TOP > 国内特許検索 > 不織布製造方法および不織布製造装置 > 明細書

明細書 :不織布製造方法および不織布製造装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-084359 (P2020-084359A)
公開日 令和2年6月4日(2020.6.4)
発明の名称または考案の名称 不織布製造方法および不織布製造装置
国際特許分類 D04H   1/728       (2012.01)
D01D   5/04        (2006.01)
FI D04H 1/728
D01D 5/04
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2018-218539 (P2018-218539)
出願日 平成30年11月21日(2018.11.21)
発明者または考案者 【氏名】田中 和人
【氏名】片山 傳生
【氏名】森田 有亮
【氏名】川▲崎▼ 涼太
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】100121186、【弁理士】、【氏名又は名称】山根 広昭
審査請求 未請求
テーマコード 4L045
4L047
Fターム 4L045AA01
4L045BA05
4L045BA34
4L045CA26
4L045CB21
4L045DA10
4L045DA36
4L045DA52
4L045DC50
4L047AB08
4L047BA10
4L047EA22
要約 【課題】エレクトロスピニングによって製造される不織布を厚くすること
【解決手段】
ここで提案される不織布製造方法は、ポリマーが溶解したポリマー溶液6を用意する工程と、ポリマーが溶解しない揮発性液体と、水との混合液4を用意する工程と、電圧が印加されたノズル12bから対極の捕集基板11に向けてポリマー溶液6を放出し、捕集基板11の上に不織布2を作製する第1工程と、捕集基板11の上に作製された不織布2に、混合液4をスプレーする第2工程と、第2工程後に、電圧が印加されたノズル12bから対極の捕集基板11の上に作成された不織布2に向けてポリマー溶液6を放出する第3工程とを含んでいる。ここで、第2工程と第3工程とは、少なくとも1回以上繰り返される。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリマーが溶解したポリマー溶液を用意する工程と、
前記ポリマーが溶解しない揮発性液体と、水との混合液を用意する工程と、
電圧が印加されたノズルから対極の捕集基板に向けて前記ポリマー溶液を放出し、前記捕集基板の上に不織布を作製する第1工程と、
前記捕集基板の上に作製された不織布に、前記混合液をスプレーする第2工程と、
前記第2工程後に、電圧が印加されたノズルから対極の捕集基板の上に作成された不織布に向けて前記ポリマー溶液を放出する第3工程と、
を含み、
前記第2工程と前記第3工程とが少なくとも1回以上繰り返される、不織布製造方法。
【請求項2】
前記混合液における前記揮発性液体の混合割合は、10重量%以上80重量%未満である、請求項1に記載された不織布製造方法。
【請求項3】
前記揮発性液体がエタノールである、請求項1または2に記載された不織布製造方法。
【請求項4】
前記混合液を用意する工程では、前記混合液にさらに空気または二酸化炭素を吹き込む、請求項1から3までの何れか一項に記載された不織布製造方法。
【請求項5】
捕集基板と、
前記捕集基板に向けられたノズルと、
前記ノズルに電圧を印加する電圧印加装置と、
ポリマーが溶解したポリマー溶液が貯留された第1貯留部と、
前記第1貯留部から前記ポリマー溶液を前記ノズルに送る送液機と、
前記ポリマーが溶解しない揮発性液体と水との混合液が貯留された第2貯留部と、
前記混合液を前記捕集基板に向けてスプレーするスプレーと
を備えた、不織布製造装置。
【請求項6】
前記電圧印加装置によって前記ノズルに電圧が印加された状態で、前記捕集基板に向けて前記ポリマー溶液を吐出する第1処理と、
前記捕集基板の上に作製された不織布に、前記混合液を前記スプレーする第2処理と、
前記第2処理後に、前記電圧印加装置によって前記ノズルに電圧が印加された状態で、前記捕集基板に向けて前記ポリマー溶液を吐出する第3処理と
を実行し、かつ、
前記第2処理と前記第3処理とを、予め定められた回数繰り返すように構成された、
制御装置をさらに備えた、
請求項5に記載された不織布製造装置。
【請求項7】
前記第2貯留部は、前記混合液に空気または二酸化炭素を混ぜる曝気装置を備えた請求項5または6に記載された不織布製造装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布製造方法および不織布製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ポリマー溶液をエレクトロスピニング法によって、捕集電極(捕集基板とも称されうる)の上に繊維積層体を得る方法が開示されている。同公報では、水、ポリマーが溶解しない揮発性液体、またはそれらの混合液体にて被覆された捕集電極を用いることが開示されている。これにより、平均繊維径が0.1~10μmであり、厚みが200~500μmの繊維積層体が得られるとされている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2011-1658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示される方法では、捕集基板を水、ポリマーが溶解しない揮発性液体、またはそれらの混合液体にて被覆した上で、エレクトロスピニング法によってポリマー溶液を放出している。この方法でも、繊維積層体として得られる不織布を厚くするのに限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで提案される不織布製造方法は、ポリマーが溶解したポリマー溶液を用意する工程と、ポリマーが溶解しない揮発性液体と、水との混合液を用意する工程と、電圧が印加されたノズルから対極の捕集基板に向けてポリマー溶液を放出し、捕集基板の上に不織布を作製する第1工程と、捕集基板の上に作製された不織布に、混合液をスプレーする第2工程と、第2工程後に、電圧が印加されたノズルから対極の捕集基板の上に作成された不織布に向けてポリマー溶液を放出する第3工程とを含んでいる。ここで、第2工程と第3工程とは、少なくとも1回以上繰り返される。
【0006】
この不織布製造方法によれば、繊維積層体として得られる不織布を厚くできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、ここで提案される不織布製造方法の適用例を模式的に示す図である。
【図2】図2は、ナノファイバー不織布2の表面電位の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、紡糸時間とナノファイバー不織布2の厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、ここで提案される不織布製造方法および不織布製造装置を説明する。

【0009】
エレクトロスピニングでは、電圧が印加されたノズルから対極の捕集基板(捕集電極)に向けて帯電したポリマー溶液が放出される。ノズルから放出されたポリマー溶液は、引き延ばされて紡糸されつつ捕集基板の上に到達し、堆積して不織布が形成される。ここで、再生医療において細胞を培養する際の足場材として用いられるナノファイバー不織布を作製する場合には、ポリマー溶液には、例えば、ポリ乳酸のような生分解性のポリマーが用いられている。ポリ乳酸の不織布は、絶縁性を有している。捕集基板にポリ乳酸のような絶縁性を有する不織布が形成されると、エレクトロスピニングでノズルから放出されるポリマー溶液は、捕集基板のうち不織布が形成されていない部分に向けて飛翔し、紡糸されつつ到達するようになる。ポリ乳酸の不織布は、捕集基板の上で厚く堆積せず、徐々に広がりつつ形成されていく。これにより、薄い不織布が捕集基板の上に形成される。他方で、本発明者の知見では、捕集基板の上に形成されたポリ乳酸の不織布は、厚くなると絶縁性が高くなる。ポリ乳酸の不織布の絶縁性が高くなると、エレクトロスピニングのノズルからポリマー溶液が放出されなくなる。このため、エレクトロスピニング法によって、厚いポリ乳酸の不織布を作製することが難しい。なお、ポリ乳酸に限らず、絶縁性を有するポリマーが用いられる場合についても同様に、エレクトロスピニング法によって厚い不織布を作製することが難しい。

【0010】
〈不織布製造方法〉
ここで提案される不織布製造方法は、ポリマー溶液を用意する工程、混合液を用意する工程と、第1工程と、第2工程と、第3工程とを含んでいる。

【0011】
図1は、ここで提案される不織布製造方法の適用例を模式的に示す図である。図1に示された例では、捕集基板11と、ノズル12bへの送液機としてのインジェクター12と、電圧印加装置13と、スプレー装置14とを備えている。捕集基板11は、例えば、アルミなどの金属製の基板が用いられうる。ノズル12bは、捕集基板11に向けられている。インジェクター12は、ポリマー溶液6を貯留した第1貯留部としてのシリンジ12aを備えている。インジェクター12は、シリンジ12aからポリマー溶液6をノズル12bに向けて送液する。

【0012】
電圧印加装置13は、ノズル12bに電圧を印加する装置である。電圧印加装置13は、対極としての捕集基板11に対して所要の電圧をノズル12bに印加するとよい。
例えば、捕集基板11をカソードとし、インジェクター12のノズル12bがアノードとなるように、捕集基板11に対し、ノズル12bにエレクトロスピニングに要する所要の電圧を印加してもよい。
また、例えば、捕集基板11をアースすることによって基準電位(0V)とし、インジェクター12のノズル12bに、エレクトロスピニングに要する所要の電圧を印加してもよい。
エレクトロスピニング法におけるノズル12bや捕集基板11や電圧印加装置13の構成は、種々提案されている。

【0013】
スプレー装置14は、混合液4を貯留した貯留部14a(第2貯留部)を有しており、捕集基板11に向けて混合液4をスプレー(噴霧)する装置である。スプレー装置14には、種々の噴霧装置が用いられうる。図1に示されたスプレー装置14では、貯留部14aからスプレーノズル14bとの間を接続する配管にポンプ14cを備えており、ポンプ14cが操作されることによってスプレーノズル14bから混合液4が塗布される。

【0014】
また、ここで例示される不織布製造装置1は、図1に示されているように、制御装置50を備えている。インジェクター12や電圧印加装置13やスプレー装置14など不織布製造装置1の各構成要素は、制御装置50によって適宜に制御される。これにより、制御装置50によって、ポリマー溶液6を放出するタイミングや混合液4がスプレーされるタイミングや噴霧量などが制御されるように構成されている。

【0015】
〈ポリマー溶液を用意する工程〉
ポリマー溶液を用意する工程では、ポリマー溶液6が用意される。ポリマー溶液6は、不織布2の原料となるポリマーが溶解した溶液である。不織布2の原料になりうるポリマーには、エレクトロスピニングに使用可能なポリマーが適宜に用いられうる。エレクトロスピニングに使用可能なポリマーには、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドー4、6、12、66などのナイロン系、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、アラミドなど溶融あるいは適正な溶媒に溶解可能な様々な高分子が適用可能である。これらの高分子に有機、無機物の粉末や繊維、エマルジョンなどを混合して用いることも可能である。

【0016】
不織布2の原料のポリマーには、いくつかの実施の形態として、生分解性のポリマーが挙げられる。生分解性のポリマーとしては、具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル類、ポリメリレンカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネート類、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類誘導体、フィブロイン、ゼラチン、コラーゲンなどのたんぱく質類やこれらの誘導体が例示できる。生分解性のポリマーは、例えば、再生医療用の不織布として使用されうる。

【0017】
このうち再生医療用の不織布の原材料として好ましいものとして、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体などの脂肪族ポリエステル類が挙げられる。脂肪族ポリエステル類のうち、再生医療用の不織布の原材料として、より好ましいものとして、ポリ乳酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体が挙げられる。

【0018】
ポリ乳酸の共重合体は、伸縮性を付与するモノマー成分が少ないほうが好ましい。ここで伸縮性を付与するモノマー成分とは、カプロラクトンモノマーや、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリアルキレンカーボネートジオール、ポリエチレングリコールユニットなどの軟質成分が例示できる。これらの軟質成分はポリマー重量比で20%未満であることが好ましい。

【0019】
ポリ乳酸においては、ポリマーを構成するモノマーには、L-乳酸、D-乳酸があるが、特に制限はない。またポリマーの光学純度や分子量、L体とD体の組成比は配列には特に制限はないが、好ましくはL体の多いポリマーがよく、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いることも問題ない。

【0020】
なお、ポリマー溶液6には、他のポリマーや他の化合物が併用されてもよい。他のポリマーや他の化合物が併用されることには、例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合が挙げられる。
ポリマーは、高純度であってもよい。とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成型加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は、少ないほうが好ましい。とりわけ医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要があることはいうまでもない。

【0021】
溶媒は一種を単独で用いてもよく、複数の溶媒を組み合わせてもよい。溶媒としては、用いるポリマーを溶解可能で、かつ紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されない。ポリマー溶液6の溶媒には、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、2-プロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4-ジオキサン、1-プロパノール、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、蟻酸、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ヘキサフルオロアセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリジノン、N-メチルモルホリン-N-オキシド、1,3-ジオキソラン、メチルエチルケトン、上記溶媒の混合溶媒等が挙げられる。これらのうち、取り扱い性や物性などから、ジクロロメタン、エタノールを用いることが好ましい。

【0022】
〈混合液を用意する工程〉
混合液を用意する工程では、混合液4が用意される。ここで混合液4は、不織布2を形成するポリマーが溶解しない揮発性液体と水とが混合された混合液である。ポリマーが溶解しない揮発性液体と、水とが主成分として混合されているとよく、所要の機能を奏することを前提に他の成分が含まれていてもよい。

【0023】
ここで、不織布2の製造に用いられるポリマーとしては、上述のようにポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル類が挙げられる。この場合、不織布2の原材料となるポリマーが溶解しない揮発性液体には、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類、または上記液体の混合液体等が挙げられる。これらのうち、取り扱い性や揮発性の観点から、エタノール、2-プロパノール(これらと水との混合液体を含む)を用いることが好ましい。また、取り扱い上の安全性などの観点では、これらのアルコールのうちエタノールが好適な材料として挙げられる。

【0024】
かかる混合液4では、揮発性液体と水とが混合される。混合液4における揮発性液体の混合割合は、例えば、捕集基板11の上に形成される不織布2との濡れ性や導電性や揮発性などが考慮されて定められるとよい。かかる観点において、混合液4における揮発性液体の混合割合は、10重量%以上80重量%未満であるとよい。なお、混合液4は、所要の機能を奏すればよく、揮発性液体の混合割合は、ここで例示される範囲に限定されない。混合液4を用意する工程では、混合液4にさらに空気または二酸化炭素を吹き込んでもよい。

【0025】
〈第1工程~第3工程〉
第1工程は、電圧が印加されたノズル12bから対極の捕集基板11に向けてポリマー溶液6を放出し、捕集基板11の上に不織布2を作製する工程である。
第2工程は、捕集基板11の上に作製された不織布2に、混合液4をスプレーする工程である。
第3工程は、第2工程後に、電圧が印加されたノズル12bから対極の捕集基板11の上に作成された不織布に向けてポリマー溶液6を吐出し、捕集基板11の上に作製された不織布2を厚くする工程である。
第2工程と第3工程とが、少なくとも1回以上繰り返されるとよい。
かかる不織布製造方法によれば、捕集基板11の上に厚い不織布2を形成できる。

【0026】
〈第1工程〉
ここで提案される不織布製造方法では、図1に示されているように、第1工程において、電圧が印加されたノズル12bから対極の捕集基板11に向けてポリマー溶液6が放出される。放出されたポリマー溶液6は、捕集基板11に向かって引き伸ばされ、紡糸されつつ飛翔し、捕集基板11に繊維状態で到達する。かかる繊維が捕集基板11の上で堆積することによって、不織布2が作製される。

【0027】
次に、捕集基板11の上に作製された不織布2に、混合液4をスプレーする工程する第2工程と、第2工程において混合液4がスプレーされた不織布2の上に、電圧が印加されたノズル12bからポリマー溶液6を吐出し、不織布2を厚くする第3工程とが、少なくとも1回以上繰り返される。このように第2工程と第3工程が繰り返されることによって、エレクトロスピニングで形成される不織布2を厚くすることができる。

【0028】
〈第2工程〉
第2工程では、捕集基板11の上に作製された不織布2に、混合液4がスプレーされる。これにより、捕集基板11の上に作製された不織布2が混合液4で濡らされる。ここで、混合液4中の水には、少ないながらも空気中の二酸化炭素が自然に溶解している。このため、混合液4は、導電性を有する。ポリ乳酸の不織布2は、水をはじく性質を有するが、ポリマーが溶解しない揮発性液体は、例えば、エタノールであり、エタノールは、ポリ乳酸の不織布2に馴染む性質を有する。このため、ポリマーが溶解しない揮発性液体と水とが混合された混合液4は、水に比べてポリ乳酸の不織布2に馴染みやすく、かつ、導電性を有している。また、揮発性液体と水とは、それぞれ揮発性を有する。このため、混合液4は、不織布2が作製されると揮発する。

【0029】
第2工程において、混合液4がスプレーされた不織布2は、全体として混合液4で濡れた状態となる。不織布2と捕集基板11とは、不織布2に付着した混合液4を通じて導通し、不織布2の電位が捕集基板11の電位に近づく。第2工程において、混合液4は、不織布2全体に概ね満遍なくスプレーされるとよい。これにより、不織布2の電位は全体として捕集基板11の電位に近づき、ノズル12bとの間に所要の電位差が生じる。

【0030】
〈第3工程〉
第3工程では、第2工程後に、電圧が印加されたノズル12bから対極の捕集基板11に向けてポリマー溶液6が放出される。これにより、第2工程において混合液4がスプレーされた不織布2の上に、電圧が印加されたノズル12bからポリマー溶液6が放出される。この際、混合液4がスプレーされた不織布2は、上述のように全体として捕集基板11の基準電位に近づいている。このため、第3工程では、ノズル12bから不織布2に向けてポリマー溶液6が放出される。放出されたポリマー溶液6は、紡糸されつつ不織布2の上に到達する。これにより、捕集基板11の上に作製された不織布2に重ねて不織布2が形成され、不織布2が厚くなる。なお、混合液4は揮発性を有している。このため、第2工程で混合液4がスプレーされた後、不織布2が混合液4で濡れている状態で第3工程が行われるとよい。

【0031】
ポリマー溶液6に含まれるポリマーがポリ乳酸である場合、ポリ乳酸の不織布2は絶縁体であり、第3工程で重ねられた不織布2の厚さが厚くなると、当該部分が捕集基板11から絶縁される。第3工程でポリマー溶液6が放出される領域は、捕集基板11の上で不織布2の表面が混合液4で濡れており、不織布2が捕集基板11の基準電位に近い領域である。第3工程で新たに不織布2が形成された領域は、徐々に絶縁されていくので、第3工程で新たに不織布2が形成される領域は、第3工程で新たに不織布2が形成された領域の周辺に徐々に拡がっていく。このため、第3工程で重ねられる不織布2の厚さにも限界がある。ここで提案される製造方法では、第2工程と第3工程が少なくとも1回以上繰り返される。

【0032】
この場合、第2工程では、第3工程によって捕集基板11の上に重ねて作製された不織布2に、混合液4がスプレーされる。混合液4がスプレーされた不織布2は、全体として混合液4で濡れた状態となる。混合液4がスプレーされた部分は、不織布2と捕集基板11が導通し、不織布2の表面の電位が捕集基板11の基準電位に近づく。また、捕集基板11に導通していない場合でも、不織布2にスプレーされた混合液4は、静電誘導によって、捕集基板11側で(+)になり、反対側(表面側)で(-)なる。かかる混合液4の作用のため、不織布2の表面の電位は、捕集基板11の電位に近づき、エレクトロスピニングのよるポリマー溶液6の放出が可能になる。かかる第2工程では、混合液4は、不織布2全体に概ね満遍なくスプレーされるとよい。これにより、不織布2の表面電位は、全体として捕集基板11の基準電位に近づく。

【0033】
かかる第2工程の後で第3工程が行われる際には、捕集基板11の上の不織布2の表面電位と、ノズル12bとの間に所要の電位差が生じている。このため、第3工程において、ノズル12bから放出されたポリマー溶液6は、紡糸されつつ不織布2の上に到達する。これにより、第3工程では、捕集基板11の上に作製された不織布2に重ねて不織布2が形成され、不織布2が厚くなる。

【0034】
なお、第2工程では、上述のように捕集基板11の上に作製された不織布2に揮発性液体と水とが混合された混合液4を噴霧し、不織布2の表面電位を捕集基板11の基準電位に近づける。かかる第2工程と第3工程とが繰り返されることによって、エレクトロスピニングが継続され、捕集基板11の上に作製された不織布2に重ねて不織布2が形成される。ここでは、第2工程で捕集基板11の上に作製された不織布2に噴霧される液体は、好適例として、揮発性液体と水とが混合された混合液4を例示している。かかる混合液4によれば、不織布2に早期に馴染み、不織布2の表面電位は、早期に捕集基板11の基準電位に近づく。なお、不織布2の表面電位を捕集基板11の基準電位に近づけ、エレクトロスピニングを継続させるとの観点において、第2工程で捕集基板11の上に作製された不織布2に噴霧される液体は、必ずしも揮発性液体と水とが混合された混合液4である必要はない。第2工程では、例えば、混合液4に代えて揮発性液体が、不織布2に噴霧されてもよい。また、混合液4に代えて水が不織布2に噴霧されてもよい。本発明者の知見では、このように、第2工程で、混合液4に代えて揮発性液体または水が不織布2に噴霧された場合でも、不織布2の表面電位が捕集基板11の基準電位に近づけられ、続く第3工程にてエレクトロスピニングが継続されうる。

【0035】
エレクトロスピニングで作製されるポリ乳酸の不織布2のうち繊維径が細いものは、ポリ乳酸ナノファイバー不織布とも称される。ポリ乳酸ナノファイバー不織布は、例えば、再生医療において細胞が付着するための足場としての再生医療用足場材として用いられうる。再生医療用足場材は、細胞が付着するための足場としての役割だけでなく、再生までの空間を確保するといった役割を担っている。細胞を移植し再生を誘導するためには、細胞の接着、増殖、強度や多孔性などといった様々な要素が足場材に必要とされる。ポリ乳酸ナノファイバー不織布は、再生医療用足場材の材料として、細胞同士の微小環境を構築する細胞外マトリクスと似た構造をとりうる。ポリ乳酸ナノファイバーを用いた細胞培養において、ナノファイバーの繊維径と細胞接着性との間には相関性がある。ナノファイバーからなる構造体は、繊維径や繊維の間隔などを制御することによって、生体組織に近いマトリックスとなりうることが示唆されている。

【0036】
エレクトロスピニング法によれば、上述のように常温での紡糸が可能である。エレクトロスピニング法では、放出されるポリマー溶液が引き伸ばされ、繊維となってコレクター(捕集電極)に向かって飛翔する。この際、ポリマー溶液の表面積が急速に大きくなることでポリマー溶液中の溶媒が揮発し、コレクター上にポリマーからなる繊維が堆積し、不織布が形成される。ここで提案される不織布製造方法によれば、上述した第2工程と第3工程が繰り返されることで、不織布を厚くでき、再生医療用足場材用の不織布として、所要の厚さのポリ乳酸ナノファイバー不織布を製造することができる。なお、ここでは、再生医療用足場材用の不織布として、好適なポリ乳酸ナノファイバー不織布を例示している。ここで提案される不織布の製造方法で製造される不織布の材料はポリ乳酸に限定されない。ここで提案される不織布の製造方法によれば、種々のポリマー材料で、エレクトロスピニング法によるナノファイバー不織布を得ることができる。

【0037】
以下、ここで提案される製造方法を適用した実施例を説明する。適宜に、図1の参照符合を付すが図1は実施例を限定するものではない。また、本願発明は、実施例に限定されない。

【0038】
ここで例示される実施例で、不織布2の製造に用いられるために用意されるポリマー溶液6のポリマーには、例えば、浙江海正生物材料有限公司製のポリ乳酸の樹脂ペレットが用いられている。
ポリ乳酸の樹脂ペレットを溶解させるための溶媒には、ジクロロメタン(dichloromethane)が用いられている。さらに、ポリマー溶液6の導電性を高めるための添加剤には、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)が用いられている。以下、ポリ乳酸(polylactic acid)は、適宜に「PLA」と称される。ジクロロメタンは、適宜に「DCM」と称される。ジメチルホルムアミドは、適宜に「DMF」と称される。

【0039】
〈ポリマー溶液〉
ここで、ポリマー溶液6中のポリ乳酸のポリマー濃度を10wt%とし、DCMとDMFとは重量割合にて8:2とした。ここで用意されるポリマー溶液6では、PLAをDCMに溶かし、電磁スターラーにて1時間混ぜた。その後、DMFを入れ、さらに15分間混ぜた。

【0040】
〈混合液〉
ナノファイバー不織布表面に導電性を付与するための混合液4は、PLAを溶解せず、揮発性の高い液体であるエタノールを、純水と混合した混合液を用いた。この実施例では、純水とエタノールの重量割合は8:2とした。実施例では、スプレー装置14として、トラスコ中山株式会社製のスプレーガンを用いた。

【0041】
〈表面電位測定および混合液の塗布量測定〉
スプレー装置14によってスプレーされる混合液4によって、エレクトロスピニング法で作製されるナノファイバー不織布2の表面に導電性が付与されているかを調べるために、紡糸中のナノファイバー不織布2の表面電位の測定を行った。表面電位の測定には静電気測定器(IZH10,SMC株式会社)を用いた。

【0042】
ここでは、図1に示されているように、図1における捕集基板11、ノズル12bを筐体(図示省略)に収めたエレクトロスピニングユニット(NANON,株式会社メック)内で、エレクトロスピニング法にてポリマー溶液6を吐出して紡糸してナノファイバー不織布2を得た。この際、紡糸しつつ、捕集基板11上にナノファイバー不織布2が形成される範囲(かかる範囲は、「紡糸範囲」とも称される。)の中心部の表面電位を測定した。

【0043】
また、この際、ノズル12bに印加する電圧は、20kV,10kV,9.5kV,7.5kV,5kVに順に変え、それぞれ紡糸が可能か否かを判断した。エレクトロスピニングでは、ノズル12b先端のテイラーコーンが生じ、テイラーコーンの先端から対極の捕集基板11にポリマー溶液6が飛び出すように放出される。ここでは、ノズル12b先端のテイラーコーンが生じる部分およびその付近の様子を観察した。なお、捕集基板11が絶縁性を有するナノファイバー不織布2で覆われると、ノズル12b先端にテイラーコーンが生じにくくなり、繊維が飛び出さなくなかったり、捕集基板11とは異なる方向に向けて放出されたりする。ここでは、ノズル12bの先端にテイラーコーンが形成され、紡糸が行われた時に、紡糸された繊維が捕集基板11で堆積した範囲を「紡糸範囲」とした。

【0044】
上記のような試験の結果、印加電圧が9.5kV以上の時には、エレクトロスピニングにてテイラーコーンが形成され、紡糸は可能であった。そして、作製されたナノファイバー不織布2の表面電位は1±0.6kVを示した。また、印加電圧が7.5kVの時は、捕集基板11の表面電位は0.89±0.3kVであり、エレクトロスピニングにてテイラーコーンが形成されず、紡糸は不可能であった。

【0045】
このようなことから本発明者の知見によれば、テイラーコーンが形成され、紡糸が可能であるときの印加電圧と表面電位との電位差は、大凡8.5kV以上が必要であると考えられる。紡糸可能な状態で15分間、紡糸した時に、捕集基板11に紡糸された繊維が堆積した範囲は、概ね直径80mmであった。

【0046】
〈不織布2の表面電位の測定〉
第2工程においてスプレーされる混合液4が、作製された不織布2の表面電位に与える影響を調べるために、本発明者は、1時間紡糸し、ナノファイバー不織布2を作製しつつ、その中で15分間隔毎にスプレー装置14から混合液4を噴霧し、表面電位の経時変化を測定した。さらに、噴霧後の噴霧された混合液4の重量変化と液滴観察を行い、混合液4をスプレーする時間間隔を変え、作製されるナノファイバー不織布2の構造に与える影響を調べた。液滴観察にはデジタルマイクロスコープ(VHX-5000,株式会社キーエンス製)を、ナノファイバー不織布構造の観察には走査型電子顕微鏡(SEM,JSM-6390LT,日本電子株式会社製)を使用した。

【0047】
〈導電率測定〉
上述のように、第2工程では、捕集基板11の上に製造されたナノファイバー不織布2に導電性が付与される。かかる導電性の付与に寄与する物質を調べるため、紡糸の際に使用する各物質が混合液4に溶け込んだ時の導電率の経時変化を測定した。導電率の測定には導電率計(CM-41X,東亜ディーケーケー株式会社)を用いた。

【0048】
〈大気中物質の溶解による導電率の経時変化〉
また、大気中物質が(混合液4に含まれる)純水に溶解した際の導電率の経時変化を測定することを確認した。ここでは、ガラス製の容器に純水50gずつを入れ、開放した状態(Open)のものと、密閉状態(Closed)のものとを比較した。各導電率の変化を一定時間ごとに測定した。

【0049】
〈不織布中の物質による導電率の経時変化〉
不織布中の物質が純水に溶解したことよる導電率の変化を測定するため、ナノファイバー作製時に使用するPLAのペレット1.0g,DCM7.2gをそれぞれガラス容器に入れた純水50gと混ぜ、導電率の経時変化を測定した。導電率の測定時のみ容器のふたを開けて測定することで、大気中物質の溶解の影響を最小限にした。

【0050】
〈スプレー装置中の物質による導電率の経時変化〉
また、スプレー装置14中の物質が純水中に溶解したことによる導電率の変化を測定するため、スプレー装置14に純水50gを入れ、容器のふたを閉めた状態で静置し、一定時間ごとの導電率を測定した。

【0051】
この結果、本発明者は、混合液4には、大気中の二酸化炭素が最も溶けやすく、大気中の二酸化炭素が混合液4に溶解することによって、混合液4の導電率を上昇させるとの知見を得た。

【0052】
〈絶縁抵抗測定〉
また、混合液4中の水とエタノールの割合によって、不織布2の絶縁抵抗がどのように変化するかを測定した。ここでは、PLA板を作製し、各割合の混合液4に一定時間浸した後の抵抗を測定した。PLA板は、PLAが15wt%になるようにしたPLA/DCM溶液を用意し、深さ1mmの溝を形成した60mm角のPTFEブロック(フッ素樹脂ブロック)上に流し、PTFEブロックでスキージした後、十分に乾燥させて作製した。作製されたPLA板は、マイクロメータで厚さを測定し、10×50mmの大きさに切り出し、両端2mm部分にAgペーストを塗布し、抵抗を測定した。抵抗の測定には超絶縁計(SM7120,日置電機株式会社製)を使用した。

【0053】
ここで、PLA板を浸漬する溶液は、混合液4に準じて純水とエタノールとを混合した溶液を用いた。ここでは、純水とエタノールの重量割合を100:0,80:20,50:50,20:80,0:100とした。PLA板の浸漬時間は100秒とし、溶液から取り出した後、PLA板の表面の水分を十分にふき取って抵抗を測定した。

【0054】
ここで、作製したPLA板の厚さは、0.27±0.06mmであった。PLA板の体積抵抗は、26.5±25.2TΩであった。次に、各混合割合(重量割合)の混合液4に浸漬させたPLA板の体積抵抗は以下の通りである。純水:エタノール=100:0であるときが20.4±19.9TΩであった。純水:エタノール=80:20であるときが8.26±2.87TΩであった。純水:エタノール=50:50であるときが9.04±4.15TΩであった。純水:エタノール=20:80であるときが14.07±11.87TΩであった。純水:エタノール=0:100であるときが16.26±12.4TΩであった。このように、最も体積抵抗が下がったのは、純水:エタノール=80:20の時であった。

【0055】
第2工程で、スプレーされる混合液4のエタノールの割合がナノファイバー不織布2の構造に及ぼす影響を調べるために、混合液4中のエタノールの割合を0wt%,20wt%,50wt%,80wt%,100wt%に変えて、それぞれナノファイバー不織布2を得た。

【0056】
この結果、第2工程において、捕集基板11の上に作製された不織布2に噴霧される混合液4における揮発性液体の混合割合は、捕集基板11の上に作製された不織布2の表面電位を早期に下げるとの観点において、本発明者の知見では、重量割合で10重量%以上80重量%未満であるとよい。ここで、混合液4における揮発性液体の混合割合は、例えば、重量割合で20重量%以上であるとよく、また、混合液4における揮発性液体の混合割合は、例えば、70重量%未満としてもよく、また60重量%未満としてもよい。揮発性液体の混合割合は、さらには50重量%未満としてもよい。

【0057】
エタノールの表面張力は22.4mN/mであり、純水の表面張力(72.6mN/m)より小さい。エタノールを添加した混合液4がスプレーされた時には、純水のみがスプレーされた場合と比較して、液滴の表面張力が小さくなる。本発明者は、このため混合液4は、ナノファイバー不織布2中に浸透しやすくなった、と考えている。

【0058】
第2工程では、導電性を付与させるためには純水による物質(空気中の二酸化炭素)を溶解させる力も求められる。他方で、エタノールによってナノファイバー不織布2に対する混合液4の表面張力を小さくし、スプレーされた混合液4の液滴がナノファイバー不織布2に浸透していくことも求められる。

【0059】
第2工程において、ナノファイバー不織布2上に噴霧された混合液4には、水が含まれており、水の作用によって大気中の二酸化炭素が溶解している。混合液4の液滴は、エタノールの作用によってナノファイバー不織布2に馴染み、ナノファイバー不織布2中に浸透していく。このことで導電性がナノファイバー不織布2全体に付与され、ナノファイバー不織布2の表面電位が捕集基板11に近づき、ナノファイバー不織布2とエレクトロスピニングユニットのノズル12bとの間に所要の電位差が生じ、ナノファイバー不織布2に向けて紡糸が可能となる。ここで提案される不織布製造方法の一実施形態は、このようなメカニズムであるため、原理上、相当程度にナノファイバー不織布2を厚くすることが可能である。

【0060】
〈PLAナノファイバー不織布の厚膜化〉
ここでは、第1工程として、上述のようにエレクトロスピニングユニット(NANON,株式会社メック)を使用し、PLAを紡糸し、PLAナノファイバー不織布2を得た。ここでは、印加電圧を20kVとし,紡糸距離を150mmとし,シリンジの送り速度を1ml/hとし、温度24±3℃,湿度35±5%RHの環境下で紡糸することによって、ナノファイバー不織布2を得た。

【0061】
また、重量比80:20で純水とエタノールとを混合した混合液4を不織布2の表面にスプレーする第2工程と、第1工程と同様の条件で紡糸して不織布2を厚くする第3工程とを予め定められた回数繰り返した。

【0062】
ここで、第3工程では不織布2の表面電位(紡糸範囲の中心での表面電位)を測定しつつ紡糸を行った。そして、不織布2の表面電位が予め定められた電位(ここでは、3.7kV)に達した時に、第2工程における混合液4のスプレーを行った。そして、紡糸時間を1h,2h,3h,4hとして4条件でそれぞれナノファイバー不織布2を得た。そして、混合液4をスプレーせずに同条件で紡糸したナノファイバー不織布2と厚さを比較した。

【0063】
次に、図2は、ナノファイバー不織布2の表面電位の経時変化を示すグラフである。
ここでは、印加電圧を20kVとして、第1工程でナノファイバー不織布2を形成する。そして、15分毎に第2工程によってナノファイバー不織布2に混合液4を噴霧し、その後、第3工程によりナノファイバー不織布2を重ねて形成する。図2は、紡糸開始直後からのナノファイバー不織布2の表面電位を、間欠的に測定したグラフである。また、この際、エレクトロスピニングユニットのノズル12bの先端に生じるテイラーコーン付近の様子を観察した。

【0064】
ここで、図2に示されているように、紡糸開始直後(2a)の捕集基板11の表面電位は2.8±0.2kVを示した。ここでは、かかる電位(2.8±0.2kV)が捕集基板11の基準電位とされる。

【0065】
エレクトロスピニングユニットのノズル12bには、電圧印加装置13によって、捕集基板11に対して所定の電圧が印加される。かかるノズル12bの先端には、テイラーコーンが生じ、テイラーコーンからポリマー溶液6が放出される。ポリマー溶液6は、捕集基板11に対して真っ直ぐに引き延ばされるように紡糸され、かつ、捕集基板11に到達する。このようにして紡糸された繊維が捕集基板11の上で堆積し、捕集基板11の上にナノファイバー不織布2が形成される。

【0066】
その後、図2に示されているように、捕集基板11の上に形成されたナノファイバー不織布2の表面電位は、徐々に上がっていく。そして、第1工程の後半において、紡糸開始から15分後にはナノファイバー不織布2の表面電位は4.5±0.5kVになった。この時、紡糸開始直後と比べて、ノズル12bから吐出されたポリマー溶液6は、捕集基板11に対して横方向にはじかれるように飛翔する様子が観察された。

【0067】
次に、第2工程として、混合液4が捕集基板11の上に形成されたナノファイバー不織布2にスプレーされる。混合液4がスプレーされた直前(2b)のナノファイバー不織布2の表面電位は4.2±0.3kVであった。その後、混合液4がスプレーされた直後(2c)では、ナノファイバー不織布2の表面電位は、3.3±0.4kVにまで下がった。

【0068】
本発明者の観察によれば、PLAのナノファイバー不織布2の上に混合液4がスプレーされてから5分後には、混合液4の液滴は、ナノファイバー不織布2の表面には観察されなかった。スプレーされた混合液4は、それほど早く揮発しないため、混合液4は塗布された後、ナノファイバー不織布2中に浸透していくことが分かる。

【0069】
捕集基板11の上に形成された不織布2に混合液4が噴霧されることで、不織布2の表面電位を下げることができ、不織布2の表面電位と、ノズル12bとの間に所要の電位差が生じるものと考えられる。第2工程では、混合液4が噴霧されることによって、エレクトロスピニングにおいて、捕集基板11の上に形成された不織布2に向けてポリマー溶液6が放出され、紡糸される程度に、不織布2の表面電位が下げられるとよい。かかる試験において、エレクトロスピニングにおいて、捕集基板11の上に形成された不織布2に向けてポリマー溶液6が放出され、紡糸されるためには、不織布2の表面電位が3.7kVを下回ることが必要であった。第2工程では、不織布2の表面電位がエレクトロスピニングにおいて所要の電位となるように、捕集基板11の上に形成された不織布2に混合液4を噴霧するとよい。

【0070】
次に、第3工程(2d)にて、ポリマー溶液6は、捕集基板11の上に作製されたナノファイバー不織布2に向けてノズル12bから真っ直ぐ飛んでいき紡糸されていた。第3工程(2d)では、ナノファイバー不織布2が形成されるにつれて、徐々にナノファイバー不織布2の表面電位が上昇していく。ここでは、紡糸開始から30分後(2e)に再度、第2工程にて混合液4をスプレーする。スプレー直後(2f)には、ナノファイバー不織布2の表面電位が低下する。その後、さらに第3工程(2g)にて、不織布2が形成される。第3工程(2g)では、ナノファイバー不織布2が形成されるにつれて、徐々にナノファイバー不織布2の表面電位が上昇していく。ここでは、紡糸開始から45分後(2h)に再度、第2工程にて混合液4をスプレーする。これにより、ナノファイバー不織布2の表面電位が低下する。その後、さらに第3工程(2i)においてナノファイバー不織布2が重ねて形成される。

【0071】
このように、捕集基板11の上に作製されたナノファイバー不織布2に、混合液4がスプレーされたことで、第3工程において、エレクトロスピニングによる紡糸が継続される。第3工程において、エレクトロスピニングによる紡糸が継続されるのは、混合液4がナノファイバー不織布2に噴霧された後、電圧印加装置13によって電圧が印加されたエレクトロスピニングユニットのノズル12bと、捕集基板11上に形成されたナノファイバー不織布2の表面との間に、所要の電位差が生じているためと考えられる。ここで、捕集基板11の上に形成されたナノファイバー不織布2の表面電位が下がるのは、第2工程で混合液4がナノファイバー不織布2にスプレーされたことに起因すると考えられる。

【0072】
不織布2に混合液4がスプレーされることによって、ナノファイバー不織布2の表面電位が下がる。この理由について、混合液4がスプレーされることによって、ナノファイバー不織布2が混合液4で濡れ、混合液4を通じてナノファイバー不織布2が捕集基板11と導通する。あるいは、ナノファイバー不織布2に含まれる混合液4に、静電誘導が生じる。これにより、ナノファイバー不織布2の表面電位が、捕集基板11の電位に近づくためと、本発明者は考えている。

【0073】
〈PLAナノファイバー不織布の厚膜化〉
図3は、紡糸時間とナノファイバー不織布2の厚さとの関係を示すグラフである。

【0074】
図3では、混合液4をスプレーせずに各紡糸時間、ポリマー溶液6を紡糸して得られたナノファイバー不織布2の厚さと、混合液4をスプレーして各紡糸時間、ポリマー溶液6を紡糸して得られたナノファイバー不織布2の厚さとが示されている。

【0075】
ここで、図3に示されているように、混合液4を全くスプレーせずに、エレクトロスピニングにてポリマー溶液6を紡糸した場合では、作製されたナノファイバー不織布2の厚さは、紡糸時間が1時間では38.9±4.4μm、2時間では96.1±11.6μm、3時間では284.1±19.4μm、4時間では244±4.3μmとなった。この場合、3時間紡糸したナノファイバー不織布と4時間紡糸したナノファイバー不織布の厚さに有意差はない。

【0076】
これに対して、混合液4を所定の条件でスプレーしつつ、エレクトロスピニングにてポリマー溶液6を紡糸した場合では、作製されたナノファイバー不織布2の厚さは、紡糸時間が1時間では156±2.2μm、2時間では465±13.4μm、3時間では1856±15.3μm、4時間では2777±85.9μmと、紡糸時間が延びれば延びるほどナノファイバー不織布2が厚くなることが確認できた。

【0077】
このように本発明者の観察では、混合液4を所定の条件でスプレーしつつ、エレクトロスピニングにてポリマー溶液6を紡糸した場合では、混合液4がスプレーされることによって、ポリマー溶液6が捕集基板11に対して真っ直ぐに飛翔し、捕集基板11の上に紡糸されていくことが確認できた。このように、混合液4がスプレーされつつ、エレクトロスピニングによってポリマー溶液6を紡糸することによって、ナノファイバー不織布2を厚くできる。

【0078】
ここで、不織布製造方法を具現化する不織布製造装置の構成例を説明する。
ここで提案される不織布製造装置1は、図1に示されているように、捕集基板11と、ノズル12bと、電圧印加装置13と、第1貯留部12aと、送液機12と、第2貯留部14aと、スプレー14とを備えている。ノズル12bは、捕集基板11に向けられており、電圧印加装置13によって電圧が印加される。第1貯留部12aは、ポリマー溶液6を収容しており、ポリマー溶液6は送液機12によってノズル12bに送られる。スプレー装置14は、揮発性液体と水との混合液が貯留された第2貯留部14aから混合液4を捕集基板11に向けてスプレーする。

【0079】
かかる不織布製造装置1は、図1に示されているように、制御装置50を備えているとよい。制御装置50は、第1処理と、第2処理と、第3処理とを実行する。
ここで、第1処理は、電圧印加装置13によってノズル12bに電圧が印加された状態で、捕集基板11に向けてポリマー溶液6を吐出する処理である。かかる処理は、上述した第1工程に相当する。例えば、制御装置50は、電圧印加装置13を制御し、ノズル12bに印加する電圧を調整することによって、エレクトロスピニングによってノズル12bから捕集基板11に向けてポリマー溶液6を飛ばすことができる。

【0080】
第2処理は、捕集基板11の上に作製された不織布2に混合液4をスプレーする処理である。例えば、制御装置50は、スプレー装置14を制御して、捕集基板11の上に作製された不織布2に混合液4をスプレーするとよい。かかる処理は、上述した第2工程に相当する。

【0081】
第3処理は、第2処理後に、電圧印加装置13によってノズル12bに電圧が印加された状態で、捕集基板11に向けてポリマー溶液6を吐出する処理である。かかる処理は、上述した第3工程に相当する。

【0082】
そして、制御装置50は、第2処理と第3処理とが、予め定められた回数繰り返されるように構成されているとよい。
かかる制御装置50を備えた不織布製造装置1によれば、エレクトロスピニング法によって厚い不織布2を作製することができる。

【0083】
ここで、第2貯留部14aは、図示は省略するが、混合液4に空気または二酸化炭素を混ぜる曝気装置14dを備えていてもよい。これにより、十分に二酸化炭素が溶解した混合液4を不織布2に噴霧することができ、不織布2の表面電位を適切に下げることができる。

【0084】
以上、ここで提案される不織布製造方法および不織布製造装置について、種々説明した。特に言及されない限りにおいて、ここで挙げられた不織布製造方法および不織布製造装置の実施形態などは、本発明を限定しない。また、ここで提案される不織布製造方法および不織布製造装置は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされうる。
【符号の説明】
【0085】
1 不織布製造装置
2 ナノファイバー不織布(不織布)
4 混合液
6 ポリマー溶液
11 捕集基板
12 インジェクター(送液機)
12a シリンジ(第1貯留部)
12b ノズル
13 電圧印加装置
14 スプレー装置(スプレー)
14a スプレー装置の貯留部(第2貯留部)
14b スプレーノズル
14c ポンプ
14d 曝気装置
50 制御装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2