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明細書 :新規化合物、炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤、又は、一酸化炭素送達物質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-143014 (P2020-143014A)
公開日 令和2年9月10日(2020.9.10)
発明の名称または考案の名称 新規化合物、炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤、又は、一酸化炭素送達物質
国際特許分類 C07F  13/00        (2006.01)
A61K  31/28        (2006.01)
A61P   1/04        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C07F 13/00 CSPA
A61K 31/28
A61P 1/04
A61P 29/00
A61P 43/00 111
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2019-040610 (P2019-040610)
出願日 平成31年3月6日(2019.3.6)
発明者または考案者 【氏名】北岸 宏亮
【氏名】▲高▼山 実花子
【氏名】モッテリーニ ロベルト
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110001427、【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C206
4H050
Fターム 4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JB20
4C206KA20
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA66
4C206ZB11
4C206ZC02
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB22
要約 【課題】細胞内へCOを効率的に導入できる新規化合物を提供する。
【解決手段】式(A)で示される新規化合物である。ここでRは水素又は置換基を有してもよい炭素数1~8のアルキル基を示し、置換基としてはハロゲン原子又はアリール基である。
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【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(A)で示される新規化合物(Rは水素又は置換基を有してもよい炭素数1~8のアルキル基を示し、置換基としてはハロゲン原子又はアリール基である。)。
【化1】
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【請求項2】
下記式(A’)で示される請求項1記載の新規化合物。
【化2】
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【請求項3】
請求項1又は2記載の新規化合物を有することを特徴とする炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項4】
前記炎症性疾患は、炎症性腸疾患であることを特徴とする請求項3に記載の炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤。
【請求項5】
請求項1又は2記載の新規化合物を有することを特徴とする生体内へ一酸化炭素を送達するための一酸化炭素送達物質。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、その新規化合物を有する炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤、又は、その新規化合物を有する一酸化炭素送達物質に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)はヘモグロビン(Hb)の酸素供給を妨げる有毒ガスとして認知されている(非特許文献1)。一方、生体内では微量のCOが常時生産されている。COはヘムが酵素ヘムオキシゲナーゼによって代謝される際にビリベルジンや鉄と共に産生される(非特許文献2)。このような内因性COは生体内でシグナル伝達物質として機能する。微量のCOは抗炎症作用や抗アポトーシス性、抗増殖性等の細胞保護機能を示し、重要な生理学的役割を果たす(非特許文献3)。
【0003】
このように一般的に有害ガスとして知られるCOであるが、微量のCOは重要な生理学的役割が報告されており、医学分野で応用するために様々な研究が行われている(非特許文献3)。COは非反応性ガスであるため投与は容易であるが、ガスは投与量の精密制御が困難であり、高濃度のCOを投与すれば酸素欠乏の恐れがある。そのため、酸素欠乏を誘発せずに必要な量のCOを投与できるシステムの開発が望まれている。この問題を解決するためにMotterliniらはCO放出分子であるCORMs (CO releasing molecules)を開発した(非特許文献4)。様々なCORMsの中でも水溶性のCORMsとしてCORM3とCORM401がよく利用されている(図5)。
【0004】
既存のCORMはCOの生理機能を探索するための研究用試薬として販売されており、よく利用されている。しかしながら、CORMの問題は細胞膜透過性が低いことである。細胞内でのCOによる生理現象を引き起こすためには、一般的に培地中に比較的高濃度(50 μmol/L以上)のCORMを加える投与が必要である。実際に発明者は既存のCORM3及びCORM401を用いて、細胞内へのCOの導入量を調べたところ、CORMの投与量に対してわずか0.2-0.4%のCOが細胞内に存在するのみであった。このような低い効率では、過剰に加えたCORMによるCO以外の生理反応の可能性が除外できず問題がある。また研究用試薬としてのCORMは細胞内へのCOの導入効率が悪く改良の余地がある。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Piantadosi, C. A.; N. Engl. J. Med. 2002, 347(14), 1054-1055.
【非特許文献2】Dulak, J.; Jozkowicz, A., Acta Ciochemica Polonica, 2003, 50, 31-47.
【非特許文献3】Motterlini, R.; Otterbein, L. E., Nat. Rev. Drug. Discov. 2010, 9, 728-743.
【非特許文献4】Motterlini, R.; Clark, J. E.; Foresti, R.; Sarathchandra, P.; Mann, B. E.; Green, C. J., Circ. Res. 2002, 90, E17-E24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、細胞内へCOを効率的に導入できる新規化合物を提供することを目的とする。また、その新規化合物を有する炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤を提供することを目的とする。また、その新規化合物を有する一酸化炭素送達物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる新規化合物は、下記式(A)で示される新規化合物である。ここでRは水素又は置換基を有してもよい炭素数1~8のアルキル基を示し、置換基としてはハロゲン原子又はアリール基である。
【0008】
【化1】
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【0009】
本発明にかかる炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤は、本発明にかかる新規化合物を有することを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる一酸化炭素送達物質は、本発明にかかる新規化合物を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞内へCOを効率的に導入できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】CORM401-Eの1H NMRスペクトルを説明する図である。
【図2】CORM401-EのFT-IRスペクトルを説明する図である。
【図3】CORM401-Eの溶液中におけるCO放出挙動を示す図であり、そのうち(a)はCORM401-Eから放出されるCOによるhemoCDのUVスペクトル解析図であり(b)はhemoCDアッセイにより測定されたCORM401-Eから放出される時間経過に伴うCO濃度である。
【図4】CORM401及びCORM401-Eの細胞内CO送達効率を示す図である。
【図5】既存のCO送達物質であるCORM3及びCORM401の構造式を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。

【0014】
本発明者は下記式(A)で示される新規化合物を合成した。ここでRは水素又は置換基を有してもよい炭素数1~8のアルキル基を示し、置換基としてはハロゲン原子又はアリール基である。

【0015】
【化2】
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【0016】
アルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。ただし、Rが置換基を有する場合、その炭素数はアルキル基の炭素数に含めないものとする。アルキル基としては、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基を挙げることができる。置換基としては、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、フッ素原子等)又はアリール基等を挙げることができる。

【0017】
好ましくはRが水素の場合であり、その場合、本発明にかかる新規化合物は、下記式(A’)で示される。この式(A’)で示される新規化合物はCORM401-Eと称されることがある。

【0018】
【化3】
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【0019】
次に本発明にかかる新規化合物の合成方法の一具体例を説明する。式(A)で示される新規化合物は下記に示す1段階の定量的な反応によって合成可能である。

【0020】
【化4】
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【0021】
また式(A’)で示されるCORM401-Eは下記に示すように、市販のCORM401からトリメチルシリルジアゾメタンを用いて温和な条件の1段階の定量的な反応によって合成可能である。このようにCORM401-EはCORM401にメチルエステル基を導入した構造を有する。

【0022】
【化5】
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【0023】
本発明にかかる炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤は、本発明にかかる上述の新規化合物を有することを特徴とする。COは細胞内で抗炎症作用を示すが、本発明にかかる新規化合物は、既存のCORMで最も高いCO送達効率を示すCORM401と比べて細胞内に約5倍量のCOを送達することができる。したがって本発明にかかる新規化合物は炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤として非常に有益である。

【0024】
本明細書において「予防」には疾患の発症を抑えること及び遅延させることが含まれ、疾患になる前の予防だけでなく、治療後の疾患の再発に対する予防も含まれる。一方、「治療」には、症状を治癒すること、症状を改善すること及び症状の進行を抑えることが含まれる。炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤の用法用量は適宜変更し得るが、例えば有効成分量として、約0.1~約2000mg/kg/日、好ましくは約1~200mg/kg/日であり、この量を1日1回又は2~3回に分けて投与することができる。

【0025】
本発明の炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤の剤型としては、注射剤、舌下剤、経皮パップ剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、シロップ剤、座薬、軟膏剤、点眼剤等が挙げられる。

【0026】
本発明の炎症性疾患の予防及び/又は治療のための薬剤は、剤型に応じて、製剤上許容される賦形剤や増量剤、例えばデキストリン、乳糖、バレイショデンプン、炭酸カルシウム又はアルギン酸ナトリウム等を配剤してもよい。本発明の薬剤の形態は液状、粉体状、カプセル状、顆粒状のいずれでも構わない。注射剤の場合には、溶媒として注射用蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リンゲル液等が使用され、これに分散剤を添加してもよい。

【0027】
本発明の薬剤が適応される患者は、炎症性疾患の患者である。緩解誘導又は緩解維持の目的で本発明の薬剤を投与する。投与経路としては、経口投与、静脈内投与、舌下吸収、経皮吸収、経腸吸収、点眼等が挙げられる。

【0028】
炎症性疾患として、炎症性腸疾患、慢性関節リウマチ、巨細胞性動脈炎、全身性エリテマトーデス、バージャー病、高安病、古典的結節性多発性動脈炎、川崎病、ウェジナー肉芽腫症、顕微鏡的多発性動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、原発性クリオグロブリン血症性血管炎、皮膚白血球破砕性血管炎等が挙げられる。本発明は、これらの疾患の中で、特に炎症性腸疾患に対して好適に適用され得る。炎症性腸疾患は、広義には虚血性大腸炎・小腸炎等も含む腸管の炎症性疾患すべてを指すが、狭義にはクローン病と潰瘍性大腸炎を指す。

【0029】
本発明にかかる一酸化炭素送達物質は、本発明にかかる上述の新規化合物を有することを特徴とする。上述のように本発明にかかる新規化合物は、既存のCORMで最も高いCO送達効率を示すCORM401と比べて細胞内に約5倍量のCOを送達することができるため、本発明にかかる新規化合物は細胞内CO送達ツール試薬として汎用性が高い。細胞内CO送達ツール試薬として使用する場合は、本発明にかかる一酸化炭素送達物質には、本発明の効果を損なわない範囲にて、本発明の新規化合物以外のその他の成分を配合してもよい。例えば添加物等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
(1)Tetracarbonyl[N-(dithiocarboxy-κS,κS')-N-methylglycine-methylester]manganite (CORM401-E)の合成
アルゴン雰囲気下、50 mL三口反応容器にメタノール10 mL、ジエチルエーテル5 mL、CORM-401 (0.10 g、0.0003 mol)、10 %TMSジアゾメタン-ヘキサン溶液 (1 mL、0.0006 mol) を加え、室温で3時間撹拌させた。反応終了後、溶媒を減圧留去した。その後、粗生成物を水、ヘキサンで順に洗浄することで橙色の固体を得た。下記に実施例で行ったCORM401-Eの合成ルートを記載する。収率80 %であり収量0.80 gであった。
【実施例】
【0031】
【化6】
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【実施例】
【0032】
なお合成の際に精製する副生成物(CH3)3SiOCH3は沸点が57 ℃と低く、減圧留去することで取り除くことが可能である。
【実施例】
【0033】
CORM-401溶液へTMSCHN2を滴下した直後に気泡の発生が確認された。この気泡は副生成物であるN2であると考えられ、反応が進行していることを確認した。
【実施例】
【0034】
CORM401-Eの1H NMR及びFT-IRスペクトルを図1及び図2に示す。図2に示すFT-IRスペクトル測定の結果、CORM401-EはCORM401と同じ位置にカルボニル基のバンドが観測され、反応の前後でMn-CO錯体部分の構造が維持されていることがわかった。
【実施例】
【0035】
(2)CORM401-Eの溶液中におけるCO放出挙動
CORM401-EからのCO放出挙動をhemoCDアッセイによって測定した。下記式にhemoCDを示す。hemoCDの酸素付加体(oxy-hemoCD)のPBS溶液をラットの静脈中に投与すると、循環中にすみやかに血中のCOを捕捉して尿中へと排出されるが、このCO排出は定量的であり、十分量のhemoCD量を連続的に投与することによって、体内で常時生産されるCOを継続的に除去することが可能である。かかるhemoCDの性質を利用し、細胞や組織内に含まれる微量COを定量するために確立したアッセイがhemoCDアッセイである(Minegishi, S.; Yumura, A.; Miyoshi, H.; Negi, S.; Taketani, S.; Motterlini, R.; Foresti, R.; Kano, K.; Kitagishi, H. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5984-5991.)。
【実施例】
【0036】
【化7】
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【実施例】
【0037】
結果を図3に示す。(a)は37℃、0.1%DMSOを含むPBS中におけるCORM401-E(1μM)から放出されるCOによるhemoCD(7μM)のUVスペクトル解析図である。(b)はhemoCDアッセイにより測定されたCORM401-Eから放出される時間経過に伴うCO濃度である。測定の結果、1モルのCORM401-Eからは3モル当量のCOが溶液中において放出されることが明らかとなった。この数値は既存のCORMでありCORM401-Eの前駆体であるCORM401と同等の値である。
【実施例】
【0038】
(3)CORM401及びCORM401-Eの細胞内CO送達効率に関する検討
CORM401及びCORM401-EをHeLa細胞の培地に50 μmol/Lの濃度で加えて2時間培養後、培地を除去し、細胞を洗浄後、細胞内に取り込まれたCO量をhemoCDアッセイによって測定した。その結果を図4に示す。その結果、CORM-401-EはCORM-401と比較して約5.4倍の細胞内CO送達量となった。
【実施例】
【0039】
(4)CORM401-Eの基本的物性について
CORM401-Eは、上述したように、既存のCORM401から手軽な合成反応によって容易に高収率で得られる。CORM401-Eは黄色粉末であり、固体状態で保存する分には高い安定性を示す。CORM401-Eはカルボキシ基をエステル化しているために水に難溶性を示すが、生化学実験用DMSOには高い溶解性を示す。CORM401-EのDMSO溶液は比較的高濃度においても細胞毒性を示さない。そのためCORM401-Eは例えば細胞内CO送達ツール試薬として汎用性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0040】
抗炎症疾患の治療薬やCOを細胞内へ送達するための試験化合物として利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4