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明細書 :固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質、固体電解質形成用組成物の製造方法、高分子固体電解質の製造方法及び全固体電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-102301 (P2019-102301A)
公開日 令和元年6月24日(2019.6.24)
発明の名称または考案の名称 固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質、固体電解質形成用組成物の製造方法、高分子固体電解質の製造方法及び全固体電池
国際特許分類 H01M  10/056       (2010.01)
H01M  10/052       (2010.01)
H01B   1/06        (2006.01)
H01B   1/12        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI H01M 10/056
H01M 10/052
H01B 1/06 A
H01B 1/12 Z
H01B 13/00 Z
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-232870 (P2017-232870)
出願日 平成29年12月4日(2017.12.4)
発明者または考案者 【氏名】関 志朗
【氏名】加藤 優輝
出願人 【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001519、【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 5G301
5H029
Fターム 5G301CA02
5G301CA16
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
要約 【課題】常温のみならず、低温条件下においてもイオン伝導性が良好な高分子固体電解質を形成しうる固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質、それらの製造方法及び全固体電池を提供する。
【解決手段】アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記イオン導電性高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、リチウム塩と、を含む固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質、固体電解質形成用組成物の製造方法、高分子固体電解質の製造方法、及び全固体電池。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、
前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、
リチウム塩と、を含む固体電解質形成用組成物。
【請求項2】
前記リチウム含有無機酸化物が、下記化合物群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の固体電解質形成用組成物。
(化合物群)
LiLaZr12
Lix1La2/3-X1TiO(0≦x1≦1/6)
Lix2(Al又はGa)y2(Ti又はGe)z2Si(1≦x2≦3、0≦y2≦1、0≦z2≦2、0≦a≦1、1≦m≦7、3≦n≦13)
LiAlLaZr12
【請求項3】
前記ポリエーテル系高分子化合物が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及びブチレンオキシドから選択される1種以上の繰り返し単位を主鎖又は側鎖に含む、請求項1又は請求項2に記載の固体電解質形成用組成物。
【請求項4】
前記リチウム塩が、LiSCN、LiN(CN)、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、Li(FSON、Li(CFSOC、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiSbF、LiPF(CFCF、LiPF(C、LiPF(CF及びLiB(Cから選択される少なくとも1種のリチウム塩を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の固体電解質形成用組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対するリチウム塩の含有量が、0.01質量部~1質量部の範囲である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の固体電解質形成用組成物。
【請求項6】
アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、リチウム塩と、を含む固体電解質形成用組成物の硬化物である高分子固体電解質。
【請求項7】
アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部のリチウム塩を添加し、混合して混合物を得る工程と、
得られた混合物に、混合物に含まれる前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、を混合する工程と、
を含む固体電解質形成用組成物の製造方法。
【請求項8】
アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部のリチウム塩を添加し、混合して混合物を得る工程と、
得られた混合物に、混合物に含まれる前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、を混合して固体電解質形成用組成物を得る工程と、
得られた固体電解質形成用組成物に含まれる液状成分を除去して固体電解質形成用組成物を硬化させ、高分子固体電解質を得る工程と、を含む高分子固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質形成用組成物がさらに架橋剤を含み、
前記高分子固体電解質を得る工程が、前記液状成分を除去した後、さらに、活性光線を照射する工程を含む請求項8に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の固体電解質形成用組成物の硬化物である高分子固体電解質からなる電解質層を備える全固体電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質、固体電解質形成用組成物の製造方法、高分子固体電解質の製造方法及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可燃性の有機液体が用いられている電解質部分を、難燃性の固体電解質に置き換えた「全固体電池」の実用化が望まれており、全固体電池の研究及び開発が行われている。
全固体電池は、液を内包する従来型の電池に比較して、セパレータが不要であること、液絡の回避のため行われなかった単一包装内での積層化が可能になるなどの利点を有し、安定性に優れる。
【0003】
全固体電池の電解質部分は、例えば、粒子状の酸化物系無機固体電解質の充填により形成することが試みられていた。酸化物系無機固体電解質自体は、伝導性が比較的高いものの、微細な粒子間の界面である粒界においてリチウムイオン移動が妨げられることが判明した。これは、粒界でのリチウムイオンの跳ね返り減少が生じる現象があるためである(例えば、非特許文献1参照)。
このため、粒界を有しない電解質が望まれている。
粒界を有することなく、全固体電池の理想性能を発揮できる電解質材料としては、有機系の高分子固体電解質が挙げられる。これはポリエチレンオキサイド(PEO)等の類縁体中にキャリヤーイオンとなる電解質塩を溶解させた系からなることが多い。しかし、いずれの場合においても反応イオン種となるカチオンよりも対アニオンの方が、移動性が高くなり、いわゆる低カチオン輸率の状態である。詳細には、高分子固体電解質においては、イオン全体内におけるリチウムイオン輸率は約10%であり、このため、入出力特性の問題も顕在化している。
高分子固体電解質は、成形性に優れ、電極との界面形成が容易であるという特徴を有しており、全固体電池の電解質としての応用が期待されている。しかし、室温におけるイオン伝導度が低く、またその温度依存性の高さから、電解質としての性能は十分ではない。
このため、高リチウムイオン輸率と、高分子固体電解質の有する良好な界面形成能及び加工成形性を有する高分子固体電解質が望まれている。
【0004】
固体電解質の改良は種々提案されており、例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質と、リチウムイオン伝導性固体電解質の表面における高分子含有電解質コーティング層とを有し、高分子含有電解質コーティング層は、酸化アルキレン系セグメントを含んだイオン伝導性高分子を含む複合固体電解質が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、イオン伝導性高分子化合物、無機酸化物、及びリチウム塩を有し、電解質において、イオン伝導性高分子化合物及び無機酸化物の合計に対して無機酸化物は30wt%より多く50wt%以下である電解質層を有する蓄電装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
これらは、充放電効率の向上を目的として提案された電解質層であり、従来の粒子を充填した固体電解質に比較すると充放電効率には改良がみられる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2017-191766号公報
【特許文献2】特開2016-192413号公報
【0006】

【非特許文献1】早水、関ら、J.Chem.Phys.,第146卷,024701(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の電解質層は、リチウムイオン伝導性固体電解質と、高分子含有電解質コーティング層との積層構造を有し、2層の界面におけるイオン伝導性には、なお改良の余地がある。また、特許文献2に記載の技術においても、無機酸化物を特定量含む電解質層を効率よく作動させるためには、正極及び負極の少なくともいずれかは、高分子化合物を有する活物質層を必要とする。
また、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び特許文献2のいずれの電解質においても、常温における充放電効率が良好であっても、低温領域、例えば0℃以下の温度下では、イオン伝導度が十分に得られず、充放電性能が著しく低下する。
【0008】
本発明のある実施形態が解決しようとする課題は、常温のみならず、低温条件下においてもイオン伝導性が良好な高分子固体電解質を形成しうる固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質及びそれらの製造方法を提供することである。
また、本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、常温のみならず、低温条件下においても充放電性能が良好な全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
既述の課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1> アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記イオン導電性高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の下記化合物群から選択される少なくとも1種のリチウム含有無機酸化物と、リチウム塩と、を含む固体電解質形成用組成物。
【0010】
<2> 前記リチウム含有無機酸化物が、下記化合物群より選択される少なくとも1種を含む<1>に記載の固体電解質形成用組成物。
(化合物群)
LiLaZr12
Lix1La2/3-X1TiO(0≦x1≦1/6)
Lix2(Al又はGa)y2(Ti又はGe)z2Si(1≦x2≦3、0≦y2≦1、0≦z2≦2、0≦a≦1、1≦m≦7、3≦n≦13)
LiAlLaZr12
<3> 前記ポリエーテル系高分子化合物が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及びブチレンオキシドから選択される1種以上の繰り返し単位を主鎖又は側鎖に含む、<1>又は<2>に記載の固体電解質形成用組成物。
【0011】
<4> 前記リチウム塩が、LiSCN、LiN(CN)、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、Li(FSON、Li(CFSOC、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiSbF、LiPF(CFCF、LiPF(C、LiPF(CF及びLiB(Cから選択される少なくとも1種のリチウム塩を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質形成用組成物。
<5> 前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対するリチウム塩の含有量が、0.01質量部~1質量部の範囲である<1>~<4>のいずれか1つに記載の固体電解質形成用組成物。
【0012】
<6> アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記イオン導電性高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の下記化合物群から選択される少なくとも1種のリチウム含有無機酸化物と、リチウム塩と、を含む固体電解質形成用組成物の硬化物である高分子固体電解質。
【0013】
<7> アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部のリチウム塩を添加し、混合して混合物を得る工程と、得られた混合物に、混合物に含まれる前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、を混合する工程と、
を含む固体電解質形成用組成物の製造方法。
【0014】
<8> アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部のリチウム塩を添加し、混合して混合物を得る工程と、得られた混合物に、混合物に含まれる前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物とを混合して固体電解質形成用組成物を得る工程と、得られた固体電解質形成用組成物に含まれる液状成分を除去して固体電解質形成用組成物を硬化させ、高分子固体電解質を得る工程と、を含む高分子固体電解質の製造方法。
【0015】
<9> 前記固体電解質形成用組成物がさらに架橋剤を含み、前記高分子固体電解質を得る工程が、前記液状成分を除去した後、さらに、活性光線を照射する工程を含む<8>に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【0016】
<10> <1>~<5>のいずれか1つに記載の固体電解質形成用組成物の硬化物である高分子固体電解質からなる電解質層を備える全固体電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある実施形態によれば、常温のみならず、低温条件下においてもイオン伝導性が良好な高分子固体電解質を形成しうる固体電解質形成用組成物、高分子固体電解質及びそれらの製造方法を提供することができる。
また、本発明の別の実施形態によれば、常温のみならず、低温条件下においても充放電性能が良好な全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1、及び比較例1の高分子固体電解質のイオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。
【図2】実施例1、及び比較例1の高分子固体電解質の示差走査熱量分析(DSC)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の固体電解質形成用組成物等について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。

【0020】
なお、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に、各成分に該当する物質が複数含まれる場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。

【0021】
[固体電解質形成用組成物]
本開示の固体電解質形成用組成物(以下、電解質組成物と称することがある)は、アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物(以下、特定高分子化合物と称することがある)と、前記イオン導電性高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の下記化合物群から選択される少なくとも1種のリチウム含有無機酸化物と、リチウム塩と、を含む。

【0022】
本開示の電解質組成物及びこれを用いて得られる高分子固体電解質における作用機構は明確ではないが、以下のように考えている。
一般に、液状の電解質はイオン伝導性が良好であるのに対し、固体電解質は、イオン伝導性が低下する。
本開示の固体電解質形成用組成物は、イオン伝導性が良好な、アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物に、特定量のリチウム含有無機酸化物を含むことで、複合化したリチウム含有無機酸化物と特定高分子化合物のセグメント間において相互作用が形成され、特定高分子化合物のセグメントとセグメントの間にリチウム含有無機酸化物が入り込む。これにより、誘引力低下を伴う相互作用が発現し、特定高分子化合物の分子内における隣接する疑似的架橋点同士、或いは、隣接するセグメント間の距離を押し広げることにより、特定高分子化合物とリチウム含有無機化合物とを含む複合体に含まれるリチウムイオンの運動性が向上したと推察される。
なお、本開示は、上記推定機構には何ら制限されない。
本明細書における常温とは、全固体電池の動作環境である15℃~40℃の温度範囲を指し、低温とは、15℃未満であり、好ましくは-20℃程度までの温度範囲を指す。

【0023】
〔特定高分子化合物〕
本開示の固体電解質形成用組成物は、イオン伝導性が良好な特定高分子化合物を含む。特定高分子化合物は、アルキレンオキシド繰り返し単位を分子内に含む化合物であれば特に制限はない。アルキレンオキシド繰り返し単位を主鎖構造に含む高分子化合物であってもよく、側鎖にアルキレンオキシド繰り返し単位を有する高分子化合物であってもよい。

【0024】
特定高分子化合物は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及びブチレンオキシドから選択される1種以上の繰り返し単位を主鎖又は側鎖に含むことが好ましい。
エチレンオキシド繰り返し単位を含むことで特定高分子化合物の結晶性が良好となり、リジッドな高分子固体電解質を形成しうる。ここで、結晶性が高すぎる場合、高分子固体電解質の構造内に含まれるリチウムイオンの運動性が低下し、イオン伝導性が十分に得られない場合がある。このため、エチレンオキシド繰り返し単位を含む特定高分子化合物においては、例えば、プロピレンオキシド繰り返し単位の如き、よりアルキル鎖長の大きい繰り返し単位を適切な量で導入することで、結晶性を制御して、成形性、形状保持性と、イオンの運動性とを両立させることも好ましい態様である。例えば、エチレンオキシド繰り返し単位とプロピレンオキシド繰り返し単位とを含む特定高分子化合物においては、エチレンオキシド繰り返し単位とプロピレンオキシド繰り返し単位との含有比率は、質量比で90:10~70:30とすることが好ましい。

【0025】
特定高分子化合物としては、より具体的には、直鎖状の高分子化合物としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリブチレンオキシド(PBO)、ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド/ポリブチレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシド/ポリブチレンオキシドブロック共重合体、ポリブチレンオキシド/ポリエチレンオキシド/ポリブチレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド/ポリブチレンオキシド/ポリエチレンオキシドブロック共重合体など、エーテル系結合を主骨格とする高分子鎖等が挙げられる。
ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド等は、目的に応じて2種以上の混合物として用いてもよい。

【0026】
また、側鎖にアルキレンオキシド繰り返し単位を有する高分子化合物としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びポリブチレンオキシドから選ばれる1種以上がグラフトされたポリメチルメタクリレート(PMMA)等が挙げられる。

【0027】
なかでも、イオン伝導性が良好であるという観点から、特定高分子化合物としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド/ポリブチレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシド/ポリブチレンオキシドブロック共重合体、ポリブチレンオキシド/ポリエチレンオキシド/ポリブチレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド/ポリブチレンオキシド/ポリエチレンオキシドブロック共重合体等が好ましく、ポリエチレンオキシド、プロピレンオキシド及びポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロック共重合体及びこれらの混合物がより好ましい。
特定高分子化合物は、合成品を用いてもよく、市販品を用いてもよい。

【0028】
〔リチウム含有無機酸化物〕
本開示の電解質組成物は、既述の特定高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物を含む。
特定高分子化合物にリチウム含有無機酸化物を含有させ、複合化させることで、本開示の電解質組成物を用いて形成される高分子固体電解質は高いイオン伝導性を示す。
リチウム含有無機酸化物としては、下記化合物から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
(化合物群)
LiLaZr12
Lax1Liy1TiO(x1=0.3~0.7、y1=0.3~0.7)
Lix2(Al又はGa)y2(Ti又はGe)z2Si(1≦x2≦3、0≦y2≦1、0≦z2≦2、0≦a≦1、1≦m≦7、3≦n≦13)
LiAlLaZr12

【0029】
Lax1Liy1TiO(x1=0.3~0.7、y1=0.3~0.7)の代表的な化合物として、Li3xLa2/3-xTiO(0≦x≦1/6)が挙げられる。
これらの中でも、イオン伝導性に優れるという観点からLi3xLa2/3-xTiO(0≦x≦1/6)(LLTO)、LiAlLaZr12、LiLaZr12(LLZO)、Li1+xGe2-yAl12で表される化合物に包含されるLi1.5Ge1.5Al0.5(PO(LAGP)などが好ましく、LiLaZr12(LLZO)がさらに好ましい。

【0030】
電解質組成物におけるリチウム含有無機化合物の含有量は、特定高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部であり、1質量部~5質量部の範囲であることが好ましい。含有量が上記範囲において、リチウム含有無機化合物の添加効果が十分に得られ、常温のみならず、低温領域においてもリチウムイオンの伝導性が良好となる。

【0031】
〔リチウム塩〕
本開示の電解質組成物は、リチウム塩を含む。リチウム塩は、電解質組成物中においてキャリアイオンとなるリチウムイオンの供給源となる。
リチウム塩は、通常、リチウム電池に用いられる公知のリチウム塩を制限なく使用することができる。
なかでも、入手容易であり、イオン伝導性が良好であるという観点から、リチウム塩として、LiSCN、LiN(CN)、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、Li(FSON、Li(CFSOC、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF、LiSbF、LiPF(CFCF、LiPF(C、LiPF(CF、LiB(C等から選択される少なくとも1種のリチウム塩を含むことが好ましい。

【0032】
電解質組成物におけるリチウム塩の含有量は、既述の特定高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部の範囲であることが好ましい。
リチウムイオンの含有量が上記範囲において、常温のみならず、低温領域においても、十分なイオン伝導性を得ることができ、電解質組成物を用いて得られる高分子固体電解質を組込んだ全固体電池は十分な充放電性能を得ることができる。

【0033】
〔その他の成分〕
本開示の電解質組成物は、効果を損なわない限り、目的に応じてその他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、高分子固体電解質の架橋性能を改良するための架橋剤などが挙げられる。
なお、電解質組成物の製造方法については後述する。

【0034】
[高分子固体電解質]
本開示の高分子固体電解質は、既述の本開示の電解質組成物、即ち、特定高分子化合物と、前記特定高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部のリチウム含有無機酸化物と、リチウム塩と、を含む電解質組成物の硬化物である。
高分子固体電解質の形成に用いる電解質組成物は、既述の通りであり、好ましい例も同様である。電解質組成物を用いた高分子固体電解質の製造方法については後述する。

【0035】
〔固体電解質形成用組成物の製造方法〕
本開示の固体電解質形成用組成物の製造方法は、アルキレンオキシド繰り返し単位を含むポリエーテル系高分子化合物と、前記イオン伝導性高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部のリチウムイオンを添加し、混合して混合物を得る工程(工程A)と、得られた混合物に、混合物に含まれる前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の既述の化合物群から選択される少なくとも1種のリチウム含有無機酸化物と、を混合する工程(工程B)と、を含む。

【0036】
(工程A)
工程Aでは、高分子固体電解質の基材となる特定高分子化合物にリチウム塩を含有させ、均一に分散するまで十分に撹拌、混合して、リチウム塩を含む高分子化合物の混合物を得る。撹拌装置は、公知の装置を適宜使用することができる。
ここで、リチウム塩を添加する特定高分子化合物は、固体状態でもよく、溶媒、高分子化合物の前駆体である低分子成分等を含むゲル状、又は粘稠な液状であってもよい
。 特定高分子化合物とリチウム塩とを含む混合物が、高分子固体電解質の基材となる。

【0037】
(工程B)
工程Bでは、工程Aで得られた混合物に、混合物に含まれる特定高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の既述のリチウム含有無機酸化物を混合する。先にリチウム塩を含有させた混合物に、リチウム含有無機化合物を添加することで、均一な系を得易くなる。
得られた混合物を撹拌しながら、LLZOなどのリチウム含有無機化合物を徐々に添加し、均一になるまで撹拌を継続する。リチウム含有無機化合物は、そのまま添加してもよく、可溶とするための溶媒を添加してから、添加した溶媒を乾燥し、除去してもよい。
なお、必要に応じて用いられるその他の成分は、工程A及び工程Bのいずれかにおいて、成分の物性に応じて含有させればよい。
このようにして、本開示の電解質組成物を得ることができる。工程Bを経た電解質組成物は、既述のように、溶媒などの低分子量成分等、その他の成分をさらに含んでいてもよい。

【0038】
〔高分子固体電解質の製造方法〕
本開示の高分子固体電解質の製造方法は、既述の特定高分子化合物と、特定高分子化合物100質量部に対し、0.01質量部~1質量部のリチウム塩を添加し、混合して混合物を得る工程(工程A)と、得られた混合物に、混合物に含まれる前記ポリエーテル系高分子化合物100質量部に対し、0.5質量部~10質量部の既述のリチウム含有無機酸化物と、を混合して固体電解質形成用組成物を得る工程(工程B)と、得られた固体電解質形成用組成物に含まれる液状成分を除去して固体電解質形成用組成物を硬化させ、高分子固体電解質を得る工程(工程C)と、を含む。
工程A及び工程Bは、既述の本開示の固体電解質形成用組成物の製造方法における工程A及び工程Bと同様である。

【0039】
(工程C)
工程Cは、得られた固体電解質形成用組成物に含まれる液状成分を除去して高分子固体電解質形成用組成物を硬化させ、高分子固体電解質を得る工程である。
特定高分子化合物が直鎖状の高分子化合物であり、液状或いはゲル状の形態である場合には、加熱乾燥、真空乾燥などにより含まれる溶媒を除去することで、直鎖状高分子化合物が絡まり合って固体状になる過程で、分子の絡まってできた微細な空隙にLLZOなどのリチウム含有無機化合物が固定化され、複合体が形成される。
また、硬化に際しては、架橋剤を添加して、アルキレンオキシドに含まれる部分構造同士を架橋させて硬化させることもできる。この場合、架橋剤による架橋構造の形成のためにエネルギーを付与することで高分子固体電解質内に架橋構造が形成され、架橋構造により形成された三次元空間にリチウム含有無機化合物が固定化され、複合化される。
活性光線の照射は、酸素による硬化阻害を抑制するため、アルゴンガスなどの不活性ガス存在下で行うことが好ましい。

【0040】
工程Cにおいては、電解質組成物がさらに架橋剤を含み、高分子固体電解質を得る工程にて溶媒などの液状成分を除去した後、さらに、活性光線を照射する工程を含むことができる。
例えば、高分子化合物と架橋剤とを含む電解質組成物を成形した後、溶媒を除去し、その後、紫外線などの活性光線を照射して架橋構造を形成させることにより、リチウム含有無機化合物と複合化され、架橋構造が内在する高強度の高分子固体電解質を得ることができる。
活性光線としては、用いる架橋剤を活性化させ、架橋構造を形成させうるエネルギーを付与しうる限り、特に制限はない。活性光線としては、例えば、紫外線(UV)、可視光などが挙げられる。活性光線の波長としては、例えば、200nm~600nmであることが好ましい。
活性光線の照射に用いられる光源としては、水銀ランプ、ガスレーザ、固体レーザなどが挙げられ、これらを目的に応じて使用することができる。

【0041】
[全固体電池]
本開示の全固体電池は、既述の本開示の電解質組成物の硬化物である高分子固体電解質からなる電解質層を備える。
既述の本開示の高分子固体電解質からなる電解質層を、正極及び負極と貼り合わせ、3層構造とすることで、目的とする本開示の全固体電池を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、以下の実施例は一態様を挙げたに過ぎず、これに限定されない。
【実施例】
【0043】
(実施例1、比較例1)
アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で、エレクセル(登録商標)TA-210(エチレンオキシド/プロピレンオキシドの質量比8:2の共重合体、第一工業製薬(株)製)に、リチウムイオン源であるLiTFSAを、[Li]/[O]比が0.1になる含有量で添加し、溶解させ、混合物を得た(工程A)。
得られた混合物に対し、リチウム含有無機化合物であるLLZOを、TA-210に対して、1.42質量%となる量で加え、溶解させて、液状を呈する実施例1の組成物を得た(工程B)。また、LLZOを添加しない試料を作製し、比較例1の組成物とした。
【実施例】
【0044】
それぞれの溶液に、架橋剤である2,2,-ジメトキシアセトフェノン(DMPA) 0.01質量%及びLLZOを溶解させ易くする溶剤であるアセトニトリルを適量加え、12時間以上真空乾燥し、溶液から溶媒を除去した。
2枚のガラス板と厚さ0.5[mm]のテフロン(登録商標)スペーサを用いて、乾燥した溶液を、ガラス板の上に流しだし、密閉した状態で紫外線照射を5分間行い、厚さ0.5mmの高分子固体電解質を作製した。
【実施例】
【0045】
(高分子固体電解質の評価)
得られた実施例1及び比較例1の各高分子固体電解質を、直径12mmにくり抜いて試料を作製し、イオン伝導度及びガラス転移温度を下記条件で測定した。
(1.イオン伝導度の測定)
ACインピーダンス法により、下記装置を用い、下記条件にて測定した。結果を図1のグラフに示す。
測定は、Bio-Logic社製、マルチポテンショスタットVSP測定装置を用いて実施した。
試料である高分子固体電解質を80℃に昇温し、80℃から降温させながら、90分以上の温度安定化の後に、各温度において印加電圧:200kHz~50mHz、印加電圧:10mVとし、交流インピーダンス測定を行った。
【実施例】
【0046】
(2.ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(DSC)であるリガク社製、Thermoevo2示差走査熱量計を用い、下記条件にて測定した。結果を図2のグラフに示す。
室温から-100℃まで、10℃min-1の降温レートにて、試料である高分子固体電解質を冷却した後、10℃min-1の昇温レートにて温度を上げながら、DSC測定を実施した。熱容量の変化からガラス転移温度を算出した。
【実施例】
【0047】
図1は、高分子固体電解質のイオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。
図1に明らかなように、LLZOを1.42質量%複合した実施例1の高分子固体電解質は、LLZOを複合していない比較例1の高分子固体電解質と比較して、60℃付近では、殆ど差異がないが、10℃以下の低温条件では、実施例1の高分子固体電解質のイオン伝導度が、比較例1の高分子固体電解質に比較して、より高いことがわかった。このことから、実施例1の高分子固体電解質では、低温におけるイオン伝導度の低下が抑制されていることがわかる。
【実施例】
【0048】
図2は、電解質のDSC測定の結果を示すグラフである。
図2に示すように、実施例1の高分子固体電解質は、LLZOを含まない比較例1の高分子固体電解質に対し、ガラス転移点が10K以上低下し、ガラス転移における熱容量変化量の増大がみられた。
これらの電気的及び熱的性質の改良は、複合したLLZOと特定高分子化合物のセグメント間の相互作用に起因していると考えられる。即ち、特定高分子化合物のセグメントとセグメントの間にLLZO等のリチウム含有無機化合物が入り込むことで、誘引力低下を伴う相互作用が発現し、高分子の疑似的架橋点やセグメント間の距離を押し広げることにより、高分子セグメントの運動性が向上し、リチウムイオン伝導性が向上したと推察される。
図面
【図1】
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【図2】
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