TOP > 国内特許検索 > 窒化炭素分散液及びこれを用いた窒化炭素膜の成膜方法 > 明細書

明細書 :窒化炭素分散液及びこれを用いた窒化炭素膜の成膜方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-189761 (P2020-189761A)
公開日 令和2年11月26日(2020.11.26)
発明の名称または考案の名称 窒化炭素分散液及びこれを用いた窒化炭素膜の成膜方法
国際特許分類 C01B  32/914       (2017.01)
H01L  21/208       (2006.01)
FI C01B 32/914
H01L 21/208 Z
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2019-094473 (P2019-094473)
出願日 令和元年5月20日(2019.5.20)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:応用物理学会、刊行物名:第66回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集、発行日:平成31年2月25日 研究集会名:第66回 応用物理学会春季学術講演会、開催日:平成31年3月9日
発明者または考案者 【氏名】大谷 直毅
【氏名】渡辺 貴大
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
審査請求 未請求
テーマコード 4G146
5F053
Fターム 4G146MA20
4G146MB02
4G146MB03
4G146NA01
4G146NB12
4G146NB14
4G146PA02
4G146PA06
4G146PA13
4G146PA15
4G146PA20
4G146QA02
4G146QA10
5F053AA50
5F053BB60
5F053DD20
5F053FF01
5F053GG03
5F053HH05
5F053LL01
5F053LL05
5F053LL06
5F053PP03
5F053RR05
5F053RR13
要約 【課題】 本発明は、塗布法で成膜するために、ナノアモルファス層状窒化炭素の分散性に優れた窒化炭素分散液を提供するとともに、この窒化炭素分散液を用いる窒化炭素膜の成膜方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の窒化炭素分散液は、ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されてなり、前記分散媒が、強酸性のオキソ酸又は強塩基である。本発明の窒化炭素分散液は、また、ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されてなり、前記ナノアモルファス層状窒化炭素の表面自由エネルギーと前記分散媒の表面自由エネルギーの差が15mJ/m2以下である。本発明の窒化炭素膜の成膜方法は、前記本発明の窒化炭素分散液を静電噴霧する方法である。
【選択図】 なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されてなり、前記分散媒が、強酸性のオキソ酸又は強塩基である、窒化炭素分散液。
【請求項2】
前記強酸性のオキソ酸が、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸及びトリフルオロ酢酸から選ばれ、前記強塩基が水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムである、請求項1に記載の窒化炭素分散液。
【請求項3】
ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されてなり、前記ナノアモルファス層状窒化炭素の表面自由エネルギーと前記分散媒の表面自由エネルギーの差が15mJ/m2以下である、窒化炭素分散液。
【請求項4】
前記分散媒が、ジメチルスルホキシド又はγ-ブチロラクトンである、請求項3に記載の窒化炭素分散液。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載の窒化炭素分散液を静電噴霧する、窒化炭素膜の成膜方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化炭素が分散媒中に分散された窒化炭素分散液及びこれを用いた窒化炭素膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することによって発光する現象をエレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)という。
この現象を利用した発光素子として、発光ダイオード(Light-Emitting Diode:LED)が知られている。特に、有機物からなる発光ダイオードは、有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode:OLEDs)と言われる。
【0003】
OLEDsは、応答速度・高演色性・フレキシブル・自発光であるため、薄くて安価なデバイスが実現でき、新たなディスプレイや照明として現在研究されている。ただ、有機物の劣化による寿命の低下という問題があり、現在その劣化を防ぐための封止に関する研究も盛んに行われている。
【0004】
また、一般的な発光ダイオードであるInGaN青色LEDはレアメタルであるインジウムを用いている。しかし、MOCVDによる結晶成長では有毒ガスが必要となり、サファイア基板は1000℃を超える加熱が必要となるため、環境への負荷の問題があるほか、高価であることも問題に挙げられる。
【0005】
これらの問題を解決できる可能性があるのが、ナノアモルファス層状窒化炭素(nano-amorphous graphitic carbon nitride;na-g-C34)である。この材料は、約2.7eVのエネルギーバンドギャップを持つ非金属半導体であり、約50nm程度のナノ粒子である。そして、グラファイトのようにファンデルワールス力で各層が積み重なった層状物質である。この物質は興味深い分子構造を持ち、高い熱安定性・化学安定性・生体適合性・可変なバンドギャップ、また地球上に豊富に存在する窒素と炭素のみから合成できるという特徴から非常に注目されている物質である。そのため、発光素子や光触媒、太陽電池、燃料電池、蛍光センシングなど、様々な可能性が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】H. Tabuchi et al., Jpn. J. Appl. Phys.,46,1596 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発光ダイオードを作製するには電極上に成膜を繰り返し、積層構造を形成する必要がある。
現在、OLEDs作製の際は真空蒸着法による成膜が主流である。これは、積層構造を容易に取り入れることができ、各層において機能分離を図り、高効率化、長寿命化が達成されているからである。
しかし、この成膜プロセスは、高真空を必要とし、サイズ依存性が大きいため大面積化が困難というデメリットがある。また、真空蒸着法でna-g-C34薄膜を作製するとなると、構造が壊れて欠陥が生まれやすいことが問題となる。
そこで、本発明は、溶液ないし分散液から薄膜を形成する塗布法を用いた成膜を検討の前提とする。塗布法での成膜には、高真空不要、成膜装置が安価、成膜時間が短く、そして大面積化が可能といったメリットがあるため、より生産性が高く製造コストも抑えることができる。しかし、na-g-C34は、高い化学安定性をもつゆえに、様々な溶媒・分散媒に対して難溶性・難分散性を示す。
そこで、本発明は、塗布法で成膜するために、ナノアモルファス層状窒化炭素の分散性に優れた窒化炭素分散液を提供するとともに、この窒化炭素分散液を用いる窒化炭素膜の成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記構成を備える。
すなわち、本発明に係る窒化炭素分散液は、ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されてなり、前記分散媒が、強酸性のオキソ酸又は強塩基であるか、又は、ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されてなり、前記ナノアモルファス層状窒化炭素の表面自由エネルギーと前記分散媒の表面自由エネルギーの差が15mJ/m2以下である。
また、本発明に係る窒化炭素膜の成膜方法は、上記本発明に係る窒化炭素分散液を静電噴霧する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る窒化炭素分散液は、ナノアモルファス層状窒化炭素が良好に分散されているため、窒化炭素の薄膜作製に有用である。
また、本発明に係る窒化炭素分散液は、本発明に係る窒化炭素膜の成膜方法のように、静電噴霧が可能であることから、高真空不要、成膜装置が安価、成膜時間が短く、そして大面積化が可能といったメリットがあるため、生産性が高く製造コストも抑えることができる。
窒化炭素は、高い熱安定性・化学安定性・生体適合性・可変なバンドギャップ、また地球上に豊富に存在する窒素と炭素のみから合成できるという特徴を有し、青色発光するので、従来のOLEDsやInGaN青色LEDに代わる優れた発光材料として価値がある。そのため、窒化炭素の薄膜作製に有用な本発明の産業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】s-ヘプタジン環状核(s-heptazine ring core)の分子構造を示す図である。
【図2】na-g-C34の結晶モデルを示す図である。
【図3】na-g-C34の積層構造を示す図である。
【図4】大気圧窒素プラズマ法の概要を示す図である。
【図5】静電噴霧装置の概要を示す図である。
【図6】実施例で作製したna-g-C34の写真である。
【図7】実施例の分散性の評価において、強酸によるna-g-C34の分散の過程を示す模式図である。
【図8】実施例の分散液の評価において、分散液から成膜化したna-g-C34膜のPLスペクトル測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例の分散液の評価において、分散液から成膜化したna-g-C34膜の吸収スペクトル測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例の分散液の評価において、分散液から成膜化したna-g-C34膜のIR測定結果を示すグラフである。
【図11】na-g-C34に特有な赤外吸収振動数を示す図である。
【図12】実施例の分散液の評価において、分散液から成膜化したna-g-C34膜のXPS測定結果(C1s)を示すグラフである。
【図13】実施例の分散液の評価において、分散液から成膜化したna-g-C34膜のXPS測定結果(N1s)を示すグラフである。
【図14】実施例の分散液の評価において、分散液から成膜化したna-g-C34膜のXPS測定結果(O1s)を示すグラフである。
【図15】実施例においてna-g-C34膜の成膜で用いた静電噴霧装置を示す概略図である。
【図16】実施例でのna-g-C34膜の成膜において、ワークディスタンスを10mmに固定し、ノズル径Φを25μm又は40μm、電圧を6,8又は10kVに変化させて成膜した時の表面の変化を示すSEM写真である。
【図17】実施例でのna-g-C34膜の成膜において、ワークディスタンスを12.5mmに固定し、ノズル径Φを25μm又は40μm、電圧を6,8又は10kVに変化させて成膜した時の表面の変化を示すSEM写真である。
【図18】実施例でのna-g-C34膜の成膜において、ワークディスタンスを15mmに固定し、ノズル径Φを25μm又は40μm、電圧を6,8又は10kVに変化させて成膜した時の表面の変化を示すSEM写真である。
【図19】実施例でのna-g-C34膜の成膜において、成膜したna-g-C34膜に見られる山脈構造の一例を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る窒化炭素分散液及びこれを用いた窒化炭素膜の成膜方法の好ましい実施形態について、詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。

【0012】
〔窒化炭素分散液〕
本発明に本発明に係る窒化炭素分散液は、ナノアモルファス層状窒化炭素が分散媒に分散されている。

【0013】
<ナノアモルファス層状窒化炭素>
ナノアモルファス層状窒化炭素は、例えば、大気圧窒素プラズマ法で作製することができる。
このナノアモルファス層状窒化炭素は、次のように構成されていると考えられる。
すなわち、このナノアモルファス層状窒化炭素結晶は、s-ヘプタジン環状核(s-heptazine ring core)(C67)から構成されていると考えられる。s-ヘプタジン環状核を図1に示す。

【0014】
s-ヘプタジン環状核はsp2混成軌道を持つ3配位の炭素C(sp2-C)、sp2混成軌道を持つ2配位、3配位の窒素N(sp2-N)から形成されている。
s-ヘプタジン環状核の連結はs-ヘプタジン環状核縁部の炭素C1に結合する連結基Xにより行われる。連結基Xは3配位窒素やイミド基>NHなどが考えられる。
s-ヘプタジン環状核は結合点炭素C1を3個持つ、連結基がすべて窒素Nであれば、各s-ヘプタジン環状核に3つのs-ヘプタジン環状核が連結して広がった2次元面が形成される。この結晶モデルを図2に示す。結晶モデルはBojdysらによって初めて提案された(上述の非特許文献1参照)。さらに、二次元状に広がった面はファンデルワールス力によって積み重なって図3のような層状の形をとる。

【0015】
なお、終端基にはイミド基やアミノ基以外にもほかに様々な終端基が存在していると考えられ、層状窒化炭素の化学結合にはさらにバリエーションがあると思われる。大気圧窒素プラズマ法によるナノアモルファス層状窒化炭素の作製においては、真空にて熱処理をおこなっているため終端基のNH2基は少ないと考えられる。

【0016】
図4に大気圧窒素プラズマ装置の概略図を示す。
作製のメカニズムとしては、窒素ガスをプラズマヘッドから石英管へ流し、石英管内部の炭素棒の先端にマイクロ波の電力を集中させると窒素ガスが励起されて窒素プラズマが発生する。そのプラズマ熱によって炭素棒が昇華し、生成された活性窒素と活性炭素が窒化炭素(CN)分子を形成する。
CN分子が下流に流れていく際に、石英管を介して水冷され、モリブデン(Mo)板上にナノアモルファス層状窒化炭素が堆積する。
気相中でCN分子が3つ集まってトリアジン環を形成し、トリアジン環が3つ集まってヘプタジンを形成、ヘプタジン3つがNと3配位結合し、図3に表すナノアモルファス層状窒化炭素が合成されると考えられる。
処理条件は、特に限定されず、従来一般に採用されている条件を踏まえ、適宜決定すれば良い。

【0017】
<分散媒>
分散媒としては、下記(1)、(2)のいずれかを用いる。
(1)強酸性のオキソ酸又は強塩基
(2)ナノアモルファス層状窒化炭素との表面自由エネルギーの差が15mJ/m2以下のもの

【0018】
強酸性のオキソ酸としては、具体的には、例えば、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などが好ましく挙げられる。

【0019】
強塩基としては、例えば、水酸化物、特に水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが好ましく挙げられる。

【0020】
ナノアモルファス層状窒化炭素との表面自由エネルギーの差が15mJ/m2以下のものとしては、例えば、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。

【0021】
〔分散液〕
窒化炭素分散液の濃度としては、分散性や成膜性等を考慮して適宜決定すれば良い。

【0022】
〔窒化炭素膜の成膜方法〕
本発明に係る窒化炭素膜の成膜方法では、上述した窒化炭素分散液を静電噴霧する。
静電噴霧は、エレクトロスプレーの原理を成膜に利用したものである。エレクトロスプレーは高電位に維持された毛細管ノズルから液体を吐出し、帯電した液滴が細かく分散してスプレー状になる現象を指す。

【0023】
静電噴霧装置は、図5に示すような構成を備える。
具体的な原理としては、まず、高電圧の印加によって正に帯電した液滴は、液滴同士のクーロン反発によって微細化を繰り返しながら空間に広がっていく。一定以下の大きさに微細化された液滴はクーロン力で基板に引き付けられる。そして、溶媒ないし分散媒が蒸発した状態で基板上に到達、あるいは微粒化した液体が基板に到達してから溶媒ないし分散媒が蒸発して薄膜を形成する。
液滴同士が正に帯電しているため、一般的なミスト法と比較して基板上に到達した際もムラが少ないという利点がある。
ここで、ウェットプロセスでは、スピンコート法などで成膜されることが多いが、この方法では溶媒を使用するために、積層構造を作るとなると下地の層を溶かしてしまう可能性がある。これに対し、静電塗布法では下地を溶かす心配もない。また、スピンコート法は基板が回転して周囲に液剤を飛ばしながら成膜するため液剤効率が良くない。これに対し、静電塗布法では、基板に集中してスプレーができる分、液剤効率が良く高価な材料を用いる際にもメリットがあり、生産の低コスト化が見込める。
このような特徴から、静電噴霧は、溶液だけでなく分散液での成膜も可能であり、量子ドットの成膜も期待される。

【0024】
ナノアモルファス層状窒化炭素は、高い安定性を持つため、様々な溶媒・分散媒に対して難溶性・難分散性を示すが、本発明に係る窒化炭素分散液では、ナノアモルファス層状窒化炭素の分散性が高いため、上記のような静電噴霧を適用することが可能となる。

【0025】
静電噴霧装置における電極は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)電極、酸化亜鉛電極などの公知の電極を用いることができる。

【0026】
また、静電噴霧の条件は、分散液の種類、得ようとする薄膜の面積や厚み等に応じて適宜決定すれば良い。
後述の実施例の結果から、例えば、以下のような観点に基づいて条件を決定することができる。
まず、平坦な薄膜を得るという観点からは、ワークディスタンスが大きすぎるとスプレーが広がりすぎるので、例えば、ワークディスタンス12.5mm以下が好ましい。
また、電圧が大きいほどクーロン力が大きくなり、単位時間当たりの堆積量が増加し、平坦な薄膜形成に繋がるため、分散媒の種類によっても異なるが、例えば、電圧は10kV以上が好ましい。
さらに、ノズル径については、液滴が基板に到達した際にすぐに揮発せずに、濡れた状態で、ナノアモルファス層状窒化炭素が集まる方が、平坦な薄膜形成に繋がるため、分散媒の種類や基板温度によっても異なるが、例えば、Φ=12.5mm以上が好ましい。

【0027】
なお、本発明に係る窒化炭素分散液は、上記静電塗装に好適に使用できるが、それ以外にも、スピンコーティング、ロールコーティング、スピンキャスティング、ドクターブレーディング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、ダイコート法などの種々の成膜方法を利用して成膜化することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明に係る窒化炭素分散液及びこれを用いた窒化炭素膜の成膜方法について、より具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
〔分散液の実施例〕
<実施例1>
図4に示す大気圧窒素プラズマ装置を用いて、ナノアモルファス層状窒化炭素を作製した。
マイクロ波出力のための投入電力700Wで、60分間プラズマを生成し、試料を堆積させた。その後、石英管内に挿入したMo基板上に堆積した試料を真空中400℃で5時間熱処理した。Mo基板上に堆積したナノアモルファス層状窒化炭素(na-g-C34)を図6に示す。本実施例で使用する部分は、Aで示す領域(黄色い)である。なお、Cで示す領域(黒い)は炭素が多く含まれている。
作製したna-g-C34を、硝酸に対して、0.1重量%の割合(1mgのna-g-C34に対して999mgの硝酸)で添加し、6時間超音波分散を行った。その後、遠心分離機(クラボウ製 FB-4000)を用いて、12000rpmの回転数で15分間遠心分離を行い、不要な沈殿物の除去を試みた。その後、上澄みのみを回収した。
【実施例】
【0030】
<実施例2~8、比較例1~20>
硝酸を下表のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~8、比較例1~20の各上澄み液を調製した。なお、実施例2の「DMSO」は、ジメチルスルホキシドの略である。
【実施例】
【0031】
【表1】
JP2020189761A_000002t.gif
【実施例】
【0032】
<分散性の評価及び考察>
上記で得た各実施例・比較例の上澄み液について、na-g-C34の分散性を確認した。
具体的には、まず、365nmのUVライトを照射し、液中のna-g-C34の蛍光を確認した。
また、レーザを照射し、チンダル現象の有無を確認して、コロイド溶液としての分散性を評価した。
その結果、実施例1~8の各上澄み液では、蛍光が確認でき、ほとんどの分散液は、薄い黄色をした液体となり、例外として硫酸を用いた際のみ濃い茶色の液体となった。
これらの分散液はいずれも、レーザを照射すると光路が見えたことからコロイド溶液として分散しているのだと考えられる。そのため、粒径も直径が10-9から10-7m程度の大きさの粒子だと考えられる。また、いずれの分散液も3ヵ月間放置しても沈殿物などは生じず、安定して分散していた。
他方、比較例1~20の各上澄み液では、蛍光やチンダル現象は認められず、所望の分散性は認められなかった。
【実施例】
【0033】
上記結果より、na-g-C34の分散性を高めるためには、2種類の方法があることが分かった。
【実施例】
【0034】
1つ目は、強酸又は強塩基に分散する方法である。
実施例を分類すると、実施例1(硝酸、pKa=-1.4)、実施例3(トリフルオロ酢酸、pKa=-0.3)、実施例5(メタンスルホン酸、pKa=-2.6)、実施例6(硫酸、pKa=-3.0)は、強酸に分類され、実施例7(水酸化ナトリウム)、実施例8(水酸化カルシウム)は、強塩基に分類される。
比較例13(酢酸)、比較例14(無水酢酸)、比較例15(ギ酸)などの弱酸、比較例19(水酸化アンモニウム)などの弱塩基では、na-g-C34を安定的に分散させることはできなかった。
また、強酸であっても、比較例20(塩酸)のように、オキソ酸でない場合には、na-g-C34を安定的に分散させることはできなかった。
【実施例】
【0035】
強酸による分散の過程については、次のように推測される(図7も参照)。
すなわち、液中に電離したプロトン(H+)をna-g-C34に受け渡し、超音波を当ててエネルギーを与えることで層間にプロトンが入り込み、ファンデルワールス力でスタックしていた層同士を剥離する。そして、剥離した層同士はプロトンが付与されているので電荷を保持しており、液中ではクーロン力で反発し合って分散すると考えられる。そのため、粒子は一層から数層積み重なったナノシートに近いものであると考えられる。この分散機構は水酸化ナトリウムでも同様であり、電離した水酸化物イオンが超音波のエネルギーによって層間に入り込み剥離し、分散すると考えられる。分散液の評価のために行った後述のIRスペクトル測定において、3400cm-1付近のピークの増加がプロトンの付与を示していると考えられる。
【実施例】
【0036】
分散性を高めるためのもう1つの方法は、na-g-C34と表面自由エネルギーの近いものに分散させる方法である。
実施例では、実施例2(DMSO)や実施例4(γ-ブチロラクトン)がこれに分類される。
これらの実施例における分散は、強酸や強塩基の分散とは異なり、分散媒と分散質の表面自由エネルギーが近いことで、超音波を照射するなどにより層間に働くファンデルワールス力を引き離し、分散することができると推測される。DMSOとγ-ブチロラクトンの表面自由エネルギーは約60mJm-2である。一方で、na-g-C34は約70mJm-2である。このように、この表面自由エネルギーの値が近かったために分散できたと考えられる。
【実施例】
【0037】
<分散液の評価>
実施例1(硝酸)及び実施例2(DMSO)の各分散液について、合成石英基板上にキャスティングしてna-g-C34膜を成膜し、以下のとおり、PL(Photoluminescence)スペクトル、吸収スペクトル、IR吸収スペクトルを測定した。さらに、XPS(X線光電子分光法)測定を行った。
なお、以下では、実施例1(硝酸)の分散液を用いて得たna-g-C34膜を「SA-na-g-C34膜」と表記し、実施例2(DMSO)の分散液を用いて得たna-g-C34膜を「DMSO-na-g-C34膜」と表記することがある。
【実施例】
【0038】
(PLスペクトル)
分光蛍光光度計(FP-8500型、日本分光製)を用いて、na-g-C34膜のPLスペクトルを測定した。励起波長は325nmとした。
【実施例】
【0039】
(吸収スペクトルの測定)
紫外可視分光光度計(UV 2450、島津製作所)を用いて、na-g-C34膜の吸収スペクトルを測定した。
【実施例】
【0040】
(IR測定)
フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-4100、日本分光製)を用いて、na-g-C34膜のIR吸収スペクトルを測定した。
【実施例】
【0041】
(XPS測定)
X線光電子分光分析装置(PHI5000 VersaProbe2、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、na-g-C34膜について、XPS測定を行った。
【実施例】
【0042】
<結果及び考察>
図8にPLスペクトルの変化、図9に吸収スペクトルの変化、図10にFT-IRスペクトルの変化を示す。
図8のPLスペクトルの結果より、硝酸およびDMSOを用いた際のPLスペクトルは、分散前と比較して、どちらもブルーシフトしたことがわかった。また、吸収スペクトルも同様に、硝酸・DMSOともにブルーシフトしたことが分かった。
SA-na-g-C34のPLの発光輝度は、na-g-C34と比較しても大きくなった。
上記の結果は、SA-na-g-C34自体の色が元の茶色から黄色に変化したことも考慮に入れると、吸収スペクトルがブルーシフトした分、長波長側の吸収が少なくなり、自己吸収による発光の阻害が生じなくなったためであると考えられる。
【実施例】
【0043】
また、図9のFT-IRのスペクトルを確認すると、約1400cm-1付近のスペクトルが硝酸を用いた際に大きく変化した。また、DMSOを用いた際も同じ波数周辺で大きく変化した。
メインとなる3つのピーク(図11参照)はいずれも観測されるものの比率が変化しているため、構造に変化を及ぼしていると考えられる。しかしながら、約811cm-1の窒化炭素特有のトリアジン骨格の振動が観測されるため窒化炭素由来の構造は少なからず残存していると考えられる。
また、SA-na-g-C34の約3400cm-1のブロードの吸収バンド上昇は、-OH、-NH由来の変化だと考えられる。この結果から、硝酸のプロトンがna-g-C34に吸着し、窒化炭素がプロトン化したことがうかがえる。
【実施例】
【0044】
以上に見られる分散前後でのスペクトルの変化は、超音波分散できたことにより、以下の2つの要因によって生じていると予測できる。
仮説(1):na-g-C34化学構造が壊れることで、結合の共役長が短くなったことによってバンドギャップの上昇が生じた。
仮説(2):超音波分散によって、層が剥離しナノシートあるいは数層重なったナノ粒子が形成された。そのため、量子サイズ効果が生じバンドギャップが上昇した。
【実施例】
【0045】
そこで、構造の変化を調べるために、上述のとおり、SA-na-g-C34、DMSO-na-g-C34のXPS測定を行った。図12にC1sスペクトルを示す。次に図13にN1sスペクトルを、最後に図14にO1sスペクトルを示す。
【実施例】
【0046】
まず、図12に示すC1sスペクトルについてみると、SA-na-g-C34、DMSO-na-g-C34ともに、元のna-g-C34のスペクトルと比較して、左右の山の大きさが変化していることが分かる。左側の山の中心である288.2eV付近の山は図1のC1とC2にあたる炭素に関する結合を示すピークであり、na-g-C34に本来存在するピークである。右側の高い結合エネルギーの山である284.6eVのピークは炭化水素由来のピークである。
この結果より、SA-na-g-C34、DMSO-na-g-C34ともに元の窒化炭素の構造は持っていることが確認できた。
また、SA-na-g-C34、DMSO-na-g-C34は似たようなスペクトルとなった。炭化水素由来のピークが増えたことについては、一つは分散媒によって窒化炭素のs-ヘプタジン環状核の二重結合が切れ、分散媒はどちらも酸化剤の役割をもつので分散媒側から与えられた水素が結合することで増えた可能性がある。2つ目に、分散媒除去の過熱による可能性が考えられる。
【実施例】
【0047】
次に、図13に示すN1sスペクトルについて比較する。
398.6eVのスペクトルは、図1のN1の窒素周辺の結合を示すピークである。また、400.3eVのスペクトルは、図1のN2周辺の結合、またs-ヘプタジン環状核同士を架橋する3配位窒素を示すスペクトルである。そのため、na-g-C34のスペクトルは、図13(a)のように左肩の部分の裾野が広がるスペクトルになる。一方で、SA-na-g-C34のN1sスペクトルにおいて、図13(b)の右側の398.6eV周辺のスペクトルは、400.3eVの山が小さい。このことはSA-na-g-C34は3配位窒素が少ない構造をとっていることを示している。つまり、s-ヘプタジン環状核同士が連続的に並んでおらず、ヘプタジンの構造(図1)に近づいていると予想される。このように予想すれば、SA-na-g-C34の色の変化をも説明でき、ヘプタジンの構造は重合の途中段階であるため色は薄いので、結果として全体の色が薄くなり黄色に変化したのだと考えられる。また、SA-na-g-C34では405.5eVのピークが新しく生じた。このピークは407eV周辺にあることから硝酸塩のスペクトルである。これは、硝酸を用いたことで図1のN1の窒素に付加されたことによるスペクトルだと考えられる。
【実施例】
【0048】
図14に示すO1sスペクトルに関しては、大きな変化は見られなかった。
【実施例】
【0049】
以上の結果より、上記仮説(1)、すなわち、構造が壊れたことによってブルーシフトが起きているということが確認できた。このように、分散することによってna-g-C34の構造が変化することが分かった。このことは、分散媒の選定により、発光特性を変化・調製することができる可能性を示唆している。
なお、上記仮説(2)の熱による化学構造への影響については、今回の実験では、明らかになっておらず、今後調べる必要がある。
【実施例】
【0050】
〔窒化炭素膜の成膜方法の実施例〕
<実施例9~26>
図15に示す構成を備える静電噴霧装置を用いて、窒化炭素分散液を静電噴霧して成膜化した。
用いた基板はITO基板で、分散液は、上記実施例2(DMSO)の分散液である。基板周りのステージ側に液滴が引き寄せられないように、ステージには絶縁性のポリイミドを用いた。
また、液滴は電荷を持っているので基板がチャージアップしてしまうと後から飛んでくるミストと反発してスプレーの広がりが大きくなり、基板に堆積しにくくなる。実際にガラス基板に成膜するとなるとほとんど堆積しなかった。そこで、ITOをグランドに接地しチャージを逃がすようなステージの設定を行った。
電圧はV=6、8、10kVで変化させ、ワークディスタンスはd=10、12.5、15mmで変化させ、ノズル先端の外径はΦ=25、40μmで変化させ、合計18パターンで薄膜を作製した。また、スプレー時の基板の温度は160℃に設定し、背圧はかけなかった。
下表に各実施例における条件をまとめた。
【実施例】
【0051】
【表2】
JP2020189761A_000003t.gif
【実施例】
【0052】
<薄膜の評価及び考察>
上記のようにして得られた18種類の薄膜を、走査電子顕微鏡で表面観察し、どのように堆積しているかを観察した。
表2に示すとおり、図16(a)~(f)は、それぞれ、実施例9~14における表面写真を表し、図17(a)~(f)は、それぞれ、実施例15~20における表面写真を表し、図18(a)~(f)は、それぞれ、実施例21~26における表面写真を表す。
【実施例】
【0053】
まず、図18のワークディスタンスが15mmのとき、特に膜はまばらで、図18(d)、図18(c)のように基板が一部で見えるような形で堆積した。これは、ワークディスタンスが大きかったためにスプレーが広がった結果、基板に乗る量が少なかったためだと考えられる。塗布量を増やすことで比較的均一な薄膜を作製できると考えられる。ただし、液剤効率及び成膜時間の点では、好ましくない条件であると考えられる。
【実施例】
【0054】
また、ノズル径が25μmのものと40μmで成膜したものを見比べると、全体の傾向として、ノズル径25μmで成膜した薄膜の方が、ノズル径40μmで成膜した薄膜よりも薄膜上で小さな粒が多くみられる。これに関しては、40μmよりも25μmのノズルの方が吐出時の液滴が小さく、基板到達時の液滴の大きさが小さい。そのため、基板到達後にすぐに分散媒が揮発して小さな粒がみられる結果となったと考えられる。
【実施例】
【0055】
40μmのノズルで成膜したもののうちワークディスタンスが10mm、12.5mmのもの(図16(d)~(f)、図17(d)~(f))は、薄膜の形状が丸みを持っており、山のような形をとりやすいことが分かった。この山の大きさなどは条件によって小さいものから大きいものまで様々であった。また、この形状は、図16(a)~(c)でも同様に観察できた。この山は、25μmのノズルでは、ワークディスタンスが10mmと近い場合においてのみ観察された。この結果より、山ができる条件はいずれも基板に単位時間当たりに基板に堆積する量が比較的多い条件のみで発現することが分かった。これは、液滴が基板到達と同時に揮発してna-g-C34の粒になるのではなく、同時にいくつかの液滴が基板に到達することで濡れた状態で基板に付着して、その後、熱によって分散媒が飛んでいくことでna-g-C34の一つの大きな固まりになったために山が形成されたのだと考えられる。その証拠に、いずれの山も、一つの核が存在することが画像よりわかる。この核が基板に付着すると分散媒の揮発と同時に付着した周囲のna-g-C34粒子の凝集が起き、核に集まって山を形成する。そのため、基板到達時に液滴が揮発できるかどうかによって、山の形成に影響を及ぼすと考えられる。
【実施例】
【0056】
また、図16(d)~(f)、図17(d)~(f)のいずれも電圧が高くなるほど山の直径が大きくなっていることが分かる。これに関しても、電圧が大きくなるほどクーロン力が大きくなるので、単位時間当たりの堆積量が増加することが関与していると考えられる。
例えば、図17(f)をみるといくつかの山が重なり合った結果、大きな山になったと考えられる。また、図16(d)の左側の山が三つある部分をみると、山が成長して連なる過程であることがうかがえる。つまり、単位時間当たりの堆積量が多いと、山を形成する核がたくさん形成される。そのため、凝集して核から成長した山同士が重なり合いやすく、大きな山となり平坦な形を形成するのだと考えられる。また、図16(a)、(b)、(d)の山に表面に存在する山脈も、山を形成する過程でできるものであると考えられる。この山脈同士が成長し大きくなることで、大きな山となり薄膜となるのだと考えられる。図19にその山脈構造の一例(ワークディスタンスd=10mm、Φ=25μm、電圧8kV)を示す。
これらの結果より、図17(f)のΦ=40μm、電圧10kV、d=12.5mmの条件が平坦性を持っており、デバイス化を試みる際に最適だと考えられる。特に、均一で平坦な薄膜であることで、発光ダイオード等への応用可能性が高い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18