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明細書 :脳機能状態計測装置及び脳機能状態を判別するためのプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-198921 (P2020-198921A)
公開日 令和2年12月17日(2020.12.17)
発明の名称または考案の名称 脳機能状態計測装置及び脳機能状態を判別するためのプログラム
国際特許分類 A61B   5/0476      (2006.01)
FI A61B 5/04 322
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2019-105916 (P2019-105916)
出願日 令和元年6月6日(2019.6.6)
発明者または考案者 【氏名】長 篤志
【氏名】横田 力哉
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100093687、【弁理士】、【氏名又は名称】富崎 元成
【識別番号】100139789、【弁理士】、【氏名又は名称】町田 光信
審査請求 未請求
テーマコード 4C127
Fターム 4C127AA03
4C127FF02
4C127GG03
4C127GG11
4C127GG15
要約 【課題】解析処理により短時間で認知行為に関する脳機能状態を精度よく計測し、判別できる脳機能状態計測装置を提供する。
【解決手段】脳の各部位の脳波信号を検出する脳波検出センサーは複数の電極を配置してなるものであり、脳波検出センサーにより取得された脳波信号を脳波信号解析処理部4において脳機能状態を計測する。解析処理としては、被験者の脳波信号の時間変動から脳部位相互における同期度合いを算出し、同期周期の時間分布に対し指数分布へのフィッティングを行って、脳機能における処理速度を表す速度パラメータを算出する解析処理を行うものである。
【選択図】図13
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の電極を配置してなり脳の各部位の脳波信号を検出する脳波検出センサーと、該脳波検出センサーにより取得された脳波信号を解析処理する脳波信号解析処理部とを備えてなる脳機能状態計測装置であって、前記脳波信号解析処理部は前記脳波検出センサーにより検出された認知行為をする被験者の脳波信号の時間変動から脳部位相互における同期度合いを算出し、前記同期度合いの時間変動の特徴から脳機能における処理速度を算出する解析処理を行うことを特徴とする脳機能状態計測装置。
【請求項2】
前記脳波信号解析処理部において、脳波信号のうちのα波信号を抽出し、得られたα波信号についての解析処理を行うようにしたことを特徴とする請求項1に記載の脳機能状態計測装置。
【請求項3】
前記被験者の視覚認知行為をする際の脳波信号を検出するものであることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の脳機能状態計測装置。
【請求項4】
前記脳波信号解析処理部において、同期度合いの時間変動を用いて同期周期の時間分布を算出し、該同期周期の時間分布に対し指数分布へのフィッティングを行って速度パラメータを求めるようにしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の脳機能状態計測装置。
【請求項5】
脳波検出センサーにより検出された認知行為をする被験者の脳波信号データに対して、その時間変動から脳部位相互における同期度合いを算出し、同期度合いの時間変動を用いて同期周期の時間分布を算出し、該同期周期の時間分布に対し指数分布へのフィッティングを行って速度パラメータを求め、その結果により脳機能状態を判別する解析処理をコンピュータ上で実行するようにしたことを特徴とする脳機能状態を判別するためのプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能状態計測装置及び脳機能状態を判別するためのプログラムに関し、特に検出された脳波信号の解析処理により認知処理能力を計測する脳機能状態計測装置及び脳機能状態を判別するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの脳機能は、感覚的認知、想像、論理的思考、記憶など多種多様にわたるものであり、脳機能の状態を判断するために、従来から知能検査のような問答形式の手法が多く用いられているが、これは筆記能力、言語能力、うっかりミス等の影響を受けるという可能性を伴っていた。脳機能の状態を定量的に評価する指標を直接計測することにより、疲労度、集中度や脳活動に関連する日常生活における判断力等諸種の活動に対する指標を得る可能性が考えられ、種々な研究開発がなされている。
【0003】
特許文献1には、測定された複数種類の脳波信号に基づく信号からフラクタル次元解析法を用いて得られたレファレンス信号に関して階層的ニューラルネットワークを用いて解析判別することにより脳機能の状態を計測することについて開示されており、また、特許文献2には、脳の複数領域から測定された複数の脳波信号からマルチフラクタル次元のデータから感性状態を判別することについて開示されている。
【0004】
特許文献3には、感情に関連する情報を推測する第一課題と感情に関連しない情報を推測する第二課題の遂行に対する脳活動反応信号を計測し、その差分を解析してストレス状態を計測することについて開示され、また、特許文献4には、被験者に対する課題の提示手段と、それに関連して光トポグラフィにより被験者の生体計測を行う手段とを有し、ヒューマンエラーの起こりやすい状態を検出・予測することについて開示されている。
【0005】
脳の視覚認知の機能を解明する上で、長時間観察により見え方が切り替わるという知覚交替が引き起こされ、これに関連する事象が脳機能に大きく関与することが想定され、例えば、非特許文献1には、多義図形の知覚交替と脳波(γ波帯域)の同期度との関連性について調査し、知覚交替前の700ms、300msで過渡的にγ波帯域(前頭部-頭頂部間)の同期度が上昇することについて開示している。
【0006】
非特許文献2は、脳波のα波周波数とジター錯視を横に動かした時の縦バーの揺れを表すジター周波数との関連性を調査し、両周波数の間に正の相関があることを開示し、知覚認知においてα波周波数における脳波が脳内の部位間における連携と密接な関係があることを示すとしており、また、非特許文献3では、同じ物体、図を長時間観察する際に知覚交替が起こるまでの時間の頻度分布がガンマ分布の形になることについて開示している。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第3933568号公報
【特許文献2】特許第5448199号公報
【特許文献3】特開2018-143320号公報
【特許文献4】特許第5476137号公報
【0008】

【非特許文献1】Hironori Nakatani et al.「Transient synchrony of distant brain areas and perceptual switching in ambiguous figures」, Biological Cybernetics 94, pp. 445-457, 2006
【非特許文献2】南宇人他「視覚情報処理におけるアルファ波のブロック機能-アルファ周波数とジター周波数の関係-」, VISION, Vol. 27, No.3, pp. 103-106, 2015
【非特許文献3】村田勉「多義的知覚の心理物理計測から推測される離散的な脳内過程」, 生物物理, Vol.47, No.6, pp.378-383, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
人の行為、感性は脳機能に基づくものであり、脳機能状態を計測、判別することが人の日常的活動に資する情報を与えるものとして、多くの研究、提案、開発がなされている。一方で、人の認知行為に関する脳機能状態を判断する上で、認知機能おける処理速度を計測することが有効であると考えられる。
【0010】
特許文献1~3では、脳波を検出し解析処理を行うが、認知機能に関しその処理速度を求めるのではなく、認知行為に関する脳機能状態を判別することについては有効なものではない。また、特許文献4では、脳の複数の部位に関して光トポグラフィによる生体計測を行い感覚的錯誤を検出するが、認知機能に関する脳機能状態を判別することについては有効なものではない。
【0011】
非特許文献1~3において、検出された脳波信号に関し同期度について、あるいはα波周波数とジター周波数の関連性について解析を行い、また、知覚交替についての考察がなされているが、認知機能における処理速度を計測するのではなく、脳機能状態を判断する上では有効な手段は与えられない。
本発明では、検出された脳波信号の解析処理により処理速度を算出し、認知行為に関する脳機能状態を判断することを有効かつ迅速に行う手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前述の課題を解決すべくなしたものであり、請求項1に係る発明による脳機能状態計測装置は、複数の電極を配置してなり脳の各部位の脳波信号を検出する脳波検出センサーと、該脳波検出センサーにより取得された脳波信号を解析処理する脳波信号解析処理部とを備えてなる脳機能状態計測装置であって、前記脳波信号解析処理部は前記脳波検出センサーにより検出された認知行為をする被験者の脳波信号の時間変動から脳部位相互における同期度合いを算出し、前記同期度合いの時間変動の特徴から脳機能における処理速度を算出する解析処理を行うものである。
【0013】
請求項2に係る発明による脳機能状態計測装置は、請求項1に係る発明において、前記脳波信号解析処理部において、脳波信号のうちのα波信号を抽出し、得られたα波信号についての解析処理を行うようにしたものであり、請求項3に係る発明による脳機能状態計測装置は、請求項1ないし2のいずれかの発明において、前記被験者の視覚認知行為をする際の脳波信号を検出するようにしたものであり、また、請求項4に係る発明による脳機能状態計測装置は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記脳波信号解析処理部において、同期度合いの時間変動を用いて同期周期の時間分布を算出し、該同期周期の時間分布に対し指数分布へのフィッティングを行って速度パラメータを求めるようにしたものである。
【0014】
請求項5に係る発明による脳機能状態を判別するためのプログラムは、脳波検出センサーにより検出された認知行為をする被験者の脳波信号データに対して、その時間変動から脳部位相互における同期度合いを算出し、同期度合いの時間変動を用いて同期周期の時間分布を算出し、該同期周期の時間分布に対し指数分布へのフィッティングを行って速度パラメータを求め、その結果により脳機能状態を判別する解析処理をコンピュータ上で実行するようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、脳波検出センサーにより検出された認知行為をする被験者の脳波信号データに対して解析処理を行うことにより、認知行為自体についての判断でなく、解析処理の結果により1分程度の短時間で脳機能状態を精度よく計測し、判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】視覚認知行為中の脳波を検出するテストを行う実験環境を示す図である。
【図2】脳波検出電極の配置形態を示す図である。
【図3】(a)は視覚認知のテストに用いたネッカーキューブの形状を示す斜視図であり、(b)及び(c)はその見え方を説明する図である。
【図4】視覚認知行為のテストに用いたルビンの壺の画像を示す図である。
【図5】空間認知の3Dテストに用いた画像を示す図である。
【図6】知覚認知の隠し絵テストに用いた画像を示す図である。
【図7】短期記憶のテストに用いたカラーパネルのパターンを示す図である。
【図8】脳波の波形信号から求められた同期度、閾値、2値化の関係を示す図である。
【図9】ネッカーキューブの実験結果の例として求められた頻度分布のグラフである。
【図10】3Dテストにおける認知行為の得点結果とデータの解析処理で求められた速度パラメータとの相関を示す図である。
【図11】隠し絵テストにおける認知行為の得点結果とデータの解析処理で求められた速度パラメータとの相関を示す図である。
【図12】カラーテストにおける認知行為の得点結果とデータの解析処理で求められた速度パラメータとの相関を示す図である。
【図13】本発明による脳機能状態計測装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の脳機能状態計測装置は、認知能力自体を検査することによらず、認知能力を使用している時の脳波を計測することによってその処理能力を計測するものであるが、このような脳機能状態計測装置を実現するもととなる脳波と認知能力との関係を表す事象について説明し、その検証のために行った実験と、得られた結果について説明し解析を行う。

【0018】
(1)脳波の同期現象と視覚認知との関連性
視覚認知を行う際の脳機能においては機能的局在性があり、例えば移動物体を視覚認知する場合に、網膜からの情報を後頭葉で受けるが、その物体の色、形という属性は脳の側頭葉で認知し、動きは頭頂葉で認知する。また、物体の正確な位置情報は頭頂葉で取得するが、少し遅れた位置情報を側頭葉で取得し、これらの部分的情報が統合されて全体としての認知がなされることになる。これらについて、非特許文献1、2のような先行技術においても説明されている。

【0019】
非特許文献3に示されているように、同じ物体、図を長時間観察する際に知覚交替が起こるまでの時間の頻度分布fは
【数1】
JP2020198921A_000003t.gif
というように、周期に対してガンマ分布の形となる。

【0020】
しかも、形状パラメータαが自然数をとるため、頻度分布fは指数分布g
【数2】
JP2020198921A_000004t.gif
で表される確率的事象がα回起こるまでの時間分布であると解釈することができる。すなわち、指数分布をもつ確率的過程が脳での情報処理に存在するものと考えられている。本発明においては、特に視覚認知機能時における脳波を計測し、α波帯域の同期現象に注目した解析を行って、その同期現象、速度パラメータと脳の情報処理との関連性を明らかにすることを考える。

【0021】
(2)視覚認知テスト
視覚認知のテストを行いつつ被験者の脳波を計測しデータを取得し解析するという実験を行った。実験環境は図1を示すようになっている。被験者は頭部に脳波計(EEG-5532:日本光電)の電極を装着した状態で台上に設置されたディスプレイ画面に対座し、表示されたテスト画像を認知しつつ、前に配置された入力手段のボタンを操作して応答をするという形でテストを行い、テスト時に被験者の脳波を計測し、得られた計測データを解析処理する。

【0022】
脳波の計測手段としては、頭皮に電極を配置し電位変化を計測する脳波計を用いる。電極配置は図2に示すように、国際10-20電極配置法によるものであり、この電極配置法は、鼻根と後頭部節及び左右耳介前点をそれぞれ計測し、それぞれの中点より正中中心部(vertex)Czを求め、鼻根と後頭部節間の間及び左右耳介前点の間をそれぞれ10、20、20、20、20、10%の割合に分割して電極を配置したものであり、符号は各部位に対応し、奇数が左、偶数が右を表している。この電極配置では、頭の大きさに関係なくほぼ一定部位に電極配置し、ほぼ大脳全領域がカバーされ、各電極間の距離をほぼ等しくすることができるものである。

【0023】
図1に示す実験環境において、複数の被験者に対して次の実験を行った。
<実験1>
実験1は知覚交替と同期度に関するものである。実験環境は、図1において、明室で行い、被験者の見るディスプレイ画面までの距離が1m、視角が2°になるようにした。知覚交替を生じ得る2種類の多義図形を別個にディスプレイ(LCD17V-N、17インチ、1280ピクセル×1024ピクセル)の画面に表示し、被験者はそれを1分間見て、知覚交替タイミングをボタン操作により報告し、同時に被験者の脳波を計測する。被験者は4人(A、B、C、D)である。

【0024】
多義図形は図3(a)に示すネッカーキューブと図4に示すルビンの壺の2種類とした。図3(a)のネッカーキューブは、奧側に見える稜線を点線で表すと、知覚交替により図3(b)、図3(c)のように異なる2つの形態の間で切り替わり得る。図4のルビンのハイライト部、シャドー部のいずれを主体と見るかで切り替わり得るものである。

【0025】
<実験2>
実験2は、(2A)3Dテスト、(2B)隠し絵テスト、(2C)カラーテストの3種類のテストを行うものである。実験環境は、図1において、暗室で行い、被験者の見る掲示用ディスプイ(LG、E2241V-BN、21.5インチ、1980ピクセル×1080ピクセル)の画面までの距離が0.6m、視角が23°になるようにし、5人の被験者は画面を見て、配置されている入力手段を操作して回答するようにするというテストを(2A)~(2C)についてそれぞれ1回ずつ行い、同時に脳波を測定するという形で1セットのテストとし、これを3セット行った。被験者は5人(E、F、G、H、I)であり、順序効果を考慮して(2A)、(2B)、(2C)の順番を被験者ごとに変えた。

【0026】
(2A)3Dテスト(空間認知)
図5は空間認知の3Dテストに用いた画像を示し、左上は不同の8個の直方体(中央に2個を上下にずらして重ね、他の6個をその周囲に配置)の配置状態を示す3D画像であり、右上はそれを上方から見た俯瞰画像であり、直方体の間の1~6の位置を付番している。下は回答ボタンを表示してあり、被験者は俯瞰画像のどの位置から見れば3D画像のように見えるかを、回答ボタンをクリックしながら1分間回答し、同時に脳波を計測するものとした。回答のうち正解数を得点とした。また、テスト用の画像を3種類用意して用いた。

【0027】
(2B)隠し絵テスト(知覚認知)
図6に示す隠し絵をディスプレイ画面に表示し、被験者は1分間これを観察して動物を探し、同時に脳波を計測した。その後、見えた動物を回答し、見つけた動物の数を得点とした。隠し絵は異なるものを3種類用意した。

【0028】
(2C)カラーテスト(短期記憶)
被験者は図7の左側に示すカラーパネルの画像を見て1分間で記憶し、同時に脳波を計測した。その後に左画面に示す回答画面で回答し、正解数を得点とした。また、カラーパネルは異なるものを3種類用意した。一例を示す図7において、GNは緑色、YEは黄色、BUは青色、RDは赤色、WTは白色を示し、回答画面のGY(グレー)は未回答を表している。

【0029】
(3)実験の結果と解析
(3a)関連事項の説明
脳波の解析に関連する事項について説明する。前述した実験1、実験2の結果に対して脳波のうちα波を抽出して解析を行う。
計測された脳波に関して、何らかの認知に応じて脳波には振動子の位相が引き込むという現象がある。位相引き込みが生じているかということは、図2における電極のうち、例えば脳波のパワースペクトルにα波のピークが現れ易いo1、o2で得られる信号を位相に変換し、その位相差から指標PLV(Phase Locked Value)を用いて判断される。

【0030】
脳波信号h(t)を位相に変換するのは、ウェーブレット変換の式(3)
【数3】
JP2020198921A_000005t.gif
を用いて行われる。ψはマザーウェーブレット関数であり、幾種類かあるが、本発明では複素モルレー(Morlet)関数を用いている。

【0031】
式(3)は複素形であり、実部、虚部に分けると、
【数4】
JP2020198921A_000006t.gif
【数5】
JP2020198921A_000007t.gif
となる。

【0032】
位相を求めると、
【数6】
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となり、また、パワーは、
【数7】
JP2020198921A_000009t.gif
となる。

【0033】
例えば、電極o1-o2の間の位相差は式(6)から、
【数8】
JP2020198921A_000010t.gif
となる。振動子ごとの位相から位相差を求め、その位相差の時間変化から同期度を判断する。一定時間において位相差に変化がなければ同期度が高く、同期していると判断できる。

【0034】
同期度に関しては対象時刻の周辺(±window幅)の位相差から
【数9】
JP2020198921A_000011t.gif
【数10】
JP2020198921A_000012t.gif
【数11】
JP2020198921A_000013t.gif
のようにPLVを求める。それにより、計測回数ごとに同期度の時間変化が観察できる。PLVの時間変化は、各電極間で求めることができる。

【0035】
(3b)実験1の結果及び解析
実験1は知覚交替と同期度との関連性を検証するためのものである。各被験者(A、B、C、D)について、閉眼安静状態で計測した脳波についてフーリエ解析によりα波周波数を求めると、各被験者のα波周波数は表1のようになった。
【表1】
JP2020198921A_000014t.gif

【0036】
認知行為を行う際に計測した各被験者の脳波についてウェーブレット解析により同期度を求め、それに閾値を設けて2値化し、同期度算出時の窓幅(window)は±0.05sとする。閾値は変動型平均値とした。変動型平均値は
【数12】
JP2020198921A_000015t.gif
で求められ、2値化は
【数13】
JP2020198921A_000016t.gif
により行う。

【0037】
求められた同期度と、閾値、2値化との関係についての例を図8に示す。各被験者の脳波信号データから得られる同期度の時間変化は図8に示す例と同様になり、一定した状態ではなく、ゆらいでいることがわかる。2値化したデータにおける一度の1と0の値をもつ持つ期間を1周期として長さ(時間)を算出し、測定時間内における周期の長さの頻度分布を作成する。被験者Dについてのネッカーキューブの実験でのデータから求められた頻度分布は図9に示すようになっている。

【0038】
この頻度分布に式(2)の形の指数分布フィッティングを行い、速度パラメータの推定を行う。図9中においては、フィッティングの曲線を示しており、頻度分布では、速度パラメータβが3.096となっている。

【0039】
ボタン報告によって得られた知覚交代時間の頻度分布から推定した速度パラメータβ値とα波の同期度のゆらぎの時間分布から得られた速度パラメータβ値の相関係数を算出すると、両者には統計的に有意な正の相関があることが確認された。非特許文献3により脳での情報処理に指数分布をもつ確率的過程が存在すると予想されていたが、実験1により、その確率過程がα波脳波の同期度のゆらぎとして観測できることがわかった。

【0040】
(3c)実験2の結果及び解析
実験2は同期度のゆらぎから得られる速度パラメータと認知機能・記憶との関連性を検証するためのものである。実験1の場合と同様に、被験者(E、F、G、H、I)について、閉眼安静状態で計測した脳波についてフーリエ解析によりα波周波数を求めると、各被験者のα波周波数は表2のようになった。
【表2】
JP2020198921A_000017t.gif

【0041】
実験2Aの3Dテストについて、各被験者の認知行為による得点と、脳波の計測により得られたデータの解析による速度パラメータとの関係を図10に示し、実験2Bの隠し絵テスト、実験2Cのカラーテストについても、得点と速度パラメータとの関係をそれぞれ図11、図12に示す。

【0042】
実験2の結果得られたデータの解析では、3種の実験結果として、各テストにおける被験者の得点と、求められた処理能力の指標となる速度パラメータとの間に有意な正の相関があることが確認され、これは実験1についての解析処理で求められた速度パラメータが認知行為の処理能力を表す有力な指標であることを示すものであると言える。

【0043】
実験2の結果得られたデータの解析処理では、
i)計測地点(電極)間の脳波の同期度の時間変化を算出することにより、同期度の波形が求められ、その波形から定性的に脳による処理速度の概略を読み取ることができる。
ii)同期度の時間変化を二値化して時間分布を算出することにより、平均処理速度が求められ、これは中精度の定量値となる。
iii)同期度の時間分布を指数関数にフッティングすることにより、速度パラメータが求められ、これは高精度の定量値である。

【0044】
このように、知りたい認知行為を遂行中の脳波を計測し解析することにより、認知行為自体の結果の計測によらずに、その人の、その時における認知行為の処理能力を短時間で推定することができる。

【0045】
(4)脳機能状態計測装置
本発明による脳機能状態計測装置は、認知能力を使用する時の脳波を計測することによってその処理能力を計測することを実現するために、認知行為をする被験者の脳波信号について(3)実験の結果と解析において前述した解析処理を行うものとして構成され、図13に示す構成を有するものである。1は頭皮に配置された複数の電極により脳の各部位の脳波を検出する脳波検出電極であり、2は脳波計本体である。3は脳波計本体により取得された脳波信号のうち解析対象とする帯域成分を抽出する帯域通過フィルタであり、4は対象とする帯域成分波について解析処理を行う脳波信号解析処理部である。

【0046】
脳波信号解析処理部4は、同期度波形生成部5、平均処理速度生成部6、速度パラメータ生成部7を備えており、同期度波形生成部5では抽出された帯域の脳波信号から計測地点間の脳波の同期度の時間変化を算出する演算を行い、平均処理速度生成部6では算出された同期度の時間変化を二値化してその時間分布を算出し平均処理速度を求める演算を行い、速度パラメータ生成部7では二値化した同期度の時間分布を指数関数にフィッティングして速度パラメータを算出する演算を行う。脳機能状態判別部8では、これら得られた同期度波形、平均処理速度、速度パラメータの情報から脳機能状態の判別を行う。

【0047】
なお、脳波検出電極1に関して、視覚認知テストにおいては国際10-20電極配置法によるものを実験例として示したが、必ずしもこの配置形態に限られるのではなく、他の複数の電極配置によるものであってもよい。また、検出された脳波に関して、α波に注目した解析を行うことを示したが、解析対象としては特にα波のみに限定されるものではなく、他の波長域に注目した解析を行うことも可能である。さらに、脳波の解析において、振動子の位相差の時間変化から同期度を求めるようにした解析手法を例示したが、他の解析手法によって同期度を求めることもでき、そのような手法を用いるようにしてもよい。

【0048】
本発明においては、認知行為をする被験者の脳波を計測することにより、脳機能状態の計測、判別を行うのであり、脳機能状態の計測、判別のために被験者が認知行為をしている時の脳波を検出することが前提となる。この認知行為に関しては特にその結果を求めることが必要となるのではない。実験についての説明ではテストの結果としての得点を求めているが、これはその実験結果の妥当性を検証することを意図したものであり、脳機能状態の計測、判別それ自体には、特に認知行為としては結果、回答を求めることが必要であるのではなく、認知行為をするものとして思考するという状態であればよい。

【0049】
認知行為において被験者が特に回答をする必要がないということは、これまでに開発されてきたテストとは全く異なる認知課題とすることも可能であり、より実生活に即した認知課題とすることができる。実験に関して例示したものでは視覚に関する認知行為であるが、聴覚、嗅覚、触覚の刺激に関する認知行為についても本発明の手法の適用がなされると考えられる。

【0050】
(5)脳機能状態を判別するためのプログラム
本発明は、図13に示す構成を有し、検出された脳波信号を解析処理して同期度波形、平均処理速度、速度パラメータの情報を取得する脳機能状態計測装置であるという面ともに、一方で、脳波検出センサーにより検出された認知行為をする被験者の脳波信号データに対して、その時間変動から脳部位相互における同期度合いを算出し、同期度合いの時間変動を用いて同期周期の時間分布を算出し、該同期周期の時間分布に対し指数分布へのフィッティングを行って速度パラメータを求め、その結果により脳機能状態を判別する解析処理をコンピュータ上で実行するためのプログラムという面の特徴をも有する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、認知行為中の脳波信号を解析することにより短時間に脳機能状態を精度よく計測、判別することができるものであり、ペーパーテスト等によらない認知能力の検査に利用されるほか、運転、一般作業、審判行為等における疲労度の計測、集中度の計測等に利用可能であり、また、精神病関係の診断やブレインマシンインタフェース等においても利用可能性がある。
【符号の説明】
【0052】
1 脳波検出電極
2 脳波計本体
3 帯域通過フィルタ
4 脳波信号解析処理部
5 同期度波形生成部
6 平均処理速度生成部
7 速度パラメータ生成部
8 脳機能状態判別部
9 表示部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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