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明細書 :背景抽出装置、主成分分析装置及び主成分分析プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6292613号 (P6292613)
公開番号 特開2015-179413 (P2015-179413A)
登録日 平成30年2月23日(2018.2.23)
発行日 平成30年3月14日(2018.3.14)
公開日 平成27年10月8日(2015.10.8)
発明の名称または考案の名称 背景抽出装置、主成分分析装置及び主成分分析プログラム
国際特許分類 G06T   7/20        (2017.01)
G06T   7/00        (2017.01)
FI G06T 7/20
G06T 7/00 300F
請求項の数または発明の数 3
全頁数 19
出願番号 特願2014-056631 (P2014-056631)
出願日 平成26年3月19日(2014.3.19)
審査請求日 平成29年2月14日(2017.2.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
発明者または考案者 【氏名】鳥生 隆
【氏名】濱 裕光
【氏名】ティ ティ ズィン
個別代理人の代理人 【識別番号】100124039、【弁理士】、【氏名又は名称】立花 顕治
【識別番号】100156845、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 威一郎
【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
【識別番号】100112896、【弁理士】、【氏名又は名称】松井 宏記
【識別番号】100179213、【弁理士】、【氏名又は名称】山下 未知子
審査官 【審査官】鍬 利孝
参考文献・文献 特開2002-032760(JP,A)
米国特許出願公開第2005/0286764(US,A1)
青木 大二郎、小澤 誠一,追加学習型主成分分析の高速化と顔画像認識への応用,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2012年 6月21日,Vol.112 No.108,pp.1-6
VIEIRA NETO, Hugo and NEHMZOW, Ulrich ,Incremental PCA: An Alternative Approach for Novelty Detection,Towards Autonomous Robotics Systems 2005,2005年 9月,URL,http://cswww.essex.ac.uk/staff/udfn/ftp/london2.pdf
鳥生 隆、渡辺 健治,固有空間への非線形射影に基づく画像各部の注目度の定量化,映像情報メディア学会誌,日本,(社)映像情報メディア学会,2005年 6月 1日,第59巻 第6号,pp.894-900
調査した分野 G06T 7/00-7/90
特許請求の範囲 【請求項1】
対象画像の背景を抽出する背景抽出装置であって、
N枚(Nは、2以上の整数)のテスト画像にそれぞれ対応するN個のP次元(Pは、3以上の整数)のテストベクトルV1,V2,・・・,VNを主成分分析することにより、M個(Mは、M+1<Pを満たす整数)の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を算出する主成分分析部と、
前記対象画像に対応する対象ベクトルをM個の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)の線形結合として近似し、前記線形結合を前記対象画像の背景に対応する背景ベクトルとして設定する近似部と、
を備え、
前記主成分分析部は、
テストベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)の共分散行例CLを導出する初期共分散行列導出部と、
共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)を算出する初期固有ベクトル算出部と、
k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、
テストベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定する固有ベクトル追加部と、
テストベクトルVkに基づいて、テストベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckとして近似的に、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、M+1次元の共分散行列Ck’を導出する低次元共分散行列導出部と、
共分散行列Ck’のM個の(M+1)次元の固有ベクトルを算出し、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換する固有ベクトル更新部と
を有する、
背景抽出装置。
【請求項2】
N個(Nは、2以上の整数)のP次元(Pは、3以上の整数)のベクトルV1,V2,・・・,VNを主成分分析することにより、M個(Mは、M+1<Pを満たす整数)の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を算出する主成分分析装置であって、
ベクトルV1,V2,・・・,VNを格納するベクトル格納部と、
前記ベクトル格納部からベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)を読み出し、ベクトルV1,V2,・・・,VLの共分散行例CLを導出する初期共分散行列導出部と、
共分散行列CLを格納する初期共分散行列格納部と、
前記初期共分散行列格納部から共分散行列CLを読み出し、共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)を算出する初期固有ベクトル算出部と、
k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、
前記ベクトル格納部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定する固有ベクトル追加部と、
前記ベクトル格納部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、ベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckとして近似的に、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、M+1次元の共分散行列Ck’を導出する低次元共分散行列導出部と、
共分散行列Ck’を格納する低次元共分散行列格納部と、
前記低次元共分散行列格納部から共分散行列Ck’を読み出し、共分散行列Ck’のM個のM+1次元の固有ベクトルを算出し、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換する固有ベクトル更新部と、
を備える、
主成分分析装置。
【請求項3】
N個(Nは、2以上の整数)のP次元(Pは、3以上の整数)のベクトルV1,V2,・・・,VNを主成分分析することにより、M個(Mは、M+1<Pを満たす整数)の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を算出するための主成分分析プログラムであって、記憶部を有するコンピュータに、
前記記憶部に、ベクトルV1,V2,・・・,VNを格納するステップと、
前記記憶部からベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)を読み出し、ベクトルV1,V2,・・・,VLの共分散行例CLを導出するステップと、
前記記憶部に、共分散行列CLを格納するステップと、
前記記憶部から共分散行列CLを読み出し、共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)を算出するステップと、
k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、
前記記憶部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定するステップと、
前記記憶部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、ベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckとして近似的に、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、M+1次元の共分散行列Ck’を導出するステップと、
前記記憶部に、共分散行列Ck’を格納するステップと、
前記記憶部から共分散行列Ck’を読み出し、共分散行列Ck’のM個のM+1次元の固有ベクトルを算出し、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換するステップと
を実行させる、
主成分分析プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、画像の背景を抽出する背景抽出装置、及び、画像の背景の抽出等に特に適した主成分分析を行う主成分分析装置及び主成分分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
主成分分析を行うための一般的な方法としては、対象となるデータセットの共分散行列を算出し、当該共分散行列の固有ベクトルを算出する方法がある。主成分分析は、様々な分野で利用されており、例えば、画像の背景の抽出にも利用することができる。この場合、具体的には、多数の画像を各々ベクトルとみなしてこれらのベクトルの集合を主成分分析することにより、比較的低次元の固有空間(固有ベクトルにより形成される空間)を形成する(非特許文献1参照)。そして、入力画像を当該固有空間に射影した射影画像を入力画像の背景画像と推定し、対象画像と当該背景画像との差分を算出することで、前景を抽出する。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】鳥生隆ら,固有空間への非線形射影に基づく画像各部の注目度の定量化,一般社団法人映像情報メディア学会,映像情報メディア学会誌:映像情報メディア59巻6号,894-900,2005年6月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象となるデータセットの個数が非常に多い場合や、対象となるデータセットの次元数が非常に高い場合等には、主成分分析に要する計算負荷は多大なものとなる。ところで、主成分分析を行うと、対象となるデータセットの次元数だけ固有ベクトルが算出されることになる。しかしながら、以上の背景抽出の例のように、用途によっては、データセットの次元数と同じ個数だけの固有ベクトルは必要ではなく、より少ない個数の固有ベクトルさえ算出できれば十分な場合が多々ある。
【0005】
本発明は、画像の背景の抽出を行う場合等、必要とされる固有ベクトルの個数が少ない場合に、主成分分析に要する計算負荷を低減することができる背景抽出装置、主成分分析装置及び主成分分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る背景抽出装置は、対象画像の背景を抽出する装置であって、主成分分析部と、近似部とを備える。前記主成分分析部は、N枚(Nは、2以上の整数)のテスト画像にそれぞれ対応するN個のP次元(Pは、3以上の整数)のテストベクトルV1,V2,・・・,VNを主成分分析することにより、M個(Mは、M+1<Pを満たす整数)の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を算出する。前記近似部は、前記対象画像に対応する対象ベクトルをM個の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)の線形結合として近似し、前記線形結合を前記対象画像の背景に対応する背景ベクトルとして設定する。前記主成分分析部は、初期共分散行列導出部と、初期固有ベクトル算出部と、固有ベクトル追加部と、低次元共分散行列導出部と、固有ベクトル更新部とを有する。前記初期共分散行列導出部は、テストベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)の共分散行例CLを導出する。前記初期固有ベクトル算出部は、共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)を算出する。前記固有ベクトル追加部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、テストベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定する。前記低次元共分散行列導出部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、テストベクトルVkに基づいて、テストベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckとして近似的に、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、M+1次元の共分散行列Ck’を導出する。前記固有ベクトル更新部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、共分散行列Ck’のM個のM+1次元の固有ベクトルを算出し、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換する。
【0007】
本発明の第2観点に係る主成分分析装置は、N個(Nは、2以上の整数)のP次元(Pは、3以上の整数)のベクトルV1,V2,・・・,VNを主成分分析することにより、M個(Mは、M+1<Pを満たす整数)の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を算出する主成分分析装置であって、ベクトル格納部と、初期共分散行列導出部と、初期共分散行列格納部と、初期固有ベクトル算出部と、固有ベクトル追加部と、低次元共分散行列導出部と、低次元共分散行列格納部と、固有ベクトル更新部を備える。前記ベクトル格納部は、ベクトルV1,V2,・・・,VNを格納する。前記初期共分散行列導出部は、前記ベクトル格納部からベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)を読み出し、ベクトルV1,V2,・・・,VLの共分散行例CLを導出する。前記初期共分散行列格納部は、共分散行列CLを格納する。前記初期固有ベクトル算出部は、前記初期共分散行列格納部から共分散行列CLを読み出し、共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)を算出する。前記固有ベクトル追加部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、前記ベクトル格納部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定する。前記低次元共分散行列導出部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、前記ベクトル格納部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、ベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckとして近似的に、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、M+1次元の共分散行列Ck’を導出する。前記低次元共分散行列格納部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、共分散行列Ck’を格納する。前記固有ベクトル更新部は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次、前記低次元共分散行列格納部から共分散行列Ck’を読み出し、共分散行列Ck’のM個のM+1次元の固有ベクトルを算出し、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換する。
【0008】
本発明の第3観点に係る主成分分析プログラムは、N個(Nは、2以上の整数)のP次元(Pは、3以上の整数)のベクトルV1,V2,・・・,VNを主成分分析することにより、M個(Mは、M+1<Pを満たす整数)の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を算出するためのプログラムである。前記主成分分析プログラムは、記憶部を有するコンピュータに、以下のステップ1~8を実行させる。なお、ステップ5~8は、k=L+1,L+2,・・・,Nに対し順次繰り返し実行される。
1)前記記憶部に、ベクトルV1,V2,・・・,VNを格納するステップ。
2)前記記憶部からベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)を読み出し、ベクトルV1,V2,・・・,VLの共分散行例CLを導出するステップ。
3)前記記憶部に、共分散行列CLを格納するステップ。
4)前記記憶部から共分散行列CLを読み出し、共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)を算出するステップ。
5)前記記憶部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定するステップ。
6)前記記憶部からベクトルVkを読み出し、ベクトルVkに基づいて、ベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckとして近似的に、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、M+1次元の共分散行列Ck’を導出するステップ。
7)前記記憶部に、共分散行列Ck’を格納するステップ。
8)前記記憶部から共分散行列Ck’を読み出し、共分散行列Ck’のM個のM+1次元の固有ベクトルを算出し、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換するステップ。
【0009】
従来の主成分分析の方法では、N個のP次元のデータセット(ベクトルV1,V2,・・・,VN)を主成分分析する場合、N個のP次元のデータセットからP次元(P行P列)の共分散行列を算出し、これを固有値分解する必要がある。これに対し、本発明の以上の観点では、まず、N個のベクトルV1,V2,・・・,VNのうち、一部のベクトルV1,V2,・・・,VLのみを用いて(L<N)、共分散行列CLが算出される。この処理は、N個のベクトルV1,V2,・・・,VNの全てを用いて共分散行列を算出するのに比べ、計算負荷が低い。そして、共分散行列CLから、M個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)が算出され、初期値として設定される。以後、残りのベクトルVL+1,VL+2,・・・,VNを順次用いて、M個の固有ベクトルのセットが順次更新されてゆき、最終的には、N個のベクトルV1,V2,・・・,VNに対する固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)が算出される。
【0010】
M個の固有ベクトルのセットの更新時には、近似的にP次元よりも次元数の低いM+1次元の共分散行列が算出され、当該低次元の共分散行列から新たなM個の固有ベクトルのセットが算出される。具体的には、最新のベクトルVkの情報に基づいて、最新のM個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルが算出される。これにより、当該単位ベクトルと、最新のM個の固有ベクトルのセットとを併せて、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1),uM+1(k-1)が定義される。そして、これらのM+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、P次元の共分散行列Ckが、M+1次元の共分散行列Ck’として近似的に導出される。すなわち、固有ベクトルのセットの更新時には、高次元の共分散行列に代えて、低次元の共分散行列が算出され、かつ、高次元の共分散行列に代えて、低次元の共分散行列から固有ベクトルのセットが算出されるため、計算負荷が低減される。
【0011】
すなわち、本発明の以上の観点では、まず、全体の個数Nよりも少ないL個のデータセットを用いることで、高次元(P次元)の共分散行列を低負荷で算出する。そして、以後は、近似的に低次元(M+1次元)の共分散行列を算出し、これに基づいて固有ベクトルのセットを算出するため、更新時の処理も低負荷となる。従って、必要とされる固有ベクトルの個数Mが少ない場合に、主成分分析に要する計算負荷を低減することができる。
【0012】
なお、画像(オプティカルフローを含む)の情報を表現するには、原則として、画素数程度の(RGB値を各々を表現する場合であれば、画素数×3)情報が必要となる。従って、画像をベクトルで表現するとき、当該ベクトルの次元数Pは、非常に大きな値となる。そのため、画像に対応するベクトルを主成分分析する場合には、共分散行列の次元数Pも非常に大きくなり、計算負荷が多大になりがちである。しかしながら、一方で、画像の背景(オプティカルフローを含む)は、画像の次元数Pよりも大幅に少ない個数の固有ベクトルさえあれば、表現することができる。従って、以上の主成分分析のアルゴリズムを用いた第1観点の背景抽出装置によれば、画像の背景の抽出に必要な固有ベクトルのセットを、極めて低負荷で抽出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画像の背景の抽出を行う場合等、必要とされる固有ベクトルの個数が少ない場合に、主成分分析に要する計算負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る背景抽出装置/主成分分析装置を含む見守りシステムの概略構成を示すブロック図。
【図2】学習処理の流れを示すフローチャート。
【図3】オプティカルフローの概念図。
【図4】認識処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る背景抽出装置、主成分分析装置及び主成分分析プログラムを、高齢者等の見守りシステムに適用した場合の一実施形態について説明する。

【0016】
<1.見守りシステムの構成>
図1に示す見守りシステム100は、カメラ3と、カメラ3の遠隔に存在し、インターネットやLAN等のネットワーク6を介してカメラ3に接続されている監視コンピュータ1とを有する。カメラ3は、見守りの対象が存在する空間に配置され、見守りの対象を撮影するとともに、撮影した動画像(以下、対象動画像)をネットワーク6を介して監視コンピュータ1にリアルタイムに送信する。この機能を実現するため、カメラ3には、外付け又は内蔵の通信装置4が付属している。

【0017】
監視コンピュータ1は、本発明の一実施形態に係る背景抽出装置/主成分分析装置である。監視コンピュータ1には、CD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体5から、又はネットワーク6を介して別のコンピュータから、画像処理プログラム2がインストールされている。画像処理プログラム2は、対象動画像から移動体、すなわち、見守りの対象を検出する機能を有するアプリケーションソフトウェアである。画像処理プログラム2には、本発明の一実施形態に係る主成分分析プログラムである、主成分分析を行うためのプログラムモジュール2aが含まれる。画像処理プログラム2及びこれに含まれるプログラムモジュール2aは、監視コンピュータ1に後述する動作に含まれるステップを実行させる。

【0018】
本実施形態におけるカメラ3は、例えば、首振り式のカメラや、移動式のロボットに搭載されているカメラであり、対象動画像を撮影する視点が移動するカメラである。後述されるとおり、監視コンピュータ1に実装されている移動体を検出するためのアルゴリズムは、固定されているカメラで撮影した動画像を対象とする場合はもちろん、移動しているカメラで撮影した動画像を対象とする場合にも対応している。従って、監視コンピュータ1は、視点が移動するカメラ3で撮影された対象動画像においても、正しく移動体を検出することができる。

【0019】
監視コンピュータ1は、例えば、見守りの対象の異常を監視するサービスを提供する会社により管理されているサーバコンピュータである。この場合、このような会社の従業員が、見守りの対象を監視することもできるし、見守りの対象の家族等が、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の機器をネットワーク6を介して監視コンピュータ1に接続することにより、外出先から見守りの対象を監視することも可能である。また、上記のようなサーバコンピュータを省略し、カメラ3から直接、見守りの対象の家族等が所有している携帯電話やパーソナルコンピュータ等の機器に対象動画像が送信されるようにしてもよい。この場合、このような携帯電話やパーソナルコンピュータ等の機器が、監視コンピュータ1(本発明に係る背景抽出装置/主成分分析装置)に相当する。

【0020】
図1に示すとおり、監視コンピュータ1は、表示部10、入力部20、記憶部30、制御部40および通信部50を有する。これらの部10~50は、互いにバス線7で接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部10は、液晶ディスプレイ等で構成されており、適当な画面をユーザ(監視者)に対し表示するユーザーインターフェースである。また、入力部20は、マウスやキーボード、タッチパネル、操作ボタン等で構成されており、監視コンピュータ1に対するユーザ(監視者)からの操作を受け付けるユーザーインターフェースである。通信部50は、監視コンピュータ1をネットワーク6に接続するほか、USBメモリやメモリカード、CD-ROM、外付けハードディスク、デジタルカメラなどの外部記憶装置との間でデータ通信を行う通信インターフェースである。

【0021】
記憶部30は、RAMのような揮発性の記憶装置に加え、ROMやハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置から構成されている。記憶部30内の不揮発性の領域には、画像処理プログラム2が格納されている。また、記憶部30内の揮発性及び/又は不揮発性の記憶領域は、ベクトル格納部31、初期共分散行列格納部32、固有ベクトル格納部33及び低次元共分散行列格納部34として動作する。これらの部31~34の詳細については、後述する。

【0022】
制御部40は、CPU等から構成されており、記憶部30内に格納されている画像処理プログラム2を読み出して実行することにより、仮想的に学習部41、動き導出部42、近似部43、領域検出部44及び解釈部45として動作する。また、学習部41は、仮想的にオプティカルフロー導出部41a、初期共分散行列導出部41b、初期固有ベクトル導出部41c、固有ベクトル追加部41d、低次元共分散行列導出部41e及び固有ベクトル更新部41fとして動作する。各部41~45,41a~41fの動作については、後述する。

【0023】
<2.監視処理>
以下、見守りシステム100により高齢者等の見守りの対象が監視される処理(以下、監視処理)の流れについて、詳細に説明する。監視処理は、主として、学習処理と、認識処理とにより構成される。学習処理は、固有ベクトルのセットを学習する処理である。固有ベクトルのセットとは、学習用に撮影されるテスト動画像に含まれるテスト画像のオプティカルフローの集合を主成分分析することにより得られる固有ベクトルのセットである。固有ベクトルのセットは、対象動画像に捉えられたカメラ3の視点の動き(背景の動き)を評価するためのパラメータとなる。認識処理は、学習処理により設定された固有ベクトルのセットを用いて、対象動画像に捉えられたカメラ3の視点の動きをキャンセルし、それにより、対象動画像に捉えられた移動体の動きを検出する処理である。また、認識処理では、移動体の動きの解釈も行われる。以下、学習処理について説明した後、認識処理について説明する。

【0024】
<2-1.学習処理>
学習処理は、図2に示すフローチャートのとおりに実行される。まず、カメラ3によるテスト動画像の撮影処理が開始される(ステップS1)。テスト動画像は、固有ベクトルのセットの算出の元となる動画像である。なお、このとき使用されるカメラは、必ずしも認識処理で対象動画像を撮影するために使用されるカメラ3そのものである必要はなく、さらに、カメラ3と同じ機種のカメラである必要もない。しかしながら、学習処理では、カメラ3そのものか、又はカメラ3と同じ機種のカメラが使用されることが好ましい。なぜならば、レンズの歪曲度等の属性の異なるカメラにより撮影された動画像どうしは、カメラを全く同じように移動させながら、全く同一の風景を撮影したとしても、相違することになる。従って、認識処理で使用されるカメラと、学習処理で使用されるカメラとが相違すると、その分だけ、学習処理で導出されたパラメータを用いる認識処理での認識の精度が低下するからである。

【0025】
また、ステップS1で撮影される空間(以下、テスト空間)は、認識処理でカメラ3が見守る空間と同じである必要はない。なぜならば、後述するアルゴリズムから明らかなとおり、本実施形態に係る学習処理は、認識処理で見守られる空間の模様や明るさ等の図形のパターンを学習する処理ではなく、カメラ3の視点の動きのパターンを表現するための固有ベクトルのセットを学習する処理だからである。また、ステップS1では、カメラ3の視点を様々な方向に移動させながら、テスト空間が撮影される。これは、学習処理で学習される固有ベクトルのセットが、カメラ3のあらゆる視点の動きのパターンを表現することが可能なようにするためである。

【0026】
さらに、ステップS1で撮影されるテスト空間は、移動体が存在しない空間とされることが好ましい。なぜならば、既に述べたとおり、学習処理で学習されるのは、対象動画像に含まれるカメラ3の視点の動きを評価するためのパラメータだからである。従って、このようなパラメータの算出の基礎となるテスト動画像には、移動体の動きが反映されておらず、カメラ3の視点の動きのみが反映されていることが好ましい。

【0027】
続くステップS2では、ステップS1で撮影されたテスト動画像をカメラ3から監視コンピュータ1へネットワーク6を介して送信する送信処理が開始される。送信処理では、以上の撮影処理により一定量のテスト動画像が撮影される度に、当該一定量のテスト動画像が送信される。なお、他の実施形態では、テスト動画像は、ネットワーク6経由で送信されるのではなく、USBメモリ等の外部記憶装置を介して監視コンピュータ1へ受け渡されてもよい。或いは、カメラ3を直接監視コンピュータ1へ接続することで受け渡されてもよい。この場合には、固有ベクトルのセットの算出に必要な量のテスト動画像の撮影が完了した後、当該テスト動画像が一括して受け渡されるように構成することができる。

【0028】
次に、ステップS3では、オプティカルフロー導出部41aが、ステップS2のテスト動画像から、時々刻々のオプティカルフローDkを導出する導出処理を開始する(kは、時刻を表し、k=1,2,・・・と増加する)。オプティカルフローDkとは、図3に示すように、テスト動画像に含まれる時刻kでのフレーム内の各点pijにその点pijの動きを表すベクトルdij(k)を割り当てたものである(i=1,2,・・・,I、かつ、j=1,2,・・・,J)。ここで、点pijとは、テスト動画像のフレーム上に等間隔に並べられた点の格子状配列のうち、上からi番目で左からj番目の点である。ベクトルdij(k)は、テスト動画像の時刻kにおける点pijに対応する1又は複数個の画素が、時刻kから時刻k+1の間に移動した移動量で表される2次元ベクトル(dijx(k),dijy(k))である。また、dijx(k)及びdijy(k)はそれぞれ、テスト動画像のフレームが存在するXY平面内での時刻kでのX方向への移動量及びY方向への移動量であり、テスト動画像の時刻k及び時刻k+1でのフレームの画素値に基づいて算出される。

【0029】
すなわち、オプティカルフローDkとは、テスト動画像の時刻kにおけるフレーム内の様々な局所領域の動きを表すベクトル場であり、数1のとおり表すことができる。
【数1】
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なお、このようなオプティカルフローDkの具体的な算出方法については、勾配法やブロックマッチング法等の様々な方法が公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。

【0030】
オプティカルフロー導出部41aは、導出処理において、以上の送信処理により一定量のテスト動画像を取得する度に、当該一定量のテスト動画像に含まれるフレームのオプティカルフローDkを時系列に沿って順次導出してゆく。また、オプティカルフロー導出部41aは、オプティカルフローDkを導出する度に、これをベクトル格納部31内に格納する。すなわち、テスト動画像の送信、並びにオプティカルフローDkの導出及び格納は、テスト動画像の撮影に並行してリアルタイムに実行される。オプティカルフロー導出部41aは、N個のオプティカルフローD1,D2,・・・,DNが格納されるまで、ベクトル格納部31内にオプティカルフローDkを順次格納してゆく。Nは、本実施形態では、1000程度である。

【0031】
以下では、説明の便宜上、オプティカルフローDkを列ベクトルとして捉え直し、ベクトルVkと表すこととする。ベクトルVkの次元数Pは、2×I×Jである。本実施形態では、ベクトルVkは、画像のオプティカルフローであるための、例えば、P=10000程度である。

【0032】
続くステップS4,S5では、学習部41は、ベクトル格納部31内にL個のベクトルV1,V2,・・・,VL(Lは、L<Nを満たす自然数)が格納されるのを待って、これらのL個のベクトルV1,V2,・・・,VLに対し主成分分析を行う。本実施形態では、Lは、100程度である。

【0033】
まず、ステップS4では、初期共分散行列導出部41bは、ベクトル格納部31からベクトルV1,V2,・・・,VLを読み出し、ベクトルV1,V2,・・・,VLの共分散行例CLを導出する。共分散行列CLは、数2の式に基づいて導出される。なお、行列(ベクトル)を表す記号の右肩に付される「t」の文字は、転置行列を意味する。
【数2】
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共分散行列CLの次元数は、P=2×I×Jである。初期共分散行列導出部41bは、共分散行列CLを、初期共分散行列格納部32内に格納する。

【0034】
続くステップS5では、初期固有ベクトル算出部41cは、初期共分散行列格納部32から共分散行列CLを読み出し、共分散行列CLのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)及びM個の固有値λ1(L),λ2(L),・・・,λM(L)を算出する。また、共分散行列CLから導出可能な固有ベクトルの数はP個であるが、P個の全ての固有ベクトルが算出される必要はない。固有ベクトルは、背景の動きを表すオプティカルフロー(以下、背景オプティカルフロー)を表すのに十分な個数だけあれば足り、Mは、Pより大幅に小さく、例えば、5~10程度である。固有値λi(L)は、P個中i番目に大きい固有値であり、固有ベクトルui(L)は、固有値λi(L)に対応する(i=1,2,・・・,M)。そして、初期固有ベクトル算出部41cは、これらのM個の固有ベクトルu1(L),u2(L),・・・,uM(L)及びM個の固有値λ1(L),λ2(L),・・・,λM(L)を、固有ベクトル格納部33内に格納する。

【0035】
以後、ベクトルVL+1,VL+2,・・・,VNが順次1つずつ選択され、ステップS6~S8が、現在選択されているベクトル(以下、選択ベクトル)Vkに対し繰り返し実行される。なお、ステップS6~S8において様々な数式が使用されるが、数式の根拠については後述することとし、まずは処理の流れについて説明する。

【0036】
ステップS6では、固有ベクトル追加部41dは、ベクトル格納部31から選択ベクトルVkを読み出すとともに、固有ベクトル格納部33からM個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)を読み出す。そして、固有ベクトル追加部41dは、選択ベクトルVkに基づいて、M個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交する単位ベクトルを算出し、M+1番目の固有ベクトルuM+1(k-1)として設定する。固有ベクトルuM+1(k-1)は、数3の式に基づいて算出される。また、固有ベクトルuM+1(k-1)に対応する固有値λM+1(k-1)が、0と設定される。
【数3】
JP0006292613B2_000004t.gif

【0037】
ただし、ベクトルVkΔは、数4の式に基づいて算出される。なお、(行列,行列)は、2つの行列の内積を表す。
【数4】
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固有ベクトル追加部41dは、固有ベクトルuM+1(k-1)及びλM+1(k-1)を、固有ベクトル格納部33内に格納する。

【0038】
ステップS7では、低次元共分散行列導出部41eは、ベクトル格納部31から選択ベクトルVkを読み出すとともに、固有ベクトル格納部33からM+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)及びM+1個の固有値λ1(k-1),λ2(k-1),・・・,λM+1(k-1)を読み出す。そして、低次元共分散行列導出部41eは、これらの情報に基づいて、ベクトルV1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckを導出する。共分散行列Ckは、実際には、P次元の行列である。しかしながら、ここでは、低次元共分散行列導出部41eは、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)を用いて、共分散行列Ckを近似的にM+1次元の共分散行列Ck’として算出する。具体的には、低次元共分散行列導出部41eは、M+1次元の共分散行列Ck’のl行m列の要素glm(k)を、数5の式に基づいて算出する(l=1,2,・・・,M+1、かつ、m=1,2,・・・,M+1)。
【数5】
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【0039】
ただし、δは、0~1の間の定数であり、ciは、数6の式に基づいて(i=1,2,・・・,M+1)、δlmは、数7の式に基づいて算出される(l=1,2,・・・,M+1、かつ、m=1,2,・・・,M+1)。
【数6】
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【数7】
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すなわち、ステップS7では、P次元空間内のベクトルV1,V2,・・・,Vkを、M+1個の固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM+1(k-1)から形成されるM+1次元の固有空間内のベクトルとして近似的に捉えることにより、共分散行列Ckの次元数を低下させている。低次元共分散行列導出部41eは、M+1次元の共分散行列Ck’を、低次元共分散行列格納部34内に格納する。

【0040】
続くステップS8では、固有ベクトル更新部41fは、低次元共分散行列格納部34から共分散行列Ck’を読み出し、共分散行列Ck’のM個の固有ベクトルv1(k),v2(k),・・・,vM(k)及びM個の固有値λ1(k),λ2(k),・・・,λM(k)を算出する。固有ベクトルvi(k)は、固有値λi(k)に対応し、固有値λi(k)は、P個中i番目に大きい固有値である(i=1,2,・・・,M)。

【0041】
固有ベクトルv1(k),v2(k),・・・,vM(k)は、M+1次元のベクトルである。従って、固有ベクトル更新部41fは、数8の式に基づいて(i=1,2,・・・,M)、これらのM+1次元の固有ベクトルv1(k),v2(k),・・・,vM(k)を、P次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)に変換する。
【数8】
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ただし、vij(k)は、列ベクトルであるベクトルvi(k)のj番目の要素である。すなわち、ベクトルvi(k)は、vij(k)を用いて、数9の式のように与えられる(i=1,2,・・・,M)。
【数9】
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【0042】
固有ベクトル更新部41fは、M個のP次元の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)及びM個の固有値λ1(k),λ2(k),・・・,λM(k)を、固有ベクトル格納部33内に格納する。

【0043】
そして、最後のベクトルVNに対するステップS6~S8が終了すると、学習処理が終了する。学習処理が終了すると、固有ベクトル格納部33内には、N個のベクトルV1,V2,・・・,VNの最終的な主成分分析の結果として、M個のP次元の固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)が保持されている。以下では、簡単のため、固有ベクトルu1(N),u2(N),・・・,uM(N)を、それぞれ固有ベクトルU1,U2,・・・,UNと表す。

【0044】
なお、固有ベクトルU1,U2,・・・,UNとは、既に述べたとおり、テスト動画像から導出される多数のオプティカルフローDkから抽出される主成分である。また、テスト動画像とは、カメラ3の視点を様々な方向に移動させながらテスト空間を撮影したものである。従って、以上のような固有ベクトルU1,U2,・・・,UNを線型結合すれば、カメラ3のあらゆる視点の動き、すなわち、背景オプティカルフローを作成することが可能になる。

【0045】
以上のとおり、ステップS4~S8における主成分分析では、N個のベクトルV1,V2,・・・,VNの主成分分析を行うに当たり、まずはN個よりも少ないL個のベクトルV1,V2,・・・,VLに対して、低負荷で固有ベクトル及び固有値の初期値が算出される。そして、以後、残りのベクトルVL+1,VL+2,・・・,VNを順次用いて、固有ベクトル及び固有値が順次更新されてゆく。また、更新時のステップS7,S8は、初期値計算時のステップS4,S5と比べると、扱われる共分散行列の次元数がPからM+1まで低下している。従って、N個のベクトルV1,V2,・・・,VNからP次元の共分散行列CNを算出し、これを固有値分解する従来の処理に比べて、本実施形態に係る処理は短時間で終了する。特に、本実施形態では、Nは、1000程度、Pは、10000程度、Mは、5~10程度であるため、計算負荷は大幅に減少する。

【0046】
また、以上の学習処理では、L個のオプティカルフローD1,D2,・・・,DLが準備された後は、ステップS4~S8における主成分分析の処理が、テスト動画像の撮影及び送信、オプティカルフローDkの導出の処理と並行してリアルタイムに実行される。従って、計算時間がさらに短縮されるようになっている。

【0047】
以下、ステップS6~S8における固有ベクトルの更新時のアルゴリズムについて説明する。すなわち、固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)及び固有値λ1(k-1),λ2(k-1),・・・,λM(k-1)が与えられている場合に、固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)及び固有値λ1(k),λ2(k),・・・,λM(k)を算出する方法について、説明する。

【0048】
まず、V1,V2,・・・,Vkの共分散行列Ckは、数10のとおり表される。ただし、簡単のため、平均はゼロとする。
【数10】
JP0006292613B2_000011t.gif
数10の式を変形すると、共分散行列Ckは、共分散行列Ck-1を用いて数11のとおり表される。
【数11】
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δは、0<δ<1の範囲内で適宜設定可能な定数である。δが大きい程、直近のベクトルVkの影響が大きく、δが小さい程、過去の記憶が残っていることになる。

【0049】
ところで、ベクトルVkは、固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)を用いて、数12の式のVk’に近似することができる。ただし、ciは、数13(数6に同じ)の式で表されるものとする。
【数12】
JP0006292613B2_000013t.gif
【数13】
JP0006292613B2_000014t.gif

【0050】
このとき、ベクトルVkとベクトルVk’との差分ベクトルVkΔは、以下の数14のように表される。
【数14】
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ここで、差分ベクトルVkΔと任意の固有ベクトルuj(k-1)(j=1,2,・・・,M)との内積を数14に基づいて計算すると、数15のように変形され、値が0となる。
【数15】
JP0006292613B2_000016t.gif

【0051】
すなわち、ベクトルVkΔは、固有ベクトルu1(k-1),u2(k-1),・・・,uM(k-1)に直交している。従って、共分散行列Ck-1のもう1つの固有ベクトルuM+1(k-1)を、ベクトルVkΔをベクトルVkΔの大きさで除した単位ベクトルとして、数16(数3と同じ)のように表すことができる。
【数16】
JP0006292613B2_000017t.gif

【0052】
ところで、共分散行列Ckは、M個の固有ベクトルu1(k),u2(k),・・・,uM(k)を用いて、数17の式のとおり近似することができる。
【数17】
JP0006292613B2_000018t.gif
数11の式に数17の式を代入すると、数18の式となる。
【数18】
JP0006292613B2_000019t.gif

【0053】
ここで、共分散行列Ckのl行m列の要素は、数19の式により定義されるglm(k)表すことができる(l,mは、自然数)。
【数19】
JP0006292613B2_000020t.gif
数19の式に数18の式を代入して変形すると、数20(数5と同じ)の式が得られる。
【数20】
JP0006292613B2_000021t.gif

【0054】
ここで、l行m列(l=1,2,・・・,M+1,m=1,2,・・・,M+1)の要素をglm(k)とするM+1次元の行列Ck’を定義したとき、この行列Ck’の固有値方程式は、数21のようになる(iは、自然数)。
【数21】
JP0006292613B2_000022t.gif
数21の式は、数22の式(iは、自然数)で表されるP次元の共分散行列Ckの固有値方程式の別表現である。
【数22】
JP0006292613B2_000023t.gif
このとき、以上の2つの固有値方程式中のui(k)とvi(k)との間には、数23(数8と同じ)の関係がある。ただし、vij(k)は、数24(数9と同じ)で表される。
【数23】
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【数24】
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【0055】
以上より、固有ベクトルの更新時において、P次元の共分散行列Ckの固有値問題を、より低次元のM+1次元の固有値問題へと変換し、計算負荷を低減することができる。

【0056】
<2-2.認識処理>
続いて、図4を参照しつつ、学習処理後の認識処理について説明する。まず、認識処理と並行して、カメラ3により、時々刻々、認識処理の対象となる対象動画像が撮影される。対象動画像に含まれるフレームは、時々刻々、カメラ3から監視コンピュータ1へネットワーク6を介して送信され、記憶部30内に順次格納されてゆく。そして、記憶部30内に一定量のフレームが蓄積されると、図4に示す認識処理が開始される。

【0057】
認識処理では、図4に示すとおり、記憶部30内に格納されている対象動画像の各フレームに対し、ステップS11~S14が繰り返し実行される。まず、ステップS11では、その後のステップS12~S14の処理の対象として、記憶部30内に格納されている未処理のフレームのうち、最も過去の時刻kに撮影されたフレーム(以下、対象フレーム)が選択される。

【0058】
続いて、ステップS12では、動き導出部42が、時刻kでの対象フレームに対応するオプティカルフローEkを導出する。オプティカルフローEkは、テスト動画像の代わりに対象動画像を対象として、オプティカルフローDkと同様の方法で導出される。

【0059】
すなわち、オプティカルフローEkとは、対象フレーム内の様々な局所領域の動きを表すベクトル場である。また、オプティカルフローEkとは、時刻kから時刻k+1の間の移動体の動きと、カメラ3の視点の動き、すなわち、移動体の背景の動きとを表すベクトル場である。以下では、オプティカルフローDkと同様、オプティカルフローEkを列ベクトルとして捉え直し、ベクトルWkと表す。

【0060】
次に、ステップS13では、近似部43が、最小二乗法等の方法により、ステップS12で導出されたベクトルWkを、記憶部30内に格納されている固有ベクトルU1,U2,・・・,UNの線型結合として近似する。以下、この線型結合を表すベクトルをWk’と表す。このとき、ベクトルWk’は、M個の係数a1(k),a2(k),・・・,aM(k)を用いて、数25のように表される。従って、ステップS13は、N個の係数a1(k),a2(k),・・・,aM(k)を算出するステップである。
【数25】
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【0061】
ここで、既に述べたとおり、カメラ3の視点の動きは、固有ベクトルU1,U2,・・・,UNの線型結合として表すことが可能である。従って、ベクトルWkを固有ベクトルU1,U2,・・・,UNの線型結合として近似したベクトルWk’は、時刻kから時刻k+1の間のカメラ3の視点の動きを表していることになる。

【0062】
次に、ステップS14では、領域検出部44が、ベクトルWkとベクトルWk’との差分である差分ベクトルFk=Wk-Wk’を導出する。なお、ここでは、ベクトルWkからカメラ3の視点の動きを表すベクトルWk’を引くことで、ベクトルWkからカメラ3の視点の動きをキャンセルしている。すなわち、差分ベクトルFkは、時刻kから時刻k+1の間の移動体の動きを表すものとなる。

【0063】
続けて、領域検出部44は、差分ベクトルFkの各成分となるベクトルfij(k)の大きさを判断する(i=1,2,・・・,I、かつ、j=1,2,・・・,J)。そして、領域検出部44は、所定値よりも大きさの大きいベクトルfij(k)に対応する点pijを検出し、このような点pijを、時刻kの対象フレーム内で移動体の存在する領域として認識する。また、領域検出部44は、対象フレーム内で移動体の存在する領域を示す情報を記憶部30内に格納する。

【0064】
以上のステップS11~S14が繰り返されることにより、時々刻々のフレーム内での移動体の位置が検出される。図4に示すとおり、解釈部45は、適当な枚数のフレーム分の、移動体の存在する領域を示す情報が記憶部30内に蓄積される度に、対象動画像に捉えられた移動体の動きを解釈する(ステップS15)。また、解釈部45は、必要に応じて、その解釈の結果を表示部10及び通信部50を介して出力する。なお、移動体の動きを解釈するためのアルゴリズムとしては、様々なものが考えられるが、例えば、対象動画像から移動体として検出される見守りの対象となる高齢者等に何らかの異常が起こっていないか(適切な時間に起きて、活動しているか等)を判断することが考えられる。

【0065】
図4に示す認識処理は、以上のステップを記憶部30内から未処理のフレームがなくなるまで繰り返した後、終了する。

【0066】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。

【0067】
<3-1>
上記実施形態に係る主成分分析の方法は、画像の背景の抽出以外の任意の用途で利用可能である。ただし、画像の背景の抽出を行う場合等、必要とされる固有ベクトルの個数が少ない場合には、主成分分析に要する計算負荷を低減することができるため、特に有用である。

【0068】
<3-2>
上記実施形態に係る画像の背景の抽出の機能は、画像のオプティカルフローではなく、画像の画素値そのものを表すベクトルを対象とする場合にも使用することができる。この場合、ベクトルVkやWkを、画素値を表すベクトルとすればよい。なお、画像の背景を、オプティカルフローではなく画像の画素値そのもので表現する場合、画像の背景は、照明の変化や長時間放置される物体がある等、時間的に少しずつ変化する。このような場合には、学習処理を定期的に実行し、背景画像を表すための固有ベクトルのセットを定期的に更新することが好ましい。例えば、認識処理のステップS11において対象フレームを選択する度に、学習処理のステップS6~S8と同様の固有ベクトルの更新処理を実行し、その後、ステップS13において、当該最新の固有ベクトルのセットを用いて背景画像を表す線形結合を算出してもよい。

【0069】
<3-3>
上記実施形態では、LとMの大きさに関して特に制約は設けられなかったが、L≧Mとすることが好ましい。L<Mの場合、ステップS5で算出されるλ1(L),λ2(L),・・・,λM(L)の中にゼロとなるものが2つ以上出現することがあり、その場合、M個の固有値及び固有ベクトルの選択に任意性が生じてしまうからである。M個の固有ベクトルを用いて背景画像又は背景オプティカルフローを近似するに当たっては、固有値の大きい固有ベクトルU1,U2,・・・,UMを用意することが重要となるため、精度の観点からは、L≧Mが好ましい。
【符号の説明】
【0070】
1 監視コンピュータ(背景抽出装置、主成分分析装置)
2 画像処理プログラム
2a プログラムモジュール(主成分分析プログラム)
30 記憶部
31 ベクトル格納部
32 初期共分散行列格納部
33 固有ベクトル格納部
34 低次元共分散行列格納部
41 学習部(主成分分析部)
41a オプティカルフロー導出部
41b 初期共分散行列導出部
41c 初期固有ベクトル算出部
41d 固有ベクトル追加部
41f 固有ベクトル更新部
43 近似部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3