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明細書 :化合物、光応答性酸素消費剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2021-014430 (P2021-014430A)
公開日 令和3年2月12日(2021.2.12)
発明の名称または考案の名称 化合物、光応答性酸素消費剤
国際特許分類 C07D 345/00        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
FI C07D 345/00
A61K 49/00
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2019-130019 (P2019-130019)
出願日 令和元年7月12日(2019.7.12)
発明者または考案者 【氏名】家田 直弥
【氏名】中川 秀彦
【氏名】川口 充康
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100152272、【弁理士】、【氏名又は名称】川越 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 4C085
Fターム 4C085HH20
4C085KA36
4C085KB54
要約 【課題】生体内で局所的に低酸素状態を発生させることができ、低酸素状態が発生する時期的な制御及び低酸素状態が発生する部位の空間的な制御が可能である光応答性酸素消費剤が得られる化合物を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される化合物。
[化1]
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式(1)中、Xはカルコゲノローダミン骨格含有基であり、Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭化水素基である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下式(1)で表される化合物。
【化1】
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式(1)中、Xはカルコゲノローダミン骨格含有基であり、Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭化水素基である。
【請求項2】
前記カルコゲノローダミン骨格含有基が、下式(X1)で表される基又は下式(X2)で表される基である、請求項1に記載の化合物。
【化2】
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式(X1)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、式(X2)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子である。
【請求項3】
前記Yがカルボキシル基を有する炭化水素基またはカルボキシル基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を含む、光応答性酸素消費剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、光応答性酸素消費剤に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物は、生体内におけるエネルギーの産生に酸素を必要とする。一方で、生体内の低酸素状態は、哺乳動物の固体形成、幹細胞形質の維持、幹細胞の分化誘導等の生体イベントを制御する因子でもある。また、がん細胞、炎症組織においては、局所的に低酸素状態が発生することが知られている。そのため、生物学、医学等の研究分野、医薬、創薬等の産業分野において、低酸素状態に関連する研究が注目されている。
【0003】
低酸素状態に関する研究分野においては、従来、マウス等のモデル生物を低酸素チャンバー内に閉じ込め、モデル生物を低酸素環境下におくことが行われてきた。
低酸素チャンバーを使用する場合、研究対象となる臓器以外の臓器を含む生物全体を低酸素環境下におくことになる。しかし、生体内では、ある特定の臓器の病変において局所的な部位に低酸素状態が発生する。
したがって、低酸素チャンバーを使用する方法にあっては、局所的に低酸素状態が発生した部位について、生物学的な知見を充分に得ることが困難である。
【0004】
非特許文献1には低酸素状態を生体内で誘発可能なハイドロゲルが記載されている。非特許文献1に記載のハイドロゲルは、低酸素状態を誘発する分子を含む。非特許文献1に記載のハイドロゲルによれば、ハイドロゲルをマウス等のモデル生物の標的部位に注入することで、標的部位を低酸素状態とすることができ、局所的に低酸素状態を誘発できる。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Kyung Min Park et al.,NATURE COMMUNICATIONS DOI:10.1038/ncomms5075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載のハイドロゲルにあっては、生体内におけるハイドロゲルの分解に起因して、低酸素状態を誘発する分子が生体内で拡散することで、低酸素状態が発生する。そのため、ハイドロゲルの分解速度等、低酸素状態を誘発する分子の拡散速度等に主に依存して低酸素状態が誘発される。
ところが、生体内でのハイドロゲルの分解速度、分解効率は、臓器部位によって異なり、モデル生物の体温等の生理的条件にも依存し、一定ではない。同様の理由から、低酸素状態を誘発する分子の拡散速度、拡散効率も生体内で一定ではない。
したがって、非特許文献1に記載のハイドロゲルにあっては、低酸素状態が発生する時期、低酸素状態が発生する場所の制御が困難である。
【0007】
本発明は、生体内で局所的に低酸素状態を発生させることができ、低酸素状態が発生する時期的な制御及び低酸素状態が発生する部位の空間的な制御が可能である光応答性酸素消費剤が得られる化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 下式(1)で表される化合物。
【化1】
JP2021014430A_000002t.gif
式(1)中、Xはカルコゲノローダミン骨格含有基であり、Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭化水素基である。
[2] 前記カルコゲノローダミン骨格含有基が、下式(X1)で表される基又は下式(X2)で表される基である、[1]の化合物。
【化2】
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式(X1)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、式(X2)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子である。
[3] 前記Yがカルボキシル基を有する炭化水素基またはカルボキシル基である、[1]又は[2]の化合物。
[4] [1]~[3]のいずれかの化合物を含む、光応答性酸素消費剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体内で局所的に低酸素状態を発生させることができ、低酸素状態が発生する時期的な制御及び低酸素状態が発生する部位の空間的な制御が可能である光応答性酸素消費剤が得られる化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の化合物(TeR-DM)の光の照射時間と酸素消費活性との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2の化合物(SeR-DM)の光の照射時間と酸素消費活性との関係を示すグラフである。
【図3】実施例3の化合物(SeR-DMC)の光の照射時間と酸素消費活性との関係を示すグラフである。
【図4】各実施例の化合物をHEK293T細胞に投与した際の細胞生存率を表示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式(2)で表される基を基(2)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。

【0012】
本発明の化合物は、下式(1)で表される。

【0013】
【化3】
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【0014】
式(1)中、Xはカルコゲノローダミン骨格含有基であり、Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭化水素基である。

【0015】
Xはカルコゲノローダミン骨格含有基である。カルコゲノローダミン骨格含有基は、化合物(1)が水等に溶解したときにローダミン色素として赤色に呈色するものであれば特に限定されない。
カルコゲノローダミン骨格含有基の具体例としては、例えば、下記の基(X1)、基(X2)が挙げられる。ただし、カルコゲノローダミン骨格含有基はこれらの例示に限定されない。

【0016】
【化4】
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【0017】
式(X1)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。式(X2)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子である。

【0018】
Eとしては、化合物(1)の安定性が高くなる点から、セレン原子、テルル原子が好ましい。
としては、メチル基が好ましい。

【0019】
カルコゲノローダミン骨格含有基としては、本発明の効果が得られやすいことから、基(X1)が好ましい。カルコゲノローダミン骨格含有基が基(X1)である場合、本発明の化合物は、下式(1-X1)で表される。

【0020】
【化5】
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【0021】
式(1-X1)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭化水素基であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。

【0022】
Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基である。ここで、炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
置換基を有してもよい炭化水素基としては、—CHCOOH、—CHCHCOOH等のカルボキシル基を有する炭化水素基が好ましい。置換基を有してもよい炭化水素基としては、—CH—CONH—R、—CHCH—CONH—R等のアミド構造を有する炭化水素基でもよい。ここでRは、炭化水素基である。
アミド構造を有する炭化水素基は、例えば、カルボキシル基を有する炭化水素基のカルボキシル基と、グリシン等のアミノ酸のアミノ基とを反応させることで、アミド構造を形成できる。

【0023】
本発明の化合物において、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。Zとしては、合成効率の点から水素原子が好ましい。

【0024】
は、置換基を有してもよい炭化水素基である。炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
の具体例としては、例えば、メチル基(—CH)、エチル基(—CHCH)等の炭化水素基;—CHCOOH、—CHCHCOOH等のカルボキシル基を有する炭化水素基が挙げられる。
が—CHCOOH、—CHCHCOOH等のように、置換基としてカルボキシル基を有する炭化水素基であると、化合物(1)の親水性が高くなり、化合物(1)が細胞膜を透過しにくくなる。その結果、化合物(1)を生体内に投与した際の細胞生存率が高くなる傾向がある。
の具体例としては、合成効率の点から、メチル基が好ましい。

【0025】
以下、本明細書においては、化合物(1-X1)を一例として、本発明の詳細及び好ましい態様について説明する。ただし、本発明は、以下の記載に限定されない。
化合物(1-X1)においても、Rの具体例としては、合成効率の点から、メチル基が好ましい。この場合、本発明の化合物は、下式(1-X1—1)で表される。

【0026】
【化6】
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【0027】
式(1-X1—1)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。

【0028】
Yは置換基を有してもよい炭化水素基、水素原子又はカルボキシル基である。ここで、炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
置換基を有してもよい炭化水素基としては、—CHCOOH、—CHCHCOOH等のカルボキシル基を有する炭化水素基が好ましい。置換基を有してもよい炭化水素基としては、—CH—CONH—R、—CHCH—CONH—R等のアミド構造を有する炭化水素基でもよい。ここでRは、炭化水素基である。
アミド構造を有する炭化水素基は、例えば、アミド基を有する炭化水素基のカルボキシル基と、グリシン等のアミノ酸のアミノ基とを反応させることで、アミド構造を形成できる。

【0029】
Yの具体例としては、合成効率の点から、水素原子が好ましい。この場合、本発明の化合物は、下式(1-X1—2)で表される。
Yの具体例としては、細胞生存率が高くなる点から、カルボキシル基が好ましい。この場合、本発明の化合物は、下式(1-X1—3)で表される。

【0030】
【化7】
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【0031】
式(1-X1—2)、式(1-X1—3)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、置換基を有してもよい炭化水素基であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。

【0032】
化合物(1-X1—2)としては、合成効率の点から下記の化合物(1-X1—21)が好ましい。化合物(1-X1—3)としては、合成効率の点から下記の化合物(1-X1—31)が好ましい。

【0033】
【化8】
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【0034】
式(1-X1—21)、式(1-X1—31)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Zは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。

【0035】
化合物(1-X1)の具体例としては、下記の化合物(1-X1—211)、化合物(1-X1—212)、化合物(1-X1—213)、化合物(1-X1—311)、化合物(1-X1—312)、化合物(1-X1—313)が挙げられる。これらの中でも、化合物(1-X1—211)、化合物(1-X1—311)が好ましい。

【0036】
【化9】
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【0037】
式(1-X1—211)、式(1-X1—212)、式(1-X1—213)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。

【0038】
【化10】
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【0039】
式(1-X1—311)、式(1-X1—312)、式(1-X1—313)中、Eは硫黄原子、セレン原子又はテルル原子であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基である。

【0040】
下式(2)は、化合物(1-X1)が光の照射に対して応答する際の化学反応を示している。本発明の化合物においては、還元型グルタチオンの存在下で光が照射されることで、グルタチオンを反応基質とする酸化反応が起きる。式(2)に示すように、光の照射によって化合物(1-X1)の周囲に存在する酸素分子を化合物(1-X1)が受け取ることで、自身は酸化型の化合物となり、周囲の酸素分子を消去できる。
したがって、化合物(1-X1)を生体内に投与した後に光を照射する際、光を照射する時期、照射時間、照射する部位の場所を選択することにより、低酸素状態の継続時間、低酸素状態の発生する時期、低酸素状態となる場所を自在に制御できる。このように化合物(1-X1)によれば、低酸素状態の発生を時空間的に制御できる。

【0041】
【化11】
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【0042】
(作用機序)
以上説明した本発明の化合物(1)は、カルコゲノローダミン骨格含有基Xに対するオルト位の炭素原子に—OR基が結合している。そのため、カルコゲノローダミン骨格含有基Xの結合手の部分における電子密度が高くなり、求核置換反応の反応活性が低くなる。その結果、化合物(1)が生体内に投与された際における、生体内の求核剤分子による求核攻撃に対する耐性が高くなり、生体内で化合物(1)が分解されにくい。
したがって、化合物(1)は、光の照射によって式(2)に示すような酸素の消費反応を引き起こすまでの間、生体内で自身の化学構造を維持できる。その結果、化合物(1)は生体内で化学構造を維持したまま、生体内で相対的に長期間、光の照射を待機できる。
また、生体内の還元型グルタチオンの存在下で光を照射すると、光の照射時間に応じて生体内でグルタチオンを基質として酸素を消費できる。加えて、光の照射部位、場所に応じて酸素の消費反応が起きるため、照射場所において特異的に、生体内の酸素が化合物(1)によって消費される。
よって、光の照射場所及び照射時間を制御することで、生体細胞内の酸素の減少量、酸素の減少の発生時期、発生期間、発生場所を制御でき、低酸素状態の発生の時空間的な制御が可能となる。

【0043】
本発明の化合物は、例えば、後述の実施例で示す方法によって合成できる。ただし、本発明の化合物の合成方法は、式(1)に示す化学構造を実現できる方法であれば、特に限定されず、実施例に記載の方法に限定されない。

【0044】
(用途)
本発明の化合物は、光応答性酸素消費剤に適用できる。本発明の化合物を含む光応答性酸素消費剤にあっては、光の照射に応じて低酸素状態の発生を時空間的に制御できる。
そのため、光応答性酸素消費剤は、光の照射時間、照射時期、照射場所を適宜選択することで、低酸素状態の発生を時空間的に制御することが求められる用途に適用できる。
例えば、光応答性酸素消費剤をマウス等のモデル生物に投与し、光の照射時間、照射時期を適宜選択することで、低酸素状態の発生時間、発生時期を時間的に制御できる。加えて、光を照射する臓器部位を選択することで、低酸素状態の発生部位を空間的に制御できる。

【0045】
(光応答性酸素消費剤)
光応答性酸素消費剤は、本発明の化合物に加えて、液状媒体をさらに含んでもよい。本発明の光応答性酸素消費剤は、必要に応じて還元型グルタチオンをさらに含んでもよい。本発明の光応答性酸素消費剤は、本発明の効果が得られる範囲内であれば、本発明の化合物及び液状媒体以外の任意成分として添加剤をさらに含んでもよい。

【0046】
液状媒体は、化合物(1)が安定に存在可能なものであれば特に限定されない。液状媒体は、水性媒体でも有機媒体でもよい。
水性媒体としては、水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、メタリン酸緩衝液、ソルビン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン-HCl緩衝液(トリス塩酸緩衝液)、MES緩衝液(2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液)、TES緩衝液(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸緩衝液)、MOPS緩衝液(3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝液)、HEPES緩衝液(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液)等の緩衝液;グリシン-塩酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-KOH緩衝液等のアミノ酸系緩衝液;トリス-ホウ酸緩衝液、ホウ酸-NaOH緩衝液、ホウ酸緩衝液等のホウ酸系緩衝液;イミダゾール緩衝液等が挙げられる。
有機媒体としては、エタノール、2-プロパノール等のアルコール;ジエチルエーテル等のエーテル、トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の脂肪族溶媒;トルエン、クロロベンゼン等の芳香族溶媒が挙げられる。

【0047】
添加剤としては、水酸化ナトリウム、アンモニア塩等のpH調整剤;アラビアゴム等の乳化剤;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の懸濁剤;プロピレングリコール等の安定剤;ベンジルアルコール等の保存剤等が挙げられる。

【0048】
光応答性酸素消費剤の組成は、特に限定されない。光応答性酸素消費剤の組成は、所望の用途、使用方法に応じて適宜変更できる。
例えば、本発明の化合物の含有量は、1~1000nMでもよく、1~1000μMでもよく、1~1000mMでもよい。
光応答性酸素消費剤のpHは、特に限定されない。光応答性酸素消費財のpHは、例えば、3~5でもよく、5~7でもよく、7~9でもよい。
照射する光の波長は特に限定されない。光の波長は、カルコゲノローダミン骨格含有基の化学構造に応じて選択可能である。照射する光の波長は、例えば、500~800nmとすることができる。

【0049】
光応答性酸素消費剤の剤型は特に限定されない。所望の用途、使用方法、使用量に応じて適時選択できる。剤型の具体例としては、液剤、乳剤、懸濁剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、座剤等が挙げられる。
光応答性酸素消費剤は、剤型に応じて経口投与、非経口投与のいずれにも適用できる。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内注射、経皮投与、経鼻投与、経粘膜投与等が挙げられる。
本発明の光応答性酸素消費剤を研究用試薬の用途に適用する場合、必要に応じて還元型グルタチオンを併用してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されない。
【実施例】
【0051】
<測定方法>
(酸素消費活性)
各実施例で合成した化合物(最終濃度:10μM)とグルタチオン(最終濃度:1mM)をリン酸緩衝液(最終濃度:100mM、pH7.5、DMSO:0.1%)に溶かし、5mLの溶液とした。この溶液を37℃で攪拌し、O濃度を酸素電極(YSI「5300A Biological Oxygen Monitor」)で測定しながら、630—690nmのバンドパスフィルターを付けたXe光源(Asahi Spectra「MAX303」)で光照射を行った(120mW/cm)。
【実施例】
【0052】
(細胞生存率)
HEK293T細胞をRosewell Park Memorial Institute Medium(RPMI)に懸濁させた細胞懸濁液(RPMI溶液)を96穴マイクロプレートに5000cell/well(50μL/well)となるように播種し、一晩5%COインキュベーター(37℃)で静置した。各化合物の最終濃度がそれぞれ1μM、3μM、10μMとなるように各化合物のRPMI溶液を加えた。48時間、5%COインキュベーターで静置後、(株)同仁化学研究所製「CCK-8 CK04」を各ウェルに10μLずつ加え、3時間後に450nmの吸光度を測定した。
【実施例】
【0053】
<化合物の合成>
(化合物(e2)及び化合物(e3)の合成)
下記の化合物(e2)及び化合物(e3)は、Organometallics 2017, 14, 2588-2596.に記載の方法にしたがって合成した。
【実施例】
【0054】
【化12】
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【実施例】
【0055】
(化合物(e4)の合成)
下記の化合物(e4)は、J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 4759-4765.に記載の方法にしたがって合成した。
【実施例】
【0056】
【化13】
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【実施例】
【0057】
以下、実施例1では下記の化合物(1-TeR-DM)(以下、「TeR-DM」と記す。)を合成し、実施例2では下記の化合物(1-SeR-DM)(以下、「SeR-DM」と記す。)を合成し、実施例3では、下記の化合物(1-SeR-DMC)(以下、「SeR-DMC」と記す。)を合成した。
【実施例】
【0058】
【化14】
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【実施例】
【0059】
(実施例1)
2,6-ジメトキシブロモベンゼン:326mg(1.50mmol,15当量)と削り状マグネシウム:37mg(1.52mmol、15当量)をテトラヒドロフラン:2mLに懸濁させ、アルゴン風船下、3.5時間加熱還流した。その溶液に化合物(e3):39mg(0.0990mmol)をテトラヒドロフラン:2mLに懸濁させた懸濁液を加えた。そのまま加熱還流しながら19.5時間攪拌した後、2M HCl:1mLと飽和食塩水:20mLを加えてクエンチし、その溶液をジクロロメタン/メタノール(9/1混合溶液)で3回抽出した。
抽出した有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ過して除き、ろ液の溶媒を留去した。残渣を中圧分取装置で精製し(ジクロロメタン/メタノール=96/4→90/10→70/30)、TeR-DM:50mgを得た(収率92%)。
TeR-DMのH-NMRスペクトル:(CDOD,500MHz,δ;ppm)7.82(2H,d,J=2.8Hz),7.62(2H,d,J=9.7Hz),7.58(1H,dd,J=8.4Hz,8.4Hz),6.89(2H,dd,J=2.8Hz,9.7Hz),6.88(2H,d,J=8.4Hz),3.64(6H,s),3.22(12H,s);
TeR-DMの13C-NMRスペクトル:(CDOD,125MHz,δ;ppm)162.51,158.75,153.74,140.91,140.00,132.58,123.44,117.46,116.65,116.09,105.26,56.48,40.54;
TeR-DMのMS(ESI)m/z=517(M):Anal.Calcd.forC2527ClNTe・5/2HO:C,50.42;H,5.42;N,4.70.Found:C,50.39;H,5.29;N,5.04.
TeR-DMについて、上述の記載にしたがって、酸素消費活性及び細胞生存率を評価した。
【実施例】
【0060】
(実施例2)
2,6-ジメトキシブロモベンゼン:326mg(1.50mmol,15当量)と削り状マグネシウム::38mg(1.56mmol,15当量)をテトラヒドロフラン:2mLに懸濁させ、アルゴン風船下、4時間加熱還流した。その溶液に化合物(e2):35mg(0.101mmol)をテトラヒドロフラン:2mLに懸濁させた懸濁液を加えた。そのまま加熱還流しながら13時間攪拌した後、2M HCl:20mLと飽和食塩水:20mLを加えてクエンチし、その溶液をジクロロメタン/メタノール(9/1混合溶液)で3回抽出した。抽出した有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ過して除き、ろ液の溶媒を留去した。残渣を中圧分取装置で精製し(ジクロロメタン/メタノール=96/4→80/20→65/35)、SeR-DM:25mgを得た(収率49%)。
SeR-DMのH-NMRスペクトル:(CDOD,500MHz,δ;ppm)7.60(1H,d,J=8.5Hz,8.5Hz),7.49(2H,d,J=2.8Hz),7.49(2H,d,J=9.7Hz),6.99(2H,dd,J=2.8Hz,9.7Hz),6.90(2H,d,J=8.5Hz),3.65(6H,s),3.26(12H,s);
SeR-DMの13C-NMRスペクトル:(CDOD,125MHz,δ;ppm)159.59,158.94,154.84,147.14,138.61,132.99,121.39,116.29,115.07,109.76,105.31,56.51,40.70;
SeR-DMのMS(ESI)m/z=467(M):Purity(HPLC,590nm)95%.
SeR-DMについて、上述の記載にしたがって、酸素消費活性及び細胞生存率を評価した。
【実施例】
【0061】
以上説明した実施例1、実施例2におけるTeR-DM、SeR-DMの合成の反応経路をまとめて下式(3)に示す。
【実施例】
【0062】
【化15】
JP2021014430A_000016t.gif
【実施例】
【0063】
式(3)中、Eは、実施例1ではTeであり、実施例2ではSeである。
【実施例】
【0064】
(実施例3)
化合物(e4):677mg(2.15mmol,13当量)と削り状マグネシウム:49.2mg(2.02mmol,12当量)をテトラヒドロフラン:15mLに懸濁させ、アルゴン風船下、加熱還流しながら10時間攪拌した。その反応溶液に、化合物(e2):66mg(0.168mmol)をテトラヒドロフラン:4mLに懸濁させた懸濁液を加えた。さらに18時間攪拌後、反応液に2M HCl:4mLと飽和食塩水:25mLを加えてクエンチした。その溶液をジクロロメタン/メタノール(9/1混合溶液)で3回抽出した。抽出した有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ過して除き、ろ液の溶媒を留去した。残渣を中圧分取装置で精製し(ジクロロメタン/メタノール=96/4→88/12→65/35→50/50)、得られた下記の化合物(e5)をアセトニトリル:5mLと6M HClに溶かし、60℃で6時間攪拌した。この反応液を2M HCl/brine(1/1)で薄め、ジクロロメタン/メタノール(9/1混合溶液)で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ取して除いた後、ろ液の溶媒を留去し、残渣をHPLCで精製し、SeR-DMC:51mgを得た(収率51%)。
HPLCの溶媒条件:溶媒AMilliQ(0.1%ギ酸)、溶媒Bアセトニトリル(0.1%ギ酸)、B濃度20%→100%(25分)。
SeR-DMCのH-NMRスペクトル:(CDOD,500MHz,δ;ppm)7.85(2H,d,J=2.6Hz),7.57(2H,d,J=9.8Hz),7.52(2H,s),6.91(2H,dd,J=2.7Hz,9.8Hz),3.71(6H,s),3.22(12H,s);
SeR-DMCの13C-NMRスペクトル:(CDOD,125MHz,δ;ppm)180.72,168.89,158.95,154.89,147.09,138.20,135.61,120.85,119.61,116.53,109.92,106.49,56.74,40.72;
SeR-DMCのHRMS(ESI,m/z,M)Calcd For C2627Se:511.1131. Found: 511.1153;Purity(HPLC,254nm)96%.
SeR-DMCについて、上述の記載にしたがって、酸素消費活性及び細胞生存率を評価した。
【実施例】
【0065】
【化16】
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【実施例】
【0066】
以上説明した実施例3におけるSeR-DMCの合成の反応経路を下式(4)に示す。
【実施例】
【0067】
【化17】
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【実施例】
【0068】
図1~図3は、各実施例の化合物の光の照射時間と酸素消費活性との関係を示すグラフである。図1~図3において、「GSH(+)」は、グルタチオンの存在下で酸素濃度を測定した結果を示す。「GSH(-)」は、グルタチオンの非存在下で酸素濃度を測定した結果を示す。
図1~3に示すように、実施例1、実施例2、実施例3のいずれにおいても、光の照射時間に応じて、照射開始時の酸素濃度に対する酸素濃度の相対値が減少することを確認できた。この結果から、本発明の化合物によれば、低酸素状態の発生を時空間的に制御できる可能性が示唆された。
【実施例】
【0069】
図4は、各実施例の化合物をHEK293T細胞に投与した際の細胞生存率を表示したグラフである。図4に示すように実施例3のSeR-DMCにおいては、実施例1、実施例2と比較して細胞生存率が高かった。特に、実施例3においては、10μMの濃度のSeR-DMCを使用しても、細胞生存率が低下しなかったことから、SeR-DMCは、細胞増殖能を阻害する作用が非常に低いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は低酸素状態に関連する研究用試薬に利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3