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明細書 :単分子トランジスタ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6799880号 (P6799880)
登録日 令和2年11月26日(2020.11.26)
発行日 令和2年12月16日(2020.12.16)
発明の名称または考案の名称 単分子トランジスタ
国際特許分類 H01L  51/30        (2006.01)
H01L  51/05        (2006.01)
H01L  29/786       (2006.01)
H01L  21/336       (2006.01)
FI H01L 29/28 220C
H01L 29/28 100A
H01L 29/78 618B
H01L 29/78 622
H01L 29/78 616U
H01L 29/78 616K
H01L 29/78 616T
請求項の数または発明の数 27
全頁数 44
出願番号 特願2020-503630 (P2020-503630)
出願日 平成31年2月28日(2019.2.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 第66回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,「炭素架橋オリゴフェニレンビニレン6(COPV6)単分子共鳴トンネルトランジスタ」,12p-W934-2,2019,07-128 第66回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,「Single Molecular Resonant-Tunneling Transistor (SMRT2) based on Quinoidal Fused Oligosilole Derivative(Si-2*2)bridged between H-ELGP Pt-based Nanogap Electrodes」,12p-W934-3,2019,07-129
国際出願番号 PCT/JP2019/007941
国際公開番号 WO2019/168124
国際公開日 令和元年9月6日(2019.9.6)
優先権出願番号 2018038093
優先日 平成30年3月2日(2018.3.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 令和2年3月17日(2020.3.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】真島 豊
【氏名】中村 栄一
【氏名】辻 勇人
【氏名】野崎 京子
【氏名】新谷 亮
【氏名】オオヤン チュン
【氏名】居藤 悠馬
【氏名】イ スンジュ
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000408、【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
審査官 【審査官】棚田 一也
参考文献・文献 特開2016-076542(JP,A)
特表2005-510060(JP,A)
国際公開第2017/132567(WO,A1)
国際公開第03/089515(WO,A1)
特開2010-073916(JP,A)
居藤 悠馬 ほか,炭素架橋オリゴフェニレンビニレン単分子ワイヤトランジスタ,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] The 64th JSAP Spring Meeting, 2017 [Extended Abstracts],公益社団法人応用物理学会,2017年 3月
CHUN Ouyang et al.,Coulomb Staircase on Rigid Carbon-bridged Oligo(phenylenevinylene) between Electroless Au Plated Nanogap Electrodes,<第63回>応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,2016年 3月
越村 将臣 ほか,無電解金メッキナノギャップ電極の初期電極膜厚依存性,<第63回>応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,2016年 3月
越村 将臣 ほか,白金上電解金メッキナノギャップ電極,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] The 64th JSAP Spring Meeting, 2017 [Extended Abstracts],公益社団法人応用物理学会,2017年 3月
浦山 修平 ほか,キノイド型縮環オリゴシロール単分子デバイスの電気伝導,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] The 64th JSAP Spring Meeting, 2017 [Extended Abstracts],公益社団法人応用物理学会,2017年 3月
調査した分野 H01L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
第1電極層と、前記第1電極層の先端部に配置された第1金属粒子とを有する第1電極と、
第2電極層と、前記第2電極層の先端部に配置された第2金属粒子を有する第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極から絶縁された第3電極と、
π共役骨格を有するπ共役分子と、を含み、
前記第1電極と前記第2電極とは、前記第1金属粒子と前記第2金属粒子とが対向し、間隙をもって配置され、
前記第1電極層及び前記第2電極層は前記先端まで20nm以下の均一の幅を有し、膜厚が20nm以下であり、
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子の一端から他端までの幅が20nm以下であり、
前記第3電極は前記第1金属粒子と前記第2金属粒子とが対向する間隙に隣接し、前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子と離隔して配置され、
前記第1電極層及び前記第2電極層の表面に、前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子に加え、複数の他の金属粒子を含み、
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子、並びに前記複数の他の金属粒子は、それぞれが前記第1電極層及び前記第2電極層の表面において相互に接触せず、離間して配置され、
前記π共役分子は前記第1金属粒子と前記第2金属粒子との間隙に配置され
前記第1電極層及び前記第2電極層が白金で形成され、前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子並びに前記他の金属粒子が金であることを特徴とする単分子トランジスタ。
【請求項2】
前記第1電極層及び前記第2電極層は上面及び側面を有し、
記第1金属粒子及び前記第2金属粒子は、それぞれ前記上面及び前記側面に接する、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項3】
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子が半球状である、請求項1又は2に記載の単分子トランジスタ。
【請求項4】
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子の曲率半径が12nm以下である、請求項3に記載の単分子トランジスタ。
【請求項5】
前記第1金属粒子が前記第1電極層の先端部分からせり出して配置され、前記第2金属粒子が前記第2電極層の先端部分からせり出して配置されている、請求項4に記載の単分子トランジスタ。
【請求項6】
前記第1電極層前記第1金属粒子、及び前記第2電極層前記第2金属粒子は、それぞれが前記接する界面で、前記白金と前記とが金属結合を形成している、請求項2に記載の単分子トランジスタ。
【請求項7】
前記第1金属粒子と前記第2金属粒子との間隙の長さが5nm以下である、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項8】
前記π共役分子の長さは5nm未満である、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項9】
前記π共役分子は、剛直な骨格で構成されたπ共役分子である、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項10】
前記π共役分子は、炭素(C)架橋を有するπ共役骨格を有する、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項11】
前記π共役分子は、π共役骨格の一端と他端に、前記第1金属粒子又は前記第2金属粒子と化学結合する元素を含む、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項12】
前記π共役分子は、π共役骨格と前記元素との間にアルキレン基、パーフロロアルキレン基(-(CF-)、オキシアルキレン基(-O-(CH-)、又はアザアルキレン基(-NH-(CH-)を含む、請求項11に記載の単分子トランジスタ。
【請求項13】
前記π共役分子が、末端がチオール基で置換された炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPVn(SH))である、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項14】
前記末端がチオール基で置換された炭素架橋オリゴフェニレンビニレンのユニット数が1~10である、請求項13に記載の単分子トランジスタ。
【請求項15】
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子の一方と、前記π共役分子の一端とが化学吸着している、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項16】
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子は金(Au)を含み、前記π共役分子の一端で硫黄(S)と金(Au)とが化学吸着している、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項17】
前記π共役分子の他端は、硫黄(S)と水素(H)とが結合している、請求項16に記載の単分子トランジスタ。
【請求項18】
前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子は金(Au)を含み、前記π共役分子の両端で硫黄(S)と金(Au)とが化学吸着している、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項19】
前記第1電極と前記第2電極との間に共鳴トンネル電流が流れる、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項20】
前記π共役分子の骨格部分と前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子とが、トンネル電流が流れる長さで離隔されている、請求項18に記載の単分子トランジスタ。
【請求項21】
前記π共役分子の骨格部分と前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子とが、トンネル電流が流れる長さで離間する部分において、前記骨格部分前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子と化学吸着する元素の間に、アルキレン基、パーフロロアルキレン基(-(CF-)、オキシアルキレン基(-O-(CH-)、又はアザアルキレン基(-NH-(CH-)を含む請求項18に記載の単分子トランジスタ。
【請求項22】
前記アルキレン基、パーフロロアルキレン基(-(CF-)、オキシアルキレン基(-O-(CH-)、又はアザアルキレン基(-NH-(CH)が前記骨格部分と前記化学吸着する元素との間で直線状に伸張している請求項21に記載の単分子トランジスタ。
【請求項23】
前記第3電極に一定電圧を印加し、前記第1電極及び前記第2電極の一方をソース、他方をドレインとしたときの電流電圧特性が温度の上昇に伴いオンオフ比が大きくなるように変化する、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項24】
前記π共役分子が、末端がオキシアルカンチオール基(-O-(CH-SH)で置換されたSi架橋キノイド型縮合オリゴシロール誘導体(Si-2×2)である、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項25】
オン状態におけるコンダクタンスが1μS以上である、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項26】
単電子トランジスタから共鳴トンネルトランジスタに動作機構が遷移する、請求項1に記載の単分子トランジスタ。
【請求項27】
前記第1電極及び前記第2電極が絶縁表面を有する基板上に設けられ、前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子が前記第1電極と前記第2電極との前記間隙に突出し、かつ前記絶縁表面から離れて設けられている、請求項1乃至26のいずれか一項に記載の単分子トランジスタ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は分子デバイスに係り、チャネルに相当する領域が分子で構成され、量子効果により電子又は正孔が流れるトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は、微細化技術の進歩に伴って著しい発展を遂げている。しかし、微細化に伴って幾つかの問題も顕在化している。例えば、トランジスタの短チャネル効果によるオフリーク電流の増大、ゲート絶縁膜の薄膜化によるゲートリーク電流の増大、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)構造における動作速度の向上限界、消費電力の増大、配線の高密度化による寄生容量増大といった様々な問題が指摘されている。

【0003】
このような技術的進歩の限界に直面し、材料を加工し微細化するトップダウン的手法ではなく、物質の最小単位である原子や構造が定義されている分子からデバイスを構成するボトムアップ的な手法、又はボトムアップ手法とトップダウン手法を組み合わせることによる新しい電子デバイスを実現する研究が進められている。例えば、数ナノメートルのギャップ長を有すナノギャップ電極を用い、ギャップ間に単一のナノ粒子や単分子を配置したナノデバイスの研究が進められている(非特許文献1乃至9参照。)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Pipit Uky Vivitasari1、Yasuo Azuma、Masanori Sakamoto、Toshiharu Teranishi、Yutaka Majima、「Molecular Single-Electron Transistor Device using Sn-Porphyrin Protected Gold Nanoparticles」、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、21a-S323-9、(2016年)
【非特許文献2】Chun Ouyang、Yousoo Kim、Kohei Hashimoto、Hayato Tsuji、Eiichi Nakamura、Yutaka Majima、「Coulomb Staircase on Rigid Carbon-bridged Oligo(phenylenevinylene) between Electroless Au Plated Nanogap Electrodes」、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、21a-S323-11、(2016年)
【非特許文献3】Yoonyoung Choi、Yasuo Azuma、Yutaka Majima、「Single-Electron Transistors made by Pt-based Narrow Line Width Nanogap Electrodes」、第77回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、13a-C42-2、(2016年)
【非特許文献4】東 康男、大沼 悠人、坂本 雅典、寺西 利治、真島 豊、「ナノ粒子単電子トランジスタにおけるゲート容量のナノギャップ電極形状依存性」、第77回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、13a-C42-3、(2016年)
【非特許文献5】Yoon Young Choi、Yasuo Azuma、Yutaka Majima、「Study of Single-Electron Transistor based on Platinum Nanogap Electrodes」、KJF International Conference on Organic Materials for Electronics and Photonics、PS-004、(2016年)
【非特許文献6】Yoon Young Choi、Yasuo Azuma、Yutaka Majima、「Robust Pt-based Nanogap Electrodes for Single-Electron Transistors」、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、14p-E206-7、(2017年)
【非特許文献7】居藤 悠馬、Chun Ouyang、橋本 康平、辻 勇人、中村 栄一、真島 豊、「炭素架橋オリゴフェニレンビニレン単分子ワイヤトランジスタ」、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、14a-E 206-2、(2017年)
【非特許文献8】浦山 修平、Seung Joo Lee、津田 知拓、高野 遼、新谷 亮、野崎 京子、真島 豊、「キノイド型縮環オリゴシロール単分子デバイスの電気伝導」、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、14a-E206-3、(2017年)
【非特許文献9】Pipit Uky Vivitasari、Yoon Young Choi、Ain Kwon、Yasuo Azuma、Masanori Sakamoto、Toshiharu Teranishi、Yutaka Majima、「Gate Oscillation of Chemically Assembled Single-Electron Transistor Using 2 nm Au Nanoparticle」、第78回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、7a-PB1-4、(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、共鳴トンネル効果を発現する単分子トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタは、第1電極層と第1電極層の一端部に配置された第1金属粒子とを有する第1電極と、第2電極層と第2電極層の一端部に配置された第2金属粒子を有する第2電極と、第1電極及び第2電極から絶縁された第3電極と、π共役骨格を有するπ共役分子とを含み、第1電極と第2電極とは、第1金属粒子と第2金属粒子とが対向し間隙をもって配置され、第1金属粒子及び第2金属粒子の一端から他端までの幅が10nm以下であり、第3電極は第1金属粒子と第2金属粒子とが対向する間隙に隣接し、第1金属粒子及び第2金属粒子と離隔して配置され、π共役分子は第1金属粒子と第2金属粒子との間隙に配置されている。
【0007】
本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタは、5nm以下の間隙をもって一対の金属粒子が配置されたナノギャップ電極と、一対の金属粒子の間隙に配置された機能分子と、一対の金属粒子の間隙に隣接して配置され、機能分子に電場の作用を与えるゲート電極とを含み、ナノギャップ電極間に共鳴トンネル電流が流れる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、一対の金属粒子が相対するナノギャップ電極の間隙にπ共役分子を配置することで、共鳴トンネル電流が流れるトランジスタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの概念を示す。
【図2A】共鳴トンネル効果を説明するバンドモデルを示す図であり、Vg=0の状態を示す。
【図2B】共鳴トンネル効果を説明するバンドモデルを示す図であり、Vg>0の状態を示す。
【図3A】オリゴフェニレンビニレンの構造であって、3つのビニレン部位を有するオリゴフェニレンビニレン(OPV3)を示す。
【図3B】オリゴフェニレンビニレンの構造であって、3つのビニレン部位を有するオリゴフェニレンビニレンにおいてOPVユニットの結合部を炭素原子で架橋した構造(COPV3)を示す。
【図4】末端がチオール基で置換された炭素架橋オリゴフェニレンビニレンの分子構造の三次元イメージを示す。
【図5】末端をチオール基で置換した炭素架橋オリゴフェニレンビニレンの分子軌道を、密度汎関数法を用いて計算した結果を示す。
【図6A】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの平面図を示す。
【図6B】図6Aにおいて点線で囲まれた領域Rの拡大図を示す。
【図6C】図6AにおいてA1-A2間に対応する断面図を示す。
【図7A】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの構成を説明する図であり、COPVnの一端のSH結合が切れて、硫黄(S)と金(Au)とが化学結合をして電極間に配置される態様を示す。
【図7B】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの構成を説明する図であり、COPVnの両端の硫黄(S)が金(Au)とそれぞれ化学結合をして電極間に配置される態様を示す。
【図7C】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの構成を説明する図であり、COPVnが化学結合を形成せず電極間に遊離した状態で配置されている状態を示す。
【図8A】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの作製方法を説明する図であり、金属膜を形成する段階を示す。
【図8B】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの作製方法を説明する図であり、金属膜をパターニングしてナノスケールの間隙を有する電極を形成する段階を示す。
【図8C】本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの作製方法を説明する図であり、金属粒子を作製する段階を示す。
【図9A】実施例で作製された単分子トランジスタのSEM像を示す。
【図9B】単分子トランジスタにおいて、ナノギャップ電極の間隙に単分子が配置された状態を示す概念図を示す。
【図10】実施例で作製された単分子トランジスタの電気的特性を示し、(A)はドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示し、(B)は微分コンダクタンス特性を示すグラフを示す。
【図11】実施例で作製された単分子トランジスタのゲート電圧(Vg)を、0V、2V、4V、6V、-2V、-4V、-6V、-8Vと変化させた場合の特性を示す。
【図12】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電圧(Vd)対ゲート電圧(Vg)特性を二次元プロットした結果を示す。
【図13】単電子トランジスタにおけるオーソドックスモデルを用いた理論解析結果と実験結果の比較結果を示す。
【図14】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示す。
【図15】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Vd)対ゲート電圧(Vg)特性を二次元プロットした結果を示す。
【図16A】実施例で作製された単分子トランジスタの伝達特性を示すグラフであり、ドレイン電圧(Vd)が-1.4Vの場合の温度依存性(9K、80K)を示す。
【図16B】実施例で作製された単分子トランジスタの伝達特性を示すグラフであり、ドレイン電圧(Vd)が-1.7Vの場合の温度依存性(9K、80K)を示す。
【図17】実施例で作製された単分子トランジスタのゲート電圧(Vg)を+6V、-6V印加した場合のドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示す。
【図18】単分子トランジスタの9Kと120Kのエネルギーダイアグラムを説明する概念図を示す。
【図19】実施例で作製された単分子トランジスタのSEM像を示す。
【図20】実施例で作製された単分子トランジスタの電気的特性を示し、(A)はドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示し、(B)はドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)の対数特性を示し、()は微分コンダクタンス特性を示すグラフを示す。
【図21】COPV6(SH)の分子軌道を、密度汎関数法を用いて計算した結果を示す。
【図22A】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性を示す。
【図22B】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性を示す。
【図23】実施例で作製された単分子トランジスタの微分コンダクタンス特性のゲート電圧依存性を示す。
【図24】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を室温で測定した結果を示す。
【図25】実施例で作製された単分子トランジスタの室温で測定されたドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性を示す。
【図26】Si-2×2ペンタンチオール分子の分子軌道を、密度汎関数法を用いて計算した結果を示す。
【図27】実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示す。
【図28】実施例で作製された単分子トランジスタの9Kにおけるドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性のドレイン電圧(Vd)依存性を示す。
【図29】実施例で作製された単分子トランジスタの室温におけるドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性のドレイン電圧(Vd)依存性を示す。
【図30】実施例で作製された単分子トランジスタの9Kにおけるドレイン電流(Id)及び微分コンダクタンスのドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対する二次元プロットを示す。
【図31】実施例で作製された単分子トランジスタの室温におけるドレイン電流(Id)及び微分コンダクタンスのドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対する二次元プロットを示す。
【図32】実施例で作製された単分子トランジスタの室温におけるドレイン電流(Id)及び微分コンダクタンスのドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対する二次元プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号(又は数字の後にa、bなどを付した符号)を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有さない。

【0011】
本明細書において、ナノギャップ電極とは、特段の断りがない限り、一対の電極間に間隙(ギャップ)を有し、間隙の長さ(ギャップ長)がナノギャップ長を有する電極をいうものとする。ナノギャップ長とは10nm以下の長さを指すものとする。

【0012】
1 単分子トランジスタの原理
1-1 単分子トランジスタの構造モデル
本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタについて図面を参照して説明する。

【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る単分子トランジスタの概念図を示す。単分子トランジスタ100は、ナノギャップ電極102と、ナノギャップ電極102の間隙に隣接して配置されるゲート電極112と、間隙に配置される機能分子110とを含む。単分子トランジスタ100は、ゲート電極112にゲート電圧が印加され、ナノギャップ電極102にゲート電圧によって変調される電流が流れる。機能分子110はゲート電極112から絶縁され、ゲートバイアスによって生成される電場が作用する領域に配置される。

【0014】
ナノギャップ電極102は、第1電極104aと第2電極104bとを含む。第1電極104aと第2電極104bとは、単分子を配置できる間隙を有するようにそれぞれの一端が対向して配置される。第1電極104aと第2電極104bとの間隙は、例えば、5nm又はそれ以下の長さで配置される。ナノギャップ電極102は、第1電極104aがソース電極、第2電極104bがドレイン電極として用いられる。第1電極104aにはソース電圧が印加され、第2電極104bにはドレイン電圧が印加され、ゲート電極112にはゲート電圧が印加される。

【0015】
機能分子110は、構造が一意的に規定される単分子であり、単分子固有の分子軌道を有する。機能分子110は、剛直でフラットな構造を有し、ねじれに強い形を有していることが好ましい。機能分子110としては、例えば、π共役分子であり、炭素架橋π共役分子であることが好ましい。機能分子110は、ナノギャップ電極102の一方又は双方の電極(第1電極104a、第2電極104b)に化学吸着し又は結合を形成することで固定される。

【0016】
図1は、機能分子110の一例として、炭素架橋フェニレンビニレン化合物を示す。例示される機能分子110において、nは、例えば0~9の整数を表す。R1~R8は、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。R1~R8はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基であってもよい。アリール基は、フェニル基又はナフチル基等の炭化水素系アリール基であるのことが好ましい。中でもフェニル基が好ましい。アリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の例には、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルキル基、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルコキシ基、及びフェニル基等のアリール基が含まれる。置換基としてのアリール基も、上記アルキル基又はアルコキシ基等の1以上の置換基を有していてもよい。また、R1~R8がそれぞれ置換基を有するフェニル基である例では、置換基の結合位置については特に制限ないが、パラ位の炭素原子に結合しているのが好ましい。

【0017】
機能分子110は、ナノギャップ電極102と化学吸着するアンカー基(Z及びZ)を含む。また、機能分子110は、アンカー基(Z及びZ)と骨格部分との間にリンカー基(Y及びY)が含まれていてもよい。アンカー基(Z及びZ)は、ナノギャップ電極102と化学吸着する原子を含む。リンカー基(Y及びY)は、アンカー基(Z及びZ)と機能分子の骨格部分とを繋ぐ基であり、例えば直鎖によって形成される。リンカー基(Y及びY)は、機能分子110の骨格部とナノギャップ電極102との距離を制御するために設けられ、例えば、リンカー基(Y及びY)としては、アルキレン基(-(CH-)、パーフロロアルキレン基(-(CF-)を用いることができる。リンカー基(Y及びY)の長さを変えることで、機能分子110の骨格部分とナノギャップ電極102との距離を変えることができる。機能分子110において、アンカー基(Z及びZ)とリンカー基(Y及びY)が配置される部分は、実質的にトンネル障壁116が形成される。


【0018】
本実施形態に係る単分子トランジスタ100は、剛直な構造を有し、ねじれに強い形を有する機能分子110と、熱的に安定なナノギャップ電極102とにより、構造的ゆらぎと状態密度幅のゆらぎを抑制している。単分子トランジスタ100は、このような剛直な構造を有することにより、共鳴トンネル効果を発現し、ナノギャップ電極102間に共鳴トンネル電流が流れる。

【0019】
1-2 単分子トランジスタの動作原理
本実施形態で述べる共鳴トンネル効果とは、ある分子が2つのポテンシャル障壁に挟まれた構造を有し、入射する電子のエネルギーが分子軌道に基づくエネルギー準位と一致したとき、電子がエネルギーの減衰無く障壁を通り抜ける量子現象をいう。単分子トランジスタ100は、機能分子110が持つ固有の分子軌道のエネルギー準位を、ゲート電極112に印加するゲート電圧で変調し、ナノギャップ電極102のフェルミ準位と一致させることにより、オンとオフの状態が制御される。

【0020】
図2A及び図2Bは、共鳴トンネル効果を説明するバンドモデルを示す。図2Aは、離散化した2つのエネルギー準位(最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital:HOMO)と最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO))を持つ機能分子110が2つのトンネル障壁116に挟まれている系を示す。縦軸がエネルギー、横軸が空間に相当する距離を表す。機能分子110の右端から横方向に延ばした線が、EHOMO、ELUMOに対応する斜線で囲まれた領域と交差する位置における右端からの線の長さが、そのエネルギーにおける分子軌道のエネルギー準位密度に対応する。図2Aでは、2つのトンネル障壁116が同じ高さである場合を仮定している。電圧が印加されないとき(V=0)、電子はトンネル障壁116を乗り越えることができず電流は流れない。一方、図2Bに示すように、ナノギャップ電極102に電圧が印加され、フェルミ準位が機能分子110の持つエネルギー準位と等しくなると、トンネル確率が増加して電流が流れる。図2Bでは、ナノギャップ電極102のフェルミ準位が機能分子のHOMO準位と等しくなった状態で、共鳴トンネル電流が流れる現象を示している。

【0021】
共鳴トンネル効果を効果的に発現させるには、離散化したエネルギー準位の状態密度が大きく、その幅が狭く、揺らぎが小さいことが求められる。分子は、ナノスケールでの均一性と離散化したエネルギー準位を持ち、そのエネルギー準位は分子設計によって制御することが可能である。分子の持つエネルギー準位は状態密度に幅があり、分子構造が揺らげば状態密度の幅も揺らいでしまう。そして、分子構造が揺らいでしまうと、常温でトランジスタを動作させることが出来ないという問題がある。

【0022】
そこで、本実施形態では、π共役分子の構造が剛直であり、π軌道を通じて電子移動が見込まれることに着目し、機能分子110としてπ共役分子を用いる。特に、機能分子110として、炭素(C)で架橋されたπ共役骨格を有するπ共役分子は、剛直な骨格構造を有していると考えられるため、共鳴トンネル効果を発現するには好ましいと考えられる。

【0023】
2 π共役分子
機能分子110として用いることのできる、π共役分子の一例を示す。ここでは、π共役結合による剛直な平面構造を有する炭素架橋オリゴフェニレンビニレンを例示する。

【0024】
2-1 炭素架橋オリゴフェニレンビニレン
機能分子110の一例として、オリゴフェニレンビニレン(OPV)について説明する。図3Aは3つのビニレン部位を有するオリゴフェニレンビニレン(OPV3)を示す。OPV3は、ユニットを繋ぐ結合部が隣接する水素原子により影響を受け、平面構造をとりにくい構造を有している。すなわち、OPV3は、水素原子の反発により結合がねじれ、平面構造をとりにくい構造を有している。一方、図3Bは3つのビニレン部位を有するオリゴフェニレンビニレンにおいて、OPVユニットの結合部を炭素原子で架橋した構造を有する(COPV3)。COPV3は、このような構造を有することで、平面構造を有し、ねじれにくい分子構造を実現している。

【0025】
炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV)をユニットとし、このユニットを5つ結合させ、末端がチオール基で置換された炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV5(SH)2)の構造を式(1)に示す。

【0026】
【化1】
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1~R20は、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。R1~R20はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基であってもよい。アリール基は、フェニル基又はナフチル基等の炭化水素系アリール基であるのことが好ましい。中でもフェニル基が好ましい。アリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の例には、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルキル基、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルコキシ基、及びフェニル基等のアリール基が含まれる。置換基としてのアリール基も、上記アルキル基又はアルコキシ基等の1以上の置換基を有していてもよい。また、R1~R20がそれぞれ置換基を有するフェニル基である例では、置換基の結合位置については特に制限ないが、パラ位の炭素原子に結合しているのが好ましい。例えば、式(1)においてR1~R4及びR17~R20はCH3であり、R5~R8及びR13~R16はC65であり、R9~R12は4-C81764であってもよい。

【0027】
図1において、末端基Z及びZはそれぞれ同一又は異なる置換基であり、チオール基以外のものでもよい。具体的には、アミノ基、ピリジル基、ホスホニル基など、孤立電子対(lone pair)で電極に配位できるもの、もしくは元素(酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、リン(P)等)を介して電極元素と共有結合を形成するものを表す。


【0028】
なお、図1において、末端基Y及びYはそれぞれ同一又は異なるリンカー基であり、アルキレン基(-(CH-)、パーフロロアルキレン基(-(CF-)等を用いることができる。


【0029】
図4は、COPV5(SH)の分子構造の三次元イメージを示す。COPV5(SH)の主鎖である炭素架橋部が中心に位置し、その周りに側鎖の炭素が配置された構造を有し、鎖状で、フラットな結合が形成されていることを示す。骨格部の両端にはアンカー(Z及びZ)として硫黄(S)が配置されている。図4に示されるCOPV5(SH)の分子の長さは5nm未満である。このように、機能分子110は、5nm以下の長さを有することで、ナノギャップ電極102の間隙に配置することができ、単電子効果を発現させることができる。この分子の吸光スペクトルは512nmであり、HOMO準位とLUMO準位間のエネルギーギャップは2.42eVである。


【0030】
なお、末端をチオール基で置換した炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPVn(SH)2)は、COPVユニットの数に限定はないが、1~10個の範囲であることが好ましい。

【0031】
2-2 DFT計算によるCOPV5(SH)2の分子軌道計算
図5は、COPV5(SH)の分子軌道を、密度汎関数法を用いて計算した結果を示す。計算にはソフトウェアとして「gaussian09」を用いている。交換相関汎関数にはBeckeの混成法による交換汎関数B3と、Lee-Yan-Parrの相関汎関数を組み合わせたB3LYPを使用している(Becke and D. Axel, Phys. Rev. A, 38, 3098, (1988)、C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B, 37, 785, 1988)。また、基底関数には6-31Gを使用している(W. J. Hehre, R. Ditchfield and J. A. Pople, J. Chem. Phys., 56, 2257, (1972))。


【0032】
図5は、真空準位をエネルギーの基準点とし、(B)~(E)はそれぞれCOPV5(SH)2のLUMO+1(-1.46eV)、LUMO(-1.82eV)、HOMO(-4.50eV)、HOMO-1(-4.94eV)の準位における分子軌道を示している。図5に示すように、どの準位においても主鎖のπ共役結合系によって電子軌道が共有されている様子が明確に確認される。また、HOMO準位とLUMO準位は、COPV5(SH)2のSH基が結合している炭素原子と、それに繋がる炭素原子は他の炭素基と電子軌道を共有していないことがわかる。この計算結果からCOPV5(SH)2のHOMO-LUMO間のエネルギーギャップは2.67eVであると計算されている。

【0033】
3 単分子トランジスタの構成
3-1 単分子トランジスタの構造
図6Aは、本実施形態に係る単分子トランジスタ100の平面図を示し、図6Bは点線で囲まれた領域Rの拡大図を示し、図6CはA1-A2間に対応する断面構造を示す。

【0034】
単分子トランジスタ100は、基板118上に設けられたナノギャップ電極102と、ナノギャップ電極102の間隙に配置された機能分子110と、機能分子110に隣接するゲート電極112とを含む。ナノギャップ電極102は、第1電極104a及び第2電極104bの一端部が相対し、間隙をもって配置される。ゲート電極112は、第3電極104cと第4電極104dとで構成される。図6Aは、第1電極104a及び第2電極104bが矩形状であり、それぞれの長手方向の一端が対向し、ナノギャップ長の間隙をもって配置され、当該間隙に機能分子110が配置された構造を示す。

【0035】
基板118は、シリコンウェハ、石英基板、アルミナ基板、無アルカリガラス基板等が用いられる。基板118として、シリコンウェハが用いられる場合、第1電極104a、第2電極104b、第3電極104c、及び第4電極104dを形成する表面の絶縁性を確保するために、絶縁膜120が設けられることが好ましい。絶縁膜120としては、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化マグネシウム膜等の無機絶縁膜で形成される。

【0036】
図6Bは単分子トランジスタ100を構成するナノギャップ電極102の詳細を示す。第1電極104aは第1電極層106aと第1金属粒子108aを含んで構成され、第2電極104bは第2電極層106bと第2金属粒子108bを含んで構成される。なお、電極層とは、金属膜等の導電性を有する薄膜をパターニングして電極として機能し得る形状に成形されたものをいう。

【0037】
第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、例えば、走査電子顕微鏡等で観察される外観形状の少なくとも一部又は全体が半球状の外形を有している。第1金属粒子108aは第1電極層106aの先端部に、第2金属粒子108bは第2電極層106bの先端部にそれぞれ配置される。第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、例えば、無電解メッキにより形成されたものであることが好ましい。

【0038】
図6Bは、第1電極層106aと第2電極層106bとの間隔をL1とし、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとの間隔をL2として示す。ナノギャップ電極102は、第1電極層106aと第2電極層106bのそれぞれの端部(先端部)の間隔L1を、20nm以下、好ましくは15nm以下の長さで配置することが好ましい。また、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとで形成される間隙の長さ(ギャップ長)L2は、機能分子110を配置することのできる長さで設けられる。例えば、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bにより形成される間隙の長さ(ギャップ長)L2は、5nm以下の長さで設けられる。第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、ナノスケールの大きさを有しているが、後述されるように、無電解メッキにおいて自己停止機能を発現させることで、相互に接触することが防止される。

【0039】
第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、第1電極層106a及び第2電極層106bのそれぞれの表面で一つの塊(又は島状の領域)として設けられる。第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、疎水性表面に滴下された水滴のように半球状の外観形状を有する。ここで、半球状とは曲面が連続する球状表面をいうものとし、真球表面に限定されるものではない。ナノギャップ電極102は、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bが大粒径化しないことが好ましい。また、第1電極層106a上の第1金属粒子108a及び第2電極層106b上の第2金属粒子108bは、平面視において、一端から他端までの幅が20nm以下、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下であることが望まれる。なお、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの幅は、第1電極層106a及び第2電極層106bのそれぞれの表面上において観測される孤立した金属粒子の最大幅を意味するものとする。

【0040】
第1電極層106a及び第2電極層106bの幅は、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの幅と略同じ幅を有していることが好ましい。第1電極層106a及び第2電極層106bの幅Wは、20nm以下、好ましくは15nm以下とすることで、より好ましくは10nm以下とすることで、先端部に優先して金属粒子108を成長させることができる。別言すれば、第1電極層106a及び第2電極層106bの幅を、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの幅と同じ幅とすることで、第1電極層106a及び第2電極層106bの一端に形成される金属粒子の数をそれぞれ一つに制御することができる。仮に、第1電極層106a及び第2電極層106bの幅を20nm以上にすると、金属粒子108が一端に複数個並置される確率が増加するため、幅Wの値は20nm以下とすることが好ましい。

【0041】
ナノギャップ電極102は、第1電極層106a及び第2電極層106bが第1金属で形成され、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bが第2金属で形成される。第1金属と第2金属の組み合わせは適宜選択され得るが、第1金属と第2金属とが金属結合を形成し、また合金を形成する組み合わせであることが好ましい。このような組み合わせにより、第1電極層106aの表面に半球状の金属粒子108aを、第2電極層106bの表面に第2金属粒子108bを、他の金属粒子から孤立した状態で設けることができる。

【0042】
また、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、第1金属と第2金属によって形成された固溶体であってもよい。第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bが固溶体を形成することで固溶強化し、ナノギャップ電極102の機械的安定性を高めることができる。

【0043】
ナノギャップ電極を形成するための金属材料として、金(Au)は導電率、化学的安定性の観点から好適であると考えられる。しかし、金(Au)はナノスケールになると融点が低下し、レイリー不安定性により不安定になることが知られている。例えば、金(Au)は、直径が10nm以下のナノ粒子になると、個々の粒子として形状を保つことができないことが知られている。一方、ナノギャップ電極102を用いて単分子トランジスタ100を実現するには、熱的な安定性が必要となる。

【0044】
ここで、ナノスケールの曲率半径を有する金属表面の表面エネルギーは、曲率半径の逆数に比例する。曲率半径の異なる形状が存在すると、金属原子はレイリー不安定性により、表面拡散しエネルギーの安定な曲率半径の大きい球形となろうとする。表面拡散の移動速度は、表面自己拡散係数に比例し、温度の逆数に反比例する。表面張力は、曲率半径の逆数に比例する。金属原子の表面拡散は、曲率半径が小さくなればなるほど起きやすくなる。

【0045】
例えば、基板上に形成されたチタン(Ti)膜の表面に、電子線蒸着により金(Au)を成膜し、線幅20nm以下の電極を作製しようとすると、レイリー不安定性により電極形状が常温で変化してしまう。これは、金(Au)の常温における表面自己拡散係数が約10-13cm2/secと高いことに起因するものと考えられる(C. Alonso, C. Salvarezzo, J. M. Vara, and A. J. Arvia, J. Electrochem. Soc. Vol. 137, No. 7, 2161 (1990))。

【0046】
そこで、ナノギャップ電極102は、第1電極層106a及び第2電極層106bを形成する第1金属の表面自己拡散係数が、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを形成する第2金属の表面自己拡散係数よりも小さい組み合わせを適用する。別言すれば、第1電極層106a及び第2電極層106bを第1金属で形成し、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを第2金属で形成する場合において、第1金属と第2金属との金属結合が存在する表面における第2金属の表面自己拡散係数が、第2金属の表面自己拡散係数よりも小さくなる組み合わせを適用する。このような組み合わせにより、第2金属の表面拡散が抑制され、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを、半球状の形態を有し、独立した粒子として形成することができる。

【0047】
第1金属と第2金属の組み合わせの一例は、第1金属として白金(Pt)を用い、第2金属として金(Au)を用いることである。具体的には、第1電極層106a及び第2電極層106bを白金(Pt)で形成し、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを金(Au)で形成することが好ましい一態様として例示される。

【0048】
これを実現するための好適な方法の一例として、常温における表面自己拡散係数が10-13cm2/secである金(Au)と、表面自己拡散係数が約10-18cm2/secである白金(Pt)とを組み合わせることで、レイリー不安定性の影響を解消し、構造的に安定なナノギャップ電極102を得ることができる。すなわち、電極材料として好適な金(Au)を使用しつつ、金(Au)に対して表面自己拡散係数が小さい白金(Pt)を組み合わせることで、金(Au)の成長過程における表面自己拡散を抑制し、金ナノ粒子の形状安定性を大幅に改善することができる。白金(Pt)は、融点が1768℃と高く、耐熱性に優れ、硬質であり、化学的にも安定であり、耐久性が高いという特性を有する。また、白金(Pt)は、金(Au)と金属結合を形成するので、白金(Pt)表面に金(Au)の粒子を成長させる過程で、金(Au)の表面拡散が抑制され、半球状表面を有する金(Au)粒子を安定的に存在させることが可能となる。

【0049】
また、金(Au)の表面自己拡散係数が約10-13cm/secであり、白金(Pt)の表面自己拡散係数が約10-18cm/secと5桁小さく、金(Au)と白金(Pt)との合金が存在するため、白金(Pt)表面上の金(Au)原子の表面自己拡散係数は、金(Au)上の金(Au)原子の表面自己拡散係数と比較して小さくなる。したがって、白金(Pt)で形成される第1電極層106a及び第2電極層106bの表面における、金(Au)で形成される第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの横方向(面内方向)拡散が抑制されることが期待される。


【0050】
第2金属(金(Au))で形成される第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、第1金属(白金(Pt))で形成される第1電極層106a及び第2電極層106bの表面で、横方向の拡散が抑制されることとなるので、大粒径化が抑制され、小さな半球状の粒子となる。例えば、金(Au)で形成される第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、白金(Pt)で形成される第1電極層106a及び第2電極層106bの表面で、平面視において、一端から他端までの幅が20nm以下、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下となり、その形状を安定的に保持することが可能となる。また、このような半球状の第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、曲率半径が12nm以下であることが好ましい。

【0051】
第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bは、このような曲率半径を有することにより、ナノギャップ電極102隣接してゲート電極112として機能する第3電極104c及び第4電極104dの一方又は双方を配置したとき、静電容量を大きくすることができる。それにより、ナノギャップ電極102の間隙に配置される機能分子110に電場を作用させ、単分子トランジスタ100のゲート変調を可能とすることができる。


【0052】
なお、本実施形態では、第1電極層106a及び第2電極層106bを形成する第1金属として白金(Pt)を用い、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを形成する第2金属として金(Au)を用いる場合を例示するが、本発明はこれに限定されない。第1金属と第2金属とが合金を形成し、上記のような表面自己拡散係数の関係を満たすものであれば、他の金属材料を用いることもできる。

【0053】
第1電極層106a及び第2電極層106bを形成する白金(Pt)層は絶縁表面に設けられる。第1電極層106a及び第2電極層106bは、白金(Pt)層と下地面との間に、他の金属層が設けられていてもよい。図6Cに示すように、白金(Pt)層の密着性を向上させるために、白金(Pt)層と下地面との間にチタン(Ti)層が設けられていてもよい。白金(Pt)層の密着性を向上させる層はチタン(Ti)に限定されず、クロム(Cr)、タンタル(Ta)等の他の遷移金属で形成される層が適用されてもよい。

【0054】
図6Cに示すように、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの断面は半球状であり、湾曲状の表面を有している。そのため、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bが相対する先端部分は、基板118の表面から離れて浮いているので、第3電極104c及び第4電極105dの一方又は双方に電圧を印加すると、強い電界を機能分子110に作用させることができる。

【0055】
機能分子110は、例えば、COPVn(n=4~6)が用いられる。機能分子110として用いられるCOPVnはワイヤ状の分子であり、両端にSH結合を有している。図7AはCOPVnの一端のSH結合が切れて、硫黄(S)と第2金属粒子108bを形成する金(Au)とが化学結合をし、第1電極104aと第2電極104bとの間隙に固定される態様を示す。硫黄(S)と金(Au)の結合エネルギーは高いので、COPVnはナノギャップ電極102の間隙に固定され、安定的に保持される。また、図7Bは、COPVnの両端の硫黄(S)が、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを形成する金(Au)とそれぞれ化学結合をしていてもよい。COPVnの両端が固定されることにより、分子のねじれがより防止され、構造的な安定性を高めることができる。他の態様として、図7Cに示すように、COPVnは、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの双方と化学結合を形成せずに、第1電極104aと第2電極104bとの間隙に遊離した状態で配置されていてもよい。


【0056】
図6Aに示すように、ゲート電極112として機能する第3電極104c及び第4電極104dは、機能分子110から絶縁されている。第3電極104c及び第4電極104dは、ゲート電圧が印加されると、第1電極104aと第2電極104bとの間に共鳴トンネル電流が流れるように、第1電極104a及び第2電極104bのフェルミ準位と、機能分子110の分子軌道のエネルギー準位の相対的な関係を変化させる。

【0057】
ゲート電極112として用いられる第3電極104c及び第4電極104dは、一方が省略されていてもよい。また、図6Aは、ゲート電極112として機能する第3電極104c及び第4電極104dが、ナノギャップ電極102と同一平面に設けられる態様を示すが、本発明はこれに限定されない。例えば、第3電極104c及び第4電極104dは、機能分子110と重畳するように、絶縁膜を挟んでナノギャップ電極102の下層側又は上層側に配置されていてもよい。

【0058】
なお、図6Aに示すように、第1電極104aは第1パッド114aと接続され、第2電極104bは第2パッド114bと接続されていてもよい。第1パッド114a及び第2パッド114bは任意の構成であり、適宜設けられていればよい。

【0059】
本実施形態に係る単分子トランジスタ100は、熱的に安定なナノギャップ電極102と、平面骨格を有し構造的に安定なπ共役分子を間隙に配置する機能分子110と用いることで、ソース電極として用いられる第1電極102aとドレイン電極として用いられる第2電極102bとの間に共鳴トンネル電流を流すことができ、ゲート電極に印加するゲート電圧で変調できる。そして、このような動作を室温においても実現することができる。


【0060】
3-2 単分子トランジスタの作製方法
単分子トランジスタ100の作製方法の一例を、図面を参照して説明する。単分子トランジスタ100の作製工程は、ナノギャップ電極102を作製する段階と、ナノギャップ電極102の間隙に機能分子110を配置する段階を含む。

【0061】
3-2-1 ナノギャップ電極の作製
図8Aは、金属膜を形成する段階を示す。基板118としては、絶縁表面を有することが好ましく、微細なパターンを形成するために、平坦性に優れ、反りの小さいことが望まれる。例えば、基板118として、酸化シリコン膜等の絶縁膜120が表面に形成されたシリコンウェハを好適に用いることができる。シリコンウェハの表面に熱酸化で形成された絶縁膜120は緻密であり、膜厚の均一性に優れるため適している。また、基板118として、石英基板、無アルカリガラス基板、アルミナ、ジルコニア等の絶縁性を有する酸化物材料で形成されるセラミック基板等を用いることができる。

【0062】
図8Aに示すように、絶縁膜120の上面に、第1金属膜122a、第2金属膜122bが形成される。例えば、第1金属膜122aはチタン(Ti)で形成され、第2金属膜122bは白金(Pt)で形成される。金属粒子を付着させる母体となる部分は第2金属膜122bによって形成される。第1金属膜122aは必須の構成ではなく、第2金属膜122bの下地面との密着性を高めるために適宜設けられる。第1金属膜122a及び第2金属膜122bは、電子線蒸着法、スパッタリング法等の薄膜作製技術を用いて作製される。第1金属膜122aとしてチタン(Ti)膜を2nm~10nm、例えば5nmの厚さに、第2金属膜122bとして白金(Pt)膜を5nm~20nm、例えば10nmの厚さに形成される。

【0063】
図8Bは、第1金属膜122a、第2金属膜122bをパターニングしてナノスケールの間隙(ギャップ)を有する第1電極104a及び第2電極104bを形成する段階を示す。第1金属膜122a及び第2金属膜122bのパターニングはフォトリソグラフィ又は電子線リソグラフィ技術を用いて行われる。この工程は、レジストマスクを形成し、第1金属膜122a及び第2金属膜122bをエッチングすることにより、第1電極104aと第2電極104bとが作製される。レジストマスクは、エッチングの後に剥離される。第1電極104aと第2電極104bとの間隔L1は、20nm以下、好ましくは15nm以下、例えば、7.5nmで作製される。また、第1電極層106a及び第2電極層106bの幅は、20nm以下、好ましくは15nm以下、例えば、17nmで作製される。

【0064】
なお、図示しないが、金属膜を形成する前に、基板118上にレジストマスクを形成しておき、その後、第1金属膜122a及び第2金属膜122bを形成し、レジストマスクを剥離することにより、第1金属膜122a及び第2金属膜122bをリフトオフし、第1電極104aと第2電極104bを作製してもよい。

【0065】
図8Cは、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bを作製する段階を示す。第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bとしては、例えば、金(Au)の粒子が形成される。金(Au)粒子は、無電解メッキ法により作製することができる。無電解金メッキで用いる溶液および還元剤としては、有毒物質であるシアン化合物(cyanide)がよく知られている。しかし、本実施形態では、ヨードチンキを用いて無電解金メッキを行う。無電解金メッキでは、無電解メッキ液としては、ヨードチンキと金箔を溶かしたものと、還元剤はL(+)-アスコルビン酸(C686)を用いる。

【0066】
無電解メッキにより、第1電極層106a及び第2電極層106bのそれぞれの表面に第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bをそれぞれ成長させる。無電解金メッキを行った場合には、金(Au)粒子が成長する。第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとは、第1電極層106aと第2電極層106bとの表面の任意の位置にそれぞれ成長する。しかし、第1電極層106a及び第2電極層106bの一端部は、20nm以下の幅で形成されることにより、端部において核形成が優先される。その結果、第1電極層106aの端部に第1金属粒子108aを成長させ、第2電極層106bの端部に第2金属粒子108bを成長させることができる。

【0067】
無電解金メッキの過程では、第1電極層106a及び第2電極層106bの表面にアスコルビン酸と金の1価のプラスイオンが存在し、アスコルビン酸が還元剤として作用するので、電子のある状態が形成される。このとき第1電極層106a及び第2電極層106bの表面では、表面自己触媒反応により、金イオンが還元されて金となり、メッキされる。それにより、図8Cに示すように、第1電極104a及び第2電極104bのそれぞれの端部に第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bがそれぞれ成長する。しかし、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bが成長し大きくなると、2つの金属粒子の間隔が狭まってくる。そうすると、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとの間でヘルムホルツ層(電極表面に吸着した溶媒や溶質分子、溶質イオンの層)が形成され、金イオンが間隙の中に入っていけない状態が形成される。したがって、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとの間隔が狭くなるとメッキが進行しなくなる。すなわち、拡散律速の反応系を利用することで、自己停止機能が働いてギャップ間隔の制御をすることが可能となる。

【0068】
第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bのそれぞれは半球状の形態で、第1電極層106a及び第2電極層106bのそれぞれの表面に生成する。半球状表面を有する第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの一端から他端までの幅を20nm以下とすることが好ましい。また、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの曲率半径は、12nm以下であることが好ましい。第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bの端から他端までの幅、曲率半径は、無電解メッキの処理時間により制御することが可能である。


【0069】
第1電極層106a及び第2電極層106bを白金(Pt)により形成した場合、白金(Pt)表面で還元され析出した金(Au)は、白金(Pt)と金属結合をする。それにより、白金(Pt)表面で金(Au)は横方向の拡散が抑制され、球状表面を形成するように成長する。

【0070】
このように、従来ではあまり用いられない白金(Pt)表面への無電解金メッキを行うことにより、図8Cに示すように、第1金属粒子108aと第2金属粒子108bが近接し、間隙をもって配置されたナノギャップ電極102が作製される。第1金属粒子108aと第1電極層106a、及び第2金属粒子108bと第2電極層106bとは、実質的に、金(Au)と白金(Pt)とが金属結合しているので、第1金属粒子108aは安定的に第1電極層106bの表面に配置され、第2金属粒子108bは安定的に第2電極層106bの表面に配置される。

【0071】
3-2-2 無電解メッキの原理
本実施形態で用いられる無電解メッキ液としては、ヨードチンキ液(エタノール溶媒にIとKIを溶かした溶液)に金箔を溶かしたものが用いられる。このような無電解メッキ液を用いると、金の飽和状態による化学反応を用いた自己触媒型の無電解金メッキを行うことができる。


【0072】
この無電解メッキの原理は以下の通りである。ヨードチンキに溶かした金は飽和状態となり、次の平衡状態が成り立つ。
【化2】
JP0006799880B2_000003t.gif
【化3】
JP0006799880B2_000004t.gif

【0073】
ヨードチンキ溶液の内では以下の平衡状態が成り立つ。
【化4】
JP0006799880B2_000005t.gif

【0074】
式(4)は吸熱反応であり、溶液を加熱することで平衡は右に傾く。そこで、I、Iが発生し、式(2)と式(3)の反応より三価の金イオン(Au3+)が生成される。この状態で、還元剤となる(+)-アスコルビン酸(CO6)を投入することで、式()の還元反応によりIイオンの割合が増加する。
【化5】
JP0006799880B2_000006t.gif

【0075】
この反応で電極を溶液に浸漬させると、化学平衡の式(2)と式(3)の反応は金が無電解メッキする左側の反応へ向かう。

【0076】
白金電極表面の上で一価の金イオン(Au+)が還元されて核となる。また、核となる金表面では自己触媒型の無電解金メッキが進行する。このメッキ溶液でL(+)-アスコルビン酸は過飽和状態であるため、I3-はI-に還元され続け、エッチングは抑制される。

【0077】
上記のように、めっき浴中では、白金表面上での一価の金イオン(Au+)の還元による核形成無電解金メッキと、金(Au)核上の無電解金めっきの2つの反応が競争的に起こる。

【0078】
本実施形態によれば、無電解メッキ法を用いることで、ナノギャップ電極の間隙の長さ(ギャップ長)を精密に制御することが可能となる。より具体的には、白金(Pt)表面に、無電解金メッキを行うことで、間隙の長さ(ギャップ長)が5nm以下であるナノギャップ電極を作製することができる。さらに、無電解メッキ液として、無毒性のヨードチンキと金箔を溶かしたものと、還元剤はL(+)-アスコルビン酸(C686)を用いることで、室温において一度に大量にナノギャップ電極を作製することができる。

【0079】
3-2-3 ナノギャップ電極への機能分子の導入
ナノギャップ電極102の間隙に機能分子110を配置する方法に限定はないが、例えば、ディップ法により行われる。ディップ法は、機能分子110を溶液中に分散させておき、ナノギャップ電極102が形成された基板118を当該溶液中に浸漬させる。機能分子110が分散された溶液は、基板118全体を覆うことができる以上の機能分子110が存在するようにしておくことが好ましい。それにより、ナノギャップ電極102の間隙に確実に機能分子110を配置することが可能となる。

【0080】
その後、基板118を機能分子110が分散された溶液から取り出し、乾燥させることで、図6A、図6B、図6Cに示すような、単分子トランジスタ100が完成する。

【0081】
以上、説明したように、本実施形態によれば、数ナノメートルの長さの間隙を有するナノギャップ電極を用い、当該間隙に単一の機能分子を配置したナノデバイスを実現することができる。機能分子として、剛直性を有するπ共役分子を適用することで、量子効果を発現させ、共鳴トンネル電流を流すことのできるトランジスタを実現することができる。
【実施例1】
【0082】
4 単分子トランジスタの作製例
以下に、単分子トランジスタの作製例を示す。本実施例で作製される単分子トランジスタは、図6A、図6B、図6Cで説明される単分子トランジスタと同様の構成を有する。
【実施例1】
【0083】
4-1 ナノギャップ電極の作製
ナノギャップ電極を作製する工程は、第1電極層106a及び第2電極層106bとして白金電極を作製する段階と、第1金属粒子108a及び第2金属粒子108bとして無電解金メッキにより白金電極上に金粒子を成長させる段階を含む。
【実施例1】
【0084】
4-1-1 白金電極の作製
白金電極を作製する基板として、表面に酸化シリコン膜が形成されたシリコンウェハを用いた。基板は、アセトン、エタノールを用いた超音波洗浄、紫外線(UV)オゾン処理等により洗浄を行い、清浄な表面を形成した。
【実施例1】
【0085】
基板の表面(酸化シリコン膜の表面)に、電子線レジスト溶液(ZEP-520A(日本ゼオン株式会社)とZEP-A(日本ゼオン株式会社)を混合したレジスト溶液)をスピナで塗布してレジスト膜を形成し、さらにプレベークを行った。レジスト膜が形成された基板を電子線描画装置(ELIONIX製ELS-7500EX)にセットし、レジスト膜に電子線描画を行い、電極を形成するためのパターンが形成されたレジスト膜を形成した。その後、現像処理を行い、描画部分(電極パターンに対応する部分)が開口するレジストパターンを形成した。
【実施例1】
【0086】
次に、パターンが形成されたレジスト膜の上から、電子線蒸着装置(島津製作所製E-400EBS)を用いてチタン(Ti)膜を形成し、さらに白金(Pt)膜を成膜した。チタン(Ti)膜は白金(Pt)膜の密着性を改善するために形成した。チタン(Ti)膜の膜厚は3nmとし、白金(Pt)膜の膜厚は10nmとした。
【実施例1】
【0087】
チタン(Ti)膜と白金(Pt)膜が積層された基板を剥離液(ZDMAC(日本ゼオン株式会社製))に浸漬して静置させた、バブリングを行うことで、パターンが形成されたレジスト膜を剥離した。チタン(Ti)膜と白金(Pt)膜が積層された金属層は、レジスト膜の剥離と共にリフトオフした。これによって、レジスト膜の開口パターンの部分に金属層が残存し、他の部分はレジスト膜と共に剥離され取り除かれた。このようにして、基板上に、白金電極(より正確には、チタン/白金が積層された電極)を作製した。
【実施例1】
【0088】
4-1-2 無電解金メッキ
白金電極上に、金(Au)粒子を形成した。金(Au)粒子は、白金極上に、無電解金メッキにより形成した。無電解金メッキを行うに当たっては、無電解メッキ液を調製し、その後メッキ処理を行った。

【実施例1】
【0089】
4-1-2-1 無電解金メッキ液の作製
純度99.99%の金(Au)箔を容器に入れ、ヨードチンキを加えて攪拌し、その後静置させた。さらに、L(+)-アスコルビン酸(C686)を加え、加熱後静置させた。静置させた溶液は遠心分離機で分離させた。遠心分離後の溶液の上澄みを採取し、L(+)-アスコルビン酸(C686)が入った別の容器に加えて加熱し、攪拌した。その後、静置して無電解メッキに用いる金(Au)を含有するヨードチンキ液を作製した。
【実施例1】
【0090】
4-1-2-2 無電解金メッキ
無電解金メッキを行う前に、白金電極の洗浄を行った。洗浄は、アセトンおよびエタノールにより行った。洗浄後、窒素ブローで表面を乾燥させ、UV-オゾン処理により表面の有機物を取り除いた。
【実施例1】
【0091】
無電解金メッキの前処理を行った。白金(Pt)電極の前処理として、表面を酸で処理した。
【実施例1】
【0092】
メッキ浴に超純水と金(Au)を含有するヨードチンキ液を入れ、無電解メッキ液の濃度を調整した。メッキ浴に、金(Au)を含有するヨードチンキ液8μlに対し、超純水を8ml加えた。白金電極が形成された基板を10秒間浸漬させた。メッキ浴から取り出された基板は、超純水でリンスした後、エタノールとアセトンで順次ボイルした。その後、ブローをして基板を乾燥させた。
【実施例1】
【0093】
4-1-3 ナノギャップ電極への機能分子の導入
ナノギャップ電極102が形成された基板118を洗浄した。洗浄は、アセトンとエタノールによるボイリングと、酸素プラズマ処理により行った。
【実施例1】
【0094】
機能分子として、末端をチオール基で置換した炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV5(SH)2)を用いた。COPV5(SH)2はトルエンに可溶であるため、本実施例ではトルエンを溶媒として用いた。50μMのCOPV5(SH)2を溶かしたトルエン溶液を作製し、その溶液中にナノギャップ電極が形成された基板を浸漬した。具体的には、ナノギャップ電極が形成された基板を、COPV5(SH)2を含むトルエン溶液中に、常温下で4時間含浸させた。その後、溶液から取り出された基板を、窒素ブローにより乾燥させた。
【実施例1】
【0095】
以上の工程により、単分子トランジスタが作製された。図9Aは、本実施例により作製された単分子トランジスタのSEM像を示す。図9Aは、第1電極(S)と第2電極(D)により間隙(ギャップ)が形成され、第3電極(SG1)と第4電極(SG2)がゲート電極として設けられている構造を示す。
【実施例1】
【0096】
図9Bは、ナノギャップ電極102の間隙にCOPV5(SH)2が配置された状態を示す概念図である。半球状表面を有する第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとの間隙に、COPV5(SH)2が配置される。COPV5(SH)2は、一端の硫黄(S)が金属粒子108の金(Au)と化学結合を形成している。もう一端はSH結合が残存し、金属粒子108からは遊離した状態を示している。硫黄(S)と金(Au)は結合が安定であるので、COPV5(SH)2は、一端と他端が第1金属粒子108aと第2金属粒子108bとを架橋するように配置される。
【実施例1】
【0097】
5 単分子トランジスタの特性(COPV5(SH)2
次に、本実施例で作製された単分子トランジスタの電気的特性を示す。なお、単分子トランジスタは、図9Aに示すように、ナノギャップ電極の一方をソース電極とし、他方をドレイン電極として用いた。また、ナノギャップ電極間にはCOPV5(SH)2が配置され、ナノギャップ電極の間隙を挟むように配置されたゲート電極によりゲート電圧を印加した。
【実施例1】
【0098】
5-1 ドレイン電流対ドレイン電圧特性(Id-Vd特性)
図10は、単分子トランジスタの電気的特性を示し、グラフ(A)はドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示し、グラフ(B)は微分コンダクタンス特性を示す。
【実施例1】
【0099】
ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性は、測定温度を9Kとし、ゲート電圧(Vg)を0Vと8Vとした場合について測定した。図10において、グラフ(A)に示す特性から明らかなように、作製された単分子トランジスタは、ドレイン電圧(Vd)がプラス側とマイナス側で異なる、非対称な特性が観測された。特に、ドレイン電圧(Vd)がマイナス側の場合、電流値が著しく増加する特性が観測された。この非対称な電流電圧特性は、ゲート電圧(Vg)を8Vとした場合、さらに大きな変化として観測された。単電子効果による電流電圧特性の場合、プラス側、マイナス側での電流変化は対称な特性になることから、この動作は単電子効果以外の効果を介した電気伝導が発生していると考えられた。
【実施例1】
【0100】
図10において、グラフ(B)に示す微分コンダクタンス特性では、ドレイン電圧(Vd)のプラス側に2つ及びマイナス側に2つ、合計4つのコンダクタンスピークが確認された。ピーク位置はゲート電圧によって異なるが、ドレイン電圧(Vd)が1V未満の領域に現れるピークをプラス側の第1ピークとし、1.1V以上の領域に表れるピークをプラス側の第2ピークとして、それぞれ丸付き数字で示す。また、ドレイン電圧(Vd)がマイナス側の領域においても、同様に、-1V未満の領域に表れるピークをマイナス側の第1ピークとし、-1V以上の領域に表れるピークをマイナス側の第2ピークとして丸付き数字で示している。
【実施例1】
【0101】
プラス側の第1ピーク、第2ピーク、マイナス側の第1ピーク、第2ピークはいずれもゲート電圧(Vg)を印加することによってピークの位置が変化し、それぞれのピークがシフトしていることが観測された。ゲート電圧(Vg)として-8Vを印加すると、3つのピーク(プラス側の第1ピーク、第2ピーク、及びマイナス側の第1ピーク)は、ピーク位置がマイナス側にシフトし、マイナス側の第2ピークのみピーク位置が-1.47Vから-1.31Vへとプラス側にシフトする変化が観測された。このプラス側へのピーク位置のシフト量の絶対値は、他の3つのピークのシフト量の絶対値より大きく、顕著に変化することが観測された。
【実施例1】
【0102】
図11は、ゲート電圧(Vg)を、0V、2V、4V、6V、-2V、-4V、-6V、-8Vと変化させた場合の、単分子トランジスタの特性を示す。図11において、グラフAは、ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示し、グラフBはその部分拡大図を示し、グラフCは伝達曲線を示す。
【実施例1】
【0103】
図11において、グラフAに示すように、ゲート電圧(Vg)がマイナス側に増加するに従い、ドレイン電圧(Vd)が-1.3V付近からドレイン電流(Id)が急激に増加する傾向が観測される(矢印A参照)。また、ドレイン電圧(Vd)が+0.8V付近ではドレイン電流(Id)の立ち上がりでキンクの様子が変化している傾向が観測されている(矢印B参照)。また、ドレイン電流(Id)の値が変化するドレイン電圧(Vd)の値も、ゲート電圧(Vg)によって変化しており、マイナス側の第1ピークは、ゲート電圧(Vg)の増加に従い、マイナス側に、その他のピークはゲート電圧(Vg)の増加に従いプラス側にシフトする傾向が観測される。
【実施例1】
【0104】
図11において、グラフBは、ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性の拡大図を示す。ゲート電圧(Vg)によって変化するドレイン電流(Id)は、ドレイン電圧(Vd)が-1.2V付近から立ち上がる傾向が観測されている。ドレイン電圧(Vd)の変化によって、ドレイン電流(Id)は4×10-10Aから、3×10-9Aまで増加し、飽和する傾向が見られている。単分子トランジスタは、この範囲でゲート電圧(Vg)を掃引することで、スイッチング動作をさせることが可能であることが示されている。
【実施例1】
【0105】
図11において、グラフCに示す特性は、ドレイン電圧(Vd)が-1.35V、-1.40V、-1.45Vにおける、ドレイン電流(|Id|)対ゲート電圧(Vg)特性を示す。この特性はトランジスタにおける伝達曲線として用いられる。グラフCに示す特性では、ドレイン電圧(Vd)が、-1.35V、-1.40V、-1.45Vの3つの電圧水準において、ゲート電圧(Vg)の変化に伴ってドレイン電流(|Id|)が変化している。単電子トランジスタの場合、クーロンオシレーションが発生するため、ドレイン電流(Id)が飽和する挙動は考えにくい。また、電界効果トランジスタの場合においては、チャネル領域の深さをゲート電圧によって制御する機構であることから、ゲート電圧(Vg)がマイナスの領域で、ドレイン電流(|Id|)が飽和し、かつ、プラスの領域でドレイン電流が一定の値となることを説明することはできない。
【実施例1】
【0106】
コヒーレント共鳴トンネリングの場合、ドレイン電流(Id)はソース電極及びドレイン電極のフェルミ準位から真空準位方向への波動関数の重なりの積分に比例する。分子が形成する分子軌道は、半導体におけるエネルギーバンド構造とは異なり、離散的なエネルギー準位を有する。単分子トランジスタにドレイン電圧を印加し、分子のあるエネルギー準位にソース電極及びドレイン電極のフェルミ準位が近づくと、電流-電圧特性の傾きは電極-分子間接合のコンダクタンスと等しくなり、電流値は増加を始める。
【実施例1】
【0107】
さらにドレイン電圧(Vd)を増加させ、フェルミ準位が次のエネルギー準位が近づくとコンダクタンスは更に上昇する。このエネルギー準位をゲート電圧によって変化させることでドレイン電流(Id)を変調させることができる。このようなドレイン電流(Id)は、共鳴トンネル電流によるものであると判断される。
【実施例1】
【0108】
ここでソース電極及びドレイン電極のフェルミ準位を一定に保つと、ゲート電圧を変化させることによってドレイン電流(Id)が飽和する2つの領域の間で分子のエネルギー準位をエネルギー方向に変調することができる。図11においてグラフCに示す伝達特性はこのコヒーレント共鳴トンネリング動作を用いた電気伝導であると考えられる。同図におけるオンオフ比(ON/OFF比)は約5.5である。
【実施例1】
【0109】
以上の結果は、本実施例において、COPV5(SH)2を用い作製された素子は、共鳴トンネル電流をゲート電圧で変調するトランジスタであることが明らかとなった。すなわち、本実施例によって作製された素子は、単分子共鳴トンネルトランジスタであることが明らかとなった。
【実施例1】
【0110】
5-2 ドレイン電圧対ゲート電圧特性(Vd-Vg特性)
図12は、単分子トランジスタにおいて流れるドレイン電流のドレイン電圧(Vd)対ゲート電圧(Vg)特性の二次元プロットを示し、グラフAはLog|Id|特性(Vd=0.5~1.5V)を示し、グラフBはグラフAの対数微分コンダクタンス特性を示し、グラフCはLog|Id|特性(Vd=-0.5~-1.5V)を示し、グラフDはグラフCの対数微分コンダクタンス特性を示す。
【実施例1】
【0111】
図12において、グラフA及びグラフCに示す特性から、ドレイン電流(Id)の変化は、ドレイン電圧(Vd)がプラスの場合とマイナスの場合の双方で観測され、ドレイン電圧(Vd)の増加に対してドレイン電流(Id)が飽和する特性が観測された。また、グラフB及びグラフDに示す特性から、ドレイン電圧(Vd)のプラス側、及びマイナス側で観測されるそれぞれの第1コンダクタンスピークは、ゲート電圧(Vg)の変化に対し同じ値を示し、マイナス側で観測される第2コンダクタンスピークは、明瞭に確認された。この結果より、単分子トランジスタにゲート電圧を印加することで、ドレイン電流を変調させることが可能であることが示された。
【実施例1】
【0112】
5-3 単一分子ワイヤトランジスタにおけるクーロンブロッケード現象の検討
図13は、単電子トランジスタにおけるオーソドックスモデル(A. Hanna and M. Tinkham, Phys. Rev. B, 44, 5919, 1991)を用いた理論解析結果と実験結果の比較結果を示す。具体的には、オーソドックスモデルによるドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性の理論値と実験値の比較を示し、それぞれのゲート電圧(Vg)を変化させた場合におけるフィッティング結果を示す。図13は、理論値を実線で示し、実験値を○印と実線でプロットされたデータとして示す。
【実施例1】
【0113】
図13において、(A)はVg=-8V、(B)はVg=-6V、(C)はVg=-4V、(D)はVg=-2V、(E)はVg=0V、(F)はVg=+2V、(G)はVg=+4V、(H)はVg=+6Vの場合を示す。
【実施例1】
【0114】
ゲート電圧(Vg)が-6Vの場合において、ドレイン電圧(Vd)が-1.3V付近で生じる電流の立ち上がりは、オーソドックスモデルではフィッティングできず、別の電導機構、つまりコヒーレント共鳴トンネル効果で生じていると考えられる。理論値算出に使用したトンネル抵抗Rd、Rsの比率を見るとドレイン側のトンネル抵抗であるRdがソース側のトンネル抵抗Rsと比較して2分の1以下の値となっていることがわかる。
【実施例1】
【0115】
仮に、COPV5(SH)2のSH基が両側の電極に化学吸着している場合、左右のトンネル抵抗の比率に大きな差が出るとは考えにくい。よって、実施例で作製された単分子トランジスタは、COPV5(SH)2がドレイン側に化学吸着しており、片側はSH基から真空準位を介して電気伝導が行われ、ここで観測されたトンネル抵抗の比率の差が生まれていると考えられる。
【実施例1】
【0116】
5-4 単分子トランジスタの温度依存性
本実施例と同じ条件で作製された単分子トランジスタを用い、温度特性を評価した結果を示す。
【実施例1】
【0117】
-4-1 ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)の温度依存性
図14は、単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示すグラフ、そのドレイン電流(Id)を対数軸でプロットしたグラフ、及びコンダクタンス特性の温度特性のグラフを示す。グラフAは9K、グラフBは40K、グラフCは80K、グラフDは120Kにおける測定結果を示す。

【実施例1】
【0118】
各グラフに示される縦に引かれた2本の直線は、ドレイン電圧(Vd)の増加に伴い流れはじめる一つ目の弱いコンダクタンスピークのマイナス側とプラス側のドレイン電圧(Vg)の位置を示している。このコンダクタンスピークの電圧幅は、温度9Kにおいて3.24V、温度40Kにおいて2.91V、温度80Kにおいて2.69V、温度120Kにおいて2.35Vとなっており、温度が上昇するにつれてコンダクタンスピーク電圧幅が狭くなる方向に変化している。さらに、温度が120Kにおいては、コンダクタンスピークを明確に確認することが難しくなっている。
【実施例1】
【0119】
これら2つの小さなコンダクタンスピークは単電子効果によって発生していると考えられる。しかし、このコンダクタンスピーク電圧幅は単分子トランジスタにおけるチャージングエネルギーとして得られる電流制限帯の幅としては非常に広い。さらにこの電圧幅はCOPV5(SH)2分子のHOMO準位とLUMO準位のギャップエネルギーの値に近い値を示していることから、分子軌道に起因する単電子効果が生じていると考えられる。
【実施例1】
【0120】
一方、ドレイン電圧(Vd)がプラス側ではコンダクタンスピークが弱くなるのに対し、マイナス側ではコンダクタンスピークが弱くならないことから、この電気伝導はコヒーレント共鳴トンネル効果によるものであると考えられる。
【実施例1】
【0121】
-4-2 ドレイン電圧(Vd)対ゲート電圧(Vg)の温度依存性
図15は、ゲート電圧(Vg)印加時の単分子トランジスタの挙動を解析するために、ドレイン電流(Vd)対ゲート電圧(Vg)特性の二次元プロットのグラフを示す。図15において、グラフAは9KでのLog|Id|特性(Vd=0.8~2.7V)、グラフBはその対数微分コンダクタンス特性、グラフCは9KでのLog|Id|特性(Vd=-0.8~-2.7V)、グラフDはその対数微分コンダクタンス特性を示す。また、グラフEは80KでのLog|Id|特性(Vd=0.8~2.7V)、グラフFはその対数微分コンダクタンス特性、グラフGは80KでのLog|Id|特性(Vd=-0.8~-2.7V)、グラフHはその対数微分コンダクタンス特性を示す。

【実施例1】
【0122】
図15に示すグラフA~Dでは、9Kにおけるドレイン電圧(Vd)対ゲート電圧(Vg)特性の二次元プロットを示すが、ドレイン電圧がマイナス側の領域での2つめのコンダクタンスピーク近傍のゲート変調効果が強く表れており、一方、プラス側の領域では緩やかな変化しか見られない。しかし、図15に示すグラフE~Hに示す80Kでの測定においてはプラス側及びマイナス側の双方の領域でゲート電圧(Vg)によるドレイン電流(Id)の値に大きな変調が観測されている。さらに、グラフDでは、明確に確認される弱い第1のピークが80KのVg=-2V以下では確認されなくなっている。
【実施例1】
【0123】
-4-3 単分子トランジスタの伝達特性の温度依存性
図16A及び図16Bは、単分子トランジスタの伝達特性を示す。図16Aはドレイン電圧(Vd)が-1.4Vの場合の温度依存性(9K、80K)を示し、図16Bはドレイン電圧(Vd)が-1.7Vの場合の温度依存性(9K、80K)を示す。図16A及び図16Bから、9Kの条件に比べ、80Kの方が、オンオフ比が大きくなっていることが観測される。

【実施例1】
【0124】
測定温度が、9K及び80Kのどちらの場合においても、ゲート電圧(Vg)によってドレイン電流(Id)が変化していることが確認されるが、図16Aに示すように80Kでは、Vg=+4V以上で、ドレイン電流(Id)の変化量が小さくなり、Vgが4Vより低い領域ではオン電流が増加し、ゲート電圧Vgの変化によって、オン電流とオフ電流を明確に区別できるような伝達特性が得られている。図16Aに挿入して示すように、オンオフ比で比較すると、9Kでは8.6が得られ、80Kでは46が得られており、温度上昇に伴ってオンオフ比が向上している結果が得られている。
【実施例1】
【0125】
図16Bは、ドレイン電圧(Vd)が-1.7Vの場合における伝達特性を示す。この特性では、80Kにおいてゲート電圧(Vg)によるドレイン電流(Id)の変化が大きくなっている。図16Bに挿入して示すように、オンオフ比は、9Kにおいて1.7であったものが、80Kでは19となっており、10倍以上大きくなっている。半導体材料を用いて作製されるトランジスタは、温度上昇に伴いオンオフ比が低下する傾向にあるが、本実施例における単分子トランジスタは温度上昇に伴いオンオフ比が増加するという特異な傾向が観測されている。

【実施例1】
【0126】
図17は、ゲート電圧(Vg)を+6V、-6V印加した場合のドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示す。グラフAは9Kの測定結果を示し、グラフBは120Kの測定結果を示す。また、グラフCはグラフAの部分拡大図を示し、グラフDはグラフBの部分拡大図を示す。
【実施例1】
【0127】
グラフBに示すように、120Kではドレイン電圧(Vd)がプラス側及びマイナス側のどちらの領域でも、ゲート電圧(Vg)による変調効果が観測され、ドレイン電流(Id)がゲート電圧(Vg)に依存して変化している。これと比較して、9Kの場合には、ゲート電圧(Vg)による変調効果が小さくなっている。
【実施例1】
【0128】
グラフC及びDの拡大図において、ゲート電圧(Vg)が-6Vの場合をオン、+6Vの場合をオフと仮定したときのオンオフ比を比較すると、9Kにおいてドレイン電圧(Vd)が1.4Vのときは3.3が得られ、120Kでは63.1が得られ、大きなオンオフ比が観察されている。また、同様にドレイン電圧(Vd)が-1.7Vで比較すると、9Kでは1.8であるのに対し、120Kでは124が得られており、温度による差はさらに大きくなっている。
【実施例1】
【0129】
温度上昇によりオンオフ比が高くなるという現象は、単電子効果や電界効果では説明することができず、単分子トランジスタに共鳴トンネル電流が流れていることを裏付けている。このような温度上昇によるトランジスタ特性の変化について考えられるメカニズムとして、COPV5(SH)2分子のエネルギー準位の状態密度が、温度上昇によって自由度を増すことが挙げられる。
【実施例1】
【0130】
図18は、本実施例に係る単分子トランジスタの9Kと120Kのエネルギーダイアグラムの概念図を示す。温度が9Kに比べて120Kでは、状態密度関数のエネルギー幅(Density of States:DOS幅)が広がることによって、分子軌道準位の自由度が増し、状態密度関数内で動く準位の幅が大きくなることで、ゲート電圧(Vg)による分子軌道準位の変化量が大きくなることがこの現象の一因として考えられる。
【実施例1】
【0131】
以上、説明したように、本実施例によれば、機能分子として、末端をチオール基で置換した炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV5(SH)2)を用いてトランジスタの作製を行った。ナノギャップ電極の間隙にCOPV5(SH)2を配置した単分子トランジスタは、電気的特性において、コヒーレント共鳴トンネリング効果が観察された。また、ゲート電圧を印加することによって、COPV5(SH)2によって形成される分子軌道の準位を変化させることが可能なことを確認した。この結果から、単分子共鳴トンネリングトランジスタ(Single Molecular Resonant Tunneling Transistor:SMRT2)を作製できたことが確認された。
【実施例2】
【0132】
本実施例は、実施例1とは異なる機能分子を用いた単分子トランジスタの特性を示す。本実施例において、単分子トランジスタの構造は実施例1と同じである。ナノギャップ電極の作製は実施例1と同じ手順で行った。本実施例は、機能分子として末端がチオール基で置換された炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV6(SH)2)を用いた。ナノギャップ電極への機能分子の導入は実施例1と同じ手順で行った。
【実施例2】
【0133】
6-1.炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV6(SH)2)の構造
末端がチオール基で置換された炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV6(SH)2)の構造を式(6)に示す。
【化6】
JP0006799880B2_000007t.gif
1~R3は、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。R1~R3はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基であってもよい。アリール基は、フェニル基又はナフチル基等の炭化水素系アリール基であるのことが好ましい。中でもフェニル基が好ましい。アリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の例には、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルキル基、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルコキシ基、及びフェニル基等のアリール基が含まれる。置換基としてのアリール基も、上記アルキル基又はアルコキシ基等の1以上の置換基を有していてもよい。また、R1~R3がそれぞれ置換基を有するフェニル基である例では、置換基の結合位置については特に制限ないが、パラ位の炭素原子に結合しているのが好ましい。例えば、式(6)においてR1はCH3であり、R2はC65であり、R3は4-C81764であってもよい。
【実施例2】
【0134】
式(6)に示すように、COPV6(SH)、炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV)をユニットとし、このユニットを6つ結合させ、末端がチオール基で置換された構造を有する。

【実施例2】
【0135】
6-2.試料の構造
本実施例で作製された試料の平面SEM像を図19に示す。ナノギャップ電極のギャップ長(ソース-ドレイン間隔)は、3.8nmとなっている。ナノギャップ電極の電極間に配置されたCOPV6(SH)は、一方の端がドレイン電極と化学吸着しており(SAu)、他方の端はSH結合が残った状態でソース電極から遊離した状態にあると考えられる。このことは、以降で詳述するように、分子軌道(HOMO-1、HOMO、LUMO、LUMO1)に起因する4つのコンダクタンスピークが観測されることから考察することができる。

【実施例2】
【0136】
6-3.ドレイン電流対ドレイン電圧特性(Id-Vd特性)
図20は、本実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示す。図20において、グラフ(A)はId特性を示し、グラフ(B)はLog|Id|特性を示し、グラフ(C)はグラフ(B)の対数微分コンダクタンス特性を示す。測定は9Kで行っている。
【実施例2】
【0137】
図20に示す各グラフから明らかなように、本実施例で作製された単分子トランジスタは、ドレイン電圧を-1.5~1.5Vに掃引した場合(実線)と、1.5~-1.5Vに掃引した場合(点線)とで、ドレイン電流の特性は一致しており、ドレインバイアスの双方の掃引に対してヒステリシスのない安定した特性が得られている。グラフ(A)及び(B)に示されるように、ドレイン電流(Id)がほとんど流れないバイアス電圧は-1.08~1.11Vの範囲である。一方、グラフ(C)に示すように微分コンダクタンスから-1.7V、-1.55V、1.35V、1.7Vにピークが観察されている。これら4つの微分コンダクタンスのピークは、いずれも4nS以上の値となっている。
【実施例2】
【0138】
ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性が負電圧側で2倍ほど大きいこと、微分コンダクタンスの低電圧側の2つのピーク電圧が-1.55Vと1.35Vであり、Vd=0に対して対称となっていないことから、この実施例で作製された単分子トランジスタは、COPV6(SH)2がドレイン側に化学吸着しており、片側はSH基から真空準位を介して電気伝導が行われていると考えられる。
【実施例2】
【0139】
図20のグラフ(C)に示す微分コンダクタンス特性において、ドレイン電圧がマイナス側の第1のピーク(-1.16V)とプラス側の第1のピーク(1.19V)の差は2.35Vであり、この値は2.3eVと報告されているフォトルミネセンスエネルギーの値に近い値となっている(Zhu, X.; Tsuji, H.; Navarrete, J. T. L.; Casado, J.; Nakamura, E. Carbon-bridged oligo(phenylenevinylene)s: stable π-systems with high responsiveness to doping and excitation. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 19254.)。
【実施例2】
【0140】
図21は、COPV6(SH)の分子軌道を、密度汎関数法を用いて計算した結果を示す。図20の微分コンダクタンス特性(グラフ(C))で示される-1.7V、-1.55V、1.35V、1.7Vのピーク間の電位差0.15V、2.9V、0.35Vは、図21に示すように、密度汎関数法で計算された、EHOMO-1-EHOMO、EHOMO-ELUMO、及びELUMO-ELUMO+1の各エネルギーギャップ0.35、2.74、及び0.29eVに対応することがわかる。

【実施例2】
【0141】
6-4.ドレイン電流対ゲート電圧特性(Id-Vg特性)
図22(A)及び図22(B)は、本実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性を示す。図22(A)は正のドレイン電圧が印加されたときの特性を示し、図22(B)は負のドレイン電圧が印加されたときの特性を示す。なお、試料の構造は、図6(C)に示す構造において、基板118としてシリコンウェハを用い、この基板118をゲート電極として用いている。
【実施例2】
【0142】
図22(A)に示す特性より、ドレイン電流の値は、図20に示すグラフ(A)に対して1桁程度低下し、200pA程度となっている。ドレイン電流のこのような変化は、ドレイン電極側で化学吸着しソース電極側が遊離しているCOPV6(SH)2分子が、ナノギャップ電極のギャップ間で若干配向変化したと考えられる。
【実施例2】
【0143】
本実施例において、COPV6(SH)2分子は、リンカー基(図1、Y1、Y2)が無く、COPV6と片側のみドレイン電極と直接化学結合しているアンカー基(図1、Z1、Z2)の硫黄(S)がドレイン電極の金(Au)とCOPV6-S-Au結合している。したがって、ドレイン電極の金(Au)の軌道とCOPV6の分子軌道が強くカップリングされており、ドレイン電圧を印加した際に、分子軌道のエネルギー準位は、ドレイン電圧のフェルミ準位に強く拘束され、ドレイン電圧に起因する電位差は、主にソース電極とCOPV6分子の間に加わることになる。なお、片側で化学吸着する電極が、ソース電極である場合には、ドレイン電圧に起因する電位差は、主にドレイン電極とCOPV6分子の間に加わる。
【実施例2】
【0144】
図22(A)において、正のドレイン電圧(Vd=1.2V、1.3V)においてドレイン電流(Id)のゲート変調が観察され、トランジスタとして動作していることが観察される。ドレイン電圧(Vd)が1.2V及び1.3Vでゲート変調が観測されるということは、ドレイン電極のフェルミ準位がソース電極のフェルミ準位に対してドレイン電圧分だけ真空準位に対して浅いこと、さらには正のドレイン電圧が大きくなるほど、ソース電極のフェルミ準位とHOMO準位の状態密度関数のオーバーラップが大きくなるためであると考えられる。ゲート電圧(Vg)が負のときにドレイン電流(Id)が増加することから、分子共鳴トンネル現象に寄与する分子軌道の状態密度がドレイン電極のフェルミ準位に対して、上に上がる(真空準位に近くなる)際に、電流が増大すると考えられる。
ドレイン電圧(Vd)が負の場合には、電流値が1pA以下であり、ドレイン電圧(Vd)が正の場合と比較すると100倍以上小さい。ゲート電圧(Vg)が負のときにドレイン電流(Id)が増加する傾向が観測される。この場合は、電流が小さいことから、HOMO準位の状態密度関数の裾が若干オーバーラップしているのみで、分子共鳴トンネル現象が顕著では無く、分子軌道の状態密度がソース電極のフェルミ準位に対して、ゲート電圧(Vg)が負のときに上に上がる(真空準位に近くなる)際に、ドレイン電流(Id)が増大するものと考えられる。
【実施例2】
【0145】
図22(A)及び図2(B)の特性を比較すると、本実施例のようにナノギャップ電極の片側に機能分子が吸着した構造の単分子トランジスタは、構造の非対称性と、吸着している電極のフェルミ準位に対する分子軌道のエネルギー準位の位置から分子共鳴トンネル電流がドレイン電圧(Vd)の極性に対して非対称に流れることがわかる。

【実施例2】
【0146】
6-5.微分コンダクタンス特性のゲート電圧依存性
図23は、微分コンダクタンス特性のゲート電圧依存性を示す。図23に示すグラフは、ゲート電圧(Vg)が0Vの場合の微分コンダクタンス特性と、ゲート電圧(Vg)を0.2Vから2.0Vまで0.2Vずつ増加させた特性(グループI)と、-0.2Vから-2.0Vまで-0.2Vずつ増加させたときの特性(グループII)を示す。
【実施例2】
【0147】
図23に示すグラフから明らかなように、微分コンダクタンスのピークはゲート電圧に依存して変化することがわかる。特に、ドレイン電圧(Vd)が正における微分コンダクタンスのピーク電圧Vdは、ゲート電圧(Vg)が2Vから-2Vに変えた際に、1.7Vから1.4Vに連続的に変化していることがわかる。このコンダクタンスピークは、分子軌道の準位を介した共鳴トンネル機構により発現している。このことから、COPV6(SH)2の分子軌道準位がゲート電圧によって変調を受け、単分子トランジスタが共鳴トンネルトランジスタとして動作し、ゲート変調可能であることを示している。
【実施例2】
【0148】
6-6.室温特性
図24は、本実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を室温で測定した結果を示す。図24において、グラフ(A)はId特性を示し、グラフ(B)はLog|Id|特性を示し、グラフ(C)はグラフ(B)の対数微分コンダクタンス特性を示す。図24の各グラフから明らかなように、単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性は、室温においてもコヒーレントトンネリングの挙動が観測されている。一方、ドレイン電流(Id)がほとんど流れないバイアス電圧の範囲は9Kの測定(図20参照)に対して半減しており、分子軌道のエネルギー準位が熱揺らぎによりエネルギー方向にブロードになった分子共鳴トンネリング現象を反映している。
【実施例2】
【0149】
図25は、本実施例で作製された単分子トランジスタの室温で測定されたドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性を示す。図25は正のドレイン電圧が印加されたときの特性を示し、ドレイン電圧(Vd)を0.8Vから1.2Vまで0.1V刻みで測定した結果を示す。また、ドレイン電圧(Vd)が1.2Vの特性はゲート電圧をプラス方向及びマイナス方向に3回掃引して測定した結果の平均値を示す。図25から明らかなように、室温での測定においても、ドレイン電圧(Vd)が1.2Vのときゲート電圧(Vg)の負電圧方向への掃引によりドレイン電流が増加するゲート変調が観察されており、COPV6(SH)2分子と、ナノギャップ電極を用いた単分子トランジスタは分子共鳴トンネリング現象を伴って室温動作することが示されている。
【実施例2】
【0150】
本実施例によれば、COPV6(SH)2分子のような比較的(単分子としては)長尺の機能分子を用いた場合であっても、無電解金メッキにより白金電極上に金粒子を成長させて形成されたナノギャップ電極と組み合わせることで、9Kはもとより室温においても分子共鳴トンネリング現象によるドレイン電流(Id)を流すことができ、かつドレイン電流(Id)をゲート変調可能な単分子トランジスタが得られることが示された。
【実施例3】
【0151】
本実施例は、機能分子としてシリコンを含む剛直π共役分子としてSi架橋キノイド型縮合オリゴシロール誘導体(Si-2×2)に、オキシアルカンチオール基(-O-(CHSHを両端末に含む単分子を用いた単分子トランジスタについて示す。

【実施例3】
【0152】
7-1.単分子トランジスタの作製方法
実施例1と同様にしてナノギャップ電極を作製した。作製されたナノギャップ電極をヘキサンチオール(C6SH)溶液に浸漬し、自己組織化単分子層(SAM:Self-Assembled Monolayer)を作製した。このSAMは、浸漬時間を短めにして、敢えて表面被覆率を下げると、リンカー基、アンカー基を有する機能分子の導入率が上がる。
【実施例3】
【0153】
さらに、このSAMは、両末端にリンカー基、アンカー基を有する機能分子を、ソース電極表面とドレイン電極表面の両方でアンカー基を介して化学結合をすることにより実現する、架け橋構造の単分子トランジスタを作製するために有効である。リンカー基がアルカンやオキソアルカンのような柔軟な構造を有する場合、機能分子の両末端の2つのアンカー基は同一の電極表面に化学吸着する可能性がある。SAMでナノギャップ電極表面を覆うと、片方の電極にアンカー基を介して化学吸着したリンカー基、さらに機能性分子は、周囲に存在するSAM分子により、電極表面の法線方向に立ち上がり、もう一端のアンカー基は、周囲に存在するSAM分子による立体障害により、同一電極表面に化学吸着することが難しくなる。
【実施例3】
【0154】
一方、ナノギャップ電極のギャップ部は、対向している。片方のアンカー基がギャップ部でSAMを形成する分子とアンカー基、リンカー基が置換し化学結合する、あるいはSAMの隙間からアンカー基が化学結合した機能性分子が電極表面の法線方向に配向すると、もう一方のアンカー基が、対向している反対側の電極と化学吸着し、両末端のアンカー基が対向する電極に化学吸着した橋架け構造を形成する可能性は高い。このように、機能性分子をギャップ間で橋架け構造(架橋構造)を形成するには、ナノギャップ電極表面にSAMが形成されていることが好ましい。
【実施例3】
【0155】
7-2.Si-2×2ペンタチオール分子の構造
Si-2×2ペンタチオール分子の構造を式(7)に示す。
【化7】
JP0006799880B2_000008t.gif
(7)

【実施例3】
【0156】
図26は、Si-2×2ペンタチオール分子の分子軌道を、密度汎関数法を用いて計算した結果を示す。計算の結果、Si-2×2ペンタチオール分子のLUMO準位は-2.44eV、HOMO準位は-4.87eVが得られた。その結果、HOMO準位とLUMO準位のエネルギー差は2.43eVであることがわかった。

【実施例3】
【0157】
7-3.ドレイン電流対ドレイン電圧特性(Id-Vd特性)
図27は、本実施例で作製された単分子トランジスタのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性を示す。図27において、グラフ(a)は9Kでの測定結果を示し、グラフ(b)は室温での測定結果を示す。なお、グラフ(a)及び(b)において、上段はId特性を示し、中段はLog|Id|特性を示し、下段は対数微分コンダクタンス特性を示す。
【実施例3】
【0158】
図27において、グラフ(a)及び(b)から明らかなように、ドレイン電圧Vd=0を中心として、ドレイン電流(Id)は対称な特性を示している。この特性は、ソース-ドレイン間の構造において、対称な構造を示唆していると考えられる。また、ドレイン電流(Id)が9Kと室温でほとんど差がないことから、トンネル過程によって電流が流れていると推定される。ショットキーなど熱活性型の伝導機構で電流が流れる場合、9Kと室温とでは電流値が桁違いに異なるからである。
【実施例3】
【0159】
ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性はゲート電圧(Vg)に依存することが観察される。また、ドレイン電圧(Vd)の順方向の掃引と逆方向の掃引とでほとんどヒステリシスが発生せず、安定した動作が観察される。図27のグラフ(a)及び(b)は、ゲート電圧(Vg)が-4Vの9Kにおけるドレイン電流(Id)と、ゲート電圧(Vg)が-3Vの室温におけるドレイン電流(Id)の電流値がほぼ一致しており、熱揺らぎkTに依存しないトンネル機構による伝導が観察されている。また、9Kにおいてゲート電圧(Vg)が0V以上におけるドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性、および室温においてゲート電圧(Vg)が1V以上におけるドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性は、ゲート電圧に依存せずそれぞれがほぼ一致することが示唆される。
【実施例3】
【0160】
本実施例で作製された単分子トランジスタは、ゲート電圧(Vg)が負(9KではVg=-4V、室温ではVg=-3V)のオン状態で、ドレイン電圧(Vd)が±0.15Vで約1μAのドレイン電流(Id)が流れている。このコンダクタンスは約7μSとなる。このオン状態におけるコンダクタンス値は、実施例1及び実施例2で作製された単分子トランジスタの特性と比較すると2桁以上大きい値となっている。図27に示すグラフ(a)及び(b)の結果から、本実施例で作製された単分子トランジスタは、機能分子がソース電極側及びドレイン電極側の両方が架橋された(SAu)2構造における分子共鳴トンネル現象により動作していると推測することができる。
【実施例3】
【0161】
7-4.ドレイン電流対ゲート電圧特性(Id-Vg特性)
図28は、9Kにおけるドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性のドレイン電圧(Vd)依存性を示す。図28は、ドレイン電圧(Vd)が±50mV及び100mVの場合を示し、さらに拡大図においてドレイン電圧(Vd)が±1mV、±5mV、±10mVの場合を示す。図28より、ゲート電圧(Vg)を負方向に掃引すると、ドレイン電流(Id)の絶対値が増加する特性が観察される。ドレイン電圧(Vd)の極性依存性は若干観察されるが、ドレイン電圧(Vd)が1mVの場合でもゲート電圧(Vg)が4Vのとき1nAのドレイン電流(Id)が流れている。ゲート電圧(Vg)が-4Vのオン状態におけるドレイン電圧(Vd)が100mV、50mV、10mV、5mV、1mV、-1mV、-5mV、-10mV、-50mV、-100mVにおけるコンダクタンスはそれぞれ、7μS、3μS、2μS、2μS、2μS、2μS、3μS、3μS、6μS、6μSとなっており、コンダクタンスは2~7μSの値となっている。このことから、本実施例で作製された単分子トランジスタは、両末端が架橋された構造であり、分子共鳴トンネルトランジスタ動作していることが示唆される。
【実施例3】
【0162】
図29は、室温におけるドレイン電流(Id)対ゲート電圧(Vg)特性のドレイン電圧(Vd)依存性を示す。9Kの場合と同様に、ゲート電圧(Vg)を負方向に掃引すると、ドレイン電流(Id)の絶対値は増加する。ゲート電圧(Vg)の掃引に対してヒステリシスが若干観察され、ドレイン電流(Id)のドレイン電圧(Vd)依存性も若干観察されるものの、ばらつきは小さい範囲に収まっている。このことから、本実施例で作製された単分子トランジスタは、室温においても分子共鳴トンネルトランジスタ動作していると推察される。
【実施例3】
【0163】
7-5.メカニズムの考察
図30は、9Kにおける、ドレイン電流(Id)及び微分コンダクタンスのドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対する二次元プロットを示す。図30において、グラフ(A)及び(C)はドレイン電流(Id)の二次元プロットを示し、グラフ(B)及び(D)は微分コンダクタンスの二次元プロットを示す。また、グラフ(A)及び(B)はゲート電圧(Vg)の範囲(横軸)が-4Vから+4Vの範囲を示し、グラフ(C)及び(D)はゲート電圧(Vg)の範囲(横軸)が-6Vから+6Vの範囲を示す。
【実施例3】
【0164】
図30に示す各グラフからは、単電子トランジスタに特徴的な、2対の平行線からなる電流が流れ始める境界線を含むクーロンダイアモンドを観察することができる。ここで、通常の単電子トランジスタの特性と異なるのは、ゲート電圧(Vg)が-3V以下の領域である。通常の単電子トランジスタでは、ダイアモンド構造がVg方向に繰り返し観察される(クーロンオシレーション)。これに対し、本実施例では、一つのダイアモンドの後、さらなる負方向へのゲート電圧(Vg)の掃引、又はクーロンブロッケード境界を越えてドレイン電圧(Vd)を印加すると電流が流れる状態が続いている。これは、ゲート電圧(Vg)が負で、機能分子が正に帯電した状態、すなわちSi-2×2分子がカチオンになり、SOMO(Singly Occupied Molecular Orbital)準位がドレイン電極のフェルミ準位とオーバーラップして、ゲート変調することにより分子共鳴トンネル電流が流れていることを意味していると考えられる。
【実施例3】
【0165】
ドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性が、ゲート電圧(Vg)が0V以下の領域で対称であることから、単電子トランジスタとして動作しているときのR1とR2はほぼ同じ値となっている。R1=R2となるとき、単電子トランジスタのクーロン島として機能する機能分子は、ドレイン電圧の極性によらず、プラスとマイナスのどちらにも帯電できる。本実施例で作製された単分子トランジスタは、ゲート電圧(Vg)が約-4V以下負の領域ならびに、ゲート電圧(Vg)が0V以下で-4V以上のクーロンダイアモンドの境界を越えたドレイン電圧(Vd)領域のVdが正と負の両方の極性で、機能分子はプラスに帯電していると考えられ、プラスに帯電した際に、分子共鳴トンネル動作に切り替わっていると考えらえる。
【実施例3】
【0166】
図31は、室温における、ドレイン電流(Id)及び微分コンダクタンスのドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対する二次元プロットを示す。図31において、グラフ(A)及び(C)はドレイン電流(Id)の二次元プロットを示し、グラフ(B)及び(D)は微分コンダクタンスの二次元プロットを示す。また、グラフ(A)及び(B)はドレイン電圧(Vd)が-0.15Vから+0.15Vまで掃引された特性を示し、グラフ(C)及び(D)はドレイン電圧(Vd)が+0.15Vから-0.15Vまで掃引された特性を示す。
【実施例3】
【0167】
図32は、室温における、ドレイン電流(Id)及び微分コンダクタンスのドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対する二次元プロットを示す。図32において、グラフ(A)はドレイン電流(Id)の二次元プロットを示し、グラフ(Bは微分コンダクタンスの二次元プロットを示す。また、グラフ(A)はゲート電圧(Vg)が-3Vから+3Vまで掃引された特性を示し、グラフ(B)はゲート電圧(Vg)が+3Vから-3Vまで掃引された特性を示す。

【実施例3】
【0168】
図31及び図32に示す室温で測定された各特性と、図30に示す9Kで測定された特性を比較すると、室温で測定された特性はゲート電圧(Vg)の全領域でドレイン電流(Id)の値は大きくなっている。この結果は、単分子トランジスタ特性において、室温のエネルギー(kT=26meV)により、クーロンブロッケード特性が曖昧になることを考えると妥当であるといえる。むしろ重要なのは、ゲート電圧(Vg)が負の領域でドレイン電流(Id)が増加し、トランジスタ特性を示していることである。このゲート電圧(Vg)が負の領域でドレイン電流(Id)が増加する特性は、9Kの結果と一致している。室温では、クーロンブロッケード効果が弱くなるために、機能分子は、中性、カチオン、アニオン状態を行き来していて、トランジスタとしての動作が曖昧になっている。しかしながら、ゲート電圧(Vg)を負にすると、強制的に機能分子はカチオンになり、そのときの室温でのドレイン電流(Id)対ドレイン電圧(Vd)特性は、9Kにおける特性と一致している。これらの結果から、本実施例で用いられた単分子トランジスタは、単電子トランジスタとしての特性と、分子共鳴トンネルトランジスタとしての特性とが混在したトランジスタ特性を示し、室温において分子共鳴トンネル現象でドレイン電流(Id)を流し、分子共鳴トンネルトランジスタとして動作している。なお、本実施例では、シリコンを含む剛直π共役分子としてSi架橋キノイド型縮合オリゴシロール誘導体(Si-2×2)に、リンカー基として用いた(-O-(CH25-)は比較的長い分子であるが、これを用いても十分に分子共鳴トンネル現象を発現できることが明らかとなった。また、単分子共鳴トンネルトランジスタのオン状態におけるコンダクタンスは、2μS以上と、コンダクタンスが大きいことが明らかとなった。
【実施例3】
【0169】
実施例1、2、3はそれぞれ異なるπ共役基からなる機能性分子骨格を有しており、片側のみ化学結合している場合と、架橋構造している場合のそれぞれで、共鳴トンネル機構により、分子共鳴トンネルトランジスタ動作が観察されている。実施例1、2、3のπ共役基は、いずれもπ共役基が剛直な構造となっている。π共役基が剛直であると、分子軌道の状態密度関数が、熱揺らぎによりねじれたり、変形したりすることを妨げる。このことにより、共鳴トンネル機構に寄与する状態密度関数のDOS幅は段落0130に記述したように、室温で若干拡がるものの、自由に回転が可能な骨格からなる、剛直ではないπ共役基と比較すると、遙かに状態密度(DOS)幅の揺らぎが少ない。したがって、機能性分子のπ共役骨格は、剛直であることが、室温動作を得るために好ましい。
【実施例3】
【0170】
剛直なπ共役骨格であり、共鳴トンネル機構が得られるような、分子軌道の状態密度関数と電極のフェルミ準位の関係であれば、π共役骨格はどのような構造であっても構わない。
【実施例3】
【0171】
リンカー基は、機能性分子の状態密度関数と、電極金属の軌道とのカップリングを調整することに役立つ。リンカー基が長くなると、カップリングが弱くなる。カップリングが強いと、分子軌道の準位を変調するのに十分なゲート容量であっても、電極によるピニング効果により、分子軌道の準位のエネルギー方向への変調が起きづらくなる。逆に、リンカー基が長くなると、リンカー基は絶縁性であるために、トンネルバリアとなるため、電極間の共鳴トンネル機構が起きづらくなる。故に、リンカー基の長さは、カップリング強度の調整と、共鳴トンネル機構の発現のために最適に調整する必要がある。架橋構造での共鳴トンネルトランジスタ動作が、Si-2×2構造で得られていることから、-O-(CH-の長さは、共鳴トンネル機構を得ることができる長さである。長さとしては、アルキレン鎖(CH相当で、nが1以上10以下であることが好ましく、さらに好ましくは、nが3以上7以下であることが好ましい。

【実施例3】
【0172】
架橋構造の共鳴トンネルトランジスタにおいては、リンカー基は直線状に伸張していることが好ましい。リンカー基は骨格が自由に回転できるため、構造揺らぎが発生する原因となるため、特に室温以上でのトランジスタ動作には不利となる。架橋構造を形成するさいには、まず一端のアンカーが電極と化学結合し、もう一端のアンカーが対向している他方の電極と化学結合する。この他方の電極と化学結合する際に、リンカー基が直線上に伸張すると、本来自由に回転するリンカー基の動きが阻害され、熱揺らぎにより構造揺らぎが発生することを軽減することができる。
【実施例3】
【0173】
電極のフェルミ準位に対する機能性分子の分子軌道のエネルギー準位の相対位置は、共鳴トンネル機構が得られる、ドレイン電圧、ゲート電圧を決める上で重要である。リンカー基を、アルキレン基(-(CH-)から、オキシアルキレン基(-O-(CH-)、又はアザアルキレン基(-NH-(CH)-)に置き換えると、これら二つの基は、電子供与性であるため、機能性分子の分子軌道のエネルギー準位を、真空準位に対して近くなる方向に動かす(ドーピングする)ことができる。

【実施例3】
【0174】
また、SAMを先に形成すると、周囲のSAM分子により、リンカー基が支えられ剛直化させることができるため、SAMとアンカー基、リンカー基の組み合わせは、共鳴トンネルトランジスタの安定動作には有効である。
【実施例3】
【0175】
実施例3の架橋構造の単分子共鳴トンネルトランジスタでは、1μS以上のコンダクタンスが得られている。このような大きな電流値を、分子を介して流しても安定に動作するのは、共鳴トンネル機構を用いていることが寄与している。共鳴トンネル機構では、電流が流れる際に、機能性分子の分子軌道の準位を用いて、量子力学的な共鳴トンネル過程によりすり抜けるため、機能性分子を擾乱しない。すなわち、共鳴トンネル過程では、分子を加熱しない。そのため、1μAオーダの電流が流れても、機能性分子は壊れない。また、トランジスタにおいて、コンダクタンスは大変重要なパラメータである。共鳴トンネル機構を用いれば、1μS以上のコンダクタンスが得られることは、新しい知見である。さらに、共鳴トンネル機構をゲート電圧で変調する、単分子共鳴トンネルトランジスタは、1μS以上のコンダクタンスが得られ、耐久性が期待できるトランジスタである。
【符号の説明】
【0176】
100・・・単分子トランジスタ、102・・・ナノギャップ電極、104a・・・第1電極、104b・・・第2電極、106a・・・第1電極層、106b・・・第2電極層、108a・・・第1金属粒子、108b・・・第2金属粒子、110・・・機能分子、112・・・ゲート電極、114a、114b・・・パッド、116・・・トンネル障壁、118・・・基板、120・・・絶縁膜、122a・・・第1金属膜、122b・・・第2金属膜
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3A】
3
【図3B】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図6A】
7
【図6B】
8
【図6C】
9
【図7A】
10
【図7B】
11
【図7C】
12
【図8A】
13
【図8B】
14
【図8C】
15
【図9A】
16
【図9B】
17
【図10】
18
【図11】
19
【図12】
20
【図13】
21
【図14】
22
【図15】
23
【図16A】
24
【図16B】
25
【図17】
26
【図18】
27
【図19】
28
【図20】
29
【図21】
30
【図22A】
31
【図22B】
32
【図23】
33
【図24】
34
【図25】
35
【図26】
36
【図27】
37
【図28】
38
【図29】
39
【図30】
40
【図31】
41
【図32】
42