TOP > 国内特許検索 > ポリオレフィン系重合体並びにそれを用いた有機化合物の吸着、吸蔵、及び分離 > 明細書

明細書 :ポリオレフィン系重合体並びにそれを用いた有機化合物の吸着、吸蔵、及び分離

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-163384 (P2020-163384A)
公開日 令和2年10月8日(2020.10.8)
発明の名称または考案の名称 ポリオレフィン系重合体並びにそれを用いた有機化合物の吸着、吸蔵、及び分離
国際特許分類 B01J  20/26        (2006.01)
C08F  10/14        (2006.01)
B01J  20/28        (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
FI B01J 20/26 G
C08F 10/14
B01J 20/28 Z
B01J 20/30
請求項の数または発明の数 17
出願形態 OL
全頁数 27
出願番号 特願2020-056735 (P2020-056735)
出願日 令和2年3月26日(2020.3.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日 令和1年11月18日 ウェブサイトのアドレス https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.langmuir.9b02509
優先権出願番号 2019067703
優先日 平成31年3月29日(2019.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】千葉 文野
出願人 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4G066
4J100
Fターム 4G066AB01D
4G066AC13B
4G066BA02
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA33
4G066CA51
4G066CA56
4G066FA11
4J100AA17P
4J100CA01
4J100JA15
要約 【課題】液体状態の有機化合物を選択的に分離することができる新規なポリオレフィン系重合体からなる分離材を提供すること。
【解決手段】X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はブロードなハローを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の分離材。
JP2020163384A_000019t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の分離材。
【化1】
JP2020163384A_000014t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【請求項2】
前記重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である請求項1に記載の分離材。
【請求項3】
液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折において回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる請求項1又は2に記載の分離材。
【請求項4】
該分離材が、2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である請求項1~3のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項5】
該分離材が、炭素数が異なる2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である請求項1~4のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項6】
該分離材が、炭素数が同一の2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である請求項1~4のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項7】
重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である請求項1~6のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項8】
フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である請求項1~7のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項9】
X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の吸着材。
【化2】
JP2020163384A_000015t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【請求項10】
重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である請求項9に記載の吸着材。
【請求項11】
X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の吸蔵材。
【化3】
JP2020163384A_000016t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【請求項12】
重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である請求項11に記載の吸蔵材。
【請求項13】
X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体であって、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である重合体。
【化4】
JP2020163384A_000017t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【請求項14】
液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折において回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる請求項13に記載の重合体。
【請求項15】
フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である請求項13又は14に記載の重合体。
【請求項16】
下記式(I)で表される構成単位を有する重合体を加熱した溶媒に溶解すること、及び
該溶解物を前記重合体の融点以下に加熱した基板上又は容器中で前記溶媒を除去すること
を含むX線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体の製造方法。
【化5】
JP2020163384A_000018t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【請求項17】
前記重合体が請求項13~15のいずれか一項に記載の重合体である請求項16に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン系重合体及びそれを用いた有機化合物の吸着、吸蔵、分離、及び透過に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体(ポリマー)が結晶性の構造をとり得ることが広く知られており、結晶性高分子の結晶中の空隙に対する分子吸着挙動について研究されている。例えば、非特許文献1及び2には、シンジオタクティックポリスチレン(sPS)の結晶による選択的吸着が記載されている。
【0003】
一方、非特許文献3には、ポリオレフィン系重合体であるアイソスタティックポリ(4-メチル-1-ペンテン)(P4MP1)結晶がデカンを自発的に吸着することが記載されている。非特許文献3で用いたポリ(4-メチル-1-ペンテン)(P4MP1)の結晶は, Scientific polymer products, inc.から購入した市販のP4MP1をメルトプレス成型したものである。
【0004】
非特許文献4には塩化ジエチルアルミニウム及び塩化チタン(III)を用いてヘキサン溶媒中で4-メチル-1-ペンテンを重合しポリ(4-メチル-1-ペンテン)(P4MP1)を調製したこと、P4MP1が非晶質固体および溶融状態において、X線回折による格子面間隔0.95nmにピークを有することが記載されている。また、非特許文献4には公知のP4MP1の結晶構造が格子面間隔13.8nmに回折ピークを有することも記載されている。
【0005】
非特許文献5にはポリ(4-メチル-1-ペンテン)の格子面間隔1.376nmに回折ピークを有することが記載されている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Macromol. Rapid Commun. 25, 1900 (2004)
【非特許文献2】Macromol. Rapid Commun, 23, 77 (2002)
【非特許文献3】千葉文野他、日本物理学会 2016年秋季大会 概要集 p.3114
【非特許文献4】J. Macromol. Sci.Phys. B7, 225 (1973)
【非特許文献5】Bull Inst Chem Res Kyoto Univ Vol.52, 308-317 (1974)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1~5には、液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折で4°から10°までの範囲(格子面間隔0.9nmから2.2nmまでの範囲)に連続的にわたるブロードなハローパターンを生じる結晶または非晶質固体は開示されていない。
【0008】
また、非特許文献1~5からは、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)(P4MP1)様のポリオレフィン系重合体の結晶を用いて分子量の異なる液体状態の2種以上の炭化水素(例えばアルカン)等の有機化合物を分離できるかどうかも不明であった。
【0009】
また、本発明者が確認したところ、非特許文献3のメルトプレス成型したP4MP1を用いると、重合体の重量全体に対して1質量%以下という少量の液体状態の有機化合物を、吸着開始から1時間以内に吸着可能であったが、5質量%以上の液体状態の有機化合物を1時間以内で吸蔵できない。
【0010】
本発明が解決すべき課題は、液体状態の有機化合物を選択的に吸着、吸蔵、分離又は透過することができるポリオレフィン系重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、市販のポリ(4-メチル-1-ペンテン)を加熱した特定の溶媒に溶解し、40℃以上かつポリ(4-メチル-1-ペンテン)の融点以下に加熱した基板上で比較的早急に溶媒をキャストにより除去したところ、液体状態の有機化合物を短期間で吸蔵し、特定の格子面間隔の範囲にブロードなハローパターンを生じる新規なポリ(4-メチル-1-ペンテン)を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の分離材。
【化1】
JP2020163384A_000002t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【0013】
項2.前記重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である項1に記載の分離材。
項3.液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折において回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる項1又は2に記載の分離材。
【0014】
項4.該分離材が、2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である項1~3のいずれか一項に記載の分離材。
項5.該分離材が、炭素数が異なる2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である項1~4のいずれか一項に記載の分離材。
項6.該分離材が、炭素数が同一の2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である項1~4のいずれか一項に記載の分離材。
【0015】
項7.重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である項1~6のいずれか一項に記載の分離材。
項8.フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である項1~7のいずれか一項に記載の分離材。
【0016】
項9.X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の吸着材。
【化2】
JP2020163384A_000003t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
項10.重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である項9に記載の吸着材。
【0017】
項11.X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の吸蔵材。
【化3】
JP2020163384A_000004t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
項12.重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である項11に記載の吸蔵材。
【0018】
項13.X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体であって、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である重合体。
【化4】
JP2020163384A_000005t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
【0019】
項14.液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折において回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる項13に記載の重合体。
項15.フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である項13又は14に記載の重合体。
【0020】
項16.下記式(I)で表される構成単位を有する重合体を加熱した溶媒に溶解すること、及び
該溶解物を前記重合体の融点以下に加熱した基板上又は容器中で前記溶媒を除去すること
を含むX線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体の製造方法。
【化5】
JP2020163384A_000006t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
項17.前記重合体が項13~15のいずれか一項に記載の重合体である項16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、液体状態の有機化合物を、その大きさに従って吸着、吸蔵、分離又は透過することが可能となる。このため、異なる2種以上の液体状態の有機化合物を、微小な体積差であっても、選択的かつ容易に分離又は透過することができる。さらには、本発明によれば、分子量の異なる2種の液体状態の有機化合物を分離することや、炭素数が同一の2種の液体状態の有機化合物を分離することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】合成例1で得たポリ(4-メチル-1-ペンテン)結晶のX線回折パターンのグラフ。
【図2】合成例1で得たポリ(4-メチル-1-ペンテン)結晶、ヘキサンを吸蔵した同結晶、およびヘキサンが脱離後の同結晶のX線回折パターンのグラフ。
【図3】得られたポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムの写真。
【図4】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムを重水素化ヘキサンとデカンの混合溶媒に浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図5】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをヘキサンと重水素化デカンの混合溶媒に浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図6】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをヘキサンとデカンの混合溶媒に浸漬した場合の各溶媒の吸蔵量。
【図7】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをノナンとデカンの混合溶媒に浸漬した場合の各溶媒の吸蔵量。
【図8】ヘキサンとデカンの混合溶媒における各溶媒のモル濃度。
【図9】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをペンタンとヘキサンの混合溶媒に浸漬した場合の各溶媒の吸蔵量。
【図10】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをシクロヘキサンに浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図11】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをデカヒドロナフタレン(デカリン)に浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図12】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをベンゼンに浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図13】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムを四塩化炭素に浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図14】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをベンジルアルコールに浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図15】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをテトラヒドロフランに浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図16】ポリ(4-メチル-1-ペンテン)フィルムをクロロホルムに浸漬した場合の赤外吸収スペクトル。
【図17】(A)-(D)にタイムラプス動画から撮影した、P4MP1フィルムを備えたU字管の写真。フィルム左側:ノーマルヘキサン、フィルム右側:2,3-ジメチルブタン。
【図18】ノーマルヘキサンと2,3-ジメチルブタンの経時的な体積分率の変化を示すグラフ。
【図19】(A)-(C)タイムラプス動画から撮影した、P4MP1フィルムを備えたU字管の写真。フィルム左側:ノーマルヘキサン、フィルム右側:ノーマルデカン。
【図20】(A)-(C)タイムラプス動画から撮影した、P4MP1フィルムを備えたU字管の写真。フィルム左側:シクロヘキサン、フィルム右側:ベンゼン。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によれば、X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する、下記の式(I)で表される構成単位からなる重合体であって、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である重合体が提供される。

【0024】
【化6】
JP2020163384A_000007t.gif

【0025】
式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。

【0026】
Aが置換メチル基の場合、メチル基の3つの水素のうちの1つが置換されてもよいし、2つが置換されてもよいし、又は3つが置換されてもよい。好ましくはメチル基の1つの水素が置換される。置換基としては、ハロゲン基(フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)、メチル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。

【0027】
Bが置換メチル基の場合は、メチル基の3つの水素のうちの1つが置換されてもよいし、2つが置換されてもよいし、又は3つが置換されてもよい。好ましくはメチル基の1つの水素が置換される。置換基としては、ハロゲン基(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、メチル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。

【0028】
AとBは同じであってもよいし異なっていてもよい。

【0029】
上記重合体の重合度は2以上であり、好ましくは50以上、より好ましくは50以上12000以下である。上記重合体は式(I)で表される構成単位からなる直鎖の部分を有するが、構造中に分岐鎖の部分も有し得る。

【0030】
上記重合体の高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が5000以上であるのが好ましく、5000~500万であることがより好ましい。重合体の数平均分子量(Mn)がかかる範囲にあることで、液体状態の有機化合物の吸着、吸蔵、分離、又は透過性能が良好となる。なお、有機化合物とは、炭素原子を有する化合物を指す。液体状態の有機化合物とは、吸着、吸蔵、分離、又は透過時に液体状態である有機化合物を指す。好ましい一実施形態では、液体状態の有機化合物とは、常温(20℃すなわち293K)で液体状態の有機化合物を指す。

【0031】
また、上記重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は1~50の範囲内にあることが好ましく、1~10の範囲内にあることがより好ましい。ASTM D1238に準拠して260℃、5kgの荷重の条件で測定した上記重合体のメルトフローレート(MFR、メルトフローインデックスと称する場合もある)は好ましくは0.1~500g/10分であり、より好ましくは0.1~300g/10分であり、さらに好ましくは30g/10分以下である。

【0032】
本発明は特定の理論に束縛されるものではないが、式(I)で表される構成単位の炭素原子からAとBとに分岐していることにより、重合体の構造中に、液体状態の有機化合物の選択的な吸着、吸蔵、分離、又は透過に寄与する空洞が形成されると考えられる。
また、市販のポリ(4-メチル-1-ペンテン)を加熱した特定の溶媒(特にはデカヒドロナフタレン)に溶解し、40℃以上かつポリ(4-メチル-1-ペンテン)の融点以下に加熱した基板上で比較的早急に溶媒をキャストにより除去することにより、本発明の重合体では市販のポリ(4-メチル-1-ペンテン)とは異なる重合体の構造が生じ、市販のポリ(4-メチル-1-ペンテン)と比較して液体状態の有機化合物の吸着、吸蔵、分離、又は透過能が高まったものと考えられる。

【0033】
本発明の重合体は、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵することができる。液体状態の有機化合物の吸着又は吸蔵量の上限値は限定されないが、例えば重合体の重量全体に対して100質量%以下である。好ましい実施形態では、本発明の重合体は、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、吸着又は吸蔵開始から2分以内に20質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵することができる。

【0034】
このように液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合の吸着又は吸蔵量で本発明の重合体を特定する理由は、本発明の重合体は、化学式とX線回折を初めとする公知の分析法による分析結果とに基づいても、公知のポリ(4-メチル-1-ペンテン)(X線回折で格子面間隔1.37nm前後)と必ずしも構造を区別することができず、本願出願時において本願発明の特徴を、物の構造と、X線回折のピークの他、液体状態の有機化合物の吸着又は吸蔵量以外の特定により公知のポリ(4-メチル-1-ペンテン)と異なるように特定することが不可能又は非実際的であるという事情が存在するためである。

【0035】
X線回折においては、有機溶媒の吸蔵時に特徴的な変化が見られる。具体的には、本発明の実施形態の重合体は、有機溶媒に浸漬するとそれを短時間(1時間以内、好ましくは10分以内、より好ましくは2分以内)で吸蔵し、その後CuKa線によるX線回折において回折角(2θ)4°から10°までの全範囲(つまり格子面間隔0.9nmから2.2までの全範囲)に連続的にわたるブロードなハローを生じる。このようなポリ(4-メチルー1-ペンテン)は、これまで発見されていない。

【0036】
液体状態の有機化合物の例は後述するが、好ましくは非置換又は少なくとも一つの水素基がハロゲンにより置換された炭化水素、アルコール、エーテル、カルボン酸、又はアミンであり、より好ましくはアルカン、シクロアルカン、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン等である。

【0037】
好ましい重合体の例は、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)(A及びBが非置換のメチル基)、又はポリ(4-メチル-1-ペンテン)のA及びBのメチル基の水素原子の少なくとも一つをハロゲン基(フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)で置換したものである。最も好ましい重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である。

【0038】
本発明の重合体は、X線結晶構造解析、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合の吸着又は吸蔵量等により同定できる。

【0039】
好ましくは、上記重合体は、重合体の重量全体に対して5質量%以上の液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵する。より好ましくは、上記重合体は、重合体の重量全体に対して5質量%以上の液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から10分以内で吸着又は吸蔵する。さらに好ましくは、上記重合体は、重合体の重量全体に対して5質量%以上の液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から2分以内で吸着又は吸蔵する。

【0040】
重合体が「X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する」とは、重合体が回折ピークを有する場合は、その回折ピークをX線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に有することを指し、重合体がハローパターンを有する場合は、そのハローパターンをX線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に有することを指すが、ハローパターンは格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲内に収まっていてもよいし、格子面間隔1.2nmから2nmまでの全範囲に加えて、1.2nm未満、2nm超、又はその両方にさらにわたるものであってもよい。

【0041】
上記重合体は結晶性であるが、非晶質を含まない結晶であってもよいし、非晶質を含んでもよい。
上記重合体が非晶質を含む場合、X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲にシャープなピークが現れない場合があり、その場合、同格子面間隔の範囲に非晶質を表す幅広いピークを示す粉末X線回折パターン(ハロー(halo)パターン)を有するが、このような場合も本発明の重合体の範囲に包含される。この格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲のハローパターンは、角度範囲が広いために強度としては微弱になりがちであるが、分離したい液体状態の有機化合物を吸蔵した状態において強度が顕著に増大する傾向がある。発明者は、液体状態の有機化合物としてヘキサン等を本発明の重合体に吸蔵させた後、乾燥させてもハローが観測される場合があることを確認した(データ非図示)。つまり、ハローは、本発明の重合体の構造が液体状態の有機化合物の吸蔵によって変化し、P4MP1結晶の001方向に変調をきたした、新しいP4MP1ガラス固体構造に起因すると推測することができる。このため、化合物吸蔵時におけるX線回折パターンが当該領域にハローパターンを示す重合体も本発明の重合体の範囲に包含される。

【0042】
一実施形態において、式(I)で表される構成単位を有する重合体は、X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピークを有する結晶性重合体である。
別の実施形態において、式(I)で表される構成単位を有する重合体は、X線回折で格子面間隔1.37nm±0.16nmに回折ピークを有する結晶性重合体である。

【0043】
また別の一実施形態において、式(I)で表される構成単位を有する重合体は、X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲にハローパターンを有する非晶質部分を含む結晶性重合体である。

【0044】
本発明の重合体の純度は95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。

【0045】
本発明の重合体の形態は特に限定されず、例えばフィルム、シート、ペレット、チューブ(管状体)、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状に成形してもよい。好ましい一実施形態において、フィルム又はシートは、液体状態の有機化合物を透過するフィルム又はシートであり、より好ましい一実施形態において、フィルム又はシートは、2つの液体状態の有機化合物のうちの一方を選択的に透過するフィルム又はシートである。
本明細書において、フィルムとは厚み100μm以下の薄膜を指し、シートとは厚み100μmよりも大きい薄膜を指す。

【0046】
本発明の重合体は多孔性であり、本発明の重合体の密度は好ましくは0.85g/cm3以下であり、より好ましくは0.83g/cm3以下である。本発明の重合体の密度は、好ましくは0.25g/cm3以上であり、より好ましくは0.5g/cm3以上である。

【0047】
また、本発明の重合体の一実施形態であるポリ(4-メチル-1-ペンテン)は、TPX(登録商標)等の従来のポリ(4-メチル-1-ペンテン)の製品よりも軽量であるか、又は従来のポリ(4-メチル-1-ペンテン)と同等に軽量であり、撥水性に優れている。また、本発明の重合体は耐薬品性及び耐熱性に優れている。

【0048】
本発明の重合体は、下記式(I)で表される重合体を加熱した溶媒に溶解すること、及び該溶解物を当該の重合体の融点以下に加熱した基板上又は容器中で溶媒を除去することを含む製造方法により製造することできる。

【0049】
【化7】
JP2020163384A_000008t.gif

【0050】
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
上記製造方法において、原料となる式(I)で表される重合体は、市販品を使用してもよいし、公知の方法により合成してもよい。

【0051】
溶媒の例としては、デカヒドロナフタレン、各種アルカンが挙げられ、液体状態の有機化合物の吸着、吸蔵、分離、又は透過性能の点で、好ましくはデカヒドロナフタレンである。式(I)で表される重合体を溶解する溶媒は、好ましくは80℃以上に加熱される。

【0052】
式(I)で表される重合体と溶媒の体積比は特に限定されないが、例えば1:80~1:200とすることができる。

【0053】
溶媒に重合体を溶解させた後、重合体の製造のために溶媒は比較的早急に除去することが好ましい。このため、溶解物をキャストする間、基板又は容器は当該の重合体の融点(235~245℃程度)以下に加熱する。基板又は容器の加熱温度の下限値は40℃以上であることが好ましい。基板の種類は特に限定されず、ガラス基板、金属基板、合成樹脂基板等の公知の基板を用いることができる。容器の種類は特に限定されず、ガラス容器、金属容器、合成樹等の公知の容器を用いることができる。

【0054】
基板上への溶融物の適用としては、例えば、溶液を基板上に乗せ、溶媒を蒸発させて薄膜を作製するキャスト法、溶融物で濡らした基板を高速に回転し、遠心力で薄く均一な溶液層を形成することにより薄膜を作製するスピンコート法等の公知の方法を使用することができる。

【0055】
本発明の重合体は、有機化合物の吸着性能、吸蔵性能及び分離性能に優れている。本発明の重合体は、液体状態の有機化合物を吸着、吸蔵及び分離することができる。従って、本発明の重合体は、各種の有機化合物の吸着材、吸蔵材及び分離材としても有用であり、これらも本発明の権利範囲に含まれる。
一実施形態において、本発明の重合体からなる吸着材、吸蔵材又は分離材は、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵することができる。このように、本発明の重合体からなる吸着材、吸蔵材又は分離材は液体状態の有機化合物の吸着又は吸蔵能が優れている。

【0056】
本発明の重合体が吸着、吸蔵、又は分離する液体状態の有機化合物は、例えば炭化水素鎖を有する化合物である。本発明における炭化水素鎖は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基を表す。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基はそれぞれ直鎖または分岐のアルキル基、直鎖または分岐のアルキル基、直鎖または分岐のアルキニル基を含む。炭化水素鎖は、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がさらに好ましい。

【0057】
液体状態の有機化合物は、特に限定されないが、非置換であるか、又は少なくとも一つの水素基がハロゲンにより置換された炭化水素、アルコール、エーテル、カルボン酸、アミンが挙げられ、好ましくはベンジルアルコール、エーテル等の水溶性の低い化合物又は炭化水素、より好ましくは炭化水素である。炭化水素としては、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素が挙げられ、脂肪族炭化水素としては飽和炭化水素と不飽和炭化水素が挙げられ、それぞれ飽和の直鎖または分岐の炭化水素と飽和の環式炭化水素、並びに不飽和の直鎖または分岐の炭化水素と不飽和の環式炭化水素が挙げられる。

【0058】
飽和炭化水素の例としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタン等が挙げられるがこれらに限定されない。

【0059】
不飽和炭化水素の例としては、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、オクタデセン、ノナデセン、イコセン、ペンチン等が挙げられるがこれらに限定されない。

【0060】
芳香族炭化水素としては、ベンゼン及びナフタレンが挙げられるがこれらに限定されない。

【0061】
少なくとも一つの水素基がハロゲンにより置換された炭化水素としては、フルオロカーボン、クロロカーボン(例 クロロホルム、四塩化炭素)、ハロゲン化アリール(例 クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン等)が挙げられる。

【0062】
上記有機化合物の炭素数は特に限定されないが、有機化合物が非置換の炭化水素である場合、吸着、吸蔵、分離、又は透過時に液体状態であるという点からは、炭素数が4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。液体状態である有機化合物の吸着、吸蔵、分離、又は透過時に室温及び大気圧(1atm)の条件を仮定した場合は、炭素数5以上であることが好ましく、室温よりも低温又は大気圧よりも高圧条件を仮定した場合は、液体状態のブタンなど炭素数が4以下であっても良い。有機化合物の炭素数の上限値については、特に定めるものではないが、例えば、炭素数50とすることができる。なお有機化合物の炭素数とは、有機化合物中に含まれる炭素数の合計を指す。

【0063】
有機化合物がアルコールである場合、炭素数は1以上、2以上、又は3以上であってよく、炭素数は3以上であることが好ましい。有機化合物がカルボン酸である場合、炭素数は1以上又は2以上であることが好ましい。有機化合物が、少なくとも一つの水素基がハロゲン(フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)により置換された炭化水素である場合、炭素数は1以上であることが好ましい。

【0064】
有機化合物が常温(20℃すなわち293K)で液体状態の有機化合物である場合、加熱せずに吸着、吸蔵、分離、又は透過することができるため、吸着、吸蔵、分離、又は透過の操作が簡便である。

【0065】
本発明の吸着材、吸蔵材又は分離材は、式(I)で表される重合体を加熱した溶媒に溶解すること、及び溶解物を当該の重合体の融点以下に加熱した基板上又は容器中で比較的早急に溶媒を除去することを含む方法により製造される。このため、X線回折のデータによると、重合体中に除去された溶媒の分子形状に起因する空隙が生じ、枯渇相互作用、すなわち隙間を埋め、エントロピーを高める力が発生する。このため、本発明の吸着材、吸蔵材又は分離材による有機化合物の選択性能は、分子間の直接的引力で駆動されるのではなく、主としてエントロピーで駆動される新しい物質分離である。このため、分子の体積の微少な差による分離を可能とするものである。

【0066】
本発明の分離材は2種類又はそれ以上の液体状態の有機化合物を分離することができる。本発明の分離材による分離選択性能は精巧であり、驚くべきことに、本発明の重合体からなる分離材は、炭素数が1つ異なる2種類の有機化合物でも分離することができ、さらには炭素数が同じ有機化合物同士でも分離することができる。

【0067】
従来の多孔体による分離法では、多孔体を特定の分子の大きさに適するようにデザインする。このため、小さい分子は孔を通過できるが、大きい分子は孔を通過できない。
他方、本発明の重合体を用いた分離法では、分子の重合体における吸蔵過程および重合体からの脱離過程において、主として分子認識、言い換えればホスト(高分子)—ゲスト(溶媒分子)間の枯渇相互作用が効いていると考えられ、分子の形状を認識して分子を捕獲している、又は脱離を妨げる作用がある。このため、たとえば長い鍵穴には長い鍵が適するように、重合体が形成する孔に入り得る分子の内で、大きい分子の方が良く認識される。つまり、小さい分子の方が孔を通過し易い点は従来の多孔体による液体分離と類似であるが、選択的に孔に捕獲されるのは大きい方の分子である。結果として、本願の手法で作成した分離材は、1日程度の長時間で見れば両透膜であったとしても、分離したい液体を構成する分子の大きさや形状が、たとえばシクロヘキサンとベンゼンのように少し異なるだけであっても、孔に捕獲され易さの違いから1時間以内等の短時間的には半透膜もしくは選択的透過膜としての性能を発揮する。

【0068】
分離されるそのような2種類の液体状態の有機化合物の例としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサンのうちの一つである有機化合物と、それよりも炭素数の大きい有機化合物とが挙げられる(例えばヘキサンと、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン又はドデカンとの分離)。本発明の分離材は、直鎖の炭化水素同士の場合、炭素数の大きい化合物をより優先的に吸蔵する。炭素数の大きい化合物は捕獲されやすく透過性に乏しいため、炭素数の小さい化合物を優先的に透過する。

【0069】
炭素数が同じ液体状態の有機化合物の分離としては、飽和環状炭化水素と芳香族炭化水素の分離、飽和炭化水素と不飽和炭化水素の分離、2種類の構造異性体の分離(例えば直鎖の炭化水素と分岐鎖の炭化水素、炭素骨格が同じで官能基の位置のみが違う異性体)等が挙げられる。飽和環状炭化水素と芳香族炭化水素の分離の例としては、例えばシクロヘキサンとベンゼン挙げられ、形状、大きさ、沸点が全て類似の化合物同士でも分離することができる。

【0070】
従って、本発明の分離材は、燃料等の効率的な分離に使用することができる。
本発明の分離材を用いた液体状態の有機化合物の分離方法は、該分離材と液体状態の有機化合物とを接触させる工程を含む。液体状態の有機化合物を本発明の分離材に吸着させる条件である圧力及び温度は、有機化合物の種類に応じて適宜設定することができる。例えば圧力は0.01~10MPaが好ましく、また、吸着温度は195K~493Kが好ましく、273~313Kがより好ましい。

【0071】
本発明の分離方法は、常温及び大気圧でも行える点で有利である。つまり、本発明の分離方法は、液体状態の有機化合物の該分離材への吸蔵と、該分離材からの液体状態の有機化合物の脱離の2つの過程に分けられるが、どちらの過程についても常温及び大気圧下において行うことができる点で有利である。該分離材は図3のX線回折測定結果に示すように、吸蔵した物質の脱離後に、吸蔵前の構造に戻るため、繰り返し使用することができる。ただし、本発明の該分離材は、物質の吸蔵・脱離に際して、X線回折測定により示される構造が元に戻るものに限定されない。

【0072】
吸蔵過程は2分以内に完了することができるので利便性が高い。脱離過程に要する時間は、吸蔵した物質の揮発性に依存するが、吸蔵にあたり水素結合等の直接的な強い結合を用いていないため、揮発性のある化合物であれば、常温において静置するだけで分離が達成される点も利便性が高い。

【0073】
本発明の分離材及びこれを用いた分離方法によれば、吸蔵した物質と分離材との分子間の直接の引力を用いていないので、分離材からの液体状態の有機化合物の脱離が円滑に達成される。したがって、分離材を膜として成形すれば液体状態の有機化合物の透過性が良く、後述の実施例に示すように半透膜的な挙動を示す。
なお、本発明は以下の構成を採用することもできる。
[1]X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の分離材。

【0074】
【化8】
JP2020163384A_000009t.gif

【0075】
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
[2]前記重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である[1]に記載の分離材。

【0076】
[3]液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折で回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる[1]又は[2]に記載の分離材。
[4]該分離材が、2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である[1]~[3]のいずれかに記載の分離材。

【0077】
[5]該分離材が、炭素数が異なる2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である[1]~[4]のいずれかに記載の分離材。
[6]該分離材が、炭素数が同一の2種類の液体状態の有機化合物を分離するための分離材である[1]~[4]のいずれかに記載の分離材。

【0078】
[7]重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である[1]~[6]のいずれかに記載の分離材。
[8]フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である[1]~[7]のいずれかに記載の分離材。
[9]前記液体状態の有機化合物を透過するフィルム又はシートである[1]~[7]のいずれかに記載の分離材。

【0079】
[10]X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の吸着材。
【化9】
JP2020163384A_000010t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)

【0080】
[11]前記重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である[10]に記載の吸着材。
[12]重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である[10]又は[11]に記載の吸着材。

【0081】
[13]液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折で回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる[10]~[12]のいずれかに記載の吸着材。

【0082】
[14]フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である[10]~[13]のいずれかに記載の吸着材。

【0083】
[15]X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体からなる、液体状態の有機化合物の吸蔵材。
【化10】
JP2020163384A_000011t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)

【0084】
[16]前記重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である[15]に記載の吸蔵材。
[17]重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である吸蔵可能である[15]又は[16]に記載の吸蔵材。

【0085】
[18]液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折で回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる[15]~[17]のいずれかに記載の吸蔵材。

【0086】
[19]フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である[15]~[18]のいずれかに記載の吸蔵材。
[20]X線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体であって、液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵させた場合に、重合体の重量全体に対して、5質量%以上の前記液体状態の有機化合物を吸着又は吸蔵開始から1時間以内で吸着又は吸蔵可能である重合体。

【0087】
【化11】
JP2020163384A_000012t.gif
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)

【0088】
[21]前記重合体はポリ(4-メチル-1-ペンテン)である[20]に記載の重合体。
[22]液体状態の有機化合物の吸蔵後にCuKa線によるX線回折で回折角(2θ)4°から10°までの全範囲に連続的にわたるブロードなハローを生じる[20]又は[21]に記載の重合体。

【0089】
[23]フィルム、シート、ペレット、チューブ、棒状体、粒状体、粉末状、繊維状及び成形体から成る群から選ばれるいずれかの形状である[20]~[22]のいずれかに記載の重合体。

【0090】
[24]下記式(I)で表される構成単位を有する重合体を加熱した溶媒に溶解すること、及び
該溶解物を前記重合体の融点以下に加熱した基板上又は容器中で前記溶媒を除去すること
を含むX線回折で格子面間隔1.2nmから2nmまでの範囲に回折ピーク又はハローパターンを有する下記の式(I)で表される構成単位を有する重合体の製造方法。

【0091】
【化12】
JP2020163384A_000013t.gif

【0092】
(式中、Aは置換又は非置換のメチル基であり、Bは置換又は非置換のメチル基である。)
[25]前記重合体が[20]~[23]のいずれかに記載の重合体である[24]に記載の製造方法。

【0093】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0094】
1.X線回折パターンの測定
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:Rigaku MiniFlex600 (検出器 D/teX Ultra を搭載)・測定条件 X線出力(CuKα):40kV、15mA
走査軸:2θ-θ
走査間隔:0.02°
・詳細 本発明の重合体からなるフィルムの測定に際しては、専用ガラス板の上に本発明の高分子膜を約1cm×2cmに切り分けた1枚を載せ、その上部を厚み5μmのカプトンフィルムでカバーしたものを測定した。一方で、専用ガラス板に何も載せずに同一のカプトンフィルムでカバーしたものを測定し、これを上述の高分子膜のデータから差し引いたデータを、高分子膜のX線回折パターンとした。ヘキサンを吸蔵させる際は、カプトンフィルムと高分子膜の間にシリンジの針を差し込み、高分子膜の上部にヘキサンを滴下して吸蔵させた直後に測定した。一方で、専用ガラス板に何も載せずにカプトンフィルムでカバーしたものに対しても同様の手法でヘキサンを滴下した直後に測定し、ヘキサン吸蔵済みの高分子膜のX線回折パターンからヘキサンのみの回折パターンを差し引いたデータを、ヘキサンを吸蔵した高分子膜のX線回折パターンとした。データの差し引きに際しては生データから生データを差し引いただけであり、一切の補正や定数倍等のノーマライズを行っていない。
【実施例】
【0095】
2.赤外吸収スペクトルの測定
・装置名:日本分光FT/IR-4700
・測定範囲 2800-400cm-1、2.0cm-1間隔
・測定条件 透過
・詳細 本発明の重合体からなるフィルムの測定に際しては、キャストして得られた高分子膜を約7mm四方の正方形に切り分けたものを使用した。キャストフィルムのスペクトルを測定後、吸蔵させる溶媒に15分浸漬し、溶媒から取り出したのち両面を紙で拭き、6秒間隔で赤外吸収スペクトルを時分割測定した。その最初の時点におけるスペクトルを本明細書の図に示した。時分割測定した理由は、吸蔵された物質が脱離する過程を確認するためである。溶媒のみの測定に際しては、KBr窓またはNaCl窓の液体用固定セルを用いた。固定セルの厚みは、KBr窓については0.026mm、NaCl窓については0.022mmまたは0.098mmである。
【実施例】
【0096】
3.密度の測定
・密度測定:島津製作所 AUY120 分析天秤 に比重測定用アタッチメント SMK-401を取り付け、純水およびエタノール中にフィルムを浸漬することにより測定した。
【実施例】
【0097】
合成例1 ポリ(4-メチル-1-ペンテン)結晶からなるフィルムの製造
ポリ(4-メチル-1-ペンテン)(P4MP1)をScientific Polymer Product社より購入し、これを130℃程度に加熱したデカリンに溶解した。溶解物を、予め120℃程度に加熱したガラス基板上でキャストし、5時間乾燥させ、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)結晶からなるフィルムを得た。
【実施例】
【0098】
X線回折の結果、このフィルムの結晶相は、格子面間隔値(d値)1.3~1.4nm付近にピークまたはハローを有する。
上記密度の測定により密度を算出した結果、結果、0.81g/cm3 であった。
【実施例】
【0099】
図1に作成したP4MP1フィルムのX線回折パターンを示す。横軸にCuKα線による回折角(2θ)、縦軸にX線の強度を示す。図中の3桁の数字は、結晶相Iのミラー指数である。矢印によって示した鋭いピークは、(001)回折である可能性があり、これは消滅則により通常出現しないが、本手法により製作した重合体試料の結晶の歪に起因して生じたものである可能性がある。典型的には、6.4°、格子面間隔1.37±0.16nmに見られる。4~10°の領域に太い破線により目安として示したブロードなハローが、この構造に対応する非晶質ハローである。既知の結晶相Iに対応する非晶質ハローは、非特許文献4に典型的に示されているように、200ピーク近傍(主鎖間距離9.5Å付近)に現れることが知られているので、既知の非晶質とは異なる構造の非晶質が得られたことを示している。具体的には、合成例1のフィルムのアモルファス相は、d値にして1.3から1.8nm付近にかけて、これまで発見されていない長距離秩序を示す幅広いハローを有する。このブロードなハローは、角度幅が広いために強度としては微弱となる場合があるが、図2に示すように化合物の吸蔵に伴い顕著に強度が増大する傾向にある。そのため、化合物吸蔵時におけるX線回折パターンが当該領域にハローパターンを示す場合も本発明の重合体の範囲に包含されるものとする。
【実施例】
【0100】
図2に作成したP4MP1フィルムとヘキサンを吸蔵した状態及びヘキサンが脱離した後の同フィルムのX線回折パターンを示す。横軸にCuKα線による回折角、縦軸にX線の強度を対数プロットで示す。太線がアズキャストフィルム、点線がヘキサンを吸蔵させた後でヘキサンが脱離した同フィルムのX線回折パターンである。太線と点線のデータが良く重なることから、ヘキサン脱離後にフィルムの構造が元通りになっていることが分かる。図中に矢印で示した鋭いピークが、今回調製したフィルムの構造に由来し、結晶歪と関係する可能性がある。この6.4°付近の鋭いピークは、ヘキサンの吸蔵に伴いピーク強度の減少がみられる。つまり、矢印で示したピークが吸蔵に関係することを示している。なお、デカヒドロナフタレンを吸蔵させた方が顕著なピーク高さの減少が見られる。なお、9°より大きい角度領域のピークは、図1,2中にミラー指数を示したように結晶相Iとして典型的なパターンが常に観測され、6.4°付近のピークとは区別されるものと理解可能である。これは、6.4°のピークが、P4MP1をホスト、ヘキサン等の有機化合物をゲストとする、ホスト-ゲスト共結晶(もしくは共アモルファス)の形成と関係している可能性を示唆するものである。
【実施例】
【0101】
細線は、ヘキサン吸蔵中のフィルムのX線回折パターンである。このデータは、ヘキサン吸蔵中のフィルムの回折データから、ヘキサンのみの回折データを差し引いて、ヘキサン吸蔵下におけるP4MP1フィルムのみの回折パターンを示したものである。ミラー指数で示した各ピークが、ヘキサン吸蔵に伴い低角側にシフトしていることから、P4MP1結晶がヘキサン吸蔵に伴い膨張していることが分かる。図中の4~13°の領域に太い破線で示したブロードなハローは、今回発見した新規な非晶質ハローが、ヘキサン吸蔵に伴い増大する様子を表している。つまり、今回新規に発見した非晶質構造もまた、吸蔵に関係することを示している。
【実施例】
【0102】
図3に、今回発明したP4MP1フィルムの一例について写真を示す。
【実施例】
【0103】
実施例1 ヘキサンとデカンの分離
図4に、合成例1で作成したP4MP1フィルム、並びに重水素化ヘキサン[hexane(D)]及びデカン[decane]に浸漬して取り出したフィルムの赤外吸収スペクトルを示す。aにデカン:ヘキサン(D)=75:25(体積比)の混合溶媒に浸漬したP4MP1フィルム、bに同50:50の混合溶媒に浸漬したフィルム、cに純ヘキサン(D)に浸漬したフィルム、dに純デカンに浸漬したフィルム、eにアズキャストフィルムのスペクトルを示した。
【実施例】
【0104】
721cm-1のピークはデカンのメチレン基の横揺れ偏角振動に帰属される。体積比50:50に浸漬した場合である bにおいても、純デカンに浸漬した dと同程度のピーク強度が観察され、ほぼ同量のデカンが吸蔵されていることが分かる。浸漬した溶媒のうち50%がヘキサンであるにもかかわらず、デカンの吸蔵量が純デカンに浸漬した場合と比べてあまり変化しないことは驚くべきことである。一方、2100および2215cm-1のピークは、純ヘキサン(D)のC-D伸縮振動に帰属される。このピークの高さは、純ヘキサンに浸漬した場合、cに示した程度に大きい。この高さと比較して、aとb共に、殆どこのピークが観察されず、ヘキサンが吸蔵されていないことが分かる。すなわち、aとbのどちらについても、混合溶媒に浸漬したにもかかわらず、フィルムには、ほぼデカンのみが選択的に吸蔵されていることが結論される。
【実施例】
【0105】
図5では、図4とは逆に、デカンを重水素化した場合について、赤外吸収スペクトルを示す。細線は、P4MP1アズキャストフィルム、太線はデカン(D):ヘキサン=1:1(体積比)の混合溶液に浸漬したP4MP1フィルムのスペクトルを示す。2100および2215cm-1のピークは、デカン(D)のC-D伸縮振動に帰属される。混合溶液に浸漬したP4MP1フィルムのスペクトルにおいては、2100および2215cm-1には明瞭なピークが観測され、ヘキサンのメチレン基の横揺れ偏角振動により生じるはずの721cm-1付近には微少なピークしか見られないことから、デカン(D)のみが吸蔵されていることが結論される。また、2分の浸漬でこのような選択的吸蔵が観察される。
【実施例】
【0106】
図6に、デカンとヘキサンの混合溶媒に浸漬したP4MP1フィルムに吸蔵された、デカンとヘキサンのそれぞれのモル濃度を、浸漬した混合溶媒の濃度の関数として示す。この図は、図4、5に示した様な赤外吸収スペクトルにおけるピークの高さをモル濃度に換算したものである。下の軸にはヘキサンの体積分率を、上の軸にはヘキサンのモル分率を示した。例えば、モル比1:1のデカンとヘキサンの混合溶媒に浸漬した場合、P4MP1フィルムは、ほぼデカンのみを吸蔵することが分かる。
【実施例】
【0107】
実施例2 デカンとノナンの分離
図7に、デカンとノナンの混合溶媒に浸漬したP4MP1フィルムに吸蔵された、デカンとノナンのそれぞれのモル濃度を、浸漬した混合溶媒の濃度の関数として示す。点線は、フィルムに対する吸蔵に選択性が無い場合に予想される吸蔵量の振舞いである。混合溶液における、それぞれの溶媒のモル濃度については、たとえば、デカンとヘキサンについて図8に示した。図7から、P4MP1フィルムは、デカンとノナンのように炭素数が1つ異なる2種類の有機化合物でも分離することができることが結論される。
【実施例】
【0108】
実施例3 デカンとヘキサンの分離
図8に、デカンとヘキサンの混合溶媒におけるデカンとヘキサンのモル濃度を、混合溶媒の混合比の関数として示した。図は、混合溶媒の赤外吸収スペクトルのピーク高さから、混合溶媒中におけるモル濃度を算出したものである。丸および四角で示した点が測定した点であり、測定点を直線で結んで示した。図6、7において、もしフィルムの吸蔵に選択性が無ければ、このような直線的振る舞いを示すはずである。しかし、図6,7に示されたフィルム中のモル濃度が、図8のような直線的振る舞いから外れており、体積の大きい方の分子を選択的にフィルム中に取り込んでいることが結論される。
【実施例】
【0109】
実施例4 ヘキサンとペンタンの分離
図9に、ヘキサンとペンタンの混合溶媒に浸漬したフィルムに吸蔵された、ヘキサンとペンタンのそれぞれのモル濃度を、浸漬した混合溶媒の濃度の関数として示す。本実施例のP4MP1フィルムは、ヘキサンとペンタンのように炭素数が1つ異なる2種類の有機化合物でも分離することができることが結論される。
【実施例】
【0110】
実施例5 赤外吸収スペクトルによる分離材に吸蔵された状態の各種液体の分析
合成例1で製造したP4MP1フィルムは、吸蔵材としてのみならず分離材として機能し、例えばデカンとノナンのように炭素数が1つ異なる2種類の有機化合物でも分離することができる。このように、本実施例のP4MP1フィルムに吸蔵される物質であれば、微少な体積の違いによって、類似の物質から分離することが可能である。分離可能な物質の例として、図10以降に本実施例のフィルムに吸蔵された状態の各種液体の赤外吸収スペクトルを示す。
【実施例】
【0111】
また、水やエタノールは吸蔵されないがベンジルアルコールは吸蔵されるので、本実施例の重合体からなるフィルムによって、有機化合物の体積による分離だけでなく疎水性・親水性による分離もまた可能である。
【実施例】
【0112】
図10に、シクロヘキサン(a)、シクロヘキサンに浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(b)、本実施例のアズキャストフィルム(c)の赤外吸収スペクトルを示す。cに観測されず、aとbに観測されるピークは、本発明のP4MP1フィルムにシクロヘキサンが吸蔵されることを示すものである。
【実施例】
【0113】
図11に、デカヒドロナフタレン(a)、デカヒドロナフタレンに浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(b)、アズキャストフィルム(c) の赤外吸収スペクトルを示す。cに観測されず、aとbに観測されるピークは、本実施例のP4MP1フィルムにデカヒドロナフタレンが吸蔵されたことを示す。
【実施例】
【0114】
図12に、ベンゼン(a)、ベンゼンに浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(b)、アズキャストフィルム(c)の赤外吸収スペクトルを示す。cに観測されず、aとbに観測されるピークは、本実施例のP4MP1フィルムにベンゼンが吸蔵されたことを示す。
【実施例】
【0115】
図13に、四塩化炭素(a)、四塩化炭素に浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(b)、アズキャストフィルム(c)の赤外吸収スペクトルを示す。cに観測されず、aとbに観測されるピークは、本実施例のP4MP1フィルムに四塩化炭素が吸蔵されたことを示す。
【実施例】
【0116】
図14に、ベンジルアルコールに浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(a)、アズキャストフィルム(b)の赤外吸収スペクトルを示す。bに観測されず、aに観測されるピークは、本実施例のP4MP1フィルムにベンジルアルコールが吸蔵されたことを示す。
【実施例】
【0117】
図15に、テトラヒドロフランに浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(a)、アズキャストフィルム(b)の赤外吸収スペクトルを示す。bに観測されず、aに観測されるピークは、本実施例のP4MP1フィルムにテトラヒドロフランが吸蔵されたことを示す。
【実施例】
【0118】
図16に、クロロホルムに浸漬した本実施例のP4MP1フィルム(a)、アズキャストフィルム(b)の赤外吸収スペクトルを示す。bに観測されず、aに観測されるピークは、本実施例のP4MP1フィルムにクロロホルムが吸蔵されたことを示す。
【実施例】
【0119】
実施例6 P4MP1フィルムの半透性の測定
1.分離膜を設けたU字管における2種の液体の膜透過性
図3に示したP4MP1の円形フィルム(直径40mm, 厚み25μm)をU字管(ナリカ 浸透圧実験器OP-25U)にヘキサン耐性のあるO-ringを用いて設置した。U字管の左側にノーマルヘキサン、右側に2,3-ジメチルブタンを各60mL注ぎ、静置してタイムラプス動画を撮影した。図17A-Dにタイムラプス動画から撮影した代表的な時間の写真を示す。
別途、左右の組成測定用に同様の実験を行い、所定の時間経過ごとに左右の液体を0.5mLずつ取り出し、赤外分光法(日本分光 FT/IR-4700、透過法)により組成を求めた結果を図16に示す。測定にはKBr窓の微少セル(厚み0.098mm)を用いた。
【実施例】
【0120】
2.結果
図17A-D、図18から、ノーマルヘキサンと2,3-ジメチルブタンの組み合わせでは、P4MP1フィルムはノーマルヘキサンを優先透過することが分かる。
【実施例】
【0121】
実施例7 P4MP1フィルムの半透性の測定
実施例6において、U字管の左側にノーマルヘキサン、右側にノーマルデカンを各45mL注いだ以外は実施例6と同様に実験を行った。図19A-Cにタイムラプス動画からの代表的な時間の写真を示す。左側の液面が下がり、右側の液面が上がっていることから、ヘキサンとデカンの組み合わせにおいては、ヘキサンが優先透過されることが分かる。
【実施例】
【0122】
実施例8 P4MP1フィルムの半透性の測定
実施例6において、U字管の左側にシクロヘキサン、右側にベンゼンを各70mL注いだ以外は実施例6と同様に実験を行った。図20A-Cにタイムラプス動画からの代表的な時間の写真を示す。左側の液面が下がり、右側の液面が上がっていることから、シクロヘキサンとベンゼンの組み合わせにおいては、シクロヘキサンが優先透過されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の重合体は、その構造中に液体状態の有機化合物の選択的な吸着、吸蔵、及び分離に寄与する空洞を有するため、これまで分離が難しかった、炭素数が異なる2種類の液体状態の有機化合物のバルク分離(例 ヘキサンとそれに類似の他のアルカンの分離)や、同じ炭素数の2種の液体状態の有機化合物のバルク分離(例 形状、大きさ、沸点が類似した2種の分子(シクロヘキサンとベンゼンの組み合わせや、直鎖ヘキサンと分離ヘキサンの組み合わせ等)の分離)が可能であり、分離の工程も簡単である。本発明の重合体は、半透膜的な選択的透過性によるバルク分離に用いることができ、液体の分取に利用できる。
本発明の重合体は、製造が容易で大量生産にも適している。このため、ガソリンからのハイオクガソリンの製造等、石油化学工業における燃料の効率的な分離に使用することができる。また、ベンゼン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の代表的な有機溶媒の分離に使用することができる。本発明の重合体によれば、ヘキサンよりも低分子の化合物の分離も可能である。
【0124】
本発明の重合体は、光透過性で、軽量で、耐薬品性、耐熱性が高い。また、フィルムにも成形できるため、分離材や選択的透過・吸着膜として広範な範囲で化学、医薬、及び材料の分野で多様な用途に使用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19