番目のアルギニン残基がシトルリン残基に改変されたタンパク質(シトルリン化ITIH4タンパク質)、又は438番目にシトルリン残基を有するその断片に対して上記の結合親和性を有し、この位置にシトルリン残基を有さないタンパク質又はその断片に対しては上記の結合親和性を有さないことを特徴とする。

【0065】
すなわち、本発明の抗体は、当分野で一般的な表現を用いれば、配列番号1又は5における438番目のアルギニン残基がシトルリン化された該シトルリン残基を含むエピトープを認識する抗体である。

【0066】
本発明の抗体は、RAの診断又は診断の補助のために好適に利用することができる。また、本発明の抗体は、RAの臨床的症状を軽減するための治療薬としても利用することができる。

【0067】
本発明の抗体は、本発明のシトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片に特異的に結合するものである限り、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体であっても良いが、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、本発明の抗体は、RAの診断又は診断の補助のために使用することが意図され、従って、マウス、ウサギ、ヤギ等の非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体のいずれであっても良く、特に限定するものではない。

【0068】
抗原が特定されている場合の抗体の作製方法は当分野において周知である。本発明の抗体は、抗原として特定されたシトルリン化ITIH4タンパク質又はその断片を非ヒト哺乳動物に免疫して、公知の手法によってポリクローナル抗体として取得することができる。また、モノクローナル抗体は、シトルリン化ITIH4タンパク質に対する抗体を産生する抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させて得られるハイブリドーマから得ることができる。ここで、配列番号1又は5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、すなわち438番目のアルギニンがシトルリン化されていないタンパク質、又はその断片に結合し得るハイブリドーマクローンは選択しないことが重要である。

【0069】
本発明の抗体はまた、活性が実証された本発明の抗体のアミノ酸配列情報又は該抗体をコードするポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて、遺伝子工学的手法を用い、あるいは化学合成手段を用いて、合成によって取得することもできる。活性が実証された抗体の配列情報に基づいて更なる抗体を作製する場合、特に元の抗体の相補性決定領域(CDR)の配列を考慮して、同一又は同等の結合親和性を有する抗体を作製することができ、また更に結合親和性の高い抗体を得ることもできる。

【0070】
遺伝子工学的手法によって抗体を作製する場合、重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドを適切な宿主細胞に導入して発現させ、組換え蛋白質として得ることができる。この場合、ポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであっても良く、また宿主細胞への導入手段は当分野で使用されているものを適宜利用することができる。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するためのベクターとして、ウイルスベクター、プラスミドベクター、ファージベクター等を適宜使用することができる。宿主細胞としては、例えば大腸菌等の細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等を利用することができる。ここで、重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドは、別個のベクターに導入しても、同一のベクターに連結して導入しても良い。

【0071】
例えば、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖をコードするcDNAを、場合によってシグナル配列、ポリA配列、更にプロモーター配列等の調節配列、選択マーカーと共に含むベクターに組み込んで、適切な宿主細胞中に導入して培養することで、シトルリン化タンパク質又はその断片を特異的に認識し得る抗体を組換えタンパク質として取得することができる。

【0072】
従って、本発明の抗体は、上記のようにして作製された抗体であり、例えば遺伝子工学的手法を用いて取得された組換えタンパク質であるか、あるいは化学合成手段を用いて合成されたタンパク質であり得る。

【0073】
本発明の抗体をモノクローナル抗体として使用する場合、抗体は、IgG抗体分子、IgM抗体分子、又はそれらの抗原結合性断片及び抗原結合性誘導体であり得る。例えば、抗体は、完全抗体、Fab、Fab'、F(ab')2断片、また重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)をリンカーで連結した一本鎖抗体(scFv)断片、scFv-Fc、sc(Fv)2、Fv、ダイアボディー等であり得る。

【0074】
scFv、scFv-Fc、及びsc(Fv)2はリンカーで可変領域を連結した合成ポリペプチドである。リンカーとしては、当分野で通常使用されるものであればいずれでも良く、特に限定するものではないが、例えば5~25個、好ましくは10~20個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカー、例えばGSリンカー等を好適に使用することができる。

【0075】
本発明の抗体には更に、抗原結合性に影響しない範囲で当業者に理解され得る誘導体、例えば抗体精製を容易にしたり安定性を高めたりするための修飾が施された誘導体も含まれる。本明細書においては、シトルリン化タンパク質又はその断片との結合性を保持する断片及び誘導体を、文脈に矛盾のない限り、便宜的に「抗体」に含めることが意図される。

【0076】
本発明の抗体はまた、二量体、三量体、四量体等の多量体として合成することもできる。更に、本発明の抗体は、シトルリン化タンパク質又はその断片に結合する第1の特異性と、他の抗原に対して結合する第2の特異性とを有する二重特異性抗体であっても良い。当業者であれば、本明細書の記載、及び当分野における技術常識に基づいて、本発明の抗体を用途に応じた適切な形態のものとして取得することができる。

【0077】
更に、本発明の抗体は、検出のために標識された抗体であっても良い。標識は、特に限定するものではないが、例えば蛍光色素標識、酵素標識、放射性標識等であって良い。

【0078】
<関節リウマチ診断薬>
本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のシトルリン化ITIH4タンパク質を検出する関節リウマチ診断薬を提供する。診断薬は、好ましくは配列番号1又は5に示されるアミノ酸配列における438番目のアルギニン残基がシトルリン残基に変換されているタンパク質、又はこのシトルリン残基を検出し得るものであり、特に好ましくはこのシトルリン化残基を含むエピトープに対して結合し得る抗体を含む。

【0079】
<キット>
本発明は更に、関節リウマチの診断又は診断の補助のために使用されるキットを提供する。
キットは、例えば上記の本発明の抗体を含むキットであり得る。キットは、例えばELISA法による検出のためのキットである。キットは、上記本発明の抗体に加えて、生物学的サンプル中のシトルリン化ITIH4タンパク質又はシトルリン化ITIH4ペプチドと、これに結合し得る本発明の抗体との結合及びその検出のための試薬、例えば反応液、洗浄液、酵素標識二次抗体、発色基質、陽性対照及び陰性対照、マイクロタイタープレート等の反応容器、及び使用説明書を適宜含み得る。キットは、標識された本発明の抗体を含み得る。キットはまた、本発明の抗体と、本発明の抗体に結合し得る標識された二次抗体との組合せを含み得る。

【0080】
キットはまた、質量分析法による検出のためのキットであり得る。キットは、例えばトリプシン等のペプチダーゼ、LCのための溶離液、内部標準として検出対象のシトルリン化ペプチド断片、具体的には配列番号4又は8に示されるペプチド断片、この断片の質量分析のための分析条件等の情報を含む使用説明書を適宜含み得る。

【0081】
抗原抗体反応を利用した抗原の検出のためのキットは様々なものが市販されており、当業者であれば、キットに含めるべき構成要素、含めることが好ましい構成要素を容易に想定することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
[参考例1 マウスにおける関節炎の誘導]
6~10週齢の雄のDBA/1マウスの尾の付け根に、完全フロインドアジュバント(CFA)(Becton Dickinson)中に1:1の体積比で乳化した25μgのペプチドGPI325-339(pGPI、Invitrogen)を皮内注入して免疫し、関節炎を発症させるために免疫後の0日目及び2日目に200ngの百日咳毒素(Sigma-Aldrich)を腹腔内注射した。対照マウスには、pGPIを含まないCFAのみを注入した。
【実施例】
【0084】
pGPIを注入したマウス(pGIAマウス)及び対照マウスについて、一日おきに関節炎を評価し、各肢の腫脹及び発赤について0~3のスケールを用いて評価した。評価は、Iwanami K.等、Arthritis Res The 2008; 10: R130に記載されたように、4本の肢のスコアの合計を臨床スコアとした。
【実施例】
【0085】
その結果、図2Aに示すように、pGPIで免疫した全てのマウスにおいて、対称性の多発性関節炎が誘導され、前肢及び後肢の足首の関節に重度の腫脹が見られた。関節炎は8日目に見られるようになり、14日目に最も重症となり、その後ゆっくり消失した。図2Bに示すように、対照マウスでは全く腫脹が見られないのに対して、免疫14日後のpGIAマウスでは明らかな腫脹が見られ、pGIA誘導性関節炎であることが確認された。
【実施例】
【0086】
[実施例1 ペプチドGPI誘導性関節炎マウス血清中の自己抗体の発現]
pGIAマウス及び対照マウスから血清を採取し、ELISAによって抗pGPI抗体及び抗シトルリン化タンパク質抗体(ACPA、抗CCP抗体)の力価を測定した。
【実施例】
【0087】
抗-pGPI抗体の測定のためには、96ウェルプレート(Nunc, MaxiSorp)に5μg/mlのpGPIを4℃で12時間かけて被覆し、洗浄バッファー(PBS中0.05%Tween20)で3回洗浄した後、ブロッキング溶液(1%ウシ血清アルブミン含有PBS)を添加して室温で1時間置き、非特異的結合をブロックした。洗浄後、100μlの希釈血清(250~12000倍に希釈)を添加して室温で2時間置いた。
【実施例】
【0088】
抗CCP抗体の測定のためには、25倍に希釈した血清を市販のキット(Immunoscan CCPlus test kit, Euro Diagnostica)に含まれ、環状シトルリン化ペプチド(CCP)が予め被覆された96ウェルプレートに添加し、室温で1時間置いた。
【実施例】
【0089】
インキュベーション後、プレートを洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートウサギポリクローナル抗マウス免疫グロブリン(Dako)を適宜希釈して添加し、室温で1時間(pGPI)又は30分間(CCP)インキュベートした。次いで、プレートを洗浄した後、TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL)を添加して発色させ、450nmの光学密度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【実施例】
【0090】
その結果、pGIAマウスの血清では、免疫14日目以降に抗pGPI抗体が検出され、その後上昇し、対照マウスでは全く上昇しなかった。pGIAマウスと対照マウスとの結果は、14日以降で有意な差を示していた(図3A)。
また、pGIAマウスの血清中のACPAの力価は14日目から次第に上昇し、21日目以降は対照マウスよりも有意に高くなっていた(図3B)。
【実施例】
【0091】
シトルリン化タンパク質に対する抗体価が増大した結果から、この関節炎において何らかのシトルリン化タンパク質が血清中に増加していることが推測されるが、何であるかは明らかではない。従って、pGIAマウスの複数の組織においてシトルリン化タンパク質の発現を次に評価した。
【実施例】
【0092】
[実施例2 pGIAマウスにおけるシトルリン化タンパク質の増加]
CFA又はpGPIを注入したマウスの後肢の足首の関節、注入した尾部の皮膚、肺、脾臓及びリンパ節から注入後0日目、7日目、14日目及び28日目に組織を採取し、10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、切片を作製した。
【実施例】
【0093】
免疫組織学的分析のために、試薬A(20%H2SO4、25%H3PO4、0.025%FeCl3)及び試薬B(1%ジアセチルモノオキシム、0.5%アンチピリン、1M 酢酸)を2:1の体積比で混合して修飾バッファーを調製した。各切片に修飾バッファーを添加し、シトルリン残基を修飾するために37℃で2.5時間、遮光容器中でインキュベートした。次いで、ウサギ抗修飾シトルリン(anti-modified citrulline, AMC)抗体(老人研 石神昭人先生より供与。2%BSAを含有するPBSで3200倍に希釈)を用いて室温で一晩インキュベートした。次いで、二次抗体としてHRP-コンジュゲートヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Bio-Rad)を添加して室温で30分間インキュベートした。
【実施例】
【0094】
免疫組織学を用いて修飾されたシトルリン化残基を検出した結果、pGPIを注入したマウスでは関節では14日目にシトルリン化タンパク質が検出され(図4A)、滑膜の過形成領域で発現していることが明らかとなった。皮膚では7日目に(図4B)シトルリン化タンパク質が検出され、これは注入部位を囲む皮下組織に浸潤した炎症性細胞中で発現していた(データは示さない)。肺、脾臓及びリンパ節等の他の組織ではシトルリン化タンパク質は検出されなかった(データは示さない)。また、CFAのみを注入したマウスではいずれの組織においてもシトルリン化タンパク質は検出されなかった。
【実施例】
【0095】
皮膚でのシトルリン化タンパク質の増加(7日目に検出)が関節での増加(14日目に検出)よりも先に生じていることから、皮膚でのシトルリン化タンパク質の産生が関節炎の誘導の引き金の一つであり得ると考えられた。
【実施例】
【0096】
[実施例3 pGIAマウス血清中のシトルリン化タンパク質の検出1]
pGIAマウスから採取した血清サンプルを、実施例1で使用したAMC抗体を使用してウェスタンブロット解析した。
pGPI又はCFAで免疫したマウスから0、7、14及び28日目に血清を採取し、ウェル当たり50μgの血清をロードして、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を実施し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。これに実施例1で用いた修飾バッファーを添加して37℃で2.5時間遮光容器中でインキュベートし、シトルリン残基の修飾を行った。
【実施例】
【0097】
0.05%Tweeen20を含有するPBSで洗浄し、5%スキムミルクを含有するTBSでブロッキングした。このブロッキング溶液で3200倍に希釈したAMC抗体を加えて4℃で一晩インキュベートし、洗浄後、ブロッキング溶液で1:5000倍に希釈したHRP-コンジュゲートヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Bio-Rad)を二次抗体として使用して室温で1時間更にインキュベートした。
【実施例】
【0098】
その結果、図5Aに示す通り、pGPI注入後14日目の血清中にシトルリン化タンパク質が存在するのに対して、対照マウスでは全く検出されなかった。シトルリン化タンパク質のバンドは約120kDの単一のバンドとして検出され、対照マウスと比較して14日目に有意に増加し、関節炎の治癒と相関して28日目の血清中では減少していた。各レーンにおける120kDのバンドの強度をImageQuant LAS-4000デンシトメーター(GE Healthcare)を使用してデンシトメトリー解析した結果、参考例1で示された傾向(図2A)と一致することが明確に示された(図5B)。
【実施例】
【0099】
実施例1における測定結果では、pGPI注入14日目以降の血清中に抗CCP抗体の存在が検出され、抗原となるシトルリン化タンパク質の存在が間接的に示唆されたのに対し、本実施例ではシトルリン残基の改変のない場合にはウェスタンブロット解析で検出されないため、これらのシトルリンに特異的なバンドの強さが疾患の状態を反映するものであることが示された。
【実施例】
【0100】
[実施例4 pGIAマウス血清中のシトルリン化タンパク質の検出2]
CFA又はpGPIの注入から14日目の対照マウス(CFA)及びpGIAマウス(pGPI)の血清を用い、実施例3と同様にしてウェスタンブロット解析を行った。その結果、図6Aに示すように、対照マウスではシトルリン化タンパク質が検出されなかったのに対して、pGIAマウスでは約120kDの位置にシトルリン化タンパク質の明瞭なバンドが検出された。デンシトメトリー解析の結果からも、pGIAマウスにおいて顕著に強いバンド強度が確認された(図6B)。
【実施例】
【0101】
[実施例5 pGIA血清中のシトルリン化タンパク質の同定1]
CFA又はpGPIを注入したマウスの血清100μgを二次元(2D)-PAGEで展開し、GelCode Blue Stain Reagent(Thermo Fisher Scientific)でゲルをクマシーブリリアントブルー染色し、また実施例3と同様にしてAMC抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った。その結果、pGIAマウスの血清において、約120kD及びpH5.3の位置にシトルリン化タンパク質のスポットを確認した(図7A)。このシトルリン化タンパク質のスポットをゲルから切り出した。
【実施例】
【0102】
ゲル切片をMSグレードの改変トリプシン(6.7ng/μl;Promega)と共に37℃で一晩インキュベートして消化し、得られたペプチドを、35℃に保持したBEH130 nanoAcquity C18カラム(100-mm×75μm, 1.7μm)を用い、nanoAcquity Ultra-performance LC(UPLC)システム(Waters Co.)で分析した。分析条件を以下に示す:
移動相A:0.1%(v/v)ギ酸+水
移動相B:0.1%(v/v)ギ酸+アセトニトリル
勾配:3%B 1分間、
3~40%B 77分間
40%B 3分間
40~95%B 1分間
95% 4分間
95~3%B 10分間
流速:0.3μl/分
【実施例】
【0103】
次いで、溶出したペプチドをQ-TOF質量分析計(Synapt high definition mass spectrometry system, Waters)を用い、Waters MassLynx ソフトウェア(version4.1)を使用して分析した(キャピラリー電圧3.5kV;コーン電圧40V;エレクトロスプレーイオンモード)。低い(6eV)又は段階的に上昇する(25~40eV)衝突エネルギーにより、インタクトなプリカーサーイオン及びプロダクトイオンを検出した(イオン源温度100℃、陽イオンモードで検出)。m/z 50~1990のデータを取得し、データベースを参照した。
【実施例】
【0104】
分析の結果、シトルリン化とは関係なく、10%超で存在する4種のタンパク質:インターαトリプシンインヒビター重鎖4(O54882、ITIH4);セルロプラスミン(E9PZD8);インターαトリプシンインヒビター重鎖3(Q61704、ITIH3);及びグリコシルホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼD(Q7TNZ4)を同定した(図7B)。
【実施例】
【0105】
その含量の割合(coverage)に着目してインターαトリプシンインヒビター重鎖3(ITIH3)及びITIH4を候補タンパク質として選択し、nanoUPLC-MSEでこれらのシトルリン改変について検討した。
【実施例】
【0106】
図8はマウスITIH4由来ペプチドの質量分析の結果を示す。マウスITIH4は配列番号1に示すアミノ酸配列を有するが、その429~438番目のアミノ酸に対応する10個のアミノ酸からなる配列番号3のペプチド:MALDNGGLAR(ITIH4429-438)が、そのC末端、すなわち配列番号1において438番目のアルギニンがシトルリン化された状態で検出された(配列番号4のペプチド)。すなわち、pGIAマウス血清中で有意にシトルリン化されているタンパク質として、R438がシトルリン化したITIH4が特定され(図8A及び8B)、この部位のシトルリン化がpGIAに特異的であることが判明した。
【実施例】
【0107】
[実施例6 pGIA血清中のシトルリン化タンパク質の同定2]
pGIAマウス及び対照マウスの注入14日目の血清サンプルをSDS-PAGEで分離し、クマシーブリリアントブルーで染色し(図9A)、またAMC抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った(図9B)。その結果、実施例5と同様に、pGIA血清では約120kDの位置にシトルリン化タンパク質が検出され、対照血清では検出されないことが示された。
【実施例】
【0108】
このシトルリン化タンパク質のスポットをゲルから切り出し、nanoUPLC-MS及びnanoUPLC-MSEで分析した結果、実施例5と同様に、配列番号3のペプチド(ITIH4429-438)のC末端のアルギニンがシトルリン化されたペプチド(配列番号4)が検出された(データは示さない)。
【実施例】
【0109】
[実施例7 ヒトRA患者血清中のシトルリン化タンパク質の検出]
American College of Rheumatology(ACR)の1987年における基準に従って関節リウマチと診断された63名の患者、並びに22名の健常者から血清を採取し、実施例3と同様にしてウェスタンブロット解析を実施した。
【実施例】
【0110】
その結果、一部のRA患者の血清中で、マウスと同様の約120kDのシトルリン化タンパク質のバンドが特異的に検出され、健常者の血清では全く検出されなかった(図10A)。各レーンにおける120kDのバンドの強度をデンシトメトリー解析した結果、RA患者に特異的なバンドであることが明確に示された(図10B)。これらの結果から、約120kDのシトルリン化タンパク質がRA患者の血清中で増加し、おそらくは関節炎と関連していることが示された。
【実施例】
【0111】
[実施例8 RA患者血清中のシトルリン化タンパク質の同定]
実施例5と同じようにして、ヒトRA患者血清を2D-PAGE及びウェスタンブロット解析にかけ、マウスの場合と同様に、約120kD、pH5.3の位置にシトルリン化タンパク質のスポットを確認した(図11A)。クマシーブリリアントブルー染色後、スポットをゲルから切り出し、nanoUPLC-MS解析を行い、シトルリン化の有無によらず、10%超で存在する3種のタンパク質:インターαトリプシンインヒビター重鎖4(B7Z545及びB2RMS9、ITIH4);補体C3(P01024);及びセルロプラスミン(A5PL27)を同定した(図11B)。そして、マウスの場合と同様に、最も高い割合でITIH4が同定され、これが最も可能性の高いタンパク質であることが示唆された。
【実施例】
【0112】
図12はヒトITIH4由来ペプチドのnanoUPLC-MSEによる質量分析の結果を示す。ヒトITIH4は配列番号5に示すアミノ酸配列を有するが、その429~438番目のアミノ酸に対応する10個のアミノ酸からなる配列番号7のペプチド:LALDNGGLAR(ITIH4429-438)が、そのC末端、すなわち配列番号5において438番目のアルギニンがシトルリン化された状態で検出された(配列番号8のペプチド)。すなわち、RA患者血清中で有意にシトルリン化されているタンパク質として、マウスと同じ部位であるR438がシトルリン化したITIH4が特定され(図12A及び12B)、この部位のシトルリン化がRA患者に特有のものであり、健常者では見られないことが判明した。
【実施例】
【0113】
[実施例9 臨床的特徴との相関性]
実施例7におけるウェスタンブロット解析では、ITIH4のシトルリン化が検出されなかった患者も存在していた。従って、詳細なデータの取得が可能であった60名のRA患者について、健常者のバンド強度+3SDに相当する0.46をカットオフ値として、血清中にシトルリン化ITIH4が検出された患者群(+)と検出されなかった患者群(-)とに分類し、各群における様々な臨床的特徴を比較した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0114】
【表1】
JP2019009231A1_000002t.gif
【実施例】
【0115】
表1に示されるように、血清中にシトルリン化ITIH4を有さないRA患者群と比較して、シトルリン化ITIH4を有する患者群で、DAS28-CRPスコア(p=0.040)、及びリウマトイド因子(RF、p=0.011)及びC-反応性タンパク質(CRP、p=0.047)のレベルが有意に高いことが判明した。一方、抗CCP抗体の数値は、双方の群で相違が見られなかった。
【実施例】
【0116】
また、シトルリン化ITIH4の検出結果と、リウマトイド因子(RF)及び抗CCP抗体(ACPA)の血清反応との関係について検討した結果、表2に示すように、ACPA、RFが共に血清反応陰性の8名のRA患者中7名(88%)がシトルリン化ITIH4陽性であることも判明した。これらの結果から、シトルリン化ITIH4が、疾患活動性、及び関節における局所的炎症と関連し得ること、RF及びACPAを用いた従来の方法で血清反応陰性である患者でも陽性結果をもたらし得るため、RAの診断補助マーカーとなり得ること、またACPAを指標とする検査結果よりも疾患活動性をより反映した検出結果をもたらすものであることが示唆された。
【実施例】
【0117】
【表2】
JP2019009231A1_000003t.gif
【実施例】
【0118】
[実施例10 RA特異的シトルリン化の実証1]
60名の関節リウマチ患者(RA)、30名の健常者(HS)、12名の変形性関節症患者(OA)、15名の全身性エリテマトーデス患者(SLE)、及び27名のシェーグレン症候群患者(SS)から血清を採取し、AMC抗体を用いたウェスタンブロット解析により、約120kDのシトルリン化タンパク質の発現を解析した。尚、上記のSLE患者及びSS患者は、関節リウマチの合併症は有していない。
【実施例】
【0119】
その結果、図13A~13Dに示すように、RA患者では約120kDの位置に明確なシトルリン化タンパク質のバンドが検出されるのに対して、他の疾患では検出されなかった。各患者について行ったウェスタンブロットにおける約120kDの位置のバンド強度をグラフ化した図14の結果からも、約120kDのシトルリン化タンパク質の発現がRA患者に特異的であることが示された。
【実施例】
【0120】
健常者(HS)におけるバンド強度の平均値±3SDをカットオフ値として陽性/陰性を判定した結果、関節リウマチ患者(RA)では60名中49名が陽性と判定されたのに対して、RA患者以外では84名中の3名のみが陽性と判定され(表3)、この結果から、本発明の方法によるRA診断における感度は81.7%、特異度は96.4%であることが判明した。
【実施例】
【0121】
【表3】
JP2019009231A1_000004t.gif
【実施例】
【0122】
図13Eは、健常者(HS)、シェーグレン症候群患者(SS)、及び関節リウマチ患者(RA)から採取した血清について、抗ITIH4抗体(左)及びAMC抗体(右)を用いてウェスタンブロット解析を行った結果を示す。双方の結果から明らかなように、RA患者の血清では約120kDの位置にシトルリン化ITIH4の存在が示された。一方、健常者及びSS患者では、ITIH4タンパク質は存在しているが、シトルリン化されていないことが示唆された。
これらの結果から、ITIH4タンパク質のシトルリン化が関節リウマチに特異的な事象であることが確認された。
【実施例】
【0123】
[実施例11 RA特異的シトルリン化の実証2]
健常者においても非シトルリン化ITIH4が相当量存在することが検出された実施例10の結果から、健常者及びRA患者の血清について、ITIH4の総量を測定した(R&Dシステムズ社 ITIH4定量ELISAキット(カタログ番号DY8157-05)を使用)。
その結果、図15Aに示すように、シトルリン化の有無に関係なくITIH4総量を測定すると、健常者及びRA患者で有意な差は得られなかった。
また、個々の健常者及びRA患者で得られたITIH4総量と、血清中のCRP量(図15B)及びDAS28(CRP)スコア(図15C)との相関性の有無を調べたところ、相関性は認められなかった。
上記の結果から、総ITIH4タンパク質量のレベルはRA患者で特異的に上昇するものではなく、関節炎と関連するマーカーとはならないことが確認された。
【実施例】
【0124】
[実施例12 疾患活動性指標との相関性]
RA患者におけるシトルリン化ITIH4レベルが、従来知られている総合疾患活動性指標と相関するか否かを検討した。
従来、関節リウマチの疾患活動性の指標として、DAS28-CRP、DAS28-ESR、SDAI(Simplified Disease Activity Index)、CDAI(Clinical Disease Activity Index)等が知られている。これらは、28関節についての圧痛及び腫脹、患者の全般的評価、医師の全般的評価、CRP濃度等を組み合わせて算出される総合的な疾患活動性指標である。
治療前の17名のRA患者血清中のシトルリン化ITIH4レベル(AMC抗体を用いて検出される約120kDのバンド強度)と上記の疾患活動性指標との相関性を検討したところ、図16に示すように、いずれの指標とも相関することが確認された。
【実施例】
【0125】
[実施例13 関節リウマチ治療薬によって軽減した症状との相関性]
実施例12で疾患活動性指標との相関性を検討した17名のシトルリン化ITIH4陽性のRA患者から、アバタセプト(n=8)又はインフリキシマブ(n=9)による治療前、及び24週間の治療を受けた後の血清を採取して、治療前後のシトルリン化ITIH4レベルと疾患活動性指標との変化をそれぞれ調べ、相関性を検討した。
その結果、図17Aに示すように、アバタセプト(レーン1-2)及びインフリキシマブ(レーン3-8)のいずれの治療によっても、患者血清中のシトルリン化ITIH4レベルは明らかに低下した。このことは、治療薬の作用機序によらず、治療による症状の軽減に伴って、血清中のシトルリン化ITIH4の量が減少することを示す。
図17B及び図17Cは、血清中のシトルリン化ITIH4レベルの低下が、治療前後で算出した疾患活動性指標(DAS28-CRP及びDAS28-ESR)のスコアの低下と明らかに正に相関していることを示す。
これらの結果から、シトルリン化ITIH4は、RA患者の疾患活動性を反映する新たな血清マーカーとなり得ることが実証された。
【実施例】
【0126】
[実施例14 シトルリン化ITIH4ペプチドの抗原性の確認]
配列番号5及び6のヒトITIH4タンパク質のアミノ酸配列における438番目を含む20アミノ酸からなるペプチド、すなわち438番目がアルギニンのITIH4428-447ペプチド(native-pITIH4)及び438番目がシトルリンのITIH4428-447ペプチド(cit-pITIH4)を合成し(株式会社スクラムに依頼、それぞれ純度95%)、これらのペプチドに対するRA患者血清の抗体反応を評価した。
96ウェルプレート(Nunc, MaxiSorp)に10μg/mlのいずれかのペプチドを4℃で12時間かけて被覆し、洗浄及びブロッキング後に、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS中に1:200希釈したRA患者(n=60)及び健常者(n=30)の血清を添加し、室温で2時間置いた。洗浄後、1:10000希釈したHRP-コンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Abcam)を添加して、室温で1時間置いた。洗浄後、TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL)を添加して発色させ、450nmの光学密度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【実施例】
【0127】
図18Aは、健常者及びRA患者の血清中の非シトルリン化ITIH4ペプチド(native-pITIH4)に対する抗体力価を示し、健常者及びRA患者の抗体応答には有意な差がないことが示された。一方、図18Bは、シトルリン化ITIH4ペプチド(cit-pITIH4)に対する抗体力価を示し、健常者と比較して、RA患者において抗体レベルが有意に高いことが示された。尚、カットオフ値は、健常者の平均+2SDとした。
【産業上の利用可能性】
【0128】
現在使用されているACPAは、血中の抗CCP抗体の存在を検出するものであり、一旦上昇した抗体価は治療により寛解状態となっても低下せず、疾患活動性との相関性がない。また、CRP等は感染症等により非特異的な数値の上昇があるため、特異性は低い。RAの総合的指標とされるDAS28は、信頼性の高い結果をもたらすものの、数値を出すためのパラメーターが多く、迅速な結果を出すことができる方法ではない。
【0129】
ITIH4のシトルリン化を検出する本発明の方法を利用することで、RAに特異的な検出ができると共に、疾患活動性との相関性が高く、疾患のモニタリングに使用することもできるため、臨床の場において、非常に有効なバイオマーカーとなり得る。更に、本発明によってRAの新たな治療標的が同定され、RAの臨床症状の軽減のための新たな治療薬が提供される可能性がある。
【0130】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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