TOP > 国内特許検索 > シリコンバルク熱電変換材料 > 明細書

明細書 :シリコンバルク熱電変換材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和3年1月14日(2021.1.14)
発明の名称または考案の名称 シリコンバルク熱電変換材料
国際特許分類 H01L  35/14        (2006.01)
H01L  35/26        (2006.01)
C01B  33/02        (2006.01)
FI H01L 35/14
H01L 35/26
C01B 33/02 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 20
出願番号 特願2019-562126 (P2019-562126)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 集会名 China-Japan Heat TransferSymposium 2018 開催日 平成30年1月19日。集会名 公益社団法人日本伝熱学会 第55回日本伝熱シンポジウム 開催日 平成30年5月31日。集会名 公益社団法人日本伝熱学会 第55回日本伝熱シンポジウム 開催日 平成30年5月31日
国際出願番号 PCT/JP2018/047940
国際公開番号 WO2019/131795
国際出願日 平成30年12月26日(2018.12.26)
国際公開日 令和元年7月4日(2019.7.4)
優先権出願番号 2017249463
優先日 平成29年12月26日(2017.12.26)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】塩見 淳一郎
【氏名】柏木 誠
【氏名】児玉 高志
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000408、【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
審査請求
テーマコード 4G072
Fターム 4G072AA01
4G072BB01
4G072DD06
4G072HH01
4G072JJ30
4G072KK07
4G072LL06
4G072MM26
4G072MM37
4G072NN27
4G072TT01
4G072TT08
4G072UU30
要約 シリコンの熱伝導率を低減することで、従来に比べ熱電性能が向上したシリコンバルク熱電変換材料を提供する。シリコン単体で、室温でZTが0.2を超えるシリコンバルク熱電変換材料。1nm以上300nm以下の複数のシリコン粒と、前記複数のシリコン粒中及びシリコン粒表面に存在する平均1nm以上30nm以下の第1の空孔と、前記複数のシリコン粒間に存在する平均100nm以上300nm以下の第2の空孔と、を有し、前記シリコン粒のアスペクト比が10未満である、シリコンバルク熱電変換材料。
特許請求の範囲 【請求項1】
シリコン単体で、室温でZTが0.2を超えるシリコンバルク熱電変換材料。
【請求項2】
平均1nm以上300nm以下の複数のシリコン粒と、
前記複数のシリコン粒中及びシリコン粒表面に存在する平均1nm以上30nm以下の第1の空孔と、
前記複数のシリコン粒間に存在する平均100nm以上300nm以下の第2の空孔と、を有し、
前記シリコン粒のアスペクト比が10未満である、
シリコンバルク熱電変換材料。
【請求項3】
平均1nm以上30nm以下の銀粒子を含む請求項2に記載のシリコンバルク熱電変換材料。
【請求項4】
前記シリコン単体のin-plane方向とout-of-plane方向とのZTの比が2倍以内である、請求項1に記載のシリコンバルク熱電変換材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンバルク熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱電変換材料の性能向上を目指した研究が多くなされている。熱電変換とは、熱と電気とを直接に相互変換可能なデバイスであり、これまで利用することの難しかった排熱等の低温熱源からの発電が可能であることから、IoTのセンシングデバイス等の電源をはじめとするエナジーハーベスティングデバイスとして注目が集まっている。熱電変換材料の性能は、無次元性能指数ZTにより表される。
【0003】
【数1】
JP2019131795A1_000003t.gif

ここで、Sはゼーベック係数、σは電気伝導率、Tは絶対温度、κは熱伝導率である。この式から明らかなように、熱電変換材料の性能は、(1)ゼーベック係数Sまたは電気伝導率σを向上するか、(2)熱伝導率κを低減するか、のいずれかにより向上することが可能である。
【0004】
近年では多くの研究グループより、ZTが1を大幅に超える研究成果が報告されている。他方で、エナジーハーベスティングデバイスとしての利用を考えた場合、ZTの大幅な向上は必要不可欠なものではなく、製造コストを低く抑えることができるのであれば高いZTは必ずしも必要ではない。しかし、これまでに報告されている研究のほとんどは、毒性が高く環境適応性の低い材料や高価な材料が使用されている。したがって、前述の費用対効果の問題を解決することができず、熱電変換デバイスの普及、実用化には至っていない。ここで、製造コストの観点から見ると、シリコンは高埋蔵量、無毒性、高安定性を有する材料であり、かつ現在普及しているシリコン加工技術を適用可能であることから、熱電変換材料として有力な材料である。しかしながら、シリコンの熱伝導率は100 W/m/K以上あり、単純に熱電変換材料化してもZT値は0.005程度と全く実用化に適さないのが現状である。そこで、特許文献1は「10以上のアスペクト比」を有するナノワイヤとすることによって熱伝導率の低減を図っている(請求項1、段落[0009]等)。また、特許文献2は「マグネシウム・シリコン合金、マグネシウム・シリコン・スズ合金、シリコン、又はシリコン・ゲルマニウム合金のいずれかを主成分とし、多数の微細孔を有する多孔質体からなることを特徴とする熱電材料」を解決手段としているが、これは、シリコン単体や微少ドープされたシリコンでは実用的なZT値を得られないことから、合金材料(ゲルマニウムなど)を基に熱電材料を模索しているということを意味する。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2016-504756号公報
【特許文献2】特開2015-053466号公報
【0006】

【非特許文献1】Allon I. Hochbaum et al. 10 January 2008 Enhanced thermoelectric performance of rough silicon nanowires Nature 451, 163-167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1がナノワイヤ化によって熱伝導率の低減を図っているが、ワイヤの長手方向とその直交方向では、大きく異なる特性となってしまい、バルクの形態でナノワイヤと同等レベルの良好で等方的な特性を得ることが出来ない。また特許文献2が合金とすることで熱伝導率の低減を図っていることからも分かるように、シリコン単体では実用的な熱電変換材料の作成には至っていない。そこで、本発明は、従来に比べ熱伝導率を低減させて熱電性能が向上したシリコンバルク熱電変換材料を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態において、シリコンバルク中のシリコン粒の構造を調整することによって、シリコン単体で(なお、本明細書で定義するように、「単体」とはわずかな不純物の残存を許容するものをいう)室温でZTが0.2を超えるシリコンバルク熱電変換材料が提供される。
【0009】
本発明の一実施形態において、平均1nm以上300nm以下の複数のシリコン粒と、複数のシリコン粒中及びシリコン粒表面に存在する平均1nm以上30nm以下の第1の空孔と、複数のシリコン粒間に存在する平均100nm以上300nm以下の第2の空孔と、を有し、結晶シリコン粒のアスペクト比が10未満である、シリコンバルク熱電変換材料が提供される。
【0010】
本発明の一実施形態において、平均1nm以上30nm以下の銀粒子を含んでもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、シリコンバルク熱電変換材料のin-plane方向(試料表面に対して垂直な方向)とout-of-plane方向(試料表面に対して平行な方向)とのZTの比が2倍以内であってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、シリコンバルク熱電変換材料の弾性率が、30GPa以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、実用的なシリコンバルク熱電変換材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はナノポーラス構造およびナノ結晶構造中のフォノン輸送の概略を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料を示す模式図である。
【図3】図3は、シリコン材料におけるフォノン平均自由行程に対する累積熱伝導率/バルク熱伝導率を示す図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料における金属粒子23を示す写真(TEM)である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料の製造方法を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態の放電プラズマ焼結装置1の模式図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態の製造装置1000の模式図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料の製造の際に生じる空孔27を示す写真(TEM)である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料の製造の際に生じる空孔27を示す写真(TEM)である。
【図10】図10は、本発明の一実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料のSEM写真である。
【図11】図11(a)は、本発明の一実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料のTEM写真である。図11(b)は、本発明の一実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料のX線回折像である。
【図12】図12(a)は本発明の一実施例に係るシリコン粒100の粒子径の分布を示す図であり、図12(b)は本発明の一実施例に係る第1の空孔200及び第2の空孔300のサイズの分布を示す図であり、図12(c)は本発明の一実施例に係る銀粒子23のサイズの分布を示す図である。
【図13】図13は、本発明の一実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料を評価する3ω法の説明のための図である。
【図14】図14は、本発明の一実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料の電気的特性を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明の一実施例に係る弾性率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図1~図15を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。本明細書において、ある部材又は領域が、他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。

【0016】
[本発明者らの構想]
本発明者らは、バルクシリコン熱電材料の実用化に当たり、ナノ結晶構造に着目し本願を完成するに至った。図1(a)に示すように、ナノ結晶構造中では、フォノン11は結晶粒界面13に衝突すると、一部のフォノンは散乱され、一部のフォノンは透過する。一方で、図1(b)に示したように、ナノポーラス構造中では、孔の表面に衝突したフォノンは全て散乱される。したがって、ナノポーラス構造を用いれば、ナノ結晶構造よりもフォノンの散乱を促進することができ、合金とすることも、ナノワイヤ構造とすることもなく、熱伝導率を低減することが可能であると考えられる。さらに、ナノポーラス構造とナノ結晶構造とを組み合わせることで、これまで以上の大幅な熱伝導率の低減が可能である。

【0017】
[本発明の構成]
図2は、本発明の一実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料の構造を示す模式図である。具体的には、シリコン粒100と、シリコン粒中及びシリコン粒表面に存在する第1の空孔200と、シリコン粒間に存在する第2の空孔300とを適切に制御したナノポーラス構造とすることによって、大幅な熱伝導率低減が可能であることを見出した。なお、本明細書において、「バルク」とは、out-of-plane方向およびin-plane方向の異方性が少ない(具体的にはZTの比が2倍以内である)ことを言う。

【0018】
[シリコン粒100]
本実施形態において、シリコン粒100は、平均1nm以上300nm以下サイズである。シリコン粒は複数存在する。平均1nm以上300nm以下のシリコン粒100とは、シリコン粒100のサイズ(例えば円形であるならばその直径、多角形であれば当該多角形に外接する円の直径)の平均値が1nm以上300nm以下であることを意味する。ここで、シリコン粒100のサイズの平均値とは、ブロードな分布全体の平均値と解されるものではなく、ピークを構成する主要な粒子サイズの最大頻度となる粒子サイズと解されるべきである。本発明では、平均1nm以上300nm以下のシリコン粒100は、HAADF-STEM(倍率200000倍)で、面積0.65μmの所定の観察領域を観察した際に検出できるシリコン粒100のサイズの平均を取った値を意味する。以下の節の観察条件を含めて、同等以上の分解能と同等以上の観察領域で観察出来る方法であれば、本観察方法を代替することが可能である。シリコン粒100の粒度分布は、ブロードであるか、又は、小さな粒径と大きな粒径の2つのピークを有することが好ましい。かかる粒度分布を有することによって、フォノンがより散乱するため、熱伝導率低減が可能である。

【0019】
[空孔200(第1の空孔)]
シリコン粒表面にも空孔200(第1の空孔)が存在する。また、シリコン粒中にも、空孔200(第1の空孔)が存在してもよい。なお、シリコン粒中にも空孔200(第1の空孔)が存在しうるのは、後述するように、本発明の一実施形態において、ナノワイヤ配列構造の段階で銀粒子によってナノワイヤ配列構造の横方向にもエッチングが行われ孔ができており、当該孔が焼結時に塞がることによりシリコン粒中に孔由来の空間が存在すると推察されるからである。第1の空孔200は、平均1nm以上30nm以下、好ましくは平均1nm以上10nm以下のサイズである。平均1nm以上30nm以下の空孔とは、空孔の開口部のサイズ(例えば円形であるならばその直径、多角形であれば当該多角形に外接する円の直径)の平均値が1nm以上30nm以下であることを意味する。ここで、第1の空孔200のサイズの平均値とは、ブロードな分布全体の平均値と解されるものではなく、ピークを構成する主要な空孔の開口部のサイズの最大頻度となる開口部のサイズと解されるべきである。本発明では、平均1nm以上30nm以下の空孔は、High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM(HAADF-STEM(倍率200000倍))で、面積0.65μmの所定の観察領域を観察した際に検出できる空孔のサイズの平均を取った値を意味する。ここで、第1の空孔200のサイズは、観察領域の画像を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社、A像くん(登録商標))を用いて第1の空孔200を検出し、検出された第1の空孔200の開口部のサイズを測定し、平均化した値である。

【0020】
[空孔300(第2の空孔)]
シリコン粒同士の間には、空孔300(第2の空孔)が存在する。空孔300(第2の空孔)は、平均100nm以上300nm以下のサイズである。平均100nm以上300nm以下の空孔とは、空孔の開口部のサイズ(例えば円形であるならばその直径、多角形であれば当該多角形に外接する円の直径)の平均値が100nm以上300nm以下であることを意味する。ここで、第2の空孔300のサイズの平均値とは、ブロードな分布全体の平均値と解されるものではなく、ピークを構成する主要な空孔の開口部のサイズの最大頻度となる開口部のサイズと解されるべきである。本発明では、平均100nm以上300nm以下の空孔は、HAADF-STEM(倍率20000倍)で、面積60μmの所定の観察領域を観察した際に検出できる空孔のサイズの平均を取った値を意味する。ここで、第2の空孔300のサイズは、観察領域の画像を上述した画像解析ソフトを用いて第2の空孔300を検出し、観察領域の画像から検出した第2の空孔300の領域を除去して、シリコン粒の界面を決定した。決定したシリコン粒の界面から、第2の空孔300の開口部のサイズを測定し、平均化した値である。このような、第1の空孔と第2の空孔との階層的なナノポーラス構造を有することが、従来のナノ構造材料に比べても、さらに大幅な熱伝導率低減を実現するカギとなっている。さらに、シリコン粒のサイズにおいても、空孔と同様な階層的な構造を取り入れれば、さらなる特性向上も可能である。

【0021】
[結晶シリコン粒のアスペクト比]
結晶シリコン粒のアスペクト比は10未満であり、好ましくはアスペクト比3未満である。アスペクト比は、字義上は矩形における長辺と短辺の比率を指すが、本明細書においては、矩形に限られず、円形や多角形の場合においても観念され、その値は、結晶シリコン粒に外接する矩形の長軸と短軸の比にて計算する。このアスペクト比の制約は、バルク形態での等方的で良好な特性を実現するのに重要な要素である。

【0022】
[本シリコンバルク熱電変換材料の特性]
上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン単体の室温でのZTが0.2を超える特性を実現することが可能である。シリコン単体とは、わずかな不純物の残存は許容するものの、合金ではないとの意味である。

【0023】
上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン単体で、室温でZTが0.2を超えることが判明したが、シリコンへのドーパント量を調整することによっては、さらなるZTの向上も可能である。

【0024】
上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン基板の半分以下の電界効果移動度、具体的には、電界効果移動度33cm/Vs以下という値にもかかわらずZT=0.2を達成可能である。これまでに実用化された熱電材料はすべて高移動度でマルチバレーを持つ縮退半導体であることから、上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料は低い移動度でZT=0.2以上という実用的な熱電性能を有することがわかる。また、上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料は、電子キャリア濃度6×1018cm-3以下という値にもかかわらずZT=0.2を達成可能である。

【0025】
ここで、バルク単結晶においては、フォノン・フォノン散乱によってそれぞれのフォノンの平均自由行程が決定される。平均自由行程より短い間隔で界面や表面を設けることによって、実効的な熱伝導率をバルク単結晶のそれから低減できる。第1の空孔200がシリコン粒中及びシリコン粒表面に存在するシリコン粒100が焼結して粒界を隔てて接合した構造を有する本発明に係るシリコンバルク熱電変換材料においては、シリコン粒100、第1の空孔200及び第2の空孔300が、平均自由行程より短い間隔でバルク熱電変換材料中に界面や表面を設ける作用を示す。

【0026】
粒子のサイズがフォノン平均自由行程よりも十分に大きい場合は、フォノンは界面に達する前に他のフォノンに散乱されるので(拡散フォノン輸送)、粒内の熱伝導率は単結晶のそれと同じと考えることができる。一方で、粒子のサイズがフォノン平均自由行程よりも十分小さい場合は、フォノンは他のフォノンには散乱されずに(弾道フォノン輸送)界面よって散乱されるため、平均自由行程は粒径で制限され、粒内の熱伝導率は単結晶のそれよりも小さくなる。また、半導体の電子の平均自由行程は一般にフォノンのそれよりも小さいため、粒径を電子の平均自由行程よりも大きく保てば、フォノンの輸送を選択的に阻害でき、電気伝導を然程犠牲にせずに、熱伝導率を低減できる。

【0027】
図3は、シリコン材料におけるフォノン平均自由行程に対する累積熱伝導率/バルク熱伝導率を示す図である。図3から明らかなように、フォノン平均自由行程が300nmを超えると、熱伝導は50%までしか低減されない。一方、本発明の実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン粒100が平均1nm以上300nm以下サイズを有し、第1の空孔200が平均1nm以上30nm以下のサイズを有し、第2の空孔300が平均100nm以上300nm以下のサイズを有するため、熱伝導が50%よりも大幅に低減される。

【0028】
また、異なる内部構造は異なる周波数帯のフォノン輸送を低減することができる。さらに、実際には、フォノンの平均自由行程はフォノンのモード(周波数、波数、偏向)によって大きく異なるため、拡散フォノンと弾道フォノンが混在した「準弾道輸送」となる。従って、フォノン輸送の視点からシリコンバルク熱電変換材料の熱輸送を考える際には、このような強いマルチスケール性を考慮する必要がある。これは、熱輸送を低減する上で、モードによって適切な構造の長さスケールが異なることを意味している。本発明の実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン粒100が平均1nm以上300nm以下サイズを有し、第1の空孔200が平均1nm以上30nm以下のサイズを有し、第2の空孔300が平均100nm以上300nm以下のサイズを有するマルチスケール構造を有する材料であるため、広範囲のモードを制御することが可能である。

【0029】
[金属粒子23]
本発明の一実施形態では、平均1nm以上30nm以下の金属粒子23(例えば銀粒子)をさらに含んでもよい(図4)。粒内、粒表面及び粒間に金属粒子23(本実施例では以下に説明するナノワイヤ配列構造作成時のエッチングで使用した銀粒子)が存在しており、重元素がシリコンに不純物として混入している場合には熱伝導率が低下する場合があるという従来の知見に整合して熱伝導率が低下し、ZTが向上する。また、製造プロセスにて金属粒子23として銀粒子を使用した場合、特段のステップなく粒内、粒表面及び粒間に銀粒子が残留するものであるとの利点がある。

【0030】
[機械的特性]
本発明の一実施形態では、上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料が、30GPa以下の弾性率を有する。または、シリコンバルク熱電変換材料の弾性率が20GPa以上30GPa以下であってもよい。本明細書において、シリコンバルク熱電変換材料の弾性率はナノインデンテーション法により測定するものとする。本実施形態のシリコンバルク熱電変換材料は、小さな弾性率を有することから、単結晶シリコンに比して、結晶シリコン粒の界面が柔らかい構造を有するものと推察される。本実施形態のシリコンバルク熱電変換材料においては、このように柔らかい結晶シリコン粒の界面が、結晶シリコン粒の界面でのフォノンの透過を低減し、熱伝導率を低減するものと推察される。

【0031】
以上より、本発明の実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン粒100、第1の空孔200及び第2の空孔300が300nm以下のサイズを有するため、熱伝導が50%よりも大幅に低減される。また、本発明の実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料は、シリコン粒100が平均1nm以上300nm以下サイズを有し、第1の空孔200が平均1nm以上30nm以下のサイズを有し、第2の空孔300が平均100nm以上300nm以下のサイズを有するマルチスケール構造を有する材料であるため、広範囲のフォノンのモードを制御して、フォノン輸送を低減することができる。さらに、本発明の実施形態に係るシリコンバルク熱電変換材料は、単結晶シリコンに比して結晶シリコン粒の界面が柔らかい構造を有するため、結晶シリコン粒の界面でのフォノンの透過を低減し、熱伝導率を低減するものと推察される。

【0032】
[製造方法]
任意のシリコン基板21を用意し、該基板に対して金属粒子23によるメタルアシストエッチングを用いてナノワイヤ配列構造25を作製する。図5はメタルアシストエッチングによるナノ構造形成過程の概略図である。メタルアシストエッチングとは、シリコン上に金や銀等の金属ドットに形成し、その金属ドットを触媒としてシリコンをHF等の酸性溶液により選択的にエッチングする手法である。

【0033】
本実施形態では、金属粒子触媒によるメタルアシストエッチングで使用される金属として金、銀、プラチナ、パラジウム等を用いることが可能であるが、導電性やコストの面から特に銀であることが好ましい。図5では、例示的に銀粒子を金属粒子23としている。エッチングはL1方向に選択的に行われる。

【0034】
そして、このナノワイヤ配列構造25は、L1方向と交差する方向(たとえば、L2方向のような、基板面と略平行な方向)の空孔27を有する(図5)。空孔27はL1方向と交差する方向であればよく、必ずしもL2方向に限定されるものではない。図8及び図9では、実際の空孔27を一例として示している。

【0035】
本発明の一実施形態では、該ナノワイヤ配列構造に対して、加圧を行い、空孔27に沿って破砕することで微細化させることができる。加圧工程でナノワイヤ配列構造をクラッシュさせることで、アスペクト比の小さい微細粒子とすることができるのである。なお、加圧工程は、基板面と略平行な方向(L2方向)、即ち、ナノワイヤ配列構造の端部の方向から行うことが微細化を促進する上で好ましい。このような加圧工程と共に、プラズマ焼結をさせることで焼結させ、図2を示して説明した特徴を有する特殊微細形状を備えたシリコンバルク熱電変換材料を形成することができる。

【0036】
本実施形態において、加圧及びプラズマ焼結する工程は、例えば、図6に示す放電プラズマ焼結装置1を用いることにより実施することができる。放電プラズマ焼結装置1は、例えば、円筒形状のダイ3と、ダイ3の内部に接して配置され、上下方向(L1方向)に移動可能な円柱状の第1のパンチ電極5a及び第2のパンチ電極5bと、を備える。第1のパンチ電極5aと第2のパンチ電極5bとは、ダイ3の内部にL1方向に対向するように配置される。ダイ3と第1のパンチ電極5a及び第2のパンチ電極5bとにより囲まれた空間には、ナノワイヤ配列構造25が収容される。ここで、ナノワイヤ配列構造25は、L1方向に配向するように、ダイ3の内部に収容される。

【0037】
一実施形態において、加圧及びプラズマ焼結する工程は、通電加熱により試料温度(ナノワイヤ配列構造25の温度又はダイ3の内部温度)を800℃以上1000℃以下とし、第1のパンチ電極5a及び第2のパンチ電極5bとによるL1方向への加圧時の圧力を50MPa以上200MPa以下で行う。従来は、ダイ3の外側の表面温度を測定してプラズマ焼結を行っていたが、本実施形態においては、試料温度を800℃以上1000℃以下の範囲で制御することにより、試料中の焼結温度の均一性を高めることができ、結果として室温でZTが0.2を超えるシリコンバルク熱電変換材料を製造することができる。なお、試料温度が800℃未満であると、試料中のポロシティが大きくなり焼結体を得ることが出来ない。一方、試料温度が1000℃を超えると、ナノワイヤ配列構造25を構成するシリコンが溶融し、シリコン粒100の表面の空孔200とシリコン粒同士の間の空孔300が減少又は消失し、室温でZTが0.2を超える本発明に係るシリコンバルク熱電変換材料を得ることはできない。なお、加圧及びプラズマ焼結する工程は、充填するナノワイヤ配列構造25の量にも依存するが、1分以上10分以内で行うことが好ましい。

【0038】
なお、本実施形態において、2-modeのプラズマ焼結を行うことが好ましい。2-modeのプラズマ焼結とは、第1のパンチ電極5aと第2のパンチ電極5bとによるナノワイヤ配列構造25への加圧初期段階で交流電流を供給し、その後に直流電流を供給して焼結する方法である。また、第1のパンチ電極5aと第2のパンチ電極5bとによるナノワイヤ配列構造25への加圧終了時、即ち、破砕したナノワイヤ配列構造25の焼結が進行し、圧縮が進行しなくなった時点で直流電流の供給を停止、加熱を停止させることが好ましい。

【0039】
[製造方法の変形例]
上述したシリコンバルク熱電変換材料の製造方法においては、シリコン基板21の一方の面方向からのエッチングによりナノワイヤ配列構造25を作製する方法を説明した。変形例として、シリコンバルク熱電変換材料の量産化技術の一例を説明する。図6は、本発明の一実施形態の製造装置1000の模式図である。製造装置1000は、例えば、酸化膜除去槽1100、金属粒子成長槽1300及びエッチング槽1500を備えるが、これらの限定されるものではない。製造装置1000は、配管1710及び配管1730を介してエッチング槽1500に接続するリザーバータンク1700を備えることが好ましい。

【0040】
酸化膜除去槽1100は、HF等を含む酸性溶液を収容し、シリコン基板1010の表面に形成された酸化膜を除去することができる。金属粒子成長槽1300は、金属イオンを含む酸性溶液を収容し、酸化膜を除去したシリコン基板1010aの表面に金属粒子を成長させることができる。なお、金属イオンを構成する金属については、上述した製造方法の金属と同じ金属から選択できるため、詳細な説明は省略する。エッチング槽1500は、エッチャントを収容し、金属粒子が表面に付着したシリコン基板1010bでメタルアシストエッチングを進行させることができる。なお、エッチャントとしては、例えば、HFとHを含む溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。

【0041】
本変形例においては、エッチング槽1500において、シリコン基板1010bの2つの主面の両面からエッチングが進行する。したがって、本変形例においては、シリコン基板1010bの面方向(L1方向)に貫通した空孔27が形成され、シリコン基板1010bの一方の面(第1の面)から他方の面(第2の面)に渡るナノワイヤ配列構造25を作製することができる。なお、本変形例で作成されたナノワイヤ配列構造25は、ファンデルワールス力により、ばらばらにならず、シリコン基板の形状を維持したナノワイヤ配列構造集合体1010cを得ることができる。

【0042】
また、配管1710にポンプPが配置されているため、リザーバータンク1700からエッチング槽1500へエッチャントが連続的又は断続的に供給される。これにより、エッチング工程でのエッチング槽1500内のエッチャント濃度を略一定に保つことができる。したがって、本変形例においては、エッチング速度を略一定に維持し、結果として連続的なエッチング工程の実施(例えば24時間稼働)やエッチング時間の短縮を実現することができる。
【実施例】
【0043】
実施例1では、メタルアシストエッチングの触媒金属として銀を用いた。また、銀ドットの形成手法には無電解メッキを用いた。より具体的な実験手法を以下に説明する。本実験では、まず、洗浄したシリコンウェハを0.01MのAgNOと4.8MのHFの混合溶液に1分間浸けることで、高密度の銀ドットをシリコンウェハ表面に形成した。次に、表面に高密度銀ドットが形成されたシリコンウェハを、0.2MのHと4.8MのHFの混合溶液に2時間浸けることで、メタルアシストエッチングをおこない、シリコンウェハ表面に、基板面と略平行方向に空孔を有するナノワイヤ配列構造を作製した。本実施例1では、このように作製したナノワイヤ配列構造シリコンについて、プラズマ高速放電焼結装置(株式会社エレニックス製、Ed-Pas IV)を用い、50MPaで加圧しながら、試料温度が980℃となるように電流を制御して、ナノワイヤ配列構造の空孔27に沿って粉砕し微細化を行って、3分間で焼結させ、押しつぶすことによって、図2を示して説明した特徴を有する特殊微細形状を備えたシリコンバルク熱電変換材料の形成を試みた。
【実施例】
【0044】
[作製したナノ構造の構造評価]
まず、本実験により作製したシリコンバルク熱電変換材料の電子顕微鏡(SEM)観察画像を図10に示す。また図8、図9、図11(a)はメタルアシストエッチングにより得られたナノワイヤ配列構造のTEM像である。また、図11(b)はナノワイヤ配列構造のX線回折像である。
【実施例】
【0045】
図10に示す本実験により作製したシリコンバルク熱電変換材料の電子顕微鏡(SEM)観察画像によれば、加圧焼結後は一部ナノワイヤ構造が残っているものの、大部分のナノワイヤ構造が押しつぶされ、ナノポーラス構造を形成していることがわかる。これらの結果から、メタルアシストエッチング、加圧による空孔27を利用した微細化、放電プラズマ焼結を組み合わせた手法により、室温でZT=0.2を超えるシリコンバルク熱電変換材料の作製が可能であることが明らかとなった。
【実施例】
【0046】
さらに、ナノワイヤ配列構造について詳細に調べるためTEM観察を行ったところ、ナノワイヤ配列構造としては、直径が約100nm程度、長さが約50μmと非常に高いアスペクト比を有するナノワイヤ配列構造が得られ、その内部には、図11(a)にて示すとおり、数十nm程度の空孔27(ナノ粒界およびナノ細孔)の形成が確認された(図11(a)において空孔27は黒い部分であり、そのサイズは数nm~数十nm程度である。)これらはナノワイヤの直径(100nm程度)よりも優位に小さく、エッチングにより2次的な細孔が空いたことによって形成されたものである。なお、図11(b)に示したX線回折像から、ナノワイヤ配列構造は、エッチングにより2次的な細孔が形成されているものの結晶性を維持していることが明らかとなった。
【実施例】
【0047】
また、HAADF-STEM(倍率200000倍)で、面積0.65μmの観察領域を観察し、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社、A像くん(登録商標))を用いて空孔を検出し、検出された空孔の開口部のサイズの平均値を求めた。図12は、実施例1のシリコンバルク熱電変換材料の構造の評価結果を示す図である。(a)はシリコン粒100の粒子径の分布を示し、(b)は第1の空孔200及び第2の空孔300のサイズの分布を示し、(c)は銀粒子23のサイズの分布を示す。図12(a)の結果から、実施例1のシリコンバルク熱電変換材料においては、シリコン粒100が1nm以上300nm以下の範囲に粒子径の平均値を有することが明らかとなった。また、図12(b)の結果から、第1の空孔200は1nm以上30nm以下の範囲に平均サイズを有し、第2の空孔300は100nm以上300nm以下の範囲に平均サイズを有することが明らかとなった。さらに、図12(c)の結果から、銀粒子23は、1nm以上30nm以下の範囲に平均サイズを有することが明らかとなった。
【実施例】
【0048】
[熱伝導率の測定]
本発明の一実施形態では、シリコンバルク熱電変換材料のout-of-plane方向およびin-plane方向の熱伝導率を3ω法(Jaeho Lee et al. April 2011 Thermal conductivity anisotropy and grain structure in Ge2Sb2Te5 films Journal of Applied Physics 109, 084902)により測定した。測定の概略について説明する。図13は3ω法による熱伝導率測定の概略図である。3ω法とは、サンプル表面に形成した金属細線に交流電流を印加しサンプル表面を加熱した際のサンプル表面の温度変化を、金属細線に係る交流電圧中の3ω成分から検出し、この温度変化より熱伝導率を得る手法である。ここで、out-of-plane方向の熱伝導率は、測定サンプルとリファレンスサンプルとの温度変化をそれぞれ測定し、それぞれの値を以下の式に代入することで熱伝導率が得られる。
【数2】
JP2019131795A1_000004t.gif

ここで、κsampleは測定サンプルの熱伝導率、Pは金属細線に流れる単位長さあたりの電力、dsampleは測定サンプルの厚さ、2bは金属細線の幅、ΔTsampleとΔTreferenceはそれぞれ測定サンプルおよびリファレンスサンプルの金属細線の温度変化を示す。In-plane方向の熱伝導率は、異なる線幅の金属細線について3ω成分を測定することで得ることができる。線幅の広い金属細線を用いる場合、図13に示すように、金属細線から生じる熱流はその殆どが測定サンプルのout-of-plane方向に流れる。一方で、線幅の狭い金属細線を用いる場合、金属細線から生じる熱流は一部がout-of-plaen方向に流れるが、一部はin-plane方向に流れる。したがって、線幅の異なる金属細線の3ω成分を測定し、その結果を以下の式によりフィッティングすることで、out-of-pane方向とin-plane方向の熱伝導率の異方性比を得ることができる。
【実施例】
【0049】
【数3】
JP2019131795A1_000005t.gif

ここで、ΔTは温度変化、Dは熱拡散率、ηはout-of-pane方向とin-plane方向の熱伝導率の異方性比、B(λ)、B(λ)、A(λ)、A(λ)はそれぞれサンプルの層数に基づいて再帰的に計算される無次元パラメータである。この式を実験結果として得られる温度変化の周波数依存性に対し、ηをフィッティングパラメータとしてフィッティングすることで熱伝導率の異方性比を求め、その値からin-plane方向の熱伝導率を得た。
【実施例】
【0050】
[熱伝導率測定結果]
作製したシリコンバルク熱電変換材料の熱伝導率を3ω法により測定した結果、out-of-plane方向の熱伝導率は1.86[W/(m・K)]、in-plane方向の熱伝導率は1.48[W/(m・K)]という値が得られた。この熱伝導率は、一般的なシリコンの値と比較すると、約1%程度と非常に低い値である。また、アモルファスシリコンの熱伝導率が約2[W/(m・K)]という値であり、これに匹敵する低熱伝導率を実現できている。また、out-of-plane方向、in-plane方向それぞれの熱伝導率の結果から明らかなとおり、熱伝導率の異方性比は非常に低い。この結果は、一部に残っているナノワイヤ構造の熱伝導率への影響は大きくなく、ナノポーラス構造部分によって熱伝導率が大幅に低減できていることを示している。一方で、TEM画像(図11)から明らかなとおり、ポーラス構造部分の空隙率はそれほど高くない。したがって、本構造においては電気伝導率の大幅な低減は抑制できることが予想される。以上の結果は本手法による熱電変換性能の大幅な向上の可能性を示していると考えられる。
【実施例】
【0051】
本実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料の熱電性能を測定した結果、室温でのZTが最高で0.3以上、多数のサンプルでの平均でも0.17という大幅な向上が得られており、これは従来のバルクシリコンの100倍以上の値である。ナノ構造の作成条件を適度に制御すれば、ZTがout-of-plane方向とin-plane方向で、たとえば0.240と0.303、または0.180と0.202というような両者の比の小さな材料を作成できる。一方、作成条件のマージンを拡大すると、片方のZTが0.2以上で、もう片方が0.1~0.2という、両者の比で2倍ほどの特性差を有する材料も作成される。それでも、この程度までの比であれば、熱電変換デバイスの製造時に多少材料の設置角度が設計からずれても、特性の変化は小さく抑えることができるため、バルク材料として十分に利用可能である。
【実施例】
【0052】
[電気的特性]
本実施例に係るシリコンバルク熱電変換材料に4つの端子を付した上で、ホール効果測定を行って電気的特性を測定した。具体的には、室温において、電界効果移動度を測定し、電子キャリア濃度、導電度を計算した。上記のシリコンバルク熱電変換材料の電界効果移動度をホール効果測定によって測定した結果、図14に示す結果を得た。具体的には、referenceと示したシリコン基板に比して、その半分以下の電界効果移動度、さらに具体的には、電界効果移動度33以下においてZT=0.2以上を達成した。すなわち、図14のグラフからゼーベック係数S=720.9uV/K、電気伝導率=2876S/mであり、熱伝導率=1.48W/m/Kであるから、室温(300K)において、ZT=0.2と算出された。また、図14に示すとおり、上記の構成を備えたシリコンバルク熱電変換材料は、電子キャリア濃度6×1018cm-3以下、電気伝導率2880S/m以下であった。
【表1】
JP2019131795A1_000006t.gif

【実施例】
【0053】
上記の通り、実施例において、シリコン単体であるにもかかわらず、その微細構造を調整することによって、室温付近でのシリコンバルク熱電変換材料の熱電性能の高性能化(ZT=0.2以上)に成功した。
【実施例】
【0054】
[機械的特性]
実施例1に係るシリコンバルク熱電変換材料の機械的特性を評価した。機械的特性として、実施例1に係るシリコンバルク熱電変換材料の弾性率を測定した。弾性率の測定には、ナノインデンター(株式会社エリオニクス製、ENT-1100b)を用いた。比較例として、単結晶シリコン基板と、ナノ多結晶体の弾性率を測定した。なお、弾性率を測定する前に、実施例1のシリコンバルク熱電変換材料及び比較例の単結晶シリコン基板の表面に形成された酸化層を弗酸により除去し、室温にて弾性率を測定した。
【実施例】
【0055】
弾性率の測定結果を図15に示す。単結晶シリコン基板の平均弾性率は147.5GPaであった。一方、実施例1に係るシリコンバルク熱電変換材料の平均弾性率は25.60GPaであり、測定したサンプルでは30GPa以下であった。したがって、実施例1に係るシリコンバルク熱電変換材料の粒子界面が、単結晶シリコンに比して優位に柔らかくなっていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
特に、バルクスケールで熱電性能の高いナノ構造シリコンを作製できたという点は産業的にも非常に有用である。シリコンは埋蔵量の豊富さや従来の半導体プロセスが利用可能なことから、費用対効果の高い熱電材料として期待された。しかしながら、その熱電性能の低さから実用化には至っていない。本発明に係るは、バルクスケールでの高性能化に成功しており、これらの問題解決の有効な手段となる。これによってIoT電源などとして熱電発電の普及が世界的に急速に進むことが期待できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14