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明細書 :びびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-049626 (P2020-049626A)
公開日 令和2年4月2日(2020.4.2)
発明の名称または考案の名称 びびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システム
国際特許分類 B23Q  15/12        (2006.01)
G05B  19/404       (2006.01)
FI B23Q 15/12 A
G05B 19/404 K
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2018-184240 (P2018-184240)
出願日 平成30年9月28日(2018.9.28)
発明者または考案者 【氏名】廣垣 俊樹
【氏名】青山 栄一
【氏名】尾崎 信利
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 3C001
3C269
Fターム 3C001KA07
3C001KB04
3C001TA06
3C001TC05
3C269AB05
3C269BB03
3C269CC01
3C269JJ20
3C269MN36
3C269MN47
要約 【課題】加工面に残るびびり模様の縞の間隔を容易に読み取ることが可能なびびり振動抑制方法を提供する。
【解決手段】工具を回転させてワークの切削加工を行う工作機械において、切削加工時に生じるびびり振動を抑制するためのびびり振動抑制方法であって、ワークの加工面を撮影してびびり模様の画像データを生成するステップと(S102)、画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行うステップと(S103)、2次元離散フーリエ変換で得られたパワースペクトルのピークを選択し(S104)、選択したピークの周波数からびびり模様の縞の縦間隔を算出するステップと(S105,S106)、縦間隔からびびり振動数およびびびり振動の位相差を算出するステップと(S113,S114)、からなる2次元離散フーリエ変換解析方法を含むことを特徴とする。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
工具を回転させてワークの切削加工を行う工作機械において、切削加工時に生じるびびり振動を抑制するためのびびり振動抑制方法であって、
前記ワークの加工面を撮影してびびり模様の画像データを生成するステップと、
前記画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行うステップと、
前記2次元離散フーリエ変換で得られたパワースペクトルのピークを選択し、選択した前記ピークの周波数から前記びびり模様の縞の縦間隔を算出するステップと、
前記縦間隔からびびり振動数およびびびり振動の位相差を算出するステップと、
からなる2次元離散フーリエ変換解析方法を含む
ことを特徴とするびびり振動抑制方法。
【請求項2】
前記2次元離散フーリエ変換解析方法は、
前記ワークに対する前記工具の送り速度が一定の場合に、前記びびり模様の縞の横間隔から算出した位相差と前記縦間隔から算出した位相差とを比較するステップを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のびびり振動抑制方法。
【請求項3】
前記工具を回転数SC0で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により、びびり振動数fC0および位相差εC0を算出するステップと、
前記びびり振動数fC0に基づいて、前記回転数SC0から安定ポケット内の回転数SS0までの距離ΔSを算出するステップと、
前記回転数SC0と前記距離ΔSとに基づいて、回転数SC1を設定するステップと、
前記工具を前記回転数SC1で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εC1を算出するステップと、
前記位相差εC1が、0≦εC1<2πを満たす場合に、前記位相差εC0および前記位相差εC1に基づいて前記回転数SS0を算出するステップと、
からなる安定切削条件推定方法を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載のびびり振動抑制方法。
【請求項4】
前記安定切削条件推定方法により算出した前記回転数SS0で、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εS0を算出するステップと、
前記回転数SS0に対してj回目(ただし、j≧1)の補正を行った補正回転数SSjで、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εSjを算出するステップと、
初期値がεC0である閾値εを用いて、
=(εC1-εC0)(εSj-ε)>0かつ0≦εSj<2π
で表される同安定ローブ判別式Rを満たすか否かを判定するステップと、
前記同安定ローブ判別式Rを満たす場合に、前記閾値εをεSjに更新するとともに、前記補正回転数SSjをSSj+ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正するステップと、
前記同安定ローブ判別式Rを満たさない場合に、前記補正回転数SSjをSSj-ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正するステップと、
からなる安定切削条件補正方法を含む
ことを特徴とする請求項3に記載のびびり振動抑制方法。
【請求項5】
工具を回転させてワークの切削加工を行う工作機械において、切削加工時に生じるびびり振動を抑制するためのびびり振動抑制システムであって、
前記ワークの加工面を撮影してびびり模様の画像データを生成する撮影装置と、
前記工具の回転数を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行う処理と、
前記2次元離散フーリエ変換で得られたパワースペクトルのピークを選択し、選択した前記ピークの周波数から前記びびり模様の縞の縦間隔を算出する処理と、
前記縦間隔からびびり振動数およびびびり振動の位相差を算出する処理と、
からなる2次元離散フーリエ変換解析処理を実行する
ことを特徴とするびびり振動抑制システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記2次元離散フーリエ変換解析処理として、
前記ワークに対する前記工具の送り速度が一定の場合に、前記びびり模様の縞の横間隔から算出した位相差と前記縦間隔から算出した位相差とを比較する処理を実行する
ことを特徴とする請求項5に記載のびびり振動抑制システム。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記工具を回転数SC0で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により、びびり振動数fC0および位相差εC0を算出する処理と、
前記びびり振動数fC0に基づいて、前記回転数SC0から安定ポケット内の回転数SS0までの距離ΔSを算出する処理と、
前記回転数SC0と前記距離ΔSとに基づいて、回転数SC1を設定する処理と、
前記工具を前記回転数SC1で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により位相差εC1を算出する処理と、
前記位相差εC1が、0≦εC1<2πを満たす場合に、前記位相差εC0および前記位相差εC1に基づいて前記回転数SS0を算出する処理と、
からなる安定切削条件推定処理を実行する
ことを特徴とする請求項5または6に記載のびびり振動抑制システム。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記安定切削条件推定処理により算出した前記回転数SS0で、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により位相差εS0を算出する処理と、
前記回転数SS0に対してj回目(ただし、j≧1)の補正を行った補正回転数SSjで、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により位相差εSjを算出する処理と、
初期値がεC0である閾値εを用いて、
=(εC1-εC0)(εSj-ε)>0かつ0≦εSj<2π
で表される同安定ローブ判別式Rを満たすか否かを判定する処理と、
前記同安定ローブ判別式Rを満たす場合に、前記閾値εをεSjに更新するとともに、前記補正回転数SSjをSSj+ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正する処理と、
前記同安定ローブ判別式Rを満たさない場合に、前記補正回転数SSjをSSj-ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正する処理と、
からなる安定切削条件補正処理を実行する
ことを特徴とする請求項7に記載のびびり振動抑制システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、びびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
びびり振動抑制方法は、例えば、本願発明者によって提案された特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のびびり振動抑制方法は、加工面に残るびびり模様の縞の縦横間隔の情報に基づいて、びびり振動を抑制する方法であり、一定の成果を得ている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2017-202555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法は、加工面に残るびびり模様の縞の間隔の読み取りが難しいという問題があり、その適用範囲が限定されている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、加工面に残るびびり模様の縞の間隔を容易に読み取ることが可能なびびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るびびり振動抑制方法は、
工具を回転させてワークの切削加工を行う工作機械において、切削加工時に生じるびびり振動を抑制するためのびびり振動抑制方法であって、
前記ワークの加工面を撮影してびびり模様の画像データを生成するステップと、
前記画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行うステップと、
前記2次元離散フーリエ変換で得られたパワースペクトルのピークを選択し、選択した前記ピークの周波数から前記びびり模様の縞の縦間隔を算出するステップと、
前記縦間隔からびびり振動数およびびびり振動の位相差を算出するステップと、
からなる2次元離散フーリエ変換解析方法を含むことを特徴とする。
【0007】
上記びびり振動抑制方法において、
前記2次元離散フーリエ変換解析方法は、
前記ワークに対する前記工具の送り速度が一定の場合に、前記びびり模様の縞の横間隔から算出した位相差と前記縦間隔から算出した位相差とを比較するステップを含むよう構成できる。
【0008】
上記びびり振動抑制方法において、
前記工具を回転数SC0で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により、びびり振動数fC0および位相差εC0を算出するステップと、
前記びびり振動数fC0に基づいて、前記回転数SC0から安定ポケット内の回転数SS0までの距離ΔSを算出するステップと、
前記回転数SC0と前記距離ΔSとに基づいて、回転数SC1を設定するステップと、
前記工具を前記回転数SC1で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εC1を算出するステップと、
前記位相差εC1が、0≦εC1<2πを満たす場合に、前記位相差εC0および前記位相差εC1に基づいて前記回転数SS0を算出するステップと、
からなる安定切削条件推定方法を含むよう構成できる。
【0009】
上記びびり振動抑制方法において、
前記安定切削条件推定方法により算出した前記回転数SS0で、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εS0を算出するステップと、
前記回転数SS0に対してj回目(ただし、j≧1)の補正を行った補正回転数SSjで、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εSjを算出するステップと、
初期値がεC0である閾値εを用いて、
=(εC1-εC0)(εSj-ε)>0かつ0≦εSj<2π
で表される同安定ローブ判別式Rを満たすか否かを判定するステップと、
前記同安定ローブ判別式Rを満たす場合に、前記閾値εをεSjに更新するとともに、前記補正回転数SSjをSSj+ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正するステップと、
前記同安定ローブ判別式Rを満たさない場合に、前記補正回転数SSjをSSj-ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正するステップと、
からなる安定切削条件補正方法を含むよう構成できる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るびびり振動抑制システムは、
工具を回転させてワークの切削加工を行う工作機械において、切削加工時に生じるびびり振動を抑制するためのびびり振動抑制システムであって、
前記ワークの加工面を撮影してびびり模様の画像データを生成する撮影装置と、
前記工具の回転数を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行う処理と、
前記2次元離散フーリエ変換で得られたパワースペクトルのピークを選択し、選択した前記ピークの周波数から前記びびり模様の縞の縦間隔を算出する処理と、
前記縦間隔からびびり振動数およびびびり振動の位相差を算出する処理と、
からなる2次元離散フーリエ変換解析処理を実行することを特徴とする。
【0011】
上記びびり振動抑制システムにおいて、
前記制御装置は、
前記2次元離散フーリエ変換解析処理として、
前記ワークに対する前記工具の送り速度が一定の場合に、前記びびり模様の縞の横間隔から算出した位相差と前記縦間隔から算出した位相差とを比較する処理を実行するよう構成できる。
【0012】
上記びびり振動抑制システムにおいて、
前記制御装置は、
前記工具を回転数SC0で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により、びびり振動数fC0および位相差εC0を算出する処理と、
前記びびり振動数fC0に基づいて、前記回転数SC0から安定ポケット内の回転数SS0までの距離ΔSを算出する処理と、
前記回転数SC0と前記距離ΔSとに基づいて、回転数SC1を設定する処理と、
前記工具を前記回転数SC1で回転させ、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により位相差εC1を算出する処理と、
前記位相差εC1が、0≦εC1<2πを満たす場合に、前記位相差εC0および前記位相差εC1に基づいて前記回転数SS0を算出する処理と、
からなる安定切削条件推定処理を実行するよう構成できる。
【0013】
上記びびり振動抑制システムにおいて、
前記制御装置は、
前記安定切削条件推定処理により算出した前記回転数SS0で、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により位相差εS0を算出する処理と、
前記回転数SS0に対してj回目(ただし、j≧1)の補正を行った補正回転数SSjで、前記工具を回転させて、前記2次元離散フーリエ変換解析処理により位相差εSjを算出する処理と、
初期値がεC0である閾値εを用いて、
=(εC1-εC0)(εSj-ε)>0かつ0≦εSj<2π
で表される同安定ローブ判別式Rを満たすか否かを判定する処理と、
前記同安定ローブ判別式Rを満たす場合に、前記閾値εをεSjに更新するとともに、前記補正回転数SSjをSSj+ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正する処理と、
前記同安定ローブ判別式Rを満たさない場合に、前記補正回転数SSjをSSj-ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正する処理と、
からなる安定切削条件補正処理を実行するよう構成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工面に残るびびり模様の縞の間隔を容易に読み取ることが可能なびびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るびびり振動抑制システムのブロック図である。
【図2】単一のびびり振動数により生じるびびり模様のモデルを示した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る2次元離散フーリエ変換解析方法のフローチャートである。
【図4】安定限界線図であって、(A)は回転数と切込み量との関係を示す図、(B)は回転数とびびり振動数との関係を示す図、(C)は回転数と位相差との関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る安定切削条件推定方法のフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る安定切削条件補正方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るびびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システムの実施形態について説明する。

【0017】
[びびり振動抑制システム]
図1に、本発明の一実施形態に係るびびり振動抑制システム1を示す。びびり振動抑制システム1は、ワークWに対して切削加工を行う工作機械10と、ワークWの加工面を撮影する撮影装置20と、制御装置30とを備える。

【0018】
工作機械10は、エンドミル11(本発明の「工具」に相当)と、エンドミル11を所定の回転数で回転させるとともにエンドミル11を所定の送り速度で水平方向(図1におけるY方向)に移動させる工具ホルダ12と、ワークWを保持するワークホルダ13とを備える。なお、工具ホルダ12がエンドミル11を所定の送り速度でY方向に移動させる代わりに、ワークホルダ13がワークWを所定の送り速度でY方向に移動させてもよい。

【0019】
切削加工時にびびり振動が発生すると(ここでは、エンドミル11がX方向に単振動するものとする)、ワークWの側面の加工面には、びびり模様と呼ばれる周期的な縞模様が生じる。

【0020】
図2に、単一のびびり振動数により生じるびびり模様のモデルを示す。本実施形態では、びびり模様の縞の縦間隔(送り方向に対して垂直方向の間隔)をg[mm]、横間隔(送り方向の間隔)をe[mm]、傾斜をβ[deg.]と定義する。

【0021】
撮影装置20は、例えば、WEBカメラやデジタルカメラを用いることができる。撮影装置20は、ワークWの加工面を撮影し、びびり模様の画像データを生成する。びびり模様の画像データは、制御装置30に送られる。

【0022】
制御装置30は、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。制御装置30は、演算部31と、記憶部32と、制御部33とを備える。

【0023】
演算部31は、少なくとも2次元離散フーリエ変換解析処理を実行し、好ましくは、安定切削条件推定処理および安定切削条件補正処理をさらに実行する。記憶部32には、上記の処理を実行する際に必要な情報(データ)および演算部31の処理結果などが格納される。制御部33は、演算部31の処理結果に基づいて、エンドミル11の回転数を制御する。

【0024】
なお、2次元離散フーリエ変換解析処理、安定切削条件推定処理、および安定切削条件補正処理は、それぞれびびり振動抑制方法の2次元離散フーリエ変換解析方法、安定切削条件推定方法、および安定切削条件補正方法において、制御装置30が実行する処理である。

【0025】
[びびり振動抑制方法]
本発明の一実施形態に係るびびり振動抑制方法は、びびり振動抑制システム1によって実行される。本実施形態のびびり振動抑制方法は、少なくとも2次元離散フーリエ変換解析方法を含み、好ましくは、安定切削条件推定方法および安定切削条件補正方法をさらに含む。

【0026】
(2次元離散フーリエ変換解析方法)
図3に、本実施形態に係る2次元離散フーリエ変換解析方法のフローチャートを示す。

【0027】
本実施形態では、切削加工時に工作機械10においてびびり振動が発生すると(S101)、撮影装置20は、ワークWの加工面を撮影し、びびり模様の画像データを生成する(S102)。びびり模様の画像データは、グレイスケール画像のデータとして制御装置30に送られる。

【0028】
制御装置30は、画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行う(S103)。2次元離散フーリエ変換は、2次元離散データf[x,y]を周波数領域F[u,v]で表現するための変換のことをいい、次の(1)式で計算される。
【数1】
JP2020049626A_000003t.gif
(1)式において、w[x,y]は窓関数である。窓関数は、例えば、矩形窓を用いることができる。また、N,Nはそれぞれx,y方向のデータ長を示し、u,vはそれぞれx,y方向の有限データ中に含まれる正弦波の数(周波数)を示す。

【0029】
グレイスケール画像は、各座標で1つの画素値(輝度)をもつため、2次元離散データf[x,y]として考えることができる。しかし、画素値は0~255の整数値をとるため、(1)式を用いて2次元離散フーリエ変換を行うと、直流成分のピーク(原点のピーク)が大きくなり、他のピークが目立たなくなる。

【0030】
そこで本実施形態では、制御装置30は、次の(2)式に基づいて2次元離散フーリエ変換を行う。
【数2】
JP2020049626A_000004t.gif
(2)式において、μは画素値の平均値である。このように、平均値μからの偏差を扱うことで直流成分を小さくすることができる。

【0031】
制御装置30は、2次元離散フーリエ変換を行う際に、2次元離散データf[x,y]にゼロパディングを適用することが好ましい。ゼロパディングは、拡張部が0なので、元データに影響を与えることなく周波数分解能を上げることができる。

【0032】
次いで、制御装置30は、周波数領域F[u,v]のパワースペクトルにおいて所定の条件を満たすピークを選択する(S104)。パワースペクトルは、F[u,v]の絶対値の二乗で表すことができる。また、びびり振動は複数のびびり振動数によって生じる場合があるので、制御装置30が複数のピークを選択できるように所定の条件を設定してもよい。

【0033】
次いで、制御装置30は、選択したピークの周波数upeak,vpeakを特定し(S105)、周波数upeak,vpeakからびびり模様の縞の縦間隔g[mm]および横間隔e[mm]を算出する(S106)。具体的には、制御装置30は、次の(3)式に基づいて縦間隔gを算出し、次の(4)式に基づいて横間隔eを算出する。
【数3】
JP2020049626A_000005t.gif
【数4】
JP2020049626A_000006t.gif
(3)式および(4)式において、α[mm/px]は画像データの縮尺が1ピクセルあたり何mmかを表す係数である。

【0034】
このように本実施形態では、びびり模様の画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行い、その情報を周波数領域で可視化することで、びびり模様の縞の縦間隔gおよび横間隔eの読み取りを自動化している。

【0035】
びびり模様の縞の縦間隔gおよび横間隔eを算出した制御装置30は、工作機械10からエンドミル11の1刃あたりの送り速度f[mm/tooth]に関する情報を取得し、送り速度fが一定であるか否かを判定する(S107)。

【0036】
送り速度fが一定であると判定した制御装置30は、次の(5)式に基づいて、びびり振動の第1の位相差ε[rad]を算出する(S108)。すなわち、制御装置30は、横間隔eから第1の位相差εを算出する。
【数5】
JP2020049626A_000007t.gif

【0037】
第1の位相差εを算出した制御装置30は、次の(6)式に基づいて、びびり振動数f[Hz]を算出する(S109)。すなわち、制御装置30は、縦間隔gからびびり振動数fを算出する。
【数6】
JP2020049626A_000008t.gif
(6)式において、Dはエンドミル11の直径[mm]、Sはエンドミル11の回転数[min-1]、θはエンドミル11のねじれ角[rad]である。

【0038】
びびり振動数fを算出した制御装置30は、次の(7)式に基づいて、びびり振動数fの整数部qおよび第2の位相差εを算出する(S110)。
【数7】
JP2020049626A_000009t.gif
(7)式において、Zはエンドミル11の刃数である。

【0039】
次いで、制御装置30は、横間隔eから算出した第1の位相差εと縦間隔gから算出した第2の位相差εとを比較する(S111)。これにより、お互いの妥当性を確認できる。

【0040】
第1の位相差εと第2の位相差εとの差が所定の範囲内に収まっている場合、制御装置30は、第1の位相差εまたは第2の位相差εのいずれか一方、もしくは両者の平均値をびびり振動数fの位相差εとする。これにより、びびり振動数fの整数部qおよび位相差εが決定される(S112)。

【0041】
一方、ステップS107において、送り速度fが一定でないと判定した制御装置30は、まず(6)式に基づいて、びびり振動数f[Hz]を算出する(S113)。すなわち、制御装置30は、縦間隔gからびびり振動数fを算出する。

【0042】
びびり振動数fを算出した制御装置30は、(7)式に基づいて、びびり振動数fの整数部qおよび位相差εを算出する(S114)。これにより、びびり振動数fの整数部qおよび位相差εが決定される(S112)。

【0043】
位相差εが2πk(k=0,1)に近づくほど切削は安定し、びびり振動は小さくなるので、制御装置30は、位相差εが2πk(k=0,1)に近づくように、エンドミル11の回転数を制御する。

【0044】
なお、本実施形態に係る2次元離散フーリエ変換解析方法では、ステップS107~S111を省略してもよい。この場合、ステップS106の後、ステップS113に移行する。

【0045】
(安定切削条件推定方法)
次に、本実施形態に係る安定切削条件推定方法について説明する。

【0046】
エンドミル11の軸方向切込み量と回転数Sは、図4(A)に示す安定限界線図のような関係にあり、安定ローブとして知られている。軸方向切込み量が局所的に大きくなっているところは、安定ポケットと呼ばれる。安定ポケットでは、比較的大きな軸方向切込み量であっても、安定して切削加工を行うことができ、びびり振動を抑制することができる。

【0047】
びびり振動数fおよび位相差εは、図4(B)および(C)に示すように、安定ポケットにおいて不連続に変化する。言い換えれば、同安定ローブ内においては、連続的に変化する。本実施形態に係る安定切削条件推定方法は、この性質を利用して、エンドミル11の回転数Sを安定ポケット内の回転数SS0になるよう調整する。

【0048】
図5に、本実施形態に係る安定切削条件推定方法のフローチャートを示す。

【0049】
本実施形態では、エンドミル11を回転数SC0で回転させて切削加工をした時にびびり振動が発生したものとする(S201)。

【0050】
びびり振動抑制システム1は、2次元離散フーリエ変換解析方法を実行して、びびり振動の各種パラメータ(びびり振動数fC0、位相差εC0、整数部qC0)を算出する(S202)。

【0051】
次いで、制御装置30は、回転数SC0での切削加工も含めた、サンプル点数を設定する(S203)。本実施形態では、下記のステップS204において直線近似を行うので、サンプル点数を2に設定する。なお、サンプル点数の設定は、ステップS202よりも前に行ってもよい。

【0052】
次いで、制御装置30は、同安定ローブ内ではびびり振動数はほとんど変化しないものと仮定し(具体的には、主軸回転数とびびり振動数の関係を直線または曲線で近似し(本実施形態では、直線で近似するとともに近似線の傾きαを0とする。))、次の(8)式に基づいて、回転数SC0から安定ポケット内の回転数SS0までの距離ΔSを算出する(S204)。
【数8】
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【0053】
距離ΔSを算出した制御装置30は、次の(9)式に基づいて、回転数SC0とは異なるサンプル点の回転数SC1を設定する(S205)。
【数9】
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(9)式において、ηは補正係数であり、安定ポケット内の回転数SS0を超えないように、0.5以下に設定されていることが好ましい。

【0054】
びびり振動抑制システム1は、エンドミル11を回転数SC1で回転させて切削加工を行い、2次元離散フーリエ変換解析方法を実行して、びびり振動数fC1を算出する(S206)。

【0055】
次いで、制御装置30は、次の(10)式に基づいて、位相差εC1を算出する(S207)。
【数10】
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同安定ローブ内では整数部は一定なので、qC0を用いることができる。

【0056】
次いで、制御装置30は、位相差εC1が次の(11)式を満たすか否かを判定する(S208)。
【数11】
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【0057】
位相差εC1が(11)式を満たさない場合(S208でNO)、回転数SC1と回転数SC0とが同安定ローブ内に存在していないと考えられる。したがって、この場合、制御装置30は、回転数SC1を新たに設定する(S209)。例えば、制御装置30は、(9)式の補正係数ηを変更して、新たな回転数SC1を設定する。その後、ステップS206に移行する。

【0058】
一方、位相差εC1が(11)式を満たす場合(S208でYES)、制御装置30は、回転数SC0、回転数SC1、位相差εC0および位相差εC1に基づいて、安定ローブの近似式(同安定ローブ内の主軸回転数と位相差の関係の近似式)を算出する(S210)。本実施形態では、安定ローブの近似式は一次関数で表されるので、当該一次関数の傾きαと切片βとを算出する。なお、安定ローブの近似式の精度を高めるには、サンプル点数を増やして、近似線の次数を増やせばよい。

【0059】
安定ローブの近似式を算出した制御装置30は、次の(12)式または(13)式に基づいて、安定ポケット内の回転数SS0を算出する(S211)。
【数12】
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【数13】
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(12)式および(13)式において、αは上記近似式(一次関数)の傾き、βは切片である。

【0060】
びびり振動抑制システム1は、(12)式または(13)式に基づいて算出した回転数SS0でエンドミル11を回転させて切削加工を行うことで、びびり振動を抑制することができる。

【0061】
(安定切削条件補正方法)
次に、本実施形態に係る安定切削条件補正方法について説明する。この安定切削条件補正方法は、上記の安定切削条件推定方法で算出した回転数SS0を補正するための方法である。

【0062】
本実施形態では、エンドミル11の回転数を安定切削条件推定方法により算出した回転数SS0に設定して切削加工を行い、その際にびびり振動が生じたものとする。また、そのびびり振動の各種パラメータを、びびり振動数fS0、位相差εS0、整数部qS0とする。これらのパラメータは、2次元離散フーリエ変換解析方法で算出できる。

【0063】
図6に、本実施形態に係る安定切削条件補正方法のフローチャートを示す。

【0064】
制御装置30は、回転数SS0の補正回数(切削回数)jを0に設定し(S301)、次の(14)式に基づいて、回転数SS0を1回補正した補正回転数SSj(j=1)を算出する(S302)。
【数14】
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(14)式において、ΔSは、(12)式または(13)式によって求めた回転数SS0と最初の回転数SC0との差によって算出(補正)される。すなわち、ΔS=SS0-SC0である。なお、以下の式においても、同様にΔS=SS0-SC0とする。

【0065】
びびり振動抑制システム1は、エンドミル11を補正回転数SSj(1回補正後なのでj=1。以下、同じ。)で回転させて切削加工を行い(S303)、びびり振動が生じたか否かを判定する(S304)。びびり振動が生じたか否かは、例えば、加工面粗さを利用して判定することができる。

【0066】
びびり振動が生じた場合(S304でYES)、びびり振動抑制システム1は、2次元離散フーリエ変換解析方法を実行して、びびり振動数fSjを算出する(S305)。

【0067】
次いで、制御装置30は、次の(15)式に基づいて、位相差εSjを算出する(S306)。
【数15】
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【0068】
位相差εSjを算出した制御装置30は、次の(16)式で表される同安定ローブ判別式Rを満たすか否かを判定する(S307)。
【数16】
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(16)式において、εは閾値であり、その初期値はεC0である。

【0069】
同安定ローブ判別式Rを満たさない場合(S307でNO)、制御装置30は、次の(17)式に基づいて、補正回転数SSjを補正回転数SSj+1に補正する(S308)。
【数17】
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【0070】
一方、同安定ローブ判別式Rを満たす場合(S307でYES)、制御装置30は、同安定ローブ判別式Rの、閾値εをεSjに更新する(S309)。

【0071】
次いで、制御装置30は、次の(18)式に基づいて、補正回転数SSjを補正回転数SSj+1に補正する(S310)。
【数18】
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【0072】
びびり振動抑制システム1は、エンドミル11を補正回転数SSj+1(j=1)、言い換えれば、2回目の補正回転数SSj(j=2)で回転させて切削加工を行い(S311)、びびり振動が生じたか否かを判定する(S304)。

【0073】
びびり振動が生じていない場合(S304でNO)、安定切削条件補正方法を終了する(S312)。

【0074】
結局、本実施形態に係るびびり振動抑制方法によれば、2次元離散フーリエ変換解析方法により、びびり模様の縞の縦間隔gを自動的に読み取ることができるので、作業の大幅な短縮を図ることができる。また、本実施形態に係る2次元離散フーリエ変換解析方法では、複数の縞が混在したびびり模様や、縞が断片的に現れているびびり模様であっても、解析することができる。

【0075】
本実施形態に係るびびり振動抑制方法は、びびり振動現象のモデルとして単一びびりモデルだけでなく、複数びびりモデルにも対応しているので、より正確で、汎用性の高い安定切削条件の探索を行うことができる。なお、多くのびびり振動の場合、安定ポケットにおいて複数のびびり振動を同時に抑えることができるため、矛盾のない総合的な判断が可能となる。

【0076】
本実施形態に係るびびり振動抑制方法では、びびり振動数から位相差を算出するので、切削加工時の送り速度fは一定でなければならないという制約をなくすことができる。

【0077】
以上、本発明に係るびびり振動抑制方法およびびびり振動抑制システムの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。

【0078】
例えば、本発明の2次元離散フーリエ変換解析方法は、
(1)ワークの加工面を撮影してびびり模様の画像データを生成するステップ
(2)画像データに対して2次元離散フーリエ変換を行うステップ
(3)2次元離散フーリエ変換で得られたパワースペクトルのピークを選択し、選択したピークの周波数からびびり模様の縞の縦間隔を算出するステップ
(4)縦間隔からびびり振動数および位相差を算出するステップ
を含むのであれば、適宜構成を変更できる。

【0079】
本発明の安定切削条件推定方法は、
(5)工具を回転数SC0で回転させ、2次元離散フーリエ変換解析方法により、びびり振動数fC0および位相差εC0を算出するステップ
(6)びびり振動数fC0に基づいて、回転数SC0から安定ポケット内の回転数SS0までの距離ΔSを算出するステップ
(7)回転数SC0と距離ΔSとに基づいて、回転数SC1を設定するステップ
(8)工具を回転数SC1で回転させ、2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εC1を算出するステップ
(9)位相差εC1が0≦εC1<2πを満たす場合に、位相差εC0および位相差εC1に基づいて回転数SS0を算出するステップ
を含むのであれば、適宜構成を変更できる。

【0080】
本発明の安定切削条件補正方法は、
(10)安定切削条件推定方法により算出した回転数SS0で工具を回転させて、2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εS0を算出するステップ
(11)回転数SS0に対してj回目(j≧1)の補正を行った補正回転数SSjで工具を回転させて、2次元離散フーリエ変換解析方法により位相差εSjを算出するステップ
(12)初期値がεC0である閾値εを用いて、
=(εC1-εC0)(εSj-ε)>0かつ0≦εSj<2π
で表される同安定ローブ判別式Rを満たすか否かを判定するステップ
(13)同安定ローブ判別式Rを満たす場合に、閾値εをεSjに更新するとともに、補正回転数SSjをSSj+ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正するステップ
(14)同安定ローブ判別式Rを満たさない場合に、補正回転数SSjをSSj-ΔS/2j+1(ただし、ΔS=SS0-SC0)に補正するステップ
を含むのであれば、適宜構成を変更できる。

【0081】
本発明のびびり振動抑制システムは、撮影装置および制御装置を備え、少なくとも本発明の2次元離散フーリエ変換解析方法(2次元離散フーリエ変換解析処理)を実行するのであれば、適宜構成を変更できる。
【符号の説明】
【0082】
1 びびり振動抑制システム
10 工作機械
11 エンドミル
12 工具ホルダ
13 ワークホルダ
20 撮影装置
30 制御装置
31 演算部
32 記憶部
33 制御部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5